疾患知識に関する記事

私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
コラム
2025年4月30日
2025年4月30日

私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です

「enjoy!ALS」の第2弾が始まりました!今回のシリーズでは、梶浦智嗣先生に寄せられた在宅療養に関する疑問や悩みをもとに、さまざまな疾患の方にも役立つ実践的な情報をお届けします。 再開!「enjoy!ALS 2」 皆さん、こんにちは。私は2021~2023年までの2年間、こちらで「enjoy!ALS」のタイトルでコラムの連載をしておりました。 ありがたいことに、連載が終了してからもたくさんの反響をいただきました。訪問看護師さんや訪問リハビリスタッフさん、在宅療養中のALS当事者の方やその介護士の方々から、「今このような状況なのですが、この場合どうすればよいでしょうか?」との質問が多く寄せられ、実際に家に来ていただいて説明したこともありました。質問の中には工夫次第で解決できるものも多くあり、似たような質問も少なくありませんでした。 いただいたご質問の一部をご紹介します。 【訪問看護師さん】・侵襲の少ない気管吸引や鼻・口吸引のコツ・安全な人工呼吸器のホースの固定方法 など【訪問リハビリスタッフさん】・体や胸郭(肺)の拘縮予防に関するリハビリテーションの工夫【ALS当事者】・安楽な体位(仰臥位や座位、側臥位)のとり方・身の回りに置く必要がある物品(人工呼吸器や吸引器、吸引カテーテルなど)の配置方法・最新のコミュニケーションツール(コミュニケーション方法全般)・ALSの最新の治療について など 実際の在宅療養の現場では、居住スペースの広さや環境は整っているか、ケアに必要な物品が充実しているか、介助者の人数は足りているか、当事者がどこまで積極的なケアの介入を望んでいるかなど、家庭ごとに状況が異なります。そのため、個々に合ったケアプランを立てていく必要があり、なかなか皆さんに共通して当てはまるよいケア方法を見つけていくのは難しいのが現状です。 ただ、そんな中でも皆さんが困っていることには似ているところも多くありました。そこで、ALSに限らず、在宅療養を必要としている、さまざまな疾患の皆さんにも応用できる内容を「enjoy!ALS 2」として、連載していく運びとなりました。 連載終了後の私の経過と現在の状況 はじめに、前回の連載が終了してからの2年間の私の経過と現在の状況を説明させていただきたいと思います。 体調面での大きな変化はなし すでに4年前くらいから全身の運動機能はほぼ全廃しておりましたので、ほとんど変わっていません。唯一自分の意思で動かせるわずかな嚥下機能と噛む力も、さほど変わらず残っていますので、工夫をした飲食方法(>>「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!参照)や歯を使ったタブレット端末の操作(今後の連載で詳しく書きます)は現在もできています。 呼吸機能は、毎日の呼吸リハビリテーション(こちらも今後の連載で詳しく書きます)のおかげで、気管切開を行い侵襲的人工呼吸器(TPPV)を着けた4年前と比べても全然変わっていません。(むしろ、呼吸器の設定は変えていないのに、座位での一回換気量は上がっているので、よくなってるともいえます!) ただ、まぶたを上げる力の低下(眼瞼下垂)と目を動かす力の低下は徐々に進んできています……。 仕事面では新しく始めたことも 約2年前より、訪問診療を行っている「さくらクリニック」の中野の本院と練馬の分院で皮膚科医として働くようになりました。私のように在宅療養を必要とする患者さんたちの主治医と情報を共有して連携しながら、皮膚病変の診療を行っています。 このような体で、どのように患者さんたちの診療しているのか、皆さん、想像できないと思います。参考までに、下記に実際のカルテの一部を載せておきます(図1)。 図1 実際のカルテ(一部) ODT:occlusive dressing technique ※カルテの掲載に関しては、本人・家族、関係者の了承を得ています。 その他、コラムの執筆を行ったり、医師向けのサイトで全科横断コンサルトドクターとしても活動しています。 * * * 以上のように、私の経過を書かせていただきましたが、客観的に見て、私のALSの進行スピードは特別速くもなく、遅くもなく、標準的な範囲だと思います。 たとえALSを発症して10年も経ち、運動機能がほぼ全廃し、声も出せず、人工呼吸器を装着していても、適切なリハビリテーションと、日々の生活の工夫次第で、今までとはまったく違う形で自分らしい充実した人生を見つけていけると私は信じています! ALSを知ってほしい:私の経験から伝えたいこと 今はまだ、日々の診療もコラムの執筆もすべて、歯のわずかな噛む力でタブレット端末を操作して行えています。しかし、ALSは進行性の病気であり、正直に言って、私もあとどのくらいの期間文字を打てるかは分かりません。 それでも、文字が打てるうちに、たとえALSと診断されたとしても「生きたい」と願う人が生きる希望を持てる世の中をつくりたいと考えています。私の10年間にわたる闘病生活の経験と医師としての知識を生かして、後に続く同じ病気の方々の生活が少しでも豊かになるよう、ALS当事者や支援者の皆さんにとって参考になる情報を具体的に、分かりやすく書いていこうと思っています。 そのためには、まず、ALS当事者や支援者の皆さんが、少しでもよいのでALSという病気・病態について理解していただくことが大切と感じています。どんなことができなくなり、何が最後までできるのかを、私なりに説明してから、冒頭でご紹介した皆さんからの質問に答えていく形でコラムを書いていきたいと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】
水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】
特集 会員限定
2025年4月30日
2025年4月30日

