初めての訪問看護に関する記事

訪問看護のヒヤリハット
訪問看護のヒヤリハット
特集
2023年2月21日
2023年2月21日

ケア・忘れ物・移動トラブル…訪問看護のヒヤリハット体験談23連発

限られた時間のなかで、利用者さんの病態や自宅の環境等に応じて臨機応変に対応する訪問看護師。病棟看護師ではなかなか経験しないヒヤリハット&インシデントも数多くあるはず。今回は、訪問看護師さんたちから寄せられた体験談をご紹介します。 ※訪問看護ステーションによっては、「アクシデント」に分類される体験談も含まれる可能性があります。あらかじめご了承ください。 【ケア編】 自動点滴停止、指示見落とし… まずはケア編から。在宅看護ならではの医療機器・コミュニケーションにまつわる体験談も寄せられています。 「利用者さん宅の交換ノートに書かれていた医師の褥瘡への軟膏変更指示を見落としてしまったスタッフがいた。それまでめったに指示変更がなかったことと、訪問時に見学者がいて気を取られてしまったことが影響したようだ」(40代) 「在宅用の自動点滴ポンプを使用していたところ、電源プラグが抜け気味になっており、充電がゼロになってしまった。あわてて電池を入れたが、作動せず。充電がゼロになると電池を入れてもすぐには動かず、手動に切り替えたため、ある程度充電されるまで滞在せざるを得なかった」(50代) 「電池・バッテリーが使える在宅用の自動点滴ポンプについて、災害時用に充電式電池を2~3日に1回交換するようにしていたが、あるとき業者から『毎日交換しないと放電する可能性がある』と聞いた。それ以降、ご家族の協力も得ながら毎日交換するようにしている。災害が起きる前に知れてよかった」(30代) 「爪がとっても切りにくい利用者さんで、爪切りのときに皮も切ってしまい、出血してしまった。出血は少量で、ご本人には『大丈夫』といってもらえたが、ヒヤッとした」(50代) 「薬の処方がかなり複雑な利用者さんの訪問が始まり、まだ薬の色分け・記載分けなどの工夫をしていないときのこと。一緒に同行した看護師が薬のセットを間違えてしまった。複数人で訪問していたためその場で気づくことができたが、危なかった」(30代) 【忘れ物編】 バッグ・バイタルセット忘れ… 訪問看護師は毎回移動するため、忘れ物をしてしまうと取りに戻るのが大変…。時間に追われるなかで、うっかり大事なものを置いてきてしまう経験をした人も多いようです。 「バイタルセットを忘れてしまうケースはよく耳にする。次の訪問先でバイタル測定物品を借りられるケースでない限り、急いで取りに戻るしかない…」(40代) 「緊急コールで深夜に独居の認知症の方に訪問したところ、ご本人から不審者扱いをされてしまった。なんとか理解してもらおうと必死に説明しながら慌てて看護や薬のセットなどの対応を行い、訪問を終了。しかし、訪問バッグをまるごと忘れてしまった…。取りに戻るしかなく、再び利用者さんからは不審者扱いをされた」(30代) 「非常に点滴の針が入りづらい利用者さんで、針を2~3本使用した。時間が押しており、一度棚の上にその針を置いて片付けていたところ、次の訪問歯科の方々が来てしまい、針を置いてきてしまった。ご自身で移動ができない利用者さんのため実害はなかったが、ご家族は『針を何本もさした上に忘れるなんて』と不信感を抱かせてしまった…」(50代) 「ものの置き忘れはステーション内で何度か事例がある。はさみをベッドのなかに置いてきてしまって、報告になったこともあった」(50代)  「清拭の際は給湯器の温度をマックスの60℃まで上げることがあるが、元の温度に戻し忘れてしまい、ホームヘルパーさんに下げてもらうように頼んだことがある」(50代)  「電子カルテを閲覧できるタブレットを忘れてきてしまった。たまたま目が見えない利用者さんだったため情報流出はしなかったが、『いつもはないものがある』とご本人からお電話をいただいてしまった」(30代) 【スケジュール管理編】 訪問のすっぽかし… 訪問の予定が変更になったケースで、気を付けてはいても訪問漏れを経験してしまった方々もいました。 「訪問をすっぽかしてしまい、青くなって利用者さん宅に駆け付けたことがある。お風呂やマッサージなどがメインの方で、利用者さんも『忙しいと思ったから連絡しなかった』と怒っていなかったが、いつも訪問を心待ちにしてくれているので心が痛んだ。予定変更があったのだが、そのことを失念してしまったことが原因。最新の予定表はステーションにしかなく、出先では確認できなかった」(50代) 「翌月から曜日変更がある利用者さんの予定を、自分(管理者)がシステムに入力し間違えてしまい、訪問漏れを起こしてしまった。それ以来、管理者以外の実担当者にも直近1週間の予定をダブルチェックしてもらうようにしている」(40代) 【訪問・移動編】 電動自転車を路駐の車に… 訪問看護師ならではの「移動」に関する体験談。違反切符をきられたケースや、怖い経験をした人もいました。 「利用者さん宅の前に路上駐車していた車に、うっかり訪問用の電動自転車を倒してぶつけてしまったスタッフがいた。そのスタッフは当初自分でなんとかしようと思ったようだが、激怒した車の持ち主からガンガン電話がかかってきて、先輩や所長に相談。所長が間に入り、和解できた」(40代) 「車で移動する際、基本的には利用者さんに駐車料金を払ってもらうが、『自宅の前で大丈夫』『一度も駐禁とられていないから』と言われ、そのとおりにしたところ駐禁をとられてしまったスタッフがいた。ステーションからは『駐禁は払わないからね』と前もって言われていたため、自己負担…」(50代) 「初めての利用者さん宅に車で行ったスタッフが、ナビに従って運転していたら、『住民以外進入禁止』の看板を見落とし、警察に違反切符を切られてしまった。看板もあまり目立たないものだったようで、誰がやっていても防ぎづらかった事例と考え、看護師が支払った罰金相当額をステーションが負担した」(40代) 「いつもカギをあけてくれるご家族が不在で、利用者さんご本人は動けないため、家に入れなかったことがある。窓越しに利用者さんと会話ができ、ご本人から『窓から入って』と言われた。木によじ登って入ろうとしたが、近隣の方から不審者扱いをされそうになり、結局訪問はできなかった」(30代) 【経理・事務関連編】 指示書が期限切れ… 訪問看護師が理解しておけなければならない手続き・制度の知識はたくさん…。煩雑で、抜け漏れが生じるケースも多いようです。 「訪問看護の指示書が2ヵ月切れていたにも関わらず、訪問していた。指示書発行依頼や管理は事務の方にお願いしているが、期限の把握が不十分だった」(40代) 「新規事業所で、本部から指定許可がおりていると言われてサービスを開始したが、実際は許可が下りておらず、結局10万円分ほどの訪問看護費用をいただけないことになってしまった」(50代) 「気管カニューレを使用している利用者さんだったので、特別管理加算がとれたのだが、チェック項目に入れておらず、加算されていなかった。管理者も現場の看護師に伝えきれておらず、現場の看護師もそうした意識が薄くなりがち」(50代) 「ファクスの送り間違えがあり、お叱りの電話を受けたことがある。以降、できるだけファクス機に番号を登録するようにしている」(50代) 「初回の訪問を終えていたが、すぐに入院されてしまい、契約書に書かれていたご家族は連絡がとれなかった。どこに入院されているのか、いつ戻ってこられるかもわからず、口座は残金不足。訪問費用を請求できない状態が続き、半年ほど経過したが、結局回収できなかった」(30代) 「訪問看護師になりたてのころのこと。振込依頼書の書き方をあまり理解していなかったので利用者さんの記入ミスに気付かず受領。後日書き直していただくことになってしまった」(30代) 「わかる!」という声が聞こえてきそうな体験談から、「そんなことがあったの…?」と驚く体験談まで、多種多様なエピソードが寄せられました。さまざまな事例を知ることで、重大な事故を防げるケースも多くあります。報告までには至らない内容でも、ぜひ積極的に訪問看護ステーション内で共有してみてください。ヒヤリハット・インシデントを防ぐヒントが見つかるかもしれません。 編集・執筆: NsPace編集部

相続・遺言の「いろは」―「遺産を寄付したい」と相談されたら?
相続・遺言の「いろは」―「遺産を寄付したい」と相談されたら?
特集
2023年2月21日
2023年2月21日

相続・遺言の「いろは」―「遺産を寄付したい」と相談されたら?

