アセスメントに関する記事

利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】
利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】
特集
2023年12月26日
2023年12月26日

利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんの急変や在宅死を発見したときの対応法です。 訪問看護ではめずらしくない急変や在宅死 訪問看護の利用者さんには重症度の高い方や、ADL(日常生活動作)は自立していても重度な内部疾患を抱えている方が多くいらっしゃいます。そのことも影響して訪問看護の現場では病状の急変や在宅死は決してめずらしい出来事ではありません。 訪問したときに利用者さんが倒れていたら、あるいは亡くなっていたら、どう行動すればよいでしょうか。現場ではさまざまなシチュエーションが考えられます。それぞれの場面における対応方法を見ていきましょう。 急変や在宅死への対応法 ※NsPace編集部注:死亡診断にまつわる基本的な対応方法については、日本看護協会の資料もご参照ください。日本看護協会「在宅看取りの推進に向けた死亡診断の規制緩和について」 主治医に連絡し事前の取り決めに基づき対応 例えば予後不良な末期がんや末期心不全などの利用者さんでは、急変による死亡の可能性について予測がつきます。通常は訪問診療を受けていることが多いので、主治医との連携や連絡体制が整っていると思います。緊急時や呼吸停止していた場合、まずは主治医に連絡しましょう。基本的には事前に打ち合わせしている内容や、指示書に基づき対応します。 なお、主治医への電話連絡では利用者さんの受診状況によって工夫が必要です。地域のかかりつけ医に受診しているのであれば、比較的主治医と連絡をとりやすいですが、総合病院や大学病院などを受診している場合、連絡してもつながりにくいことがあります。そのようなときは、外来や退院連携室の担当者に連絡し、主治医に伝えてもらうとよいでしょう。 ここからは、医師に連絡することは大前提として、蘇生が望める場合と死亡していると思われる場合に分けて対応方法を解説します。 蘇生が望めると判断したら救急要請 呼吸および脈拍や意識レベルなどの身体状況から、救急車を要請するか否か判断を迫られる場面に遭遇することもあります。緊急時における事前の取り決めがなければ、わずかでも生活反応を確認できた時点で救急要請を行います。救急車を待っている間、医療職として利用者さんの蘇生に全力を尽くしましょう。 死亡と思われる場合は警察に連絡 一方、原因が分からず明らかに死亡していると思われる場合、警察に連絡します。私たちは訪問しているのでご本人がどういう病状であったかは分かっていますが、死亡原因がその病気によるものなのかは分かりません。検視が必要となります。警察の到着を待って、事情聴取に応じ、警察が必要とする情報を提供します。 ここで大切なのは、警察が到着するまでの間、できる限り利用者さんの身体や周囲の物に触れないということです。よほどの事件性がない限り、少々触れたとしても問題にはなりませんが、死亡の原因がご本人の病状によるものと判断できたとしても不用意に触らないことが望ましいです。 関係各所への連絡も忘れずに 急変時、死亡時ともに、利用者さんに関係する人たちへの連絡も重要な任務です。ご家族やケアマネジャーなど連絡先として情報を得ている方がいるはずです。身内がいない場合は、地域包括支援センターや行政窓口の高齢福祉課、生活保護課、保健衛生部など、日頃やりとりをしている担当者に連絡します。 また、ステーションに状況を報告します。この後に続く訪問調整の相談も忘れないでください。次の訪問予定時間に遅れが生じ、ほかの利用者さんに迷惑をかける事態を防ぐことも大切です。 急変や死亡が予測できなかった事例 訪問したらいつもどおりにケアを提供できることがほとんどですが、長く訪問看護師を続けていると、予想外の出来事に遭遇します。次に示す2事例は、筆者が経験した事例です。いずれも独居の男性であること、急変や死亡の予測ができなかったことは共通していますが、プロセスに若干の違いがあります。 環境の大きな変化を経験したAさん 高齢の母親と二人暮らしをしていたAさん。生活の多くの部分を依存していた母親が急死。突然独居となり、本人の生活が成立しなくなります。 以前から他人に自宅に入られたくないと訪問看護に消極的でしたが、主治医からのすすめもあり、週1回の訪問看護は受け入れていました。母親が高齢のため、保健師や地域包括支援センターの担当者はAさんがいずれは独居になる事態を予測し、本人が困らないように準備を整えていました。ところが母親の突然の死に訪問介護の準備が間に合わず、訪問看護を週2回に増やし、生活支援も含め対応することになりました。 ある日のこと、訪問予定時間に自宅にうかがい、呼び鈴を押しましたが応答がありません。玄関前で電話をかけますが、それにも応答なしです。玄関は施錠されており入室することもできないため、一旦ステーションに引きあげました。 数時間後に再度訪問するも状況は変わらず。普段の様子から長時間留守にされることはなく、何となく不安になりました。担当の保健師に報告し協議をしたところ、翌日Aさんの受診が予定されていることもあり、お互いに悩みながらもそのまま様子をみることにしました。 受診当日、本人が病院に行ける状態かどうかを確認するため、再度自宅に出向きましたがやはり応答がありません。平常時の本人の状態からすると異常事態としか考えられず、警察に連絡しました。現場に到着した警察に通報に至った経緯を説明します。警察であっても室内には勝手に入ることはできないようで、侵入可能か否かの判断はガイドラインに基づき対応しているようでした。 室内に入ると、リビングで倒れているAさんを発見。意識レベルが低下(JCS 300)していましたが、呼吸しており脈拍も何とか触れる状態です。警察が救急車を要請し、入院になりました。その後、訪問看護師から保健師はじめ関係者に一連の報告をしています。 うつ病を抱えたBさん Bさんはうつ病の診断を受けています。病気で就労できなくなり、復職の見通しが立たないつらさや、生活に対する不安の訴えもあり、訪問看護が開始されました。訪問看護は週1回の利用です。 訪問日にうかがい、呼び鈴を押しますが応答がありません。ドアノブを回してみると施錠されておらず、ドアを開けることができました。ドアを開放したまま、声かけしながら入室すると、押し入れに上半身を突っ伏した状態のBさんがいました。 状況からみて明らかに死亡していると確信したため、警察に連絡。警察はさらに救急隊に連絡し、到着した救急隊がBさんを確認し搬送する状態にないと判断しています。その後、監察医が訪問し検案を行い、警察がご遺体を搬送していきました。訪問看護師の役割は、警察から訊かれたことに対し情報提供することです。そして、地域でかかわっていた方に報告し、任務終了です。 Bさんのケースでは、病名から自殺という結果も考えられ得るわけですが、どういう状況であっても、看護師として死亡していると判断できたならば、本人の周囲には触れることなく、警察に通報します。 ただし、どうしても触れる必要がある場合、自分一人だけで触れることがないようにしてください。ほかの人がいるときに触れる目的を伝えてから実行します。もちろん現場保存の意図もありますが、後々、ご家族や身内の方から「物がなくなった」と疑われないようにするためでもあります。 もしものときのために普段から話しておく 訪問看護は常に今回紹介したようなアクシデントに遭遇する仕事だと思っています。急変や在宅死への対応のポイントをまとめます。 日ごろからご本人含め在宅医療にかかわるメンバーで急変時や死亡時の対応を事前に取り決めておく。急変時、事前の取り決めがなければ救急要請を行い、蘇生に全力を尽くす。原因が分からず死亡していると思われる場合、身体や周囲のものには触れず、警察に連絡する。警察にはきちんと情報提供を行う。 予後不良な利用者さんの場合、訪問時に緊急対応が発生する可能性が高いと予測されます。状態の把握に努め、いざというときにあわてず対応できるようにしておきましょう。また、予後不良の利用者さんに限らず、通常の訪問時からご本人のアドバンス・ケア・プラニング(ACP)の支援を通して、どのような医療やケア、対応を望んでいるのかを確認しておくことが大切です。独居の方であれば「いざというとき、家に入ってもよいですか」「カギはどうしましょう」など、想定されることはご本人やご家族と事前に取り決めます。そして、それらの情報を記録として残し、関係者と共有します。初めからあれこれ聞くことは難しいと思いますが、利用者さんの病状によっては初回訪問時に確認しなければならないこともあるでしょう。もしものときに備え、普段から意向を聞いておけるとよいですね。 * * * 利用者さんの急変や死亡事例は訪問看護師にとって深刻な事態ですが、起こったことだけでとらえるのではなく、そのことに至るまでのプロセスや関係性が重要です。ご本人が望む生き方や死の迎え方を私たちは日頃の訪問看護を通して知ること。その思いに寄り添うことが最期の時までに課せられた訪問看護師の役割と考えます。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

