アセスメント

コラム

トータルペインでとらえる

在宅緩和ケアのtipsを紹介します。第2回は、在宅緩和ケアのtipsのなかでも、基本となる「全人的苦痛(トータルペイン)」の概念について紹介します。 がん患者と家族の苦痛 杉並PARK在宅クリニック 院長の田中公孝と申します。 痛み、呼吸苦、食欲不振、うつ状態、精神的な不安、家族の不和の顕在化、遺産相続の悩み、……etc.がん末期の患者さんとその家族には、経過のなかで、さまざまな苦痛が訪れる事実。訪問看護師の皆さんには、イメージがつくところではないでしょうか。 がん末期の場合、病院から在宅医療に切り替わってからは、経過が速いことも多く、一つ一つのプロブレムに何とか対処しようと、目の前のことに精いっぱいになってしまいがちです。しかし、そんなときこそ、トータルペインの考えに立ち戻って、一度冷静になって整理することをおすすめしたいと思います。そして、プロブレムに対して多職種でどうアプローチしていくかを検討・相談するのです。 トータルペインとは 簡単に説明すると、患者の苦痛をトータルにとらえる考えかたです。 患者の苦痛は、 ●身体的苦痛●精神的苦痛●社会的苦痛●スピリチュアルペイン の四つに分類されます。 これらの苦痛は、密接に絡み合っています。たとえば、直接の訴えは「痛み」の場合でも、身体的要因だけをみるのではなく、すべての要因を考える必要があります。 身体的苦痛である「痛み」が強いと、精神的苦痛である「うつ状態」や「いらだち」につながります。逆も然りで、精神的苦痛は、身体的な痛みの増強要因でもあります。 終末期に経済的な問題を抱えているとサービスが十分に入れず、身体的苦痛への対処が後手後手になってしまう、という事例もときどき見かけます。こうした金銭面の問題があった場合、公的な援助を利用できないかと考えることも、身体的苦痛を先々取り除いていくために大事なアプローチといえるでしょう。 さらに、在宅で看取りをしていく以上、「家族の介護負担」という苦痛も出現します。これまで距離をとっていた家族が急遽介護に参加する、という場面もみられます。家族内の微妙な距離感や、意見の違いなども、あらかじめ聴取し、認識しておく必要があります。 プロブレムを正確にとらえる さて、以上のようにがん末期の事例では、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルといったそれぞれの苦痛が互いに関連します。まずは、目の前の患者さんとご家族のプロブレムがどれだけあって、それらが、四つの苦痛のどれに当てはまるか。それを考えることから始めるのがおすすめです。 具体的には、身体的苦痛は? 精神的苦痛は? 社会的苦痛は? スピリチュアルな苦痛は? ……と、順々に目の前の患者さんの状態を想起して、文字にして書き出してみるのです。 言語化することは大変ですが、このトレーニングを繰り返すことで、がん末期の患者さんとその家族に起きているプロブレムを、より正確にとらえることができるようになります。   複数の苦痛が絡み合った事例 それでは、トータルペインに沿ったプロブレムの列挙の方法について、より具体的にイメージしてもらえるように、私が経験した事例を挙げたいと思います。 【事例】70代女性、膵がん末期。