疾患知識に関する記事

訪問看護師が使うメリット
訪問看護師が使うメリット
特集
2023年3月22日
2023年3月22日

利用者の負担軽減も。訪問看護師がポータブルエコーを使うメリット&課題

近年、手軽に利用できる低価格のポータブルエコーが、訪問看護の現場でもみられるようになりました。アセスメントツールのひとつとして医師への報告や多職種連携に活用され、ケアの質向上にも期待が高まっています。しかし、ポータブルエコー購入や技術習得にかかる経済的・時間的な負担が大きく、ハードルの高さを感じる方が多いのではないでしょうか? 今回は、看護師がポータブルエコーを使うメリットと課題について、褥瘡・排便ケアにポータブルエコーを活用する東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田克美先生にお話を聞きました。 ポータブルエコーの主なメリット3つ ポータブルエコーのメリット(1)ケアの客観的な根拠にできる 看護師がポータブルエコーを使う第一のメリットは、画像をケアの根拠にできる点です。看護師にとってポータブルエコーは、さまざまな場面で役に立ちます(図1)。 図1:「ポータブルエコーが役立つ場面の一例」(提供:浦田克美氏) たとえば、褥瘡ケアの分野では、褥瘡の深さ、発赤、DTI(深部組織損傷)など、皮膚表面からの観察は看護師の経験値や知識レベルに左右されます。しかし、ポータブルエコーの使用によって、皮下脂肪や筋肉組織内に隠れている褥瘡を可視化できます。 排泄ケアの分野でも、通常、直腸まで便が下りてきているかどうか、看護師の経験や肛門診をした際の感覚で想像し、判断することが多くあります。そこでポータブルエコーを使えば、直腸に便が溜まっていることが可視化され、浣腸、摘便といったケアも明確な根拠のもと行うことができます。 ポータブルエコーのメリット(2)客観性のある画像で判断に自信が生まれる 第二に、客観性のあるポータブルエコー画像で、判断に自信が生まれます。五感による観察は、看護師として必要ですが、経験値の格差は少なからずあります。ポータブルエコーは、必要なケア方法を導くための補完的なツールとなる可能性を秘めています。一歩立ち止まって、果たしてこれでよいのかと考える時、ポータブルエコーの画像は大きな判断材料になるでしょう。 訪問看護の現場では、膀胱留置カテーテルからの尿流出がなくなった時、カテーテル交換で済むレベルなのか、急な受診を要するレベルなのか、判断を迫られる場面があると思います。カテーテルの閉塞・屈曲などのトラブルなのか、尿閉・乏尿などの問題なのかを一人で見極めなければなりません。 しかし、ポータブルエコーがあれば、より根拠を持って、直ちに見分けられます。画像でカテーテルは膀胱内にあるけれども、膀胱内に尿がたまっていないのを確認すれば、尿閉・乏尿で腎機能低下の可能性があるため、受診をすすめる根拠として画像提供できます。利用者さんやご家族にとって、急な受診は大きな負担となるため、救急車を呼ぶのか、明日の外来まで待てるか、それは大きな違いではないでしょうか。画像を撮影しておけば、医師が不在でも後で所見を聞き、利用者さん宅を出た後でも対応できます。 ポータブルエコーのメリット(3)多職種や利用者さんと現状を共有できる 第三のメリットは、医師や多職種、利用者さん、ご家族との情報共有による関係性の向上です。ポータブルエコー導入前から同僚や多職種との情報共有のメリットは予想していましたが、これは予想外のメリットでした。利用者さんやご家族など、医療の専門性に関わらず画像提示し、褥瘡の深さや便、尿の貯留部位を見せると納得が得られやすく、ケアに説得力が生まれます。 当院での事例ですが、「毎日便が出ないと気持ち悪い」と下剤に固執していたある患者さんは、食事摂取量が少なく、活動性も低いため、毎日便が出る状態ではありませんでした。そこで、ポータブルエコーを使い、その画像を患者さんと見ながら「便は今、ここにありますよ」と画像を共有しました。便は白くモコモコした雲のように画像化されるのでわかりやすく、患者さんも画像を見ることで「排便は今日じゃないな」というのを理解できるのです。 一方、排便がしばらくみられないことを心配した看護師が、患者さんの訴えがなくても浣腸や摘便を実施することがあります。 しかし、実際には直腸には便が溜まっていなかったり、摘便を実施したけど便が下りていない状態であったり、結果的に浣腸は不必要な排便ケアだった、というケースも多くあります。ポータブルエコーを用いることで、便が下りていないことが分かれば、患者さんは不必要な排便ケアを免れ、苦痛を回避することができます。また、直腸に便があれば浣腸や摘便、無ければ下剤と便秘の状態に合わせてケア方法を選択できます。例えば、「直腸に便が溜まってないから今日は浣腸しません」と伝えることができるので、訪問看護師にとっても業務の効率化に繋がるのではないでしょうか。 ポータブルエコーは、患者さんとの情報共有や信頼関係形成といった面でも、とても有益だと感じます。患者さん自身が排便の時期を予測できると、ポータブルエコーが患者さんのセルフケアに貢献できる部分もあります。 訪問看護師のポータブルエコー活用の課題 ポータブルエコー活用の課題(1)機材が身近にない 訪問看護師がポータブルエコーを使うケースも出てきましたが、大きな壁が2つあります。1つ目はポータブルエコーの機材そのものがないことです。最近、ポータブルエコーは手頃な価格のものも増えましたが、まだまだ浸透していません。やはり、血圧計やサチュレーションモニターのように、ポータブルエコーがもっと身近に判断できるツールとなればと思います。 ポータブルエコー活用の課題(2)技術習得までのサポートを得にくい 2つ目は、ポータブルエコーを学ぶ看護師の環境が十分に得られにくいことです。看護師にとって、基礎教育でまったく学ばなかったポータブルエコーの走査や画像の読み方を、一人で学ぶことは難しいと思います。質問したらすぐ答えてくれる指導者がいるといった、学びの環境を整えることが重要でしょう。 私たちの医療チームでは、褥瘡回診からポータブルエコーの使用を始めました。検査部がポータブルエコーを持って参加し、チームメンバーと一緒に画像を読影しています。その中で、プローブ走査のコツや持ち方、見やすく説得力のある画像の描出方法を教えてもらいます。気長に分かりやすく教えてくれる指導者がそばにいることが大きなカギになります。 ポータブルエコー活用で質の高いケアを提供する 訪問看護でポータブルエコーの活用をしていくためには、管理者が根拠を持ち、質の高いケアを行っていこうという風土を作ることも重要です。確かにポータブルエコーを活用しなくても質の高い看護は提供できます。多くの看護師は、使った事もないポータブルエコーをゼロから学ぶ時間も余力も無いと感じているでしょう。 しかし、褥瘡写真はどうでしょう。カメラの購入やカルテに貼り付ける手間があっても、以前に比べかなり一般化しました。 それは、ケア方法の統一や医師や家族と情報共有するメリットの方が大きく、診療報酬がつかなくても費用対効果が高いと感じているからです。 デジタル時代となり、医師と褥瘡の写真をやりとりするなどの情報共有が一般的になりつつあります。褥瘡を画像化する事で、ケアの統一や教育、家族指導にも活用できるようになりました。これからは、皮膚表面から見えない領域を、ポータブルエコーで見ることもできます。五感を使ったプロの技と客観的な画像を掛け合わせれば看護の質はもっと発展していくはずです。 また、ポータブルエコーの採用を検討している管理者の方には、ポータブルエコーでおこなったアセスメントとケアに対して、適宜フィードバックしてあげてください。上司からのフィードバックがあるだけで、ポータブルエコーを使ったアセスメントに自信を持ち、ケアする喜びにつながるはずです。 取材協力浦田克美氏(皮膚・排泄ケア特定認定看護師)編集:メディバンクス株式会社