この連載では、訪問看護師のみなさんが現場で遭遇しそうなケースをもとに、利用者さんからの相談に関連する法律や制度についてわかりやすく解説します。法律に苦手意識がある方でも自信をもって対応できるよう、役立つ知識をお届けします。今回のテーマは「相続・遺言」です。 事例 豪邸に住む利用者のCさん(80代男性)。大金持ちですが、一人暮らしで、どことなく寂しそうです。Cさんは寝たきりで、全額自費で訪問看護サービスをフルタイムで利用しています。 そんな中、看護師のDさんはCさんから次のように依頼されました。「私はもう長くないことがわかっている。あなたも知っていると思うが、私には子どももきょうだいもおらず、私の死後、遺産を相続する者がいない。そうなると国に納めることになると思う。そうなるよりは、少しでも有意義なことに使いたいと思い、かねてから応援している環境保護団体に私の遺産を寄付したい。Dさん、こんなときどうすればよいか、教えてくれないか。」 Dさんは心の中で「えーっと、これっていわゆる相続の問題ですよね。何をどこまで説明すればよいのだろう…」と焦りました。もちろんDさんは法律の専門家ではありませんからアドバイスはできません。でも、自分の親や、いずれは自分自身も関わらざるを得ないテーマですから、基本的なことは知っておきたいと思っていました。「遺書みたいなものを書けばよいのかしら? 相談する先は弁護士? まずは、ケアマネジャーに伝えればよい?」とぐるぐる考えが巡るDさん。この悩みをスッキリ整理しましょう。 回答例 「その場合、遺言を書くことになると思います。ただ、遺言の書き方には決まり事があるそうです。法的に有効なものを作り、確実に実行するには、やはり法律の専門家に相談されたほうがよいでしょう。相続や遺言を専門とする弁護士や司法書士を探されるとよいと思います。」 遺産を「相続」する人は法律で決められている 人が死亡すると「相続」が発生します。相続とは、その人が所有していた預貯金や不動産、有価証券などの遺産を、相続人が相続割合に基づき引き継ぐことをいいます。相続では、この亡くなった人を「被相続人」、遺産を引き継ぐ人を「相続人」と呼びます。 相続人は、民法でどのような関係の人がどういった順番でなれるのかが定められています。被相続人に配偶者(妻や夫)がいる場合、必ず配偶者が相続人になります。そして、子がいるときは子が第1順位、子がおらず親が生きているときは親が第2順位、子も親もおらず、きょうだいのみがいるときはきょうだいが第3順位として相続します(図1)。 そして、今回のように相続人が誰もいない場合、被相続人の遺産は国に帰属することになります。 図1 相続人の範囲と優先順位 遺言を作成すれば相続の内容を決められる では、どうすれば自分の死後、財産の使い道を指定できるのでしょうか? 実は、簡単な方法があります。それは、どのような紙でもよいので、本人が自筆で「遺言」を作成することです。(※「遺言」は「ゆいごん」と読みますが、法的に正確な読み方は「いごん」です。) なお、遺言には民法で定められたいくつかの要件があります。以下に、その一部を簡単にまとめました。こういった要件を満たしていないと、せっかく遺言を作成しても無効になってしまう恐れがあるため、注意が必要です。  【求められる要件(一部)】・本人が、遺言の本文のすべてを自筆する(※)。・遺言を作成した年月日を具体的に記載する。・本人が署名・押印する(押印は実印でなくてもよく、認印でも問題ない)。・誰に何を相続させるのか、相続内容を明記する。・誤字・脱字は訂正する(訂正方法は民法で定められている)。※遺産目録を付ける場合、その目録は自筆ではなく、パソコンで作成してもかまいません。 今回の事例であれば、「私の死後、私の財産は〇〇環境保護団体に遺贈する」と全文を自筆します。そこに、作成日、氏名を記載し、氏名の横に押印すれば完成です。これにより立派に法律上有効な遺言となり、Cさんの死後、書かれているとおり実行されます。 自筆では心配なら「公正証書遺言」の選択もあり 自筆の遺言は、手軽に作成できる反面、その有効性を争われやすいというデメリットがあります。また自宅で保管していると、紛失したり、死後誰にも発見されなかったりというリスクがあり、心もとない面もあります。また、麻痺や筋肉の疾患などで自筆が困難な場合もあります。 そのようなとき、第三者機関に遺言を作成してもらうことができます。これを「公正証書遺言」といいます。公証役場で公証人が間違いのない遺言を作成してくれます。また、健康上の理由で公証役場まで出向けない場合、公証人が自宅や病院へ出張してくれるサービスもあります。Cさんにとってはうってつけですね。ただし、公正証書作成の手数料以外に、1~2万円程度の日当や交通費が必要です。 「遺言執行者」を決めておこう ここで、遺言を確実に実行するためのワンポイントアドバイスをお伝えします。せっかく遺言を作成したのに、死後、誰にも気づいてもらえず処分品の中に埋もれたまま…という事態にならないよう、「遺言執行者」を指定しておくことをおすすめします。 遺言執行者とは、相続が遺言どおりに実行されるように必要な手続きを行う人のことをいいます。特別な資格は必要ないので、未成年や破産者でない限り、誰でもなることができます。信頼できる人を見つけたら「このような遺言を書きたいので、執行してくれないか」と頼み、承諾を得たうえで、遺言に「〇〇さんを執行者に指定する」と追記すれば完了です。 執行者の責任は重大なため、法律の専門家で、業務を間違いなくやり遂げてくれる弁護士や司法書士に依頼すると確実です。 今回の事例では、遺産を受け取る環境保護団体(受遺者といいます)も執行者になれます。生前に贈り先の団体に受遺者になってほしいとの意思を伝え、先方の承諾を得られるのであれば、執行してもらうのが最も確実な方法といえるでしょう。一方、生前に受遺者を明らかにしたくないのであれば、やはり法律業務の専門家に仕事として依頼することをおすすめします。 些細なミスで遺言が無効にならないように ここまで読んで「よしわかった、早速手近にあるメモ用紙に書いていただこう」とお手軽に遺言を利用者さんにすすめてしまうことは禁物です。簡単なように思えますが、先ほどご紹介した要件を1つでも満たさなければ無効とされてしまうのが遺言の恐ろしいところです。 例えば、作成日を「令和5年1月吉日」とぼかして書いた場合、それだけで「日付が書かれていない」として無効と判断されます。また、押印が何もない場合も無効です。なお、押印は、印鑑である必要はなく、拇印、そのほかの指の頭に墨や朱肉をつけて押捺すること(指印)でもよいとされています。 遺言は自分で作成が可能ですが、いざというときに使えないと無用なトラブルを引き起こしかねません。トラブル回避のためにも間違いのない遺言を作成する必要があるのです。 遺言作成の相談先は課題に応じて選択 では、Cさんの事例の場合、Dさんはどのような専門家に相談すればよいでしょうか。「法律家なんて知り合いにいないし…」という場合、検索して一から探さざるを得ませんが、信頼できるところに頼みたいものです。 相談先は以下のとおり、たくさんあります。それぞれに特徴がありますので、抱える課題や状況に応じて選択するとよいでしょう。ただし、相談先が相続関係に精通しているとは限らないため、「遺言作成業務を取り扱うか」を必ず事前に確認することが大切です。 弁護士 法律といえば弁護士ですが、トラブル解決の専門家であり、費用が最もかかります。そのため、「相続人が揉めている」といったトラブルの火種がない場合、司法書士や行政書士でも十分と思います。 司法書士 司法書士は不動産の登記業務を得意とする専門家です。もし遺産に不動産がある場合、不動産の相続方法や登記を含めた遺言作成の相談が可能です。 行政書士 行政書士は書類作成を主に行う専門家です。複雑な事情がなく、遺言の形式チェックを依頼したい場合、行政書士が適任でしょう。 税理士 税理士は税に関する専門家なので、相続税や贈与税の負担をなるべく軽くしたいといった相談が可能です。 各士業の公的団体 各専門家の事務所を検索すると多くの候補が出てきます。迷う場合は、各士業の公的団体にアクセスするのが無難です。弁護士であれば弁護士会です。「お住まいの都道府県名+弁護士会」で検索し、相談窓口の部署に電話をかけ、相談予約を取ります。 法テラス(日本司法支援センター) 利用者さんに金銭的な余裕がない場合、「法テラス(日本司法支援センター)」がおすすめです。法テラスは、国(法務省)が設立・運営する相談機関で、弁護士や司法書士に無料相談することができますし、そのまま着手を依頼することも可能です。なお、役所で開催される無料市民相談もありますが、相談した弁護士にその場で依頼することができないという欠点があります。「法テラス+地元の名称」で検索し、最寄りの法テラスに予約を取ることをおすすめされるとよいでしょう。 執筆 外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 記事編集:株式会社照林社

試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由
試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由
インタビュー
2023年2月14日
2023年2月14日

