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マインドフルネス
マインドフルネス
特集
2023年11月21日
2023年11月21日

マインドフルネスとは?効果や方法・医療現場での活用について解説

ストレス軽減や感情のコントロールを目的とし、自己認識力を高めるといわれる「マインドフルネス」は、近年ビジネスパーソンに取り入れられるケースが増えてきました。医療現場でも注目されはじめているほか、訪問看護の利用者さんが興味を持たれている可能性もあるため、訪問看護師の方は知っておくとよいでしょう。この記事では、マインドフルネスの効果や方法、医療現場での活用などについて詳しく解説します。 マインドフルネスとは マインドフルネスとは、「今この瞬間」の感情や状況などを受け入れ、過去や未来にとらわれない姿勢を持つこと、ありのままの自分の思考を観察することです。 例えば、何らかのトラブルが起きたときに、「どうしよう」「叱られるかもしれない」「以前にもこのようなことがあった」など、未来や過去につながる思考になることがあります。そうなれば強いストレスを感じる上に、トラブルへの対処が遅れたりミスを重ねたりするでしょう。マインドフルネスを実践することで、トラブルの深刻化や複雑化を防ぐとともに、精神的なストレスを軽減できる可能性があります。 また、脳の活性化や集中力の向上など、さまざまな効果が期待できるともいわれています。 マインドフルネスが医療に応用されるまでの経緯 マインドフルネスはストレス管理やメンタルヘルスの向上に効果があるとされているため、当初は主に「ストレス緩和」に焦点を当て、看護師や医師が受ける職業上のストレス管理に活用されていました。 また、近年はマインドフルネスが不安や抑うつの症状緩和やがん患者のメンタルヘルスの改善などに役立つ可能性があることを示す論文が報告されるようになり、医療現場でも活用されるようになってきました。 マインドフルネスの医療の現場での活用例 マインドフルネスは、医療の現場で次のように活用されています。 医療従事者のストレスの軽減 医療機関では、医師、看護師、カウンセラー、セラピストなどの医療従事者向けにマインドフルネスのアドバイスが行われることもあります。マインドフルネス瞑想、ストレス管理のアドバイスなどにより、長時間勤務、患者とのエモーショナルな接触(悲しみ、怒り、不安など、激しい感情の動きを伴うコミュニケーション)、大きな責任感に由来するストレスの軽減が期待できます。 睡眠の質向上 ストレスが大きい状況下では睡眠の質が低下し、医療の安全性に悪影響を及ぼす可能性があります。マインドフルネスは不眠症の症状を軽減するのに役立つことがあるため、ストレスで睡眠不足になっている場合は試してみましょう。 患者の病気に伴う精神的不調のケア 患者は病気や治療に伴ってしばしばストレスや不安を感じます。マインドフルネスは、患者がリラックスし、精神的な安定を維持するのに役立ちます。例えば、うつ病による精神的な落ち込み、難治性の疾患に罹患した際の精神的なショックなどのケアが可能です。 マインドフルネス瞑想のやり方 マインドフルネス瞑想は次の流れで行います。 座った状態で目を閉じますゆっくりと息を吸って吐くことに集中します途中で雑念が浮かんできたら、それをあるがままに観察します呼吸に意識を戻します これを1日15~25分を毎日行いましょう。雑念に対する観察においては、過去を振り返ったり未来のことを考えたりしてはいけません。今、この瞬間の思いだけを観察します。 マインドフルネスの注意点 アメリカの国立衛生研究所によると、マインドフルネスはリスクが少ないと考えられていますが、一部の人は不安や抑うつなどが生じる可能性があります。6,000例以上を対象とした研究においては、約8%の被験者がネガティブな経験を報告しています(※)。マインドフルネスが自身に合わないと感じたときは速やかに中止しましょう。 ※厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』「瞑想とマインドフルネスについて知っておくべき8つのこと」より ほかに知っておきたい心身のリラックス方法 ストレスを軽減するための取り組みは、マインドフルネスだけではありません。ほかにも次のような方法があります。 呼吸法 ストレスを受けているときは普段よりも呼吸が早くなり、酸素を十分に取り込めなくなります。次の呼吸法で呼吸を整えましょう。 「1・2・3」と数えながら鼻からゆっくりと息を吸い込みます。このとき、おなかも一緒にふくらませましょう「4」で息を軽く止めます「5・6・7・8・9・10」と数えながら口から息をゆっくりと吐きます。このとき、おなかも一緒にへこませましょう 漸進性筋弛緩法(ぜんしんせいきんしかんほう) ストレスを感じると無意識に体に力が入ります。漸進性筋弛緩法は、次のように動作することで体の緊張をほぐす方法です。 顔や手、肩などに力を入れて5秒程度キープしますストンと力を抜いて10~20秒ほどキープします 力を抜いた瞬間、筋肉が緩んで、温かさを感じれば成功です。 * * * マインドフルネスを実践することで、そのときに起きたトラブルへの対処が可能になるほか、ストレスを軽減できる可能性もあります。また、疾患に伴う精神的苦痛の緩和にも期待できます。今回、解説した内容をご自身のストレス管理や利用者さんへのアドバイスにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 行動医学研究部「こころの健康を保つために大切なことhttps://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/selfcare.pdf(2023/9/28閲覧)〇大阪府こころの健康総合センター「三つ折りリーフレット メンタルヘルス 気軽にリラックス」(2015年3月発行)https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/13282/00000000/relax2015.pdf(2023/9/28閲覧)〇Elizabeth A. Hoge, MD1; Eric Bui, MD, PhD2; Mihriye Mete, PhD3; et al(November 9, 2022)「Mindfulness-Based Stress Reduction vs Escitalopram for the Treatment of Adults With Anxiety Disorders: A Randomized Clinical Trial」2023;80(1):13-21. doi:10.1001/jamapsychiatry.2022.3679https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2798510(2023/10/6閲覧)〇NCCIH「8 Things to Know About Meditation and Mindfulness」https://www.nccih.nih.gov/health/tips/8-things-to-know-about-meditation-and-mindfulness(2023/9/28閲覧)〇一般社団法人マインドフルネス瞑想協会「マインドフルネスとは?」https://mindfulness-association.com/mindfulness/(2023/9/28閲覧)〇川崎市.川崎市健康福祉局精神保健福祉センター「『からだ』と『こころ』のリラックス」(2021年改訂)https://www.city.kawasaki.jp/350/cmsfiles/contents/0000117/117031/singatakoronachirasi(kadadatokokonorelax).pdf(2023/9/28閲覧)

