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在宅復帰後の摂食嚥下リハビリテーション②

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、自宅への退院後、胃瘻栄養を離脱し、常食摂取が可能になった事例を紹介します。

経管栄養の離脱を目指す

患者さんが病院を退院して自宅や施設に戻られる際、経管栄養管理下での退院となる場合があります。

退院後すぐには経口摂取が困難で、胃瘻栄養を選択した場合でも、諦めず、無理のない範囲でのリハビリテーションが必要と考えます。

義歯の方の場合は、義歯装着と、発声練習や舌のストレッチなどのリハビリを日々継続すると、どこにどのような障害があるのか問題が整理されてくることもあります。

胃瘻から早く元の食生活に戻りたい

事例

Eさん、76歳男性。要介護5、左脳梗塞後に誤嚥性肺炎、胃瘻造設、前立腺肥大と心筋梗塞の既往あり。

Eさんは脳梗塞のため入院。退院し自宅へ戻った時点では胃瘻管理でした。自宅は、数人の従業員を抱える自営業の、店舗兼住宅です。4年前に心筋梗塞の既往があり、尿道カテーテルも留置しています。

妻は訪問看護師から指導を受け、胃瘻と尿道カテーテルのケアを手際良く行っています。しかし退院後、家族と従業員とが一緒に囲んでいた賑やかな食卓風景はなくなりました。食べられないEさんに食べているところを見せたくないと、お孫さんたちは隠れるように食事をしたからです。

この時点で、Eさんとご家族の「早く元の食生活に戻りたい」というゴールは、はっきりしていました。

いつの間にかバナナを完食!

Eさんは入院中、義歯を装着していなかったということです。初回の嚥下評価で、言葉の巧緻性をみるオーラルディアドコキネシス(ODK)1は、1秒間に「パ」が1回弱でした。しかも、「パ」が「ファ」に聞こえ、発声するたびに義歯が外れました。

そこで、基本的な機能的口腔ケアを指導すると、2週間後には笑顔で「お腹が空いた」との発語もあり、義歯装着もしっかりしてきました。

ところが、翌週に事件が起きました。

寝たきりのはずのEさんは、いつの間にかベッドから起き上がり、仏壇のお供えのバナナを1本完食していたのです。本人が白状されたそうで、家族も、連絡をもらった私も、何事もなくてよかったと胸をなでおろしました。義歯装着効果か、室内を歩く程度の距離を自立歩行できていたのにも驚きです。

VFでは経口摂取はまだ無理

今回は幸運にも無事でしたが、2回目もそうとはかぎりません。歯科医の判断で、Eさんは歯学部付属病院の専門外来で放射線嚥下造影検査(VF)2を受けることになりました。

VFの結果、Eさんの嚥下には、少量の誤嚥と、喉頭蓋谷(こうとうがいこく)に多量の残留が認められました(図)。準備期-咽頭期のリハビリ対応が必要な状態です。とろみ使用の水分摂取は許可されたものの、経口摂取はまだ無理な状況でした。

図 喉頭蓋谷に多量の残留が認められる

1か月半後の再評価

VF後は、従来の口腔ケアに加え、嚥下障害の専門医の指導で、腹筋を鍛える足上げ運動や頭部挙上訓練が加わりました。痰の吐き出しや窒息時に備えるためです。歯科衛生士と訪問看護師が、Eさんにリハビリを行うことになりました。

1か月半後、VF再評価を行いました。

再VFでは、試料が喉頭蓋谷に残留することなく食道へと運ばれていき、嚥下機能が改善。専門医からも直接訓練(食物を使う訓練)の許可が出ました。

Eさんは、段階的摂食訓練を開始し、介入から約5か月で、ほぼ入院前の食生活に戻ることができました。

専門医の診断で納得を得る

この事例のポイントは、「さあこれからお口の訓練を頑張りましょう!」から、バナナ事件で「おじいちゃんお口から食べられるよ」という方向に一気に傾いてしまいました。たまたま無事でしたが、誤嚥性肺炎の既往がある方なので、経口移行するならそれなりの嚥下評価と裏付けが必要です。ここからの立て直しが必要な事例でした。

バナナを食べている時の目撃者はいませんが、喉に詰まりそうな怖い状況を想像します。今回は早急に専門医の診断を求め、Eさんの訓練続行に、本人、家族、かかりつけ医を含めたチーム全員の、納得を得ることができました。

このことが、要介護5から3へと要介護度改善にもつながりました。

Eさんの食支援介入前後の評価

 初診
(退院後1か月半)
介入後
(退院後約5か月)
食形態経管経口(常食)
ODK(発語)パ1.2回/秒、不明瞭 パ5.4回/秒、会話が可能
VF誤嚥あり、喉頭蓋谷残留あり誤嚥なし、喉頭蓋谷残留なし
摂食状況レベル  レベル1
(嚥下訓練なし)
レベル9
(三食経口摂取)
介護度要介護5要介護3

間接訓練から直接訓練へ移行するポイント

間接訓練から直接訓練に移行する場合は、まず、嚥下評価で直接訓練が可能となることが前提です。そして、嚥下評価に加えて、以下の項目にも注意したいものです。

・呼吸(SpO2 96%以上)や血圧の医学的安定
・食欲がある
・咳や痰の喀出、発声ができる
・姿勢調整ができる
 ほか

これらは、すべてが揃わなければならないわけではありませんが、なかでも「食欲」は重要です。長期間の経管栄養管理が継続されていると、嚥下評価上では経口摂取が可能でも、食欲を押し殺している人もいます。心理的なサポートが必要となります。

注1 オーラルディアドコキネシス(ODK):1秒間に「パ」「タ」「カ」をそれぞれ何回発音できるかをカウントする。

注2 嚥下造影検査(VF)
造影剤を含む試料を使用する放射線下の精密検査で、歯科大学病院や耳鼻科で対応可能。地域の歯科医師会の在宅歯科医療地域連携室、嚥下障害の窓口などに相談するとよいです。

執筆
山田あつみ
(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)


記事編集:株式会社メディカ出版

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