在宅で行う認知症看護
在宅で行う認知症看護
特集 会員限定
2023年3月14日
2023年3月14日

【セミナーレポート】ご家族とのかかわり方 -在宅で行う認知症看護-

2022年11月24日に行われたNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、認知症看護認定看護師である福岡 裕行さんを講師に迎え、「在宅で行う認知症看護」を開催いたしました。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。後編では、介護にあたるご家族が抱える悩みやニーズ、それを受けて訪問看護師ができることについてまとめました。さらに、最後に行われたQ&Aセッションの様子も一部ご紹介しています。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】福岡 裕行さんオールハッピー訪問看護ステーション 管理者/認知症看護認定看護師認知症治療病棟に勤務する傍ら、兵庫県看護協会認知症看護認定看護師教育課程で学び、2012年 認知症看護認定看護師資格を取得。その後も臨床経験を積みつつ、認知症サポーター養成講座などの講師も務め、2015年には認知症ケア上級専門士資格を取得する。2018年7月にはオールハッピー訪問看護ステーションを設立し、現在まで地域の医療を最前線で支え続けている。 目次 1. ご家族はわからないことだらけで不安なもの 2. 専門職のホットメッセージがご家族を支える 3. ご家族が望む訪問看護師のあり方 (1)ご家族が相談しやすい関係づくり (2)ご家族の知恵と専門職の知識を合わせる 4. Q&A セッション Q1 妄想についての相談を受ける際のコツや注意点は? Q2 訪問看護に抵抗がある利用者さんへの対応方法は? Q3 介護にあたるご家族に認知症について理解してもらう方法は? --> ご家族はわからないことだらけで不安なもの 「認知症患者を支えることは、その家族の心を癒すこと。家族を支えることは、認知症患者の心を癒すこと」。これは、とあるご家族の方がおっしゃった言葉であり、私が訪問看護にあたる上でとても大切にしているメッセージです。 また、同じ方から「認知症患者を支える家族側の思い」についても具体的にうかがいました。 ・相談する場所がない・介護を手伝ってくれる人がいない・症状への対処方法がわからない・ほかの家族や親族が認知症について十分に理解していない・自分の時間がもてない・家族への心身のケアがない・病状が今後どのように経過していくかわからない・体力的にこの先どこまで介護できるかわからない・介護保険制度のことがわからない このように、「とにかくわからないことだらけなんだ」と話してくれました。 私たちは、こうしたご家族の思いを常に念頭に置いて介入する必要があるでしょう。自宅の近くにご家族が相談できる場所はないか、介護を手伝ってくれる人はいないか、どうやって社会資源を活用していくかを考え続けなければならないと思っています。 専門職のホットメッセージがご家族を支える さらにその方は、「介護に取り組む家族はホットメッセージがほしい。介護負担は変わらなくても、声をかけてもらえるだけで頑張れる」ともおっしゃっています。ホットメッセージとは、ご家族にとって「プレゼント」となるような言葉のことです。癒やしや安心感を得られたり、元気が出たり、理解や承認されていると感じられたりする言葉ですね。専門職には、ご家族に対する労いの一声や、「私たちはあなたのことを応援している、精一杯支えていく」ということが伝わる一声を積極的にかけていくことが求められています。 ご家族が望む訪問看護師のあり方 最後に同じ方から、私たち専門職に向けた要望を教えていただきました。訪問看護師には、まず以下の2つのことを意識してほしいというものです。 ご家族が相談しやすい関係づくり 忙しい合間を縫い、少しの時間でもご家族に向き合い、話を聞きましょう。困りごとがあり、専門職からのアドバイスがほしいと思っているものの、口に出せずに悩んでいるご家族は少なくありません。認知症サポーター養成講座を受講するともらえるオレンジリング(自治体によっては認知症サポーターカード)をもつこともおすすめです。時間をかけて話すことが難しくても、応援するスタンスが伝わりやすくなります。 また、「もし自分だったら」と一人称で考える姿勢も重要です。ご家族の辛さや苦労に寄り添うことを心がけてください。 ご家族の知恵と専門職の知識を合わせる 私たち専門職には、病気や介護についての知識があります。一方でご家族には、「こうしたらごはんを食べてくれる、薬を飲んでくれる、機嫌がよくなる」などといった利用者さんの生活についての知恵があります。よりよいケアのためには、この専門職の知識とご家族の知恵を合わせることが大切。ご家族をケア連携の輪の一員として捉え、密にコミュニケーションをとり、一緒にケアを行っていきましょう。 Q&Aセッション ここからは、利用者さんやそのご家族と接する際、看護師が抱えてしまいがちな悩みに回答していきます。 妄想についての相談を受ける際のコツや注意点は? 【質問】利用者さんから認知症による妄想について相談を受けた際、理解や共感を示すとどうしても相談が長時間になり、次の訪問に影響してしまうこともあります。うまく話を聞くコツはありますか? 【回答】利用者さんご本人は妄想を「事実」として理解しているため、頭から否定するのは避けたほうがいいでしょう。ただし、妄想の内容を肯定したり、共感したりすると、妄想がどんどん広がっていってしまいます。そのため、妄想についての相談を受けるときは肯定も否定もしないことがポイントです。 また、時間が足りなくなる場合は、事前に滞在時間を伝えておくといいでしょう。次の予定に差し障りが出そうなときは「なかなか話は終わりませんが、時間になりましたので、また次回に聞かせてもらえませんか?」と了解を得て離れます。 訪問看護に抵抗がある利用者さんへの対応方法は? 【質問】認知症の利用者さんが訪問看護に対して拒否反応を示す場合はどのように対応したらいいでしょうか? 【回答】私が看護を拒否する利用者さんを担当する場合は、バイタルすら測らないこともあります。まずはご家族とコミュニケーションをとりながら、タイミングを見計らって利用者さんにも声をかけるんです。例えば、利用者さんの息子さんの血圧を測らせてもらい、「ついでに、◯◯さん(利用者さん)もどうですか?」といって計測することも。利用者さんが不快に感じないように注意をはらいながら少しずつ距離を縮めていき、敵ではないことを理解してもらい、「この人なら来てもいいかな」と思ってもらうことを目指します。そうやって徐々に拒否反応がなくなったケースは多々ありますね。 介護にあたるご家族に認知症について理解してもらう方法は? 【質問】夫が認知症の妻を介護しているとあるケースでは、夫が妻への接し方をなかなか変えられず、命令口調になったり、怒ったりしてしまっています。夫に病気への理解を促すよい方法はないでしょうか? 【回答】まずは家族会や勉強会に参加してもらってはいかがでしょうか。とくに家族会では、同じ境遇にある参加者同士で日々の介護について詳しく話すため、腑に落ちるようです。また、家族会の内容を私たち専門職が伝えるというやり方もあります。「介護当事者も専門職も同じ意見なのか」と、理解が深まることがありますよ。 それでもうまくいかない場合は、やはり時間をかけてじっくり話すのがいいと思います。利用者さんの看護にあたる前に、ご家族と毎回10分ほど相談する機会をつくるのもいいでしょう。症状の原因や、適切な接し方とその理由など、丁寧に説明してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