在宅のスキンケア がん性創傷(自壊創)
在宅のスキンケア がん性創傷(自壊創)
特集 会員限定
2023年12月19日
2023年12月19日

がん性創傷のケア アセスメントと痛み・滲出液・出血・臭気対策

がん性創傷は、皮下に生じたがんが発育して皮膚を破り創傷を形成したものです。創傷には、皮膚に生じる皮膚がんや、他臓器からの転移、治療や副作用で生じた創傷などがあります。がん性創傷は、治りにくく、さまざまな苦痛を伴います。 今回は、看護の実践場面で遭遇するがん性創傷について、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、創傷の特徴とスキンケアのポイントを中心に解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 がん性創傷の原因と経過 まずは、がん性創傷の原因となるがんと創傷の様子について、写真付きで確認していきましょう。 がん性創傷の原因となるがん 原発性がん原発性皮膚がん切除後の局所再発皮下軟部組織の肉腫・口腔底がん・肛門がん・子宮がんなどが皮膚に浸潤している場合乳がん(未治療な状態でがんが皮膚に浸潤し発育している場合)皮膚がん(悪性黒色腫・有棘細胞がん・扁平上皮がん・基底細胞がん・乳房外パジェット病など)転移性がん手術時にがん細胞が創部に移植されて発育する場合頸部・腋窩・鼠径部などのリンパ節転移病相が発育して皮膚を破る場合血行性やリンパ行性に皮下に転移した病巣が発育する場合 胃がん悪性リンパ腫 がん性創傷の臨床的特徴は以下のとおりです。 がん性創傷の臨床的特徴1) 進行性であり難治性である滲出液、臭気、出血、痛み、かゆみなどの身体的な苦痛を伴う臭いや容姿の変化による羞恥心、病状に対する不安などの精神的苦痛、疎外感や生きがいの喪失など霊的苦痛を伴うがん性創傷そのものが物理的障害となり、あるいは体動時痛を伴うことにより日常生活動作が低下する 治りにくく、ケアは生涯続く可能性も 皮膚に表出した皮膚がんは外科的に切除されますが、病期によっては切除が困難な場合もあります。転移性がんは、原疾患の治療が基本です。転移性であることから、放射線療法や化学療法、ホルモン療法などにより縮小に期待ができますが、完全に消失させることは困難な場合が多いでしょう。また、終末期の療養者の場合、低栄養や貧血、免疫機能の低下や自己治癒力の低下などにより、創傷の治癒が遅延しやすい傾向に。それにより、感染や壊死に至るリスクも高くなります。 創傷は身体のさまざまな部位に生じます。形態や症状、経過なども人それぞれです。皮膚に転移したがんが初期の場合、腫瘤として触知されますが、その後の経過で炎症症状が出現し、さらに創部の自壊が進行すると、痛みや出血、滲出液や臭いなどの症状を生じます。 がん性創傷は治りにくい創傷であり、ケアは生涯続く可能性があることを念頭に置きましょう。局所のさまざまな症状による身体的、精神的、社会的な苦痛を理解した上で、支援を検討することが大切です。 がん性創傷 アセスメントのポイント 療養者本人は、がんの進行に伴いさまざまな心身の変化を生じます。中でも創傷を有する療養者の場合、創部のケアや症状によって身体的苦痛が増すことや、精神的な不安や苦痛を伴うことも。本人や家族が、できる限り安楽な日常生活を継続できるように、療養者の苦痛や生活を考慮した上で、QOLを重視した多面的かつ全人的なアセスメントを行うことが必要です。 アセスメントのポイントは以下のとおりです。 現病歴の経過 がんの種類がんや創傷の治療内容と経過使用薬剤の種類合併症の有無 身体・生活状況 日常生活動作の状況 創傷が生活に与える影響:日常生活動作、排泄、食事、清潔ケア、睡眠、衣服、外出、仕事、家事、就学など栄養状態:体重の減少、食事摂取の状況・創傷への影響 局所の状態 創傷の状態:創部の部位・大きさ・深さ・多臓器への浸潤など創傷の症状:痛み、出血、滲出液(量・色調・臭気)、臭い、掻痒感、壊死の状況、炎症の有無、感染の有無などケア時の症状:痛み、不快感、疲労感、倦怠感など創周囲皮膚の状態:発赤、びらん、潰瘍、浸軟、疼痛、掻痒感など 精神的・社会的状況 抑うつ、不安、恐怖、悲嘆、苦悩、気力の低下など本人が創傷やがん(治療含む)に対し、どのように受け止めているか本人がどのような不安を抱き、どのように対応していきたいと望んでいるかボディイメージの変化をどのように受け止めているか創傷によって生活がどのように変化したか家族や友人などとのコミュニケーションの状況本人と家族の希望精神的な支援体制の状況 経済的な負担 創傷ケアにかかる衛生材料などの費用創傷ケアを行う時間や労力など社会資源サービスの利用にかかる費用など 痛み・滲出液・出血・臭気のスキンケア がん性創傷のケアは、全身を含めた創傷の症状コントロールと、その人と生活に合った最善のケア方法を本人・家族と一緒に考えることが大切です。また、できる限り容易でシンプルなケアにすることを意識しましょう。 基本的なケア方法は、 洗浄により創部を清潔に保つ創部の壊死組織を除去する創傷治癒を促進するために創部の湿潤環境を保つ創周囲皮膚を保護する などです。 本項では、がん性創傷の特徴である、痛み、滲出液、出血、臭気に対するスキンケアをご紹介します。 痛みに対するスキンケア がん性創傷の痛みの要因は、創傷ケアに起因するもの(ドレッシング材の接触・除去、洗浄など)、炎症・感染に起因するもの、がんの浸潤に伴うもの、創傷に対する外的刺激に伴うもの、創周囲皮膚のトラブルなどがあります。 ◯スキンケア時のポイント ケアを行う前に予防的な鎮痛剤を使用するドレッシング材を除去する際は、あらかじめ生理食塩水などを用いてドレッシング材を湿らせておき、濡らしながらゆっくり丁寧に除去する※洗浄のスキンケアにおいても、生理食塩水を用いることが基本であるが、水道水でも問題はない創面の乾燥を予防するために、油性基材の軟膏を用いる※軟膏はドレッシング材に塗布する使用するドレッシング材は、非固着性ガーゼや創傷被覆材などを選択し、剥離刺激による出血や痛みを予防する医療用テープなどで固定する場合は、低刺激性の医療用テープを使用して剥離による痛みを軽減する※あらかじめテープ貼付部位に非アルコール性皮膚被膜材などを使用する方法も 滲出液に対するスキンケア がん性創傷は、自壊が進行すると滲出液が増加します。滲出液の管理には、滲出液の量に応じたドレッシング材の選択が必要です。多少の滲出液をドレッシング材で回収することにより、下着や衣類への汚染が予防できます。 ◯スキンケア時のポイント 使用するドレッシング材は、吸収性に優れた非固着性ガーゼや吸収パッドを併用する創傷被覆材を使用する場合は、ハイドロファイバーやアルギン酸カルシウムなどを用いる軟膏を使用する場合は、吸水力に優れたマクロゴールやポリマービーズ含有のものを用いるドレッシング材の交換頻度は、滲出液の量に応じて検討するストーマ用装具を用いたパウチング、Mohs変法(モーズ変法:腫瘍組織を硬化させる)、ホルマリン、フェノールの塗布などで滲出液を軽減する方法もある 出血に対するスキンケア がん性創傷は、腫瘍部分が露出しているため毛細血管から血液が滲み出てくることも。腫瘍部は血流に富み、組織は脆弱であることから出血しやすい特徴があります。また、創面が広範囲である場合や血小板減少や出血傾向がある場合などは、出血量も多くなります。場合によっては、がんの浸潤による動脈の破綻などで大出血を起こす場合も。 がん性創傷による出血は、出血による全身状態の悪化をもたらすほか、止血死の可能性、療養者本人や家族の大きな心理的影響など、深刻な問題に繋がります。また、止血が困難な場合もあるため、血液で汚染された部分が目立たないような工夫など、本人や家族への細やかな配慮と心理的サポートも重要です。 ◯スキンケア時のポイント■止血時の対応 出血点をガーゼなどを用いて圧迫止血する出血点に、創傷被覆材(アルギン酸カルシウム材)を用いる ■ドレッシング材を剥離する際のポイント 生理食塩水などを用いて濡らしながらゆっくり丁寧に除去する創部の洗浄を行う際は、創を擦らない創面に接触するドレッシング材は、非固着性ガーゼを用いて剥離時の刺激を軽減するドレッシング材の固着を予防するために、油性基材の軟膏を用いる(軟膏はドレッシング材に塗布する) 臭気に対するスキンケア がん性創傷は、自壊が進行すると、壊死した腫瘍の代謝物質、嫌気性菌による感染などを原因とする臭気を伴うようになります。 ◯スキンケア時のポイント 可能な限り洗浄のスキンケアを行い、壊死組織や分泌物を取り除き創面の清浄化を図る臭気の軽減を図るために、カデキソマーヨウ素製剤やメトロニダゾール軟膏などを用いる※カデキソマーヨウ素製剤やメトロニダゾール軟膏は、細菌負荷を軽減するともいわれている※クリーム基剤のスルファジアジン銀などを用いると創面の水分量が過剰となり、ケアに困難さを生じたり、創周囲皮膚が浸軟したりする場合もある使用済みのドレッシング材は、速やかにビニール袋に入れて回収する臭気を低減する、消臭スプレーや消臭シートなどを使用する * * * がん性創傷は、療養者本人と家族のQOLの向上に貢献できるよう、チームによる支援が必要です。本人や家族の望む人生を安楽で快適に継続できるように、創傷の症状コントロールを行い、本人の緩和ケアを最優先した継続的なサポートが重要であるといえます。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【引用】1)松原康美,蘆野義和.『がん患者の創傷管理 症状緩和ケアの実践』,照林社,2007,p.20 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』,日本看護協会出版会.2022.〇松原康美,蘆野義和『がん患者の創傷管理 症状緩和ケアの実践』,照林社.2007. 〇内藤亜由美,安部正敏篇『Nursing Mook46病態・処置別スキントラブルケアガイド』,学研.2008.

適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】
適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2023年12月19日
2023年12月19日

