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手探りで始めたBCP作成支援 日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【前編】
手探りで始めたBCP作成支援 日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【前編】
インタビュー
2025年7月1日
2025年7月1日

手探りで始めたBCP作成支援 日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【前編】

地震・大雨・台風等、各地で災害が起きているなか、医療現場における防災対策の重要性はますます増しています。より質の高い備えに寄与できるよう、災害対応に取り組む事例をご紹介します。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会のBCP作成支援活動について、当協議会の戸崎さん、碓田さんにお話を伺いました。前編では、BCP作成支援活動を始めたきっかけや内容について教えていただきました。  日本訪問看護認定看護師協議会訪問看護認定看護師のネットワーク構築と、訪問看護全体の質向上を目指して2009年に誕生。訪問看護・在宅ケアのスペシャリストである認定看護師が集い、情報交換をしつつ自己研鑽を積み、地域包括ケアシステムの推進に貢献できるように活動している。参考:日本訪問看護認定看護師協議会 立ち上げ経緯&想い【特別インタビュー】戸崎 亜紀子さん星総合病院法人在宅事業部長/在宅ケア認定看護師/日本訪問看護認定看護師協議会 理事。総合病院で急性期看護を経験した後、育児・介護のため一時退職。クリニック勤務を経て星総合病院に入職し、精神科病棟を経験した後、訪問看護ステーションへ。訪問看護ステーション管理者、在宅事業部事務局長、法人看護部長を経て、現職。東日本大震災(2011)や令和元年東日本台風(台風19号)(2019)では、被災者・支援者の両方を経験。碓田 弓さん訪問看護認定看護師。総合病院にて外科病棟、緩和ケア病棟、透析室を経験した後、病院系列の訪問看護ステーションに異動し、12年勤務。介護施設併設の訪問看護ステーションの立ち上げおよび管理者を経験したのち、2023年9月よりみんなのかかりつけ訪問看護ステーション四日市に入職。 ※本文中敬称略 BCP作成支援活動を始めたきっかけ ―日本訪問看護認定看護師協議会(以下「協議会」)では、2023年度からBCP作成支援活動をされています。まずは、こちらの活動を始めたきっかけや想いについて教えてください。 戸崎: はい。協議会では、かねてより地域貢献活動事業を行ってきましたが、2023年度の活動を理事会で決めていく際、義務化が迫っているBCP策定に関連する事業を行ってはどうか?という提案をしたことがきっかけです。 私は福島県郡山市に住んでおり、東日本大震災や令和元年東日本台風の際は、自分自身が、そして地域が被災しています。また、災害時に地域の人たちをどうやって支援していくか、試行錯誤しながら対応してきました。新型コロナウイルスの感染拡大時も、住民や職員が罹患することもありながら、保健師のチームを行政に応援派遣するなどの取り組みを行っています。振り返ってみると、地域のつながりの中で、支援する側とされる側の両方を体験してきたように思います。 訪問看護師の皆さんも、地域に根差しているお仕事だからこそ、被災者であり支援者の立場になる可能性があります。私は、自分が大きな災害を経験しているからこそ、少しでも災害発生時に備えることの重要性を皆さんに伝えたいと考えているんです。参考:地域住民の心身の健康のために【訪問看護認定看護師 活動記/東北ブロック】実は、当時BCP作成支援の研修を運営する自信はなかったのですが、協議会の理事たちから「経験者が想いを直接伝えたほうがいい」という後押しをもらい、思い切ってチャレンジしてみることにしました。そして、活動メンバーを募ったところ、碓田さんを含めて6名の方が手を挙げてくださったんです。 ―ありがとうございます。碓田さんは、なぜ活動メンバーに入ろうと思ったのでしょうか。 碓田: コロナ禍での経験が大きく影響しています。新型コロナウイルス感染症が拡大していた当時、私は介護施設に併設する訪問看護ステーション(以下「ステーション」)の立ち上げをしていたのですが、施設内でクラスターが発生してしまったんです。情報が錯綜し、みんな得体の知れないウイルスへの恐怖感を抱えていました。 医師に診察を頼んでも断られる状況でしたし、介護施設のスタッフのなかには比較的高齢な方がいて、「自分たちの命の問題に関わるから、もう働けません」というお話がありました。働くスタッフが極端に減り、どうやって事業を継続すればいいのか、途方に暮れる経験をしたんです。 だからこそ、「BCP作成は絶対に必要だ」という強い想いを持っています。しかし、当時はBCPをどう作成すればよいのか、私もよくわかっていませんでした。「自分自身も学びながら支援したい」という思いがあって、運営委員に立候補したんです。 何度も集まり方向性を検討 ―どういった支援を提供すればいいのか、正解がなかなか見えないなかでのチャレンジだったと思いますが、実際に活動をスタートさせるまでの経緯を教えてください。 戸崎: はい。運営メンバーの中には、災害対応にまつわる講師の経験もある稲葉典子さん(西宮協立訪問看護センター/兵庫)や、杉山清美さん(大野医院/愛知)がいらしたので、お二人に色々と教えてもらいながら検討していきました。稲葉さんは在宅医療のBCP策定に関わる研究(厚生労働科学特別研究事業)の訪問看護BCP分科会メンバーでしたし、杉山さんは「まちの減災ナース」(日本災害看護学会)の認定を受けていますから、大変心強かったです。 ただ、それでも方向性を含めてゼロから作っていったので時間がかかり……。開始までに合計7回ほど打ち合わせをしました(笑)。 碓田: そうでしたね(笑)。でも、これを機に「まちの減災ナース」の活動なども知ることができましたし、個人的にはとても勉強になりました。当初は現地に出向いてBCP作成支援をしていくことも検討していましたが、なかなか時間も取れないだろうということで、オンラインでやることにしましたよね。 戸崎: そうですね。中身についてもかなり悩みましたが、BCP作成にお困りの事業所に対して、ある程度の形になるところまで寄り添っていくことにしました。初めての試みということもあり、定員は3事業所に絞りました。  当時の募集案内より抜粋 ―研修当日、どのように進行したのかについても教えてください。 戸崎: 合計3回のプログラムで、1回目は1時間。BCPに関する解説(座学)と、みなさんのBCP作成進捗状況に応じて、次回までの宿題を決めていく、という流れです。基本的には、厚生労働省が提供しているBCP策定の手引き(オールハザード型BCP)を埋めていく、という作業ですが、「どう埋めればいいかわからない」と悩んでいる方もいたので、ヒアリングしながらアドバイスしていきました。 2回目は、随時講義を挟みながら、3時間ほどかけて個別にしっかりとBCPに関する質疑応答をしました。「ここがうまく埋められない」などの悩み事を伺いながら、一つひとつアドバイスしていくという流れです。 最後となる3回目は、研修実施支援として、洪水が起こった際のシミュレーションを体験いただきました。3回目だけは、ご参加いただいた事業所のスタッフの方々も参加可としています。なお、個別にお話を伺う際はオンラインビデオツールでグループを分割し、1事業所につき2人ぐらい担当がついてBCP作成のサポートを行っていきました。順次、講師もグループを巡回するという形式です。  当時の募集案内より抜粋 ―シミュレーションの設定として「洪水」を選んだのはなぜでしょうか。 碓田: 災害時にトイレの使用ができなくなることや、避難所に移動できなくなる、といった状況を一度想定しておいたほうがいいだろうという意見が委員内で出たためです。洪水の場合、そういった困りごとが発生する可能性が高いそうです。 翌年度はオンラインのセミナー形式へシフト ―ありがとうございます。その後、2024年度のBCP作成支援では、オンラインで単発のセミナーを開催されています。これについては、どういった経緯で内容を決定されたのでしょうか。 戸崎: はい。支援のニーズは引き続きあったものの、皆さん2024年度からの義務化に合わせて一旦BCPの作成自体はされているはずなので、「研修・訓練・見直し」部分を中心に講義を展開することにしました。 碓田: 2023年度の対象を絞った支援も密度が濃く有意義だったと思いますが、2024年度はより多くの方々に聞いていただき、最終的に地域BCPにもつなげていけるような研修を目指そうというお話にもなりましたね。 戸崎: はい。そのため、訪問看護師だけではなく、ケアマネジャー、理学療法士、作業療法士、事務職など、さまざまな職種の方々に門戸を開きました。参加しやすい日程で参加してもらえるよう、同内容を2回行うことにし、合計86名の方々に参加いただくことができました。  当時の募集案内 アンケートも好評で、「BCPは災害マニュアルではないことがわかった」「事業所で研修担当になったが、何をすればいいかイメージがついた」といったお声もいただきました。 ―知りたいことをコンパクトにまとめたセミナーを展開されたのですね。ありがとうございます。後編では、今後の活動についてや、災害対策に対する考え方を伺います。 >>後編はこちら無理なくみんなで備える。日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【後編】 取材・編集・執筆:NsPace編集部

