管理栄養士のアドバイス

特集
2022年8月2日
2022年8月2日

【管理栄養士のアドバイスvol.10】リハビリを行う高齢者に必要な栄養

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。最終回は、高齢者がリハビリを行う際に気をつけたい栄養のポイントを紹介します。 はじめに 皆さんは「リハビリテーション栄養」(以下、リハ栄養)という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 特に回復期リハ病棟など、これまでは機能回復のためにリハビリだけを一生懸命行うケースがありましたが、十分なエネルギーやたんぱく質を摂取しないで運動だけ頑張ると、体重や筋肉量が落ちてしまいます。一方、体重を増やそうと栄養管理だけ頑張って運動をしないと、筋肉ではなく脂肪が増えて、体重は増えても運動しにくい体になってしまいます。 リハ栄養とは、リハビリと栄養管理、両者の視点を持って同時に取り組むことを指し、特に高齢期にも重要な考えかたです。 リハビリによるエネルギー消費量 リハビリを行えば、その運動によりエネルギーの消費量が増します。筋肉をつけようとしてリハビリを頑張ったとしても、必要な栄養量が充足していなければ、運動で消費した分だけやせてしまう悪循環が起こってしまいます。 具体的にどのくらいのエネルギーを消費するのかは、リハビリの強度と時間によります。以下の計算式で算出できます。 計算方法 エネルギー消費量(kcal)= 体重(㎏) × メッツ注 × 時間(h) 注 メッツとは、身体活動の強度の指標で、安静時の何倍のエネルギーを消費するかを示します。 たとえば、体重50㎏の方が一日に3メッツ程度の運動を1時間行う場合、身体活動によるエネルギー消費量は50×3×1=150kcalです。よって、日常生活に必要なエネルギー消費量に、リハビリ消費分として150kcalを付加する必要があるということになります。 リハビリテーション栄養で重要な栄養素 リハ栄養においては、リハビリと栄養管理によって機能回復を目指しますが、栄養管理で重要なのはエネルギー消費量だけではありません。筋肉の合成にはたんぱく質が重要であり、たんぱく質も十分に摂取する必要があるのです。 食物として摂取したたんぱく質は、体内でアミノ酸まで分解され、再びたんぱく質に合成されます。アミノ酸は、体内で合成可能な「非必須アミノ酸」と、体内で合成できず外から摂取する必要のある「必須アミノ酸」の2種類に分けることでき、必須アミノ酸のなかでも、バリン、ロイシン、イソロイシンはBCAAと呼ばれて骨格筋の維持・増加に重要な役割をしています。 どのように摂取するか サルコペニア予防の栄養 加齢による筋肉量の減少および筋力の低下をサルコペニアと呼びます。サルコペニアの予防には、体重あたり1.0~1.2g/日のたんぱく質摂取が推奨されています。50㎏の方であれば、50~60gを一日に摂取するようにしましょう。 お肉やお魚であれば、手のひらにのるくらいの大きさに、たんぱく質がおおよそ10~20g程度含まれています。一日3回の食事の際に、手のひらにのる程度のたんぱく源をとることをイメージしましょう(お役立ちツールの「たんぱく質が多く含まれる食品」を参照)。 筋肉量を増加させたい場合の栄養 筋肉量の増加を目的とする場合は、レジスタンストレーニング直後にBCAA2g(たんぱく質10g)以上を糖質と一緒に摂取することがすすめられており、手軽に摂取できる補助食品を利用することも選択肢の一つです。 アミノ酸やBCAAを強化した補助食品はこのようなものがあります。 おわりに サルコペニアになると歩く・立つなど日常的な生活機能に影響が出ますし、転倒・骨折などのリスクにもなりえます。また、サルコペニアによる筋力低下は身体機能の低下につながり、食事量の低下から低栄養とフレイルにつながることもわかっています。 このようなフレイルサイクルを予防するためには、筋力を維持することが重要です。そして、筋力維持のためのリハビリテーションには、必要な栄養をしっかりととることが重要です。 訪問看護師のみなさんも、このリハビリテーション栄養の考えかたを、利用者・患者さんへのかかわりに生かしてもらえればと思います。 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:味の素株式会社     株式会社クリニコ 【参考】〇若林秀隆.『イラストで学ぶ高齢者リハビリテーション栄養』東京,講談社,2019,146p.〇若林秀隆ほか.『リハ栄養からアプローチするサルコペニアバイブル』東京,日本医事新報社,2018,226p.

