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インタビュー
2022年3月1日
2022年3月1日

経営者が語る ─安定経営のワケ─

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールドは、設立から17年で47都道府県に212拠点を展開しています。急成長の理由や、今なぜ精神科訪問看護なのかを、創業時から現在までの変遷をたどりながら取締役の郷田泰宏さんに語っていただきました。(以下敬称略) お話郷田 泰宏株式会社N・フィールド 取締役 患者さんの社会復帰を手助けする一助に [郷田]N・フィールドは2003年、看護師3人で、大阪で開業したのが始まりです。最初から精神科の訪問看護を目指していたわけではなく、たまたま精神科病院出身の看護師が創業者だったことから、これを強みとして出発しました。 精神科医療は長期入院の患者さんも多く、社会復帰、地域移行が進まないことが長年、問題視されていました。今でこそ、精神科の患者さんも「病院から地域へ」という流れができつつあり、地域的にも受け入られるようになりつつありますが、開業当時は、まだ長期入院が一般的でした。 社会資源をふまえた支援があれば退院できる人はいるのに――そんな問題意識を看護師たちが共有し、当社が精神科の訪問看護に特化したサービスを提供するようになったのは自然なことでした。 当初は、精神科訪問看護がどういうものか、教科書があるわけでもなく、皆手探りで手法を確立しようと必死でした。そのため、想い入れの強い多くのスタッフが疲弊し、一時は退職者が続いた時期がありました。その後、看護師の働きやすさや、やりがいを発揮できる環境を整備することに注力し、現在では離職率も大きく低減でき、事業展開に応じて多くの看護師採用を増やすことができる段階にあります。 精神科に対する社会の理解が大きく変化 現在、精神科の患者さんの社会復帰・地域移行の流れは強まっています。一方で、退院した利用者を在宅で支える訪問看護師は、今も不足しています。その理由の一つが、「精神科訪問看護は危険・難しい」イメージがあることです。 患者さんが、果物ナイフやガラス食器など危険物とみなされる生活用品を持ち込めない病院は、ある意味で「守られている安全な空間」です。一方、在宅では包丁やはさみなど、当たり前の生活道具であっても、使いかたによっては危険なものがいろいろあります。そうした生活の場で患者さんと看護師が向き合う精神科訪問看護は、安全ではないように感じられ、一人で訪問することに不安を感じる看護師が多いのかもしれません。 しかし実は、訪問時にこうした危険な事態はほとんど起こりません。むしろ在宅のほうが危険は少ないというのが、経験上の見立てです。 その理由の一つとして、入院形態から患者が余儀なく受けてしまうストレスが、生活空間である在宅では存在しないことが挙げられます。 精神科は、他の診療科と違い、医療保護や措置など、本人の同意を得ない入院形態があります。強制的に入院となり、行動を制限されることを納得できていない患者さんもいます。しかし、訪問看護は、自宅で暮らしている利用者さんの同意を得たうえで訪問します。そういう意味で、暴力など危険な事態が起こるリスクは一般的に低いと思われます。 全国に拠点をもち安定経営を続ける理由 こうした実態は、現在では看護師基礎教育課程でも伝えられ、精神科訪問看護へのイメージは、少しずつですが変わりつつあります。 多くの患者さんが在宅へ戻ってくる――しかし地域で患者さんを支える社会資源としての訪問看護ステーションは不足している――N・フィールドはそこに特化し、事業展開してきました。おかげさまで、全国に数多くの拠点を持ち、いわば社会的インフラとして事業展開するに至っています。その一環として、現在では訪問看護だけではなく、住む場所を提供する住宅支援の事業も展開しています。 拠点展開に応じた人材確保は今も課題です。N・フィールドでは、働きたいと希望される人へ、入社前に体験訪問を積極的に行っています。入社後のイメージギャップをできるだけ少なくし、早期離職を予防する取り組みです。 それに加えて、当社の勤務体制がワーク・ライフ・バランスの面で評価されている側面もあると思います。夜間勤務のある病院とは異なり、当社は基本的には9時から18時までの日勤帯の勤務です。訪問看護事業所の多くが採用している24時間のオンコール体制も、当社では採用していません。自分の時間を大切にする働きかたを目指す看護師や、子育て中で日中しか時間に余裕がない看護師からも、そうした働きやすさが受け入れられている面があると思います。 こうした、看護師の負荷をなるべく少なくする経営努力が、人材確保のうえで一つのアドバンテージになっているのかもしれません。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月8日
2022年3月8日