受賞エピソード漫画化!「看護師にご褒美をくれたA氏」【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「看護師にご褒美をくれたA氏」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年6月25日
2025年6月25日

受賞エピソード漫画化!「看護師にご褒美をくれたA氏」後編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、審査員特別賞を受賞した田端 支普さん(訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ/大阪府)の投稿エピソード「看護師にご褒美をくれたA氏」をもとにした漫画の後編をお届けします。※漫画タイトルは「看護師にご褒美をくれたあゆみさん」です。※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。  「看護師にご褒美をくれたあゆみさん」前回までのあらすじ利用者のあゆみさんは、腎臓がん末期で一人暮らし。入院していましたが、ご本人の「家に帰りたい」という要望が強いことから、訪問看護が入ることになりました。当時訪問看護師になったばかりだった田端さんは、「タバコを吸いたい」という希望に最初は少し戸惑いましたが、安全に配慮しながらご本人のしたい暮らしをサポートしていくことにしました。そして、訪問看護に入って数日経った頃、あゆみさんからオンコールが……?>>前編はこちら受賞エピソード漫画化!「看護師にご褒美をくれたA氏」前編【つたえたい訪問看護の話】 「看護師にご褒美をくれたあゆみさん」後編 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者: 田端 支普(たばた しほ)さん訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ(大阪府)受賞のお知らせをいただいたときは驚きました。ハートフリーやすらぎからは複数名受賞させていただき、みんなが普段頑張ってきたことが報われたようで、本当にうれしいです!表彰式でもさまざまな訪問看護師さんに出会い、全国に熱い思いを持つ訪問看護師さんがいるんだな、と刺激を受けました。 今回のエピソードは十数年前のもので、これを機に久しぶりにあゆみさん(仮名)にお会いして、プレゼントをいただいたような気持ちにもなりました。皆さんにもあゆみさんの人生の一部を知っていただくことができ、嬉しく思っています。 訪問看護は、制度も含めて変化が激しく、大変なこともあります。でも、「やっぱり訪問看護が好き」という想いを持つ訪問看護師さんは多いと思います。みんなでより良い訪問看護をつくり、楽しく看護をし、訪問看護に関わる人みんなが笑顔になればいいなと思っています。本当にありがとうございました。 [no_toc]

受賞エピソード漫画化!「看護師にご褒美をくれたA氏」【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「看護師にご褒美をくれたA氏」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年6月24日
2025年6月24日

受賞エピソード漫画化!「看護師にご褒美をくれたA氏」前編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、審査員特別賞を受賞した田端 支普さん(訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ/大阪府)の投稿エピソード「看護師にご褒美をくれたA氏」をもとにした漫画をお届けします。※漫画タイトルは「看護師にご褒美をくれたあゆみさん」 >>全受賞エピソードはこちら・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。 「看護師にご褒美をくれたあゆみさん」前編 >>後編はこちら受賞エピソード漫画化!「看護師にご褒美をくれたA氏」後編【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者: 田端 支普(たばた しほ)さん訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ(大阪府) [no_toc]

エンゼルケア応用編 ~ご家族対応とQ&A~【セミナーレポート後編】
エンゼルケア応用編 ~ご家族対応とQ&A~【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年6月24日
2025年6月24日

