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[6]どうされていますか? エンゼルケア時のならわしへの対応

お顔に白い布をかけたり、着物を左前で着付けるなど、亡くなった人に対して従来より行われてきたならわし。エンゼルケアの場面では、こうしたならわしについてどう考えればよいでしょうか。今回は、そもそもならわしとは何かをご紹介するとともに対応について考えます。 ならわしについて検討する際のポイント ならわしは、人々の思いと時代や地域の文化などがかかわってできあがったもので、時とともに移ろいながら私たちの暮らしの中にさまざまに存在しています。 医療の現場ではどうでしょう。例えば、病棟の病室に4号室や9号室を設置するかどうか。「死」をイメージする4、「苦」をイメージする9を避ける人がいるため、設置していなかった病院が少なくなく、増築や改築の際に議論になることがあります。 また、霊安室のありようもさまざまです。仏教をイメージするような設えやマリア像のあるお部屋、逆に宗教色のない控室的なつくりなどがあります。霊安室はならわしによる雰囲気づくりがなされたエリアといってよいでしょう。検討の結果、霊安室をなくした病院もあります。 看護時に長らく行われてきたならわしは、亡くなった人の整え方のいくつかです。それをどうとらえて、どうすればよいのか。ならわしを行うこと、行わないことに善し悪しはなく、考え方次第です。いずれにしても大事なのは、事業所としての考え方を整理し、スタッフ間で共有しておき、必要なときに説明できることです。 見えてきた、ならわしの背景 死後処置では、主にa~dのならわしが行われてきました。a手を組ませるb胴紐を縦結びにするc顔に四角い白い布をかけるd和服を逆さあわせにする(いわゆる左前) 葬儀文化に詳しい方への取材や関係書を読み検討を重ねる中で、これらのならわしが死や遺体に対するおそれの感覚や生きている人と区別するための印づけとしての必要性があったのだろうと考えるようになりました。 ①ご遺体へのおそれの感覚 昔は埋葬するまでご遺体を身近に置いていたこともあり、ご遺体の鼻や口から悪い存在が入り、荒ぶれて動き出したりしないかといったおそれの感覚が生じたようです。そのために、動かないように縛ったり、鼻や口の穴を塞いだりして封印をするようになったのではないか、そして、その名残がaの手を組ませる行為やcの顔に四角い白い布をかける行為なのではないか、と考えられていることが多いとわかりました。 ②「あの世の人」になったことの印づけ また、昔は死んだら「この世」から「あの世」(この世とは逆さの世界になっていると考えられている世界)へ行くと信じる感覚がありました。かつては看取りから葬儀まで自宅で執り行われることが多く、近所の人や親戚の人たちが自宅にたくさん集まりました。その中でご遺体が布団の上に横たわっているわけです。こうした状況において「この人はあの世の人になったのだ」と周囲に表明する、生きている人と区別する必要があったと思われます。 医師による死亡診断と告知があるわけではない時代には、亡くなったと決めたことを表明する必要もあったのではないかと想像します。その表明のしかたとして「逆さの世界の人」として、普段とは逆の方法にする逆さ事が行われてきたのでしょう。 逆さ事には、例えば「逆さ屏風」や「逆さ水」があります。「逆さ屏風」は、ご遺体の枕もとに屏風があれば、絵柄を逆さにして立てることを言います。「逆さ水」とは、ご遺体を拭くときに使用するお湯のつくり方を言います。通常、お湯に水を足して温度を調整しますが、その逆、水にお湯を足して温度を調整します。 先ほどご紹介したbの胴紐を縦結びにしたり、dの和服を左前にあわせることも逆さ事のひとつとして行われたのでしょう。胴紐は通常、横に結びますが、その逆として縦に結んだと考えられます。なお、縦結びは解けにくい結び方であり、「もう、あの世から戻れないですよ」という本人へのメッセージだと考えるむきもあります。 エンゼルケア時に、ならわしは基本的に行わなくてよい エンゼルケアは、ご家族が心豊かに看取りの場面を過ごしていただくことが目的のケアです。その段階において「ご遺体へのおそれの感覚が由来したならわし」は必要ない、また、周囲に亡くなった人であることを表明するための「印づけ」も必要ない、と考えています。 連載[2]のコミュニケーションの回で述べたとおり、生きているときのようにご遺体を気遣うご家族が多いのですから、死者らしくするならわしは行わない方針がご家族の感覚にもフィットします。 また、ならわしは後になってからいつでも行うことができますから、わざわざエンゼルケアの時点であわてて行う必要はありません。ただ、ご家族の希望があればそれに添う対応を検討してください。 社会状況の変化をキャッチしておきましょう 全体に死という出来事やご遺体を目立たないようにしたいという人々の思いが、死を取り巻く状況に反映されている印象です。例えば、以前は派手な装飾で目立つ存在だった霊柩車は、現在は目立たないものにとって変わり、葬儀も簡略化が急激に進んでいます。看取りや、葬儀の担い手となる子供の人数が少なくなり、その負担も増えている現在、簡略化は自然な方向性かもしれません。 そのような状況であることを含み、エンゼルケアではできるだけ、連載の[4]で述べた「でも」と思える場面づくりを意識するといったことが必要なのかもしれません。 ならわしはとなりの町でも流儀が異なる場合もあり、考え方や行い方に地域差が見られることも少なくありません。担当地域の自治体や葬儀社などから葬送の現状について情報を得ておくことも、エンゼルケアの内容を考えるうえで参考になると思います。 ワンポイントメモ宮家準氏が執筆された『日本の民俗宗教』(講談社学術文庫)中に掲載されていた次の図を知り、その内容にたいへん感動しました(図1)。 図1 生と死の儀礼の構造宮家準(1994)『日本の民俗宗教』(講談社)、124ページより引用 図の上半分にこの世の儀礼が並んでおり、下半分にあの世の儀礼が並んでいます。このように儀礼を対比すると、この世とあの世で儀礼の類似性があり、結婚式と三十三周忌までは儀礼のペースがほぼ同様です。先人らは、あの世に行った霊に対しても節目節目で儀礼を行い、この世で生きている人と同じくらい大切に思いながら過ごしたわけです。図では、あの世の儀礼にある「十三周忌」に対応するこの世の儀礼がありませんが、私の出身地である茨城県の一部では13歳のときに十三参りという儀礼を行います。 また、この図を縦半分にして左右を見てみると、右半分は神社、左半分はお寺で儀礼が行われます。他にも感動ポイントがいろいろとあるのですが、ここでは割愛します。昔の人たちは、このように一つひとつの儀礼を進めていくことがグリーフワークになっていただろうことを読み取ることができます。最近では、初七日は葬儀と一緒に済ませるなど、儀礼が省略されることも少なくありません。今後の社会では、これらを簡略化した分の穴埋めについて考えなければならないのではないかと思うのです。 皆さんの担当地区に伝わるならわしや、担当している利用者さんの出身地のならわしを聴取し、民俗学や文化人類学の書物を参考に、ぜひ検討してみてほしいです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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9 蓄尿バッグに尿がたまっていない