適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】

このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回のテーマは「適応障害、不安、うつ状態」です。 不安とは漠然とした不確実な恐れの気持ちが継続する状態。適応障害とは*「がん」という現実に直面したための精神的苦痛が非常に強く、日常生活に支障をきたしている状態。うつ状態とは*適応障害よりもさらに精神的な苦痛がひどく、身の置きどころがない、何も手に付かないような落ち込みが2週間以上続き、日常生活を送るのが難しい状態。*国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」を参考に作成https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc01.html(2023/9/15 閲覧) がん患者さんにみられる精神症状 がん患者さんは診断や治療を受ける過程でさまざまなストレスを抱え、その結果、不安や抑うつ、不眠といった精神症状をきたすことが知られています。こういった症状が日常生活に大きな支障をきたす場合には適応障害やうつ病などが疑われます。 特に適応障害は、高頻度に認められる精神症状であり、せん妄とうつ病がそれに続きます1)。なお、不安や抑うつなどの症状はがん患者さんだけでなく、心不全や呼吸不全のような非がん疾患の患者さんにも生じるといわれています2)3)。 病的な状態ではないにしろ、多くのストレスを抱える患者さんにかかわる際、精神的な問題がないかアセスメントし、支援を行うことが訪問看護師に求められています。Aさんの事例を通して患者さんの症状にどうかかわるかを考えたいと思います。 事例:Aさん(80代、男性、独居) 大腸がんで手術を受け、一時的にストーマを造設。ストーマ管理の目的で訪問看護を週2回利用しています。手術後に肝転移が見られたため、現在は化学療法を実施中も口内炎の痛みや倦怠感がひどく、今まで通っていたデイケアにも通えなくなってしまいました。家で過ごす時間が長くなり、気分がすぐれない日も多いようです。今回は化学療法について不安があるとの訴えがあったため、化学療法に詳しい看護師が訪問することになりました。 Aさんは、いつもと違う看護師に少し緊張した様子でしたが、徐々に慣れていき、以下のようなことを話してくれました。 口内炎ができてしまい食事のたびにしみてつらいことそれに伴い食事がおいしくないこと 化学療法を受けると身体がだるくなり、やる気も起こらず、気がつくと寝ているだけの生活になっていること 心配事を解決し不安を解消 Aさんの訴えを聞いた訪問看護師は、まずはAさんの心配事の解消が必要と考えました。化学療法による副作用や症状の出現時期、対応方法を具体的に説明し、Aさんの不安を軽減できるように働きかけました。ところが、Aさんは説明を聞いた後も表情が硬く、「心配事は解決できそうです」と話されるものの、とても解決したとは思えない様子です。 全人的苦痛(トータルペイン)の視点でケア Aさんの不安そうな様子に変化がないことから、訪問看護師は身体的なつらさだけではなく、精神的、社会的、スピリチュアルな面から包括的にアセスメントすることにしました。 一般的に、がん患者さんが直面するつらさ(苦痛)は身体的な面だけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルと多面に及ぶとされています。これを全人的苦痛(トータルペイン)と呼びます(図1)。緩和ケアでは患者さんに生じるさまざまな苦痛に対応するために、全人的なアプローチが必要です。 Aさんはがんの診断を受けてまだ間がありません。Aさんご本人の苦痛の強さや、世話をしているご家族の心配や負担の大きさ、日常生活に支障をきたしている程度を判断。問題があると感じた場合、精神・心理的問題にすぐに対処します。そのため、Aさんの状況を適応障害、不安、うつ状態の視点から一つずつ確認することにしました。 図1 全人的苦痛(トータルペイン)の理解 淀川キリスト教病院ホスピス編.「緩和ケアマニュアル 第5版」.最新医学社,大阪,2007,p.39より引用 適応障害 適応障害は、比較的明確なストレスを原因として3ヵ月以内に発症し、日常生活に支障をきたしている状態をいいます。適応障害への対応は支持的・共感的に話を聞くことと、ストレスを作り出している問題を把握し、その中から解決可能なものを選択し、介入することです。 Aさんは、がんの診断、ストーマ造設、化学療法、そして化学療法による副作用などで多くのストレスを抱えていることが想像されます。まずは、Aさんにストーマの受け入れ状況を確認してみることにしました。 するとAさんは「いつもと違う状況で突然漏れると不安だが、看護師さんに相談できるし、交換自体は自分でできるから不安はない。服を着ていると案外ストーマがあることも分からないしね。同世代の友人が便秘だ、下痢だと困っているのを聞くと自分のほうが楽かなとも思うよ」と話されました。 不安そうな様子はあるものの、大きな環境の変化であるストーマ造設については肯定的にとらえることができているようです。化学療法に関しても前向きに取り組みたいと考えているそうです。日常生活への支障や本人の苦痛が強くなった起点が明らかな場合、専門医の診察を医師に相談しますが、それには当てはまらないと判断しました。 不安 次に、不安についてアセスメントしました。不安は図2に示すように、気分、思考、行動、身体の症状として現れます。Aさんにこの4つの面について具体的な症状を確認したところ、不眠や食欲減退の訴えはありましたが、気分面や思考面、行動面の自覚症状はないようです。Aさんの日常の行動や心理的に大きな障害は認められず、専門的な介入が今すぐ必要な状態ではないと考えました。 図2 不安の症状 藤澤大介 「不安」.森田達也,木澤義之監修、西 智弘,森 雅紀,山口 崇編集,『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』,医学書院,東京,2022,p.323.より引用 うつ状態 うつ状態については、「落ち込みのチェックリスト」(図3)といったスケールを用い、現在の自分の心の状態を振り返ってもらうとよいでしょう。Aさんに「今、悲しい気持ちや気分の落ち込みなどを感じますか」と問うと、「気分の落ち込みがあきれるほどひどい」との答えが。どのくらいその様子が続いているのか、以前に同じような経験をしたことがあるのかを重ねて問いかけてみました。 するとAさんから次のような話が聞かれました。 「実は、若い時にうつ病を発症し、長い間病院に入院していたことがある。子どもたちにも話せていない。あの時と今の自分の状態が似ているなと思っても、それで病院に行きたいとか、誰かに相談したいとか、とても言い出せなかった。このような状態で治療を続けていると、何のために生きているのか分からなくなる。でも、いろいろしてくれる家族や先生(医師)に悪くて」 図3 落ち込みのチェックリスト(米国精神医学会のDSM-IV診断基準に準拠) 【チェックリストの使い方】まずは、1.2.の質問についてお答えください。 1.2.ともに「ない」という方重い落ち込みではないようです。1ヵ月に1度くらい、上記の項目をチェックしてみることをおすすめします。1.2.の両方、あるいはどちらか1つが「ある」という方3.~9.の質問に答えてください。3.~9.の質問で、「はい」と答えた数を数えてみてください。1.2.の数も合わせた合計が5つ以上で、かつ2週間以上続いている方は適応障害やうつ病の可能性があり、専門家による心のケアが必要と考えられます。まずは担当医や看護師、ソーシャルワーカーへ相談することをおすすめします。精神科、精神神経科、心療内科、精神腫瘍科の医師、心理士による心のケアが役に立ちます。 国立がん研究センターがん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc03.html(2023/9/15閲覧) 医師への相談をAさんに提案 Aさんが話し終えた後、訪問看護師は今の自分の気持ちを言葉にして伝えてくれたことがとても大切であるとAさんに伝えました。その上で、Aさんが信頼している担当の医師にも今の話を率直に伝えてみてはどうかと提案。また、治療を受けている病院でも、不安やうつ状態のような精神症状について、希望すればきちんと診てもらえることを説明しました。 Aさんから疲れやすさと気力の減退が特につらいとの訴えがあったので、そのことも医師に伝えるように提案し、その後はアドバイスをせず、Aさんの気持ちを傾聴するよう心掛けました。 看護師が帰るとき、Aさんは「自分の中で抱えていたものを話せて気分が少し楽になった。今度、治療のときに先生に話してみようと思う」と話されました。表情も少し和らいだようにみえました。その後、受診している病院で医師に自分の精神面について相談し、現在は精神科のカウンセリングを受け、少しずつ快方に向かっているそうです。 * * * 多くのストレスにさらされるがん患者さんでは、最初の訴えが身体的なものであっても、その背後にはほかに影響する要因が隠れていることがあります。その可能性を常に念頭におきながら会話をし、傾聴し、支持的にかかわることが重要です。 症状を引き起こしている問題が解決可能な問題であれば、小さな問題から解決し、患者さんにかかるストレスを減らしていきましょう。問題の解決が難しい場合は気持ちや感情に焦点を当てた介入を行っていくことが必要です。ぜひ訪問する利用者さんの様子をよく観察し、「いつもと違う」と感じたら気持ちをたずねてみてください。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Akechi T, et al. Psychiatric disorders in cancer patients: descriptive analysis of 1721 psychiatric referrals at two Japanese cancer center hospitals. Jpn J Clin Oncol 2001; 31(5): 188-194.2)北野大輔.心不全に対する緩和医療.日大医誌 2020; 79(4): 235-239 3)津田 徹.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアとアドバンス・ケア・プランニング.日内会誌 2018; 107(6): 1049-1055.

ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】
ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】
特集
2023年12月19日
2023年12月19日

ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】

ロタウイルス感染症は、子どもがかかるイメージが強いかもしれませんが、大人もかかる可能性があるため注意が必要です。この記事では、多くの子どもがかかるロタウイルス感染症の対処方法や、下痢や嘔吐への対応方法、大人がかかるとどうなるかについて解説します。訪問看護の利用者さんやご自身・ご家族の健康管理のためにも確認しておきましょう。 ロタウイルス感染症とは ロタウイルス感染症は、ロタウイルスの感染によって引き起こされる急性の感染症で、胃腸炎を中心とした症状が現れます。全年齢でかかる可能性がありますが、0〜6歳頃の子どもに見られることが多い病気です。症状や原因、感染経路、重症化リスクなどについて詳しく見ていきましょう。 症状 ロタウイルスに感染すると1~4日の潜伏期間を経て発熱と嘔吐が現れ、小腸からの水分吸収が阻害されることで下痢症が起こります。血便や粘血便などはなく、吐き気や嘔吐、発熱、腹痛が通常1〜2週間程度続きます。 脱水が重度になると、電解質異常、意識障害やショックなどを起こし、場合によっては死亡することもあります。大人も20〜30代と50〜60代を中心に見られますが、5歳までにほとんどの子どもがかかるといわれているほど、子どもに多い病気です。 原因 ロタウイルスは、A~G群の7種類に分類され、人に感染することが報告されているのは主にA群とC群です。B群も人に感染するとの報告がありますが、極めて稀です。 感染経路 ロタウイルスの主な感染経路は、ロタウイルスに感染した人の下痢便や嘔吐物に含まれるウイルス粒子が口に入ること(糞口感染)です。感染力が非常に高く、10〜100個のウイルス粒子が口に入るだけで感染します。感染した人の下痢便には1gあたり1000億~1兆個のロタウイルスが含まれているといわれています。また、汚染された水や食べ物に触れた手を口に入れることでも、感染する可能性があります。 重症化リスク 大人は一般的にロタウイルス感染症の症状が出にくい傾向があります。しかし、体力が落ちている人が感染した場合は重症化に注意が必要です。脱水が起きた場合、ほかのウイルス性胃腸炎よりも重症になる傾向があります。また、重度の脱水によって生じる高尿酸血症、それに続いて起きる尿酸結石、腎後性腎不全などが報告されています。 特に注意すべきなのがロタウイルス脳炎・脳症です。難治性のけいれんが起こると、後遺症をもたらすケースが少なくありません。約40%が予後不良ともいわれていることから、ロタウイルス脳炎・脳症へ進行する前に適切に対応することが重要といえます。 下痢や嘔吐への対応方法 ロタウイルスは糞便に含まれるため、子どものおむつ交換の際は使い捨て手袋を着用し、処理した後は手をよく洗いましょう。また、汚れた衣類や床などは次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)で消毒することが重要です。嘔吐物や便を放置すると、保育園や幼稚園、自宅などで感染が広がる恐れがあります。 ロタウイルス感染症のワクチン ロタウイルスワクチンには、3回接種の5価経口弱毒生ロタウイルスワクチンと2回接種の経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチンがあります。初回の接種は生後2ヵ月〜14週6日までに行います。2回目以降の接種は、前回から27日以上の間隔をあける必要があります。 ワクチンの副作用としては、発熱や下痢、便秘などもありますが、腸重積症に関して特に注意が必要です。腸重積症は、腸の一部が隣接する腸管にはまり込む病気で、腸の血流が悪化し、組織に障害を引き起こします。ワクチン接種から約1〜2週間は、発症するリスクが高まるとされています。 突然の激しい泣き声、機嫌の急変、嘔吐、血便、倦怠感、顔色が悪いなどの症状が1つでも見られる場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。 ロタウイルス感染症にかかった際の登園は? ロタウイルス感染症にかかった際の保育園や幼稚園の対応については、一律のルールが設けられていません。ロタウイルスは感染から2〜3週間は便中にウイルスが排せつされることを考慮し、出席再開のタイミングを決めるとよいでしょう。ただし、ウイルスが排せつされなくなるまで出席停止とするルールもないため、医師に相談した上で判断することが大切です。 * * * ロタウイルス感染症は、下痢症をはじめとする胃腸関連の症状が現れる病気です。脱水が重度になると電解質異常や腎臓関連の病気を合併する恐れもあるため、こまめな水分補給が欠かせません。また、感染力が非常に強いため、感染対策をより徹底する必要があります。今回、解説した内容を自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「ロタウイルス感染性胃腸炎とは」(2013/5/15)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3377-rota-intro.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省「ロタウイルス」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/rota_index.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省「ロタウイルスに関するQ&A」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/index.html(2023/9/29)〇京都市「京都市こどもの感染症」https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/cmsfiles/contents/0000146/146234/kodomo21-05.pdf(2023/9/25閲覧)〇京都市「保険だより」https://www.city.kyoto.lg.jp/hagukumi/cmsfiles/contents/0000118/118456/27winter.pdf(2023/9/25閲覧)

