疾患知識に関する記事

がん身体症状の緩和ケア
がん身体症状の緩和ケア
特集
2023年5月23日
2023年5月23日

がん疼痛マネジメントの原則-WHOがん疼痛治療ガイドラインとは【がん身体症状の緩和ケア】

がん患者さんにどのように寄り添い、症状を緩和していくか。痛みの種類について理解したら、次はその痛みをどう緩和していくのか。今回は疼痛緩和法を学ぶ際に必ず必要となる知識を解説していきます。 >>前回の記事はこちらがん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】 Aさんのこれまでの経緯 膵臓がんのAさん、病院を退院して自宅に帰ってから痛みが強くなってきました。初回訪問時、痛みをアセスメントして、Aさんの痛みには内臓痛、体性痛、神経障害性疼痛が混合している可能性が高いと考えられました。 がん疼痛がコントロールできていないAさんについて>>がん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】参照 ここでもう一度、Aさんが退院時に処方された薬剤を図1に示します。どのような薬剤がどのくらい処方されているのか、詳しく見ていきましょう。 図1 退院時に処方された薬剤 Aさんにはどのような薬がどのくらい投与されている? Aさんには、オキシコドンというオピオイド(医療用麻薬)が投与されています。問題は、オキシコドンの投与量です。1日量10mg(5mg錠を1日2回服用)という投与量は、投与できる範囲で最小量です。Aさんからは痛みの訴えがあるので、この投与量を増やしていく必要性があるとアセスメントできると思います 緩和ケアに携わる医療者にとって、オピオイドの投与量が多い、少ないというのは、経口モルヒネ量に換算して考えることが多いです。さまざまな医療用麻薬が使えるようになったためです。オピオイドの換算にはある程度の目安が存在します(図2)。この目安をもとにオピオイドの投与量を計算してみると、オキシコドン10mgは経口モルヒネの15mgに相当します。 図2 オピオイド換算の目安 さらに、セレコキシブというNSAIDs(非ステロイド性消炎・鎮痛薬)も処方されています。これは、胃粘膜障害の出現頻度が少ないことが特徴です。さらに、便秘対策として酸化マグネシウムとセンノシドが投与されていますが、Aさんは「この5日ほど排便がない」と話していました。実際、酸化マグネシウムとセンノシドを服用していても便秘になってしまうことは少なくありません。何か対策が必要かもしれません。 また、ラベプラゾールナトリウムという胃酸を抑えて胃粘膜を守る薬も処方されていますが、Aさんに食欲はあまりなく、一日数口程度の摂取量です。Aさんは腹水も指摘されているので、これも食欲不振の原因になり得ます。 以上のことから、投薬内容について医師、薬剤師、ほかの専門職と相談し、痛みや不快な症状がコントロールできるよう、より適切な方法を考えることが必要でしょう。カンファレンスの開催を急いだほうがよさそうですが、その前に、ケアチーム全体でがん疼痛コントロールに取り組むときに必ず知っておいてほしいWHOがん疼痛治療ガイドラインについて最新の知識を交えて説明します。 WHOがん疼痛治療ガイドラインとは 「WHOがん疼痛治療ガイドライン」(WHO Guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents)は、世界保健機関(World Health Organization:WHO)から1906年に公表されました。世界各国でがん疼痛治療の基本となっている指針です。 ここで、WHOがん疼痛治療ガイドラインにまとめられている、7つのがん疼痛マネジメントの基本方針を紹介します1)。2018年に改訂されたので、最新の内容を反映させて解説も記載しました。もしかすると、以前勉強された方は少し変わっていると感じるかもしれません。 がん疼痛マネジメント基本方針1) (1)痛みの最適なマネジメントの目標は、許容できるレベルまで痛みを軽減し、生活の質(quality of life:QOL)を維持できるようにすること ■解説当初、がん疼痛は患者の痛みがゼロになるところを目標にするべきであるとの考え方が主流でした。しかし、実際には痛みが完全になくなる人は一部で、多少の痛みが残存するケースが多かったのです。この残存する痛みを取り去ろうとすると、眠気といったオピオイドの副作用が患者さんを逆に苦しめることも少なくありませんでした。このため、今回のような表現となったのです。 (2)患者の全体的な評価が治療の指針となるべきであり、人によって痛みの感じ方や表現のしかたが違うことを理解する ■解説日本人のオピオイド使用量が他の国に比べて少ないことが長らく問題となっていました。しかし、日本人は比較的少ない量で痛みのマネジメントができるケースが多いと感じています。その一方で、痛みに対してトラウマをもち痛みをより感じやすくなってしまう方もいます。痛みの感じ方は人それぞれです。このことを踏まえて痛みのマネジメントを行っていくことが大切です。 (3)患者、介護者、医療従事者、地域社会、社会の安全を確保する ■解説患者に対して使用したオピオイドがほかに流通し、ほかの目的で使用されることや、意図せず子どもが服用してしまうようなリスクをできるだけ避けるべきです。これは処方を行う医師のみならず、薬剤師を含めた地域社会全体で確立すべきことでしょう。 (4)がん疼痛のマネジメント計画には薬物療法が含まれ、心理社会的およびスピリチュアルなケアが含まれることもある ■解説全人的な痛みのマネジメントが必要です。時には福祉との連携が必要になることもあります。スピリチュアルペインへの対応も必須であると考えられますし、心理的な抑うつや病的な不安への対応も重要になると考えられます。 (5)オピオイドを含む鎮痛薬は入手可能かつ安価でなければならない ■解説世界の中では、オピオイドの入手が困難な国がまだまだたくさんあります。そのことを踏まえた上での項目です。 (6)鎮痛薬の投与は「経口で」「時間を決めて」「患者ごとに」「その上で細かい配慮を」 ■解説今回の改訂で除痛ラダーという有名な考え方がガイドラインから外されました。このため、以前は5つの原則と呼ばれていたものが、「ラダーに沿って」という項目がなくなり、4つになっています。痛みが生じる前に定期的にオピオイドを経口服薬し、痛みをできるだけ抑えることが大切です。なお、今までは症状が出てから薬を使うことが一般的でしたので、痛みが出る前に薬を使う考え方は当時革新的でした。 (7)がん疼痛マネジメントはがん治療の一部として統合されるべきである ■解説今でも緩和ケアはがん治療が終了したときに行われるものという理解が日本でもあるように感じることがあります。そうではなく、がん疼痛マネジメントはがん治療の一部として、がんと診断された後、いつでも提供できるものと指摘しています。 >>次回の記事はこちらWHOの三段階除痛ラダーと鎮痛薬使用の4原則とは【がん身体症状の緩和ケア】 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ、在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社 【 1),(1)~(7)の引用】○World Health Organization. 『WHO guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents』. 2018, p.21-24.(筆者翻訳)

訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月16日
2023年5月16日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、褥瘡評価スケール「DESIGN-R2020」(※1)を使って実際の褥瘡を評価する、ケーススタディの様子をご紹介します。 >>前編はこちら写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 「DESIGN-R2020」で褥瘡評価 「DESIGN-R2020」での評価方法について学んできたところで、ここからは実際の褥瘡の写真を見ながら、「DESIGN-R2020」を用いて評価してみましょう。 事例1:壊死組織で創底が見えない場合 こちらは、1ケース目の褥瘡です。「DESIGN-R2020」での評価は「DU-e3s8i1G6N6p0:24点」となります。 <基本情報>・褥瘡のサイズは6cm×5.8cmで、ポケットはありません。・褥瘡のケアとしては、1日1回ガーゼの交換を行っています。・ガーゼの約半分が汚染される程度の滲出液が見られます。 褥瘡を見てみると、創部は色が黒くなっており、創周囲の皮膚は赤くなっているので、「DTI(深部損傷褥瘡)ではないか?」と思われるかもしれません。しかし、この褥瘡は壊死組織(黒色部分)が全面を覆っていて、創底が見えない。つまり、壊死組織によって深さの評価ができない褥瘡です。また、創面が壊死組織で覆われていることから、肉芽も上がっていません。 創周囲の皮膚は、先にも触れたとおり赤くなり、炎症を起こしています。現段階では炎症で済んでいますが、今後感染に移行してしまう可能性も十分にあります。こういう場合は、創周囲の皮膚にポケットができていないか、膿が溜まっていないかを必ず確認しましょう。 また、速やかに壊死組織を除去することが重要なポイントです。このケースでは、スルファジアジン銀クリームを使って、壊死組織の自己融解を進めています。そのため、壊死組織の外縁から中心に柔らかい組織に変化していっていることがわかるかと思います。 事例2:DTI(深部損傷褥瘡)疑いの場合 続いて2ケース目の褥瘡。「DESIGN-R2020」での評価は「DDTI-e1S15i1g0n0p0:17点」となります。 <基本情報>・サイズは18.5cm× 10cmで、ポケットはありません。・褥瘡ケアは、1日に1回行われています。・滲出液は少なく、ガーゼにわずかに付着する程度です。 こちらはDTI疑いの褥瘡です。「DESIGN-R2020」では、深さの表記は「DDTI」とします。 DTI疑いの場合の評価のポイントのひとつが、肉芽組織(Granulation)の項目。DTIのときの肉芽組織は、0点(g0と表記)で評価するという決まりです。みなさんが訪問看護の現場でDTIの褥瘡の評価に当たる際、「このあたりはいい肉芽が育っているかもしれない」と感じられることもあるかもしれませんが、「肉芽はまったくできていない」と判定しましょう。 事例3:複数の深刻な褥瘡がある場合 3ケース目は、仙骨部と右坐骨結節部、左坐骨結節部の3ヵ所に褥瘡がある方です。「DESIGN-R2020」での評価は、順番に「D4-E6s9I3cG6n0P6:30点(※2)」「D4-E6s6I3cG6n0P6:27点」「D3-E6s6I3cG6n0P12:33点」となります。 ※2 Dは従来通り合計点数には含まれません。また臨界的定着疑い(「訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価 /前編」参照)は3cと記載し点数は3点とします。 <基本情報>・仙骨部にはぬめりがあり、淡黄色の滲出液が多く分泌されています。・右坐骨結節部にはぬめりがあり、淡黄緑色の滲出液が多く分泌されています。・左坐骨結節部にはぬめりがあり、淡黄色〜淡黄緑色の滲出液が多く分泌されています。・栄養状態が低下しており、脱水も確認できます。・頭側挙上をしており、食事にも時間がかかるため、長時間にわたって座位姿勢をとっています。・自力での体位変換はできません。 今回のケースでは、以下のような評価ができるでしょう。 1. 肉芽の状態創面は赤くなっているように見えますが、浮腫性の不良肉芽で覆われています。すべての褥瘡において「良性肉芽が育っていない」と評価します。 2. 肉芽の剥離、段差の有無仙骨部の褥瘡には、肉芽の剥離と段差が見られます。これには、頭側挙上をしていること、座位姿勢をとっている時間が長いことが関係していると考えられるでしょう。ギャッジアップをした際、ずれと圧迫が加わって肉芽が剥がれてしまっています。 さらに、左右の坐骨結節部にも肉芽の剥離がありますね。長時間の座位姿勢をとっているために圧迫され、さらに慢性的な体位のずれも加わって、肉芽が剥離しています。とくに左坐骨結節部は、左側への体幹の傾きを生じているためより強い外力が加わることにより、肉芽は深くまで剥離しています。 3. 滲出液の量3カ所ともぬめりが見られ、多量の滲出液があります。黄緑色の滲出液が出ている部位も確認できました(緑膿菌感染の疑い)。さらに、3ヵ所とも創周囲の皮膚は浸軟しています。これはつまり、臨界的定着疑いの褥瘡であると考えられるでしょう。 4. 巻き込み(エピロール)の有無臨界的定着の疑いがある上に、座位姿勢の時間が長かったり、自身で体位変換ができなかったりして、局所には慢性的に圧迫やずれが加わります。さらに、マイクロクライメット管理も不十分であることから表皮の巻き込みという現象が起こります。これは褥瘡治癒を遅延させるリスクの高い状態といえます。 5. ポケットの有無褥瘡にはポケットも確認できます。体位変換をするときに左右にずれることから、ポケットも左右に広がっています。さらに、ギャッジアップをすることで縦方向にもずれが加わりますから、上部にもポケットが残っています。 複数の褥瘡がある場合も、評価の方法は変わりません。一つひとつの創面を指で触ってぬめりや感触(創周囲がぶよぶよしていないか、膿がたまっていないかなど)を確かめたり、段差や肉芽の剥離がないかをチェックしたり、生活の中で生じている外力(圧迫、摩擦やずれ)がないかを検討したりして、各褥瘡に何が起こっているかを評価してください。 * 褥瘡ケアでは、なにより重要なのは「予防」。一方、すでにできてしまっている褥瘡に対しては「DESIGN-R2020」を使って褥瘡評価を行うことが大切です。創面と創周囲の皮膚に何が起こっているのか、その要因は何なのかについて、局所ケアの状況や生活などから多面的に見極める必要があります。 そして、ご本人や家族と一緒に実践できるケアを考えることが大事です。褥瘡の状態や利用者さんのライフスタイルをふまえ、継続できる最善のケア方法を考えましょう。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ポータブルエコーの可能性3
ポータブルエコーの可能性3
特集
2023年5月16日
2023年5月16日