試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由

「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、多忙な訪問看護ステーションの新人教育をサポートするサービスです。現場経験やスタッフ指導経験のある看護師が、新任訪問看護師の訪問にオンラインで同行するほか、訪問前の準備や訪問後のフィードバック、定期的な管理者への評価結果報告なども行います。 しかし、こうしたオンライン同行訪問サービス(以下「オンライン同行」)は誕生したばかりのサービスのため、なかなか利用イメージが湧かない方も多いでしょう。実際にNsPace Withを利用した「しもふり訪問看護ステーション」の経営者 木和田さんと、所長・管理者の木下さんにお話を伺いました。前編である今回は、オンライン同行を利用した経緯についてお話しいただきます。 >>オンライン同行を体験した文屋さんの記事はこちら「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記 株式会社 ユニメコム 代表取締役木和田 俊治郎さん調剤薬局の運営会社での取締役時代、訪問看護ステーションの立ち上げ責任者に。企業買収に伴い2015年に独立し、訪問看護ステーション運営会社である株式会社ユニメコムを設立。 しもふり訪問看護ステーション 所長・管理者木下 亜矢子 さん銭湯の番台や外来勤務の准看護師を経て、正看護師になるタイミングで訪問看護の道へ。 しもふり訪問看護ステーション看護師 8名、理学療法士 3名、作業療法士 4名、言語聴覚士 1名、事務 1名が所属(2023年1月時点)。 リハビリスタッフとの連携で医療依存度の高い利用者をケア ―まずは、しもふり訪問看護ステーションの特徴を教えてください。 木下さん(以下敬称略): 当ステーションは、看護師とリハビリスタッフとの連携による質の高いケアの提供を得意としています。東京の町屋と駒込に事業所がありますが、二拠点は自転車移動が可能です。ケースによっては所属拠点に関わらずチームを組み、ステーション一丸となって利用者様のケアにあたっています。また、最近は人員面でも技術面でも看護スタッフが充実してきたこともあり、医療依存度の高い利用者様が増加傾向にあります。 ―しもふり訪問看護ステーションの運営会社は、途中で変更になったと伺っています。経緯を教えていただけますか。 木和田さん(以下敬称略): もともと、しもふり訪問看護ステーションは調剤薬局会社の新規事業として立ち上げました。当時、私はその会社の取締役で、新規事業として訪問看護ステーションを立ち上げる際、責任者を任されたんです。しかし、立ち上げ後に会社がバイアウト(買収)されることになり、ステーションは取り残されることになってしまいました。そこで、私が会社から独立して新たに「ユニメコム」という法人を立ち上げ、訪問看護ステーションの運営を引き継ぐことにした、という経緯ですね。 人材が定着せず、悩み抜いた結果生まれた教育体制 ―訪問看護ステーションの運営は、当初から軌道に乗っていたのでしょうか。 木和田: いえ、訪問看護ステーションの立ち上げ当初から2020年ごろまでは、人材がなかなか定着せず困っていました。ユニメコム本部で採用したら、研修は現場にお任せ、という流れでやっていましたが、どんどんスタッフが辞めてしまったんです。 ―どういった理由で退職される方が多かったのでしょうか。 木和田: 辞める方が本音で退職理由を言ってくれるケースはあまりありません。でも、おそらく「会社が自分のがんばりを評価してくれない」と感じていたスタッフが多かったのだろうと分析しています。 私は、仕事は何らかの「課題解決」「価値創出」に意味があると教えられ、自分自身もそう思って邁進してきました。「がんばっていることそのもの」が評価されなくても気に留めていなかったので、他者のがんばりへの承認にも重きを置いていなかったんですね。そこに従業員と私との間にズレが生じる要因があったんだと思います。従業員のことは以前も今も大切に思っていますが、気持ちが伝わらず、当時はかなり「ドライで冷たい経営者」だと思われていたようです。 ―そういったお話からは想像がつかないほど、現在のしもふり訪問看護ステーションは経営者・管理者からスタッフまで和気あいあいとした雰囲気に見えます。どういった改善策を講じられたのでしょうか? 木和田: 今は本当に雰囲気が良くなっていますが、当時はかなり悩みました。試行錯誤を重ねて学び直しをした結果、やっぱり「エンゲージメント」(従業員との確固たる信頼関係)と「オンボーディング」(採用した人材を定着させ、戦力化するための教育施策)が大事だという結論に至ったんです。「採用したらあとは現場にお任せ」という状況を打破して、きちんと教育プログラムを構築することにしました。 2021年からは座学の初期研修や計画的なOJTを行うようになり、そこで一旦教育体制の土台が作れました。現場のみんなの努力はもちろんのこと、こうした教育体制の構築も人材定着につながっていると思います。 ―教育プログラムについて、具体的な内容を教えてください。 木和田: 座学では、ユニメコムの理念をはじめ、訪問看護を取り巻く社会的な制度の概要や課題、従業員に期待していることなどを伝えています。OJTについては、3ヵ月目のひとり立ちに向けて必要な要素や計画を木下に練ってもらいました。通常業務の流れのなかでOJTをして、「時期が来たら一人で訪問に行ってね」ではなく、何がどこまでできているかをきちんと振り返って記録に残し、管理・指導するようにしています。 オンライン同行を利用したきっかけとは ―2022年に、当時入職したばかりだった訪問看護師の文屋さんがオンライン同行を利用されています。サービス利用のきっかけや理由について教えてください。 木和田: オンラインで外部の看護師が訪問に同行するサービスがあると紹介されて、「ぜひやってみたい」と思いました。教育体制がより充実することはもちろん、全国的に訪問看護師の数が足りていないなかで、こうしたサービスが普及していくことは、社会的にもプラスになると考えたんです。ただ、実は現場からは当初反対意見もありました。 木下: そうですね。最初は反対しました。私は訪問看護の現場を大切にしてきましたし、現場では五感をフルに使う必要があると考えています。対面で接することで積み上げてきた利用者さんとの信頼関係もあります。「オンラインで何がわかるんだろうか」と思ったのが正直なところです。 また、管理者としての方針や誇りをもってステーションを運営しているなかで、ステーション外の看護師さんにスタッフの育成を任せることに対する抵抗感もありました。自分のいないところで、私の方針とズレた指導をされてしまうと困ると思いましたし、どんな方に同行してもらうのかわからない本当の初期段階は、「大事なスタッフが困る事態になったらどうしよう」という思いもありました。実務面では、導入にあたって利用者様の許可をいただくなどの事前準備もありますし、工数面での負担感も心配でしたね。 ―そうした不安や懸念があるなかでも、オンライン同行をはじめた理由は何だったのでしょうか。 木下: 木和田の「導入する」という意志が固いことはわかっていましたし(笑)、気持ちとしては新しいスタッフに全力で寄り添いたくても、多忙で時間が足りず、なかなかそばにいてあげられない現状があります。 また、結局のところは実際にサービスを受けるスタッフが「やりたいかどうか」が一番重要だと思ったんです。文屋の場合は本人が「やりたい」と言いましたし、訪問時の安心感が上がるなら、やってみてもいいのでは、と思いました。もちろん、やってみてもしも本人の負担感が強そうなら、見守るだけではなく口を出そうと思っていました。 木和田: 最終的に木下がそのように受け入れてくれて嬉しかったですね。うちだけに限らず、訪問看護ステーションは管理者のカラーで方向性が決まってくる側面が大きく、「これが正解」というスタンダードがまだない状態だと思うんです。だから、第三者の目を入れれば、コンフリクト(対立)が起こりやすいですし、木下が反対した理由もよくわかる。でも、あえてそういう状況をつくることで、一段階レベルアップできるという想いもありました。 ―ありがとうございます。後編では、実際にオンライン同行を利用してみた所感や活用方法についてお伺いします。 >>後編はこちらオンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ 編集・執筆: NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *   ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記
「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記
インタビュー
2023年2月7日
2023年2月7日

