ケア知識に関する記事

糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

「糖尿病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は糖尿病について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 糖尿病患者の在宅療養では、脳卒中や心筋梗塞、低血糖症などの救急搬送を要する疾患の発症予防や、■高血糖 ■低血糖 ■シックデイ ── などへの留意が必要です。そのためには、外来受診や訪問診療での医師の診察に加え、ケアマネジャーを中心とした地域の訪問薬剤管理指導や訪問看護、訪問栄養指導、訪問リハビリテーション、訪問介護等のサポートと、何よりご家族の協力が不可欠です。シームレスかつタイムリーな地域連携のために、ハイセキュリティな医療用SNSをはじめとしたICT利用や、日本看護協会が推奨する特定行為研修修了看護師の地域配置が、一助になると考えられます。 在宅医療での糖尿病患者の特徴 在宅医療で介入が必要な糖尿病患者は、高齢や認知症だけでなく、廃用症候群や摂食嚥下障害の合併があり、高血糖、低血糖、シックデイ、自己管理困難、介護力不足など、複数の療養阻害要因を抱えるケースが散見されます。これらに対して安全性を担保するために、以下の対応が必要です。 治療方針 在宅での高齢者糖尿病患者では、身体機能や認知機能、心理状態、社会的環境を勘案し、個別的かつ総合的に目標を設定することが求められます。具体的には、認知機能やADL、そして重症低血糖リスクが危惧される薬剤の使用有無によって、血糖コントロール目標値を設定します。詳細は「高齢者糖尿病診療ガイドライン」1)を参照してください。 糖尿病を持つ患者への訪問看護 訪問看護では、患者の協力体制を得ることが不可欠です。血糖自己測定(SMBG)の値推移、日々のバイタルサイン、身体状況からアセスメントして推測される状況を、医師へ報告する必要があります。 患者ごとの血糖コントロール方針が立てられる 高齢患者では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」2)に沿って、年齢や認知機能などをもとに、カテゴリー分類が判断されます。高齢者では、健康状態や治療内容によって、血糖コントロールの方針が異なります。必ずしもHbA1c値を下げるのがよいわけではなく、カテゴリーによってはHbA1c値を緩徐に上げる場合もあります。そのため、連携先の医師と、患者の情報を共有することが重要です。 患者のADLや年齢、薬剤、残存疾患といった情報から、患者にとって最適な血糖コントロールが判断されます。患者に接する機会が多い医療職である訪問看護師が、患者との人間関係を構築し、日常生活の情報を聞き取り、医師へ情報提供できる体制が望ましいでしょう。また、患者に対し、日々の治療に対するモチベーションが低下しないよう、血糖測定や内服を忘れず実施できていることへの労りの声掛けも大切です。 過去に低血糖を起こした既往がないか 低血糖は生命リスクを高めます。過去に低血糖を起こしていればリスクが高いと判断し、対応することが必要です。シックデイの際にはどのような対策をとればよいか主治医に相談の上で、患者へ指導します。 また、低血糖を頻発している人は、交感神経症状である発汗や頻脈、手指振戦が出ないこともありますので、中枢神経症状である頭痛や集中力低下がないかを注視することも必要です。 薬剤の服薬状況 過去に処方されて余っている薬などがないかを、確認する必要があります。過去処方されていたスルホニル尿素薬(SU薬)など、低血糖を惹起する血糖降下薬が出てきたから「今の薬とあわせて飲んでしまった」というケースもありえ、場合によっては救急搬送や致命的な状態に至る場合もあります。現在処方されている薬だけではなく、過去処方の残薬がないかを初回介入時に調べることが重要です。 訪問看護師に求められる対応とそのポイント 低血糖 低血糖で現れる自律神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が高齢者では現れにくく、高齢者は低血糖となっても無自覚となりやすい特徴があります。高齢者の低血糖は、転倒や骨折、うつ状態の誘因になるともに、認知症発症の危険因子でもあります。QOLの低下にもつながるため、注意を要します。 経口摂取が可能な場合は、ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料200mLを摂取し、15分後に血糖を再測定します(ブドウ糖以外の糖類では効果発現が遅れます)。 経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ、グルカゴンがあれば1mgを注射し、医療機関に搬送となります。応急処置で意識レベルが一時回復しても低血糖の再発や遷延があり、注意を要します。 シックデイ 急性疾患の併発等によって、血糖コントロール悪化、食事摂取量低下があれば、対策が必要です。可能であれば血糖値を頻回に測定しながら、家庭ではできるだけ経口的に、水分・炭水化物・塩分を摂取させます。お粥やスープ、お茶、ジュース、アイスクリームなどが摂取しやすいとされています。 薬剤コンプライアンスとアドヒアランス 独居や老老介護生活の患者の場合、在宅医療の開始となった早期に、残薬整理の介入を実施することは、過量服用や薬剤不適切使用の防止に有用な手段です。 また、訪問薬剤管理指導により、薬剤師が定期的に生活状況を確認することで、食前食後薬の用法統一、腎機能・血糖値・食事量を考慮した減薬、認知機能や運動機能を考慮した注射剤デバイス変更など、処方への提案が可能です。薬剤師による電話フォローも、コンプライアンス、アドヒアランス両方の向上に寄与すると考えられます。 自己血糖測定や自己注射の援助 自己管理が必要にもかかわらず、それが困難な患者では、 ■家族や訪問看護による他者管理■訪問薬剤管理指導、訪問介護等による見守りのもとでの自己管理を検討します。 独居や経済的問題等でコメディカルの介入が困難な場合には、スマートフォンのビデオ通話機能を利用し、遠隔で看護師見守りで実施するケースもあります。 制度面の知識 ■身体障害者手帳申請:肢体不自由、視覚障害、じん臓機能障害(eGFR20未満)等■自治体ごとの医療福祉費支給制度の利用で、自己負担の費用を軽減できる場合があります。しかし、独居高齢患者等では、申請準備が困難なケースも少なくありません。ケアマネジャーが中心となり、本人の意思に寄り添いながら、主治医や多職種、福祉や行政等の間に立ち、申請援助をすることも重要です。 特定行為研修修了看護師の活躍 秋田県由利本荘市は、全国的にも高齢化率が高く、訪問診療医が少ない地域です。そのような地域において、在宅にかかわる看護師の特定行為研修を進める動きが活発に行なわれています。これは、秋田大学大学院医学系研究科 安藤秀明教授のご協力のもと、訪問診療医が実習を担当し、働きながら地域で特定行為研修を受講できる体制が構築されました。2022年には第1期生として4法人6名の看護師が研修を受けました。 特定行為研修修了者の活動により、医師数が限られた地域であっても、望まれるケアの充足につながります。たとえば、特定の範囲内であれば基礎インスリン量の変更も、医師の指示を待たずに看護師が変更することができます。専門的な医学教育を受けた看護師が訪問することで、地域で、病院に近い質の高い糖尿病療養を実施できる一助になると期待されています。 訪問看護師による遠隔指導 由利本荘市のごてんまり訪問看護ステーションでは、訪問看護師による遠隔指導を行なっています。在宅患者にタブレットを貸与し、SMBG指導や超速効型スケール指導、インスリン注射指導を遠隔で実施しています。高齢になるほどインスリン単位数間違いの危険性が高くなりますが、つど遠隔で指導を実施することで、指導効果は上がり、単位数間違いによる低血糖リスクを予防することができます。 遠隔指導のよさは、通常は入院しなければ困難な強化インスリン療法の指導でも、在宅で実施できることです。指導のために入院となると、筋力や認知力の低下が避けられませんが、それらを防ぐこともできます。何よりも入院費の削減に大きな効果を発揮します。 2023年12月現在は、D to P(Doctor to Patient)による遠隔診療に対する診療報酬算定は要件があるものの認められていますが、N to P(Nurse to Patient)またはD to P with Nについては診療報酬上の評価がありません。しかし、きたるべき超超高齢社会と限界集落の増加に備えてN to Pを実施していかなければならない地域として、このような取り組みを行なっています。 執筆:谷合 久憲  たにあい糖尿病・在宅クリニック院長藤沢 武秀ごてんまり訪問看護ステーション看護師血糖コントロールに係る薬剤投与関連特定行為研修修了者八鍬 紘治日本調剤東北支店在宅医療部薬剤師糖尿病薬物療法履修薬剤師秋田県糖尿病療養指導士長堀 孝子SOMPOケア由利本荘介護支援専門員木村 有紀ごてんまり訪問看護ステーション作業療法士齋藤 瑠衣子たにあい糖尿病・在宅クリニック管理栄養士 編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)日本老年医学会ほか編著.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,264p.2)日本老年医学会ほか編著.「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針」.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,34.3)週刊日本医事新報  NO.5198 2023

訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
特集
2024年1月30日
2024年1月30日

訪問中に利用者さんが窒息したら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんが窒息したときの対応法です。 注意していても起こり得る誤嚥や窒息 訪問看護師は普段から訪問看護サービスを提供するなかで、利用者さんの嚥下機能を観察し、評価を行っているはずです。そして、その嚥下機能に応じて看護計画を立案し、計画に沿って口腔機能の訓練や食事形態の調整などを実施しています。嚥下機能に問題があれば、在宅で主に介助を行う家族や訪問介護員(ヘルパー)に嚥下能力の情報を共有し、安全な介助方法を指導するといった連携をもって誤嚥予防に取り組んでいることでしょう。 ところが、細心の注意を払ってケアを実施していても軽い誤嚥を起こしてしまうことがあります。アセスメントの結果、最初から嚥下に問題ありと判断できる場合、吸引器が準備できているとよいでしょう。ご家族が安心して安全に吸引できるように指導しておくことも訪問看護師の役割です。口腔ケアに吸引器を活用して誤嚥性肺炎の予防に用いることもできます。また窒息を疑うときにも吸引器が役立ちます。咳嗽が誘発され、異物が喀出されやすくなります。 訪問看護では誤嚥リスクの高い、体力の低下した高齢者や小児の利用者さんも担当します。「窒息かも!?」という場面に遭遇したときの対応について解説します。 窒息のサインを見逃さない 窒息に早急に対応するために、まずは窒息のサインを見逃さないようにします。最初の症状は咳き込みですが、重篤な場合、以下の症状がみられます。 いびきのように声を振り絞っている、または声を出すことこができない咳が弱い、または咳をすることができない両手でのどのあたりをかきむしる、わしづかみにする(チョークサイン)呼吸が徐々に弱まる顔面蒼白けいれん症状意識の低下 このような症状がみられたら気道閉塞を起こしている可能性があります。すぐに気道内の異物を取り除く必要があります。 窒息時の対応法 声かけをして反応をみます。声かけに反応があれば「咳をして!」と強い咳払いを促し、気道に詰まった異物を喀出できるまで介助します。先述のとおり、咳が弱い、呼吸が弱まるなどの様子がみられたら窒息の可能性があります。次に示す背部叩打法やハイムリッヒ法を行ってください。 背部叩打法 前傾姿勢、あるいは座位保持ができない場合や仰臥位の状態であれば側臥位の姿勢にして、その姿勢を保持したまま、左右の肩甲骨の間を手のひらの付け根あたりでかなり強く叩きます。4~5回叩いたら表情や呼吸音、呼吸状態を確認しながら、異物が出てくるまでこれを数回繰り返します。その場の状況判断にもよりますが、救急車を要請することも必要です。 ハイムリッヒ法 重度の気道閉塞では、異物を喀出させるための緊急対応としてハイムリッヒ法(腹部圧迫法、腹部突き上げ法とも呼ばれる)が推奨されています。ただし、妊産婦や乳児には行えません。寝たきりで座位保持ができない利用者さんに対しても不適切な場合があります。また、初めてハイムリッヒ法を実行しようとしても容易ではありません。実施可能な要件を熟知しておくとともに、適切に対処できるように知識・技術をしっかり習得しておくことをおすすめします。 意識が消失したら心肺蘇生、吸引も考慮 もし、意識が消失するようであれば、直ちに心肺蘇生に移ります。蘇生しながら口腔内に見えている異物を除去したり、吸引を実施したりします。 異物が取り除けたら十分な観察を 異物を取り除けたら深呼吸を促します。呼吸状態が落ち着いた後も、十分な観察が必要です。口腔内の観察では異物の残渣や傷がないか、歯に問題がないかをみます。部分入れ歯を装着していた場合、あったはずの入れ歯がなくなっていると新たなトラブルになってしまいます。また、発声したときに痛みやかすれ声(嗄声)がないか、本人の違和感といった自覚症状も確認しましょう。 異物除去後の最初の経口摂取は、とろみを付けた水分を一口からゆっくり摂取してもらい、しばらく様子を見ながら徐々に元に戻していきます。 掃除機での吸引はすすめられない 一部の通説では窒息したときには掃除機が有効といわれていますが、衛生上の問題や本来の使用目的ではないこと、ノズルの硬さなどから口腔内を傷つけるリスクのほうが高いため、決しておすすめできません。知識として頭の隅に残しておく程度がよいと思います。 誤嚥の原因は食事以外にもある 窒息事故はほんの数分でも脳に深刻なダメージを与えてしまいます。後遺症を残す可能性があるため、普段から予防に努め、急変時には今回紹介したような手順で対応できることが重要です。 また、窒息は食事中の誤嚥以外にも嘔吐物の誤嚥や痰の性状によっても起こることがあります。利用者さんの病状をよく観察し、専門家として体位の調整や痰と水分量のバランスを検討するといった事前の対処もとれるようにしておきましょう。 誤嚥の可能性ありなら最善策をとる ここで筆者がかかわった事例の一つを紹介します。今回の対象者は発話がほぼない認知症高齢者の利用者さんで、コミュニケーションもほとんどとれません。嚥下のレベルは、固形物を咀嚼できず、栄養剤を吸い飲みで口腔内に流すと何とか嚥下ができる程度です。 吸い飲みの「吸い口」が見当たらない 食事介助はヘルパーが実施しています。ある日、介助中に吸い飲みに付属しているシリコンゴム製の吸い口が見当たらないことに気がつきます。「飲み込んでしまったようだ」とヘルパーから訪問看護ステーションに連絡があり、すぐに訪問しました。 利用者さんの口腔内を確認するも吸い口は見当たりません。明らかな呼吸困難もなく、その状況からは誤飲したかどうかは見きわめられませんでした。しかし、吸い口が見当たらないのは事実です。今は問題ないと思えるものの、吸い口の形状から気管分岐部あたりに留まっているとしたら、今後問題が生じる可能性も考えられました。 本人は苦痛や違和感を訴えることができない状態です。何も問題がないという結果であったとしても、安心できる結果を得られることから、救急車を要請して受診してもらうことにしました。検査で三日ほど入院しましたが、結局、異常は見つからず無事に帰宅されました。 * * * 誤嚥は肺炎を引き起こします。肺炎を繰り返すと入退院につながり、利用者さんの負担が増えます。また、窒息事故は利用者さんやご家族との関係性に禍根を残すこともあります。担当した訪問看護師も自責の念にかられてしまうでしょう。そのような事態を防ぐためにも日ごろからのリスク対応が必要です。 在宅は病院と違い、病状変化においてすぐに医師の診察や検査を受けることはできません。窒息に限らず在宅看護では常に、今何が起きているのかということをしっかりと把握し、どう対応するかを判断する能力が求められます。看護師一人で対応するのではなく、ぜひステーション全体でリスクマネジメントに取り組むようにしていただければと思います。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】
利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】
特集
2023年12月26日
2023年12月26日

利用者さんの急変や在宅死に遭遇したら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんの急変や在宅死を発見したときの対応法です。 訪問看護ではめずらしくない急変や在宅死 訪問看護の利用者さんには重症度の高い方や、ADL(日常生活動作)は自立していても重度な内部疾患を抱えている方が多くいらっしゃいます。そのことも影響して訪問看護の現場では病状の急変や在宅死は決してめずらしい出来事ではありません。 訪問したときに利用者さんが倒れていたら、あるいは亡くなっていたら、どう行動すればよいでしょうか。現場ではさまざまなシチュエーションが考えられます。それぞれの場面における対応方法を見ていきましょう。 急変や在宅死への対応法 ※NsPace編集部注:死亡診断にまつわる基本的な対応方法については、日本看護協会の資料もご参照ください。日本看護協会「在宅看取りの推進に向けた死亡診断の規制緩和について」 主治医に連絡し事前の取り決めに基づき対応 例えば予後不良な末期がんや末期心不全などの利用者さんでは、急変による死亡の可能性について予測がつきます。通常は訪問診療を受けていることが多いので、主治医との連携や連絡体制が整っていると思います。緊急時や呼吸停止していた場合、まずは主治医に連絡しましょう。基本的には事前に打ち合わせしている内容や、指示書に基づき対応します。 なお、主治医への電話連絡では利用者さんの受診状況によって工夫が必要です。地域のかかりつけ医に受診しているのであれば、比較的主治医と連絡をとりやすいですが、総合病院や大学病院などを受診している場合、連絡してもつながりにくいことがあります。そのようなときは、外来や退院連携室の担当者に連絡し、主治医に伝えてもらうとよいでしょう。 ここからは、医師に連絡することは大前提として、蘇生が望める場合と死亡していると思われる場合に分けて対応方法を解説します。 蘇生が望めると判断したら救急要請 呼吸および脈拍や意識レベルなどの身体状況から、救急車を要請するか否か判断を迫られる場面に遭遇することもあります。緊急時における事前の取り決めがなければ、わずかでも生活反応を確認できた時点で救急要請を行います。救急車を待っている間、医療職として利用者さんの蘇生に全力を尽くしましょう。 死亡と思われる場合は警察に連絡 一方、原因が分からず明らかに死亡していると思われる場合、警察に連絡します。私たちは訪問しているのでご本人がどういう病状であったかは分かっていますが、死亡原因がその病気によるものなのかは分かりません。検視が必要となります。警察の到着を待って、事情聴取に応じ、警察が必要とする情報を提供します。 ここで大切なのは、警察が到着するまでの間、できる限り利用者さんの身体や周囲の物に触れないということです。よほどの事件性がない限り、少々触れたとしても問題にはなりませんが、死亡の原因がご本人の病状によるものと判断できたとしても不用意に触らないことが望ましいです。 関係各所への連絡も忘れずに 急変時、死亡時ともに、利用者さんに関係する人たちへの連絡も重要な任務です。ご家族やケアマネジャーなど連絡先として情報を得ている方がいるはずです。身内がいない場合は、地域包括支援センターや行政窓口の高齢福祉課、生活保護課、保健衛生部など、日頃やりとりをしている担当者に連絡します。 また、ステーションに状況を報告します。この後に続く訪問調整の相談も忘れないでください。次の訪問予定時間に遅れが生じ、ほかの利用者さんに迷惑をかける事態を防ぐことも大切です。 急変や死亡が予測できなかった事例 訪問したらいつもどおりにケアを提供できることがほとんどですが、長く訪問看護師を続けていると、予想外の出来事に遭遇します。次に示す2事例は、筆者が経験した事例です。いずれも独居の男性であること、急変や死亡の予測ができなかったことは共通していますが、プロセスに若干の違いがあります。 環境の大きな変化を経験したAさん 高齢の母親と二人暮らしをしていたAさん。生活の多くの部分を依存していた母親が急死。突然独居となり、本人の生活が成立しなくなります。 以前から他人に自宅に入られたくないと訪問看護に消極的でしたが、主治医からのすすめもあり、週1回の訪問看護は受け入れていました。母親が高齢のため、保健師や地域包括支援センターの担当者はAさんがいずれは独居になる事態を予測し、本人が困らないように準備を整えていました。ところが母親の突然の死に訪問介護の準備が間に合わず、訪問看護を週2回に増やし、生活支援も含め対応することになりました。 ある日のこと、訪問予定時間に自宅にうかがい、呼び鈴を押しましたが応答がありません。玄関前で電話をかけますが、それにも応答なしです。玄関は施錠されており入室することもできないため、一旦ステーションに引きあげました。 数時間後に再度訪問するも状況は変わらず。普段の様子から長時間留守にされることはなく、何となく不安になりました。担当の保健師に報告し協議をしたところ、翌日Aさんの受診が予定されていることもあり、お互いに悩みながらもそのまま様子をみることにしました。 受診当日、本人が病院に行ける状態かどうかを確認するため、再度自宅に出向きましたがやはり応答がありません。平常時の本人の状態からすると異常事態としか考えられず、警察に連絡しました。現場に到着した警察に通報に至った経緯を説明します。警察であっても室内には勝手に入ることはできないようで、侵入可能か否かの判断はガイドラインに基づき対応しているようでした。 室内に入ると、リビングで倒れているAさんを発見。意識レベルが低下(JCS 300)していましたが、呼吸しており脈拍も何とか触れる状態です。警察が救急車を要請し、入院になりました。その後、訪問看護師から保健師はじめ関係者に一連の報告をしています。 うつ病を抱えたBさん Bさんはうつ病の診断を受けています。病気で就労できなくなり、復職の見通しが立たないつらさや、生活に対する不安の訴えもあり、訪問看護が開始されました。訪問看護は週1回の利用です。 訪問日にうかがい、呼び鈴を押しますが応答がありません。ドアノブを回してみると施錠されておらず、ドアを開けることができました。ドアを開放したまま、声かけしながら入室すると、押し入れに上半身を突っ伏した状態のBさんがいました。 状況からみて明らかに死亡していると確信したため、警察に連絡。警察はさらに救急隊に連絡し、到着した救急隊がBさんを確認し搬送する状態にないと判断しています。その後、監察医が訪問し検案を行い、警察がご遺体を搬送していきました。訪問看護師の役割は、警察から訊かれたことに対し情報提供することです。そして、地域でかかわっていた方に報告し、任務終了です。 Bさんのケースでは、病名から自殺という結果も考えられ得るわけですが、どういう状況であっても、看護師として死亡していると判断できたならば、本人の周囲には触れることなく、警察に通報します。 ただし、どうしても触れる必要がある場合、自分一人だけで触れることがないようにしてください。ほかの人がいるときに触れる目的を伝えてから実行します。もちろん現場保存の意図もありますが、後々、ご家族や身内の方から「物がなくなった」と疑われないようにするためでもあります。 もしものときのために普段から話しておく 訪問看護は常に今回紹介したようなアクシデントに遭遇する仕事だと思っています。急変や在宅死への対応のポイントをまとめます。 日ごろからご本人含め在宅医療にかかわるメンバーで急変時や死亡時の対応を事前に取り決めておく。急変時、事前の取り決めがなければ救急要請を行い、蘇生に全力を尽くす。原因が分からず死亡していると思われる場合、身体や周囲のものには触れず、警察に連絡する。警察にはきちんと情報提供を行う。 予後不良な利用者さんの場合、訪問時に緊急対応が発生する可能性が高いと予測されます。状態の把握に努め、いざというときにあわてず対応できるようにしておきましょう。また、予後不良の利用者さんに限らず、通常の訪問時からご本人のアドバンス・ケア・プラニング(ACP)の支援を通して、どのような医療やケア、対応を望んでいるのかを確認しておくことが大切です。独居の方であれば「いざというとき、家に入ってもよいですか」「カギはどうしましょう」など、想定されることはご本人やご家族と事前に取り決めます。そして、それらの情報を記録として残し、関係者と共有します。初めからあれこれ聞くことは難しいと思いますが、利用者さんの病状によっては初回訪問時に確認しなければならないこともあるでしょう。もしものときに備え、普段から意向を聞いておけるとよいですね。 * * * 利用者さんの急変や死亡事例は訪問看護師にとって深刻な事態ですが、起こったことだけでとらえるのではなく、そのことに至るまでのプロセスや関係性が重要です。ご本人が望む生き方や死の迎え方を私たちは日頃の訪問看護を通して知ること。その思いに寄り添うことが最期の時までに課せられた訪問看護師の役割と考えます。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

