2025年1月21日
真菌症とは? フットケアにも活かせる知識【多数の症例写真で解説】
在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は真菌症の中でも、在宅で特に問題になる白癬菌とカンジダに絞って解説します。
真菌症とは
真菌症とは、真菌(カビ)が寄生して起きる疾患で、皮膚の角層、爪、毛や粘膜表面に生じる浅在性真菌症と、皮膚の深部(真皮、脂肪組織)や内臓に生じる深在性真菌症があります。後者はやや特殊で頻度も低いのに対し、前者は日常の診療で頻繁に遭遇します。
皮膚に病変を引き起こす真菌は複数ありますが、在宅で主に問題になるのは白癬菌とカンジダであると思われ、今回は浅在性の白癬とカンジダに絞ってみていきましょう。
診断確定には真菌の証明が必須
視診で疑うことはもちろんですが、診断確定は原因となる真菌を証明することにつきます。疑わしい部分の角層、毛、爪などを鑷子や眼科の剪刀で採取し、鏡検で菌糸や胞子を確認します(図1)。具体的には、採取した検体をスライドグラスに乗せて、その上から検出液*をかけてさらにカバーグラスを乗せ、軽く熱して角質を溶かしてから確認。慣れれば手技としては簡単ですが、検体を採取するときに適切な場所を選ぶことと、結果の判断が少し難しいと思います。
*検出液:20~30%の水酸化カリウムでよいのですが、さらに見やすくするために10~20%のジメチルスルホキシド(DMSO)を加えた検出液が市販されています。
図1 白癬菌の菌糸と胞子(鏡検像)
A:白癬菌の菌糸(矢印)が見られる。B:菌糸の他、ブドウの房のような胞子(破線で囲まれた部分)が見られる。カンジダである。C:角層の隙間や角質細胞間の脂肪滴(破線で囲まれた部分)が白癬菌の菌糸のように見える場合があり、菌様モザイクと呼ばれている。
爪白癬については爪自体が硬く、白癬菌が存在している場所に偏りがある場合もあり、適切に検体を取るのがさらに難しくなります。
特に在宅で、「爪が肥厚しているから」というだけで白癬と判断されて治療されている例を見かけます。実は爪白癬ではない、爪甲鉤彎症(そうこうこうわんしょう)や掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、厚硬爪甲など他の疾患による爪の肥厚(図2)などが含まれている場合もあるので、きちんと診断する必要があります(少なくとも皮膚科では、真菌検査をしないで爪白癬の治療を始めると、医療費請求時に査定されます!)。最近では抗原検査を行うキット(図3)も発売されており、免疫学的に調べられるので、他科の先生方には利用してほしいものです。図2 爪甲鉤彎症(左)と掌蹠膿疱症(右)
図3 爪白癬菌検出キットの例
テストライン部にラインが出現しており「陽性」と判定。
白癬
足に発症した場合は足白癬、爪なら爪白癬、陰股部であれば股部白癬、頭は頭部白癬、手は手白癬と呼び、それ以外の場所は一般に体部白癬とまとめることが多いです。足白癬は一般に趾間型、水疱型、角化型に分類されます(図4)。白癬はかゆみを伴うことが多く、またそういった印象があると思いますが、特に角化型ではかゆくない場合もあります。図4 趾間型(左)、水疱型(中央)、角化型(右)
外用治療が基本ですが、皮疹が見られない場所にも真菌が付着しているため、両足全体に外用することが必要です(図5)。薬を塗る量も重要ですが、最近は「finger tip unit」の概念が普及しているように思います(図6)。チューブから人差し指の末節分の薬を押し出して(約0.5g)、それを大人の手のひら2枚分に塗る、という概念です。だいたい片足全体で1unit(0.5g)、両足に1日1回塗れば1gですので、1ヵ月で30gを消費することになります。また、症状が改善しているように見えても深部に真菌が逃げ込んでいるので、「見た目の症状が消失してからあと1ヵ月」外用を続けることが基準といえます。図5 足全体に付着する白癬菌
皮膚に現れた白癬の症状(破線で囲まれた部分)は一部でも、足全体を培地に接触させるフットプリント法で、広い範囲に白癬菌が付着していることが分かる。(まるやま皮膚科クリニック 丸山 隆児先生 資料)
図6 finger tip unit
人差し指の末節分の長さまで出した塗り薬の量を1finger tip unit(約0.5g)という。その量を大人の手のひら2枚分に塗る。
手掌や足底以外の部位、例えば臀部や四肢、体幹などに白癬が生じた場合は、一般に「境界鮮明・堤防状隆起・中心治癒傾向」の3つの特徴を持つことが多いでしょう(図7)。図7 体部白癬
臀部と下肢に生じた体部白癬。境界がはっきりとしており、周辺が堤防状に隆起し、外側に拡大していくため、中心部が治癒する傾向にある。
爪白癬
爪に真菌が侵入したもので、「混濁・肥厚・崩壊」が特徴ですが、その見た目はさまざまです(図8)。周囲の皮膚に食い込んで感染を起こし壊疽に至ったり、転倒リスクが上昇したりすることが分かってきました1)。現在の日本の高齢者における足白癬・爪白癬の罹患率は高いとの指摘があり、「治せるうちに治しておきたい」疾患であると考えます。図8 爪白癬のさまざまな症状
治療は内服薬か外用薬を選択します。内服にはテルビナフィン塩酸塩かホスラブコナゾールを用います。肝機能障害の懸念があるため、定期的な採血を必要とします。外用にはエフィナコナゾールまたはルリコナゾールがあります。治癒率は内服薬のほうが高いので、日本皮膚科学会のガイドライン2)によれば内服治療の推奨度はA(行うよう強くすすめる)、外用治療はB(行うようすすめる)とされています。肝機能障害や併用薬などの問題がなければ内服治療が望ましい(図9)のですが、副作用の懸念や採血の問題があり、在宅では外用薬が選択されることも多いようです。図9 白癬の治療経過(70代女性)
テルビナフィン塩酸塩内服による足爪白癬の治療経過。根元から新しいピンク色の爪が生えてきて、半年ほどで入れ替わる。
カンジダ症
カンジダも真菌の一種ですが、口腔内、腸管、膣内などの常在菌です。寝たきりの高齢者ではオムツの着用率が高く、入浴もままならないこともあり、臀部・外陰部のカンジダ症の発生リスクが高いと考えられます。
臀部・外陰部の白癬は前述のような特徴を持ちますが、一方でカンジダ症は膜のような鱗屑(りんせつ)がついていたり(図10)、衛星病巣といって周辺にパラパラと飛び散るような水疱や膿疱が見られたりすることがあります。ただし、図11のように、なんとなく境界がはっきりしており「膜様鱗屑?」と思っても真菌は検出できず、刺激性の皮膚炎だったという例もあります。やはり最終的には菌の存在の有無を確認することが重要です。在宅の現場や施設などいたるところに皮膚科医が存在していれば、と思うのですが、現実はそうではないため皮膚科医の一人として申し訳なく思っています。図10 膜様鱗屑が見られるカンジダ症
図11 真菌は検出されなかった刺激性の接触皮膚炎
境界明瞭?膜様鱗屑?に見えるが、真菌は検出されず、刺激性の接触皮膚炎だった例。
カンジダ症は外用治療を基本としますが、刺激性の皮膚炎を合併している場合もあります。ここで問題となるのはIAD(失禁関連皮膚炎)ですが、これについては次回で詳しく述べたいと思います。
余談ですが…
筆者が大学を卒業して皮膚科の教室に入局した時の教授が真菌を専門としており、真菌症の診療については厳しく指導されました。一番大切なことは真菌が原因となっていることを証明することであり、そうでない場合は抗真菌薬を使用してはいけない、と教えられました。
実際、例えば患者さんが受診される際に、「水虫だと思って市販の水虫薬を塗っていました」と言われると、非常に困ります。ある程度の期間塗ってしまうと真菌を検出できないことがあり、本当にいないのか、薬の効果で一時的に見えなくなっているのか、判断が困難になるためです。また、市販の外用抗真菌薬にはかゆみ止めをはじめとしたさまざまな成分が含まれており、それによる接触皮膚炎も多く見られます(図12)。図12 市販の水虫用外用薬にかぶれた例
もともと足白癬、爪白癬であったが、市販の水虫用外用薬にかぶれた例。
真菌は、角層のケラチンを餌にして生きています。ですから基本的には角層や表皮が欠損した潰瘍表面で悪さをすることはない、あるいは少ないと考えます。時々、褥瘡の潰瘍表面に真菌が感染したので抗真菌薬を外用した、という報告に触れることがあります。ところが実際に真菌を証明しておらず、「見た目が真菌っぽい」という理由で抗真菌薬を塗っているように見受けられ、筆者としては抵抗があります。
執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社
【引用文献】1)加藤豊範, 吉田章悟, 鈴木絢子他:回復期リハビリテーション病棟における転倒予測因子の解析 - 足爪白癬のリスクとその治療の有用性の評価.PROGRESS IN MEDICINE 2020:40 (4);425-429.2)日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン改訂委員会:日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019.日皮会誌 2019:129(13):2639-2673.