キャリア形成

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第2回 心不全患者の療養生活を支えるために

心不全患者の再発・重症化予防のための地域ぐるみの取り組みが進んでいます。福岡大学病院循環器内科と博多みずほ訪問看護ステーションでは連携して、病院の医師と訪問看護師が医療とケアの両面で在宅療養者を支えています。療養指導の質を高めるための新しい認定資格「心不全療養指導士」は、心不全患者の日常生活指導などを行う場面で力を発揮しています。心不全療養指導士の資格を持つ、博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長にお話を伺いました。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 心不全療養指導士とは 「心不全療養指導士」は、心不全の再発・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職のための認定資格で、看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士、公認心理師、臨床工学技士、歯科衛生士、社会福祉士などが取得できます。特に実務経験は問いませんが、資格取得のために提出する5症例の症例報告書のためには、実質的に心不全患者の療養にかかわる実務経験が必要になります。あくまでも医療専門職のための制度で、医師は対象ではありません。2021年度から制度が開始され、第一期の資格取得者1,771名が活動を始めています。黒木さんも第一期取得者の一人です。 ― なぜ、心不全療養指導士の資格を取ろうと考えたのですか。 私どものステーションは循環器疾患の利用者さんに特化しているわけではありませんが、福岡大学病院との連携で、退院後の心不全療養者への援助が増えてきています。心不全患者の再発や急性増悪を防ぐためには、食事指導・運動指導・服薬指導などの日常生活援助が決め手になります。 福岡大学病院循環器内科の志賀悠平医師も、在宅での生活指導・保健指導については私たち訪問看護師に任せてくださっています。療養者の生活に責任をもって関わるうえで、医学的なエビデンスも含めて知識・技能のレベルアップを図りたいと考えていたところ、日本循環器学会で新しい資格制度をつくるという情報を知ったのがきっかけです。 ― 資格を取るためにはどのようなプロセスが必要ですか。 学会が示している資格取得のためのフローチャートを以下に示しました。 心不全療養指導士・資格取得までの流れ(抜粋) 日本循環器学会ホームページ 『資格を取るまでの流れ』 (https://www.j-circ.or.jp/chfej/flow/)を参考に作成 まず、日本循環器学会の会員になることが条件です。会員になったら、最初にeラーニングを受講します。総受講時間は6時間半弱で、非常に多岐にわたる講義が用意されています。「心不全の概念」「心臓の基礎疾患の特徴」「薬物療法」「非薬物療法」などの医学的内容から、「栄養管理」「服薬アドヒアランス」「心理的指導」などの療養支援の基本に関する講義まで幅広いテーマです。中でもとても勉強になったのが「療養指導に必要な患者指導の考え方」「療養指導の評価および修正」「認知機能低下のある患者への対応」など、患者指導の技術でした。 勤務を続けながらの受講でしたので、自宅に戻った夜や休日の自分の時間を有効に使いました。eラーニングはいつでもどこでも自分の裁量で時間の都合をつけられるので便利です。 eラーニング講習の後、症例報告書を提出します。症例はすべて異なる患者で2テーマ以上5例作成します。テーマ例としては、「ステージ別心不全患者の療養指導」「高齢心不全患者への療養指導」「多職種連携、地域連携の強化が必要な心不全患者への療養指導」などが挙げられています。最終的に認定試験を受けて審査があり、合否が決まります。eラーニング受講から約10か月の期間で取得できます。 ― 心不全患者の再入院を防ぐ取り組みで効果がみられた症例をご紹介ください。 70歳代の女性の利用者さんで、入退院を繰り返しておられました。独居の方で在宅に戻って2週間もすると必ず再入院となるのです。家で療養していると、浮腫が出て息切れが続き、また入院となるということの繰り返しでした。 私たちが週2回、訪問看護に入ることになって様子を見ていると、昔からの食生活を続けていることが原因であることがわかりました。梅干しが好きで、いつもご飯と一緒に食べておられ、さらにハムなどの加工食品で過剰な塩分を摂取されていました。本人も入退院を繰り返すのは嫌で、家でずっと暮らしたいとおっしゃっていました。 そこで、食事指導を徹底しました。塩分の摂りすぎがどうして心臓の負担を増やしてしまうのかというしくみからお話しして、毎食の塩分チェックを継続していきました。主治医とも相談して、むくみの程度によって利尿薬の増減についてご指示いただき、コントロールするようにしました。 別居している家族の方からも「私たちが言っても聞いてくれないけど、看護師さんの言うことは聞くみたいですね」と言われました。専門職が週2回入ってきっちりお話しすることで、この方の意識も変わっていったようです。日常生活の立て直しができて、再発・入退院を繰り返すことがなくなりました。 心不全の方は入院してつらい思いをしても、軽快するとすぐ忘れてしまい、元の状態に戻りがちです。食事や運動などの行動を変えていただくのは非常に難しいことだと思いますが、身体のしくみや薬が効くメカニズムなどを丁寧に説明すれば理解してくださいます。 一方的に「指導」するのではなく、行動科学的なアプローチによって行動変容を「促す」関わりが大切だと思います。そういう意味でも「心不全療養指導士」の資格はとても役に立っていると感じています。 * 心不全療養指導士の役割の1つとして、「医療機関あるいは地域での心不全に対する診療において、医師やほかの医療専門職と円滑に連携し、チーム医療の推進に貢献する」という項目があります。心不全患者の重症化・再入院を防ぐためには、病院だけでなく地域ぐるみの多職種の連携が不可欠です。チーム医療推進の要として活躍する「心不全療養指導士」の役割は、今後ますます大きくなりそうです。 ※詳しくは、一般社団法人日本循環器学会のホームページ上の「心不全療養指導士」(https://www.j-circ.or.jp/chfej/)をご覧ください。 ** 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長 大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社