在宅の褥瘡・スキンケア 下肢潰瘍
在宅の褥瘡・スキンケア 下肢潰瘍
特集 会員限定
2023年12月5日
2023年12月5日

原因・特徴は? 下肢潰瘍のアセスメントと重症化を予防的するスキンケア

下肢は、解剖生理的に、外傷や物理的刺激を受けやすい、動脈の交感神経支配が強く皮膚血流量が少ない、重力によるうっ滞や血栓を生じやすい、という特性があります。足に関連した病変(足病変)は、潰瘍病変、下肢特有の皮膚や爪病変、虚血性疾患、静脈疾患・リンパ浮腫疾患などさまざまで、重症化するリスクが高いためアセスメントや予防的なケアが重要です。 そこで今回は、看護の実践場面で遭遇する難治性潰瘍の一つである下肢潰瘍について、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、それぞれの特徴と予防的スキンケアのポイントを中心に解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 予防のために知っておきたい下肢潰瘍の原因と特徴 下肢潰瘍は、日本皮膚科学会による「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン−5下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン」1)において、「下肢に生じる潰瘍の創傷で、種々の原因で生じるが、静脈性潰瘍の頻度が最も多く欧米では約7〜8割は静脈性とされている。約1割は動脈性で両者の合併もあるが、下腿潰瘍の多くは循環障害によるものである。その他の原因として膠原病、血管炎、褥瘡、悪性腫瘍、感染症、接触皮膚炎などがある」と定義されています。 下肢潰瘍の原因 下肢潰瘍の原因、および分類は以下のとおりです。 糖尿病(糖尿病性足病変)動脈硬化(閉塞性動脈硬化症〔ASO〕、バージャー病など)静脈うっ滞(下肢静脈環流異常、下肢静脈瘤など)膠原病(全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、高リン脂質抗体症候群など)血管炎(結節性多発動脈炎など)物理的障害(熱傷、靴擦れ、褥瘡など)リンパ管循環障害放射線障害 主な下肢潰瘍 ■糖尿病性潰瘍原因:血流障害、末梢神経障害、易感染性糖尿病に起因する末梢神経障害が主な原因となり生じる。自律神経障害による血流の異常や、運動神経の障害により生じる足の変形も糖尿病性足潰瘍の要因になる。症状:易感染性で創傷治癒の遅延をきたしやすい。靴擦れや胼胝(べんち:俗称「たこ」)などが発症している場合も、足の知覚障害により感覚が鈍麻であることから創部が悪化しやすい。対応:糖尿病のコントロール、除圧、感染制御など ■虚血性潰瘍(動脈硬化性潰瘍)原因:糖尿病、脂質異常症、慢性腎不全、喫煙、膠原病や血管炎など足の動脈の血流障害が原因となる下肢閉塞性動脈閉塞症。症状:初期は、足の冷感、歩行時の疼痛がある。その後、少し歩くとふくらはぎや足底に疼痛があり、休むと軽快する「間欠性跛行」となり、進行すると安静時にも疼痛がある。重症化すると足趾が乾燥壊死(黒色化〔ミイラ化〕)に陥る。糖尿病のある人は、疼痛を伴わず突然足が壊死することも。対応:血流の改善、潰瘍の局所治療、生活習慣の改善、血管内治療、血行再建術など ■静脈うっ滞性潰瘍原因:肥満、妊娠・出産、長時間の立ち仕事、遺伝的要因など症状:足の浮腫やだるさ、進行すると皮膚の色素沈着や硬化が生じ、創傷を繰り返す。静脈弁の機能不全により血液が逆流する病態で、重症化すると静脈うっ滞性潰瘍を発症する。難治性であり再発率が高い。対応:下肢挙上により静脈環流を促進する、圧迫療法など ■膠原病や血管炎に伴う皮膚潰瘍膠原病・血管炎が原因で潰瘍を発症し、悪化することがある。ステロイドや免疫抑制剤の内服による、免疫力の低下や皮膚の脆弱性から、創傷治癒が遅延・難治化する場合もある。 ■放射線潰瘍放射線治療後、皮膚に生じる皮膚潰瘍。皮膚細胞の損傷により、小さな潰瘍でも難治化する場合もある。 下肢潰瘍予防のためのアセスメント 下肢潰瘍は、神経障害、血行障害、感染の3要素が大きく関わります。 アセスメントは両下肢を観る 足に異常の訴えがある場合、必ず両下肢を観察しましょう。その際、大切なのは血流の観察です。血流が低下もしくは停止していると、小さな創傷でも治癒が困難になります。さらに壊死など重症化する危険性が高くなります。下肢潰瘍を予防するためには、足の観察とアセスメントが重要です。 本項では、下肢潰瘍の問診・触診・視診によるアセスメントのポイントを、神経障害、脈管障害(動脈性)、脈管障害(静脈性)、感染症のタイプ別に紹介します。 <神経障害> 基礎疾患、既往歴:糖尿病の有無(罹患からの年数など)、二分脊椎をはじめとした先天性疾患など治療歴、内服薬の内容、家族歴人工透析の有無(経過年数など)動脈触知(末梢動脈疾患合併の有無)足の痺れ、麻痺の有無と状態両足の形状(ハンマートゥ、クロウトゥ、シャルコー足、強剛母趾、内反小趾など)歩行状態(歩容):脚軸の確認(O脚、X脚など)皮膚の状態、毛髪の有無、爪の異常(乾燥、亀裂、胼胝、鶏眼など)胼胝がある場合、胼胝下に皮下出血の有無を確認潰瘍や壊死の有無と現在のケア方法(局所ケア方法など) <脈管障害(動脈性)> 基礎疾患、既往歴:糖尿病の有無(罹患からの年数など)人工透析の有無(経過年数など)治療歴、内服薬の内容破行距離:何m連続して歩行が可能か血管閉塞部位の推測:休むときにはどの部位が痛むか疼痛の有無(痛みによる不眠など)皮膚の状態、毛髪の有無、チアノーゼの有無  潰瘍のアセスメント 足の皮膚色の変化の有無と部位、発症時期潰瘍の発症時期、発症要因潰瘍周囲の皮膚所見(感染徴候、色素沈着、接触皮膚炎など)静脈瘤の部位の確認現在のケア方法(1日何回ケアを行うか、誰が行なっているのか、局所ケアの方法、弾性ストッキングの使用など)潰瘍や壊死の有無と現在のケア方法(1日何回ケアを行うか、誰が行なっているのか、局所ケアの方法など) <脈管障害(静脈性)> 基礎疾患、既往歴:リウマチ、婦人科疾患などの既往家族歴職業妊娠や出産の有無動脈触知(末梢動脈疾患合併の有無)下腿部の静脈の状態  潰瘍のアセスメント 潰瘍の有無と部位潰瘍の発症時期、発症要因潰瘍周囲の皮膚所見(感染徴候、色素沈着、接触皮膚炎など)静脈瘤の部位の確認現在のケア方法(1日何回ケアを行うか、誰が行なっているのか、局所ケアの方法、弾性ストッキングの使用など) <感染症> 基礎疾患、既往歴:糖尿病の有無(罹患からの年数など)内服薬(抗生剤)の内容リンパ節触知  潰瘍のアセスメント 潰瘍の有無と部位、発症時期感染の発症時期、発症要因感染周囲の皮膚所見:皮下の握雪感の有無足趾のソーセージ様腫脹:骨髄炎の可能性糖尿病の場合、趾間白癬からの二次感染の可能性があるため全足趾間の皮膚を確認現在のケア方法(1日何回ケアを行うか、誰が行なっているのか、局所ケアの方法、弾性ストッキングの使用など) 下肢潰瘍予防のための基本的なスキンケア 下肢潰瘍の創傷管理においては、TIMEコンセプトに基づいた創面環境調整(WBP:wound bed preparation)のケアを行います。 創傷局所の観察項目は、壊死組織(Tissue)、感染(Infection/Inflammation)、湿潤のバランス(Moisture balance)、創縁(Edge of wound)に分類されます。これらの要因を一つひとつアセスメントして、創傷治癒に最適な環境を整えるという考え方を、各項目の頭文字をとってTIMEコンセプトといいます。 下肢潰瘍は、感染、循環障害、知覚障害などのさまざまな要因によって、治癒しにくい難治性潰瘍です。下肢潰瘍を発症しないように、日々の予防的ケアが重要になります。今回は、創傷の発症予防や再発予防に焦点をあて、下肢潰瘍予防の基本的なスキンケアをご紹介します。 足の皮膚 足底は、角層が脱落しにくいため、厚さがあります。また、汗腺は多く、毛組織がないことから皮脂腺がなく乾燥しやすい特徴があります。さらに、踵や前足部には体重による荷重がかかり、角化、胼胝や鶏眼などのトラブルの好発部位となります。 静脈うっ滞のある場合、状態が悪化するほど下肢の皮膚は乾燥します。それにより皮膚のバリア機能が低下。掻痒感が出現し、掻破することで潰瘍を形成する可能性が高くなります。下肢のドライスキンや掻痒感を軽減するために、毎日の継続的な保湿のスキンケアが大切。また足趾間は、洗浄のスキンケアにより、皮膚の清潔につとめ真菌感染を予防することが重要です。 洗浄のスキンケア 洗浄部位に泡を乗せ、手袋を装着した手で優しく包み込み、泡を転がすように洗いましょう。微温湯で石けん成分が皮膚に残らないように洗い流し、十分な量の微温湯で洗い流します。洗浄後の皮膚は、タオルなどを用いて優しく押さえ、水分を拭き取ります。その他の洗浄のスキンケアについてのポイントや注意点については、「スキンケアで褥瘡予防 洗浄・保湿・保護のポイント」もご参照ください。 真菌感染症の予防には、特に汚れが溜まりやすい間擦部、陰股部、足趾間などは石けんをよく泡立て、丁寧に優しく洗いましょう。過度に洗浄すると皮膚の乾燥を招きスキントラブルを起こすこともあります。毎日の洗浄に、ミコナゾール硝酸塩配合石けんを用いると真菌感染症の予防に期待ができます。創がある下肢の足浴は、医師や皮膚・排泄ケア認定看護師などに相談の上行うようにしましょう。 保湿のスキンケア 保湿剤は、療養者個々の使用感にも考慮しながら、安全性の高い製品を選びましょう。塗布する際は、基本的に皮膚の皮溝に沿って、強く擦りすぎないようにします。ベタつきが少なく、伸びの良いクリーム剤や乳剤性ローションなどを使用して、皮膚を押さえるように塗布しましょう。 なお、冬に気温や室温が下がると、軟膏やクリーム剤は硬くなって塗布しにくい場合があるので要注意。硬くなった保湿剤を無理に塗布すると、使用時に冷たさを感じるのはもちろんのこと、塗りにくい、皮膚にダメージを与える、掻痒の原因になる、といったデメリットがあります。冷所保存が必要な外用薬を除き、保湿剤はあらかじめ常温に戻しましょう。また、塗布する前にディスポ手袋を装着したケア者自身の掌や甲に取って、少し温め、馴染ませてから使用すると、軟膏やクリーム剤は柔らかくなり、冷感も軽減できます。 足の爪ケア 爪は、歩行や立位を安定させる役割があります。爪の肥厚や変形などのトラブルから、ADLやQOLの低下や、肥厚して伸びた爪が他の足趾の皮膚を損傷する、衣類が引っ掛かり爪甲下に出血を生じるなどのトラブルを起こします。 そのため、伸びた爪は適切な長さに切り、肥厚爪は平坦に整えることが大切です。爪切りは、可能であれば足浴後の爪や角質が柔らかくなった状態で行います。爪の周囲の角質を丁寧に取り除き、皮膚と爪の隙間を確認した上で爪を切ります。硬く厚い爪は、ニッパー型爪切りや爪やすりを用いて、少しずつ切りましょう。爪は深く切りすぎず、角は丸く切り落とさないことがポイントです。爪の角は爪やすりで整えましょう。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【引用】1)日本皮膚科学会.日本皮膚科学会ガイドライン「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン−5:下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン」日本皮膚科学会雑誌. 127(10),2239-2259, 2017(平成 29)2241https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/127/10/127_2239/_pdf/-char/ja2023/10/29閲覧 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.〇真田弘美、大浦紀彦他(編)『ナースのためのアドバンスド創傷ケア』照林社.2012.

