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コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
インタビュー
2023年1月17日
2023年1月17日

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第13回は、演劇というツールを使いコミュニケーション教育に取り組んでいる劇作家・演出家の平田オリザさんと、医療や教育に必要なものについて話し合った。(内容は2018年7月当時のものです。) ゲスト:平田オリザ劇作家・演出家こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。国際基督教大学教養学部卒業。1995年「東京ノート」で第39回岸田國士戯曲賞受賞。大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事長、埼玉県富士見市民文化会館キラリ☆ふじみマネージャー、日本演劇学会理事などを歴任。 医師の診療は患者との対話である 川越●平田さんは、劇作家、演出家としてだけでなく、教育の現場や自治体の依頼で演劇を用いたコミュニケーションデザインを教えていると伺いました。コミュニケーションをデザインするとは、どのようなことなんでしょう。 平田●たとえば「患者が医者に質問しにくいのは、医者が高圧的なのではなく、病院に来るまでに交通機関を乗り継いでへとへとになっているからかもしれない。それなら交通行政を変える必要があり、医療行政だけでは解決しない」というのがコミュニケーションデザインの考えかたです。 川越●がん治療中の人が、電車やバスを乗り継いで1時間以上かけて病院に来ても、外来で医師と話すのはせいぜい15分。医師がその時間で何もかも説明するのは難しく、ましてや患者さんが的確な質問をするのはより難しいでしょうね。 平田●あるセンテンスのなかで、本当に伝えたいこと以外の言葉がどれくらい入っているかを、冗長率といいます。家族との世間話がいちばん冗長率が高いように思えますが、ふだんの会話では、実は冗長率はそんなに高くならないんです。 川越●言いたいことだけを言っているわけですね。 平田●そうです。いちばん冗長率が低いのは、長年連れ添った夫婦間の「飯、風呂、新聞」という会話です(笑)。逆に冗長率が高くなるのは「会話」ではなく「対話」なんです。異なる価値観のすり合わせや新しいことを伝える瞬間なので、どうしても時間がかかってしまう。 川越●医者と患者の関係がまさにそうですね。医師の診察が「対話」だという認識はなかったです。どうしても問診をして、説明するという感じになっています。 平田●いわゆる家庭医、ファミリークリニックで実績のある方たちは、そこがうまい。 都会でも地方でも子どもの地域社会がない 川越●これだけコミュニケーションが大事といわれるのは、現代社会は人と人とのつながりが希薄になってきているからでしょうか。 平田●コミュニケーション能力とは本来、子どもがままごとやごっこ遊びで自然に身につけるものなんですが、少子化や核家族化、地域社会の崩壊などで、そういうことを経験していない子が増えています。特に小学校から私立だと、まず地域社会がない。 地方でも少子化で、隣の友だちの家まで1時間とか、学校の統廃合が進んでスクールバス通学になると、寄り道ができない。子どもにとって通学路ってとても大事なコミュニケーションの場所なんですが、社会が合理的になっていくと、どんどんコミュニケーションの機会が失われます。 川越●確かに電車通学だと、放課後一緒に遊べないですね。 平田●それに習い事などで忙しくて、同じ階層の子としか付き合わなくなってしまう。都心部だと7~8割が中学受験をするので、地域社会が完全に崩壊しているわけです。 川越●都心に住んでいても、遠くの大病院にわざわざ1時間かけて行くのと似ていますね。 平田●私は都内の国立大学でも教えているんですが、学生の8割が男子、7割が関東出身、6割が中高一貫校の出身で、ディスカッション型の授業をやっても、みな同じ意見になってしまう。「貧乏って何?」という感じで、実感としてわからないんですね。 川越●在宅医療はご自宅に行くので、さまざまな家庭があることを自然に経験できて、医療は画一的にはできないことを学ぶんですが、病院しか知らないと、ベッドの上の患者さんは生物としての対象になってしまうのと同じですね。 勉強はできても異性とちゃんと話せない 平田●ある進学校で演劇教育を取り入れているんですが、男子校なので、うちの劇団に「女性との付き合いに慣れさせたいので、そういう劇をやってほしい」というオーダーがくるんです。 それで行ったら、うちの女優が初対面の高校生にいきなり「バストいくつですか」と聞かれたことがあって、保護者会などでこの話をすると、さすがにお母さんたちも焦る。だってそういう子たちが弁護士や医者になるんですから(笑)。勉強はできても、異性とちゃんと話せないんですね。 川越●男性の生涯未婚率が23パーセント(注:2018年時点で最新のデータであった2015年数値)という現実もあり、均質化やコミュニケーション能力が乏しいことが少子化の原因の一つかもしれません。男女交際の話は、もう国家施策としてやったほうがいいかもしれませんね(笑)。でないと国が滅びます。 文化による社会包摂の機能が見直される 川越●これから都市部では孤独死などが増えていくと思いますが、あれはインフォーマルな見守り機能が崩壊しているからだと思うんです。 平田●あとは行政もなかなか手が出せないようなごみ屋敷の問題。あれも完全に社会と隔絶してしまった結果でしょうね。 川越●毎日、何らかのかたちで自然に社会とつながっていれば、そういうことは抑止されるかもしれないですね。 平田●最近、文化による社会包摂機能というものが見直されています。何でもいいから、とにかく社会とつながっていてもらいたいと。 川越●コミュニティとしてのつながりが増えないかぎり、包摂機能は尻すぼみになって、ごみ屋敷や孤独死として顕在化するのでしょうね。 今まで、学校は知識を与える場所、医療機関は医療を施す場所のように思われていましたが、そんな単純な話ではなくなっていて、これからは社会のあらゆるところにコミュニケーション教育をビルトインしていくことが求められているんですね。 >>次回「命まで責任を負う団地自治会のまちづくり」はこちら あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年7月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
特集
2023年1月17日
2023年1月17日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その1:なぜ連携しにくいのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第7回は、連携がしにくいと評判のドクターについて、なぜ連携がしづらいのかについて多角的に考えます。 はじめに 「ドクターをどう動かせばいいのか」という悩みは、看護管理者の方からよく聞くテーマです。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか   「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?   設問 あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 連携しにくいと評判の医師について 講師このケースで議論したいことは、「管理者として連携しにくいドクターをどのように動かすか」です。その前にまず、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、そのK医師に関係する周囲の人々の状況について、皆さんはどのように考えますか? Aさん注2K医師はふだんは大学病院で働いていますし、在宅医療の経験があまりないので、訪問看護の状況をよくわかっていないと思います。こういうことってよくあるのではないでしょうか。 Bさんすごく対応のよい医師とそうでない医師の差が大きいですよね。もともとの性格などもあるかもしれませんが、医師の経験や価値観が、在宅医療へのかかわりに影響していそうだと個人的には思っています。ここは訪問看護としてはどうしようもないですが。 Cさん医師はどうしても治療に目が行きがちなのかもしれません。特に、病院勤務で、在宅の経験があまりないとその傾向が強い気がします。でも訪問看護の目的は、在宅生活の維持・向上です。私の経験上、ここが一致しないためになかなか話が進まないことがよくありました。 DさんK医師は、利用者の状況を、診察時点の「点」でしかみていないのではないかと思います。利用者やご家族のなかには、「医師に生活全体の状況や困っていることを率直に伝えられない」という人もいらっしゃいます。 「連携しにくいと評判の医師について」の小括 最初の議論は、「連携しにくいと評判のK医師の特徴やそのK医師に関係する周囲の人々の状況について」、それぞれの考えを出しあいました。 これらの発言は、①個人の特徴 ②多職種連携の際に生じる問題、の大きく二つに分類できます。 ①K医師の特徴・本業は病院の医師であり、かつ在宅医療の経験があまりない。・在宅医療への理解が不足しており、自己の価値観を優先している。②多職種連携の際に生じる問題・K医師は治療を、訪問看護は在宅生活の維持・向上を目指しており、目標が一致していない。・医師の立場では、看護師に比べて、利用者の細かな生活状況がわかりにくい。 発言をこのように分類してみると、管理者として働き掛けることができる部分は、②多職種連携の際に生じる問題であることが、参加者のみなさんには見えてきたようです。 次回は、「なぜ連携がうまくいかないのか」について、この二つの面から考えていきます。 >>次回「その2:なぜ連携がうまくいかないのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護
【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護
特集 会員限定
2023年1月10日
2023年1月10日