脳卒中再発予防策 セミナーQ&A
脳卒中再発予防策 セミナーQ&A
特集 会員限定
2023年3月14日
2023年3月14日

先行公開!訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策 セミナーQ&A

2023年1月19日(木)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー 「訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策」を開催いたしました。座長に近畿大学医学部の内山 卓也氏、講師に近畿大学病院看護部の林 真由美氏を迎え、脳卒中について解説いただきました。 本記事では、セミナー時に受講者の皆さまからいただいたご質問への回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーにご参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【座長】内山 卓也 氏近畿大学医学部 脳神経外科 講師 【講師】林 真由美氏近畿大学病院 看護部 SCU主任脳卒中リハビリテーション看護認定看護師脳卒中療養相談士 脳卒中予防の知識編 <Q1> 抗血小板薬と抗凝固薬は何が違うのでしょうか? 違いは以下のとおりです。 抗血小板剤:血小板の凝集を防ぐことにより、血栓形成を抑制。主にアテローム性脳梗塞やラクナ梗塞の予防に使用。 抗凝固薬:赤血球の凝集を防ぐことにより、血栓形成を抑制。主に心房細動による血栓を防ぎ、心原性脳梗塞の予防に使用。 <Q2> 脳梗塞・脳出血において、家族性の遺伝因子はどのくらいの割合でしょうか? 家族性遺伝因子よりも、後天的な生活や環境の因子が強いものでしょうか? 家族性の遺伝因子はほとんどありません。生活習慣をはじめとした後天性の因子のほうが圧倒的に多いです。 <Q3> 減塩に役立つチェックシートがあるとのことでしたが、実際にどんなものなのか見せていただきたいです。在宅で利用できれば、利用者さんが自己管理しやすいと思いました。 「塩分チェックシート」というものがあります。インターネットで検索してみてください。 参考:社会医療法人 製鉄記念八幡病院「塩分チェックシートのご紹介」 https://www.ns.yawata-mhp.or.jp/salt_check/ 2023/3/8閲覧 <Q4> ボツリヌス療法の治療料金の目安を教えてください。 ボツリヌス療法に要する費用は、使用薬剤の種類・使用量によって異なります。身体障害者手帳をお持ちであれば、自治体により医療費の補助が得られる場合があります。身体障害者手帳をお持ちでなくても、高額療養費制度が適用になる場合もあります。そのため、自己負担額は数千円〜数万円になるケースが多いと思いますが、詳細は医療機関にお問い合わせください。 <Q5> 脳卒中相談窓口は、「一次脳卒中センターコア施設」に設置されているとのことですが、どこにありますか? 訪問看護でも、可能なら活用したいです。 日本脳卒中学会のHPに一次脳卒中センター(PSC)コア一覧が載っています。2023年度からは、もう少し施設数が拡大する予定です。 参考: 日本脳卒中学会 「一次脳卒中センター(PSC)コア認定について」https://www.jsts.gr.jp/facility/psccore/index.html2023/3/8閲覧 利用者さんとの関わり編 <Q6> 高次脳機能障害を抱えている利用者さんに対して、小学生のドリルを提案することは適切なのでしょうか。かえって精神的にダメージを与えているのではないか、と思うことがあります。高次脳機能障害を抱える患者さんとの関わりについて、工夫していることがあれば教えてください。 高次脳機能障害は「注意障害」「記憶障害」「計算ができない」「道具の認識ができない」「多重作業の遂行が困難」などなど、人により症状が異なります。日常生活内でどのようなことに困っているのかによって、ひとつずつ対応していくのがよいでしょう。 <Q7> 内服薬を破棄してしまう患者さんがいます。外来と連携して主治医確認のもとで経過を見ていますが、上司は本人の選択であればしかたない、とのこと。内服についてよいアプローチ方法があれば教えてください。 ・内服薬をできるだけ減らす・形状(大きさ、粉)・味などによる飲みにくさを解消するなど、患者さんが内服薬を破棄する理由・価値観に応じた対応が必要だと思います。 <Q8> 1日のなかでも朝、昼、夕で血圧値の差が激しい利用者さんに対して、訪問看護師から何かアドバイス、声かけができることはあるでしょうか。 日常生活内では排便時の努責、寒暖差、一気に力を加えるような運動、ストレスなどによって血圧が変動しやすくなるので注意が必要です。変動の幅にもよりますが、内服の量・用法などを変更する手もありますので、降圧薬について医師に相談するのもよいかもしれません。 <Q9> 脳出血で入院していた利用者さんに、血圧測定値を血圧手帳に記載してもらっています。起床時の血圧が収縮期血圧150~160mmhg(日中は130~140mmhgのことが多い)と高く、医師に相談していますが、内服の調整はなされず経過観察。利用者さん自身も心配しており、内服の調整が必要ではないかと考えます。医師に意見を言いづらく、どのように伝えたらよいか悩んでいます。 医師に相談する際、血圧値について「どれくらいを目標としたらよいのか」「どれくらいまでなら許容範囲内なのか」を確認すると、利用者さんの不安が軽減すると思います。また、血圧が高いときに頭痛をはじめとした自覚症状があるのであれば、そちらも伝えるとよいでしょう。内服調整の目安になります。 ** 明日からの訪問看護に生かせるヒントは見つかったでしょうか。後日、オンラインセミナー 「訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策」の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開いたします。ぜひそちらもご覧ください。 >>脳卒中再発予防策セミナーレポートのシリーズ一覧はこちら 編集:NsPace編集部