エンゼルケア応用編 ~ご家族対応とQ&A~【セミナーレポート後編】

2025年3月14日、NsPace(ナースペース)は、エンゼルケアの実践的な知識をご紹介するオンラインセミナー「エンゼルケア 応用編 ~状態別対応とコミュニケーション~」を開催。「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さんに、顔や体の状態別のケア方法やお看取り前後のコミュニケーションについて教えていただきました。 セミナーレポート後編では、ご家族とのコミュニケーションの工夫やQ&Aセッションの内容をお届けします。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちらエンゼルケア応用編 ~お顔の状態別ケア~【セミナーレポート前編】 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991 年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001 年には、看護師としての経験をいかして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015 年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 切開部や拘縮への対応 亡くなられた後、気切部をはじめとした切開部の断端は生着しません。そのため、ケアとしてはまず清拭を行い、創部をしっかりと合わせて、できれば皮膚接合用などのテンションの高いテープを貼ります。その上からフィルム剤、さらにベージュの不織布を貼って、切開部を目立たなくしましょう。ポイントは、一貫して「生着しないこと」に留意して対応することです。 また、関節部分が屈曲したまま硬く固定される「拘縮」が見られる方の対応は、医療者側では行いません。ご家族から関節を伸ばしたいとご要望があった場合は、葬儀社への相談を促してください。 ご家族とのコミュニケーション エンゼルケアでは、ご家族とのコミュニケーションも大切な要素のひとつです。お看取り前後やケアを行う際には、以下のような声かけを意識すると、ご家族の安心や信頼につながります。 お看取り前の声かけ 着替え用衣類の準備については、医師から「残された時間」や「最期が近づいていること」などの病状説明があったタイミングでご案内するとより自然です。「万が一のときは」と前置きのひと言を添えることで、ご家族にも配慮した伝え方になります。 エンゼルケア時 私が自身の母を看取った際は、看護師の方々が「息が止まったら連絡をください」「担当医は◯時に到着します」といった業務的な案内にとどめてくださったことが、かえって心の支えになりました。そうした経験から、私は亡くなった後の言葉がけは必須ではないと考えています。無理に声をかける必要はなく、ご家族の状況に応じた柔軟な対応が大切です。 例えば、抱き移しの際に「どうぞ抱いて差し上げてください」とお声かけするだけでも、ご家族の心情に寄り添う関わりになります。 また、事業所のスタンスにもよりますが、エンゼルケア終了後に「ご不明な点がありましたらいつでもご連絡ください」と伝えておくと、ご家族は心強いはずです。 時代の流れをふまえたエンゼルケアを 近年、「死」への対応についての社会の捉え方は大きく変化しています。とくに葬送はこのところ大幅な簡略化が進み、時間をかけずに終わらせるケースが増加傾向にあります。つまり、ご遺体と過ごす時間が少なくなりつつあります。 これからのエンゼルケアのあり方について検討する際も、そうした流れをふまえる必要があるでしょう。グリーフワークにとってプラスになることを意識しながら、ぜひ事業所のみなさんで考えてみてください。 Q&Aセッション Q.エンゼルケアの説明と料金の提示はどのように行うとよいでしょうか? エンゼルケアの料金は、細かな金額こそ異なるものの、多くの事業所で請求されています。金額提示方法については、研究会では契約書へ記載することを推奨しています。金額とあわせて、事業所で実施しているエンゼルケアの内容を整理して記載しておくとよいでしょう。「担当看護師◯名が◯分間の中で、必要と判断した看護(体をきれいにする、着替えさせるなど)を行います」のように書くのがおすすめです。 Q.自壊創があり、滲出液や出血が見られる場合はどのように対応すればよいですか? 研究会では、生前と同様の処置を継続するのがよいと考えています。滲出液が多く臭気が強い場合は、次亜塩素酸水をスプレーし、その上で生前お使いだった臭気を抑制する軟膏を塗布するなどがよいでしょう。 【お顔への対応】 後頭部や体の背面に滲出液や出血が見られる場合は、重力の影響を受けて流出が続き、時間経過とともにそれらが溜まって汚染が広がる可能性があり、フィルム剤で創部を密閉したり、汚染を吸収する布類を敷いたりなどの対応の必要があります。 それに比べて、お顔の創部は重力の影響は大きくなく、水分を吸収するガーゼなどを当て、フィルム剤で密閉したあとは、ベージュのテープや肌の色に近い布などでカバーして目立ちにくくします。 【浮腫によって滲出液が出ている場合の対応】 浮腫による滲出液はいつまで出続けるか予測がつかないため、汚染しないように吸収するものを当てておく必要があります。身につける衣服も滲出液に汚染される可能性があるので、とくに大事なお着替えの場合は、時間を空けて着せる、吸収するものを当てた状態で着用していただくなどの対応をとってください。 Q.お顔の乾燥を最小限にするコツ、また手に入れやすい保湿剤を教えてください。 乾燥の防止に必要なのは油分をたっぷりなじませることです。おすすめの保湿剤は、化粧品のクリーム。油分で油膜をつくるワセリンやオリーブオイルでも乾燥は防止できますが、化粧品としてつくられた保湿クリームは、伸びのよさやなじみやすさの点で優秀です。 クリームを選ぶ際は「バニシングクリーム」や「コールドクリーム」を避けてください。前者は油分が少ない、あるいは油分がまったく入っておらず、後者はクレンジングやマッサージに適したもので、いずれも保湿には向きません。「保湿クリーム」と表記されているものを選びましょう。 また、最も乾燥に注意したい部位は唇で、葬儀社の方も「唇はとにかく早い段階で保湿してほしい」と話します。唇はワセリンやオリーブオイルなどで保湿し、メイクをする場合は口紅をしっかり塗ります。 * * * 今回は研究会が考えるエンゼルケアのノウハウについて、具体的な場面をイメージしながらお伝えしてきました。ぜひ現場で実践して、より質の高いケアを目指していただければ幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
コラム
2025年6月24日
2025年6月24日

