疾患知識に関する記事

耳が痛い原因は?緊急対応が必要なケースと様子を見てもいいケースを解説
耳が痛い原因は?緊急対応が必要なケースと様子を見てもいいケースを解説
特集
2026年9月8日
2026年9月8日

耳が痛い原因は?緊急対応が必要なケースと様子を見てもいいケースを解説

耳の痛みは、子どもから高齢者まで幅広い世代に見られることがあり、その原因もさまざまです。耳そのものに異常がある場合もあれば、顎や鼻、喉の炎症が関係していることもあります。本記事では、耳の痛みを引き起こす病気や、緊急対応が必要なケースについて解説します。利用者さんが耳の痛みを訴えられた際のアセスメントに活用してください。 耳の痛みを引き起こす「耳の病気」 まずは、耳が原因で痛みを引き起こしている場合についてみていきましょう。 中耳炎 中耳炎には大きく分けて「急性中耳炎」「滲出性中耳炎」「慢性中耳炎」「真珠腫性中耳炎」の4種類があり、その中でも急性中耳炎は強い痛みを伴うことが特徴です。急性中耳炎は、風邪や上気道感染症の後に発症することが多く、鼻詰まりや鼻水、喉の痛み、咳などの症状に続いて耳の痛みが現れます。進行すると中耳に膿が溜まり、圧力によって鼓膜が膨張して痛みが増します。 外耳炎 外耳炎は、耳の穴から鼓膜までの通路である外耳道に炎症が起こる疾患です。外耳道の皮膚は非常に薄く、刺激に対して敏感なため、何らかの要因で傷ついたり、過度な刺激を受けたりすると、細菌が繁殖し炎症を引き起こすことがあります。初期症状は、軽いかゆみや違和感です。炎症が進行すると、耳の痛みが生じ、耳を引っ張ったり、口を開閉したりするだけで痛みが増すことがあります。 鼓膜炎 鼓膜炎は、外耳と中耳の間に位置する鼓膜に炎症が生じる疾患で、急性と慢性に分類されます。片側の耳に発症することが多く、両耳に同時に発生することは稀です。 急性鼓膜炎は、鼓膜の表面に黄色い水疱が現れます。激しい痛みが生じることが多く、耳鳴りや耳の閉塞感を伴うこともあります。一方、慢性鼓膜炎は、外耳道の繰り返される炎症や感染が原因となり、長期的に持続する疾患です。鼓膜の表面に肉芽やびらん(ただれ)が形成されますが、痛みはそれほど強くはありません。 耳の痛みを引き起こす「耳以外の病気」 耳の痛みが、耳以外の病気によって引き起こされる場合があります。代表的な疾患は次のとおりです。 顎関節症 顎関節症は、顎の関節やその周囲の筋肉に異常が生じることで、口の開閉時に痛みを感じたり、スムーズに口を開けられなくなったりする疾患です。顎関節症の中でも、II型に分類されるタイプは関節の靭帯に異常が起こります。顎関節は耳のすぐ近くに位置しているため、顎関節痛を耳の痛みと感じる場合があります。 副鼻腔炎 副鼻腔炎は、鼻の奥にある副鼻腔という空洞に炎症が生じる疾患です。鼻は耳管とつながっているため、耳の痛みや違和感など、耳の症状を併発することがあります。 急性副鼻腔炎では、鼻づまりや粘り気のある黄色・緑色の鼻水、頭痛、顔面痛(頬や目の奥、鼻周囲の痛み)・顔面腫脹、発熱などが主な特徴です。慢性副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎が完治せずに慢性化してしまったもので、鼻づまりが長引き、嗅覚の低下が見られることがあります。 歯のトラブル(虫歯・親知らずなど) 虫歯や親知らずの炎症が進行すると、歯茎が腫れ、周囲の組織にまで炎症が広がることで、神経を通じて耳の痛みを感じることがあります。これは、歯やあご、舌の下などとつながる神経が耳にも分布しているためです。 扁桃周囲膿瘍 扁桃炎が悪化すると、扁桃の周囲に膿がたまり、「扁桃周囲膿瘍」を引き起こすことがあります。のどの痛みが非常に強くなり、唾を飲み込む際にも激痛を伴います。そして、耳にまで痛みが広がることもあります。 ラムゼイ・ハント症候群 ラムゼイ・ハント症候群は、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で発症する疾患です。顔面神経麻痺に加え、耳の周囲や口の中に痛みを伴う発疹が現れることが特徴です。 医療機関を受診した方がよいケース 耳の痛みは、軽い違和感から強い痛みまでさまざまです。痛みの程度や持続時間によっては、すぐに医療機関を受診した方がよいケースも。医療機関を受診した方がよいケースは次のとおりです。 強い痛みがある 強い痛みがある場合は、急性中耳炎の可能性があります。子どもの場合、頻繁に耳を触ったり泣いたりしている場合は強い痛みが起きていることもあり、早めの受診が必要です。 耳の中から出血がある 耳の中から出血がある場合は、外耳炎が悪化している可能性があります。進行すると強い痛みが生じるため、早めの受診が必要です。 顔面麻痺を伴う場合 耳の痛みに顔面麻痺を伴う場合は、ラムゼイ・ハント症候群の可能性があります。放置すると後遺症が残るリスクが高まるため、顔の動きに違和感を覚えたらすぐに診察を受けることが重要です。 高熱が続く場合 急性中耳炎や扁桃周囲膿瘍などの感染症は高熱を伴うことが多く、長引く場合は合併症を防ぐためにも受診が必要です。特に小さな子どもや高齢者は重症化しやすい点に注意が必要です。 耳の痛みで様子を見てもよいケース 耳の痛みが軽度で、短時間で自然におさまる場合は、必ずしも受診する必要はありません。気圧の変化や耳垢の詰まりが原因であれば、数時間以内に症状が軽減することが多いとされています。 ただし、痛みが繰り返し起こる、または徐々に強くなる場合は、慢性的な炎症や病気が隠れている可能性があるため、早めの受診を検討しましょう。 * * * 耳の痛みは、軽度のものから重篤な疾患のサインであるものまでさまざまです。適切な判断を行うために、耳の痛みに関する正しい知識を持つことが重要です。今回、解説した内容を利用者さんのアセスメントにぜひお役立てください。 編集・執筆:加藤 良大監修:瀬尾 達(せお わたる)医療法人瀬尾記念会瀬尾クリニック理事長。耳鼻咽喉科専門医。クリニックでの診療の他、京都大学医学部講師や大阪歯科大学講師を兼任。祖父から代々の耳鼻科医の家系。兄は、聖マリアンナ医科大学耳鼻科教授。テレビやマスコミ出演多数。 【参考】〇日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「口腔・咽頭の病気」(2026年9月7日)https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=222026/9/7閲覧

