2025年4月30日
水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】
在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は水疱性類天疱瘡を取り上げます。これだけは知っておきたい基本的な知識をお伝えします。
本記事では基本的に日本皮膚科学会策定のガイドライン『類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン』に沿った記載をしておりますが、一部筆者の私見も含まれております。その点を踏まえてお読みいただければ幸いです。
水疱症
外傷、熱傷、虫刺され、接触皮膚炎などでも水疱は形成されますが、通常「水疱症」(すいほうしょう)という場合は自己免疫性または遺伝子の異常による先天性の特定の疾患を指します。後者の表皮水疱症という遺伝性の疾患はまれですのでここでは述べません。
自己免疫性水疱症には、表皮細胞間の接着構造に対して抗体をつくってしまう天疱瘡(てんぽうそう)群と、表皮と真皮の結合部位に対して抗体をつくる類天疱瘡(るいてんぽうそう)群があります。類天疱瘡群は類天疱瘡と後天性表皮水疱症に大別され、さらに類天疱瘡は水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)と粘膜類天疱瘡に分類されます(図1)。今回は頻度が高く問題になることが多いBPについて述べたいと思います。図1 水疱症の分類
高齢者に多い水疱性類天疱瘡(BP)
BPは高齢者に多く、全国の患者数は、資料によって約7,000~8,000人と記載されている場合もあれば、約15,000~20,000人と記載されている場合もあり、正確には不明です。筆者の感覚では軽症の患者さんを含めればもっと多く、「それなりの規模の高齢者施設であれば、1人や2人の患者さんがいても不思議はない」という印象です1)。
神経疾患(脳梗塞、認知症、パーキンソン病など)との合併や悪性腫瘍との合併率が高いことも指摘されていますが、どちらも因果関係ははっきりしていません。後者に対しては、可能であれば侵襲のない範囲での検索を考慮してもよいでしょう。
自己抗体が基底膜を破壊しBPが発症
表皮と真皮は基底膜という構造で接着されています(図2)。BPでは、この接着に関与するタンパク質に対する自己抗体がつくられ、基底膜が破壊されることによって症状が発生します。基底膜を構成するタンパク質にはいくつかありますが、主なものはBP180とBP230です。それぞれに対する抗BP180抗体と抗BP230抗体が産生されます。
なお、天疱瘡群は、表皮または粘膜上皮の細胞を接着するタンパク質に対する自己抗体がつくられることによって生じます。
図2 表皮・真皮間の微細構造
典型的な症状は水疱とかゆみ
典型的な例では水疱が多数出現します(図3)。基底膜が破壊されると、表皮と真皮の間に隙間ができて水疱が生じます。表皮全体が水疱の「蓋」になるため水疱の膜は厚く、中には液体が充満してテンションが高くなることから「緊満性」水疱と呼ばれます。水疱が破れるとびらんになります。
図3 BPでみられるさまざまな水疱
A:緊満性水疱とびらんを認めます。B:浸潤のある紅斑局面があり、その中に小さい水疱や大きい緊満性水疱がみられます。C、D:緊満性水疱、びらん、痂皮などが多数みられ、皮膚の症状としては重症の例です。E:診察するタイミングにもよりますが、この例のように血痂(「けっか」と読む。血液が乾固した状態のもの)やびらんがメインで、緊満性水疱が見当たらない場合もあります。
一方で、先に述べた尋常性天疱瘡では水疱は表皮内に生じます。水疱の蓋が薄く、すぐにびらんになってしまいます(図4)。水疱の中に出血して血疱になったり、診察する時期によっては水疱がつぶれて乾燥していたり、痂皮になっている場合もあります(図5)。
BPはかゆみが強いことが多く(「痒みシュラン」2)の三ツ星です)、炎症も起こるため紅斑もみられます。しかし、はっきりした水疱がみられないこともあるため注意を要します。
今回は省略しますが、結膜や口腔内、性器などの粘膜に病変が出る例(粘膜類天疱瘡)や、水疱が目立たず結節を形成する例(結節性類天疱瘡)もあります。
図4 尋常性天疱瘡
水疱蓋が薄いため、すぐにびらんになってしまいます。
図5 血疱や血痂となった例
水疱内に出血して血疱となり、さらにそれが破れて乾燥し、血痂になったもの/なりつつある状態が混在しています。
鑑別に迷うことがあり、意外に多くみられる疾患がネコノミ刺症(ししょう)です(図6)。BPと同様に緊満性水疱となりますが、ノミが跳ぶ高さである足首や下腿に水疱が集中する、野良猫が周囲にいるなどのエピソードから鑑別します。難しい場合は抗体の検査も考慮します。
図6 ネコノミ刺症
BPの検査と診断
BPは血液検査、蛍光抗体、皮膚生検から診断を行います。
(1)血液検査
血液中の抗BP180抗体の有無を調べます。2018年から保険収載されるようになり、BPの診断の助けになっています。これに加えて白血球中の好酸球の割合が増加したり、IgEが上昇したりする場合もあるため参考にします。
いくつか、注意点があります。a)一定の割合で抗BP180抗体が検出されず、抗BP230抗体が陽性となる例がある臨床症状でどちらの抗体が出そうか区別できれば楽ですが、今のところはっきりしていません。b)抗BP180抗体と抗BP230抗体の両者ともに陽性になることもある最初から両方検査したいものですが、抗BP230抗体は保険収載されていないので、自費での検査になります。検査会社によっても異なりますが、8,000円程度の費用がかかることが多いです。c)当初陰性であった自己抗体が、その後陽性になることもある症状からBPを疑ったにもかかわらず、抗BP180抗体が陰性で、その後時間をおいた再検査で陽性になった例を多数経験しています。
