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ケースメゾットで考える管理業務
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特集
2023年3月7日
2023年3月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その3:どのように働きかけることが効果的なのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第9回はCASE3「ドクターをどう動かせばいいのか」の議論のまとめです。 はじめに 前回(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)は、なぜK医師とは連携しにくいのかについて、A・B・C・Dさんそれぞれの意見を交換しました。今回は、訪問看護管理者としてどのようにK医師に働きかけるかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 K医師にどのように働きかけることが効果的なのか 講師ここまで(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)のみなさんの意見から、K医師とよい連携をするために管理者としてできることは、「K医師と訪問看護の目標を一致させる」「K医師と訪問看護の情報の非対称性を解消する」の二つが出ました。では、具体的な取り組みとして訪問看護管理者は何ができるでしょうか? Aさん注2当たり前のことですが、 各利用者の在宅生活の目標についてよく知ってもらい、医師と看護で目標を一つにするために、K医師と話し合う時間をとりたいです。訪問看護は、利用者の意思を尊重したケア体制を構築したいので、K医師に看護側の考えを理解してもらうことは必須のことと思います。 BさんK医師はお忙しいのでしょうから、報告書を持参して相談するなどの機会を探ってみるのがよいかもしれませんね。専門医による診察がない状態がこのまま続くことによって、「利用者にこんな支障が起こりうるのでは」など、看護側がどんなことを懸念していて、なぜK医師に相談したいと思っているのかを、まず報告書に書くことも一つです。 CさんあまりにもK医師の対応がひどいなら、医療法人の本部に相談することも必要だと思います。なので、K 医師の対応について客観的な事実を集めるようにスタッフには指示をしておこうと思います。 Dさんケアマネジャーなどの関係者との情報交換を通じて、誰に働きかければK医師が動くのかを考えたいです。また、この在宅療養支援診療所には他の訪問看護ステーションもかかわっているでしょうから、地域の訪問看護ステーションの管理者会議などでK医師について聞いてみることもできると思います。 講師K医師に情報を提供するさまざまな手立てと、K医師やK医師が所属する医療法人の情報を収集するための具体的な取り組みが出てきましたね。さまざまな困難があることでしょうが、医療法人の本部との相談も視野に入れ、利用者の利益を中心としたケア体制の構築を進めていってください。 連携の鍵は「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消にある 講師では、これまでの議論を受けて、CASE3のまとめです。 みなさんの意見から、・利用者の状況を小まめに医師に伝えること・利用者ごとの在宅療養の目標を医師と看護師で擦り合わせておくことの必要性が見えてきました。 医師に限らず、多職種連携の場面においてキーとなる人物がなかなか動いてくれないという話はよく聞きます。その人自身に問題があるというよりは、その人物の合理的な選択の帰結として生じるものと捉えるほうが、効果的な働きかけを考えることができます。どなたかも発言されていましたが、人の性格などは急に変わるものでもありません。 今回のケースで管理者としてできることは、K医師との「目的の不一致」と「情報の非対称性」(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)を解消するために動くことです。 Cさん連携しにくい医師への対応をしていて、「どうしてこの人はわかってくれないのだろう」と思うことが多々あったのですが、相手のことを十分に理解していなかったかもしれないと思いました。 講師はい、そうなんです。変えられないところを気にしても自分が疲れてしまうだけです。働きかけをして効果がありそうなところにご自身の力を集中させてください。ある人や組織との連携がうまくいかないことがあれば、「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消を考えてみてください。このことは他の場面でも応用できる考えかたですよ。 * 次回は、CASE4「クレームを受けるスタッフをどうするのか」を考えます。 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】
規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】
インタビュー
2023年2月28日
2023年2月28日

