ステーション運営に関する記事

訪問看護から看多機・生活支援・定期巡回まで。人と地域をつなげるために
訪問看護から看多機・生活支援・定期巡回まで。人と地域をつなげるために
インタビュー
2024年1月30日
2024年1月30日

訪問看護から看多機・生活支援・定期巡回まで。人と地域をつなげるために

訪問看護ステーションを開設後、神奈川県川崎市で初めて看護小規模多機能型居宅介護施設(看多機・かんたき)を立ち上げた林田菜緒美さん。現在は、放課後等デイサービスや子ども食堂、生活支援、定期巡回なども行っています。前編に引き続き、看多機運営のポイントやサービス拡大への想いなどを伺いました。 >>前編はこちら 川崎市初の看多機(かんたき)立ち上げへの想い&やりがい【ゆらりん家】 「ゆらりん家」の概要神奈川県川崎市麻生区にある、通い・宿泊・訪問看護・介護の4つのサービスを24時間365日提供するサテライト型、看護小規模多機能型居宅介護施設。急な用事での送迎時間の変更や、泊まりにしたいなど迅速な対応が可能で、登録定員18名、泊まりの個室は5部屋を用意。児童発達支援や放課後等デイサービスも行う「KIDSゆらりん」が併設され、子ども食堂も運営。室内はオープンキッチンやテラスがあって明るく、檜風呂が自慢。毎週日曜日は地域に開放し、あらゆる層の人とつながれる居場所をつくっている。〇プロフィールリンデン代表取締役林田 菜緒美さん福岡県出身。RKB毎日放送で広告営業として勤務後、夫の転勤で神奈川県へ。都立の看護専門学校を卒業し、病院や訪問看護ステーションを経て、2011年にリンデンを設立。「赤ちゃんからお年寄りまでその人らしく生きていく」ためのサポートを目指し、川崎市麻生区で看護小規模多機能型居宅介護事業などを展開。高齢者への生活支援と介護予防の基盤整備を進める地域の調整機能を果たす生活支援コーディネーターとしても活動。2024年には、健やかな社会の実現と国民生活の質の向上を目指し、献身的に活動する人を表彰するヘルシー・ソサエティ賞の医療・看護・介護従事者部門を受賞。 シェアハウスのようにみんなで譲り合う —看多機の運営で心がけているポイントを教えてください。 利用者さんやご家族に「譲り合い」をお願いしている点でしょうか。看多機は介護施設というよりもシェアハウスに似ているかもしれません。利用者さん全員が一斉にいらっしゃると、たちまち定員オーバーになってしまいます。だから、「今日、Aさんの具合が悪くなってお泊まりになりそうだから、いつもこの日に泊まっているBさんに、今日だけ家で過ごしてくれないかお願いしてみる」という感じで、個室のベッドも共有スペースの椅子もみんなでシェアしています。包括料金なので、毎日利用することもできるのですが、「老人ホームではなく在宅療養を支えるサービスである」ことを契約時にご本人やご家族にしっかり説明し、ご理解いただいています。 —新たに看多機を立ち上げたいと考えている訪問看護ステーションの管理者・経営者の方などに向け、アドバイスや注意点を教えてください。 資金面でいうと、最初から黒字化は難しいので、訪問看護ステーションをしっかり黒字化にしてから、看多機に挑戦するといいかなと思います。また、医療職の方は、当然ですが自分の専門分野での働き方しか知らないので、介護職との協働ができるように意識し、互いの職種を認めて尊敬しあい、協業できる力をつけることも大事だと思います。難しい医学用語は分かりやすく介護員に伝えるといった細かい配慮も大切だと思います。 何より、求人を募っても人手不足の今、介護職の人はなかなか集まりません。先にヘルパーステーションを開設し、介護職の人員確保の目途がある程度たってから、看多機を開設する方法もあると思います。ヘルパーステーションでの訪問介護では、介護士と看護師が一緒にお家を回り、2人で人工呼吸器や胃瘻などの医療的ケアが必要なご高齢者の入浴介助を行うケースなどが増えています。そうした経験を積めば、介護士の技量を上げることができる。弊社の介護福祉士には、みんな喀痰吸引等研修の1号まで取得してもらっています。吸引ができるように介護職員を育成すれば、夜勤も看護師と1号を持っている介護福祉士が交代でできるようになります。理想は、介護職員が「この利用者さんを散歩に連れていきたい」といったケアの方法を考え、看護師はそれを支える役割になればいいと思いますね。また、少しでも看多機を立ち上げたいという思いがあるなら、行政への相談が大事です。看多機は地域密着型のサービスなので、「その地区は計画済みで、もうサービスが足りているから要らない」などと行政から言われたり、「ここのエリアならいいのでは」などとアドバイスしてもらえたりすることも。やる気があっても、「今年度は補助金が出ません」と言われたら残念なので、まず行政に相談し、自分の思いと行政の計画を一致させてから動いた方が安心です。申請も複雑なので、分からないことはどんどん聞くといいでしょう。 使える制度を増やしてあらゆる人をサポート —林田さんは共生型サービスや障害児通所施設、生活支援コーディネーターなども行われています。複数のサービスを展開していくことで、どんなメリットがありましたか。 何よりよかったなと思うのが、ずっとひとりで家の中にいるような、地域との接点がなかった方たちとつながれたことだと思います。例えば、地域包括支援センターの人が訪ねても、扉を開けずかたくなに人を入れないご高齢者もいます。でもお弁当の配達なら、扉を開けてくれてその方の顔が見えるんです。毎週、お弁当を届けて声をかければ、笑顔を見せてくれたりして。「ゆらりんさんのお弁当の配達が始まってから、あの人、笑顔が多くなったのよ」なんてご近所さんから言われるとうれしいし、楽しいです。 医師の意見書なしに介護保険にはつながらないので、要介護レベルのご高齢者が「絶対に病院には行かない!」と言うと、介護認定はおりません。でも、見守りやお弁当配達から始めてみると信頼関係ができやすく、病院に行くように促すことも可能。事前に顔見知りになることで、介護保険サービスの利用も拒否されづらくなります。 —ひとり暮らしの認知症の方も、自分から申告してサービスを受けることが難しいように思います。そうした方々とつながることもあるのでしょうか。 そうですね。認知症だと分かるきっかけは、ゴミ出しだったりします。認知症の人はゴミの日以外にゴミを出すようになって近所の人から怒られ、ゴミを出すのが怖くなってゴミ屋敷になっていくんです。代わりにゴミを出してあげるような周囲の優しさがあると、ゴミ屋敷にまでならなくて済むのに、といつも思います。 ある日、地域包括支援センターの方からの相談で、ゴミ屋敷のお家に行きました。90代の認知症が進んだおばあさんを訪ねたのですが、そこには50代の精神疾患の娘さんもいらしたんです。それまではおそらくお母さんが3食食事をつくり、娘さんの通院も付き添っていらっしゃった。でも認知症の進行でそれができなくなり、2人は完全に地域とのつながりがなくなって孤立状態になってしまいました。この狭い地域でこうした例が今まで2~3件あったので、全国的に見ると大きな社会問題ではないかと思います。 スタッフでお部屋を片づけ、お母さんには看多機を利用してもらうように手続きしました。当看多機は共生型サービス(障害福祉サービス)の申請をしていたので、50代の娘さんも利用できるように手配し、週2回の通いで入浴できるように。2人とも、1年以上お風呂に入ってなかったと思います。こうした例を見ると、制度を駆使してあらゆる年代や状況に対応できるサービスを提供できるように整備する必要性を感じます。すべてボランティアではできませんから。 最近、新しい事業として「定期巡回随時訪問看護介護」を始めました。とてもいい制度で、看護師や介護員が定期的にお家を回れて、何かあれば緊急ボタンを押せば看護師とつながることができる。泊まりが必要ないご高齢者なら、このサービスで十分なサポートを得られるのではないかと思っています。 始めたきっかけは、「最近、姿を見ない」と近所の人から地域包括センターに連絡があり、高齢夫婦の自宅を訪問したことでした。訪ねると、脚がパンパンにむくんだおじいさんがいました。すぐに認知症でインスリンが打てなくなったんだと分かり、血糖値を図ったら計測不能なほどの高数値。入院が必要な状況でしたが、ご本人は認知症の奥様がいるから絶対に入院しないとおっしゃる。協力医療機関の医師に相談し往診に入ってもらい、毎日血糖値を図りながらインスリン量を調整し対応してきました。毎月通院してかなりの量のインスリンや薬をもらっていた患者さんが外来に来なくなったとしても、病院から地域の看護師などの支援者につながらない現状があります。 このおじいさんは認知症ですが要介護1なので介護護保険の点数ではサポートしきれず、「定期巡回随時訪問看護介護」でサポートしています。365日午前に看護師が血糖値を計ってインスリンを打ち内服介助。介護員が午後に洗濯や買い物、お食事の準備などを手伝っています。定期巡回は看多機と違ってケアマネジャーの変更が不要で、他事業所の通所も利用できます。包括料金なので必要に応じて行く回数も柔軟に変更できます。ただ、人手不足なので、夜間の介護員の配置は難しいなと思います。まだ利用者さんが少ないですが、ケースによってこうした制度も上手に使っていきたいです。 テレビ局時代にはなかった人や地域に貢献できるうれしさ —なぜそこまで地域のために頑張れるのでしょうか。モチベーションの源泉を教えてください。 困っている人を見捨てられないという性格かな(笑)。テレビ局の広告営業からの看護師への転身だったので、こんなに人から感謝されて地域の役にも立ってお金がもらえるなんて、なんていい仕事なんだろうという感激が強いのかもしれません。 30歳直前で看護師になろうと思ったのも、白血病で入院していた小学生の甥っ子を看護師さんが笑顔にする姿が忘れられなくて。看護学校時代も訪問看護ステーションの実習で、人工呼吸器をつけている子どもの家を訪問したときに、こうした人たちをサポートする訪問看護の現場で働きたいと思いました。「来年、卒業したらここで雇ってもらえますか」と実習先の方に聞きましたが、あのころは「内科3年、外科3年」という時代で、「まず病院で3年働いて経験を積んでからね」と言われ、そういうものかと思い、病院勤務で経験を積むことに。当時は3歳と1歳の子どもを抱えて余裕もなかったので、訪問看護ステーションで働きたいと本気で思えたのは、子どもが小学校に入ってからでしたね。転職して訪問看護の現場で働くうちに、自分の愛着ある地域で重症度や年齢で断ることのないサポートがしたいと思い、独立したんです。 やりたいと思ったら、みなさんもチャレンジしたほうが絶対にいいと思うんですよ。私も来年60歳になりますが、人生は思うよりも案外短い。訪問看護ステーションや看多機を立ち上げる程度の借金は、やる気になれば返せないお金ではないので、怖がらなくてもいいと私は思います。ただ社長業は大変。従業員60人分の給料を生み出さなくてはいけないし、やること考えることもたくさんあります。胃が痛くなるような、一度始めたら終わりにできない苦しさもあります。それでも続けることで地域がつながり、助けが必要な人を1人でも多くサポートできる。しんどくても、モチベーションを低下させずに私が続けられている理由ではないでしょうか。 やはり地域の中に居場所をつくり続けることが大事で、ここでサポートできる内容やレベルが高まれば、町全体がもう少し認知症の高齢者などに優しくなれるのではないかとも思うんです。ボランティアでうちに通っていた人がいつの間にか認知症になって利用者さんになったけれど、ご本人は変わらずボランティアをしていると思っている。そして私たちはお金をいただいている(笑)。そんな状態になるのが理想だなと思います。 —今後の展望を教えてください。 とにかく継続することですね。始めたことに責任をもって継続するには、それをまた担ってくれる若い人たちに代替えしていかなくてはいけない。看護師はもちろん、介護員不足にとても困っている施設が多いなかで、まずは中高生や、看護や介護の実習生といった若い世代に、この仕事に興味を持ってもらうことを大事にしています。例えば、子ども食堂のボランティアには中高生も来てくれます。子どもたちが看護師や介護士、保育士が働いている姿を間近で見て、地域づくりや看護、介護などに対し、自然に興味を持ってくれるような場にもなっている。そうして次世代にバトンタッチしながら、地域にずっと残る頼れる居場所であってほしいと思います。 ※本記事は、2023 年10月時点の情報をもとに構成しています。執筆:高島 三幸取材・編集:NsPace 編集部