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第1回 心不全看護の『質』を高める専門資格

心不全の再発・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職の認定資格、「心不全療養指導士」が注目されています。超高齢社会を迎えて増加する高齢心不全患者は、急性増悪を起こして再入院するケースが多く、再発防止のための取り組みが急務とされています。福岡大学病院循環器内科と博多みずほ訪問看護ステーションの地域連携の取り組みについては、このシリーズで以前お伝えしました。今回は、心不全の再発防止において実力を発揮して活動している「心不全療養指導士」の実践を紹介します。 心不全療養指導士とは 「心不全療養指導士」認定制度は、2021年度から日本循環器学会が始めた新しい制度です。この制度は、超高齢社会を迎えて心不全患者が急増している現状を踏まえ、心不全の発症・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職の資質の向上を図ることを目的として創設されました。心不全に関する基本的知識や療養指導のための技能が修得できます。 心不全療養指導士は、病院に限らず、在宅をはじめとした地域などさまざまな場面で幅広く活動し、心不全におけるチーム医療を展開していくことが期待されています。心不全患者のQOL改善をめざす多くの専門職が取得できる資格です。 2020年12月に行われた第1回の認定試験に合格し、心不全療養指導士として活動している博多みずほ訪問看護ステーション所長の黒木絵巨さんにお話を伺いました。 その日訪問する利用者さんの情報をタブレットでチェックする黒木絵巨さん(博多みずほ訪問看護ステーション所長) ― 高齢の慢性心不全患者に対するアセスメントはどのように進めるのでしょうか。 高齢の慢性心不全患者さんは、痛みなどの自覚症状をほとんど訴えません。私どものステーションの利用者さんは高齢者が多いのですが、訪問して最初にチェックするのが『むくみ』です。「浮腫が出ているな」と思って指摘しても、「これくらいのむくみはいつも出ているから大丈夫」とおっしゃる方がほとんどです。重症化してくると、「ちょっと動くと苦しい」などと訴えることもありますが、初期の浮腫や体重増加くらいでは、「いつもと同じ」という感覚のようです。 ― 「浮腫」が重要なサインの1つということですね。 心不全再発のアセスメントとして「インアウト」をみますので、その最もわかりやすい徴候が「浮腫」なのです。「足背」などの浮腫の状態をチェックしますが、まずお顔を見たとき「ちょっとむくんでいるな」と感じたら、これは大切なサインだと考えています。少しくらいの浮腫であれば食事内容などをお聞きして、水分や塩分の摂取状況を具体的に把握します。 そして、お薬のチェックをします。たいていの方が利尿薬を処方されていますが、服薬を自己判断してしまう方も多くいます。「しょっちゅうトイレに行くのが煩わしいから」、「今日は出かけるのでトイレに何回も行くのが嫌だから」などの理由で、指示されたとおりに利尿薬を飲まない方もいらっしゃいます。そういう方には、なぜこの薬が必要なのか、どうして絶対に飲まなければいけないのかということをわかりやすく説明します。 ― 具体的にはどのように説明するのですか。 まず、「心不全では心臓のポンプ機能が悪くなって全身に血液が行き渡りにくくなっています」というところからお話しします。「腎臓に流れる血液量が減ってしまって尿が作られにくくなると、体内の水分量が増えてしまいます。それで『むくみ』が起こってくるわけです。そうすると、ますます心臓の負担が大きくなってしまうので、余分な水分を尿として排泄させるために、利尿薬を飲んでいただくのですよ」と、身体の『しくみ』から説明するとよく理解してくれます。 解剖学や病態生理学などの難しいことを利用者さんや家族にかみ砕いて説明して、行動を変えていただき、生活を立て直してもらうのが私たち専門職の役割だと思っています。 ― 難解なことをわかりやく伝えるというのはとても難しいと思いますが・・・。 そうですね。第一に、私たちが病態生理をよく理解しておく必要があります。それをうまく「伝え」、最終的に「行動を変えていただく」働きかけをするのがプロフェッショナルの『わざ』だと考えています。 私は、訪問看護を始めるまでは主に透析看護を行っていましたが、透析患者に対しても行動変容を促すアプローチは必要でした。その点で、今回、「心不全療養指導士」の資格を取得するために行った勉強は、非常に役立っていると思っています。 「心不全療養指導士」の役割を以下に示しましたが、その中の②③は、まさに病態理解や療養指導の方法に関することです。学ぶべき項目の中の「心臓の構造・働き」「心不全の身体所見」「薬物療法」「患者教育に活用する心不全に関する知識」「服薬アドヒアランスへの支援」などは、今の現場での実践に非常に役立っていると思います。 心不全療養指導士に求められる役割 ①心不全の発症・進展の予防の重要性を理解し、その予防や啓発のための活動に参画することができる②心不全の概念や病態、検査、治療について理解し、それをもとに病状などを把握することができる③心不全の進展ステージに応じた予防・治療を理解し、基本的かつ包括的な療養指導を実施することができる④医療機関あるいは地域での心不全に対する診療において、医師や他の医療専門職と円滑に連携し、チーム医療の推進に貢献することができる⑤心不全患者に対する意思決定支援と緩和ケアに関する基本的知識を有している 日本循環器学会ホームページ 『心不全療養指導士とは』 (https://www.j-circ.or.jp/chfej/about/)より引用 * 次回は、黒木さんが心不全療養指導士の資格を取得するまでの経緯と、実際に関わった事例を紹介します。 ※詳しくは、一般社団法人日本循環器学会のホームページ上の「心不全療養指導士」(https://www.j-circ.or.jp/chfej/)をご覧ください。 ** 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。記事編集:株式会社照林社

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オーストラリアで出会った訪問看護の魅力/海外訪問看護

オーストラリアでは訪問看護師特有の業務形態により、長年従事する看護師が多いため、求人の空きがなかなかないそうです。また、急性期、慢性期に分業されているため高いスキルが求められます。今回お話を伺った本田一馬さんは、オーストラリアで看護師資格を取得し、さまざまな経験を経て急性期の訪問看護師になりました。これまでの経緯や働き方、日本との違いについてご紹介します。 オーストラリアで訪問看護師になるまで Q 訪問看護師を目指したきっかけとは 高校卒業後に語学留学のために中国へ渡りました。その後、オーストラリアに移動したので、看護師資格を取得したのは27歳のときです。当時、オーストラリアでボランティアをしていて、そのなかで「看護師になってみてはどう?」と声をかけていただいたことがきっかけとなり、看護の道に進みました。 学生最後の実習で訪問看護を経験し、今までのクリティカルな領域とは大きな違いを感じました。患者さんと関わる中で、医学的な治療よりも住み慣れた家や家具、愛するパートナーやペットたちに囲まれた環境で、話を聴いてもらうことが一番の特効薬になり、大きな力が生まれることに気が付いたんです。 卒後はすぐにでも訪問看護師として働きたいと懇願しましたが、スタッフは経験8年以上のベテランばかり。師長からは「経験を積んできなさい」と諭されてしまいました。その言葉通り、救急外来や集中治療部、研究や老人ホーム勤務などの経験を積みました。その後も訪問看護の魅力が忘れられず、採用枠が空くのを待ちました。そしてある時、奇跡的にも1つポジションに空きが出たことで、念願だった急性期訪問看護師チームの一員になることができました。急性期訪問看護チームはなかなか求人情報が出ないこともあり、私の働いている医療機関ではゴールデンジョブと呼ばれることがあります。 急性期の訪問看護師の仕事 Q 急性期に特化した訪問看護とは オーストラリアの訪問看護は急性期と慢性期に分かれており、急性期では、1日3~4人の患者さんを訪問しています。1人当たり、約1~2時間かけて看護ケアを提供しています。また、日本でいうオンコールのような夜間対応はなく、必要があれば速やかに救急外来の受診をすすめています。 おもな仕事は、蜂窩織炎、骨髄炎、肺炎などを患った患者さんに在宅で抗生物質の投与を行うことがメインとなります。ほかには乳房摘出術後のドレーン管理などです。オーストラリアでは、ドレーンの抜去や抜糸なども看護師が行います。 急性期訪問看護チームの役割は、患者さんをできるだけ地域で看ることによって病院への入院を防ぐことです。そして容態が安定していても継続した点滴管理が必要な患者さんを、私たちのチームで受けることによって早期退院を目指し実現させることです。 患者さんの紹介は個人医院や病院からの紹介になりますが、入院されている患者さんが在宅でケアすることが可能かどうか退院前に確認し、難しそうであれば医師に対して意見することもあります。在宅では1人でケアすることになり、責任もありますからね。実際に働いてみて、やはり高い知識と技術、判断力が必要だなと感じます。経験や場数を踏んでいく必要があるという考えの方が多いですね。医療アシストを呼ぶことができない状況の中、とっさの判断を迫られたときに、いろいろな経験がとても役立ちます。 訪問看護ならではのかかわり Q 訪問看護師としてのやりがいとは 乳房摘出後のケアは男性看護師が介入しにくい部分ではありますが、まずは、患者さんと患者さんを取り囲む家族の皆さんと信頼関係を築くことだと思います。在宅なので、旦那さんが同席するケースが多くあります。一般的に女性としてのシンボルとして認識されている体の一部を失ってしまった妻を、少し離れたところから心配そうに見つめる旦那さん、そして、その妻に対して「どのように接していけばいいのか。」と悩む旦那さんは少なくありません。そういった家族の気持ちも含めたケアを行います。男性だから話せることがあったり、言いづらいことを引き出したり、家族全体のケアをいかにホリスティックに見ていくのかが大切ですね。 ただ、コミュニケーションが英語なので、細かいニュアンスが伝わりにくいことはあります。オーストラリアは多文化なので、患者さんの文化背景によって話し方やアプローチのしかたを考慮し、その患者さんに合った看護ケアを提供するよう心掛けています。もし、言葉が通じなくても、「自分のことを気にかけてくれている。」という姿勢が患者さんに伝わると信頼関係の構築につながり、コミュニケーションや看護ケアの提供がスムーズになるという経験をたくさんしています。そこがやりがいにもつながっていますね。 急性期の訪問看護は、一人ひとりにケアをする時間が長く取れることが魅力の一つだと感じます。もちろん、医師とも意見の交換をしますし、患者さんのために常に疑問を持って問いかけるようにしています。医師の言ったことがすべてとは捉えずに、納得できなかったことはとことん話し合います。看護師主体で率先して動けるので、ここもやりがいの一つですね。 日本とオーストラリアの懸け橋に Q 今後のビジョンについて 今は色々な意味で自分の視野や可能性を広げるために、大学院で修士課程(プライマリーヘルスケア看護)の勉強をしています。このまま学業に励み、博士課程まで勉強できればと思っています。博士課程取得後には、オーストラリアと日本のさらなる共同看護研究の発展や看護技術のエクスチェンジプログラムなどに加担する事で、お互いの科学的な看護実践の質を高め、より一層、患者のニーズに沿った安全で高度な看護ケアの提供につながればと考えています。日本からオーストラリアに留学や短期プログラムに参加する学生にも、グローバルな視点が身につくように色々な経験ができるような支援もしていきたいですね。お互いの文化を大切にしながら良いアイディアを取り込んでいくことで、良い変化が生まれ、最終的には患者さん、そしてコミュニティーの健康へつながると信じています。 また、知り合いの同僚が日本に行った時の感想を聞くと、とても親切であり、素晴らしい国だと言ってくれます。そんな自分の国を誇りに思います。日本の先輩や後輩の方々に、少しでも役に立つことができるよう精進していくことが最優先だと思っています。 ** Registered Nurse Nurse Immuniser Central Coast Local Health District Acute Post Acute Care Team (急性期訪問看護所属) 本田一馬 【略歴】 2010年 ニューカッスル大学 (オーストラリア) 医学部看護学科卒業 2011年 オーストラリア連邦内閣総理大臣賞を受賞し、山口大学へ客員研究員非常勤講師として赴任 2014年 主任看護師Aurrum Erina (高齢者介護施設) 2015年 正看護師 急性期内科 (Gosford Hospital, Australia) 2018年 急性期訪問看護師 Acute Post Acute Care Team, Gosford Hospital 2020年 シドニー大学 医学部保健学科修士課程 Master of Primary Health Care Nursing 入学 2021年 Nurse Immuniser として急性期訪問看護の傍、ワクチン接種業務に従事 Facebook:https://www.facebook.com/KazyAus Twitter:@KazumaHonda Instagram:kazuma_honda_aus

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スタッフのモチベーション向上・維持を意識した環境づくり

訪問看護ステーションハートフリーやすらぎでは、スタッフのモチベーションの向上と維持のためにどのようなことを意識しているのか、引き続き常務理事の大橋さんと所長の田端さんにお話を伺います。 資格を積極的に取りに行ける環境を提供 ―ハートフリーやすらぎでは、資格取得や研修を受けに行きやすい環境が整っているのでしょうか? 田端: そうですね。2010年に大橋さんが認定看護師資格を取りに行き、「すごく勉強になるし、うちのスタッフみんなにも取ってほしい」と言われてから私も興味が湧き、2012年に訪問看護の認定看護師資格を取りました。大橋さんというロールモデルがいたおかげで、利用者さん宅に訪問する姿、地域の医師やケアマネとの連携のやりとりなど、間近で魅力を教わることができたんです。 2018年には、特定行為研修も受講しました。病院での胃ろうの交換には、ヘルパーさんの付き添いやタクシーの予約、移動の準備、病院での待ち時間などの負担がかかり、たった10~15分の処置に多大な労力が必要です。これが家でできれば、利用者さんが地域で暮らしていくのに役立つ資格ではないかと。 ―受講にあたり、金銭的補助はありましたか? 田端: 資格取得や研修に関しては出勤扱いで給料保障(ボーナス含む)をしてくれました。 なかなか、個人の訪問看護ステーションではこうした保障はないですよね。仕事を辞めてきたり、休職扱いで貯金を切り崩していたり、という人も多かったので…。学びやすく、研修に出やすい環境を整えてもらっています。 「オールOK」の精神でスタッフを後押し ―大橋さんはどうして、資格や研修などスタッフの学ぶ環境を後押しされているのですか? 大橋: もう私は、「ええやん、ええやん」言っているだけです。私が若いときに学びたい意欲が強かったのですが、「研修に行きすぎ」「あなたは2回行ったから、次はあの人に」と、頭から抑え込まれていたことがありました。別に研修に行きたくない人に嫌々行ってもらうくらいなら、学びたい人が行ってシェアすればと思っていました。 なので、自分がトップになったときには「オールOK」でやりたいと。学びたい人はどんどん学べ、学びたくない人は学ばなくてもいいと…。 ただ、学んだ人がそばにいることで、周りも自然に学べる。それは田端さんから教えてもらったことです。 褒めることがスタッフの活力に ―看護師さんからの人気が高く、魅力あふれるハートフリーさんですが、その理由はなんでしょうか? 田端: うちの看護師はみんな元気で、生き生きしているとよく言われます。それがいい看護に繋がり、患者さんや家族にもいい影響を与えると大橋さんからもずっと教えられているので、みんなで引き継いでいこうという思いがあります。 大橋さんは結構小さなことでも褒めてくれますね。「ありがとう」は毎日言うし、「今日の髪型似合っているな~」と何気ないことから、看護のことまで。利用者さんの家族がこう言ってくれていたという話を私から大橋さんに報告すると、スタッフ本人に「聞いたで~」と言いに行きますから。 大橋: 褒め言葉は無料ですから。特に褒めることは大事にしています。しかも一対一で、一人ひとりを特別に褒めます。 田端: 半年に1度、人事評価がありますが、一般的には課題や改善点を言われて、ネガティブなイメージも多いと思います。そこでも、必ず褒めることをしています。「ここができていないから頑張ろう」ではなくて、「ここができていたね、また頑張っていこう」と。 大橋: できていないところが目につくかもしれないけど、できていないところをわざわざ面接の場で言うなんて、管理職としてはあってはならないと思っています。その都度、注意したらいいんです。 「1週間前のあれな~」と言うなんて、こんな注意のしかたはありません。だから、人事評価ではしっかりとできていたことを褒める、そうしたらスタッフは元気に部屋を後にしますよ。 人事評価はご褒美をいただくような場であるべきだと思っています。 ** 医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者 大橋奈美   三次救急で8年、看護短大の非常勤講師として1年、公立病院で5年勤務の後、ハートフリーやすらぎを立ち上げる。 日本訪問看護認定看護師協議会 代表。 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション所長 田端支普  総合病院の小児科を含めた混合病棟で6年、産婦人科混合病棟で4年勤務後、ハートフリーやすらぎに入職し、訪問看護師に。2012年に訪問看護認定看護師の資格を取得。2018年に特定行為研修修了。