規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】

福岡市の「レスピケアナース」は、0歳児から高齢者の方まで幅広く介護保険や医療保険を利用しての訪問看護を提供する、機能強化型訪問看護ステーション。医療依存度の高い方向けの看護を得意としています。設立者で管理者の山田真理子さんに、ご自身が目指してきた訪問看護ステーションの在り方や、順調に規模を拡大してきた秘訣を伺いました。 株式会社アイランドケア 常務取締役レスピケアナース 管理者 在宅看護専門看護師(2020~)山田真理子さん内分泌内科と血液内科の混合病棟に2年、呼吸器内科病棟に計5年ほど勤務。その後、人工呼吸器や患者教育に興味を持ち、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で9年間訪問看護ステーションの管理者を務める。事業所設立を目指して2015年に独立。同年12月にレスピケアナース設立。 前職での違和感と、成し遂げたかった想い ─早速ですが、レスピケアナース設立のコンセプトから教えてください。 「看護職」というと技術や経験が注視されがちですが、私は物事の受け止め方、看護観・ケア観、ビリーフ(思い・信条)に共感できるスタッフであることを重視しています。仕事から学び、学ぶことが仕事だという考えに共感してくれる方々と働くために、レスピケアナースを設立しました。看護師2.5人と、事務・アルバイトさんのみの小さな事業所からのスタートでしたが、現在は順調に人員と売上の規模を拡大しており、多くの方々に訪問看護をご提供しています。 ─訪問看護ステーション設立以前の働き方について教えてください。現在の山田さんの指針に繋がっているご経験などもお伺いしたいです。 前職では、大企業が運営する訪問看護ステーションで9年間、管理者を務めていました。そこで感じたのは、大きな組織のなかで自分ができることの限界です。例えば、人員を増やすにしても、欠員補充しかできず、マッチする人材を選ぶことができませんでした。 訪問看護ステーションは、当然ながら看護師がいなければ何もできませんから、「不足してから補う」という方法は合いませんし、現場が疲弊してしまいます。また、ミスマッチな人材が加わると現場が混乱し、お互いに不幸なのです。次第に「私に人事裁量権をもらえたら、もっとうまく運営できるのに、成果が出せるのに」という気持ちが強くなっていきました。 それから、自由に発言できないというのも組織にいるからこその制限ですね。自分自身が強い想いを持っていても、あくまでも会社の方針と齟齬がない形でしか語れません。「私自身」がどんなことから影響を受けどうしたいか、といったことも言えない。そこから飛び出したいと思いましたし、愚痴や文句を言う前に、自分で理想の事業所をつくるべきだと思いました。 現在は余裕のあるうちに人材を採用する体制を作っているので、予期なく欠員が出ても残された従業員が疲弊しづらくなっています。また、SNSやブログで自分の想いを発信できるので、共感してくれた方がレスピケアナースに来てくれるケースも多くありますね。 ─山田さんの経営思想は、ナイチンゲールからも影響を受けていると伺っています。 はい。20年ほど前ですが、ナイチンゲール思想を研究されている金井一薫先生の「KOMI(Kanai Original Modern Innovation)理論」を知り、勉強会にも参加するようになりました。それまで私はナイチンゲールに対しとにかく献身的なイメージを持っていたのですが、彼女はイギリス初の統計学者であり、レーダーチャート開発や病院経営などでも手腕を奮っていました。「戦争で死ぬよりも感染症で死ぬ人の方が多い、だから衛生環境を整えるべきだ」といったことを、数字を用いて根拠を示し、政府の意思も動かしているんです。 つまり、彼女はただ「患者さんのためになると思う」という気持ちだけで献身的に働くのではなく、根拠を示して他人を納得させることのできる人間でした。それまで私が抱いていた印象とはまるで違う。とてもかっこいいと思ったんです。私もナイチンゲールのようにデータを駆使し、広い視野を持って経営したいと考えるようになりました。 また、この思想は看護の現場にも生かせます。例えば医師と話す場面で、「この患者さんは痛がるからレントゲンを撮ってほしい」ではなかなかうまくいきません。「この患者さんはこのような動作をすると痛がるため圧迫骨折の可能性がある、だからレントゲンを撮るべきでは」と、根拠をもとにアセスメントをしたほうがいいでしょう。 視野を広げて「みんなが幸せになる看護」へ ─ナイチンゲールは「情報」を重要視したのですね。それが冷静な判断を産み出す材料になると知っていた。現代に近い理論的な考え方だと思います。 そうです。もっと正確に言うと「客観的な情報」です。利用者さんの言葉だけを重視すると、その方の主観的な考え、いわゆる「S情報」だけに振り回されてしまいます。なぜ、このような「S情報」が出てきたのか、発言の背景にあることに目を向けなければ、利用者さんの困りごとの解消や軽減に至りません。また、「よかれ」と思って、利用者さんの「S情報」のみを元に現行の制度の域を超えたサービスをチームに黙って一人のスタッフが提供してしまったり、スタッフ自身が「利用者さんの希望を叶えられない」と無力感を感じたり、「こんなことは看護じゃない!」と不満に思うスタッフがいたりして、スタッフの方向性が揃わない。そのようなサービスを続ければ現場に無理が出て、訪問看護事業所が潰れてしまう恐れもあります。 訪問看護事業所が潰れても利用者さんは地域にいますので、次の訪問看護事業所を利用した時、制度の域を超えたサービスを受けられて当然と思ってしまい、次の事業所に不満を感じることになるでしょう。事業者の数が減れば、サービス自体も受けられなくなる。これでは、利用者さんも看護師も、誰も幸せにはなれません。 ─「よかれ」と思って対応している看護師さんに対して、理解を促す難易度は高いのではないかと想像します。どういった対応をしていますか? 看護の「意味付け」をし、レスピケアナースらしさを浸透させるために、月に2回、必ず「事例検討」をしています。この事例検討の目的は、いわゆる「SECI(セキ)モデル」(一橋大学大学院教授の野中郁次郎氏らが提唱するフレームワーク)を回すことです。これはそれぞれが持つ知恵を言語化して共有し、暗黙知を形式知に変える。これにより、さらに上の知恵を発見したり、作り出したりしていくモデルです。それぞれが個別で持っている「暗黙知」が「形式知」となり、客観的な情報になります。討論を通じてマニュアルに書いてあっても読めない「行間」までを読み合い、浸透させる。私はこれを「文化を作る」と表現しています。 事例検討時に自身の看護を評価するために利用してもらっているのが、ICFの情報整理シートや臨床判断モデルです。ICFの情報整理シートは、看護利用者の環境についての情報を整え、客観的に把握するためのもの。臨床判断モデルは、利用者さんのニーズや関心、健康問題などを総合的に捉え、必要とされる具体的な看護行為を導き出すための思考モデルです。このどちらかを使って担当者に発表してもらい、私がファシリテーションしています。 中堅のスタッフには成功事例も出してもらうようにしています。様式に落とし込むだけで、「暗黙知」が言語化されるんです。そして、ディスカッションすることによって、参加したスタッフがハッと気づきを得る体験をし、事例提供者は自身が行ったケアを客観的に見返すことができます。このように共有できる形にすることが、「形式知」になることであり、これを繰り返して「文化を作る」ということを実践しています。 そのほかの日々の記録や報告書や計画書もできるだけ確認し、適宜フィードバックしています。こうした成果物をみれば、「行き詰まっているのかな」「悩んでいるのかな」と気づくこともできるので、とても大事なことだと思っています。 繰り返し丁寧に理念や意図を説明する ─事例検討について、スタッフの皆さんの反応はいかがですか? みんな精力的に取り組んでくれています。ただ、慣れない新人さんには複雑で難しい作業に見えるようで、焦ってしまうこともあるようです。そういうときに私は、「『筋トレ』のように考えてくれればいい」と伝えています。決してプレッシャーを与えるために事例検討をしているわけではなく、「レスピケアナースらしさ」を身につけていくためのトレーニング手法なのです。スタッフの反応を見ながら、こういった意図も丁寧に繰り返し説明するようにしています。 ─クリニカルラダー(※)も活用されていらっしゃるんですよね。 はい。基本的には日本看護協会のものをベースにしています。クリニカルラダーは、活動の場を問わず、看護師ひとり一人が力を発揮できるようにという考えのもとで開発されたものです。看護師の評価の項目に、意思決定を支える力、ニーズを捉える力、協働する力、ケアをする力の4つがあり、バランスがよいと思って採用しました。年に1回、12月から1月にチェックしてもらうようにしています。 ※クリニカルラダー: はしご(=ラダー)を上るように段階的にキャリアアップするしくみ。段階ごとに課題は異なり、それぞれの段階で明確な目標設定が可能 特に「意思決定を支える力」「協働する力」については、病棟看護師も含めて足りないケースが多いと思います。クリニカルラダーでチェックすることにより、今は持っていないが将来には獲得しなければならない能力についても理解できるようになり、「これは自分の仕事ではない」と人任せになるケースが減りました。一緒に仕事をする者同士、連携することができるようになるんです。スタッフたちには具体的なエピソードも書いてもらい、私はそれらに対してフィードバックをしています。 仕事に来てくれれば9割満足 ─自分が得るべき技術が明確になると、やる気に繋がりますよね。それぞれが持つ看護についての考え方もしっかりするのでは。 そうです。レスピケアナースとしての考えが浸透します。ただそれでも、「素晴らしいことをするのが看護だ」とは考えないでほしいんです。利用者さんにとっては「看護してくれる人が来てくれた」というだけで、基本的には十分。私はいつも、スタッフに「仕事に来てくれれば私は9割満足」と伝えています。 例えば、事例検討の担当になることが重荷になってしまう心境なら、また別の時にすればいい。無理をせず働いてほしいと考えています。シフトについてもそうです。週に3回休みが欲しいなら、そういう働き方をすればいい。バーンアウトして訪問看護ができなくなったら、誰の幸せにもならないからです。それができる職場にするためにも、規模を拡大してきたんです。 当たり前のことですが、人によってできることとできないことがあり、考え方が違い、「でこぼこ」しています。私は、「でこぼこしているメンバーがたくさんいるが、関係性はフラットで、チームになると力を発揮する」組織を作りたいんです。パーフェクトなスペシャリストになってほしいわけではありません。自分の考えを押し付けたり、自分には技術がないと卑下したりするのは、ノーマライゼーションではありません。お互いを受け入れ、誰しも自分の可能性や能力を高められる状況でこそ、さまざまな意見や知恵が生まれてくると考えています。 ─ありがとうございました。後編では、採用や経営についてさらにお話を伺います。>>後編はこちら先を見越した採用とオープン経営の重要性 【利用者も看護師も幸せにする経営】 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部