在宅で行う認知症看護
在宅で行う認知症看護
特集 会員限定
2023年3月7日
2023年3月7日

【セミナーレポート】看護師が意識したい7つのポイント -在宅で行う認知症看護-

2022年11月24日に行われたNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、認知症看護認定看護師である福岡 裕行さんを講師に迎え、「在宅で行う認知症看護」を開催いたしました。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。前編では、認知症訪問看護において福岡さんが大切にしている7つのポイントや、利用者さんの自信を育てるテクニックについて教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】福岡 裕行さんオールハッピー訪問看護ステーション 管理者/認知症看護認定看護師認知症治療病棟に勤務する傍ら、兵庫県看護協会認知症看護認定看護師教育課程で学び、2012年 認知症看護認定看護師資格を取得。その後も臨床経験を積みつつ、認知症サポーター養成講座などの講師も務め、2015年には認知症ケア上級専門士資格を取得する。2018年7月にはオールハッピー訪問看護ステーションを設立し、現在まで地域の医療を最前線で支え続けている。 目次 1. 認知症看護で意識したい7つのポイント (1)まず聞いてみる姿勢 (2)「1訪問1笑い」にチャレンジ (3)「あんたがいうなら」を目指す (4)「死ぬまで元気でいてほしい」という想い (5)「老いては子に従え」は考えもの (6)雑談の中で情報収集 (7)「ベスト」より「ベター」を目標にする 2. 失敗の回避と成功の蓄積で利用者さんの自信を育てる --> 認知症看護で意識したい7つのポイント 私が訪問看護の現場で認知症の利用者さんとかかわる際は、以下の7つのポイントを意識しています。 まず聞いてみる姿勢 「認知症だからこんなこと聞いてもわからないだろう」と決めつけず、利用者さんご本人に積極的に質問するようにしています。記憶の障害が認められるときは、例えば「昨日はどう過ごしていたんですか?」といった過去についての質問は避け、現在の考えや気持ちに焦点を当てた問いを投げかけてみるといいでしょう。 「1訪問1笑い」にチャレンジ 訪問する際、必ず1回は利用者さんに笑っていただくこと、つまり「いい感情の記憶」を残すことを目指しています。訪問看護で行ったことが嫌な記憶として残ってしまうと、ご家族が同じように介護することが難しくなってしまう可能性があるためです。逆に、いい記憶を残せればご家族の介護がスムーズになることもあります。 また、レビー小体型認知症の場合、ストレスがかかると症状が悪化するといわれる一方で、人と笑い合うことは安心感や自信を生み、症状の改善が期待できるとされています。ぜひみなさんも、利用者さんとご家族のために「1訪問1笑い」にチャレンジしてみてください。 「あんたがいうなら」を目指す 「あんたがいうなら、デイサービスに行ってみよう」「あんたがいうなら、お風呂に入ってみよう」などと利用者さんにいってもらえるような信頼関係を築くことを常に目指しています。 「死ぬまで元気でいてほしい」という想い ある利用者さんは、以前「私はもう死にたいんだから、来なくていい」と訪問看護を拒否されていました。そこで私は「◯◯さん(利用者さん)に死ぬまで元気でいてほしいし、亡くなる前日まで笑っていられる生き方をしてほしいから、訪問看護に来ています」と伝えたんです。すると、その日からスムーズに訪問看護に入らせてもらえるようになりました。今でもその方を担当していますが、「最期まで笑っていたいね」といってくれるようになりましたよ。 「老いては子に従え」は考えもの 「老いては子に従え」という考え方は、利用者さんの自己決定の妨げになる場合があります。「子どもがいうから◯◯している」とおっしゃる方に対しては、私たちがまずご本人の意見を丁寧に聞き、自己決定支援に取り組むことが大切だと考えています。 雑談の中で情報収集 長谷川式認知症スケールのような認知機能の検査ではなく、雑談の中で情報を収集することも意識しています。 病院の心理士に聞いたところによると、検査のために簡単な計算問題を出すと、「なぜこんなことを聞くんだ、人をバカにしているのか」と怒り出す方もいらっしゃるそうです。訪問看護において利用者さんの怒りを買ってしまうと、以降の介入に支障をきたすリスクがあるので、何気ない雑談から情報を得るように努めることはとても重要です。 「ベスト」より「ベター」を目標にする ベストではなくベターを目標にするという考え方も大切です。例えば、薬を飲めない利用者さんの訪問看護を担当したとします。看護師が介入したからといって、決められた服薬量を毎日欠かさず飲むことはなかなか難しいでしょう。しかし、まったく薬を飲めなかった状態から7〜8割でも飲めるようになれば、私はそれでもいいのかなと思います。 服薬ルールをどこまで遵守する必要性があるかについてはもちろん主治医との相談が必要ですし、状況の改善に向けて工夫することは大切ですが、ベストを強く求めすぎると利用者さんに大きなストレスを与えかねません。前述のとおり、嫌な記憶が積み重なることはご家族の介護負担の増加や症状悪化のリスクになりますので、柔軟な対応を心がけてください。 失敗の回避と成功の蓄積で利用者さんの自信を育てる 失敗体験を回避する、および成功体験を蓄積することは、認知症の利用者さんの訪問看護において非常に重要です。失敗してしまい、それを周囲に指摘されると、利用者さんはどんどん自信や意欲を失ってしまいます。 ・失敗しにくい状況をつくること・失敗しても「黒子」になって見えないところでフォローすること・ときには見て見ぬふりをして自信の喪失を防ぐことを心がけるといいでしょう。 その逆に、成功体験を増やすことで自信を育てることができます。例えば、認知機能の低下が見られる以前の「利用者さんが光っていた時代」を承認することも効果的です。このやり方は回想法といい、「昔はどんなお仕事をしていたんですか?」「〇〇(その方の経験が活きるような内容)について私にアドバイスをください」などと声をかけ、その回答に対して「すごいですね」「教えてくれてありがとうございます」と承認していきます。これを繰り返すことで、利用者さんは自身の存在価値を改めて認識することができ、どんどん自信がついてくるはずです。認知症を患うと、生活障害によってどうしても成功体験が減ってしまうもの。ぜひみなさんが意識的にその機会をつくるようにしてください。 >>後編はこちら【セミナーレポート】ご家族とのかかわり方 -在宅で行う認知症看護- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

これって冬季うつかも? 精神科医が注意を促す季節性感情障害の特徴と対策【医師執筆】
これって冬季うつかも? 精神科医が注意を促す季節性感情障害の特徴と対策【医師執筆】
特集
2023年1月24日
2023年1月24日

これって冬季うつかも? 精神科医が注意を促す季節性感情障害の特徴と対策【医師執筆】

冬になると、こんなことありませんか?・体が怠くて重い・どれだけ寝ても日中に強い眠気に襲われる・普段よりも甘いものや炭水化物の欲求が高まる もしかしたら、その症状は冬季うつかもしれません。 冬季うつとは? 別名、季節性うつ病、または季節性感情障害とも呼ばれています。呼び方はさまざまですが、基本は同じ疾患です。今回は「冬季うつ」という呼び方で統一します。 冬季うつの特徴 冬季うつの具体的な症状とは?うつ病との違いは? 著しい体重減少や不眠症状を呈することが多い典型的なうつ病に対し、冬季うつは睡眠過多と食欲亢進を特徴とします。また、うつ病では抑うつ気分や興味や喜びの消失などの気分変化を訴える患者さんが多く見受けられますが、冬季うつでは意欲低下や倦怠感などを主の症状として訴える方が多いです。 罹りやすい人とは?発症する時期は? 好発年齢は20代前半の女性に多く、日照時間が短縮する秋から冬に症状が出現し、翌夏には症状がまったく認められない寛解(かんかい)状態となることを繰り返します。 もし症状に当てはまったら? 「冬場は眠くてなかなか起きることができず、眠気が取れない」「秋から冬は特にお腹がすいて食べてしまう」これらの自覚症状があってもすべての方が冬季うつとは限りません。不眠と過眠を繰り返すうつ病の方、双極性感情障害、そして、季節に関係のある心理社会的ストレス(例:毎年冬になると仕事が多忙になる)に影響された一過的な症状の可能性もあります。もし周囲の利用者さんや訪問看護師の中に、睡眠過多や食欲亢進症状でお悩みの方がいれば、安易に予想される診断名を伝えるのではなく速やかに精神科への受診を促してください。日常生活や社会生活に支障が出ているのであればなおさらです。 冬季うつの原因とは? 原因の一つに、日照時間が精神症状に影響すると考えられています。なぜ日照時間が睡眠過多や食欲亢進などの症状を引き起こすのでしょうか。日照時間が精神症状に影響する理由は2つあります。 (1)セロトニンの不足 1つ目がセロトニンです。セロトニンとは、ノルアドレナリンやドーパミンと並んで三大神経伝達物質の一つです。睡眠、食欲、気分の調整を担う重要なホルモンで、日光をはじめとした強い光がセロトニン神経を刺激することで分泌が活性化されます。冬季うつの方は日照時間が短くなる冬場に脳内のセロトニンの分泌量が少なくなり、症状が引き起こされると考えられています。 ここからは豆知識ですが、セロトニンは代謝されメラトニンに変化していきます。メラトニンは睡眠を司るホルモンです。セロトニンが不足すると、生成されるメラトニンも減少するためスムーズな入眠が困難となるリスクが高まります。過眠だけではなく睡眠リズム障害を呈するのは、メラトニンの調節障害によるものです。 (2)ビタミンDの不足 2つ目がビタミンDです。皮膚に直接日光が当たると、ビタミンDが生成されます。 ビタミンDはセロトニンやドーパミン生成には不可欠な物質です。少し乱暴にまとめれば日照時間が少なくなると、体内のビタミンDレベルが下がり、その影響で脳内セロトニン量が少なくなるものと心得てください。 ビタミンDが精神症状に影響するということは少し意外に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。実際うつ病患者さんと体内のビタミンDレベルには関係があるとする論文もあります。 3つの対策方法 では、冬季うつの対策にはどのような方法があるのでしょう? 3つの対策をご紹介したいと思います。 (1)日光浴 一番手軽な対策方法は日光浴です。太陽光の重要性はここまでの説明でご理解いただけたでしょう。しかし、紫外線を浴びることによる肌への影響(光老化作用)を無視することはできません。悩ましいところですが、私は患者さんに1日に最低15分は太陽光を浴びましょうとお伝えしています。可能であれば午前中がさらに望ましいです。 太陽光を浴びると言っても天候に左右されてしまう可能性もあるため、最近では太陽光と同じように光を照射するデバイスも簡単にネットで購入することも可能です。 (2)運動 2つ目は運動です。運動によってセロトニンを増やす効果が確認されています。ただし運動強度に注意して行いましょう。ヘトヘトになるまでの運動量はおすすめしません。「あーよく動いたなー」と自覚するレベルを意識しましょう。運動の種類は基本問いません。 (3)炭水化物は質の高いものを摂取 3つ目は質の高い炭水化物を摂ることです。炭水化物はセロトニンの原料です。冬季うつの症状の一つである食欲亢進作用は、不足したセロトニンを補うために炭水化物を積極的に摂取しようとする代償行為とも考えられます。そこで注意しなければならないのは、炭水化物の質です。 一言に炭水化物といっても、カップラーメンや精製小麦を使用したパンなどの加工食品は健康面を考慮しても避けたいところです。おすすめは、芋類や豆類、玄米などです。 対策する上で精神科医からのアドバイス もしかしたら、この記事を読んでいる方の中には、「対策方法は知っているけど、どうにも行動に移せない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。 では、こんなマインドセットはいかがでしょうか。眠くなるのは身体の反応だと捉えて、睡眠時間を1時間程度はプラスで見積もるという考え方です。1時間を捻出する難しさは重々承知していますが、困難は分割してしまいましょう! 例えば、日々の生活の中で午前中30分、午後30分なら捻出できそうな気がしませんか?もちろん、15分を4回でも結構です。何気なく見てしまうSNSチェック、暇つぶしで見てしまう動画配信サービスなどなど。隙間時間を意識すればトータル1時間は案外あっさりと捻出できます。日常生活で行える工夫は無限大ですよ。 ・あぁ寝過ぎてしまった・今日も朝から時間を無駄に過ごしてしまった・また食べ過ぎてしまった そうしたネガティブな想いから、「もうどうでもいいや」と他の時間まで投げやりな過ごし方になってしまったり、暴食してしまったりする方が心身に悪影響を及ぼします。「よく寝たから体力が充電できた。パワー満タン!よく寝た分は日中に取り返すぞー」とマインドセットを切り替えて行きましょう。 不安であれば精神科へ気軽に受診をしましょう 冬季うつはQOLに大きく影響する疾患です。しかし、正しい対策や治療で事前の予防や症状改善が望める疾患でもあります。自力では乗り切れないことも専門職とともにあれば、新たな解決方法が見つかることもあるでしょう。症状に苦しんでいる方は、ためらわず精神科を受診していただければ幸いです。 著者茂木 千明(もぎ ちあき)精神科医 美容皮膚科医精神科専門医(精神神経学会認定) 精神保健指定医東邦大学医学部医学科卒業。都内の精神科救急病院に従事し、小児期から老年期まで幅広く診療を行い、研鑽を積む。その経験から、身体機能や外見が心に及ぼす影響に着目し、美容医療にも従事する。現在は診療の一環として、リストカット跡の修正アートメイクなどを積極的に行う。自身の名前にある通り「千倍、人を明るくする」をモットーに、患者さんに笑顔が戻るよう精神療法を中心に診療をしながら、講演や執筆活動を全国で行う。編集:合同会社ヘルメース 【参考】〇 Medical Hypotheses. Volume 83, Issue 5, November 2014, Pages 517-525,「Possible contributions of skin pigmentation and vitamin D in a polyfactorial model of seasonal affective disorder」https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S03069877140033512023/1/6閲覧