【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護

2022年9月30日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「『だから』が分かると腑に落ちる精神看護」。講師として登壇してくださったのは、精神看護専門看護師であり、現在は訪問看護事業を展開する株式会社N・フィールドで広報部長を務める中村創さんです。病院での勤務や「べてるの家」での生活経験をふまえ、訪問看護現場での精神疾患を抱える患者さんとの向き合い方、看護師にできることなどを教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】中村 創さん 株式会社N・フィールド 事業管理本部 広報部 部長/精神看護専門看護師/公認心理師精神看護専門看護師として、急性期病棟や閉鎖病棟を含む複数の病院に勤務。精神疾患を抱えた方々の地域活動拠点である「べてるの家」の一室で暮らし、当事者研究のイベント運営にも携わる中で、地域の受け入れ体制を整備する必要があると実感する。訪問看護にその可能性を感じ、2019年より株式会社N・フィールドで活動。 目次 ▶ 精神看護では患者さんとの関係構築が重要 ▶ 感情をぶつけられたらその裏側を想像しながら対応を ▶ 統合失調症の看護では「安心」を一緒につくる ▶ 自殺を考える人との対話では、自殺の話題から逃げない --> ▶ 精神看護では患者さんとの関係構築が重要 精神疾患の治療において、優れた臨床成績を出している療法を学び、実践することはもちろん大事です。しかし、患者さんと治療者との間に関係が構築されていなければ、どんな療法も効果が発揮されないと私は考えています。 また、私が病院、訪問の別なく看護の現場で何よりも重要だと実感しているのは、「患者さんの語り」に耳を傾けること、「この人になら話してみよう」と思ってもらえる関係を構築することです。安全が担保されている関係が構築されなければ、患者さんが語り始めることはありません。 ▶ 感情をぶつけられたらその裏側を想像しながら対応を 臨床で患者さんから怒りをぶつけられた経験がある方は少なくないと思います。そんなときは、「怒りの裏側」に思いを巡らせると、同じ場面が違って見えます。 人は、他者との関わりにおいて自己が傷つくのを防ぐため、つまり自己防衛のために怒りを手段として使うことがあります。もしくは、相手を支配し、自分が主導権を握りたいときにも怒りを用います。 このように、怒りの奥には何らかの思いが潜んでいます。そして、怒っている瞬間は心に余裕がなく、根底にある「自分が傷つけられそうになっている」「相手を思いどおりにしたい」「正しいのは私」といった思いを修正することはできません。 臨床で患者さんの強い怒りに触れたとき、そういった怒りの感情を無理に鎮めようとするのではなく、鎮まるのを待つほうがいいでしょう。精神看護においては、こうした「見えない部分」を想像しながら対応を考えていくことが重要になります。 ▶ 統合失調症の看護では「安心」を一緒につくる 統合失調症は、英語で「Schizophrenia」といいます。「schizo」は分裂、「phrenia」は連想という意味です。頭の中で情報をまとめる、統合することが難しくなる状態です。急性期では、自他の境界が分からなくなり、強い恐怖を感じています。怖くてしかたがないから眠れなくなり、さらに神経が過敏になって、症状も強くなります。 そんなときに私たち看護師ができるのは、「あなたは安全だから大丈夫」と説得することではなく、患者さんが安心できる環境を一緒につくること、相手の内側で何が起こっているかを想像し寄り添うことです。「説得は無理に抑えつけようとする行為である」と心に留める必要があります。 また、看護師自身が「この状態はいずれおさまる」と信じることも重要です。念じるだけでも構いません。看護師の回復への信頼は、患者さんにも伝わります。その信頼が伝わることで少しずつ気持ちが落ち着き、話ができるようになっていくのです。 ▶ 自殺を考える人との対話では、自殺の話題から逃げない 自殺の行動化で搬送される人の中には、周囲からみれば些細に思える動機を淡々と話される方もいます。例えば、「水たまりを踏んで靴下が濡れたので死のうと思いました」といった具合です。耳を疑ってしまいますが、これは、その人が行動を起こす瞬間に至るまでに、多くの荷物を背負ってきたからです。靴下が濡れた瞬間、積荷の重さが限界を超えてしまったということです。 そんな精神状態にある方は、視野が狭くなり、自殺という選択肢しか見えなくなります。「自殺が唯一の解決策」と考えるようになり、周囲にいるかもしれない家族や仲間、支援者が見えなくなっているのです。 そうした方と対話する際、私たちは誠実な態度で話を聴かなければなりません。自殺の話題から逃げず、はっきりと尋ねましょう。例えば、私は「今死にたいという気持ちはどのくらいでしょうか?」「『死なない』と私に一言いってもらえませんか?」などと伝えます。真正面から受け止める人が「そこにいる」ことが、自殺を思いとどまるひとつのファクターになります。 また私たち看護師は、一人で抱え込まないことも大切です。チームのメンバーに状況を共有し、個人ではなく、チームで対処するという姿勢で臨みましょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
特集
2023年1月10日
2023年1月10日