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第9回は、膀胱留置カテーテル交換後、蓄尿バッグに尿がたまっていない患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 87歳男性。膀胱留置カテーテルを使用して排尿しています。カテーテルの入れ替えを行い、その後、家族から「尿がたまっていない」と電話がありました。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 膀胱留置カテーテル交換後に排尿が確認できない事例です。 まず大前提として、カテーテル交換の際は、カテーテルが膀胱に正しく挿入されていることの確認が必須です。具体的には、尿が流出されることを確認してから固定します。 カテーテル交換時には尿が流出することを確認できている場合は、乏尿(無尿)を疑ってアセスメントを行います。 もしも万が一、カテーテル交換をした時、蓄尿バッグやチューブ内へ尿が流出することを確認できていなかったのであれば、カテーテル位置が不良(膀胱まで至っておらず、尿道に留置されている)で、尿閉になっていることが考えられます。その際は、すぐに固定を解除する必要があるので、早急に報告し、対応してください。 ここに注目! ●カテーテル留置不良による尿閉の可能性がある●カテーテル留置に問題がない場合、乏尿(無尿)の可能性がある カテーテル留置状態のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・留置カテーテル交換からの経過時間、交換時の違和感や疼痛・苦痛の訴え・バッグ内・チューブ内に尿がわずかでもあるか・亀頭部からの尿漏れはないか・陰部や下腹部の疼痛・苦痛の訴え・尿閉の症状(尿意、激しい尿意、腹部膨満感、腹痛、強い焦燥感や不安感、冷汗、など) カテーテル留置状態のアセスメント②客観的情報の収集 脈拍・血圧測定 痛みや尿が排出できない苦痛で、脈拍や血圧が上昇することがあります。意識レベルの低い高齢者や認知症のかたでは、苦痛の有無を適切に伝えることが難しいため、バイタルサインから推測します。 膀胱内の尿貯留のアセスメント 膀胱は、正常であれば充満しても恥骨結合内部にとどまり、腹壁から視診・触診することはできません。 尿閉で貯留量が多くなった場合は、下腹部が膨満し、硬く触れます。打診すると濁音が聞かれます。 陰茎や陰嚢の観察 膀胱留置カテーテルのバルーンが周辺組織を圧迫し、血流障害を起こす可能性があります。組織は炎症を起こし、最終的には壊死に至ります。 陰茎や陰嚢の視診・触診を行い、発赤・腫脹・熱感、潰瘍や壊死を疑わせる皮膚の変化がないかを観察します。 乏尿(無尿)のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・尿路結石や腫瘍による激しい疼痛、腰部や背部に放散するような痛み・乏尿の原因となる循環血流量の減少を招く心不全のアセスメント、脱水の症状を確認する 乏尿(無尿)のアセスメント②客観的情報の収集 排尿量・性状・排尿行動に関する問診・観察 乏尿の基準は400mL/日以下とされています。 脈拍・血圧測定 腎臓への血液循環が低下している状態では乏尿になりますので、血圧の低下、脈拍の低下がないかを確認します。 身体への水分貯留のアセスメント 循環障害や腎障害では、全身性の浮腫があらわれます。顔面や全身の腫脹、重力がかかる部位の圧痕を確認します。水分出納を計算し、できれば体重もチェックできるとよいでしょう。 報告のポイント ・膀胱留置カテーテル交換後、蓄尿バッグ内に尿が確認できないこと・カテーテルの尿道への留置の可能性と、陰部組織に与えた影響・乏尿(無尿)の可能性 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ)青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授記事編集:株式会社メディカ出版