訪問看護活動に生かす疾患の知識「花粉症」

今や国民病とも言える花粉症。訪問先の患者さんや、訪問する看護師にも花粉症の方は多いのではないでしょうか。ここでは、花粉症のメカニズムや治療法について説明します。 はじめに 日本では、花粉症といえば、スギの花粉による花粉症が代表的ですが、アメリカではブタクサの花粉症、ヨーロッパではイネ科の花粉症が有名です。 日本の花粉症は2~4月はじめまでがスギ花粉症が多く、ブタクサ花粉症は秋、イネ科花粉症は5~6月に多いです。これ以外に3~5月にヒノキ花粉症も発症します。 スギ花粉症は日本全体では4人に1人が発症しており、とくに東京都では3.5人に1人が症状を訴えており、いわば国民病ともいえます。 花粉症の歴史と現状 花粉症の約7割がスギ花粉症と言われています。その理由は、日本の国土を占めるスギ林の面積が大きく、全国の森林の18%、国土の12%を占めているため、スギの花粉の飛散量が多いからだと考えられています。 花粉症はアレルギー反応のひとつです。アレルギー反応を起こす物質をアレルゲン物質といいます。スギとヒノキのアレルゲン物質は構造的に似ている点があり、人によってはスギ花粉症とともにヒノキ花粉症に悩まされる人もおり、2月から5月の長期間にわたって症状が続く人も多くみられます。 スギ花粉症の患者は増加の一途をたどっています。その主な理由は、スギ花粉の飛散が多くなっていることですが、それ以外にアルミサッシの窓枠や気密性の高い住宅環境なども原因の一つとされています。 さらに日本人の生活環境や日常生活の清潔化によって、人体のアレルゲンへの抵抗力が低下してきたことも誘因だと言われています。大気汚染と関係のある微粒子がスギ花粉に付着し、スギ花粉症をさらに増悪させる修飾因子(アジュバント効果といいます)になっている研究報告があります。 アレルギー性鼻炎のメカニズム スギ花粉の大きさは30μm程度ですが、花粉症を発症させる主な原因物質は、スギ花粉の中にあるタンパク質でできた小さなアレルゲン物質で、Cryj1(クリジェーワン)とCryj2(クリジェーツー)の2種類です。Cryj1は主にスギ花粉の表面に付いているオービクルという微粒子で、Cryj2は花粉の内部にあるデンプン粒子の中にあります。 これらが花粉症を引き起こすメカニズムですが、以下の反応で引き起こされます(図1)。 まず、スギ花粉の抗原(Cryj1、Cryj2)が鼻の粘膜内に入ると、異物を認識する細胞(マクロファージ)と出合い、マクロファージが得たスギ花粉に対する情報をリンパ球のT細胞へ送ります。さらに、T細胞は花粉抗原の情報を同じリンパ球のB細胞へ送り、花粉にぴったりと合う「抗体」(スギ花粉特異的IgE抗体といいます)が作られます。これが「感作」というアレルギー反応の第一段階です。 スギ花粉症の症状を起こす患者には、スギ花粉特異的IgE抗体がアレルギー反応を引き起こす細胞(肥満細胞、マスト細胞ともいいます)に付いています。このIgE抗体が抗原となっているCryj1、Cryj2とくっつくと肥満細胞が活動を始めて、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質を放出し、くしゃみ、鼻汁過多、鼻閉などのアレルギーの症状が引き起こされるのです。 つまり花粉症は花粉による過剰な抗原抗体反応です。目のかゆみも、皮膚のかゆみも同じ花粉による過剰な抗原抗体反応です。この花粉による抗原抗体反応が繰り返されると、鼻の粘膜の中には好酸球という細胞が多くなってきます。この好酸球が上皮細胞を傷つけて炎症をさらに増悪させることが知られています。 都市部の花粉喘息 最近、都市部でスギ花粉を原因とする花粉喘息が報告されてきています。花粉の大きさは喘息を起こすには大きすぎるため、喘息発作は起こさないと言われてきました。 ところが、都市部ではアレルゲン物質が1μm以下で飛散していることがわかってきました。喘息はこのような微小粒子で発症します。スギ花粉の微細化は降雨や高湿度で花粉の表面がふやけて弾け、中のアレルゲンも飛散します。スギ花粉は山間部より都市部で微粒子化が起こることも知られています。 その原因は諸説がありますが、工業地帯や自動車などの大気汚染物質が降雨に溶け込むと、塩基性を高め、花粉粒子が高湿度や降雨により表面のアレルゲン物質(Cryj1)もはがれやすくなり、さらに水分を吸収、膨潤して破裂することで花粉内部のアレルゲン物質(Cryj2)が大気中へ放出されることなどが考えられています。 治療法 1.対症療法 対症療法としては、抗ヒスタミン薬(第一世代、第二世代)、抗ロイコトリエン薬、化学伝達物質遊離抑制薬などの抗アレルギー薬の内服薬や点鼻薬、点眼薬、そして局所ステロイド薬の点鼻薬、点眼薬が組み合わせられます。 くしゃみ、鼻汁が主体の鼻症状の場合は、抗ヒスタミン薬(第一世代、第二世代)や化学伝達物質遊離抑制薬が、鼻づまりが症状の主体である場合には抗ロイコトリエン薬や局所ステロイド薬がよい適応となります。 最近の局所ステロイド薬は、体内への移行性が極めて少なく安全性が高いです。鼻づまりが強い場合には点鼻用血管収縮薬や、時に経口ステロイド薬が使用されます。ステロイド薬の注射はアレルギーの専門施設ではその副作用の問題からほとんど行われていません。 また、ステロイド点眼を行う場合には眼圧の上昇に注意が必要です。花粉が飛び始める1週間前から治療を開始する「初期療法」が有効であることが証明されています。新型コロナウイルスのオミクロン株の症状と花粉症の症状はよく似ており、さらにくしゃみや鼻汁過多は感染を広げる可能性があるため、花粉症の症状のある人は早めに治療をした方がよいでしょう。 2.舌下免疫療法 舌下免疫療法(図2)は最近注目されている根本的治療です。方法は極めて簡単で、スギ花粉舌下錠(シダキュア®)を最初の1週間は1回1錠(主成分として2,000JAU)を1日1回、舌下に1分間保持した後、飲み込みます。その後5分間は、うがいや飲食をせず、服用2週目以降は、5,000JAUの錠剤を1日1回服用します。必ず指示された服用方法に従ってください。 舌下服用後は2時間、激しい運動や熱いお風呂に入れないことなどや、初回の服用開始時期は花粉の飛んでいない6月から12月などの細かな制約があります。さらに最低でも2~3年以上の服用が必要です。2~3年以上の治療効果は、2割弱の人で症状がなくなり、症状が軽減する有効例は6割弱という研究報告が出ています。舌下免疫療法は専門の講習会を受講して資格を得た医師のみが処方ができます。舌下免疫療法の相談施設は以下のURLで調べてください。 鳥居薬品株式会社『トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ』 https://www.torii-alg.jp/slit/ ポイント ①花粉の飛散開始1週間前より抗アレルギー薬を内服し始めます(初期療法)。②対症療法の基本は、抗アレルギー薬の内服と局所ステロイド性点鼻薬の使用です。③抗アレルギー薬の内服で眠気の出る薬剤があるため、運転や作業は注意が必要です。④室内に花粉を持ち込まないように、部屋に入る前にウエットティッシュを用いて衣服に付いた花粉を払いましょう。⑤マスクやメガネや空気清浄機の使用で、花粉の接触を避けることも大切です。 執筆石井正則(いしい・まさのり)JCHO東京新宿メディカルセンター 耳鼻咽喉科 診療部長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)大久保公裕監修.『花粉症:的確な花粉症の治療のために(第2版)』平成22年度厚生労働科学研究補助金 免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業 公益財団法人日本アレルギー協会事業.2015.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf(2022年2月閲覧)