インタビュー

低い離職率を実現する採用戦略と教育システム

人材不足が大きな問題となっている訪問看護業界。株式会社ツクイは訪問看護事業を拡大しつつも、低い離職率を実現しています。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、離職率低下につながる採用戦略や教育システムについて詳しくお話を伺いました。 採用プロセスの工夫 ―看護師の採用において何か工夫されていることは? 竹澤: 特別なことはしていないですが、採用説明会は時間とお金をかけて必ず3日間ほど開催し、私も必ず行くようにしています。その後体験会も実施しています。説明会の参加者は多いときで1日10~20人ほどで3回に分けて行うこともあります。 応募は、ハローワーク経由でも十分にありますし、友達の紹介や、社内の紹介制度で社内移動してくる人もいます。また、各地域に配属されている、リクルーターという採用担当者から、各地域の状況や分析した情報をもらっています。 ―説明会の後はどのような採用プロセスなのでしょうか。 竹澤: そのあとは一次面接が管理者、二次面接は私かエリア長が行います。管理者面接の場合は、私が一次面接から行きます。採用面接は大事にしていて、会社の概要から訪問看護の説明も含め一時間くらい話し、そこから面接に入ります。 その後着任するまでは、リクルーターから状況確認や必要資料の手配など、しっかりフォローをするようにしています。 ―応募される人は、病院に勤めている人が多いですか?皆さん、どのような理由でツクイを選ばれるのでしょうか。 竹澤: 休職中の方もいますし、病院勤務の方もいます。会社が大きいということと、会社としての教育体制が整っているという部分をご評価いただいているようです。 給与体系が東京を標準として全国で概ね一緒であることや、管理者にも残業代が出るという部分も理由かもしれません。 採用時大切にしているポイント ―採用する側として、こういう人を採用しているとかはありますか。 竹澤: 採用基準は設けていませんが、「つくいびと」という社内の指針に合っているかを面接で見ます。人間性が一番のポイントですね。看護経験はあとから積算できますし、看護技術や知識はこちらで教育することができるので。 最近、経験年数は少ない若い看護師が入りましたが、病院の経験に根付いているベテランよりも、若い子の方がスッと入り込める部分もあり、お客様からのクレームもすごく少なかったりします。そのとき最善の判断や、対応ができるようになるには時間がかかるかもしれませんが、新人の看護師でも採用して育てられる土壌にしていくのが目標です。 ―管理者はどのように探し、アサインされるのでしょうか? 竹澤: 知人の紹介などもありますが、他社と同様に人材紹介会社やハローワーク経由での募集もします。ツクイブランドの力もあってか、応募は結構あります。皆さん一般職で応募されてきますが、その中から「この人なら管理者に向いているな」と思った方をアサインします。 管理者になる人は、管理者経験や病院などで主任や副師長などをやっていた人が多いのは事実ですが、ツクイの管理者業務は明確に文章化されていて、わからない事を聞ける体制もしっかりしているので、引き受けてくれる方が多いです。 ―離職率はどのくらいですか。低い離職率を実現するためには何が必要でしょうか。 竹澤: 一年間で辞めた人は、10%ほどです。ミスマッチがないよう、採用面接のときにツクイの将来性も含めて、働くイメージをわかりやすく伝えるようにしています。 訪問看護だけでずっと働いて、疲れ果てて辞めてしまうということにならないよう、社内で異動ができたり、次のステージを用意したりして、夢を持って仕事をしてほしいという話もします。ご縁があってツクイで働いてくれている看護師には、「ツクイで働いてよかった」と思ってもらいたいです。 管理者には「10褒めて、1指導する」ということを伝えています。この仕事はストレスも多いので、スタッフに感謝を伝えることを大切にしています。 教育システムを効率化する ―教育についてはどのようなシステムになっているのでしょうか。 竹澤: 最初に、「ツクイの基本」を身に着けてもらいます。e-ラーニングを使って、制度の事や記録、ハラスメント、ダイバーシティ、コンプライアンス、ツクイの考える育成、衛生管理などさまざまな内容を3日間で受講します。 その後、管理者や所長によって看護のオリエンテーションを行い、現場でのOJTとなります。現場が忙しい事業所だとOJTに入りながらオリエンテーションを行うところもありますが、2021年度からは管理者に負担をかけないよう、WEBでも教育サポートができる体制を整えていく予定です。 ―OJTの後はどのようなフォローを?教育パスはあるのですか。 竹澤: 看護ではおおまかな教育パスのようなものがあります。一人ひとり経験値が異なるので、目標設定は管理者がそれぞれに応じて行い、フォローしていきます。 管理者教育に関しては、定期的なe-ラーニング研修を年に2回行い、数字の見方、営業戦略、医療的な内容などを学びます。新しく入った人が管理者になる場合は、導入研修のあとに試験があり、それに受からないと管理者にはなれません。 また、ツクイではキャリアパス制度を設けていて、スペシャリストコースとマネジメントコースに分かれています。eラーニングの中にも、それぞれのコースに沿った内容があり、一人ひとり、特性に合ったコースを選択できます。 管理者にはなりたくないと思っていても、スペシャリストとしてキャリアアップすれば給料もあがりますし、専門性も高めることができます。 ―それらの教育システムは誰が作っているのですか? 竹澤: 人事です。項目は100から200ほどありますが、今後は訪問看護ならではの項目も入れたいと考えています。日本訪問看護財団が出しているeラーニング(※1)も受講してもらっています。 教育システムはすべてマニュアル化され、eラーニングの見方から、いつ管理者になっても困らないようなシステムを整えています。 また、サービス管理部では、事故起こしたときの対応から書類の書き方まで、管理者がそれを見れば対応できるようなシステムを作っています。まだ足りていない部分もありますが、介護事業でツクイが培ってきた経験が、教育システム作りに活かされていると思います。 ―今後、教育に関して取り組んでいきたいことはありますか? 竹澤: ラダーにそった教育を可視化できるようにしたいです。導入研修や管理者研修など、管理者向けの部分が多いので、スタッフもスキルアップできる制度を作りたいと思っています。 他社のような研修室をつくるのもいいなと思います。オンラインもいいですが、対面でできる研修も大事にしたいです。   【参考】 ※1 公益財団法人 日本訪問看護財団 eラーニング https://www.jvnf.or.jp/e-learning/ ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

特集

知っておきたい!病棟看護師が訪問看護師になるときのハードル

超高齢化社会を目前にし、2019年厚生労働省は訪問看護師の不足について実際の試算を発表しました。現在は5万人の訪問看護師が従事していますが、2025年には12万人が必要だと言われています。 しかし、訪問看護へ転向する際「看護経験が少ないと難しい」と多くの看護師が感じ、なかなか踏み出せないようです。 私は自身が訪問看護をスタートした時に感じた不安をベースに、訪問看護の楽しさとスムーズに仕事がスタートできる内容で勉強会と交流会を2018年11月より毎月開催してきました。実際に病棟看護師から訪問看護師へ転向した方のリアルな悩みや苦労に対してどのようなアプローチが有効か考えていきます。 未経験分野への挑戦 お話を伺った安原郁恵さんは、介護福祉士としてグループホームやデイサービスを10年ほど経験したのち、看護師の道へ進みました。 資格取得後は小児科病棟へ配属され、多忙な業務を必死で働き続けていく中、ふと介護福祉士時代の看取りを思い出しました。 一人ひとり患者とゆっくり向き合う時間や家族との関わりなど、看護の本質をじっくり追求できる看護をしたいと思うようになりました。その後、約3年働いた小児科病棟から訪問看護へ転向しました。「成人看護の経験がないことがとにかく不安でした」と安原さん。 看護師の経験は小児科のみ。病棟経験はあるものの、末梢静脈路確保、膀胱留置カテーテル交換、インスリン注射などの経験はありません。 訪問看護は介護保険を利用している方が6~7割程度を占めています。そのため、成人看護、老年看護が主体となっている訪問看護ステーションがほとんどです。 安原さんにとっては「未経験分野」への挑戦となりました。 少しずつスキルアップ 安原さんの訪問看護ステーションでは、見学同行(先輩のケアを見学する)、実施同行(先輩にケアに同行してもらう)というスタイルで全3回程度の同行をしています。 その後も「不安だったらもっと一緒に同行するよ」と先輩から声をかけてもらい、付き添ってくれることもありました。こうした手厚いサポートのおかげで、未経験ながらも安心して取り組むことができたそうです。 不安の大きい看護技術に対しては、手順を勉強して、動画で確認、イメージトレーニングを行いました。 自己学習した上で、見学同行で確認、実施同行で指導してもらうという学びを繰り返していくことで、出来ることが少しずつ増えていき、結果、自信につながったそうです。 はじめは誰もが「初心者」 訪問看護の対象者は、成人から老年期がメインです。小児科からのシフトは一見ハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、病院でも一緒で、部署や病棟が変わればそこは「未経験分野」だったはずです。 新卒看護師の指導方法として、プリセプター制度があり、全国でも多くの病院に導入されていると言われています。 プリセプター制度の中心として欠かせないものに、実際に仕事をする中で業務上必要な知識・技術・技能を身につける OJT(On the job training)があります。 効果的な OJT の実施は、新卒看護師および先輩看護師がともに成長・ 発達できるとされています。 訪問看護においてもこれらのOJTを基本とした指導を受けることで、安原さんのように全くの未経験分野でも挑戦することができると考えられます。日本訪問看護財団(※1)や東京都福祉保健局(※2)でも「訪問看護師OJTガイドブック」を作成しています。 ここで、注意しなくてはならない点があります。 それは、訪問看護へ転向してくる看護師のほとんどは、臨床での十分な経験を積んできているだろうと思われているということです。 指導する側も「これだけの経験があればきっとこのくらいのことはできるだろう」「このような疾患の患者はきっとみたことがあるだろう」という思い込みで、任せてしまうことがあります。 また、臨床経験の長い看護師が訪問看護へ転向すると「いまさら知らない、経験がないとは言いにくい」という心理的ハードルがあります。原因として、年齢や経験年数が指導する側と指導される側でねじれが起きていることも考えられます。 そのため、経験や自信を可視化できるような技術・経験チェックシートを活用することがお互い納得のいく方法だと考えます。 看護師の経験年数に関係なく、訪問看護へ転向した際は「在宅領域では新人」と捉え、一定期間は新卒看護師と同じように精神的フォローを含めて関わる必要があります。どんなことでも相談できる体制を整えたり、研修制度を設けたりすることで安心して働くことができます。 また、新卒看護師の教育において、Off-JT(Off the Job Training)の集合研修との組み合わせは、スパイラル学習の効果があると言われています。 定期的なステーション内の集合研修、e-ラーニング導入、カンファレンスを活用した学習会などを行うことが訪問看護においても大切だと考えられます。 成功体験を共に積み重ねる 安原さんは、これまで1年間、訪問看護を続けてきました。 1人で訪問できる利用者を増やしていき、入職後4ヶ月目には24時間対応の携帯当番も担当させてもらえるようになったそうです。 もちろん初めての経験ですので、うまくいかないこともありました。担当した利用者の排便コントロールがうまくいかず、介護している家族に負担をかけてしまったという苦い経験をしました。 先輩からの助言を元に、内服の調整や観察にて試行錯誤を繰り返してきた結果、今では訪問時にトイレで排便をさせることができるようになったそうです。 何よりも、丁寧な関わりで家族の辛さに寄り添い、意図的なコミュニケーションの時間を持つことで信頼関係を築いていきました。 介護福祉士として生活を中心に携わっていた経験が介護者に寄り添う看護へとつながりました。その家族から「あなたでよかった」「長く続けてね」と言ってもらったことが、今までやってきて一番嬉しかったそうです。 このように利用者からフィードバックをいただくのはとても嬉しく、成功体験だといえます。 しかし利用者からの評価にとどまらず、先輩看護師からの評価をもらえることも必要で、スタッフの定着においても非常に大切だと言われています。 カンファレンスでは、訪問している看護師の関わりが、利用者にとってどのような良い状態につながっているのか言語化すると良いでしょう。訪問看護での成功体験の少ない看護師とって、自分の看護を先輩看護師に評価してもらう機会を自然に持つことができます。 また、複数の看護師が関わっている場合、新任看護師の対応に不備がないか確認し、フィードバックすることも有効だと思います。 まとめ 同行訪問でのOJTの効果的な指導を繰り返し、実際の訪問看護の中で成功体験を積み重ねることで未経験分野に対する漠然とした不安を払拭し、一人前の訪問看護師へと成長していきます。 そこには利用者からの感謝の言葉だけでなく、カンファレンスでの客観的な利用者のアウトカムの確認や先輩からの適切な評価が大切だと考えられます。     訪問看護師・ケアマネージャー マインヘルスケア株式会社代表取締役 西山 妙子 2001年 横浜赤十字看護専門学校卒業後、総合病院、大学病院手術室に勤務。結婚、子育てを経て訪問看護の道へ。2015年ケアマネージャー取得。病院の業務で疲弊しないでほしいと看護師の横のつながりや、新しい看護師のライフスタイルの提案を行うナースのためのオンラインサロン「ナースライフバランス 」を2017年10月より運営(現会員数約880名) 【参考】 ※1 日本訪問看護財団 訪問看護師OJTガイドブック ※2 東京都福祉保健局 訪問看護OJTマニュアル 【参考文献】 公益財団法人 日本訪問看護財団 令和2年度事業案内(2020) 訪問看護人材養成基礎カリキュラム(2016) 厚生労働省新人看護職員研修ガイドライン訂正版 小宮山陽子 、水澤千代子 、岡村典子 他(2017)看護研究交流センター 地域課題研究報告「プリセプター制度の現状と課題」

インタビュー

「初めてだから」の教育

リカバリーインターナショナル株式会社では、入社時に訪問看護未経験者の方が9割以上で、平均年齢33.4歳です。 若くて活気のある会社で、一番大切にしているのは「安心して働いでもらうこと」と語る大河原さんに、ステーション設立への想いと教育制度について伺いました。 初めての看護の教育 大河原: 訪問看護ではどうしても即戦力が求められるため、入社後のフォローアップが難しい状況はあります。ただ私としては、看護師が安心して働けることが何より大切だと考えています。 安心してもらうために、入社時のオリエンテーションでは私たちの想いを知ってもらい、同じ想いを持って仕事をしてもらえるように、必ず私から当社の軌跡の話をしています。 ―会社の軌跡とは、どんなお話をされるんですか? 大河原: 私が訪問看護ステーションを始めた経緯などをお話しています。 新卒から8年間、公立や私立の病院で働く中で、専門職として「一生懸命勉強して自己研鑽している人」と「そうではない人」の評価が変わらない画一的な日本の人事評価システムに疑問を感じるようなっていました。 一方海外では、スペシャリストとしての看護師の努力が評価されていると聞いていたので、海外で働きたいと強く思うようになったんです。 ―海外志向が強かったんですね。 大河原: はい。その頃、たまたま看護師としてオーストラリアに行くチャンスを得て現地で、働くことになりました。しかしそこで憧れていた海外での働き方が、自分自身の想像と違うことに、すごくショックを受けました。 ―どのように違ったのでしょうか? 大河原: オーストラリアでの看護師の仕事はマネージメントや研究がメインで、現場の仕事はほぼできないことがわかったんです。 ショックのあまり「もう看護師を辞めようか・・・」とまで思い詰めたのですが、このままではダメだ!とにかく元気になろう!とフィリピンに行くことにしました。 その旅行中、たまたま現地のご家庭を訪問するボランティアを募集していました。参加してみると、伺ったお宅でご家族が寝たきりの高齢者の面倒を見ている場面に遭遇しました。 私が「施設には行かないの?」「他にお願いできる人はいないの?」と聞くと、ご家族は「私たちは家族だから、最後まで協力して家で看るんだ」と教えてくれました。この何気ない一言で、自分の中で非常に大きな変化がありました。 ―フィリピンでの体験が、転機になったんですね。 大河原: はい。私自身を振り返ってみて、元々は患者さんやご利用者さんのために仕事をしていきたいという思いがあったのに、いつの間にか「自分が、自分が」という気持ちが強くなっていたことに気づいたんです。 そこで初心に帰って、ご本人と家族の思いを大切にする訪問看護を日本でやろうと思って、リカバリーインターナショナルを設立しました。 経験は問わず「もう一人の温かい家族」という経営理念を共有できる方を採用していますし、そういった思いは入社時にも改めてお話しています。 「初めてだから」の入社後教育 大河原: 入社後は、最長3か月の同行訪問を行っています。20代で訪問看護が初めてという看護師も多いですが、同行の中でやったことのないケアや自信のないケアは先輩を見て勉強してもらうと、大体4か月目には一人で安心して訪問できるようになります。 また定期的な勉強会も開催しています。病院でも皆さん色々な勉強会を毎月のように行っていたかと思いますが、訪問看護ではなかなか全員が集まって勉強会をすることはできません。なので、勉強会を開催する際は同時にその様子をビデオ撮影し、後日いつでも勉強できる環境を整えています。 実際、当日の参加率は20%程度ですが、後から見るスタッフも多く、半年後には75%ぐらいの視聴率になっています。 ―勉強会はどのようなテーマで開催されていますか? 大河原: 専門的なケアの内容の勉強会も多いですが、ビジネスマナー研修なども実施しています。 看護師や医療職者はこういった勉強をしたことがない場合が多いですが、訪問看護では利用者さんや多職種の方と直接関わる機会も多いため、メールの送り方や件名の書き方など基本的なマナーの勉強会も開催しています。 また将来の管理者やリーダー候補には、リーダー研修やマネージメント研修を通してP/Lや販管費の見方も勉強してもらっています。ただし、実は一般的な訪問看護の経済的な価値については、管理者候補以外の全スタッフにも考え方を共有するようにしています。 ―訪問看護の経済的な価値とは、どういったことでしょうか? 大河原: 私は、訪問看護の「自分が行った価値」がいくらかなのかを知るべきだと思っています。 入社したばかりのスタッフは「30分訪問に行ったらいくらもらえるのか」を知りません。聞いてみると「1000円」とか「2000円」といった答えが返ってきますが、実際には、30分訪問に行ったら約6000円もらえます。 これが訪問看護の経済的な価値です。 これを知っているか知らないかでは、自分の仕事に関する考え方に大きな違いが生まれます。また利用者様への契約や説明をスタッフが行う、カンファレンスにも役職者だけでなく全スタッフが行くという方針で運営することで、自分の仕事に誇りと責任感をもってもらいたいと思っています。 リカバリーインターナショナル株式会社 代表取締役社長 / 看護師 大河原峻 大学在学中に海外にホームステイしたことをきっかけに、海外で働くことに興味を持つ。卒業後、手術室勤務を経てオーストラリアで働くが現実と理想のギャップに、看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。2020年12月現在、設立7年で11事業所を運営している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。    

インタビュー

ウィル流!ベテランも先輩も支える教育システム

前記事では新人にフォーカスした教育についてお伺いしましたが、先輩看護師やベテラン看護師の訪問看護キャリアをしっかり支援する教育制度もあります。 キャリアを長い目で見て、背中を押してくれる「看護ラダー」や「交換留学」はどんなものなのでしょうか。岩本さんに、引き続きお話を伺っていきます。 独自の教育プログラム 岩本: 多くの臨床現場で基本とされているベナーの「臨床看護実践における5つの能力レベル」と、訪問看護師して私たちが必要だと考えている要素を掛け合わせて、5段階のラダーを作っています。 まず、どんなに病院で経験がある方であっても訪問看護が初めてであれば、ラダー1から始まります。 ラダーの考え方は、タスクベースではなく、「個人と組織の2軸に対する影響範囲」と考えていただくとわかりやすいと思います。 ■個人への影響範囲 「目の前の患者さんに対して良いケアを直接行った」というのは対個人への影響です。このラダーが上がってくると、 ・この患者さんに関わっている家族 ・近隣の住民 ・キーパーソン ・関わる多職種 ・地域全体 に対して、自分自身の看護がどこまで影響を及ぼすつもりで介入や行動ができるか、あるいは実際に影響を及ぼすことができるかと考えられるようになっていきます。 ■組織への影響範囲 「自分自身がとにかく勉強できて、成長できて、熟達できればいい」と個人で完結しているならばラダーはまだ低いです。 ・同僚の人にも自分が得意で相手が苦手な部分であればサポートしよう ・後輩が入ってきたら先輩としてサポートをしよう ・新人が入ってきたら自分が新人を支える先輩を支えよう ・先輩としてそのしくみ全体を支えよう とチーム全体や複数のチームに影響範囲を広げられるようになると、ラダーが上がって行きます。 これは病院のラダーで言えば、新人看護師からプリセプターになり、リーダーといった役割を持ち、主任→師長→看護部長といったように、影響範囲が広がっていくのと似たような考え方かと思います。 ウィルで人気の「交換留学制度」とは? 岩本: 私たちは全国に7拠点ありますが、地域が違うとやはりチームの強み、運営スタイル、利用者属性の偏りなどが異なります。そうすると非常にバリエーションがあって面白いです。 そこに実際に出かけて、他のチームの実践や運営を体験して戻ってくるのが交換留学生制度です。 この交換留学制度は、ラダーが一定以上になった看護師に対し、すべて法人側で費用を負担し、研修として行っています。。留学といっても長い期間ではなくて1泊2日から長くて1週間程度です。 これはとても有効で、ずっと同じチームにいて先輩側になってくると、相談できる相手もだんだん減ってきます。どうやって後輩や周りの人たちを支援していくといいのか、思い詰めて悩みがちになりってしまいます。 そうした時に隣のチームに行って同じような立場の人とディスカッションする、あるいはこんなやり方があるのかと感じて帰って来る。これは暗黙知のシェアと呼ばれますが、そういった体験をして帰ってきます。 ちなみにこれは余談ですが、一番人気の交換留学先は沖縄です(笑) ―そのほかに、社内で取り組まれている学習支援はありますか? 岩本:学習教育に関しては、社内の専門家によるEラーニングを展開しています。こちらがその内容の例です。 ・精神看護の専門看護師による「在宅ケアでの精神看護」 ・小児看護学における博士課程進学者による「在宅ケアでの小児看護」 ・家族支援の専門看護師による「在宅ケアでの家族支援」 ウィルでは社内の専門家にコンサルテーションの依頼やウェブ上で地域に関係なくいつでも相談やディスカッションが行えるしくみも整えています。実際に現場に一緒に出かけて、看護実践について迷っていることの支援することもあります。 WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師 岩本大希 ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養の中でも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。

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