訪問看護管理者が真にやるべきこと
訪問看護管理者が真にやるべきこと
インタビュー
2023年2月28日
2023年2月28日

訪問看護管理者が真にやるべきこと~スタッフ支援としくみづくりに注力する~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。訪問看護事業所運営が厳しい要因の一つに、管理者が何もかも担っている現状があります。第3回は、本当に管理者が注力すべき業務へ集中するための方策と、その一手である大規模化がなぜ進まないのかを考えます。 第2回「学び直しの機会を提供することが重要」はこちら>> ひとりが全部の機能を持っていることは望ましい姿ではない ─ これまでの話を振り返ると、人材採用難や看護師の学び直し機会の必要性、閉鎖リスクなど課題が多く、マネジャーや単体の組織では解決できないことも多いようです。管理者は、まず何を押さえるとよいでしょうか。 中原: まずは「顧客」を確保することでしょうね。顧客がいないと、ビジネスは回りません。訪問看護事業を始めるとき、利用者はある程度確保した段階から始まるんですか? ─ これもそれぞれです。地域の病院やケアマネジャーとのつながりがあって、最初から何人か獲得している場合もありますし、立ち上げ初期は顧客ゼロで、利用者開拓からの事業所もありますね。 中原: そこそこ顧客を持っていて、かつ、人が突然辞めて連鎖退職が起こることがないように、うまく回していく。やはりこれに尽きるのでは。でも、かなりの「無理ゲー(クリアが無理なゲーム)」だと私には思えます。そのことを覚悟して、始めることでしょうね。 乾: 「管理者がひとりで全部の機能を持っている」という話題もありましたが(第1回「人材採用難に立ち向かうために」参照)、私も他の業界にいた経験から、まさにそのとおりに見えています。一般の企業だと、稼ぐのは営業部が、金勘定は経理部が、採用は人事部がやる。それを、小規模の訪問看護事業所だと、管理者さんが基本やらなくてはいけない。そこが厳しいなと。 中原: おっしゃるとおりですね。本当にそうだと思います。 管理者はスタッフ支援としくみづくりに注力すべき 乾: ウィルさんもされているような、たとえば外部が提供する教育のツール利用や、大きなところに人事部門を引き受けてもらうなど、なるべく管理者の仕事を剥がすことが重要だと思います。そこがまた小規模では金銭的にも余裕がないとは思うんですが。 中原: そういうことでしょうね。全部やるのは難しい。落合さんはどうですか? 管理者にできることとは何でしょうか。 落合: そうですね、すべてをひとりがやるのは難しいなかで、やはり、スタッフに能動的に働いてもらうための心理的安全性の獲得。いちばん管理者が注力すべきところは、そこだと思います。 小規模事業所が多い理由は、直接管理をしているからだと私は思っているんです。ひとりが面倒をみることができる範囲はせいぜい5~6人だという、いわゆる「スパン・オブ・コントロール」を脱すると管理不能になって、結局5人ぐらいに落ち着いているのが実情なんじゃないかと。つまりは、管理者がすべて抱え込むマネジメントをやっている表れなんだと思っています。 聞いた話ですが、看護師は、教育・臨床を経ていくなかで、恥を感じがちで、自分で抱え込む人間が育つ傾向なのだそうです。加えて、自分から学ぶのではなく、「教育は受けるものである」という感覚も育ちがち。 先ほど出た話題(第2回「学び直しの機会を提供することが重要」参照)の、病院看護から訪問看護へのゲームチェンジを理解させる教育のなかで、そんな視点での支援をしないといけないんだなと思いました。教育は「与えられるもの」ではなくて自分から学習機会を活用していく、そのように行動が変わる支援です。管理者のマイクロマネジメントで動かすんじゃなく、能動的に動くことへのサポートですね。 スタッフが能動的に動けるように支えるマネジメントと、管理者だけで抱えずシステマチックにしくみを整えること。いちばん管理者が注力すべきはそこだと思っています。 中原: ありがとうございます。おっしゃるとおりだなと思いますね。 今後、訪問看護事業所の大規模化は進むか ─ 大規模化の推進が、訪問看護業界の喫緊の課題として上がっています。 中原: それはうなずけます。スケールを生かすのは一手ですね。 ─ ただ、非常にローカルなビジネスですので、直営だと狭い地域でしか成り立たない。落合さんが共同設立されたウィルさんのように、フランチャイズ化していろんな地域で運営できるモデルを構築されようとしている事業者もありますが、今はまだ大規模化の道筋はみえていないのが現状です。 乾: 私も落合さんに聞きたいのですが、訪問看護は、医療事業では特例的に営利法人が運営でき、資本力のある株式会社の参入もある。これから、たとえば買収が進んでどんどん成長するような存在が出てくるでしょうか。それともまだ今のような、小規模が大半の時代が続くと思いますか。 落合: 事業統合が増えるとは思いますが、医療・福祉の世界では、これまで市場統合がされていないんです。良い事例がいくつもあっても「それは○○市の○○事業所だから可能な事例でしかない」で終わっていて、それが繰り返されている状況なので、今後も大きく統合が進むとはあまり思えない。他業界のようには市場統合は起こらないのではと予想しています。 市場統合よりも「仲良くつながろう」がフィットする 落合: 統合というよりは、「仲良くつながろう」がフィットするのではと思っています。社会保障事業なので、どこで働いたって給料が大きく変わるわけでもないから、皆で仲良くやって、研修なんかも皆で作って一緒にやれば、それが業界全体の貢献にもなるよね、と。 中原: その「仲良く」とは、たとえば「今日うち人が足りてないんだけれど、貸してくれる?」もできるんでしょうか。 落合: それは難しいですね。登録しないといけないので。 中原: そうすると一つやりうる方法が、共通化できるもの、たとえば教育のコンテンツを「一緒にやりません?」的なことですね。 落合: そうです。ちょうど今、ウィルのグループでやりたいと思っていることがそれです。 診療報酬や介護報酬が改定されると、まず料金表が変わるんですが、料金表を1万3000の事業所で作るなんて本当に意味がない。誰かひとりが作って皆で仲良く使おうよと。 それから、5人以下の事業所が大半ということは、一つの職場の中には同期がほぼゼロなんです。それなら、エリアで同期の勉強会をしようよとか。 中原: いいですね。 落合: 隣の事業所をライバルと思わないほうがいいよねと思っているんですが、実際には人の奪い合いもあります。社会保障ですから、「うちこそは」と差別化して市場で競争するなんて、本来はそぐわないはず。そこに無理やり特徴をつくるとか、社会の形としてもビジネスの形としても有意義ではないことが実際には行なわれていて、自滅につながるんじゃないかと気になります。 大規模化とは業務を破綻させないしくみをつくること 乾: 訪問看護では大規模化のメリットがかなりあると思うんですけどね。 落合: はい、あります。大きく成長することを嫌う文化が根強い業界でもあり、大きな統合は難しいだろうなという感触ですが。 乾: 確かに医療・介護の領域だと、規模拡大イコール利己的な金儲けと誤解されるのか、資本主義的なものを嫌う風潮は確かにありますが。規模を大きくすることで、機能を本部でまとめて管理するですとか、できることが出てくるので、実用面ではすごく有意義だと思います。 中原: 金儲けというより、回るしくみを作ることなんですけどね。「最低ここまではみんなでやりましょう」のしくみにするほうが、建設的だと思います。 >>次回「訪問看護事業所の休廃止を防ぐ」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~
学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~
インタビュー
2023年2月14日
2023年2月14日