「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記

訪問看護師は、基本的に一人で利用者さんの自宅に訪問します。新任訪問看護師に対しては、同行訪問でのOJT(On the Job Training)を行う訪問看護ステーションが多いでしょう。しかし、多忙でなかなか同行訪問に時間をさけないケースも多く、不安を抱えながら一人での訪問をスタートする新任訪問看護師も少なくありません。 「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、そうした現場をサポートするオンライン同行訪問サービスです。今回は、実際にNsPace Withを使用したしもふり訪問看護ステーションの文屋佐都美さんに、体験談を伺いました。 しもふり訪問看護ステーション文屋 佐都美さん2018年に新卒で病院に入職。3年間勤務後、1年間介護事業所でホームヘルパーとして勤務。2022年4月より、しもふり訪問看護ステーションへ。利用者さん・ご家族との対話を大事にしている。一人ひとりの状況に応じた看護、「楽しく生きる」ことをサポートする看護を目指して邁進中。 利用者さんとの対話・関係性を大事にしたいという想いから訪問看護師へ ―文屋さんは病棟看護師やホームヘルパーとしてのご経歴がありますが、訪問看護師になったきっかけをおしえてください。 親が介護事業所を経営していて、幼いころから在宅ケアが身近だったこともあるかもしれませんが、ずっと「患者さん・利用者さんとの関わりを大切にしたい」「病気や障害等があっても楽しみながら生きていくためのお手伝いをしたい」という想いを持っていました。でも、病棟看護師時代は日々のルーティン業務に追われて、なかなか患者さんと関わる時間が持てない現実があったんです。次第に在宅の道のほうが合っているのではないかと考えるようになり、病院を退職しました。 退職後は、親の介護事業所でホームヘルパーとして1年間働きました。実際に在宅ケアに携わってみたら、利用者さん・ご家族との対話や、日常生活のなかに入らせていただくことが、本当に楽しかったんです。私には、やっぱり在宅の道が合っていると確信しましたし、看護師として働きたいという想いもあったので、訪問看護師に転職することを決めました。 ―多くのステーションがあるなかで、しもふり訪問看護ステーション様に入職された理由を教えてください。 スタッフ同士とても仲が良く、楽しい雰囲気に惹かれました。また、入職前に同行訪問をさせてもらったのですが、利用者さんとの関わり方が自分の理想どおりだったんです。仲が良いことはもちろん、信頼されて利用者さんの日常生活に溶け込んでいるように感じました。「私もこういう看護がしたい」と思って、しもふり訪問看護ステーションに入りました。 ―初めて訪問看護ステーションで働くにあたって、不安はありませんでしたか? ありました。なんといっても、「一人で訪問する」ことへの不安が大きかったです。病院であれば、何かあっても同じ建物内ですぐに質問をしたり助けを呼びに行ったりできますが、訪問時はそうはいきません。一人で訪問して、きちんと利用者さんと信頼関係を築けるかどうかも不安でしたね。 オンライン同行では、音声や映像を通じて訪問の見守り。質問・相談も可能 ―実際に入職した後の初期研修の内容や、オンライン同行訪問サービスを始めたきっかけについて教えてください。 2022年の4月に入職し、最初は本部での座学研修と先輩訪問看護師の同行訪問研修がありました。同行訪問時に先輩に確認してもらいながら徐々にできることを増やし、OKが出たら一人で訪問する、という流れです。 オンライン同行訪問サービスについては、所長から「使ってみるか」という話がありました。そういったサービスがあることも初耳でしたが、興味があったので「やってみたい」と言いました。 ―オンライン同行訪問サービス利用時の流れについて教えてください。【オンライン同行訪問 当日の流れ】 最初にオンラインで同行していただく看護師さんとの顔合わせ面談があり、自己紹介や目指す看護師像の共有などをしました。 実際に同行訪問する際は、事前に情報共有のためのミーティングがあります。訪問時には、オンライン同行の看護師さんはイヤホンを通じて会話内容を聞いています。基本的にオンライン同行の看護師さんからこちらに話しかけることはありませんが、聞きたいことがある場合にはこちらから声をかけ、その場で相談することもできます。 訪問終了後は、10分~30分程度の振り返りミーティングがあります。一緒にアセスメントを振り返ってもらうほか、次回までに学んでおいたほうがよいこと、調べておいたほうがよいことなどもアドバイスいただきました。 ―オンライン同行訪問サービスを使用するとき、緊張しませんでしたか? 顔が見えない状態ですべての会話を聞かれているので、結構緊張しました(笑)。でも、それは最初だけでしたね。ミーティングを重ねていくうちに同行していただく看護師さんとの関係性ができていきますし、途中からはイヤホンがあっても意識せず、自然体で訪問できるようになりました。 ―ミーティングでは、文屋さんからはどういった質問・相談をされていたのでしょうか。 医療的な質問はもちろんのこと、私は利用者さんやそのご家族を深く理解した上でケアをしたいという想いが強いので、コミュニケーションの取り方や利用者さんに合わせた対応についての相談もしていました。 例えば、「利用者さんに確認したいことがあるけれど、デリケートな話題なのでご家族の前では聞きづらい」と悩んだときには、「シャワー時に確認してみたらどうですか?」とアドバイスをもらいました。また、「教科書通りなら杖を使うほうがいいかもしれないけれど、Aさんの場合は配偶者の方と寄り添って歩くほうが幸せなのでは」といった相談をしたこともあります。 安心感や自信、スタッフ間の連携につながった ―オンライン同行訪問サービスについて、訪問時に感じたメリットを教えてください。 なんといっても、安心感が一番大きいですね。例えば訪問時にサチュレーション(SPo2)が低い利用者さんがいたとき、入職したての時期だったので、普段とは違う様子に焦ってしまいました。でも、オンライン同行訪問サービスの看護師さんにイヤホン越しに報告できたので、その場ですぐに対応方法に間違いがないことを確認でき、その後の報告に関する指示までもらえて、ホッとしたことを覚えています。オンライン同行のおかげで「一人訪問」の不安が軽減しました。 また、自分の看護に対しての自信もつきます。振り返りミーティングで、「この判断がよかったです」「このコミュニケーションの取り方がよかったです」という前向きなフィードバックも毎回いただけたので、「このまま前に進んでいっていいんだな」と思えました。不安軽減や自信につながるので、新任訪問看護師さんたちにはおすすめです。 ―事業所内のスタッフ同士が連携するきっかけにもなったと伺っています。 はい。もともと事業所内は相談しやすい環境なのですが、オンライン同行の看護師さんから確認されたことをきっかけに、「しもふり訪問看護ステーションとしてどういう対応をすべきか」を所長に確認する機会が複数ありました。事業所の方針・ルールの理解につながり、よかったと思っています。 右からしもふり訪問看護ステーション 所長/管理者の木下さん、運営会社ユニメコム代表取締役の木和田さん、文屋さん また、しもふり訪問看護ステーションにはリハビリスタッフもいるのですが、「〇〇についてはリハビリスタッフさんに聞いてみては」といったアドバイスをいただき、リハビリスタッフと連携する際のヒントになりました。しっかりした連携により、排便コントロールがうまくいった利用者さんがいらして、スタッフみんなで喜んだこともあります。 ―文屋さんはまもなく訪問看護師2年目を迎えますが、最後に今後の目標や取り組んでいきたいことを教えてください。 オンライン同行訪問サービスでのアドバイスを通じて初めて知ったことも多く、勉強すべきことがたくさんあると思っています。例えば、家族看護についてもっと理解していきたいですし、排便・排泄コントロールも奥が深いので、もっと知識や経験を積みたいですね。これからも利用者さんやご家族との関係性を大事にしながら、看護師として成長していきたいと思っています。 ―ありがとうございました。 編集・執筆:NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *  ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(2)ベッド上生活~
ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(2)ベッド上生活~
コラム
2023年1月31日
2023年1月31日

