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夏風邪とは?症状・原因・治し方を解説
夏風邪とは?症状・原因・治し方を解説
コラム
2026年8月25日
2026年8月25日

夏風邪とは?症状・原因・治し方を解説

夏風邪とは、夏に流行しやすいウイルス感染症などを指す俗称です。代表的なものに、手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱などがあります。子どもに多いイメージがありますが、大人がかかることもあります。 夏風邪では、発熱、のどの痛み、咳、鼻水、口の中の水疱、発疹、目の充血、下痢など、原因となるウイルスによってさまざまな症状がみられます。この記事では、夏風邪の主な症状、原因、治し方、受診の目安、在宅での観察ポイントを解説します。 夏風邪とは 夏風邪とは、夏に流行しやすいウイルス感染症などを指す俗称で、医学的にひとつの病名を指すものではありません。夏場にみられる発熱、のどの痛み、咳、鼻水、下痢、発疹などを伴うウイルス感染症を指して使われることがあります。 厚生労働省は、「夏かぜ」といわれる感染症として、手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱などを挙げています。また、夏風邪は子どもがかかるものと思われがちですが、原因となるウイルスには多くの種類があり、1シーズンに何回もかかる大人も少なくないとしています。 今回紹介する手足口病やヘルパンギーナはエンテロウイルス、咽頭結膜熱はアデノウイルスが原因です。いずれも基本的には症状に応じた治療が行われます。ただし、高熱が続く、水分が摂れない、ぐったりしているなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 夏風邪の主な症状 夏風邪の症状は、原因となるウイルスや病気によって異なります。よくみられる症状には、以下があります。 発熱 のどの痛み 咳 鼻水 頭痛 倦怠感 口の中の水疱 手足や口まわりの発疹 目の充血 下痢 食欲低下 夏風邪は、冬の風邪と比べて、口の中の水疱、手足の発疹、目の症状、胃腸症状が目立つことがあります。特に子どもでは、のどや口の痛みによって水分や食事を摂りにくくなることがあるため、脱水症に注意が必要です。 夏風邪の代表的な病気 手足口病 手足口病は、口の中、手のひら、足の裏などに水疱性の発疹がみられるエンテロウイルスによる感染症です。厚生労働省によると、国内では毎年夏を中心に発生し、7月下旬に流行のピークを迎えます。 3~5日の潜伏期間を経て、口の中や手のひら、足の裏などに2~3mmの水疱性の発疹が生じます。発熱は38℃以下のことが多く、ほとんどの発病者は、3~7日で治るといわれています。 症状は軽く済むこともありますが、口の中の痛みによって食事や水分が摂りにくくなる場合があり、まれに髄膜炎、心筋炎、神経原性肺水腫、急性弛緩性麻痺などの合併症により、重症化することがあります。 ヘルパンギーナ ヘルパンギーナは、発熱とのどの痛み、のどの奥の水疱を特徴とする夏風邪の一種です。乳幼児を中心に夏に流行し、主にコクサッキーウイルスA群などのエンテロウイルスが原因となります。厚生労働省によると、毎年5月ごろから患者が増え始め、7月ごろにピークを迎えます。その後、8月ごろから減少していきます。 感染してから2〜4日後に突然の発熱が起こり、その後、のどの痛みや水疱が現れます。発熱は1〜3日続き、食欲不振、全身のだるさ、頭痛などを伴うことがあります。 ヘルパンギーナでは、のどの痛みが強く、水分を摂ることを嫌がる場合があります。特に小児では、脱水症、熱性けいれん、まれに髄膜炎や心筋炎などに注意が必要です。 咽頭結膜熱 咽頭結膜熱は、発熱、のどの痛み、目の充血などがみられる感染症です。プール熱とも呼ばれることがあります。原因はアデノウイルスで、飛沫感染や接触感染によって広がります。厚生労働省によると、通常6月ころから徐々に流行しはじめ、7~8月にピークとなります。 咽頭結膜熱では、38〜40℃の高熱、のどの痛み、結膜充血、目の痛みなどがみられることがあります。高熱が5日前後続く場合もありますが、多くは自然に回復します。吐き気や頭痛が強かったり、咳が激しかったりするときは、早めに医療機関に相談することが推奨されています。 夏風邪は大人にもうつる? 夏風邪は子どもだけの病気ではありません。原因となるウイルスには多くの種類があるため、大人も感染することがあります。 大人の夏風邪では、発熱、のどの痛み、倦怠感、咳、鼻水、下痢などがみられます。仕事や家事で休みにくい場合でも、発熱や強い倦怠感があるときは無理をしないことが大切です。 また、大人が感染して症状が軽くても、家庭内で子どもや高齢者にうつることがあります。手洗い、咳エチケット、タオルの共有を避けることなど、基本的な感染対策を続けましょう。 夏風邪は何日で治る? 夏風邪が何日で治るかは、原因となる感染症や体調によって異なります。軽い風邪症状であれば数日から1週間程度で改善することがありますが、咽頭結膜熱のように高熱が数日続く場合もあります。 ヘルパンギーナでは、発熱は1〜3日続くことが多く、一般的には経過が良好とされています。一方、手足口病では、口の中の痛みや発疹がしばらく残ることがあります。 「熱が下がったから、すぐに普段どおりの生活に戻ってよい」と考えるのではなく、食事や水分が摂れているか、尿量が戻っているか、体力が回復しているかも確認することが大切です。 夏風邪の治し方 夏風邪の多くはウイルス感染症のため、治療は症状をやわらげる対症療法が中心です。自宅では、休養、水分補給、室温調整、食べやすい食事を意識します。 のどの痛みが強い場合は、冷たい飲み物、ゼリー、スープなど、飲み込みやすいものを少量ずつ摂るとよいでしょう。酸味の強い飲み物や熱い食べ物は、口の中やのどの痛みを強めることがあります。 発熱や痛みに対しては、医師や薬剤師に相談のうえ、解熱鎮痛薬を使うことがあります。小児、高齢者、妊婦、基礎疾患のある方、腎機能や肝機能に不安がある方は、自己判断で薬を使わず、医師や薬剤師に確認しましょう。 また、下痢が強い場合や長引く場合は、自己判断で市販薬を使用せず医師や薬剤師に相談しましょう。 受診を考えたい症状 夏風邪は自然に回復することもありますが、重症化や脱水症に注意が必要です。以下のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 高熱が続く 水分がほとんど摂れない 尿量が明らかに少ない ぐったりしている 呼びかけへの反応が弱い 呼吸が苦しそう けいれんがある 強い頭痛がある 首を曲げにくい 嘔吐を繰り返す 目の痛みや充血が強い 乳幼児、高齢者、基礎疾患のある方に症状がある 厚生労働省は、発熱や咳に加えて、呼吸が苦しい、食事や水分が摂取できないといった症状がみられた場合は、すぐに医療機関に相談するよう呼びかけています。 在宅ケアでは、いつもの様子との違いも重要です。熱の高さだけでなく、顔色、反応、食事量、水分摂取量、尿量、睡眠の様子をあわせて確認します。 在宅での観察ポイント 訪問看護や介護の現場では、病名を決めつけるよりも、症状の経過と全身状態を具体的に観察することが大切です。 確認したいポイントは、以下のとおりです。 発熱が始まった日時 最高体温 咳や鼻水の有無 のどの痛みの程度 口の中の水疱や潰瘍の有無 手足や口まわりの発疹の有無 目の充血や目やにの有無 下痢や嘔吐の有無 食事量 水分摂取量 尿量や尿の回数 家族や園、学校、施設での流行状況 普段の状態との違い 記録する場合は、以下のように具体的に書くと共有しやすくなります。 「昨日〇時ごろから発熱。最高体温38.8℃。のどの痛みが強く、水分摂取は少量。口腔内奥に小さな水疱のようなものを認める。尿は朝から1回のみ。」 「本日朝から発熱と目の充血あり。体温39.0℃。のどの痛みあり。食事は半量、水分は摂取可能。家族内に同様症状なし。」 このように、「いつから」「どの症状が」「どの程度あるか」を整理すると、医師や看護師に状態を伝えやすくなります。 夏風邪を予防するには 夏風邪の予防では、手洗い、咳エチケット、換気などの基本的な感染対策が大切です。厚生労働省も、夏かぜを含む感染症対策として、手洗い、咳エチケット、換気などの基本的な対策を挙げています。 特に、手足口病やヘルパンギーナでは、便の中にウイルスが排泄されることがあります。排泄物を適切に処理し、おむつ交換後やトイレの後、食事前には、石けんと流水で手を洗いましょう。 予防のポイントは、以下のとおりです。 外出後や食事前に手を洗う タオルを共有しない 咳やくしゃみがあるときは口と鼻を覆う 室内を換気する おむつ交換後は手を洗う 体調不良時は無理に登園、登校、出勤しない 口や目、鼻を触る前後に手を洗う 十分な睡眠と水分補給を意識する 家庭内で感染者がいる場合は、タオルの共有を避け、よく触れる場所を清潔に保ちます。子どもがいる家庭では、おもちゃやドアノブなども感染対策の対象になります。 まとめ 夏風邪とは、夏に流行しやすいウイルス感染症などを指す俗称です。代表的なものには、手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱などがあります。発熱、のどの痛み、咳、鼻水、口の中の水疱、発疹、目の充血、下痢など、原因によって症状はさまざまです。 夏風邪の多くは対症療法が中心ですが、水分が摂れない、尿量が少ない、ぐったりしている、高熱が続く、呼吸が苦しそうといった場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 在宅ケアでは、病名を判断することよりも、症状の経過、水分摂取量、尿量、普段との違いを確認することが大切です。手洗い、咳エチケット、換気を行い、タオルの共有を避けることを意識し、家庭や施設内で感染を広げないようにしましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 厚生労働省:「夏を安全に楽しもう! 感染症対策ガイド」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202407_003.html2026/8/24閲覧 厚生労働省:「手足口病」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/hfmd.html2026/8/24閲覧 厚生労働省:「ヘルパンギーナ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/herpangina.html2026/8/24閲覧 厚生労働省:「咽頭結膜熱」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/pcf.html2026/8/24閲覧 東大阪市:「子どもの夏かぜ(手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱)」https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000004003.html2026/8/24閲覧 CDC:「Non-Polio Enteroviruses Symptoms and Complications」https://www.cdc.gov/non-polio-enterovirus/signs-symptoms/index.html2026/8/24閲覧

多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解
多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解
特集
2026年8月18日
2026年8月18日