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【管理栄養士のアドバイスvol.4】低栄養のスクリーニングと予防

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第4回は、低栄養を早期に見つける・低栄養にさせないためのポイントを紹介します。 はじめに 皆さんご存じのように、高齢期の低栄養はその後の生活機能低下や障害、合併症の増加、生活の質悪化を伴い生命予後短縮につながります。 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査の概要」1)によると、65歳以上の低栄養傾向の者(BMI≦20㎏/m2)は男性で12.4%、女性で20.7%であり、要介護高齢者においては20~40%が低栄養であるともいわれています。 低栄養から生活機能低下につながる前に、リスクを早期に発見し、栄養状態の改善に取り組むことが重要です。 低栄養のスクリーニング はじめに、ふだん皆さんがかかわっている患者さんに、低栄養のリスクがないかを確認してみましょう。 低栄養のスクリーニングは、低栄養のリスク者(低栄養かもしれない人)を見つける段階で、管理栄養士でなくてもできますのでぜひ覚えておきましょう。 スクリーニングツールとしては、MNA®-SFが在宅でも手軽に使え、多く活用されています。MNA®-SFは、65歳以上の高齢者向きで、体重減少、食事摂取量、歩行能力、急性疾患の影響、認知症やうつの有無、やせ(BMI)をそれぞれ点数化し、点数に応じて低栄養リスクを評価します。低栄養、もしくは低栄養のリスクのおそれありと評価が付いた方は、特に栄養状態改善の取り組みが必要です。 ここではまず、低栄養を予防する食事術についてお伝えします。 バランスよく栄養をとるために…… 手ばかり栄養法 これは、一日にどのくらいの食事を摂取すればよいかを、とても簡単に伝えるツールです。 まずは、食品を「赤」「黄」「緑」のグループに分けます。 赤色は、筋肉のもとになる、たんぱく質が多い食品です。黄色は、エネルギーの素となる、炭水化物や脂質が多く含まれる食品。緑色は、体のバランスを整える、ビタミンやミネラルの多い野菜や海藻類です。 この三色それぞれを、どのくらいの量食べるとバランスが良いのかを、手の大きさを基準にお伝えします。 赤色のグループは、一食あたり片手にのる程度。たとえば、魚の切り身ならひと切れ程度を、1食で摂取しましょう。 黄色のグループは1食あたり、ご飯茶碗1杯程度です。 そして緑色のグループは生の状態で1食あたり手のひら2枚分程度です。 これが理想的な食事の量です。この伝えかたなら、とても簡単でわかりやすいので、高齢者への指導にも使えますね。 10食品群チェック ご自身で調理をされている人であれば、こちらの指導ツールも有効です。以下の10食品群のうち、毎日最低でも4種類以上、できれば7種類以上を食べることを目指しましょう! 10食品群の覚えかたは、「さあにぎやか(に)いただく」です。注1 10食品チェック表をお渡しするだけでも、いろんな種類の食品を意識して摂取してくれますので、気になる方にはぜひお渡ししてみましょう。 手軽にいろいろな食品を摂取する工夫 「いろいろ食べなきゃいけないのはわかるけど、一人暮らしだから野菜を買っても余ってしまう」「わざわざ、いろんなおかずを作るのは大変」という人に、おすすめのワンポイントテクニックです。 野菜類 野菜はたくさん買っても余らせてしまう、切るのが面倒……などのお悩みには、冷凍野菜や乾燥野菜がおすすめです。 最近は、コンビニやスーパーの冷凍コーナーに、さまざまな種類の冷凍野菜が売られています。冷凍なので保存がききますし、すでにカットしてあるので調理の手間が省けます。 スーパーの乾物コーナーを覗くと、みそ汁に入れる具材ミックスが売られていることもあります。青菜やネギ、ワカメなどがミックスで入っているので、みそ汁だけでなくスープにも使えますよ。 魚 「魚の調理は手間がかかる」という人には、缶詰がおすすめです。 長期保存もできますし、すでに加熱調理されており、味付けされている商品もあるので、ちょっとアレンジすれば主菜に早変わりします。ネギをのせて焼くだけでも十分主菜になります。野菜の煮物に加えれば、一品で野菜と魚の両方をとることができます。 高齢期には、活動量の低下や味覚の変化などで、気づかないうちに食事量が減っていることがあります。自覚していない人も多いので、かかわる専門職が気づくことが大事です。そして、なるべく簡単に、バランスよく栄養がとれるように、ちょっとした工夫をぜひお伝えしましょう。 次回はさらに低栄養を掘り下げて、少量しか食事をとれない人の、栄養補給や補助食品の選びかたについてお伝えしていきます。 当記事に掲載している「10食品チェック表」「手ばかり栄養法」をまとめた利用者さん向け資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 注1 「さあにぎやかにいただく」は、東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取多様性スコアを構成する10 の食品群の頭文字をとったもので、ロコモチャレンジ!推進協議会が考案した合言葉です。 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用】1)厚生労働省.『令和元年国民健康・栄養調査結果の概要』2020.【参考】〇若林秀隆編.『フレイル高齢者これからどう診る?』.Gノート.7(6,増刊号),2020,227p.