水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は水疱性類天疱瘡を取り上げます。これだけは知っておきたい基本的な知識をお伝えします。  本記事では基本的に日本皮膚科学会策定のガイドライン『類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン』に沿った記載をしておりますが、一部筆者の私見も含まれております。その点を踏まえてお読みいただければ幸いです。 水疱症 外傷、熱傷、虫刺され、接触皮膚炎などでも水疱は形成されますが、通常「水疱症」(すいほうしょう)という場合は自己免疫性または遺伝子の異常による先天性の特定の疾患を指します。後者の表皮水疱症という遺伝性の疾患はまれですのでここでは述べません。 自己免疫性水疱症には、表皮細胞間の接着構造に対して抗体をつくってしまう天疱瘡(てんぽうそう)群と、表皮と真皮の結合部位に対して抗体をつくる類天疱瘡(るいてんぽうそう)群があります。類天疱瘡群は類天疱瘡と後天性表皮水疱症に大別され、さらに類天疱瘡は水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)と粘膜類天疱瘡に分類されます(図1)。今回は頻度が高く問題になることが多いBPについて述べたいと思います。図1 水疱症の分類 高齢者に多い水疱性類天疱瘡(BP) BPは高齢者に多く、全国の患者数は、資料によって約7,000~8,000人と記載されている場合もあれば、約15,000~20,000人と記載されている場合もあり、正確には不明です。筆者の感覚では軽症の患者さんを含めればもっと多く、「それなりの規模の高齢者施設であれば、1人や2人の患者さんがいても不思議はない」という印象です1)。 神経疾患(脳梗塞、認知症、パーキンソン病など)との合併や悪性腫瘍との合併率が高いことも指摘されていますが、どちらも因果関係ははっきりしていません。後者に対しては、可能であれば侵襲のない範囲での検索を考慮してもよいでしょう。 自己抗体が基底膜を破壊しBPが発症 表皮と真皮は基底膜という構造で接着されています(図2)。BPでは、この接着に関与するタンパク質に対する自己抗体がつくられ、基底膜が破壊されることによって症状が発生します。基底膜を構成するタンパク質にはいくつかありますが、主なものはBP180とBP230です。それぞれに対する抗BP180抗体と抗BP230抗体が産生されます。 なお、天疱瘡群は、表皮または粘膜上皮の細胞を接着するタンパク質に対する自己抗体がつくられることによって生じます。 図2 表皮・真皮間の微細構造 典型的な症状は水疱とかゆみ 典型的な例では水疱が多数出現します(図3)。基底膜が破壊されると、表皮と真皮の間に隙間ができて水疱が生じます。表皮全体が水疱の「蓋」になるため水疱の膜は厚く、中には液体が充満してテンションが高くなることから「緊満性」水疱と呼ばれます。水疱が破れるとびらんになります。 図3 BPでみられるさまざまな水疱 A:緊満性水疱とびらんを認めます。B:浸潤のある紅斑局面があり、その中に小さい水疱や大きい緊満性水疱がみられます。C、D:緊満性水疱、びらん、痂皮などが多数みられ、皮膚の症状としては重症の例です。E:診察するタイミングにもよりますが、この例のように血痂(「けっか」と読む。血液が乾固した状態のもの)やびらんがメインで、緊満性水疱が見当たらない場合もあります。 一方で、先に述べた尋常性天疱瘡では水疱は表皮内に生じます。水疱の蓋が薄く、すぐにびらんになってしまいます(図4)。水疱の中に出血して血疱になったり、診察する時期によっては水疱がつぶれて乾燥していたり、痂皮になっている場合もあります(図5)。 BPはかゆみが強いことが多く(「痒みシュラン」2)の三ツ星です)、炎症も起こるため紅斑もみられます。しかし、はっきりした水疱がみられないこともあるため注意を要します。 今回は省略しますが、結膜や口腔内、性器などの粘膜に病変が出る例(粘膜類天疱瘡)や、水疱が目立たず結節を形成する例(結節性類天疱瘡)もあります。 図4 尋常性天疱瘡 水疱蓋が薄いため、すぐにびらんになってしまいます。 図5 血疱や血痂となった例 水疱内に出血して血疱となり、さらにそれが破れて乾燥し、血痂になったもの/なりつつある状態が混在しています。 鑑別に迷うことがあり、意外に多くみられる疾患がネコノミ刺症(ししょう)です(図6)。BPと同様に緊満性水疱となりますが、ノミが跳ぶ高さである足首や下腿に水疱が集中する、野良猫が周囲にいるなどのエピソードから鑑別します。難しい場合は抗体の検査も考慮します。 図6 ネコノミ刺症 BPの検査と診断 BPは血液検査、蛍光抗体、皮膚生検から診断を行います。 (1)血液検査 血液中の抗BP180抗体の有無を調べます。2018年から保険収載されるようになり、BPの診断の助けになっています。これに加えて白血球中の好酸球の割合が増加したり、IgEが上昇したりする場合もあるため参考にします。 いくつか、注意点があります。a)一定の割合で抗BP180抗体が検出されず、抗BP230抗体が陽性となる例がある臨床症状でどちらの抗体が出そうか区別できれば楽ですが、今のところはっきりしていません。b)抗BP180抗体と抗BP230抗体の両者ともに陽性になることもある最初から両方検査したいものですが、抗BP230抗体は保険収載されていないので、自費での検査になります。検査会社によっても異なりますが、8,000円程度の費用がかかることが多いです。c)当初陰性であった自己抗体が、その後陽性になることもある症状からBPを疑ったにもかかわらず、抗BP180抗体が陰性で、その後時間をおいた再検査で陽性になった例を多数経験しています。 (2)蛍光抗体 直接法皮膚生検を行い、病変部(ここでは基底膜部)に自己抗体である免疫グロブリン(や補体)が沈着しているかどうかを、蛍光標識抗体を用いて調べる検査です。 間接法患者さんの血清が別の皮膚組織に反応するかどうかを評価する方法です。 (3)皮膚生検 皮膚生検では、まずヘマトキシリン・エオジン法と呼ばれる通常の組織染色法を用いて検査します。表皮の下に水疱がみられ、真皮内の細胞浸潤も一般には強く、好酸球も混ざっています。皮膚生検が行えるようなら、できれば(2)で述べた蛍光抗体直接法も行いたいところですが、一般の検査会社では取り扱いが(おそらく)ありません。総合病院や大学病院の病理部門や研究室に依頼するしかないと思われます。在宅では生検を行うこと自体のハードルがやや高いので、行えない場合も多いです。 BPの診断3)は、症状、検査所見(病理組織学的診断と免疫学的診断)、鑑別診断の3点からなり、一定の基準を満たした場合に確定診断となります。 DPP-4阻害薬によるBP発症に注意 以前から降圧薬、利尿薬、抗生物質などの薬剤によりBPが発症することが指摘されていました。近年では、糖尿病治療に用いられるDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬内服中の患者さんにBPが多くみられることも観察されており、薬歴の聴取は重要です。DPP-4阻害薬内服中の患者さんにBPが発症した場合、内科主治医に連絡して薬剤変更の依頼をしましょう。 重症度はBPDAIを用いて評価 BPDAI(bullous pemphigoid disease area index、略称は「ビーピーダイ」と呼びます)という、BPの重症度を判定するための基準があります3)。(1)皮膚のびらん/水疱(2)皮膚の膨疹/紅斑(3)粘膜のびらん/水疱について、個数や大きさをもとに点数化します。(1)から(3)それぞれの合計スコアを算出して軽症・中等症・重症を判定し、3つのうち最も高い重症度を採用します。 治療はステロイド内服で自己抗体を抑制 重症度により治療方針が決定されます。BPDAIの採点はそれほど難しくないので、BPDAIを用いて軽症から重症までの分類を行います。 軽症の場合 ごく軽い場合はⅡ群(very strong)またはⅠ群(strongest)のステロイド外用で症状を抑えられることもありますが、一般的には内服治療を必要とします。ステロイド内服が著効しますが、プレドニゾロン1日20mg程度でコントロールできることが多いです。治療が長期にわたることが多いため、感染対策、胃粘膜保護、骨粗鬆症対策を同時に行います。 BPに対する特殊な治療として、テトラサイクリンとニコチン酸アミドの併用療法が奏効することがあります。比較的軽症である場合や合併症でステロイド内服が困難である場合などに選択されます。 中等症・重症の場合 多い量のステロイド内服(プレドニゾロン換算で1日30~60mg程度)や、状況により免疫抑制剤や血漿交換なども必要となる場合があります。在宅での治療は難しいかもしれません。 指定難病の医療費助成が受けられる 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)は2015年7月から難病指定を受けており、医療費が助成されます。助成を受けるには難病指定医による届け出が必要です。また、届け出る前に先に述べた確定診断を行わなくてはいけません。BPDAIを用いた評価で中等症以上が対象となります4)。 患部の清潔を保ち感染予防ケアを 皮膚病変が広範囲にあると患部を洗うことを躊躇する患者・介護者もいると思います。ですが、水疱内から出てきた血漿成分や血液などが皮膚に残っていると細菌増殖の温床になる可能性もあるため、清潔にすることが重要です。低刺激の洗浄剤をよく泡立てて、泡で洗い、やさしくていねいにすすぎます。入浴についてはこすらないようにすれば構いませんが、シャワーにとどめておいたほうが無難かもしれません。 また、わずかな外力で水疱形成を誘発することがあるため、絆創膏を直接貼るのは避けます。病変部はガーゼ(場合によっては非固着性のガーゼ)を当てて、ネットや包帯などで固定しましょう。二次感染予防のために清潔に保つことも必要です。  執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)袋秀平:水疱性類天疱瘡.Visual Dermatology 2020:19(12);1257-1259.2)塩原哲夫:痒みシュランとは…….Visual Dermatology 2003:2(9);873.3)類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会:類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン).日皮会誌 2017:127(7);1483-1521.4)厚生労働省:162類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む。) 指定難病の概要、診断基準等.https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001174368.pdf2024/12/13閲覧

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
特集
2025年4月22日
2025年4月22日

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?

ヒトメタニューモウイルス感染症は、乳幼児や高齢者を中心に発症しやすい呼吸器感染症の1つです。症状はRSウイルス感染症とよく似ており、発熱や鼻水、咳が現れるほか、重症化すると呼吸困難を引き起こすこともあります。 本記事では、ヒトメタニューモウイルス感染症の症状や原因、RSウイルスとの違い、感染経路や治療法について解説します。訪問看護の利用者さんが風邪のような症状を訴えた際のアセスメントに役立ててください。 ヒトメタニューモウイルス感染症とは ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)感染症は、特に乳幼児に多くみられる呼吸器感染症です。健康な成人や児童では、軽い風邪症状のみで経過することが多く、無症状のまま終わる場合もあります。しかし、乳幼児や高齢者、心肺疾患や神経筋疾患などの基礎疾患がある方、免疫不全状態の患者では重症化する危険があるため、RSウイルス感染症と並び、注意が必要な病気の1つとされています。 RSウイルス感染症は感染症法に基づく届出対象疾患であり、発生状況の把握が行われていますが、ヒトメタニューモウイルス感染症は届出対象ではないため、正確な流行状況を追跡できません。 ヒトメタニューモウイルス感染症の症状 ヒトメタニューモウイルス感染症は、感染後3~5日以内に鼻水や発熱が見られることが一般的です。軽症の場合は、発熱や咳嗽、鼻汁、咽頭痛、倦怠感など風邪に似た症状が現れますが、重症化すると、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難感が生じ、肺炎、細気管支炎へ進行することがあります。 初めて感染する小児では咳や喘鳴が生じることもあります。特に、生後6ヵ月未満の乳児の場合、初期症状として一時的に呼吸が止まる無呼吸発作が起こることがあります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の原因 ヒトメタニューモウイルス感染症は、ヒトメタニューモウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症です。このウイルスは2001年にvan den Hoogen(オランダ)らによって小児の気道分泌物から初めて分離されました。その後の研究で、ヒトメタニューモウイルスは世界中に広く分布し、呼吸器感染症の主要な原因の1つであることが明らかになりました。 ヒトメタニューモウイルス感染症と他の感染症の違い ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと同じニューモウイルス科に属しているため、症状や感染の広がり方がよく似ています。鼻水や発熱といった軽度の症状から、咳や喘鳴、呼吸困難といった重症化したケースまで幅広い症状を引き起こします。 >>関連記事RSウイルス感染症の症状・原因・治療法は?子どもも大人も注意 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路は、飛沫感染と接触感染です。感染した人が咳やくしゃみをした際に放出されたウイルスを吸い込むことで感染が成立します。 また、ウイルスが付着した手指や物を介して口や鼻、目の粘膜に触れることでも感染が広がります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の好発年齢 生後6ヵ月から2歳頃までの子どもが最も感染しやすく、初めての感染となるケースが多いため、免疫が十分に備わっておらず重症化しやすい傾向があります。また、多くの場合、5歳~10歳までに感染するとされています。一回の感染では再感染を防ぐための十分な終生免疫が得られず、再感染を繰り返します。 ヒトメタニューモウイルス感染時の登園・登校・通勤について ヒトメタニューモウイルス感染症は乳幼児や高齢者の感染のリスクが高く、無理に登園・登校・通勤すると感染拡大につながる可能性があります。感染拡大を防ぎながら日常生活へ復帰するための基準や注意点について解説します。 登園・登校の基準 ヒトメタニューモウイルス感染症は、第三種感染症・その他の感染症に該当し、校長が学校医の意見を参考に出席停止の判断を行うことができます。 保育園や幼稚園、小学校では、解熱後24時間以上が経過し、全身状態が良好であれば登園・登校が可能とされることが多いですが、咳や鼻水といった症状が強く、周囲に感染を広げる可能性が高い場合は、さらに数日間の経過観察を求められることもあります。 職場・通勤時の注意点 体調が優れない場合や発熱が続いている場合は無理に出勤せず、自宅での療養が推奨されます。通勤時にはマスクを着用し、手洗いや咳エチケットを徹底することで、周囲への感染拡大を防ぐことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症の治療・対応法 ヒトメタニューモウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在せず、対症療法が中心です。発熱がある場合は解熱剤を使用し、咳や痰がひどい場合は鎮咳薬や去痰薬を用います。十分な水分補給と休養をとりながら、体力の回復を促すことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症で医療機関を受診する目安 医療機関を受診する目安は、高熱が続く、息苦しさを感じる、喘鳴がひどくなっているときなどです。特に乳幼児では、無呼吸発作やぐったりしている様子が見られた場合、速やかな受診が必要です。また、基礎疾患のある方や高齢者は重症化しやすいため、症状が悪化する前に医療機関に相談しましょう。 * * * 訪問看護の現場では、感染の初期症状を見逃さず、適切な対策を講じることが重要です。呼吸の変化や発熱などに注意を払いながら、必要に応じて医療機関の受診を促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「COVID-19流行下の小児基幹病院における当院に入院した重症ヒトメタニューモウイルス感染症の状況」(2022年8月30日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/respiratory/1744-idsc.html?start=62025/4/15閲覧〇島根県感染症情報センター「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」(2018年4月)https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/hMPV/index.htm2025/4/15閲覧

腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】
腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】
インタビュー
2025年4月15日
2025年4月15日

腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】

小倉記念病院腎センター科長の栗本幸子さんと、在宅看護センター北九州管理者の坂下聡美さんによる特別対談。後編では、腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)の実践に携わるスタッフの育成・研修体制のほか、多職種連携で重視すること、訪問看護における制度上の課題などについてお話をうかがいました。 >>前編はこちら地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】 ※本記事は、2024年12月の取材時点の情報をもとに構成しています。 ▼プロフィール栗本 幸子(くりもと ゆきこ) 氏一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院看護部 腎センター 科長 認定看護管理者同院の循環器病棟および腎臓内科病棟の科長を経て、2023年11月より現職。2017年に認定看護管理者の資格を取得。坂下 聡美(さかした さとみ) 氏一般社団法人 在宅看護センター北九州 代表理事(管理者・看護師)パーキンソン病療養指導士北九州市立看護専門学校を卒業後、病院や地域のクリニックでの勤務を経て、2000年より訪問看護に従事。2018年、公益財団法人笹川保健財団の支援を受け、北九州学術研究都市「ひびきの」に日本財団在宅看護センター「一般社団法人 在宅看護センター北九州」を開設。※文中敬称略 PDの研修方法と新人教育の工夫 ー病院や事業所ではどのような方法でPDの研修をされていますか。 栗本: 小倉記念病院では、新人のときから「PD患者さんは特別な存在ではない」という意識をもってもらうようにしています。新人の集合研修の中にもPDを取り入れているほか、どの病棟にもPD患者さんが入院できるようにしているので、病棟ごとに教育担当者から指導を受け、経験を積んでいきます。 また、当院は日本腹膜透析医学会(JSPD)の教育研修医療機関でもあるので、年に4回ほど外部向けの教育研修も実施しています。PD患者さんが多いため、他の病院の方々から見学の依頼を受けることも多く、個別のプログラムを組んで対応することもありますね。 坂下: 在宅看護センター北九州でも、PDに関してはOJTで研修を行います。新人が入職したときは最初の3回ほどは必ず先輩について実習を行い、4回目以降から少しずつ独り立ちします。自信がない場合は、遠隔作業支援システムを活用しバックアップしています。患者さんの同意が必要ですが、ウェアラブルカメラを新人が装着し、リアルタイムで先輩が状況を確認。音声も届けられるので、必要なときには声をかけます。 新人にとっても、実際に隣に先輩がいるよりも遠隔で見守ってもらうほうが緊張せず、落ち着いて作業できるようです。スタッフのストレスを軽減しつつ、患者さんにとっても安心感を提供できるツールであると感じています。 看護の連携が患者さんの大きな安心につながる ーPDにまつわる多職種連携の取り組みについて教えてください。 栗本: 当院では2週間に1回、「PDカンファレンス」を行っており、そこには医師、外来看護師、病棟看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、理学療法士、薬剤師など、PD療法に関わる全職種が参加します。もうすぐ退院される患者さんや、これから入院される患者さんについて情報を共有し、ディスカッションを行うんです。例えば、退院前の患者さんの場合、無事に自宅に戻れるかどうか、栄養状態やADL(日常生活動作)などさまざまな視点でチェックし、必要に応じて訪問看護の導入や家族のサポート体制を整えています。患者さんの生活状況を多角的に把握し、多職種と連携しながら進めていくことが重要だと考えています。 ー多職種が関わるからこそ、患者さんが安心して自宅に戻れるのですね。 栗本: そうですね。そこで、ひとつの大きな課題になるのが、「訪問看護が必要かどうか」ということです。本当に家族だけのサポートでよいのか、その家族もいない場合にはどうしたらよいのか。こういったことは家族だけで考えてもなかなか解決しません。それを、ソーシャルワーカーや、当院のような訪問看護と連携している病院が協力することで、ある程度、その患者さんが安心して地域に戻っていただけるベースをつくることができると思います。そこは、本当に大事にしたいと考え、取り組んでいるところです。 坂下: 訪問看護の立場からみると、退院前のカンファレンスで話をうかがえること、何かあったときに病院の看護師さんたちに質問できる環境があることは、大きな安心につながります。 あとは、医療機器メーカーとの連携も欠かせません。在宅では、さまざまなメーカーのいろいろな機器を患者さんが使用されているので、1個ずつの使用方法についていくのが大変です。でも、メーカーに相談したら、すぐに勉強会を組んでくださり、訪問看護ステーションにも出向いてくださって使用方法を教えてもらいました。こういった連携がとてもありがたいです。 ー訪問看護導入にあたり、患者さんにとってどういった点がハードルになることが多いのでしょうか。 栗本: やはり、経済的な問題です。費用負担を心配される患者さんもいらっしゃるので、カンファレンスでは制度面・費用面のことも話し合っています。私たちがいかにサポートできるか、患者さんに喜んでいただけるかを考えながら調整していくようにしています。 坂下: 一般的に、訪問看護での24時間対応をつけると一割負担で月に600円程度が目安ですが、「払えないからつけなくていい」と言われることがあります。数百円単位でも患者さんにとっては大きな負担になることがありますし、医療制度のしくみの中で使える支援やサービスに関する知識も、訪問看護師にとってはとても大事だと思います。 PDという選択肢を提示できる土壌をつくる ー患者さんにPDという選択肢が提示されないケースが多い現状に対し、今後どういった取り組みが必要だと思われますか。 栗本: 選択肢を提示し、患者さんが望む治療を選べるように、まずはPDを提供する側の土壌をつくっていくことが重要だと考えています。継続的な治療をサポートできるように病院や訪問看護が連携すること、院内や事業所内でPDを継続できるような教育・指導体制の強化を積極的に進めていくことが大切だと思います。 その一環として、当院では情報連携のICTツール「バイタルリンク(R)」を活用して3つの訪問看護ステーションと連携し、高齢独居のPD患者さんをフォローしているケースがあります。この方は、1日3回のPDが必要なのですが、病院と各ステーションが患者さんの1日の状態をリアルタイムで把握できる体制になっているので、切れ目のない看護を提供できている実感があります。ICTの活用は今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。 坂下: そうですね。さまざまなケースに対応できる体制の整備は必要ですね。あとは、PDという治療法の存在をしっかり広めていくことも、医療を提供する側の大切な役割と感じています。 例えば、山間部にお住まいの患者さんが血液透析に通うのが難しくなったため、訪問看護が入ってPDを選択されるといったケースもあります。PDは自宅で治療ができるので、通院の負担も減り、1回の治療にかかる時間も比較的短め。透析のタイミングを調整すれば、自由に使える時間が増え、患者さんの生活の質(QOL)を保つことができるでしょう。最近は、60代や70代でバリバリ仕事をされている方が多いので、そういう方たちの希望のひとつにPDがなるのかなと思っています。また、自宅で最期まで過ごしたいと希望される方が増えてきていますが、その場合には「PDラスト」という選択肢もあります。在宅医の先生がついていれば、PDをしながらでも最期まで看取れるようになります。 患者さん、ご家族、医師、看護師などでACP(Advance Care Planning、または人生会議)を行い、患者さんにとっての最善を選べるサポートができるとよいですね。 栗本: 当院のような基幹病院が、PDをサポートする訪問看護師さんや在宅医に対して「何かあればいつでも連絡ください」と言える体制を整えていくことも大切ですね。逆に、訪問看護師さんから「こうしてほしい」といったご提案をいただき、それをもとに改善を重ねながら、今後も連携を続けさせていただきたいなと思っています。 坂下: そうですね。お互いに意見を交換しながら、利用者さんが安心して治療を続けられるよう、よりよい連携・支援体制をつくっていきたいですね。今後ともよろしくお願いします。 取材・編集: NsPace編集部執筆: 株式会社照林社

地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】
地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】
インタビュー
2025年4月8日
2025年4月8日