高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~
高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~
特集 会員限定
2023年11月28日
2023年11月28日

高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~【セミナーレポート後編】

2023年8月25日、9月8日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「超高齢社会における栄養ケアマネジメント~通所施設や在宅における低栄養への挑戦~」。ネスレ日本株式会社 ネスレ ヘルスサイエンス カンパニーとの共催でお届けしました。ご登壇いただいたのは、高齢者の栄養管理を専門とする医師の吉田 貞夫先生。利用者さんの食事、栄養摂取に関して、訪問看護師が知っておきたい知識を紹介くださいました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、利用者さんの食事支援のポイントや、トラブルが起きた際の対処方法をまとめます。 ※約45分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら高齢者の栄養ケアマネジメント~食支援・栄養指導~【セミナーレポート前編】 【講師】吉田 貞夫先生ちゅうざん病院 副院長/沖縄大学 客員教授、金城大学 客員教授高齢者医療、高齢者の栄養管理、認知症ケアなどを専門とする医師・医学博士。日本静脈経腸栄養学会 認定医、日本病態栄養学会 専門医、日本臨床栄養学会 指導医をはじめ、数多くの資格を取得。栄養経営実践協会の理事も務める。医師として患者の診療にあたるかたわら、全国で年間80件以上の講演も行っている。 在宅における嚥下機能確認のポイント 在宅における利用者さんの食事支援では、最初に嚥下機能をきちんと評価することを心がけてください。 評価の方法としては、すでに実践している方も多いと思いますが、「反復唾液嚥下テスト(RSST)」や「水飲みテスト」が挙げられます。ゼリーをはじめとした嚥下しやすい食品をどれくらい食べられるかをチェックしている方もいらっしゃいますね。また最近は、在宅であっても、耳鼻科医や歯科医と連携して嚥下機能を確認しているケースもあるようです。 ただ、嚥下機能を評価する際は、「飲み込みの機能」だけに注目すればよいわけではありません。口腔が清潔に保たれているか、噛み合わせが悪くなっていないか、噛む力が十分にあるかといった「口腔の機能」も確認する必要があります。ぜひ視野を広げて評価してください。また、血管障害の後遺症で嚥下障害がある利用者さんや、認知症と嚥下障害を併発している利用者さんの場合は、誤嚥しやすいためとくに注意深く確認しましょう。 嚥下機能に問題があると判断した場合には、「嚥下調整食」を活用してみてください。 窒息への対策と対処方法 高齢者の食事に潜むリスクとしては、やはり窒息があります。窒息というと「餅を食べると起こりやすい」とイメージされる方が多いと思いますが、実はお米やパン、肉、魚で窒息してしまう方も多くいます。それから、ぶどうやプチトマト、飴など、小さくて丸い形状のものは気管にすっぽり入ってしまうので要注意です。窒息の危険度が高いものは利用者さんの手に届かないようにする、飴は棒つきのものを選ぶなど、十分に配慮してください。 窒息が起きてしまった際の対処法 利用者さんが窒息してしまった際は、後ろから利用者さんを抱え込むようにして腹部を圧迫する「腹部突き上げ法(ハイムリック法)」や、背中を何度も叩く「背部叩打法」を試してみてください。詳しいやり方は、日本医師会の救急蘇生法のサイトに掲載されています。 >>日本医師会サイト「救急蘇生法」気道異物除去の手順 また、窒息への対処法として「吸引」を選択する方はよく見られますが、このやり方にはリスクもあります。痰の吸引に使うような細いチューブでは、詰まっている異物を吸えないどころか、さらに奥へ押し込んでしまうことも。なお、掃除機の利用は、圧が強すぎて臓器を損傷する可能性があるので推奨されていません。 ご紹介した方法を実践しても異物を取り除けず、利用者さんのバイタルサインが悪化してきたときは、迷わず救急車を呼んでください。必要に応じてAEDの準備も検討しましょう。 認知症の方への食事支援 認知症の方に対しては具体的にどのような支援をすればよいのかについてもお伝えします。ぜひ以下の4つのポイントを念頭においてサポートしてください。 ご家族に適切な食事介助の方法を伝える食事を配膳しても反応がない、食べ物で遊んでしまう、食器の使い方がわからない。こういった様子が見られる方は、認知機能がかなり低下しており、目の前に食事を出すだけでは食べてくれません。ご家族をはじめとした介助者の方に、食べ物を口元まで運ぶ必要があることを伝えてください。嚥下機能に問題があれば食事を見直す 食べ物を口の中に溜め込んでいる、飲み込んでも喉に残っている、むせている、痰が多い。これらは嚥下機能に問題があるサインです。食事内容の調整を検討しましょう。   食事を嫌がる場合は味つけや見た目を変える 認知症を発症すると、味覚障害になる方が多くいます。そのため、食事を嫌がる場合は味つけが原因であることも。濃い味つけにすると食べてくれるケースもありますよ。また、認知症独特の摂食障害で食が進まない可能性もあります。例えば、ふりかけが虫に見えてしまったり、粒状の食品が小石に見えたりするのです。食事の見た目にも着目してみてください。 食事の時間や形状を合わせる 認知症になると「1日=24時間」ではなくなってしまうことがあります。そのため、食事の時間にこだわりすぎず、起きている時間に食べられるようにするのもポイントです。ゼリーをはじめ、すぐに食べられるものを用意しておくとよいでしょう。また、じっとしていられない利用者さんも、手に持って食べられるスナックタイプの食品なら食べられることも。その方の状態に合わせた食事のあり方を模索してみてください。 認知症の予防につながる食事 認知症の「予防」についても確認しておきましょう。認知症は介護依存度が高い病気で、転倒による骨折リスクが高かったり、問題行動を起こしやすかったりといった特徴があります。また、発症するとずっと治療を続けていかなければならず、予防が大切です。 認知症を予防するには、多様性のある食事をとるとよいといわれています。具体的には、さまざまな種類のメニューを食べる、毎日違うものを食べるといったことですね。そして最大のポイントは、自分自身で食事を用意することです。 食事の用意と一口にいっても、メニューを考え、買い物に行き、料理し、後片づけをするといった数多くのステップがあります。その上で多様性のある食事を目指せば、考えるべきことの幅はさらに広がるでしょう。これが認知症予防につながると考えられます。利用者さんの食事のサポート、アドバイスを行うにあたり、ぜひ知っておいてもらえたらと思います。 * * * 毎日の食事は、生命維持に欠かせない行為であると同時に、多くの利用者さんにとって「楽しみな時間」でもあるでしょう。ぜひ今回ご紹介した知識を食事支援や栄養管理に活かして、利用者さんの体づくり、そして豊かな生活づくりをサポートしてください。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