ノーリフティングケア インタビュー
ノーリフティングケア インタビュー
インタビュー
2023年11月7日
2023年11月7日

知っておきたいノーリフティングケア 看護師の腰痛予防や利用者の拘縮緩和も

看護や介護の現場では、人力で寝たきりの要介護者を移動させるため、腰痛発生率が高まり、離職率の増加につながっています。それを防ぐのが、欧州では主流の「ノーリフティングケア」です。リフトを活用して要介護者を動かすことで看護師や介護士の腰痛予防になるほか、リフトの活用そのものがリハビリとなり、利用者の拘縮緩和も期待できます。そこで、「ノーリフティングケア」の普及活動に奔走する理学療法士の下元 佳子さんに、国内外の現状やリフトを活用するメリットについて伺いました。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 〇プロフィール 下元 佳子(しももと よしこ)さん 理学療法士。17年間病院に勤務した後、合資会社オファーズを設立。訪問看護、訪問介護、子どもの通所介護の事業所を運営。「二次障害を引き起こさない福祉用具ケア」を普及させるため、一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワークを設立し、代表理事を務める。高知市内に拠点を置き、福祉用具の展示·相談、人材育成のための研修等を行っている。 ※文中敬称略 オーストラリアでは看護師がリフト活用を推進 ―リフトの存在は知っていても活用していなかったり、「ノーリフティングケア」のメリットをきちんと理解していなかったりする看護や介護の現場がほとんどだと思います。ノーリフティングケアの状況やメリット、そして、医療・介護業界に広める活動をされている理由を教えてください。 下元: 「ノーリフティング」という言葉は、看護・介護・福祉の現場から職業病としての腰痛を予防する取り組みを指します。海外に視線を向けると、欧州では1980年代からリフトを使って看護や介護することが日常になっています。 オーストラリアでは看護師の身体疲労による腰痛訴え率が上がったため、1998年に国が腰痛予防策の義務化をし、積極的に取り組んできたのです。歴史は浅いですが、人力のみの移乗を禁止して福祉用具を活用しようと、看護や介護、福祉現場での常識が変わってきています。 現地で率先して活用を広めているのが、看護師です。私は2008年にオーストラリアの看護や介護現場を見学しましたが、「なぜ看護師がリフトの活用を広めているの?」と看護師に質問すると、「患者さんをサポートする役目の私たちが、自分の体を痛めて治療費を払うなんて、話にならないわよね」と答えてくれました。質の高い仕事をするために、ムダなことはしたくないと話していたことにも、プロ意識を感じました。 ―日本とは大きく状況が異なるのですね。なぜ、日本ではノーリフティングケアの導入がなかなか進まないのでしょうか。 日本では1970年代に「重量物取り扱いルール」が制定されましたが、建設業・輸送業など「物」を対象とする業界で実践されてきました。そのため、人に対しては何の対策も取られず、介護や看護に携わる人たちの腰痛が増え続けてしまったのです。2013年に国が「職場における腰痛予防対策指針」を出しましたが、現場が実際に変わるほどの効果はなかったように思います。昨年、厚生労働省による労働災害の防止の取り組み「従業員の幸せのSAFEコンソーシアム」や、今年の「第14次労働災害防止計画」の中に、「介護はノーリフティングケアでやりなさい」という内容が、ようやく明記され始めたのが現状です。 国をあげての問題になった今、看護師や介護士、そして長時間一緒に過ごされるご家族の体を守るために、私はノーリフティングケアの普及活動に力を入れています。 