帯状疱疹とは?症状・原因・治療を解説
帯状疱疹とは?症状・原因・治療を解説
コラム
2026年9月8日
2026年9月8日

帯状疱疹とは?症状・原因・治療を解説

帯状疱疹とは、体の片側に痛みやピリピリした違和感が出たあと、赤い発疹や水疱が帯状に現れる病気です。原因は、水痘と同じ水痘・帯状疱疹ウイルス(以下varicella zoster virus;VZV)です。子どものころなどに水痘にかかったあと、体内に潜んでいたウイルスが再び活動することで発症します。帯状疱疹は、早めに治療を始めることで症状の長期化や合併症のリスクを減らせる可能性があります。この記事では、帯状疱疹の症状、原因、うつる可能性、治療、訪問看護での観察ポイントを解説します。 帯状疱疹とは 帯状疱疹は、VZVによって起こる皮膚疾患です。VZVは、初めて感染したときに水痘を発症します。その後、ウイルスは神経節に潜伏し、加齢や疲労、病気、免疫機能の低下などをきっかけに再活性化することがあります。帯状疱疹は、この再活性化によって起こります。帯状疱疹の特徴は、体の左右どちらか一方に、神経の走行に沿って痛みや発疹が出ることです。胸や背中、腹部に出ることが多いですが、顔や首、腕、足に出ることもあります。また、皮膚症状だけでなく、神経痛をともなう点が特徴です。 帯状疱疹の初期症状 帯状疱疹の初期症状では、発疹が出る前に痛みや違和感が現れることがあります。東京都感染症情報センターでは、通常、皮膚症状の出現2〜3日前から、かゆみや痛みが出現し、初期には皮膚が赤く腫れると説明しています。初期症状としては、以下のようなものがあります。 皮膚がピリピリする チクチクした痛みがある かゆみがある 触れると痛い 体の片側だけに違和感がある 発赤が出る 倦怠感の有無 軽い発熱がある 初期には発疹がまだ目立たないため、筋肉痛、肩こり、腰痛、虫刺され、かぶれなどと間違えられることがあります。特に、片側だけにピリピリした痛みが続く場合や、その後に赤い発疹や水疱が出てきた場合は、帯状疱疹の可能性があります。 帯状疱疹の症状 帯状疱疹では、痛みや違和感のあとに、赤い発疹や水疱が現れます。水疱は神経に沿って帯状に並ぶことが多く、数日かけて増える場合があります。 主な症状は以下のとおりです。 体の片側に出る痛み 赤い発疹 水疱 かゆみ 皮膚の灼熱感 触れるだけで痛い感覚 発熱 頭痛 倦怠感 多くの場合は適切な治療によって改善しますが、強い痛みを伴うことがあります。また、免疫機能が低下している方などでは重症化し、まれに重篤な合併症を起こすことがあります。最も一般的な合併症として帯状疱疹後神経痛が知られており、発疹が治った後も痛みが残ることがあります。 顔に帯状疱疹が出た場合は、目の症状に注意が必要です。目の周囲に発疹がある、目が痛い、見えにくい、まぶしいなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 帯状疱疹の原因 帯状疱疹の原因は、水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化です。子どものころなどに水痘にかかると、症状が治った後もウイルスは体内の神経節に潜んでいます。その後、免疫機能が低下したときに再び活動し、神経に沿って皮膚症状や痛みを起こします。 帯状疱疹のきっかけになりやすい要因には、以下があります。 加齢 過労や強いストレスなどによる免疫機能の低下 がんなど、免疫機能に影響する基礎疾患 免疫を抑える薬の使用 手術や放射線治療 高齢者や基礎疾患のある方では、症状が重くなることがあります。訪問看護や在宅ケアでは、皮膚の症状だけでなく、痛みの強さ、食欲、睡眠、発熱、活動量の変化もあわせて確認することが大切です。 帯状疱疹はうつる? 帯状疱疹そのものが人から人へうつるわけではありません。ただし、VZVへの免疫がない人にウイルスが感染すると、水痘を発症する可能性があります。主に水疱の内容液との接触などによって感染するため、水疱が痂皮化するまでは感染対策が必要です。感染を広げないためには、以下の点に注意します。 水疱をガーゼや衣類で覆う 発疹を触らない 触れたあとは手を洗う タオルを共有しない 水疱が痂皮化するまで接触に注意する 妊婦、乳幼児、免疫機能が低下している方との接触に注意する 訪問看護では、利用者さん本人が発疹を掻把してしまうこともあります。掻把による細菌感染を防ぐためにも、爪を短くし、患部を清潔に保つことが大切です。 帯状疱疹の治療 帯状疱疹の治療では、早期に抗ウイルス薬による治療を始めることで、皮膚症状の治癒を促し、急性期の痛みを軽減することが期待できます。 治療で使われることがある薬には、以下があります。 抗ウイルス薬 解熱鎮痛薬 神経痛に対する薬 外用薬 皮膚の二次感染に対する薬 帯状疱疹は、発症から早い段階で治療を始めることが重要です。片側だけの痛みや発疹、水疱が出た場合は、自己判断で様子を見続けず、早めに医療機関へ相談しましょう。 帯状疱疹後神経痛とは 帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia:PHN)とは、帯状疱疹による皮疹が治った後も痛みが続き、一般に3か月以上持続する状態を指します。痛みの感じ方は人によって異なり、焼けるような痛み、刺すような痛み、衣類が触れるだけで痛い感覚などがみられることがあります。日本皮膚科学会によると、帯状疱疹後神経痛は、60歳以上の方、発疹が重かった方、初期の痛みが強かった方に起こりやすいとされています。痛みが長引くと、睡眠、食事、活動量、気分にも影響することがあります。訪問看護では、痛みの部位、強さ、持続時間、生活への影響を確認し、必要に応じて医師へ報告します。 帯状疱疹ワクチン 厚生労働省は、帯状疱疹ワクチンによって帯状疱疹やその合併症を予防できると説明しています。また、2025年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が、予防接種法に基づく定期接種の対象になりました。なお、2025年度から2029年度までの5年間は経過措置として、その年度内に70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳になる方も対象です。また、60〜64歳で、HIVによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方も対象となります。日本で定期接種に使われる帯状疱疹ワクチンには、生ワクチンと組換えワクチンがあります。接種対象、接種回数、接種できない方、注意が必要な方はワクチンによって異なります。基礎疾患がある方や免疫抑制剤の投与を受けている方は、接種前に主治医へ相談しましょう。 訪問看護での観察ポイント 訪問看護や介護の現場では、帯状疱疹の症状を早く見つけ、痛みや感染対策、生活への影響を確認することが大切です。確認したいポイントは、以下のとおりです。 痛みがいつからあるか 痛みの部位 痛みの強さ 体の片側に出ているか 発赤や水疱の有無 発疹の広がり 発熱の有無 食事量や水分摂取量 睡眠や活動への影響 掻把の有無 目の周囲の症状 妊婦、乳幼児、免疫機能が低下している方との接触状況 記録する場合は、以下のように書くと共有しやすくなります。 「昨日から右胸部にピリピリした痛みあり。本日、同部位に赤い発疹と小水疱を確認。発熱なし。衣類が触れると痛みあり。食事摂取は普段どおり。」 「左額からまぶた周囲に発疹あり。目の痛みと違和感の訴えあり。主治医へ相談し、受診することになった。」 このように、痛みの部位、左右差、発疹の状態、目の症状の有無を具体的に伝えることが大切です。 受診を考えたい症状 帯状疱疹が疑われる場合は、できるだけ早めに医療機関へ相談しましょう。特に、以下のような場合は注意が必要です。 体の片側に強い痛みがある 赤い発疹や水疱が出てきた 顔や目の周りに発疹がある 目の痛みや見えにくさがある 発熱や強いだるさがある 痛みで眠れない 発疹が広範囲に広がっている 免疫機能が低下している 高齢者で症状が強い 妊婦や乳幼児と接触する機会がある 額・まぶた・鼻など目の周囲に帯状疱疹が疑われる発疹がある場合は、眼症状がなくても早めに医療機関へ相談しましょう。 まとめ 帯状疱疹は、水痘と同じVZVが再び活動することで起こる病気です。初期症状として、体の片側にピリピリした痛みや違和感が出ることがあり、その後、赤い発疹や水疱が帯状に現れます。帯状疱疹は、早期に治療を始めることで、症状の長期化や帯状疱疹後神経痛などの合併症を緩和できる可能性があります。片側だけの痛み、発疹、水疱がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。訪問看護では、痛みの部位、発疹の広がり、発熱、食事や睡眠への影響、目の症状の有無を観察することが大切です。ワクチンによる予防も選択肢のひとつであり、対象年齢の方や基礎疾患がある方は、主治医に相談して検討しましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】● 厚生労働省:「帯状疱疹ワクチン」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/shingles/index.html,2026/9/7閲覧● 国立健康危機管理研究機構:「水痘・帯状疱疹の動向とワクチン」.https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/varicella-m/varicella-iasrtpc/8223-462t.html,2026/9/7閲覧● 東京都感染症情報センター:「帯状疱疹 Shingles(Herpes Zoster)」.https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/herpes_zoster/,2026/9/7閲覧● CDC:「Shingles(Herpes Zoster)」.https://www.cdc.gov/shingles/about/index.html,2026/9/7閲覧● CDC:「Shingles Vaccine Recommendations」.https://www.cdc.gov/shingles/hcp/vaccine-considerations/index.html,2026/9/7閲覧● 日本皮膚科学会:「Q11 帯状疱疹とは何ですか?」.https://qa.dermatol.or.jp/qa5/q11.html,2026/9/7閲覧● 日本皮膚科学会:「Q20 帯状疱疹後神経痛とはどういうものですか?」.https://qa.dermatol.or.jp/qa5/q20.html,2026/9/7閲覧

多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解
多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解
特集
2026年8月18日
2026年8月18日