インフルエンザQ&A
インフルエンザQ&A
特集
2023年12月12日
2023年12月12日

インフルエンザQ&A | 家族の外出は?消毒は?卵アレルギーでもワクチンOK?

インフルエンザは毎年ほぼ必ず流行するため、利用者さんからさまざまな質問を受ける方が多いのではないでしょうか。そこで本記事では、インフルエンザの症状や感染のリスク、ワクチンなど、よくある質問に回答します。訪問看護師さん自身の健康管理や利用者さんからの質問対応にぜひ役立ててください。 インフルエンザの基本 インフルエンザはインフルエンザウイルスによる気道感染症で、世界各地で冬季に流行し、特に高齢者や乳児は重症化しやすい傾向があります。日本では11月下旬から12月上旬に始まり、翌年の1~3月にピークを迎えます。 感染から1~3日の潜伏期間の後、高熱や全身症状(頭痛、倦怠感、筋肉痛・関節痛など)が現れ、咽頭痛・鼻汁・咳嗽などの上気道炎症状がみられます。1週間程度で軽快しますが、高齢者や基礎疾患を持つ人は合併症のリスクが高いため、より一層の注意が必要です。 インフルエンザの症状・原因・予防接種等については、こちらの記事もご参照ください。>>インフルエンザの症状・出席停止期間・2023~2024年冬の流行予測 インフルエンザQ&A ここからは、インフルエンザのよくある質問(利用者さんにも聞かれがちな質問)に回答します。 Q:家族がインフルエンザになったけれど外出していい? 家族にインフルエンザの患者がいても、自身の外出は制限されません。しかし、すでにインフルエンザに感染しており潜伏期間中の可能性があるため、人混みや繁華街への外出は避けた方がよいでしょう。また、体調が少しでも悪い場合は学校や職場などへは行かない方がよいと考えられます。どうしても外出する際は不織布製マスクの着用を検討し、感染を拡大させないよう心がけましょう。 Q:インフルエンザの感染防止には身の回りをどうやって消毒すればいいの? インフルエンザウイルスの感染防止には、アルコール消毒が有効です。 ドアノブや照明器具のスイッチ、手すりなど、ご家族が頻繁に触れる機会が多い部分は、アルコール消毒液を含んだウェットティッシュでこまめに拭くことで感染リスクを減らすことができます。食器や衣類は、通常どおりの洗濯や洗浄で問題ありません。 また、外から帰宅された際は、玄関にて手指のアルコール消毒を行います。その後、洗面所で石けんやハンドソープを使用した手洗いをすることで、家庭内にインフルエンザウイルスが持ち込まれにくくなり、感染防止効果を高めることができます。 Q:インフルエンザのワクチンはいつ頃に打てばいいの? インフルエンザの流行時期は12月~翌年4月頃で、1月末~3月上旬にピークを迎えます。ワクチンの効果が十分に現れるまでには4~8週間程度かかるため、12月中旬までには接種しておきたいところです。ただし、たとえ12月中旬を過ぎてワクチンを打ったとしても、ワクチンの効果が減弱することはありません。ワクチン接種より1〜2週で抗体が作られ始め、1ヵ月後に抗体量はピークとなります。その後、徐々に抗体量は減っていきますが、大体5ヵ月はワクチンの効果が持続します。 ワクチンを接種することで、感染拡大や重症化を防ぐことができますので、ご家族に小さなお子様や高齢者がおられる場合や、お子様や高齢者と関わるお仕事をされている場合は、12月中旬を過ぎても接種したほうがよいでしょう。 なお、インフルエンザワクチンは、13歳未満が2回接種(1~4週間間隔)、13歳以上は1回接種が原則ですが、受験生の場合はこの限りではありません。ワクチンの効果は、接種後2週間〜5ヵ月は持続するといわれていますが、1ヵ月をピークに徐々に効果が弱まるため、試験時期によっては、11月と1月など2回接種しておく方がよい場合もあります。迷った場合は、主治医に相談するのがよいでしょう。 Q:今年すでにインフルエンザにかかったけれど、ワクチンは打った方がいい? インフルエンザにはA型やB型など複数の株が存在し、A型にかかっても年内にB型にかかる可能性があります。そのため、今年すでにインフルエンザにかかったとしても、ワクチンの接種が有効です。 Q:ワクチンで卵アレルギー反応が出るってほんと? インフルエンザワクチンには極微量の卵蛋白が含まれているため、卵アレルギーの方は接種要注意者とされています。しかし、米国では卵アレルギーの人が卵を含むワクチン接種を受けてもアレルギー反応が出るリスクが低いと判断されており、卵アレルギーの既往があっても、ワクチン接種が推奨されています。また、現在の日本の予防接種においては技術の進歩もめざましく、インフルエンザワクチン接種によるアレルギー反応はほぼないと考えられているため、ワクチン接種を推奨する医師が多いでしょう。 Q:ワクチンっていくらかかるの?何科で打つべきなの? インフルエンザワクチンの接種は健康保険の適用外です。全額自己負担となり、費用は医療機関によって異なります。ただし、65歳以上の人は予防接種法に基づく定期接種の対象者のため、費用の一部のみ公費負担です。詳しくは、お住まいの自治体に確認しましょう。また、インフルエンザワクチンは、内科以外でも接種可能ですが、接種時や接種後の副反応のことを考えると内科で接種することが望ましいでしょう。 Q:インフルエンザの予防接種は毎年打たないといけないの? 流行するインフルエンザの株は毎年異なり、流行する見込みの株に対応したワクチンを接種します。また、インフルエンザワクチンの効果の持続期間は約2週間から5ヵ月程度とされているため、毎年接種することが大切です。 Q:インフルエンザのワクチンは妊娠中・授乳中でも接種できる? インフルエンザワクチンは「不活性型」であり、胎児への悪影響がないとされています。妊娠中のどの時期でも安全に接種できます。妊娠初期の接種が流産や先天異常を引き起こすという報告はなく、授乳中でもワクチン成分が赤ちゃんに影響を与えることはありません。 Q:インフルエンザのワクチンを打てば絶対に感染しないの? ワクチンを接種しても必ずしも感染を防げるわけではありません。ワクチンを接種することで、感染しても症状が軽く済みやすくなる上に、重症化や合併症の発症リスクが低減します。 Q:無症状の人が周りの人に感染させることはあるの? 無症状の人が感染源になるかどうかについては、明確な結論が出ていません。無症状の感染者も呼気中にウイルスを排出する可能性があるものの、感染を引き起こすほどの量であるかどうかは不明です。 * * * 今回は、インフルエンザのよくある質問に回答しました。インフルエンザは風邪と比べて症状が重く、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。ワクチン接種や感染対策などを理解し、予防の意識を持って行動することが大切です。また、流行時期には利用者さんの感染や質問が増える可能性が高いので、対応できるように備えておきましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇国立感染症研究所「インフルエンザとは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/219-about-flu.html2023/11/20閲覧〇厚生労働省「インフルエンザQ&A」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html2023/11/20閲覧〇厚生労働省「妊娠中の人や授乳中の人へ」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/ninpu_1217_2.pdf2023/11/20閲覧