看護や介護職の人たちは、「自分が要介護者の手足を動かしてケアすること」こそ、本人やご家族に喜ばれると考え、それが目標や自身への評価にしがちです。しかし、大事なのは、ご家族を含めた介護するチーム全員が自分の体をしっかり守りながら、ケアを継続すること。看護・介護のプロとしても、腰痛予防のための「ノーリフティングケア」を取り入れるべきだと思います。 日本の要介護者が屈曲状態で拘縮する理由 ―下元さんは30年以上前にカナダの医療や介護の現場へ「ノーリフティングケア」の視察に行かれ、どこに行っても拘縮(関節が固まってしまう状態)の要介護者がいない事実に驚かれたとのこと。日本ではなぜ拘縮の人が多いのでしょうか。 下元: 私が理学療法士を目指して勉強していたころは、「寝たきりなどで体を動かさないから拘縮が起こる」と習いました。でも、実際に臨床現場で働くと、寝たきりなら関節が伸展した状態で拘縮するはずなのに、なぜか上肢は肘で大きく曲がり胸にくっつき、指も握ったまま、下肢も大きく曲がり踵がお尻にくっつきそうな人が多く、不思議に思いました。 セラピーの時間に手足を動かして「少し筋肉が緩んだかな?」と思っても、看護師さんに患者さんを病棟のベッドに移してもらった途端、セラピー前の固さに戻っていることもありました。吸引して拘縮が強くなっていることもあり、もしかしたら、筋肉が緊張する状態が続くと拘縮になるのではないかと思いました。 強い刺激や速い刺激を与えると、筋肉の緊張度合は上がります。例えば、横向きに寝るように体を動かし、股関節を開くといったおむつ交換の作業でも、乱暴に動かすと筋肉は緊張します。時間が経って緊張が少し緩んでも、また次の介護ケアで筋肉が緊張してしまう。私たちのようにふーっと息を吐くなど、要介護者は筋肉の緊張を緩めるようなコントロールができません。つまり、介護ケアの連続が、筋肉の緊張状態を継続させていたのです。これは、人によって「つくられた拘縮」ともいえます。 28歳で地域の高齢者病院に転職したときに驚いたのが、拘縮で手足が屈曲し固まっている患者さんが病室にたくさんいたことです。医師からは山のように「拘縮改善」のオーダーがありました。でも1日数十分体を動かすだけでは、固くなった体を改善することはできません。カナダのバングーバーの施設を視察したのはそのころ。もう30年前の話ですが、拘縮している要介護者はいませんでした。その後に行ったデンマークやオーストラリアでも、生活習慣による円背はあっても、日本でたくさん見るような拘縮した人はいなかった。つまり「ノーリフティングケア」を実践している国では、拘縮している要介護者がほとんどいないのです。 ―リフトの活用が拘縮を防ぐということでしょうか。逆に、筋肉が緊張しそうなイメージもあります。 下元: 吊り上げるときは、大腿後部と背中全体をシートで支えます。広い範囲でしっかり体重を支えながらゆっくり動かせば緊張するどころか、逆に緊張を緩めてくれるのです。だから我々は、「要介護者を抱え上げられないからリフトを使おう」ではなく、「筋肉の緊張を緩めるためにリフトを使いましょう」と在宅介護や医療現場で提案します。拘縮を改善する道具として使えることを、ぜひ多くの看護・介護・福祉の現場で働く人々に知っていただきたいです。 嬉しそうにリフトを利用している利用者さんの様子 ベッドからの移動にリフトを活用(左)。利用者さんのお母様の負担が軽減した。また、体幹トレーニング(中央)や、リラクゼーション(右)にもリフトが活用されている 私が活動する高知県では、全国に先駆けて「ノーリフティングケア」に取り組み、2015年からモデル施設をつくっています。8年経ちますが、拘縮の方が本当に減りました。県外から視察されに来た方を施設にお連れすると、ホールに座っている高齢者を見て、「高知県は特養介護度が低いのですか?」と皆さん同じことをおっしゃいます。