ポータブルエコー活用のための技術習得のポイントと利用者さんの利点

訪問看護の現場を支えるアセスメントツールのひとつとして注目されているポータブルエコー。しかし、使い慣れない医療機器に対して、どのように技術を習得し進めていけばよいのでしょうか。また、利用者さんにとっての利点が気になるところです。 今回は、東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田克美先生と、臨床検査技師の佐野由美先生にお話を伺いました。 ポータブルエコー技術習得のポイント (1)ハンズオンセミナーや自主練動画を活用 訪問看護師がポータブルエコーを用いることに法律上の問題はありません。医師、看護師、准看護師、臨床検査技師、診療放射線技師が使うことができます。ポータブルエコーは、利用者さんの身体情報をリアルタイムで可視化することができ、かつ非侵襲的な検査であるため、臨床看護における有用性は高いと言われています。 技術習得の場としては、実際に体験することを目的としたハンズオンセミナーが最も習得しやすいでしょう。ポータブルエコーの専門企業が開催する訪問看護師向けセミナーでは、訪問看護師自らポータブルエコーを活用できる症例として、排尿、排便、褥瘡、嚥下、心機能、腹水、胸水、深部静脈血栓症等を挙げています。このように、アセスメントや看護ケアにつなげることを目的として、症例に関する症状の評価や病態の観察を行うセミナーが開催されています。 訪問看護師がポータブルエコーを使う領域は主に褥瘡、膀胱、便が多いと思いますが、始めから利用者さんに使用するのではなく、まずは自分やスタッフの体で練習するとよいでしょう。例えば、自分の上腕動脈を描出し、短軸像と長軸像で撮影しながら練習を重ね、その動画を共有していくことで、最低限のプローブを当てる感覚や画像を見る目が養われていきます。 (2)画像の読み方から段階的に習得する ポータブルエコーの技術習得には段階的なトレーニングが必要です。第1段階は、頭の中で臓器の位置関係や形をイメージできるように、解剖を理解します。第2段階は、エコーの基礎的な知識を学び、撮影断面像を理解する事です。第3段階は、観察したい部位にプローブをあてて、目的の臓器を描出できるように練習を繰り返します。 心電図も同様だと思いますが、平常時をまず知ること、その後に逸脱するものを疑って見てみるのが分かりやすくスムーズでしょう。 利用者さんにとっての利点 (1)利用者さんの心理的負担を軽くする 以前、泌尿器科外来で、「尿が出ない」と話す患者さんにポータブルエコーを当てると、膀胱内の残尿を確認しました。「尿がいっぱいあるので、とりあえず出してみましょう」と看護師が言うと、排尿が見られました。画像を一緒に確認することで、患者さんの気持ちが排尿に向き、看護師が誘導しやすくなる点もポータブルエコーの強みなのかなと思います。 また、便秘の利用者さんをポータブルエコーでアセスメントすることを標榜したことで、サービス契約に繋がり、利用者さんが増えたと事例もお聞きしています。利用者さんやその家族にとっては、ポータブルエコーで専門的に見てもらうことで安心し、結果的に心理的満足度が上がるのかもしれません。利用者さんも便の状態を可視化することで納得されますし、無理な排便ケアを行う必要もなくなります。正確な便秘評価をすることで、自分の便秘としっかり向き合ってくれることに対しても安心されると思います。 (2)利用者さんの生活がスムーズに ポータブルエコーを用いることで、利用者さんが在宅生活のスケジュールを組みやすくなる、という面があります。便秘が気になってしまうあまり、「リハビリに行かない」「お風呂に入らない」という利用者さんは少なくないですよね。その原因のひとつは、外出中や入浴時の失禁に怖さを抱えています。 ポータブルエコーを用いて計画的に排便を促すことができれば、利用者さんも心置きなく外出や入浴ができるのではないでしょうか。ポータブルエコーで便の貯留部位を確認し、下剤を飲む時間を調整したり、可能ならば摘便をしたりします。そうすることで、利用者さんが納得した状況で安心した生活を送ることができるのだと思います。 ポータブルエコー活用のための土台作り 訪問看護師が使用するポータブルエコーは、診断を目的としていません。あくまでもアセスメントツールのひとつであり、医師が診断のために実施するものとは異なります。例えば、在宅利用者さんに何か問題が生じた場合、訪問看護師自らポケットエコーで身体状況を観察し、その情報を素早く医師に情報共有することができると、診療の補助として医師の助けとなるのではないでしょうか。 医師に画像を提示する際にも、「ケアに活かしたい」という看護寄りの視点から提案していくことが良いでしょう。そのためには、日頃からきちんと根拠を調べ、看護ケアにあたることが重要です。医師との関係性の土台ができれば、ポータブルエコーをコミュニケーションツールにできるかと思います。 診療報酬上では、訪問看護師のポータブルエコー使用は加算対象となっていません。しかし、訪問診療では、医師がポータブルエコーを使うと400点算定されます。在宅領域で、医師のポータブルエコー使用が進めば、看護師にタスクシフトされる時代が遠からず来るだろうと予測されます。訪問診療は看護師も同行するので、まずは医師指導のもと実施し、経験を積めると良いでしょう。 取材協力・監修:浦田 克美氏 (皮膚・排泄ケア特定認定看護師)佐野 由美氏 (臨床検査技師) 編集:メディバンクス株式会社 【参考】〇令和2年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000590611.pdf(2023年1月現在)

訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月9日
2023年5月9日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、「DESIGN-R2020」(※1)に基づく評価の方法や、注意すべき褥瘡の特徴とケア方法などをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。  「DESIGN-R2020」の評価方法 「DESIGN-R2020」は、病院でも訪問看護の現場でも使用されている、褥瘡状態の評価スケールです。 ▼DESIGN-R2020(一般社団法人日本褥瘡学会)http://www.jspu.org/jpn/member/pdf/design-r2020.pdf 最初は、深さ(Depth)・滲出液(Exudate)・大きさ(Size)・炎症と感染(Inflammation/Infection)・肉芽組織(Granulation)・壊死組織(Necrotic tissue)・ポケット(Pocket)の頭文字をとった「DESIGN」という評価スケールからスタートしました。その後、評価をつけるという意味のレーティング(Rating)の頭文字をとって「DESIGN-R」に進化し、2020年には現在の「DESIGN-R2020」になっています。 「DESIGN-R2020」は、褥瘡の状態を0〜66点で採点する方式で、合計点数が大きいほど重症度が高くなります。また、各項目の文字での評価では、大文字は重症、小文字は軽症という決まりです。 ちなみに、褥瘡を黒色期・黄色期・赤色期・白色期という創面の色で分類(色調分類)する考え方もありますが、これを「DESIGN-R2020」に照らし合わせると上記のようになります。 合計点数を下げていく、そして小文字にしていくことが、「DESIGN-R2020」における基本の考え方です。具体的には壊死組織を除去し、肉芽を増殖させて、創を小さくするという流れで創部の治癒を促していきます。 「DESIGN-R2020」の変更点 「DESIGN-R2020」では、「深さ」と「炎症・感染」の項目がそれぞれ以下のように変更されました。 深部損傷褥瘡(DTI)の追加 深さの項目に、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」が追加されました。表記は「DDTI」とし、ハイフンをつけてE(滲出液)以降の評点を続けます。(表記例)DDTI-E6s6I3G5N3P6:29点 こちらは、「DESIGN-R2020」の評価(d1~DU)と「NPIAP分類(深達度分類)」をまとめた資料です。「DESIGN-R2020」における「DDTI」は、NPIAP分類では「DTI(SDTI)疑い」にあたります。 では、DTI疑いとは具体的にどのような状態なのでしょうか。DTIは、皮下組織よりも深いところの組織の損傷が疑われる急性期褥瘡のことを指します。深さの項目では、真皮までの損傷なのか、皮下組織より深い損傷なのかを評価しますが、DTIは見ただけでは損傷があるかどうかの判断が困難です。短期間で悪化する褥瘡として注意しておきましょう。 上記のスライドはDTIの例を2つ挙げたもので、左のケースは5日間で、右のケースは10日間で状態が悪化しています。 臨界的定着(3C)の追加 炎症・感染の項目には、大文字のIのところに「臨界的定着疑い(3C)」という基準が追加されました。 3C(臨界的定着疑い)の褥瘡の特徴としては、滲出液が多く、創面がぬめっています。過剰な滲出液の影響により創周囲は浸軟し、肉芽はあるけれど、ぶよぶよとしていて非常に脆弱です。数週間や数ヵ月、何年経っても改善しないという例もあります。 臨界的定着疑いのある褥瘡の感染リスク 臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)の疑いがある褥瘡は、炎症兆候が見られなくても創面には細菌が付着しており、実は感染を起こす一歩手前の危険な状態。一刻も早く改善に向けた対応が必要です。 臨界的定着疑いのある創面は、滲出液が多くなります。過剰な滲出液により創周囲が浸軟すると、褥瘡はさらに治癒が遅延します。また、慢性的な圧迫や摩擦、ずれが加わると、周囲の皮膚が肥厚していきます。そして、創部の辺縁部が内側に巻き込んでしまい、いよいよ治りにくい状態になってしまいます。 創面に存在するバイオフィルム バイオフィルムとは微生物が固着して形成されるコミュニティで、白血球や消毒に対するバリアをつくって、傷を治りにくくします。健常者は細菌に対する抵抗力がありますが、全身状態が低下していたり、低栄養であったりして抵抗力が落ちている利用者さんの場合は、臨界的定着になりやすく、難治性創傷につながるのです。難治性創傷の6〜9割には、このバイオフィルムが存在するといわれています。 感染を起こしている褥瘡のコントロール 感染を起こしている褥瘡は、適切な治療が行われないと、敗血症を引き起こし、死に至る可能性があります。そのため、できるだけ早く感染を抑えることが重要です。 上のスライドの左の傷をご覧ください。このように感染を起こし、また壊死組織で覆われている傷では、皮下組織が傷んで創周囲にポケットを形成している可能性もあります。以下は局所ケアのポイントです。 ・抗菌作用のある薬を使って局所ケアを行う。・創面の密閉をせず、マイクロクライメット(※2)の管理を行う。・圧迫、摩擦、ずれを回避できる超低圧保持のエアマットを使用し、頭側挙上を行っている場合はその時間をきちんと管理をして、体圧分散・除圧を徹底する。・創部は、微温湯(水道水や生理食塩水)で十分な圧力をかけて洗浄する。・創周囲は、皮膚洗浄剤を用いて洗浄し、皮膚に付着した細菌を減少させる。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。※2 マイクロクライメット:皮膚局所の温度・湿度 >>後編に続く写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

