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多発性硬化症

多発性硬化症とは、神経軸索を覆うカバーが壊れることによる、神経障害のさまざまな症状が生じる自己免疫疾患です。寛解と再発を繰り返すことが特徴です。

病態

多発性硬化症(たはつせいこうかしょう:MS)は、脱髄による神経傷害を繰り返す疾患です。

神経線維は、神経軸索という電線コードのような部分が、髄鞘というカバーに覆われています。髄鞘が傷害され内部の神経軸索がむき出しになることを脱髄といい、脱髄が起こると、神経の信号伝達が阻害されます。視力障害や運動麻痺、感覚障害など、伝達が阻害された神経部位に起因する症状としてあらわれます。

多発性硬化症では、脱髄が多発し、寛解と再発を繰り返します。

髄鞘は再生するため、しばらくすると症状は落ち着きますが、再発と寛解を繰り返します。病型により、機能障害が徐々に、または段階的に進行していく場合があります。

多発性硬化症は、免疫システムが髄鞘を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患の一種と考えられています。
欧米の白人で発症頻度が高く、人種差などの遺伝的要因と、血清ビタミンD濃度、EBウイルス感染、喫煙などの環境的要因の関与が指摘されています。

疫学

日本での多発性硬化症の推定有病率は10万人あたり8~9人程度で、約1.2万人の患者がいると考えられています。

若年成人の発症が多く、平均発症年齢は30歳前後です。発症のピークは20歳代で、15歳以前の小児でもみられますが、5歳未満ではまれです。60歳以上の発症も少ないのですが、再発例はあります。

女性に多く、有病率は男性の2~3倍におよびます。

2019年度末時点での、「多発性硬化症/視神経脊髄炎」の受給者証所持者数は約2万人です。

症状・予後

症状は、神経のどこが障害されたかによって異なります。

主な症状には視力障害、複視(物が二重に見える)、小脳失調(手の震え、歩行のふらつきなど)、四肢の麻痺やしびれ、四肢感覚障害・運動障害、膀胱直腸障害(排尿・排便障害)のほか、脊髄障害の回復期にみられる四肢の突然のしびれや突っ張り(有痛性強直性痙攣)などがあります。

欧米では、注意散漫、集中力低下などの認知機能障害も初期から報告されています。

髄鞘の再生により症状は治まり寛解しますが、再発を繰り返します。頻度は人によって異なり、数年に1回の人もいれば、年に3~4回の人もいます。
また、再発・寛解を繰り返してもほとんど障害が残らない人もいる反面、少しずつ後遺症が出てくる例や、寝たきりになるなど突然ADLが著しく低下する例などもあります。

多発性硬化症に特徴的な現象として、ウートフ徴候があります。
ウートフ徴候は、一過性の症状で、視力低下や筋力低下、感覚障害、認知機能障害などがよくみられます。
体温の上昇に伴って症状の出現や悪化がみられ、体温が下がると治まる特徴があります。

ウートフ徴候は、日本では多発性硬化症患者の4~5割で起こるという報告もあります。寛解期にも起こるため、症状が重く出やすい人は、夏は長時間屋外で過ごさない、冬の室内の暖房は適切な温度にする、運動時は適度に休憩をはさむ、熱いお風呂に長時間入ることは避けるなど、日常生活でも体温が高くなりすぎないように注意する必要があります。

治療・管理など

急性期には、ステロイド大量点滴静注療法(パルス療法)や、自己抗体、サイトカインなどを除去して免疫バランスを取り戻す血液浄化療法が行われます。また、それぞれの症状への対症療法薬も用いられます。リハビリテーションを実施することもあります。

根治療法はまだありませんが、難病のなかではパーキンソン病に次いで治療の進歩がある疾病であり、再発予防薬も認可されています。

多発性硬化症と診断された後は、早期に専門診療・治療を検討し、再発予防薬を用いることが勧められます。また、過労やストレス、感染症は再発の危険因子となるため、日ごろの体調管理も大切です。

リハビリのポイント

●身体障害に応じたリハビリを実施し、必要時は補助具の導入を提案する
●急性期、回復期、安定期で、介入目標をそれぞれ適切に設定する
●急性期では積極的な運動療法はしない。麻痺などで身体を動かせない場合は、関節運動や良肢位保持、体位変換などを行う
●回復期には、障害に応じて軽度のリハビリを施行する
●安定期には機能障害などの程度に応じて、軽度から中等度のリハビリを行い、体力やADL向上を目指す
●ウートフ徴候予防のため、運動強度や運動量、運動環境(温度、湿度)などを調整する

看護の観察ポイント

●日常生活に支障をきたしていないか
●身体機能や認知機能の変化
●過労やストレスなどがたまっていないか
●適切な室温管理や夏場の暑さ対策などができているか
●水分や食事が十分摂取できているか(熱中症の予防)
●体温が下がった後もウートフ徴候が長く続いていないか(なかなか治らない場合再発の疑いもある)
●妊娠・出産を考えている患者さんの場合、専門医から適切な指導を受けられているか
●妊娠期~授乳期の薬剤使用について、医師・薬剤師から適切な指導を受けられているか

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監修:あおぞら診療所院長 川越正平
【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】

〇厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病.令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.
〇難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3806
〇難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3807
〇「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン」作成委員会編『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』東京,医学書院,2017,352p.

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