特集
2022年3月8日
2022年3月8日

後縦靱帯骨化症

後縦靭帯骨化症は、椎体を覆う後縦靭帯が骨化してしまうことで、脊柱管が狭窄し、神経が圧迫される難病です。 病態 後縦靭帯とは、脊椎の後面を覆う靭帯です。頸椎・胸椎・腰椎・仙骨・尾骨とつながる脊椎は、椎骨がつながったものですが、椎骨をつなげて安定させているのが靭帯です。椎骨を覆う靭帯は前縦靭帯と後縦靭帯があり、前縦靭帯は椎骨の前面を、後縦靭帯は椎骨の後面を縦走しています。 後縦靱帯骨化症は、その後縦靱帯が骨化して、硬く、肥大してしまう難病です。骨化のために、脊柱管狭窄をきたし、脊髄が圧迫され、神経症状が出ます。 脊椎は、頸椎、胸椎、腰椎に分けられますが、後縦靱帯骨化症は特に頸椎で多く生じます(頸椎後縦靱帯骨化症)。 原因として、遺伝的素因やホルモンの異常、カルシウム代謝異常、糖尿病、肥満傾向、全身的な骨化素因、骨化部位における局所ストレスなど、さまざまな要因が考えられていますが、はっきりしていません。家族内での発症例が多く、兄弟間では約30%の確率で靱帯骨化症がみられるとの報告もあり、遺伝との関連が指摘されています。ただ、血縁者に必ず遺伝するわけではなく、さまざまな要因のかかわりが推測されています。 疫学 中年以降の発症が多く、男女比は2対1と男性の頻度が高くなっています。また、糖尿病や肥満があると、後縦靱帯骨化症の発生頻度が高いことがわかっています。 日本人においては、後縦靱帯骨化症の発生頻度が、欧米や他のアジア諸国に比べて高いことが示されています。ただし、X線検査で骨化がみられても、その全員に症状が出るわけではありません。 2019年度末時点の後縦靭帯骨化症での受給者証所持者数は、約3.2万人です。40~50歳代で増えはじめ、75歳以上が約1.3万人と多数を占めます。 症状・予後 頸椎の後縦靱帯骨化症では、初期症状は、多くは上下肢のしびれ・痛みです。進行に伴って、しびれ・痛みの範囲が広がります。症状は、四肢の感覚障害、歩行障害、巧緻運動障害へ進行します。重症になると、起立・歩行障害のほか、膀胱直腸障害(排尿・排便障害)が生じることもあります。 胸椎の後縦靱帯骨化症では、下肢の脱力・しびれが初発症状です。主に体幹~下半身に生じます。重症になると、頸椎後縦靱帯骨化症と同様の症状になります。 腰椎後縦靱帯骨化症は、歩行時の下肢痛みやしびれ、脱力などです。 これらの症状は必ず悪化していくとは限らず、半数以上の人では数年経過しても症状は変化しません。一方、進行性の場合は、手術が必要になることもあります。 なお、室内での転倒など、軽微な外傷をきっかけにした発症や、急な増悪がみられることがあります。 治療・管理 保存治療 圧迫されている神経の保護を目的として、患部を安静保持する装具固定が行われます。 対症療法として、しびれ・痛みに対して、神経障害性疼痛治療薬(抗けいれん薬、抗うつ薬、ステロイドなど)が使用されることがあります。 手術治療 症状が重度または進行性の場合は、脊柱管を広げて圧迫を除く目的で、手術治療が選択されます。 リハビリテーションのポイント 首や手足のストレッチなどの運動療法は、血行改善や痛みやしびれ感の軽減、筋力の維持などによいとされます。しかし、筋肉・関節を痛める危険性もあるため、専門医の指示のもと実施することが求められます。カイロプラクティックやマッサージなど民間療法の有効性は確立されておらず、合併症の報告もみられており、推奨されていません。 看護の観察ポイント 手足のしびれ感の悪化や手足の動きのぎこちなさ、排尿状態の変化などが生じた場合、悪化の可能性があるので、早めに専門医の受診を促します。また、転倒などでも脊髄症状が悪化し、重度の麻痺が起こるリスクがあるため、日常生活での注意点を伝えます。室内や庭先など慣れた場所ほど、健康な人でも油断から転倒するリスクが高まるので、この病気を発症した人はいっそう慎重に行動することが求められます。 ●頭や首に衝撃を与える首の運動や、転倒・転落は悪化の原因となることを、患者に説明し日常生活指導を行う●転倒しないように室内環境を整備する●自転車やバイクなど転倒リスクのある移動手段を利用しない●装具の日常使用に関しては医師や理学療法士への相談を促す●頸椎後縦靱帯骨化症では、首を後ろに反らせる姿勢は避けるよう指導するなど 監修あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/脊柱靱帯骨化症診療ガイドライン策定委員会編.『脊柱靱帯骨化症診療ガイドライン』東京,南江堂,2019,104p.〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/257〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/98〇厚生労働省.『難病・小児慢性特定疾病』令和元年度衛生行政報告例.2021-03-01. 

特集
2022年3月8日
2022年3月8日

言葉が理解できない場合【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第4回は、痛みを訴えない患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 70歳代男性。がんの多臓器転移で、緩和治療に移行。家族の「家で過ごさせたい」との意向から、自宅に戻り、訪問診療・訪問看護を開始した。以前から認知症もある。訪問時、家族に様子をうかがうと、昼夜問わず落ち着かない様子があり、ベッド上をぐるぐる回ったり、服を脱ぎだしたりするという。ときおり腹部をさする様子はあるが、看護師が痛みやそのほかの症状を聞いても返答がない。 なぜ患者さんは問いかけに答えないのか? この患者さんは認知症が進行して、失語がみられています。 認知症が進行すると、言葉を見つけることや、理解することが難しくなります。そのため自分の言いたいことを相手に伝えることができず、また、相手が話している内容が理解できなくなります。この患者さんも、問われている内容が理解できず、痛みを感じていても「痛い」という言葉が見つけられず、表現できないでいる可能性が考えられます。 また、認知症が進行すると、注意を集中することが難しくなります。そのため、自分に向けて問い掛けられていることに、気づいていないのかもしれません。 認知症の初期では、同じことを何度も言う、つじつまの合わない会話をするなどから、周囲から冷たい対応をされがちです。そのため認知症患者はとても傷つき、人とかかわる意欲が削がれてしまうことがあるのです。人とコミュニケーションをとらないと言語機能はいっそう速く低下しますし、顎関節の拘縮や声帯の萎縮、肺活量の低下を引き起こし、ますます発語が困難になります。 さらにこの患者さんの場合、がんの進行や転移により、疼痛や倦怠感、悪心などで、体力や意欲を消耗していると考えられます。このような身体的苦痛により、発語に対する意欲も低下し、問い掛けに答えない状態と考えられます。 失語への対応 話し掛けるときの環境を整える この患者さんは、認知症のため集中力が低下しています。また、加齢により、視力や聴力も低下している可能性があります。 そこで、言葉が聞き取りやすいよう、周囲の雑音、動くものなど、患者さんの集中力の妨げになるものを取りのぞき、より静かで落ち着いた環境を提供する必要があります。 当然のことですが、看護師は患者さんが話し掛けやすい態度で接することが重要です。 自己紹介をする 認知症が進行すると、人物の見当識障害が出現します。また記憶障害のために、病気や治療、訪問看護のことを、覚えていることができません。そのため、自分に話し掛けている人が看護師であることを理解することが難しくなります。 まず、自分(看護師)が誰であるのか、名札を示しながら自己紹介し、「苦痛を伝えてもよい人」と認識してもらう必要があります。 ゆっくり落ち着いて、短くはっきり伝える。なるべく簡単に「はい」「いいえ」で答えられるような質問をする 認知症が進行すると、言語の理解力も低下します。そのため、なるべくわかりやすい言葉で伝える必要があります。患者さんがふだん使用している言葉や、方言などで話しかけることが有効な場合もあります。 また、失語による喚語困難から自分の伝えたい言葉が出てこない場合があるので、痛みなどの重要な質問では「はい」「いいえ」で答えられるように問うとよいでしょう。 表情・しぐさ・動作などの非言語的コミュニケーションで伝える 知覚は、認知症が進行しても最後まで残る能力だといわれます。そのため、話し掛ける際には肩に手を置くなど、患者さんの注目を得られるような動作が有効です。 顔の表情や声の調子など、メリハリをつけて話し掛けることで反応がみられる場合もあります。 また、痛みについて聞く際も、腹部をさすり、顔をしかめる動作が通じることもあります。看護師が行ったジェスチャーを、認知症の患者さんが真似した場合、痛みのサインの可能性が考えられます。 痛みのサインを見きわめ、共有する これらのコミュニケーションをとっても、発語が望めないことも考えられます。その際は、患者さんの表情や行動から、痛みのサインを見きわめなければなりません。 顔をしかめる、痛みが出現する部位をさするなどは、一般的な痛みのサインです。脱衣や落ち着かない様子は、痛みが強く身の置き所がないため生じている可能性があります。 他にも、痛みの行動や反応として、閉眼している、口をかたく結ぶ、うめく、体を丸めて臥床する、介助への抵抗をするなどがみられます。 これら痛みのサインを、多職種チームとご家族とで共通認識することが重要です。 こんな対応をしてみよう! この患者さんの場合、落ち着かず、ベッドから起き上がって服を脱いだり、ベッド上をぐるぐる回ったりする行動がみられています。ご家族と相談し、こんな行動を見かけたら、医師の指示のもとレスキューを使用してみましょう。しばらく行動がおさまるようであればレスキューの効果があったと考えてよいと思います。 どんな状態のときにレスキューを使用し、どんな反応がみられたか、ご家族の協力も得てしばらく重点的に観察してもらい、その情報から、痛みのサインやレスキューの効果について把握できると思います。そこから得た情報を家族指導に生かせると、療養生活がスムーズに送れるでしょう。 こんな対応はDo not! × 「痛いなら痛いってちゃんと言ってください」と患者さんを叱責する× 「何も訴えがないなら、痛みや苦痛はない」と考えて放置する× ベッド上で動くと転倒・転落の危険があるため身体拘束を行う 執筆梅﨑かおり(うめさき・かおり)帝京科学大学 医療科学部 看護学科 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇三村將ほか.『認知症のコミュニケーション障害:その評価と支援』三村將ほか編著.東京,医歯薬出版,2013,180p.〇北川公子.『認知機能低下のある高齢患者の痛みの評価:患者の痛み行動・反応に対する看護師の着目点』老年精神医学雑誌.23(8),2012,967-77.