学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。第2回は、採用時の教育の重要性を考えます。「旧型の病院看護師を育てることに最適化された教育」をアンラーニングする機会を提供することが、望ましくない早期離職回避につながります。 第1回「人材採用難に立ち向かうために」はこちら>> 訪問看護に迎えるときにはルール変更の教育が必要 中原: 病院看護から訪問看護に移ることは「ゲームチェンジ」ですよね。その意識が必要だと思います。例えるなら、「将棋に熟達していた人」が突然、「チェス」を始めるようなもの。駒を使うところは同じなんだけれど、ルールが何もかも違う別の競技だよって話ですね。それぐらい異なるものだと、採用時に説明しなくてはならないでしょうね。 落合: そのとおりだと思います。やはり教育からチェンジが必要だと。 公的な訪問看護サービスは社会資源の一部であって、「目の前の人だけに最高の看護を」ではなく、「すべからく多くの人に、最低限度健康で文化的な生活が送れるための看護を」提供することが本来のはずです。ですが、看護教育で私たちが教わってくることは、「目の前の患者さんをどうやって幸せにできるか」に重きが置かれていて、そこでかなりギャップがある。 そういうわけで、社会保障のあるべき姿から逆行する発想をする傾向もある。「私がいいと思う看護を後輩ができないんだったら、そんな後輩はいらない」というような。そのときに「後輩を辞めさせた結果、ケアが届かなくなる患者さんはどうなるんだ」といった思考は持ち合わせていない。 看護の対象は「個人、家族、コミュニティ、地域」だと定められているんです。病気があるから対象になるわけではなく。ですが、旧型の病院看護師を育てるのに最適化された教育では、病気があり入院治療している個人をみることに焦点が当てられてきた。 そういう教育をされてきた過去はしょうがないので、訪問看護に迎えるときには、きちんと学び直しの機会を提供する。そんなオンボーディング注1が大切なのだろうと思います。 注1:新しく職場に入ってきた仲間が職場になじめるように迎え入れ、適応を支援する取り組み全般をいう。新しい職場で必要な知識やスキルの習得を教育・支援することも含まれる。 仲間を増やすことは看護と同じくらい大事だ 中原: 名前は同じ「看護」がついていて、似ていると思われやすいけれど、必要な資格が同じだけであって、私には「違う世界」に見えますね。その資格を持っているからといって、あるところでうまくいってる人が、次の世界に入ったときに必ずしもうまくいくとは感じないです。病院看護から訪問看護に移るときは、異国に行くイメージでいるといいのではないでしょうか。郷に入れば郷に従えといいますが、「前いた世界の自分」のまま「異国」に行って、自分を変えようとしないなら、確実に詰むでしょうね。 落合: うちでは、「この人を採用するかどうか」をみんなで決めるんです。面白いのは、経営で考えると採ったほうがいい状況で、「採らない」となりがち。「こんなに忙しいんだし採ったほうが絶対いいじゃん」って思うんですけど、なぜかそうならないんですよね。 私はよく「採用って看護と同じぐらい大事だよ」って言うんです。「自分1人では100件しか回れない、同僚と力を合わせたら200件回れる。同僚が増えると『すべからく多くの人に』適切な看護をに一歩近づく」ってことなんですけど、理解までかなり時間がかかります。 組織の成熟度が高まってくると、この考えが受け入れられるんだろうと思うんです。教育や学びが必要だなと思います。 離職者ゼロはベストではない 乾: 小さい規模で、いったん人間関係が悪くなってしまうと、もう厳しいですよね。病院だと配置転換で何とかなりますが、訪問看護のような小さい職場では、いちど嫌悪感を持ってしまうとギスギスが消えない。そして、ギスギスから距離を置くことができずに辞めるしかない。私も訪問看護で短期間働かせてもらったんですが、訪問看護の職場には逃げ場がないと強く感じました。 落合: おっしゃるとおりで、辞めない人を採るのが前提ではあるんですが、私がよく言うのは、「流動性を保たないといけない」。というのは、ある程度の離職率は保たないと組織の水が濁るので。 そのために、ちゃんとインしていきつつ、ちゃんと辞めてもらう。そうしながら組織は拡大していくのが理想だと。 ただ、訪問看護の採用担当者はだいたいが、いわゆる人材のプール、タレントプール(将来の採用候補者情報をためておくしくみ)を持っていないんです。採用が必要なそのタイミングで「今すぐ働きたい」人と運良く出会うことにかける、という狩猟みたいな採用だけで。「1年後働いてくれるかも」みたいな人がいないから、辞めさせられない面もあると思いますね。 中原: そう。「離職者ゼロ」は決して望ましいものではないんですよ。正しく貢献できない人には辞めてもらうことで止血するのも大事。本当は、異動ができれば退職に至らずにすむこともあるんですが、このサイズだとそれも難しいですね。 乾: 複数ステーションをお持ちとかで、配置転換ができるような事業者は多くないですからね。 だんだんと舵がとれなくなって縮小していくケースが目立つ 中原: 私のような業界外の立場から見たら、どうしてこのサイズなのかが不思議でしょうがないんです。「2.5人? マジ?!」って思う。1人抜けたらアウトで、また採用しなきゃならない、採用費100万円の借金を負わないといけない、ゼロから教えなきゃならない。2.5人よりは、逆に小さくするほうがうまくいきそうですが、1人ではできないんですか。 ─ 常勤換算で2.5人必要な決まりです。管理者ともう1人が常勤、パートで月半分、が開始時の一つのモデルです。 中原: 1人はダメなんですね。売上や顧客が決まってないのに人を雇わないといけない、相当なリスクですね。 落合: 訪問看護あるあるがありまして、思いを持って、仲の良い友だち2人を誘って立ち上げます。意気揚々と「○○病院にいました」「○○ができます」「こういう思いがあって独立しました」と営業をがんばる。そうすると御祝儀なのか、始めは依頼が結構来るんですよ。気心知れた仲間どうしだからトラブルも少ないし、そのころがいちばん儲かっています。それが、4~5人と人員が増えたあたりから、マネジメントロスが生じるとか、いろんな波が起こりはじめて、対処方法がわからず、乗り越えられずに縮小化するイメージが、すごくあります。 「立ち上げてすぐ閉鎖」よりも、仲間だけでやって、スタートはうまくいくが、組織が拡大するにつれて、だんだんと舵がとれなくなっていく。そんな例が多い印象です。 >>次回「訪問看護管理者が真にやるべきこと」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア
休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア
特集
2023年2月7日
2023年2月7日