脳卒中 再発予防
脳卒中 再発予防
特集 会員限定
2023年4月25日
2023年4月25日

訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 後遺症「痙縮」【セミナーレポート後編】

2023年1月19日に開催したNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策」。近畿大学医学部 脳神経外科講師の内山卓也先生、近畿大学病院 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師の林真由美さんを講師としてお迎えし、脳卒中を発症した利用者さんの看護にあたる上で役立つ疾患の情報や、どんなケアが求められるかなどを教えてもらいました。 本記事では、前後編に分けてセミナーの一部をご紹介。後編では、内山先生による「痙縮の特徴や治療法」についての講演内容をお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 基礎知識【セミナーレポート前編】>>Q&A特別先行公開はこちら先行公開!訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策 セミナーQ&A ※約70分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】内山 卓也先生近畿大学医学部 脳神経外科講師日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医。不随意運動症に対する脳深部電気刺激術、疼痛に対する脊髄硬膜外刺激療法、痙縮に対するバクロフェン髄腔内投与療法やボツリヌス療法について診療・研究を行っている。林 真由美さん近畿大学病院看護部 SCU主任脳卒中リハビリテーション看護認定看護師、脳卒中療法相談士。脳卒中患者の重篤化予防やリハビリテーション、生活再構築のための機能回復支援など、幅広いサポートに携わる。 脳卒中の後遺症「痙縮(けいしゅく)」とは みなさんは、「痙縮」をご存知でしょうか? 痙縮は「痙性麻痺」ともいわれ、簡単にいうと「硬い麻痺」、麻痺した筋肉が極度に緊張してしまう状態のことをいいます。内反尖足や、手を握り込んでしまって指が開かなくなる症状は、よくみる症状のひとつです。 この痙縮は、脳卒中を発症した患者さんの約25%に後遺症として現れ、またそのうち70%程度が疼痛を合併することがわかっています。 脳卒中になり、手足が思うように動かせなくなった。そして、その手足の筋肉が徐々に硬くなって、痛みやつっぱりといった症状が出てきた。そんな痙縮に悩む患者さんに対してできる治療についてお話ししていきます。 痙縮は当事者だけでなく介護者の負担も増やす 治療法についてご説明する前に、痙縮という症状がどのような問題につながるかを確認しておきましょう。まず、痙縮が起きて関節の可動域が制限されると、ADLが低下し、リハビリも滞ってしまいます。さらに、先ほどご説明した痛みや、睡眠障害の原因になることもあります。つまり、痙縮は患者さんにとって大きな苦痛とストレスを与える症状なのです。また、介護をする方の負担が非常に重くなるという問題もあります。 ボツリヌス療法、ITB療法の概要 そんな厄介な痙縮に対し、私たち脳神経外科医は、さまざまな方法で治療を行っています。その中でも今回は、代表的な治療方法である「ボツリヌス療法」と「ITB療法(バクロフェン髄注療法)」についてご紹介します。 ・ボツリヌス療法硬くなった筋肉にA型ボツリヌス毒素を注射し、緊張を和らげる治療法。外来で治療ができます。 ・ITB療法(バクロフェン髄注療法)脊髄の周りにある髄液にバクロフェンという薬を注入し、筋肉の緊張を和らげる治療法です。もう少し具体的に説明すると、バクロフェンを専用のポンプに入れ、ポンプを腹部の皮下に埋め込み、ポンプから髄液に薬を注入していきます。ITB療法は、両足や両手、体幹など、痙縮の範囲が広い症例で選択されることが多いです。 このように、痙縮には治療法があります。訪問看護の現場で痙縮に悩む利用者さんに出会ったら、かかりつけの医師や脳卒中相談窓口にぜひ相談していただき、そこから、上記のような治療を提供している施設につないでもらってください。 * ボツリヌス療法やITB療法により少しでも体の状態が改善すると、介護の負担が軽減し、患者さんの生活の質が向上する可能性があります。ぜひ訪問看護師のみなさんにも痙縮の症状や治療への理解をより深めていただき、積極的に患者さんや他職種への情報提供をお願いできればと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

緩和ケア がん疼痛
緩和ケア がん疼痛
特集
2023年4月25日
2023年4月25日

がん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】

最近は多くの病院からがん末期の患者さんがご自宅に退院されます。中には強い痛みやオピオイド(医療用麻薬)の副作用に悩む患者さんがいらっしゃいます。そのような患者さんにどのように寄り添い、症状を緩和していくか。この連載では、ときに基礎的な話も織り込みながら、がんの疼痛緩和について解説を進めていくことにしましょう。 がん疼痛がコントロールできていないAさん Aさん49歳。膵臓がんの方です。がんが発見されたときには、すでに肝臓全体に転移していました。妻と子ども2人(小学生と高校生)と生活していましたが、入院して、抗がん剤治療を行うことになりました。 しかし、抗がん剤の効果はあまりありませんでした。2種類目の抗がん剤を使用しても、病変はむしろ拡大し、がん性腹膜炎も発症。医師からこれ以上の治療は意味がないと退院をすすめられました。 Aさんは自宅療養を選択し、ご自宅に帰られました。歩いて外出するのは困難であったため、訪問看護と訪問診療を導入し、介護保険を申請。ケアマネジャーも紹介されました。 Aさんが退院時に処方された薬剤は図1のとおりです。 図1 退院時に処方された薬剤 Aさんの痛みや状態をアセスメントする Aさんの退院時、まず訪問看護師であるあなたが訪問しました。Aさんが実際にどのような痛みを感じているのか、詳しく伺うことにしました。Aさんに、痛みの部位や痛みの経過、痛みの強さやパターン、性状について確認してみると、自宅に帰る数日前から、心窩部から背部のじわじわした痛みに悩まされるようになったとのこと。入院中はそれほど痛くなかったものの、退院してから1日中じくじくと痛むようになったそうです。場所はだいたい同じ位置です。また、時々強い背中の痛みが生じ、ベッドに横になることしかできなくなってしまうとの訴えもありました。 食欲もあまりなく、好物のステーキも2口程度しか食べられません。便秘に対する薬を服用していますが、この5日ほど排便がありません。腹部も張っているので常に苦しい感じがあるとのことでした。 このようなケースをどう考え、解決し、看護していくか。一緒に考えてみましょう。 痛みの原因を探る がん疼痛は「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」に分けられます。まずは、Aさんの痛みがどのような痛みなのか、痛みの種類を整理しましょう。痛みの種類が分かれば、治療法の検討に役立ちます。 侵害受容性疼痛 侵害受容性疼痛とは、体の組織の損傷による痛みです。組織には痛みを感じる侵害受容器があり、それが刺激されることによって痛みが生じます。切り傷、骨折、擦り傷などの痛みも含まれます。がんの場合は、がんが内臓に浸潤したり、転移して臓器が傷ついたりすることで痛みが生じます。 障害受容性疼痛は、「体性痛」と「内臓痛」に分けられます。 ■体性痛体性痛は、比較的太い神経線維で伝えられる痛みです。そのため、骨や皮膚、筋肉、結合組織といった「体性組織」への刺激が原因となることが多いです。腹腔内臓器でも、被膜や腹膜まで達した炎症で生じる場合はこの痛みとなることがあります。例えば、虫垂炎や腹膜炎の痛みです。太い線維で伝えられる痛みなので、局在がはっきりしていること、体動時に悪化することが特徴です。痛みが体動で悪化する際のレスキューがポイントになります。 ■内臓痛内臓痛は、比較的細い線維で伝えられる痛みです。局在がはっきりせず、鈍い痛みとして感じられます。例えば、膵臓がんの痛みも上腹部全体、背部(胃の裏側辺り)の痛みとして感じ、その局在は比較的広くなります。 神経障害性疼痛 神経障害性疼痛は、神経そのものが障害されたり、刺激されたりすることによって起こる疼痛です。しびれや異常感覚を伴うことがあります。代表的な神経障害性疼痛の異常感覚は、痛む部分を少しだけ刺激することによって強い痛みを誘発する「アロディニア」という現象です。 * がん疼痛は、体性痛、内臓痛、神経障害性疼痛の3種の痛みが時には混合して疼痛として感じられることがあります。例えば、膵臓がんでは、膵被膜に浸潤する痛みや腹膜に転移して生じる痛みは体性痛、膵臓がんによって膵液の流出が妨げられ、膵内圧が高まった痛みは内臓痛にあたります。さらに、膵臓がんは腹腔神経叢へ浸潤することもありますので、浸潤した痛みは神経障害性疼痛に分類されます。このとき、強い腹痛や背部痛が出現します。オピオイド(医療用麻薬)ではコントロールしにくくなり、腹腔神経叢ブロックが必要になることがあります。 Aさんの痛みの特徴を理解する Aさんの痛みの訴えをもとに、痛みの種類を考えてみましょう。 まず、Aさんの痛みは、じわじわした境界不明瞭な痛みです。何となくこのあたりが痛い、言われてみれば心窩部や背中が痛い、というものです。これは内臓痛の成分が強いと思われます。また、時々起こる強い背部痛は、痛い場所がはっきりしているので、内臓痛に加えて、体性痛を合併している可能性が高く、侵害受容性疼痛とも判断でき、神経障害性疼痛の可能性も否定できません。先述のとおり、膵臓がんの場合、腹腔神経叢に浸潤し、神経障害性疼痛を起こしやすいことが知られています。 Aさんの痛みの特徴を理解したら、次はその痛みをどのように緩和していくのかを考えていきましょう。この続きは、次回、お伝えします。 >>次回はこちらがん疼痛マネジメントの原則-WHOがん疼痛治療ガイドラインとは【がん身体症状の緩和ケア】 執筆 鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ、在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社 【参考】 〇日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会編 『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)』 東京,金原出版株式会社,2020.