高カルシウム血症への対応【がん身体症状の緩和ケア】
高カルシウム血症への対応【がん身体症状の緩和ケア】
特集
2023年12月12日
2023年12月12日

高カルシウム血症への対応【がん身体症状の緩和ケア】

高カルシウム血症は、がん患者さんに比較的多く見られる代謝障害の1つ。急速に全身状態が悪化し、致死的な経過をたどることもあり注意が必要です。治療の基本は、脱水の補正とカルシウムの排泄、骨吸収の抑制です。今回は高カルシウム血症への対応について解説します。 急に出現し進行した口渇、意識障害の症状 訪問看護師のあなたは新しい患者さんを担当することになりました。 吉澤さんという53歳の男性で、腎臓がん、多発肺転移の方です。奥様と中学生の娘さんと3人で暮らしています。 吉澤さんは会社を立ち上げ、社長として部下を引っ張っていましたが、病に倒れました。突然右腰痛が出現したのです。がんによる腎破裂でした。緊急入院し手術(右腎切除)を行いましたが、がんはすでに血管に沿って上大静脈まで広がっていました。すべてを切除することはできなかったのです。 その後、吉澤さんは自宅に戻り抗がん剤治療を続けていましたが、2週間ほど前から急に「喉が渇く」と言い、水をがぶ飲みするようになりました。その翌日には訳の分からない話をし始めたため、ただ事ではないと思った奥様が救急車を呼び、がん治療中の大学病院に搬送されました。診断は高カルシウム血症とのことでした。 ただちに入院となり、点滴と飲み薬による薬物療法が開始されましたが、吉澤さんはやがて昏睡状態に陥ります。腎臓の働きもひどくなっており、主治医から「最悪のこともあるかもしれない」と言われたのだそうです。 「もし、長くはがんばれないのであれば、自宅で最期を看取りたい」と奥様が希望し、病院の退院支援看護師は、ケアマネジャーと連絡をとり、訪問看護ステーション、在宅医に退院時カンファレンスの依頼をしました。今日はそのカンファレンスのため、あなたは吉澤さんが入院している大学病院に来たのです。在宅で担当することになった中村医師、ケアマネジャーも一緒です。 がんに伴う高カルシウム血症とは カンファレンスの冒頭で、病院の主治医から吉澤さんの現在の状態について説明がありました。 病院主治医: 吉澤さんは腎臓がんに由来する高カルシウム血症のため、当院に10日前に入院されました。ビスホスホネート製剤のゾレドロン酸を投与したのですが、意識状態は改善しません。呼びかけにわずかに反応するのみです。幸い、腎機能は多少低下していますが血清クレアチニン値が2.0mg/dLと横ばいです。しかし補正血清カルシウム値は13.4mg/dLと高値です。予後は厳しいと言わざるを得ません。残された時間が短いと奥様に説明したところ、奥様は夫を自宅に帰したいと希望されました。そこで皆さまに在宅でのケアをお願いするためにお集まりいただきました。 中村医師: 先生、ご説明ありがとうございます。がんに伴う高カルシウム血症には骨転移によるものと、腫瘍から分泌されるPTHrPによるものがありますが、吉澤さんの高カルシウム血症の原因は何でしょう。 病院主治医: PTHrPが高値でしたので、PTHrP分泌によるものと考えております。 あなた: 先生、不勉強で恐縮ですがPTHrPとは何でしょう? 病院主治医: そうですね。分かりやすくお話しします。まず、PTHは副甲状腺ホルモンの略称ですね。がんの一部にはPTHとよく似たタンパク質を分泌するものがあり、これをPTH related protein、すなわち副甲状腺ホルモン関連タンパクと呼び、PTHrPと表記しています。PTHrPが出現するのは進行がんの場合が多く、肺がん、乳がん、膵臓がんなどで比較的多く見られます。PTHrPが分泌されると、PTHと同じように血液中のカルシウム濃度を上昇させてしまうのです。すると数日単位で口渇や多飲・多尿、悪心嘔吐などの症状が生じ、さらに進行すると意識が混濁します(表1)。腎臓の尿濃縮機能が傷害されるため多尿となり、強い脱水を伴う腎機能の低下が見られることもあります。 吉澤さんは意識が混濁し、昏睡状態になっていると思われます。治療薬のおかげで多少カルシウム値は低下しましたが、先ほどもお伝えしたとおりまだ高値が続いており、これから悪化する可能性が高いと見ています。 表1 高カルシウム血症の主な症状 あなた: 丁寧に説明していただきありがとうございます。 中村医師: 多発骨転移でも高カルシウム血症が起こることがありますよ。骨が溶けていくので当然と言えば当然ですが、骨に転移する多発骨髄腫では高カルシウム血症はしばしば起こります。治療が大きく異なることはないのですが、急に症状が進むのががんに伴う高カルシウム血症の特徴でしょうね。 アルブミン値で補正したカルシウム値で評価 あなた: もう1つ、基礎的なことで恐縮ですが、補正血清カルシウム値とはどういうことですか。 中村医師: 血液中ではカルシウムの約50%がアルブミンと結合しています。このため低アルブミン血症のときには血清カルシウム値が実際の値より低くなってしまい、治療の介入が遅れることがあるのです。 そのため 補正カルシウム値(mg/dL)=血清カルシウム値(mg/dL)+(4-血清アルブミン値(g/dL)) という式で補正し、評価します。 病院主治医の先生は補正したカルシウム値を教えてくれたのですよ。それから血清カルシウム値を管理する場合、血清リン値も重要です。カルシウムが増えるとリンが減るので、低リン血症にも注意が必要ですね。 あなた: 先生、ありがとうございます。 中村医師: それでは患者さんはほぼ昏睡の状態で自宅に帰り、私たちは看取りを行うということでよろしいでしょうか。奥様や娘さんは納得されていますか? 病院主治医: 奥様は複雑な感情だと思います。もう少しがんばってほしい気持ちとこれ以上苦しませたくない気持ちが相反しているように思います。 中村医師: 当然のお気持ちでしょう。高カルシウム血症に対する治療として在宅でステロイドを使用してみるのはいかがですか。 病院主治医: 確かにビスホスホネート製剤が開発される前は、がん性高カルシウム血症はステロイドで治療していました。やってみてもよいかもしれません。ほかにはデノスマブを週に1回投与する治療もありますが、がんに伴う高カルシウム血症には保険適応がありません。在宅で行うのは難しいかもしれませんね。 中村医師: 奥様とお話ししてみて、同意が得られればステロイドと点滴を行って経過を見てみましょう。高カルシウム血症が改善され意識状態がよくなれば、脱水も改善され経口摂取もできるかもしれません。 治療によって家族と話せるまでに意識が回復 こうして吉澤さんは自宅で治療を行いながら療養することになりました。すると、2日目には目を開けるようになり、3日目にはしゃべり出しました。水も少しずつむせずに飲めるようになり、7日目には普段どおりのコミュニケーションが取れるようになりました。 あなたは、褥瘡ケア、点滴(皮下輸液、生理食塩液1000mL/日)の管理、ステロイド(プレドニゾロン40mg)の使用、異常の早期発見を心がけながら連日訪問看護に入っていました。日に日に症状が改善する吉澤さんを見ていると、あなたもうれしくなって、奥様と喜びを共有していました。中村医師も毎日訪問し状態を確認しています。 あなた: 中村先生、吉澤さんすごいですね。こんなに元気になって。 中村医師: 素晴らしいですね。私の予想以上です。昨日の採血でも血清カルシウム値は9.8mg/mLと正常値になっていました。腎機能もほぼ正常になっていますよ。 奥様: 先生、ありがとうございます。また夫と会うことができました。今までは夫ではないような気がしていて・・・。 吉澤さん: そうだったんだ。私はこのところのことをほとんど憶えていないんだ。そんなにみんなに心配をかけていたんだね。先生、看護師さんありがとうございます。 中村医師: 吉澤さん、今日は病状を説明する約束になっていましたね。あなたは、身体の中にあるがんが血液中のカルシウムを増やしてしまう状態となって病院に搬送されました。強い薬を使って治療しても血清カルシウム値が下がりきらず、昏睡状態で自宅に帰って来られたのです。吉澤さんは病院よりも自宅の方が好きだろうと…、奥様の強い希望でした。 吉澤さん: 昨日妻から聞きました。私のことを看取るつもりでいたと・・・。今は生き返ったような気持ちです。 中村医師: ここから少し吉澤さんにとってつらい話もあるかもしれませんが、お聞きになりたいですか? 吉澤さん: 覚悟はしています。聞かせてください。 中村医師: わかりました。 吉澤さん: 私の病気、進んでいるのですね。 中村医師: 高カルシウム血症になったということは、吉澤さんのがんがかなり進んだ状態になっているということでもあります。また、現在の薬は飲み薬で継続しますが、身体の中にはカルシウムを増やしてしまうタンパク質が依然出てきています。今回のよい状態がいつまで続くか、私にもはっきりと予測することができません。 吉澤さん: だいたいでもよいので、どのくらいの時間があるか、先生の見込みを教えてください。 中村医師: おそらく、週単位で病状が変わって行くでしょう。調子が悪くなるまで1ヵ月から2ヵ月程度ではないかと思います。あくまで私の予想ですが・・・。 吉澤さん: ・・・分かりました。会社の整理や子どもとの時間、妻との時間を大切にしたいと思います。 奥様は顔を覆い、声を潜めて泣いていました。あなたは奥様の背をさすります。 吉澤さん: 泣かないでくれよ。君が泣くと私までつらくなってしまうから・・・。 あなた: 奥様は今日まで必死にがんばってきたんですもの。よくがんばりましたね。泣いていいんです。泣いてください。 中村医師: 吉澤さん、奥様、つらい話をしてしまい申し訳ありませんでした。 奥様: 先生には感謝しかありません。どこまでがんばれるか、この人と一緒に歩いて行きます。会社は私が継がせていただこうと考えています。 あなた: 奥様は強い。がんばりますね。吉澤さんも安心できますね。 吉澤さん: はい。彼女に預けられたら、本当に私も安心です。でも迷惑にならなければいいのですが・・・。 奥様: これは私が決めたこと。迷惑ではないのよ。 中村医師: これからの時間、有効に使ってください。 穏やかな看取りを経て それから約1ヵ月間、吉澤さんは家族との時間を大切にしながら、一生懸命闘病されました 最期は再び高カルシウム血症となり、中村医師がビスホスホネート製剤とステロイドを投与しても改善しませんでした。その代わり吉澤さんは眠って過ごされました。腎不全があり、浮腫も出現してきたことから中村医師は点滴も中止しました。終末期に点滴を行うと浮腫、気道分泌物、腹水、胸水が増悪するためです。奥様も点滴の中止について理解されていました。点滴を終了した2日後、吉澤さんは静かに旅立ちました。 旅立ちの後、エンゼルケアを行うため、あなたが吉澤さんのご自宅を訪問すると奥様は微笑んで迎えてくれました。 奥様: すごく苦しんで大変なことになるかと思ったけれども、こんなに穏やかに逝くなんて・・・。なんか拍子抜けしちゃった。 あなた: 無理ありませんよ。本当によくがんばられましたね。私が説明したように奥様がマッサージをしてくださったので、吉澤さんのむくみもこんなによくなっているじゃないですか。お嬢さんもがんばりましたね。奥様をこんなにも支えてくださって。素晴らしいご家族でしたね。 奥様: ・・・。 あなた: それじゃあ、お体をきれいにして好きだった服を着せて差し上げましょう。 奥様: ありがとうございます。先生とあなたには本当に感謝しています。 あなた: こちらこそありがとうございます。でも、私たちのことはいいんですよ。さぁ、洗面器にお湯を汲んで、着せたいお洋服を選びましょう。 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社 【参考】〇田中良哉,岡田洋右.「副甲状腺ホルモン関連蛋白産生腫瘍」日内会誌 2007;96(4):669-674.〇福原 傑.「高カルシウム血症と腫瘍崩壊症候群」日腎会誌 2017;59(5):598-605.