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気切でも声が聴きたい! 慢性期の摂食嚥下リハビリテーション

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、気管切開・胃瘻でも、味を楽しみ、声を出すことができた事例を紹介します。  楽しみのトップは「食事」 歯科医、加藤順吉郎氏の研究に、介護施設の入所者や病院の長期入院患者に「楽しみは何ですか」と尋ねたアンケート調査があります。結果は、いずれの施設でも楽しみのトップは、家族の訪問やテレビを抜いて「食事」でした1)。 数年前に私が歯科専門職向けに行ったアンケート調査でも、利用者・患者に設定する長期目標について問うと、やはり「食事を楽しみたい」が1位という結果となりました。 【事例】気管切開・胃瘻でも、口から食べてほしい、声を聞きたい Fさん、男性、81歳。要介護5。施設介護中のJCS=200。クモ膜下出血で気管切開、胃瘻造設。失語。常時寝たきりで残存歯は下に2本のみ、義歯なし。 Fさんは、以前は会社を経営していました。クモ膜下出血で重篤な状態となりましたが、命を取りとめ、リハビリテーション病院を退院後、施設入所となりました。 入所当時から施設で紹介された歯科専門職の口腔ケアの介入もありました。しかしFさんの妻は、信頼している内科医に、ある想いを吐露しました。入所から3年経ったころでした。 「歯医者さんに3年もかかっているのに、夫はアイスクリームの一口も食べられませんし、私は夫の声をもう聞けないのでしょうか?」 どれほど重篤であっても、楽しみ程度の経口摂取と、できればFさんの声が聞きたいという妻の願いでした。家族として当然のそんな願いを叶えるべく、それまでの歯科と交代し、私は、管理栄養士・歯科医師とともに、Fさんにかかわることになりました。 スピーチカニューレ変更とPAP作製 初診時のFさんは、急性期病院で装着された気管カニューレのままで、眉間に皺を寄せた表情でベッドに横たわっていました。胃瘻に気管切開。精密検査はできなくても嚥下機能に重篤な影響があることは確かです。 早速、内科医の指導を受け、それまでのカニューレを卒業し、いつでもFさんの声が聞けるようにスピーチカニューレへと変更しました。 気管カニューレは、呼吸経路を確保し痰や誤嚥物の吸引のために装着するものです。スピーチカニューレでは、発声のための発声バブル(茶色)が付いていて、従来のカニューレよりコンパクトになっています。 また歯科医師には、人工歯を付けた舌接触補助床(PAP注1)を作製してもらいました。PAPとは、舌の力の弱い人の嚥下や発声を補助する装置です。 多職種によるさまざまな介入 Fさんは、退院後の3年間は積極的な嚥下リハビリテーションが実施されていなかったため、直接訓練の前に、準備期から咽頭期までの間接訓練が必要でした。 アイスマッサージや頭部挙上などの咽頭期の訓練に加えて、棒付き飴を使ったストレッチ、顔面のマッサージ、首肩や胸鎖乳突筋などのマッサージも実施し、ときには1時間近くに及ぶこともありました。 管理栄養士の介入により、注入する栄養剤のエネルギー量が900kcal/日から1,200kcal/日へと増えました。Fさんは、体重も筋肉量も増加し、声かけによく反応し、満面の笑顔がみられるようになりました。 気管切開孔から貯留物を自力で吐き出すことも、さかんになりました。PAP装着も手伝って、直接訓練時の嚥下反射発動までの時間も短縮してきました。 歯科医師による丁寧な吸引を受けながら、食形態は訓練食から調整食2-1までに改善しました。 ついに大きな声が聞けた 私たちが介入して半年が経ったころ、Fさんが可愛がっていた姪御さんや、会社の部下が面会に来た際に、Fさんの「うおー!」という叫びのような声があり、握手を求めるかのように左上腕が高く上がることもあったそうです。 ときには、発熱や痰量の増加のために、施設から直接訓練の中止を求められることもありました。そのつど施設看護師や介護職員と連携し、訓練を見学してもらうことで理解を得られ、Fさんの体調の安定を待って訓練を継続することができました。 現在、発病から約6年、介入から約3年以上が経過しました。 施設でも、妻にも見守られながら、元気だったころに好きだったカレーやすき焼きといった味を、嚥下調整食の形態で楽しんでいます。 注1 PAP(舌接触補助床)歯科医師の指導に従って歯科技工士が作製します。医療保険適用。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)加藤順吉郎.『福祉施設及び老人病院等における住民利用者(入所者・入院患者)の意識実態調査分析結果』愛知医報.1434,1998,2-14.