インタビュー
2022年10月18日
2022年10月18日

入院によるサルコペニアがフレイルを招く

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第6回は、高齢者の入院後・治療後に寝たきりにさせないため、早期の栄養介入やリハビリが必要と訴える若林先生。フレイル、サルコペニア予防について在宅医療関係者にもぜひ知ってほしい。(内容は2019年1月当時のものです。) ゲスト:若林秀隆1995年横浜市立大学医学部卒業。2016年東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部卒業。専門はリハビリテーション栄養、サルコペニア、摂食嚥下障害。対談当時は横浜市立大学附属市民総合医療センター所属。 長生きをすれば誰でもフレイルになる? 川越●今日はフレイル、サルコペニアについて教えていただこうと思います。在宅を支える専門職のなかには、この二つの厳密な違いを理解していない人が多い印象です。 若林●定義でいうと、サルコペニアは「筋肉が減って筋力が落ちている状態」です。若い人でも筋力は落ちるので、定義では「加齢」が外され、「進行性、全身性の骨格筋疾患」とされていますが、長生きをすれば誰だってなりえます。 川越●身体機能も含めると、フレイルとかなり近いですね。 若林●フレイルは、要介護の前段階というとわかりやすいと思います。フレイルの主な原因は、サルコペニア、低栄養、ポリファーマーシー(多剤服用)といわれていますが、ほかにも活動量不足、疾患や認知症の影響などがあります。 身体的な面だけでなく、精神的フレイル、社会的フレイル、オーラルフレイルとさまざまあって、実はややこしいんです。 在宅療養者は肺炎になっても入院させない 川越●よく「高齢者が肺炎で入院すると2週間後には寝たきりになっている」といわれますが、絶対安静、禁食となったら、当然でしょうね。 若林●サルコペニアは急性期病院でつくられる場合が多くて、栄養サポートとリハを行えば改善する可能性もあります。でも肺炎などで入院すると、ほとんどの場合サルコペニアは進んでしまいます。なぜかというと、肺炎だと体内で炎症が起こっていて、炎症があるときは、自分の筋肉を分解してエネルギーをつくるからです。 川越●私のところでは肺炎になっても9割がたは入院させません。高齢者の場合、入院すると必ずせん妄が起きるし、せん妄が起きたら間違いなく縛られます。家にいたらせん妄は起きにくいし、少なくともトイレは自力で行くし、抑制もしない。食べられるうちは食事もするから禁食もしません。 若林●それが正解です。入院させないのが一番なんです。嚥下に関しても、病院ではリスク管理的に禁食にしがちなので、基本的には在宅でやったほうがいい。環境因子的には、在宅のほうが嚥下機能・認知機能に良い影響を与えていて、病院のほうが悪いんですね。 ベストは入院しないこと。入院しても、一日も早く退院することです。 川越●環境因子の影響を知っているかどうかは重要ですね。 若林●私も在宅リハを10年以上やっていますが、在宅での評価は入院中とは違うことに気づいている医療者は少ないと思います。 低栄養改善にはたんぱく質が重要 川越●低栄養と身体機能の関係についてはどうでしょう。 若林●低栄養の原因は三つあります。一つはエネルギー不足・たんぱく質不足で、拒食症や、入院中に禁食で不適切な点滴だけ、といった人などです。二つめは侵襲です。骨折や手術、誤嚥性肺炎の急性期などで炎症が強い場合、人の体は一日に1kg自分の筋肉を分解することもあります。三つめは悪液質です。がん、慢性心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などで認めることが多いです。 川越●どのようにすれば栄養改善できるんでしょうか。 若林●エネルギーとたんぱく質を多めにとることです。しかし、その攻めの栄養管理が今の栄養サポートではできていないことが多いです。 川越●在宅の場合、そもそも何キロカロリーとれているかも難しいものです。 若林●細かく把握しなくても、むくみ以外で体重が増えていて、ざっくりエネルギー量とたんぱく質がとれていればよいと判断します。たくさん食べられない人が太るためには、こまめに間食や夜食をとることをおすすめしています。 栄養と運動はセットで 川越●リハが大事なことは介護職も含めてみんなわかっていますが、本当は運動と栄養とセットでやらないと効果がない。でも栄養の知識は、医療者も介護者も不足しています。 若林●なぜサルコペニアになるのかを考えたときに、運動は頑張っているけど力が出ないという人が多いんです。つまり食べていない。 筋トレで一度筋肉を分解した後、たんぱく質やエネルギーがあって初めて筋肉をより合成できるので、運動だけして栄養をとらないと、結局筋肉はつくどころか落ちていきます。 川越●なのに在宅高齢者には三食炭水化物という人が実際にいて、たんぱく質が圧倒的に不足しています。訪問リハが入っていれば、それだけで運動できていると思っているのも深刻です。「歯科衛生士が週1回口腔ケアに行けば歯磨きしなくていい」とは誰も思わないのに、リハはリハ職が訪問したときだけでいいと、みんな誤解しています。 若林●リハの定義が正しく理解されていないからでしょうね。セラピストが行うのは機能訓練などですが、その人の生活機能を高めることすべてがリハビリです。サルコペニアから寝たきりになるのは、活動量減少、栄養不足、疾患などが原因で、全員が改善するのは難しいですが、改善可能性のある人も確実にいます。在宅でも質の高いセラピストや管理栄養士が介入することで、改善できるものは改善させないといけません。 川越●たいへん勉強になりました。 ー第7回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護 Next」2019年1月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