困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、中堅訪問看護師が出会いがちな困難事例を取り上げ、精神医学で解消できる部分をアドバイスしていきます。 対応困難例に生かす精神医学的アプローチ 今回の対象である中堅訪問看護師は、受け持ちの患者さんに難しいケースが多いため対応に苦慮するあまり、ご自身のメンタルヘルスに影響することも多いようです。そこで訪問看護師の精神的負担を少しでも軽減できるように、対応困難例への精神医学的アプローチの方法を紹介しましょう。 中堅の訪問看護師が直面する関わりの難しいケースの中には、精神医学で言う「パーソナリティ障害」や「発達障害」の方がいらっしゃるように思われます。特にパーソナリティ障害の患者さんの場合、ご本人は「普通のこと」「常識的なこと」と思い込んでいることが多くあります。そんなとき、「できないことはできません」とお断りすると、「裏切られた」と感じられてしまうこともあります。こうした反応は、訪問看護師にとってはとてもストレスフルで疲弊してしまいます。 そこで今回は、接し方が難しい患者さんへの対応に役立つ、精神科の知識をご紹介します。特に看護の現場で困ることの多い、「パーソナリティ障害」と「発達障害」を取り上げ、それぞれの疾患の特徴と対応をお伝えしますので、ぜひ現場でお役立てください。 パーソナリティ障害の患者さんの特徴と対応 まずは、クレーム対応の話でも話題に上がるパーソナリティ障害に比重を置いてお話しします。なお、パーソナリティ障害にはいくつか種類がありますが、ここでは「境界性パーソナリティ障害」を取り上げます。境界性パーソナリティ障害は期待感に関しての問題を持っています。自分の常識を世間の常識だと思い込み、自分の思いを相手がくみ取ってくれると過剰に期待して、断られるといった期待外れに直面すると激怒するのが特徴です。 「付かず離れず」で過剰な期待をさせない 対応方法としては期待をさせないことが大事です。具体的には「すべての要望に応えることはできない」と相手に伝えます。少しストレートで言葉が悪いように聞こえてしまうかもしれませんが、言い換えたフレーズとしては「ここまではできて、これ以上はできない」となります。一定の距離を保つということです。これは「付かず離れず」の関係であり、大きく距離を取ったり見捨てたりすることではありません。 境界性パーソナリティ障害の人は一度行ったサービスの基準を下げると「嫌われた」「見捨てられた」と思う傾向があります。こちらが親切心から一度だけした行為を「次回もまたしてくれるのでは」と思ってしまい、過剰な期待を寄せてしまうのです。この心理は思い当たる人も多いと思いますが、境界性パーソナリティ障害の人では期待外れのときの落ち込み具合や怒り具合が病的に強いのです。 例えば、パートナーからのクリスマスプレゼントで考えてみます。2年前は「3万円のネックレス」で、去年は「3万円の指輪」でした。そして、今年は「5千円のマフラー」でしたとなるとショックを受け、嫌われたのだろうか? 他に好きな人ができたのだろうか? と大きな不安を感じてしまうと思います。大概はそこで我慢するのですが、境界性パーソナリティ障害の場合、我慢ができず、大声を出したり、暴力をふるったりと、過剰な反応や行動に出てしまうのです。 いつもと変わらないケアをいつもと同じように提供する 大事なことは常に一定のサービスを提供し、それ以上の過大な期待を抱かせないことです。サービスという言葉から「いつもよりも喜ばしいことを相手に提供する」というニュアンスを抱きがちかもしれません。しかし、トラブルにならないサービスとは「いつもと変わらないものをいつものように提供すること」なのです。 私の診療は、境界性パーソナリティ障害の人に対してかなり淡々としていると診察を見学した研修医から言われたことがあります。「いつもの先生がいつものように診察をしてくれて、特別なこともせず見捨てることもせず、裏切らない世界が診察室にあるという安心感」が狙いなので、それでいいわけです。境界性パーソナリティ障害の人は、最初は愛想のよい人が多いので、こちらも気分をよくしてしまい特別扱いしてあげたくなるのですが、そこはぐっとがまんして常に同じ内容の看護を提供し続けてください。 チームで対応方法を情報共有する 境界性パーソナリティ障害の人に関しては情報共有も大事です。なぜなら自分だけが特別なことをしないように心がけていても、他の人がはみ出たことをやってしまうと「あの人はやってくれたのにあなたはやってくれないのか」ということになるからです。 他にもトラブルを起こしやすいパーソナリティ障害に「自己愛性パーソナリティ障害」と「反社会性パーソナリティ障害」があります。パーソナリティ障害のタイプの中でもいずれもトラブルを起こしやすいB群パーソナリティ障害に属しています。興味のある人は調べてみてください。 発達障害の患者さんの特徴と対応 主な発達障害に注意欠如・多動症(ADHD ※1)と自閉スペクトラム症(ASD ※2)がありますが、ASDの患者さんへの対応を知っておくとよいでしょう。 パーソナリティ障害もコミュニケーションがうまくいかないといった特徴がありますが、比較的社交的な人もいらっしゃり、コミュニケーションが巧みでこちらを操作してくるケースもあります。それに対し、ASDの人は人間関係やコミュニケーションが苦手でうまく意思疎通が図れません。 伝えたいことは口頭ではなくメモを活用 ASDの人は細かいことにこだわってしまい、全体的に大切なことを見渡すことができません。こだわりのあまり不安が強く、いろいろ訴える面倒な人と思われがちです。話をまとめることも下手なのでダラダラと話してしまい、何がポイントの会話であるかはっきりしません。想像力を働かせるのも苦手で、口で伝えたことが頭に入りにくい傾向があります。そのためメモに残したり、見える形で一つひとつ確認したりすることが重要になります。 障害の特徴を知って対応におけるストレスを減らす パーソナリティ障害や発達障害の特徴を知っておくと、訪問看護師としてストレスを抱えずに対応できるケースもあるでしょう。「普通では考えにくい独特な考え方をすることがある」「そういう不思議なところがある」と認識しておくだけでもこちらのストレスが大きく減ります。患者さんと向き合いつつ、自分の心の負担を少しでも軽くするために精神科のエッセンスを活用していただければ幸いです。 そのほか、知的障害の人も、説明をうまく理解することが難しいなど対応に困ることがあります。ただし、会話内容に裏表がなく揚げ足取りをするようなこともほぼないため、シンプルに短い文章で説明することが大事になってきます。一気に複数の指導をすると混乱しがちなので、「まずこれだけする」と1つのことに絞り、徐々にできるようになれば次の課題を促していくとよいでしょう。発達障害と同様に、ポイントを口頭で伝えず、文章で伝えることも有効です。 ※1 ADHD:attention-deficit hyperactivity disorder ※2 ASD:autism spectrum disorder 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。  記事編集:株式会社照林社

ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる
ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる
インタビュー
2023年1月10日
2023年1月10日

ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第12回は、路上生活者支援に始まり、制度の隙間にある人の生活支援、就労支援も行う「ふるさとの会」の佐久間裕章さん。共生社会のありかたについて話しあった。(内容は2018年11月当時のものです。) ゲスト:佐久間裕章NPO法人自立支援センターふるさとの会理事1996年ごろから山谷地区の炊き出しボランティアとして参加。出版社勤務を経て、1999年、自立支援センターふるさとの会へ事務局長として入職。ふるさとの会理事および有限会社ひまわり取締役を兼任。ふるさとの会は、路上生活者のための居所の提供、ケア付き住宅、就労支援ホーム、精神障害者グループホーム、ヘルパーステーションなど、時代とニーズに応じて多彩な事業を展開している。 すべては山谷の炊き出しから始まった 川越●長い歴史をお持ちのNPOとして、ふるさとの会は以前から知っていました。地域包括ケアシステムが目指す「地域共生社会」と、会の活動は深くつながっていると思います。 佐久間●ふるさとの会は、生活困窮者や路上生活者の炊き出しボランティアとして1990年にスタートしました。僕がふるさとの会でボランティアを始めたのは96年ごろでしたが、1年くらいやっていると、しだいに徒労感を覚えるんです。炊き出しをすることで路上生活の人が減るわけでもない、自己満足じゃないかって。 川越●リーマンショック後の「年越し派遣村」なども有名になりましたが、そこだけやって救えるものでもないということですね。 佐久間●そうなんです。炊き出しは必要だけれども、そのなかで一人二人でも路上を脱して畳の上で暮らせるような支援をやろうと考え、アパートの一室を借りて、食事と相談ができるサロンをつくりました。まずは対象を高齢者に限りました。特に高齢の方は「この冬、越せるかな」というリスクがあるので。ご飯を食べながら話を聞いて、「生活保護を受けて地域で安定して暮らしたい」と希望する人の役所申請に同行しました。 川越●交流できる場をつくり、そこで話がつながった人を行政につなげていったんですね。住所不定でも生活保護は受けられるんですか? 佐久間●受けられます。ただ、なかには、これまで何度か保護を受けたけれど家賃を滞納して失踪したとか、役所に顔を出しにくい人もいるんです。 川越●手続きがちゃんとできれば生活保護につなげられるし、ご本人が申請しづらければサポートするということですね。 NPO法の成立で支援の幅が広がった 佐久間●サロンに食事に来る人で、手伝いをしてくれるリーダー格のような人が、あるとき具合が悪くなって救急搬送されて、脳梗塞か何かで障害が残ったんです。住んでいたのはドヤと呼ばれた簡易旅館で、バリアフリーでもなく、戻りたいのに戻れず、転院を繰り返して病院で亡くなられて。 その方はご自身を、「インパール作戦の生き残り」と言い、みんなを束ねる人間的魅力のある人でした。入院後、山谷に戻りたいと言い続けましたが、僕らは結局、何もしてあげられなかった。 川越●彼らを家に戻せる支援や制度はなかったわけですね。 佐久間●そのうち、役所の人から「そんなに言うならふるさとの会で場所をつくればいいじゃない」と。ちょうどNPO法案が施行されたころで、法人格を取得して事業主体になれると言われて。自前の資源が何もない、力のなさを実感していたので、99年に法人格をとって宿泊所をつくったんです。 ホームレスからホームヘルパーへ 佐久間●このころ初めて「社会的入院」という言葉を知ったんですが、病院を転々として、数ヵ月後に自分がどこにいるかわからないでいる人も、広義のホームレスだと思いました。そこで、ふるさとの会でも介護ができるようなしくみをつくろうと決めたんです。 川越●困窮者支援から住まいの提供、介護も提供できる住まいへと転換していったんですね。 佐久間●当時、山谷はまだ危険な街というイメージで、依頼しても来てくれるヘルパーがいなかった。一方、働く意欲はあるのに長期的な失業状態の方がいたので、その人にヘルパーになってもらおうと(笑)。もともと建設業で働いていた人たちです。機械化が進んで仕事が減っていくし、工法が変わって昔の技術が必要とされなくなってきていたんです。 周囲からは「建設現場の日雇いにヘルパーができるわけがない」とさんざん言われましたが、僕と一緒に勉強して、当時のヘルパー2級資格をとった人がいたんです。新聞やニュース番組でも「ホームレスからホームヘルパーへ」と紹介してもらって(笑)。 川越●成功例があると行政へもアピールしやすくなりますね。 佐久間●その後、東京都がプログラムを組んで、地元の福祉事務所が協力してくれて、12人が修了して、実際にヘルパーとして働きはじめました。 孤立した世帯をまるごと支援 佐久間●介護保険は1人の利用者さんに対する支援ですが、世帯という単位で支援をしていく方向でないと、地域包括ケアはうまくいかないと思います。NPOのいいところは、ニュートラルに部署を横断してかかわれるんです。80代の認知症のおばあさんのところに行ったら部屋の奥に引きこもりの50代の息子さんがいたケースでは、地域包括支援センターと僕らと区の障害福祉課の保健師さんとがチームを組んで、世帯全体を支援することができました。 川越●現状の制度だけでは支援が届きづらい、地域で孤立した世帯をまるごと支援することも、地域包括ケアシステムの大切な役割です。 佐久間●地域就労支援や共生型サービスなどは、今の縦割りの政策では難しいところがありますが、これからは地域のなかで一つまるごと支援という方向も必要だと思います。地域包括ケアシステムも、当初はそれぞれのイメージがバラバラでした。10年、20年という単位でやっていくと、だんだんと浸透していくと思うんです。 川越●短期間にあれもこれもはできないことを認めた上で、10年後にこんな地域共生社会がくることを目指して取り組むことが大切ですね。 自分たちも医療の面から、住みやすい地域づくりにかかわっているわけなので、同じところを目指しているのですね。ありがとうございました。 ─第13回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年11月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(1)~
ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(1)~
コラム
2022年12月27日
2022年12月27日