特集
2022年3月8日
2022年3月8日

在宅復帰後の摂食嚥下リハビリテーション①

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、摂食嚥下リハビリにより食形態が向上し、介護負担の軽減につながった事例を紹介します。 摂食嚥下のメカニズム 食物を口に入れ飲み込むまでの一連の機能を、摂食嚥下機能と呼びます。摂食嚥下のメカニズムは、五つの段階に分けて考えます。 5期モデル1) 1.先行期   口に入れる前、色や形、においなどから、食物を認識し、どのように食べるか判断する2.準備期味覚や舌触りなどの情報を得るとともに、食物を咀嚼して唾液と混ぜ合わせ、飲み込みやすい食塊を作る3.口腔期舌の動きなどによって、食塊を口腔内から咽頭に運ぶ4.咽頭期食塊が咽頭付近に到達すると、嚥下反射が起こる(軟口蓋が閉じ、喉頭蓋が反転し気管の入り口を塞ぐ)。このとき、0.3秒ほど呼吸が停止する5.食道期食塊が、食道の蠕動運動によって胃に運ばれる この考えかたが、嚥下障害を改善に導くリハビリテーションへの指標となります。 神経疾患や筋疾患、認知症といった重篤な全身疾患や心理的な問題は、上記の5期それぞれにも影響を与えます。ADL低下にとどまらず、誤嚥や窒息など、生命の危機にもつながります。 重篤になるほど、本人の苦痛だけでなく、家族や介護者に大きな負担ともなります。 摂食嚥下機能のリハビリテーションは、間接訓練(食物を使わない訓練)だけでは進みません。食べられるようになるためには、5期のどこに・どのような障害が・どの程度あるのかを適切にアセスメントし、その後、直接訓練(食物を使う食べる訓練)が必要となります。 口腔ケアと摂食嚥下リハビリにより介護負担の軽減へ 今回は、2回の脳出血後、摂食嚥下リハビリにより食形態が向上し、介護負担の軽減につながった事例を紹介します。 事例 Dさん、45歳男性、要介護5。左側に麻痺、脳出血後高次脳機能障害ほか既往あり。2回目の脳出血での入院時に、一時経鼻胃管栄養管理となったが、カテーテルを自己抜去。OT・STによる懸命なリハビリ後、経口摂取が可能となり退院した。しかし退院後もDさんは寝たきりで、毎回の食事介助に1時間以上かかる。妻は、嚥下食の準備や、子ども2人を育てる生活と不安から疲弊し、「せめて家族の食形態に近い食事ができるようになってほしい」と強い希望を持ち、歯科に依頼した。 Dさんには誤嚥性肺炎の既往もあり、歯科大学附属病院の摂食嚥下専門外来と連携して対応することにしました。 嚥下機能評価をもとに訓練計画を立てる 専門医により嚥下内視鏡検査(VE)注1評価を実施し、咽頭期の問題は比較的軽度であり、準備期・口腔期に訓練が必要とわかりました。 ▷段階的摂食訓練で段階的に食形態を上げていく ▷口唇・舌のストレッチや舌口外法で主に舌の後方の力をつける ▷舌口内法で舌全体の力をつける ── などを短期目標としました。 そして、麻痺のある左側に残渣が確認されていました。妻には、日々の口腔ケアに、とろみ茶との交互嚥下を行うことをお願いしました。交互嚥下とは、形態が異なる食材を交互に食べることです。そうすることで、口の中や咽頭の残留を防ぐことができます。 歯科専門職の居宅療養管理指導は2~4回/月が上限です。そのため、Dさんの口腔衛生面の対応について、他職種にも積極的に情報共有しました。情報を共有することで、歯科専門職が訪問しないときでも、他職種が口腔や摂食嚥下の状況を観察し、サポートしてくれます。質の高い口腔ケアの提供が可能になり、私の背中を押してくれました。 Dさんのリハビリ経緯 直接訓練は、急がずあわてず、呼吸や医学的安定が大前提です。VE評価後、約4か月をかけ、ペースト食から軟飯へと進みました。 そのころ、Dさんは鰻が好物だと聞き、フワフワのオムレツの中に、よく刻んだ鰻を仕込み、持参しました。「よく噛んでくださいね、中からお好きなものが出てきますよ」と声掛けしたところ、鰻入りオムレツ約100gを、5分で完食されました。 麻痺のある左側に確認されていた残渣は、毎日のケアで一掃されました。咀嚼も向上しました。 ゴールは、「家族の食形態に近い食事」でした。ご飯の炊飯時、水を多くして軟飯とします。おかずは、刻んだりほぐしたりで細かくした後、片栗粉などでまとめます。約半年で、希望に近い地点に辿り着くことができました。 結果  介入前介入後(約半年後)食形態学会分類 2-1.2-2UDF 容易に噛める食事時間1時間30~40分MWST注244兵藤スコア1-1-1-1―BMI17.518.5 おわりに 病院を退院し在宅療養に入ると、摂食嚥下機能の再評価もないまま、病院での食形態をそのまま継続している患者も多いと聞きます。本事例では、早期から専門医との連携により嚥下評価を受けることができました。そして、妻や他職種との協力により、食形態の向上と食事時間の短縮がかない、介護負担の軽減を得ることができました。 次回は、在宅復帰後、胃瘻栄養を離脱し、常食摂取が可能になった事例を紹介します。 注1 嚥下内視鏡検査(VE):兵頭スコア(鼻腔~喉頭の内視鏡像を、主に4つの視点から評価する)で評価する。合計点7点を超えると経口摂取が困難となるが、今回の症例は事前の評価が比較的軽度だったので、事後の評価は省略となった。 注2 MWST(改訂水飲みテスト):嚥下スクリーニング法として一般的に使用されている評価法。冷水3mLを嚥下し、嚥下前後の呼吸やむせの有無、頸部聴診音などで評価する。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)山田あつみ.『介護現場で今日から始める口腔ケア』大阪,メディカ出版,2014,60-1.