川崎市初の看多機(かんたき)立ち上げへの想い&やりがい【ゆらりん家】
川崎市初の看多機(かんたき)立ち上げへの想い&やりがい【ゆらりん家】
インタビュー
2024年1月23日
2024年1月23日

川崎市初の看多機(かんたき)立ち上げへの想い&やりがい【ゆらりん家】

「看護小規模多機能型居宅介護」(以下、「看多機」(かんたき))は、医療依存度が高い高齢者や体調が不安定な障害を抱えている人などが、住み慣れた自宅で生活するための介護保険サービスです。特徴は、訪問介護や訪問看護が受けられ、事業所への通い(デイサービス)や宿泊も可能なこと。24時間365日、できるだけ介護者や家族の希望に沿った柔軟で包括的なサービスの提供ができます。 この看多機の先がけが、林田菜緒美さんが神奈川県川崎市麻生区で2013年に開設された「ナーシングホーム岡上」(現・ナーシングホームゆらりん)です。訪問看護ステーションを運営していた林田さんが、川崎市で初めて看多機を立ち上げたのは約10年前のこと。林田さんに、立ち上げ時のお話や現在の想いを伺いました。 「ゆらりん家」について神奈川県川崎市麻生区にある、通い・宿泊・訪問看護・介護の4つのサービスを24時間365日提供するサテライト型の看護小規模多機能型居宅介護施設。急な用事での送迎時間の変更や、泊まりにしたいなど迅速な対応が可能で、登録定員18名、泊まりの個室は5部屋を用意。児童発達支援や放課後等デイサービスも行う「KIDSゆらりん」が併設され、子ども食堂も運営。室内はオープンキッチンやテラスがあって明るく、檜風呂が自慢。毎週日曜日は地域に開放し、あらゆる層の人とつながれる居場所をつくっている。〇プロフィールリンデン代表取締役林田 菜緒美さん福岡県出身。RKB毎日放送で広告営業として勤務後、夫の転勤で神奈川県へ。都立の看護専門学校を卒業し、病院や訪問看護ステーションを経て、2011年にリンデンを設立。「赤ちゃんからお年寄りまでその人らしく生きていく」ためのサポートを目指し、川崎市麻生区で看護小規模多機能型居宅介護事業などを展開。高齢者への生活支援と介護予防の基盤整備を進める地域の調整機能を果たす生活支援コーディネーターとしても活動。2024年には、健やかな社会の実現と国民生活の質の向上を目指し、献身的に活動する人を表彰するヘルシー・ソサエティ賞の医療・看護・介護従事者部門を受賞。 地域のサロンのような場所でありたい —まずは「ゆらりん家」という施設の特徴と、何を目指して運営されているのかを教えてください。 始まりは、2011年4月に、神奈川県川崎市麻生区の岡上という地域に開設した小さな訪問看護ステーションの「ゆらりん」でした。2013年には、在宅で過ごしたいという人工呼吸器などを付けた医療的ケアが必要な方の希望に寄り添いたいと、 「ナーシングホーム岡上」(現・ナーシングホームゆらりん) を開設。その半年後に、ヘルパーステーションと居宅介護支援を併設しました。2016年には「ナーシングホーム岡上」から徒歩圏内に医療的ケア児の通所施設「KIDSゆらりん」を新設し、2018年には地域のあらゆる人々に活用してもらえるサテライト型「ゆらりん家」をスタートさせました。川崎市から小地域における生活支援体制等整備事業の委託を受け、日曜日は地域開放日にして、住民のためのお弁当作りや健康体操などを行っています。あらゆる層の方をサポートしたいと目の前の課題に一所懸命に取り組んでいたら、自然とサービスの幅が広がり事業も拡大していきました。 私たちの施設の特徴は、人工呼吸器や胃瘻といった高度な医療処置が必要な高齢者の看取りまでをサポートできるのはもちろんのこと、近所の方々にとってサロンのような場所であることも大切にしています。例えば、うちに通っている利用者さんに会いたくて、ご近所に住むご高齢者が「こんにちは、〇〇さんいらっしゃる?」とテラスからひょっこりと入ってくる。そんなご近所さんと利用者さんがコーヒーを飲みながらカフェタイムを楽しむサロンのようなイメージです。近くに住む認知症の方が間違って入ってきてもいいですし、小学生が学校帰りに遊びにきてもいい。「誰でも来ていいんだよ」という開かれた居場所をつくり地域のみなさんがつながることで、支え合えます。赤ちゃんから高齢者まで、その人らしく生きることに寄り添える場でありたいと考えています。 ふらっと遊びに来ていたご高齢者やこの職場で働いていた看護師や介護員が、自身の終末期のときにここで看取りのお世話になる可能性だってある。何かあったときに知らない施設よりも馴染みのある場所で過ごせるだけで安心感があると思います。頼れる場所が、小学校の学区内くらいの歩いて行ける場所にひとつあるだけで、自身や家族の介護・看護の不安が随分和らぐように思います。 週1~2回の訪問看護の限界を感じた —看多機を立ち上げた経緯を教えてください。 私は元々福岡でテレビ局に勤務していて、夫の転勤をきっかけに仕事を辞めて、この神奈川県川崎市に引っ越してきました。大病を患っている親戚のもとへお見舞いに行ったとき、患者さんに寄り添う看護師さんの姿を見てなんて素晴らしい仕事だと感動し、30歳で看護学校に入学して資格を取得したんです。訪問看護に興味があったので、県内の病院で経験を積んだ後、訪問看護ステーションの会社で管理者として6~7年働きました。 2011年に自分が住んでいる地域で訪問看護ステーションを始めようと独立し、自宅をリフォームして5人ほどのスタッフで開業しました。でも、胃瘻や吸引の必要があるご高齢の難病の方をサポートしていると、日に1~2時間の限られた時間での訪問看護だけでは限界があると感じました。例えば、胃瘻や吸引が必要なご主人を1人で一生懸命、介護されていた奥様がいらっしゃって、遠方に住むご兄弟が亡くなったときに、医療的ケアが必要なご主人の預け先が見つからず、お葬式に出席できなかったんです。 そんなケースが何件かあり、地域にレスパイト先(在宅介護や医療を受けている人や介護する家族の休養を目的とした短期入院)もない中で、介護する家族の負担も減らすために、高度な医療的ケアが必要な方が泊まれる場所をつくりたいと考えました。ちょうどそのころ、「複合型サービス」がスタートし、いいサービスだな、やってみたいなと思って土地探しを始めました。私のように「泊まれる場所がほしい」と考え、訪問看護ステーションから看多機へと移行し、開業する人は少なくないと思います。 —呼吸器などをつけている方は、デイサービスにも行けないですよね。 そうなんです。せめてデイサービスに行ければ、ご家族も自身の通院といった自分のための時間がつくれる…。訪問看護でできることは本当に限られています。吸引できるヘルパーさんを育てて、「3時間はご主人を診ていられるようにするから、その間にご自身の病院に行ってください!」といった苦肉の策で時間を伸ばすしかなかった。もう少し長く看られればという思いが強くなり、行動につながったと思います。 ―岡上(川崎市麻生区)で開業された理由についても教えてください。 私は福岡から引っ越してこの地で子育てしたので岡上に愛着があり、心が知れたママ友たちがいます。そして、岡上は麻生区でありながら、東京都町田市に囲まれている「飛び地」なんです。あまりバスは走っていないし、市役所や区役所に行くにも電車に乗らなければいけない。そんな不便な地域だからこそ、困ったときに頼れる看多機のような施設が必要だと思いました。 自転車で地主の家を回って土地探し —物件探しなど、事業所開設までのご苦労はありましたか。 訪問看護ステーションならアパートの一室でも始められますが、看多機は広さの規定があったり、スプリンクラーの設置が必要だったりとさまざまなルールがあります。また、川崎市から2000万円ほど助成金を受けましたが、それまで住宅ローンしか組んだことがなかったので(笑)、助成金の手続きのしかたや銀行から融資を受ける方法が分からず、お金に関する勉強もしました。 当時は看多機が川崎市になく申請も複雑だったので、市の担当者も進め方が分からずお互いに不慣れでしたね。4~5回ほど役所に通い、あとはメールや電話で相談しながら進めていきました。 さきほど申し上げた通り、場所は岡上と決めていたんですが、エリアによって建物の規制が結構あるため、なかなかいい土地が見つからなかったんです。ネットで調べても売り物件があまりなく、不動産屋に聞いても適した土地が見つかりにくいと考えたので、町内会長に相談したり、法務局に行って目ぼしい土地の持ち主情報を収集したりして、自転車で回りながら6~7件ほど地主さんの家を周りました。「こんなサービスの施設をつくりたいのですが、土地はないですか?」と直接かけあっていったんです。 「ナーシングホーム岡上」がある場所はもともと雑木林でしたが、規定の広さをクリアし、地主さんのご了承もいただいたので、土地を借りて施設を立てることにしました。不動産で探すのもひとつの手ですが、地域によっては地主さんとお話するほうが、最適な土地が見つかりやすいように思います。 —経営は最初から順調だったのでしょうか。 いえいえ。最初の利用者さんは、インスリン注射が必要な要介護1の車いすを使用している糖尿病のおじいさんが1人だけ。その状態が3~4ヵ月続き、毎日お金の計算ばかりしていて倒産するかもと思いました(笑)。訪問看護が2年目で黒字化してはいましたが、「あと〇ヵ月は大丈夫だな」「もう1回銀行でお金借りなきゃいけないかな」などと経営面ではいつも不安と隣り合わせでした。 当時、看多機の認知度は低かったので、病院のMSW(メディカルソーシャルワーカー)にご挨拶と施設の説明をしに行き、病院からの紹介で少しずつ利用者さんが増えてきました。ケアマネジャーさんにも説明しに行ったのですが、看多機を利用する場合、その施設専属のケアマネに変更する必要があるので、スムーズにいかないこともあって…。でも、一度サービスを受けていただいて実績ができると、ケアマネさんが「この事例なら、『看多機』がいいのでは」と提案してくださることが増え、口コミで広がっていきました。 —サテライトの「ゆらりん家」を開設して5年、看多機を始めてから10年経過されていますが、立ち上げ時以外にご苦労された点についても教えてください。 看多機の認知度をあげ、安定して利用者を確保することや、介護職員の求人などは難渋しましたね。コロナ禍では通いを減らして訪問中心に切り替える、といったこともしながら、事業所は休まずに継続しました。継続するのは大変ですが、それと同時に柔軟に通い・訪問・泊まりを切り替えられるのが看多機の強みだとも実感しました。 また、日曜の地域活動も同様で、休止するのは簡単ですが、要介護予備軍の人たちが孤独になって悪化する恐れもあります。 妻の在宅での看取りを叶えた大学教授 —看多機をやってよかったと思うエピソードはありますか。 難病の奥様を自宅で介護されてきたご主人のエピソードですね。訪問看護やデイサービス、訪問入浴を利用しながら、週1~2回の大学での授業を続けていましたが、病気の進行で入院、人工呼吸器装着となりました。病院からは施設への入居をすすめられたのですが、ご主人は「絶対に家に連れて帰る」とおっしゃって、看多機を利用されることになったのです。ご主人の仕事や用事のある日に、通いと泊まりを週に数回利用され、ご自宅にいらっしゃる日は訪問看護でケアに入り、最期はご自宅で看取られました。ご主人がレスパイトの時間を持てたことで介護疲弊を防げたことはもちろんですが、ご本人もお話しすることはできなかったものの、送迎車から外の景色を見ながら季節を感じたり、事業所のイベントを楽しまれたりと365日自宅のベッドで過ごすより充実した療養生活を送れたのではないかと思います。 今は毎週日曜にご主人がゆらりん家に来てくださって、ボランティアで床掃除をしてくださっています。「『看多機』のような素晴らしいサービスをなぜもっと広報しないんだ!」と応援してくださる。おそらく奥様の思い出話ができる看護師や介護員がいる場所であることも、通ってくださる理由ではないかと思います。グリーフケアにもつながっているのかもしれません。亡くなられた後にボランティアで参加してくださるご家族がいると、病院勤務時代には味わえなかったこの仕事のやりがいや醍醐味を感じます。 また、経鼻経管栄養の利用者さんで、医師からは経口摂取は禁止と言われて退院しましたが、ここで過ごしてケアを受けることで、お鼻の管が取れて最後は普通食を口にできたというご高齢の方もいました。認知症がありましたので、言葉でうまく感情を伝えられなかったのですが、明らかに笑顔が増えました。口から食事ができるって本当に素晴らしいことで、ご家族もうれしそうでした。 >>後編はこちら訪問看護から看多機・生活支援・定期巡回まで。人と地域をつなげるために ※本記事は、2023 年10月時点の情報をもとに構成しています。執筆:高島 三幸取材・編集:NsPace 編集部

