コラム

在宅療養開始 ~スーパー理学療法士(PT)現る!~

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ALSは、できなくなる前に先回りができる病気。しかしそれにも限界を感じていたある日、出会ったのは……?!

遠隔診療を開始してから

2019年3月に退職した後は、在宅での生活を開始しました。
仕事も、それまでのように直接患者さんを診るのではなく、iPadに送られてくる画像や情報をもとに診療する、遠隔診療に変えました。
直接診察できない寂しさはありましたが、医師が不足している地域の人たちや、病院にかかれない人たちの助けになるため、やりがいを感じていました。

その後も徐々に全身の筋力が落ちていき、できることが少なくなっていきました。
しかし、この病気のいいところは、「次にできなくなることの予測ができる!」。
予測ができるということは、先回りができる!ともいえるのです。

動かなくなる前に対策をしよう!

多くのALS患者は、線維束性攣縮という、筋肉の不随意性の細かい痙攣を自覚します(要は、筋肉が勝手にピクピク動く)。

下位運動ニューロンが障害されたときに出る症状であり、これが出てきたら、その部分の筋力が落ちてくるので、そう心得ておくとよいのです。

私は視力がとても悪く、コンタクトレンズを着けて生活していましたが、腕が上がらなくなりコンタクトレンズを着けられなくなる前に、ICL(眼内コンタクトレンズ)の手術をしました。
また、歩けなくなる前に家をバリアフリーに改築し、力を使わずに移乗ができるように、天井走行リフトを設置しました。
そして、2019年6月、まだまだ食べられるうちに胃瘻を造設する手術をしました。特に、早期に胃瘻を造設し、しっかり栄養をとることがとても重要!!なので、また折をみて触れたいと思います。

すごいPTさんに出会った!

このころには、右手は動かせず、左手の指だけわずかに動く程度でした。それでも何とか力を振りしぼってiPadを操作していたのですが、限界を感じていました。

どうすればいいのかわからないまま、いろいろな方法を模索していたとき、退職して引っ越しをしたタイミングで、新しい訪問看護ステーションと出会いました。
そこの理学療法士(PT)さんたちが、すごかったのです。

私はそれまで、「PTさんは、関節や筋肉の拘縮を予防するためのリハビリテーションとして、ストレッチやマッサージをしてくれる人たち」だと思っていました。しかし、その訪問看護ステーションとPTさんたちは違いました。
職種の範囲にとらわれず、「生活の質(QOL)を上げること」を看護・リハビリテーションと考えてくれていました。今の私が何に困っていて、何が必要なのかを判断して迅速に対応してくれました。

できていたことが、できなくなる前に

当時の私は、左手でiPhoneやiPadのタッチパネルが押せず、仕事ができなくなってきたことに、一番困っていました。
そのことをPTさんに相談すると、指のわずかな動きでスイッチを押してiPadを操作できることを教えてくれました。そして、押しやすい親指の形に合わせたスイッチを3Dプリンターで作ってくれたのです!

こんなことまでPTさんがやってくれるのか!

驚きつつ、私は新しい可能性の発見と、まだまだ仕事ができることに気分が高揚しました。

その後も、親指でスイッチが押せなくなったら、中指の動きを感知する空圧センサーを作ってくれました。
また、パソコンの視線入力装置の調整、車いすの調整やトイレの手すりの調整、文字盤を使わずに目の動きだけで会話する方法があることを教えてくれたりと、QOLを上げるさまざまなことをしてくれました。

そのような強力な味方に支えられながら、近い将来できなくなるであろうことを予測しながら、できなくなる前に先手を打っていきました。

そうすることで、「できていたことが、いきなりできなくなる」絶望感や虚無感を味わうことなく、うまくストレスを分散させながらコントロールすることができたのだと思います。

最後の食事!

2019年7月ごろからはNPPV(非侵襲的陽圧換気。気管切開を行わないで、マスクを着けるだけの人工呼吸器)を導入しました。

最初は睡眠時だけ装着し、徐々に慣れさせながら、日中にも着けるようにしていきました。

NPPVを導入するタイミングは難しいのですが、呼吸筋の疲労を取る意味でも、息苦しさを感じる前に、早期から導入することをおすすめします。鼻だけ覆うタイプや、鼻と口の両方覆うタイプなど、何種類かあるので、いろいろ試してみるといいですよ。

それ以降は、徐々に呼吸機能とともに嚥下機能も落ちていき、一回に食べる量が減って、食べることに時間がかかるようになってきました。必要な栄養は胃瘻から摂るようにして、食べることは「味を楽しむもの」と割り切って考えるようにしました。
食べることの疲労が強くなり、誤嚥する可能性も出てきたため、2020年4月に食べることを止めました。

皆さんが最後の晩餐として食べたいものは何でしょうか? ちなみに、私の最後の食事は「牛肉のバター醤油チャーハン」でした。

**
コラム執筆者:医師 梶浦智嗣

記事編集:株式会社メディカ出版

この記事を閲覧した方にオススメ

× 会員登録する(無料) ログインはこちら