脳卒中再発予防セミナー
脳卒中再発予防セミナー
特集 会員限定
2023年4月18日
2023年4月18日

訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 基礎知識【セミナーレポート前編】

2023年1月19日に開催した、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策」。近畿大学医学部から脳神経外科講師の内山卓也先生と、近畿大学病院 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師の林真由美さんを講師としてお迎えし、脳卒中を発症した利用者さんの看護にあたる上で役立つ疾患の情報や、どんなケアが求められるかなどを教えてもらいました。 本記事では、前後編に分けてセミナーの一部をご紹介。前編では、林さんによる「脳卒中の基礎知識」や「訪問看護師のみなさんにぜひ実践してほしいサポート」についての講演をまとめます。 >>Q&A特別先行公開はこちら先行公開!訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策 セミナーQ&A ※約70分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】内山 卓也先生近畿大学医学部 脳神経外科講師日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医。不随意運動症に対する脳深部電気刺激術、疼痛に対する脊髄硬膜外刺激療法、痙縮に対するバクロフェン髄腔内投与療法やボツリヌス療法について診療・研究を行っている。林 真由美さん近畿大学病院 看護部 SCU主任脳卒中リハビリテーション看護認定看護師、脳卒中療法相談士。脳卒中患者の重篤化予防やリハビリテーション、生活再構築のための機能回復支援など、幅広いサポートに携わる。 脳卒中の特徴 脳卒中とは、頭の血管が破れる「脳出血」や「くも膜下出血」、血管が詰まる「脳梗塞」の3つの総称です。年間で約20万人以上が発症し、10年間で約半数の方が再発するため、決して珍しくない病気といえるでしょう。 そんな脳卒中の特徴は、発症すると、麻痺や失語、神経脱落症状などの後遺症が残るケースが多く、ADLの低下につながりやすいことです。重い後遺症に悩まされ、在宅でリハビリを続けなければならない方は少なくありません。また、再発するたびに重症化し、要介護5の認定を受ける要因の中で最も大きな割合を占めるともいわれています。その一方で、近年は急性期の治療が進歩し、退院して自宅に戻られる方も増えました。このように、脳卒中を発症された方のその後は実にさまざまです。 なお、脳神経細胞は一度壊死すると元には戻らないため、発症した場合はとにかく迅速に対応することが重要です。具体的には、8時間以内であれば脳の蘇生が可能とされています。 脳卒中予防の基本 日本脳卒中学会が発表している「脳卒中治療ガイドライン2021」では、脳卒中の発症を招く代表的な危険因子として、以下を挙げています。 ・高血圧(最大の危険因子といわれています)・糖尿病・脂質異常症・飲酒・喫煙・心疾患・肥満 これらの因子が関係し、体の中で動脈硬化をはじめとした不調が徐々に起こって、ある日突然に発症するケースがとても多いです。つまり、脳卒中は生活習慣の影響をとても受けやすい病気ということ。普段から血圧のコントロールや内服管理、食生活の見直し、運動を心がけることが予防の基本です。 症状出現時の対応 脳卒中を発症すると、顔の半分が垂れる、顔面麻痺が起きる、手足が動かしにくくなる、喋りにくくなるといった症状が見られます。これらのどれかひとつでも確認できた際は、60〜70%の確立で脳卒中を疑いましょう。 症状が現れたり消えたりしているうちは、まずは速やかにかかりつけの医師に相談してください。症状が30分以上続くときは、救急車要請の対象となります。 また、症状が最初に出たときの時間を覚えておくこともポイント。その後の治療選択にあたって重要な情報となります。 利用者さんに事前に伝えておくべきこと 先に触れたとおり、脳卒中の症状が出現したら、速やかに治療を受けることが重要です。しかし実際は、すぐに病院に来られない方が多くいます。例えば一人暮らしだったり、失語の症状が出て連絡しようにもできずにいたり、といったケースです。また、「誰に自分の危険を知らせたらいいかわからなかった」とおっしゃる方も少なくありません。そのため利用者さんには、「発症した際にどこにどのような方法で連絡すべきか」を案内しておくことが大切です。 情報提供のコツ 私が患者さんに情報を提供する上では、その方の「言葉」を大切にしています。例えば、入院患者さんの多くは「二度と入院したくない」とおっしゃいます。これは、今現在のことしか見えておらず、今後についてはまだ考えられていないサイン。この段階では、疾患や今後の生活についての基礎的な情報をお伝えします。 患者さんが「なぜ発症したのだろう」とおっしゃるときは、過去を振り返って原因を探っている段階と考えられるでしょう。こんなときは、今までの生活習慣についてヒアリングし、その方に必要な工夫についてお話しするようにしています。 また、「生活をこう変えてみよう」とおっしゃる方、つまり行動を起こそうとしている方に対しては、継続できる目標設定になっているかを確認するようにしています。 ACPを提案する重要性 脳卒中を発症して入院される患者さんの中には、意識障害が起きたり、認知機能が低下したりする方が多くいらっしゃいます。そして、その中で幸いにも状態が回復した方の多くは「今まで自身の生き方や最後の迎え方について考えたことがなかった」とおっしゃいます。 そこで、脳卒中を経験した利用者さんにみなさんからぜひ提案してほしいのが、5年後、10年後の生活をイメージするACP(アドバンスケアプランニング)です。 「今までどおり趣味を楽しみたい」「孫の顔を見たい」といった希望についてはもちろん、・もし再発した場合、延命措置や人工呼吸器の装着を選択するか・胸骨圧迫(心臓マッサージ)を実施するか・家族は保険や貯金について把握しているかという点を含めて、将来のことを身近な方と話すきっかけを提供してみましょう。それにより、利用者さんの今後の生活はよりよいものになるはずです。 脳卒中相談窓口の取り組み 2022年の5月から、一次脳卒中センターに「脳卒中相談窓口」が設置されています。循環器病対策推進計画の一環として始まった取り組みで、窓口では当事者への治療や再発予防に関する情報提供や生活の支援などはもちろん、訪問看護師やヘルパー、ケアマネジャーからの相談も受け付けています。当事者を支える専門職の職種連携を図ることも、脳卒中相談窓口が掲げる目的のひとつなので、ぜひ有効に活用してもらえたらと思います。 看護外来に寄せられる相談内容 看護外来に日々寄せられる相談の一部をご紹介します。まず、生活に関する相談としては、以下のような内容が挙げられます。 ・家族関係がうまくいっておらず、血圧が上がってしまう・家族から運動を止められる・経済的な問題で薬の継続に不安がある・多忙で自炊ができず、減塩が難しい 以下は、問診やトリアージが必要な相談にあたるでしょう。 ・血尿が止まらない・めまいがする・3日ぐらい食事がとれず、起き上がれない また、地域社会との連携や調整が必要な相談も多く寄せられます。 ・高次脳機能障害が残り、仕事に行くのが怖くなった。職場の人とうまくやっていけない・周りに頼れる人がいない・病気になったことを知られたくない 当事者が独力で生活習慣を改善し、維持していくのは難しいこと。訪問看護師のみなさんには、症状出現時だけでなく、ぜひ日々の暮らしについてもアドバイスやサポートをお願いします。また、利用者さんが大事にしている生き方や価値観を知り、ぜひ病院側にも情報提供をしていただきたいです。 >>後編はこちら訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 後遺症「痙縮」【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ポータブルエコーの基礎知識
ポータブルエコーの基礎知識
特集
2023年4月18日
2023年4月18日