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~下肢(1)~

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は実用編の第3弾。梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介します。ALSはもちろん、他の疾患等をもつ方たちの生活にも参考にしてください。 下肢の症状によって何に困るか ALSの初発症状で、上肢の次に多いのが、下肢の症状です。下肢の筋力が低下すると、足が上がりづらくなり、歩きにくくなった・つまずきやすくなった・よく転ぶようになった、などの症状が出ます。また、人によっては頻回に足がつるようになり、痛みを伴うこともあります。 足を思うように動かせないし、だるい、疲れる。それでも「歩くのをやめてしまったら、今後ずっと車いすでの生活を送らなければならない」そう考えると、歩くのを諦める決断をするのには相当な覚悟がいるでしょう。 しかし、転ぶようになってしまったら、歩くことが重大な事故につながりかねません。私もギリギリまで自分の足で歩きたくて、頑張っていましたが、転んだときに受け身がとれず、そのまま顔面から倒れて眉間をパックリ切った経験があります。それ以来、歩かなくなりましたが、今思えばもっと早く歩くのをやめておけばよかったです。 車いすの選びかた 歩けなくなってからの移動手段としては、屋外では車いすの一択でしょう。車いすは、手動式のものから、電動式のもの、リクライニング機能がついておりフルフラット近くまで倒せるものなど、さまざまなものがあります。 手動式の車いすは、人に押してもらうぶんにはよいのですが、自分の力で動かそうとすると手の筋力をかなり使うので、ALS患者さんには不向きかもしれません。なので、手が少しでも動かせる間は、電動式の車いすを使う。操縦が難しくなってきたり、姿勢の保持がつらくなってきたりしたときに、リクライニング機能付きの車いすに乗り替えていくのがよいのではないでしょうか。 電動式の車いすには、ヘッドレストが付いていないものが多いのですが、ヘッドレストを後付けすることもできます。頭部の保持がつらくなってきたら、早めに付けることがおすすめです。 車いすクッションの選びかた 車いすには長時間座っています。それを考えると、車いすクッションの選択もとても重要です。 筋力が残っている時期は硬さがあるタイプを 立ち上がりや、座りなおしができる間は、少し硬さのあるもののほうがよいと思います。柔らかすぎるものは、お尻が沈んでしまい、立ち上がるときに足に力が入りにくくなってしまいます。 私の場合は、いろいろ試した結果、「アウルREHA 3Dジャスト」(加地)というクッションがよかったです。 これは適度な硬さがあり、3D形状が体にフィットして、姿勢の保持をサポートしてくれるため、座っているのも立ち上がるのも楽でした。 立ち上がりが難しくなったら体圧分散できるタイプを 足に力が入らなくなり、介助者の力を借りても立ち上がりや座り直しができなくなったら、柔らかくて体圧分散機能の高いものがよいと思います。長時間同じ体勢でもお尻が痛くなりにくいです。 私は「ロホ・クァドトロセレクト」(アビリティーズ・ケアネット)のハイタイプを愛用しています。 屋内のちょっとした移動に適したいす 屋外での移動は車いすがよいのですが、車いすだとサイズが大きく小回りも利きにくいので、自宅内でのちょっとした移動には不便なことがあります。 そんなときに重宝したのが、「ユニ21EL電動・低床」(アビリティーズ・ケアネット)です。 このいすは、車いすよりも小回りが利き、座ったまま足こぎで移動できます。歩くことは難しくなったが、まだ足こぎはできる程度の筋力が残っている間はとても便利でした。電動で座面を昇降できるため(左右両方の手すりの下にボタンがある)、足こぎするときは座面を低くし、立ち上がるときは座面を高くしてブレーキで後輪をロックすることで、立ち上がりも安全に楽にできます。 立ち上がりやすく快適なソファ 日中ベッド以外で過ごすときにとても快適だったのが、起立補助機能がついた電動リクライニングソファでした。 私は、歩けなくなっても、いすから立ち上がる程度の筋力がまだ残っている間は、ベッドではなく、できるだけ車いすやソファで過ごしたいと思っていました。 そんなときに探し出したのが、起立補助機能つき電動リクライニングソファです。このソファは電動で座面後部がせり上がるため、立ち上がるのがとても楽でした。また、フルフラット近くまで倒すこともできるので、休みたいときは楽な姿勢で休むことができます。 このような機能がついているソファが、福祉用具店だけではなく、大型家具店でも売られていますので、興味のあるかたはぜひ調べてみてください。諸事情により商品名は割愛しますが、私は大型家具店の5万円台のものを使っていました。 立ち上がりが難しくなったら 立ち上がることが難しくなり、ベッドから車いすへ移動しにくくなったときにとても便利なのが、電動介護リフトです。力がない介助者でも、一人で移動介助を行うことができます。 スリングシートの選びかた 電動リフトでは、体の下にリフト用のスリングシートを敷き込んで、スリングシートごと体を包み込んでハンモックのような状態で体をリフトで吊り上げて移動します。 スリングシートはいろいろ種類がありますが、ALS患者さんは徐々に頭を支える筋力も落ちてきて、自分の力では頭を支えられなくなってしまいます。なので、頭まですっぽり覆えるタイプのものをおすすめします。 リフトの種類 リフトには床走行式と天井走行式の二種類あります。 床走行式は置くだけなので設置は簡易ですが、大きいので置くスペースが必要なのと、高さがあまり出せないという難点があります。 一方天井走行式は、設置には工事が必要ですが、スペースを広く活用できて、天井高に応じて高さがかなり出せるので移動がスムーズにできます(工事が不要なレール組み立て式もあります)。 どちらもメリット・デメリットがありますので、ご家庭の状況に応じて検討していただければよいかと思います。ちなみに、私は天井走行式を使っています。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:株式会社加地     アビリティーズ・ケアネット株式会社