多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回は、「多疾患併存(multimorbidity、マルチモビディティ)」を取り上げます。東京ふれあい医療生活協同組合 ふれあいファミリークリニックの角允博先生に、多疾患併存に対する緩和ケアにおいて必要とされる支援について解説いただきます。 はじめに 多疾患併存とは、一般的に2つ以上の慢性疾患が1人の患者に並存している状態と定義されます1)。またQOLの低下、死亡率、ポリファーマシー、転倒、入院などのリスク増加との関連が示されており、国際的にも喫緊の課題に挙げられています2)。 本稿では、多疾患併存に対する緩和ケアの意義と課題を、「なぜ」「いつ」「どのように」の3つの観点から検討します。 なぜ多疾患併存の緩和ケアが求められるのか WHOの緩和ケアの定義は「緩和ケアは生命を脅かす病に直面する患者と家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に発見・評価し対応することで苦痛を予防・緩和するアプローチ」とされています 3)。 日本ではこれまで緩和ケアはがん中心に発展してきましたが、この定義に照らせば対象はすべての重篤疾患であり、がん以外の慢性疾患にも対応する体制整備が急務とされています。また、これまでは単一疾患に対する緩和ケアが主体でしたが、現在のわが国の超高齢者の多くは認知症や心不全、COPD、脊柱管狭窄症など複数の慢性疾患・障害の連鎖の中で終末期を迎えています。こうした患者群では疾患間の相互作用や医療的介入の複雑化により、身体的・心理社会的苦痛が重層化しています。したがって、疾患単位の管理を超えた緩和ケアが今、求められているのです。 多疾患併存の緩和ケアをいつ提供するのか 多疾患併存の軌跡は一見予測不可能なため、終末期を特定することがしばしば困難です。多疾患併存の中でも、慢性的で治癒不可能な性質を反映している「Advanced multimorbidity」 (高度な多疾患併存)という概念がありますが、近年のレビューでは緩和ケアを必要とする多疾患併存症の患者をどのように認識し、どの時期に緩和ケアを提供することが望ましいかは明らかではありません4)。 「サプライズクエスチョン」による特定方法 終末期を迎え、緩和ケアを必要とする可能性のある患者を特定するための方法の1つに、「サプライズクエスチョン」というシンプルな質問法があります。これは、「患者が12ヵ月以内に亡くなっても驚きませんか?」と医師や看護師が自問し「驚かない」と回答することで緩和ケア対象者を同定する方法です。 サプライズクエスチョンを検討したメタアナリシスでは、「驚かない」と回答した場合のその後の死亡率を感度として0.69、「驚く」と回答した場合のその後の死亡率を特異度として0.69であり、中等度の精度を示しました。ただし、セッティング、追跡期間、回答者により、ばらつきがみられました5)。 「治療負担」という考え方 また、多疾患併存への緩和ケアの開始は、治療負担の概念から考えることもできます。Mayらは、慢性疾患患者や長期医療を受ける人々にとって、病気そのもの(症状、制約、合併症など)から生じる負担(burden of illness)に加えて、医療制度・治療プロセス・自己管理から生じる「治療負担」(burden of treatment)という別の重みがあると論じ、注意喚起をしています6)。 これらの負担に対応する能力はcapabilityと呼ばれ、負担とのバランスが崩れると個々の患者の医療成果が悪化するだけでなく、介護者の負担が増大し、さらに医療サービスの需要とコストが増加する可能性が指摘されています7)。これをふまえ、多疾患併存の各疾患の医療制度・治療プロセス・自己管理が患者や介護者の生活にどのような影響を及ぼしているかを把握し、医療者と生活者である患者の間で調整を行うことが重要です。 この調整は、今まで疾患治癒を目的としていた医療的介入を縮小し、症状緩和や患者家族の生活を配慮したケアにシフトするアプローチです。医療従事者が多疾患併存への治療介入自体が患者にとって生活負担になっていると感じる時こそ、緩和ケアの契機になると考えられます。 多疾患併存に対してどういった緩和ケアを行うか 多疾患併存にどのような緩和ケアを行うかは明らかになっていない点が多いですが、多疾患併存に対する緩和ケアのニーズをまとめた先行文献8)、9)を参考に、どういった緩和ケアが必要かを考察します。 (1)身体的苦痛 多疾患併存の身体的苦痛では、痛みと移動の困難が最も多いといわれています8)。日常臨床でも心不全、腎不全などの内部疾患に伴う疼痛、変形性膝関節症や脊柱管狭窄症などの整形疾患、帯状疱疹後神経痛など多様な痛みを訴える患者に遭遇します。さらに認知機能障害を合併した場合、疼痛の評価は困難となることも多くあります。 症状は疾患間で相互作用を及ぼし、一連の疾患をそれぞれ個別に治療し、他疾患を考慮に入れないことは非効率的で、潜在的に有害であることを考慮する必要があります10)。 移動の困難については、介護保険サービスによるリハビリテーションや福祉用具を活用してサポートしているのが現状ですが、「移動が困難であること」それ自体が患者の「苦痛」であることを認識しておく必要があります。これらの身体的苦痛は、後述する心理社会的・スピリチュアルな苦痛と混在し、その表現型として疼痛を訴える場合もあり、解釈には注意を要します。 (2)心理社会的苦痛 Nicholsonらの研究によると、多疾患併存の患者とその介護者は、身体的なニーズには十分に対応されていると考えていた一方で、心理社会的およびスピリチュアルなニーズへのサポートが不足していると認識していました。 心理面では「不幸」「孤独」「不安」「抑うつ」、社会面では「社会的なつながりの維持」「個性とアイデンティティの維持」「介護者への信頼」「家族のサポート」がテーマとして抽出されました8)。心理面は社会面とも密接に関係し、患者本人だけでなく、対応する家族や介護者への教育的サポートも必要であると示されています。 社会的なつながりの維持については、患者と介護者の双方において指摘されています。患者自身も機能の低下によって社会と断絶されることは容易に想像されますが、介護者もまたフルタイムの介護を提供することで、社会的接触が減少し、友人、隣人、地域社会からの孤立感を訴えます。 実臨床において、介護者が患者に信頼され、家族がサポートできる体制をとれているケースがすべてではありません。その結果、患者家族は施設入所を選びますが、介護施設で問題になるのが多数の入居者の中で個性とアイデンティティを維持することです8)。こういった社会的苦痛に現行の介護保険制度の枠組みだけで対応していくことは困難であり、介護施設を含め、介護を社会にひらいていく上での新たな取り組みも必要であると考えられます。 (3)スピリチュアルペイン さらに、Nicholsonらによる研究では、多疾患併存のスピリチュアルに対するニーズは、「意味と目的」「悲しみと喪失」「宗教性および宗教的嗜好」「現在をよく生きること」の4つのテーマに分類されています8)。がん患者において、時間存在である人間は、過去から将来をつなぐ時間の中で現在を生きていますが、罹患し将来がみえなくなることで現在の生に意味や存在が成立しなくなるといわれています11)。この時間存在の概念は、「意味と目的」や「現在をよく生きること」といったニーズに関連します。 多疾患併存の高齢者は、長期にわたる臨床経過の中で、こうした実存的な課題に直面しているのです。時にそれはスピリチュアルペインほど強くない訴えで、身体的・心理社会的苦痛と混在して表出されるため、これを識別・認識するのがしばしば困難になります。 臨床では、「もう生きていてもしょうがない」「早く迎えが来ないかな」「迷惑ばかりかけている」といった言葉を耳にすることも少なくありません。ここではそれをメッセージとして受け取り、言語化し、それを相手に返していく作業が大切です。元来、スピリチュアルペインの概念はがん領域で問題になることが多くありましたが、訪問看護を含めた在宅医療従事者はこの問題に今後、普遍的に取り組む必要があると考えます。 まとめ 本稿では、多疾患併存に対する緩和ケアの必要性、導入時期、提供方法について検討しました。多疾患併存の緩和ケアは、緩和ケア領域のみならず在宅医療やプライマリケアの現場でも喫緊の課題です。今後、臨床実践と研究の両面から、患者の多層的な苦痛を的確に理解し支える枠組みの構築が期待されます。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)QOL:quality of life(生活の質)WHO:world health organization(世界保健機関)COPD:chronic obstructive pulmonary disease(慢性閉塞性肺疾患) 執筆:角 允博東京ふれあい医療生活協同組合 ふれあいファミリークリニック 東京都足立区小台宮城で家庭医・在宅医として外来、在宅を通じプライマリケアに従事。多疾患併存における臨床的複雑性と意思決定にチームで取り組んでいる。 編集:株式会社照林社 【参考文献】 1)Valderas JM,Starfield B,Salisbury C,et al.:Defining comorbidity:implications for understanding health and health services.Ann Fam Med 2009;7(4):357-363.2)Multimorbidity:clinical assessment and management.NICE guideline,2016.https://www.nice.org.uk/guidance/ng562026/8/10閲覧3)日本ホスピス緩和ケア協会:WHO(世界保健機関)の緩和ケアの定義(2002年)https://www.hpcj.org/info/history.html2026/8/10閲覧4)Bowers SP,Black P,McCheyne L,et al.:Descriptions of advanced multimorbidity:A scoping review with content analysis.J Multimorb Comorb 2025;15:26335565251326309.5)Gupta A,Burgess R,Drozd M,et al.:The Surprise Question and clinician-predicted prognosis:systematic review and meta-analysis.BMJ Support Palliat Care 2024;15(1):12-35.6)May CR,Eton DT,Boehmer K,et al.:Rethinking the patient:using Burden of Treatment Theory to understand the changing dynamics of illness.BMC Health Serv Res 2014;14:281.7)May C,Montori VM,Mair FS:We need minimally disruptive medicine.BMJ 2009;339:b2803.8)Nicholson CJ,Combes S,Mold F,et al.:Addressing inequity in palliative care provision for older people living with multimorbidity.Perspectives of community-dwelling older people on their palliative care needs:A scoping review.Palliat Med 2023;37(4):475-497.9)Llop-Medina L,Fu Y,Garcés-Ferrer,et al.:Palliative Care in Older People with Multimorbidities:A Scoping Review on the Palliative Care Needs of Patients,Carers,and Health Professionals.Int J Environ Res Public Health 2022;19(6):3195.10)Hourican C,Peeters G,Melis R,et al.:Understanding multimorbidity requires sign-disease networks and higher-order interactions,a perspective.Front Syst Biol 2023;3:1155599.11)村田久行:終末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケア.日ペインクリニック会誌 2011;18(1):1–8.

食中毒症状とは?観察と受診の目安
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コラム
2026年8月18日
2026年8月18日

食中毒症状とは?観察と受診の目安

食中毒では、下痢、腹痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状がみられます。原因となる細菌やウイルス、寄生虫、自然毒などによって、症状の出方や発症までの時間は異なります。訪問看護や在宅ケアの現場では、「何を食べたか」だけでなく、「いつから症状が出たか」「水分が取れているか」「尿量が減っていないか」などを確認することが大切です。この記事では、食中毒でみられる主な症状、注意したいサイン、在宅での観察ポイントを解説します。 食中毒とは 食中毒とは、細菌やウイルス、有害な物質などが含まれた食品を食べることで、腹痛や下痢、嘔吐などの症状が起こる状態です。厚生労働省では、食中毒の原因として、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、リステリア、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、ノロウイルス、アニサキス、毒キノコ、有毒植物などを挙げています。 食中毒は夏に多いイメージがありますが、原因によって流行しやすい時期は異なります。たとえば、細菌性食中毒は気温や湿度が高い時期に増えやすく、ノロウイルスによる食中毒は冬に多くみられます。ただ、季節だけで判断せず、症状や食事内容、周囲の流行状況をあわせて確認することが大切です。 食中毒でみられる主な症状 食中毒の症状は、原因によって異なりますが、よくみられる症状には以下があります。 下痢 腹痛 吐き気 嘔吐 発熱 倦怠感 頭痛 悪寒 脱水症状 胃痛や腹部けいれん 重症の食中毒では、血便、3日以上続く下痢、高熱、頻回の嘔吐、脱水症状がみられることがあります。 高齢者や小児、妊婦、基礎疾患のある方、免疫機能が低下している方では、症状が重くなることがあります。特に在宅療養中の利用者さんでは、普段の体調や食事量、内服薬の影響も含めて観察することが重要です。 症状が出るまでの時間 食中毒は、食べてすぐに症状が出るものもあれば、数日後に症状が出るものもあります。発症までの時間は、原因を考えるうえで手がかりになります。厚生労働省が発表している、発症までの目安は次の通りです。 原因の例発症までの目安主な症状黄色ブドウ球菌30分〜6時間程度吐き気、嘔吐セレウス菌 嘔吐型30分〜6時間程度吐き気、嘔吐ウエルシュ菌6〜18時間程度腹部膨満、腹痛、下痢ノロウイルス24〜48時間程度吐き気、嘔吐、下痢、腹痛カンピロバクター2〜7日程度下痢、腹痛、発熱、嘔吐、吐き気腸管出血性大腸菌3〜8日程度腹痛、下痢、血便 ただし、同じものを食べても、全員が同じ症状になるとは限りません。年齢、体調、食べた量、基礎疾患などによって症状の強さは変わります。 注意したい症状 食中毒が疑われる場合でも、症状が軽く、水分が取れていて、尿が出ている場合は、主治医へ報告したうえで、点滴など特別な処置はせず様子を見ることがあります。一方で、以下のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 3日以上続く下痢 嘔吐が続き、水分が取れない 血便がある 強い腹痛がある 高熱がある 尿量が明らかに少ない 口の中が乾いている 立ち上がるとふらつく ぐったりしている 意識がぼんやりしている 乳幼児、高齢者、妊婦、基礎疾患のある方に症状がある 特に、乳幼児や高齢者などにおいて、血便や強い腹痛がある場合は注意が必要です。腸管出血性大腸菌では、溶血性尿毒症症候群 や脳症などの重症合併症を発症する場合があります。 脱水症状に注意する 食中毒で特に注意したいのが脱水症状です。下痢や嘔吐が続くと、水分だけでなく電解質も失われます。高齢者では、のどの渇きを感じにくいことがあり、気づかないうちに脱水が進むことがあります。在宅では、以下のような変化を確認します。 尿量が少ない 尿の色が濃い 口唇や舌が乾いている 皮膚や口腔内が乾燥している 立ちくらみがある 脈が速い 血圧がいつもより低い ぼんやりしている 食事や水分が取れていない 嘔吐がある場合は、一度に多く飲むと吐き気が強くなることがあります。少量ずつ、こまめに水分を摂れるか確認します。経口補水液を使う場合は、基礎疾患や水分制限の有無にも注意し、必要に応じて医師や看護師に確認しましょう。 在宅での観察ポイント 訪問看護や介護の現場では、症状だけでなく、発症前後の食事内容や生活状況を確認します。食中毒は原因の特定が難しいこともありますが、以下の情報を整理しておくと、医師や保健所への相談時に役立ちます。 症状が始まった日時 主な症状 下痢や嘔吐の回数 便の性状 血便の有無 体温 腹痛の部位と強さ 水分摂取量 食事摂取量 尿量と尿の回数 食べたもの 同じものを食べた人の症状 服薬状況 基礎疾患 普段の状態との違い たとえば、以下のように記録すると共有しやすくなります。 「昨日夕食後から吐き気あり。本日朝までに嘔吐3回、水様便4回。体温37.8度。水分は少量ずつ摂取できているが、尿は朝から1回のみ。昨日、家族と同じ刺身を摂取。家族1名にも下痢あり。」 このように、「いつから」「何回」「何を食べたか」「水分と尿量はどうか」をまとめると、状態の変化が伝わりやすくなります。 感染を広げないための対応 食中毒の原因によっては、家庭内や施設内で感染が広がることがあります。特にノロウイルスは、ふん便や吐ぶつから人の手などを介して二次感染することがあります。厚生労働省は、ノロウイルスの感染経路として、感染者のふん便や吐ぶつからの二次感染、食品取扱者を介した食品汚染、加熱不十分な二枚貝、消毒不十分な水などを挙げています。感染拡大を防ぐためには、手洗い、吐ぶつやふん便の適切な処理、調理器具の洗浄、食品の十分な加熱が大切です。厚生労働省は、ノロウイルス対策として、調理器具や食器、ふきんなどを洗剤で洗い、熱湯85度以上で1分以上加熱する方法などを紹介しています。在宅では、トイレやドアノブなど、手が触れやすい場所の清掃も重要です。介助者が処理を行う場合は、手袋やマスクを使用し、処理後は石けんと流水で手を洗います。 食中毒を予防する基本 食中毒予防の基本は、菌やウイルスを「つけない」「増やさない」「やっつける」ことです。政府広報オンラインでも、家庭での食中毒予防として、食品の購入、保存、下準備、調理、食事、残った食品の取り扱いなど、各場面で注意することを紹介しています。具体的には、以下のような対策があります。 調理前や食事前に手を洗う 生肉や魚を扱った調理器具を使い回さない 食品を室温に長時間置かない 冷蔵・冷凍が必要な食品は早めに冷蔵庫・冷凍庫に保存する 肉や魚は中心部まで十分に加熱する 残った食品は早めに冷やし、十分に再加熱して食べる 消費期限を確認する 体調不良時は調理を控える 訪問看護では、利用者さんや家族の調理環境、冷蔵庫の管理、食事の保存方法なども確認できる範囲で見ておくとよいでしょう。 まとめ 食中毒では、下痢、腹痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状がみられます。原因によって、食後すぐに症状が出る場合もあれば、数日後に発症する場合もあります。在宅ケアでは、症状だけでなく、発症した時間、食べたもの、下痢や嘔吐の回数、水分摂取量、尿量、普段との違いを確認することが大切です。血便、強い腹痛、高熱、水分が取れない、尿量が少ない、ぐったりしているなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。食中毒は、予防と早期対応が重要です。日ごろから手洗い、食品の適切な保存、十分な加熱を意識し、症状が出たときには脱水や重症化のサインを見逃さないようにしましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】● 厚生労働省:「食中毒」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html,2026/8/10閲覧● 厚生労働省:「感染性胃腸炎(特にノロウイルス)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/norovirus.html,2026/8/10閲覧● 厚生労働省:「食事にひそむキケン~おいしく安全に食べるヒント」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202406_003.html,2026/8/10閲覧● 政府広報オンライン:「食中毒予防の原則と6つのポイント」https://www.gov-online.go.jp/article/20110602/entry-8196.html,2026/8/10閲覧● CDC:「Food Poisoning Symptoms」https://www.cdc.gov/food-safety/signs-symptoms/index.html,2026/8/10閲覧