日本には拘縮している高齢者が多いので、「自分で自由に動けない介護度が高い人=拘縮している」というイメージなのでしょうが、「ここにいる皆さんは要介護度5ですよ」と伝えると必ず驚かれます。 リハビリもやらなければと思う看護師たち ―先生は、訪問看護師を養成する県のプログラムで講師もされていると伺っています。受講される看護師は「ノーリフティングケア」についてどのようなイメージを持っているのでしょうか。 下元: 年2回、「在宅リハビリテーション」というテーマで1日研修の講師を担当しています。最初に「在宅リハビリテーションに、どんなイメージありますか?」と質問すると、「ベッド上の要介護者の手足を動かす」と看護師さんたちは答えます。私は「リハビリテーションとは、そういうことではない」ということから講義を始めるんです。 理学療法士や作業療法士が不在の介護現場では、「自分がリハビリの仕事をしなければ」と考える看護師さんが多いようです。「リハビリのやり方を教えてください」と看護師さんからよくお願いされますが、「要介護者の手足を動かすことが理学療法士や作業療法士の仕事ではない。週に一度や二度それを実施しても拘縮は予防できません。ケアを変える提案をする方が大事であり、成果が出ます」と伝えます。そして、「リフトで吊り上げてゆらゆら動かすと体の緊張が緩んできます。ベッドの上で要介護者の手足を動かすよりも拘縮予防になります」と説明すると看護師さんたちは驚かれ、「リフトを活用したい!」とおっしゃるのです。 ―リフトを実際に使っている方やそのご家族の様子を教えてください。 下元: リフト利用者やそのご家族は、活動的になる傾向があります。 玄関リフトや電動車いすなどを活用してお出かけをする利用者さん。「人に相談する」「福祉用具を使ってゆとりを作る」ことで、お母様の負担を減らしながら活動量を増やし、暮らしが豊かになった リフトは自費でレンタルできるので、ホテルに設置してもらって1泊2日で国内旅行に行く方もいます。私の勤務先のリフト利用者も、海外旅行を楽しんでいました。リフトの活用が進んでいる海外のほうが手配しやすいとも思います。その方は70代の男性で、難病が進行し、昨年、人工呼吸器を装着されました。在宅介護は厳しいかもと思いましたが、家に戻って来られたんです。「帰ってきたんですね」と言うと、「いやいや息ができなくなっただけでしょ?」とおっしゃる。病気の進行に合わせて補助器具を導入する生活を送り、リフトさえあれば在宅介護ができるんじゃないかという前向きな考えに至ったのだと思います。奥様もリフトとヘルパーさんの力を借りることで、仕事を辞めることなく在宅介護ができると判断されたようです。 リフトを活用している筋ジストロフィーのお子さんは、体が動かないので床に置かれるだけで大泣きする状態でしたが、今は移乗に使うだけでなく、吊り具を使って立ち上がり、1時間ぐらい遊んでいます。干している洗濯物を落として喜ぶなど、ちゃんといたずらができることも発達の表れです。 体調を崩して入院すると、「帰る、帰る」と言うそうです。「帰って何をするの?」と聞くと、ブランコに乗るようなしぐさをして「家でリフトに乗りたい」と主張する。動ける自由に楽しさを感じているのでしょう。 リフトを使えば起きたいときに起きられるし、ラクに車いすに乗れて移動できるようになるので、要介護者とご家族のQOLは確実に上がります。利用者の奥様に、「リフトはどんな存在ですか?」と尋ねたら、「相棒」とおっしゃっていました。「子どもたちに夫の移動を頼むと嫌がられるけれど、リフトは1回も嫌って言ったことがないのよ」と話されていたことも印象的でした。 >>後編はこちら在宅に「ノーリフティングケア」の導入が難しい…は誤解? ※本記事は、2023年8月時点の情報をもとに構成しています。 執筆: 高島 三幸取材・編集: NsPace編集部