休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者によるラインケア・スタッフ管理について考えていきましょう。 管理者が忙しいとスタッフは相談しづらい  「少しお話があります」。退職や勤務削減のお願いのセリフは管理者が聞きたくないセリフの上位です。なぜもう少し早く相談してくれなかったのかと思う人もいるかもしれません。とはいえ、相談できる体制にしていても相談をしにくい環境を作っている場合があります。 ストレスチェックで高ストレス者になった人の話を聞くと、自分の残業時間が多いことより、上司の残業時間が多いことを悩みとして挙げている方が多くいらっしゃいました。なぜ、自分ではなく上司がたくさん残業をしていることがストレスなのか? 理由は「相談ができない」「常に忙しそうなので相談すると申し訳ない」というものでした。「なんでも相談してね」と言うだけではなく、言える雰囲気を作る、イライラしない、余裕を見せるといった態度を示すことで、相談しやすい環境を作ることが大切です。 スタッフの問題に気づいたら注意ではなく心配を スタッフの不調に事前に気づくことはできないものでしょうか。先に述べたように相談する環境が整っていないと、スタッフは不調があっても相談することを避けてしまい、「大丈夫です」と言う場合も出てきてしまいます。スタッフの抑うつが気になった場合は、以下の点に注意して観察してみてください。・仕事の能率が落ちたり、ミスが増えたりしていないか・会話や口数が減っていないか・食事量がいつもより少なくなっていないか・日中ウトウトしたりぼーっとしたりと睡眠不足がありそうかこうした表面に現れやすいところをチェックするとよいでしょう。 そして、問題に気が付いたときは決して注意から入らず、心配する態度で接してください。声をかけるなら「しっかりしてちょうだい」ではなくて「大丈夫?」です。あなたのことを心配しているという気持ちを伝えると同時に、起こっている問題を一緒に解決していきましょうという気持ちを伝えるのです。 がんばっているよりもがんばっていないほうがよい 職場環境はある程度余力があるような状況にしておくことが大事です。管理者としては心配になるかもしれませんが、一見ダラダラ働いているような時間がそれなりにある状況です。むしろ、いつもギリギリの状況で全員忙しそうに働いている職場のほうが危機的です。何かあったら総崩れになるリスクを抱えています。リラックスしている状況でゆったり働けているのであれば安心してください。 僕がよく患者さんに話すことで、「がんばっている」と言う人と「がんばっていない」と言う人ではどちらのほうがよいか、という話題があります。メンタル面に関してはがんばっていない人のほうが、明らかに余裕があります。「毎日がんばっています。一生懸命がんばって仕事に行っています」と「特にがんばらなくても、普通に仕事に行くことができています。何も問題ないです」というセリフを比べてもらえればわかりやすいでしょう。 休職中のルールを伝えて安心して休めるようにする 休職者が出てしまったときの対応もお伝えしておきます。スタッフが休職したばかりのときは、こちらも気が動転してしまい、いろいろと聞きたいことも出てくると思います。ですが、まずはスタッフの気持ちが落ち着くまでは職場と距離をおいてあげることが重要です。 ありがちなよくないケースとして、毎週報告を求めてしまい、休職者に苦痛を与える方がいます。とはいえ、会社も雇用している限りは安全配慮義務もあるので休職中月1回程度はメールで様子を窺うことは合理的といえるでしょう。 休職を開始するときに、本人の希望を聞いて面談や定期連絡のルールを設定することも望ましいです。例えば、連絡の窓口は管理者がよいのか、親会社があるなら親会社の人事担当がよいのかなどを聞いておきます。会社ごとに何ヵ月間か休職可能期間が設定されていますので、そのような人事上のルールを早めに伝えるのもよいでしょう。 「元気そうね」はNGワード! 「無理せず、ゆっくり」が安心につながる 少しよくなってきたら職場面談を行うところもあると思います。そのときのポイントとしては「元気そうね」とは言わないことです。まだ休職中で不調な状態ですので、人によっては「元気そうなのに休んでいる」と嫌味を言われたと受け止める人もいます。こちらの感想を伝えることは一切不要です。 「早く戻ってきてほしい」もNGで、あなたは必要な人だと伝えたいのかもしれませんが本人を焦らせてしまう言葉です。どうしても気遣いをしているという声かけをしたいなら「無理せず」「焦らずゆっくり休んで」くらいが妥当でしょう。あとは「何か聞きたいことはないですか」とたずねて、本人が気になることや話したいことを中心に会話を進めるとよいでしょう。 日常生活が可能な状態と就業可能な状態は異なる 「休職中の面談時になぜか元気そうに見える」というお話もよく聞きます。それは、その面談が仕事の負荷がかかっていない通常の会話だからです。他の例を挙げると、映画館に行けるからといって仕事ができるわけではありません。復職リハビリテーションでは日常生活を問題なく送れるようになったら、その次の段階として負荷のかかる作業ができるかを指導していきます。日常会話や映画に行くことは日常生活の負荷なのです。 また、「いつになったら治るのか」と聞く人もいますが、本人が一番苦しんでおり、答えられない内容です。がんの人にいつになったら腫瘍が消えるのかと聞くようなものと思っておいてもらえたらと思います。 精神科を受診される際は産業医学に詳しい医師、せめて産業医資格を持つ医師が望ましいです。精神医学分野では就労者支援は希望者しか学ばないので、就労者支援をできる医師とできない医師がいます。できない医師でも患者さんに求められたら休職の診断書を書くことはできますが、その後の療養中の指導や復職の適切な判断を行うことができません。場合によっては、復職までのリハビリテーションが十分でない状況で復帰の診断書が出てしまうこともあります。 最後に、事業所レベルで本当に復職できる状態かどうかを判断できる基準例をご紹介します。それは、復職プログラムの策定にも有用な「生活リズムの確認」という方法です。具体的には、月~金に自宅から外出し、図書館やカフェなどで9~17時まで本を読んで過ごすことができるかどうかを見ます。これは普通の日勤の生活ができるかどうかを試しています。逆に、これができる程度に心身の耐久力が戻っていないと就業可能な状態とは言えません。職場で復職プログラムを考えたい場合、この生活リズムが取れるかどうかを確認してみてください。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
特集
2023年2月7日
2023年2月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第8回は前回に引き続き、連携がしにくいと評判のドクターについてのケースです。 はじめに 前回(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)は、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、K医師に関係する周囲の人々の状況について、A・B・C・Dさんそれぞれの考えを出しあいました。続く今回は、なぜK医師との連携がうまくいかないかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 なぜ連携がうまくいかないのか 講師ここまで(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)のみなさんの意見から、K医師との連携がうまくいかない理由として、①K医師の特徴と②多職種連携の際に生じる問題、の二つが出てきました。では、この二つを連携がうまくいかないことの原因として考えたとき、みなさんはどんな意見を持ちますか? Aさん注2性格って、人から言われて変わるものではないですよね。在宅医療の経験を増やすといっても、これには時間もかかります。組織や職種も違いますし、私たち訪問看護管理者が働きかけられることでもありません。 Bさん他の組織の、違う職種に関することですし、私たちが無闇にどうこう言うことで、今後その医療法人との連携で角が立つのもよくないと思います。とはいえ、利用者のことや今後の連携を考えると、何かはしないといけませんよね。 講師他人の性格を変えようとするのは難しいことですね。私たちに何ができるかを考えると、多職種連携の際に生じる問題の解決に目を向けるほうが建設的ですね。 Cさんケースに書かれているのは「K医師が看護師の提案に耳を傾けてくれない」という看護師側の訴えだけで、K医師の考えはわかりません。K医師の考えや、K医師の所属する診療所としての考えを聞いてみてもよいかもしれません。 Dさんもしかしたら、看護師からの提案がK医師にとっては自分への批判ととらえられてしまっているのかもしれませんよね。ふだんから、「看護師がどのような情報を持っていて何を考えているのか」を伝えていくなどのコミュニケーションも必要でしょうね。 「なぜ連携がうまくいかないのか」の小括 議論が進むと、K医師自身(性格や働きかた など)を変えることの難しさが改めて浮き彫りになりました。そして話題は「他職種連携の際に生じる問題」の難しさに移りました。この問題の難しさの原因は、突き詰めると二つです。 目的の不一致K医師(利用者の治療を目指す)と訪問看護(利用者の在宅生活の維持向上を目指す)の目的が一致しない。K医師の行動は、違う目的を持った訪問看護の側からは理解しにくいかもしれない。情報の非対称性医師が病院や診療所内でどのように動いているのか、利用者の治療についてどのように考えているかが、訪問看護側からは見えにくい。 逆に、医師からは訪問看護が何を考えてどのように動いているか、訪問看護が把握している利用者の普段の生活状況や悩みなどの情報が見えていない可能性もある。 この二つを解消するために動くことが管理者には必要です。そして次回は、「管理者として連携しにくいと評判の医師に、どのように働き掛けるか」を考えていきます。 >>次回「その3:どのように働きかけることが効果的なのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

人材採用難に立ち向かうために~訪問看護と病院看護の決定的な違いとは~
人材採用難に立ち向かうために~訪問看護と病院看護の決定的な違いとは~
インタビュー
2023年1月31日
2023年1月31日