表皮水疱症の再生医療(自家培養表皮移植)【特別トークセッション 第4回】
表皮水疱症の再生医療(自家培養表皮移植)【特別トークセッション 第4回】
インタビュー
2026年8月12日
2026年8月12日

表皮水疱症の再生医療(自家培養表皮移植)【特別トークセッション 第4回】

国内での実施例がいまだ数十例に留まる、表皮水疱症の「自家培養表皮移植」。先進的な選択肢である一方、未知の治療に対する医療者側の心理的ハードルの高さも課題となっています。本連載では、自家培養表皮移植による再生医療を行う蒲郡市民病院の医師、皮膚・排泄ケア認定看護師、高校2年生の当事者・山崎璃斗さんとお母様をお迎えしたトークセッションの模様を全4回でお届けします。連載最終回は、璃斗さんが経験した再生医療について詳しく伺います。 久保 良二(くぼ りょうじ)先生蒲郡市民病院 皮膚科 部長。日本専門医機構認定皮膚科専門医。専門領域は乾癬、白斑、褥瘡。名古屋市立大学医学部臨床准教授、蒲郡市民病院特定認定再生医療等委員会委員。藤田 順子(ふじた じゅんこ)さん蒲郡市民病院 看護部/皮膚・排泄ケア特定認定看護師。山崎璃斗さんの同院での初めての手術をきっかけに介入を開始。 山崎 璃斗(やまざき りと)さん栄養障害型表皮水疱症の当事者。現在はS高等学校(通信制)の2年生。幼少期より皮膚や粘膜の脆弱性に伴う広範な創傷や、関節の拘縮(屈曲変形)などの症状を抱えながら療養を継続。2020年より蒲郡市民病院にて自家培養表皮による再生医療を複数回受けている。山崎 奈美(やまざき なみ)さん璃斗さんの母 / 看護師・DebRA Japan(表皮水疱症友の会)所属。璃斗さんの誕生直後から日々の洗浄・ガーゼ処置・栄養管理を担ってきた。最新の知見を集めながら、在宅ケアを実践。救命救急受付の仕事に就いている。取材協力蒲郡市民病院株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC) ※本文中一部敬称略※本記事は、2026年6月4日時点の情報をもとに構成しています。 表皮水疱症における再生医療の位置づけ ――璃斗さんは、今回の治療をきっかけにQOLの変化を実感されたと伺っています。まずは、表皮水疱症における再生医療(自家培養表皮移植)がどのようなものか教えてください。 久保:  表皮水疱症において、再生医療は心強い存在になり得る治療法と考えています。流れとしては、治療が決まったらまずご本人の皮膚を小指の先くらい(約2平方センチメートル)採取します。それを再生医療メーカーの担当者さんに渡して約4週間かけて培養してもらうと、50枚ほどの表皮シートができるんです。出来上がる時期に合わせてご本人の入院日やどこに何枚移植するかを調整し、手術を行います。 ――患者様ご本人の皮膚を使用する治療法ということで、特性やメリットがある一方で、今後の普及にあたっての課題などはどのような点にあるのでしょうか。 久保: 現実的にこの治療がそれほど広がっていないのは、患者様に提案する以前に「医療者側が最初の一歩を乗り越えられない」問題が大きいからです。医療者の多くが実際にこの病気を診たことがない上に、再生医療という「やったことがない最先端の治療」を行うわけですから、重い腰が上がらないのです。当院が実践できているのは、病院や行政が再生医療に非常に協力的で、再生医療メーカーが近くにあるという点が大きいでしょう。 再生医療を選択した経緯 ――当時、お母様や璃斗さんご自身には、治療法の選択について迷いや葛藤はありましたか。 山崎(母): 表皮水疱症は症状がつらい病気ですから、なんとか良くしてあげたいという思いでずっと治療は検討していました。DebRA Japan(表皮水疱症友の会)がいつも最先端の医療情報を発信してくれていたので、大変参考にしていました。当時は再生医療のほかに骨髄移植の治験が始まるというお話もあったのですが、海外のデータも参照しながら、リスクと照らしあわせて我が家の場合は見送りました。本人の皮膚を用いた再生医療という新しい選択肢があり、それを地元の蒲郡市民病院で受けられると分かった時は、この治療を選ぶことに迷いはありませんでした。 ――実際の治療の流れや、入院中の璃斗さんの様子はいかがでしたか。 山崎(母): 最初は全身麻酔で、一気に数十枚の移植をしていただきました。まだ子どもだったので私も布団を持って行って、1週間以上一緒に病室で寝泊まりしていましたね。 璃斗: 手術が終わった直後は、移植したところが動かないように全身ガチガチに固められるので、まったく動けなくなるのがつらかったです。あとは、全身麻酔のあとの吐き気や抜糸の痛みもきつかったですね。 久保: 全身麻酔の時は、一度にたくさん移植していたので、抜糸もかわいそうでしたね…。小児科の先生にお願いして、強い鎮痛薬を使ったこともありました。最近は璃斗くんも大きくなって全身麻酔が難しくなり、ご本人も頑張ってくれるようになったので、局所麻酔で1枚〜2枚をピンポイントで移植するスタイルに変えています。 歩けることがうれしい。治療後の生活の変化 ――再生医療を受けて、璃斗さんの日常生活にはどのような変化が現れましたか。 璃斗: まずは手術後に皮膚の状態も落ち着いて、負担を感じず歩けるようになったと思います。気持ちの面でもストレスなく、外に出られるようになったことが、一番嬉しい変化ですね。 山崎(母): 再生医療を受ける前は、膝や足の指を動かすのも大変だったもんね。それが、自家培養表皮移植を受けて皮膚の状態が落ち着いてからは、歩行がとても自然に行えるようになったんです。 久保: 最初に来られたころに比べると、歩き方や歩行の様子がスムーズになり、確かな変化を感じています。また皮膚の状態が安定したことで、栄養バランスも整いやすくなり、身長や体重といった体の成長も感じ取ることができています。 藤田: 初めて会ったときから、約30㎝身長が伸びていますから…本当に大きくなりましたよね。私たちにとっても璃斗くんの成長はとても嬉しいです。 在宅支援のこれから「医療と生活をつなぐ役割」 ――璃斗さん、蒲郡市民病院の医療者の方々にメッセージをお願いします。 璃斗: 僕を担当してくれた久保先生や藤田さん、病棟の看護師さんたちは、血圧を測る時もチューブ包帯を巻いて傷つかないようにしてくれますし、何かをする前は必ず声をかけて確認してくれます。いつもすごく気にかけて優しく声をかけてくれてありがたいです。 ――ありがとうございます。最後に、藤田さん、久保先生、お母様から他の医療者に向けたメッセージをお願いします。 藤田: 私は、表皮水疱症のケアにおいて多職種連携が何より大事だと学びました。看護師1人だけでは絶対にできませんでした。病棟スタッフ、主治医、他の看護師、栄養士、再生医療メーカーの担当者さんなど、本当にいろんな方に助けてもらいました。 訪問看護師の皆さんも、自分たちだけで抱え込まないほうがよいと思います。心配な時は認定看護師の同行訪問などの制度を活用し、専門の看護師を巻き込むのもひとつの手です。表皮水疱症の患者様は、普段のケアを少しストップするだけで一気に悪くなってしまう特殊性もあります。1人で抱え込まずに、みんなで支える体制を作ってほしいです。 久保: 藤田さんも言っている通り、表皮水疱症は多職種で見ていく病気です。医師の場合も、再生医療に取り組みたい場合、1人で始めるのではなく、病院全体を巻き込んだ「チーム」で始めてほしいですね。まずは「お試しで2枚だけやってみよう」というくらいのスモールスタートで、一歩を踏み出してほしいなと思います。 山崎(母): この病気は本当に毎日が痛みの連続です。その痛みを少しでも軽減できる治療があるなら、チャレンジしたいと思う人が多いでしょう。ただ、全国的にはまだまだ治療を行っている病院が少ないので、少しでも多くの医療者の方に理解いただき、「こういう治療があるよ」とご本人やご家族に提案してもらえる世の中になったらうれしいなと思います。 また、我が家は訪問看護を利用するチャンスがありませんでしたが、子どもが小さいころはお風呂に入れるだけでもパニックで、「目を離したら万が一のことがあるのでは」と毎日神経をすり減らしていました。訪問看護師さんが来てくれて、ガーゼを巻くのを手伝ってくれたり、お話を聞いてくれたりするだけでも、ご家族の心はものすごく楽になると思います。「やりに来るだけ」じゃなくて、親の精神を支えてくれるような訪問看護師さんが地域に増えてくれたら本当にありがたいです。 ――大変貴重なお話をありがとうございました。 取材・執筆・編集: NsPace編集部 【参考】 〇難病情報センター「表皮水疱症(指定難病36)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/53382026年8月12日閲覧