特集
2022年7月19日
2022年7月19日

【管理栄養士のアドバイスvol.9】高齢期の糖尿病管理

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第9回は、高齢期糖尿病管理の注意点と実際を紹介します。 最近歩けなくなってしまったんです…… あるとき、私のもとにこんな相談がやってきました。相談者は、80歳代のお母さまを介護する息子さんです。お母さまは、元気だったころから糖尿病を患っていました。要介護状態となり自分で食事の準備ができなくなった今は、息子さんが食事の管理をされています。 「最近歩けなくなってしまったんです」。相談内容は、お母さまの体力が落ちて、歩くのが困難になってしまったということでした。 「主治医の先生には、『糖尿病の数値は落ち着いていて、食事の管理がしっかりできている』ってほめられます。でも体力が落ちてきてしまって、どうしたら母は元気になるんでしょうか? 糖尿病だから好きなものを何でも食べさせるわけにはいかないし」 糖尿病だからたくさん食べてはいけない、でも体力をつけるためには栄養をとらなければいけない。こんなジレンマに悩まされていたのです。 これが、高齢期の糖尿病管理の難しさです。壮年期に行っていた厳しいエネルギー管理を継続することは、ときに、低栄養やサルコペニアの引き金になってしまう可能性があるのです。 高齢期糖尿病の管理方針 日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」1)には、高齢者の糖尿病について以下のように記載されています。 ・高齢者の低血糖は、自律神経症状である発汗、動悸、手のふるえなどの症状が減弱し、無自覚低血糖や重症低血糖を起こしやすい。低血糖の悪影響が出やすい。 ・厳格な血糖コントロールよりも、安全性を重視した適切な血糖コントロールを行う必要がある。 ・高齢者糖尿病の血糖コントロール目標は、(中略)「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を参考にして、さらに心理状態、QOL、社会・経済状況、患者や家族の希望などを考慮しながら、個々の患者ごとに個別に設定する。 ガイドラインの記載からもわかるように、高齢期の糖尿病管理は血糖値やHb1Acの推移だけをみていてはいけなのです。周辺情報を確認しながら、ときには、厳しい食事制限を緩和し適切に「食べる」サポートをすることも重要です。 実際の指導 私が行った実際の指導方針は以下のとおりです。 コントロール目標の緩和 真面目な息子さんは、お母さまの病状が悪化しないように、HbA1c6.0%未満を維持するように食事管理をしていました。 そこで、・高齢期の血糖コントロールについては、生活機能を維持するという視点から目標を緩和して構わないこと・今は、糖尿病の病態だけでなく、生活機能をどう維持するかを考えなければならない時期であることをお伝えしました。 お母さまは、重症低血糖が危惧される薬剤の使用はなく、基本的ADL低下の状態であり、主治医と相談し、コントロール目標をHbA1c8.0%未満注1と設定しました。 注1「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」で、重症低血糖が危惧される薬剤の使用なし・基本的ADL低下の状態の高齢者では、目標値は8.0%未満とされている2、3) 具体的な食事のとりかた 糖尿病のコントロール目標を明確化したうえで、改めて食事のとりかた(お役立ちツールの「糖尿病食事管理のコツ」を参照)を指導しました。 ・ 食事全体の量:糖尿病の病態や年齢、ADLによって適正量が変わるので、主治医の先生や管理栄養士に確認しましょう。・ バランス良く:主食・主菜・副食を揃えて、バランス良く栄養をとりましょう。・ 食べる順番:野菜から先に食べることで血糖値の急な上昇を抑えることができます。 このような指導を行い、食欲の維持、また不足していたビタミンの摂取を目的として、それまで控えてきた果物の提供を再開することとなりました。 血糖測定時間の改善 息子さんがお母さまの血糖測定をご自宅で行っており、測定値がカレンダーに記載されていました。その血糖値ですが、食べている量やHbA1cを考慮するとどうも高いのです。 不思議に思って詳しく聞くと、食後2時間の血糖を測定するつもりが、食事開始から2時間後の血糖を測っていることが判明。そして、このお母さまは食事に約1時間かかっていたので、すなわち食後1時間の時点で血糖を測っていたのです。 食後1時間ではまた血糖が下がりきっていないので、測定値が高く出ていたというわけです。息子さんに、食事が終わってから2時間後に測定することを指導し、その後は正確な測定値の推移を知ることができました。 おわりに このように高齢者の糖尿病管理は、その方の生活や暮らし、ADLなど、多角的に判断をしながら食事療法を行う必要があります。皆さんの周りの糖尿病の方はどのような管理を行っているでしょうか? コントロールに苦慮する場合は、ぜひ訪問の管理栄養士に介入を依頼することも検討してみてください。 ー第10回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)日本糖尿病学会.『糖尿病診療ガイドライン2019』東京,南江堂,2019,319-28.2)日本老年医学会・日本糖尿病学会.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』東京,南江堂,2017,46.3)日本糖尿病学会.『高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について』http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=66 2022/06/22閲覧4)後藤昌義ほか.『新しい臨床栄養学』改訂第4版.東京,南江堂,2005,305p.

特集
2022年7月5日
2022年7月5日

【管理栄養士のアドバイスvol.8】塩分制限が必要な方への食事

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第8回は、心疾患や高血圧など、塩分制限が必要な人への食事の工夫を紹介します。 はじめに 日本人の死亡原因1)は、1位の悪性新生物(がん)に続き、2位は心疾患です。 心疾患のなかでも特に、虚血性心疾患が約4割と多くを占めています。虚血性心疾患は、冠動脈の動脈硬化により心筋血流の減少や途絶を生じる疾患であり、基礎疾患や生活習慣の影響を受けることがわかっています。日本循環器学会「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)」2)には危険因子として以下の内容が記載されています。 虚血性心疾患に関連する危険因子(虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)) ・加齢・虚血性心疾患の家族歴・喫煙習慣・脂質異常症・高血圧・肥満・糖尿病あるいは境界型・メタボリックシンドローム・慢性腎臓病・精神的・肉体的ストレス これらをみると、虚血性心疾患の予防には、栄養バランス良く健康的な食生活が重要であることがわかります。 今回はこのなかでも高血圧に注目して、予防のために必要な簡単減塩ポイントをお伝えします。 塩分はどのくらい控えればよい? 「高血圧治療ガイドライン2019」3)によると、高血圧患者における減塩目標は6g/日未満としています。 一方で、「高齢者高血圧予防診療ガイドライン2017」4)では、 「味覚の低下がある高齢者の食事の味つけが減塩により極端に変化すると、食事摂取量の低下から低栄養をきたすことがあるため、全身状態の管理に留意が必要。6g/日未満を目標とするが、味覚や摂取量、栄養状態などを個別に判断し、過度の減塩にならないよう個別に減塩の指導をする。」 と記載されています。すなわち、高齢者においても減塩は行うべきだが、減塩により食事摂取量が低下しないように、全身的な観察が大事ということです。 簡単食生活チェック まずは、塩分摂取量が多くなりがちな食生活をしていないか、国立循環病研究センターの「かるしおチェック」5)で簡単に確認してみましょう。 □ みそ汁やスープを1日2回は飲む。または、ごはんにみそ汁は欠かせない。□ ちくわやかまぼこなどの練り製品、ハム、ウインナーなどの加工品が好き。□ ごはんの友(梅干しや佃煮、つけものなど)が好きで、常備している。□ 外食することが多い。または、外食が好き。□ ごはんよりおかずのほうが、食べる量が多い。□ 市販のおそうざいやインスタント食品を、よく利用する。□ うどん、そば、ラーメンなどめん類のスープは半分以上は飲む。□ すしやどんぶりものが大好き。□ 魚の干物や、明太子などの塩蔵品、よく利用する。□ おせんべいやスナック菓子をよく食べる。 一つでもチェックが付いたら、塩分のとりすぎにつながる食習慣があるということです。日常的に塩分摂取量が過剰であるという可能性がありますので、どんな食事を召し上がっているのか確認して、必要であれば減塩についてのアドバイスを行いましょう。 減塩の簡単ポイント 高血圧や心疾患予防のために減塩をしなくちゃ!と意気込んで塩分を控えるあまり、食事が味気なくなってしまうことがあります。いくら健康のためといっても、おいしくない料理を毎日食べることは苦痛ですし、それによって減塩対応を諦めてしまうこともあります。 無理なく毎日続けられるように、おいしく減塩するコツを覚えておきましょう。 ①酸味を利用しようお酢やかんきつ類などの酸味を活用すると、味にメリハリがつきます。 ②香辛料や香味野菜を使おうスパイスやハーブ、またニンニクやシソなど香味野菜を使うと、塩分控えめでも味にアクセントがつき、香りによって食欲増進効果も期待できます! ③汁物はだしを利かせて具材をたっぷりにだしの旨味で減塩効果、また具だくさんにすると相対的に汁の量が少なくなるので、おいしく減塩できます。 ④献立にはメリハリをすべての料理を薄味にすると、物足りなくて毎日続きません。どれか一品はしっかりと味つけをすることで、食事の満足感が上がります。 ⑤漬物や練り物を避ける漬物や練り物などの加工食品は食塩を多く含んでいるので、注意しましょう。 ⑥減塩調味料を使用減塩醤油や、減塩みそを使うと、手間をかけず、簡単に減塩をすることができます。 ⑦食べるものの表面に味をつけよう食べるときに舌に当たる部分に塩味がついていると、おいしさを感じます。下味は控えめにして、食材の表面に味をつけるようにしましょう。 ⑧汁物の汁は残そう特に麺類の汁は塩分が多く含まれていますので、なるべく汁は残すようにしましょう。 高齢者の減塩は要注意! 前述したように、高齢者における減塩対応は、食欲や食事摂取量を観察しながら進めることが大切です。 減塩にしたことでおいしさを感じずに食事量が激減して、低栄養につながることがありますし、一見して塩分過剰に見える食事でも、摂取できている総量が少ないために実際の摂取量は適正量である場合もあります。 また、長年の食習慣はなかなか変えることが難しいので、改善に苦慮する場合は訪問管理栄養士に介入を依頼することも、対策の一つとしてぜひ覚えておいてください。 当記事に掲載している「おいしく続ける減塩のコツ」について記載した資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 ー第9回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)厚生労働省.『令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況』2021.2)日本循環器学会ほか.『虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)』https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2012_shimamoto_h.pdf 2022/05/09閲覧3)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会.『高血圧治療ガイドライン2019』2019,282p.4)日本老年医学会.『高齢者高血圧予防診療ガイドライン2017』2017,63p.5)国立循環病研究センター.『減塩食について』https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/diet/low-salt/ 2022/05/09閲覧