在宅の褥瘡・スキンケア 下肢潰瘍
在宅の褥瘡・スキンケア 下肢潰瘍
特集 会員限定
2023年12月5日
2023年12月5日

原因・特徴は? 下肢潰瘍のアセスメントと重症化を予防的するスキンケア

下肢は、解剖生理的に、外傷や物理的刺激を受けやすい、動脈の交感神経支配が強く皮膚血流量が少ない、重力によるうっ滞や血栓を生じやすい、という特性があります。足に関連した病変(足病変)は、潰瘍病変、下肢特有の皮膚や爪病変、虚血性疾患、静脈疾患・リンパ浮腫疾患などさまざまで、重症化するリスクが高いためアセスメントや予防的なケアが重要です。 そこで今回は、看護の実践場面で遭遇する難治性潰瘍の一つである下肢潰瘍について、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、それぞれの特徴と予防的スキンケアのポイントを中心に解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 予防のために知っておきたい下肢潰瘍の原因と特徴 下肢潰瘍は、日本皮膚科学会による「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン−5下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン」1)において、「下肢に生じる潰瘍の創傷で、種々の原因で生じるが、静脈性潰瘍の頻度が最も多く欧米では約7〜8割は静脈性とされている。約1割は動脈性で両者の合併もあるが、下腿潰瘍の多くは循環障害によるものである。その他の原因として膠原病、血管炎、褥瘡、悪性腫瘍、感染症、接触皮膚炎などがある」と定義されています。 下肢潰瘍の原因 下肢潰瘍の原因、および分類は以下のとおりです。 糖尿病(糖尿病性足病変)動脈硬化(閉塞性動脈硬化症〔ASO〕、バージャー病など)静脈うっ滞(下肢静脈環流異常、下肢静脈瘤など)膠原病(全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、高リン脂質抗体症候群など)血管炎(結節性多発動脈炎など)物理的障害(熱傷、靴擦れ、褥瘡など)リンパ管循環障害放射線障害 主な下肢潰瘍 ■糖尿病性潰瘍原因:血流障害、末梢神経障害、易感染性糖尿病に起因する末梢神経障害が主な原因となり生じる。自律神経障害による血流の異常や、運動神経の障害により生じる足の変形も糖尿病性足潰瘍の要因になる。症状:易感染性で創傷治癒の遅延をきたしやすい。靴擦れや胼胝(べんち:俗称「たこ」)などが発症している場合も、足の知覚障害により感覚が鈍麻であることから創部が悪化しやすい。対応:糖尿病のコントロール、除圧、感染制御など ■虚血性潰瘍(動脈硬化性潰瘍)原因:糖尿病、脂質異常症、慢性腎不全、喫煙、膠原病や血管炎など足の動脈の血流障害が原因となる下肢閉塞性動脈閉塞症。症状:初期は、足の冷感、歩行時の疼痛がある。その後、少し歩くとふくらはぎや足底に疼痛があり、休むと軽快する「間欠性跛行」となり、進行すると安静時にも疼痛がある。重症化すると足趾が乾燥壊死(黒色化〔ミイラ化〕)に陥る。糖尿病のある人は、疼痛を伴わず突然足が壊死することも。対応:血流の改善、潰瘍の局所治療、生活習慣の改善、血管内治療、血行再建術など ■静脈うっ滞性潰瘍原因:肥満、妊娠・出産、長時間の立ち仕事、遺伝的要因など症状:足の浮腫やだるさ、進行すると皮膚の色素沈着や硬化が生じ、創傷を繰り返す。静脈弁の機能不全により血液が逆流する病態で、重症化すると静脈うっ滞性潰瘍を発症する。難治性であり再発率が高い。対応:下肢挙上により静脈環流を促進する、圧迫療法など ■膠原病や血管炎に伴う皮膚潰瘍膠原病・血管炎が原因で潰瘍を発症し、悪化することがある。ステロイドや免疫抑制剤の内服による、免疫力の低下や皮膚の脆弱性から、創傷治癒が遅延・難治化する場合もある。 ■放射線潰瘍放射線治療後、皮膚に生じる皮膚潰瘍。皮膚細胞の損傷により、小さな潰瘍でも難治化する場合もある。 下肢潰瘍予防のためのアセスメント 下肢潰瘍は、神経障害、血行障害、感染の3要素が大きく関わります。 アセスメントは両下肢を観る 足に異常の訴えがある場合、必ず両下肢を観察しましょう。その際、大切なのは血流の観察です。血流が低下もしくは停止していると、小さな創傷でも治癒が困難になります。さらに壊死など重症化する危険性が高くなります。下肢潰瘍を予防するためには、足の観察とアセスメントが重要です。 本項では、下肢潰瘍の問診・触診・視診によるアセスメントのポイントを、神経障害、脈管障害(動脈性)、脈管障害(静脈性)、感染症のタイプ別に紹介します。 <神経障害> 基礎疾患、既往歴:糖尿病の有無(罹患からの年数など)、二分脊椎をはじめとした先天性疾患など治療歴、内服薬の内容、家族歴人工透析の有無(経過年数など)動脈触知(末梢動脈疾患合併の有無)足の痺れ、麻痺の有無と状態両足の形状(ハンマートゥ、クロウトゥ、シャルコー足、強剛母趾、内反小趾など)歩行状態(歩容):脚軸の確認(O脚、X脚など)皮膚の状態、毛髪の有無、爪の異常(乾燥、亀裂、胼胝、鶏眼など)胼胝がある場合、胼胝下に皮下出血の有無を確認潰瘍や壊死の有無と現在のケア方法(局所ケア方法など) <脈管障害(動脈性)> 基礎疾患、既往歴:糖尿病の有無(罹患からの年数など)人工透析の有無(経過年数など)治療歴、内服薬の内容破行距離:何m連続して歩行が可能か血管閉塞部位の推測:休むときにはどの部位が痛むか疼痛の有無(痛みによる不眠など)皮膚の状態、毛髪の有無、チアノーゼの有無  潰瘍のアセスメント 足の皮膚色の変化の有無と部位、発症時期潰瘍の発症時期、発症要因潰瘍周囲の皮膚所見(感染徴候、色素沈着、接触皮膚炎など)静脈瘤の部位の確認現在のケア方法(1日何回ケアを行うか、誰が行なっているのか、局所ケアの方法、弾性ストッキングの使用など)潰瘍や壊死の有無と現在のケア方法(1日何回ケアを行うか、誰が行なっているのか、局所ケアの方法など) <脈管障害(静脈性)> 基礎疾患、既往歴:リウマチ、婦人科疾患などの既往家族歴職業妊娠や出産の有無動脈触知(末梢動脈疾患合併の有無)下腿部の静脈の状態  潰瘍のアセスメント 潰瘍の有無と部位潰瘍の発症時期、発症要因潰瘍周囲の皮膚所見(感染徴候、色素沈着、接触皮膚炎など)静脈瘤の部位の確認現在のケア方法(1日何回ケアを行うか、誰が行なっているのか、局所ケアの方法、弾性ストッキングの使用など) <感染症> 基礎疾患、既往歴:糖尿病の有無(罹患からの年数など)内服薬(抗生剤)の内容リンパ節触知  潰瘍のアセスメント 潰瘍の有無と部位、発症時期感染の発症時期、発症要因感染周囲の皮膚所見:皮下の握雪感の有無足趾のソーセージ様腫脹:骨髄炎の可能性糖尿病の場合、趾間白癬からの二次感染の可能性があるため全足趾間の皮膚を確認現在のケア方法(1日何回ケアを行うか、誰が行なっているのか、局所ケアの方法、弾性ストッキングの使用など) 下肢潰瘍予防のための基本的なスキンケア 下肢潰瘍の創傷管理においては、TIMEコンセプトに基づいた創面環境調整(WBP:wound bed preparation)のケアを行います。 創傷局所の観察項目は、壊死組織(Tissue)、感染(Infection/Inflammation)、湿潤のバランス(Moisture balance)、創縁(Edge of wound)に分類されます。これらの要因を一つひとつアセスメントして、創傷治癒に最適な環境を整えるという考え方を、各項目の頭文字をとってTIMEコンセプトといいます。 下肢潰瘍は、感染、循環障害、知覚障害などのさまざまな要因によって、治癒しにくい難治性潰瘍です。下肢潰瘍を発症しないように、日々の予防的ケアが重要になります。今回は、創傷の発症予防や再発予防に焦点をあて、下肢潰瘍予防の基本的なスキンケアをご紹介します。 足の皮膚 足底は、角層が脱落しにくいため、厚さがあります。また、汗腺は多く、毛組織がないことから皮脂腺がなく乾燥しやすい特徴があります。さらに、踵や前足部には体重による荷重がかかり、角化、胼胝や鶏眼などのトラブルの好発部位となります。 静脈うっ滞のある場合、状態が悪化するほど下肢の皮膚は乾燥します。それにより皮膚のバリア機能が低下。掻痒感が出現し、掻破することで潰瘍を形成する可能性が高くなります。下肢のドライスキンや掻痒感を軽減するために、毎日の継続的な保湿のスキンケアが大切。また足趾間は、洗浄のスキンケアにより、皮膚の清潔につとめ真菌感染を予防することが重要です。 洗浄のスキンケア 洗浄部位に泡を乗せ、手袋を装着した手で優しく包み込み、泡を転がすように洗いましょう。微温湯で石けん成分が皮膚に残らないように洗い流し、十分な量の微温湯で洗い流します。洗浄後の皮膚は、タオルなどを用いて優しく押さえ、水分を拭き取ります。その他の洗浄のスキンケアについてのポイントや注意点については、「スキンケアで褥瘡予防 洗浄・保湿・保護のポイント」もご参照ください。 真菌感染症の予防には、特に汚れが溜まりやすい間擦部、陰股部、足趾間などは石けんをよく泡立て、丁寧に優しく洗いましょう。過度に洗浄すると皮膚の乾燥を招きスキントラブルを起こすこともあります。毎日の洗浄に、ミコナゾール硝酸塩配合石けんを用いると真菌感染症の予防に期待ができます。創がある下肢の足浴は、医師や皮膚・排泄ケア認定看護師などに相談の上行うようにしましょう。 保湿のスキンケア 保湿剤は、療養者個々の使用感にも考慮しながら、安全性の高い製品を選びましょう。塗布する際は、基本的に皮膚の皮溝に沿って、強く擦りすぎないようにします。ベタつきが少なく、伸びの良いクリーム剤や乳剤性ローションなどを使用して、皮膚を押さえるように塗布しましょう。 なお、冬に気温や室温が下がると、軟膏やクリーム剤は硬くなって塗布しにくい場合があるので要注意。硬くなった保湿剤を無理に塗布すると、使用時に冷たさを感じるのはもちろんのこと、塗りにくい、皮膚にダメージを与える、掻痒の原因になる、といったデメリットがあります。冷所保存が必要な外用薬を除き、保湿剤はあらかじめ常温に戻しましょう。また、塗布する前にディスポ手袋を装着したケア者自身の掌や甲に取って、少し温め、馴染ませてから使用すると、軟膏やクリーム剤は柔らかくなり、冷感も軽減できます。 足の爪ケア 爪は、歩行や立位を安定させる役割があります。爪の肥厚や変形などのトラブルから、ADLやQOLの低下や、肥厚して伸びた爪が他の足趾の皮膚を損傷する、衣類が引っ掛かり爪甲下に出血を生じるなどのトラブルを起こします。 そのため、伸びた爪は適切な長さに切り、肥厚爪は平坦に整えることが大切です。爪切りは、可能であれば足浴後の爪や角質が柔らかくなった状態で行います。爪の周囲の角質を丁寧に取り除き、皮膚と爪の隙間を確認した上で爪を切ります。硬く厚い爪は、ニッパー型爪切りや爪やすりを用いて、少しずつ切りましょう。爪は深く切りすぎず、角は丸く切り落とさないことがポイントです。爪の角は爪やすりで整えましょう。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【引用】1)日本皮膚科学会.日本皮膚科学会ガイドライン「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン−5:下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン」日本皮膚科学会雑誌. 127(10),2239-2259, 2017(平成 29)2241https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/127/10/127_2239/_pdf/-char/ja2023/10/29閲覧 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.〇真田弘美、大浦紀彦他(編)『ナースのためのアドバンスド創傷ケア』照林社.2012.