(2)蛍光抗体
直接法皮膚生検を行い、病変部(ここでは基底膜部)に自己抗体である免疫グロブリン(や補体)が沈着しているかどうかを、蛍光標識抗体を用いて調べる検査です。
間接法患者さんの血清が別の皮膚組織に反応するかどうかを評価する方法です。
(3)皮膚生検
皮膚生検では、まずヘマトキシリン・エオジン法と呼ばれる通常の組織染色法を用いて検査します。表皮の下に水疱がみられ、真皮内の細胞浸潤も一般には強く、好酸球も混ざっています。皮膚生検が行えるようなら、できれば(2)で述べた蛍光抗体直接法も行いたいところですが、一般の検査会社では取り扱いが(おそらく)ありません。総合病院や大学病院の病理部門や研究室に依頼するしかないと思われます。在宅では生検を行うこと自体のハードルがやや高いので、行えない場合も多いです。
BPの診断3)は、症状、検査所見(病理組織学的診断と免疫学的診断)、鑑別診断の3点からなり、一定の基準を満たした場合に確定診断となります。
DPP-4阻害薬によるBP発症に注意
以前から降圧薬、利尿薬、抗生物質などの薬剤によりBPが発症することが指摘されていました。近年では、糖尿病治療に用いられるDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬内服中の患者さんにBPが多くみられることも観察されており、薬歴の聴取は重要です。DPP-4阻害薬内服中の患者さんにBPが発症した場合、内科主治医に連絡して薬剤変更の依頼をしましょう。
重症度はBPDAIを用いて評価
BPDAI(bullous pemphigoid disease area index、略称は「ビーピーダイ」と呼びます)という、BPの重症度を判定するための基準があります3)。(1)皮膚のびらん/水疱(2)皮膚の膨疹/紅斑(3)粘膜のびらん/水疱について、個数や大きさをもとに点数化します。(1)から(3)それぞれの合計スコアを算出して軽症・中等症・重症を判定し、3つのうち最も高い重症度を採用します。
治療はステロイド内服で自己抗体を抑制
重症度により治療方針が決定されます。BPDAIの採点はそれほど難しくないので、BPDAIを用いて軽症から重症までの分類を行います。
軽症の場合
ごく軽い場合はⅡ群(very strong)またはⅠ群(strongest)のステロイド外用で症状を抑えられることもありますが、一般的には内服治療を必要とします。ステロイド内服が著効しますが、プレドニゾロン1日20mg程度でコントロールできることが多いです。治療が長期にわたることが多いため、感染対策、胃粘膜保護、骨粗鬆症対策を同時に行います。
BPに対する特殊な治療として、テトラサイクリンとニコチン酸アミドの併用療法が奏効することがあります。比較的軽症である場合や合併症でステロイド内服が困難である場合などに選択されます。
中等症・重症の場合
多い量のステロイド内服(プレドニゾロン換算で1日30~60mg程度)や、状況により免疫抑制剤や血漿交換なども必要となる場合があります。在宅での治療は難しいかもしれません。
指定難病の医療費助成が受けられる
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)は2015年7月から難病指定を受けており、医療費が助成されます。助成を受けるには難病指定医による届け出が必要です。また、届け出る前に先に述べた確定診断を行わなくてはいけません。BPDAIを用いた評価で中等症以上が対象となります4)。
患部の清潔を保ち感染予防ケアを
皮膚病変が広範囲にあると患部を洗うことを躊躇する患者・介護者もいると思います。ですが、水疱内から出てきた血漿成分や血液などが皮膚に残っていると細菌増殖の温床になる可能性もあるため、清潔にすることが重要です。低刺激の洗浄剤をよく泡立てて、泡で洗い、やさしくていねいにすすぎます。入浴についてはこすらないようにすれば構いませんが、シャワーにとどめておいたほうが無難かもしれません。
また、わずかな外力で水疱形成を誘発することがあるため、絆創膏を直接貼るのは避けます。病変部はガーゼ(場合によっては非固着性のガーゼ)を当てて、ネットや包帯などで固定しましょう。二次感染予防のために清潔に保つことも必要です。
執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社
【引用文献】1)袋秀平:水疱性類天疱瘡.Visual Dermatology 2020:19(12);1257-1259.2)塩原哲夫:痒みシュランとは…….Visual Dermatology 2003:2(9);873.3)類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会:類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン).日皮会誌 2017:127(7);1483-1521.4)厚生労働省:162類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む。) 指定難病の概要、診断基準等.https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001174368.pdf2024/12/13閲覧