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NPPV・HFNC・CPAPの特徴を解説。在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法の基礎知識

HOT・NPPV・HFNC・CPAPの特徴を解説。在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法の基礎知識

本シリーズでは、安心して確実な在宅呼吸ケアを行えるようになるために、ケアのポイントはもちろん、機器のしくみや管理方法、トラブル対応にいたるまで、酸素療法や人工呼吸療法のエキスパートがわかりやすく解説。今回は、HOT(在宅酸素療法)と在宅人工呼吸療法について、NPPV(非侵襲的陽圧換気)やTPPV(気管切開下陽圧換気)、HFNC(ハイフローセラピー/高流量鼻カニュラ酸素療法)、CPAP(シーパップ療法/持続陽圧呼吸療法)も含め各療法の特徴を概観していきます。

増えてきた慢性呼吸不全に対する在宅医療

近年では疾患があっても住み慣れた自宅や施設で病院と同じような医療的ケアを受けて過ごしたいという患者さんが増加しています。そのような患者さんの意思や希望を尊重し、できるだけ入院の機会や期間を減らして患者さんやご家族のQOL向上をめざすのが在宅医療です。慢性呼吸不全をきたして在宅医療を利用する患者さんも多く、その原因となる主な呼吸器疾患は次に示すとおりです。

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD):在宅医療を受ける慢性呼吸不全の中でも最も多くみられる疾患の1つ。比較的長期間にわたって徐々に進行することが多い
  • 間質性肺炎:労作時にかなりの高流量酸素投与が必要になるケースが多い
  • 肺結核後遺症:近年は罹患率や外科的治療の減少などにより少しずつ減少傾向にある
  • 肺がん:原発性や転移性の肺がんは在宅療養期間が上記の疾患と比較して短いものの主要な疾患の1つ
  • 神経筋疾患:非常に長期間の在宅療養となる

これらの疾患患者さんに対して行われている各治療法を概説します。

在宅酸素療法とは

在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)は、主には慢性呼吸不全状態の疾患に対する酸素を吸入する治療として最も頻繁に行われています。対象疾患はCOPD、間質性肺炎、肺結核後遺症、それに肺がんや慢性心不全などの患者さんにも適応があります。図1は2010年の報告にはなりますが、在宅酸素療法を導入している患者さんで最も多い疾患はCOPDで全体の45%を占めていました。

図1 在宅酸素療法の疾患別内訳

在宅酸素療法の疾患別内訳

日本呼吸器学会肺生理専門委員会,在宅呼吸ケア白書COPD疾患別解析ワーキンググループ編.「在宅呼吸ケア白書 COPD(慢性閉塞性肺疾患)医療担当者アンケート調査」,日本呼吸器学会,2010.をもとに作成

適応基準

適応基準は、安静時の室内空気吸入下で動脈血液ガスの酸素分圧(PaO2)が55Torr以下、または60Torr以下で睡眠時や労作時に著しい低酸素血症をきたす場合です。

使用する酸素供給装置

在宅酸素療法には主に「酸素濃縮器」を使用する方法と「液体酸素」を使用する方法があります。酸素濃縮器は空気から窒素を吸着して約90%以上の酸素濃度に濃縮する装置です。3L/分程度から10L/分ほどの高流量の酸素を流せるものや、通常の設置型と充電して持ち運んで使用できるポータブルタイプなど、さまざまなものが提供されています。

液体酸素は、自宅に液体酸素の入った大きなタンクを設置し、酸素チューブを介してタンクから直接酸素を吸入する方法であり、外出時には小型の容器に液体酸素を移して持ち運ぶことができます。

使用するデバイス

在宅酸素療法で使用されるデバイスで最も一般的なものは鼻カニュラです。これは比較的手軽に負担なく装着できますが、患者さんの一回換気量や呼吸回数の影響を受けやすく、同じ酸素流量でも患者さんの呼吸状態により吸入気の酸素濃度が異なってしまうことに注意が必要です。また6L/分以上の流量では鼻粘膜への刺激が強くなるため、一般的には5L/分までの流量となっています。より高流量の酸素投与が必要な場合にはリザーバー付きカニュラや開放型酸素吸入システムを使用することもあります。

酸素流量の設定

酸素流量の設定は、一般的にはPaO2≧60〜80Torr(SpO2 90〜95%)を目標とします。しかし、COPDや肺結核後遺症などにしばしば認められる慢性II型呼吸不全、つまりCO2貯留傾向にある患者さんに対しては、換気状態を維持してCO2ナルコーシスを避ける必要があります。やや低めの目標設定が必要となるため、酸素流量や吸入デバイスの選択にも注意を要します。

在宅人工呼吸療法とは

在宅人工呼吸療法(home mechanical ventilation:HMV)とは、在宅で人工呼吸器を使用して換気の補助を行う治療法です。HMVにはNPPVとTPPVの2つの方法があります。

在宅NPPVとは

NPPVとは「non-invasive positive pressure ventilation」の略で、非侵襲的陽圧換気を意味します。

慢性呼吸不全患者さんのうち、呼吸困難や下腿浮腫などの肺性心の兆候があり、低酸素血症に加えて慢性的なCO2貯留傾向を示す患者さんに対しては、継続的な補助換気(人工呼吸療法)が必要となる場合があります。その中で導入が比較的容易で侵襲度が低いNPPVは第一選択であり、気管内挿管や気管切開をすることなくマスクを介して換気を行うことができます。

マスクは鼻マスクや口鼻マスク(フルフェイスマスク)を使用します。徐々に病状が進行してきた安定期(慢性期)に導入する場合と、II型呼吸不全の増悪によって入院時にNPPVを導入してからそのまま在宅に移行する場合などがあり、導入基準は疾患によって少し異なります。CO2貯留の程度と低酸素血症、増悪の頻度などによって導入が検討されます。実際に導入されている対象疾患はCOPD、肺結核後遺症、神経筋疾患が主なものとなります。