自分やチームを「無能化」させないために
自分やチームを「無能化」させないために
コラム
2022年12月27日
2022年12月27日

自分やチームを「無能化」させないために

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第11回は、能力主義の組織は無能化する……という怖いお話です。 組織は無能化していく 「能力主義のチームに長く所属すると、そのうち無能になってしまう」。そんな法則があるのをご存じですか?  衝撃的ですよね。この法則は社会学者のL.J.ピーターが発表したので、「ピーターの法則」といわれます。能力主義のチームに所属していれば、自分の実力がしっかり評価されるはずだから、無能になるなんて矛盾していると思いますよね。しかしそうではないとピーターはいいます。 一般的に、能力主義の組織は階層的にできていて、一定の能力が身に付けばさらに上の層に昇格していきます。ですから、能力を発揮して認められて昇格した人は、次なる上の層を目指します。こうして能力のある人は出世できるのが能力主義の良いところです。 でもいつまでも出世できるとはかぎりません。層が上がると求められる能力も上がり、上がるほどポストも減っていきます。どこかのポジションで能力の限界がくれば、そのポジションに留まりつづけることになります。そうなると、やがてそのポジションは「無能レベルに達してしまった人」ばかりになります。 つまり、能力主義の階層組織では「あらゆる組織は無能化する」というのがピーターの法則なのです。 会社でいえば、「課長」の階層は「部長になれない人」の集まり。そういえば「万年課長」なんて言葉もあります。課長止まりでそれ以上昇進できない人を指しています。 組織は無能化し、肥大化していく さらにピーターの法則では、無能な管理職が各地位を占めるようになると、組織全体もだんだん無能化していく……といわれています。つまり、無能化した管理職に評価される部下もしだいに無能化していく、というわけです。 もう一つ「パーキンソンの法則」というのもあります。これは平たくいえば「あらゆる組織は肥大化する」というものです。 仕事のできる人は自分の領域を広げて人を増やすので組織は大きくなります。一方で、仕事のできない無能なリーダーも、自分が仕事をできないぶん人を集めることで補おうとするので組織は大きくなる。つまり、いずれにせよ組織は放っておけば肥大化するというのです。 よく「大企業病」といわれますが、その原因にはこの「ピーターの法則」や「パーキンソンの法則」も当てはまるでしょう。 人事施策でうまくいくか それではどうしたらよいか? これは組織のトップマネジメントの永遠の課題です。 よくいわれる解決方法は、人事施策で昇進や昇格の制度をつくり、しっかり教育を行い、無能化を防ぐことです。もちろんこれは間違いではありません。「無能な状態に陥った人」を配置換えしたり、思い切って降格させたりすることも打開策になることがあります。「それが能力主義だ!」と言ってしまえばそうなのかもしれません。しかし、人事施策で解決しようとすることは、非常にデリケートな問題を含みます。 私自身の経験ですが、子会社に5年間出向して社長をした時期があります。社長でなければ経験できないようなことにチャレンジができました。しかし状況は厳しく、当初掲げた目標を達成することはできないまま本社に戻ることになり、そのときに降格処分を受けました。社長ですから経営責任をとるのは当たり前ではありますが、その降格はサラリーマンである私にとっては大きな苦しみでした。 今となっては笑って話せますが、当時は人間性や人格まで否定されたような気持ちになったものです。 それは、会社の中だけの価値観で生きてきたため、その組織の評価が絶対的な自分の評価だと思っていたからです。逆に会社の中で評価されていても、一歩外に出るとまったく通用しないなんてケースもあります。同じ組織の中だけでずっと生きていると、まさに社会的に「無能化」してしまうこともあるのです。 子会社から戻った私は、それまで経験したことのない介護分野の新規事業に飛び込みました。50代になってからのチャレンジでしたが、そこでまた新たに鍛えられました。無能化していた自分が新しい世界で「まだ自分にはノビシロがある」と気づくことができたのです。 自分を無能化させないために 一つの組織の中で上司の顔色をうかがってばかりいると、上司からの評価に自分の人生が左右されてしまう可能性があります。「サラリーマンの最大のリスクは上司である」と言った人がいます。無能な上司の下にいると自分も無能になる可能性がありますから、これは言いえて妙な言葉です。 人生100年時代といわれます。自分や自分のチームを無能化させないためには、組織の中だけで生きるのではなく、組織を離れた世界でも生きていける自分の価値、自分の強みを磨くことです。そのために一つの組織の中だけでコミュニケーションをとるのではなく、さまざまな分野や世界の人とコミュニケーションをとることです。それによってコミュニケーションスタイルも磨かれていきます。 昔は「自分の強み」が一つあれば何とか定年まで生きていけました。でもこれからの時代、強みは三つくらいほしいところです。30代で一つ、40代で一つ、そして50代で一つ。こうすれば、60歳になるまでに三つの強みが持てます。それを活かせば定年からも無能化することなく、新しい世界が広がるはずです。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇ローレンス・J・ピーターほか.渡辺伸也訳.『ピーターの法則:創造的無能のすすめ』東京,ダイヤモンド社,2003,222p.〇藤原和博.『坂の上の坂:55歳までにやっておきたい55のこと』東京,ポプラ社,2011,271p.