訪問看護のBCP策定対応 情報まとめ
訪問看護のBCP策定対応 情報まとめ
特集 会員限定
2023年11月28日
2023年11月28日

まだ間に合う!訪問看護のBCP策定対応 情報まとめ【2024年4月~義務化!】

いよいよ2024年4月から義務化となる訪問看護のBCP(事業継続計画)策定。でも、「まだBCPをつくっていない…急がなきゃ!」「どこから手をつけたらいいんだろう…」と不安や焦りを抱えている訪問看護ステーション管理者の方もいるでしょう。NsPaceでは、BCPに関して基礎の解説から具体的な作成方法までご紹介しています。今回は、これまでに公開した記事の中から、BCP策定に役立つものをピックアップ。ポイントを交えながらご紹介します。 BCPってそもそも何? 厚労省の動画やひな形も 第1回 訪問看護ステーションの「働き方改革」/[その2]新型コロナウイルス感染症他の災害対策:事業継続のために令和3年度の介護報酬改定で義務化された「業務継続に向けた取り組み」の強化。「そもそもどうしてBCPをつくらないといけなくなったの?」「これまでにあった災害や守るべき資源とは?」といった今さら聞けないBCPの基礎を確認したい方は、こちらの記事をチェック! 厚生労働省の動画・ひな形についてもご紹介しています。 訪問看護の「完全義務化」総点検~2024年度診療報酬改定・介護報酬改定前に~BCP策定にあたっては、「3つの規定」があります。ルールをざっと確認したい方は、こちらをご覧ください。BCP策定以外にも、「感染症の発生およびまん延の防止」「高齢者および障害者の虐待防止」が2024年4月から義務化されます。本記事であわせて点検を。 どうやってBCPをつくる?ステップごとに確認 【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~(会員限定)2022年6月のNsPaceセミナーでは、WyL株式会社 代表取締役の岩本大希さんがご登壇。BCP策定に関してご講演いただきました。ご講演いただいた内容を「セミナーレポート」としてご紹介しています。vol.1では、医療領域におけるBCP策定の重要性やBCPと災害対策マニュアルとの違い、外部組織と連携してつくるBCPなどについて。vol.2とvol.3では、BCPを策定する具体的な8ステップを紹介しています。 「BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~」シリーズ一覧https://www.ns-pace.com/series/step-to-formulate-bcp/ [1]そもそもBCPって何だろう?「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人で、日本赤十字看護大学の石田千絵先生にご執筆いただいた「訪問看護のBCP」シリーズ(全8記事)。BCPの基礎から厚生労働省、全国訪問看護事業協会が出している資料の読み解き方、優先業務やリソース、リスクに関する考え方・洗い出し方に至るまで、詳細に解説いただいています。 「訪問看護のBCP」シリーズ一覧https://www.ns-pace.com/series/visiting-nursing-bcp/ 他の事業所はどうしているの?実例紹介 「ウィズコロナ時代のスタッフマネジメント」シリーズでは、複数の訪問看護ステーション 管理者のみなさんにスタッフマネジメントをテーマにご執筆いただきました。今回は、シリーズの中でも感染症版BCP策定の参考になる2本をピックアップしてご紹介します。 スタッフの不安解消、安心できる仕事環境の整備は管理者の責務感染症によって事業所が休止になったらどうすればいいのか。東久留米白十字訪問看護ステーションでは、他の事業所を巻き込んでのBCP協働の取り組みを行っています。 安心感をどう作るか⑤ 感染症版BCPの作成感染症版BCPをどのように作るか。岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山での取り組み・シミュレーション内容や自然災害版BCPとの違いなどをご紹介いただいています。 * * * 期限は迫っていますが、BCP策定はまだ間に合います。ぜひNsPaceの記事で基礎事項や具体的な策定方法を確認いただき、2024年4月の義務化に備えてください。 執筆・編集: NsPace編集部