人材採用難に立ち向かうために~訪問看護と病院看護の決定的な違いとは~

エキスパート三者が訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッションを、今回から4回シリーズでお届けします。第1回の論点は、厳しい状況が続く早期離職・人材採用難に、訪問看護管理者はいかに立ち向かえるのか。解決への手がかりを探ります。 落合実ウィル訪問看護ステーション相談支援チーム、2016年緩和ケア認定看護師教育課程修了。ウィル株式会社を有志と共同設立。現在はウィル株式会社の取締役とあわせ、同社のフランチャイズ事業所の経営者でもある。乾文良株式会社エピグノ代表取締役CEO。医療介護分野に特化した人材マネジメントシステムを、開発・販売・運用している。MBA。中原淳 立教大学経営学部教授。専門は人材開および組織開発。立教大学大学院経営学研究科経営学専攻リーダーシップ開発コース主査。立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長。 訪問看護業界は人員確保が大きな課題 ─ 訪問看護ステーションの休廃止数は2020年で781事業所1)。休廃止の理由として過去の調査2)では、利用者獲得に関する要因に次いで、従業者確保や管理者不足といった人的要因が上位にあがっています。また、5人以下の小規模事業所が62.9%3)と、規模がきわめて小さい事業所が大半を占めることも訪問看護業界の特徴です。 乾さんは、医療・介護といったヘルスケア領域に向けて、エンゲージメント評価のシステムを提供されていますね。訪問看護の世界はどのように見えていますか。 乾: エピグノは、病院や在宅医療、訪問看護、介護の領域で支援を提供していますが、ヘルスケア領域のなかでもそれぞれ業界の特徴があります。訪問看護師さんは、心理的な安全性が担保されにくい職場環境なのかなと感じます。病院や介護施設と比べても、訪問看護はたとえば退職率の高さがかなり深刻です。 退職と採用のループは組織を疲弊させる 中原: 採用しては辞めて……が続くと、組織がどんどん傷んで、疲弊してしまう。そんな状況になってくると、「採用してはすぐ辞める」のループで、採用費だけが膨らんでいきますね。 ─ そうですね。1人の採用費を回収するのに1年かかるのに、早期退職が続いてしまう。そんなことを繰り返されている事業所さんも多いのかなと思いますが、落合さん、いかがですか? 落合: そのとおりだと思います。実はもっと深刻な状況も多くて、だんだんと辞めていくのではなく、1人辞めると「もう危ない」と、一斉退職が起こる。 中原: 退職は「伝染」します。一斉退職、どこの世界でも、あるあるですね。 訪問看護の職場環境は早期離職につながりやすい側面がある 乾: 私たちは、個々人のエンゲージメントやモチベーションの状態を細部にわたって測定していまして、訪問看護業界は特に「自信の高さ」が低い傾向があります。 訪問看護師さんは、病院で研鑽を積まれてから訪問看護に移られるのが一般的ですから、病院と訪問看護とのギャップが大きな要因ではないかと思っています。病院であれば他職種ふくめて周りに多くの同僚がいるけれど、訪問看護師さんはひとりで利用者さんのもとに行く。さらに、訪問看護は小規模事業所が大半で、教育の余裕もなく、入ったらほぼすぐに「ひとりで行ってこい」になる。 訪問看護に飛び込んだ人は、病院とは当然違う環境で、ひとりで利用者さんに対峙しなくてはいけません。そんななかで「本当にこのやりかたでいいんだっけ」「この意思決定でいいんだっけ」という悩みや不安感が、訪問看護師さんには多いなと感じます。 中原: ひとりで仕事をする環境では、フィードバックが働かないし、顧客との関係が悪化すればブラックボックス化する。見える化してうまくマネジメントでケアしないと、あっという間に早期離職にもなりえますね。 営業から人事までを担う、管理者にかかる負荷の大きさ 落合: 訪問看護事業所は、常勤換算で2.5人を満たせないと休止しないといけない。経営者が2.5人を集めることに必死になりがちな構造です。そうなると、定着どころではない。「採用費をどーんと使って3人にしたけれど、3人とも辞めることが決まっている」とか、「いついつには1人辞めてしまって2人になるから何が何でも人を入れないといけない」とか、ずっとそんな状況に追い立てられている印象がすごくあります。 中原: ここまで聞いて真っ先に思ったんですが、これは外の世界からみたら「無理ゲー(クリアが無理なゲーム)」に見えると思いますよ。いわゆる採用―育成―職場改善―離職防止を、経営者や管理者がひとりで実践するのは「無理ゲー」じゃないですか? いや、皆さんとても頑張っておられるのだと思いますが、外の世界からみたら、不思議です。なぜ、ひとりで取り組む「しくみ」になっているのか。分担するしくみや仕掛けはつくられないのか、と。 やるべきことが、本当に、たくさんありますね。採用でプール(将来の採用候補者をためておく)を増やすことと、育成のしくみを整えること。それと、ブラックボックスになりやすい職場・働きかたを、見える化していきながら、エンゲージメントがど・低くならないように何とかマネジメントすることかな。……とは思いましたけど、そもそもの枠組みがすごく厳しいですね。1.顧客(利用者)開拓2.顧客(利用者)へのサービス提供3.従業員採用4.離職防止(育成)を管理者が全部やる。そしておそらく、管理者はプレイヤーのひとりとして訪問もやっているんですよね。 ─ はい、そのとおりです。管理者はマネージングプレイヤーの典型例といえると思います。 中原: これはかなりビジネス的に厳しい状況ですね。一つでも落とすと危うくて、二つ落とせば確実に詰む。 厳しいなかでも、まずはどういうところが最も深刻な障壁になっているのか。そこから解決の道が見えるかもしれませんね。「こうなると事業が回らなくなる、人が回らなくなる」の典型的なパターンがありそうに思えますが、落合さんどうですか。 訪問看護と病院看護とは根幹のルールが大きく異なっている 落合: 病院看護と訪問看護とでは、売上に対して看護師がどう貢献するかが完全に異なるんです。にもかかわらず、そのようにルールが変わっていることを、マネジャーが説明できているかというと、やや怪しい。 少し語弊があるかもしれませんが、病院での看護師は、おもに直接の売上を上げる職種ではない、いわゆる間接部門なんです。売上に直接関与できるのは医師であって、医師の働きで病院にお金が入り、看護師は医師の稼ぎを支えるという収益構造です。ですから病院だと、経営面でみれば、看護師は若いほうがいい。人件費が安いからです。 一方、訪問看護での収益構造では、看護師の働きがそのまま売上です。目的は治療ではなく療養であるところも違いますが、どうやって報酬を得るかの点でも、病院看護の延長線上には訪問看護はない。 大きくゲームチェンジが起こっているんですが、病院から訪問看護にやってきた人に、そんなルール変更の説明もせず(できず)、目の前のOJTだけに終止しているように見えます。それが失敗の原因なんではないかなと。 中原: なるほど、興味深いですね。病院看護をやってきて訪問看護に来る人が多いから、そのキャリア上の連続性と、仕事の連続性を同一視してしまうのが、つまずきの大元。その間には断絶があり、もう完全に違う仕事をやる覚悟を持てるぐらいのアンラーニング注1が必要だということですね。 注1:通用しなくなった知識や常識を捨てて、新たに学び直すこと 「訪問看護は未開の地」は、事実と一致しない神話である 落合: それに加えて、かなり誤解もあると思っています。 乾さんのはじめの言葉は間違いではなくて、訪問看護はひとりで訪問する。でも、病棟看護もひとりなんです。ベッドサイドに行くのはひとりで、何かあったら相談する。エマージェンシーが起こったら応援を呼ぶ。病院でも在宅でも、ベッドサイドにいるのはひとりであって、それは一緒なんですよ。 もっと言うと、在宅には家に帰っていい人か、家で亡くなる覚悟を持った人しかいないんです。なのになぜか、高度医療を24時間365日支えている大学病院の看護師は、新卒も多くて年齢は若い。家に帰っていい人か、家に帰ると覚悟を決めた人しかいない在宅看護は、新卒には務まらなくて40歳代のベテランじゃないと支えられないと思われている。これも結構な勘違いだと。 中原: うん、なるほど。 落合: 病院看護がすごく完成された場所で、訪問看護は未開の地のような、事実ではない価値観もあるなと思います。 中原: おそらく長い間かけて作られてきた「神話」みたいなものですね。そう伝えられてきて、多くの人が信じてしまっているけれど、今のリアルと必ずしも一致しない。そういったものは解除する必要がありますね。 >>次回「学び直しの機会を提供することが重要」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)全国訪問看護事業協会訪問看護ステーション数調査2)全国訪問看護事業協会.「訪問看護ステーションのサービス提供の在り方に関する調査研究事業」2004.3)「第13回8次医療計画等に関する検討会」資料2.厚生労働省,2022.https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000979702.pdf2022/12/15閲覧 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア
マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア
特集
2023年1月24日
2023年1月24日

マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者としての心構えをご紹介しつつ、ストレスとの向き合い方を考えていきます。 訪問看護ステーションで働く看護師は20~60代まで幅広い年齢層の方がいますが、特に多い世代は40~50代のようです。管理者の年齢層も40~50代が多く、非常勤で働く訪問看護師も同年代が多いようです1)。この年代に限っていうと、管理者か非常勤かの二極化と言ってもよいかもしれません。キャリアとしては訪問看護10年目前後から管理者になる人が出てきます。 スタッフはサラッと辞めてしまうと理解しておく 管理者はマネジメントが業務として含まれてくるので、看護技術とは別のスキルと心構えが必要になってきます。まず、マネジメントにおいて理解しておくとよいのは「スタッフは辞める」ということです。極端な表現かもしれませんが、ビックリするほどサラッと辞めます。 スタッフのマネジメントも管理者の重要な業務ですので、突然の退職は、当然想定しておく必要があります。 よくあるハラスメントと捉えられかねない事例ですが「長く続けるのが当然、途中でやめるのは問題」などと自身の人生観やキャリアを他人に押し付けることはよくありません。相手にも苦痛になりますし、自分と重ね合わせようとする考え方自体が柔軟な対応の邪魔になり、自分自身を悩ませ苦しめることになります。 スタッフを信頼しても過剰な期待はしない マンパワーは流動的で、いつ誰が急に休んだり辞めたりするかはわかりません。そのため経営する側としてはマンパワー的に少なくとも0.5人分程度の余剰人員で回すくらいの人員管理は必要でしょう。もしあなたが経営者でない管理者であって、経営者が余裕を持った人員配置を理解してくれない職場で働いているなら、その職場自体は今後改善の余地が非常に大きいと思われます。  管理者の苦労は管理者にならないとわかりません。管理者をめざそうとしている人であれば少しはわかってくれるかもしれませんが、そうでない人にとってはわかる必要のない世界なのです。管理者業務もステーション業務の1つなのだから理解しようとするのは当然ではないかとの意見もあるでしょう。でもそれは、あなたが管理者になるキャリアを歩んできた人だからそう思うのであって、他の人も同じ考えであるとは限りません。 主人公が海賊王をめざす某人気漫画を例示してよく言われるように、今の世代は、導くリーダーよりも一緒に戦う仲間を欲しているという感覚を知っておいてもよいでしょう。管理者のメンタルヘルスがテーマなのに、管理者にとって厳しい話をしているようですが、「スタッフを信頼するけれど非現実的な期待をしない」ことが上手に管理者を務めるための心構えです。思い通りにならないことが多いと非常にストレスを感じます。精神医学で言う認知(物事の受け止め方)を変える、つまりこの場合は思い通りにならないと理解することがストレス軽減につながります。 板挟みの孤独と強すぎる正義感 日常診療をしていると、訪問看護ステーションの管理者が受診されることはしばしばあります。管理者が抱える悩みは大体2つのパターンに分けられます。 最も多いのは、裁量権の小さい管理者で経営者と他のスタッフとの間に挟まれているパターンです。結果、自身が業務を背負ってしまい、過重労働に陥ってしまいます。管理者は自分自身がトップ、もしくはトップに近い立場であるため、相談先がほとんどありません。まじめで考え込んでしまう人ほど、一人で悩みを抱えこみがちになります。 割合は減りますが、もう1つは自分の正義感に振り回されるパターンです。「スタッフがよく辞めていく」「スタッフから怖いと言われる」「正しいことを伝えているのに相手がなぜか泣き出す」、このような経験がある場合、注意が必要です。「あなたのためを思っている」「患者さんのためを思っている」といった言葉とともに強い怒り、もしくは強い悲しみが湧き出てくるタイプの人が多いです。 このパターンの方は周囲に疲弊して受診をされるのですが、実は周囲もこの人に疲弊しているという負の連鎖が起こっています。正論を突き通そうとするあまり、バランスのよい最適解に妥協することができず、周囲とぶつかることが多いです。そして、自分の正論を押し付けて揉めに揉めた結果、スタッフへのパワーハラスメントになることがあります。この場合、本人も周囲が理解してくれず自分がしんどくなっていき、被害者のような感覚になります。さらに収拾がつかず、スタッフもあきれ果てて次々に辞職していくパターンを取ります。 仲間を作ってストレス発散 このように厳しい立場にある管理者ですが、行き詰まらないためにも取り組んでおきたいことがあります。それは仲間を作ることです。トップになれば自分と同列で話せる人は職場にはほとんどいないかもしれません。その場合、職場以外のコミュニティで仲間を作り、相談してみるのはいかがでしょう。業務上の役割や立場を意識せずに、悩みを話したりもできますし、人の話を聞くことで自分と他の人の違いを知ることもできます。暴走しているようであれば気づきを得ることも可能です。よいストレス発散にもなります。 通院してくる方に聞くとストレスの発散が苦手な人もいます。問題解決に目を向けすぎて、問題が消えていない状況で小休止を取るのはよくないことだと考えてしまい、上手に発散ができないのです。旧知の知人と疎遠になっているなら、習い事を始めて新しい仲間を作ってもいいですし、学会のような懇親会に参加するのもよいでしょう。医療分野に限らず、経営者勉強会の集まりもありますし、今はSNSのようにインターネットを利用していろいろな人とつながることもできます。職場の行き来だけになっている人は、人と会うことを考えてみてはいかがでしょうか。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本看護協.「2014 年 訪問看護実態調査 報告書」,https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/report/2015/homonjittai.pdf 2022/10/25閲覧

