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訪問看護の呼吸ケア 安定期を長く過ごすための療養法・支援方法 基礎知識

訪問看護の呼吸ケア

在宅酸素機器や在宅人工呼吸器を使用し、在宅で療養する人が増えています。訪問看護師が安心して確実なケアを行えるようになるために、本シリーズでは日々酸素療法や人工呼吸療法にかかわる医療・看護のエキスパートがケアのポイントはもちろん、機器のしくみや管理方法、トラブル対応などをわかりやすく解説します。今回は、慢性呼吸器疾患をもつ利用者さんが安定期を長く過ごすために、訪問看護師が知っておきたい心の持ちようや療養法・支援方法の基礎知識を確認しましょう。

安定期を長く過ごせるためのケアが大切

慢性呼吸器疾患は、増悪、軽快を繰り返しながら緩徐に進行し、それに伴い呼吸困難が増強します。慢性呼吸器疾患患者さんにおいて、呼吸困難は、身体的側面だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的問題を生じさせます。日常生活活動を制限し、役割や趣味、生きがいなどの喪失をきたすため、疾患の治療および呼吸困難の改善を図る医療とケアは重要です。

呼吸困難を軽減する医療としては、例えば慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)であれば、ガイドラインに基づいた吸入療法などの疾患特異的治療、在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)、非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)、呼吸リハビリテーションなどがあります。看護ケアとして、患者さんがこれらの治療法や療養法の必要性を理解し、生活に取り入れてセルフマネジメントできるように支援します。

慢性呼吸器疾患患者さんが安定期を長く過ごせるかどうかは、在宅で医療や療養法などをいかにセルフマネジメントできるかにかかっており、訪問看護師の役割はきわめて大きいです。導入編となる今回は、慢性呼吸器疾患患者さんへの支援を行う看護師の心の持ちようと、患者さんの療養生活についてお伝えしましょう。特に、患者さんから「もっと教えてほしい」というニーズのある「息切れを軽くする日常生活動作の工夫」や「呼吸訓練」1)など含めいくつかの必要な療養法や支援について説明します。

なおHOTやNPPVなどの個別の療法については、本シリーズの後発記事で解説します。

>>シリーズ一覧はこちら
「訪問看護と酸素・人工呼吸療法」
https://www.ns-pace.com/series/hot-hmv/

看護師が支援を行う上での心の持ちよう

心の持ちようとして皆さんにお伝えしたい内容は次の3点です。

  • 呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」で、主観的な症状です。患者さんが「呼吸困難がある」と言えばSpO2がよくても呼吸困難はあるのです。呼吸困難は身体的側面だけでなく精神的・社会的・スピリチュアル的な側面を併せもった多面的なものであり「Total Dyspnea」といわれています2)。呼吸困難の原因を多面的にアセスメントしていくことが大切です。
  • 私たちは、呼吸困難のある患者さんが治療や療養法などのセルフマネジメント能力を身につけることは、患者さんにとって「大きな仕事」であることを理解し、心から応援する気持ちで支援します。
  • 患者さんは自己の価値観に基づいて行動しています。すぐにアドヒアランス不良とレッテルを貼るのではなく、患者さんの考え方や価値観、病いに伴う個人の体験の理解が必要であることを認識し、患者さんの療養法や行動の意味を理解します。

患者さんの支援に必要なスキル

患者さんの支援に必要なスキルとして、患者理解、パートナーシップの構築、アドヒアランス・自己効力感へのアプローチがあります。

患者さんを理解する

患者さんの病いの体験やライフヒストリーなどの語りを対話で促進します。しっかりと聴いて、病いの解釈や価値観、患者さんが行っている療養行動の意味や病いとともに生活する中での苦悩を理解します。