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2022年6月21日
2022年6月21日

【管理栄養士のアドバイスvol.7】高齢者の下痢と食事

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。前回は高齢者の便秘について学びましたが、今回は「下痢」についてです。 下痢への対応 皆さんご存じのように、「下痢」とは、水分を多く含む、かたちのない糞便を排泄することです。前回のダウンロード資料でも取り上げたブリストルスケール1)で、便性状のアセスメントが可能です。 下痢をすると、食欲不振や脱水、また腸管での栄養吸収不良により、低栄養につながる可能性もあります。 今回は、管理栄養士の視点での原因や対策の方法をお知らせしますが、下痢の原因は消化器疾患によるものや薬剤によるものなど人それぞれですので、多職種連携をして原因究明と対策に取り組みましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 1食中毒 夏場に向けて特に注意が必要な食中毒ですが、予防で大事なことは、細菌やウイルスを「付けない」「増やさない」「やっつける」です。 生のお肉などは食中毒の原因菌が多ので、生食をする野菜、または生食食品に触れる包丁やお皿に「付けない」ように、生のお肉の取り扱いには注意が必要です。 暖かい室内は、細菌にとっては居心地の良い環境です。細菌を「増やさない」ために、料理は常温放置しないようにしましょう。 最後は「やっつける」です。食中毒の原因になる病原体は、高温で加熱することで死滅します。しっかりと中心まで熱が通るように加熱しましょう。中心部がまだ赤いようなお肉は、加熱が十分でなく、食中毒のリスクが高いです。 高齢者では、腸管が弱くなっていて、少しの病原体に感染するだけで重症化することもありえるので、特に注意が必要です。 チェックポイント! 在宅療養者さんの台所を覗いてみましょう。出来上がった料理が常温に置かれている場合は、冷蔵庫に入れるように伝えましょう。定期的に介入するヘルパーさんがいれば、情報提供して、衛生管理に協力してもらいましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 2牛乳や乳製品 高齢者だけではありませんが、牛乳や乳製品を飲むとお腹を下してしまう方がいます。これは乳糖不耐症で、小腸粘膜上皮の乳糖分解酵素「ラクターゼ」が欠如しており乳糖が分解されないことで起こります。 牛乳や乳製品だけでなく、経腸栄養剤や栄養補助食品には乳糖が含まれていることが多いので、下痢をする場合は成分を確認してみましょう。 乳糖不耐症の場合は牛乳や乳製品を避けることが解決策ですが、経腸栄養剤には乳糖不使用の製品が少ないので、どうしても乳糖含有の栄養剤を使用しなければならない場合は、乳糖分解酵素の処方を主治医の先生と相談してみてくださいね。 チェックポイント! 乳糖不耐症が疑われる場合は、本人や家族に「若い頃に牛乳を飲む習慣があったか」「乳製品でお腹を壊す事があったか」を聞いてみましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 3経腸栄養剤の使用 経腸栄養剤や栄養補助食品の使用により下痢をしてしまう場合、前述のように、まずは乳糖不耐症を疑います。 そうではない場合は、高浸透圧性の下痢の可能性があります。胃瘻や経鼻経管栄養の投与速度が高いと下痢をすることはよく聞きますが、経口摂取の場合も同様の症状が出る場合があります。 浸透圧の高い経腸栄養剤を摂取すると、小腸上皮の毛細血管から腸管腔内に水分が移動して腸粘膜で水分の再吸収が起こります。それにより、腸蠕動が亢進し下痢が生じるのです。 そのため、特に浸透圧の高い経腸栄養剤の場合は少量ずつ時間をかけて飲んだり、紅茶やコーヒーなどで薄めて飲む、または浸透圧の低い製品に変更をすることをおすすめします。 チェックポイント! 経腸栄養剤による下痢が疑われる場合は、何をどのくらいの速度で摂取(注入)しているのかを確認しましょう。 経口摂取の場合は、「一日のうちで数回に分けて飲んでくださいね」とお伝えすることも、対策の一つです。 下痢をしているときの対応 下痢による弊害の一つに脱水があります。下痢により、体内の水分が排出されてしまうため、水分や電解質が不足してしまう状態です。 そのため、水分吸収が速やかに行われる適度な浸透圧である経口補水液がすすめられています。経口補水液では、ナトリウムやカリウムなどの電解質も補えます。 薬局で購入できる経口補水液としては、OS-1(大塚製薬工場)やアクアソリタ(味の素)、明治アクアサポート(明治)などがあります。 急な下痢症状で家に経口補水液がない場合は、手作りできる簡単なレシピ(ダウンロード資料)がありますので、参考にしてみてください。 おわりに 下痢の症状や原因はさまざまであり、適切なアセスメントが重要です。今回挙げた、食品が由来する下痢のほかにも、消化器疾患によるものや難治性の病状もあります。 放置すると低栄養や皮膚トラブルにもつながることもあり、早期対応が重要な一方で、排泄というデリケートな問題のため悩みを打ち明けてくださらない人もおり、排泄にかかわる問題の表出は氷山の一角であるともいわれています。 特に、療養者とのかかわりが深く医療的知識の豊富な訪問看護師が、気づくことがとても重要です。ぜひ、この機会に担当利用者様の排泄状況にも目を向けてみましょう。 ー第8回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)Lewis,SJ.et al.Stool form scale as a useful guide to intestinal transit time.Scand.J.Gastroenterol.32(9),1997,920-4.2)医療情報科学研究所.『病気がみえるVol.1消化器』第6版.東京,メディックメディア,2020.3)谷口英喜.「経口補水療法」『日本生気象学会雑誌』52(4),2015,151-64. 記事協力株式会社大塚製薬工場味の素株式会社株式会社明治

特集
2022年6月7日
2022年6月7日

【管理栄養士のアドバイスvol.6】便秘を予防する食事

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第6回は、便秘を改善したいときの食事の工夫を紹介します。 はじめに 高齢者は、日々の運動量の低下や、食事の変化による食物繊維摂取量の減少、また腸内環境の変化により便秘を引き起こしやすいといわれています。今回は、便秘を改善する食品をいくつかご紹介いたします。 腸を元気にしよう 腸内フローラ 私たちの腸の中には、たくさんの細菌が生息しています。その数は約1,000種類ともいわれています。顕微鏡で腸を覗いたときに、まさにお花畑のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。 この腸内フローラは、▷善玉菌 ▷悪玉菌 ▷日和見菌 ── の三種類に大きく分けられます。 健康な腸内では、体に良い働きをするビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が多いのですが、悪玉菌が優勢になると、悪玉菌が作り出す有害物質の影響により、便秘や下痢などお腹の不調を引き起こします。 日和見菌は、善玉菌と悪玉菌のうち、優勢な菌と同じ働きをします。すなわち、悪玉菌が優勢の環境下では、日和見菌が悪玉菌と同様の働きをし、さらに腸内環境が悪化してしまうのです。 さて、善玉菌の代表格であるビフィズス菌は、加齢変化とともに菌数が減少することがわかっています1)。高齢期に腸内環境が悪化しやすいのは、このような要因もあるといわれています。 プロバイオティクス 加齢により減ってしまう腸内の善玉菌を経口摂取することで、善玉菌の数自体を増やそう! このプロバイオティクスの代表的なものは、乳酸菌やビフィズス菌です。なんと、これらの細菌は、消化酵素によって死んでしまうことがなく、生きたまま腸に到達し、腸管内で増殖が可能なのです。 プロバイオティクスは、「腸内フローラのバランスを改善することによって、宿主の健康に好影響を与える生きた微生物」2)と定義されています。 プレバイオティクス 善玉菌のエサとなる食品を摂取する事により、善玉菌を元気にして腸内環境を改善しよう! プレバイオティクスの主な種類は、オリゴ糖や食物繊維などです。オリゴ糖にはビフィズス菌の増殖作用があり、食物繊維には腸内細菌の活性化作用があります。 プレバイオティクスは、「大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し、宿主の健康を増進する難消化性食品」3)と定義されています。 シンバイオティクス プロバイオティクスとプレバイオティクス。この二つを組み合わせることで、さらなる相乗効果を目指すものが、シンバイオティクスです。すなわち、「善玉菌を腸に届けて、さらに善玉菌を元気に育てよう」ということです。 簡単に応用できる料理例はこちらです。 シンバイオティクス     プロバイオティクス     プレバイオティクス バナナヨーグルトヨーグルト(ビフィズス菌)バナナ(オリゴ糖)はちみつ(オリゴ糖)タマネギのみそ汁味噌(乳酸菌)ワカメ(水溶性食物繊維) タマネギ(水溶性食物繊維)ネバネバ納豆納豆(納豆菌)オクラ(水溶性食物繊維) メカブ(水溶性食物繊維)野菜たっぷり豚キムチ炒めキムチ(乳酸菌)キャベツ(オリゴ糖) シイタケ(水溶性食物繊維) 良い便をつくろう 腸が元気でも、便の原料が不足していると便秘になってしまいます。便は、水分が約70%です。残りは食べ物のカス、腸粘膜、腸内細菌の死骸によって構成されています。この食べ物のカスはすなわち、食物繊維です。食物繊維をしっかりととって、良い便をつくりましょう。 食物繊維は水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維の、ニ種類に大別されます。 水溶性食物繊維 水溶性食物繊維には、水分を保持してゲル状になり、便をやわらかくする働きがあります。 水溶性食物繊維を多く含む食べ物は、バナナなどの果物や、オクラやなめこ、山芋などのネバネバ食材、ワカメやメカブなどの海藻類です。 過剰に摂取すると、便がやわらかくなりすぎることや、下痢を引き起こすことがあります。サプリメントなどを使用する場合は、排便状況をみながら少しずつ量を増やしましょう。 不溶性食物繊維 一方で、不溶性食物繊維は、便の量を増やし、腸の蠕動運動を刺激して排便を促す働きがあります。 ゴボウやレンコンなど繊維が固い野菜や、キノコ類、黄粉や大豆などの豆類にも、不溶性食物繊維が多く含まれています。 不溶性食物繊維も、過剰に摂取すると便が固くなりすぎて、逆に便秘を引き起こすこともあります。サプリメントなどの使用は注意が必要です。 おわりに 高齢者には便秘の悩みはつきものですが、原因も体の状態にも個人差があるため、「これを食べたらみんな良くなる!」という万能食材はなかなかありません。だからこそ、ひとつずつ試してみて、変化を観察しながら気長に取り組んでいくことが重要です。 排便状態の変化に気づくためには、排便日記をつけてもらうこともよいですね。ぜひ、活用してみてください。 排便状態の把握に役立てられる「排便日誌」を【お役立ちツール】に掲載しておりますので日頃のケアにお役立てください。 ー第7回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)光岡知足.『腸内菌叢研究の歩み』腸内細菌学雑誌.25,2011,113-24.2)Fuller,R.『Probiotics in man and animals』J.Appl.Bacteriol. 66(5),1989,365-78.3)Gibson,GR.et al. 『Dietary modulation of the human colonic microbiota:introducing the concept of prebiotics』J.Nutr.125,1995,1401-12.4)清水健太郎ほか.『プロバイオティクス・プロバイオティクス』日本静脈経腸栄養学会雑誌.31(3),2016,797-802.5)福村智恵.『便秘と食習慣』厚生労働省e-ヘルスケアネット.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-010.html 2022年4月15日閲覧

特集
2022年5月24日
2022年5月24日

【管理栄養士のアドバイスvol.5】栄養補助食品の選びかた

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第5回は、栄養補助食品の活用法を紹介します。 はじめに 前回は、低栄養のスクリーニング方法と、手軽にできる低栄養予防策をお伝えしました。今回は、栄養補助食品を活用した低栄養対策を、より詳しく考えていきたいと思います。 料理へのちょい足し 出来上がった料理に少し工夫ができるようでしたら、ちょい足しがおすすめです! オイルでエネルギー補給 食が細くエネルギー量が大幅に不足している場合は、油脂を活用すると、効率的にエネルギー補給を行えます。脂質は1gあたりのエネルギー量が約9kcalです。糖質やタンパク質は1gあたり約4kcalですから、それらと比べて少量高カロリーです。 卓上にMCT(中鎖脂肪酸)オイルやオリーブオイルの小瓶を置いて、おかずや味噌汁に少量垂らすだけで、食事の量を増やすことなくエネルギー補給が可能です。 タンパク質強化の補助食品 筋肉量が減少傾向であったり、タンパク質も不足している場合には、既製品のタンパクパウダーや、エネルギーとタンパク質を一度に強化できる補助食品がおすすめです。味噌汁や飲み物に溶かしたり、ご飯や粥に混ぜたりして、摂取してもらいます。 補助食品を活用しよう! 一人暮らしで食事管理が自分では難しい人などは、既製品の栄養補助食品を活用するのもよい方法です。栄養補助食品にはたくさんの種類がありますので、嗜好や嚥下状態に合わせて選定しましょう。 嚥下状態に合わせた形状を 栄養補助食品でいちばん一般的なのは、ドリンクタイプでしょうか。紙パックにストローが付いていてそのまま飲める補助食品は、最近ではドラックストアでも販売されています。 1.6kcal/mLの商品が多いですが、さらに少量高カロリータイプ2.0kcal/mLの商品もあり、100mLでご飯1杯分(200kcal)の強化が可能です。 ドリンクタイプの栄養補助食品は手軽に購入できる一方で、流動性が高いため、嚥下障害がある人には誤嚥のリスクがあります。水分にとろみをつけなければならない人であれば、半固形タイプやヨーグルト状の栄養補助食品を選びましょう。 甘いものが苦手なら…… 「栄養補助食品は甘くて苦手」という人もいます。最近は、甘くない栄養補助食品もありますので、嗜好に合った種類を探してみましょう。 佃煮のようにご飯にのせる高栄養ソースや、おかずの一品にもなる茶碗蒸しや胡麻豆腐風味の補助食品もあります。 ミキサー食は栄養価が減ってしまう? ミキサー食やソフト食の人は、もしかしたら食事自体の栄養価が下がってしまっているかもしれません。 ミキサー食は、食材をミキサーにかけて滑らかに加工していますが、水分量が少ない食材は滑らかになりにくいので、だし汁や水を加えてミキサーにかけます。その結果として、完成品では、重量あたりの栄養価が半減してしまうことになります。 不足したエネルギー量を補助食品で補おうとすると、全体量が増えてしまうので、ミキサー食自体の栄養価を上げる工夫をしましょう。 加水量はなるべく少なく! 水分を加えるときには、なるべく少量から、仕上がりの状態をみながら少しずつ水分を増やしましょう。 水分を加える代わりに粥ゼリーを活用する 水やだしの代わりに、粥ゼリー(お粥用のゲル化剤でゼリー状に固めたお粥、第3回参照)を入れる方法もあります。粥ゼリーを使うことで、水分に比べて栄養価は上がりますし、食事として一緒に食べるものなので、味の変化も少ないです。 また、本来食事としてとるはずの粥ゼリーを使えば、食事全体の量が増えてしまうこともありません。 水分の代わりに牛乳を活用する 前述したように、水を使うと栄養が薄まってしまうので、代わりに牛乳を使う方法もあります。牛乳はタンパク質やミネラルも含まれていて、栄養もしっかりとれます。 ただし、料理の種類によっては味が変わってしまうこともありますので、味見をしながら試してみましょう。 栄養補助食品の選びかた おわりに 栄養を強化する方法はさまざまありますが、認知症の一人暮らしで食事への工夫が難しい、経済的な問題により補助食品を購入できないなど、在宅高齢者の栄養強化は一筋縄ではいきません。 対応が難しい困難なケースの際は、訪問管理栄養士にサポートを依頼する方法もありますので、ぜひご活用ください。 当記事に掲載している「栄養補助食品の選びかた」をまとめた利用者さん向け資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 ー第6回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1) 国立長寿医療研究センター.『在宅療養患者の摂食状況・栄養状態の把握に関する調査研究報告書』平成 24年度老人保健健康増進等事業,2013, [記事協力]株式会社明治キユーピー株式会社ネスレ日本株式会社ヘルシーフード株式会社株式会社クリニコハウス食品株式会社ホリカフーズ株式会社大塚製薬株式会社ニュートリー株式会社

特集
2022年5月10日
2022年5月10日

【管理栄養士のアドバイスvol.4】低栄養のスクリーニングと予防

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第4回は、低栄養を早期に見つける・低栄養にさせないためのポイントを紹介します。 はじめに 皆さんご存じのように、高齢期の低栄養はその後の生活機能低下や障害、合併症の増加、生活の質悪化を伴い生命予後短縮につながります。 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査の概要」1)によると、65歳以上の低栄養傾向の者(BMI≦20㎏/m2)は男性で12.4%、女性で20.7%であり、要介護高齢者においては20~40%が低栄養であるともいわれています。 低栄養から生活機能低下につながる前に、リスクを早期に発見し、栄養状態の改善に取り組むことが重要です。 低栄養のスクリーニング はじめに、ふだん皆さんがかかわっている患者さんに、低栄養のリスクがないかを確認してみましょう。 低栄養のスクリーニングは、低栄養のリスク者(低栄養かもしれない人)を見つける段階で、管理栄養士でなくてもできますのでぜひ覚えておきましょう。 スクリーニングツールとしては、MNA®-SFが在宅でも手軽に使え、多く活用されています。MNA®-SFは、65歳以上の高齢者向きで、体重減少、食事摂取量、歩行能力、急性疾患の影響、認知症やうつの有無、やせ(BMI)をそれぞれ点数化し、点数に応じて低栄養リスクを評価します。低栄養、もしくは低栄養のリスクのおそれありと評価が付いた方は、特に栄養状態改善の取り組みが必要です。 ここではまず、低栄養を予防する食事術についてお伝えします。 バランスよく栄養をとるために…… 手ばかり栄養法 これは、一日にどのくらいの食事を摂取すればよいかを、とても簡単に伝えるツールです。 まずは、食品を「赤」「黄」「緑」のグループに分けます。 赤色は、筋肉のもとになる、たんぱく質が多い食品です。黄色は、エネルギーの素となる、炭水化物や脂質が多く含まれる食品。緑色は、体のバランスを整える、ビタミンやミネラルの多い野菜や海藻類です。 この三色それぞれを、どのくらいの量食べるとバランスが良いのかを、手の大きさを基準にお伝えします。 赤色のグループは、一食あたり片手にのる程度。たとえば、魚の切り身ならひと切れ程度を、1食で摂取しましょう。 黄色のグループは1食あたり、ご飯茶碗1杯程度です。 そして緑色のグループは生の状態で1食あたり手のひら2枚分程度です。 これが理想的な食事の量です。この伝えかたなら、とても簡単でわかりやすいので、高齢者への指導にも使えますね。 10食品群チェック ご自身で調理をされている人であれば、こちらの指導ツールも有効です。以下の10食品群のうち、毎日最低でも4種類以上、できれば7種類以上を食べることを目指しましょう! 10食品群の覚えかたは、「さあにぎやか(に)いただく」です。注1 10食品チェック表をお渡しするだけでも、いろんな種類の食品を意識して摂取してくれますので、気になる方にはぜひお渡ししてみましょう。 手軽にいろいろな食品を摂取する工夫 「いろいろ食べなきゃいけないのはわかるけど、一人暮らしだから野菜を買っても余ってしまう」「わざわざ、いろんなおかずを作るのは大変」という人に、おすすめのワンポイントテクニックです。 野菜類 野菜はたくさん買っても余らせてしまう、切るのが面倒……などのお悩みには、冷凍野菜や乾燥野菜がおすすめです。 最近は、コンビニやスーパーの冷凍コーナーに、さまざまな種類の冷凍野菜が売られています。冷凍なので保存がききますし、すでにカットしてあるので調理の手間が省けます。 スーパーの乾物コーナーを覗くと、みそ汁に入れる具材ミックスが売られていることもあります。青菜やネギ、ワカメなどがミックスで入っているので、みそ汁だけでなくスープにも使えますよ。 魚 「魚の調理は手間がかかる」という人には、缶詰がおすすめです。 長期保存もできますし、すでに加熱調理されており、味付けされている商品もあるので、ちょっとアレンジすれば主菜に早変わりします。ネギをのせて焼くだけでも十分主菜になります。野菜の煮物に加えれば、一品で野菜と魚の両方をとることができます。 高齢期には、活動量の低下や味覚の変化などで、気づかないうちに食事量が減っていることがあります。自覚していない人も多いので、かかわる専門職が気づくことが大事です。そして、なるべく簡単に、バランスよく栄養がとれるように、ちょっとした工夫をぜひお伝えしましょう。 次回はさらに低栄養を掘り下げて、少量しか食事をとれない人の、栄養補給や補助食品の選びかたについてお伝えしていきます。 当記事に掲載している「10食品チェック表」「手ばかり栄養法」をまとめた利用者さん向け資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 ー第5回へ続く 注1 「さあにぎやかにいただく」は、東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取多様性スコアを構成する10 の食品群の頭文字をとったもので、ロコモチャレンジ!推進協議会が考案した合言葉です。 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用】1)厚生労働省.『令和元年国民健康・栄養調査結果の概要』2020.【参考】〇若林秀隆編.『フレイル高齢者これからどう診る?』.Gノート.7(6,増刊号),2020,227p.

特集
2022年4月26日
2022年4月26日

【管理栄養士のアドバイスvol.3】嚥下調整食ってどうやって作るの?

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第3回は、嚥下調整食準備のポイントを紹介します。 はじめに 摂食嚥下機能が低下した人のための食事作りは、介護家族にとって悩みの種であることが多くあります。安全においしく食事を楽しんでいただくために、家族ができる嚥下調整食準備のポイントを、実際の事例をもとに確認していきましょう。 この食事形態、何が問題? 訪問栄養指導を実施した利用者さんに、このような方がいらっしゃいました。 90代男性で、加齢とサルコペニアにより嚥下機能が低下、年に数回は誤嚥性肺炎で入院をされていました。訪問歯科医が簡易嚥下検査を行ったところ、食塊形成能力、嚥下クリアランス、嚥下のタイミングのそれぞれに、中等度の障害が認められました。家族と同居しており、調理は娘さんが行っています。 ある日の食事内容 訪問栄養指導では、当日、ふだんどおりの食事を用意していただきます。実際の食事を一緒に見ながら、食事形態の指導を行います。 その日の昼食は、①ミキサー粥 ②冷凍のソフト食おかずセット(主菜1品、副菜2品) ③手作りの煮物をミキサーにかけたもの ④温泉卵 ── でした。 一見すると、嚥下機能に配慮された適切な食事のように思えますが、実はいくつか改善すべき点があります。 では、一品ずつ確認していきましょう。 ①主食:ミキサー粥 ミキサー粥はデンプン分解酵素入りのゲル化剤を使うこと! 実際に用意されたミキサー粥を見ると、ベタベタと、スプーンにくっついてしまうような状態でした。 実はご飯にはデンプン質が多く含まれているため、ミキサーにかけると糊のようにベタベタしてしまいます。ベタベタと付着性が増したミキサー粥は、喉に張り付き、飲み込みがさらに困難になってしまいます。 対策としては、お粥用のゲル化剤を使用することです。 お粥用のゲル化剤(図1)は、通常のゲル化剤と異なり、「デンプン分解酵素」が含まれています。これを使用すれば、べた付きのもとであるデンプン質を分解し、同時にゲル化剤の作用でゼリー状に固めることができます。 図1 お粥用のゲル化剤 糊状だったミキサー粥が、フルーチェのようにつるんとした形状にまとまり、付着性が抑えられます。 詳しい使用方法は、パッケージをしっかりと確認しましょう。ゲル化剤の選びかたは、管理栄養士に相談すると、いろいろと教えてくれますよ。 ②主菜:冷凍のソフト食おかずセット 介護食品はユニバーサルデザインフードを活用しよう! 市販されている介護食品の多くは、パッケージに、ユニバーサルデザインフード(UDF)のマークがついています。 UDFには、摂食嚥下障害がより重度から順に、「かまなくてよい」「舌でつぶせる」「歯ぐきでつぶせる」「容易にかめる」の分類があります。 この利用者さんの食事は、UDF区分で「舌でつぶせる」の商品でした。UDFの「舌でつぶせる」は「学会分類2021」の3~4に該当します。 「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」より抜粋。文献1または 日本摂食嚥下リハ学会ウェブサイト「嚥下調整食学会分類2021」を必ずご参照ください。表の理解にあたっては、「嚥下調整食学会分類2021」の本文をお読みください。 家庭での調理が困難で、市販の介護食品を購入する場合は、この分類を確認し、適切な食べやすさの介護食品を購入することをおすすめしましょう。 どの基準の食品がよいかがわからなければ、歯科医師や言語聴覚士に嚥下検査を依頼し、適切な学会分類コードについて指導をしてもらいましょう。 ③副菜:手作りのミキサー食 手作りミキサー食は「まとまり」を意識! この方が召し上がっていた手作りのミキサー食は、食材の粒が少し残った状態で、特にゲル化剤やとろみ剤は使用されておらず、ただミキサーにかけただけの状態でした。 ここで注意するのは「まとまり=凝集性」です。 舌の動きが緩慢な人には、口に入れた際に、食材の粒がバラバラとばらけてしまうような食事は、誤嚥のリスクとなります。上手に食塊形成することができずに、口腔内に散在した食材の粒が、意図しないタイミングで喉頭に侵入することがあるからです。 そのような場合は、調理加工の段階で、まとまりやすく調整する必要があります。ゲル化剤を使用して、まとまりを付けるのがベストです。簡易的な方法としては、食材をミキサーにかけるタイミングでトロミ剤を少し加えることでも、まとまりが付きます。 実際の指導は? この利用者さんでは、歯科医師より「学会分類コード『2-2』~『3』の食事形態が望ましい」と指示がありましたので、その情報をふまえた指導を行いました。 指導は、家族の習得度に合わせ、数回に分けて実施します。食事を嚥下機能に合わせることはもちろんですが、本人の生活や嗜好を考慮することも重要です。 皆さんもぜひ、利用者さんがどのようなものを召し上がっているか、そしてその食事は嚥下機能に合っているのかという視点で、観察をしてみてください。 そして、指導が必要な場合は管理栄養士につなげるという選択肢も、ぜひ覚えておいてくださいね。 当記事に掲載している「学会分類2021(食事)とUDF区分」をまとめた資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 ー第4回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食委員会.日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021.『日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌』25(2),2021,135-49.2)日本介護食品協議会.『わかるUFD』https://www.udf.jp/consumers/index.html3)江頭文江.『おうちで食べる!飲み込みが困難な人のための食事づくりQ&A』東京,三輪書店,2019,156p. 記事協力日本介護食品協議会ニュートリー株式会社株式会社フードケアヘルシーフード株式会社ヘルシーネットワーク https://www.healthynetwork.co.jp/

特集
2022年4月19日
2022年4月19日

【管理栄養士のアドバイスvol.2】嚥下機能が低下した方に必要なとろみ付けの技術

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第2回は、とろみ付けのポイントを紹介します。 はじめに 加齢や障害により嚥下機能が低下すると、「誤嚥をしないように水分にはとろみを付けましょう」と指導を受けることがあります。 このとろみ付けですが、飲料の種類によってはとろみが付きにくい、またダマになりやすいものがあることをご存じですか? 今回は、とろみの濃さの基準や、飲料ごとのとろみ付けポイントをご紹介いたします。 とろみの濃さの基準 「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」1)によると、嚥下障害者のためのとろみ付き液体を「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階に分けて表示をしており、この段階に該当しない「薄すぎるとろみ」や「濃すぎるとろみ」は推奨しないとしています。 まずは、この3つの段階について確認をしておきましょう。 薄いとろみ(段階1) 薄いとろみとは、嚥下障害が軽度であり、中間のとろみほどのとろみの程度がなくても誤嚥しない人を対象としています。 中間のとろみ(段階2) 中間のとろみとは、嚥下障害の人へまず試されるとろみの程度を想定しています。 濃いとろみ(段階3) 濃いとろみとは、重度の嚥下障害の人を対象にしたとろみの程度であり、中間のとろみで誤嚥のリスクがある人でも、安全に飲める可能性があります。 「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」より抜粋。参考1または 日本摂食嚥下リハ学会ウェブサイト「嚥下調整食学会分類2021」を必ずご参照ください。表の理解にあたっては、「嚥下調整食学会分類2021」の本文をお読みください。 とろみ付けのポイント まずはじめに気を付けなくてはいけないことは、とろみ調整食品は複数の食品メーカーが販売しており、販売元・種類ごとに使用量が異なるという点です。 それぞれの商品パッケージには、とろみを3段階に調整するために必要な使用量が記載されていますので、忘れずに確認をしましょう。 とろみが付きにくい飲料 では次に、とろみが付きにくい飲料と、とろみ付けの工夫を以下にまとめます。 冷たい飲み物 飲み物の温度によってとろみの付く速さが変わります。基本的には温かい物は速く、冷たい物はとろみがつくのに時間がかかります。ですが、最終的なとろみの状態は同じなので、とろみの付くスピードが遅いからといって、とろみ調整食品の使用量を増やしてしまうと、ダマになったりとろみが濃くなりすぎたりしてしまいます。 どの温度でも、おおむね10分くらい放置するととろみの濃さが安定しますので、早めに作ってとろみが安定するまでゆっくり待ちましょう。 ジュースやみそ汁 オレンジジュースなどの酸味が強い飲みもの、またみそ汁など塩分が含まれているものも、とろみが付きにくいです。温度変化によるものと同様に、とろみ調整食品の使用量を増やすのではなく、付け方を工夫しましょう。 ここでご紹介するのは「2度混ぜ法」です。1.とろみ調整食品を添加して30秒ほどよくかき混ぜます。2.そのまま5~10分放置します。3.最後にもう一度しっかりとかき混ぜます。 この2度混ぜ法をする事により、とろみの付きにくい飲料にも均一にとろみが付きダマにもなりません。 とろみが付きにくいランキング第1位? 濃厚流動食品 栄養強化のために飲むことの多い濃厚流動食品ですが、とろみが付きにくく、またダマにもなりやすいため、皆さまも頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。 そこで、濃厚流動食品用の専用とろみ剤をご紹介します。 濃厚流動食品用の専用とろみ剤は、「つるりんこ 牛乳・流動食用」(株式会社クリニコ)や、「リフラノン濃厚流動食専用」(ヘルシーフード)などの商品があります。特にリフラノンは、粉末ではなくとろみ剤そのものが液体なので、なめらかで均一にとろみをつけることができます。 炭酸飲料 炭酸飲料は、とろみ調整食品を添加すると飲料が泡立ってしまい混ぜにくく、一方、十分に混ぜると炭酸が抜けてしまうため、工夫が困難です。そこで、以下の方法をご紹介します。1.提供量の半量を別のコップに注ぎ分けます。2.取り分けた飲料に規定量のとろみ調整食品を加えてよく混ぜる。  全提供量に対して必要な量のとろみ調整食品を加えますので、この時点ではとろみは濃くなります。3.濃くついたとろみ付き飲料と、注ぎ分けておいたとろみなしの飲料を混ぜ合わせる。 この方法でとろみをつけると、炭酸が抜けてしまう事を最小限に防ぎ、ちょうどよいとろみ付き炭酸飲料を作ることが可能です。 おわりに 嚥下障害を抱える方が安心して水分を摂取するには、適切な濃さのとろみに調整する必要があります。 どのくらいのとろみの濃さが適切なのかは、その方の障害や機能に応じて変わりますので、歯科医師や言語聴覚士などの専門家と相談をしましょう。 当記事に掲載している「とろみづけの工夫」をまとめた利用者さん向け資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 ー第3回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食委員会.日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021.『日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌』25(2),2021,135-49.

特集
2022年4月12日
2022年4月12日

【管理栄養士のアドバイスvol.1】咀嚼機能が低下した方に必要な調理の工夫

食事や調理は、在宅療養の患者さん・ご家族にとって、つねに大きな関心事です。この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第1回は、「噛みにくい」人のための調理の工夫です。 はじめに 訪問看護師の皆さんは、患者さんのお口の中、そして食事の様子をしっかりとみていますか? 在宅高齢者には、虫歯や歯周病によって残存歯が少なくなった人、また入れ歯を使っているのに食べるときにカパカパと動いて上手に噛めていない人が多くいらっしゃいます。 噛むことに障害を抱える人は、普通に噛める人と比較すると、栄養素摂取の種類・量が減ってしまうことがわかっています。実際に、噛めないからという理由で野菜やお肉を食べずに、パンばかり召し上がるような人を私も多くみてきました。 しかし、いつまでも健康で長生きをするためには、「噛みにくいから食べない」のではなく、「噛めるように工夫して食べる」という考えかたが必要なのです。 虫歯や歯周病で歯の数が減ってしまうと…… 最新の研究では、歯の数が減ると、摂取する栄養素に偏りが出ることがわかっています。 栄養素別でみると、何とすべての栄養素において、噛める群よりも噛めない群のほうがより摂取量が少ないのです。 新開省二ほか.地域在住高齢者における栄養の特性と課題.地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方検討会資料.平成28年12月2日,厚生労働省健康局,2016,43. この結果をみると、歯を失って噛むことが難しくなると、低栄養やフレイルにつながる危険性があることが、おわかりいただけるかと思います。 入れ歯があれば何でも食べられる? 歯がないと上手に食べ物を食べることができません。では、なくなった歯を部分入れ歯や総入れ歯で補った場合、何でも不自由なく食べることができるでしょうか。 残念なことに、これは「NO」です。 入れ歯では、健康な歯と比べると噛む力が3分の1程度に落ちてしまうともいわれています。噛むことはできても、十分に力をかけられないことになりえます。 入れ歯はあっても外れやすい人や、噛むと痛みがある人もいらっしゃいます。 「入れ歯が入っている=噛める」ではありません。不具合があれば歯科で入れ歯を調整する。そして、食べやすい食事の工夫も重要です。 ちゃんと噛めているかを確認しましょう! 歯を失った人、入れ歯にして噛む力が弱くなってしまった人、どちらにしても「噛みにくい」から、「噛めないから食べない」そして、結果として「栄養が不足する」事態になってしまいます。 オーラルフレイルがフレイルにつながるのは、まさにこのためです。 食材・調理の工夫 お肉 分厚いお肉は、特に噛むことに力が必要です。 トンカツなどは、しゃぶしゃぶ用の薄切り肉を重ねることで、柔らかく作ることができます。 酢豚やカレーなどは、角切り肉の代わりに、薄切り肉を端からクルクル巻いてから一口大に切ると、食べやすく、見た目を損なうこともありません。 それでも食べにくいときはひき肉を使いましょう。唐揚げなども、食べにくい場合はひき肉を丸めて肉団子にするのもよい方法です。 魚介類 お魚は、身がパサついて口の中でまとめることが難しい場合があります。パサつく魚はムニエルなど油を使ってしっとりさせる、あんかけにする、煮魚にして煮汁に片栗粉でとろみをつけることで、より食べやすくなります。 タコやイカは食べにくい食材の代表格ではないでしょうか。繊維がとても固いので、繊維を断ち切るように、表面に細かく隠し包丁(切り目)を入れましょう。 野菜 ほうれん草や白菜などの葉物野菜は柔らかい葉の部分を使うようにしましょう。また、そのままではペラペラと薄くて噛み切りにくいので、柔らかくゆでて端からクルクルと巻いて輪切りにするとさらに食べやすくなります。 トマトや茄子の皮など、繊維が固いところは皮をむいてから調理をしましょう。 セロリやごぼうなど繊維の多い野菜は、繊維を断ち切るように、繊維の流れと交差する向きで切ります。 きのこ えのきやエリンギはとても繊維が固く強いので、きのこを召し上がりたい場合は、しいたけやしめじ、まいたけがお勧めです。 椎茸を大きいまま使用する場合は、傘の部分に隠し包丁を入れるとさらに食べやすくなりますよ。 おわりに 「噛む」ことは、楽しく健康に毎日を過ごすためにとても大切です。 まずは、噛めるお口を作ること! そして、噛みにくい食材があったときは、諦めるのではなく、食べやすくなるように調理の工夫をしましょう。 それでも、なかなか食事が進まない、食事量が減って体重が落ちてきた、そんなときは地域の管理栄養士に相談をすることも検討してみてください。 当記事に掲載している「食材を食べやすくする工夫」をまとめた利用者さん向け資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 ー第2回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)新開省二ほか.「地域在住高齢者における栄養の特性と課題」『地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方検討会資料』厚生労働省健康局,平成28年12月2日,2016,43.2)本川圭子.「高齢期の生活を支える歯科と栄養の連携」『日本補綴歯科学会誌』12(1),2020,50-4.3)山田晴子ほか.『絵で見てわかる入れ歯のお悩み解決!』東京,女子栄養大学出版社,2014,112p.

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