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、医師がどのようにALSと診断するのか、梶浦先生のご経験も交えながら解説していただきます。 ALSの診断には2つの重要なポイントがある 重要なポイント、それは次のとおりです。順番に説明していきます。(1) ALSは除外診断である(2) 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が体の広範囲で障害されていることを証明できる ALSは除外診断である 例えば、インフルエンザはウイルスを特定することで診断され、がんは画像検査や生検(腫瘍細胞の一部を採取して行う検査)によって診断を確定できます。しかし、ALSには特異的マーカーや決定的な検査所見がありません。そのため、ALSと同じように運動ニューロンが障害される疾患を一つひとつ除外し、どれにも当てはまらない場合に初めてALSと診断されます。これを「除外診断」といいます。 ALS以外の疾患を除外するために、以下のような検査が行われます。・神経伝導検査・筋電図検査・血液検査・髄液検査・MRI検査(脳、脊髄) など 運動ニューロン障害の広がりを証明する 前回のコラム(>>分かりやすい! ALSの病態と症状)でお伝えしたように、上位運動ニューロンは主に「ブレーキ」の役割を、下位運動ニューロンは主に「アクセル」の役割を担っています。これらが体の広範囲で障害されていることを証明していきます。 ■上位運動ニューロン障害の検査方法 「ブレーキ」が障害されるため、「アクセル」の制御ができない状態です。代表的な症状として、以下の現象がみられます。 腱反射亢進:アキレス腱や膝、肘などの腱を医療用のハンマーで軽く叩くと筋肉が過剰に動く。 クローヌス:アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、筋肉の動きを止めることができず、「ガクガク」と一定のリズムで動き続ける。 医師はこれらの症状の有無や範囲を診察し、上位運動ニューロンの障害を確認します。 下位運動ニューロン障害の検査方法 「アクセル」が障害されるため、以下のような変化が起こります。 筋力低下と筋委縮:筋肉が動かせず、筋肉が細くなり、筋力が落ちていく。 筋力が低下している部位を客観的に把握するため、筋力を数値化していきます。具体的には、握力の測定や、筋力を徒手的に評価する「徒手筋力検査」(manual muscle testing:MMT)が行われます。MMTは主要な部位の筋力を判定し、0~5点の6段階で判定します。参考までに表1に実際の点数の付け方を示します。 表1 徒手筋力検査(MMT) 点数 機能段階 5 強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 4 抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 3 抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる 2 重力を除去すれば、運動域全体にわたって動かせる 1 筋の収縮がわずかに確認されるだけで、関節運動は起こらない 0 筋の収縮はまったくみられない 線維束性収縮:体のさまざまな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に「ピクピク」と細かく動く症状。 前回のコラムで紹介したとおり、線維束性収縮も下位運動ニューロン障害の存在を証明する大切な所見です。線維束性収縮は自覚でき、強く症状が出ているときは他人からも目視できますが、わずかな症状でも客観的に確認できる「針筋電図検査」を実施します。 針筋電図検査は、細い針電極を体のさまざまな部位の筋肉に刺し、筋肉のわずかな「ピクピク」を電気的な活動として捉えることで、まだ筋力低下が起こっていない早期の段階でも異常を発見できます。ただし、線維束性収縮は常にみられるわけではなく、同じ場所に起こるとも限りません。針を刺した場所とタイミングで「ピクピク」が出ていなければ、確実な診断が難しい場合もあり、そこにもどかしさを感じています。 なお、最も多いALSの症状の進行パターンは、まず左右どちらかの手や足の遠位部の筋力が低下していき、徐々に体の中心に近い部分や反対側の筋力が低下していき、全身に広がっていきます。 発症初期は、まだ筋力の低下は限局した部位にしかみられないため、この段階で診断するのはとても難しいです。 私の診断までの経過 発症と初めての受診 2015年、当時34歳の私は、アメリカのカリフォルニア大学(UCSD)に研究のために留学していました。同年の7月に、右手の指先の筋力低下と、利き腕である右腕が左腕よりも細いことに気がつきました。8月にUCSDの神経内科を受診すると、「ALSの可能性が高いので精査が必要です」と言われ、10月に帰国しました。 診断への長い道のり 帰国後、すぐに総合病院の神経内科を受診し、MRIや筋電図検査などで精査したところ、「まだ右腕だけに症状は限局しているものの、ほかの疾患は考えにくいので、おそらくALSだろう」と言われました。「もしかしたらALSではないのでは?」という私の淡い期待は崩れ去り、絶望と恐怖で一晩中泣いていました……。 しかし、その後、診断は二転三転したのです。 2015年11月 今後の治療法を相談していくために神経内科専門の病院を紹介され受診しました。そこで、担当の医師に「ALSと確定するのはまだ早いので、運動ニューロン病を専門としている大学病院の神経内科にセカンドオピニオンに行かないか」と提案されました。わらにもすがる思いだった私は、すぐに行くことを決めました。 同年12月 あらためて精査するために、紹介された大学病院に2週間入院することになりました。そこではMRIや筋電図検査に加えて髄液検査やエコー検査など、さまざまな検査をしました。 すべての検査結果が出て、教授回診のときに診断が告げられることになりました。尋常ではない緊張感で座って待っていた私のもとに、教授を筆頭に医局の医師たち、研修医、医学部の実習生たちなど10人以上がやってきました。そして、少しの沈黙の後に、教授が私の肩をポンポンと軽く叩き「よかったね、ALSじゃないよ」と言ってくれました。 その瞬間、私はあまりのうれしさと安堵感で、緊張の糸が切れ、その場で泣き崩れました。「先生、僕はまだ生きられるんですね!」と言って、人目もはばからず、大勢の前で泣きじゃくりました。そのときの診断名は「多巣性運動ニューロパチー」というものでした。 翌年(2016年)1月 診断名もついたことですし、私は神奈川県にある自分の所属する大学病院で仕事を再開しながら、治療をしていくことにしました。検査結果や紹介状を持参して、自分の所属する大学病院の神経内科を受診すると、「この診断は違うのではないか」と言われ、再度精査することになりました……。 感情が揺さぶられ過ぎて、まるでジェットコースターに乗っている感じで、精神的にどんどん削られていき疲弊していきました。結局そこでも筋電図検査をはじめさまざまな検査を行い、今度は「平山病」という診断になりました。平山病は手術をすれば症状の改善が見込めるため、手術をする予定になりました。 同年4月 手術の予定日が決まっていましたが、手術の直前に舌に線維束性収縮がみられたため、ALSと確定診断され、手術は急遽中止になりました。そのときの私は「自分はALSじゃないのか?」とうすうす気がついていたため、ショックという感情よりは、やっと診断が確定したことに対する安堵感のほうが強かったことを覚えています。 診断の難しさと私が伝えたいこと 私を担当してくださった神経内科専門医の皆さんは、本当に親身になって一所懸命に検査をしてくれました。それでも、そのつど診断名が変わり、確定診断に9ヵ月かかりました。そのくらい、発症初期の段階でALSを診断するのは難しいのです。 私と同じように、なかなか確定診断にいたらず、「つらくて不安な期間」を過ごしている方も少なからずいらっしゃると思い、今回は診断方法とともに私の経験談も書きました。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年6月17日
2025年6月17日

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) 木戸 恵子さんの大賞エピソード「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」をもとにした漫画の第2話をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」前回までのあらすじ4人のお子さんがいるえみさんは、末期の肺がんを患っている。子どもたちと最後の思い出をつくるために、主治医の許可も得て宮崎から東京に飛行機で移動していたところ、容体が急変してしまい、緊急入院することになった。えみさんや夫は「子どもたちのいる宮崎に帰りたい」と言っており、J病院の医師・看護師たちはリスクが大きいため悩んだが、訪問看護師の木戸さんに相談することにした。<主な登場人物>>>第1話はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話 >>第3話(最終話)はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第3話【つたえたい訪問看護の話】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

エンゼルケア応用編 ~お顔の状態別ケア~【セミナーレポート前編】
エンゼルケア応用編 ~お顔の状態別ケア~【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年6月17日
2025年6月17日