オンライン診療の現状
オンライン診療の現状
特集
2023年10月24日
2023年10月24日

オンライン診療の現状と訪問看護師として知っておきたいこと

新型コロナウイルス感染症が蔓延した後、よく耳にするようになった「オンライン診療」という言葉。ニュースでも取り上げられ、今ではオンライン診療用のアプリケーションも登場してきています。さまざまなデバイスを通じて展開されているオンライン診療について、その現状を見るとともに、訪問看護師として知っておきたいことをご紹介しましょう。 オンライン診療の定義や種類 そもそもオンライン診療とはどういったものを指すのでしょうか。2018年3月に厚生労働省が発表した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を参考に、関連する言葉を見てみましょう。 遠隔医療 情報通信機器を活用した健康増進や医療に関する行為のこと。オンライン診療を含む総称的な言葉として位置づけられています。 オンライン診療 遠隔医療のうち、医師と患者間において情報通信機器を通して診察および診断を行い、診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムで行うこと。さまざまな企業がオンライン診療のためのアプリケーションを開発し、医療機関と患者を結びつけるサービスを提供しています。 オンライン受診勧奨 遠隔医療のうち、医師と患者間において情報通信機器を通じ、心身の状態の情報収集を行うことで、疑われる疾患を判断し適切な診療科への受診をリアルタイムで推奨すること。一般用医薬品を用いた自宅療養や経過観察など非受診の勧奨を行うこともあります。ただし、診療ではないため治療方針を伝達することや処方等を行うことはできず、あくまで受診相談という位置づけとなります。現実的にはこの受診推奨のみ行う医療サービスは少なく、オンライン診療における診療前の問診あるいは診療前相談に相当しますが、医療機関によっては具体的な診療科へ受診相談を受け付けているケースも見られます。 遠隔健康医療相談 遠隔医療のうち、医師または医師以外の者と相談者間において、情報通信機器を通じて得られた情報により、一般的な医学的情報や助言の提供、一般的な受診勧奨を行うこと。 上記4つ以外にも、ICTを活用して医療機関または医師間で患者の医療情報の共有が行われることや、ICTによる業務支援システムを用いることも広義の遠隔医療に含まれます。また、オンライン診療や健康医療相談のサービスとは別に、処方薬の配送や血圧等の生体情報の遠隔モニタリングサービス等、遠隔医療を支援・拡充するサービスも展開されています。 オンライン診療の普及について 特定状況下のみ認められていた遠隔診療 オンライン診療は今でこそ普及しつつありますが、2020年頃まではあまり一般的ではありませんでした。その理由のひとつとして、厚生労働省は「診療とは医師と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療はあくまで対面診療を補完するもの」と位置づけ、特定の条件下でしか利用を認めていなかったことが挙げられます。離島やへき地など医師不足の地域での利用や、相当期間にわたって診療し病状が安定している慢性期疾患の患者から要請があった場合などの条件下だけでは、インフラの整備コストをかけてまで導入する医療機関は少なかったのでしょう。医療の質を確保しつつ、医師法第20条で定められる「無診察治療等の禁止」に抵触しないよう、遠隔医療については慎重に審議をされてきました。その審議を一気に加速させたきっかけが、新型コロナウイルス感染症の蔓延といえます。 きっかけは2020年のオンライン診療時限的緩和 2020年に入り厚生労働省は感染拡大防止策として電話や情報通信機器等を用いた診療について特例措置を出し、同年4月にはオンライン診療の要件や初診対面原則の時限的緩和が行われました。これを皮切りに、オンライン診療に対応できる医療機関側が増加するとともに、医療機関と患者を結ぶシステム構築に一般企業も参入してきたことで、現行のように普及し始めたといえるでしょう。実際に厚生労働省や総務省のデータを参考にすると、2019年7月時点でオンライン診療での算定を届け出た医療機関は約1,300施設と全体の1%程度でしたが、2020年4月以降は増加し約16,000施設と全体の15%程度まで増加しています。 オンライン診療の要件緩和は新型コロナウイルス感染症の感染対策として時限的な措置でしたが、その後厚生労働省より初診からのオンライン診療を恒久化する意向があり、2022年度の診療報酬改定でオンライン診療に係る新たな施設基準が設けられました。同時に、訪問診療における在宅時医学総合管理料にオンライン診療が組み込まれ、在宅医療でも情報通信機器を用いた場合の評価や基準が整備されました。 オンライン診療の課題と可能性 情報通信機器を用いた診療を行うには医療機関側も診療体制やインフラの整備など果たすべきことが多く、すべての医療機関で導入できるとは限らない点、またオンライン診療では対応が困難な疾患や病状等がある点を鑑みると、全般的に普及するというのは難しいかもしれません。しかし、内科や産婦人科、美容皮膚科など特定的な診療科を中心として活用する場面は今後増えてくると予測されます。 また、このオンライン診療は保険診療の枠内での話ですが、保険外診療(自費診療)として医療相談や健康増進等医療の周辺分野にも情報通信機器を用いたサービスが展開され始めています。会員登録し、毎月定額を支払っていれば医師にいつでも電話やチャットで健康相談ができるサービスはその一例です。今後情報通信機器やその技術の発展とともにさらに多様なサービスが展開されていく可能性が考えられます。 訪問看護師として知っておきたいこと 新型コロナウイルスがきっかけとなり、ここ数年で情報通信機器を用いた医療については制度や診療報酬等の整備が加速度的に進んできている中、訪問看護師にとっては今後どのようなことを気に留めておくと良いのでしょうか? 厚生労働省が通知している「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、患者が看護師といる場合のオンライン診療(「D to P with N」)について定めています。訪問看護師にも関係してくるため、オンライン診療に関わる遵守事項や提供体制等については最低限把握するとともに、オンライン診療を行うために使用する情報通信機器やアプリケーション等の基本操作ができる必要があるでしょう。 今後も外来・在宅医療ともに情報通信機器を用いる場面が増える可能性が十分に考えられます。まずは医療者として現状を把握するとともに、診療報酬の動向や遠隔医療に関わるサービス等も逐次確認していくことで、利用者へ適切に情報提供ができるように準備をしておくことが望まれるでしょう。 【参考】○厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2023年3月一部改訂)https://www.mhlw.go.jp/content/001126064.pdf2023/3/3閲覧○総務省「情報通信白書(令和3年版):コロナ禍における公的分野のデジタル活用」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n2200000.pdf2023/3/3閲覧 編集・執筆: 合同会社ヘルメース