地域を巻き込みまちづくりをデザインする
地域を巻き込みまちづくりをデザインする
インタビュー
2022年12月27日
2022年12月27日

地域を巻き込みまちづくりをデザインする

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第11回は、「ものをつくらないデザイナー」として自治体からひっぱりだこの山崎亮さんから、まちづくりやワークショップの極意を聞いた。(内容は2016年7月当時のものです。) ゲスト:山崎 亮(コミュニティデザイナー/株式会社studio-L代表取締役)大阪府立大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了(地域生態工学専攻)。株式会社エス・イー・エヌ環境計画室を経て、2005年studio-L設立。東北芸術工科大学芸術学部コミュニティデザイン学科教授(学科長)。2013年東京大学大学院博士課程修了。慶応義塾大学特別招聘教授。著書に「コミュニティデザインの源流」(太田出版、2016)「ケアするまちのデザイン」(医学書院、2019)などがある。 ヒアリングはアウェイではなく相手のホームで聞く 川越●地域包括ケアには、まちづくりが重要といわれています。山崎さんのお仕事であるコミュニティデザインはまさに人の集う場、居場所づくりに関連していますね。 山崎●コミュニティデザイナーは、地域のコミュニティとともに未来をデザインしていく仕事です。仕事の8割は自治体からの依頼で、たとえば東京都墨田区の食育計画にかかわったのですが、区民の健康的な食事を考えるときには、健康づくりや未病、環境に対する配慮やゴミの問題、郷土の歴史を含めた地域に関することや、教育などについても考えていきます。そのような計画は住民が参加しないことには意味がないので、地域の人々に集まってもらい、一緒に計画を作っていきます。 川越●建築・デザインの専門家である山崎さんが、地域の人とどのように共同作業を進めていくのか興味があります。 山崎●地域をフィールドにするコミュニティデザイナーは、誰とでもすぐ友達になれる力が必要かもしれません。「あの人は話しやすい」と思われる関係性を作っておくと、必要な情報がスーッと下りて来る。 川越●地域包括ケアでいろいろなセクターの人が共同で仕事をするとき、そういうふうに黙っていても情報が入ってくるのは「技術」だと痛感します。 山崎●自治体の地域計画などは、ユーザーが目に見えず、誰にどうやって意見を聞けばいいのかわからない。それで、ワークショップという形で地域の人の話を聞き、計画の設計に反映させていくことにしました。実際に地域で行動を起こしていくことが大切ですから、合意形成だけではなく、主体形成みたいなものをつくっていきます。 川越●地域包括ケアの文脈でいうと、地域ケア会議が地域課題の抽出や解決策の検討の場になるという発想ですが、今のところ抽象概念にとどまり、やっていることは地域によってまちまちです。 山崎●会議をやるから集まりましょうではなく、こちらから行くほうがいいですね。会議室に来てもらうと緊張して本音が出ない人も多いので、僕らは最初のヒヤリングでは職場や自宅で話を聞くようにしています。 川越●ホームかアウェイかで言ったら、相手のホームに出掛けていくほうがいいということですね。 山崎●そうです。相手のホームなら、話題に困ったときも話のきっかけとなる情報がその場所にたくさんあるので、目に入ります。そうやってヒヤリングを行い、100人の人の配置がわかると、ようやくワークショップの参加者募集をかけていきます。 ワークショップは合意形成から主体形成まで担う 川越●今、「地域づくり協議体」という会議を各自治体でやることになっていますが、山崎さんがおっしゃるように、まずは話を聞きに行くほうがはるかに実践的な方法ですね。 山崎●ワークショップの参加者は公募が前提です。テーマに沿ったアイデアを出し合うほか、課題とまったく関係のない、参加者自身がやってみたいことを発言してもいい。1チームは7人くらいで、数回メンバーを替えながらやっていくと、何となく「この人とこの人は意見が合う」というのがみえてきます。 地域包括ケアのケースなら専門職に入ってもらい、住民の方たちと地域を調査し、今ある社会資源とやりたいことをどう組み合わせられるか、アイデアを合意形成として出してもらう。そして、何ができるかが見えてきたらチームビルディングを行います。つまり主体形成です。ここからは実行してもらう段階で、社会資源となるような活動をそれぞれのチームに生み出してもらいます。 「楽しい」「かっこいい」を加えるとまとまりやすい 川越●山崎さんのお仕事は、地域医療や福祉など、地域包括ケアシステムで行なっていることと同じ方向を探っていると思うのですが、こちらはなかなか定着・持続という形で発展させていくのが難しいですね。 山崎●僕自身は今、社会福祉に恋をしていて、社会福祉士の勉強をしているんです。今やっと就労支援のところまできましたが、19科目全部面白いです。バイスティックの原則とか、これはコミュニティデザインに絶対必要なことだとか、たくさんの気づきがあります。 川越●かつてはその分野の専門家だけですむ時代でしたが、今は他分野の専門家と専門家をどうつなぐか、市民がどう参加するかが求められています。つなぎかたを考える役割の人が必要だと痛感します。 山崎●自治体の施策は、税金を使うために議会で説明する必要があるので、どうしても「正しさ」を訴えてしまいますが、ワークショップでは、「正しいとは何か」を議論すると、それぞれの「正しさ」をぶつけ合ってしまい、まとまらない。そこに「楽しい」「かっこいい」「美しい」など感性の要素を入れるとまとまりやすくなるんです。 理性だけの「正しさ」では動いてくれなかった人も、地域包括ケアが楽しかったり、かっこよかったりすれば、動き出していく。感性に訴える、広い意味での美しさをデザインすることを意識しています。 川越●山崎さんのお話をうかがって、ファシリテーターとして企画を練ったり、関係者にどう依頼すれば人が集まるのかなど、専門職とは関係ない能力のほうがはるかに大事だなと思いました。そして、ワークショップに象徴される関係性づくりや合意形成があって、初めて新しい動きが生まれてくるのですね。 ー第12回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2016年7月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その3:ハラスメントを未然に防ぐ
CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その3:ハラスメントを未然に防ぐ
特集
2022年12月27日
2022年12月27日

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その3:ハラスメントを未然に防ぐ

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第6回は、ハラスメントを未然に防ぐために管理者としてできることを話しあいます。 はじめに 前回は、管理者としての具体的な行動を考えました。続く今回は、ハラスメントを未然に防ぐことをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE2 スタッフから、利用者によるハラスメントの相談を受けたとき スタッフナース田中さんから「利用者Hさんの訪問を外してほしい」と相談を受けた。利用者Hさんには脳梗塞後麻痺と心不全があり、入浴介助を行なっていた。Hさんはニコニコと穏やかな性格だったが、介助時に「裸になって一緒に入ろう」などとセクハラ発言をされるのが不快という理由だった。Hさんは一人暮らしで、以前利用していた訪問看護ステーションでも同様の言動がみられ、さらに、キーパーソンの娘が「厳格で真面目な父がそんなことをするはずがない」と主張し、その訪問看護ステーションでトラブルになっていた。そんな経緯での当ステーションへの依頼だったため、依頼を受けることにはスタッフナースたちから反対の声が大きかった。よく依頼をくれるケアマネジャーからの依頼で、しかも直近は当ステーションの売上が低迷しているために、依頼を受けることにしたのだ。管理者としてどう対応したらよいだろうか? 設問もしあなたがこの管理者であれば、Hさんのような利用者への対応はどのようにすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 ハラスメントを未然に防ぐために管理者としてできることは何か 講師これまでは、すでに起きてしまったハラスメントへの対応について議論してきました。この対応はとても重要です。そして、ハラスメントを未然に防ぐための手立てを検討し、実施していくことも管理者の役割として重要です。では何をしておくとよいとみなさんは考えますか? Aさん注2オーソドックスなのですが、ご利用者やその家族に暴力・セクハラを許さない意思表明をして、重要事項説明書に事業所の対応を明記しておくといいのではないかと。今回の場合だと、Hさんの娘さんへの対応にもなると思います。 Bさんハラスメントへの対応について社員研修は実施しておきたいです。いざ起きてしまうとなかなか適切な対応ができないと思うので。ケースメソッド形式でやるのもいいかもしれませんね(笑)。そしてスタッフとは、ハラスメントについて相談しやすい体制を築いておく。 Cさん起こった後に弁護士に相談するという意見が出ていたと思いますが、ハラスメントからクレームや営業妨害などの事態に発展した場合に備えて、事前に弁護士に相談しておくことも必要だと思いました。 DさんHさんを紹介したケアマネとは付き合いが長そうなので、セクハラが起きたときの対応についても相談しておけたのではと思えますね。 講師ご利用者たちへの事前説明と、研修という声がありましたね。ケースメソッド研修でハラスメント対応を学習しておくのもいいと思いますよ(笑)。Cさん・Dさんの発言にあったように、事前にできることはたくさんありますね。 管理者として問題を未然に防ぐという意識を持って行動する 講師では、CASE2の議論のまとめに入りましょう。 今回は、ハラスメントへの事後対応と、ハラスメントを未然に防ぐために管理者がすべきこと・できることについて、ケースの議論を通して学びました。 事後対応は、スピード感を持って毅然とした対応をする必要があります。ハラスメントの事後対応については4つのステップを意識してください。 1.被害者のケア2.事実確認3.関係者との対応協議4.行為者への適切な措置 そしてさらに重要なことは、ハラスメントを未然に防ぐという考えに立って動くことですね。 Aさん私は今回のケースよりもっとひどいハラスメント事例に遭遇し、とても苦労した経験があります。その経験があるので、今はハラスメントを未然に防ぐにはどうしたらいいかを常に考えています。でも、こんな苦労はしたくなかった。 講師Aさんはたいへんなご苦労があったのだと思います。そういった経験から学ぶことはとても大事なのですが、痛みや危険を伴うこともしばしばです。ハラスメント対応の4つのステップはとても重要ですが、実際にこのステップをしなくてもいいように、問題を未然に防ぐ意識を持って行動してください。 * 次回は、CASE3「対応してくれないドクターに動いてもらうには?」を考えます。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇全国訪問看護事業協会.「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告書」東京,全国訪問看護事業協会,2019,58p.https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/h30-2.pd2022/7/7閲覧〇三木明子監修・著,全国訪問看護事業協会編著.『訪問看護・介護事業所必携!暴力・ハラスメントの予防と対応』三木明子監修.大阪,メディカ出版,2019,210p.〇事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講すべき措置等についての指針.平成18年厚生労働省告示第615号.令和2年6月1日適用.