褥瘡の基礎知識 発生原因・予防的スキンケア
褥瘡の基礎知識 発生原因・予防的スキンケア
特集 会員限定
2023年11月21日
2023年11月21日

褥瘡の基礎知識 発生原因・予防的スキンケア・在宅療養生活でのポイント

褥瘡は、「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間にある軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り、褥瘡となる」と定義されています。 高齢療養者の多くは、自分で体位変換が行えない、長期間の寝たきり状態、栄養状態が悪い、皮膚が脆弱、などの状況にあります。そのような状況で皮膚に圧迫や摩擦、ずれなどの刺激が繰り返されると、褥瘡になるリスクが高まるため日々のケアが重要です。そこで今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、褥瘡の予防的スキンケアを中心に解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 褥瘡の発生要因〜マイクロクライメット〜 褥瘡の発生要因 褥瘡の発生には、圧迫やずれ、摩擦、低栄養などが複合的に影響しています。褥瘡は、寝たきり状態や脊髄損傷などの知覚障害による、筋肉の廃用性萎縮で骨突出部位などに生じる創傷です。自力で体位変換が行える、姿勢を変えることができる療養者は、傷んだ組織も修復されていきます。一方、基礎疾患の進行や体調不良による食事摂取量の減少、ストレスなどによる食欲低下によって栄養状態が低下すると、傷んだ組織は修復されず、次第に悪化して褥瘡を発症します。 在宅療養者:低栄養在宅療養者:関節拘縮 また、トイレや車椅子などへの移乗動作や姿勢の崩れ、ベッドの背上げ・背下げによって生じる姿勢の崩れ、体位変換やおむつ交換などの際には、臀部や仙骨部・背部に「ずれ力」が働きます。適切な姿勢保持や体位変換が行われないと、組織には持続的に圧力も加わり組織障害が進行します。 褥瘡は、主に圧迫により生じる創傷ですが、ずれや栄養障害などの要因が複合的に加わることで発症につながります。 仙骨部にポケット形成を伴う褥瘡仙骨部に感染を伴う褥瘡 さらに、褥瘡の発生や治癒にはマイクロクライメットが影響しているといわれています。マイクロクライメットとは、「皮膚局所の温度・湿度」と定義されています。 褥瘡発生要因の新たな概念:マイクロクライメット管理 褥瘡の予防や治癒の促進には、温度の上昇を予防して湿度を透過させることが重要であるという、マイクロクライメット管理を良好に行うケアが注目されています。 皮膚局所は、体温が高くなると代謝が亢進し、酸素や栄養が消費されて不足しがちになります。その状態で外力を受けると組織耐久性が低下し、わずかなずれや摩擦で皮膚を損傷し、褥瘡を発症しやすくなってしまうのです。また、温度が高くなると汗をかきやすくなります。発汗により皮膚は湿潤状態になり、バリア機能や組織耐久性が低下。さらに通常よりも摩擦力が高くなることにより、わずかなずれや摩擦によって褥瘡の発生リスクは高くなります。 湿度が上昇する要因は、発汗に限りません。失禁による皮膚の湿潤もあります。おむつを使用している皮膚は、高温多湿な環境にあります。おむつ交換の間隔が長くなると、尿はアルカリ性に変化し皮膚への刺激が強まります。また、便に含まれる消化酵素も皮膚を損傷するリスクを高めます。皮膚を健康な状態に保ち、バリア機能を高めるためにも、温度と湿度の管理は重要です。 マイクロクライメット管理には、マイクロクライメット機能が付いたエアマットレスの使用や、吸湿性の高いシーツなどを用いた寝床環境の調整、透湿性に優れたおむつの使用、定期的なおむつ交換などをおすすめします。 【マイクロクライメット管理の主なポイント】 居室内の温度と湿度の調整寝具、寝衣による体温の調整おむつや尿取りパッドの透湿性、適切な使用体圧分散マットレスの通気機能、柔らかさシーツや皮膚に接触するクッションカバーなどの素材 褥瘡予防のためのスキンケア 褥瘡のスキンケアは、褥瘡発生や治癒遅延の要因となる、摩擦、ずれ、湿潤から皮膚を護るケアが必要です。特に、ドライスキンの療養者は、皮膚のなめらかさや柔らかさが失われるため、摩擦やずれなどの外部の刺激によって皮膚が損傷しやすくなります。皮膚の乾燥を防ぐスキンケアを行いましょう。 脆弱な皮膚は、外力を加えないケアが大切です。洗浄の際は力や摩擦を与えないように優しく洗浄しましょう。保湿の際も、保湿剤の塗布時に摩擦やずれが加わる可能性が高くなります。保湿剤はローションタイプのものを使用して、一度にたくさん塗布せず、少量を両手に薄くのばし、擦らず優しくなでるように塗布します。摩擦やずれの予防には、保湿剤や皮膚皮膜剤、撥水性保護クリームを用いた、保護が大切です。排泄物による汚染が予測される部位には、あらかじめ撥水性保護クリームを用いて、排泄物の付着から皮膚を保護します。骨突出部の皮膚は毎日観察し、強い圧迫やマッサージを避けましょう。 摩擦やずれは、頭側挙上時や車いすへの移乗時、体位変換時など、すべての生活場面で生じます。頭側挙上では角度調整や背抜きを行い、できる限り皮膚の表面を損傷しないように留意することが大切です。それには、皮膚の表面を保護すること(「保護のスキンケア」)と、皮膚に何かを貼付して皮膚を覆うケアをおすすめします。皮膚に貼付するものは、安全なもの、スキントラブルをおこさないもの、皮膚の観察がしやすいもの、皮膚を圧迫しないもの、取り扱いしやすいものなどを、療養者の状態や生活に応じて選択します。 褥瘡の予防的なスキンケアはすべての療養者を対象とし、外部からの刺激に負けない健康な皮膚を保つための「基本的なスキンケアの継続」が極めて重要です。 褥瘡予防のケア〜療養生活でのポイント〜 褥瘡を予防するためには、外力(圧迫やずれ力)の大きさを減少させること、外力の持続時間を短縮することが原則です。褥瘡ケアというと局所のケアに目が向きがちですが、褥瘡の予防・治癒促進・再発予防、すべての時期において外力の除去が重要です。 圧迫・ずれ・摩擦   療養者に対する移動の介助は、皮膚への圧迫やずれ・摩擦が生じることによる褥瘡発生はもちろん、介護者の腰痛の原因にもなります。「引きずらない」「擦らない」「本人の動きに合わせる」介助や、リフトを活用した移乗などを実施しましょう。一人で身体介助を行う場合も少なくありません。療養者の身体や安全を守るためにも、トランスファーグローブやトランスファーシートなどの福祉用具の使用を検討することも必要です。 おむつや着衣の交換時、シーツ交換の際は、摩擦が生じやすくなります。おむつ交換の際、尿取りパッドを引き抜くと、仙骨部や尾骨部の皮膚には強い摩擦とずれが生じるため要注意です。また、排尿後に長時間おむつを着用していると皮膚は浸軟します。さらに排泄物を多量に吸収したおむつは、膨潤し硬くなります。そのような状態で座位姿勢になった場合、仙骨部や尾骨部には圧迫が加わりますし、ぬれて蒸れたおむつで過ごすことは不快なため姿勢も崩れやすくなり、ずれと摩擦も生じることに。排尿後は速やかにおむつ交換を行うことが大切です。同時に、療養者の排尿パターンや排尿回数・量にあったおむつを選択しましょう。 体位変換とポジショニング 褥瘡の発生や悪化を予防するために、体位を変えることで骨突出部の皮膚・組織に加わる外力を少なくし、外力の加わる時間を短くする方法が体位変換です。ポジショニングは、体位変換の基本を踏まえつつ、身体各部の相対的な位置関係を整え、身体を安定させてより快適な姿勢の保持を行う方法です。局所への圧迫を減少させ安楽な仰臥位をとるためには身体のねじりやゆがみを取り、できるだけ広い面積で身体を支える「体圧の分散」が重要です。 日頃より、褥瘡好発部位や骨突出部、過去に褥瘡を発症した部位、得手体位により常時マットレスと接している部位の皮膚は、注意深い観察と定期的なアセスメントを行いましょう。発赤を認めた場合は速やかに体圧分散ケアの見直しを行う必要があります。 また、療養者に家族が行う体圧分散ケアは、介護者が療養者に言葉を交わしながら触れること(タッチング)で、かけがえのない家族のぬくもりを感じ合う場でもあります。療養者にやすらぎや安心感を与え、心身の疼痛や苦痛を緩和するなど、褥瘡悪化や予防の観点以外にも大きな効果があると考えます。 栄養  療養者の栄養ケアは、低栄養になってから始めるのではなく、「日頃から低栄養を予防する」という意識をもって支援しましょう。在宅で低栄養状態にある療養者は、自立している高齢者にも見られます。ひとり暮らしで調理が面倒になる、歯の喪失により噛めない、食の嗜好の変化や病状により摂取栄養素が偏っている、などの原因で低栄養が生じている場合も。療養者の食生活は、テーブルの上に置かれている食べ物、ゴミ箱の中、冷蔵庫の中からも知ることができます。療養者の嗜好や嚥下状態、経済性などを考慮した上で栄養補助食品を活用し、偏った栄養素を補う、不足したエネルギーを補充することも必要です。 皮膚科医、WOCナースとの協働 皮膚科医や皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)の知識と技術の提供・協働によって、専門的な褥瘡ケアの視点を補完していくことも重要です。専門性の高い他職種の協力を得ることが、在宅における褥瘡ケア看護の質の向上と療養者・家族のQOLの向上につながります。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.

高齢者の栄養ケアマネジメント~食支援・栄養指導~【セミナーレポート前編】
高齢者の栄養ケアマネジメント~食支援・栄養指導~【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2023年11月21日
2023年11月21日

高齢者の栄養ケアマネジメント~食支援・栄養指導~【セミナーレポート前編】

2023年8月25日、9月8日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「超高齢社会における栄養ケアマネジメント~通所施設や在宅における低栄養への挑戦~」。ネスレ日本株式会社 ネスレ ヘルスサイエンス カンパニーとの共催でお届けしました。登壇してくださったのは、高齢者の栄養管理を専門とする医師の吉田 貞夫先生。訪問看護師が知っておきたい利用者さんの食事、栄養摂取に関する知識を紹介いただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、低栄養が高齢者に与える影響や栄養管理の考え方、ノウハウをまとめます。 ※約45分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】吉田 貞夫先生ちゅうざん病院 副院長/沖縄大学 客員教授、金城大学 客員教授高齢者医療、高齢者の栄養管理、認知症ケアなどを専門とする医師・医学博士。日本静脈経腸栄養学会 認定医、日本病態栄養学会 専門医、日本臨床栄養学会 指導医をはじめ、数多くの資格を取得。栄養経営実践協会の理事も務める。医師として患者の診療にあたるかたわら、全国で年間80件以上の講演も行っている。 サルコペニア、フレイルと低栄養の関係性 超高齢社会を迎えた今、低栄養と高齢者のサルコペニア、フレイルとの関係がますます注目されています。最初に、サルコペニアとフレイルについて簡単にご説明しましょう。 サルコペニア筋力が落ち、筋肉量も減少して、日常生活に必要なさまざまな身体機能が低下した状態のことをいいます。「筋力の低下」「骨格筋量の減少」「身体機能の低下」という3つの要素があると覚えてください。サルコペニアになると、転倒や骨折、ADL低下、肺炎のリスクが高まります。フレイル運動能力が低下した虚弱な状態。転倒や骨折、ひいては入院、死亡リスクも高まります。 低栄養は、こうしたサルコペニア、フレイルにつながる可能性があり、早期発見することが重要です。しかし、筋肉量を測らずに低栄養の判定をすると、検出率が半分ほどに減ってしまうことがわかっています。 近年、GLIM(低栄養診断国際基準)でも、サルコペニアの判定をする上で、骨格筋量の評価がより重要視されています。そこで、血液検査の値(血清クレアチニンとシスタチンC)を使って骨格筋量を計算し、サルコペニアや低栄養をもっと簡単に測定*できるよう研究開発しました。 ただ、専用の機械がない訪問看護の現場で筋肉量を測るのはなかなか難しいもの。そんなときは、人間の体の中で最も筋肉の割合が多い部位である「ふくらはぎ」の周囲長を測ってみてください。周囲長が減っている場合は、全身の筋肉量が減っていると判断できます。この方法は、サルコペニアの可能性の有無を判断する場面でも活用できます。 ふくらはぎ測定基準 男性        女性        ふくらはぎ周囲長(cm)<33 <32 ※BMIが25~30(kg/m2)の場合は測定値から3㎝を引く。BMIが30(kg/m2)以上の場合は測定値から7㎝を引く。*参照元:Assessment of sarcopenia and malnutrition using estimated GFR ratio (eGFRcys/eGFR) in hospitalised adult patients, Clinical Nutrition ESPENhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35331529/ 事例で考える栄養管理の方法 ここで具体的な事例を挙げて、栄養管理のアプローチについて考えてみましょう。60代後半の男性、Aさんの事例です。 モデルケース:Aさん脳梗塞を発症した60代後半の男性。現在の体重は52kg。リハビリテーションに取り組み、自宅に帰りたいと考えている。 Aさんに必要なエネルギー量 Aさんの1日に必要なエネルギー量は、1日安静にしていたとしても1,300kcalに上ります。リハビリテーションに取り組んだ場合はプラス250kcal、点滴で栄養を摂取していた期間に減ってしまった体重を戻そうとする場合はさらにプラス500kcalをとらなければなりません。つまり、1日あたり合計2,050kcalを摂取する必要があります。 Aさんが抱える栄養摂取の課題 しかし、Aさんはおかゆをはじめとした嚥下調整食を食べています。嚥下調整食は水分が多いため、その分容積が大きくなり、頑張って食べても1日に1,200kcalをとるのが限界です。このような低栄養の状態が続くと、サルコペニアが進行し、ADLは低下。嚥下機能もさらに悪化し、誤飲性肺炎を起こしたり、食事をとれなくなったりといったリスクも高まってしまいます。 Aさんへの栄養管理のアプローチ そこで、まずは2,050kcalから体重を戻す分のエネルギー量を引いた1,550kcalを最低でもとることを目指します。そのための方法としては、訓練をして食形態を上げること。食事の水分量が減れば、食べられる量が増えます。それから、ゼリーやドリンクなどの補助食品を使うのも効果的です。 食べる目的に応じて内容を変えて 栄養管理の内容は、その利用者さんの「食べる目的」をふまえて検討します。体調の改善を目指す方、現状を維持したい方、看取りフェーズに入っている方。食べる目的が異なれば、食事内容やリハビリテーションの実施の有無が変わってきます。 改善を目指す方先ほど挙げた事例のAさんのように、今より元気になりたい方は「摂取量>必要量」のバランスになるようエネルギーをとる必要があります。食形態を変えるリハビリテーションを継続し、栄養補助食品、MCT(中鎖脂肪酸)や粉末たんぱく質を併用しましょう。現状を維持したい方現在の体の状態をキープしたい方は、「摂取量≒必要量」になるようにエネルギーをとれれば問題ありません。ただし、体重が減少していないかこまめに観察してください。栄養補助食品を使うこともありますが、長く継続できるかどうか考えて提案しなければなりません。看取りフェーズの方エネルギー摂取の目標は「摂取量≒必要量」ですが、最も優先すべきは利用者さん、ご家族のご希望です。ニーズを見極め、また継続可能な栄養管理の方法を模索して提案します。 なお、栄養管理にぜひ活用してほしいのが、「中鎖脂肪酸」や上記でも触れている「栄養補助食品」です。 食欲改善効果が期待できる中鎖脂肪酸 中鎖脂肪酸は、近年人気が高まっているココナッツオイルの主成分で、低栄養の方にぜひ摂取してほしい成分です。理由は、食欲を亢進させる消化管ホルモン「グレリン」は中鎖脂肪酸と結合することで活性型になるため。つまり、中鎖脂肪酸をとれば、食欲を改善させられるかもしれません。 栄養補助食品を使う場合、1ヵ月は継続を 低栄養の方の栄養管理によく使われる栄養補助食品は、摂取期間に注意してください。「認知症患者の栄養に関するESPENガイドライン」によると、栄養補助食品の使用を開始したら、栄養状態に改善傾向が見られても1ヵ月間は続けたほうがよいとされています。「栄養状態が悪くなる前」の状態にまでしっかりと戻してから使用をストップしましょう。 ICTを活用した栄養指導 栄養指導は、管理栄養士が行うのが理想的です。しかし、管理栄養士が在籍していない訪問看護ステーションはまだまだ多く、専門家による栄養指導を受けられないケースは珍しくありません。そこで活躍するのが、「ICTを活用した遠隔栄養指導」です。私も、遠隔診療が始まる以前の2013年頃、沖縄県栄養士会が共同で「遠隔栄養指導のモデル事業」を実施しました。今後、全国で遠隔栄養指導のしくみがどんどん構築されていくことを願っています。 >>後編はこちら高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇Sadao Yoshida , Yuki Nakayama , Juri Nakayama , Nobumasa Chijiiwa & Takahiro Ogawa .(2022). Assessment of sarcopenia and malnutrition using estimated GFR ratio (eGFRcys/eGFR) in hospitalised adult patients. Clin Nutr ESPEN , 48:456-463. DOI: 10.1016/j.clnesp.2021.12.027〇Dorothee Volkert , Michael Chourdakis , Gerd Faxen-Irving , Thomas Frühwald , Francesco Landi , Merja H Suominen 6,…&Stéphane M Schneider. (2015). ESPEN guidelines on nutrition in dementia. Practice Guideline, Clin Nutr. 2015 Dec;34(6):1052-73. DOI: 10.1016/j.clnu.2015.09.004