手軽で便利…でも難しい? 訪問看護師が知っておきたいポータブルエコーの基礎知識

新たなアセスメントツールとして訪問看護でも採用され始め、最近話題のポータブルエコー。使ってみたいと思っても、基礎教育を受けていない看護師にとっては、難解な専門用語を前に、敷居が高いと感じる人も多いのではないでしょうか。東葛クリニック病院でエコー回診を担い、その技術と判断方法を看護師にも指導している臨床検査技師・佐野由美先生に、エコーのしくみと使うために必要な基礎知識を教えていただきました。 音の反射信号を画像化するエコー エコーは、人の耳には聞こえないほどの高い音(超音波)をプローブから出して臓器にあて、跳ね返ってくる信号をプローブが受信し、画像化します。患者にとって無侵襲で、レントゲンのように被曝がなく無害であるため繰り返し検査することができます。 また、レントゲンは撮影後すぐに見ることができませんが、エコーならばリアルタイムで見ることができます。エコーで見ることができるのは、実質の臓器(中身の詰まっている臓器:肝臓、腎臓、膵臓、脾臓など)。尿や血液も見られますが、空気、骨に対しては不向きです。難点は、エコー画像の判断が実施者の技量に大きく左右されるところです。 エコーは深さ・部位ごとに3つのプローブがある プローブは3種類あり、見る深さや部位によってプローブを替える必要があります(図1)。お腹のやや深い部分、例えば膀胱を見る場合は、周波数の低いコンベックス型プローブを使います。コンベックス型プローブは先端が丸くなっており、広い範囲を観察することができます。 褥瘡エコーは表皮に近いところですので、体表に近い部分(乳腺や甲状腺、血管など)を見る周波数の高いリニア型プローブを選択します。薄く小型のセクタ型プローブは心臓に特化したもので、肋骨の間から心臓を見ることができます。 図1:「プローブの種類と使い分け」(提供:佐野由美氏) プローブの持ち方・走査方法 まず、プローブにゼリーを塗り、親指と人差し指、中指でプローブを握り、薬指は肌に添えて固定します(図2)。 図2:「プローブの持ち方 良い例 悪い例」(提供:佐野由美氏) 握りしめたり、持つ位置が上になりすぎたりしないようにしましょう。初心者は、固定が不十分で、強く握りしめすぎるあまり、細やかな動きができなくなりがちです。 横断像は、体軸に対して垂直にプローブを置き、縦断像は、体軸に並行にプローブを置いて描出します。この時、プローブマークの位置が重要です(図3)。 図3:「プローブマークについて」(提供:佐野由美氏) プローブマークとは、プローブの横についている突起のことです。このマークを横断像では患者の左側に、縦断像では患者の足側に向けてプローブを持つことが基本です。横断像ではプローブを当てた部分で切った断面を下からみた画像、縦断像ではプローブを当てた部分を切った断面を右から見た画像がそれぞれ描出されます(図4、図5)。 図4:横断像 (提供:佐野由美氏) 図5:縦断像 (提供:佐野由美氏) そこで重要となるのが、人体の解剖についての知識です。「この断面だから、この臓器がこんな形で見られるはず」とイメージできるようにしておく必要があります。私がエコーを教える時は、実際の解剖図を照らし合わせながら、画像を見ています。 走査方法は2つあり、プローブの角度を変えずに平⾏にスライドさせる平行走査と、プローブ設置面を支点とし傾けながら扇状に動かす扇動走査があります(図6)。 図6:平行走査と扇動走査 (提供:佐野由美氏) エコー画像 調整・判断の知識 エコーを扱う際には、画像の調整(ゲイン、フォーカス、ダイナミックレンジなど)の知識が最低限必要になってきます。特に、ポータブルエコーでは、全体の明るさを調整するゲインの知識が重要です(図7、図8)。 図7:画像の調整(提供:佐野由美氏) 図8:明るさの調整 ゲイン (提供:佐野由美氏) また、画像の判断で最低限覚えてほしいのはエコーレベルです。エコーレベルには、真っ黒の無エコーから、真っ白の高エコーまであり、そのエコーレベルで画像を判断していきます。戻ってきたエコーの力が大きい(硬いもの)ほど、白で描出され、小さい(柔らかいもの)ほど、黒で描出されます。しかし、空気やガスは例外で、白く見えます。 図9:エコーレベル (提供:佐野由美氏) 膀胱は見えやすい方ですが、尿の貯留具合などで左右され、個人差があります。健診で来られる方々はきれいに見えることが多いですが、高齢者は便秘気味でガスが多く、見えにくくなりがちです。 そのほか、エコーには、アーチファクト(画像ノイズ)という、実際には存在しないのに映し出される虚像がつきものです。理解していないと誤診につながる場合や、画像判断の手がかりにできる場合もあり、知っておく必要があります(図10)。 【多重反射】強い反射面が体表面付近で並行に向き合っている場合、反射面の実像の後方に砂を敷いたような画像に見えることがある。 【サイドローブ】エコーはプローブからまっすぐ垂直の方向に放射されるメインローブによって画像が抽出されますが、斜めの方向に放射されるサイドローブによって実像とは異なる画像が抽出されてしまうことがある。 【音響陰影】エコーを強く反射または吸収する物質の後方は、エコーが減弱あるいは消失した領域となる。これを音響陰影という。 【後方エコー増強】音響陰影とは逆に周囲に比べて白く描出されます。画面上にある嚢胞の後方が輝度が高くみえている。 【鏡面現象】鏡に映りこんでいるものが、鏡の向こう側にもあるのと同様に、エコーでもその現象が起こることを鏡面現象という。エコーを強く反射する平面があると、鏡の役割を果たして起こる。 図10:アーチファクトの一例 (提供:佐野由美氏) ポータブルエコー 技術習得と機器選びがカギ エコーは、臨床検査技師でもまだまだ未熟な領域が多くあり、使う人の技術がカギを握ります。研修やアフターケアで質問を受け付ける教育機関があり、看護師は超音波検査士という資格の対象職種となっています。管理者は、ある程度一人が習熟してから次を育てる、というように長いスパンで教育プランを作成する必要があるでしょう。 また、ポータブルエコーは以前より低価格になったとはいえ、最低でも数十万円以上と、決して安くはありません。でも、安いものはどうしても画質が劣ります。画質が悪いエコーでは分かりにくいため、途中で諦めてしまったり、継続使用ができなくなったりするケースがあります。個人的には、初心者の方は、低価格のものより画像がきれいな機器を選んでほしいと思います。 取材協力佐野由美氏(臨床検査技師)編集:メディバンクス株式会社 【引用・参考】(1)田中宏治. 『ナースのためのポケットエコー実践ガイド』 医歯薬出版株式会社, 2020.(2)『超音波検査技術テキスト』 一般社団法人日本超音波検査学会, 2012.(3)真田弘美・藪中幸一・野村岳志(編集). 『役立つ!使える!看護のエコー』 照林社, 2019.