20××年12月末から心窩部痛あり、20××+1年2月A病院受診。切除不能局所進行膵頭部がんの診断。手術は不可、抗がん剤を服用したが副作用(食欲不振、便秘、発熱、皮膚そう痒など)のため中止。緩和ケアの方針で、当院訪問診療となった。 【家族構成】ご本人と、弟夫婦の3人暮らし。 【経過】当院介入後は、前医への不信感・強い悲嘆があり、時間をかけて傾聴。今後は私たちと訪問看護と相談しながら一つ一つ進めていきましょうとお話しした。病状の進行が速く、がん疼痛が週単位で悪化。内服の麻薬は訪問のたびに増量、その後、貼付薬にオピオイドローテーション。もともと繊細な性格だったが、がんになって以降、感情失禁が多く、抗不安薬も適宜使用。下腿浮腫が著明だったことから利尿薬を追加し、弾性ストッキングおよび訪問マッサージを導入。徐々に排便コントロールも難しくなってきたことから、下剤を増量し、訪問看護の臨時訪問で適宜浣腸を施行。加えて、老老介護のためご家族の介護疲弊がかなりたまってきていること、毎週のペースで麻薬を増量しており、病状が悪化していることから、入院のタイミングをご本人・ご家族・多職種で相談し、緩和ケア病棟入院へ。しかし、「入院生活は思っていたものと違った」とご本人より話があり、早期退院。最期は弟夫婦も自宅看取りの覚悟を決められ、数週間後看取りとなった。 本事例の苦痛を整理していくと…… ・身体的苦痛:がん疼痛、便秘、下腿浮腫・精神的苦痛:前医への不信感、強い悲嘆、入院生活へのストレス・社会的苦痛:老老介護による家族の介護疲弊・スピリチュアルペイン:本人の計り知れない死生観に対する悩み、家族の自宅か病院か迷う最期の場の検討 ととらえました。(なお、スピリチュアルペインはこの字数で述べることは困難なので、今回は触れないでおきます。) それぞれのプロブレムに対して薬を用いたり、訪問看護と相談・対応したり、ご家族に現在感じていることを伺ったりと対応していきました。そして、ご本人の希望を尊重し、紆余曲折しながらも、自宅看取りまで進めていったという事例でした。 早期からの情報収集と整理が重要 この事例からもわかるように、がん末期の事例では常に、複数のプロブレムが起こります。 身体的苦痛 × 精神的苦痛 × 社会的苦痛 × スピリチュアルペイン ── といったコンボがきたとき、さまざまな薬、さまざまな把握、さまざまな説明が、現場では必要になってきます。そうなったとき慌てないよう、初回訪問の時点で(難しければ2回・3回の訪問までに)、四つの苦痛の概念を頭に浮かべて、きたるべき時に備えて情報収集をし、検討しておくことがとても重要です。 そして、自身で、プロブレムをトータルペインのどれにあたるかを整理できるようになってきたら、ぜひ医学的アプローチは医師に、社会的苦痛に関係することはケアマネジャーに、相談または提案をすることを実践していきましょう。緩和ケアを実践できる訪問看護師が、今後ますます増えていくことを期待しております。 ** 著者:田中 公孝 2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。 杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー

本人の強い意志をチーム力で支える

ベテラン訪問看護師の望月葉子さんが出会った、印象深い意思決定支援のケースを前後編で紹介します。前編は、重度の障害のある人に対する現在進行形の支援について語っていただきました。 東京のICU病室から博多でのコンサートへ 「意思決定支援」というテーマをいただいたとき、まず思い浮かべたのが10年のお付き合いになるAさんです。「こうしたい」という強い意思を持ち、周りを巻き込んでそれを実現していける人だからです。 【患者Aさん】 現在63歳、アテトーゼ型脳性麻痺の女性。車いす使用。望月さんが担当するようになったのは2010年、Aさんが53歳の時から。当時、直腸膀胱障害があり、すぐに尿道カテーテルを留置。その後、気管切開、胃瘻造設、乳がん手術などを経て、今も94歳の母親と二人で在宅生活を継続している。 Aさんへのこれまでの支援で最も大きなエピソードは、2014年10月、Aさんが交流のある演歌歌手のコンサートに招待され、病院のICUを自主退院して東京から博多に行ったことです。 そのころのAさんはすでに嚥下状態が悪くなり、この年の2月には誤嚥性肺炎で入院していました。博多に行きたいと言われたとき、私は最初、本気とは思っていませんでした。でもAさんは本気でした。それでケアチームの会議を招集し、本当に博多に行けるかを検討しました。 Aさんの強い思いに、相談支援専門員(障害分野のケアマネジャー)が寄り添ってくれたことで、ケアチーム全員が実現の方向に動けたように思います。お母様も博多行きにかかる費用はすべて出すと言いました。在宅医も、万一のことが起こる覚悟を本人とお母様に確認したうえで、診療情報提供書を用意してくれました。 そうしてコンサートの半年ほど前から、ヘルパーや自費の看護師、現地でケアを引き継いでくれる看護師、携帯用の酸素などを手配し、博多行きの準備をしていました。ところがコンサートの直前、Aさんは誤嚥性肺炎で呼吸不全になり、救急搬送されてしまったのです。しかも入院中に痰が詰まって、一時は心肺停止状態に。 常識だったら「これではコンサートは行けないね」となりますよね。でも、Aさんは「どうしても行きたい」と諦めなかったのです。退院は認めないという病院と交渉し、結局Aさんは、「急変したとしても再入院は求めません」という約束をして、自主退院することになりました。 私は病院から東京駅まで車に同乗し、Aさんを自費の看護師に引き継いで新幹線に乗車させました。そしてヘルパーが合流し、何とか博多まで行き、Aさんはコンサートを楽しむことができたのです。 選択の数々 博多から帰ってきてまたすぐに、Aさんは呼吸不全になって救急搬送されました。「呼吸筋力の低下で、自力での痰の喀出は困難、経口摂取はもう無理」という医師の診断でした。Aさんも納得の上、気管切開を受けました。 その後は、胃瘻にするかどうするかの選択を迫られました。在宅でケアにあたっているお母様もこれには悩みました。お母様は当時80代後半です。在宅医や私たち訪問看護師にたびたび電話をしてきていました。 Aさん自身はとにかく生きる意欲が旺盛なので、胃瘻云々ではなく、「とにかく家に帰りたい」と訴えていました。 Aさんは気管切開で声を失っていますから、介護者が読み上げる50音に舌で合図を出して意思を伝える方法をとっています。いつもの介護者とお母様は、このコミュニケーションに慣れていますが、病院ではそうはいきません。体を動かせないAさんには、ナースコールを押すこともできません。 しかし家に帰れば、意思疎通ができるヘルパーさんが24時間いてくれるのです。結局、Aさんは胃瘻を造設して自宅に戻りました。 この後、Aさん自身もお母様も、がんの手術を受けています。でも、それらの出来事もケアチームで支え、乗り越えて、現在に至ります。胃瘻から栄養注入しながら、チョコレートや、お母様手作りのゼリーを口から召し上がっています。 いいゴールはケアチームみんなで考えたい Aさんとこれほど長いお付き合いになるとは思っていませんでした。長い期間その人の人生に寄り添っていけることは、訪問看護の醍醐味です。とても幸せなことですね。今、Aさんの自宅へは週2回の訪問で、入浴介助、摘便、服薬管理、尿道カテーテル交換などをしています。 Aさんの博多行きを経験したことなどもあって、10年の間にケアチームとしての成長を感じています。チームメンバーは入れ替わりもありますが、定期的に行政メンバーも交えてケアチーム会議をしていることもあり、Aさんの意思はみなよく分かっています。 これから起こりうる大きなエピソードとして考えられるのは、おそらくお母様に何かあったときでしょう。そのときどう対応するかについて、ケアチームで話題に上っています。しかし、施設を探すといった話はまったく出ていません。Aさんは「このまま在宅で生活する」と言うだろうと、みな思っているからです。 Aさんは、状態の悪化を嘆いて悲観的になることはありません。もちろん、感情の波はありますが、怒るエネルギーは衰えません。いろいろな難題を突き付けてくる人ですが、意思がはっきりしている分、支援の方向性は決めやすいのです。どこが本当に良いゴールなのか、今はまだわかりませんが、それはチームみなで考えていけると思っています。 ※掲載の内容については、ご本人とご家族の了承を得て掲載させていただいております。 ** 望月葉子白十字訪問看護ステーション看護師 記事編集:株式会社メディカ出版