多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回は、「多疾患併存(multimorbidity、マルチモビディティ)」を取り上げます。東京ふれあい医療生活協同組合 ふれあいファミリークリニックの角允博先生に、多疾患併存に対する緩和ケアにおいて必要とされる支援について解説いただきます。 はじめに 多疾患併存とは、一般的に2つ以上の慢性疾患が1人の患者に並存している状態と定義されます1)。またQOLの低下、死亡率、ポリファーマシー、転倒、入院などのリスク増加との関連が示されており、国際的にも喫緊の課題に挙げられています2)。 本稿では、多疾患併存に対する緩和ケアの意義と課題を、「なぜ」「いつ」「どのように」の3つの観点から検討します。 なぜ多疾患併存の緩和ケアが求められるのか WHOの緩和ケアの定義は「緩和ケアは生命を脅かす病に直面する患者と家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に発見・評価し対応することで苦痛を予防・緩和するアプローチ」とされています 3)。 日本ではこれまで緩和ケアはがん中心に発展してきましたが、この定義に照らせば対象はすべての重篤疾患であり、がん以外の慢性疾患にも対応する体制整備が急務とされています。また、これまでは単一疾患に対する緩和ケアが主体でしたが、現在のわが国の超高齢者の多くは認知症や心不全、COPD、脊柱管狭窄症など複数の慢性疾患・障害の連鎖の中で終末期を迎えています。こうした患者群では疾患間の相互作用や医療的介入の複雑化により、身体的・心理社会的苦痛が重層化しています。したがって、疾患単位の管理を超えた緩和ケアが今、求められているのです。 多疾患併存の緩和ケアをいつ提供するのか 多疾患併存の軌跡は一見予測不可能なため、終末期を特定することがしばしば困難です。多疾患併存の中でも、慢性的で治癒不可能な性質を反映している「Advanced multimorbidity」 (高度な多疾患併存)という概念がありますが、近年のレビューでは緩和ケアを必要とする多疾患併存症の患者をどのように認識し、どの時期に緩和ケアを提供することが望ましいかは明らかではありません4)。 「サプライズクエスチョン」による特定方法 終末期を迎え、緩和ケアを必要とする可能性のある患者を特定するための方法の1つに、「サプライズクエスチョン」というシンプルな質問法があります。これは、「患者が12ヵ月以内に亡くなっても驚きませんか?」と医師や看護師が自問し「驚かない」と回答することで緩和ケア対象者を同定する方法です。 サプライズクエスチョンを検討したメタアナリシスでは、「驚かない」と回答した場合のその後の死亡率を感度として0.69、「驚く」と回答した場合のその後の死亡率を特異度として0.69であり、中等度の精度を示しました。ただし、セッティング、追跡期間、回答者により、ばらつきがみられました5)。 「治療負担」という考え方 また、多疾患併存への緩和ケアの開始は、治療負担の概念から考えることもできます。Mayらは、慢性疾患患者や長期医療を受ける人々にとって、病気そのもの(症状、制約、合併症など)から生じる負担(burden of illness)に加えて、医療制度・治療プロセス・自己管理から生じる「治療負担」(burden of treatment)という別の重みがあると論じ、注意喚起をしています6)。 これらの負担に対応する能力はcapabilityと呼ばれ、負担とのバランスが崩れると個々の患者の医療成果が悪化するだけでなく、介護者の負担が増大し、さらに医療サービスの需要とコストが増加する可能性が指摘されています7)。これをふまえ、多疾患併存の各疾患の医療制度・治療プロセス・自己管理が患者や介護者の生活にどのような影響を及ぼしているかを把握し、医療者と生活者である患者の間で調整を行うことが重要です。 この調整は、今まで疾患治癒を目的としていた医療的介入を縮小し、症状緩和や患者家族の生活を配慮したケアにシフトするアプローチです。医療従事者が多疾患併存への治療介入自体が患者にとって生活負担になっていると感じる時こそ、緩和ケアの契機になると考えられます。 多疾患併存に対してどういった緩和ケアを行うか 多疾患併存にどのような緩和ケアを行うかは明らかになっていない点が多いですが、多疾患併存に対する緩和ケアのニーズをまとめた先行文献8)、9)を参考に、どういった緩和ケアが必要かを考察します。 (1)身体的苦痛 多疾患併存の身体的苦痛では、痛みと移動の困難が最も多いといわれています8)。日常臨床でも心不全、腎不全などの内部疾患に伴う疼痛、変形性膝関節症や脊柱管狭窄症などの整形疾患、帯状疱疹後神経痛など多様な痛みを訴える患者に遭遇します。さらに認知機能障害を合併した場合、疼痛の評価は困難となることも多くあります。 症状は疾患間で相互作用を及ぼし、一連の疾患をそれぞれ個別に治療し、他疾患を考慮に入れないことは非効率的で、潜在的に有害であることを考慮する必要があります10)。 移動の困難については、介護保険サービスによるリハビリテーションや福祉用具を活用してサポートしているのが現状ですが、「移動が困難であること」それ自体が患者の「苦痛」であることを認識しておく必要があります。これらの身体的苦痛は、後述する心理社会的・スピリチュアルな苦痛と混在し、その表現型として疼痛を訴える場合もあり、解釈には注意を要します。 (2)心理社会的苦痛 Nicholsonらの研究によると、多疾患併存の患者とその介護者は、身体的なニーズには十分に対応されていると考えていた一方で、心理社会的およびスピリチュアルなニーズへのサポートが不足していると認識していました。 心理面では「不幸」「孤独」「不安」「抑うつ」、社会面では「社会的なつながりの維持」「個性とアイデンティティの維持」「介護者への信頼」「家族のサポート」がテーマとして抽出されました8)。心理面は社会面とも密接に関係し、患者本人だけでなく、対応する家族や介護者への教育的サポートも必要であると示されています。 社会的なつながりの維持については、患者と介護者の双方において指摘されています。患者自身も機能の低下によって社会と断絶されることは容易に想像されますが、介護者もまたフルタイムの介護を提供することで、社会的接触が減少し、友人、隣人、地域社会からの孤立感を訴えます。 実臨床において、介護者が患者に信頼され、家族がサポートできる体制をとれているケースがすべてではありません。その結果、患者家族は施設入所を選びますが、介護施設で問題になるのが多数の入居者の中で個性とアイデンティティを維持することです8)。こういった社会的苦痛に現行の介護保険制度の枠組みだけで対応していくことは困難であり、介護施設を含め、介護を社会にひらいていく上での新たな取り組みも必要であると考えられます。 (3)スピリチュアルペイン さらに、Nicholsonらによる研究では、多疾患併存のスピリチュアルに対するニーズは、「意味と目的」「悲しみと喪失」「宗教性および宗教的嗜好」「現在をよく生きること」の4つのテーマに分類されています8)。がん患者において、時間存在である人間は、過去から将来をつなぐ時間の中で現在を生きていますが、罹患し将来がみえなくなることで現在の生に意味や存在が成立しなくなるといわれています11)。この時間存在の概念は、「意味と目的」や「現在をよく生きること」といったニーズに関連します。 多疾患併存の高齢者は、長期にわたる臨床経過の中で、こうした実存的な課題に直面しているのです。時にそれはスピリチュアルペインほど強くない訴えで、身体的・心理社会的苦痛と混在して表出されるため、これを識別・認識するのがしばしば困難になります。 臨床では、「もう生きていてもしょうがない」「早く迎えが来ないかな」「迷惑ばかりかけている」といった言葉を耳にすることも少なくありません。ここではそれをメッセージとして受け取り、言語化し、それを相手に返していく作業が大切です。元来、スピリチュアルペインの概念はがん領域で問題になることが多くありましたが、訪問看護を含めた在宅医療従事者はこの問題に今後、普遍的に取り組む必要があると考えます。 まとめ 本稿では、多疾患併存に対する緩和ケアの必要性、導入時期、提供方法について検討しました。多疾患併存の緩和ケアは、緩和ケア領域のみならず在宅医療やプライマリケアの現場でも喫緊の課題です。今後、臨床実践と研究の両面から、患者の多層的な苦痛を的確に理解し支える枠組みの構築が期待されます。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)QOL:quality of life(生活の質)WHO:world health organization(世界保健機関)COPD:chronic obstructive pulmonary disease(慢性閉塞性肺疾患) 執筆:角 允博東京ふれあい医療生活協同組合 ふれあいファミリークリニック 東京都足立区小台宮城で家庭医・在宅医として外来、在宅を通じプライマリケアに従事。多疾患併存における臨床的複雑性と意思決定にチームで取り組んでいる。 編集:株式会社照林社 【参考文献】 1)Valderas JM,Starfield B,Salisbury C,et al.:Defining comorbidity:implications for understanding health and health services.Ann Fam Med 2009;7(4):357-363.2)Multimorbidity:clinical assessment and management.NICE guideline,2016.https://www.nice.org.uk/guidance/ng562026/8/10閲覧3)日本ホスピス緩和ケア協会:WHO(世界保健機関)の緩和ケアの定義(2002年)https://www.hpcj.org/info/history.html2026/8/10閲覧4)Bowers SP,Black P,McCheyne L,et al.:Descriptions of advanced multimorbidity:A scoping review with content analysis.J Multimorb Comorb 2025;15:26335565251326309.5)Gupta A,Burgess R,Drozd M,et al.:The Surprise Question and clinician-predicted prognosis:systematic review and meta-analysis.BMJ Support Palliat Care 2024;15(1):12-35.6)May CR,Eton DT,Boehmer K,et al.:Rethinking the patient:using Burden of Treatment Theory to understand the changing dynamics of illness.BMC Health Serv Res 2014;14:281.7)May C,Montori VM,Mair FS:We need minimally disruptive medicine.BMJ 2009;339:b2803.8)Nicholson CJ,Combes S,Mold F,et al.:Addressing inequity in palliative care provision for older people living with multimorbidity.Perspectives of community-dwelling older people on their palliative care needs:A scoping review.Palliat Med 2023;37(4):475-497.9)Llop-Medina L,Fu Y,Garcés-Ferrer,et al.:Palliative Care in Older People with Multimorbidities:A Scoping Review on the Palliative Care Needs of Patients,Carers,and Health Professionals.Int J Environ Res Public Health 2022;19(6):3195.10)Hourican C,Peeters G,Melis R,et al.:Understanding multimorbidity requires sign-disease networks and higher-order interactions,a perspective.Front Syst Biol 2023;3:1155599.11)村田久行:終末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケア.日ペインクリニック会誌 2011;18(1):1–8.