地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】

在宅で自分で行える透析療法「腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)」は、患者さんのライフスタイルに柔軟に対応できる点が大きな特徴です。今回は、小倉記念病院 腎センター・科長の栗本幸子さんと、在宅看護センター北九州・管理者の坂下聡美さんに、病院と訪問看護ステーション、それぞれの立場からPDの普及に向けた取り組みについてお話をうかがいました。 ※本記事は、2024年12月の取材時点の情報をもとに構成しています。 ▼プロフィール栗本 幸子(くりもと ゆきこ) 氏一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院看護部 腎センター 科長 認定看護管理者同院の循環器病棟および腎臓内科病棟の科長を経て、2023年11月より現職。2017年に認定看護管理者の資格を取得。一般社団法人 在宅看護センター北九州 代表理事(管理者・看護師)パーキンソン病療養指導士北九州市立看護専門学校を卒業後、病院や地域のクリニックでの勤務を経て、2000年より訪問看護に従事。2018年、公益財団法人笹川保健財団の支援を受け、北九州学術研究都市「ひびきの」に日本財団在宅看護センター「一般社団法人 在宅看護センター北九州」を開設。※文中敬称略 PD患者への支援と地域連携の取り組み ー小倉記念病院と在宅看護センター北九州でのPDに関する取り組みについて教えてください。 栗本: 小倉記念病院では、2005年に腎臓内科を立ち上げ、PDの導入を開始しました。当初はPDを経験したことがないスタッフばかりだったので、研修に力を入れ、育成に取り組んできました。また、2010年からは地域でPD患者さんをフォローできる体制をつくるため、クリニックや訪問看護ステーション向けの研修会を実施してきました。 現在、当院には約280名のPD患者さんがいます。そのうち地域の開業医と連携を取りながらフォローしていただいている患者さんは約1/3。専門的な治療なので、受け入れをしていただけるところが少ない状況です。今後、老老介護や高齢者の独居がますます増えていくなかで、患者さんのご家族のみにサポートを頼るには限界があります。クリニックの医師だけでなく、訪問看護師の方々にもPDについて知っていただき、患者さんを支える仲間になっていただければと考えています。 坂下: 在宅看護センター北九州は開設7年目に入り、現在160名前後の患者さんに在宅訪問看護を行っています。その中でPD患者さんは2名です。今はPD診療を行うクリニックと連携しながら、患者さんがご自宅でPD治療をどう行っていくか、具体的なイメージをもっていただけるようなお手伝いをしています。クリニックでは患者さんを対象にしたPDの勉強会もされていて、そこで訪問看護の導入についても説明をしてくださっています。 私たちが勉強会に参加し、患者さんと直接お会いできる機会もあります。「自宅に戻られたら私たちがサポートさせていただきますので安心してください」とお伝えしています。そういった流れを、少しずつですが、最近つくり始めたところです。 ー全国的にはPD導入率は3.1%*と低めの傾向にあるかと思いますが、小倉記念病院では多数のPD患者さんがいらっしゃいます。具体的な割合や導入時の流れについて教えてください。 栗本: はい。2023年度に当院で透析療法を新たに開始した151名の患者さんのうち、59名がPDを選択されましたので、約4割ですね。 当院では、外来で腎代替療法の説明と共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)での選択の支援を行っています。PD認定指導看護師が1回約1時間ほどかけて、患者さんやご家族の生活状況、本人の意欲、価値観、疑問点などを聴き取りながら、腎移植、PD、血液透析(Hemodialysis:HD)といった腎代替療法の決定を支援しています。 特にPDについてはご存じない方が多く、「腹部からチューブが出る」という治療法もイメージしづらいことがほとんどです。PDのお腹のモデルを見たり、触ったりしていただきながら、フラットかつ丁寧にご説明した結果、PD導入率が上がったんです。 なお、カテーテルと称されるチューブを出す位置も患者さんの生活スタイルや環境に応じて決めています。ベルトや着物の帯で覆われない位置にすることもありますし、レアケースですが、障害のある方で腹部だとどうしてもご自身でカテーテルを抜去してしまう場合に背中から出したケースもありました。 *日本透析医学会がPDと認識しているHD併用を含めた透析全体での導入率。正木崇生,花房規男,阿部雅紀,他:わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在).透析会誌 2024;57(12):543-620.https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2023/pdf/2023all.pdf2025/2/15 閲覧 「パリアティブPD 」という考え方 ーPDを行っている患者さんや訪問看護利用者さんで、お2人にとって印象に残っているエピソードを教えてください。 栗本: もともとHDをされていた90代男性のケースですね。この方は、治療中に血圧が大きく下がるなど、血行動態が不安定なためHDの継続が困難になり、PDを導入することになりました。 ご家族は「おじいちゃんには、好きなことをして余生を過ごしてほしい」と話され、とても手厚いサポートがありました。最終的には訪問看護も利用され、ご自宅でお看取りとなりました。最期まで穏やかな日々を過ごされたという話を聞いて、この患者さんにはPDが最適な選択肢だったのだなと感じました。 高齢でもご家族や訪問看護といった周囲のサポートがあればPDは可能ですし、最近では、「パリアティブPD」という考え方も浸透してきています。1日4回、しっかり除水しなくても、例えば終末期なら1日2回ぐらいの交換で緩やかに進めていくやり方です。高齢者にとって、やさしい透析の選択肢だと思います。 当院では、患者さん一人ひとりの状況に合わせて、パリアティブPDのような方法も含めて、積極的にご紹介しています。「これくらいならできそう」と導入に前向きになる患者さんやご家族もいらっしゃいますよ。 訪問看護利用者さんから教わった成長の一歩 坂下: 私は「第一号」の患者さんが印象に残っています。私が在宅看護センター北九州を立ち上げたとき、以前勤めていた訪問看護ステーションでPDをされていた方が「あなたの第一号の患者さんになってあげるから、地域の裾野を広げる訪問看護ステーションとしてがんばりなさい」と言ってくださいました。当時はPDのケアに自信を持てずにいたのですが、そのステーションからも背中を押してもらい、最初の患者さんになっていただいたんです。 この方は、私が新人のころからのPD看護の「指導者」でもあります。特に印象に残っているのは、透析のチューブを持って「あなた、ここを握ってごらん。これが温かいうちはまだまだ出ている証拠。冷めてきたら、もう出ていないから。そこからゆっくり落ち着いてやりなさい」と、時間で判断するわけではないのだということを教えてくださって。そうやって患者さんから指導を受けながら、訪問看護師として少しずつ成長させてもらったんです。 PDの普及はまだこれからと思っていますが、「よく知らないから看護ができない」、「不安だから患者さんを受け入れられない」、となってしまうことが訪問看護の課題でもあります。まずはPDについて勉強して、1例でも経験できれば、不安の種が少しずつ小さくなって、看護ができるという自信に変わっていくように思います。 また、訪問看護師にとっては、いざというときに相談できる先があることが大事なポイントです。その体制が整っていれば、PD患者さんの受け入れを後押しする安心材料になると考えています。 感染対策だけじゃない、環境整備 ー坂下さんは、患者さんのご自宅でPDをサポートする中で、どのようなことに注意されていますか。  坂下: 病院のような清潔な環境をそのまま再現はできませんが、腹膜炎を起こさせてはいけないので、感染の原因になり得るものを一つひとつ解消し、家庭の環境を整備するようにしています。 例えば、シャワーヘッドのカビやボディソープの容器のぬめりが感染源になる可能性があるので、チェックリストを作成し、週に1度は確認しています。お部屋の状況によっては、空調を切ってほこりが舞わないようにして作業することもあります。 排便コントロールや食事を始め、いろいろな面で患者さんの生活を整えることも重要です。ご家族の生活リズムも含めて、患者さんの生活がうまく回るために、透析の手技やタイミングも含めて調整しています。 ただし、看護師の価値観だけで「こうしなきゃいけない」と意見を押し付けてしまうと、利用者さんから一切シャットアウトされてしまうこともあります。「患者さんやご家族のために」という気持ちを持ちながら信頼関係を築き、少しずつ歩み寄ることを意識しています。PD療法で特に注意する感染対策では、「なぜこれが必要なのか」の背景をお伝えすることも重要ですね。 ー患者さんがPDを継続する上で、重視されている関わりを教えてください。 坂下: ケアの手順をしっかり守ることで、腹膜炎を防ぎ、長く在宅生活を続けられる例もあるので、そういったエピソードを共有しながら、「きちんとされているから入院せずに済んでいますね」と伝えるようにしています。患者さんの自信につながりますし、「やっぱりちゃんとしないと」という動機づけにもなります。 栗本: 病院では、入院中に患者さんが自分でPDができるように指導することはもちろんですが、患者さんをサポートしてくれる方を1人選んでもらい、その方にも手技を習得してもらうようにしています。お2人に病院で作成したパンフレットをお渡しし、「ここはこうしましょう」と指導して、最終的にはお2人が習得した時点で退院していただくのです。そして、退院されるときに「手の消毒」や「マスクの着用」など、忘れがちなところを一言添えて、パンフレットとともにお帰りいただくようにしています。 >>後編はこちら腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】 取材・編集:NsPace編集部執筆:株式会社照林社

疥癬とは? 特徴や症状、感染予防策を正しく知ろう【多数の症例写真で解説】
疥癬とは? 特徴や症状、感染予防策を正しく知ろう【多数の症例写真で解説】
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2025年4月1日
2025年4月1日