インタビュー
2022年3月8日
2022年3月8日

看護師を支援するICTと教育のしくみ

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールド。多くのステーションが人材不足で悩むなか、24時間オンコールの廃止、残業なしなどの「働きやすさ」で注目を集めています。しかしそれだけではありません。人材育成やICTの活用などについて、取締役の郷田泰宏さんと看護師の中村創さん、精神保健福祉士の谷所敦史さんに語っていただきました。(以下敬称略) お話郷田 泰宏 株式会社N・フィールド 取締役中村 創 株式会社N・フィールド 看護師谷所 敦史 株式会社N・フィールド 精神保健福祉士 人材育成に独自の研修プログラムを整備 [郷田]N・フィールドでは、入社した看護師の教育研修のため、「教育専任部」を設置し、独自のマニュアルや研修プログラムに沿って、体系的な教育を行っています。前回お話しした、オンコール体制をとらない、18時までの勤務などもそうしたプログラムの一環です。 精神科経験のないスタッフには、入社後にまず、定められている3日間の「精神科訪問看護基本療養費算定要件研修」を受講してもらいます。その後、マニュアルや動画を使用した社内研修で、精神疾患や精神科訪問看護の知識を身につけたうえで、同行研修を実施します。経験の少ない看護師には、自信がつくまで2人ひと組の同行訪問でOJTを実施し、ひとり立ちできるよう育成しています。 AIを活用してアセスメントを可視化する 精神科医療は他の診療科に比べ、アセスメントや診断に科学的根拠を示しにくい領域です。精神科訪問看護においても、アセスメントは看護師一人一人の観察眼や感覚に頼るところが大きく、客観性や科学的根拠についての課題が指摘されていました。 そこで当社では2020年にアセスメントを可視化し、判断に科学的根拠を提供する看護支援システム「TWiNSS」を導入しました。 「TWiNSS」とは、看護師が訪問後に作成し、蓄積された日々の看護記録をAIが読み込み、記述されているキーワードの集積から、個々の利用者の症状の変化をグラフと点数で可視化するというものです。 「TWiNSS」はコミュニケーションを活発にする 利用者さんの心身の調子の「波」を可視化することで、入院のリスクを早めにキャッチでき、早期対応が可能になります。また、どのような治療や支援が有効であったか、これから必要になりそうかなどを、担当看護師とは違う視点からの情報が提供されるため、ステーション内のカンファレンスでの議論が活発になってきました。 ベテラン看護師でも、自分のアセスメントと異なる情報が「TWiNSS」から示されることがあります。それもまた意義があると私たちは考えています。 どちらのアセスメントがよい、ということではありません。アセスメントの違いをどう分析するのか。いろいろな可能性があるなかで、利用者さんにどのようなかかわりをするのか。そこに議論が生まれることで、ステーションとしての一体感が高まります。看護の「熱」を増すことにつながるコミュニケーションツールだと感じています。 もちろん、人がつくるこうしたシステムに完璧はありません。「TWiNSS」も、まだ改良の余地があると思っています。看護記録の様式や用語の統一など、これからさらに精度を上げていって、将来的には病院でも導入してもらえれば、退院時にスムーズに利用者さんの情報を在宅に引き継ぐことができます。 看護師の『肌感覚』ではつかめない異変をキャッチ [中村]「TWiNSS」を現場で活用していると、しばしばびっくりするぐらい的中することがあります。 支離滅裂な言動もなく、安定していたためノーチェックだった利用者さんがいました。ただ看護記録には、「『少し足が痛い』と言っている、せかせか歩いている」という記述がありました。そういった記録が増えた月の翌月初に、その方の入院リスク値が40%から70%にポーンと高くなったのです。 どうしたのだろうと思っていたら、その月に実際、入院されてしまいました。記録を丁寧に見直したら、せかせか歩いていたのは、近隣とちょっとしたトラブルがあって、不安から落ち着かなくなっていたからでした。結果的に、焦って歩いて転倒し、骨折してしまったのです。 看護師の肌感覚では「逸脱した精神症状はみられないので入院からは遠い」と思っていた人でしたが、これはまったく別の視点ですよね。なるほどそういうことだったのかと思いました。 ベテランスタッフが一人増えたような感覚 [谷所]私は、「TWiNSS」の導入はベテランのスタッフが増えたような感覚だと思っています。一人で利用者の家を訪れる訪問看護師は、十分な自信がないと「これで大丈夫だろうか」と不安になることがあります。利用者のわずかな異変に気づけるか気づけないかは、訪問した看護師しだいともいえるからです。 これまで異変を見出す感覚・視点は、精神科においては、職人芸的なものとして醸成されてきました。しかし、「TWiNSS」はそれを、「ここもちゃんと見てきた?」と、気づきにくかったところを補完する役割を果たしてくれます。 これからは「TWiNSS」のようなICTツールの活用によって、もっとアセスメントの客観的根拠を増やしていきたいと考えています。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月15日
2022年3月15日