表皮水疱症の食事&栄養管理【特別トークセッション 第3回】
表皮水疱症の食事&栄養管理【特別トークセッション 第3回】
インタビュー
2026年8月4日
2026年8月4日

表皮水疱症の食事&栄養管理【特別トークセッション 第3回】

全身の創傷から栄養が漏れ出てしまう表皮水疱症において、「食事と栄養管理」は重要なテーマです。本連載では、自家培養表皮移植による再生医療を行う蒲郡市民病院の医師、皮膚・排泄ケア認定看護師、高校2年生の当事者・山崎璃斗さんとお母様をお迎えしたトークセッションの模様を全4回でお届けします。第3回は、栄養障害を補うための医学的アプローチやご家庭での試行錯誤について語り合います。 久保 良二(くぼ りょうじ)先生蒲郡市民病院 皮膚科 部長。日本専門医機構認定皮膚科専門医。専門領域は乾癬、白斑、褥瘡。名古屋市立大学医学部臨床准教授、蒲郡市民病院特定認定再生医療等委員会委員。藤田 順子(ふじた じゅんこ)さん蒲郡市民病院 看護部/皮膚・排泄ケア特定認定看護師。山崎璃斗さんの同院での初めての手術をきっかけに介入を開始。 山崎 璃斗(やまざき りと)さん栄養障害型表皮水疱症の当事者。現在はS高等学校(通信制)の2年生。幼少期より皮膚や粘膜の脆弱性に伴う広範な創傷や、関節の拘縮(屈曲変形)などの症状を抱えながら療養を継続。2020年より蒲郡市民病院にて自家培養表皮による再生医療を複数回受けている。山崎 奈美(やまざき なみ)さん璃斗さんの母 / 看護師・DebRA Japan(表皮水疱症友の会)所属。璃斗さんの誕生直後から日々の洗浄・ガーゼ処置・栄養管理を担ってきた。最新の知見を集めながら、在宅ケアを実践。救命救急受付の仕事に就いている。取材協力蒲郡市民病院株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC) ※本文中一部敬称略※本記事は、2026年6月4日時点の情報をもとに構成しています。 傷から栄養が漏れ出てしまう ――久保先生、「栄養障害型表皮水疱症」において、栄養管理が重視される医学的な理由について教えてください。 久保: 璃斗くんの場合、病名に「栄養障害型」とついている通り、栄養を口から入れたとしても、全身の傷から栄養が外に漏れ出ていっちゃうんですよね。再生医療を始める前は本当に皮膚の状態が深刻で、低栄養、低アルブミン血症、強い貧血症状に加えて、身長・体重も標準偏差から離れていたことが課題でした。 ――入院時は、病院側からはどのような食生活のサポートや栄養指導が行われているのでしょうか。 藤田:入院される時は、当院の栄養士が面談をして、メニューを細かく調整しています。食べられないものがある時は、お母様が外から買ってきてくれた持ち込みの食事で調整してもらうこともありました。 ――ご家庭では、どういった工夫をされていますか? 山崎(母): 水分も皮膚から抜けていってしまうので、便秘にもなりやすく、内科の先生にも相談しながら試行錯誤してきました。この子の場合は、食物繊維があまり効果的ではなく、水分を多めにとることを心がけています。タンパクや鉄、亜鉛を補うために飲む栄養剤も処方されていますが、大変なようです…。 璃斗: おいしくはないです(笑)。がんばって飲んでいます…。 食事による口腔内の傷 ――食事による口腔内の傷にも注意が必要だと思いますが、最近はどういった工夫をされているのでしょうか。 藤田: 基本的には、表皮水疱症の方はお菓子も口の中でスッと溶けるチョコレートやマシュマロなど飲み込むのに負担がないものを用意されることが多いと思います。ただ、最近の璃斗くんはご本人が自由に食べたいようですね(笑)。 山崎(母): そうなんです。小さいころはとても気を付けて対応していました。おせんべいを食べたらかけらがささってしまうことがありますし、海苔巻きを食べさせたら海苔が唇に張り付いて、皮膚も剥がれてしまったという経験もありますし…。おやつはアイスクリームが多かったですね。でも、今は自分で飴をガリっと噛んで食べています。当然血が出ていますし痛いはずですが…。 璃斗: 今は食べたいという気持ちのほうが強いんです(笑)。 見落とされがちな「歯科治療」の壁 ――栄養・口腔ケアの領域で、他に困っていることはありますか? 山崎(母): 実は、どこまで口の中の皮膚がめくれるかわからないために、歯科で基本的に治療をしてくれないんです。これまでの経験上は「口腔内のチェックとフッ素を塗るのみ」が基本でした。 DebRA Japan(表皮水疱症友の会)を通じて他の患者様やご家族との接点もありますが、表皮水疱症で歯科治療ができずに悩んでいる方は多いんです。 久保: そうだったのですね。表皮水疱症の患者様が歯科治療でそれほど困っているというのは、初めて知りました。大きな病院の歯科・口腔外科と皮膚科が連携を取らないといけない領域だと思います。医療者側も気を留めておかなければいけない重要なポイントですね。 ――多職種連携がいかに重要であるかも浮き彫りになりました。ありがとうございます。 最終回となる第4回では、再生医療について伺います。 取材・執筆・編集: NsPace編集部 【参考】〇難病情報センター「表皮水疱症(指定難病36)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/53382026年7月30日閲覧