その「偶然」は「偶然」ではない
その「偶然」は「偶然」ではない
コラム
2023年1月24日
2023年1月24日

その「偶然」は「偶然」ではない

スタッフマネジメントに役立つコミュニケーションの話題を、訪問看護管理者のみなさまへお届けしてきました。最終回は、看護師としてのあなたのキャリアを考えるときに思い出してほしい、「計画された偶然」に関するお話です。 計画された「偶然」 世の中で成功を収めたとされる人たちに「そのような成功に至るまでにどのように計画を立て、どのような努力を重ねたのですか」と質問してみると、意外や意外、8割が「いや、計画したというより偶然こうなったのです」と答えるといいます。「そんなバカな」と思うかもしれません。しかし、これはきちんと研究された理論なのです。 心理学者のジョン・D・クランボルツは、ある調査の結果、18歳のときに考えていた職業に就いている人は全体の2%にすぎない、というのです。慎重に立てた計画よりも、想定外や偶然の出来事が人生やキャリアに影響を与えているのではないか。クランボルツはこれを「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」と名付けました。 キャリアというと、「しっかりと目標を立ててそれに向かって一つひとつ努力を重ねるもの」だと一般的に思われています。しかし、今の世の中はVUCA(不確実、不安定、複雑、曖昧)の時代といわれています。いくら緻密に計画を立てても、予測不能の変化や技術の進歩、気候変動、グローバルな出来事で思うとおりにいかず、個人の意思でコントロールできることはほとんどありません。 個人のキャリアも、最初に立てた計画に固執してはかえって変化に対応しそこなう。そうではなく、大きな方向性は決めておきながらも、人生の瞬間・瞬間で判断をして行動をすることで、チャンスを生かすことができる。それがこの理論の考えかたです。 偶然の出来事が人生を変える 私は仕事上、いろんな看護師さんのキャリアに出会います。 看護師になる人は、専門学校や大学に進学する時点で「看護師になろう」と決めていることが多いです。ところが看護師になってから、思ってもいなかった道に進む人がいます。 たとえば、看護師の臨床経験をもとに、新たなテクノロジーを医療現場に適した形に応用する会社をつくった人。訪問看護師をやりながら、訪問看護ステーションの経営コンサルタントをしている人。昔から漫画を描くのが得意で、看護師になってから医療のことをわかりやすくイラストで描いているうちにイラストレーターになった人。ファッションが大好きで看護師になってからもファッションモデルをやっていたら、いつの間にかファッションプロデューサーになっていた人……など。 もちろん、みなさん看護師ですから、看護学校や看護大学を卒業して国家試験を受けて合格しているところまでは共通したキャリアです。看護師になってからの偶然の出来事が、それぞれの人生を変えています。 技術会社の社長になった人は、大学生のときに医療ミスが原因で病状が悪化した患者さんと出会い、ナースになってから「あの人の命をテクノロジーで救えなかっただろうか」と思い、働きながら勉強を始めました。イラストレーターになった人は、仕事中の出来事を院内勉強会でイラスト資料にしたら大好評となり、出版社にそのイラストを持ち込んだのがきっかけで思いがけない道が広がりました。 偶然をキャリアのきっかけにできる人 こうしてみるとすごく行動力のある看護師さんのようですが、ご本人たちは「いたってふつうのナースです」と言います。しかし、このような人には共通点があります。 ・好奇心が強い。自分のやりたいことに正直。・あきらめない。失敗してもまたチャレンジする。・楽観的。きっとうまくいくと信じている。・こだわらない。「ぜったいにこうあるべき」と思わず、状況に応じて柔軟に対応する。・冒険的。新しい世界に飛び込むことをいとわない。 目の前の出来事にこうした態度で取り組んでいると、もともと自分が望んでいた方向に知らないうちに進んでいるというのです。なので「偶然」が「必然」となって自分のキャリアをつくっていくことになります。 「偶然」の受け止めかたは人それぞれです。ある人にとっては失敗体験になる同じ出来事が、ある人にとっては大きなヒントになり、何かのスタートのきっかけになるかもしれません。 偶然の出会いは必然かもしれない 人との出会いも同じです。偶然出会った人が、あなたの人生に大きな意味をもたらします。出会おうとしても出会えない。しかし、出会ってしまうと「このタイミングで出会ったことは奇跡としか思えない!」と思ってしまうこと、ありませんか。 人間関係はさまざまな出会いによって生まれ、コミュニケーションによって育まれます。「一期一会」という言葉があります。一生に一度だけの機会だと思って真摯に取り組むという意味です。上司、同僚、部下、患者さん、利用者さん……。いろんな出会いは、あなたに何かを教えてくれ、何かの転機になってくれる、一つひとつが大切なものなのです。 この2年間の世界では、以前は想像もできなかったコロナ禍で、予測不能な出来事がたくさん起こりました。しかし、この偶然もあなたにとっての「必然」かもしれません。この変化をどう生かしていくかはあなたしだいです。 12回にわたりコミュニケーションをテーマにいろいろな話を書かせていただきました。これもまたみなさまにとって何かの「必然」となりますことを願っています。ありがとうございました。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇白石弓夏.『Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう』大阪,メディカ出版,2020,192p.〇J.D.クランボルツ,A.S.レヴィン著.花田光世ほか訳.『その幸運は偶然ではないんです!』東京,ダイヤモンド社,2005,232p.

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
特集
2023年1月17日
2023年1月17日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その1:なぜ連携しにくいのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第7回は、連携がしにくいと評判のドクターについて、なぜ連携がしづらいのかについて多角的に考えます。 はじめに 「ドクターをどう動かせばいいのか」という悩みは、看護管理者の方からよく聞くテーマです。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか   「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?   設問 あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 連携しにくいと評判の医師について 講師このケースで議論したいことは、「管理者として連携しにくいドクターをどのように動かすか」です。その前にまず、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、そのK医師に関係する周囲の人々の状況について、皆さんはどのように考えますか? Aさん注2K医師はふだんは大学病院で働いていますし、在宅医療の経験があまりないので、訪問看護の状況をよくわかっていないと思います。こういうことってよくあるのではないでしょうか。 Bさんすごく対応のよい医師とそうでない医師の差が大きいですよね。もともとの性格などもあるかもしれませんが、医師の経験や価値観が、在宅医療へのかかわりに影響していそうだと個人的には思っています。ここは訪問看護としてはどうしようもないですが。 Cさん医師はどうしても治療に目が行きがちなのかもしれません。特に、病院勤務で、在宅の経験があまりないとその傾向が強い気がします。でも訪問看護の目的は、在宅生活の維持・向上です。私の経験上、ここが一致しないためになかなか話が進まないことがよくありました。 DさんK医師は、利用者の状況を、診察時点の「点」でしかみていないのではないかと思います。利用者やご家族のなかには、「医師に生活全体の状況や困っていることを率直に伝えられない」という人もいらっしゃいます。 「連携しにくいと評判の医師について」の小括 最初の議論は、「連携しにくいと評判のK医師の特徴やそのK医師に関係する周囲の人々の状況について」、それぞれの考えを出しあいました。 これらの発言は、①個人の特徴 ②多職種連携の際に生じる問題、の大きく二つに分類できます。 ①K医師の特徴・本業は病院の医師であり、かつ在宅医療の経験があまりない。・在宅医療への理解が不足しており、自己の価値観を優先している。②多職種連携の際に生じる問題・K医師は治療を、訪問看護は在宅生活の維持・向上を目指しており、目標が一致していない。・医師の立場では、看護師に比べて、利用者の細かな生活状況がわかりにくい。 発言をこのように分類してみると、管理者として働き掛けることができる部分は、②多職種連携の際に生じる問題であることが、参加者のみなさんには見えてきたようです。 次回は、「なぜ連携がうまくいかないのか」について、この二つの面から考えていきます。 >>次回「その2:なぜ連携がうまくいかないのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

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