網膜色素変性症

網膜色素変性症は、網膜にある細胞が障害され、次第に視力が衰えていく遺伝性の疾患です。患者数は60歳代にピークがありますが、先天盲の原因にもなっています。 病態 目の奥にある網膜には、外から入った光を感知して信号に変換する細胞や、信号を脳に伝える視神経線維などが存在し、眼球に入った光を脳に伝えます。 網膜色素変性症は、この網膜の働きに進行性の異常を生じる疾患です。 視神経には、桿体細胞と錐体細胞の、二種類の細胞があります。桿体細胞は、中心窩以外の網膜全体に存在します。主に暗所で働き、明暗を判別します。視野にも関連します。錐体細胞は、明所でおもに働き、色を判別します。黄斑部に多く存在します。 網膜色素変性症は、桿体細胞の障害が主体です。暗所で物が見えにくい(夜盲)、視野が狭くなるといった症状が最初に出現し、病状の進行とともに視力が低下していきます。 網膜色素変性症は遺伝子異常によって起こり、多くは単一の遺伝子の異常が原因です。ただし、原因となる遺伝子異常の種類は多く、それぞれに応じてタイプがあるため、それも症状などの多彩さの一因になっています。 なお、親からの遺伝が明らかに認められる患者は全体の5割程度です。 疫学 日本における有病率は4,000~8,000人に1人の割合とされています。2019年度末時点の網膜色素変性症での受給者証所持者数は、約2.3万人です。ピークは60歳代で、75歳以上の人が4割弱と高齢者での受給が目立ちます。一方、小児の受給例もあり、一定程度の障害を持つ人は幅広い年代に分布しています。 症状・予後 夜盲が特徴的です。夜盲と視野狭窄が、初期に自覚されやすい症状です。 病状の進行に伴って、視力低下や色覚異常、羞明(まぶしく見える)、光視症(光が視野の一部に走って見える)などが生じます。これらの症状は、すべて両眼で進行します。 網膜色素変性症は、途中失明の原因にもなり、早ければ40歳代で失明状態に至ります。ただし、光が感知できず視野が真っ暗になるような例(医学的失明)はあまり多くはありません。 同じ病名、遺伝子異常でも重症度や進行スピードが違う例も報告されているため、病状の見通しなどは専門医に確認してください。 白内障や黄斑浮腫を合併する場合があります。これらの合併症に対しては、通常の治療を行います。 治療・管理・リハビリなど 確立された治療法はありません。対症療法として、βカロテンの一種やビタミンA、ビタミンE、網膜の血液循環を改善する薬などがありますが、効果については明確な結論は出ていません。現在、遺伝子治療や網膜移植、人工網膜などの研究が進められている段階です。 ロービジョンケアの観点から、視覚を補うための用具を活用することも、生活支援につながります。コントラストのはっきりした食器や調理器具、ルーペ、書見台など簡単な補助具や、百円ショップで入手できる代用品でも、QOLの向上が見込めることが多くあります。ロービジョンケアに理解のある眼科医など、専門家につなぐことが重要です。 最近の技術革新は目覚ましく、視覚障害者がパソコンやスマートフォンを操作できる音声ソフトなどもあります。白杖や、羞明のための遮光眼鏡、夜盲のための暗所視支援眼鏡といった専門的な補助具もあり、専門家のアドバイスを求めることがとても有効です。 一定程度以上の視覚障害は、身体障害者手帳の対象です。症状の程度に応じて社会福祉制度を利用することも推奨されます。 看護の観察ポイント 視力低下や視野狭窄のため、周囲にある物に気づきにくく、衝突や転倒の原因になります。医師やケアマネジャーなど多職種とともに、患者の生活習慣をふまえ、室内環境や外出時のサポート体制などを整えることが大切です。 障害の程度に応じて補助具を活用するとともに、後の視機能の低下に備え、症状が進行する前から操作に慣れてもらうことも推奨されます。 白内障などの合併症もあるため、症状の進行が疑われる場合は、そのつど医師に情報提供し受診につなげます。 ●視力低下や視野狭窄などの症状が進行していないか●日常生活に支障が出ていないか●転倒などがないか●視機能低下に対する補助具を使用できているか●必要な社会福祉制度に橋渡しされているか●視力視野の低下に対して患者の不安や焦りなどが大きくなっていないかなど 監修あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班網膜色素変性診療ガイドライン作成ワーキングクループ.『網膜色素変性診療ガイドライン』日本眼科学会雑誌.121(12),2016,846-961.〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『網膜色素変性症(指定難病90)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/196〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『網膜色素変性症(指定難病90)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/337〇厚生労働省.『難病・小児慢性特定疾病』令和元年度衛生行政報告例.2021-03-01.

特集
2022年3月15日
2022年3月15日

[2]一方的に進めない! エンゼルケアでもコミュニケーションが重要

日ごろより、コミュニケーションに留意していることと思いますが、エンゼルケアでもご家族とのコミュニケーションがとても大切です。ケアする側からの一方的なケアになってしまう部分がないよう、適切な声かけや説明、相談を行いましょう。看取りの場では、ご家族の意向を最優先するという心構えが必要です。 これまでの「死後処置」を見直す 北は網走から南は奄美大島まで、全国各所にエンゼルケアの講演や研修会に伺いました。それで見えてきたことの1つは、長らく行われてきた「死後処置」の内容は全国的におおむね標準化されていたということ。実施の流れだけでなく、お顔用の、充実しているとは言い難い化粧品類がお菓子の缶などに入れてある、といったことまで多くの現場で一致しており、そのことに驚きました。 「こうするもの」と伝えられてきたこの死後処置を、看護師の皆さんは真摯にていねいに実践してきたことと思います。 しかし、ご家族の希望や意向をしっかり伺うようになり、それまでの実施には一方的な面があったことがわかってきました。 例えば、亡くなった方の口が開いている場合、これまでは当然閉じることがベストだと考えた対応が行われてきましたが・・・・・・。 あるケースではこんなやりとりがありました。 看護師「開いているお口ですが、いくつか閉じる方法がありますので、これからご説明します」ご家族(亡くなった男性の妻)「いえ、無理に閉じなくていいです。亡くなったときに口が開いていたなら、それが楽なのかもしれないから。もう、夫には微塵も頑張らせたくないんです」 亡くなった男性は白血病で何度目かの化学療法にトライしていました。闘病生活を支えてきたご家族だからこそ「これ以上はがんばらせたくない」と感じたのだと思います。 また、幅広の包帯を顎下にぐるりと回して頭頂部で結び、顎を引き上げて口を閉じる対応がなされた方のご家族は、そのときの思いをこう話しました。 「縛られて、苦しそうで、痛そうで、つらかったけれど、そうしなければいけないのかと思い、口に出せませんでした。それからずいぶん経ちますが、つらい記憶として今も残っています」 ケアする側がよかれと思って実施することでも、ご家族は希望しない場合があります。十分にコミュニケーションを取りながら、ご家族の希望や意向にできる範囲で対応することが大切です。 ご家族の希望に柔軟に対応するための留意点 さまざまなご家族の希望に柔軟に対応するためにも、コミュニケーションを取る際は以下の2つのことに留意します。 ①ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣うことが多い、予想を超える希望も少なくない、と含んでおく 死亡告知を受けており、頭では死亡したことを理解していても、ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣っていることが多いです。これは、さまざまなケースからわかってきました。 前出のケースのように、口が開いていたほうが楽かもしれないから閉じないでほしい、縛られて苦しそう、という思いもその例ですね。 他にも「痛み止めの坐薬を入れてほしい」と希望したり、顔に四角い白い布をかけるかどうかの問いに対して「夫はまだ心臓が止まっただけだから、亡くなった人みたいにしないで」と応えたり、冷却の説明に対して「冷たくて寒そう」と応えたケースもあります。 ある在宅での看取りの場面では、ご遺体を「一度起立させてほしい」との希望があり、担当の看護師がサポートして実現したこともあります。 ②ご家族の承諾は不可欠 第1回でもふれましたが、エンゼルケアの場面では、ご家族の承諾を得て進めることがポイントです。 また、ご家族に判断して承諾していただくためには、それをなぜ行うのか、どんなふうに行うのか、など実施内容についての適切な説明と提案をし、希望や意向を伺うことが必要です。 入浴についてのコミュニケーション例 では、具体的にどのようなコミュニケーションを行えばよいでしょうか。ここでは入浴を実施する場合を例にご説明します。 看護師「それでは、よろしかったら、これから○○さんにお風呂に入っていただきませんか? 介助する人数としても可能な状況ですので。お身体の今後の変化のことを配慮し、ぬるま湯でシャワー浴の形で。いかがでしょう?」 エンゼルメイクの入浴では、身体をあたため腐敗を助長する恐れがあるため湯船につかることは避け、ぬる湯によるシャワー浴が望ましいのです。 ご家族「えー!? お風呂はうれしいけれど。おじいちゃんは湯船につかるのが何よりも好きだったんです。最近ずっと湯船に入れていなかったんだから、最後くらい入れてあげたいわ。絶対、入れてあげたいです!」 この希望を受けて、あらためてご遺体の状況や気温から腐敗リスクを評価し、この後の葬儀社による冷却が始まる時間も合わせて検討し、次のように提案します。 看護師「それでは、短時間になりますが湯船に入っていただきましょう。そして、お風呂から出られたらすぐに胸とお腹を冷やしましょう。そうすれば、その後のお身体の変化をかなり抑えられると思います。いかがでしょうか?」 この提案に対し、ご家族が承諾したなら、入浴を実施してすぐに冷却を行います。ご家族が承諾せず、「ゆっくり湯船に入れてあげたい」と希望されたなら、腐敗現象による漏液など、つらい事態について理解されていないかもしれないと考え、あらためて説明し、承諾を得られるようにします。 ご家族への説明や提案は簡潔にわかりやすく ご家族は、エンゼルケアの場面について何もご存じではないことが多いのですが、死後の身体の変化のことなどから一つひとつ説明することは現実には時間的に限界があります。 そのため、エンゼルメイクを始める前に、 看護師「これから清拭や着替え、お顔のスキンケアやお顔色のカバーなどを始めたいと思います。ご質問や気になる点、また『こういうふうにしてほしい』といったご希望がありましたら、遠慮なく仰ってください。では、始めてよろしいでしょうか?」 というようにおおまかに説明し、承諾を得てから実施します。そして、ケアを行いながら可能な範囲でご家族への声かけと説明を行うとよいでしょう。 適宜簡略化しながら説明や提案を行うためにも、ご家族に渡す文書の作成がポイントとなります。文書を受け取ったご家族もたいへん安心されるのでおすすめします。文書の活用については連載の第8回で詳しくご紹介します。 ワンポイントメモ同席していただく際の声かけは「お願いします」がおすすめ声かけでは「ご家族に同席していただかなければエンゼルケアを行えない」という状況を伝える表現が必要です。例えば、次のような声かけがおすすめです。「これから、○○さんらしく身だしなみを整えたいと思いますので、(ご家族の)どなたかにご同席をお願いします(or どなたかに、付き添っていていただきたいです)」 ある緩和ケア病棟では、声かけを「ご一緒になさいませんか?」から「同室をお願いします」に変更したところ、ほぼ皆さんが同室されるようになったとのことです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年3月15日
2022年3月15日