血管内脱水とは?在宅での観察ポイント
血管内脱水とは?在宅での観察ポイント
コラム
2026年8月4日
2026年8月4日

血管内脱水とは?在宅での観察ポイント

血管内脱水とは、血管の中を流れる水分が不足し、循環血液量が低下している状態を指します。一般的な「脱水」は体全体の水分不足として捉えられますが、血管内脱水では、血管内の水分が少なくなることで、血圧低下や頻脈、尿量減少、意識状態の変化などがみられることがあります。訪問看護や在宅ケアの現場では、利用者さんの口渇や皮膚の乾燥だけでなく、血圧、脈拍、尿量、むくみ、意識状態などをあわせて観察することが大切です。この記事では、血管内脱水の基本的な考え方、起こりやすい原因、在宅で確認したいポイントを解説します。 血管内脱水とは 血管内脱水とは、血管内の水分が不足している状態です。体内の水分は、主に細胞内、細胞と細胞の間にある間質、血管内に分かれて存在しています。血管内の水分が不足すると、全身に血液を十分に送ることが難しくなります。その結果、血圧が下がる、脈が速くなる、尿量が減る、手足が冷たくなるなどの変化が起こることがあります。MSDマニュアルでは、体液量減少が中等度になると起立時の頻脈や低血圧がみられることがあり、重度では頻呼吸、頻脈、低血圧、混乱、毛細血管再充満時間の延長などのショック徴候が起こりうるとされています。ただし、血管内脱水は見た目だけでは判断しにくいことがあります。たとえば、体にむくみがあっても、血管内の水分が不足している場合があります。そのため、「むくんでいるから脱水ではない」と決めつけず、全身状態を総合的に確認することが大切です。 一般的な脱水との違い 一般的に脱水というと、水分摂取不足、発汗、下痢、嘔吐などによって、体内の水分が不足している状態を指します。一方で、血管内脱水は、特に血管内を流れる水分量の不足に注目した考え方です。在宅ケアでは、専門的な分類を厳密に判断するよりも、循環が保たれているかを観察することが重要です。血圧低下、頻脈、尿量減少、立ちくらみ、意識のぼんやり感などがある場合は、血管内の水分不足が関係している可能性があります。 血管内脱水が起こる原因 血管内脱水は、水分や電解質の喪失、血管内から間質への水分移動、出血などによって起こることがあります。代表的な原因には、以下があります。 下痢 嘔吐 発熱や発汗 水分摂取量の低下 利尿薬の使用 出血 感染症 炎症による血管透過性の亢進 低栄養や低アルブミン血症 熱傷 心不全や腎機能低下などの基礎疾患 感染症やDICなどで血管内皮が障害されると、血管内の水分が間質に流出し、体は浮腫状態でも血管内は脱水になることがあります。 細胞外液を補う目的で、等張電解質輸液が血管内や組織間に水分・電解質を補給する輸液として使われることがあります。大塚製薬工場の解説では、等張電解質輸液は細胞外に分布して細胞外液量を増やすため、細胞外液補充液とも呼ばれるとされています。 細胞外液補充液等に反応しない患者、低アルブミン血症があるなど特定の状況下では、アルブミン製剤が使用される可能性もあります。 在宅でみられやすいサイン 血管内脱水では、循環血液量が不足することで、さまざまなサインが現れます。訪問看護や介護の現場では、以下のような変化に注意します。 立ち上がったときにふらつく 血圧がいつもより低い 脈が速い 尿量が少ない 尿の色が濃い 口の中が乾いている 皮膚や舌が乾燥している 手足が冷たい 倦怠感が強い ぼんやりしている 反応が鈍い 食事や水分がとれていない 特に、呼吸困難や呼吸促迫、過度の発汗、意識レベルの低下、低血圧、体温の低下、チアノーゼがみられる場合は、ショック状態を示す重篤な症状の可能性があるため、早急に医師へ報告する必要があります。 ただし、高齢者では症状がはっきり出にくいことがあります。普段より元気がない、食事量が落ちている、反応が遅い、尿量が少ないなど、小さな変化を見逃さないことが大切です。 むくみがあっても注意が必要 血管内脱水で特に注意したいのは、むくみがある場合です。一般的には、むくみがあると「水分が多い状態」と考えがちです。しかし、間質に水分がたまっていても、血管内の水分が不足している場合があります。 たとえば、低栄養や低アルブミン血症、炎症、感染症などでは、血管内に水分を保ちにくくなり、間質に水分が移動しやすくなります。その結果、足や手はむくんでいるのに、血管内の水分は不足していることがあります。 日本腎臓学会誌の解説でも、浮腫は間質に水分が貯留して腫れている状態であり、必ずしも体全体の水分量増加と同じではないと説明されています。 在宅では、むくみの有無だけで判断せず、血圧、脈拍、尿量、体重変化、呼吸状態、食事・水分摂取量などをあわせて観察します。 観察するときのポイント 血管内脱水が疑われる場合は、以下の項目を確認します。 バイタルサイン 血圧、脈拍、体温、呼吸数、SpO2を確認します。特に、普段より血圧が低い、脈が速い、呼吸が速い、発熱がある場合は注意が必要です。頻脈は低容量状態で循環を保つための代償反応としてみられることがあります。 尿量と尿の色 尿量が減っている、尿の色が濃い、排尿回数が少ない場合は、体内の水分不足を示すサインのひとつです。特に、普段と比べて明らかに尿量が少ない場合は、早めに医師や看護師へ報告します。 皮膚・口腔内の状態 口唇や舌の乾燥、皮膚の乾燥、皮膚の張りの低下などを確認します。ただし、高齢者では皮膚の張りがもともと低下していることもあるため、これだけで判断しないようにします。 意識状態 ぼんやりしている、会話がかみ合わない、呼びかけへの反応が鈍いなどの変化がないか確認します。体液量の減少が重くなると混乱などがみられる場合があります。 食事・水分摂取量 食事量や水分摂取量が減っていないかを確認します。暑い日、発熱時、下痢や嘔吐があるときは、普段と同じ量の水分でも不足することがあります。 医師へ報告するときの内容 血管内脱水が疑われる場合は、観察した内容を整理して報告します。一時点の情報だけで伝えるのではなく、経過と普段との差をあわせて伝えると、状態が共有しやすくなります。 報告時には、以下の内容をまとめます。 いつから変化があるか 食事量、水分摂取量 尿量、尿の色、排尿回数 血圧、脈拍、体温、呼吸数、SpO2 立ちくらみやふらつきの有無 下痢、嘔吐、発熱、発汗の有無 むくみの有無 体重の変化 意識状態の変化 服薬状況 利尿薬の使用有無 基礎疾患 普段の状態との違い たとえば、以下のように記録します。 「昨日から食事量が半分程度。水分摂取は約500mL。尿量少なく、尿色濃い。訪問時、血圧92/58mmHg、脈拍104回/分。立ち上がり時にふらつきあり。発熱なし。普段より反応がやや遅い。」 このように書くと、血管内脱水が疑われる状況を具体的に伝えやすくなります。 早めの相談が必要な状態 以下のような場合は、早めに医師や救急へ相談します。 意識がぼんやりしている 呼びかけへの反応が悪い 血圧が大きく低下している 脈が速く、状態が改善しない 尿がほとんど出ていない 強いふらつきがある 発熱、下痢、嘔吐が続いている 手足が冷たく、顔色が悪い 息苦しさがある 出血が疑われる むくみが強いのに尿量が少ない 重度の体液量減少では、頻呼吸、頻脈、低血圧、混乱、毛細血管再充満時間の延長などのショック徴候が現れ、ショックにつながる可能性があります。 在宅では、状態の変化を見つけた時点で早めに相談することが、重症化を防ぐために重要です。 まとめ 血管内脱水とは、血管内の水分が不足し、循環血液量が低下している状態です。水分不足だけでなく、感染症、炎症、出血、利尿薬の使用、低栄養、むくみを伴う病態などでも起こることがあります。 訪問看護や在宅ケアでは、口渇や皮膚の乾燥だけでなく、血圧、脈拍、尿量、意識状態、むくみ、食事・水分摂取量をあわせて観察することが大切です。特に、むくみがある場合でも血管内脱水が隠れていることがあるため、見た目だけで判断しないようにしましょう。 利用者さんの普段の状態を知り、小さな変化を具体的に記録することが、早期発見と適切な対応につながります。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】●NsPace:「血管内脱水」https://www.ns-pace.com/glossary/volume-depletion/,2026/7/30閲覧●MSDマニュアル プロフェッショナル版:「体液量減少」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-内分泌疾患と代謝性疾患/水代謝/体液量減少,2026/7/30閲覧●Cleveland Clinic:「Hypovolemia」.https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22963-hypovolemia,2026/7/30閲覧●日本輸血・細胞治療学会:「科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用ガイドライン(改訂第3版)」https://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/uploads/2024/07/070030406.pdf,2026/7/30閲覧●StatPearls:「Fluid Management」.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK532305/,2026/7/30閲覧●日本腎臓学会:「浮腫と脱水,濃縮と希釈の考え方」(佐々木成,日腎会誌 2008;50(2):97-99).https://jsn.or.jp/journal/document/50_2/097-099.pdf,2026/7/30閲覧●大塚製薬工場:「水・電解質輸液」.https://www.otsukakj.jp/healthcare/iv/electrolytes/,2026/7/30閲覧

表皮水疱症の医療費助成制度&学校生活における支援【特別トークセッション 第2回】
表皮水疱症の医療費助成制度&学校生活における支援【特別トークセッション 第2回】
インタビュー
2026年7月28日
2026年7月28日

表皮水疱症の医療費助成制度&学校生活における支援【特別トークセッション 第2回】

表皮水疱症の治療・療養を継続していくためには、社会保障制度の活用が不可欠です。本連載では、自家培養表皮移植による再生医療を行う蒲郡市民病院の医師、皮膚・排泄ケア認定看護師、高校2年生の当事者・山崎璃斗さんとお母様をお迎えしたトークセッションの内容をお届けしています。第2回のテーマは、医療費助成制度や学校生活についてです。 久保 良二(くぼ りょうじ)先生蒲郡市民病院 皮膚科 部長。日本専門医機構認定皮膚科専門医。専門領域は乾癬、白斑、褥瘡。名古屋市立大学医学部臨床准教授、蒲郡市民病院特定認定再生医療等委員会委員。藤田 順子(ふじた じゅんこ)さん蒲郡市民病院 看護部/皮膚・排泄ケア特定認定看護師。山崎璃斗さんの同院での初めての手術をきっかけに介入を開始。 山崎 璃斗(やまざき りと)さん栄養障害型表皮水疱症の当事者。現在はS高等学校(通信制)の2年生。幼少期より皮膚や粘膜の脆弱性に伴う広範な創傷や、関節の拘縮(屈曲変形)などの症状を抱えながら療養を継続。2020年より蒲郡市民病院にて自家培養表皮による再生医療を複数回受けている。山崎 奈美(やまざき なみ)さん璃斗さんの母 / 看護師・DebRA Japan(表皮水疱症友の会)所属。璃斗さんの誕生直後から日々の洗浄・ガーゼ処置・栄養管理を担ってきた。最新の知見を集めながら、在宅ケアを実践。救命救急受付の仕事に就いている。取材協力蒲郡市民病院株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC) ※本文中一部敬称略※本記事は、2026年6月4日時点の情報をもとに構成しています。 指定難病制度・医療費助成の実際 ――表皮水疱症の治療・療養に欠かせない社会保障制度について教えてください。 久保: まず、指定難病制度やお子様の場合は自治体の小児医療費助成制度などが代表的な保障制度になるかと思います。表皮水疱症の患者様は全国で500~1,000名程度と言われていますが、重症度によっては指定難病制度の医療費助成の対象にならないケースもあり、その場合は自己負担が大きくなります。また、使い勝手が良く、ぜひ在宅で使っていただきたい被覆材が現行の制度では処方できないこともあり、そういった部分も改善されていくと良いと思います。 山崎(母): ガーゼ類は診療報酬で上限1,000点(1万円分)と決まっていて、被覆材は上限なしなんですが、実際にはガーゼがその点数分では収まらない現実もあります。 ※表皮水疱症患者等に対しては「在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料(C114)」が設けられており、ガーゼ等の衛生材料費が含まれる。 でも、璃斗が幼いころは被覆材もすべて自費でしたし、東京の特定の病院でしか手に入らないものがあって、東京に住む親族に大きな病院で取り寄せて買ってもらう…ということもしていました。今は資材がかなり手に入りやすくなり、保険適用範囲も広がっているので助かっています。今は小児医療費助成制度も使えるので、本当にありがたいですね。 暮らしの中で積み重なる経済的負担 ――医療費以外の「見えにくいコスト」にはどのようなものがあるでしょうか。 藤田: お母様から「今住んでいる地域では、車椅子が借りられなかった」と伺ったときは驚きました。当時、璃斗さんにとって車椅子は必要不可欠なものだったので、そういった支援がいきわたると良いと思っています。 山崎(母): そうですね。車椅子は15万円程度かけて用意しました。当時は再生医療も何もやっていない時期で、皮膚から栄養も出て行ってしまうので鉄分が全然足りなくて貧血がひどく、輸血ぎりぎりの状態でした。すごく疲れやすく、熱も出やすくて、足もうまく伸ばせないので、どこか行くにも車椅子がないと無理でした。でも、「障害」と認定されるほどではないため車椅子の貸し出しや助成金などは出ないという状況だったんです。 あとは、皮膚を掻くことを抑制するための装具をつけていたこともあるのですが、これも保険適用にはならなかったので、数万円単位の自己負担が発生する…ということもありましたね。 在宅療養がご本人・ご家族にもたらす変化 ――保育園や学校での生活についてはいかがでしたか。印象的に残っているエピソードも教えてください。 山崎(母): 自家培養表皮移植手術をするまでは歩行がうまくできなかったので、特別支援学校への進学も考えたのですが、最終的にはなんとか地域の保育所や小・中学校の特別支援学級に通学することができました。我ながら、毎日の送り迎えを、よくやりきったなぁと思います。 保育園時代は、慣らし保育を半年程度行いながら、受け入れてくださって、ありがたかったです。給食も、食材を細かくカットしながら、みんなと同じものを食べさせてくださいました。ただ、おやつについてはおせんべいなどを食べると口の中が切れてしまうので、別メニューのことが多かったです。本人が「僕だけいつもバウムクーヘンだ!」と怒っていることもありましたね…。 あとは、中学校で反抗期にさしかかったときに親子喧嘩をして、「もう歩いて自分で帰りなさい」と言ってしまったこともありました。結局ゆっくり歩く璃斗の後ろからついていっていたのですが(笑)。 璃斗: 保育園の時のことは覚えていませんが…中学校のときに徒歩で帰ったときは、いつもと違って友達と一緒に帰れたので、僕としては楽しい思い出です(笑)。 ――ご本人は楽しかったんですね! お友達と遊ぶときなどに気を付けていたことはありますか? 璃斗: 小学校のときは、積極的に動く子が多いのであまり近づけなくて、基本的に1人で遊んでいることが多かった記憶があります。 山崎(母):年齢的にまだ加減のわからないお子さんもいるし、中には多動傾向にあるお子さんもいるので、先生方も苦労して守ってくださいました。それでも、集団生活ですから誰かに押されたり、物を投げられたりして怪我をすることはあります。普通の子なら怪我に至らないようなケースでも、この子の場合は出血を伴う大怪我になってしまうので、相手の子や先生もショックを受けますし、本人も当然痛いです。 だから「自分から距離を取りなさい」と教え込んできました。なので、急に誰かが動いたときにぶつからないように集団から少し離れたり、階段も最後に登ったり、といったことを今では自然に自分でやるようになっています。 ――中学校に上がってからはいかがでしたか? 璃斗: 中学では、病弱・身体虚弱特別支援学級に3人しか生徒がいなかったんですよ。だからその子たちとはすごく仲が良くなって、教室でトランプとかをして遊んでいました。 山崎(母): 中学校では、璃斗が他の生徒と物理的な距離をとれるように大きなサイズの机を作ってくださったんです。他の子に必要なオストメイト対応トイレも用意されていましたし、とても手厚かったです。校長先生が毎朝送り迎えの時に声をかけてくれたり、何かあれば教頭先生や主任の先生がしっかりお話を聞いてくれたりと、本当にありがたかったですね。 ――現在は通信制のS高等学校2年生とのことですが、現在の生活やお友達との関わりについてはいかがですか? 璃斗: 中学の同級生とも仲が良かったですが、人数が少なかったので、友達付き合いは今の方が断然多いです。チャットアプリで思いついたことを気軽に話したり、アバターをつくってVRChatしたりしています。「いつ見ても接続中だな」という人もいますし(笑)、時間を気にせず遊んでいます。 ――オンラインでいつでも繋がれる環境だからこそ、以前よりもお友達付き合いが増えているんですね。ありがとうございます。 次回は、表皮水疱症の「食事と栄養管理」の実際について、お話を伺っていきます。 取材・執筆・編集: NsPace編集部 【参考】〇難病情報センター「表皮水疱症(指定難病36)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/53382026年7月17日閲覧〇今日の臨床サポート「c114在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料」https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_2_2_1/c114.html2026年7月17日閲覧