インタビュー
2021年8月13日
2021年8月13日

オーストラリアで出会った訪問看護の魅力/海外訪問看護

オーストラリアでは訪問看護師特有の業務形態により、長年従事する看護師が多いため、求人の空きがなかなかないそうです。また、急性期、慢性期に分業されているため高いスキルが求められます。今回お話を伺った本田一馬さんは、オーストラリアで看護師資格を取得し、さまざまな経験を経て急性期の訪問看護師になりました。これまでの経緯や働き方、日本との違いについてご紹介します。 オーストラリアで訪問看護師になるまで Q 訪問看護師を目指したきっかけとは 高校卒業後に語学留学のために中国へ渡りました。その後、オーストラリアに移動したので、看護師資格を取得したのは27歳のときです。当時、オーストラリアでボランティアをしていて、そのなかで「看護師になってみてはどう?」と声をかけていただいたことがきっかけとなり、看護の道に進みました。 学生最後の実習で訪問看護を経験し、今までのクリティカルな領域とは大きな違いを感じました。患者さんと関わる中で、医学的な治療よりも住み慣れた家や家具、愛するパートナーやペットたちに囲まれた環境で、話を聴いてもらうことが一番の特効薬になり、大きな力が生まれることに気が付いたんです。 卒後はすぐにでも訪問看護師として働きたいと懇願しましたが、スタッフは経験8年以上のベテランばかり。師長からは「経験を積んできなさい」と諭されてしまいました。その言葉通り、救急外来や集中治療部、研究や老人ホーム勤務などの経験を積みました。その後も訪問看護の魅力が忘れられず、採用枠が空くのを待ちました。そしてある時、奇跡的にも1つポジションに空きが出たことで、念願だった急性期訪問看護師チームの一員になることができました。急性期訪問看護チームはなかなか求人情報が出ないこともあり、私の働いている医療機関ではゴールデンジョブと呼ばれることがあります。 急性期の訪問看護師の仕事 Q 急性期に特化した訪問看護とは オーストラリアの訪問看護は急性期と慢性期に分かれており、急性期では、1日3~4人の患者さんを訪問しています。1人当たり、約1~2時間かけて看護ケアを提供しています。また、日本でいうオンコールのような夜間対応はなく、必要があれば速やかに救急外来の受診をすすめています。 おもな仕事は、蜂窩織炎、骨髄炎、肺炎などを患った患者さんに在宅で抗生物質の投与を行うことがメインとなります。ほかには乳房摘出術後のドレーン管理などです。オーストラリアでは、ドレーンの抜去や抜糸なども看護師が行います。 急性期訪問看護チームの役割は、患者さんをできるだけ地域で看ることによって病院への入院を防ぐことです。そして容態が安定していても継続した点滴管理が必要な患者さんを、私たちのチームで受けることによって早期退院を目指し実現させることです。 患者さんの紹介は個人医院や病院からの紹介になりますが、入院されている患者さんが在宅でケアすることが可能かどうか退院前に確認し、難しそうであれば医師に対して意見することもあります。在宅では1人でケアすることになり、責任もありますからね。実際に働いてみて、やはり高い知識と技術、判断力が必要だなと感じます。経験や場数を踏んでいく必要があるという考えの方が多いですね。医療アシストを呼ぶことができない状況の中、とっさの判断を迫られたときに、いろいろな経験がとても役立ちます。 訪問看護ならではのかかわり Q 訪問看護師としてのやりがいとは 乳房摘出後のケアは男性看護師が介入しにくい部分ではありますが、まずは、患者さんと患者さんを取り囲む家族の皆さんと信頼関係を築くことだと思います。在宅なので、旦那さんが同席するケースが多くあります。