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~下肢(2)ベッド上生活~

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介する「実用編」の第4弾。前半では、前回(「実用編」下肢(1))から引き続き、足の筋力低下に伴って移動方法が変わることに対する工夫をご紹介します。後半は、基本的にはベッド上で生活するようになってから快適に過ごすための工夫を紹介します。ALSはもちろん、ほかの疾患等のかたたちの生活にも参考にしてください。 トイレでの排泄を続けたい 立ち上がるのが難しくなっていちばん困るのが、トイレの問題です。自分のトイレ事情を公表するのは抵抗があることなので、患者側からの工夫が発信されることは、私の知るかぎりありませんでした。 しかし、トイレで排泄できるか、ベッド上でオムツや差し込み式便器で排泄するかによって、QOLがかなり変わってきます。私はどうしてもベッド上で排泄したくなかったので、いろいろ調べましたが、どこにもよさそうな方法は見つけられませんでした。立ち上がってトイレに移乗することができなければ、さらに、トイレで座る姿勢を保持できなければ、ベッド上で排泄する方法しかないようでした。 そんななかで考えついたのが、前回紹介した電動介護リフトとポータブルトイレを組み合わせた方法です。具体的な方法をご紹介したいと思います。 リフトとポータブルトイレを使って排泄する方法 (1)ポータブルトイレをベッドの側にセットする(2)ベッドの上で、お尻部分が空いている脚分離型のリフト用スリングシートを体の下に敷き込み、ズボンを脱ぐ(3)電動介護リフトを使ってポータブルトイレに移動する(後述)(4)ポータブルトイレに座り(後述)、用を足す(5)排泄が終わったら、そのまま洗浄してベッドに戻る トイレまでの移動時のポイント (3)の移動時、私は頭部を自分の力で保持できないため、頸部カラーを装着しています。 私はこれを装着し、人工呼吸器をつけたままリフトで体を吊り上げて、トイレに移動しています。 トイレに移動した後のポイント (4)のトイレに移動したとき、一つめのポイントは便座に完全に座らないことです。 完全に座ってしまうと、自分の力で体幹を支えないといけませんが、この段階の多くのALS患者さんはそれができません。なので、体幹の保持はリフト用シートに任せて、リフトに吊られたまま、お尻をわずかに便座にのせて、全体のバランスをとります。 ここでもう一つのポイントが、トイレの前に足台を置くことです。足を足台にのせることで、足の重みを分散させることができますし、和式便器に座っているような姿勢になるため、腹圧がかかりやすくなります。 ALS患者さんは、腹筋もだんだんと弱くなり、排泄時にいきめなくなってくるので、自然に腹圧がかかるこの姿勢はとても合理的です。 今でもこの方法で排泄できています 私は自分の力でまったく腹圧がかけられなくなった今でも、下剤の内服や座剤で調整しながら、この方法でトイレでの排泄ができています。ベッド上で排泄することに抵抗がある人はご検討ください。 ただ、誰もが簡単にできる方法ではありません。試される際は、必ず主治医の同意のもと、慣れるまでは看護師やリハビリテーションスタッフの立ち会いの上で行なってください。 ベッド上の生活を快適に過ごす工夫 ベッド上で入浴できる浴槽 トイレの問題とともに、歩けなくなって困るのが入浴の問題です。 要介護度にもよりますが、週1~2回程度は訪問入浴サービス(専門のスタッフが自宅まで浴槽を持ってきて、入浴介助を行なってくれるサービス)を使って入浴もできます。ただ、毎日でもお風呂に入りたい人には工夫が必要です。 電動介護リフトを風呂場につけることもできますが、私の家では構造的に大規模な工事になってしまうのと、家族が使用するスペースが狭くなってしまうため、リフトの設置はやめました。車いすに移乗できる間は、風呂用の車いすに乗って風呂場まで行き、車いすごとシャワーを浴びていました。 体幹の保持が難しくなったり、人工呼吸器が外せなくなったりしたら、この方法も難しくなります。そんなとき、ビニールプールのような簡易浴槽を使用して、ベッド上で入浴できる方法を見つけました。 まず、ベッドの上に寝ている状態で、浴槽をシーツのように体の下に敷き込んでから、空気を入れて膨らませます。私が使っているものには、強力なハンドブロア(送風機)が付いていました。この方法だとベッドに寝たまま入浴ができます。人によっては頭が前屈しすぎてつらい場合があり、そのときは肩甲骨の下にバスピローを入れて高さを調節します。 注水・排水は専用のポンプも使えますし、私は浴室からホースで直接ベッド上の浴槽に注水し、入浴後は、付属の排水ホースを浴室まで引っ張っていき、ベッドと浴室の高低差を使って排水しています。 背中に熱がこもるのを防げる送風ファン付きマットレス ベッド上で生活しているALS患者さんの多くは、自分の力では姿勢を変えられません。もちろん介助者の力を借りて適宜体位変換をしてもらうのが好ましいのですが、それでも長時間同じ姿勢でいることが多くなります。 そうなると不快なのが、特に夏場なんかには背中に熱がこもってしまうことです。他の部分には汗をかいていないのに、背中だけ汗がびっしょりなんてこともしばしばあります。 そんなときに、送風ファン付きマットレスが便利です。いくつか種類があるのですが、私は「風のマットレス ドライブリーゼ」という商品を使っています。これは、薄いメッシュ状のマットレスの下部に送風機が付いており、常にマットレスの内部に空気が循環するしくみになっていて、背中に熱がこもるのを防いでくれます。 空気を循環させるため、マットレスがつぶれすぎないように少し硬めに作られているので、人によっては硬く感じるかもしれません。その場合は、柔らかいマットレスの上に敷いて使うのがおすすめです。私は、空気で硬さを調節できるマットレス(「ロホ・マットレス」を使っています)を柔らかめにして敷いておき、この上にドライブリーゼを敷いています。電動ベッドでも使えています。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:株式会社アテックス     アビリティーズ・ケアネット株式会社 [編集部注]記事内容は執筆者個人の見解・経験です。ロホ・マットレスの上に他のマットレスを置いて使用することは、メーカーが推奨する使用方法ではありません。

成年後見制度とは―認知症の利用者さんから「通帳を預かって」と言われたら?
成年後見制度とは―認知症の利用者さんから「通帳を預かって」と言われたら?
特集
2023年1月17日
2023年1月17日

成年後見制度とは―認知症の利用者さんから「通帳を預かって」と言われたら?

この連載では、訪問看護師のみなさんが現場で遭遇しそうなケースをもとに、利用者さんからの相談内容に関連する法律や制度についてわかりやすく解説します。法律に苦手意識がある方でも自信をもって対応できるよう、役立つ知識をお届けします。今回のテーマは財産管理にかかわる「成年後見制度」です。 事例 軽度認知症の利用者Aさん。一人暮らしを続けてきましたが、最近は物忘れが目立つようになり、ガスコンロをつけっぱなしにするなど「危なっかしい」と周囲は感じています。 そんな中、訪問看護師のBさんはAさんから次のように依頼されました。「私は子どもも連れ合いもいないし、きょうだいは疎遠だからいざというとき誰にも頼ることができないの。この前テレビで、私のような独り身の家に強盗が押し入ったというニュースを見て、急に怖くなって。あなたなら信用できるから、私の通帳を預かってくれないかしら。もちろんお礼はします。」 「Aさんと信頼関係が築けていたんだ」とうれしくなった反面、さて困ったことになったと思うBさん。利用契約上かかわっているに過ぎない一看護師ですから、そこまでできないことは確かです。通帳のお預かりはお断りしなければなりませんが、Aさんから「じゃあ、私はどうすればいいの?」と尋ねられたとき、Bさんは何と答えればよいでしょうか? 回答例 「成年後見制度という制度があって、そこで通帳の管理をしてくれるそうですよ。一度、法律の専門家に相談されるのはいかがでしょうか。難しいようでしたら、私からケアマネジャーや地域包括支援センターの人におつなぎしますね。」 通帳をお預かりすることは財産管理につながります。Aさんのように、認知症で判断力の低下が見られ、財産管理に不安がある場合、専門的なサポートが必要でしょう。このようなときに利用できる制度として「成年後見制度」があります。 成年後見制度とは 成年後見制度(略称「後見制度」)とは、認知症や精神障害などで判断力が不十分な人のために、財産の管理や収入・支出の管理、また介護サービスの利用契約を締結するといった生活環境を整える行為を代わりに行ってくれる、後見人をつける制度です(図1)。 後見人は、本人の財産の一切を預かり収入や支出を管理しますが、いわゆる「お小遣い」として自由に使えるお金を本人に渡すこともあります。実際にいくらを渡すか、また本人の希望にどこまで応じるかについては基本的に後見人の裁量に委ねられています。そのため、本人の購入希望を後見人が断り、トラブルになるケースもあります。 図1 成年後見制度の全体像 図1に示すとおり、成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。順に説明していきましょう。 法定後見 法定後見とは、すでに判断力が不十分な人に家庭裁判所が後見人をつける制度です。 法定後見は、さらに3つの類型に分かれています。認知症が重い方から順に、後見、保佐、補助とランクが用意されているイメージです(図1)。 1.後見認知症や精神障害などにより判断力が欠けている人について本人や親族らの申し立てによって、家庭裁判所が「後見開始の審判」をして、本人を援助する人として後見人を選任する制度です。後見人は、本人に代わって契約を結んだり(法律行為の代理)、本人の契約を取り消したりすることができる(法律行為の取消)など、幅広い権限を持ちます。 2.保佐判断力が著しく不十分な人について、家庭裁判所が保佐人を選任する制度です。保佐人は、本人が不動産の売却時に一定の重要な行為をすることに同意したり(一定の行為の同意)、本人が保佐人の同意を得ずにしてしまった行為を取り消したりすること(一定の行為の取消)を通じて、本人の財産を守ります。 3.補助一人で判断する能力が不十分な人について、家庭裁判所が本人を援助する人として補助人を選任する制度です。保佐人より預かる権限は限られます。 任意後見 任意後見は、判断力が十分あるときに、将来自分の後見人になる人と契約を交わす制度です。 任意後見の場合、法定後見のような分類はありません。また、本人や親族らが家庭裁判所に申し立てる必要がある法定後見と違い、将来自分の後見人になってもらう人と契約(任意後見契約)を交わします。そして、いざ判断力が十分でなくなった時点で、後見人になる人が家庭裁判所に申告をすることによりスタートします。 後見人には報酬を支払うことも 後見人の実務に対して報酬を支払うことがあります。法定後見の場合、後見人からの申し立てによって家庭裁判所が報酬額を決定します。報酬額は、被後見人の財産の規模や後見人の実務の内容をもとに妥当な金額が算定されます。一概には言えませんが、2万円程度です。 任意後見では、被後見人本人と契約を交わすため自由に報酬額を決められます。とはいえ、法定後見の金額にならうことが多く、家族が後見人となる場合、無償であることも少なくないようです。 後見制度を利用するときのメリットとデメリットは? メリットとデメリットは、法定後見か任意後見かで変わってきます。 法定後見の場合、昔からきょうだい仲が悪い、親族間で介護方針に争いがあるなど、トラブルを抱えているときに有効です。家庭裁判所に申し立てをすれば、裁判所が自動的に後見人を選任してくれるからです。その場合は通常、家庭裁判所に登録している第三者の弁護士や司法書士などが選ばれます。 見方を変えれば、家庭裁判所が独断で赤の他人を後見人に据えてしまうリスクがあるといえます。 任意後見は、親族はもちろん、NPO法人のような任意後見をサービスとして提供している団体とも契約することができます。「この人に頼みたい」という意向がはっきりしている場合、確実にその人が後見人になれる任意後見のルートがよいでしょう。一方、先にも述べたように任意後見の報酬は自由であるため、高額な金額を要求するような悪質な団体に引っかからないよう注意が必要です。 まずはオフィシャルな組織に相談してみることをすすめる 事例のAさんの場合、看護師に相談するくらいですから、身内に頼れる人がおらず、誰に相談すればよいかもわからない状況なのでしょう。後見制度については無料で相談に応じてくれる機関がたくさんありますが、まずは司法書士会や社会福祉士会などオフィシャルな組織が行っている相談を受けることがおすすめです。 ▼東京司法書士会ホームページhttps://www.tokyokai.jp/consult/free_consult.html ▼日本社会福祉士会「権利擁護センターぱあとなあ」ホームページhttps://www.jacsw.or.jp/citizens/seinenkoken/shokai.html 認知症や判断力の程度にもよりますが、「他人に自分の財産管理を任せる」というざっくりとした意味を理解できるようでしたら、任意後見の選択肢も考えられます。例えば、事例のBさんのように信頼できる人が身近にいて「その人にお願いしたい」ということであれば任意後見の方法によることで通帳管理を任せることができます。 法定後見では、判断力の低下が重度でなければ、補助人か保佐人がつく可能性が高いです。権限が限られますが、要望すれば通帳管理も任せることができます。 「いきなり専門家に相談するのは勇気がいる」ということであれば、担当のケアマネジャー、あるいは地域包括支援センターに「後見制度につなげるような支援をしてほしい」と申し送ればよいでしょう。 いずれにせよ、言われたとおり通帳を預かってしまうことは、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあり、厳禁です。 執筆 外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 記事編集:株式会社照林社 【参考】〇大阪家庭裁判所他「成年後見人等の報酬額のめやす」 https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/file/f3104.pdf 2022/12/7閲覧

ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(1)~
ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(1)~
コラム
2022年12月27日
2022年12月27日

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~下肢(1)~

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は実用編の第3弾。梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介します。ALSはもちろん、他の疾患等をもつ方たちの生活にも参考にしてください。 下肢の症状によって何に困るか ALSの初発症状で、上肢の次に多いのが、下肢の症状です。下肢の筋力が低下すると、足が上がりづらくなり、歩きにくくなった・つまずきやすくなった・よく転ぶようになった、などの症状が出ます。また、人によっては頻回に足がつるようになり、痛みを伴うこともあります。 足を思うように動かせないし、だるい、疲れる。それでも「歩くのをやめてしまったら、今後ずっと車いすでの生活を送らなければならない」そう考えると、歩くのを諦める決断をするのには相当な覚悟がいるでしょう。 しかし、転ぶようになってしまったら、歩くことが重大な事故につながりかねません。私もギリギリまで自分の足で歩きたくて、頑張っていましたが、転んだときに受け身がとれず、そのまま顔面から倒れて眉間をパックリ切った経験があります。それ以来、歩かなくなりましたが、今思えばもっと早く歩くのをやめておけばよかったです。 車いすの選びかた 歩けなくなってからの移動手段としては、屋外では車いすの一択でしょう。車いすは、手動式のものから、電動式のもの、リクライニング機能がついておりフルフラット近くまで倒せるものなど、さまざまなものがあります。 手動式の車いすは、人に押してもらうぶんにはよいのですが、自分の力で動かそうとすると手の筋力をかなり使うので、ALS患者さんには不向きかもしれません。なので、手が少しでも動かせる間は、電動式の車いすを使う。操縦が難しくなってきたり、姿勢の保持がつらくなってきたりしたときに、リクライニング機能付きの車いすに乗り替えていくのがよいのではないでしょうか。 電動式の車いすには、ヘッドレストが付いていないものが多いのですが、ヘッドレストを後付けすることもできます。頭部の保持がつらくなってきたら、早めに付けることがおすすめです。 車いすクッションの選びかた 車いすには長時間座っています。それを考えると、車いすクッションの選択もとても重要です。 筋力が残っている時期は硬さがあるタイプを 立ち上がりや、座りなおしができる間は、少し硬さのあるもののほうがよいと思います。柔らかすぎるものは、お尻が沈んでしまい、立ち上がるときに足に力が入りにくくなってしまいます。 私の場合は、いろいろ試した結果、「アウルREHA 3Dジャスト」(加地)というクッションがよかったです。 これは適度な硬さがあり、3D形状が体にフィットして、姿勢の保持をサポートしてくれるため、座っているのも立ち上がるのも楽でした。 立ち上がりが難しくなったら体圧分散できるタイプを 足に力が入らなくなり、介助者の力を借りても立ち上がりや座り直しができなくなったら、柔らかくて体圧分散機能の高いものがよいと思います。長時間同じ体勢でもお尻が痛くなりにくいです。 私は「ロホ・クァドトロセレクト」(アビリティーズ・ケアネット)のハイタイプを愛用しています。 屋内のちょっとした移動に適したいす 屋外での移動は車いすがよいのですが、車いすだとサイズが大きく小回りも利きにくいので、自宅内でのちょっとした移動には不便なことがあります。 そんなときに重宝したのが、「ユニ21EL電動・低床」(アビリティーズ・ケアネット)です。 このいすは、車いすよりも小回りが利き、座ったまま足こぎで移動できます。歩くことは難しくなったが、まだ足こぎはできる程度の筋力が残っている間はとても便利でした。電動で座面を昇降できるため(左右両方の手すりの下にボタンがある)、足こぎするときは座面を低くし、立ち上がるときは座面を高くしてブレーキで後輪をロックすることで、立ち上がりも安全に楽にできます。 立ち上がりやすく快適なソファ 日中ベッド以外で過ごすときにとても快適だったのが、起立補助機能がついた電動リクライニングソファでした。 私は、歩けなくなっても、いすから立ち上がる程度の筋力がまだ残っている間は、ベッドではなく、できるだけ車いすやソファで過ごしたいと思っていました。 そんなときに探し出したのが、起立補助機能つき電動リクライニングソファです。このソファは電動で座面後部がせり上がるため、立ち上がるのがとても楽でした。また、フルフラット近くまで倒すこともできるので、休みたいときは楽な姿勢で休むことができます。 このような機能がついているソファが、福祉用具店だけではなく、大型家具店でも売られていますので、興味のあるかたはぜひ調べてみてください。諸事情により商品名は割愛しますが、私は大型家具店の5万円台のものを使っていました。 立ち上がりが難しくなったら 立ち上がることが難しくなり、ベッドから車いすへ移動しにくくなったときにとても便利なのが、電動介護リフトです。力がない介助者でも、一人で移動介助を行うことができます。 スリングシートの選びかた 電動リフトでは、体の下にリフト用のスリングシートを敷き込んで、スリングシートごと体を包み込んでハンモックのような状態で体をリフトで吊り上げて移動します。 スリングシートはいろいろ種類がありますが、ALS患者さんは徐々に頭を支える筋力も落ちてきて、自分の力では頭を支えられなくなってしまいます。なので、頭まですっぽり覆えるタイプのものをおすすめします。 リフトの種類 リフトには床走行式と天井走行式の二種類あります。 床走行式は置くだけなので設置は簡易ですが、大きいので置くスペースが必要なのと、高さがあまり出せないという難点があります。 一方天井走行式は、設置には工事が必要ですが、スペースを広く活用できて、天井高に応じて高さがかなり出せるので移動がスムーズにできます(工事が不要なレール組み立て式もあります)。 どちらもメリット・デメリットがありますので、ご家庭の状況に応じて検討していただければよいかと思います。ちなみに、私は天井走行式を使っています。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:株式会社加地     アビリティーズ・ケアネット株式会社

消毒による手荒れや室内の乾燥...冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】
消毒による手荒れや室内の乾燥...冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】
特集
2022年12月20日
2022年12月20日

消毒による手荒れや室内の乾燥…冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】

ただでさえ冬は乾燥する季節。頻繁に手洗いや消毒を繰り返す看護師は、特に乾燥による肌荒れに悩まされます。訪問看護師の場合、利用者さんのお宅の乾燥が気になることも。皆さんはどのような乾燥対策をしているのでしょうか? 訪問看護師22人に実施したアンケート結果をご紹介します。 アンケート実施期間:2022年10月25日~11月22日 全員が手指の乾燥が気になっているという結果に 冬場、訪問看護の業務中に肌の乾燥が気になることがあるかどうか調査したところ、全員「ある」と回答。また、全員「手指の乾燥が気になる」という結果でした。「すね」「かかと」が気になるという人も半数程度います。 業務のなかでも、やはり手洗いや消毒をしているときに乾燥が気になるとのこと。入浴介助や自転車・自動車の移動時に気になるという人も数名いました。 乾燥による肌荒れ対策。やはりハンドクリーム&リップクリームの保有者多し では、皆さんはどのような乾燥対策をしているのでしょうか。 約90%の人がハンドクリームを使用していると回答。リップクリーム、ボディクリームも人気でした。 具体的な対策内容について、以下のような声が聞かれました。 「乾燥肌の症状が強くなる前から保湿対策を行います。業務で自転車に乗るときは、マフラーを巻いたり上着の襟を立てたりして頬や口唇に外気が当たらないようにするほか、手袋も着用します 」(50代) 「水分を少なくとも1日1リットルは必ず摂りますね。日頃使用するハンドローション、クリームはベタつきの少ないものをこまめにつけます。勤務中の顔の乾燥に対してはシアバターをつけていて、ローション、クリーム類は無香料を使っています」 (50代) 症状が出る前の早めの乾燥対策や、業務に影響が出にくい保湿剤のセレクトは参考になります。その他、加湿器を使用している人や、「入浴後の保湿を大事にしている」という人も複数いました。 使用している保湿剤としては、・ヘパリン類似物質クリーム・ミネラルオイル・ワセリン等が主成分のクリーム・ひび・あかぎれに悩む人用のビタミン系クリームなどが人気でした。 一方で、以下のような声も。 「できる限り移動中にハンドクリームを塗ろうと思いますが、結局朝一しかできません……」(50代) バタバタと訪問看護業務をこなしているうちに、自分の乾燥対策が後回しになってしまうケースは多いでしょう。回答者のなかには「消毒と同時に保湿できるハンドクリームを使っている」という人もいました。時間がない人は、こうした製品を使用して「消毒時に保湿」する流れを作ってしまうのもひとつの手かもしれません。 訪問看護の利用者さん宅では「お湯・お水をはる」「加湿器の設置」を提案 では、利用者さんの乾燥対策についてはどうでしょうか。回答者のうち95%以上が、「利用者さん宅で乾燥が気になることがある」と答えています。病棟とは異なり、利用者さん宅の温度・湿度環境は簡単に調整できませんが、室内が乾燥していると利用者さんの肌トラブルの原因になってしまいます。 乾燥が気になったとき、どのような提案をしているのか聞いてみました。 「乾燥が気になっても提案しない」という人はゼロ。皆さん何らかの提案をしているようです。「洗面器・バケツ等にお湯・お水をはる」「加湿器の購入・設置」が同点1位という結果でした。 ただし、加湿器については賛否両論。カビを懸念する声が多く聞かれました。 「加湿器は、手入れがされずカビの繁殖に繋がるのですすめません。濡れたタオルを干す、霧吹きで加湿することをすすめています」 (50代) 「ペットボトル加湿器のような手軽で安価なものを提案します。その際、カビ対策についても言及します」 (30代) 「タオルや洗濯物を室内に干すことを提案するほか、カビが発生しないタイプの簡便な加湿製品を提案します。また、自分たちが訪問中、安全を確保したうえで電気ポットの蓋を開けて蒸気をあげることもあります」 (50代) そもそも加湿器の提案を避けている人もいれば、カビが繁殖しないタイプの加湿器・加湿製品を提案している人も。手入れが行き届かないことを考慮して、利用者さんが安全に少ない負担で続けられる加湿方法をアドバイスしているようです。 「提案してみよう」「実践してみよう」と思えるものがあれば、ぜひ明日からの訪問看護にいかしてみてください。 記事編集:NsPace編集部

「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!
「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!
コラム
2022年11月29日
2022年11月29日

「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、嚥下機能が低下しても誤嚥を起こさなくする、誤嚥防止術のお話です。 誤嚥防止術という選択肢 ALS患者さんで、気管切開は受けても、誤嚥防止術まで受ける人はかなり少ないのが現実です。 気管切開をするかどうかギリギリまで悩んで、結果的に呼吸状態が悪化して緊急処置として気管切開をする人もいます。また気管切開をするかどうかで頭がいっぱいで、その先にある誤嚥防止術のことまで考えられない人や、そもそもその選択肢を知らない人もいます。 気管切開をして人工呼吸器をつけて生きていくと決めた人には、誤嚥防止術を受ける選択肢もあることを、ぜひ知っておいてほしいと思います。 気管切開をするとどうなる? 気管切開という手術は、文字どおり気管を切開して、気管と外部(皮膚)を交通する孔を開ける方法です。その孔に外部からカニューレという管を入れて、そこに人工呼吸器をつないで呼吸をサポートしてもらいます。 この方法で安定した呼吸状態が確保されます。カニューレには、空気で膨らむ風船のようなもの(カフ)が付いています。カフを膨らませることで、カニューレを気管内に固定することができ、同時に、喉から気管内に垂れ込んでくる唾液をせき止める働きもします。しかし、垂れ込みを完全に予防することはできず、カフの脇から垂れ込んだ唾液は適宜吸引しないといけません。吸引しきれず肺の奥に落ちてしまった唾液は、誤嚥性肺炎の原因になってしまいます。 唾液の垂れ込みを防ぐ誤嚥防止術 唾液の垂れ込みを完全に防ぐために気道の一部を閉鎖する手術が、「誤嚥防止術」です。喉頭を温存するか・気道をどの部分で閉鎖するか(声門上か、声門部か、声門下か)などによって、いろいろな術式があります。 以上のように、さまざまな術式がありますので、誤嚥防止術を検討される人はぜひ主治医と相談してみてください。 誤嚥防止術のメリットとデメリット 私は将来的に誤嚥防止術を受けると決めており、手術や入院の回数を減らすため、気管切開+声門閉鎖術を同時にしました。 嚥下機能・発声機能が残っている人や、いきなり誤嚥防止術を受けることに抵抗がある人は、呼吸状態を安定させる目的で、まずは気管切開のみで様子をみる。その後嚥下機能が低下して、唾液の垂れ込みが多くなって気管吸引の回数が増えたり、誤嚥性肺炎を起こしたりがあれば、改めて誤嚥防止術を行うという方法もあります。 誤嚥防止術を行うメリット・気管吸引の回数が減るので、本人・介助者ともに負担が軽減される・誤嚥性肺炎を起こすリスクがなくなる・誤嚥をするリスクがなくなるので、多少の嚥下機能が残っていれば、食べかたの工夫(後述)しだいで長期間食事を楽しめる誤嚥防止術を行うデメリット・発声を失う・気管切開のみ受けた人は、もう一度入院して手術を受けなければならない・手術をできる医師と施設が少ない 食べかたの工夫 以下は、私が行なっている方法です。個々の嚥下機能に依存しますので、すべての人ができるわけではありませんので、お試しする際は必ず主治医の同意のもと、言語聴覚士(ST)さんとともに行なってください。 嚥下の工夫 嚥下機能が低下していて気管切開(誤嚥防止術)をしていない場合は、誤嚥を予防するために顎を引くようにして嚥下するのがよいです。頸部を後屈した姿勢で嚥下しようとすると誤嚥しやすくなるので、注意が必要です。 誤嚥防止術を受けている場合は誤嚥をする心配がないので、逆に、頸部を後屈したほうが飲み込みやすいです。頸部を後屈した姿勢で、食べ物を飲み込むタイミングで介助者に顎を上げてもらい、嚥下反射を促してもらいながら、重力を利用して食事を喉の奥に落とすイメージで嚥下します。表現が悪いかもしれないですが、鵜飼いの鵜のイメージです。私はベッドの角度を40度まで上げて、枕を薄くして首を後屈した状態で食事をとるようにしています。 食形態の工夫 残存する嚥下機能にもよりますが、一般的には、食事の形態もできるかぎりペースト状やトロミ食のほうが、嚥下はしやすくなります。粒状のものは、喉の奥に引っかかる感じがして嚥下しにくく、私の場合は喉の奥を綿棒でつつかれた感じがして、嘔吐反射を起こします。 私は、固形物を食べたいときは、ガーゼに包んで奥歯で咀嚼し、食事の味だけを楽しんでいます。味を搾り出した後はガーゼごと取り出します。この方法はかなりおすすめで、果物など汁気の多い食べ物はもちろん、焼肉やお刺身から、ラーメンなどの麺類まで、幅広く楽しむことができます。 ちなみに私は、焼肉をガーゼに包んで奥歯で咀嚼して味を絞り出した後に、味付けした生卵とお粥を食べて、「すき焼き風」にして楽しむことが多いです。 液体の飲みかたの工夫 飲み物などの液体は、嚥下機能が弱くても重力を利用して比較的簡単に摂取することができます。ただ、コツがいります。ふつうのコップで飲もうとすると口の脇からこぼれてしまいます。 上述した食事のときの体勢をとり、介助者に顎を上げてもらい後屈した姿勢を保ちながら、舌の真ん中~やや奥に飲み物を入れるとこぼさずにうまく飲めます。 私は30mLのカテーテルチップ型シリンジに飲み物を入れて、口に差し込んで飲んでいます。この方法ですと、ちょうどシリンジの先端が舌の真ん中あたりにきます。目盛が付いているため一回に入れる量も調整しやすく、おすすめです。 味覚変化をふまえた介助の工夫 誤嚥防止術をしてもしなくても、気管切開をして人工呼吸器を装着すれば、鼻腔に空気は通らなくなるため、匂いはほとんどわからなくなります。 また私の場合は味覚も変化しました。甘味・塩味は変わりませんでしたが、苦味・酸味・辛味などは強く感じるようになりました。特に苦味はかなり強く、大好きだったコーヒーやビールは飲めなくなりました(人によると思いますが)。 ちなみに、甘味・塩味は舌先で感じるので、介助者には舌の手前~真ん中に食べ物をのせるように食事介助してもらうと、より味を感じやすくなると思います。 以上、私が思いつくかぎりのメリット・デメリットを書いてみました。誤嚥防止術を行うかどうかの参考にしていただけたら幸いです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇荻野美恵子ほか編.『神経疾患の緩和ケア』東京,南山堂,2019,364p.

【多職種連携】理学療法士が訪問看護でヒヤッとしたこと4選
【多職種連携】理学療法士が訪問看護でヒヤッとしたこと4選
特集
2022年11月22日
2022年11月22日

【多職種連携】理学療法士が訪問看護でヒヤッとしたこと4選

訪問看護の現場は病院やクリニックと全く異なる環境ですが、ヒヤリハットは同じように存在します。例えば、訪問看護スタッフの人為的なミスや、利用者さんが起こす予想外のハプニングなどです。一方、利用者さん宅へ移動中に起こる交通ハプニングもあり、これは訪問看護ならではのものですね。 今回は理学療法士である私自身が、訪問看護で経験したハプニングについてご紹介します。 訪問看護ならではの車に関するトラブル 医療の現場ではなく「訪問」看護だからこそ起こり得るものとして、交通手段でのトラブルがあります。土地勘がない道路での運転は慣れが必要ですので、訪問看護の初めには道に迷うことが少なからずあります。 私が実際に経験したものとしては、道を間違えてしまい約束の時間に訪問予定のお宅にたどり着けなかったということがありました。可能であれば、訪問看護に伺う前にルートの確認ができればベストですね。しかし、時間に余裕を持って行動していれば多少の間違いがあっても大きな問題となることはなさそうです。 同じく車で起こり得るヒヤッとすることとして、スピード違反や事故といったものもあります。もちろん、訪問看護の車だからといって交通違反は見逃してもらえません。これらも時間に余裕を持って行うことが大切な予防策です。 また訪問看護の利用者さんのご自宅に十分な駐車スペースがない事もあります。路上に駐車する際は場所をご家族に確認することが必要ですね。実際に、利用者さんの家族に確認し忘れて、お隣の敷地に駐車してしまったために駐車違反の切符を取られた同僚もいました。近隣なら自転車など別の手段を使用するのも手段の一つですね。 パーキンソン病を患う利用者さんの薬が切れてヒヤリ 訪問看護の現場では時に日中独居の方もいらっしゃいます。 実際の例として夕方に家族が帰宅するまでの間、さまざまな職種が訪問をして投薬管理や日常生活のケアをしていた重度のパーキンソン病の利用者さんのお話をしたいと思います。その方は、娘さんと2人暮らしでしたが日中は独居であり、また薬のオンオフが激しく薬が切れてしまうと動作の最中でも動けなくなってしまう方でした。 1時間ごとにケアワーカー、ナースなどが訪問し、薬の飲み忘れがないかどうかも含めて管理していましたが、ある日訪問すると返答がなく、いつも座っている車椅子にもいません。呼びかけにも、声が出にくくなるというパーキンソン病のせいか返答もなく、少し開いているトイレを覗いたところ、車椅子に移る動作の途中転んだようで地面に倒れていました。薬の作用が切れてしまったらしく、立ち上がれなかったとのこと。病気によってはこのようなハプニングもあります。かかりつけ医に報告しましたが、診察の結果、骨折等もなくひと安心となりました。 利用者も介助者も転倒しそうになる場面がいっぱい これは訪問看護でも病院でも起こり得ることですが、トイレや車椅子への移乗もしくは歩行訓練中に、利用者さんがガクッと膝折れを起こしてしまいバランスを失うという事があります。実際に、脳梗塞後の高度な高次脳機能障害のある70歳女性のトイレ移乗動作を介助している時に、体が反り返ってガクッと膝折れを起こしてしまい、倒れこむようにベットに寝かせた経験がありヒヤッとしました。安全のために、歩行介助ベルトなどをつけて訓練を行いますが、不意に起こると対応が難しい場合もあります。やはり不測の事態にも備えて介助することが必要ですね。 また、訪問看護では靴を履きませんので、畳やフローリングなどで滑ることがあります。入浴現場での介助では、水滴や石鹸など一層滑りやすい要素もいっぱいです。余分な水分は十分に拭き取り、あらかじめシミュレーションを行って予防策を練ることが大切です。 歩行訓練中、床に落ちている内服薬を発見 訪問看護を受けている利用者さんの中には、年老いた配偶者が介護をしている老々介護の場合もたくさんあります。ご夫婦ともに軽度の認知症があると言った場合には、薬の内服に関することなどでもヒヤッとすることがあります。 実際の現場で起こった話として、日中はご高齢のご夫婦のみとなる利用者さんの自宅内で歩行訓練中、ベッドの下から内服薬が落ちているのを発見したことがあります。ご夫婦ともに軽度の認知症があり、落ちていた内服薬は、錠剤のみになっているためにどのような薬効のものなのかわからず、またいつに落としたものなのか、飲ませてもいいものかわからずにヒヤッとしたことがあります。 幸い全てのお薬には、製薬会社のマークと番号などが記載されているため、薬剤師さんに問い合わせたところ、胃薬であることがわかって飲まなくてもいいということになりました。 しかし、様々な病気を持ち合わせている可能性がある高齢者の場合には、循環器系の大切なお薬が含まれている場合もあり、飲まないと困るということもありますので、大切なお薬に関する知識も大切です。また、このような場合にはしっかりと報告し、専門家の指示を仰ぎましょう。 隠さずに共有することが大切 おわりになりましたが、どんな仕事内容の現場であってもヒヤッとする場面は存在します。 訪問看護のスタッフが起こす人為的なものだけでなく、利用者さんが薬を落としたり無くしたり、利用者さんご自身が体のバランスを崩して転倒してしまうなど、避けられない事態によることもあります。 また、病院では起こり得ないような交通手段でのヒヤッとすることは、訪問看護ならではのものですね。 重要なのは、現場でのヒヤッとしたことを放置せずに他のスタッフなどと共有することです。隠さずに共有することは、大きな事故を防ぐことや同じような状況下で起こり得ることを予測して対応策を考えることができるという利点もあります。もちろん、ヒヤッとした時には慌てることがないように行動することが最も重要ですので、普段からパニックに陥らないように心がけたいものですね。 記事提供:株式会社3Sunny(スリーサニー)

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