疥癬とは? 特徴や症状、感染予防策を正しく知ろう【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は疥癬(かいせん)を取り上げます。これだけは知っておきたい基本的な知識をお伝えします。 正しい知識で疥癬に備える 疥癬の発生に遭遇した方はいらっしゃるでしょうか。施設や病院ではアウトブレイクする可能性があるため、「疥癬」と聞いただけでパニックになってしまうこともあるようですが、まずは疥癬について正しい知識を身につけましょう。備えておけば憂いなし、です。 疥癬とは 疥癬は、ヒゼンダニ(図1)という虫が皮膚に寄生して起こる疾患です。ダニが咬んでかゆみが出るのではなく、虫の死骸や卵、糞などにアレルギー反応を起こしてかゆくなります。 図2にヒゼンダニの生活史を示します。ヒゼンダニは卵から孵化すると10日ほどで交尾を始めます。交尾したメスは角層の中を、あたかもトンネルを掘るように進み、次々と卵を産んでいきます。孵化した幼虫は角層を破って皮膚の表面に出ていきます。 図1 ヒゼンダニ Aは成虫で前後に各2対の脚を持ちます。Bは幼虫で、後脚が1対です。 図2 ヒゼンダニの生活史 林 正幸:疥癬.寝たきり高齢者の皮膚疾患,メジカルセンス,東京,2000.を参考に作成交尾したメスは角層の中を掘り進み産卵し、孵化した幼虫は角層を破って出ていきます。 図3 ヒゼンダニのトンネルと検出した虫体と虫卵 A:結節に見られた疥癬トンネル(ダーモスコピーによる)B:Aのトンネルから検出したヒゼンダニの虫体と虫卵。虫体の近くにある産卵直後の卵は無構造に見え、離れたところにある卵の中には虫の姿が見えます。 病型によって異なる症状 疥癬には通常疥癬と角化型疥癬の2つがあり、臨床症状が異なります。 通常疥癬 通常疥癬によく見られる皮疹として疥癬トンネル、紅斑性丘疹、結節の3つが挙げられ、それぞれ好発部位があります(図4)。 図4 通常疥癬の主な皮疹と好発部位 疥癬に特異的な皮疹は疥癬トンネルです。ここで、ヒゼンダニの成虫が掘り進めながら産卵します。紅斑性丘疹と結節はアレルギー反応により生じるとされていますが、結節の表面にはトンネルが見られることがあります。かゆみが強く、「夜も眠れない」という訴えがあった場合は疥癬を疑う必要があります。「痒みシュラン」1)三ツ星、つまりかゆみの程度はまさに「耐えがたい」もので、最大レベルです! 角化型疥癬 摩擦を受けやすい場所(手足、肘・膝など)、さらには通常疥癬では皮疹が出ない頭部、頸部などに、灰色や黄色がかった白色の、少し汚い感じのする厚く増殖した角質が見られます(図5)。爪も肥厚し、爪白癬のような症状を呈することがあります。角化が亢進する理由は、よく分かっていません。 図5 角化型疥癬 AとBは同一症例。内科疾患による免疫低下があります。Cは湿疹と誤診されて長期にステロイド外用が行われていた例です。 宿主が免疫能の低下した人であれば角化型疥癬に 通常疥癬と角化型疥癬では寄生しているヒゼンダニは同じですが、宿主の側に違いがあります。(重篤な)免疫不全がなければ通常疥癬、重篤な基礎疾患を有している人、薬剤により免疫能が低下した人などに角化型疥癬が発症します。免疫低下のためアレルギー反応を起こせず、かゆみが生じない場合もあります。 角化型疥癬は、図6に示すように患部からは多数のヒゼンダニが検出され、一説には全身で100万匹以上寄生しているともいわれます。そのため感染力も強く、施設で発生した場合には厳重な対処が必要です。第1例がノルウェーから報告されたため「ノルウェー疥癬」とも呼ばれています。 図6 角化型疥癬の虫体と虫卵 図5のCの患部から検出した多数の虫体と虫卵です(丸いのは空気の泡)。通常疥癬では1つの視野にこれだけ多くの虫体は見つかりません。 診断にはヒゼンダニの検出が必要 アレルギー反応といっても、ヒゼンダニに対するアレルギー検査(特異的IgE抗体検査)は開発されていません。一般に検査されているヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニの抗原と交差することがあり、好酸球が増加することもありますが、血液検査では分からない、と思っていたほうがよいでしょう。 顕微鏡検査 確実な診断には、病変部から眼科剪刀などで検体を採取し、ヒゼンダニの虫体、虫卵、糞などを検出する必要があります。しかし、在宅や施設で検体を採取した場合、そこで顕微鏡で検査をすることは難しいため、筆者はクリニックに持ち帰っています。感染のリスクを避けるため、検体を2枚のスライドグラスに挟んで周囲をテープで止めたり、小さいビニル袋に入れたりしています。 ダーモスコピー検査 もう一つの診断方法は、ダーモスコピー検査です(図7)。本来は色素性病変を診断するための道具ですが、疥癬トンネルを見つけるのに非常に便利です。ほとんどの場合、あちこちの皮疹をダーモスコピーでのぞき込み、トンネルを探すことによって診断がつきますし、そもそもトンネルの部分を採取しなければ虫や卵などは見つかりません。 図8は湿疹のように見えましたが、実は疥癬であった症例です。体幹を中心に紅斑と丘疹が散在し、手にはトンネルを認めませんでした。ところが、ダーモスコピーでよくよく探してみると左腰のしわの下にトンネルを見つけ、疥癬の診断をつけることができました。しかし残念なことにダーモスコピー検査は疥癬に対しては保険請求できません。 図7 ダーモスコピー 記録できるカメラタイプのものもあります。 図8 湿疹のように見えたが疥癬だった症例 湿疹のように見えましたが、左腰のしわの下にトンネルを見つけることができた症例です。右下はダーモスコピーの所見。 疥癬の診断は難しい! ここで宣言?しておきましょう。「疥癬の診断は難しい」です。怪しいと思ってもトンネルが見つからない、虫を確認できない、ということはよく経験されます。どうしても白黒つけがたいケースもあり、そうした思いを共有するためのツールとして疥癬グレード分類(SGグレード分類)2)が提唱されています。 グレードは0~5段階に分けられています。グレード5は「角化型疥癬」、4は「通常疥癬」、3は「症状は疑わしいがヒゼンダニが検出されない」、2は「疥癬の可能性が否定できない」、1は「まず疥癬ではないと思われる」、0は「疥癬を疑う必要はない」という分類です。それぞれの分類で治療方針や隔離の必要の有無などが明記されていますので参考にされてください。後で述べる日本皮膚科学会のガイドライン3)とは若干対応が異なり、やや「念のため」という内容になっていると思います。 「介護人の疥癬」に注意 先述したように、宿主の免疫能が低ければ角化型疥癬になりますが、普通の免疫力があれば通常疥癬になります。もしも、もっと免疫力が強ければもっと軽い症状になる、と考えられるのではないでしょうか。 「介護人の疥癬」という概念があります4)。疥癬の患者さんを介護している家族や職員に発症する疥癬で、典型的な手のトンネルや外陰部の皮疹などがなく、上肢、特に前腕の屈側に少量の丘疹を生じるというものです(図9)。気がつかずにベクターとなって感染を広げている場合があるのだと思われます。 図9 介護者の疥癬罹患例 50代、女性。介護していた父親が疥癬に罹患。上肢にかゆみを感じ、近医を受診するも、手や体幹などには皮疹がなく湿疹と診断されました。ステロイド外用で一時改善しましたが、その後悪化。左前腕に線状の皮疹を発見し、ダーモスコピーでトンネルを確認し、さらにそこから虫体を検出して疥癬の診断がつきました。「介護人の疥癬」と考えられます。 内服薬と外用薬で治療 ベテランの皆さんは、疥癬の治療にγBHC(リンデン)やイオウの入浴剤を使った記憶があるかと思います。前者は2010年の法改正で使用禁止となり、後者は諸事情により発売が中止されました。2006年にイベルメクチン内服、2014年にはフェノトリン外用が発売され、疥癬の治療はずっと楽になりました。ちなみにイベルメクチンは2015年にノーベル生理学・医学賞を受けた大村智先生が発見された物質です。 イベルメクチン、フェノトリンともに卵には効果がありません。一度内服や外用をすると虫を殺すことはできますが、その時に卵であったものが孵化して次の卵を産んでしまいます。そのため、1週間後に2回目の投与が必要です。ただ、筆者の印象としては、3回は内服または外用したほうがよいように感じています(あくまで個人の意見です)。重症の疥癬(角化型疥癬や、それに近いと判断される場合)では両者を併用しますが、通常疥癬に併用すると都道府県によっては保険診療の査定を受ける場合があります。 クロタミトンの全身外用も以前はよく使われていましたが、少なからずかぶれるので注意を要します。 疥癬への4つの対策 疥癬感染の予防策については、日本皮膚科学会のガイドラインに準拠するのがよいでしょう。ガイドラインは学会のホームページから閲覧・ダウンロードすることができます。詳しくはそちらをぜひ閲覧してください。ここでは通常疥癬の対策のポイントをご紹介します。ガイドラインでは以下の4つが推奨されています3)。  (1) 手洗いの励行(2) 診察室や検査室などのベッドにはディスポーザルシーツの使用(3) 洗濯物の運搬時の注意(4) 雑魚寝状態なら同室者や家族などへの予防治療を検討 すなわち、この4点以外は通常通りの対応でよく、個室隔離も不要です。おそらく一般に考えられているよりも「軽い」対策なのではないでしょうか。しかし、角化型疥癬では厳重な対策が必要です。 いずれにしてもいざ発生してしまったときにあわてないように、それぞれの施設でマニュアルを作成しておくことをおすすめします。 >>日本皮膚科学会「疥癬診療ガイドライン(第3版)」は以下のURLより閲覧いただけます。https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/kaisenguideline.pdf 執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)塩原哲夫:痒みシュランとは…….Visual Dermatology 2003:2(9);873.2)浅井俊弥:疥癬の痒み.Visual Dermatology 2017:16(11);1078-1079.3)日本皮膚科学会疥癬診療ガイドライン策定委員会:疥癬診療ガイドライン(第3版).日皮会誌 2015:125(11);2044.4)江川清文:介護人の疥癬-初期病変を見逃さない.西岡 清編,皮膚科診療のコツと落とし穴3疾患Ⅱ,中山書店,東京,2006:130.

訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】
訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】
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2025年3月18日
2025年3月18日

訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】

2024年12月13日に実施したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~」。呼吸ケアが必要な利用者さんを多く抱える訪問看護ステーション「楽らくサポートセンター レスピケアナース」の山田真理子さん、津田梓さんを講師にお迎えし、NPPVを中心とした在宅での呼吸療法の基礎知識、実践のポイントなどを教えていただきました。セミナーレポート前編では、呼吸療法の種類と特徴、利用者像などの基礎知識をまとめます。 ※90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】山田 真理子さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」管理者/呼吸ケア指導士。内分泌内科と血液内科の混合病棟、呼吸器内科病棟で勤務した後、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で訪問看護ステーションの管理者を経て、2015年に「楽らくサポートセンター レスピケアナース」を設立。津田 梓さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」訪問看護師。小児から高齢者まで、幅広い年代の利用者さんに人工呼吸器・在宅酸素などを用いたケアを提供。コーディネーションも担当する。 在宅で行う呼吸療法 在宅で行う呼吸療法には、HOT(在宅酸素療法)、TPPV(気管切開下陽圧換気)、主にマスクを使用するNPPV(非侵襲的陽圧換気)、ハイフローセラピー(HFNC)、CPAP(持続陽圧呼吸療法)などがあります。その中でも今回は、NPPVを中心にご紹介します。 NPPV(非侵襲的陽圧換気)とは NPPVは、マスクを介して非侵襲的に陽圧換気を行う人工呼吸療法です。拘束性胸部疾患(肺結核後遺症、脊椎後側弯症など)やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、神経筋疾患などの慢性呼吸不全の方に適用が検討されます。気管切開が不要で、食事や嚥下、会話の機能を保持できることが大きなメリットです。 <NPPVの特徴>・簡便で早期に導入可能・汎用性のある人工呼吸器が選択されるケースが多い(小児や神経難病では、気管切開とマスクの両方で使用可能な機器が選択されることが多い)・慢性呼吸不全の方には、従圧式の「NPPV専用機」が使われることが多い・CPAPやHFNC専用機は、介護保険が適用される。医療保険では週3日の制限がつく 人工呼吸器の基本 人工呼吸器は、圧を規定する「従圧式」と、量を規定する「従量式」に分かれます。マスクではほとんどのケースにおいて従圧式になります。気管切開をしている場合はどちらの可能性もありますが、従量式になるケースが多いです。 小児の在宅NPPV 小児の在宅NPPVでは、「CPAPモード」と「NHFモード」が多く使われます。 CPAPモードは、呼吸障害がある早産の新生児に対し、侵襲的換気の置き換えとして長らく推奨されている方法です。「負担の少ないマスクで対応したい」と導入されるケースが多く見られます。ただし、近年はまずNHFモードを実践し、うまくいかない場合にCPAPモードに切り替える例が多いです。また、在宅では睡眠時に間歇的に使用されることが多いでしょう。 <CPAPモードのメリット>・機能的残気量を維持することで肺が拡張し酸素化の改善に役立つ・呼気終末の肺容量が高まることで、呼気筋の負担が軽減、呼吸仕事量を減少させる・機械的な換気の必要性を軽減できる(挿管や侵襲的喚気をせずに過ごせる) マスクより装着しやすい鼻カニューラを介して高流量の混合ガス(酸素と空気)を送るNHFモードは、CPAPの置き換えとして推奨されています。当事業所に新規でこられる人工呼吸器が必要な小児の方は、ほとんどがNHFモードを使用されています。また、NHFモードは、移動や入浴時を除いて連続的に使用されるケースが多いです。 <NHFモードのメリット>・死腔量を軽減できる・ダイナミック気道陽圧で、呼吸仕事量を減少させる・鼻カニューラのためCPAPマスクより快適性が高い そのほかの在宅呼吸療法 人工呼吸器ではなく専用機を使用する「在宅ハイフローセラピー」や「CPAP」といった在宅呼吸療法もあります。 在宅ハイフローセラピー(HFNC)※ HFNCとは、専用の鼻カニューラを介して、加温・加湿した高流量の酸素や空気、または酸素と空気の混合ガスを投与する呼吸管理法の1つです。ただし、2025年時点で保険適用となるのはCOPDの方のみです。 <HFNC の特徴>・解剖学的死腔のウォッシュアウトができ、PaCO2を低下させる・飲食や会話ができ、快適性が高い・気道の粘液線毛クリアランスの維持が可能・PEEP効果と終末期肺容量の増加が期待できる・FiO2を安定して供給できる ※「ハイフローセラピー」(High Flow Therapy:HFT)とは診療報酬の算定要件として用いられる名称を指します。一方、「HFNC」については一般的に以下のように使い分けられています。・器具の名称:「高流量鼻カニューラ」(High Flow Nasal Cannula:HFNC)・治療法の名称:「高流量鼻カニューラ酸素療法」(High Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy:HFNC)現場では「HFNC」という略称が器具・治療法の両方に使われるため、文脈に応じて適切に使い分ける必要があります。 在宅CPAP(持続陽圧呼吸療法) 睡眠時無呼吸症候群または慢性心不全の方を対象にした在宅呼吸療法です。 C107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料 上記は診療報酬の情報を抜粋したものですが、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料1にはASV(adaptive servo ventilation)療法 、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料2はCPAP療法が該当します。 >>関連記事CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応 在宅マスク呼吸療法の利用者像 在宅マスク呼吸療法の利用者さんの主な特徴は以下の通りです。 高齢 呼吸器疾患で在宅マスク呼吸療法を利用する方の多くは高齢者。介護認定を受けている方、認知症を患っている方も多くいます。 日中のADLは自立している 在宅マスク呼吸療法は夜間のみ使用しており、日中のADLは自立している方もいます。ただし、見た目の介護度は低くても急性増悪や急変のリスクがあるため、早期の異常発見に努めることや予防的介入が重要です。※神経筋疾患を患っている場合は、在宅マスク呼吸療法の使用時間が長く、ADLも低下しています。 在宅医療の機器管理 在宅医療機器は、「利用者と家族」「医療機関」「機器業者」の3者で管理し、訪問看護は「利用者さんと家族による管理」を個別指導する役割を担います。必ずしも「在宅医療機器を使う=訪問看護が入る」わけではありませんが、在宅での呼吸ケアにおいて訪問看護が重要な役割を担っているのは確かです。 次回は、在宅での呼吸ケアの実践にあたって意識すべき点や、トラブルへの具体的な対処法について解説します。 >>後編はこちら訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護実践~【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア【参考】〇厚生労働省:「医科診療報酬点数表に関する事項」. 2024

IAD(失禁関連皮膚炎)とは? 鑑別が必要な疾患も紹介【多数の症例写真で解説】
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2025年3月11日
2025年3月11日