パートナーシップを構築する

  • 尊重する、信じる、謙虚な態度、聴く姿勢を示す、ともに歩む姿勢を見せる、熱意を示す、心配を示すなどの「患者教育専門家として醸し出す雰囲気」といわれる態度で接することが大切です3)
  • 患者さんが望む生活に即したテーラーメイドの療養法をともに考える姿勢を大切にしましょう。

アドヒアランス、自己効力感の維持・向上へのアプローチを行う

  • 自己効力感へのアプローチでは、成功体験、代理的経験、言語的説得、生理的・情動的状態の4つの情報を活用すると有効です。具体的に説明します。

    ■ 成功体験
    自分で「達成できた」という成功体験をもつことです。酸素濃縮装置、携帯用酸素ボンベの取り扱いなど、小さな目標を立てて段階的に行い、自分で「できた」という成功体験を積み重ねていきます。

    ■ 代理的経験
    自分と同じ状況にある人の成功体験や問題解決方法を知り、疑似的な成功体験をもつことです。例えば、HOT導入により生きがいである畑仕事ができなくなると感じている患者さんに、酸素を使って畑仕事を継続しているほかの患者さんの状況を紹介します。それにより、自分も「できる」という自信をもつことです。

    ■ 言語的説得
    専門性に優れた信頼できる人から、励まされたり、褒められたりすることで自信を高めることです。例えば、「あなたなら、きっと酸素をうまく使って趣味のゲートボールをすることができますよ」と力強く話すことで、患者さんは「信頼している人からできると言われたのでできそうな気がする」と自信を高めます。

    ■ 生理的・情動的状態
    課題を実行したときに生理的、心理的に良好な反応を自覚することです。適切な酸素流量の使用により、息切れの軽減を実感してもらいます。それとともに、モニタリングを行い、脈拍やSpO2が安定していることを視覚的に提示し、息切れが少ない状態を称えることで、患者さんは自信を高めます。
  • 療養法を生活に取り入れるための試行錯誤するプロセスを称賛しながら保証し、「待つ姿勢」を大切にします。
  • 患者さんが呼吸困難のある中、がんばっておられることに私たちは気づくことが大切です。そして、少しでも行動変容が見られたらポジティブフィードバック、つまり承認・称賛します。

呼吸ケアに必要な療養法と支援

息切れを軽くする日常生活動作の工夫を伝える

日常生活動作(activities of daily living:ADL)の工夫としては、図1のような息切れを増強させる4つの動作、すなわち「上肢挙上動作」「息を止める動作」「反復動作」「体幹前屈姿勢」を控えていただくことが大切です。4つの動作をいきなり説明するのではなく、どのようなときに息切れがあるのか、そのときの動作要領はどのようなものかを患者さんに振り返っていただきます。その後で息切れを増強させる動作を行っている場合は、その原因と工夫(対策)を説明します。

また呼気は、筋収縮がなく呼吸仕事量が少ないため、動作の開始を呼気時に合わせること、動作が早い場合はゆっくり動き適宜休憩を取り入れることを説明します。特に拡散障害が著明な間質性肺炎は、労作時に低酸素血症になりやすい病態を示し、動作要領や休憩を取り入れるように伝えます。

図1 息切れを生じさせる4つの動作

息切れを⽣じさせる4 つの動作

呼吸訓練の指導を行う

呼気排出障害であるCOPDには、「口すぼめ呼吸」の習得は不可欠です。口すぼめ呼吸は気道内圧を上昇させ、末梢の気道閉塞や肺胞の虚脱を防ぎ呼気をスムーズにします。指導方法は図2を参照してください。

患者さんは、息切れがあると一生懸命に息を吸おうとしますが、呼気排出障害による動的肺過膨張により息が吸えずかえって息切れが増強します。息を吐くことで酸素が入ってくると説明し、呼気を意識するように促します。間質性肺炎は呼気排出障害でないため、口すぼめ呼吸は必須ではありません。呼気時間が必然的に長くなることで呼吸数を減少させてしまい、かえって息切れが増強する場合があります。