一般的に女性としてのシンボルとして認識されている体の一部を失ってしまった妻を、少し離れたところから心配そうに見つめる旦那さん、そして、その妻に対して「どのように接していけばいいのか。」と悩む旦那さんは少なくありません。そういった家族の気持ちも含めたケアを行います。男性だから話せることがあったり、言いづらいことを引き出したり、家族全体のケアをいかにホリスティックに見ていくのかが大切ですね。 ただ、コミュニケーションが英語なので、細かいニュアンスが伝わりにくいことはあります。オーストラリアは多文化なので、患者さんの文化背景によって話し方やアプローチのしかたを考慮し、その患者さんに合った看護ケアを提供するよう心掛けています。もし、言葉が通じなくても、「自分のことを気にかけてくれている。」という姿勢が患者さんに伝わると信頼関係の構築につながり、コミュニケーションや看護ケアの提供がスムーズになるという経験をたくさんしています。そこがやりがいにもつながっていますね。 急性期の訪問看護は、一人ひとりにケアをする時間が長く取れることが魅力の一つだと感じます。もちろん、医師とも意見の交換をしますし、患者さんのために常に疑問を持って問いかけるようにしています。医師の言ったことがすべてとは捉えずに、納得できなかったことはとことん話し合います。看護師主体で率先して動けるので、ここもやりがいの一つですね。 日本とオーストラリアの懸け橋に Q 今後のビジョンについて 今は色々な意味で自分の視野や可能性を広げるために、大学院で修士課程(プライマリーヘルスケア看護)の勉強をしています。このまま学業に励み、博士課程まで勉強できればと思っています。博士課程取得後には、オーストラリアと日本のさらなる共同看護研究の発展や看護技術のエクスチェンジプログラムなどに加担する事で、お互いの科学的な看護実践の質を高め、より一層、患者のニーズに沿った安全で高度な看護ケアの提供につながればと考えています。日本からオーストラリアに留学や短期プログラムに参加する学生にも、グローバルな視点が身につくように色々な経験ができるような支援もしていきたいですね。お互いの文化を大切にしながら良いアイディアを取り込んでいくことで、良い変化が生まれ、最終的には患者さん、そしてコミュニティーの健康へつながると信じています。 また、知り合いの同僚が日本に行った時の感想を聞くと、とても親切であり、素晴らしい国だと言ってくれます。そんな自分の国を誇りに思います。日本の先輩や後輩の方々に、少しでも役に立つことができるよう精進していくことが最優先だと思っています。 ** Registered Nurse Nurse Immuniser Central Coast Local Health District Acute Post Acute Care Team (急性期訪問看護所属) 本田一馬 【略歴】 2010年 ニューカッスル大学 (オーストラリア) 医学部看護学科卒業 2011年 オーストラリア連邦内閣総理大臣賞を受賞し、山口大学へ客員研究員非常勤講師として赴任 2014年 主任看護師Aurrum Erina (高齢者介護施設) 2015年 正看護師 急性期内科 (Gosford Hospital, Australia) 2018年 急性期訪問看護師 Acute Post Acute Care Team, Gosford Hospital 2020年 シドニー大学 医学部保健学科修士課程 Master of Primary Health Care Nursing 入学 2021年 Nurse Immuniser として急性期訪問看護の傍、ワクチン接種業務に従事 Facebook:https://www.facebook.com/KazyAus Twitter:@KazumaHonda Instagram:kazuma_honda_aus