特集 会員限定
2022年8月30日
2022年8月30日

【セミナーレポート】vol.3 専門家が考える正しいフットケアQ&A ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に実施した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。講師に皮膚科医の高山かおる先生、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、訪問看護の現場における足元のケアについて考えました。セミナーレポート第3回となる今回は、Q&Aセッションの様子をお届けします。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい?▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは?▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて!▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある?▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は?▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない?▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 --> ▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい? 【質問】白癬を患っている利用者さんが多く、厚く、脆くなっている爪を整える場面がよくあります。脆い爪は際限なく削れてしまうのですが、どこまでケアしたらいいのでしょうか? 【回答】高山先生:出血などしない程度であれば、自然に剥離してしまっている部分は削ってしまっても問題ありません。爪が靴下などに引っかからないようにする、隣の指を傷つけるなど危なくないようにするという意識をもってもらうといいと思います。 ▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは? 【質問】肥厚した爪、巻いている爪はどのように除去したらいいですか? 【回答】大場さん:まずはその方が歩けるかどうかで、残す爪の長さを検討してみましょう。歩く方の場合は、痛みが出ないように配慮しつつ、ある程度の長さを保って端から切っていきます。爪が皮膚に食い込んでいる場合はヤスリを使ってください。ただ、巻き爪は長くなればなるほど巻きが強くなるので要注意。あとは炎症が起きていたり、化膿していたりする場合は処置が必要になるので、その見極めも重要です。 高山先生:痛みがなければ、巻き爪であること自体は悪いことではありません。大場さんがおっしゃるとおり、伸びてしまうと先端が丸くなるので、適切な長さに整えることが大切です。すでに痛みを訴えている方の場合は、痛むポイントを探してあげて、そこに念入りにヤスリをかけるのもいいですよね。 大場さん:そうですね。痛みを取り除いてあげるだけでも、歩けるようになりますから。ADLの低下だけは避けたいので、私も歩行に支障が出ないようなケアをすること、自身では対応できないケースは訪問看護師さんにお願いすること徹底しています。 ▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて! 【質問】大場さんが現場で使用している愛用のヤスリを教えてください。 【回答】大場さん:基本的にダイヤモンド平ヤスリを使っています。 高山先生:厚い爪甲も削れますか? 大場さん:はい、ほとんどのケースで削れますよ。煮沸消毒できるので、衛生面を考えてもおすすめです。 ▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある? 【質問】次回の診療までに、訪問看護の現場でやっておくべき白癬の応急処置はどんなものですか? 【回答】高山先生:きれいに洗ってもらえれば十分です。白癬の餌は角質なので、足浴と保湿で角質をなくしてあげれば、症状は進行しにくくなります。なお、ワセリンで白癬が繁殖することはないので、保湿もしっかり行ってください。特別なことをして刺激を与えるより、基本的な処置を徹底してくださいね。 ▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は? 【質問】利用者さんから、まだあまり爪が伸びていない段階で「切ってほしい」とお願いされて判断に迷います。深爪にしてはいけない理由はあるのでしょうか? 【回答】高山先生:足の爪には体重の負荷を支える役割があるため、深爪はNGです。爪を切りすぎたり、斜めに切ったりすると、巻き爪につながってしまいます。また、そもそも適切な爪の長さを知らずに長年深爪にしてしまい、結果巻き爪になってしまっている方も多く見られます。まさに生活習慣病ですね。この利用者さんには、靴下に引っかかるなど不快な状態にならないように、ヤスリのかけかたを教えてあげるといいと思います。 ちなみに、歩行時にきちんと踏み込めている方は、理論的には深爪にはできません。なぜかというと、きちんと指先まで使って踏み込んで歩くためには、硬さのある爪が必要不可欠だからです。足を踏み込むと床反力(足と床の接地部分にかかる反力)が生じますが、必要十分な長さの爪がないと、この床反力が上手く体に伝わりません。つまり深爪にしてしまう方は、きちんと歩けていない可能性も高いと考えられます。 ▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない? 【質問】足底の白癬で皮膚が肥厚している方に対し、足浴時に軽石で削りながら洗い、保湿剤を塗布することを一年半ほど続けています。現在は肥厚部がかなり薄くきれいになりましたが、この方法を続けてもいいでしょうか? 【回答】高山先生:軽石でゴシゴシ削ることには賛成しかねますが、削りすぎにならない程度に、目の細かいヤスリをかけるのはいいと思います。ただ、濡れている足を削ると傷がつく恐れがあるので、風呂場などで行うのは控えてください。削りすぎて逆に皮膚が厚くなってしまう可能性もあります。このケースでは、おそらく保湿剤をしっかり塗っていることが効いているのだと思いますね。 ▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 【質問】爪切りに使う器具の洗浄はどのようにしていますか? 【回答】高山先生:体液がつかなければ、表面の汚れを落として乾かす、つまり除菌すれば十分だと考えています。もちろん、出血が見られたときなどは滅菌が必要ですが。衛生管理の専門家の先生に聞くと、大切なのは毎回同じ工程で洗浄することとおっしゃいますね。そうすることで習慣化でき、洗浄不足になることを防げるので。器具のどこをどうやって何回洗うか、ルールを決めて実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年8月23日
2022年8月23日