IAD(失禁関連皮膚炎)とは? 鑑別が必要な疾患も紹介【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回はIAD(incontinence associated dermatitis:失禁関連皮膚炎)を取り上げます。 はじめに~普通の皮膚科医が思っていること IADとは何か IAD(アイエーディ)はincontinence associated dermatitisの略で、直訳すれば「失禁関連皮膚炎」となります。2007年、「便や尿が会陰部へ接触した際に生じる皮膚の炎症」として提唱されました1)。日本創傷・オストミー・失禁管理学会の定義2)によれば、IADは「尿または便(あるいは両方)が皮膚に接触することにより生じる皮膚炎」とされており、いわゆる狭義の湿疹・皮膚炎だけでなく、物理・化学的皮膚障害、皮膚障害性真菌感染症を含んでいます。 つまりIADは診断名ではなく、失禁患者における外陰部周辺の広義の皮膚障害を表す概念であって、失禁ケアの重要性、必要性を喚起するためにつくられたものと考えられます。 この連載の第2回で触れましたが、皮膚科の世界では「皮膚炎」は湿疹とほぼ同義語です。一方、真菌による炎症は「真菌感染症」であり、真菌による湿疹(=皮膚炎)とは呼びません。そのあたりが、皮膚科医にとっては「IADの定義がちょっと気持ち悪い」と感じるところになっています。 >>「第2回」についてはこちら湿疹皮膚炎とは? 種類や症状、改善方法が分かる【写真で解説】 IADの重要性 筆者が初めてこのIADという概念に接したときに、正直に申し上げれば「普通に診断すればよいのでは」と思いました。しかし病院、在宅、施設のすべての現場に皮膚科医が居合わせるわけではありません。看護・介護のケアによって予防でき、患者のQOL(quality of life:生活・生命の質)の向上を考えれば、おむつ回りの皮膚のトラブルをIADとして捉えることは十分に意味があると感じています。 私は一般の在宅診療のほか、数件の高齢者施設にも出向いて診療しています。2024年のデータですが、1月から3月までの間に95人の施設入居者の診療を行いました。主訴として一番多かったのは湿疹皮膚炎です。IADをあえて病名としてみると、IADを主訴とする例は6人、主訴ではなく副訴としてIADの状態にあったのは16人。合計すると22名になり、全体の4分の1近くにのぼることが分かりました(表1)。施設でもIADが大きな問題になっていることを感じます。 本稿では皮膚科医として、発生してしまったIADや鑑別すべき疾患などについて解説します。 表1 2024年1~3月における高齢者施設往診時のデータ   コラム IADと皮膚科医IADという概念は、皮膚科医の間に広く浸透しているものではないようです。詳しく調べたわけではありませんが、筆者の周囲、特に在宅や施設に関わったことがない医師や、若い皮膚科医の間での認知度が低いように感じました。さらに、IADの延長線上にはMASD(moisture associated skin damage:水分関連皮膚損傷)3)という概念がありますが、そちらに至ってはほとんどの皮膚科医が知らないように思います(筆者も、2024年の第33回日本創傷・オストミー・失禁管理学会学術集会に参加するまで知りませんでした)。 実際の皮膚の症状を見てみよう ここからはIADとされる状態、あるいはIADと鑑別が必要と思われる皮膚疾患について症例写真をもとに解説します4)。 IADに包括される疾患 (1)(尿・便による)接触皮膚炎刺激性接触皮膚炎で、おそらくこれが頻度としては一番多いでしょう。刺激性接触皮膚炎は皮膚のバリア機能と刺激物との戦いですから、浸軟してバリア機能が落ちている外陰部では容易に発症します(図1)。 図1 刺激性接触皮膚炎 尿・便の刺激や洗いすぎにより紅斑・腫脹・鱗屑がみられます。鱗屑に真菌が存在するかどうかは、視診だけではわからないので検査をおすすめします。 (2)真菌感染症カンジダによる場合と白癬による場合があると思われます(図2)。この連載の第3回で記したように、検査によって真菌を証明することが理想です。 >>「第3回」についてはこちら真菌症とは? フットケアにも活かせる知識【写真で解説】 図2 真菌感染症 (左)臀部の白癬です。本連載の第3回で述べたように、境界明瞭な紅斑・堤防状隆起・中心治癒傾向の3つの特徴を持っています。(右)カンジダ症です。膜様鱗屑を付着しています。視診だけで診断するのは難しいかもしれません。 (3)臀部肉芽種臀部中心に、肉芽腫様の結節が形成される疾患です(図3)。不潔や浸軟が原因とされています。 図3 臀部肉芽腫 肉芽腫様の結節(→)を認める。 (4)間擦疹(かんさつしん)間擦部(鼠径部、肛門周囲など皮膚が擦れて摩擦を受ける場所)に生じる皮膚の炎症です(図4)。 図4 鼠径部に発症した間接疹   * * * 上記(1)(3)(4)は真菌と関係なく発症しますが、それぞれに真菌感染も合併することがあるため注意を要します。 IADと鑑別する必要がある皮膚疾患 (1)単純疱疹と帯状疱疹真菌症と同じく病原体による感染症ですが、単純疱疹と帯状疱疹はIADには包括されていません。この両者は同じヘルペスウイルス科に属するウイルスにより発症し、個疹(一つひとつの皮疹の形)では区別できないため、皮疹の分布や症状などで診断します(図5)。診断が難しい場合、最近では鑑別するためのキットが販売されており、キットを用いた検査も行われています。 図5 単純疱疹と帯状疱疹 個疹(それぞれの皮疹)は頂点が少し陥凹した水疱が基本ですが、帯状疱疹は通常、単一の神経の支配領域に分布するため左右どちらかに限定されます。 (2)腫瘍性疾患図6は前医に湿疹と診断されて外用薬を長く使用されていた例ですが、実際には陰嚢に生じた乳房外パジェット病(アポクリン腺という汗をつくる組織から生じる皮膚がん)でした。湿疹であればIADの範疇に入りますが、腫瘍は尿・便失禁とは関係ないですね。ほかに発生する可能性がある腫瘍として、悪性のものでは基底細胞癌、有棘細胞癌、ボーエン病など、良性では脂漏性角化症や被殻血管腫などが挙げられます。腫瘍か否かを判別するのは意外に難しく、皮膚生検を要する場合もあります。 図6 乳房外パジェット病 基本的にはIADと区別すべきだが、失禁の影響で増悪する場合が多い皮膚疾患 (1)褥瘡褥瘡とIADはもちろん別物ですが、仙骨部から臀部にかけての褥瘡の好発部位はIADが発生する部位に一致し、浸軟や摩擦で皮膚が脆弱化しているため褥瘡もできやすくなっています。実際に診療の場で「これは褥瘡とすべきなのか、IADなのか」と迷う例もあります(図7)。 図7 褥瘡かIADか悩んだ例 「褥瘡ができました」と診察依頼があった例です。丸をつけた仙骨部には瘢痕が見られ、その部分は褥瘡であったように思われます。一方で矢印のびらんは、IADとすべきか、と考えます。 (2)老人性臀部角化性苔癬化皮膚臀裂部の上方両側に、肥厚してザラザラした局面をつくる状態です。「座りダコ」と考えてよいと思います。バリア機能が低下するため、湿疹や真菌症を起こしやすく、乾燥して亀裂を生じ、潰瘍化する場合もあります。保湿や外用薬による治療やケア、姿勢(座り方)の矯正といった介入が必要です(図8)。尿・便の影響を強く受けますが、それらと関係なく発症するためIADに包括はされません。 図8 老人性臀部角化性苔癬化皮膚 老人性臀部角化性苔癬化皮膚です。左右は別の例ですが、角化・苔癬化した皮膚は脆弱で、びらんや潰瘍化しやすくなります。 IADを見たらどうする? IADに遭遇した場合の治療指針として、「おむつ皮膚炎治療アルゴリズム」があります5)(図9)。この場合の「おむつ皮膚炎」はIADと読み替えてよいでしょう。 まずミディアム以下のステロイドを外用し、改善すればそれでOK、改善しない場合に皮膚科医の診察を要請し、必要に応じて真菌検査を行うというものです。結果的に3週間後に6割弱で改善以上という成果を得られていますので、すぐに皮膚科医が診察できない場合は参考にされるとよいでしょう(本当はいろいろな現場で皮膚科医が診察することができればよいのですが)。 図9 おむつ皮膚炎治療アルゴリズム 【おむつ皮膚炎】おむつを当てている部位における紅斑・びらん・浸軟などの皮膚症状常深祐一郎先生の許諾を得て転載 最後に IADについては看護領域で多くの参考となる著作があります。NsPaceの「在宅の褥瘡・スキンケアシリーズ」でも解説されています。今回はIADが生じるメカニズムや、評価のためのIAD-setなどには触れず、純粋に皮膚科医としての視点で述べてみました。みなさまの参考となりましたら幸いです。 >>予防的スキンケアに関する記事はこちら在宅の褥瘡・スキンケアシリーズスキンケアのポイントは?失禁関連皮膚炎(IAD)のアセスメントと予防 執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Gray M,Bliss DZ,Doughty DB,et al.:Incontinence-associated dermatitis:a consensus.J Wound Ostomy Continence Nurs 2007;34(1):45-54.2)日本創傷・オストミー・失禁管理学会編集:IADベストプラクティス.照林社,東京,2019:6.3)Young T:Back to basics: understanding moisture-associated skin damage.Wounds UK 2017;13(2):56-65.4)袋 秀平:IADとする前に―包括される疾患と鑑別が必要な疾患―.MB Derma 2021;316:37-44.5)常深祐一郎,福田亮子,出口亜紀子,他:高齢者のいわゆる「おむつ皮膚炎」に対する治療アルゴリズムの提案.看護研究 2015;48(2):180-188.

おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説
おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説
特集
2025年2月25日
2025年2月25日

おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、主に子どもがかかる感染症とされていますが、大人がかかる場合もあることや合併症などについて理解しておくことが大切です。この記事では、おたふくかぜの原因・症状・対処方法や予防接種ついて解説します。訪問看護の利用者さんやご自身・ご家族の健康管理のためにも確認しておきましょう。 おたふくかぜについて おたふくかぜは正式名称を流行性耳下腺炎といい、片側または両側の唾液腺が腫れることが特徴のウイルス感染症です。原因や症状、感染経路、流行時期、合併症などについて具体的に見ていきましょう。 原因 おたふくかぜは、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症です。感染力は、麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)ほどではないものの、人口が密集した地域で流行する傾向があります。 症状 ムンプスウイルスに感染後、2〜3週間の潜伏期を経て唾液腺腫脹(両側、あるいは片側の耳下腺)と圧痛、嚥下痛、発熱などが主な症状ですが、感染しても症状が現れない不顕性感染もみられます。症状のピークは発症から48時間以内で、通常は1〜2週間で軽快します。コクサッキーウイルスやパラインフルエンザウイルスなどによる耳下腺炎や反復性耳下腺炎などと症状が似ています。反復性耳下腺炎は耳下腺腫脹を繰り返し、軽度の痛みがあるものの発熱はないことがほとんどです。おたふくかぜは4・5歳の子どもに多く見られ、15歳頃までに9割超の子どもが感染するとされています。2歳未満での感染例はあまりなく、特に0歳での感染は極めてまれです。また、1歳前後の幼児の場合は耳下腺の腫れが見られないケースのほか、症状がほとんどない「不顕性感染」となる場合も少なくありません。成人や学童期、思春期・青年期以降の子どもが感染する場合、症状が顕著に現れる傾向があります。特に唾液腺以外の部位が侵されることが多く、合併症の頻度も高くなります。 感染経路 ムンプスウイルスの感染経路は、飛沫感染・接触感染で非常に強い感染力を持っているといわれています。唾液を介して感染し、上気道粘膜上皮や頚部リンパ節で増殖した後、唾液腺のほか、睾丸、すい臓、腎臓、髄膜などで増殖します。 流行時期 おたふくかぜは季節に関係なく発生しますが、一般的には冬から初春にかけて流行する傾向があります。感染の広がりが比較的遅く、流行が広がるまでには長期間かかります。約2年間の流行期とそれに続く3年間の流行閑期があります。 重症化リスク おたふくかぜが重症化すると、5日以上続く発熱、強い頭痛、強い腹痛、吐き気、睾丸の痛みなどが現れます。大人は免疫機能が子どもよりも優れている分、ウイルスを排除する働きの反動として症状が強く現れる傾向があります。 合併症 おたふくかぜの合併症は、無菌性髄膜炎や脳炎、すい臓炎、聴神経炎などです。思春期以降の男性がおたふくかぜにかかると、精巣炎(睾丸炎)が起きる可能性もあります。 おたふくかぜのワクチン接種 おたふくかぜのワクチンは、合計2回の接種が推奨されています。1回目は1歳になってからなるべく早く、2回目は小学校入学前の1年間で接種します。妊娠早期におたふくかぜにかかると流産のリスクが高まるとの見解があるため、妊娠前にワクチンを接種しておくことが大切です。 おたふくかぜの保育園・幼稚園での対応方法 おたふくかぜは、学校保健安全法により学校で予防すべき感染症の第二種に指定されており、感染拡大を防ぐために出席停止の規定が設けられています。耳下腺、顎下腺、または舌下線の腫脹が発症した後、5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止です。ただし、病状が軽く、感染の恐れがないと医師に認められた場合は出席できます。また、以下のような場合も、出席停止となります。 患者の同居家族に感染している可能性がある人物がいる場合、予防処置の施行やその他の事情により、医師が感染の恐れがないと認めるまで おたふくかぜが発生した地域から通学する者については、その発生状況により出席停止が必要と認めたとき 流行地を旅行した者については、出席停止が必要と認めたとき このように、おたふくかぜの出席停止の有無や期間は保育園・幼稚園の考え方で異なるため、規定を確認する必要があります。 おたふくかぜで男性不妊になるって本当? 思春期以降におたふくかぜにかかると、ムンプスウイルスが精巣に炎症を起こすことがあります。これをムンプス精巣炎といい、精子を作る機能が低下するとされています。ムンプス精巣炎になると、数ヵ月から1年後に精巣が萎縮し、これが両方の睾丸に見られる場合は無精子症になる可能性があります。ただし、両方の精巣が萎縮する事例は少なく、不妊のリスクはそれほど高くはありません。 * * * おたふくかぜは、片側または両側の唾液腺が腫れることが特徴のウイルス感染症です。大人がかかると重症化しやすいため、早期に医療機関を受診した上で経過を注視しなければなりません。今回、解説した内容をご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】◯NIID 国立感染研究所「流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/529-mumps.html2025/2/18閲覧◯島根県感染症情報センター「流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)」https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/tp010417.htm2025/2/18閲覧◯千葉医師会「おたふくかぜ」(2015/11/2)https://www.chiba-city-med.or.jp/column/063.html2025/2/18閲覧

「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2025年2月18日
2025年2月18日

「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回はパーキンソン病について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 敗血症の基礎知識 敗血症とは「感染に対して制御することができない生体反応が起こるために、生命を脅かすさまざまな臓器の機能不全が起こる状態」です。65歳を超えると発生率が年々増加します。敗血症による死亡率は高く、敗血症に関連する臓器不全が1つ増えるごとに、死亡率は約15%増加します1)。 敗血症の症状と注意すべき身体所見 発熱があり、意識はややぼんやりとしていることが多いです。尿失禁や転倒、食欲不振は、高齢者の敗血症においてよくみられる症状です。 敗血症に関連する状態として菌血症があります。菌血症は、一時的に血液に細菌が入った状態(血液培養陽性)です。免疫機能が正常ならば、細菌は排除されます。 一方、敗血症は、菌血症が進行して全身に炎症が広がり、臓器障害を引き起こす状態です。血液培養は必ずしも陽性となりません。菌血症では悪寒戦慄(shaking chills)を伴うことがあります。悪寒戦慄とは、強い寒気を感じ、毛布をかぶっても歯がガチガチと震える状態です。菌血症の相対リスクは12倍に上昇します2)。高齢者の悪寒戦慄では、胆管炎や尿路感染症を第一に考えます3)。 敗血症の最も初期の症状は、頻呼吸(呼吸性アルカローシス)です。呼吸数を確認しましょう。組織環流障害を示唆する症状と身体所見には、意識変容(中枢神経)、尿量減少(腎臓)、網状皮斑や冷感(皮膚)があります4)。 敗血症では、肺炎や腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染の頻度が高いので、表1の症状に注意して病歴を聴取し、身体所見を確認しましょう。 表1 注意が必要な症状と身体所見 症状身体所見肺炎咳、痰ラ音(crackles)腹腔内感染(胆道感染症、腸閉塞、虫垂炎)腹痛、嘔吐、下痢腹部の圧痛、肝叩打痛、腹膜刺激徴候尿路感染頻尿、排尿時痛、残尿感、腰痛下腹部に圧痛、肋骨脊柱角に叩打痛皮膚感染(褥瘡)発赤、疼痛、膿皮膚びらん、壊死 「昨日元気で今日ショック 皮疹があれば儲けもの」、これは感染症診療の第一人者である青木眞先生の言葉です。元気だった人が、急にショック状態となることがあります。この場合、皮疹が認められれば次の疾患を疑います。 ● トキシックショック症候群(toxic shock syndrome:TSS)● 髄膜炎菌感染症● リケッチア感染症(ツツガムシ病、日本紅斑熱)● 脾臓がない人の肺炎球菌/インフルエンザ桿菌/髄膜炎菌/Capnocytophaga感染症● 肝臓が悪い人のVibrio vulnificus/Aeromonas hydrophila感染症● 黄色ブドウ球菌などによる急性感染性心内膜炎● 劇症型Clostridium perfringens感染症 診断 敗血症の診断基準として、quick SOFA(quick sepsis-related organ failure assessment:qSOFA、クイックソファもしくはキューソファと呼ぶ)を確認します。 qSOFA (1)呼吸数≧22回/分(2)精神状態の変化(3)収縮期血圧≦100mmHg2つ以上を満たす場合に敗血症を疑う(予想死亡率10%以上) 呼吸数は、橈骨動脈を触れて、脈拍を測定するふりをしながら、患者さんに気がつかれないように30秒間計測し、その結果を2倍にして求めます。時計がないときは、患者さんの呼吸をまねて、自分の呼吸より速いか確かめます。 最新トピックス2021年の敗血症ガイドラインでは、敗血症または敗血症性ショックの評価にqSOFAスコアを使用しないことを推奨しています。National Early Warning Score(NEWS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、Modified Early Warning Score(MEWS)などの他のスコアリングシステムは、院内死亡やICU入院の予測においてqSOFAよりも優れています5)。 研究により、qSOFAは特異度は高いのですが、感度が低いことが示されています。すなわち、qSOFA陽性であれば敗血症が疑われますが、陰性であっても必ずしも敗血症ではないとはいえないことに注意が必要です。 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント 意識レベル、発熱、悪寒戦慄、血圧、呼吸数を確認します。 既往歴(例えば、糖尿病や血液透析、がん)や薬剤歴(例えば、ステロイドや抗がん剤)を確認し、免疫不全状態がどうかを判断します。 症状や身体所見から、どこが感染巣なのかを推測します。 治療 敗血症が疑われる場合、迅速に治療を行わなければ患者の予後が悪くなります。病院での精査治療が必要になるので、訪問看護師としては敗血症の可能性を探り、主治医とすぐに連絡をとります。可能ならば末梢ルートを確保し、生理食塩液の点滴をしながら、早急に病院に救急搬送することが大切です。病院で行われる治療(敗血症の1時間バンドル)について要点を解説します。 敗血症の1時間バンドル 乳酸値が2mmol/L以上に上昇している場合は、改善を確認するために2~4時間以内に再検査します。 抗菌薬治療を開始する前に、2セットの血液培養を採取します。 広域スペクトルの抗菌薬を1時間以内に投与します。最も一般的な病原体は、グラム陰性菌(大腸菌、クレブシエラ属)、またはグラム陽性菌(黄色ブドウ球菌、肺炎球菌)です。  低血圧、または乳酸値>4mmol/Lなら生理食塩液または乳酸リンゲル液を30mL/kgで投与します3)。 十分な輸液にもかかわらず、平均動脈圧*を65mmHg以上に維持できなければ、血管収縮薬(ノルアドレナリン)を使用します。 *平均動脈圧=(収縮期血圧―拡張期血圧)÷3+拡張期血圧 ●菌血症を疑う症状は悪寒戦慄です。●qSOFAで(1)呼吸数≧22回/分、(2)精神状態の変化、(3)収縮期血圧≦100mmHgのうち、2つ以上を満たす場合に、敗血症を疑います。●敗血症の原因となる感染症で多いのは、肺炎、腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染です。 執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Chick D,ed:Sepsis.MKSAP 19 Pulmonary and Critical Care Medicine, American College of Physicians,2022:77-80.2)Tokuda Y,Miyasato H,Stein GH,et al:The degree of chills for risk of bacteremia in acute febrile illness.Am J Med 2005;118(12):1417.3)坂本壮:救急外来ただいま診断中!第2版.中外医学社,東京,2024:136-172.4)塩尻俊明監修,杉田陽一郎著:研修医のための内科診療ことはじめ.羊土社,東京,2022:21-24.5)Evans L,Rhodes A,Alhazzani W,et al:The Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021.Intensive Care Med 2021;47(11):1181-1247.

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