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物盗られ妄想

療養者の言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第8回は、物を盗まれたと訴える療養者の行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代女性。訪問看護と訪問介護サービスも利用している。以前から物忘れの症状はみられたが、周囲に気遣いができるなど日常生活に大きな問題はなく、家族や介護者との関係も良好であった。ある日、看護師が訪問すると「しまっておいた10万円がなくなった」「誰かに盗まれた」「あのヘルパーじゃないか」と訴えがあり、「本当にしまわれていましたか」「勘違いではないですか」となだめようとすると、「あんたが盗ったんだね」と騒ぎ出した。 なぜ「盗られた」と思い込んだのか? 物盗られ妄想 物盗られ妄想とは、根拠が薄弱であるにもかかわらず、誰かが自分の物を盗んだと非常に強く誤った思い込みをしてしまうことです。認知症との関連は深く、認知機能が比較的保たれている時期に生じることもあります。 さまざまな要因が考えられ、五感の低下や記憶障害、せん妄もその一因と考えられています。 この物盗られ妄想では、「盗まれた」という怒りから、他人への攻撃性がみられ、その矛先が、身近にいる家族や看護者・介助者に向かってしまうケースが多いです。そのことによる対人関係の悪化から、信頼関係の崩れにつながってしまうこともあるので注意が必要です。 物盗られ妄想への対応 対応としては、盗まれたことを頭から否定せず、まず訴えをよく聞き、「盗られた物」を一緒に探すなど、共感を態度で示すことが大事です。そうすることで、自分の訴えが聞き入れられたと安心し、落ち着く場合もありますので、たとえその場しのぎの対応だとしても、本人なりの納得が得られればよしとし、その時をやり過ごしましょう。 逆に、訴えを否定した場合、「どうしてわかってくれないんだ。やっぱり、この人が盗ったんだ」などと思い込み、症状の悪化を引き起こす危険性があります。説得しようと自分の意見ばかり伝えるなど、相手の話を聞こうとしない姿勢はとってはいけません。 療養者の気持ちが落ち着いたら、興味を別の話題に向け、「盗られた物」から気持ちをそらすようにするのもよいでしょう。 こうした症状は繰り返す傾向もあるため、症状のないときに本人とともに、身の回りを整理し探しやすい環境にしておきましょう。 また、妄想が特定の対象へ生じている場合は、本人を保護することも必要です。特に症状が激しいときは、薬物投与の検討も必要となります。 身近で援助している看護師も、攻撃を受けることは多くあります。そういった場合、むしろ、看護師を身近な存在と思っているために起こる行動といえます。自分の立場や状況をある程度判断する力が残っているからと考えて、それは看護者自身の責任と思わないようにしましょう。 こんな対応はDo not! × 訴えを聞かない× 言い分を頭から否定する× 無理に説得しようとする× 話を聞こうとせず、無視する こんな対応をしてみよう! まずは落ち着いたトーンで話し掛け、療養者の訴えをうなずきながら聞きましょう。 そして、なくなった物を一緒に探します。そのときは必ず、本人が探している場所と同じところを探すようにします。違うところを探すと「隠した」と疑われる場合があるためです。 探しながらどこに何があるかを確認し、種類別にわかりやすく整理をしていきましょう。 その際「○○さん、ここには何を置きますか?」「○○さん、ここには△△を置いておきましょうか」などと、物が混在しないよう促しながら作業を進めます。そして「○○さんはきれいに片づけるんですね。これは何ですか」などと、本人が探している物と違う話をするなど、療養者の気持ちが「盗られた物」に注意が向かなくなるように働きかけましょう。 執筆上原朋子(うえはら・ともこ)土浦協同病院附属看護専門学校教務副部長 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)上島国利ほか編.『全科に必要な精神的ケアQ&A:これでトラブル解決!』東京,総合医学社,2006,260p.2)遠藤英俊監.『痴呆性高齢者のクリニカルパス』愛知,日総研出版,2004,152p.3)服部英幸編.『BPSD初期対応ガイドライン』東京,ライフ・サイエンス,2012,171p.4)清水裕子編著.『コミュニケーションからはじまる認知症ケアブック』第2版.東京,学研メディカル秀潤社,2013,173p.5)金川克子ほか監.『個別性を重視した痴呆性高齢者のケア:痴呆の基礎知識と痴呆性高齢者の日常生活・周辺症状への具体的な援助方法』東京,医学芸術社,2002,127p.

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【管理栄養士のアドバイスvol.3】嚥下調整食ってどうやって作るの?

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第3回は、嚥下調整食準備のポイントを紹介します。 はじめに 摂食嚥下機能が低下した人のための食事作りは、介護家族にとって悩みの種であることが多くあります。安全においしく食事を楽しんでいただくために、家族ができる嚥下調整食準備のポイントを、実際の事例をもとに確認していきましょう。 この食事形態、何が問題? 訪問栄養指導を実施した利用者さんに、このような方がいらっしゃいました。 90代男性で、加齢とサルコペニアにより嚥下機能が低下、年に数回は誤嚥性肺炎で入院をされていました。訪問歯科医が簡易嚥下検査を行ったところ、食塊形成能力、嚥下クリアランス、嚥下のタイミングのそれぞれに、中等度の障害が認められました。家族と同居しており、調理は娘さんが行っています。 ある日の食事内容 訪問栄養指導では、当日、ふだんどおりの食事を用意していただきます。実際の食事を一緒に見ながら、食事形態の指導を行います。 その日の昼食は、①ミキサー粥 ②冷凍のソフト食おかずセット(主菜1品、副菜2品) ③手作りの煮物をミキサーにかけたもの ④温泉卵 ── でした。 一見すると、嚥下機能に配慮された適切な食事のように思えますが、実はいくつか改善すべき点があります。 では、一品ずつ確認していきましょう。 ①主食:ミキサー粥 ミキサー粥はデンプン分解酵素入りのゲル化剤を使うこと! 実際に用意されたミキサー粥を見ると、ベタベタと、スプーンにくっついてしまうような状態でした。 実はご飯にはデンプン質が多く含まれているため、ミキサーにかけると糊のようにベタベタしてしまいます。ベタベタと付着性が増したミキサー粥は、喉に張り付き、飲み込みがさらに困難になってしまいます。 対策としては、お粥用のゲル化剤を使用することです。 お粥用のゲル化剤(図1)は、通常のゲル化剤と異なり、「デンプン分解酵素」が含まれています。これを使用すれば、べた付きのもとであるデンプン質を分解し、同時にゲル化剤の作用でゼリー状に固めることができます。 図1 お粥用のゲル化剤 糊状だったミキサー粥が、フルーチェのようにつるんとした形状にまとまり、付着性が抑えられます。 詳しい使用方法は、パッケージをしっかりと確認しましょう。ゲル化剤の選びかたは、管理栄養士に相談すると、いろいろと教えてくれますよ。 ②主菜:冷凍のソフト食おかずセット 介護食品はユニバーサルデザインフードを活用しよう! 市販されている介護食品の多くは、パッケージに、ユニバーサルデザインフード(UDF)のマークがついています。 UDFには、摂食嚥下障害がより重度から順に、「かまなくてよい」「舌でつぶせる」「歯ぐきでつぶせる」「容易にかめる」の分類があります。 この利用者さんの食事は、UDF区分で「舌でつぶせる」の商品でした。UDFの「舌でつぶせる」は「学会分類2021」の3~4に該当します。 「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」より抜粋。文献1または 日本摂食嚥下リハ学会ウェブサイト「嚥下調整食学会分類2021」を必ずご参照ください。表の理解にあたっては、「嚥下調整食学会分類2021」の本文をお読みください。 家庭での調理が困難で、市販の介護食品を購入する場合は、この分類を確認し、適切な食べやすさの介護食品を購入することをおすすめしましょう。 どの基準の食品がよいかがわからなければ、歯科医師や言語聴覚士に嚥下検査を依頼し、適切な学会分類コードについて指導をしてもらいましょう。 ③副菜:手作りのミキサー食 手作りミキサー食は「まとまり」を意識! この方が召し上がっていた手作りのミキサー食は、食材の粒が少し残った状態で、特にゲル化剤やとろみ剤は使用されておらず、ただミキサーにかけただけの状態でした。 ここで注意するのは「まとまり=凝集性」です。 舌の動きが緩慢な人には、口に入れた際に、食材の粒がバラバラとばらけてしまうような食事は、誤嚥のリスクとなります。上手に食塊形成することができずに、口腔内に散在した食材の粒が、意図しないタイミングで喉頭に侵入することがあるからです。 そのような場合は、調理加工の段階で、まとまりやすく調整する必要があります。ゲル化剤を使用して、まとまりを付けるのがベストです。簡易的な方法としては、食材をミキサーにかけるタイミングでトロミ剤を少し加えることでも、まとまりが付きます。 実際の指導は? この利用者さんでは、歯科医師より「学会分類コード『2-2』~『3』の食事形態が望ましい」と指示がありましたので、その情報をふまえた指導を行いました。 指導は、家族の習得度に合わせ、数回に分けて実施します。食事を嚥下機能に合わせることはもちろんですが、本人の生活や嗜好を考慮することも重要です。 皆さんもぜひ、利用者さんがどのようなものを召し上がっているか、そしてその食事は嚥下機能に合っているのかという視点で、観察をしてみてください。 そして、指導が必要な場合は管理栄養士につなげるという選択肢も、ぜひ覚えておいてくださいね。 当記事に掲載している「学会分類2021(食事)とUDF区分」をまとめた資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食委員会.日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021.『日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌』25(2),2021,135-49.2)日本介護食品協議会.『わかるUFD』https://www.udf.jp/consumers/index.html3)江頭文江.『おうちで食べる!飲み込みが困難な人のための食事づくりQ&A』東京,三輪書店,2019,156p. 記事協力日本介護食品協議会ニュートリー株式会社株式会社フードケアヘルシーフード株式会社ヘルシーネットワーク https://www.healthynetwork.co.jp/

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性的行動

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第7回は、ひわいな言動がみられるようになった患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 70歳代男性。パーキンソン病と認知症があり、訪問看護を利用している。 先日、誤嚥性肺炎を発症し、入院となった。入院加療で肺炎は軽快したため、自宅へ戻り、訪問看護を再開。入院加療中から、ひわいな言動が目立つようになっており、訪問を再開した訪問看護師が、体を触られた。 なぜ患者さんは、ひわいな言動を繰り返すようになったのか? 認知症と性的脱抑制 認知症の患者さんは、ときに社会的な規範を脱して性的な行動を示すことがあります。ひわいなことを言ったり、異性の体を触ったり、性行為を迫るなどの行動がみられます(性的脱抑制)。 しかし、性的な言動は、性的な快楽だけを目的としたものとは限りません。人とのつながりやスキンシップを求め安心したい、自尊心を傷つけられたくないといった思いも背景にあります。 体調悪化や環境変化からくる不安やストレス、焦燥感などが、こういった言動としてあらわれる場合があります。 パーキンソン病と誤嚥性肺炎 パーキンソン病は、進行すると、嚥下障害を起こすリスクが高まります。パーキンソン病の症状、上肢の振戦・強剛、舌運動や咀嚼運動の障害、顎の強剛、流涎、口渇、嚥下反射の遅延、喉頭挙上の減弱、喉頭蓋谷や梨状窩への食物貯留、食道蠕動運動の減弱などが要因です。さらに、パーキンソン病のある高齢者は、誤嚥性肺炎を繰り返しやすくなります。食物が気道に誤って入り、あるいは、知らない間に細菌が唾液とともに肺に流れ込み、細菌が増殖しやすいためです。誤嚥性肺炎は、発熱、咳、喀痰、息苦しさなどの症状を呈します。しかし、特に高齢者の誤嚥性肺炎は、症状の訴えはなく、何となく元気がないなどのこともあります。 高齢者は予備力が低下しているため、容易に肺炎などによる低酸素状態に陥りやすく、身体的変化に不安を感じることがあります。 環境変化の影響 高齢者の生理的な変化として、環境などへの適応力が低下します。生活リズムや環境・人間関係が変化することで、不安な気持ちなどが心身に大きな変化をもたらすこともあります。この患者さんは慣れない入院生活を経験し、不安や不満が生じたとしても無理はないと思われます。 性的な行動の理由は患者さんによってさまざまです。この患者さんのように、相手の体に触ろうとする行為は、寂しさや不安、不満などから起こったと考えられます。 患者さんをどう理解する? 患者さんの言動に対して、看護師が強い口調で「いやらしい」「やめてください」などと言ってしまうと、本人のプライドを傷つけ、より言動が悪化する可能性があります。話題の方向を変えるなどプライドを傷つけないような配慮が必要です。看護師が騒いでしまうと、かえって本人を面白がらせる結果になりえます。 ただ、体を触るなどの行為がエスカレートする可能性がある場合は、あいまいな態度をとったり、聞き流したりせず、毅然とした態度で注意することが必要なときもあります。さりげなく短い言葉で注意することが効果的です。また、2名以上の職員でかかわり、個室内にて1人で対応することを避ける、男性看護師がケアにあたるのもよい対応です。 リラックスした雰囲気で、本人の昔の思い出、楽しかったことやつらかったことなどを聴くのもよいでしょう。時間を使ってじっくり話を聴くことは、大変なようですが、結果として本人の精神的安定にもつながり、性的な行動をとる原因が見つかる手がかりになることがあります。 そのほかの対策として、日中の運動量を増やして夜間ぐっすり眠れるようにする、趣味などの別の物事に打ち込ませることで性的欲求不満をそらすなども有効と思われます。 たとえば、今回の場合は「タッチして合図しなくても大丈夫ですよ、ご用があったら名前で呼んでくださいね」といったように、さりげなく話題の方向を変えて、プライドを傷つけないように配慮します。 執筆浅野均(あさの・ひとし)つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)松下正明ほか監.『個別性を重視した認知症患者のケア』改訂版.東京,医学芸術社,2007,166p.2)鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,213p.3)川畑信也.『これですっきり!看護・介護スタッフのための認知症ハンドブック』東京,中外医学社,2011,128p.4)清水裕子編著.『コミュニケーションからはじまる認知症ケアブック』第2版.東京,学研メディカル秀潤社,2013,173p.5)日本認知症ケア学会編.『改訂・認知症ケアの実際Ⅱ:各論』東京,ワールドプランニング,2008,300p.6)三好春樹.『目からウロコ!間違いだらけの認知症ケア』東京,主婦の友社,2008,191p.7)服部英幸編.『BPSD初期対応ガイドライン』東京,ライフ・サイエンス,2012,171p.8)日本神経学会監.『認知症疾患治療ガイドライン2010』東京,医学書院,2011,256p.

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【管理栄養士のアドバイスvol.2】嚥下機能が低下した方に必要なとろみ付けの技術

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第2回は、とろみ付けのポイントを紹介します。 はじめに 加齢や障害により嚥下機能が低下すると、「誤嚥をしないように水分にはとろみを付けましょう」と指導を受けることがあります。 このとろみ付けですが、飲料の種類によってはとろみが付きにくい、またダマになりやすいものがあることをご存じですか? 今回は、とろみの濃さの基準や、飲料ごとのとろみ付けポイントをご紹介いたします。 とろみの濃さの基準 「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」1)によると、嚥下障害者のためのとろみ付き液体を「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階に分けて表示をしており、この段階に該当しない「薄すぎるとろみ」や「濃すぎるとろみ」は推奨しないとしています。 まずは、この3つの段階について確認をしておきましょう。 薄いとろみ(段階1) 薄いとろみとは、嚥下障害が軽度であり、中間のとろみほどのとろみの程度がなくても誤嚥しない人を対象としています。 中間のとろみ(段階2) 中間のとろみとは、嚥下障害の人へまず試されるとろみの程度を想定しています。 濃いとろみ(段階3) 濃いとろみとは、重度の嚥下障害の人を対象にしたとろみの程度であり、中間のとろみで誤嚥のリスクがある人でも、安全に飲める可能性があります。 「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」より抜粋。参考1または 日本摂食嚥下リハ学会ウェブサイト「嚥下調整食学会分類2021」を必ずご参照ください。表の理解にあたっては、「嚥下調整食学会分類2021」の本文をお読みください。 とろみ付けのポイント まずはじめに気を付けなくてはいけないことは、とろみ調整食品は複数の食品メーカーが販売しており、販売元・種類ごとに使用量が異なるという点です。 それぞれの商品パッケージには、とろみを3段階に調整するために必要な使用量が記載されていますので、忘れずに確認をしましょう。 とろみが付きにくい飲料 では次に、とろみが付きにくい飲料と、とろみ付けの工夫を以下にまとめます。 冷たい飲み物 飲み物の温度によってとろみの付く速さが変わります。基本的には温かい物は速く、冷たい物はとろみがつくのに時間がかかります。ですが、最終的なとろみの状態は同じなので、とろみの付くスピードが遅いからといって、とろみ調整食品の使用量を増やしてしまうと、ダマになったりとろみが濃くなりすぎたりしてしまいます。 どの温度でも、おおむね10分くらい放置するととろみの濃さが安定しますので、早めに作ってとろみが安定するまでゆっくり待ちましょう。 ジュースやみそ汁 オレンジジュースなどの酸味が強い飲みもの、またみそ汁など塩分が含まれているものも、とろみが付きにくいです。温度変化によるものと同様に、とろみ調整食品の使用量を増やすのではなく、付け方を工夫しましょう。 ここでご紹介するのは「2度混ぜ法」です。1.とろみ調整食品を添加して30秒ほどよくかき混ぜます。2.そのまま5~10分放置します。3.最後にもう一度しっかりとかき混ぜます。 この2度混ぜ法をする事により、とろみの付きにくい飲料にも均一にとろみが付きダマにもなりません。 とろみが付きにくいランキング第1位? 濃厚流動食品 栄養強化のために飲むことの多い濃厚流動食品ですが、とろみが付きにくく、またダマにもなりやすいため、皆さまも頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。 そこで、濃厚流動食品用の専用とろみ剤をご紹介します。 濃厚流動食品用の専用とろみ剤は、「つるりんこ 牛乳・流動食用」(株式会社クリニコ)や、「リフラノン濃厚流動食専用」(ヘルシーフード)などの商品があります。特にリフラノンは、粉末ではなくとろみ剤そのものが液体なので、なめらかで均一にとろみをつけることができます。 炭酸飲料 炭酸飲料は、とろみ調整食品を添加すると飲料が泡立ってしまい混ぜにくく、一方、十分に混ぜると炭酸が抜けてしまうため、工夫が困難です。そこで、以下の方法をご紹介します。1.提供量の半量を別のコップに注ぎ分けます。2.取り分けた飲料に規定量のとろみ調整食品を加えてよく混ぜる。  全提供量に対して必要な量のとろみ調整食品を加えますので、この時点ではとろみは濃くなります。3.濃くついたとろみ付き飲料と、注ぎ分けておいたとろみなしの飲料を混ぜ合わせる。 この方法でとろみをつけると、炭酸が抜けてしまう事を最小限に防ぎ、ちょうどよいとろみ付き炭酸飲料を作ることが可能です。 おわりに 嚥下障害を抱える方が安心して水分を摂取するには、適切な濃さのとろみに調整する必要があります。 どのくらいのとろみの濃さが適切なのかは、その方の障害や機能に応じて変わりますので、歯科医師や言語聴覚士などの専門家と相談をしましょう。 当記事に掲載している「とろみづけの工夫」をまとめた利用者さん向け資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食委員会.日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021.『日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌』25(2),2021,135-49.

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