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HOT(在宅酸素療法)で使用されるインターフェイスや装置について詳しく知ろう

HOT(在宅酸素療法)で使用されるインターフェイスや装置について

今回はHOT(在宅酸素療法)で使用されるインターフェイスや酸素供給装置の特徴を解説します。インターフェイスによって設定できる酸素流量や酸素供給装置の種類、メリット・デメリットもまとめました。患者さんが安心・快適に酸素療法を継続できるように、適切な機種選定の参考にしてください。

在宅酸素療法(HOT)とは

Home oxygen therapyの略で酸素療法を在宅で行うことを指します。その定義は「諸種の原因による高度慢性呼吸不全例、肺高血圧症の患者、慢性心不全の患者のうち、安定した病態にある退院患者および手術待機の患者、または重度の群発頭痛の患者について、在宅で患者自らが酸素吸入を実施するものをいう。」とされています1)

ここではHOTが適応される疾患と状態、HOTで使用するインターフェイスや酸素を供給する装置について解説していきます。

HOTの適応疾患と状態

HOTの適応疾患および状態は以下のとおりとされています2)

  • 高度慢性呼吸不全例のうち、在宅酸素療法導入時に動脈血酸素分圧55mmHg以下の者、および動脈血酸素分圧60mmHg以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症を来す者であって、医師が在宅酸素療法を必要であると認めたもの。
  • 慢性心不全患者のうち、医師の診断により、NYHAIII度以上であると認められ、睡眠時のチェーンストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸数および低呼吸数をいう。)が20以上であることが睡眠ポリグラフィー上確認されている症例。
  • 関連学会の診断基準により群発頭痛と診断されている患者のうち、群発期間中の患者であって、1日平均1回以上の頭痛発作を認めるもの。

※編集部注:NYHA心機能分類についてはこちらもご覧ください。
NYHA心機能分類(NsPace用語集)

HOTで使用される主なインターフェイス(表1)

酸素療法のインターフェイスには低流量システムと高流量システムがあります。在宅酸素療法で使用されるのは主に低流量システムです。ここでは低流量システムのインターフェイスを取り上げ、特徴を紹介します。

低流量システムのインターフェイスには、鼻カニュラ、簡易酸素マスク、開放型酸素マスクなどがあります(表1)。

表1 低流量システムの主なインターフェイスと酸素流量範囲と吸入酸素濃度

低流量システムの主なインターフェイスと酸素流量範囲と吸入酸素濃度

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 酸素療法マニュアル作成委員会、日本呼吸器学会 肺生理専門委員会編.『酸素療法マニュアル(酸素療法ガイドライン 改訂版)』,メディカルレビュー社,東京,2021:144および日本ルフト株式会社の製品カタログを参考に作成

鼻カニュラタイプ

1 鼻カニュラ
鼻カニュラは経鼻的に酸素を供給するインターフェイスです。構造的には非常にシンプルで、チューブから1対のプロング(酸素の供給部)が出ており、これを鼻に装着して使用します。酸素流量は最大でも6L/分までで、それ以上の酸素供給が必要な場合、酸素マスクに変更する必要があります。構造自体が非常にシンプルであり軽量かつ安価な点もメリットの1つです。

図1 鼻カニュラの構造

鼻カニュラの構造
画像提供:アトムメディカル株式会社

2 リザーバー付き鼻カニュラ
リザーバー付鼻カニュラは呼気時にリザーバー内に酸素を貯留し、吸気時に流れてくる酸素にあわせてリザーバー内の酸素を吸入することで通常よりも高濃度酸素の供給が可能です。

通常の鼻カニュラと比較すると少ない流量で酸素濃度を維持できるため、酸素の節約、高流量による陽圧感の軽減といった効果が得られます。特に酸素の節約効果は低流量であるほど効果が高く、リザーバー付鼻カニュラであれば0.5L/分投与すれば鼻カニュラの2L/分相当の酸素吸入濃度が得られ、最大で75%の節約が期待できます(図3)。酸素消費量を削減できるため酸素供給量に限りのある在宅ではとても有用です。

リザーバーのタイプは鼻カニュラに装着されたノーマルタイプと吊り下げるペンダントタイプの2種類が販売されています。酸素節約効果に差はないため好みで選んでもらって構いません。

図2 リザーバー付き鼻カニュラ

リザーバー付き鼻カニュラ
画像提供:日本ルフト株式会社

図3 標準カニュラとリザーバー付き鼻カニュラの吸入酸素濃度の目安

標準カニュラとリザーバー付き鼻カニュラの吸入酸素濃度の目安
日本ルフト株式会社の製品カタログを参考に作成

酸素マスクタイプ

1 簡易酸素マスク図4
酸素マスクは最もシンプルな構造のマスクで、鼻と口を覆うサイズの酸素マスクを装着して使用します。鼻カニュラと比較して、より高流量の酸素を供給することが可能ですが、鼻と口を覆う構造のため飲食中は使用できず、また声もこもるため喋りづらいという難点もあります。

図4 簡易酸素マスクの構造

簡易酸素マスクの構造
画像提供:アトムメディカル株式会社

2 リザーバー付き酸素マスク図5
リザーバー付き酸素マスクは、酸素マスク下部に取り付けられたリザーバーバッグと呼ばれる袋に酸素をリザーブ(蓄積)しておき、吸気時にリザーバー内の酸素を吸入することで高濃度酸素を吸入できるタイプの酸素マスクです。マスクの通気孔に一方弁を取り付けることで、さらに外気の流入を防ぎ、より高濃度の酸素が吸入できます。高濃度酸素を吸入しつつマスク内の二酸化炭素の蓄積を防ぐために6L/分以上の酸素流量を必要とします。

図5 リザーバー付き酸素マスク

リザーバー付き酸素マスク
画像提供:アトムメディカル株式会社

3 開放型酸素マスク図6
開放型酸素マスクは特殊な形状の酸素吹出口(ディフューザー)から鼻と口の両方に酸素を投与することで1L/分程度の酸素流量であっても正しく装着することで酸素濃度を維持することができます。簡易酸素マスクのようにマスク内に酸素を充満させる必要がないためマスクが開放されています。結果として次に示すようにさまざまなメリットがあります。

  • 開放部から呼気が抜けやすく、二酸化炭素の再呼吸を防いでくれる
  • 1L/分から10L/分以上まで1つのデバイスで対応が使用可能
  • マスクの隙間からストローで飲水も可能
  • 声が通りやすくコミュニケーションが取りやすい
  • 酸素投与しながらの吸引や口腔ケアが可能
  • 圧迫感が少ないためQOLが向上 など

図6 開放型酸素マスクの構造

開放型酸素マスクの構造
画像提供:アトムメディカル株式会社

延長チューブ

設置型(据え置き型とも呼ぶ)酸素濃縮装置は移動に向かないため、自宅で部屋を移動やトイレ、入浴などを行うために延長チューブを装着して使用します。

酸素供給装置

酸素供給装置には、酸素濃縮装置、液体酸素システム、携帯型酸素ボンベなどがあります。

酸素濃縮装置

1 酸素の濃縮方法
酸素の濃縮方法には、膜型と吸着型があります。
<膜型>
酸素の透過性が高い膜に大気を通すことで酸素濃度を上昇させます。ただし、この膜は窒素も通過するため上昇する酸素濃度は40%程度までと、吸着型と比較して低濃度酸素しかつくることができません。そのため、あまり使用されていません。
<吸着型>
大気中から窒素を吸着除去することで酸素を濃縮し、およそ90%相当の高濃度酸素をつくり出します。吸着した窒素は別途排気することで繰り返し使用することができます。

2 装置タイプ
装置タイプには設置型(据え置き型とも呼ぶ)と携帯型があります。
<設置型(図7)>
在宅用として使用する設置型はやや大型のものが多く、移動にはあまり向きませんが、高流量での酸素供給が可能です。宅内を移動する場合は延長チューブを用いて対応します。

図7 設置型の酸素濃縮装置

設置型の酸素濃縮装置
画像提供:フクダ電子株式会社

<携帯型>
非常に軽量で、かつバッテリー内蔵で室内外での移動に用いることができます。ただし設置型と比較して供給可能な酸素量は低流量となります。使用する酸素流量が低い症例であれば、外出のたびに酸素ボンベに切り替えを行わずに済むというメリットもあります。外出中も予備のバッテリーと簡単に交換できるだけでなく、通常の電源やDC電源(車のシガーソケットなど)を使った充電も可能です。

図8 携帯型酸素濃縮装置

携帯型酸素濃縮装置
画像提供:帝人ファーマ株式会社

液体酸素システム(図9)

専用の容器内に低温液体化した酸素を保管します。使用する際には液体酸素を気化して吸入します。液体酸素は気体になると容量がおよそ790倍に膨張するため、非常にたくさんの酸素を保存可能です。酸素濃度も常に安定した100%酸素を使用でき、さらに電源が不要であるため、停電時にも安心して使用することができます。しかし、容器内の液体酸素は使用した場合はもちろんのこと、使用しなくても一部の酸素は蒸発により徐々に減少するため定期的に充填する必要があります。

図9 液体酸素システム

液体酸素システム
画像提供:ケアメディカルジャパン株式会社
右:親器(設置用)、左:子器(携帯用)

液体酸素を親器に貯蔵し、外出の際に患者自身が親器から子器に液体酸素を充填しポータブルとして使用する


携帯型酸素ボンベ(図10)

小型の高圧ボンベに酸素を保存しています。ボンベ内の酸素はそれほど多くないため、自宅内での使用というよりもあくまで移動中での使用がメイン。酸素流量調整器を用いることで酸素の使用量を減らせ、節約もできます。また、酸素濃縮装置に接続しておくことで停電時のバックアップとして使用することも可能です。

図10 携帯型酸素ボンベ

携帯型酸素ボンベ
画像提供:フクダ電子株式会社

呼吸同調装置(図11)

酸素供給装置を使用中に自発呼吸が発生したときにだけ酸素を流すことで、酸素消費量を減らすことが可能です。そのため多くの酸素供給装置の酸素流量表現は「◯L/分相当」と表示されています。酸素濃縮装置や液体酸素システムに搭載されていることが多く、携帯型酸素ボンベの場合にはレギュレーター(圧調整器)に呼吸同調装置が付属している商品があります。

図11 呼吸同調装置

呼吸同調装置
画像提供:帝人ファーマ株式会社

* * *

次回は、HOTの進め方と患者さんやご家族への指導について解説します。

>>次回記事はこちら(※近日公開)
訪問看護師が知っておきたいHOT(在宅酸素療法)導入の進め方と患者・家族指導

執筆:石橋 一馬
神戸市立医療センター中央市民病院
臨床工学技術部

監修:
森下 裕
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター
呼吸ケアセンター センター長
竹川 幸恵
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 
呼吸ケアセンター 副センター長

編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)厚生労働省:診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)(令和4年3月4日保医発0304第1号).p249
2)同上

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