表皮水疱症 在宅ケアの実際と医療者に求められる視点【特別トークセッション 第1回】
表皮水疱症 在宅ケアの実際と医療者に求められる視点【特別トークセッション 第1回】
インタビュー
2026年7月21日
2026年7月21日

表皮水疱症 在宅ケアの実際と医療者に求められる視点【特別トークセッション 第1回】

わずかな摩擦で全身に水疱や創傷が生じる指定難病「表皮水疱症」。地域での対応経験がある訪問看護師は少なく、在宅療養への介入に不安を抱くケースも少なくありません。本連載では、自家培養表皮移植による再生医療を行う蒲郡市民病院の医師、皮膚・排泄ケア認定看護師、高校2年生の当事者・山崎璃斗さんとお母様をお迎えしたトークセッションの模様を全4回でお届けします。第1回は、病院と在宅での視点の違いや、家庭での処置に関するお話です。 久保 良二(くぼ りょうじ)先生蒲郡市民病院 皮膚科 部長。日本専門医機構認定皮膚科専門医。専門領域は乾癬、白斑、褥瘡。名古屋市立大学医学部臨床准教授、蒲郡市民病院特定認定再生医療等委員会委員。 藤田 順子(ふじた じゅんこ)さん蒲郡市民病院 看護部/皮膚・排泄ケア特定認定看護師。山崎璃斗さんの同院での初めての手術をきっかけに介入を開始。 山崎 璃斗(やまざき りと)さん栄養障害型表皮水疱症の当事者。現在はS高等学校(通信制)の2年生。幼少期より皮膚や粘膜の脆弱性に伴う広範な創傷や、関節の拘縮(屈曲変形)などの症状を抱えながら療養を継続。2020年より蒲郡市民病院にて自家培養表皮による再生医療を複数回受けている。 山崎 奈美(やまざき なみ)さん璃斗さんの母 / 看護師・DebRA Japan(表皮水疱症友の会)所属。璃斗さんの誕生直後から日々の洗浄・ガーゼ処置・栄養管理を担ってきた。最新の知見を集めながら、在宅ケアを実践。救命救急受付の仕事に就いている。取材協力蒲郡市民病院株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC) ※本文中一部敬称略※本記事は、2026年6月4日時点の情報をもとに構成しています。 自家培養表皮移植を機に蒲郡市民病院へ ――2020年、璃斗さんが小学校5年生のタイミングで、蒲郡市民病院での自家培養表皮移植をスタートされたと伺っています。当時のことを教えてください。 久保: 2019年から表皮水疱症に対する自家培養表皮移植が保険適用になっており、そのタイミングで主治医の先生からご紹介いただきました。 表皮水疱症は、日常生活のなかで皮膚に加わるごくわずかな摩擦や刺激によって、全身に水疱(水ぶくれ)や創傷ができてしまう遺伝性の希少疾患です。ただし、同じ「表皮水疱症」でも、皮膚の表面のみの軽いタイプから重症なタイプまでさまざまで、患者様によって症状が大きく異なります。 私も大学の専門外来で1年ほど表皮水疱症の患者様を診ていたことがありますが、当時は再生医療がありませんでしたし、症状としても軟膏を塗布して被覆材をお渡しすることに留まることがほとんどでした。璃斗くんのように、全身のガーゼを外して診る機会は初めてだったので、普段の処置のしかたについて、お母様から教えていただいた側面が大きいですね。 藤田: 私にとっては、璃斗くんは本当に初めて担当させていただく表皮水疱症の患者様でした。知識としては知っていても、どうすれば上手にケアできるのか、いちから検討する必要がありました。事前に株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)(※)の担当者の方が勉強会なども開いてくださいましたが、私も璃斗くんとお母様の「お家ではこうやっていたんだよ」というお話が大変勉強になり、ケアの土台になりました。お母様や璃斗さんとの関係性なくしては、ケアが成り立たなかったと思っています。 ※愛知県蒲郡市に本社を置く再生医療製品メーカー ――症例が少なく、患者様によって大きく症状も異なるため、ご家族からの情報や良好な関係性が不可欠だったのですね。 日々の処置に数時間。表皮水疱症 在宅ケアの実際 ――ご自宅でのケアも、相当なご負担があると伺っています。実際のところはいかがでしょうか。 山崎(母):小さいころは、処置にとても時間がかかりました。特に、2020年ごろまで使っていた被覆材は、体液を吸い込むと皮膚にくっついて固まってしまうものだったんです…。そのため、ふやけて剥がれるまで湯船に浸かって待つんですが、長く浸かりすぎると、自分の皮膚までふやけて症状が悪化してしまうため、バランスを取るのが難しかったですね。被覆材が取れたら皮膚を乾かして、また全身にガーゼをつける。そんなことをしていると、大体3~4時間はかかっていました。 ――そうだったのですね。璃斗さんご本人の負担も相当なものだったかと思います。 璃斗: そうですね。小学校高学年のときに初めて自分で処置をしてみたんですが、背中などがうまく洗浄できていないと熱が出てしまって、それも大変でした。今は被覆材も変わり、当時より早く処置できるようになりましたが、2時間ほどはかかります。 山崎(母): 最近も高校の行事があったのですが、宿泊場所のお風呂は使えないので、別のホテルを一部屋取りました。限られた時間のなかで、私や夫も手伝いながら急いで必死に処置をしてなんとか1時間半というところでしたが、集団生活に参加しようとするとそういった対応も必要になりますね。 ――ご自宅の環境面で気を付けていらっしゃることはありますか? 掃除に気を遣いますね。どうしても痒みから皮膚を掻きむしってしまうので、落屑の量がとても多いんです。粘着クリーナーやハンドクリーナー、掃除機などを使って、こまめに対応しています。 医療者は普段処置している患者様・ご家族の声を大事に ――訪問看護師を含め、これまで表皮水疱症の対応経験がない医療者が介入する際、どのような心がけや視点が必要だと思われますか。 久保: 表皮水疱症の患者様は皮膚に被覆材をたくさんつけていますが、あれを剥がす時はとっても痛いんですよ。ですから、医療者主導で処置をしようと思っても、最初から思ったようにはできません。まずは患者様ご本人や、普段処置をされているご家族のお話が何よりも重要で、しっかりお話を伺ったうえで対応していくことが大切だと思います。 山崎(母): そうですね。私は医療従事者だったので、深い傷にもなんとか対処できる知識が最初からありましたが、一般の方が見たら驚くような傷の深さなんですよね。 看護師さんであっても、事前知識がないと驚いてしまうかと思います。今でもよく覚えていますが、璃斗が産まれたとき、外にでてきた瞬間からどんどんと皮膚が剥がれ落ちていって、産着も着せることができず、ただ裸で置かれて、泣き続けていました。ミルクを飲ませようと思ったら、その刺激で口の中が剥けてしまい、ガーゼを貼ろうとしたらその刺激でまた剥ける…。看護師さんたちもどうしたらいいかわからなかったわけです。 今はネットでさまざまな情報が手に入るので、表皮水疱症について知ってほしいですし、久保先生のおっしゃるように、ご家族とも話し合いをして進めていただけたらと思います。 藤田: 璃斗くんが自家培養表皮移植で入院する際も、どうやって入院中に清潔を保てばいいか、お母様にもさまざまなものを用意いただきながら、試行錯誤していきましたよね。症状や状態によってケースバイケースなので決まった「正解」は最初から見えず、話し合いながら模索していくことも必要だと思います。 ――ありがとうございました。第2回では、こうした療養生活を支えるための制度や、学校生活での工夫について伺っていきます。 取材・執筆・編集: NsPace編集部 【参考】〇難病情報センター「表皮水疱症(指定難病36)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/53382026年7月17日閲覧〇株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)「適応対象:栄養障害型表皮水泡症及び接合部型表皮水泡症」https://www.jpte.co.jp/customers/medical/JACE/blisters/index.html2026年7月17日閲覧

認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応
認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応
特集
2026年7月14日
2026年7月14日

認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回のテーマは認知症です。東京ふれあい医療生活協同組合 オレンジほっとクリニック 東京都地域連携型認知症疾患医療センター長の平原佐斗司先生に、認知症の緩和ケアにおける課題の中から、スピリチュアルペインへの対応、BPSDのとらえ方、末期認知症の苦痛への支援などを中心に、その考え方や実践のあり方について解説いただきます。 認知症の緩和ケアにおける課題 認知症の緩和ケアアプローチとは、「単に身体的苦痛をとる治療やケアにとどまらず、認知症の行動・心理症状(BPSD)、合併する疾患、および健康問題に対する適切な治療を含む、認知症のすべての治療とケアを意味する」1)と定義されています。ここでいう緩和ケアアプローチとは、緩和ケアに特化していない環境で、日常のケアの中に、緩和ケアの手法や手順を統合するための方法を指します。つまり、在宅で認知症ケアに関わるあらゆる専門職が身に着けておくべき考え方や手法であるといえるでしょう。 わが国における認知症に対する緩和ケアの課題は、以下に示すとおり多岐にわたります。 摂食嚥下障害など食にまつわる課題 末期の肺炎の苦痛に対する緩和ケア 終末期の褥瘡 疼痛など重度から末期の身体的苦痛への対応 合併症・併存症の急性期の痛みや呼吸苦などの苦痛 BPSDとして表出される身体的心理的苦悩への対応 心不全、骨折などの併存疾患のマネジメントと全身管理 うつ、不安、不眠、孤独などの精神的な苦痛への対応 認知症の人がもつスピリチュアルペイン(実存的苦痛)への対応 独居、経済的困窮、セルフネグレクトなど社会的な苦痛への対応 身体拘束を含む医療行為に伴う苦痛への対応や治療負担(treatable burden)への配慮 認知症の人の苦痛の評価法の確立 認知症の告知に伴う苦痛への配慮 本人本位のACP(アドバンスケアプランニング)推進 認知症の人の家族ケア 遺族の悲嘆ケア 経済社会的状況によるケアの格差 など さらに、認知症の緩和ケアのニーズは、2016年から2060年の間に世界で4倍近く、先進国でも3倍以上に増加し、特に日本などの東アジア地域で急増する2)といわれています。このため、ニーズの急増に対応していくことも今後の緩和ケアにおける最大の課題と考えられています。 スピリチュアルペインへの対応 認知症の人の言葉や行動の裏には、その人の心の痛みや苦悩があると理解されるようになり、認知症の人のスピリチュアルペインが注目されています。診断後早期のスピリチュアルペインを和らげることは、緩和ケアの観点からも重要です。 認知症の人は、認知機能の低下による日常生活の失敗から、自尊感情や自己効力感の低下、アイデンティティ(自分が自分らしくあること)の喪失を経験しており、「自己の存在の意味の消滅から生じる苦痛(スピリチュアルペイン)」を感じているのです。 認知症の人のスピリチュアルペインへのアプローチはまだ確立されたものはありませんが、生活障害に対するタイミングのよい支援、その人の視点に立った理解と共感に満ちたコミュニケーション、peer support(同じ立場の方々との交流)などが大切になります。 BPSDを緩和ケアの視点でとらえる BPSDは「本人が現実の世界に適応しようと、もがき苦しんでいる徴候ととらえるべき」と考えられるようになってきています。また、BPSDを認めた認知症の人の3分の2に疼痛が認められ、そのうちのほぼ半数が中等度から重度の疼痛を経験しており、BPSDは認知症の人の病態の変化や苦痛を表すサインであることも少なくありません。 つまり、BPSDの出現や増悪には病態の変化や苦痛の存在、薬物の影響などが要因となっていることが多いため、まずは病態や苦痛のアセスメントが優先されます。BPSDイコール精神科、抗精神病薬という短絡的な対応は厳に慎むべきです。 ご本人のストレスの原因となっている環境を調整するなど非薬物療法を優先させること、その上で薬物療法が必要な場合も、可能な限り安全性の高い薬剤を優先させるといった工夫が必要です。 急性期入院に伴う緩和ケアの視点 認知症の人は、感染症や骨折などの急性疾患を発症しやすく、しばしば入院治療が必要となります。身体合併症を有した認知症の人が急性期病院に入院した場合、疾患に伴う苦痛に加えて、検査や治療に伴う多様な苦痛を経験します。 認知症を有する人は、入院時に2.3~4.7倍せん妄を起こしやすいとされています3)。そして、せん妄発症者の死亡リスクは1.95倍、施設入所リスクは2.4倍で、入院中にせん妄を発症した人の認知症発症リスクは12.52倍に及ぶといいます4)。 また、一般病院に入院した認知症の人、あるいはその疑いがある人の44.5%が何らかの身体拘束を受けています5)。身体拘束は廃用や転倒などの合併症や併存症を生み、認知症の人のADLやQOLを低下させます。 このような入院の害(入院関連機能障害)を考え、急性期においては、まず不要な入院を避け、可能であれば暮らしの場で治療を継続できるようにすることが必要です。仮に急性期に入院治療を行う場合も、身体拘束最小化に取り組んでいる医療機関、治療よりもケアの質がよい医療機関を選択することが大切になります。 末期認知症の人の苦痛評価 アルツハイマー型認知症(AD)の人の疼痛の感受性に関するメタアナリシスなどから、認知症の人も強い苦痛を感じている6)ことが明らかになっています。つまり、重度認知症の人は、痛みを表現することが困難となっているだけであり、決して苦痛を感じなくなっているわけではありません。しかし実際には、進行した認知症の人の苦痛は、しばしば見過ごされたり、過小評価されているために、適切な治療やケア、あるいは緩和ケアに結びつきにくい現状があります。 苦痛の表現が困難な末期認知症の人の苦痛に気付くためには、苦痛の客観的評価法の活用が必要であり、海外では多くの客観的評価法が開発されています。 わが国で客観的評価法を利用するためには、言語妥当性が検証された日本語版が開発されていること、項目数が数個程度等日常臨床で用いやすいことが条件になります。これらの条件を満たす客観的評価としては以下があります。 【痛みの客観的評価】 日本語版PAINAD アビー痛みスケール日本語版 など 【呼吸困難の客観的評価】 RDOS modRDOS-4(図1) 図1 日本語版 modRDOS-4と観察項目 Wong RX,Shirlynn H,Koh YS,et al.:Exploration and Development of a Simpler Respiratory Distress Observation Scale (modRDOS-4) as a Dyspnea Screening Tool:A Prospective Bedside Study.Palliat Med Rep 2021;2(1):9-14.平原佐斗司,鈴木みずえ,金盛琢也,他:言語妥当性が担保された日本語版 modRDOS-4 の開発~在宅ケアや施設で使用できる呼吸困難の客観的評価尺度~.日在宅医療連会誌 2023;4(4):9-15. さらに、われわれは、在宅や施設、病院などで多職種で用いることができる苦痛評価プロトコールを開発しました(図2)。このようなプロトコールを用いることで、認知症ケアにかかわる全専門職が認知症の人の苦痛に早期に気付くことを狙っています。図2 重度~末期認知症の人の苦痛評価プロトコール(改定案) 末期認知症の緩和ケア:食支援、呼吸困難への対応 末期認知症では、食思不振と嚥下障害、肺炎からくる呼吸困難や咳嗽・喀痰などの呼吸器症状、疼痛、長期臥床に伴う褥瘡などの苦痛の緩和が必要になります。 末期の嚥下障害に対してはComfort feeding only(CFO)の考え方に基づく食支援を行います。CFOは認知症末期の経口摂取の在り方として提唱された考え方と実践法であり、食支援の目的を「栄養補給」とするのではなく、「本人の楽しみ」「Comfort(快適さ)」とする考えに立っています。つまり、食べることの目的は、あくまで「食べることが本人にとって快適かどうか」です。不快でないかぎり食支援を継続しますが、不快であればただちに中止し、ほかの心地よいケア(声かけやタッチセラピー、手浴・足浴、音楽、アロマ、こまめな口腔ケアなど)を行います。 末期認知症の緩和ケアのもう一つの課題は、肺炎による呼吸困難です。末期認知症の人の最大3人に2人が、肺炎を合併して死亡していると考えられています。そして、肺炎を合併して死亡した人は、食べられなくなり自然に亡くなった人に比べ、呼吸困難や不快感などの苦痛がはるかに大きい7)ことが報告されています。 末期の肺炎の苦痛緩和に対して輸液や抗菌薬をいつまで継続すべきかについては、エビデンスが不足しているため、個別の状況に基づき判断せざるを得ません。判断が困難な場合、時間を定めて治療を行い、その治療が患者さんの穏やかさに貢献したか否かを判断する方法(Time limited trial:TLT)を試みます。 また、末期認知症の人の肺炎合併時にみられる呼吸困難に対するオピオイドの有効性を示す、質の高い研究は認められませんが、国内外の指針・ガイドラインではオピオイド投与が推奨されています8)。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)略語:フルスペル(日本語)BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia(行動心理症状)ACP:advance care planning(今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス)ADL:activities of daily living(日常生活動作)QOL:quality of life(生活の質)AD:alzheimer's disease(アルツハイマー型認知症)PAINAD:pain assessment in advanced dimentia(ペインアド)RDOS:respiratory distress observation scale(呼吸困難の客観的評価)COF:comfort feeding only(認知症末期の経口摂取の在り方として提唱された考え方と実践法。食の支援の目的を栄養補給とするのではなく、本人の楽しみ、Comfort(快適さ)とする考え)TLT:time limited trial(時間を定めて治療を行い、その治療が患者の穏やかさに貢献したか否かを判断する方法) 執筆:平原 佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センターオレンジほっとクリニック 東京都地域連携型認知症疾患医療センター長1987年に島根大学医学部卒。現在、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター長ならびに、同オレンジほっとクリニック 地域連携型認知症疾患医療センター長として在宅医療、認知症診療に従事。専門は、在宅医療、非がん疾患の緩和ケアで、研修・研究センターでは在宅医療専門医・指導医として、多くの在宅専門医の育成を行う。学会活動では、日本在宅医療連合学会 代表理事、日本認知症の人の緩和ケア学会 理事長、日本エンドオブライフケア学会 副理事長を務めている。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)van der Steen JT, Radbruch L, Hertogh CM, et al.:White paper defining optimal palliative care in older people with dementia: a Delphi study and recommendations from the European Association for Palliative Care.Palliat Med 2014;28(3):197-209.2)Sleeman KE,de Brito M,Etkind S,et al.:The escalating global burden of serious health-related suffering: projections to 2060 by world regions, age groups, and health conditions.Lancet Glob Health 2019;7(7):e883-e892.3)Inouye SK,Westendorp RG,Saczynski JS:Delirium in elderly people.Lancet 2014;383(9920):911-922.4)Witlox J,Eurelings LS,de Jonghe JF,et al.:Delirium in elderly patients and the risk of postdischarge mortality,institutionalization,and dementia:a meta-analysis.JAMA 2010;304(4):443-451.5)中西三春:一般急性期病院における認知症ケア.老年看 2018;23(2):44–48.6)Stubbs B,Thompson T,Solmi M,et al.:Is pain sensitivity altered in people with Alzheimer's disease? A systematic review and meta-analysis of experimental pain research.Exp Gerontol 2016;82:30-38.7)van der Steen JT,Mehr DR,Kruse RL,et al.:Predictors of mortality for lower respiratory infections in nursing home residents with dementia were validated transnationally.J Clin Epidemiol 2006;59(9):970-979.8)国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター:在宅における末期認知症の肺炎の診療と緩和ケアの指針.https://www.ncgg.go.jp/hospital/news/documents/01zaitaku.pdf2026/2/18閲覧

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