ノーリフティングケアのコスト&導入法
ノーリフティングケアのコスト&導入法
インタビュー
2023年11月14日
2023年11月14日

在宅の介護・医療に導入が難しい…は誤解? ノーリフティングケアのコスト&導入法

前編では、介護側の腰痛を防ぐ「ノーリフティングケア」の普及に努める理学療法士の下元 佳子さんに、リフトを導入するメリットについて伺いました。今回は、ノーリフティングケアの導入を悩んでいる要介護者やご家族への説明のしかたや、訪問看護ステーションの管理職がやるべきこと、そして、下元さんが考える今後の課題や展望などについて伺いました。 >>前編はこちら知っておきたいノーリフティングケア 看護師の腰痛予防や利用者の拘縮緩和も ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 〇プロフィール 下元 佳子(しももと よしこ)さん 理学療法士。17年間病院に勤務した後、合資会社オファーズを設立。訪問看護、訪問介護、子どもの通所介護の事業所を運営。「二次障害を引き起こさない福祉用具ケア」を普及させるため、一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワークを設立し、代表理事を務める。高知市内に拠点を置き、福祉用具の展示·相談、人材育成のための研修等を行っている。 ※文中敬称略 ノーリフティングケアの導入コストの考え方 ―「在宅介護ではノーリフティングケアは無理」と考える利用者やそのご家族もいるかと思います。そう思われている方には、どのように説明されているのでしょう。 下元: 私が携わる訪問看護ステーションでは、2割強の方がリフト利用者です。導入を職員が当たり前のように考えており、介護士や看護師がリフトを必要だと判断すれば、事業所のノーリフティングのリーダーである理学療法士に伝え、一緒に要介護者の自宅に訪問します。そこでメリットや使い方を説明した上で、リフト導入につなげる、といった連携ができています。 要介護者やそのご家族が、在宅での導入は難しいと思う理由はいろいろあります。1つは、「コストがかかる」と思われる点です。確かに福祉用具を購入すると導入時に一定料金がかかりますが、訪問介護をはじめとした人的ケアになると、回数を重ねるごとにお金がかかります。週3回、2人のヘルパーが訪問するよりも、リフトの導入と1人のヘルパーが訪問するほうがかかる費用は安いのです。 ただし、障害児者の場合は、地域によって負担金が異なります。行政から福祉用具の費用が支給される県もありますが、高知県はあまり条件がよくありません。例えば浴室と寝室用にリフトを購入すると、自費負担額が200万円ほどかかるケースも多くあります。でも、実際に導入したご家庭のお母さんに話を聞くと、「介護する自分の腰痛が酷くなって病院やマッサージに通うのなら、早く購入したほうがいい」とおっしゃっていて、お金の使い方は考え方次第だなと感じました。また、厚生労働省による生活福祉資金貸付制度もあり、こうした制度を活用すれば、ほぼ利子がかかることなくお金を借りることができます。 ―老々介護など、介護されるご家族には高齢者の方もいて、操作が難しそうと思う人もいるかと思いますが、どのように説明されていますか。 下元: 基本の使い方を覚えれば、力もいらず、テクニックやコツも要らないのがリフトのいい点です。上・下のボタンしかないので、テレビのリモコンよりも操作は簡単。「シートを体に装着するのが難しそう」とおっしゃる人には、「おむつ交換やお洋服の着替えよりはるかに簡単ですよ」とお伝えします。すると、無理だと思う理由がなくなって試してくださる。ご家族にも乗っていただくと「わ~、気持ちいい」とおっしゃって、導入につながりやすくなります。 話すだけではイメージが湧かないので、リフト利用者に許可をいただき、実際の利用風景の動画を撮影して、導入に悩む方に見せるようにもしています。その際、可能な限り、同年代や同じ疾患がある要介護者の動画を選んで見せるようにしています。そうすると、「これなら活用できるかも」と思ってもらいやすくなるんです。 「部屋のこの辺りにリフトがあると困る」「このくらいの姿勢しか取れないから、吊ることができないと思う」など、要介護者一人ひとり異なる事情に耳を傾け、一緒に解決していく姿勢が大事だと思います。「使えない」「無理そう」という壁は、本人や家族自身が作られているように思うので、その壁を取っ払っていくことが大切ですね。 なお、リフト以外の福祉用具についても、それとなく興味をもっていただけるように工夫しています。要介護者を動かしやすくなるベッドシートや、するっと滑ってラクに動かせる安価なグローブを使って動かす、といったことを、あえてご家族がいらっしゃる場で行うと、「それは何ですか?」とあちらから興味を持って聞いてくださる。「これなら簡単かも」と思ってもらえます。 独自の介護が子どもに悪影響を及ぼすことも ―医療的ケア児の場合には、ご高齢の利用者とはまたコミュニケーションの取り方が変わってくるように思います。アドバイスいただけますか。 下元: 医療的ケア児の保護者の中には、介護士や看護師に対し、「こんな風にやってください!」と強い口調でおっしゃる方もいらっしゃいます。お子さんを誰よりも長く介護されているので、「この向きで抱っこして、こうやってご飯を食べさせてほしい」など、自分流の介護方法を介護士などに求めていらっしゃるんですね。でも、専門家から見れば、「側弯や股関節の脱臼など課題や本人の今後を考えると、介護方法を変えた方が良いかな」と思うことも少なくありません。 でも、そのように頑なになられる理由は、「自分が頑張らなきゃ」という状況に追い込まれ、孤独感を抱えながら試行錯誤してこられたからですよね。この状況を解消するためには、もっと早い段階から専門職である我々が、正しい介護知識をお伝えすべきなのだと思っています。私自身、高知県内の支援学校はほぼすべて周り、「こうした抱っこのしかたは筋肉を緊張させるんですよ」などと知識を伝えています。 看護師や介護士は、プロとして親と一緒に子どもにとってベストな介護方法を考え、実践していくことが大事だと考えています。その方法の1つとして、「リフトの活用が子どもの安定した介護になる」という認識につながればいいと思いますね。 ―実際に導入された人は、どんな風に活用されているのでしょう。 下元: うちの施設でリフトを導入された方の介護者の最高齢は80代の女性で、杖を突いて歩かれる要介護1の方でした。98歳のお母様を102歳の寿命を全うされるまで在宅で介護。トイレ、浴室、居室もすべてリフトを設置し、入浴もトイレも介助できていました。ティルト・リクライニング車いすや介護用ベッド、玄関に昇降機を導入するなど、たくさんの福祉用具を積極的に活用され、介護ヘルパーは不要とおっしゃるほどで、介護保険が余っている状態だったのです。人的サービスから介護プランを組んで福祉用具を導入すると、介護保険料が足りなくなるケースがありますが、福祉用具の活用から介護の方法を考えるというのも1つの手だと思います。 ―リフト利用者やそのご家族の現状を伺いましたが、「在宅だから導入が難しい」と考えている訪問看護師さんも多いかと思います。下元先生の考えや取り組み、訪問看護師さんへのアドバイスをお願いいたします。 下元: リフトのような大きな福祉用具になると、訪問看護側に経験がないと、どのリフト会社を選べばいいのか分からないというところでつまずきます。導入までの意思決定は難しいと思うので、福祉用具の企業のリフトに関する知識がある人に相談し、アドバイスをもらうといいと思います。 また、リフトの導入実績がある福祉用具のレンタル会社を探して相談するのもいいでしょう。1ヵ月だけ利用して、合わなければやめることもできます。 管理者は腰痛予防の体制を整えることが大事 ―訪問看護ステーションの管理者がノーリフティングケアを導入しようと考えたとき、何から始めてどんな流れで進めばいいのか、アドバイスをいただけますでしょうか。 下元: いきなりリフトの導入に取り組むのではなく、管理者がまずやるべきことは、腰痛予防の体制を整備することです。リフトは介護の手段に過ぎません。目的は、介護する人たちの腰痛を防ぐこと。つまり「リスクマネジメント」が重要になります。 例えば、スタッフに「負担になっている業務をあげてほしい」と伝え、心身の負担になっていることを出してもらいます。「要介護者のAさんの移乗がとても厳しく、いつ一緒に倒れてしまうか分からない」「人工呼吸器を装着しているBさんの家はとても狭くて、吸引するときの姿勢がとてもつらい」など、出してもらった負担はすべてヒヤリハットになるので、それを一つひとつ解決する方法やしくみを考えます。現場の人たちだけで解決するのが難しいときは、ケアマネジャーに伝えて担当者会議の議題に挙げられるような組織の体制を整えることが大事です。 リスクマネジメントにつながる「教育」も大事になります。リフトやシート、グローブといったアイテムの使い方を教えるだけではなく、「今の時代は、要介護者を抱え上げてはいけない」ということを、スタッフがきちんと理解するまで教育する必要があります。 看護師や介護士という職業はその道のプロであり、お手本にならなければいけません。誰が見ても「この人たちがやっていることなら、マネしても健康を損なうことはない。大丈夫」と思っていただく必要がある。そのためにも、介護における体の使い方に関するトリセツのような教材をつくればいいと思います。うちの施設でも、新入社員が入ってきたら、つくった教材を使って2時間ほどかけてリーダーが説明します。それを受講してから現場へ入っていくルールになっています。 また、厚生労働省が出している腰痛予防の指針に、要介護者を持ち上げるための重量制限について記載されています。例えば、60kgの男性だったら抱えていいのは24kgまで。女性だったら14kgなので、要介護者が子どもであっても抱えてはいけない場合があります。 参考: 〇厚労省の職場における腰痛予防対策指針及び解説https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034et4-att/2r98520000034mtc_1.pdf また、リフトもトランスファーボートも、使える対象者の基準があります。こうした基準に沿って管理者はルール化し、リスクマネジメントを心がけることが必須だと思います。 ―今後の課題や展望を教えてください。 下元: 年々、介護現場では人材不足が深刻になっています。特に高知県は高齢化率が全国で2番目に高く、人口は3番目に少なく、国が危機感を持っている2040年代の状態に片足を突っ込んでいる状況です。そうした人材不足の危機感もあって、先立ってノーリフティングケアを実行しています。施設には9割近く導入されましたが、訪問看護はまだ進んでおらず、広げていきたいと思っています。 いずれにしろ、高知県が先がけてやっていても、全国的にノーリフティングケアが当たり前になっていかない限りは、いつまでたっても保険衛生現場の状況は変わりません。ぜひ、ノーリフティングケアの必要性を知り、訪問看護の場でも広げていただきたいと思います。 ※本記事は、2023年8月時点の情報をもとに構成しています。 執筆: 高島 三幸取材・編集: NsPace編集部