食中毒症状とは?観察と受診の目安
食中毒症状とは?観察と受診の目安
コラム
2026年8月18日
2026年8月18日

食中毒症状とは?観察と受診の目安

食中毒では、下痢、腹痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状がみられます。原因となる細菌やウイルス、寄生虫、自然毒などによって、症状の出方や発症までの時間は異なります。訪問看護や在宅ケアの現場では、「何を食べたか」だけでなく、「いつから症状が出たか」「水分が取れているか」「尿量が減っていないか」などを確認することが大切です。この記事では、食中毒でみられる主な症状、注意したいサイン、在宅での観察ポイントを解説します。 食中毒とは 食中毒とは、細菌やウイルス、有害な物質などが含まれた食品を食べることで、腹痛や下痢、嘔吐などの症状が起こる状態です。厚生労働省では、食中毒の原因として、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、リステリア、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、ノロウイルス、アニサキス、毒キノコ、有毒植物などを挙げています。 食中毒は夏に多いイメージがありますが、原因によって流行しやすい時期は異なります。たとえば、細菌性食中毒は気温や湿度が高い時期に増えやすく、ノロウイルスによる食中毒は冬に多くみられます。ただ、季節だけで判断せず、症状や食事内容、周囲の流行状況をあわせて確認することが大切です。 食中毒でみられる主な症状 食中毒の症状は、原因によって異なりますが、よくみられる症状には以下があります。 下痢 腹痛 吐き気 嘔吐 発熱 倦怠感 頭痛 悪寒 脱水症状 胃痛や腹部けいれん 重症の食中毒では、血便、3日以上続く下痢、高熱、頻回の嘔吐、脱水症状がみられることがあります。 高齢者や小児、妊婦、基礎疾患のある方、免疫機能が低下している方では、症状が重くなることがあります。特に在宅療養中の利用者さんでは、普段の体調や食事量、内服薬の影響も含めて観察することが重要です。 症状が出るまでの時間 食中毒は、食べてすぐに症状が出るものもあれば、数日後に症状が出るものもあります。発症までの時間は、原因を考えるうえで手がかりになります。厚生労働省が発表している、発症までの目安は次の通りです。 原因の例発症までの目安主な症状黄色ブドウ球菌30分〜6時間程度吐き気、嘔吐セレウス菌 嘔吐型30分〜6時間程度吐き気、嘔吐ウエルシュ菌6〜18時間程度腹部膨満、腹痛、下痢ノロウイルス24〜48時間程度吐き気、嘔吐、下痢、腹痛カンピロバクター2〜7日程度下痢、腹痛、発熱、嘔吐、吐き気腸管出血性大腸菌3〜8日程度腹痛、下痢、血便 ただし、同じものを食べても、全員が同じ症状になるとは限りません。年齢、体調、食べた量、基礎疾患などによって症状の強さは変わります。 注意したい症状 食中毒が疑われる場合でも、症状が軽く、水分が取れていて、尿が出ている場合は、主治医へ報告したうえで、点滴など特別な処置はせず様子を見ることがあります。一方で、以下のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 3日以上続く下痢 嘔吐が続き、水分が取れない 血便がある 強い腹痛がある 高熱がある 尿量が明らかに少ない 口の中が乾いている 立ち上がるとふらつく ぐったりしている 意識がぼんやりしている 乳幼児、高齢者、妊婦、基礎疾患のある方に症状がある 特に、乳幼児や高齢者などにおいて、血便や強い腹痛がある場合は注意が必要です。腸管出血性大腸菌では、溶血性尿毒症症候群 や脳症などの重症合併症を発症する場合があります。 脱水症状に注意する 食中毒で特に注意したいのが脱水症状です。下痢や嘔吐が続くと、水分だけでなく電解質も失われます。高齢者では、のどの渇きを感じにくいことがあり、気づかないうちに脱水が進むことがあります。在宅では、以下のような変化を確認します。 尿量が少ない 尿の色が濃い 口唇や舌が乾いている 皮膚や口腔内が乾燥している 立ちくらみがある 脈が速い 血圧がいつもより低い ぼんやりしている 食事や水分が取れていない 嘔吐がある場合は、一度に多く飲むと吐き気が強くなることがあります。少量ずつ、こまめに水分を摂れるか確認します。経口補水液を使う場合は、基礎疾患や水分制限の有無にも注意し、必要に応じて医師や看護師に確認しましょう。 在宅での観察ポイント 訪問看護や介護の現場では、症状だけでなく、発症前後の食事内容や生活状況を確認します。食中毒は原因の特定が難しいこともありますが、以下の情報を整理しておくと、医師や保健所への相談時に役立ちます。 症状が始まった日時 主な症状 下痢や嘔吐の回数 便の性状 血便の有無 体温 腹痛の部位と強さ 水分摂取量 食事摂取量 尿量と尿の回数 食べたもの 同じものを食べた人の症状 服薬状況 基礎疾患 普段の状態との違い たとえば、以下のように記録すると共有しやすくなります。 「昨日夕食後から吐き気あり。本日朝までに嘔吐3回、水様便4回。体温37.8度。水分は少量ずつ摂取できているが、尿は朝から1回のみ。昨日、家族と同じ刺身を摂取。家族1名にも下痢あり。」 このように、「いつから」「何回」「何を食べたか」「水分と尿量はどうか」をまとめると、状態の変化が伝わりやすくなります。 感染を広げないための対応 食中毒の原因によっては、家庭内や施設内で感染が広がることがあります。特にノロウイルスは、ふん便や吐ぶつから人の手などを介して二次感染することがあります。厚生労働省は、ノロウイルスの感染経路として、感染者のふん便や吐ぶつからの二次感染、食品取扱者を介した食品汚染、加熱不十分な二枚貝、消毒不十分な水などを挙げています。感染拡大を防ぐためには、手洗い、吐ぶつやふん便の適切な処理、調理器具の洗浄、食品の十分な加熱が大切です。厚生労働省は、ノロウイルス対策として、調理器具や食器、ふきんなどを洗剤で洗い、熱湯85度以上で1分以上加熱する方法などを紹介しています。在宅では、トイレやドアノブなど、手が触れやすい場所の清掃も重要です。介助者が処理を行う場合は、手袋やマスクを使用し、処理後は石けんと流水で手を洗います。 食中毒を予防する基本 食中毒予防の基本は、菌やウイルスを「つけない」「増やさない」「やっつける」ことです。政府広報オンラインでも、家庭での食中毒予防として、食品の購入、保存、下準備、調理、食事、残った食品の取り扱いなど、各場面で注意することを紹介しています。具体的には、以下のような対策があります。 調理前や食事前に手を洗う 生肉や魚を扱った調理器具を使い回さない 食品を室温に長時間置かない 冷蔵・冷凍が必要な食品は早めに冷蔵庫・冷凍庫に保存する 肉や魚は中心部まで十分に加熱する 残った食品は早めに冷やし、十分に再加熱して食べる 消費期限を確認する 体調不良時は調理を控える 訪問看護では、利用者さんや家族の調理環境、冷蔵庫の管理、食事の保存方法なども確認できる範囲で見ておくとよいでしょう。 まとめ 食中毒では、下痢、腹痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状がみられます。原因によって、食後すぐに症状が出る場合もあれば、数日後に発症する場合もあります。在宅ケアでは、症状だけでなく、発症した時間、食べたもの、下痢や嘔吐の回数、水分摂取量、尿量、普段との違いを確認することが大切です。血便、強い腹痛、高熱、水分が取れない、尿量が少ない、ぐったりしているなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。食中毒は、予防と早期対応が重要です。日ごろから手洗い、食品の適切な保存、十分な加熱を意識し、症状が出たときには脱水や重症化のサインを見逃さないようにしましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】● 厚生労働省:「食中毒」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html,2026/8/10閲覧● 厚生労働省:「感染性胃腸炎(特にノロウイルス)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/norovirus.html,2026/8/10閲覧● 厚生労働省:「食事にひそむキケン~おいしく安全に食べるヒント」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202406_003.html,2026/8/10閲覧● 政府広報オンライン:「食中毒予防の原則と6つのポイント」https://www.gov-online.go.jp/article/20110602/entry-8196.html,2026/8/10閲覧● CDC:「Food Poisoning Symptoms」https://www.cdc.gov/food-safety/signs-symptoms/index.html,2026/8/10閲覧

ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方
ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方
コラム
2026年8月12日
2026年8月12日

ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方|症状の違いと受診目安

ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、どちらも発熱やのどの痛みがみられる病気です。症状が似ているため、「どちらなのか見分けにくい」と感じることもあります。 ただし、ヘルパンギーナは主にウイルスが原因で、のどの奥に水疱や潰瘍がみられやすい病気です。一方、溶連菌感染症は細菌が原因で、急なのどの痛みや発熱、扁桃の腫れ、首のリンパ節の腫れなどがみられます。この記事では、ヘルパンギーナと溶連菌感染症の違い、観察ポイント、受診の目安を解説します。 ヘルパンギーナとは ヘルパンギーナは、発熱とのどの痛み、口の中の水疱を特徴とする感染症です。乳幼児を中心に、夏に流行しやすい「夏かぜ」のひとつとされています。主な原因はコクサッキーウイルスA群などのエンテロウイルスです。 厚生労働省によると、ヘルパンギーナは感染してから2〜4日後に突然の発熱が起こり、その後、のどの痛みや水疱が現れます。発熱は1〜3日続くことが多く、食欲不振、全身のだるさ、頭痛などを伴うこともあります。 のどの奥に小さな水疱や潰瘍ができるため、飲み込むときに痛みが強くなり、水分や食事を取りにくくなることがあります。小児では、脱水症に注意が必要です。 溶連菌感染症とは 溶連菌感染症は、主にA群β溶血性レンサ球菌という細菌によって起こる感染症です。感染すると、急な発熱や強いのどの痛み、飲み込むときののどの痛み、扁桃が赤く腫れるなどの症状がみられ、首の前側のリンパの腫れ、口蓋の赤い点状出血、扁桃の白い付着物といった特徴的な症状が出現することもあります。 溶連菌感染症は細菌感染のため、A群β溶血性レンサ球菌による扁桃咽頭炎では、医師の判断により抗菌薬が投与されることがあります。 見分けるポイント ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、症状だけで完全に見分けることは難しい場合があります。ただし、観察のポイントを整理すると、違いを把握しやすくなります。 項目ヘルパンギーナ溶連菌感染症原因主にウイルス主に細菌流行時期夏に多い冬季と春から初夏の2つの流行ピークがある年齢乳幼児に多い学童期の子どもに多い発熱突然の高熱がみられ、発熱は1~3日続く急な発熱が多いが、通常発熱は3~5日以内に下がるのどの所見のどの奥に水疱・潰瘍扁桃の腫れ、白い付着物咳・鼻水みられることがある目立たないことが多い治療対処療法が中心抗菌薬が必要な場合がある ヘルパンギーナでは、のどの奥の水疱や潰瘍が特徴です。一方、溶連菌感染症では、扁桃の腫れや白い付着物、首の前側のリンパ節の腫れなどが手がかりになります。 ただし、実際には症状が重なることもあります。家庭や在宅ケアの現場で「ヘルパンギーナだ」「溶連菌だ」と断定せず、症状の経過や全身状態を確認し、必要に応じて受診につなげることが大切です。 受診を考えたい症状 溶連菌感染症では、扁桃周囲膿瘍などの局所化膿性合併症やリウマチ熱、糸球体腎炎に至ることがあるため、早期に診断し抗菌薬投与する必要があるとされています。そのため、以下のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 水分がほとんど取れない 尿の回数が明らかに少ない ぐったりしている 呼びかけへの反応が弱い 高熱が続く のどの痛みが強く、飲み込めない 発疹がある 首の腫れや強い痛みがある 呼吸が苦しそう けいれんがある ヘルパンギーナでは、のどの痛みによって水分摂取が難しくなり、脱水症につながることがあります。厚生労働省も、ヘルパンギーナの合併症として、熱性けいれん、脱水症、小児ではまれに髄膜炎や心筋炎などへの注意を挙げています。 在宅での観察ポイント 訪問看護や在宅ケアでは、病名を見分けることよりも、利用者さんや子どもの状態を具体的に観察することが重要です。 確認したいポイントは、以下のとおりです。 発熱がいつからあるか 最高体温 のどの痛みの程度 水分摂取量 食事量 尿量や尿の回数 口の中の水疱や潰瘍の有無 扁桃の腫れや白い付着物の有無 咳や鼻水の有無 発疹の有無 家族や園、学校での流行状況 活気の低下や意識状態の変化 記録する場合は、以下のように、症状と経過を具体的に書くと共有しやすくなります。 「昨日夕方から発熱。最高体温39.0度。のどの痛みが強く、水分摂取は少量。口腔内奥に小さな水疱様の所見あり。尿は朝から1回のみ。」 「本日朝から発熱とのどの痛みあり。咳・鼻水は目立たない。扁桃に白い付着物あり。首の前側に圧痛あり。食事摂取は半分程度。」 このように記録すると、医師や看護師に状況を伝えやすくなります。 家庭で気をつけたいこと ヘルパンギーナでも溶連菌感染症でも、発熱やのどの痛みがあるときは、無理に食事を取らせるよりも、水分摂取を優先します。冷たい飲み物、ゼリー、スープなど、のどにしみにくく飲み込みやすいものを選ぶとよいでしょう。 酸味の強い飲み物や熱い食べ物は、のどや口の中の痛みを強めることがあります。食事量が少なくても、水分が取れていて尿が出ているかを確認します。 溶連菌感染症が疑われる場合は、検査や治療が必要になることがあります。自己判断で市販薬だけで様子を見るのではなく、症状や流行状況に応じて医療機関へ相談しましょう。 まとめ ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、どちらも発熱とのどの痛みがみられるため、見分けにくいことがあります。ヘルパンギーナは、夏に乳幼児を中心に流行し、のどの奥の水疱や潰瘍が特徴です。溶連菌感染症は、急なのどの痛み、発熱、扁桃の腫れ、首のリンパ節の腫れなどが手がかりになります。 ただし、症状だけで正確に判断することは難しいため、家庭や在宅ケアの現場では、病名を決めつけず、発熱の経過、水分摂取量、尿量、のどの所見、全身状態を観察することが大切です。ぐったりしている、水分が取れない、高熱が続くなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 厚生労働省:「ヘルパンギーナ」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/herpangina.html2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「ヘルパンギーナ(詳細版)」.https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/herpangina/010/index.html2026/8/12閲覧 CDC:「About Strep Throat」.https://www.cdc.gov/group-a-strep/about/strep-throat.html2026/8/12閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「扁桃咽頭炎」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/16-耳鼻咽喉疾患/口腔咽頭疾患/扁桃咽頭炎2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「A群溶血性レンサ球菌感染症」.https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/group-a-streptococcal-infection/index.html2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「IDWR 2023年第43号<注目すべき感染症> A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」.https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/featured/2023/43/index.html2026/8/12閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「扁桃周囲膿瘍および蜂窩織炎」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/16-耳鼻咽喉疾患/口腔咽頭疾患/扁桃周囲膿瘍および蜂窩織炎2026/8/12閲覧