【セミナーレポート】vol.2 具体的なケア方法 ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に行われたNsPace(ナースペース)の訪問看護師向けオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。皮膚科専門医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、それぞれの視点から高齢者の足元のケアについてお話をいただきました。セミナーレポート第2回となる今回は、大場マッキー広美さんによる「在宅でのフットケアの実際」をご紹介します。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 ・ケアプランの具体的な記載方法▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ・まずはよく観察する ・爪切りの流れとポイント ・足浴(清拭)のポイント▶ フットケアがもたらす心身へのメリット --> ▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 足や爪のトラブルは、転倒や下肢筋力の低下、ADL・QOLの低下につながるリスクが大変高い重大な問題です。訪問看護師のみなさんにはそのことを理解していただき、ぜひフットケアを看護の一環として積極的にケアに組み込んでほしいと思っています。 具体的なアクションとしては、まず利用者さんの足の状態をよく見て、医師に報告します。その上で、訪問看護指示書にフットケアについてしっかりと記載してもらい、ケアプランに盛り込むといいでしょう。その際、ケアマネージャーやご家族の方々にも、フットケアの必要性や期待される効果を説明してあげてください。 なお、訪問看護ステーションでのフットケアの提供方法については、自費サービスのメニューに組み込むことをご提案しています。 ケアプランの具体的な記載方法 ケアプランの記載方法に決まりはありませんが、私は単に『フットケア』とだけ書くのではなく、足浴や足の清拭、軟膏の塗布、爪切りなど、具体的なアクションの一つひとつを明記するといいと考えています。 ▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ここからは、実際に現場で提供するフットケア、爪切りと足浴(清拭)のノウハウをご紹介していきます。 まずはよく観察する まず、足や爪の状態をチェックする上で注目すべきポイントを細かく確認します。利用者さんの足を見る際は、以下の点に着目してみてください。 ・皮膚や爪の色・爪の長さ、厚さ、形・足の指の状態(伸びた爪で傷がついていないか など)・浮腫の有無・皮膚の温度、乾燥の具合・関節や皮膚の硬さ・脈 とくに爪の長さは要チェック。伸びたまま放置されているケースが多く見受けられます。 爪切りの流れとポイント STEP 1 ゾンデで爪と皮膚の境界線を分ける安全に爪切りを行うためには、ゾンデという細い棒状の器具を使って、まず爪と皮膚の境界線を分けましょう。フリーエッジ(爪床とつながっていない部分)にゾンデを優しく差し込み、しっかりと『切れる部分』を確認してください。このとき、ゾンデで溜まった汚れや角質を掃除すると、境界線を確認しやすくなりますよ。このゾンデを使った事前準備を怠ることで、出血してしまう爪切り事故が起きやすくなります。大きな問題がない爪であれば介護士も切ることができるので、ぜひ介護職の方にもやりかたを指導してあげて、現場でうまく分担できるようにしてみてください。 STEP 2 ニッパーで爪の端から切る爪と皮膚の境界線を確認したら、ニッパーで切っていきます。その際、爪の端から切ることで、短く切りすぎたり皮膚を巻き込んだりといった事故を防げます。なお、爪が厚い、もしくは固い場合は、まずは横からニッパーを入れて切り、次にその先端部分に向かって縦に切ると上手にカットできます。また、爪の長さをどのくらい残すかは、利用者さんの生活によって判断が異なります。歩ける方はある程度の長さをとっておかなければなりませんが、歩かないのであれば短く整えてもいいでしょう。 STEP 3 ヤスリでなめらかに整える次に、ヤスリで爪を整えましょう。ニッパーで切っただけだと角が残り、隣の指を傷つけてしまったり、靴下の繊維に引っかかって痛みが生じたりすることがあります。指で爪に触れて、引っかかりがないくらいを目指してください。また、爪に厚みがある場合は上から削ってもいいと思います。 なお、爪切り後は皮膚の状態をチェックしましょう。長年爪に覆われていた部分の皮膚は弱く、ひどい場合は傷になっていることもあります。爪切り直後はぬるま湯につけただけで皮膚がピリピリすることもあるので、扱いには細心の注意を払ってください。 足浴(清拭)のポイント フットケアにおいて、保清・保湿は重要なポイントです。足浴(清拭)を行い、仕上げに保湿する流れは、ぜひ実践していただきたいと思います。ここで間違えてほしくないのが、単に温かい湯に足をつける『足湯』ではなく、足を洗う『足浴』が必要だということ。清潔保持の観点では、石鹸を使って足の指や趾間まできちんと洗うことが大切です。 ▶ フットケアがもたらす心身へのメリット フットケアには、おそらくみなさんの予想を超えた効果があります。これまで外出できなかった方が少しずつ歩けるようになるといった事例は、決して珍しくありません。巻き爪、陥入爪、むくみなどが改善することで、歩くのが億劫ではなくなるのです。 また、利用者さんとの信頼関係が深まることも大きなメリット。私はこれまで、「今まで足元のケアなんてしてもらったことがない、うれしい」ととても喜んでくださる利用者さんをたくさん見てきました。高齢者の中には、自分の爪は一生このままよくない状態なのだと諦めている方が多いので、爪が短くきれいになるだけで心情に大きな変化があるのです。 利用者さんの身体にも心にもいい影響を与えるフットケア、訪問看護の現場にもっと浸透してほしいと考えています。 次回は、「専門家が考える正しいフットケアQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年8月16日
2022年8月16日