特集

暑い時期は要注意!高齢者の脱水症予防

暑さが本格的になるこの時期、脱水から熱中症になり救急搬送される事例が数多く報告されています。今回は、特に屋内や夜間でも熱中症になりやすい高齢者の脱水・熱中症について解説します。 命にかかわることもある熱中症 熱中症は、高温多湿な環境に身体が適応できないことで生じるさまざまな症状の総称です。発熱だけでなく、身体のだるさや吐き気、手足の筋肉がつるなどの症状が出ることもあります。 高齢者の場合、熱中症になっていることに気づきにくく、脱水による発熱やせん妄など、重篤な症状を引き起こすこともあり、重度になると命にかかわることもあります。 脱水症を放っておくと熱中症に移行するため、まず脱水症を予防することが大切です。 高齢者は、以下の要因により脱水症になりやすいとされています。 ①   口の渇きを感じにくい ②   体液が減少している ③   水分摂取量が減少している ④   腎機能が低下している 特に、独居や高齢者のみ世帯では、変化に気づきにくいという点も含めて注意が必要です。 高齢者の身体の変化に注意 それぞれについて、詳細にみていきましょう。 ①   口の渇きを感じにくい 歳をとると感覚機能が低下するため、口渇を感じにくくなります。そのため、水分摂取量が減少して脱水傾向になります。 ②   体液が減少している 人間の身体の半分以上は水分や電解質などから成る「体液」であり、その割合は子どもで約70%、成人で約60%、高齢者で約50%と、加齢に伴ってその水分量は減少していきます。 高齢期では成人期と比較して水分量が10%程度少ないことから、慢性的に脱水気味な状態もみられ、脱水症一歩手前の「かくれ脱水」という言葉もよく聞かれます。 ③   水分摂取量が減少している 歳をとると、食欲が低下したり、飲み込みが悪くなったり、誤嚥を恐れ食事や水分の摂取量が減少することがよくみられます。また、夜間にトイレに行く回数を気にして水分摂取量を控え、体液量が減少することもあります。 ④   腎機能が低下している 体液量を保つためには、腎臓で水分や電解質を再吸収することが必要です。しかし加齢に伴って腎機能が低下すると、水分や電解質を再吸収できずに尿として排出してしまい、体液が失われやすい状態になり、脱水傾向になってしまうのです。 脱水症の兆候と対応   高齢者の脱水症の兆候としては、以下のようなことが挙げられます。 ・手が冷たい ・口の中が乾いて唾液が出ない ・舌の赤みが強い ・わきの下が乾いている ・頭痛や筋肉痛など体のどこかが痛い ・微熱が続く   このような兆候がみられた際には、脱水症かどうかを判断する目安として次のことを行います。 ・親指の爪を押す(2~3秒以内に赤みが引かない) ・腕の皮膚や手の甲の皮膚をつまむ(3秒以内に皮膚が戻らない) ・脈拍を測る(120回/分以上である) 上記に当てはまる場合は、まず経口補水液などの水分摂取を促し、かかりつけ医に相談し適切な対応を図ることが必要です。 なお、嘔吐・下痢・多量の発汗により水分摂取が必要と判断した際には、市販の経口補水液などを用いるのがよいでしょう。お茶などのカフェインが入っている飲み物は利尿作用をきたして電解質のバランスを壊す可能性があるためです。 嚥下が心配な方にはゼリータイプの経口補水液もあります。 ただし、心不全などの疾患により、医師から水分制限の指示を受けている方もいるため、この点を必ず確認しておくことが大切です。 水分摂取量はきちんと把握する 高齢者に水分摂取を心がけるように声かけをすると、たいていの場合「ちゃんと飲んでいます」と返ってきます。脱水症を防ぐには、利用者の主観ではなく客観的な事実を把握する必要があります。いつのタイミングで何をどれぐらい飲んでいるかを、必ず確認するようにしましょう。本人は飲んでいるつもりでも、確かめてみると1日500mL程度しか水分をとっていない人も少なくありません。 高齢者に十分な水分をとってもらうには、たとえば「朝起きたらこのコップで8分目飲んでほしい」「食事には味噌汁などの汁物を必ず付けましょう」などと、具体的な量と内容をわかりやすく説明することが重要です。脱水症は、ふだんのこうした食習慣こそが予防の第一歩となるのです。 室温を客観的に示しエアコン使用を促す 認知症の方は、特に脱水症に気をつける必要があります。脳の機能の低下により、暑さが気にならなくなり、夏に冬物のセーターを着て汗を流していたり、こたつに入っていたりするところを見かけることも少なくありません。 認知症でなくても、高齢者は暑さ寒さの感覚が鈍くなってくるため、夏でも厚手のカーディガンを羽織るなど、厚着をする傾向にあります。また、エアコンの風が嫌い、暑くない、電気代がかかるなどの理由でエアコンの使用を嫌がる方が少なくありません。こうした場合は、室内の温度を計測するなどの工夫によって、室温が高くなっていることを客観的に示し、適切にエアコンの使用を促すことが必要です。 在宅ケアの場では、医師、看護師、介護士など、支援にかかわるすべての人が脱水症予防の視点を持つことが大切です。生活は介護職やケアマネジャーまかせではなく、熱中症になったらどんなことになるか具体的な予測のできる訪問看護師も、積極的に予防にかかわりましょう。 ** 白木裕子 株式会社フジケア代表取締役社長/看護師/認定ケアマネジャーの会顧問 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー

異業種参入 第四の壁:専門職の教育

セントケア・グループが訪問看護部門の立ち上げたのは、今から約20年前です。拡大するにつれ、ケアの一定の質担保が困難になりますが、自社でアセスメントツールを開発することで、ケアの質を一定に担保する工夫をしています。教育やサポート体制について藤原さんにお伺いしました。 新人でも、ひとりで考える不安が減るツール ―たくさんの専門職がいる中で、どのようにケアの質を一定に保っているのでしょうか? 藤原: ベテランはアセスメントが得意なのは、全体像が見えているからです。 私たちは、新人や若手も必要な項目を入力していくことで、自分のケアを俯瞰的にとらえられるアセスメントツールとして『看護のアイちゃん』を開発しました。 ―具体的には、どんなメリットがあるのでしょうか? 藤原: 例えば、呼吸に異常を発見したが、医師に報告するべきことか迷うという事態は日常的に起こると思います。『看護のアイちゃん』で、報告するべき呼吸数を事前に設定しておけば、通常のケアの中で項目を入力後、フローチャートが出てきて、「報告が必要です」とシステムが教えてくれます。言い換えれば、別の看護師がなぜ医師に報告をしたのかを知りたい時にも、簡単に確認ができます。 ーなるほど。それは安心感がありますね。 藤原: また、毎回訪問看護でみる項目が決まっているので、新人さんでも目の前の何を見たらいいのかと、ひとりで考えなくてはいけない不安が軽減できると思います。 日々の記録はもちろん、計画書や報告書にもクラウド上で情報が反映されるようになっているので、管理者のチェック業務も、かなり楽になりました。 ―そのほかの看護師さんをサポートするしくみを教えていただけますか。 藤原: 採用時の研修は1.5日ほど座学と、1か月の同行研修があり、だいたい3か月でほぼひとり立ちの流れです。 ただ、技術的な部分のフォロー体制はまだ足りていないと感じています。今後は、手技をシナリオに沿って学習できるシミュレーションモデルのようなものも活用して行きたいです。 また、入職された後、中長期的な目標として、認定や専門看護師などのスペシャリスト、管理者のようなジェネラリストのキャリアステップを選べるようなしくみも作りたいと考えています。 ―管理者のチェック業務も楽になったとのことですが、レセプトの処理はどのようにされていますか? 藤原: 本社で集約しています。訪問看護事務という部門があり、そこで医療保険の請求書の間違いがないよう、加算のとり忘れがないように徹底してチェックしてから、レセプト請求しています。部門としては10人ほどいます。ただ、制度に関する相談は、私のいる訪問看護部門に連絡が来ることが多いです。それでもわからなければ、コンプライアンス課や厚労省に直接確認することもあります。 今後は、訪問のスケジュール立てから記録、請求までのすべてが、お客様の情報として管理できるような一気通貫のシステムにしていきたいですね。 セントケア・ホールディング株式会社 訪問看護部門 統括次長 藤原祐子 病院勤務で、在宅に受け皿がないために、帰りたくても家に帰れない高齢者が多くいる現実を見て、世の中の制度に疑問を感じるようになる。その後、結婚・出産を経て、2000年に介護保険制度がスタートするタイミングで、介護保険や訪問看護について勉強し、訪問看護師へ転身。管理者としてセントケア・グループに入職し、現在はセントケア・ホールディングの訪問看護部門統括次長として、訪問看護ステーションの安定運営をサポートする基盤づくりに注力している。 セントケア・グループ 1999年、株式会社として初となる訪問看護ステーションを開設。現在では97か所の訪問看護ステーションを全国に展開し、訪問入浴や訪問介護、デイサービス、有料老人ホームなどの幅広い事業にも取り組んでいる。(2020年11月時点)      

インタビュー

ケアの質を向上させる!オマハシステムを徹底解説

訪問看護の記録評価システムの一つであるオマハシステムについて、「名前は聞いたことがあるけれど、実際どんなもの?」「導入すると何がいいの?」「どうやって導入するの?」と意外に知らない方も多いのではないでしょうか。 日本で一番オマハシステムに詳しい岩本さんに、徹底解説していただきます。 オマハシステムとは? 岩本: 病院の電子カルテに入っている『NANDA・NIC-NOC』などの看護問題分類と同じようなものだと思っていただければわかりやすいと思います。 ほかにも、介護現場のアセスメントで使用されるの『インターライ』、『MDS-HC』などの似たようなシステムは色々ありますが、在宅の現場で直感的に使えると私が感じたのが、オマハシステムでした。 オマハシステムの導入効果は? 岩本: 導入効果は多くありますが、ここでは三つのメリットを紹介します。 ①伸ばすべき点、改善すべき点を把握できるように 岩本: 現在ウィルでは、利用者さんの変化(知識、行動、状態)を毎月グラフ化して経時的に追っています。 利用者さんの問題について、「今どういう変化を起こしているか」が見える化されていることでPDCAサイクルが非常に論理的に回るようになってきています。 看護師自身が「今自分のやっているケアは意味があるんだ」、あるいは、「意味があると思ってやっていることに対して思ったように評点が変化していかないからプラン変更修正すべきだ」と考えることができるようになったんです。 ②ベテランの思考過程が新人に受け継がれるように 岩本: オマハシステムという共通言語があることで、ベテランと新人の思考過程の差を明らかにした上で、一緒にディスカッションできるようになりました。例えば利用者さんに対して、ベテランと新人では、フォーカスする問題に違いがあることが判明したんです。 その違いに対して、「どうして」「なぜなら」と一緒にディスカッションすることで、ベテランの思考過程が受け継がれていくという、教育的にもメリットを感じてます。 ③チームの強み弱みが明らかになり、対策を講じられるように ステーションのすべての利用者を「内疾患分類別」「立案している問題分類別」に見て、評点の平均値の変化を追うことで、ステーション全体の評価ができるようになりました。 これにより、チームの強み・弱みのあるケアが明らかになり、弱みへの対策の立案が可能になったんです。 例えば認知症のケアが弱い、ということがわかれば認知症に関する研修を集中的に行うことで、弱みを補うという感じです。システムの導入が、チーム全体のケアの質向上につながっていると思います。 システムはどのように導入するのか? 岩本: システム自体は、ただのコード文なので、運用にあたっては電子媒体が非常に重要です。 実は、初めはエクセルで作りこんでやってみたんですが、2ヶ月ほどで残業がものすごいことになったので、一回全部中止しました。 そこからシステムを業務の中に組み込める形にした訪問看護用電子カルテを開発し、現在ではウィルのすべてのチームでこの電子カルテを利用してレセプト請求まで行っています。 また開発した電子カルテは、他のステーションにも導入を始めています。データは広く使われることで価値が上がっていくため、今みなさんが利用している電子カルテとも連携していけるといいと思います。 オマハシステム徹底解説 岩本: 難しくとらえられがちなオマハシステムですが、考え方はシンプルです。システムは、三つの要素で構成されます。 ・看護問題(患者さんが抱えている問題やリスクを選ぶ) ・介入分類(その問題に対応した介入を選ぶ) ・評価の分類(介入を評価する) それぞれについて、詳しくお話していきます。 看護問題 『NANDA・NIC-NOC』の問題分類の数は非常にたくさんありますが、オマハの場合は、下図に示すように問題数自体が全部で42個です。 一人の人間が持つ色々な課題型を42個で表現しているという意味では分かりやすいと思います。 介入分類 私たちが利用者さんに対して行う介入は、大きく以下の4種類に分けられます。 ・直接何かをするケアの介入 ・直接その利用者や家族に指導して覚えてもらうという介入 ・観察をする介入 ・ケアマネジメントという介入 この中で特徴的で私が大好きなのが、「ケアマネジメントという介入」です。 直接介入はしていなくても、調整という介入を行っているということを、オマハシステムでは介入として記述ができるんですね。 具体的には、ケアマネージャーさんへの相談、福祉用具屋さんとの調整、薬局薬剤師さんと情報共有をしての薬のコントロールなども介入として扱われます。見えないケアだったものが、見えるケア、やっているケアとして記述され、さらに評価を行っていくということができるわけです。 ケアマネジメントの介入があることが個人的にオマハシステムの一つの大きな特徴だと思っています。 評価の分類 成果を測るために、私たちが介入したことで利用者さんにどういう変化があったことを評点していきます。基本的にはKBSの3つの側面から行い、5段階で評点します。 ・利用者さんの知識、理解(K) ・利用者さんの行動(B) ・利用者さんの客観的な状態(S) 例えば、認知症は高齢の方がなることが多いため、在宅ケアの介入でやっていきなり症状が改善するということは難しいかもしれない。 これは長期ケア、慢性期ケア、高齢者ケアでは当然起こりうることで、人間やはり老いを重ねていく、あるいは不可逆的な疾患に対して、すべて取り戻すというのは厳しいと思います。この時、状態の効果測定を要介護度などでするのは難しいでしょう。 しかし、状態は下がっていけども、例えば、ご本人がすごく混乱をしていたところから、自分で生活習慣に気づくことができて周辺症状が治る、あるいは苦痛なく楽しく過ごせるようになるかもしれません。 家族が「おばあちゃんなんでこんなことするの!」と怒ってしまい困っていた状態から「これは認知症の症状なんだ」だと理解し、気持ちの整理がついたということがあります。 こういった状況を ・知識、理解(K)が2点から5点になった ・行動(B)が上がった ・でも客観的な状態(S)は下がった と3つの側面で評点することができます。これが長期ケアあるいは在宅ケアの中でも私たちが介入することで変わる成果だと表現ができます。 岩本さんにとって、オマハシステムとは? 岩本: 「システムを使って何かを変えよう」と思っていたわけではなく、「在宅ケアの素晴らしさを証明したい」という気持ちがありました。 そもそもすでに現場では介護職、看護職、訪問診療をやっている医師含め、医療系の職種の皆さん、あるいは地域のお仕事をされている皆さんで協働しながら、日常的に素晴らしい実践があるわけです。 でもそれが中々、伝わらない。マニアックなサービスになっているせいで本当に必要な人に届かない、価値を知られていないためにお金がつかないことが、非常に悔しくて、それが示せるツールがほしいと思いました。 先輩たちが築き上げてきた、あるいは今は皆さんが取り組んでいる素晴らしい実践を本当に価値があることだと表現するためには、データが大事だと私は思っています。 既にある「価値のある実践」を「実際に介護看護在宅医療にとって価値がある」という表現するために、適しているのがオマハシステムだと思っていますし、こういった実践がいろんな人に認めてもらえるようになるといいな、と考えています。 WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師 岩本大希 ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養の中でも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。

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