かぶれ?褥瘡?臀部が広範囲に赤くなっている場合のアセスメント

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第6回は、3日間下痢便が続き、臀部が広範囲に赤くなっている患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 98歳女性。 おむつで排泄しています。ここ3日間下痢便が続き、まったくベッドから出ない生活になってしまいました。臀部が広範囲に赤くなっているようです。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 臀部の発赤がみられる事例です。 皮膚のびらんの原因は、下痢便であることは確かだと思われます。発赤が紅斑化していれば、末梢血管がすでに損傷を受けていると判断されます。 ベッドから出ない生活、皮膚の浸軟、下痢による栄養状態の悪化・脱水から、褥瘡を生じている可能性も高いです。 どちらも、早期に適切な皮膚ケアを行うことで悪化を防ぐ必要があります。 ここに注目! ●下痢便による、びらんの可能性がある。●皮膚のびらんだけでなく、褥瘡を生じている可能性がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・皮膚トラブルについて(時期、範囲、経過、疼痛・瘙痒感などの随伴症状)・下痢の原因・頻度と経過・おむつ交換の回数と、陰部・臀部の皮膚の清潔ケアの方法と頻度 客観的情報の収集 かぶれ かぶれとは、化学的刺激への接触により皮膚炎を生じた状態です。紅斑や丘疹から始まり、びらんとなります。 便によるかぶれであれば、肛門部を中心に、下痢で汚染される範囲にみられます。真菌感染等を併発することもあるため、難治性の場合は速やかに報告する必要があります。 皮膚の清潔度 肛門部・臀部・陰部の清潔度合いを観察してください。きれいにできておらず便が残っていると、便による化学的刺激が除去されていないため、皮膚症状は改善しません。 また、きれいにしようとこすることによって、その摩擦により皮膚トラブルが悪化することもよくあります。清潔度とともに、どのようなケアを家庭で行っているかを確認するとよいでしょう。 褥瘡  褥瘡の好発部である、体圧が集中する仙骨部の皮膚を観察します。周囲のかぶれとの違いを観察し、赤みが強い場合は、紅斑化している可能性が高いので、一時的な発赤なのか、紅斑化した初期の褥瘡かを、判別することが重要です。 紅斑化した初期の褥瘡では、出血や滲出液がみられないため、視診した際には単に「赤くなっている」という印象しかありません。褥瘡好発部位に発赤を発見した場合は、それが紅斑化していないかを必ず確認してください。 紅斑化している場合は、押しても白くならず赤いまま、または、赤みが戻るスピードが速くなります1)。これは、毛細血管に障害があって血流が妨げられているサインです。Ⅰ度の褥瘡になっていると考えられる状態です。これを見逃さず、早めの対処をしましょう。早期発見は早期治癒への近道です。 さらに、水疱があり、滲出液が出ている場合はⅡ度と判定されます。早めに褥瘡・皮膚ケアの専門家に状況を伝えて、相談してください。 報告のポイント ・皮膚トラブルの部位、範囲、湿疹の種類、分布の特徴、随伴症状・褥瘡の有無とリスク・下痢の原因と経過 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)日本褥瘡学会学術教育委員会ガイドライン改訂委員会.褥瘡予防・管理ガイドライン.第3版.http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline3.pdf