【セミナーレポート】vol.1 フットケア アセスメント ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、訪問看護師の方に向けて「フットケア・爪のケアのポイント」をご紹介しました。講師は、皮膚科医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。第1回の本記事では、高山先生にお話いただいた「高齢者のフットケア アセスメント」についてまとめます。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ フットケアの重要性 ・足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病▶ 足や爪のトラブルの原因 ・白癬 ・皮膚の老化 ・筋力や関節可動域の低下▶ フットケアに期待される効果 ・足浴の効果は絶大▶ 爪切り難民を救うために必要なこと --> ▶ フットケアの重要性 日本は人生100年時代を迎え、超高齢社会に突入しました。そこで考えなければならないのが、介護を要する年数を短くする方法です。介護を要する年数とは、すなわち経済を圧迫する年数。私たち足育研究会は、国民にのしかかる負担をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいか、足元に着目してその解決策を模索しています。なぜなら、足や爪のトラブルは歩行に支障をきたすため。歩けなくなることは、介護が必要になるリスクに直結します。 足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病 足元のトラブルは生活習慣病であり、そのスタートは子ども時代にあります。私は日ごろから子どもたちの足を見ていますが、すでに足趾の変形が認められ、爪のトラブルが発症しているケースは少なくありません。これを放っておくと、加齢に伴い足趾の変形はさらに強まり、爪に不可逆的なトラブルが起こり、重症化します。そうして転倒しやすくなったり、痛みなどが生じて歩けなくなれば、フレイルや寝たきりになるリスクが高まったりもするでしょう。私たちは、この負のスパイラルをできるだけ早く断ち切るべく取り組んでいます。訪問看護師のみなさんにおかれましても、ぜひ足元のトラブルの成り立ちや患者さんが被る不利益を理解し、積極的にケアにあたっていただければと思います。 ▶ 足や爪のトラブルの原因 高齢者の足や爪のトラブルの代表的な原因としては、以下の3つが挙げられます。 白癬 非常に多くの高齢者が罹患している白癬は、爪を悪くする原因になります。爪は、爪母と呼ばれる皮膚に隠れた根元の部位でつくられ、爪床という『爪のベッド』に沿って前へと運ばれて、常に新しいものに置き換わる構造になっています。 そもそも、白癬というのは、足の白癬から始まります。①足の水虫(白癬)を放置してそれが爪に入ると②のような「くさび形」になるなどの変化が生じます。②の状態であれば、まだ爪の形を保ち、爪としての機能も果たせているケースが多いです。しかし、そのまま放置して重症化すると③のように変化して、爪の機能を果たせなくなるほどになります。糖尿病や下肢の末梢動脈疾患を抱えている方、もしくは透析を受けている方などのケースでは、④のような壊疽にもつながります。 皮膚の老化 高齢者の皮膚は、褥瘡をつくりやすい状態にあります。具体的な特徴は以下のようなものです。 【表皮】表皮細胞が減少し、免疫やターンオーバー、皮膚感覚が低下します。また、角層では皮脂の分泌が減り、天然保湿因子が枯渇して、強い乾燥が起こります。これによりバリア機能が低下したり、亀裂が生じたりして、アレルゲンや細菌などが皮膚内部に入りやすくなります。 【真皮】コラーゲンや弾力繊維が減少し、血管に変化が起きます。それが外力に対しての脆弱化を招き、創傷治癒力のさらなる低下、血管の閉塞をもたらします。 【脂肪組織】著明に萎縮します。とくに踵は筋肉がなく、脂肪組織だけで守っているため、ダメージを受けやすくなります。 筋力や関節可動域の低下 関節可動域が低下することで通常の歩行ができなくなり、皮膚や爪に過度な、もしくは不適切な負荷がかかって、指先を傷めたり爪が変形したりします。私たち足育研究会の調査では、巻き爪は足趾間力の低下がもたらしているというデータも得られました。 また、膝や股関節の可動域の低下、さらには筋力の低下によって座り方も変化します。大腿部をそろえて座ることができなくなり、足がパカッと開いてしまうのです。すると、踵の外側に強い圧力がかかり、褥瘡が現れやすくなります。 このように足や爪のトラブルの背景には、皮膚や関節、筋肉の変化など、さまざまな要因があります。これ以外にも、靴の問題なども深く関係してきます。こうした全身的な老化現象、生活習慣の果てにあるのが、高齢者の足の問題なのです。 先ほども少し触れたとおり、問題の発端は子ども時代にさかのぼります。柔らかい足で合わない靴を履いたり、運動量が不足したり。そして、足のケアが不足した状態も続き、やがては白癬や膝・腰の痛み、糖尿病、脳梗塞などの合併症が起きて、足元のトラブルにたどり着く……足や爪の状態は、その人の人生を色濃く反映しているといえます。 ▶ フットケアに期待される効果 そんな足や爪のトラブルを抱えた高齢者にぜひ行ってあげてほしいのが、フットケアです。肥厚した爪甲のケアは、フレイルやサルコペニアなどの予防につながることがわかっています。歩いても痛みがない状態、靴下などに引っかからない状態に爪を整えてあげることで、下肢機能の低下を改善できるからです。現場では、フットケア後に今まで運動できなかった方が歩き出したというケースはよく見られます。 また、爪白癬を患う要介護者に積極的にフットケアを行ったところ、実施期間中は介護度が上がらなかった、つまりADLを維持できたという研究結果もあります。歩ける期間をできるだけ長くするために、そして歩けない方も安全・安楽・衛生的に過ごすために、フットケアをやらない理由はありません。 足浴の効果は絶大 フットケアの中でぜひ行っていただきたいのが、足浴です。利用者さんに気持ちいいと感じてもらえることはもちろん、皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保って感染を予防できる、筋肉を温めながらマッサージすることで運動効果を得られるなど、さまざまな効果が期待できます。継続的に足浴を実施すると、足関節の背屈可動域が改善するというデータも出ているほどです。足は『感覚臓器』。足浴で触ってあげる、少し動かしてあげることで、正常な感覚を呼び戻してあげてください。 ▶ 爪切り難民を救うために必要なこと このように、高齢者へのフットケアは大変重要であるにもかかわらず、『爪切り難民』は少なくありません。とくに介護を受けておらず、病院にも通っていない方は、多くの場合適切な爪のケアを受けられずにいます。 近年、足育研究会では爪切り難民対策として薬局に専門家を派遣してフットケアを行う取り組みを全国で始めていますが、こちらは要介護予備軍の方々を対象としています。介護を受けている方は自宅や施設で爪切りができることが前提の取り組みです。訪問看護の現場や、高齢者施設などは、当然『患者さんの足を守る場所』であってほしいと考えています。 みなさんには、高齢者の足の衛生や機能を守るという意識をもって、ぜひできる範囲でフットケアに取り組んでいただければと思います。 次回は、「在宅でのフットケアの実際」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年3月29日
2022年3月29日

「朝、起きたら左足だけが腫れていた」場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第7回は、朝起きたら片足だけが腫れていた患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 83歳女性。「朝起きたら左足だけが腫れていて、もったりとして気になる。昨日は何ともなかったのに……」と言っています。   あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 足が腫れているという訴えであるため、まずは、足の皮膚や皮下組織、筋肉や骨に炎症が生じ、腫脹が起こっていることが考えられます。 また、リンパや静脈系の循環障害による浮腫の疑いがあります。 リンパ浮腫とは、リンパ管の狭窄や閉塞のためにリンパ液が滲み出して浮腫となったものです。手術侵襲や、がんの浸潤により起こることが多いです。 静脈系の循環障害による浮腫は、静脈の閉塞や狭窄により静脈圧が上昇することで血漿成分が滲み出して起こります。深部静脈血栓症の場合、脳梗塞や肺梗塞など生命にかかわる疾患を引き起こす場合があり、発見したら速やかに医療につなげる必要があります。 ここに注目! ● 足が腫れているという訴えは、浮腫によるものか、局所の炎症による腫脹か?● 局所性の浮腫が考えられる場合、静脈系の循環障害か、リンパの還流障害か? まずは、炎症による可能性を念頭に置いてアセスメントします。そのうえで浮腫による可能性が高いと考えられる場合は、浮腫が静脈性なのかリンパ性なのかをアセスメントします。 局所炎症のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・炎症の症状(痛み、しびれ、熱感、腫脹)・原因・誘因となったこと(転倒や転落、打撲、外傷、虫刺され、など)・ADLへの影響 局所炎症のアセスメント②客観的情報の収集 体温測定 炎症が起きている場合、免疫反応として、発熱が起こる可能性があります。高体温になっていないかどうかを確認します。 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 外傷などによって起こる局所の炎症による浮腫は、脚全体ではなく障害のある部位にみられますので、左右差を比べながら確認します。 痛みに注意しながら触れ、圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧迫時間は5~20秒、指が沈み終わったら離し、その深さで判定します。 炎症徴候の確認 皮膚の傷や、骨折を思わせる症状がないかを確認します。骨折がある場合は、関節が不自然に曲がっていたり、発赤や強い腫脹がみられ、圧痛と熱感があります。 炎症の徴候を確認するために、発赤と熱感を確認します。熱感については、熱に敏感な手背を使って確認します。人の皮膚温はさまざまなので、症状を訴えている側だけでなく、左右同時に触れてその差を確認します。 関節可動域 関節を動かせるかどうかを確認します。炎症がある場合は、動かすことで痛みが生じる可能性が高いので、確認しながら行います。どの程度の可動域制限があるかを、左右比較して観察します。 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・静脈系末梢循環障害の症状(張るような痛み、重苦しさ、浮腫の日内変動、動かしにくさ、など)・リンパ系循環障害の原因・誘因(がんや手術の既往、など)・静脈系末梢循環障害の原因・誘因(急な臥床安静、歩行制限、下肢運動量の減少、下肢の圧迫、など)・ADLへの影響 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント②客観的情報の収集 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 循環障害による浮腫は、血管の閉塞・狭窄の位置より下部に生じますが、皮下組織への水分の貯留が進むと足全体に生じることも多いです。 圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧痕がみられない腫脹の場合は、周囲径を計測することで、客観的な観察ができます。周囲径を計測する際は、体位および測定部位の関節からの距離を記録しておきましょう。 末梢循環の確認 静脈系の末梢循環障害では、皮膚色の変化はみられないことが多く、静脈瘤や慢性の炎症がある場合は赤茶色の変色がみられることがあります。動脈系の障害ではないので、皮膚温は保たれ、足背動脈などの末梢の脈も触知できます。 皮膚の視診・触診 リンパ浮腫では蜂窩織炎となっている場合もあります。蜂窩織炎では広範囲に発赤があり、腫脹し、熱感や痛みがあります。放置すると組織の壊死をきたしますので、速やかな治療が必要です。 報告のポイント ・浮腫の部位と程度、左右差がみられること、全身性の浮腫ではないこと・外傷や骨折などの筋骨格系の障害によるものか、その判断理由・静脈・リンパ系の循環障害によるものか、その判断理由 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

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