下肢閉塞性動脈硬化症の知識&注意点
下肢閉塞性動脈硬化症の知識&注意点
特集
2023年12月5日
2023年12月5日

【在宅医解説】下肢閉塞性動脈硬化症の知識&注意点~訪問看護師の学び直し

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は下肢閉塞性動脈硬化症について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶポイント 下肢閉塞性動脈硬化症は、症状経過に応じ重症分類を行なうが、無症状のこともある進行病期は包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)と呼ばれ、血行再建や多面的な対応が必要となることが多い下肢閉塞性動脈硬化症は全身の動脈硬化症の一病態であり、ほかの心血管疾患の合併により下肢予後のみならず生命予後も低下しうる 下肢閉塞性動脈硬化症とは 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO;arteriosclerosis obliterans)は、動脈硬化を背景に下肢動脈が狭窄・閉塞する疾患です。下肢の循環障害をきたし、歩行障害や下肢痛・潰瘍を生じます。急性閉塞や重度の狭窄・閉塞などで救肢が困難な場合は、切断を要することもあります。 下肢閉塞性動脈硬化症は、下肢(閉塞性)動脈疾患(LEAD;lower extremity artery disease)とも呼ばれます。また、冠動脈以外の末梢動脈(上肢・下肢・頸部・腹腔内など)の閉塞性/狭窄性疾患を、末梢動脈疾患(PAD;peripheral arterial disease)と総称しています。 下肢閉塞性動脈硬化症のリスク・背景疾患 動脈硬化をもたらす喫煙や生活習慣病は、下肢閉塞性動脈硬化症の主要なリスクとなります。腎機能障害や透析も重要なリスクです。その他の背景疾患として、■血管炎(例:バージャー病、高安動脈炎)■先天異常(例:線維筋性異形成)■外的圧迫(例:膝窩動脈捕捉症候群)■医原性(例:カテーテル操作や手術による損傷)などが挙げられます。 下肢閉塞性動脈硬化症の診断と鑑別 診断 間欠性跛行や歩行障害、筋骨骨格系とは無関係な労作時の下肢痛、安静時の疼痛などの症状は、下肢閉塞性動脈硬化症を疑う契機となります。また下肢動脈の触知不良、血管雑音、下肢の創傷治癒遅延、下肢壊疽、下肢挙上時の蒼白化、下肢下垂時の発赤なども、下肢閉塞性動脈硬化症を示唆する所見となります。 下肢閉塞性動脈硬化症の診断は、主に下肢血流の灌流圧を評価することで行ないます。なかでも足関節上腕血圧比(ABI;ankle-brachial pressure index)の低下をみる方法は簡便かつ有用で、0.9以下の低下で幹動脈の狭窄や閉塞を疑います。 鑑別 間欠性跛行は下肢閉塞性動脈硬化症の初期症状として知られますが、静脈性・神経性・筋骨格系の疾患によっても類似症状を認めることがあります。表1に、それら疾患の特徴をまとめます1)。 下肢閉塞性動脈硬化症の分類と治療方針 重症度の分類にはFontaine(フォンテイン)分類とRutherford(ラザフォード)分類がありますが、両者はほぼ同内容であり、より簡潔なFontaine分類を覚えれば十分です(表2)。 初期は、運動時のみに下肢虚血を生じるため、間欠性跛行が問題となります。進行につれ徐々に歩行距離が短縮し、この時期は抗血小板薬やリハビリによる保存加療が有効です。進行病期になると安静時にも下肢虚血を生じるため、安静時疼痛や潰瘍などが出現し、積極的な血行再建や多面的で科横断的な対応がしばしば必要となります。進行病期であるFontaine Ⅲ度・Ⅳ度をあわせて、包括的高度慢性下肢虚血(CLTI;chronic limb-threatening ischemia)と呼びます。 下肢閉塞性動脈硬化症の注意点 無症状でも軽症とは限らない 下肢閉塞性動脈硬化症は必ずしも症状を認めるわけではありません。無症状であっても重度の虚血が隠れている例があり、その場合は何らかの契機で急激にCLTIを生じる可能性があります。ABIをはじめとした検査ですでに下肢閉塞性動脈硬化症の診断がついている場合は、無症状であっても注意が必要です。 動脈硬化は全身に及んでいる 下肢閉塞性動脈硬化症は、全身の動脈硬化症(poly-vascular disease)の一つの病態といえます。下肢閉塞性動脈硬化症患者の少なくとも25~30%で冠動脈疾患を有することや、約20%で中等度以上の頸動脈狭窄を認めることが報告されています2、3)。それらの疾患を合併しうる点にも注意が必要です。 訪問看護でのポイント 下肢閉塞性動脈硬化症の診断はついているのか? 間欠性跛行などの症状があれば比較的わかりやすいですが、無症状であっても下肢閉塞性動脈硬化症がないとはいえません。リスクが高い患者の場合は、下肢閉塞性動脈硬化症と診断されているのか、その根拠となるABIなどの検査歴や検査値データがあるのか、知っておいて損はないと思われます。 悪化を疑う症状や所見があるか? 有症候性(症状があること)の場合、CLTIを示唆する徴候の出現に注意が必要です。 すでに潰瘍があり処置を行なっている場合は、感染徴候や範囲の拡大がないか注意が必要です。この段階で感染を合併すると骨髄炎をきたすことが多く、入院の上、長期間の抗菌薬や下肢切断なども検討する必要があります。 無症状であっても、重症病変の場合は急速にCLTIをきたすことがあります。靴ずれや深爪などの小外傷をきっかけに、急速に下肢閉塞性動脈硬化症の症状が出現する場合があり、要注意です。 ほかの心血管系合併症があるか? 下肢閉塞性動脈硬化症の患者はほかの心血管疾患の合併が多く、死亡リスク・心血管イベントリスクは通常よりも高くなります。下肢病変のみならず虚血性心疾患や脳梗塞などの出現や合併のリスクが高く、生命予後にもかかわる点をふまえて、患者さんの観察を継続する必要があります。 下肢閉塞性動脈硬化症は単なる下肢の疾患ではなく、背景に全身性の動脈硬化があることを示唆しています。本疾患の悪化を早期に拾い下肢予後改善を目指すのみならず、ほかの心血管病の出現・悪化を疑う徴候の有無にも注意を払い、生命予後改善にもつなげていただければ幸いです。 執筆:岡田 将千葉大学大学院医学研究院循環器内科学四街道まごころクリニック編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)Marie,D Gerhard-Herman.et al.2016 AHA/ACC guideline on the management of patients with lower extremity peripheral artery disease:A report of the American college of cardiology/American Heart Association task force on clinical practice guidelines.Circulation.135,2017,e726-e779.2)Cho,I.et al.Coronary computed tomographic angiography and risk of all-cause mortality and nonfatal myocardial infarction in subjects without chest pain syndrome from the CONFIRM Registry(coronary CT angiography evaluation for clinical outcomes:An international multicenter registry).Circulation.126,2012,304-13.3)Razzouk,L.et al. Co-existence of vascular disease in different arterial beds:Peripheral artery disease and carotid artery stenosis - Data from Life Line Screening®.Atherosclerosis.241,2015,687-91.

高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~
高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~
特集 会員限定
2023年11月28日
2023年11月28日

高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~【セミナーレポート後編】

2023年8月25日、9月8日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「超高齢社会における栄養ケアマネジメント~通所施設や在宅における低栄養への挑戦~」。ネスレ日本株式会社 ネスレ ヘルスサイエンス カンパニーとの共催でお届けしました。ご登壇いただいたのは、高齢者の栄養管理を専門とする医師の吉田 貞夫先生。利用者さんの食事、栄養摂取に関して、訪問看護師が知っておきたい知識を紹介くださいました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、利用者さんの食事支援のポイントや、トラブルが起きた際の対処方法をまとめます。 ※約45分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら高齢者の栄養ケアマネジメント~食支援・栄養指導~【セミナーレポート前編】 【講師】吉田 貞夫先生ちゅうざん病院 副院長/沖縄大学 客員教授、金城大学 客員教授高齢者医療、高齢者の栄養管理、認知症ケアなどを専門とする医師・医学博士。日本静脈経腸栄養学会 認定医、日本病態栄養学会 専門医、日本臨床栄養学会 指導医をはじめ、数多くの資格を取得。栄養経営実践協会の理事も務める。医師として患者の診療にあたるかたわら、全国で年間80件以上の講演も行っている。 在宅における嚥下機能確認のポイント 在宅における利用者さんの食事支援では、最初に嚥下機能をきちんと評価することを心がけてください。 評価の方法としては、すでに実践している方も多いと思いますが、「反復唾液嚥下テスト(RSST)」や「水飲みテスト」が挙げられます。ゼリーをはじめとした嚥下しやすい食品をどれくらい食べられるかをチェックしている方もいらっしゃいますね。また最近は、在宅であっても、耳鼻科医や歯科医と連携して嚥下機能を確認しているケースもあるようです。 ただ、嚥下機能を評価する際は、「飲み込みの機能」だけに注目すればよいわけではありません。口腔が清潔に保たれているか、噛み合わせが悪くなっていないか、噛む力が十分にあるかといった「口腔の機能」も確認する必要があります。ぜひ視野を広げて評価してください。また、血管障害の後遺症で嚥下障害がある利用者さんや、認知症と嚥下障害を併発している利用者さんの場合は、誤嚥しやすいためとくに注意深く確認しましょう。 嚥下機能に問題があると判断した場合には、「嚥下調整食」を活用してみてください。 窒息への対策と対処方法 高齢者の食事に潜むリスクとしては、やはり窒息があります。窒息というと「餅を食べると起こりやすい」とイメージされる方が多いと思いますが、実はお米やパン、肉、魚で窒息してしまう方も多くいます。それから、ぶどうやプチトマト、飴など、小さくて丸い形状のものは気管にすっぽり入ってしまうので要注意です。窒息の危険度が高いものは利用者さんの手に届かないようにする、飴は棒つきのものを選ぶなど、十分に配慮してください。 窒息が起きてしまった際の対処法 利用者さんが窒息してしまった際は、後ろから利用者さんを抱え込むようにして腹部を圧迫する「腹部突き上げ法(ハイムリック法)」や、背中を何度も叩く「背部叩打法」を試してみてください。詳しいやり方は、日本医師会の救急蘇生法のサイトに掲載されています。 >>日本医師会サイト「救急蘇生法」気道異物除去の手順 また、窒息への対処法として「吸引」を選択する方はよく見られますが、このやり方にはリスクもあります。痰の吸引に使うような細いチューブでは、詰まっている異物を吸えないどころか、さらに奥へ押し込んでしまうことも。なお、掃除機の利用は、圧が強すぎて臓器を損傷する可能性があるので推奨されていません。 ご紹介した方法を実践しても異物を取り除けず、利用者さんのバイタルサインが悪化してきたときは、迷わず救急車を呼んでください。必要に応じてAEDの準備も検討しましょう。 認知症の方への食事支援 認知症の方に対しては具体的にどのような支援をすればよいのかについてもお伝えします。ぜひ以下の4つのポイントを念頭においてサポートしてください。 ご家族に適切な食事介助の方法を伝える食事を配膳しても反応がない、食べ物で遊んでしまう、食器の使い方がわからない。こういった様子が見られる方は、認知機能がかなり低下しており、目の前に食事を出すだけでは食べてくれません。ご家族をはじめとした介助者の方に、食べ物を口元まで運ぶ必要があることを伝えてください。嚥下機能に問題があれば食事を見直す 食べ物を口の中に溜め込んでいる、飲み込んでも喉に残っている、むせている、痰が多い。これらは嚥下機能に問題があるサインです。食事内容の調整を検討しましょう。   食事を嫌がる場合は味つけや見た目を変える 認知症を発症すると、味覚障害になる方が多くいます。そのため、食事を嫌がる場合は味つけが原因であることも。濃い味つけにすると食べてくれるケースもありますよ。また、認知症独特の摂食障害で食が進まない可能性もあります。例えば、ふりかけが虫に見えてしまったり、粒状の食品が小石に見えたりするのです。食事の見た目にも着目してみてください。 食事の時間や形状を合わせる 認知症になると「1日=24時間」ではなくなってしまうことがあります。そのため、食事の時間にこだわりすぎず、起きている時間に食べられるようにするのもポイントです。ゼリーをはじめ、すぐに食べられるものを用意しておくとよいでしょう。また、じっとしていられない利用者さんも、手に持って食べられるスナックタイプの食品なら食べられることも。その方の状態に合わせた食事のあり方を模索してみてください。 認知症の予防につながる食事 認知症の「予防」についても確認しておきましょう。認知症は介護依存度が高い病気で、転倒による骨折リスクが高かったり、問題行動を起こしやすかったりといった特徴があります。また、発症するとずっと治療を続けていかなければならず、予防が大切です。 認知症を予防するには、多様性のある食事をとるとよいといわれています。具体的には、さまざまな種類のメニューを食べる、毎日違うものを食べるといったことですね。そして最大のポイントは、自分自身で食事を用意することです。 食事の用意と一口にいっても、メニューを考え、買い物に行き、料理し、後片づけをするといった数多くのステップがあります。その上で多様性のある食事を目指せば、考えるべきことの幅はさらに広がるでしょう。これが認知症予防につながると考えられます。利用者さんの食事のサポート、アドバイスを行うにあたり、ぜひ知っておいてもらえたらと思います。 * * * 毎日の食事は、生命維持に欠かせない行為であると同時に、多くの利用者さんにとって「楽しみな時間」でもあるでしょう。ぜひ今回ご紹介した知識を食事支援や栄養管理に活かして、利用者さんの体づくり、そして豊かな生活づくりをサポートしてください。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

「虚血性心疾患」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「虚血性心疾患」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2023年11月28日
2023年11月28日

【在宅医が解説】「虚血性心疾患」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は虚血性心疾患について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶポイント 冠危険因子が多ければ虚血性心疾患を念頭に置く虚血性心疾患の症状は労作で出現する一過性の臓性痛だが、非典型的症状を伴うことや、無症候性のこともある症状の不安定化/安静でも軽快しない疼痛/バイタル異常 ─ があれば緊急性が高い 虚血性心疾患とは 虚血性心疾患とは、冠動脈疾患とも呼ばれ、心臓を養っている血管(冠動脈)が何らかの原因で狭窄または閉塞することで、心臓が虚血にさらされ機能や形態が障害される疾患です。虚血による症状があれば狭心症と呼び、虚血が長引き心筋が壊死すると心筋梗塞と呼びます。狭心症から心筋梗塞に移行しつつある、または心筋梗塞を発症した状態は生命の危機であり、緊急対応を必要とします。 虚血性心疾患のリスク 虚血性心疾患の原因となる疾患や状態は「冠危険因子」といわれます(表1)。 胸痛の鑑別 救急部門へ搬送される胸痛患者のうち、約半分は非心原性とされています(表2)1、2)。 消化管疾患では一般に食事・飲水・食後姿勢など経口摂取に関連した症状変化を認めます。ほかにも呼吸器疾患、皮膚骨格疾患、心因性など多くの領域が原因となることがあります。これらのすべてを診断する必要はなく、まずは緊急性を要する虚血性心疾患の判断をつけることが先決です。 虚血性心疾患を疑う症状とその特徴 虚血性心疾患の症状には下記のような特徴があり、胸痛を鑑別する手がかりとなります。 虚血性心疾患の疼痛は内臓痛の特徴を持つ 典型的な症状は、労作時の胸部圧迫感・絞扼感です。皮膚表面などに分布する痛覚神経とは異なり、心臓に分布する痛覚神経は脱髄性で細いため、疼痛の局在や性状が鈍くなります。つまり、痛みの部位を特定することが難しく、「前胸部を中心とした胸の辺り」と表現されます。また疼痛もぼんやりとした「圧迫感」「絞扼感」を感じることになります。 内臓由来の疼痛は一般にこのような特徴を持ち、けがなどで感じる体性痛(部位が明らかで鋭い痛み)と明確に区別されます。 労作で症状が増強し、安静で軽快する 虚血性心疾患では、労作により心筋虚血が生じ、症状が出現します。狭心症では安静により数分で虚血が解除され、胸部症状も軽快します。20~30分の安静でも症状が軽快しない場合は梗塞に至っている可能性が高く、緊急の対応が必要となります。 非典型的症状にも注意が必要 狭心症は非典型的な症状を伴うことがあり、angina equivalent(狭心症相当症状)と呼ばれます。放散痛としての左肩の痛みは有名ですが、それ以外にも心窩部・喉元・下顎・奥歯の痛みや、単なる胸焼けや嘔気として出現することもあります。虚血性心疾患のリスクを持つ患者さんでは、これらの心臓とは一見無関係と思われる症状にも注意が必要です。 無症候性心筋虚血(自覚症状がない)にも要注意 進行した糖尿病患者では心臓自律神経が障害され、これらの症状を自覚しないことがあります。心臓自律神経機能は心電図のRR間隔の呼吸性変動で判断します。感覚障害などの神経障害を伴う進行期糖尿病の患者さんは、このタイプの虚血も要注意です。 虚血性心疾患のその他の特徴 状態が不安定だと緊急性が増す 冠動脈の器質狭窄の有無にかかわらず、最近2ヵ月間以内に発症し、症状の頻度や程度が増強しつつある場合は不安定狭心症と呼ばれます。この状態は心筋梗塞に移行するリスクが高く、原則として緊急の対応となります。 ST上昇がなくても心筋梗塞を生じていることがある 心筋梗塞には心電図でのST上昇を伴わないものがあり、NSTEMI(ノンステミ/non-ST elevation myocardial infarction)と呼ばれます。救急部門に胸痛で搬送される患者はNSTEMIがより多く、予後もより不良と報告されています。 器質狭窄がなくても狭心症をきたしうる 明らかな冠動脈狭窄がなくても、冠動脈が攣縮することで狭窄や閉塞をきたすこともあります。心臓表面を走る比較的太い冠動脈で血管攣縮が生じると冠攣縮性狭心症と呼ばれますが、より遠位の動脈で同様の現象が生じると冠微小血管障害と呼ばれます。 訪問看護でのポイント 患者さんに虚血性心疾患の診断がついている場合は、症状の早期把握と緊急性の判断が重要です。虚血性心疾患と診断されていない場合は、疾患リスクが高ければ上記症状の有無に注意を払う必要があります。 この人は虚血性心疾患を発症しそうか? 表1のようなリスクが多ければ多いほど、虚血性心疾患を発症するリスクが高まります。特に複数の生活習慣病の管理が不十分な場合は要注意ですので、疑わしい症状が出現しないか注意を払う必要があります。 狭心症を疑う症状があるか? 虚血性心疾患を疑う臓性痛、労作や安静による症状の変化、非典型的症状の有無を確認しましょう。無症候性心筋虚血は訪問のみでは判断困難ですが、疑うことが重要です。体調がいつもと異なる場面などで想起できれば、対応の幅が広がるかもしれません。 緊急性があるか? 虚血性心疾患を疑う症状がある場合、症状の不安定化、安静でも軽快しない胸痛、バイタル異常などは緊急事態と考えられます。医療機関への早急な相談と救急搬送をご検討ください。 虚血性心疾患は原則として命にかかわる疾患ですので、確実な診断や悪化の判断にこだわるよりも、疑ったら相談する姿勢が重要です。その際にこれらの手がかりが皆様の参考になれば嬉しく思います。 執筆:岡田 将千葉大学大学院医学研究院循環器内科学四街道まごころクリニック 編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)高西弘美.「胸が痛いんです」『エマージェンシー・ケア』30(1),2017,29-39.2)日本循環器学会ほか.『急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)』17-21.

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