一方で自発呼吸が弱い、もしくはない場合や認知症で協力や理解が得られにくい場合、顔面の外傷、皮膚障害などでうまくマスク装着ができない患者さんに対しては適応外となってしまいます。

在宅TPPVとは

TPPVとは「tracheostomy positive pressure ventilation」の略で、気管切開下陽圧換気を意味します。気管を切開し、確実に空気を肺に送り込むことができるので、自発的な呼吸が十分できない場合に導入されます。

以前は病院で気管内挿管による人工呼吸管理を受け、抜管が困難となった症例に対して気管切開を施行し、そのまま在宅に移行していたケースが多くみられました。NPPVが保険適応となってからは大多数の症例が在宅NPPVで対応できるようになってきたため、在宅TPPVの患者さんの数は減少しています。

しかし、筋力低下や球麻痺が進行する神経筋疾患患者はNPPVでは対応することができず、TPPVを施行せざるを得ません。したがって現在では在宅TPPVを施行している患者さんの8割近くは筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)や筋ジストロフィーといった疾患が主体となっています。

NPPVとTPPVの違いについては、表1に簡単にまとめました。

表1 NPPVとTPPVの比較表

NPPV とTPPV の⽐較表

*【VAP】ventilator-associated pneumonia:人工呼吸器関連肺炎

在宅ハイフローセラピーとは

在宅ハイフローセラピーとは在宅で行う「高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)」のことです(図2)。

通常の鼻カニュラであれば6L/分以上の流量で鼻粘膜への刺激が強くなり、FiO2(吸入気酸素濃度)の上昇はあまり期待できません。より高流量の酸素投与を行うためには、ほかのデバイスへの変更を要しますが、マスクは口元まで覆われるため飲食がしにくく、患者さんが閉塞による不快感を訴えることもしばしばです。

一方、ハイフローセラピーは、専用の鼻カニュラを介して加温加湿した高流量の空気と酸素の混合ガスを投与する方法の1つで、さらに高流量の酸素投与が可能になります。メリットは次のとおりです。

  • 口を覆わないことによる快適性
  • PEEP効果が得られる
  • 解剖学的死腔のウォッシュアウト
  • 一定の酸素濃度を投与できる
  • 十分な加温加湿による気道クリアランスの維持 など

在宅ハイフローセラピーは病院内での使用とはやや異なり、今のところ適応はPaCO2が一定の範囲のCOPD患者さんに限られています。

*【PEEP(Positive End Expiratory Pressure)】気道内圧が低下する呼気の終わりにも一定の陽圧をかけて、呼気時に肺胞や末梢気道がつぶれないようにすること

図2 在宅ハイフローセラピーの装置の例と鼻カニュラの装着イメージ

⿐カニュラの装着イメージ
(画像提供:Fisher & Paykel Healthcare 株式会社)
在宅ハイフローセラピーの装置の例
(画像提供:レスメド株式会社)

CPAPとは

CPAPとは「continuous positive airway pressure therapy」の略で、「シーパップ療法」、「持続陽圧呼吸療法」と呼ばれます。

主に閉塞性睡眠時無呼吸に対する代表的な治療法です。鼻マスクもしくはフルフェイスマスクを装着して気道内に陽圧をかけて気道の閉塞を防ぐことにより、睡眠時に生じる無呼吸を抑制して低酸素血症を改善します。日中の眠気をはじめとした自覚症状の改善や合併症の予防・改善、生命予後の改善、交通事故リスクの軽減、心疾患イベントの減少などの効果が認められています。

CPAPはほかの治療法とはやや異なり、比較的若く、ご自身で機器の管理が可能な患者さんに導入されるケースがほとんどです。ただし、導入された患者さんが高齢になった場合、訪問看護で対応する必要性が多くなることが考えられます。

* * *


ここまでご紹介してきた呼吸器関連の治療法は、どれも訪問看護で対応する必要性があるものばかりです。各治療法の位置づけは図3のようなイメージです。また、訪問看護に関連する診療報酬(在宅療養指導管理料)を表2にまとめましたので、こちらもご参照ください。

次回以降の連載で、各治療法についてのさらに詳しい解説や患者さんの観察・アセスメント、治療継続のためのポイントなどについての看護師、医師、臨床工学技士といった専門的な立場からお話しする予定です。より理解を深めていただき実際の現場で安心して確実なケアを行っていただけることを願っております。

>>シリーズ一覧はこちら
「訪問看護と酸素・人工呼吸療法」
https://www.ns-pace.com/series/hot-hmv/

図3 呼吸器関連の治療法の位置づけ

呼吸器関連の治療法の位置づけ

HMVの実施方法にはTPPVとNPPVがある。HFNCはNPPVとHOTの中間的な治療法として位置づけられている。睡眠時無呼吸症候群の治療に使われるCPAPは人工呼吸療法に含まれない。
*1【HMV】home mechanical ventilation:在宅人工呼吸療法
*2【TPPV】tracheostomized positive pressure ventilation:気管切開下陽圧換気
*3【NPPV】noninvasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気
*4【HFNC】high flow nasal cannula:高流量鼻カニュラ酸素療法
*5【HOT】home oxygen therapy:在宅酸素療法
*6【CPAP療法】continuous positive airway pressure therapy:シーパップ療法、持続陽圧呼吸

表2 在宅での呼吸管理に関連する在宅療養指導管理料

在宅での呼吸管理に関連する在宅療養指導管理料


監修・執筆:森下 裕
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 呼吸器内科 主任部長
呼吸ケアセンター センター長

編集:株式会社照林社

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