消毒による手荒れや室内の乾燥...冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】
消毒による手荒れや室内の乾燥...冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】
特集
2022年12月20日
2022年12月20日

消毒による手荒れや室内の乾燥…冬場の乾燥対策どうしてる? 【訪問看護師アンケート】

ただでさえ冬は乾燥する季節。頻繁に手洗いや消毒を繰り返す看護師は、特に乾燥による肌荒れに悩まされます。訪問看護師の場合、利用者さんのお宅の乾燥が気になることも。皆さんはどのような乾燥対策をしているのでしょうか? 訪問看護師22人に実施したアンケート結果をご紹介します。 アンケート実施期間:2022年10月25日~11月22日 全員が手指の乾燥が気になっているという結果に 冬場、訪問看護の業務中に肌の乾燥が気になることがあるかどうか調査したところ、全員「ある」と回答。また、全員「手指の乾燥が気になる」という結果でした。「すね」「かかと」が気になるという人も半数程度います。 業務のなかでも、やはり手洗いや消毒をしているときに乾燥が気になるとのこと。入浴介助や自転車・自動車の移動時に気になるという人も数名いました。 乾燥による肌荒れ対策。やはりハンドクリーム&リップクリームの保有者多し では、皆さんはどのような乾燥対策をしているのでしょうか。 約90%の人がハンドクリームを使用していると回答。リップクリーム、ボディクリームも人気でした。 具体的な対策内容について、以下のような声が聞かれました。 「乾燥肌の症状が強くなる前から保湿対策を行います。業務で自転車に乗るときは、マフラーを巻いたり上着の襟を立てたりして頬や口唇に外気が当たらないようにするほか、手袋も着用します 」(50代) 「水分を少なくとも1日1リットルは必ず摂りますね。日頃使用するハンドローション、クリームはベタつきの少ないものをこまめにつけます。勤務中の顔の乾燥に対してはシアバターをつけていて、ローション、クリーム類は無香料を使っています」 (50代) 症状が出る前の早めの乾燥対策や、業務に影響が出にくい保湿剤のセレクトは参考になります。その他、加湿器を使用している人や、「入浴後の保湿を大事にしている」という人も複数いました。 使用している保湿剤としては、・ヘパリン類似物質クリーム・ミネラルオイル・ワセリン等が主成分のクリーム・ひび・あかぎれに悩む人用のビタミン系クリームなどが人気でした。 一方で、以下のような声も。 「できる限り移動中にハンドクリームを塗ろうと思いますが、結局朝一しかできません……」(50代) バタバタと訪問看護業務をこなしているうちに、自分の乾燥対策が後回しになってしまうケースは多いでしょう。回答者のなかには「消毒と同時に保湿できるハンドクリームを使っている」という人もいました。時間がない人は、こうした製品を使用して「消毒時に保湿」する流れを作ってしまうのもひとつの手かもしれません。 訪問看護の利用者さん宅では「お湯・お水をはる」「加湿器の設置」を提案 では、利用者さんの乾燥対策についてはどうでしょうか。回答者のうち95%以上が、「利用者さん宅で乾燥が気になることがある」と答えています。病棟とは異なり、利用者さん宅の温度・湿度環境は簡単に調整できませんが、室内が乾燥していると利用者さんの肌トラブルの原因になってしまいます。 乾燥が気になったとき、どのような提案をしているのか聞いてみました。 「乾燥が気になっても提案しない」という人はゼロ。皆さん何らかの提案をしているようです。「洗面器・バケツ等にお湯・お水をはる」「加湿器の購入・設置」が同点1位という結果でした。 ただし、加湿器については賛否両論。カビを懸念する声が多く聞かれました。 「加湿器は、手入れがされずカビの繁殖に繋がるのですすめません。濡れたタオルを干す、霧吹きで加湿することをすすめています」 (50代) 「ペットボトル加湿器のような手軽で安価なものを提案します。その際、カビ対策についても言及します」 (30代) 「タオルや洗濯物を室内に干すことを提案するほか、カビが発生しないタイプの簡便な加湿製品を提案します。また、自分たちが訪問中、安全を確保したうえで電気ポットの蓋を開けて蒸気をあげることもあります」 (50代) そもそも加湿器の提案を避けている人もいれば、カビが繁殖しないタイプの加湿器・加湿製品を提案している人も。手入れが行き届かないことを考慮して、利用者さんが安全に少ない負担で続けられる加湿方法をアドバイスしているようです。 「提案してみよう」「実践してみよう」と思えるものがあれば、ぜひ明日からの訪問看護にいかしてみてください。 記事編集:NsPace編集部

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