エンゼルケア応用編 ~お顔の状態別ケア~【セミナーレポート前編】

2025年3月14日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「エンゼルケア 応用編 ~状態別対応とコミュニケーション~」を開催しました。講師を務めてくださったのは、「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さん。顔や身体の状態に応じた対応のノウハウや、エンゼルケアの重要なポイントであるご家族とのコミュニケーションのコツなどを教えていただきました。 セミナーレポート前編では、状態別「お顔のケア方法」についてご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001年には、看護師としての経験をいかして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 お顔の状態別ケア「黄疸が出ている」 お身体に黄疸が出ている場合、「ビリルビン色素の酸化亢進」などが主な原因となって皮膚がくすむように変色します。その変化は一様に表れるわけではなく、眉毛やひげ、毛髪の生え際などに顕著に見られます。 こうした変化については、あらかじめご家族へご説明しておくことが大切です。説明文書の中に「黄疸によって肌色が変化する可能性がある」ことを明記しておくとよいでしょう。口頭での説明も可能ですが、タイミングを逃したり、十分に伝わらなかったりする場合もあるため、文書での案内もあわせて行うことをおすすめします。また、ご家族から後になって「肌色が変化している」とご連絡をいただいた場合は、黄疸による自然な変化であることやカバー方法について丁寧に説明してください。 肌色はいつ、どれくらい変化する? 黄疸による肌色の変化は、死後1日ほど経過してから強く表れることが多く、一般的には薄緑がかった色から濃いグレーになっていきます。 臨終時:黄色死後 24 時間から 36 時間ほど:淡緑色死後 36 時間から 48 時間ほど:淡緑灰色 しかし、変化には個人差が大きく、厳密に変化の度合いを予測するのは難しいのが実情です。先々のくすみに備えてカバーしようとするとファンデーションが厚塗りになり、自然さが失われてしまいがちなため、メイクを施す時点の肌の状態に合わせて仕上げてください。 その後の肌色の変化が気になった場合には、ファンデーションでカバーしていただいてよいことを、ご家族に口頭で伝えるか文書に記述しておくことをおすすめします。 黄疸カバーメイクの方法 黄疸をメイクでカバーする際のポイントは、「黄色」を使うこと。できればクレンジングマッサージをした後に保湿とベースメイクを済ませ、黄色のクリームファンデーションや下地をなじませましょう。その上で、赤みを加えたファンデーションで失われた血色を補い、さらに肌色のリキッドもしくはクリームファンデーションを重ねます。耳や首の皮膚の色も変化するので、露出している部分の塗り忘れのないように意識してください。 お顔の状態別ケア「まぶたが閉じない」 まぶたが閉じていない状態でお亡くなりになった方へのケアには、クレンジングマッサージがおすすめです。マッサージを行うことで、お顔が徐々に柔らかくなり、まぶたが自然と閉じることがあります。 それでもうまく閉じない場合は「二重まぶたをつくる化粧品の糊」を使用することがあります。やり直しが可能で、時間経過によってまぶたやその周囲がひきつれたという報告もありません。上下のまぶたの縁に糊を薄くつけ、その部分を手で扇いで少し乾かしてから合わせると、自然に閉じることができます。 ケアをするまでの乾燥対策も忘れずに 眼球表面が外気に触れると、乾燥が進み、色調変化を起こすリスクがあります。閉じる対応までの間、眼球の表面に綿棒でオリーブオイルなどの油分を塗布しておきましょう。もしくは、外気が触れないようにガーゼでカバーします。 その際、ご家族に「目は乾燥しやすいのでカバーします。後ほどまぶたを閉じるケアをしますね」と説明することも忘れないでください。 お顔の状態別ケア「お口が開いている」 お口が開いている場合は、まず、枕を少し高くし、筒状に丸めたタオルを顎の下に挟んで口を閉じましょう。それでもうまく閉じない時は、ご本人が使用されていた入れ歯を装着するとうまくいく可能性があります。ただし、中には「入れ歯を装着しても、顎は固定できるものの口元が閉じない」というケースも。この場合、口内の入れ歯が接する部分に「入れ歯安定剤」を薄く塗布してから口を閉じることで解消できることもあります。 なお、口腔内の変形をはじめとしたトラブルによってご本人の入れ歯を装着できない場合は、エンゼルメイク専用の入れ歯を使う選択肢もあります。 口を閉じるケアは必須ではない ご家族によっては「無理に口を閉じなくてよい」と希望されることもあるので、よく相談しながら対応を検討してください。ただし、口が開いたままだと口腔内が乾燥するため、口腔ケアの仕上げに油分を塗布しておくことをおすすめします。 お顔の状態別ケア「痩せている」 頬がこける、眼窩がくぼむなど、顔が痩せた状態で亡くなる方も少なくありません。この場合の対応について、研究会では「含み綿は行わない」ことを基本方針としています。理由は、自然な見た目にするのが非常に難しいためです。 頬やまぶたに含み綿をすると凸凹ができるケースが多く、「その人らしさ」が失われてしまうことも。また、こめかみには含み綿を入れることができないため、頬やまぶたにだけ行うと、不自然なバランスになるリスクもあります。そのため、含み綿を施す時間をほかのケアに充てたほうがよいというのが私たちの見解です。 どうしても痩せた印象を和らげたい場合には、1段明るめのファンデーションを使って気になる部分をやさしくカバーする方法もあります(イラスト「緑色」斜線部分)。 また、ご希望があれば、葬儀関係者やエンバーマーの技術によってお顔全体を自然にふっくらと整えることが可能な場合もあります。こうした対応についてご家族から要望があった際には、葬儀社へ相談するよう案内してください。 含み綿を希望するご家族は多くない エンゼルメイクは、その場にいらっしゃる近しいご家族のために行うもの。そして多くの場合、そのご家族は痩せる経過や痩せた状態のお顔をそばで見てきており、その姿を受け入れている面があるからか、臨終後すぐにお顔をふっくらさせてほしいと希望されるケースはあまり聞きません。ご家族の想いに寄り添うエンゼルケアを目指すのであれば、クレンジングマッサージやシャンプーなど、ほかのケアを一つひとつ丁寧に行うことが、より大切ではないかと考えています。 次回は、お看取り前やエンゼルケア時のご家族とのコミュニケーションの工夫、Q&Aセッションの内容などをまとめます。 >>後編はこちらエンゼルケア応用編 ~ご家族対応と Q&A~【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

透析患者さんの特徴と訪問時に注意したい状況・症状、報告のタイミングとは
透析患者さんの特徴と訪問時に注意したい状況・症状、報告のタイミングとは
特集
2025年6月17日
2025年6月17日