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

海外のモデルを日本に適用する難しさ

前回は、吉江さんにビュートゾルフのフラット型のチームの効果について伺いました。 今回は、ビュートゾルフ流のチーム運営として「マニュアルを目的化しない」とはどういうことなのか、オランダ型をどのようにして日本に取り入れたのか、経緯やアレンジについて伺いました。 日本とオランダの違い ―日本とオランダの違いによる運営の難しさ、みたいなものはありますか? 吉江: 当時のオランダも日本と同じように医療保険や介護保険の制度があり、民間参入が進んでいて、ピラミッド型の組織が基本でした。また、制度的にも日本の介護保険と同様、細分化されている部分が多くありました。 その結果、看護師ではない人がエリアマネージャーとして指令を出しており、看護師自身が、自分のしたい看護を考えながら進めていくのが難しい状況でした。この状況は、日本も似ていると思います。 ただ、実際ビュートゾルフを日本でどのような形で運営するかは、細かい部分で色々と考える必要がありました。 例えば、オランダのビュートゾルフは短時間で頻回な訪問を狭い範囲でやるスタイルです。これは日本における定期巡回・随時対応型訪問介護看護というサービスに近い形だと言われています。 けれど、もし柏で定期巡回をはじめたところで既存のサービスと競合してしまい、オランダの様にはいかないなと思っていました。 また、オランダでは介護も看護も区別はされていないのですが、日本では介護職と看護職の壁と言いますか、「看護職は医療職」「介護職は福祉職」と考えられているように感じていました。 そこで、日本ではまず看護だけにフォーカスすることにして、訪問看護ステーションの事業形態でやっていこうと決めました。 日本の訪問看護ICT ―ICTについては、オランダに比べて日本はどうですか? 吉江: ICTはオランダの方が優れていると思います。現場の声をすくい上げながら作り続けているところが良くて、本場のビュートゾルフでは創業当初からICTに詳しい人たちをコアメンバーに入れて、株式会社と非営利の組織と表裏一体でやっています。なので、日本ではどう運用したらいいかと悩みました。 訪問看護の記録システムはどこかが圧倒的なシェアを持っているということではなく、バラバラと散在していて、仕様も統一感もない状況でした。 ICTに関しては日本のビュートゾルフとしてやれることはそんなに多くはないと感じましたね。 事業としてシステムを作っても、昔から訪問看護の業界にいる方たちに受け入れてもらうのは難しいと思ったので、私としては研究者側の立場で全国標準化を進めていければいいなと、思っています。 職能団体などの力を借りてやった方がスムーズだと思い、厚労省の研究事業などを通して、長い目で取り組んでいます。 ビュートゾルフとして何かやろうというこだわりは特になくて、色々な方法でやりたいことを実現していきたいと思います。 一般社団法人Neighborhood Care 代表理事 / 東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員 / ビュートゾルフ柏代表 / 看護師・保健師 吉江悟 東京大学に入学後、看護学コースに進学し、看護師の資格を取得。大学卒業後は、大学院の修士課程と博士課程に進学。並行して保健センターや虎の門病院に勤務。大学院卒業後は、東大の研究員や病院での非常勤講師と並行して、在宅医療のプロジェクトに関わるようになる。2015年に、研究として関わっていたビュートゾルフを日本でも展開するプロジェクトとして、ビュートゾルフ柏を立ち上げ、代表に就任。現在も、看護師として現場に関わりながら、研究員としてさまざまなプロジェクトに参加し、臨床と研究の両立を大切にしている。  