慢性呼吸器疾患患者さんは、呼吸困難が強い場合、口すぼめ呼吸やゆっくり大きな呼吸はできません。まず看護師は、タッチングや呼吸介助を行い「大丈夫ですよ」と声をかけ不安の軽減に努めます。そして、少し呼吸回数が減少したときに患者さんに呼吸調整を行ってもらいます。例えば、鼻から吸って口から吐くようにしてもらったり、COPDの患者さんであれば口すぼめ呼吸を促したりするとよいでしょう。呼吸困難が軽減したとき、「ご自身で息切れを軽減できましたね」と称賛し、自己コントロール感を高めます。自己で呼吸困難を軽減できた体験は、呼吸困難の再来への不安を軽減し、ADL制限の減少につながります。

図2 口すぼめ呼吸の指導方法

口すぼめ呼吸の指導方法

身体活動性の維持・向上を促す

慢性呼吸器疾患患者さんは、息切れによる行動制限によって筋力低下をきたし、さらに息切れが増強するという悪循環をきたします。できるだけ座位時間(sedentary時間)を減らし、少しでも動くこと、散歩は早く歩くのではなくゆっくり長い距離を歩くこと4)が効果的であると説明します。家族を含めて自宅で可能な運動や方法についてともに考えるとよいでしょう。万歩計は、ご自身で自然に目標設定できるため有効です。

精神的・社会的・スピリチュアル的側面への支援

呼吸困難は、病状だけでなく不安や恐怖などにより増強するという悪循環に陥ります。また、できることが少なくなり、役割喪失感や家族から受ける支援の増加などにより自尊感情の低下をきたします。患者さんの病状や療養生活の中で生じているさまざまな感情や思いを傾聴し、よき理解者となり、「訪問看護師さんが来てくれたらホッとする」と思ってもらえるような存在になることが重要です。

自宅には患者さんが大切にしている趣味や価値観を見出すものがたくさんあります。それらの話題や生活の中でがんばっていること、「役割」を見出し、言語化して家族とともに称賛することは、患者さんの精神的な支援になり、自尊感情を高めることにつながります。そして、社会的・スピリチュアル的側面への支援にもつながります。

アドバンス・ケア・プランニング

アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)とは、将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養について患者さんやその家族とあらかじめ話し合うプロセスです。在宅は、病院と異なり患者さんがくつろげる場所であり、訪問看護師も患者さんの大切なものを見出しやすい状況にあります。

日々の療養支援の中で、患者さんは何気なく大切にしていることや望む生き方を語ることがあります。この貴重な「想いのかけら」をキャッチし、対話によりピースをつなげながら5)ご家族、医療者と話し合いを繰り返す中で価値観を共有していくことで、患者さんの意思を尊重することができます。

監修・執筆:竹川 幸恵
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター
呼吸ケアセンター 副センター長
慢性疾患看護専門看護師
 
編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)日本呼吸器学会肺生理専門委員会在宅呼吸ケア白書 COPD疾患別解析ワーキンググループ編.『在宅呼吸ケア白書2010』,日本呼吸器学会,2010:17.
2)日本呼吸器学会 日本呼吸ケアリハビリテーション学会合同 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会編.『非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021』,メディカルレビュー社,東京,2021:25.
3)河口照子編.『慢性看護の患者教育 患者の行動変容につながる「看護の教育的関わりモデル」』,メディカ出版,大阪,2018:65-72.
4)南方良章.「慢性閉塞性肺疾患患者に対する身体活動性研究の進歩」,日内科学誌 2019:108(12);2554-2560.
5)西川満則,大城京子.「コミュニケーションの基本」,『ACP入門 人生会議の始め方ガイド』,日経メディカル,東京,2020:101-114.

【参考文献】
安酸史子.『改訂3版 糖尿病患者のセルフマネジメント教育』,メディカ出版,大阪,2021.

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