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2022年3月15日
2022年3月15日

【セミナーレポート】精神訪問看護 みんなが楽になるコツ

2022年1月21日に実施されたNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「精神訪問看護 みんなが楽になるコツ」。訪問看護ステーションの統括所長である精神科認定看護師の小瀬古伸幸さんを講師にお迎えし、精神科訪問看護とはなにか、現場では具体的にどんなサポートが求められているかなどを教えていただきました。地域の精神病看護における実践的なノウハウがつまった貴重なセミナーの一部をご紹介します。 【講師】小瀬古 伸幸さん訪問看護ステーションみのり 統括所長、精神科認定看護師、WRAPファシリテーター、Family Work Practitioner経歴:精神科単科病院勤務後、2014年に訪問看護ステーションみのりに入職。2016年には同組織の奈良事業所を開設し、所長に就任。2019年より現職。精神病の利用者さんに対する訪問看護の実践はもちろん、近年はその家族の支援にも注力する。著書に「精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本」(医学書院)がある。 【目次】1. 精神科訪問看護で起こりがちな失敗と基本的な考え方2. 常に利用者さんの真意を探りながら自己決定をサポートする3. 「精神科訪問看護の基本の型」を理解し、フェーズに合った支援を4. 対話時の「自分の位置」を意識し、利用者さんの言葉を引き出す5. 精神科訪問看護ではなによりもまず利用者さんの気持ちに寄り添って6. Q&Aセッション・幻想や妄想について聞いても良いものでしょうか? --> 精神科訪問看護で起こりがちな失敗と基本的な考え方 精神科訪問看護では、利用者さんが「自分らしく生きる」ための方法を本人と一緒に考え、自己決定をサポートします。私が所属する訪問看護ステーションでは、「精神症状と付き合いながら、生活を組み立てていくサポートをしている」と説明しています。重要なポイントは、こちらの考えを押しつけるのではなく、利用者さんの自己決定を支援するという点です。精神科訪問看護に携わりはじめたのころの私は、これができていませんでした。無意識のうちに利用者さんを説得しようとしたり、不安を煽ってしまったりしていたんです。例えば「薬を飲まないと症状が再燃して入院になりますよ。だから薬を飲むべきだと思いますが、どう思いますか?」といった具合です。結果的に、たくさんの利用者さんから拒否されてしまい、「脅しや尋問を受けている感覚になる」という言葉をいただくこともありました。私としては、「どう思いますか?」と意見を聞いているので、なぜ拒否されるのかわからなかったのですが……。このままではいけないとコミュニケーションの術を学び、改めて自身の発言を振り返ることで、私の対応は、利用者さんにとって脅威になっていると気づいたんです。現在では「利用者さんが自分らしい生き方を叶えるサポートをする」のが精神科訪問看護だと考えています。 常に利用者さんの真意を探りながら自己決定をサポートする 先にお話ししたとおり、精神科看護の大前提は自己決定を支援することです。では、自己決定とはなにか。さまざまな事象について主体性をもって自ら選択、決定し、その後も自身の判断に関与していくことをいいます。そして看護師には、決定後の関与の部分までサポートすることが求められます。例えば、アルコール依存症の方がお酒を断つと決めたとしましょう。しかし、スリップを繰り返す様子を見ると、私たちはつい「この人は嘘つきだ、意志が弱い」といったレッテルを貼ってしまいがち。しかし、スリップの背景には必ず理由があるものです。「どんな気持ちだったか」「どんな経緯があったか」「その判断、選択の理由はなにか」といった問いかけをし、その理由、ひいては『その人らしさ』を知ることが必要になります。 「精神科訪問看護の基本の型」を理解し、フェーズに合った支援を では、自己決定の支援だけをすればいいのかというと、もちろん違います。そこは大前提として、精神科訪問看護の軸は、「早期警告サイン(症状が再燃していく兆候)を同定し、対処法を一緒に考えること」にあります。そのためには、「精神科訪問看護の基本の型」を理解したうえでサポートしていくのがいいでしょう。まず、症状の度合いを「普段の生活」「調子の変化」「生活の支障」「破綻の危機」の4段階に分けて考えます。各段階は以下のような状態を指します。 ・普段の生活「いい感じだ」と思える状態。一般的にイメージされる健康的な生活ではなく、本人が充実していると感じられる生活を送っている状態。・調子の変化「いい感じの自分ではない」と感じるタイミングが少しずつ増えている状態。・生活の支障症状が明確に現れはじめ、就業できなくなるなど、日常生活がままならなくなる状態。・破綻の危機症状が活発になり、入院も視野に入れなければならない状態。 例えば、音楽が好きな利用者さんが、曲を聴かなくなったとします。その理由が「疲れているからあえて聴かなかった」のであれば、対処しているとして経過を観察してもいいかもしれません。しかし「自分でも理由はわからないけれど、なぜか聴いていなかった」なら、調子の変化のフェーズに入っている可能性があるため、対処法を検討すべきでしょう。また、破綻の危機のフェーズまで進んでしまった場合は、薬の投与や入院など打てる手は限られます。なお、訪問看護の現場では、生活の支障と破綻の危機の間の段階で対応するケースが多くなっているのが現状です。もっと前の段階で対処し、普段の生活に戻していくことが求められています。 対話時の「自分の位置」を意識し、利用者さんの言葉を引き出す 病気の改善に向け、利用者さんと対話していくなかでは、まず本人の欲求をヒアリングしてみましょう。利用者さんはどんな状態になりたいのか、今なにが不足しているかを聞き、その答えから目指すべきゴールを明確にします。そして、確実にゴールに近づけるようにサポートしていくのです。 このときに気をつけたいのが、対話をする際の「自分の位置」。人と人とが対話を始める際、多くの場合社交辞令から入ります。そこは問題ありませんが、多くの支援者が失敗してしまうのは、社交辞令のあとの流れです。「支援者本位」の話をしてしまい、利用者さんが心を閉ざすという流れはよく耳にします。大事なのは、上の図の「ここから開始」の部分。社交辞令のあとは「相手が話したいこと」に移行することです。その対話のなかで肯定的な反応を引き出せるようになれば、自然と支援者が聞きたいことも話してくれるようになります。対話のなかで、利用者さんから「でも」や「だって」などといった否定的なニュアンスの言葉が聞かれるようになったら、要注意。支援者本位になっている可能性大です。 精神科訪問看護ではなによりもまず利用者さんの気持ちに寄り添って 幻聴や妄想といった症状は、対話だけで解消するのは難しいでしょう。私は、精神科訪問看護でまず目指すべきは、利用者さんの気持ちに寄り添うことだと考えます。幻聴や妄想の根底には、怒りや不安などの感情があるもの。そうした感情が脳のフィルターをとおり、症状として現れるのです。そんなつらさ、先の見えない不安な気持ちに寄り添うことが、私たちには求められます。利用者さんから症状についての説明を聞いて、まずは「それはつらいですね」と共感の声をかける。そうやって寄り添うことで、薬物療法も功を奏すものです。 Q&Aセッション ・幻想や妄想について聞いても良いものでしょうか? ぜひ聞いてください。利用者さんのなかには、周りの人に症状について話しても信じてもらえなかったり、うんざりされたりといった経験をしている方が少なくありません。そんな経験をするうちにだんだんと話さなくなり、ひとりで抱え込み、症状が悪化、または固定化していってしまいます。私の経験を振り返っても、関係性ができてきたころに「こんなふうに話を聞いてもらったのは初めて」とおっしゃる方はとても多いです。じっくり話を聞き、寄り添ってあげてください。 ●小瀬古さんからのお知らせ●日々の忙しさのなか、隙間時間を利用して、いつでもどこでも、短時間で精神科訪問看護について学べるようにYouTube「TOKINOチャンネル」を開設しました。お見逃しのないよう、ぜひ、チャンネル登録をよろしくお願いします!https://www.youtube.com/channel/UC93OMptXvoslF0VYPcdoMrQ 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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