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

オランダの在宅医療を変えた「ビュートゾルフ」とは

「ビュートゾルフ」は九州ほどの広さのオランダ国内で、10年で急成長した組織です。 約850チーム、1万人の看護師や介護士が活躍し、医療費・介護費抑制にもつながるしくみとはどんなものか。ビュートゾルフ柏代表の吉江さんにお話を伺いました。 「ビュートゾルフ」とは? 吉江: 「ビュートゾルフ」はオランダ語で、地域看護、ご近所ケアといった意味です。 ビュートゾルフが目指すのは、看護師が自分のやりたい看護を存分にした結果、利用者さんも喜んでくれるような、仕事のしかたや、チーム運営、組織モデルです。 この考え方を実現するため、ICTの積極的活用や、小規模なチーム運営、階層をなくしたフラットな構造化が進められました。 結果、ほかの組織より利用者1人あたりの医療費や介護費も安くあがることもわかり、看護師も利用者さんも国もうれしい「三方よし」のモデルとなりました。このビュートゾルフを日本に導入したのが、ビュートゾルフ柏です。 フラット型のチーム運営 ―フラット型のチーム運営をされているとのことですが、どんなメリットを感じますか? 吉江: 私自身は形式的には訪問看護ステーションの管理者をしていますが、実質的にはほとんどの役割をチームメンバーで分担して手放してしまっています。 不謹慎かもしれませんが、とても気楽に運営ができています。管理業務が大変で自分が訪問する時間がとれないということもありません。 私も含め、看護師の中には管理業務が好きではないという方が多くいると思います。そういう方が管理者をやる必要がある場合、フラット型にチームを作るのは悪くない方法だと思います。 ただ、フラット型が良くて、ピラミッド型が悪いとは思っていません。例えば、今の事業所を5年ほど続けてみて、フラットな形が合いそうなメンバー、必ずしもそうではないメンバーがいるような体感があります。 難しいのは、個々の特性や好みはありつつも、チームとしてマネジメント方針をある程度決める必要がある点です。そういう場合は、チームミーティングでしっかり話し合って決めるのが大切だと思います。 ―入職したばかりの看護師が意見を言うのは、難しそうに感じますが・・・ 吉江: 私が法人代表で管理者でもあると、古くからのメンバーはフラットに接してくれますが、新しい人だとなかなか反論を述べるのが難しいということは、あります。 これに対しては、オランダのビュートゾルフで用いられているように、経営者とは異なる人にコーチの役割を与えて独立した存在として機能させるなどの方法が有効だと考えています。 ―フラット式の組織は珍しいので、そういった体制に慣れない方もいるのではないでしょうか? 吉江: ピラミッド型の運営で慣れていると、悩む人はいます。そういう方はベテランの方に多い気がします。逆にピラミッド型の組織での経験がない若い方などはわりと「そういうものだ」と思って働いてくれる気がします。 ―給与面はどうされていますか? 吉江: チーム運営の中で、一時的に誰かがある機能持つことはありますが、基本的にスタッフ全員がすべてのことに関わる可能性があるため、給与に差はつけていません。 これは公表していることなので、採用時は基本的にみなさんに、そこは了承していただいています。 チーム運営で大切にしていること ―チーム運営で、吉江さんが大切にしているのはどんなことでしょうか? 吉江: 私がよく言うのは、「安易に決めごとを作ろうとせず、本当に基本的なルールだけ決めよう」ということです。看護師がやりがちなのが、問題が起こった時にすぐにマニュアルを作り、満足することです。しかしこれでは、作った人は内容を熟知しているけど、ほかの人はよく知らないということが起こります。 また、本来遊びがあるような領域でもマニュアルを作ってしまうことで、逆に思考停止に陥ってしまうこともあります。マニュアルが悪いわけではないですが、マニュアルを作ることが目的化してしまうことは、良くないと思っています。 何か困ったことがある場合は、何も指針がないと身動きも取れなくなってしまうので、本当に基本的なルールだけ決め、ある程度の臨機応変さを持つことを大切にしていますね。 一般社団法人Neighborhood Care 代表理事 / 東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員 / ビュートゾルフ柏代表 / 看護師・保健師 吉江悟 東京大学に入学後、看護学コースに進学し、看護師の資格を取得。大学卒業後は、大学院の修士課程と博士課程に進学。並行して保健センターや虎の門病院に勤務。大学院卒業後は、東大の研究員や病院での非常勤講師と並行して、在宅医療のプロジェクトに関わるようになる。2015年に、研究として関わっていたビュートゾルフを日本でも展開するプロジェクトとして、ビュートゾルフ柏を立ち上げ、代表に就任。現在も、看護師として現場に関わりながら、研究員としてさまざまなプロジェクトに参加し、臨床と研究の両立を大切にしている。

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