ノーリフティングケア インタビュー
ノーリフティングケア インタビュー
インタビュー
2023年11月7日
2023年11月7日

知っておきたいノーリフティングケア 看護師の腰痛予防や利用者の拘縮緩和も

看護や介護の現場では、人力で寝たきりの要介護者を移動させるため、腰痛発生率が高まり、離職率の増加につながっています。それを防ぐのが、欧州では主流の「ノーリフティングケア」です。リフトを活用して要介護者を動かすことで看護師や介護士の腰痛予防になるほか、リフトの活用そのものがリハビリとなり、利用者の拘縮緩和も期待できます。そこで、「ノーリフティングケア」の普及活動に奔走する理学療法士の下元 佳子さんに、国内外の現状やリフトを活用するメリットについて伺いました。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 〇プロフィール 下元 佳子(しももと よしこ)さん 理学療法士。17年間病院に勤務した後、合資会社オファーズを設立。訪問看護、訪問介護、子どもの通所介護の事業所を運営。「二次障害を引き起こさない福祉用具ケア」を普及させるため、一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワークを設立し、代表理事を務める。高知市内に拠点を置き、福祉用具の展示·相談、人材育成のための研修等を行っている。 ※文中敬称略 オーストラリアでは看護師がリフト活用を推進 ―リフトの存在は知っていても活用していなかったり、「ノーリフティングケア」のメリットをきちんと理解していなかったりする看護や介護の現場がほとんどだと思います。ノーリフティングケアの状況やメリット、そして、医療・介護業界に広める活動をされている理由を教えてください。 下元: 「ノーリフティング」という言葉は、看護・介護・福祉の現場から職業病としての腰痛を予防する取り組みを指します。海外に視線を向けると、欧州では1980年代からリフトを使って看護や介護することが日常になっています。 オーストラリアでは看護師の身体疲労による腰痛訴え率が上がったため、1998年に国が腰痛予防策の義務化をし、積極的に取り組んできたのです。歴史は浅いですが、人力のみの移乗を禁止して福祉用具を活用しようと、看護や介護、福祉現場での常識が変わってきています。 現地で率先して活用を広めているのが、看護師です。私は2008年にオーストラリアの看護や介護現場を見学しましたが、「なぜ看護師がリフトの活用を広めているの?」と看護師に質問すると、「患者さんをサポートする役目の私たちが、自分の体を痛めて治療費を払うなんて、話にならないわよね」と答えてくれました。質の高い仕事をするために、ムダなことはしたくないと話していたことにも、プロ意識を感じました。 ―日本とは大きく状況が異なるのですね。なぜ、日本ではノーリフティングケアの導入がなかなか進まないのでしょうか。 日本では1970年代に「重量物取り扱いルール」が制定されましたが、建設業・輸送業など「物」を対象とする業界で実践されてきました。そのため、人に対しては何の対策も取られず、介護や看護に携わる人たちの腰痛が増え続けてしまったのです。2013年に国が「職場における腰痛予防対策指針」を出しましたが、現場が実際に変わるほどの効果はなかったように思います。昨年、厚生労働省による労働災害の防止の取り組み「従業員の幸せのSAFEコンソーシアム」や、今年の「第14次労働災害防止計画」の中に、「介護はノーリフティングケアでやりなさい」という内容が、ようやく明記され始めたのが現状です。 国をあげての問題になった今、看護師や介護士、そして長時間一緒に過ごされるご家族の体を守るために、私はノーリフティングケアの普及活動に力を入れています。 看護や介護職の人たちは、「自分が要介護者の手足を動かしてケアすること」こそ、本人やご家族に喜ばれると考え、それが目標や自身への評価にしがちです。しかし、大事なのは、ご家族を含めた介護するチーム全員が自分の体をしっかり守りながら、ケアを継続すること。看護・介護のプロとしても、腰痛予防のための「ノーリフティングケア」を取り入れるべきだと思います。 日本の要介護者が屈曲状態で拘縮する理由 ―下元さんは30年以上前にカナダの医療や介護の現場へ「ノーリフティングケア」の視察に行かれ、どこに行っても拘縮(関節が固まってしまう状態)の要介護者がいない事実に驚かれたとのこと。日本ではなぜ拘縮の人が多いのでしょうか。 下元: 私が理学療法士を目指して勉強していたころは、「寝たきりなどで体を動かさないから拘縮が起こる」と習いました。でも、実際に臨床現場で働くと、寝たきりなら関節が伸展した状態で拘縮するはずなのに、なぜか上肢は肘で大きく曲がり胸にくっつき、指も握ったまま、下肢も大きく曲がり踵がお尻にくっつきそうな人が多く、不思議に思いました。 セラピーの時間に手足を動かして「少し筋肉が緩んだかな?」と思っても、看護師さんに患者さんを病棟のベッドに移してもらった途端、セラピー前の固さに戻っていることもありました。吸引して拘縮が強くなっていることもあり、もしかしたら、筋肉が緊張する状態が続くと拘縮になるのではないかと思いました。 強い刺激や速い刺激を与えると、筋肉の緊張度合は上がります。例えば、横向きに寝るように体を動かし、股関節を開くといったおむつ交換の作業でも、乱暴に動かすと筋肉は緊張します。時間が経って緊張が少し緩んでも、また次の介護ケアで筋肉が緊張してしまう。私たちのようにふーっと息を吐くなど、要介護者は筋肉の緊張を緩めるようなコントロールができません。つまり、介護ケアの連続が、筋肉の緊張状態を継続させていたのです。これは、人によって「つくられた拘縮」ともいえます。 28歳で地域の高齢者病院に転職したときに驚いたのが、拘縮で手足が屈曲し固まっている患者さんが病室にたくさんいたことです。医師からは山のように「拘縮改善」のオーダーがありました。でも1日数十分体を動かすだけでは、固くなった体を改善することはできません。カナダのバングーバーの施設を視察したのはそのころ。もう30年前の話ですが、拘縮している要介護者はいませんでした。その後に行ったデンマークやオーストラリアでも、生活習慣による円背はあっても、日本でたくさん見るような拘縮した人はいなかった。つまり「ノーリフティングケア」を実践している国では、拘縮している要介護者がほとんどいないのです。 ―リフトの活用が拘縮を防ぐということでしょうか。逆に、筋肉が緊張しそうなイメージもあります。 下元: 吊り上げるときは、大腿後部と背中全体をシートで支えます。広い範囲でしっかり体重を支えながらゆっくり動かせば緊張するどころか、逆に緊張を緩めてくれるのです。だから我々は、「要介護者を抱え上げられないからリフトを使おう」ではなく、「筋肉の緊張を緩めるためにリフトを使いましょう」と在宅介護や医療現場で提案します。拘縮を改善する道具として使えることを、ぜひ多くの看護・介護・福祉の現場で働く人々に知っていただきたいです。 嬉しそうにリフトを利用している利用者さんの様子 ベッドからの移動にリフトを活用(左)。利用者さんのお母様の負担が軽減した。また、体幹トレーニング(中央)や、リラクゼーション(右)にもリフトが活用されている 私が活動する高知県では、全国に先駆けて「ノーリフティングケア」に取り組み、2015年からモデル施設をつくっています。8年経ちますが、拘縮の方が本当に減りました。県外から視察されに来た方を施設にお連れすると、ホールに座っている高齢者を見て、「高知県は特養介護度が低いのですか?」と皆さん同じことをおっしゃいます。日本には拘縮している高齢者が多いので、「自分で自由に動けない介護度が高い人=拘縮している」というイメージなのでしょうが、「ここにいる皆さんは要介護度5ですよ」と伝えると必ず驚かれます。 リハビリもやらなければと思う看護師たち ―先生は、訪問看護師を養成する県のプログラムで講師もされていると伺っています。受講される看護師は「ノーリフティングケア」についてどのようなイメージを持っているのでしょうか。 下元: 年2回、「在宅リハビリテーション」というテーマで1日研修の講師を担当しています。最初に「在宅リハビリテーションに、どんなイメージありますか?」と質問すると、「ベッド上の要介護者の手足を動かす」と看護師さんたちは答えます。私は「リハビリテーションとは、そういうことではない」ということから講義を始めるんです。 理学療法士や作業療法士が不在の介護現場では、「自分がリハビリの仕事をしなければ」と考える看護師さんが多いようです。「リハビリのやり方を教えてください」と看護師さんからよくお願いされますが、「要介護者の手足を動かすことが理学療法士や作業療法士の仕事ではない。週に一度や二度それを実施しても拘縮は予防できません。ケアを変える提案をする方が大事であり、成果が出ます」と伝えます。そして、「リフトで吊り上げてゆらゆら動かすと体の緊張が緩んできます。ベッドの上で要介護者の手足を動かすよりも拘縮予防になります」と説明すると看護師さんたちは驚かれ、「リフトを活用したい!」とおっしゃるのです。 ―リフトを実際に使っている方やそのご家族の様子を教えてください。 下元: リフト利用者やそのご家族は、活動的になる傾向があります。 玄関リフトや電動車いすなどを活用してお出かけをする利用者さん。「人に相談する」「福祉用具を使ってゆとりを作る」ことで、お母様の負担を減らしながら活動量を増やし、暮らしが豊かになった リフトは自費でレンタルできるので、ホテルに設置してもらって1泊2日で国内旅行に行く方もいます。私の勤務先のリフト利用者も、海外旅行を楽しんでいました。リフトの活用が進んでいる海外のほうが手配しやすいとも思います。その方は70代の男性で、難病が進行し、昨年、人工呼吸器を装着されました。在宅介護は厳しいかもと思いましたが、家に戻って来られたんです。「帰ってきたんですね」と言うと、「いやいや息ができなくなっただけでしょ?」とおっしゃる。病気の進行に合わせて補助器具を導入する生活を送り、リフトさえあれば在宅介護ができるんじゃないかという前向きな考えに至ったのだと思います。奥様もリフトとヘルパーさんの力を借りることで、仕事を辞めることなく在宅介護ができると判断されたようです。 リフトを活用している筋ジストロフィーのお子さんは、体が動かないので床に置かれるだけで大泣きする状態でしたが、今は移乗に使うだけでなく、吊り具を使って立ち上がり、1時間ぐらい遊んでいます。干している洗濯物を落として喜ぶなど、ちゃんといたずらができることも発達の表れです。 体調を崩して入院すると、「帰る、帰る」と言うそうです。「帰って何をするの?」と聞くと、ブランコに乗るようなしぐさをして「家でリフトに乗りたい」と主張する。動ける自由に楽しさを感じているのでしょう。 リフトを使えば起きたいときに起きられるし、ラクに車いすに乗れて移動できるようになるので、要介護者とご家族のQOLは確実に上がります。利用者の奥様に、「リフトはどんな存在ですか?」と尋ねたら、「相棒」とおっしゃっていました。「子どもたちに夫の移動を頼むと嫌がられるけれど、リフトは1回も嫌って言ったことがないのよ」と話されていたことも印象的でした。 >>後編はこちら在宅に「ノーリフティングケア」の導入が難しい…は誤解? ※本記事は、2023年8月時点の情報をもとに構成しています。 執筆: 高島 三幸取材・編集: NsPace編集部