透析患者さんの特徴と訪問時に注意したい状況・症状、報告のタイミングとは

透析患者さんの高齢化が進むなか、訪問看護師さんが日常生活の支援を担う場面が増加しています。透析看護は、一般的な慢性疾患の看護に加え、シャントの管理や心不全徴候の確認など、透析特有の知識と観察力が欠かせません。今回は、訪問看護師さんが知っておくべき、透析患者さんの基本的な特徴、透析室との連携が求められるトラブルや注意を要する状況・症状について解説します。 透析患者さんの特徴とは? 身体的特徴:包括的な視点での看護が必要 透析患者さんは、除水の影響や循環血液量の変化、心機能の低下(心不全・虚血性心疾患)、自律神経障害、降圧薬の影響などにより、血圧の変動が起こりやすくなっています。また、免疫機能の低下により易感染性の状態となっており、感染予防も重要なケアのひとつです。動脈硬化の進行、下肢末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)の合併率も高く、重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)を予防するための観察と対応が求められます。 そのほかにも、さまざまな合併症による身体症状がみられます(図1)。例えば、貧血、抗凝固療法に伴う出血リスク、骨の脆弱性による骨折リスクが挙げられます。さらに、透析や食事制限に伴う低栄養、尿毒素の蓄積による皮膚の乾燥や掻痒感などが生じることもあります。このように、多岐にわたる症状がみられるため、包括的な視点での看護が必要です。 図1 透析患者さんに関連する合併症 心理社会的特徴:段階に応じた支援が必要 透析導入期の患者さんは、病気や治療そのものへの不安だけでなく、生活の制限や将来の見通し、社会的孤立など多くの不安を抱えています。この時期には、身体的・精神的・社会的側面に目を向け、患者さん一人ひとりの状況に応じた多面的な支援が重要です。 また、透析治療を受け入れていく過程では、「落胆・喪失」「否認」「不安」「怒り」「抑うつ」などの心理状態を経て、最終的に「受容」に至るのが一般的です。それぞれの段階に応じた適切な支援が求められます。 バスキュラーアクセスと体重管理 透析患者さんの特徴を理解する上で、バスキュラーアクセス(vascular access:VA)と体重管理は特に重要なため、この2点について説明します。 VAの種類と特徴 血液透析を実施するには、多くの血液量を確保する必要があり、そのためにVAが作成されます。VAとは、透析治療を行うために血液を体外に取り出し、再び体内に戻すための専用の「血液の出入口」のこと。透析を安全かつ効率的に行うために、VAの維持・管理は重要です。VAの観察・アセスメント・トラブル対応について確認しておきましょう。 VAには、「シャント」「動脈表在化」「カフ型カテーテル」の3つの種類があります。それぞれの特徴について解説します。 ●内シャント(AVF、AVG)シャントとは、動脈と静脈を手術でつなぎ合わせて、透析に必要な血流の通り道(バイパス)を確保することをいいます。最も一般的な方法で、使用する血管は自己血管(arterio venous fistula:AVF)または人工血管(arterio venous graft:AVG)があります(図2)。それぞれ患者さんの状態に応じて選択されます。 シャントの管理では、視診・触診(スリル)・聴診(シャント音)を行い、閉塞や感染兆候がないか観察します。また、清潔保持と自己管理指導を継続的に実施します。(>>シャントの管理については次回「バスキュラーアクセスのトラブル対応、日常管理のポイントも【事例あり】」にて詳しく解説します。トラブル事例も紹介する予定です) 図2 内シャント ●動脈表在化手術により、深部にある動脈を皮膚の直下に移動させ、穿刺をしやすくする方法です。この方法は、血管が脆弱な高齢者や心機能が低下している患者さんに適応されます。 ●カフ型カテーテル(長期留置カテーテル)シャントを作成するための血管がない場合、心機能が低下しシャントの作成が困難な場合に選択される方法です。内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈などの太い静脈にカフ付きカテーテルを挿入します(図3)。ただし、感染や閉塞のリスクが伴うため、日常的な管理が非常に重要です。 図3 カフ型カテーテル(長期留置カテーテル) 透析患者さんの体重管理 ●ドライウェイト(dry weight:DW)DWとは、透析後の目標体重であり、体内の余分な水分が取り除かれた状態を指します(図4)。「基礎体重」とも呼ばれ、DWが適正でない場合には心不全や低血圧などのリスクが生じます。患者さんの生活の質(QOL)を維持・向上させるためにも、DWは定期的に評価・見直しを行います。 図4 ドライウェイト(DW)とは ●体重管理透析では、透析間に増加した体重(主に水分)を、次の透析で4時間かけて除去(除水)する必要があります。体重増加が多いと、心血管系の合併症を引き起こすリスクが高まります。一方で、過度の除水は透析中の血圧低下や除水に伴うショックなどを招く恐れがあります。いずれの場合も最終的には生命予後に影響を与えるため、透析間の体重増加にはめやすが設けられています(図5)。 図5 透析間の体重増加のめやす ○透析間が中1日(例:木曜日・土曜日)の場合、DWの3%未満○透析間が中2日(例:火曜日)の場合、DWの6%未満 の体重増加が望ましい 患者さんの観察・情報共有のポイント 透析患者さんは、体調の変化によって透析の中止・変更・緊急透析が必要となる場合があります。そのため、訪問時には異常の早期発見と、透析室との速やかな情報共有がきわめて重要となります。 表1に訪問看護師さんが透析室へ連絡すべき主な状況を示します。 表1 透析室へ連絡すべき主な状況【感染】 【シャント・カテーテル】 【体重管理】 【そのほか】 連絡すべきか迷ったら? 「迷ったら連絡!」が鉄則です。「こんなことで……?」と思うような些細な変化でも、透析室にとっては重要な情報となる場合があります。 訪問看護師さんの「気づき」と「ひと声」が透析治療の質と患者さんのQOLを大きく左右します。訪問看護師さんと透析室の連携を強化することで、患者さんの安心・安全な在宅生活が実現できると考えています。  執筆:熊澤 ひとみ医療法人偕行会 透析医療事業部 副事業部長透析看護認定看護師【職歴】昭和63(1988)年 名古屋共立病院 入職平成11(1999)年 偕行会 セントラルクリニック 異動平成17(2005)年 透析医療事業部 副事業部長令和3(2021)年 医療法人偕行会 法人本部 理事【所属学会】日本腎不全看護学会 監事日本臨床腎臓病看護学会日本透析医学会編集:株式会社照林社

【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用
【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用
インタビュー
2025年6月3日
2025年6月3日

【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用

近年、大規模な自然災害が連続して発生し、南海トラフ地震への備えも求められるなか、医療現場における防災対策の重要性はますます増しています。より質の高い備えに寄与できるよう、先進的な防災対策を行う事例をご紹介。今回は、愛知県蒲郡市医師会の会長を務める近藤耕次先生にお話を伺いました。 【プロフィール】近藤 耕次 先生こんどうクリニック院長/蒲郡市医師会 会長藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)および同大学院を卒業。1989年に蒲郡市民病院に入職し、内科・神経内科部長を経験した後、2002年にこんどうクリニックを開業。2020年に蒲郡市医師会の会長に就任。 周辺自治体や企業と連携。蒲郡市の防災対策 ―蒲郡市では、どのような防災対策をしているのですか? 毎年、市民参加型の「市民総ぐるみ防災訓練」を市内の中学校を中心に実施し、災害初動期における対応を訓練しています。 訓練内容は、 ・多数傷病者を想定したトリアージ訓練・救護本部の設置および情報処理訓練・市民による避難所の開設・運営訓練・避難所と災害対策本部との状況報告訓練 など、多岐にわたります。消防団・警察官、歯科医師会、薬剤師会、蒲郡市医療救護所登録看護師など、多職種の協力を得ながら実践的なプログラムを組んでいるんです。 そのほか、全市民を対象とした「シェイクアウト訓練」や、災害用伝言ダイヤル「171」の体験訓練なども行われているほか、2025年1月には豊橋・豊川・田原の各市の自治体と連携して「東三河南部医療圏災害時保健医療活動訓練」も実施しました。主に南海トラフ地震を想定し、災害時の医療対応をシミュレーション。竹島ふ頭地区の重症患者をドクターヘリで災害拠点病院の蒲郡市民病院まで搬送する流れを確認し、伝達方法やネットワーク体制の課題を洗い出しました。 なお、医師会は蒲郡市防災会議にも参加しており、発災時の救護所の開設方法や医薬品・血液製剤の確保の流れなど、継続的に防災対策の見直しと確認を行っています。今後も繰り返し防災訓練の実施や検討・改善を行い、体制を整えていきたいと考えています。 ―在宅療養者の災害対応についても教えてください。 はい。現段階では、人工呼吸器利用者や在宅酸素療養者、透析が必要な方を対象に、以下のような避難環境の整備を進めています。 人工呼吸器利用者蒲郡市市民病院で優先的に受け入れ。在宅酸素療法療養者災害時も安定的に電源供給ができる「蒲郡競艇場(ボートレース蒲郡)」に救護所を開設し、誘導。医療機器メーカーに必要分の酸素ボンベ等を搬入してもらう。透析が必要な患者市内に2ヵ所ある「透析クリニック」が受け入れ。ポンプ車を稼働させ、クリニックに水を供給する。 ただ、避難先を決めておくだけでは不十分です。特別対応を要するすべての方の安全を守るには、その人数や疾患の詳細を把握しておかなければなりません。医療機関も蒲郡市全体の患者数は把握していませんし、蒲郡市在住で市外の医療機関にかかっているケースもあります。周辺自治体と連携しながら全体把握のためのしくみをつくる必要があったのです。 そこで、人工呼吸器利用者と在宅酸素療養者に関しては、行政に申請して「蒲郡電源あんしんネットワーク」に登録いただくしくみをつくっています。また、複数の自治体が在宅医療・福祉統合型支援ネットワークシステム「東三河ほいっぷネットワーク」(多職種間で情報を共有したり、患者さんやご家族側から情報発信をしたりできるシステム)に、災害関連情報を確認できる機能を新設しています。 「私はどうなるの?」 災害対策に注力するきっかけ ―近藤先生が防災対策に注力されるようになったきっかけについて教えてください。 きっかけは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い、意思伝達装置がないと意思表示ができない患者さんから、「もし電気が止まってしまったら、私はどうなるの?」と質問されたことです。当時の私は、その方に何も答えられませんでした。そこで、蒲郡市役所の長寿課や蒲郡市長、中部電力、医療機器メーカーなどに相談し、踏み込んだ防災対策を検討し始めたんです。蒲郡競艇場を避難所として活用する案も、その過程で蒲郡市から提案いただきました。 ―行政を巻き込みながらの対策づくりが実現できた理由や、協力を打診する際に気を付けていることについて教えてください。 私ども医師会が先頭に立ち、行政の中でも医療的観点からの防災対策の強化に課題感を強くもっていた蒲郡市役所の長寿課と、トップである市長の両方に積極的に働きかけたことが功を奏したのではないかと感じています。 また、周囲に相談したり協力を求めたりする際は、笑顔で柔らかいコミュニケーションをとることを意識しています。お互いが安心感をもち、考えをきちんと伝え合える関係を目指したいと思っています。 今後のカギは「共通認識づくり」 ―防災対策のさらなる拡充に向けて、現状課題として考えている点があれば教えてください。 より幅広く、深い共通認識(ルール)づくりをしなければならないと考えています。例えば、「被害状況がどれほどのレベルであればほかの市町村への応援要請を出すか」という基準の設定。これが曖昧だと、判断を間違える可能性が高まり、被害が拡大したり、せっかくの応援をもてあましたりしかねません。報告様式の統一も必要でしょう。現在は市町村ごとに形式や書式が異なるため、情報の漏れや過多が生まれるリスクがあります。災害時の情報整理は非常に難しいので、統一を急ぎたいですね。 また、救護所の備品、管理の見直しも重要です。「災害発生から3日間ほどは外傷の手当てが中心になる」といったように、リアルな状況を想定した上で、フェーズによって必要な備品の検討が必要だと考えています。管理の面では、特に薬剤の使用期限は徹底的にチェックしなくてはなりません。飲み薬は災害発生から1週間程度で供給体制が整うとされており、過度な備蓄はコスト増にもつながる可能性も。慎重な判断が求められます。 そして、連絡手段の確保も大切ですね。携帯電話は電池切れや通信障害で使用できなくなる可能性があるため、それ以外の手段もあらかじめ検討しておく必要があります。安否の情報を関係者で共有するためのルールづくりも含めて、災害の備えとして欠かせません。 ―在宅療養者の方向けの災害対策についてはいかがでしょうか? 人工呼吸器利用者や在宅酸素療養者、透析患者の方々以外にも多様な疾患・障害を持つ方がいらっしゃいますから、対象をより広げて対策を講じなければならないと考えています。 蒲郡市では福祉避難所を設けていますが、現状ではすべての方に対応することはできません。ニーズに応じて複数の福祉避難所をつくる案を検討しているものの、災害時は一人ひとりが「適切な福祉避難所」に移動できない可能性もあるでしょう。ベストな対策を引き続き検討していきたいと考えています。 訪問看護師に伝えたい防災対策のポイント ―災害対策に関して、訪問看護師の皆さまへアドバイスやメッセージをお願いします。 訪問看護の事業所単位で取り組みたいことのひとつに、利用者さんの「要介助度ランク」の検討があります。例えば、災害発生直後に優先して訪問すべき方、1週間以内に訪問すべき方などをあらかじめ設定しておくことで、限られた人員でも効率的に対応することができます。災害時は、基本的に時間の経過とともに支援人員が増えていくもの。だからこそ、特に人手が足りない災害直後の混乱期を乗り切るための備えが重要になります。 また、各事業所でBCP(業務継続計画)を策定しているかと思いますが、日頃から少ない人員で運営している事業所は特に、災害時に単独で対応するのは限界があります。重要なのは、地域の訪問看護ステーションが協力し、「自分たちは同じ地域のグループなんだ」という意識をもって地域BCPを考えていくことではないでしょうか。 関連記事:[7]連携の観点から事業所のリソース不足の解消方法を考えてみよう 最後にお伝えしたいのは、災害時は訪問看護師さんご自身とご家族の安全確保を最優先にしていただきたい、ということです。その上で、可能な範囲内で仕事にあたればよいと思います。どうか「医療従事者だから利用者さんを優先しなければ」と思い詰めないでください。 ※本記事は、2025年3月の取材時点の情報をもとに構成しています。 取材・執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

血液透析の基礎知識と透析室の1日の流れ 訪問看護の連携のポイントも
血液透析の基礎知識と透析室の1日の流れ 訪問看護の連携のポイントも
特集
2025年5月27日
2025年5月27日

血液透析の基礎知識と透析室の1日の流れ 訪問看護の連携のポイントも

血液透析の基本的なしくみや透析室における1日の流れを詳しく解説し、透析中・透析後のリスク管理、訪問看護と透析室の情報共有や連携のポイントについても紹介。安全で質の高いケアを提供するための実践的な知識をお届けします。 血液透析とは 腎臓は、体内の老廃物や余分な水分を除去し、電解質バランスを調整する働きがあります。血液透析はこの機能を補助する治療法で、1分間に200~300mLの血液を体外に取り出し、ダイアライザーと呼ばれる透析器(人工腎臓)を介してきれいにし、再び体内に戻します(図1)。 通常、血液透析は週3回(月・水・金、もしくは火・木・土)の通院が必要で、1回の治療時間は3~5時間程度です。 健常な方の腎臓は24時間365日働いているのに対し、血液透析ではその10~15%程度の働きしかできず、腎臓の働きを完全に代行することはできません。そのため、血液透析では不足してしまう腎臓本来の機能を補うため、薬剤の投与(内服・注射)や日常生活の管理が欠かせません。 図1 血液透析のしくみ 透析室の1日の流れ 血液透析は特殊な治療であり、透析患者さんのことや透析室で行われていることがよく分からないと感じる方も多いのではないでしょうか。透析室の1日の流れを知ることで、透析治療のイメージを持ちやすくなり、よりよいケアやスムーズな連携につながるのではないかと考えます。ここでは、透析室の看護師の業務を中心に1日の流れをお伝えします。  8:15 出勤・透析開始の準備個々の患者さんに応じた血液透析が開始できるよう準備します。ダイアライザーや血液回路を透析機械にセットし、プライミングを行います。プライミングとは、ダイアライザーと回路内の空気を除去し、清浄化透析液または生理食塩水で洗浄、充填することを指します。  【訪問看護師さんに知っておいてほしいこと】利用者さんに何らかの問題が発生した場合は、早めに連絡を!ダイアライザーや回路の使いまわしはできないため、患者さんが来院できない場合や血液透析を開始できない身体状況だった場合、破棄しなければなりません。利用者さんに何らかの問題が発生した場合は、透析室に早めに連絡をいただけるとありがたいです。前日までの連絡がベストですが、透析室が不在の時間帯であれば、FAXやメールでのご連絡でもOKです。 8:45 朝のミーティング・申し送り 8:50 患者さんの入室・状態確認患者さんが入室したら、バイタルサインの測定、顔色や表情の観察、呼吸状態、歩行状態などを確認します。安全に透析が開始できるかどうかを判断し、必要時には医師へ報告します。連絡ノートの内容も確認します。 【訪問看護師さんに知っておいてほしいこと】出血リスクがある利用者さんは、必ず透析室に情報共有を!透析では抗凝固薬を使用するため、例えば転倒や打撲の既往があるといった出血リスクがある方の場合、抗凝固薬の種類(表1)を変更する必要があります。見た目に問題がなくても、抗凝固薬の影響で透析中の出血リスクが高まります。特に頭部外傷は注意が必要なため、透析室に必ず情報共有をしてください。表1 抗凝固薬の種類 抗凝固薬 適応 特徴 半減期 未分画ヘパリン 状態が安定していて出血傾向のない患者 開始時のワンショットだけでなく、透析中も継続的に使用する 1時間程度 低分子ヘパリン 軽度の出血傾向がみられる患者 半減期が長いため、初回投与のみでの使用が可能 3~4時間程度 ナファモスタットメシル酸塩 出血を起こす可能性が高い患者 抗凝固効果の範囲が血液回路内にほぼ限定される 8分程度 体重測定患者さんの状態を確認したら、体重を測定します。前回の透析後からの体重増加を確認し、体内に蓄積した余分な水分量を判断し、血液透析で取り除く量(除水量)を決定します。この時、服装や靴、コルセットなどが前回と異なると正確な測定ができません。 【訪問看護師さんに知っておいてほしいこと】衣服や付帯品の変更があれば、連絡ノートに記載を!透析室では裸体重を把握するため、衣服や靴の重さを風袋として個別に管理しています。そのため、当院ではご家族や介護施設などには、連絡ノートに新しい衣服や付帯品に関する記載をお願いしています。例えば、図2のように、夏場と冬場で衣服が変わると、その分体重も変動します。コルセットを使用している患者さんの場合は、その重さも考慮しなければなりません。図2 夏場と冬場の衣服による体重の違い夏場は薄めの衣服だが、冬場は厚めのものに変わる。衣服の違いで体重が変動するため、コルセットのような付帯品の有無もチェックが必要。 9:00 透析開始・穿刺バスキュラーアクセス(シャント)の状態(シャント音・スリル・感染の有無)を確認し、穿刺します(>>バスキュラーアクセスについては「透析患者さんの特徴と訪問時に注意したい状況・症状、報告のタイミングとは」で詳しく解説)。穿刺には、15~16Gの針を2本使用。1本は体内の血液を回収する側(動脈)に刺し、もう1本はきれいになった血液を体内に戻す側(静脈)に刺します。穿刺ミスがないよう集中して行います。太い針を使用するため、多くの患者さんは痛み止めの麻酔テープやクリームを使用しています。 穿刺後、ベッドサイドの透析機械(コンソール)で血液を体外に循環させ、血液透析を開始します。先述のとおり、1分間に200~300mLの血液を体外循環するため、この時間帯は1日の中で最も緊張する場面です。 10:00~13:00 血液透析中の観察と処置血液透析中、血液から尿毒素を取り除き、除水することで、急激な浸透圧の変化(血漿浸透圧の低下)が起こります。また、血液中の水分が除去され血管内水分量が低下することにより循環血液量が減るため、血圧が低下しやすくなります。 特に以下のような場合は、血圧低下やショックに注意が必要です。 除水量が多い ドライウェイト(基礎体重)が合っていない(>>ドライウェイトについては「透析患者さんの特徴と訪問時に注意したい状況・症状、報告のタイミングとは」で詳しく解説) 心機能が低下している 糖尿病の既往がある 降圧薬を服用している など 透析中の状態を確認するため、30~60分ごとに血圧測定を行います。同時に、患者さんの顔色や意識状態、体動の有無、穿刺部位なども確認し、異常があれば早急に対応します。最近では、認知症患者さんの対応(体動・大声・針の自己抜去など)も増えています。 また、透析中の時間を活用し、患者さんに応じた処置や指導、フットケアや運動療法などを実施します。 11:00~13:00 休憩スタッフが交代で休憩に入るため、透析室内の人員は少なくなります。 13:00 透析終了・止血透析終了後、患者さんのバイタルサインを確認し、医師から指示されている薬剤の確認と投与を行います。注射薬剤の多くは、透析により抜けてしまうため、透析終了直前に投与します。その後、返血(体外循環していた血液を体内に戻すこと)を行い、穿刺針を抜いて止血します。 止血確認後、患者さんは帰宅します。止血が不十分な場合、穿刺口から再出血する恐れがありますので、止血できているか、しっかり確認します。 透析終了後は、血圧低下や急変対応、返血、抜針、止血などにより、透析室内は忙しい時間帯になります。 帰宅の準備透析終了後は循環動態が不安定になっています。特に高齢者や糖尿病患者、循環器合併症がある患者では、自律神経系の異常により血管収縮能力が低下し、透析後に座位や立位になることで、容易に起立性低血圧を起こすことがあるため、注意が必要です。 血圧低下の有無や歩行時のふらつきを確認し、問題なければ再度体重測定を行い、帰宅します(表2)。ちなみに、透析後の体重測定では、計画通りの除水ができたかを確認します。 表2 帰宅前の確認事項 ・ 体重・ 血圧・ 歩行状態・ 顔色・ シャント音・ 止血 血液透析は、体内から老廃物や水分を除去するため、身体に負担がかかります。また、身体に必要な栄養素やエネルギーも消費するため、透析後の疲労感(だるさ)につながります(図3)。患者さんによっては、透析の日は1日中しんどいという方もいます。 図3 透析後の疲労感につながる理由 環境整備患者さんが帰宅した後は、血液回路の片づけ、血液透析装置やベッド周囲の環境整備、ベッドメイキングを実施します。 14:30 患者の情報共有当日の透析記録をまとめ、申し送りやカンファレンスを行い、患者さんの情報を共有します。この時間帯は比較的落ち着いた状態で業務をしています。 16:45 退勤昼のシフトのみの施設では、職員の退勤後は連絡が取れなくなる可能性があるため、その前に連絡しておくとよいでしょう。翌日にかかわる情報は、FAXやメールなどで事前に共有しておくとスムーズです。 1日の忙しくなる時間帯を図にしてみました(図4)。業務負荷が比較的少ない時間帯であれば、透析室との連絡が取りやすいと思います。情報共有が必要な場合は、このタイミングを活用するのも1つの方法かもしれません。参考になれば幸いです。 図4 透析室における1日の業務負荷のイメージ * * * 透析室では、患者さんの状態に応じた迅速な判断とケアが求められます。また、訪問看護との情報共有が重要であり、透析中・透析後のリスク管理が患者さんのQOL向上につながります。透析治療について理解を深めていただき、よりよいケアの提供をめざしましょう。  執筆:熊澤 ひとみ医療法人偕行会 透析医療事業部 副事業部長透析看護認定看護師【職歴】昭和63(1988)年 名古屋共立病院 入職平成11(1999)年 偕行会 セントラルクリニック 異動平成17(2005)年 透析医療事業部 副事業部長令和3(2021)年 医療法人偕行会 法人本部 理事【所属学会】日本腎不全看護学会 監事日本臨床腎臓病看護学会日本透析医学会編集:株式会社照林社

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