明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
特集 会員限定
2023年3月28日
2023年3月28日

【セミナーレポート】後編:装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-

2022年12月16日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「明日から生かせる!ストーマトラブルへの対応」を開催いたしました。講師は、急性期病院でストーマ管理を長きにわたって経験し、現在は訪問看護ステーションを開設している「皮膚・排泄ケア認定看護師」の原 慎吾さんです。 本記事では、前後編に分けてセミナーの一部ご紹介。後編では、適切な装具の選び方や、ケーススタディの内容をまとめています。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師看護師として急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。その中で、トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、その課題を解決すべく独立。現在は「看護のスペシャリストを在宅へ」をコンセプトに掲げ、病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開。2021年には訪問看護ステーションも開設している。 目次 1. 選択の基本  (1)皮膚保護剤(面板)の組成  (2)装具の形状 2. 選択するときに注意したいポイント  ・皮膚保護剤の粘着面の溶け具合  ・あらゆる体位での腹壁の質感  ・利用者さんの言動 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応  (1)アセスメントを行う  (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する  (3)頻回に装具を交換する 1. 選択の基本 装具を選ぶにあたっては、大きくふたつのポイントがあります。ひとつめは皮膚保護剤(面板)の組成、ふたつめは形状です。 皮膚保護剤(面板)の組成 皮膚保護剤(面板)は、水になじまない「疎水性ポリマー」と、水になじむ「親水性ポリマー」とを組み合わせてつくられています。この割合が製品ごとに異なり、疎水性ポリマーの量が多ければ多いほど水に強く、粘着力が高いです。逆に親水性ポリマーの量が多いと、水には弱くなるものの、皮膚の負担は少ないというメリットがあります。皮膚保護剤は「長期用」「中期用」「短期用」に分けられていますが、疎水性ポリマーの量が多いものが長期用(使用期間5〜7日)、親水性ポリマーの量が多いものが短期用(使用期間1〜4日)です。なお、その中間に位置する中期用もあります(使用期間3〜5日)。ただし、これはあくまでも目安です。 利用者さんのご自宅にうかがった際は、ぜひ装具の名前を調べ、適切に使用できているかチェックしてあげてください。万が一、長期用のものを毎日交換するようなことがあれば、皮膚はあっという間に発赤やびらんなどのトラブルを起こします。逆に短期用を1週間も貼っていれば、突然装具が剥がれてしまう可能性もあるでしょう。 装具の形状 装具には、柔らかくて皮膚への影響が少ない平面装具と、硬いプラスチックでできた凸面装具とがあります。ちなみに、1枚のコストは前者のほうが低いです。 硬い腹壁には平面装具(および柔らかい皮膚保護剤)を、柔らかい腹壁には凸面装具(および硬めの皮膚保護剤)を使うとよいといわれています。お腹に対して指の向きを並行にして押し当て、沈む指が1本以下なら硬い、1本以上2本未満なら普通、それ以上は柔らかいと判断します。 筋肉質だったり皮下脂肪が少なかったりする方は、お腹を押さえるとすぐに腹直筋にあたる、つまり硬いですよね。そこに凸面装具をつけると、お腹が装具を押し上げてしまい、皮膚損傷の原因になります。漏れといったトラブルが起きた際も、ぜひ腹壁を触ってみてください。 さらに、「しわ」の状態も確認が必要です。しわが多い方に平面装具、柔らかい皮膚保護剤を使用してしまうと、これも漏れの原因になります。 2. 選択するときに注意したいポイント 装具選択のときに私が必ず見ているポイントについて、もう少し細かくお伝えします。 皮膚保護剤の粘着面の溶け具合 装具を交換する際、剥がしたものをすぐに捨てずに、必ず面板の裏面(粘着面)を確認しています。粘着面がいびつな形で溶け出している部分は、腹壁がへこんでいる、隙間ができるということ。つまり、漏れや便の潜り込みなどのトラブルが起きやすい部分なので注意が必要です。うまく貼れていれば、面板の裏面は均一の幅でリング状に溶けていることを確認できると思います。 あらゆる体位での腹壁の質感 指を押し当てて腹壁の質感を調べるというやり方はすでにお伝えしましたが、座位、臥位、立位と、その方がとりうるすべての体位でチェックすることがポイントです。体位を変更すると、腹壁が変形したり、しわの入り方が変わったりします。座ると臥位では見られなかったしわが入ることも多いので、必ず確認しましょう。寝たきりの利用者さんであっても、その方が日常生活の中でとる体位変換を実践してもらい、お腹の動きを見てください。 利用者さんの言動 利用者さんがどのくらい動けるか、指示に従えるか、手に震えはないかなど、全体的な言動も見ています。装具選択時には、その方にとって使いやすいかどうかを見極めることが大切です。そのため、ADLやセルフケアの状況・理解度・受容段階などをアセスメントします。 訪問看護師のみなさんは、初めての訪問の際に確認していただければと思います。 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応 ここからは、「ストーマの近接部にびらんが見られるが、面板全体では問題がない利用者さん」というモデルケースを挙げて、対応方法を時系列に沿って考えてみましょう。 (1)アセスメントを行う まずはアセスメントを行い、トラブルの原因を明らかにしていきます。ストーマの近接部にびらんが見られるものの面板全体では問題がない場合、化学的原因(排泄物の付着)が原因だと考えられます。現在の装具を使い続けていると、びらんになっている箇所が常に便に汚染されてしまう状態です。 (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する びらんからは常に滲出液が出るため、面板を貼っても装具は密着せず、装具と皮膚の間に排泄物が入り込んでしまいます。すると、いつまで経っても治らず、状態が悪化する可能性も高いでしょう。 こういうケースでは、パウダーを使います。パウダーがびらんと面板の間に入り、滲出液を吸いながらゼリー状になって、排泄物をブロックしてくれます。さらに、パウダーにはpH緩衝作用があり、排泄物を中和して皮膚を守ってくれる効果もあります。 ただし、パウダーは名前のとおり粉状なので、水分を吸うと次第に溶けて崩れていきます。そのため、イレオストミー(回腸ストーマ)やウロストミー(尿路系ストーマ)の場合は、排泄物と一緒に短時間でパウダーが流れてしまうでしょう。しかし、数時間は皮膚を守ってくれるので、治療の一助になるかと思います。 (3)頻回に装具を交換する そして、頻回に装具を交換し、排泄物がびらんに付着する時間をできるだけ短くしましょう。私はこのような状態になった利用者さんには、「皮膚がヒリヒリしたら装具交換のタイミングだよ」とお伝えしています。びらんがある状態で新しい装具を使っても面板が密着しないので、まずは皮膚を治すのが最優先。短期用の皮膚保護剤(面板)やアクセサリーを使うなどして、可能な限り皮膚をきれいに保つようにしてください。 * ストーマトラブルが発生すると利用者さんの背負う負担はより大きくなります。今回お伝えした対応をとってみても課題が解決できない場合、ストーマ外来や皮膚・排泄ケア認定看護師に相談してみることも選択肢のひとつ。ご自身やご自身のステーションで抱え込まず、よりよい対策を模索してみてください。 編集:YOSCA医療・ヘルスケア [no_toc]