在宅の褥瘡・スキンケア (浸軟)
在宅の褥瘡・スキンケア (浸軟)
特集 会員限定
2023年11月7日
2023年11月7日

浸軟の基礎知識 予防的スキンケア&療養生活環境アセスメント

浸軟は、皮膚が水に浸漬することで角層の水分が増加し、一過性に体積が増えふやけることで生じる変化です。失禁関連皮膚炎(IAD)や褥瘡発生を防ぐためには、浸軟を予防すること、さらにはその前段階である湿潤を起こさないためのスキンケアが重要です。 今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、「浸軟」の基礎知識やスキンケア、アセスメントについて解説していただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 皮膚の浸軟とは 皮膚は、長時間の入浴などで一時的に一定の水分保持能力を超えると、体内に水分が吸収されることにより膨潤し、見た目としては白くなります。この状態が一般的に「ふやけ」といわれる、浸軟です。 左:浸軟した皮膚 右:健常な皮膚 一時的な水分の浸漬によって皮膚が膨潤しても、時間の経過とともに角層に吸収されて元の状態に戻ります。角層には、水分を保つ能力(保水能)があり、適度に水分を含んだ角層は、柔らかく滑らかです。角層の持つ水分の保湿に関係するものは、天然保湿因子、皮脂膜、細胞間脂質で、水分保持能力は加齢に伴い変化をします。 健康な皮膚の場合、バリア機能が発揮されるため、細菌や化学物質などは、簡単に体内に入ることはできません。浸軟による角層の過剰な水分の存在は、角質細胞間脂質の流出や細胞同時をつなぐ分子の破綻、細胞間隔の拡大を招きます。それにより、体内の水分の喪失が増え、本来の健康な皮膚が持つバリア機能が障害されるのです。 失禁状態で常に排泄物が皮膚に付着している人、おむつを使用しており、おむつ内部が高温多湿な環境にある人、発汗量の多い人などは、皮膚が湿潤しやすい状況にあります。皮膚の湿潤が持続すると、皮膚のバリア機能が低下して浸軟をきたし、スキントラブルが起こりやすくなります。 浸軟を予防する毎日のスキンケア 洗浄方法&洗浄剤選びのポイント・注意点 洗浄の際は、皮膚の浸軟状態をよく観察しこれまでのスキンケアの評価を行います。浸軟の原因となる汗や排泄物などの汚れを取り除く際、皮膚を擦らないように注意しましょう。 失禁などで皮膚に浸軟を生じている場合、洗浄剤を用いた頻回な洗浄は、皮脂を過剰に取り除いてしまいます。さらに皮膚を擦るという機械的な刺激が加わることで皮膚の表面を損傷し、バリア機能がさらに低下。そこに排泄物の刺激が加わると、スキントラブルを起こす可能性がさらに高くなります。 IAD:臀裂部潰瘍周囲皮膚の浸軟 失禁状態の療養者のスキンケアは、おむつの交換毎に洗浄剤を用いた洗浄を行う必要はありません。洗浄剤の使用は1日1回として、皮膚を守る洗浄のスキンケアを行いましょう。洗浄剤をよく泡立ててから、泡で皮膚を覆い優しく撫でるように洗浄します。洗浄剤の成分を皮膚に残さないように、微温湯で十分に洗い流しましょう。この時も、擦らずに洗い流すことが大切です。洗浄剤は、低刺激性のもの、弱酸性のものを選びます。さらに脆弱な皮膚には、セラミド含有皮膚保護成分配合の洗浄剤を選択しましょう。また、便失禁による排泄物の拭き取りには肛門用清拭剤を用いて、ふき取り時に生じる皮膚への摩擦を軽減します。 保護のスキンケアのポイント&タイミング 浸軟の予防には、保湿剤を使用した保湿のスキンケアに加え、皮膚皮膜剤、撥水性保護クリームを用いた保護のスキンケアが大切です。排泄物による汚染が予測される部位には、あらかじめ撥水性保護クリームなどを用いて、排泄物の付着から皮膚を保護します。皮膚が脆弱で摩擦による皮膚の損傷の恐れがある場合、スプレータイプの皮膚皮膜剤を使用するとよいでしょう。 保護のスキンケアは、おむつ交換で排泄物を拭き取ったタイミングで行うと効果的です。撥水性保護クリームは皮膚に撥水性の皮膜を作るため、排泄物から皮膚を守り、摩擦を軽減することができます。 皮膚が密着している部位は、毎日意識的に観察を行いましょう。特に、皮膚と皮膚が密着している腋窩や臀裂部などは、常に皮膚が湿潤しやすい状態にあります。また、関節拘縮のある方は、身体同士の密着部の領域が増加し、前前腕部と前上腕部の密着面、後上腕部と前胸部の密着面や、麻痺側手指の拘縮による手掌部に、湿潤や浸軟を生じやすくなります。麻痺側手指にハンドロールを使用する場合は、通気性がよく硬すぎない材質のものを利用しましょう。 浸軟を生じる療養生活環境をアセスメント 室温・湿度 高温多湿な療養環境はじめとした、発汗に影響を及ぼす生活環境があるのかを確認しましょう。冬季の暖房器具(エアコン)調節下の室内では、こまめな換気や室温湿度の調整が行われず、療養者の発汗量が増加していることもあります。また、電気毛布や電気あんかを使用している場合、設定温度が発汗に影響していないか、定期的に評価を行い調節することが必要です。 寝衣・寝具 発汗により皮膚が湿潤する場合、皮膚のバリア機能が低下します。肌着や寝具などで汗を吸収し、熱放散により皮膚の浸潤を予防することが大切です。着用する肌着は、木綿素材で汗を吸収する柔らかいものがおすすめです。肌着や寝衣の重ね着、寝具の掛けすぎなどに留意し、室温、湿度にあった寝床環境を調整しましょう。 体圧分散マットレスやベッド上に防水シーツなどを使用している場合、吸水性のない製品は蒸れや発汗の原因になります。さらに、背部にバスタオルを敷いていると、温度が上昇して皮膚の湿潤の原因になりますので、吸湿性のあるシーツを使用することをおすすめします。体圧分散マットレスを使用している場合、身体はマットレスに沈み込むと熱がこもり、汗をかきやすくなります。特に、自力で寝返りができない、可動性や活動性が低下している方には、マイクロクライメット管理のできる体圧分散マットレスもあります。 医療用テープの使用 透湿性の低い医療用テープは皮膚への刺激が強く、浸軟が生じやすくなります。透湿性の高い低刺激性の医療用テープを用いることをおすすめします。 おむつの使用 おむつの交換頻度、使用しているおむつの種類や枚数、おむつ交換時のスキンケア方法を確認しましょう。尿漏れを予防しようと、何枚ものおむつを重ね付けしている場面を見かけます。おむつや尿取りパッドは、それぞれ機能や吸収量が異なります。療養者の排泄状況にあったおむつを使用しているのか、アセスメントを行うことが重要です。 おむつは、体格や排泄状態にあったおむつを選択しましょう。おむつの使用サイズは、テープタイプはヒップサイズ(最大腰回り)、パンツタイプはウエストサイズ(臍回り)が基本となります。大きめのサイズを使用すると隙間が生じ、尿が漏れやすくなります。一方、小さいサイズを使用すると皮膚への圧迫が強くなり、発赤や掻痒感、スキントラブルの要因になります。 また、おむつの重ね付けには、注意が必要です。おむつとパッドの重ね使いは、原則的にアウター(おむつ)1枚とインナー(パッド)1枚までです。インナーの外側は防水フィルムで覆われているため、下のパッドに尿は吸収されず複数枚重ねても吸収量は増えません。さらに、インナーを重ねることで、アウターの立体ギャザーの高さが低くなるため、尿が漏れる原因になります。おむつは、適切な使用方法によって、蒸れや漏れを予防することができるのです。 失禁のある療養者の場合、経済的な問題によって、おむつ交換間隔が長くなり、皮膚に浸軟を生じる場合もあります。各自治体には、さまざまなサービス(おむつ給付サービスや特殊尿器の福祉用具貸与など)があります。また、おむつ代の医療費控除をはじめとした助成制度(税金の控除)もあります。各家庭の経済力を把握し、地域の社会資源の活用を検討しましょう。 医師との連携 皮膚の浸軟が続くと真菌性疾患、失禁関連皮膚炎、褥瘡などを発症するリスクが高くなります。浸軟の原因を取り除き、正しいスキンケアを継続しても皮膚症状が改善しない、もしくは悪化をする場合は、速やかにかかりつけ医や皮膚科専門医へ報告、相談をしましょう。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら