【人工呼吸器装着者 難病事例看護】「災害時」どうする? 避難計画策定の実際と課題

難病を抱える訪問看護利用者さんの災害時の対応について悩む方も多いでしょう。筆者が住む鹿児島県は台風が多く、規模の大小にかかわらず、避難や安全管理を怠ると命を失う恐れがあります。今回は、難病看護師であり訪問看護ステーション管理者でもある筆者が取り組んでいる、難病人工呼吸器装着者の災害避難入院について紹介します。
目次
人工呼吸器装着者の災害時の備え
筆者は、2015年5月に「びっぐすまいる訪問看護ステーション」を開設し、鹿児島県北西部の3市町村を活動エリアとしています。2020年6月に「居宅介護支援事業所大笑い」を開設し、2025年1月には「びっぐすまいる訪問看護ステーションサテライトさつま町」をオープンしました。乳児から高齢の方まで幅広く対応し、医療依存度の高い方の訪問も行っています。現在、人工呼吸器装着者は難病の方を中心に6名います。
人工呼吸器装着者の場合、生活場所や自宅の環境、介護状況などによって、在宅避難がよいのか、避難先への移動がよいのか、その選択はさまざまです。台風や大雨のように災害が予測される場合は、電源確保の観点から事前に避難できるよう準備を進めています。
災害への備えとして重視している点は次のとおりでです。
(1)災害から逃げる(連絡先・避難先の確保、避難搬送訓練)
(2)安全に過ごせる場所の確保(情報・通信手段の確保)
(3)普段からの防災対策(お薬手帳の準備、医療機器の電源確保)
避難先の選定と制度利用についての課題
避難先は事前に本人や家族と話し合い、病院やホテル、知人・親戚宅(地理的条件や電源確保的に安全と思われる場所)など、それぞれです。移動時間や費用、心的安全性を考慮し、平時から各所と連携を図っています。
コロナ禍では事前に断られることもあったため、避難先の確保が大変でした。病院の場合、「空床があれば」という条件のため、入院先候補をいくつか交渉しておく必要があります。入院を希望しない場合、各自でホテルと交渉をされていましたが、電源はあってもホテル内のベッドの角度が変えられないことや、周りのスペースが問題となり現実的ではありませんでした。
病院への避難では制度の確認が必要
現在はほとんどの方が病院に避難されますが、病院によってその取り扱いが異なります。医療保険による入院や難病法による一時入院(レスパイト入院)、障害者総合支援法に基づく医療型短期入所制度(空床利用型を含む)の利用など、あらかじめどのような取り扱いをされるのか確認が必要です。
なぜなら、人工呼吸器の持ち込みは当然としても、医療型短期入所制度を活用する場合、持ち込まねばならない医療消耗品や衛生材料、注入食などがあるからです。場所と電源を貸すだけ、という説明をされる病院担当者もいます。
医療型短期入所制度は、障害福祉サービスに位置づけられるため、事前に住居する自治体(区、市町村)の障害福祉担当課へ申請し、支給決定を受ける必要があります。そして、病院担当者との面談や事前打ち合わせなど行い、利用可能かどうか検討していただくことになっています。
持参物品リストの作成
どこに避難しようとも、避難入院に備え、患者ごとに「避難時の持参物品リスト」を作成しておきます。できるだけ短時間にスムーズな移動が行えるよう、災害に対する個別計画が必要です。日頃から家族や重度訪問介護員をはじめ、介護職への指導も実施しておきましょう。
災害時の避難計画と関係者との連携
台風をはじめとした災害が予測される場合、本人と家族、ケアマネジャーなどの関係者と避難方法を検討しておきます。
ケアマネジャーは、移動手段の手配を行うため、結果的に避難はしなかったとしても、早めに連絡をとるように心がけています。場合によっては、訪問入浴といった介護サービスをキャンセルすることや、介護サービス事業所側がサービスの提供を休止する場合もあるため、各介護サービス提供元と連携をとっていただく必要があります。
同時に、避難先に挙がっている病院に対して、避難の相談をしなければなりません。空床がなかったり、他の人工呼吸器装着者の予約が入っていたりすることもあるため、数ヵ所の病院に確認します。その上で、台風や大雨で移動が困難にならないうちに避難します。
避難入院の調整と連携
一言で「避難入院」といっても、とてつもなく多くの方の協力と連携が必要となります。入院先の調整は病院相談員が担当し、日頃看ていない患者を看てくれる病棟との連携を行います。連携方法は、詳しいサマリーで対応します。必要に応じて、病院到着時に病院では使用になじみのない排痰補助装置や低圧持続吸引器の説明を行っています。
ケアマネジャーは、移動手段の手配や人員確保を行います。人工呼吸器や排痰補助装置、低圧持続吸引器など機器の持ち込みが多いため、移動はとても大変です。持ち込み物品の準備は家族とともに訪問看護師が行います。呼吸器会社の担当者も来てくれることがあり、大変助かっています。
医療型短期入所では、入院中に、家族や重度訪問介護員の付き添いを必要とする場合があり、スタッフのシフト調整が必要なため、介護事業所とのやり取りに時間を要することが多いです。
避難を阻むもの
ここまで述べたような準備をして、無事に避難入院できたとしても、そこに至るまでの患者の心理的な葛藤、避難にかかる人的資源、移動、経済的要因は、避難を遅らせる要因となり得ます。
患者の心理的葛藤
患者は、自宅で日常生活が送れないこと自体に不安を感じています。1つは、コミュニケーションの問題です。通常の読唇や文字盤での意思疎通が、病院では困難となるためです。
病室で意思伝達装置(パソコン)を用いて看護師らとコミュニケーションすることはできても、パソコンのセッティングが必要な場合は、患者が我慢せざるを得ないこともあります。また、吸引手技やその頻度などが、日頃の方法と異なるために負担を感じています。何より、病棟は忙しく、患者は対応してもらえるかどうかが不安です。
そうした状況から、患者は「ポータブル電源(図1)がある自宅にいたほうがよいのでは」と考え、なかなか避難に踏み切れません。
しかし、患者が自宅にいることで家族や介護者も危険な状況に置かれるため、その点について理解を得なければなりません。暴風雨直前に家族や関係者の説得に応じ、急遽避難が決定することもありました。
図1 患者宅で準備しているポータブル電源

避難行動のための人的資源
避難には、人工呼吸器や排痰補助装置、低圧持続吸引器、意思伝達装置(パソコン)など、多くの機器の運搬が必要です。介護タクシーと家族の自家用車だけでは運搬できないこともあります。
また、移動に際し同乗者を誰にするか、家族が対応できないときにどのように人員を確保するのかについても考慮しなければなりません。患者を取り巻く環境や介護体制によって異なるため、最悪の事態を想定し、最善策を検討しておくことが重要です。
時には地域の方にお手伝いいただくこともあるため、地域ぐるみの支援活動も検討しなければいけません。また、台風時には、みんなが一斉に移動するため、訪問看護師も時間調整を行わなければならず、まさに事業所が台風のような忙しさになります。
避難による経済的負担
避難移動を自家用車以外で行う場合、福祉車両でなければ移動はできません。その場合には、当然ですが、移動費がかかります。一般のタクシーと異なり、車椅子対応やストレッチャー対応の場合は料金が高くなります。移動距離にもよりますが、往復で2万円程度かかることもあり、少しの台風や大雨情報では動きたくない、という気持ちになりがちです。また、家族が付き添う場合、食費や移動費が増えることも予想されます。
今後の避難にかかわる課題
コロナ禍では、避難入院をすることが困難でした。今後、新たな新興感染症が発生したときに、長期的かつ絶対的な電源確保を要する難病患者が、避難する場所をどう確保するのか、難病支援と災害支援の観点から考えていかなければなりません。
避難に伴う経済的負担が命を守る障壁とならないよう、何らかの支援制度ができることに期待したいものです。そのためには、当事者や関係者が声をあげることが大切です。特に、福祉施策を担当する市町村自治体の理解が重要と考えます。当県においては、患者会とともに声をあげることで、令和6年(2024年)新規事業として非常用電源貸し出しに関する補助が開始されました。まだ十分に認知されていない事業ですが、一歩ずつでも患者家族の安全のために役立つものにしていきたいと思います。
また、私たちが制度について正しく知ることで、自治体だけでなく病院にも働きかけることができ、医療型短期入所のような支援制度を増やしていけるのではないかと感じます。
避難入院準備は、本人と家族の避難訓練の1つと捉えられ、想定外災害時への行動示唆となります。さらに、本人と家族だけでなく関係者の防災意識を高めることができ、これは大きな産物といえるでしょう。医療機器に苦手意識を持っていた支援者が徐々に取り扱いに慣れていくというメリットもあり、日常生活のなかでも本人と家族の安心につながっています。
人工呼吸器装着者の電源を確保でき、土砂災害の危険からも避難できること。台風が過ぎ去った後に「準備は大変だったけど、台風被害はなくてよかったね」と笑って言えることを願っています。訪問看護師として、難病看護師として、多くの方と連携し、地域の中で自助・互助・共助を発揮でき、難病患者や家族の安全確保を続けていきたいと思います。
執筆:柳田 千草![]() ![]() 合同会社BigSmile 代表 びっぐすまいる訪問看護ステーション 管理者 看護師(看護学修士)、介護支援専門員、日本看護協会認定看護管理者、日本難病看護学会認定・難病看護師 鹿児島県立保健師学校、鹿児島大学大学院保健学研究科博士前期課程を卒業。総合病院での病棟や外来勤務を経て、1992年より訪問看護の分野に携わる。その後、保健所や市役所の嘱託保健師として勤務し、看護学校講師、複数の訪問看護ステーションの開設支援を行う。クオラグループの運営企画室在宅管理部長を経て、合同会社BigSmileを設立し現在に至る。また、在宅領域における「災害支援」や「暴力・ハラスメントへの備えと対応」をテーマとした講演活動も積極的に行っている。 編集:株式会社照林社 |