明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
特集 会員限定
2023年3月22日
2023年3月22日

【セミナーレポート】前編:皮膚トラブルの原因と対処法-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-

2022年12月16日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「明日から生かせる!ストーマトラブルへの対応」を開催いたしました。講師は、急性期病院でストーマ管理を長きにわたって経験し、現在は訪問看護ステーションを開設している「皮膚・排泄ケア認定看護師」の原 慎吾さんです。 前編となる本記事では、ストーマ装具装着に伴うトラブルのアセスメントから原因別に求められる対応をご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師看護師として急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。その中で、トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、その課題を解決すべく独立。現在は「看護のスペシャリストを在宅へ」をコンセプトに掲げ、病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開。2021年には訪問看護ステーションも開設している。 目次 1. まずは丁寧にアセスメントを  ・ストーマ装具装着に伴う皮膚トラブルの主な原因 2. 医学的原因(皮膚保護剤によるアレルギー)への対処法  ・対処の順番は必ずステロイドが先 3. 化学的原因(排泄物の付着)への対処法  ・ただし装具の見直しよりも先に皮膚の状態改善を目指して 4. 排泄物の漏れ、潜り込みが起こる主な原因と対策  (1)装具と腹壁の不適合  (2)装着時の不適切な手技  (3)装着直後に体を動かす  (4)使用期間の目安を守っていない --> まずは丁寧にアセスメントを ストーマ装具装着により皮膚トラブルが起きたときは、まずアセスメント行い、原因をはっきりさせましょう。なぜなら、どんなに高価な薬、創傷被覆材を使っても、原因を除去できなければ改善は難しいからです。 例えば皮膚保護剤(面板)のアレルギーが原因の場合は、アレルゲンを取り除いてあげなければ、どれだけ薬を塗っても苦痛が続いてしまいますよね。さらに、訪問回数が増える・時間がかかるなど、利用者さんにとって精神面・身体面・コスト面での負担も大きくなってしまいます。 ストーマ装具装着に伴う皮膚トラブルの主な原因 では、皮膚トラブルの原因にはどのような可能性が考えられるでしょうか。 ひとつめは、「医学的原因」といわれる皮膚保護剤によるもの。いわゆる「面板」によるアレルギーや刺激です。そしてふたつめは「化学的原因」、つまり排泄物の付着。排泄物にはタンパク質を分解する酵素が含まれているため、触れると皮膚が溶けてしまうのです。このふたつが主な原因ですが、他にも細菌や真菌への感染、装具の脱着による刺激などが原因になることもあります。 今回は、医学的原因と化学的原因について、それぞれ対処法をご紹介していきます。 医学的原因(皮膚保護剤によるアレルギー)への対処法 結論としては、装具を変更するしかありません。今は装具の種類がとても豊富ですから、必ず代替品が見つかります。判断に迷ったときは、ディーラー、もしくはメーカーに問い合わせてみるとよいでしょう。 なお、医学的原因への対処で注意してほしいのが、使用するステロイドの種類です。アレルギーによる皮膚トラブルの治療ではステロイドが使われますが、軟膏タイプを塗ると面板が粘着しなくなってしまいます。面板をきちんと貼れない場合、漏れや便の潜り込みなどの新たな問題につながるため、主治医にはぜひローションタイプのステロイドの処方をお願いしてください。 対処の順番は必ずステロイドが先 ステロイドを使用しても皮膚の状態が改善しないときは、真菌感染を疑い、皮膚科を受診してもらいましょう。なお、対処の順番は必ずステロイド→抗真菌薬となります。先に真菌感染を疑って抗真菌薬を使ってしまうと、皮膚科で顕微鏡検査を受けた際、そこに真菌がいたのかどうかの鑑別が困難になります。 化学的原因(排泄物の付着)への対処法 皮膚トラブルがストーマから連続している場合は、排泄物の付着が原因であることがほとんどです。このケースで絶対にやってはいけないのが、同じタイプの装具を使い続けること。漏れが頻回に起こるということは、装具が合っていない可能性が高いからです。 化学的原因の場合は、排泄物の漏れや面板の下へ潜り込みの原因を探って、対処していきましょう。原因となっている箇所が限定的であれば、粘土のような用手成形皮膚保護剤を使って「しわ」や「くぼみ」を補正してもらうとよいと思います。一方、全体的に問題が見られるような場合は、平面装具から凸面装具への切り替えを検討することも必要になります。 ただし装具の見直しよりも先に皮膚の状態改善を目指して 先に装具の見直しの重要性についてお伝えしましたが、びらんが見られるようなケースでは、まず皮膚の状態改善を図るようにしてください。なぜなら、びらんがある状況では体内から滲出液が出てくるので、患部が大きければ大きいほど面板の粘着面積が少なくなり、装具の種類を変えてもうまく貼れないことが多いためです。 なお、状態改善を目指すにあたっては、ジメチルイソプロピルアズレン軟膏や亜鉛華軟膏などの薬剤は使わなくてもよいケースがほとんどです。医学的原因への対処法でも触れたように、軟膏を塗ってしまうと面板の粘着が弱まり、漏れや潜り込みが起こる原因になります。排泄物付着による皮膚トラブルの場合、安易に薬剤は使用せず、装具交換の頻度を上げて(連日交換や1日おきの交換)洗浄することを心がければ、皮膚は自然に治っていくので、必要に応じて医師と相談してみてください。 排泄物の漏れ、潜り込みが起こる主な原因と対策 では、排泄物の漏れや潜り込みは、どのような原因で起こるのでしょうか。主に以下の4つが考えられます。 装具と腹壁の不適合 排泄物の漏れや潜り込みが起こる原因のひとつが、装具と腹壁の不適合。お腹に「しわ」や「でっぱり」があることで、うまく面板が貼れていないという状態です。 年齢を重ねれば自然とお腹の形が変わるので、この現象は、これまでトラブルなくストーマを使えていた方にも起こりえます。私自身、「20年以上ストーマを使ってきたのに、最近になって頻回に漏れるようになった」と悩んでいる方にお会いしたことがあります。装具は、年齢に応じて適切なものを選択することが必要です。 装着時の不適切な手技 軟膏を塗った上から装具を貼った、洗浄後濡れたまま装具を貼ったなどというケースです。繰り返しになりますが、粘着が弱まらないように気をつけてください。 装着直後に体を動かす 面板には初期粘着力が弱いという特徴があります。装着してからしばらくすると汗や体温によって徐々に皮膚保護剤が溶け出し、皮膚の細かなしわに入り込んで密着するしくみになっています。そのため、装具を装着してすぐに体を動かしてしまうと、ぽろっと剥がれてしまうことも。面板を貼った後はしばらく手で押さえ、温めて肌になじませるようにすると、初期密着を促すことができます。 使用期間の目安を守っていない 「装具は値段が高いからもったいない」といった理由で、使用期限の目安を超えて使用しているケースもよく見られます。(詳しくは、後編「皮膚保護剤(面板)の組成」参照)中には「漏れるまで貼っている」という方も。利用者さんに状況を確認し、適切な使用へ導いてください。 >>後編はこちら装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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