熱中症対策義務化とは?職場で必要な対応
熱中症対策義務化とは?職場で必要な対応
特集
2026年7月28日
2026年7月28日

熱中症対策義務化とは?職場で必要な対応

2025年6月1日から、職場における熱中症対策が強化されました。労働安全衛生規則の改正により、熱中症のおそれがある作業を行う事業者には、報告体制の整備、対応手順の作成、関係者への周知が義務付けられています。訪問看護の現場でも、夏場の移動、屋外での待機、空調が十分でない居宅でのケアなど、熱中症リスクが高まる場面があります。この記事では、熱中症対策義務化の概要と、訪問看護ステーションで確認したい対応ポイントを解説します。 熱中症対策義務化とは 熱中症対策義務化とは、職場で熱中症のおそれがある作業を行う場合に、事業者が重症化を防ぐための体制や手順を整えることを義務付けたものです。厚生労働省の資料では、熱中症のおそれがある労働者を早期に見つけ、状況に応じて迅速かつ適切に対応するため、「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」が事業者に義務付けられたと説明されています。 つまり、単に水分補給を呼びかけるだけではなく、熱中症が疑われる人が出たときに、誰へ報告し、誰が判断し、どのように医療機関へつなぐのかを、あらかじめ決めておく必要があります。 対象となる作業 義務化の対象は、熱中症を生ずるおそれのある作業です。具体的には、暑さ指数であるWBGT値が28度以上、または気温31度以上の環境で、連続1時間以上、または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業とされています。 訪問看護では、屋外作業が中心ではなくても、以下のような場面で注意が必要です。 夏場の自転車や徒歩での訪問 炎天下での移動や待機 空調が十分でない居宅でのケア 入浴介助や清拭など、身体的負担が大きいケア 防護具やマスクを着用した状態でのケア 連続訪問で休憩が取りにくい勤務 室内であっても、温度や湿度が高い場合は熱中症のリスクがあります。「屋外ではないから大丈夫」と考えず、訪問先や移動中の環境も含めて確認することが大切です。 事業者に求められる3つの対応 報告体制を整備する まず必要なのは、熱中症の自覚症状があるスタッフや、熱中症のおそれがあるスタッフを見つけた人が、すぐに報告できる体制を作ることです。 たとえば、以下のような内容を決めておきます。 報告先の担当者 報告する連絡手段 担当者が不在の場合の連絡先 訪問中に症状が出た場合の連絡方法 直行直帰時の報告ルール 訪問看護では、スタッフが1人で移動し、1人で利用者さん宅を訪問する場面が多くあります。そのため、事務所内だけでなく、外出中でもすぐに連絡できる体制を整えることが重要です。 対応手順を作成する 次に、熱中症が疑われる場合の対応手順を作成します。環境省の資料でも、熱中症のおそれがある作業者を把握した場合に、迅速かつ的確な判断ができるよう、必要な措置の内容や実施手順を定めることが求められています。 手順には、以下のような内容を含めるとよいでしょう。 涼しい場所へ移動する 衣服をゆるめる 水分・塩分を補給する 体を冷やす 意識状態を確認する 改善しない場合は医療機関へ相談する 意識障害がある場合はためらわずに救急要請をする 特に、意識がぼんやりしている、受け答えがおかしい、自力で水分を取れない、症状が改善しないといった場合は、早急な対応が必要です。 関係者へ周知する 体制や手順を作成しても、スタッフが内容を知らなければ現場で使えません。そのため、作成したルールを関係者へ周知することも義務化の重要なポイントです。厚生労働省は、報告体制や対応手順をあらかじめ定め、関係作業者に周知することを求めています。 周知方法としては、以下が考えられます。 朝礼やミーティングで共有する マニュアルに記載する 事務所内に掲示する チャットツールで共有する 訪問バッグに対応フローを入れる 新人研修や夏前の研修で説明する 訪問看護では、常勤スタッフだけでなく、非常勤スタッフやオンコール担当者にも同じ情報が伝わるようにすることが大切です。 訪問看護で確認したい熱中症対策 訪問看護ステーションでは、スタッフ自身の熱中症対策と、利用者さんの熱中症予防の両方を考える必要があります。 スタッフ向けには、訪問スケジュールの調整、休憩時間の確保、飲料の携帯、移動手段の見直し、暑さ指数の確認などが有効です。環境省が提供する暑さ指数の情報も、日々の判断に役立ちます。厚生労働省の職場における熱中症予防情報では、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」など、職場での熱中症予防に関する情報が掲載されています。 利用者さんについては、室温、湿度、水分摂取量、尿量、食事量、発汗、意識状態などを観察します。高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくいことがあり、エアコンを使わずに過ごしている場合もあります。訪問時には、室温だけでなく、生活環境や家族のサポート状況も確認しましょう。 記録・報告のポイント 熱中症の疑いがある場合は、症状だけでなく、発生した状況も記録します。 たとえば、以下のように整理します。「13時ごろ、訪問移動後に頭痛と強い倦怠感あり。気温32度。水分摂取は午前中に約300mL。事務所へ報告し、涼しい場所で休憩。水分・塩分補給後もふらつきが残るため、管理者判断で受診を調整。」 利用者さんの場合は、以下のように記録します。「訪問時、室温30度、エアコン未使用。発汗あり、口渇の訴えあり。尿量は昨日より少ないとのこと。意識レベルは普段と変わりなく、食事と水分は経口摂取できそうと仰っている。水分摂取を促し、また、家族による室温管理と定期的な水分補給の声掛けを依頼した。主治医へ報告。」 「いつ」「どこで」「どのような症状があり」「どのように対応したか」を残すことで、再発予防やチーム内共有にもつながります。 まとめ 熱中症対策義務化により、職場では熱中症のおそれがある作業に対して、報告体制の整備、対応手順の作成、関係者への周知が求められるようになりました。訪問看護では、夏場の移動や空調が十分でない居宅でのケアなど、熱中症リスクが高まる場面があります。スタッフが安全に働ける環境を整えることは、利用者さんへ安定したケアを届けるためにも重要です。 熱中症対策は、個人の注意だけに任せるものではありません。事業所としてルールを整え、スタッフ全員が同じ手順で動けるようにしておくことが、重症化の予防につながります。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】● 厚生労働省:「職場における熱中症対策の強化について」.https://www.mhlw.go.jp/content/001476821.pdf,2026/5/30閲覧● 厚生労働省:「職場における熱中症予防情報」.https://neccyusho.mhlw.go.jp/,2026/5/30閲覧● 富山労働局:「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」.https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/news_topics/oshirase/0706nechushokyoka.html,2026/5/30閲覧● 鹿児島労働局:「職場における熱中症対策の強化について」.https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/nettyusyou/2025-0418-7.html,2026/5/30閲覧● 環境省:「熱中症の対処方法(応急処置)」.https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_checksheet.php,2026/7/13閲覧● 厚生労働省:「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116133.html,2026/7/21閲覧

血尿スケールとは?尿色観察の基本
血尿スケールとは?尿色観察の基本
コラム
2026年7月21日
2026年7月21日

血尿スケールとは?尿色観察の基本

血尿スケールとは、肉眼で確認できる血尿の程度を、尿の色で段階的に評価するための目安です。訪問看護や介護の現場では、利用者さんの尿の色が「いつもより赤い」「茶色っぽい」といった変化に気づくことがあります。 血尿は一時的な体調変化でみられることもありますが、尿路感染症、尿路結石、腎臓や膀胱の病気などが関係している場合もあります。そのため、色の変化だけで判断せず、痛みや発熱、排尿状態などもあわせて観察することが大切です。この記事では、血尿スケールの見方や観察ポイント、医師へ報告する際の注意点を解説します。 血尿スケールとは 血尿スケールとは、尿に血液が混じっている可能性があるときに、尿の色を段階的に確認するための視覚的な目安です。一般的には、肉眼で確認できる血尿を、淡いピンク色から濃い赤色、茶褐色に近い色まで、5〜6段階で評価します。NsPaceの用語集でも、血尿スケールは肉眼的血尿の程度を色によって分類する視覚的基準として説明されています。 血尿には、大きく分けて「肉眼的血尿」と「顕微鏡的血尿」があります。肉眼的血尿は、尿の色の変化として目で確認できる血尿です。一方、顕微鏡的血尿は見た目では分からず、尿検査で確認される血尿です。訪問看護や介護の現場で気づきやすいのは、尿の色が赤い、ピンク色、茶色っぽいなどの肉眼的な変化です。 血尿スケールの見方 血尿スケールは、施設や資料によって段階の分け方が異なる場合があります。ここでは、在宅ケアの現場で観察しやすいように、6段階の目安として整理します。 段階尿の色の目安観察のポイント1段階淡いピンク色少量の血液混入が疑われる2段階やや濃い赤色血尿がはっきり分かる3段階明るい赤色早めの報告を検討する4段階濃い赤色・暗赤緊急性が高い可能性がある5段階鮮血に近い赤色出血量が多い可能性がある6段階茶褐色・黒っぽい色古い血液や別の異常も考える 血尿スケールは、尿の色を客観的に伝えるための補助的な指標です。色が濃いほど注意が必要ですが、色だけで重症度を決めることはできません。血尿が少量でも、初めてみられた場合や症状を伴う場合は、医療職へ相談することが望ましいとされています。 血尿で確認したい症状 血尿を見つけたときは、尿の色だけでなく、ほかの症状もあわせて確認します。特に、以下のような症状がある場合は注意が必要です。 排尿時の痛み 頻尿 残尿感 発熱 腰や背中の痛み 下腹部痛 尿量の減少 血の塊が混じる 尿が出にくい 転倒や打撲後の血尿 血尿の原因には、尿路感染症、尿路結石、腎臓の病気、膀胱の病気、外傷、激しい運動などさまざまなものがあります。血尿は軽視せず、原因の確認につなげることが大切です。 また、赤っぽい尿が必ずしも血尿とは限りません。薬剤やビーツ、ルバーブなどの食品によって尿が赤く見えることもあり、血液による色の変化か判断しにくい場合があるため、確認を受けることが大切です。 在宅での観察ポイント 訪問看護や介護の現場では、利用者さんの普段の尿の色や排尿パターンを知っておくことが大切です。急な変化があった場合は、血尿スケールの段階だけでなく、「いつから」「どのくらい」「どのような症状を伴うか」を確認します。 たとえば、以下のように観察します。 「本日朝から尿が淡いピンク色。排尿時痛なし。発熱なし。尿量は普段と同程度。血尿スケール1段階程度。」 「訪問時、尿が暗赤色。血の塊あり。下腹部痛を訴える。尿が出にくい様子あり。血尿スケール4段階程度。」 このように記録すると、医師や看護師に状況を共有しやすくなります。特に、尿の色が急に濃くなった場合、血の塊がある場合、痛みや発熱を伴う場合、尿が出にくい場合は、早めに医師へ報告することが望ましいです。 医師へ報告するときの内容 血尿がみられたときは、以下の内容を整理して報告すると、状態が伝わりやすくなります。 血尿に気づいた日時 尿の色と血尿スケールの目安 血の塊の有無 排尿時痛や頻尿の有無 発熱の有無 腰背部痛や腹痛、叩打痛の有無 血圧・脈拍・SpO2 尿量の変化 転倒や打撲の有無 服薬状況 既往歴 水分摂取量 普段の尿色との違い 血尿は、症状が軽く見えても原因の確認が必要な場合があります。尿がピンク、赤、茶色に変化した場合は、医師に相談した方がよいです。 血尿スケールを使うときの注意点 血尿スケールは便利な目安ですが、診断を行うためのものではありません。尿の色は、採尿容器の色、照明、水分摂取量、薬剤、食品などの影響を受けることがあります。また、茶色っぽい尿は血尿以外に、ミオグロビン尿やビリルビン尿などが関係する場合もあります。尿色の異常には複数の原因があるため、尿検査などで確認することが重要です。 在宅では、無理に原因を判断するのではなく、利用者さんの状態を具体的に観察し、必要に応じて医師や看護師につなぐことが大切です。 まとめ 血尿スケールは、尿に血液が混じっている可能性があるときに、尿の色を段階的に把握するための目安です。訪問看護や介護の現場では、尿の色の変化を早く見つけ、普段との違いを具体的に記録することが重要です。 ただし、血尿スケールだけで重症度や原因を判断することはできません。排尿時の痛み、発熱、腰痛、血の塊、尿が出にくいなどの症状がある場合は、早めに医師へ報告しましょう。血尿の観察では、「色」「量」「症状」「経過」をセットで確認することが、利用者さんの安全を守るために役立ちます。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 NsPace:「血尿スケール」.https://www.ns-pace.com/glossary/hematuria-scale/2026/7/17閲覧 NHS:「Blood in urine」.https://www.nhs.uk/symptoms/blood-in-urine/2026/7/17閲覧 Mayo Clinic:「Blood in urine(hematuria)」.https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/blood-in-urine/symptoms-causes/syc-203534322026/7/17閲覧 Cleveland Clinic:「Hematuria」.https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/15234-hematuria2026/7/17閲覧 PMC:「Diagnostic Approach to Abnormal Urine Colors」.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12066962/2026/7/17閲覧 日本感染症学会:「腎盂腎炎(Pyelonephritis)|症状からアプローチするインバウンド感染症への対応」.https://www.kansensho.or.jp/ref/d32.html2026/7/17閲覧

GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)とは?意識レベル評価の基本
GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)とは?意識レベル評価の基本
特集
2026年7月14日
2026年7月14日

GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)とは?意識レベル評価の基本

訪問看護の現場において、利用者さんの意識レベルに変化があったとき、そのことを客観的に評価することは重要です。この記事では、GCSの基本的な考え方や評価項目、JCSとの違い、訪問看護師が意識状態を観察するときのポイントを解説します。 GCSとは GCSとは、Glasgow Coma Scale(グラスゴー・コーマ・スケール)の略称です。意識レベルを評価するためのスケールで、主に頭部外傷や脳血管障害など、意識状態の変化が重要になる場面で用いられます。 GCSでは、以下の3つの反応を確認します。 E:Eye opening/開眼反応 V:Verbal response/言語反応 M:Motor response/運動反応 それぞれの項目に点数をつけ、合計点で意識レベルを評価します。合計点は3〜15点で、点数が高いほど意識状態が良好で、点数が低いほど意識障害が強いと判断されます。 GCSの評価項目 GCSは、単に「起きているか」「眠っているか」だけを見るものではありません。開眼反応、会話の成立、指示への反応などを分けて確認することで、意識状態をより具体的に把握します。 E:開眼反応 開眼反応では、利用者さんがどのような刺激で目を開けるかを確認します。 点数状態4点自発的に開眼する3点呼びかけで開眼する2点痛み刺激で開眼する1点開眼しない 普段から目を開けて会話できる方が、呼びかけても目を開けにくい場合は、意識レベルの低下が疑われます。ただし、眠気、薬剤の影響、疲労、視覚障害などが関係することもあるため、普段の状態との違いを確認することが大切です。 V:言語反応 言語反応では、会話の内容や受け答えの適切さを確認します。 点数状態5点見当識がある4点混乱した会話がある3点不適切な発語がある2点意味のない発声がある1点発語がない 「今日は何月何日か」「ここはどこか」「名前を言えるか」などを確認し、受け答えが状況に合っているかを見ます。会話ができていても、話の内容がかみ合わない、急に混乱が強くなった、言葉が出にくいなどの変化がある場合は注意が必要です。 M:運動反応 運動反応では、指示に対して体を動かせるか、刺激に対してどのような反応があるかを確認します。 点数状態6点指示に従って動く5点痛み刺激の部位に手を持っていく4点痛み刺激から逃げるように動く3点異常な屈曲反応がある2点異常な伸展反応がある1点反応がない 運動反応は、GCSの中でも重症度の判断に関わる重要な項目です。たとえば「右手を握ってください」「足を動かしてください」といった簡単な指示に反応できるかを確認します。痛み刺激を用いる評価は、医療職が状態や安全性を確認したうえで行う必要があります。 GCSの点数の見方 GCSは、E・V・Mの点数を合計して評価します。たとえば、開眼反応が4点、言語反応が5点、運動反応が6点であれば、合計は15点です。記録するときは、合計点だけでなく、各項目の内訳も書くことが大切です。例:GCS 15点(E4V5M6)例:GCS 10点(E3V3M4)合計点だけでは、どの反応が低下しているのか分かりにくい場合があります。同じ10点でも、言語反応が低いのか、運動反応が低いのかによって、状態の捉え方が変わります。そのため、GCSは合計点とあわせて、E・V・Mの内訳を伝えることが重要です。GCSの公式資料でも、合計点だけでなく開眼・言語・運動の3要素をそれぞれ報告することの重要性が示されています。 GCSとJCSの違い 日本の医療現場では、GCSとあわせてJCS(Japan Coma Scale)が使われることもあります。JCSは、日本で広く用いられている意識レベルの評価法で、刺激に対する覚醒の程度を数字で表します。一方、GCSは開眼、言語、運動の3つの反応をそれぞれ点数化します。そのため、JCSよりも評価項目が細かく、意識状態の変化を具体的に共有しやすいという特徴があります。ただし、GCSは評価に慣れが必要です。とくに訪問看護の現場では、利用者さんのもともとの認知機能、発語の状態、麻痺の有無、難聴、失語、気管切開の有無などによって、正確に評価しにくいことがあります。その場合は、無理に点数化するのではなく、「普段と比べてどう違うか」を具体的に記録することが大切です。 訪問看護の現場で観察したいポイント 訪問看護の現場では、GCSの点数をつけること自体が目的ではありません。大切なのは、利用者さんの普段の状態を知ったうえで、変化に早く気づくことです。 たとえば、以下のような変化がある場合は注意が必要です。 呼びかけへの反応が鈍い 目を開けにくい 会話がかみ合わない 急にぼんやりしている 手足の動きに左右差がある いつもできる指示に従えない 強い頭痛、嘔吐、けいれんを伴う 転倒後に意識がはっきりしない これらの変化がある場合は、バイタルサイン、転倒や頭部打撲の有無、服薬状況、発熱、脱水、血糖異常の可能性などもあわせて確認します。特に、急な意識レベルの低下や麻痺、ろれつが回らないなどの症状がある場合は、速やかに医師や救急へ相談する必要があります。 GCSを記録するときの注意点 GCSを記録するときは、点数だけでなく、観察した状況も残しておくと情報共有がしやすくなります。たとえば、以下のように記録します。「訪問時、呼びかけで開眼。名前は言えるが、場所の理解があいまい。右手を握る指示には応じる。GCS 13点(E3V4M6)。普段は会話明瞭で見当識あり。」このように書くと、点数だけでなく、普段との違いも伝わります。医師や救急隊へ連絡する際にも、状態の変化を具体的に説明しやすくなります。また、気管切開や挿管などで発語が難しい場合は、言語反応を「発語なし」として1点にするのではなく、評価不能(NT)として扱い、その理由を記録します。あわせて、頷き、首振り、ジェスチャー、筆談などで意思疎通ができるか、指示に応じられるかといった観察内容も残します。たとえば「気管切開中のためVは評価不能(V-NT)。呼びかけで開眼し、頷きで意思表示あり。右手を握る指示に応じる」のように記録すると、点数だけでは伝わりにくい実際の反応を共有しやすくなります。GCSでは、点数そのものだけでなく、評価できなかった理由と、実際に観察できた反応を明確に記録することが重要です。 まとめ GCSは、意識レベルを開眼、言語反応、運動反応の3つに分けて評価する指標です。合計点は3〜15点で、点数が低いほど意識障害が強いと考えられます。訪問看護の現場では、GCSの点数を正確につけることだけでなく、利用者さんの普段の様子との違いを把握することが大切です。呼びかけへの反応、会話の内容、指示への反応などを観察し、急な変化がある場合は早めに医師や救急へ相談しましょう。GCSを理解しておくことで、意識状態の変化をより客観的に伝えやすくなります。訪問看護や介護の現場でも、利用者さんの安全を守るための観察ポイントとして役立つ指標です。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 ● StatPearls:「Glasgow Coma Scale」.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK513298/,2026/5/25閲覧● Glasgow Coma Scale Official Site:「Assessment of Glasgow Coma Scale」.https://www.glasgowcomascale.org/,2026/5/25閲覧● BrainLine:「What Is the Glasgow Coma Scale?」.https://www.brainline.org/article/what-glasgow-coma-scale,2026/5/25閲覧● 日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会†「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン」:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/21/5/21_539/_pdf/-char/ja, 2026/07/06閲覧

認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応
認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応
特集
2026年7月14日
2026年7月14日

認知症の緩和ケアがよく分かる スピリチュアルペイン、BPSD、末期の苦痛への対応

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回のテーマは認知症です。東京ふれあい医療生活協同組合 オレンジほっとクリニック 東京都地域連携型認知症疾患医療センター長の平原佐斗司先生に、認知症の緩和ケアにおける課題の中から、スピリチュアルペインへの対応、BPSDのとらえ方、末期認知症の苦痛への支援などを中心に、その考え方や実践のあり方について解説いただきます。 認知症の緩和ケアにおける課題 認知症の緩和ケアアプローチとは、「単に身体的苦痛をとる治療やケアにとどまらず、認知症の行動・心理症状(BPSD)、合併する疾患、および健康問題に対する適切な治療を含む、認知症のすべての治療とケアを意味する」1)と定義されています。ここでいう緩和ケアアプローチとは、緩和ケアに特化していない環境で、日常のケアの中に、緩和ケアの手法や手順を統合するための方法を指します。つまり、在宅で認知症ケアに関わるあらゆる専門職が身に着けておくべき考え方や手法であるといえるでしょう。 わが国における認知症に対する緩和ケアの課題は、以下に示すとおり多岐にわたります。 摂食嚥下障害など食にまつわる課題 末期の肺炎の苦痛に対する緩和ケア 終末期の褥瘡 疼痛など重度から末期の身体的苦痛への対応 合併症・併存症の急性期の痛みや呼吸苦などの苦痛 BPSDとして表出される身体的心理的苦悩への対応 心不全、骨折などの併存疾患のマネジメントと全身管理 うつ、不安、不眠、孤独などの精神的な苦痛への対応 認知症の人がもつスピリチュアルペイン(実存的苦痛)への対応 独居、経済的困窮、セルフネグレクトなど社会的な苦痛への対応 身体拘束を含む医療行為に伴う苦痛への対応や治療負担(treatable burden)への配慮 認知症の人の苦痛の評価法の確立 認知症の告知に伴う苦痛への配慮 本人本位のACP(アドバンスケアプランニング)推進 認知症の人の家族ケア 遺族の悲嘆ケア 経済社会的状況によるケアの格差 など さらに、認知症の緩和ケアのニーズは、2016年から2060年の間に世界で4倍近く、先進国でも3倍以上に増加し、特に日本などの東アジア地域で急増する2)といわれています。このため、ニーズの急増に対応していくことも今後の緩和ケアにおける最大の課題と考えられています。 スピリチュアルペインへの対応 認知症の人の言葉や行動の裏には、その人の心の痛みや苦悩があると理解されるようになり、認知症の人のスピリチュアルペインが注目されています。診断後早期のスピリチュアルペインを和らげることは、緩和ケアの観点からも重要です。 認知症の人は、認知機能の低下による日常生活の失敗から、自尊感情や自己効力感の低下、アイデンティティ(自分が自分らしくあること)の喪失を経験しており、「自己の存在の意味の消滅から生じる苦痛(スピリチュアルペイン)」を感じているのです。 認知症の人のスピリチュアルペインへのアプローチはまだ確立されたものはありませんが、生活障害に対するタイミングのよい支援、その人の視点に立った理解と共感に満ちたコミュニケーション、peer support(同じ立場の方々との交流)などが大切になります。 BPSDを緩和ケアの視点でとらえる BPSDは「本人が現実の世界に適応しようと、もがき苦しんでいる徴候ととらえるべき」と考えられるようになってきています。また、BPSDを認めた認知症の人の3分の2に疼痛が認められ、そのうちのほぼ半数が中等度から重度の疼痛を経験しており、BPSDは認知症の人の病態の変化や苦痛を表すサインであることも少なくありません。 つまり、BPSDの出現や増悪には病態の変化や苦痛の存在、薬物の影響などが要因となっていることが多いため、まずは病態や苦痛のアセスメントが優先されます。BPSDイコール精神科、抗精神病薬という短絡的な対応は厳に慎むべきです。 ご本人のストレスの原因となっている環境を調整するなど非薬物療法を優先させること、その上で薬物療法が必要な場合も、可能な限り安全性の高い薬剤を優先させるといった工夫が必要です。 急性期入院に伴う緩和ケアの視点 認知症の人は、感染症や骨折などの急性疾患を発症しやすく、しばしば入院治療が必要となります。身体合併症を有した認知症の人が急性期病院に入院した場合、疾患に伴う苦痛に加えて、検査や治療に伴う多様な苦痛を経験します。 認知症を有する人は、入院時に2.3~4.7倍せん妄を起こしやすいとされています3)。そして、せん妄発症者の死亡リスクは1.95倍、施設入所リスクは2.4倍で、入院中にせん妄を発症した人の認知症発症リスクは12.52倍に及ぶといいます4)。 また、一般病院に入院した認知症の人、あるいはその疑いがある人の44.5%が何らかの身体拘束を受けています5)。身体拘束は廃用や転倒などの合併症や併存症を生み、認知症の人のADLやQOLを低下させます。 このような入院の害(入院関連機能障害)を考え、急性期においては、まず不要な入院を避け、可能であれば暮らしの場で治療を継続できるようにすることが必要です。仮に急性期に入院治療を行う場合も、身体拘束最小化に取り組んでいる医療機関、治療よりもケアの質がよい医療機関を選択することが大切になります。 末期認知症の人の苦痛評価 アルツハイマー型認知症(AD)の人の疼痛の感受性に関するメタアナリシスなどから、認知症の人も強い苦痛を感じている6)ことが明らかになっています。つまり、重度認知症の人は、痛みを表現することが困難となっているだけであり、決して苦痛を感じなくなっているわけではありません。しかし実際には、進行した認知症の人の苦痛は、しばしば見過ごされたり、過小評価されているために、適切な治療やケア、あるいは緩和ケアに結びつきにくい現状があります。 苦痛の表現が困難な末期認知症の人の苦痛に気付くためには、苦痛の客観的評価法の活用が必要であり、海外では多くの客観的評価法が開発されています。 わが国で客観的評価法を利用するためには、言語妥当性が検証された日本語版が開発されていること、項目数が数個程度等日常臨床で用いやすいことが条件になります。これらの条件を満たす客観的評価としては以下があります。 【痛みの客観的評価】 日本語版PAINAD アビー痛みスケール日本語版 など 【呼吸困難の客観的評価】 RDOS modRDOS-4(図1) 図1 日本語版 modRDOS-4と観察項目 Wong RX,Shirlynn H,Koh YS,et al.:Exploration and Development of a Simpler Respiratory Distress Observation Scale (modRDOS-4) as a Dyspnea Screening Tool:A Prospective Bedside Study.Palliat Med Rep 2021;2(1):9-14.平原佐斗司,鈴木みずえ,金盛琢也,他:言語妥当性が担保された日本語版 modRDOS-4 の開発~在宅ケアや施設で使用できる呼吸困難の客観的評価尺度~.日在宅医療連会誌 2023;4(4):9-15. さらに、われわれは、在宅や施設、病院などで多職種で用いることができる苦痛評価プロトコールを開発しました(図2)。このようなプロトコールを用いることで、認知症ケアにかかわる全専門職が認知症の人の苦痛に早期に気付くことを狙っています。図2 重度~末期認知症の人の苦痛評価プロトコール(改定案) 末期認知症の緩和ケア:食支援、呼吸困難への対応 末期認知症では、食思不振と嚥下障害、肺炎からくる呼吸困難や咳嗽・喀痰などの呼吸器症状、疼痛、長期臥床に伴う褥瘡などの苦痛の緩和が必要になります。 末期の嚥下障害に対してはComfort feeding only(CFO)の考え方に基づく食支援を行います。CFOは認知症末期の経口摂取の在り方として提唱された考え方と実践法であり、食支援の目的を「栄養補給」とするのではなく、「本人の楽しみ」「Comfort(快適さ)」とする考えに立っています。つまり、食べることの目的は、あくまで「食べることが本人にとって快適かどうか」です。不快でないかぎり食支援を継続しますが、不快であればただちに中止し、ほかの心地よいケア(声かけやタッチセラピー、手浴・足浴、音楽、アロマ、こまめな口腔ケアなど)を行います。 末期認知症の緩和ケアのもう一つの課題は、肺炎による呼吸困難です。末期認知症の人の最大3人に2人が、肺炎を合併して死亡していると考えられています。そして、肺炎を合併して死亡した人は、食べられなくなり自然に亡くなった人に比べ、呼吸困難や不快感などの苦痛がはるかに大きい7)ことが報告されています。 末期の肺炎の苦痛緩和に対して輸液や抗菌薬をいつまで継続すべきかについては、エビデンスが不足しているため、個別の状況に基づき判断せざるを得ません。判断が困難な場合、時間を定めて治療を行い、その治療が患者さんの穏やかさに貢献したか否かを判断する方法(Time limited trial:TLT)を試みます。 また、末期認知症の人の肺炎合併時にみられる呼吸困難に対するオピオイドの有効性を示す、質の高い研究は認められませんが、国内外の指針・ガイドラインではオピオイド投与が推奨されています8)。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)略語:フルスペル(日本語)BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia(行動心理症状)ACP:advance care planning(今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス)ADL:activities of daily living(日常生活動作)QOL:quality of life(生活の質)AD:alzheimer's disease(アルツハイマー型認知症)PAINAD:pain assessment in advanced dimentia(ペインアド)RDOS:respiratory distress observation scale(呼吸困難の客観的評価)COF:comfort feeding only(認知症末期の経口摂取の在り方として提唱された考え方と実践法。食の支援の目的を栄養補給とするのではなく、本人の楽しみ、Comfort(快適さ)とする考え)TLT:time limited trial(時間を定めて治療を行い、その治療が患者の穏やかさに貢献したか否かを判断する方法) 執筆:平原 佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センターオレンジほっとクリニック 東京都地域連携型認知症疾患医療センター長1987年に島根大学医学部卒。現在、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター長ならびに、同オレンジほっとクリニック 地域連携型認知症疾患医療センター長として在宅医療、認知症診療に従事。専門は、在宅医療、非がん疾患の緩和ケアで、研修・研究センターでは在宅医療専門医・指導医として、多くの在宅専門医の育成を行う。学会活動では、日本在宅医療連合学会 代表理事、日本認知症の人の緩和ケア学会 理事長、日本エンドオブライフケア学会 副理事長を務めている。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)van der Steen JT, Radbruch L, Hertogh CM, et al.:White paper defining optimal palliative care in older people with dementia: a Delphi study and recommendations from the European Association for Palliative Care.Palliat Med 2014;28(3):197-209.2)Sleeman KE,de Brito M,Etkind S,et al.:The escalating global burden of serious health-related suffering: projections to 2060 by world regions, age groups, and health conditions.Lancet Glob Health 2019;7(7):e883-e892.3)Inouye SK,Westendorp RG,Saczynski JS:Delirium in elderly people.Lancet 2014;383(9920):911-922.4)Witlox J,Eurelings LS,de Jonghe JF,et al.:Delirium in elderly patients and the risk of postdischarge mortality,institutionalization,and dementia:a meta-analysis.JAMA 2010;304(4):443-451.5)中西三春:一般急性期病院における認知症ケア.老年看 2018;23(2):44–48.6)Stubbs B,Thompson T,Solmi M,et al.:Is pain sensitivity altered in people with Alzheimer's disease? A systematic review and meta-analysis of experimental pain research.Exp Gerontol 2016;82:30-38.7)van der Steen JT,Mehr DR,Kruse RL,et al.:Predictors of mortality for lower respiratory infections in nursing home residents with dementia were validated transnationally.J Clin Epidemiol 2006;59(9):970-979.8)国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター:在宅における末期認知症の肺炎の診療と緩和ケアの指針.https://www.ncgg.go.jp/hospital/news/documents/01zaitaku.pdf2026/2/18閲覧

肝不全の緩和ケアがよく分かる 病態・症状対応・意思決定支援
肝不全の緩和ケアがよく分かる 病態・症状対応・意思決定支援
特集
2026年6月30日
2026年6月30日

肝不全の緩和ケアがよく分かる 病態・症状対応・意思決定支援

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるために、訪問看護師が知っておきたい知識・視点を整理します。今回のテーマは「肝不全」。黄疸や肝性脳症など肝不全特有の症状とその観察項目・対応方法、在宅での意思決定支援における訪問看護師の役割について、梶原診療所の谷田貝 昂先生に分かりやすく解説していただきます。 肝不全とは~病態と終末期のとらえ方~ 肝不全とは、種々の肝疾患により高度の肝機能低下が起こり、黄疸・皮膚掻痒症、肝性脳症、腹水、出血傾向など多彩な臨床症状が生じる状態です1)。肝不全の代表的な原因疾患は肝硬変であり、その背景にはウイルス性肝炎(B型肝炎・C型肝炎)、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患などがあります。 肝硬変は、長期にわたり無症状で経過する代償期を経て、非代償期に移行すると腹水や肝性脳症、食道静脈瘤出血、肝癌などの合併症を呈し、QOLが急激に低下します。 肝硬変の予後を予測する上では「Child-Pugh(チャイルド・ピュー)スコア」と「MELDスコア」が代表的な指標です。Child-Pughスコアは代償期、非代償期の予後予測に優れ(表1、2)、MELDスコアは非代償期の予後予測の精度が高いとされています2)(表3)。特に、MELDスコアが30を超えると3ヵ月以内の死亡率は50%に達するという報告もあり3)、緩和ケアの導入が求められる時期に入ります。 表1  Child-Pugh スコア 判定基準1点2点3点アルブミン(g/dL)3.5超2.8以上3.5以下2.8未満ビリルビン(mg/dL)2.0未満2.0以上3.0以下3.0超腹水なし軽度 コントロール可能中等度以上 コントロール困難肝性脳症(度)なし1~23~4プロトロンビン時間(秒、延長)(%)4未満(70超)4以下6以上(40以上70以下)6超(40未満) 5~6点:Child-Pugh 分類A、7~9点:Child-Pugh 分類B、10~15点:Child-Pugh 分類C文献4)より引用 表2 Child-Pugh スコアと⽣存率 12ヵ⽉24ヵ⽉Child-Pugh 分類 A95%90%Child-Pugh 分類 B80%70%Child-Pugh 分類 C45%38%⽂献5) を参考に作成 表3  MELDスコアと3ヵ月後の患者死亡率 MELD スコア3ヵ月後の患者死亡率<91.9%10~196.0%20~2919.6%30~3952.6%40<71.3%文献6)を参考に作成 MELDスコアはインターネットなどで計算可能。▼MDCalc :MELD(UNOS/OPTN).https://www.mdcalc.com/calc/2693/meld-score-original-pre-2016-model-end-stage-liver-disease QOLを脅かす主要症状とケア・治療の基本 肝不全の患者は、苦痛につながる複数の症状を同時に抱えることが多く、QOLを著しく損ないます。肝不全特有の症状とケア・治療については以下のとおりです。 黄疸・皮膚掻痒症 肝不全による黄疸の症状に皮膚掻痒症があり、皮疹を認めないにもかかわらず、全身性にかゆみが生じます。強いかゆみは日常生活の活動性や睡眠を妨げることがあるため、ケアとして保湿や冷却などを適切に行うことが大切です。抗ヒスタミン薬は皮膚掻痒症に適応がある薬剤ですが、慢性肝疾患患者の症状改善には不十分であったという報告もあり、大規模な臨床試験は報告されていません3)。既存治療が奏功しない皮膚掻痒症に対してはナルフラフィンの投与が検討されます3)。 肝性脳症 アンモニアに代表される中毒物質の代謝・排除障害により発生する精神神経症状です。精神状態の変化や羽ばたき振戦、意識障害などの症状を認めます。便秘や脱水、タンパク質の過剰摂取、感染、消化管出血、鎮静剤の過剰投与などが誘因となるため、排便コントロールや食事・水分の管理などが大切です。家族が最初に異常に気がつくこともあり、訴えに耳を傾けることも重要です。薬物治療は、肝不全用成分栄養剤、合成二糖類(ラクツロース)、難吸収性抗菌薬(リファキシミン)、カルニチン製剤(レボカルニチン)などの投与を行います。 腹水・浮腫 低アルブミン血症や門脈圧亢進などの機序により、腹部膨満感、食欲低下、呼吸困難感などが見られ、会話や歩行といった日常動作にも支障をきたします。これらの自覚症状や体重・腹囲を指標として、塩分制限と利尿薬の調整を行うことが治療の基本です。難治例には、定期的な腹水穿刺・排液が行われることもあります。また、腹水がある患者が発熱した際には、腹腔内の細菌感染である特発性細菌性腹膜炎の可能性も考慮し、抗菌薬による治療を行います。 消化管出血 食道胃静脈瘤や門脈圧亢進症性胃症、消化性潰瘍を有する患者では、出血すると急変する可能性があります。黒色便で発見されることもあるため、便の色や血圧低下、頻脈などを日々チェックします。数ヵ月以上の予後が見込まれる場合には、緊急内視鏡治療によって延命できる可能性があるため、緊急時の体制を整えておくことが重要です。 疼痛 肝不全の患者では、肝がんの合併による疼痛や、腹水による圧迫感が生じることがあります。鎮痛薬はアセトアミノフェンが第一選択です7)。NSAIDsは腎障害や血液凝固障害により消化管出血の原因となる可能性があるため、投与は慎重になるべきです。また、オピオイド系鎮痛薬のほとんどは肝臓で代謝を受けるため、肝不全の患者に対しては投与量や投与間隔を調整して使用する必要があります7)。 訪問看護でできる観察項目と対応の例 訪問看護師は患者の変化を観察し、多職種や家族と連携して病状の悪化を防ぐ上で重要な役割を担います。以下に主要な観察項目と対応の例を示します。 (1)黄疸、皮膚の状態と掻痒感の訴え 【観察項目】皮膚や眼球の黄染、乾燥、引っかき傷、夜間の不眠の訴えなど。【対応】保湿剤や軟膏の使用状況を確認します。引っかいてしまう場合には、爪を切ったり、衣服を工夫したりする(ウールや化学繊維を避ける)とよいでしょう。改善しない場合にはナルフラフィンなどの薬剤調整について医師と相談します。 (2)意識状態と認知機能の変化(肝性脳症の兆候) 【観察項目】会話の受け答えが遅い、言動のつじつまが合わない、昼夜逆転、羽ばたき振戦(手を伸ばして開いた状態で震える)など。【対応】家族に「普段と違う受け答えがないか」尋ねることが早期発見に役立ちます。食事は低タンパク食(0.5~0.7g/kg/日)を検討します。排便回数を確認(軟便で1日2回以上が目安)し、便秘がある場合は医師に報告してラクツロース製剤を中心とした便秘症治療薬の薬剤調整を提案します8)。 (3)腹部の膨満感(腹水貯留)や浮腫の程度 【観察項目】体重・腹囲の増加、下腿~足背のむくみ、歩行が不安定など。【対応】塩分制限(5~7g/日以下)、飲水制限を行います3)。また、体重や腹囲などを参考に医師に利尿薬の調整を相談します。腹水による症状が強い場合には、腹水穿刺も考慮されます。必要に応じて、苦しくないように体位の調整(ファーラー位やセミファーラー位など)を家族に提案することも有用です。下肢の浮腫に対しては弾性ストッキングの装着や足浴、リンパマッサージなどを行います。 (4) 排便・排尿の状況の確認 【観察項目】便の色・性状・回数、排尿回数・尿量。【対応】1日1~2回以上の排便が保てているかを確認し、便秘があれば早めに調整します。黒色便を認める場合には、消化管出血を考えて迅速に医師に報告してください。腹水貯留時には排尿回数と尿量に注意します。 上記の観察項目については、患者・家族にも繰り返し伝え、自己管理を促すことも訪問看護師の重要な役割です。また、精神的・心理的な不安感が強い患者には、傾聴を行い、安心感を提供します。さらに、家族の不安や介護負担にも目を向け、家族の「つらさ」に共感を示す声かけを意識しつつ、介護保険サービスの利用状況を確認し、ケアマネジャーとの連携も欠かせません。 在宅での意思決定支援 肝不全となり多彩な症状を認めるようになると、増悪・寛解を繰り返しながら慢性・進行性の経過をたどります。経過中に肝性脳症を認めて意思疎通が困難となることや、消化管出血などにより急変する可能性もあり、予測困難な経過をたどることが少なくありません。そのため、早期からアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を開始し、患者本人の意思を尊重した療養方針を明確にすることが重要です。 ACPでは、「どこで過ごしたいか」「どのような医療を望むか」「延命治療は希望するか」などを話し合い、多職種で共有することで、本人の価値観・人生観を尊重したケア・介護体制を構築します。 訪問看護師は日々の関わりの中で患者の本音を聞き取り、医師や家族に伝える橋渡し役となります。最期の時間を穏やかに過ごせるよう、ACPの継続的な見直しも含めて支援していきます。 * * * 肝不全の緩和ケアでは、黄疸・皮膚掻痒症、肝性脳症、腹水、出血傾向など、特有の症状が多く現れるため、それぞれの対応をあらかじめ考えて、家族と情報共有することが重要です。特に肝性脳症による意識障害や、消化管出血による急変に備えて、早期からのACPによる意思決定支援が欠かせません。 在宅療養の場では、訪問看護師が生活支援、多職種との連携、心理的サポート、症状緩和、意思決定支援までを担うことになり、その役割は非常に大きくなります。肝不全の患者が「自分らしく生きる」ことを支えるためには、訪問看護師の専門的かつ継続的な関与が必要不可欠です。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)QOL:quality of life(生活の質)MELD:mayo end stage liver disease(末期肝疾患重症度モデル)NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs(非ステロイド性抗炎症薬)ACP:advance care planning(アドバンス・ケア・プランニング) 執筆:谷田貝 昂東京ふれあい医療生協 梶原診療所 医師/医療法人社団 雄昂会 やたがいクリニック 副院長 獨協医科大学卒業後、順天堂大学医学部附属順天堂医院 消化器内科に入局。その後、東京ふれあい医療生協 梶原診療所にて訪問診療に従事。現在は、やたがいクリニック副院長として外来診療・内視鏡診療を行う一方、梶原診療所での訪問診療、ならびに東京都認知症疾患医療センター オレンジほっとクリニックにおいて外来診療を担当している。   編集:株式会社照林社 【引用文献】1)池田健次:ウイルス性肝硬変に対する抗ウイルス療法.日消誌 2010;107:8-13.2)松尾 裕一郎,坂井 正弘:肝不全・腎不全.medicina 2018;55(11):1806-1810.3)日本消化器病学会:肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版).南江堂,東京,2020.4)肝炎情報センター:肝硬変の程度の分類.https://www.kanen.jihs.go.jp/sick/kinds/kankouhen.html2026/1/23閲覧5)D'Amico G,Garcia-Tsao G,Pagliaro L:Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis:a systematic review of 118 studies.J Hepatol 2006;44(1):217-231.6)Wiesner R,Edwards E,Freeman R,et al:Model for end-stage liver disease (MELD) and allocation of donor livers.Gastroenterology 2003;124(1):91-96.7)内藤隆文:肝障害を合併する患者の薬物療法マネジメント 疼痛×肝障害.薬局 2020;71(13):3673-3677. 8)吉崎秀夫:肝不全. 日本エンドオブライフケア学会監修,平原佐斗司, 荻野美恵子編:エンドオブライフケア ,南山堂,東京,2022:282-287.

人工呼吸器装着後の安楽な姿勢とベッド周りの環境整備:当事者の知恵と工夫
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コラム
2026年6月9日
2026年6月9日

人工呼吸器装着後の安楽な姿勢とベッド周りの環境整備:当事者の知恵と工夫

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。最終回となる今回は、梶浦先生が受けてこられた質問の中で最も多かった人工呼吸器装着後の安楽な姿勢を保つ方法と、ベッド周りの環境整備のコツについてたっぷりご紹介いただきます。 本記事は、医療従事者の指導・管理のもとで行われている在宅医療の一例を紹介するものです。掲載されている医療機器の配置や使用方法を、一般の方が医療者の指示なく参考・模倣することは安全上のリスクがあります。在宅での医療機器管理については、必ず主治医や訪問看護師等の医療従事者にご相談ください。 はじめに ALS当事者や関係者の⽅々から最も多く寄せられた質問が、今回のタイトルです。 気管切開して⼈⼯呼吸器を付ける前のALS当事者にとって、装着後の⽣活がどのように変わるのかを想像することは難しいものです。人工呼吸器をつけても安楽に過ごせるのか。どのような環境整備が必要なのか。こうした情報は、人工呼吸器をつけて生きていくか否かの決断に大きく関わるにもかかわらず、調べてもなかなか出てきません。 私自身、これから⾃分がどうなっていくのかよく分からないながらも、死にたくない⼀⼼で、気管切開と人工呼吸器装着を決断しました。だからこそ、その後の生活で一番考えながら、改良を重ねてきたのもこのテーマだったのです。 ALSという病気は、症状も進行スピードも人によって違います。また、在宅療養環境(⽀援体制や⾃宅のスペースなど)もそれぞれの家庭で大きく異なります。⼀概に「こうしたほうがよい」とは⾔えず、教科書的に一括りにして扱うことが難しいのが実情です。 それゆえに、ALS当事者や関係者たちが、在宅での療養生活で実際に取り入れている知恵や工夫を持ち寄り、それを発信し、「いいな」と思った部分を⾃分の⽣活の中に取り⼊れていくしかないのだと思います。 そこで今回は、私が考えて、実践している⼯夫を紹介していきたいと思います。それぞれの状況に応じて参考にしていただければ幸いです。 安楽な姿勢の基本原則:接触面積を広くとる ⼈⼯呼吸器をつける前のALS患者を含む、重度の四肢体幹障害者に共通して重要なのは、 体と、⾞椅⼦・ベッドとの接触面積を広くとり、浮いている部分をできるだけなくす ということに尽きます。 これにより体圧が1ヵ所にかかり過ぎるのを防ぎ、分散することができ、身体への負担を最⼩限に抑えることができます。 座位での姿勢の工夫(図1) ⾞椅⼦に座るときやベッドの背もたれを起こしたときには、以下を意識します。 腰の部分が浮かないように、できるだけ深く座る 枕と⾸の間に隙間ができないよう、タオルや薄いクッションを丸めて入れる 図1 ベッド上での座位姿勢の工夫 側臥位での姿勢の工夫 クッションを活用し接触面積を広くとりつつ、足の骨同士が重ならないように気をつけています(図2)。 図2 側臥位での姿勢の工夫 ちなみに、私は毎晩、側臥位で寝ています。その際、空圧センサーにつま先を接地しておくようにし、ほんのわずかな⼒でもセンサーを押して、人を呼べるようにしています。センサーを押したら「反対側の側臥位へ体位変換してほしい」という合図です。 人工呼吸器をつけることで大きく変わること 人工呼吸器をつけると、気管孔と⼈⼯呼吸器が回路(ホース)で常につながるようになります。このホースが動いてしまうと、それが刺激になり、むせてしまったり、気管孔周囲に⾁芽組織*を形成する原因になったりします。そのため、ホースはできるだけ動かないように固定しておく必要があります。私がおすすめする固定⽅法は、胸元とベッドの2点で固定することです(図3)。 *肉芽組織:傷の治癒過程や慢性炎症の際に形成される、新しい結合組織と⽑細⾎管のこと。出血を伴うこともある。 図3 ホースの固定方法 ホースを胸元とベッドの2点で固定し、ホースができるだけ動かないように工夫している ホースの動きにさえ注意していれば、⼈⼯呼吸器をつける前と安楽な姿勢はあまり変わりません。私は人工呼吸器を装着したことで、呼吸苦から解放され、大きな安堵を感じました。 ベッド周りの環境整備と物品管理の工夫 ベッド周囲の環境は、部屋の広さやレイアウトによって変わる部分が⼤きいのですが、ここでは私が試⾏錯誤の末にたどり着いた「理想的な形」を書いていこうと思います。参考にしてみてください。 ベッド周りには⼈が⼊れるスペースを確保する 部屋を広く使うためにベッドを壁につけている⽅も少なからずいらっしゃいます。しかし、これは介助者にとっては、とてもやりにくい配置になります。 例えば、先述した側臥位の体位変換を左右均等に行うには、介助者がベッドの左右から行う必要があります。可能であれば、人が1人⼊れるくらいのスペースをどちらにも確保しておくことをおすすめします。 ■介護用電動ベッドとモーター数ちなみに、介護⽤電動ベッドはモーター数によって性能が変わります(表1)。モーター数が多いほど性能がよく、ALS患者のように介護度が高い場合、3モーター以上のモデルが推奨されます。 なお、要介護度によりますが、介護⽤電動ベッドは介護保険を利用してレンタルができます。 表1 電動ベッドのモーター数と機能 モーター数     機能           1モーター   背上げ(または脚上げとの連動)基本的な動作2モーター背上げ+脚上げ標準的な介護に対応3モーター背上げ+脚上げ+高さ高度な介護に対応。ベッドの高さが変えられるため、介護者の負担が軽減される4モーター以上背上げ+脚上げ+高さ+αベッド自体の傾斜が変更できる機能、立ち上がりサポート機能、体位変換機能など、さまざまな機能があり、より個々の細かいニーズに対応。 ベッド周りの物品は「厳選」し「コンパクトに配置」する ⼈⼯呼吸器を使用すると、人工呼吸器はもちろん、吸引器や排痰補助装置など、ベッドの周りに置いておく機器が増えます。限られたスペースの中で効率的に動けるよう、動線を考えてコンパクトにまとめることが大切です。 ■私の機器配置の工夫ここでは私が実際に配置している機器の配置⽅法をご紹介します(図4)。私は必要なものをできるだけコンパクトに置きたいため、1つのワゴンに人工呼吸器、吸引器、排痰補助装置、持続吸引器を載せています。⼈⼯呼吸器の加湿器もワゴンの⽀柱に固定してます。 図4 私の機器配置の工夫(一例として) ■カテーテルの保管方法⼝腔内と⿐腔内の吸引に必要なカテーテルは、洗濯バサミの⽳に通し、ワゴンの取⼿に固定して吊り下げています。気管カニューレ内を吸引するカテーテルは、特に清潔な状態を保つ必要があるため、壁から吊るして、⼈の⼿や身体などが触れない場所に保管しています。 在宅療養環境での一般的なカテーテルの保管⽅法としては、以下の2つが⽤いられることが多いです。私の場合、「(2)乾燥させて保管する方法」を採⽤しています。 (1)清潔な容器で保管する方法清潔な蓋つきの保存容器、または未開封の専⽤パック・滅菌袋に入れて保管する⽅法です。容器を再利用する場合は、十分に洗浄・乾燥させてから使用します。(2)乾燥させて保管する方法(私が採用している方法)風通しのよい場所で自然乾燥させて保管する方法です。カテーテルは水分が残ると細菌が繁殖しやすいため、しっかり乾燥させます。 病院では、基本的に吸引カテーテルを1回使⽤したら捨てるのが原則かと思いますが、在宅医療の現場では、使用できる吸引カテーテルの数が限られています。数日使用してから交換するケースが⼀般的なため、私はこのような方法で管理しています。 ■吸引カテーテルの色分け吸引カテーテルは太さによってコネクターの⾊が違います。私は、緑色の14Frを口腔内用、白色の12Frを気管カニューレ内用、黒色の10Frを鼻腔内用として使用しています。原則「鼻用は黒」など、吸引する部位ごとに色を分けておくと、家族が使うときにも間違えなくてよいかと思います。 ■通水ボトルの管理方法カテーテルを使⽤した後は、カテーテルの内腔に水道水を通して洗浄する必要があります。この時に使う水も、私はペットボトルに入れて、フックを取り付け、ワゴンに吊り下げています。気管吸引用カテーテルを通水する水は清潔な状態を維持しないといけないため、常にペットボトルの蓋を締め、⼝腔用・⿐腔⽤のペットボトルと間違えないようにしています。また、ペットボトルの⽔が半分以下になったら中⾝を破棄し、新しい⽔に交換します。ペットボトル自体は、週1回、新しいものに交換しています。 カテーテルや通⽔ボトルの管理⽅法は、家庭ごとに異なります。ここで紹介した方法は、1つの例として参考にしてください。 「enjoy!ALS 2」最終回の最後に― ALSと診断された⼈は、必ず⼀度は「死」を意識するでしょう。これまでずっと、⽣きることに前向きな情報だけを発信してきた私もそうでした。⼈は死を⾝近に感じたときに、改めて⾃分の⼈⽣について振り返るものです。 それが⼀瞬の出来事であれば「⾛⾺灯」と呼ばれるものなのかもしれません。⾃分の⼈⽣について振り返ったときに、⾃分は⼗分⽣きたのか? ⾃分の⼈⽣は満⾜なものだったのか? という問いについて考えさせられることになります。 当時35歳の私は、医師としてのキャリアも順調で、愛する家族もでき、⼈⽣には「希望」しかありませんでした。それが突然、⾃分はALSという病気であり、あと数年で死ぬかもしれないという予測不能な無慈悲な現実に直⾯しました。そのとき、⾃分の希望に満ちた未来は「絶望」という⾔葉に置き換わりました。絶望の中から⼀筋の希望を探し出し、前向きに⽣きていくことは、⾔葉ではとうてい表現できないほど、とてもつらく⼤変なことでした……。 私は「⼈の役に⽴ちたい」という強い思いから医師になり、医師の仕事が⾃分の⽣きがいでした。私の中の⼀筋の希望は「死ぬまで医師として、誰かの役に⽴てるように⽣き続けていこう」という決意でした。そんな⾃分の希望を守っていくために、さまざまな⼯夫を凝らしながら、もがき続けました。対⾯診療ができなくなったら遠隔診療に切り替え、⼿でカルテが書けなくなったら、⻭でカルテを書いてきたのです。 これからもさまざまな困難に直⾯すると思いますが、そのつど⼯夫を凝らしながら、もがき続けていきたいと思っています。そして、精⼀杯⽣きて、⼈⽣の最後にただ愛する妻と息⼦に「パパがんばってたね! かっこよかったね!」と⾔ってもらえたら、きっと⾃分の⼈⽣はとても有意義で素晴らしいものだったと思えることでしょう。そんな⽣き⽅をしたいものです。 コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

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