ラダー&評価制度
ラダー&評価制度
インタビュー
2023年8月29日
2023年8月29日

訪問看護のラダー&評価制度 マネジメント層教育に残る課題への取り組み

訪問看護スタッフや管理者に対する評価制度としてラダーを採用しているソフィアメディ株式会社。今回は、特に「マネジメントラダー」における課題や、業界全体に求められる教育制度に関して、前回と同じくQM(クオリティマネジメント)推進グループの篠田 耕造さん、田中 麻奈美さん、福島 圭輔さんに、お話を伺いました。 >>前編はこちら訪問看護のラダー&評価制度 キャリアパスを「見える化」する意義 篠田 耕造さん/CQO(Chief Quality Officer)公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。JNAラダー・教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師などを行う。2022年よりソフィアメディ株式会社CQOに就任。田中 麻奈美さん作業療法士歴21年、ソフィアメディに在籍して13年目となる。訪問看護ステーションで従事していたが、産休・育休を機にキャリアチェンジし、バックオフィスの仕事も兼務。2020年よりQM推進グループに所属。スタッフ全般の育成プログラム作成、ラダー体制の整備などを行う。福島 圭輔さん理学療法士歴20年ほど。ソフィアメディには2013年に入社し、東京都大田区ステーション池上にてセラピストとして勤務。2016年分室であるステーション西馬込の主任セラピストとなる。2020年にバックオフィスへ異動。2020年から1年間採用担当、2021年からQM推進グループに所属し、管理者や主任など、マネジメント層に対しての育成、研修などを担当。※本文中敬称略 ※本記事は、2023年5月の取材時点の情報をもとに制作しています。 課題となるマネジメントラダーの作成 ─管理者に対する教育「マネジメントラダー」について教えてください。 福島: 現在QM推進グループでは、マネジメントラダーの作成も進めています。本来は全領域を網羅したラダーを一気に作成できるといいのですが、非常に難易度が高いため、段階的に作成しています。まずは、新任管理者を対象としたものから着手しました。先輩管理者から受けるOJTと、我々が作成するOff-JTが横軸で支援し、管理者を育成していきます。 また、弊社のビジョン、ミッションを達成するため、「管理者としてあるべき姿」の要件を挙げています。その要件を満たすための「6つの能力」を設定しています。「6つの能力」については、日本看護協会の病院看護管理者のマネジメントラダーを参考にし、そこから到達目標や具体的な基準と項目を加え、マネジメントラダーとして構築しました。 篠田:20代後半から30代前半の経験の浅い若手管理者がスタッフの育成や評価を行うのは、やはりハードルが高いものです。しかし、指定訪問看護事業所として、管理者が従業員の資質向上や研修の機会を確保する必要があり、新任管理者であっても育成・評価から事故・苦情対応まで幅広い役割が求められます。ですから、まずは新任管理者層を重視して育成し、プログラムについても現在作成している最中です。管理者育成の全体最適化はこれからですね。 QM推進グループ 打ち合わせの様子 縦軸と横軸でフォローを充実させていく ─Off-JTとOJTとも関わりがあるのですね。 篠田: はい、もちろん。QM推進グループではステーション支援の機能も持っており直接的なサポートも併せて行っています。マネジメントスキルの高い管理者が寄り添って行うOJT体制を推進しています。それらを「縦軸」とし、バックオフィスは、マニュアルを充実させる・研修を行う・システムを整えるといった「横軸」のフォローを行って、組織全体で新人管理者を支えるしくみを充実していきたいと考えています。いまが本格的に動き出した、というタイミングですね。 「QM推進グループで経験値の高い管理者を地域に派遣する」という支援方法もありますが、我々が目指しているのはそのようなかたちではありません。限られた人材でまわしていくのではなく、あくまでもステーションがあるそれぞれの地域に近い指導者が活躍してくれるのが理想ではないかと考えています。地域の特性や属性などを理解している人材を活かし、地域に根差すステーションをつくる、というところを目指したいんです。 全国的に訪問看護ステーションの量と質の拡大が求められる中で、一番の課題となるのは管理者不足と、その育成にあります。とはいえ、弊社は既に「管理者をやったことがないからできない」という言い訳ができる規模ではありません。全国にステーションを持つブランドとしてやるべきことは、そういった弱点といえる部分を放置せず、しっかりと支えて育成すること、リードタイムを短くしていくことではないかと考えています。もちろん、管理者以外のスタッフ育成やケアの質保証や向上に向けても整えていく予定です。 田中: たとえば、セラピストに関しても日本看護協会のラダーを参考にしながらラダーを作成しています。ただ、やはり全国を見てもセラピストにラダーを導入している実例がないので、なかなか苦戦しています……。運用して、現場の声を集めながら進めていきたいと考えています。「訪問看護にマッチするセラピストとは」といった面についてもこれから追求していく必要がありますね。 業界の大きな課題に立ち向かう先駆者 ─ここまでお話を伺って、業界全体の課題もあるように思いました。 篠田: はい。まさにこれからというところであり、いま粛々と、着実に進めているところです。課題感は大きいですね。ただ、高齢化社会の中で本当に生活を支えていく訪問看護はなくてはならないものであり、我々の課題は業界全体の課題でもあるといえます。弊社がある意味先駆的に物差しと価値を示していき、経営基盤を活かしてできることに取り組み責任を果たしていくことが必要、とも思うんです。 訪問看護は社会的インフラとしてニーズが高まっている一方、経営は難しい実態があります。人員確保はするものの、教育については「おいてけぼり」になっているのが今の状態です。実務に追われ、手が回らないんですね。このような事態を招かないためにも、弊社も、体系的な教育プログラムと併せて、大規模ステーションでの研修体制など、地域の教育ネットワークを構築することも、ソフィアメディだからこそできることではないかと。地域のステーションや施設へ、部分的にプログラムを提供することも視野に活動を推進していきたいですね。 ─訪問看護には独特の教育が必要ですね。 篠田: そうです。病院とは異なり、訪問看護は「人の生活の場」に入って行くので、そこで看護を行うにあたっての「意思決定支援」と、その意思決定を支えるための「協働する力」がより重要になります。お客様の状況や家庭に合わせて調整する力が高く求められます。また、訪問看護は継続的な日常の療養支援が必要であり、在宅療養者のニーズに応じて、医療や介護を包括的に提供できるよう調整することが求められます。当然、一律な介入はあり得ませんので、事例を通して経験し、確実に次に繋げていくチームでの経験学習が大切になりますね。 そこが、ある意味では訪問看護の「醍醐味」ともいえます。本当の意味での「お客様本位」を考え、それが達成できる喜びも感じられる。そのぶん負担もありますが、それを支えていけるだけの教育システムをつくっていきたいと考えています。 ─ありがとうございました! 執筆: 倉持 鎮子取材・編集: NsPace編集部

ラダー&評価制度
ラダー&評価制度
インタビュー
2023年8月22日
2023年8月22日

訪問看護のラダー&評価制度 キャリアパスを「見える化」する意義

ソフィアメディ株式会社は、訪問看護スタッフや管理者に対する評価制度としてラダーを採用しています。随時改定を行いながら、スタッフの育成に効果をもたらすために模索を続けています。ソフィアメディの訪問看護において、ラダーはどのような価値を持つものなのでしょうか。QM(クオリティマネジメント)推進グループの篠田 耕造さん、田中 麻奈美さん、福島 圭輔さんにお話を伺いました。 篠田 耕造さん/CQO(Chief Quality Officer)公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。JNAラダー・教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師などを行う。2022年よりソフィアメディ株式会社CQOに就任。田中 麻奈美さん作業療法士歴21年、ソフィアメディに在籍して13年目となる。訪問看護ステーションで従事していたが、産休・育休を機にキャリアチェンジし、バックオフィスの仕事も兼務。2020年よりQM推進グループに所属。スタッフ全般の育成プログラム作成、ラダー体制の整備などを行う。福島 圭輔さん理学療法士歴20年ほど。ソフィアメディには2013年に入社し、東京都大田区ステーション池上にてセラピストとして勤務。2016年分室であるステーション西馬込の主任セラピストとなる。2020年にバックオフィスへ異動。2020年から1年間採用担当、2021年からQM推進グループに所属し、管理者や主任など、マネジメント層に対しての育成、研修などを担当。※本文中敬称略 ※本記事は、2023年5月の取材時点の情報をもとに制作しています。 ラダーの浸透が難しい訪問看護業界 ─病棟を含め、「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」(JNAラダー)を見たことがある看護師は多いと思いますが、2023年6月にはクリニカルラダーに代わる新しい指標も示されました。違いについて教えてください。 篠田: もともと2016年に日本看護協会がラダーを開発した目的は、病院と高齢者施設・訪問看護が地域完結型のシームレスな看看連携を目指す上で、双方に共通する基準をつくるということにありました。クリニカルラダーは看護師共通の評価システムで、実践能力を5レベルに分け、それぞれ習得すべき「4つの力」(意思決定を支える力/ニーズをとらえる力/協働する力/ケアする力)に分けて目標を設定していました。 2023年の改定後の指標は「生涯学習」をテーマにしており、変化する社会やニーズに合わせて、看護職が継続的な学習を主体的に取り組み、その能力の開発・維持・向上を図り続けるための羅針盤として公開されました。看護職一人ひとりが看護職として活躍し続けるためには、各自のライフイベントや価値観に応じて、仕事と生活の調和を図りながら自律的に学ぶことが求められています。キャリア視点が加わったというイメージです。 ■看護師のラダーについて 2012年: 日本看護協会「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」を公表2016年: 日本看護協会「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」を公表2019年: 日本看護協会「病院看護管理者のマネジメントラダー(日本看護協会版)」を公表2023年: 日本看護協会「看護師のまなびサポートブック」(看護師に求められる「看護実践能力」と、それに基づく学習項目、看護実践能力習熟段階も掲載)を公表※「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」に代わる指標参考:日本看護協会出版会「50年のあゆみ」(https://www.jnapc.co.jp/50th/chronology.html) ―訪問看護において、ラダーはどの程度導入されているのでしょうか。 篠田: 訪問看護のラダー導入率は全国的に見ても低く、協会は看護師間・施設間・地域間の切れ目のないケア提供を目指すためも、JNAラダーの浸透を推進していました。全国展開を目指す弊社においても、業界全体の流れと同じくラダーの定着が急務となったんです。 弊社がまずベースとしたのは、JNAラダーと滋賀県看護協会で出している訪問看護師向けのステップアップシートです。そこにソフィアメディの方針に基づいた調整・更新を随時行いながら、運用してきました。 そして、今回の日本看護協会の『看護師に求められる「看護実践能力」と、それに基づく学習項目、看護実践能力習熟段階』の公表に合わせて、我々も社内の評価システムをアップデートしているところです。 ─ありがとうございます。皆さんは評価制度の検討を担当されていると伺っていますが、もう少し担当されている業務の内容について教えてください。 福島: 私たちはQM推進グループに所属しており、そのグループが受け持つ業務のうちのひとつが、従来のラダーを含む評価制度についての検討・改善です。 振り返り面談の時だけに確認するような表面的な評価制度ではなく、日々の仕事に実際に活用できるか、といった点にも配慮しながら検討しています。現在は、研修をはじめとしたOff-JTだけでなく、どのようにして実践(OJT)にラダーや新人教育プログラムを組み込んでいくか、より実践的なものに仕上げられるか、ということを重点的に議論しています。周知内容・研修内容・コミュニケーションの方法など、施策の進行度合いやスタッフの反応も確認しながら進めています。 グループ内では進める施策ごとにチーム分けを行っているのですが、週1回のミーティングで全体進捗・部分進捗も確認しています。チーム内ではミーティング以外に1on1も行っており、体調管理や日々の小さな疑問点などを解決していく時間としています。 グループ内のオンラインミーティングの様子 新人をフォローする役割も持つ評価制度 ─評価システムの内容について、具体的に教えてください。 田中: これまで弊社では、クリニカルラダーにキャリアパス的要素を加えてアレンジし、「4つの力」ごとに採点が行われるような運用を行ってきました。カテゴリごとの到達度をパーセンテージで算出し、レーダーチャートで実践能力が可視化されるようなしくみを導入していました。現在は、もっと日々の実践の中でラダーを活用できるように、このようなしくみ自体を見直ししている最中です。 今回は、新たに導入した新人教育プログラムの一部である「クリニカルラダーレベル1」についてお話しできればと思います。こちらが実際のラダーの一部です。 日々の実践を反映させ、ラダー評価ができるように工夫しています。例えば、この表においては、4つの力にそれぞれ①から④の番号を振り、「①-1」「①-2」…と細分化して、各項目の実践内容を具体的に書いています。ここに実践した日付を記載していくことで、日々の実践の中でラダーの項目を振り返りながら進めていくということができるんです。 篠田: それぞれの力に必要なOJTの内容が表示されており、それを実践したことを「振り返りシート」に記入するという、ラダーと実践が紐づけられたしくみも採用しています。これまではこの結びつきが非常に弱く、ラダーにおいて自分が目標達成に向け日々の実践で何をすべきかがわかりにくいものでした。また、評価が人事考課で行われ、半年に一度という頻度だったため、やはり日々の実践との結びつきという意味では非常に弱かったため、そういった点を改善しました。 初期は毎日、3ヵ月を過ぎたら1週間ごとなど、入社歴が浅いほど評価の頻度は高くなっています。「安全でかつ安心な訪問看護を提供する」というフェーズにいち早く届くよう、より細かく、より丁寧に評価するようにしているんです。「スモール・サクセス」とでも言いますか、細かく達成感を得られるようにしているんです。 ─「レベル1」は、いわゆる「新人さん」のプログラムとのことですが、なぜレベル1の教育プログラム整備を優先されたのでしょうか。 訪問看護の1年以内の離職率は15~18%と、病院の離職率の11%前後と比べても高めです。病院とは違い、一人で目の前のお客様に対応する力が求められる訪問看護では、総合的な技術を持ち、調整を完結できるレベルだと思える「自己効力感」がなければ継続できる領域ではありません。新人さんがより早く裏付けのある自己効力感を持つためにも、やはり共通の物差しとして、評価制度を整備する必要があると考えました。JNAラダーはすべての看護師に必要な実践能力です。地域で求められる訪問看護の役割をキャッチアップしつつ、体系的な教育システムとして質の高いケア提供の実践に繋げていく事が重要だと考えています。 なお、弊社は教育体制として「チーム支援型」を採用しており、そのチームの中で指導に立つメンバーに対しての研修も当然重要視しています。指導者を通してチームメンバーの評価や状況把握を行うなど、直接評価を伝えていたときとは異なる体制を整えつつあります。また、現状は「経験を通しての教育」を行っている状況ですが、順次整備していく予定です。 ―試行錯誤しながらの整備・運用だと思いますが、どのような部分に課題を感じていますか? 評価の段階は現在のところ3段階ですが、なにをもって「1」とするか「3」とするかの評価基準はあっても、評価者の経験や尺度によって変わってしまうことが課題ととらえています。病院では目の前で実践の評価がしやすい環境ですが、訪問看護は同行しないと実践の状況が確認できない環境です。評価者間での評価のバラツキが生じやすいことが課題と捉えており、整備していきたいと考えています。 ただ、考え方として押さえておきたいのは、ラダーはいわゆる「ラベル付け」のための評価ではないということです。評価すること自体が目的ではなく、あくまでも自身の成長のため、実践能力の評価・自己研鑽のツールであり、共通の物差しとして活用していくものです。厳しすぎる評価は成長を止めてしまう危険性もある。そうではなく、キャリア学習の支援、成長を促進につながるような評価制度にしたいというのが我々の願いです。 やはり病院よりも訪問看護は個別性が強くなりますので、「なにをもって」というのはお客様視点だと思います。病院であればキュアの視点で判断しやすいのですが、訪問看護は「生活」の視点をふまえた幅広いケアの視点が必要です。その人らしさを総合的に看るヘルスアセスメントが重要となり、すべての看護師に高い能力が求められます。訪問看護の特性を踏まえた上で、目の前のお客様のためにできることは何かを、さらに追い求めていく必要がありますね。 実績や頑張りが「見える化」されたという声 ─看護に直接携わるスタッフは、こういった評価制度をどのように捉えているでしょうか? 田中: 見えなかった部分が「見える化」されたというのは、スタッフにとって非常に大きいようです。訪問看護は病院と異なり、非常に主観的な評価に頼らざるを得ない側面がありましたが、ラダーを元に指導者とスタッフが面談を行うことで、「どう伝えたらいいのかわからない」「共通の物差しがなかった」という悩みがある程度解決できたという意味に受け止めています。それまで「報われなかった部分」ともいえる頑張りや努力が、評価に繋がっているということではないかと。現在、管理者に対するマネジメントラダーの作成も開始されていますし、さらに改善していけるといいなと考えています。 * * * 後編では、マネジメント層の評価制度についてお伺いします。 >>後編はこちら訪問看護のラダー&評価制度 マネジメント層に残る課題への取り組み 執筆: 倉持 鎮子取材・編集: NsPace編集部

オンライン施策
オンライン施策
インタビュー
2023年8月8日
2023年8月8日

訪問看護ステーションのオンライン施策 ~全国展開やコロナ禍での情報共有~

全国に多数の訪問看護事業所を持つソフィアメディ株式会社では、どのように情報共有を行っているのでしょうか。今回は、広報グループ・グループマネジャーの宇佐見 紘子さんに、コロナ禍で新たに行ったオンライン施策やコミュニケーションについての考え方などを伺いました。 ソフィアメディ株式会社「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護やデイサービス、居宅介護支援など、在宅医療に特化したサービスを提供している。 宇佐見 紘子さん/広報グループ・グループマネジャー新卒でテレビ広告代理店に営業職として入社。その後、総務や経理などバックオフィス部門の経験を経て、ソフィアメディの親会社である株式会社シーユーシーに転職。採用アシスタント、採用担当、システム企画部署などを経て2021年にソフィアメディに転籍し、教育研修グループに所属。2022年4月より広報グループ・グループマネジャーとなる。 双方向のコミュニケーションを重視 ─広報グループで担当されている業務について教えてください。 はい。まず、社外に向けてはコーポレートサイトを通じて弊社の運営・経営情報、採用に関する情報などをお伝えしています。社内に対しては、VMS(ビジョン・ミッション・スピリッツ)を浸透させていくためのコミュニケーション施策や、経営方針の共有などに関する企画、運営を行っています。 ソフィアメディのビジョン・ミッション・スピリッツ(https://www.sophiamedi.co.jp/company/message/) 社内広報として行っていることは大きくわけて以下の4つです。 (1)経営方針共有会年に1回の経営方針共有会の企画・運営。コロナ禍でオンラインに移行。オンラインであっても双方向のコミュニケーションとなるようさまざまな施策を行う (2)社内報理念浸透を目的とし、社内のできごとや「人」について発信。紙にて掲示(外部で行われた研修や、各事業所における人事関連の告知も含む) (3)ソフィアメディチャンネルの配信月に1回のソフィアメディチャンネルでは、経営実績や課題の共有を行うほか、事業所独自の取り組みや、そこで働く人々の様子、生の声などをオンラインで発信(4)バックオフィスからの連絡メールとクリッピング配信週1回のメール配信(本社のある田町の地名を取り「田町通信」)では、バックオフィスからの業務連絡、研修や勉強会の告知を行う。また、同じく週1回、業界や世の中のトレンドニュースの共有を行っている オンライン施策が事業所同士の橋渡しに ─オンラインでの経営方針共有会はコロナ禍から開始されたそうですが、その経緯を教えてください。 従来の経営方針共有会は、会場を借り、土曜日に全社員が一堂に会して開催していました。しかし、重症度の高い方に対応できるよう24時間365日の運営体制への切り替えを行うとともに、展開地域も広がり、同じ日に全員が集まることが難しくなったため、各事業所がオンラインで参加する方法に。できる限り全スタッフが集まる方法を模索しました。「集まれないから」という理由で始まったオンライン化でしたが、リアル開催に比べて日程調整が少なく済み、スタッフが状況に応じて自宅から参加することも可能になりました。録画配信も簡単にできるようになったので、仕事やご家庭の都合で参加できなかった人は、後日録画視聴しています。 ―オンライン開催をするために、どのような準備をされましたか? 弊社の場合は大人数向けの配信となるため、事前に専門のパートナー企業を入れて配信環境を整え、ハウリングなどを防止するため全スタッフにイヤホンを配布。誰もが参加できる環境を整えました。「オンラインだから盛り上がりに欠けてしまう」といったことがないよう、双方向でコミュニケーションを取るための検討もしましたね。ズームのチャット機能、スタンプ機能などを活用し、外部パートナーの協力を得つつ、画面上で盛り上がる演出ができるようにも工夫しました。 オンラインでの経営方針共有会の様子 なお、この「チャット」も、新たに定着したといえることではないかと。社内のコミュニケーションツールであるGoogleChatを利用してテキストでのやりとりも頻繁に行うようになり、連絡手段として欠かせないものとなりました。 ―事業所がエリアごとに分類されているそうですが、エリア内でもオンライン交流会が実施されているそうですね。そのほかに、どんなシーンでオンラインツールを活用していますか? はい、エリアごとの交流会で親睦を深めているほか、例えばリファラル採用(社員からの紹介採用)についてもオンラインの打ち合わせを活用しました。バックオフィスの採用担当に加えて、訪問看護ステーションの有志スタッフも一緒になって採用を考える「リファラルメイト」を立ち上げました。どうすれば友人に紹介したくなるような会社にできるかを、オンラインミーティングやオンライン座談会などでディスカッションし、採用活動に活かしました。 遠方のスタッフとのやりとりや、拠点を越えたやりとりというのは、どうしてもハードルが高くなりますよね。でも、ほかの拠点で働く人々の顔が見える関係づくりというのはとても重要です。オンラインであればそのハードルはぐっと低くなるのではないでしょうか。 とはいえ、私たち広報グループが強いるという方法ではなかなか浸透しません。ソフィアメディにはやりたいと思ったスタッフが率先して始める空気感があるのですが、オンライン化に関しても自発的な取り組みが多く見られました。コロナ禍という危機的な状況を機に、働き方や社内コミュニケーションの幅は広がったとも捉えられますね。 ─経営方針共有会やソフィアメディチャンネルなどをオンライン開催したあとは、毎回事後アンケートも行っていると伺いました。アンケートではどのような意見が来ていますか? 最も多いのは、新たな取り組みに関する意見ですね。「もっと背景を知りたい・詳細まで丁寧に説明してほしい」といった内容です。また、ソフィアメディチャンネルについても、構成に対する希望などがありますね。感謝の言葉や理解が深まったなどの声も毎月いただいています。 ちょっと変わったところでは、今年度は「軽食を摂りながらオンライン経営方針共有会を行う」といった試みを行ったのですが、これもアンケートの意見から生まれたアイデアです。夜の時間帯に実施されるので、お腹が空いてしまうということで、各事業所に軽食を届けました。リラックス効果を狙ってのものでもありましたが、とても喜んでもらえました。こういったユニークな施策も含め、できることはどんどんやっていきたいです。 広報から全スタッフに向けて、常々「どんどん意見を言ってほしい」と伝えており、毎月200名前後の方からアンケートの回答が送られてきます。社内報やメール、動画についてもさまざまなフィードバックがありますが、このように多くのスタッフから意見してもらえば、さまざまな角度から検証が可能です。広報グループ内部だけでは到底思いつかないアイデアが集まります。 「選択肢のひとつ」としてオンラインを選ぶ ─今後も、オンラインのコミュニケーションが主になるのでしょうか。 さきほどの経営方針共有会のお話のように、オンラインでは移動時間のロスがなく、限られた時間を有効に使えるようになったという意味で、非常に大きなメリットがありました。会議やちょっとした相談、さらに発展してブレイクアウトセッションやグループワークなどの予定が気軽に組めるようになったんです。リアルで「何度も顔を合わせる」というのはとても難しいことなので、オンラインならではのことですよね。 ただし、リアルにはリアルのメリットがあります。訪問看護ステーションの管理者による月2回の管理者会議もオンラインで行っていましたが、「ぜひリアルで」という声が上がり、先の4月に行われた管理者会議は、実際に全事業所から集まって行われました。オンラインに比べると調整は大変で難易度は高かったのですが、リアルで実施した意味は十分にあったと思います。同じ場所にいることでのやりとりのスムーズさや、ニュアンスの通じやすさなどはやはりリアルが強いので。オンラインでのやりとりを通じ、リアルとの比較ができたことで、それぞれの位置付けが再確認できました。 最初は「リアルができなくなったからオンライン」という補助的な役割だったのかもしれませんが、今後は選択肢のひとつとして考えていきたいです。頻繁に行うものはオンライン、年に1度程度の頻度であればリアル、などと頻度で考えるという手もありますし、状況や伝える内容に合わせて適切な方法を選択していきたいと思います。 手段より考えるべきは「なにを伝えるか」 ─大規模事業所だからこそできた施策もあるかと思うのですが、小規模な事業所がオンライン施策を行う際の注意点やポイントはあるでしょうか。 オンライン施策自体に、事業所の規模はあまり関係ないかと思います。スマホやタブレットなどのデバイスと、インターネット環境があれば問題ありません。重要なのは「なにを伝えるか」ということかな、と。基本的なことですが、「事実を連絡する」だけがオンライン施策ではありません。 私たちのコミュニケーション活動は、ソフィアメディの「ぐるぐるモデル」の推進を目的としています。このモデルは2018年にVMS(ビジョン・ミッション・スピリッツ)を絵に描いた餅にせず、しっかりと実現させるために社内のしくみや制度を一気通貫させたものです。 【ぐるぐるモデル】 「ぐるぐるモデル」には、ビジョン実現のために必要と思われる道筋と、それぞれのステップを支え、成果を最大化するための施策が設定されています。育成、両立支援、評価、表彰、お客様満足、従業員満足、そして社外コミュニケーションと繋がるわけですが、社会にソフィアメディが知られると、そこから入社希望者が誕生するという大きな循環が描かれています。私たちは常に、「この取り組みはモデルにおいてどう機能するのか」というように照らし合わせを行い、ぐるぐるモデルのストーリーに基づいて伝えるようにしています。 どんな規模の事業所においても、経営理念に基づき、「なにを(なんのために)伝えるか」をはっきりさせてからコミュニケーションを取っていくことが重要なのではないかと思います。リアルで伝えるか、オンラインで伝えるかは、そのためにどちらが適しているかという手段でしかありません。 ─情報共有施策について、今後の展望を教えてください。 私自身はすでに「ソフィアメディで働けてよかった」と思っていて、スタッフの皆さんにも同じように感じてほしいと心から願っています。生活のため、経験のため…働く目的はさまざまなものがあるとしても、この会社を選んだことを後悔させないようなコミュニケーションを重ねたい。そこに「オンライン」という方法があったというだけで、今後も新たな手段があれば、どんどん組み込んでいこうと思います。 ─ありがとうございました! ※本記事は、2023年5月の取材時点の情報をもとに制作しています。 取材・執筆: 倉持 鎮子編集: NsPace編集部

認定看護師活動記
認定看護師活動記
コラム
2023年7月25日
2023年7月25日

看多機(かんたき)を通じて広げる「輪」 【訪問看護認定看護師 活動記/北関東ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師・在宅ケア認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 北関東ブロックに所属する、山崎 佳子さんの活動記をご紹介します。 看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機)の管理者としても活躍する山崎さんに、北関東ブロックの活動や、看多機の管理者としての活動などをご紹介いただきます。 執筆:山崎 佳子在宅ケア認定看護師株式会社やさしい手 看多機かえりえ南佐津間 管理者福岡県出身。看護学校卒業後、総合病院・医療器メーカー・CRC等に従事。2005年より訪問看護に携わる2007年 介護支援専門員資格取得2017年 訪問看護認定看護師教育課程修了2018年9月 「看多機かえりえ河原塚」管理者となる2020年度~2021年度 松戸市小多機看多機連絡協議会会長、松戸市介護保険運営協議会委員2022年 特定行為研修 在宅ケアパッケージ修了2023年5月 新規オープンの「看多機かえりえ南佐津間」管理者となる 訪問看護認定看護師 北関東ブロックの活動 まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の「北関東ブロック」についてご紹介します。北関東ブロックは、千葉・群馬・栃木・新潟・茨城の5県の会員で構成しており、会員数は2023年7月時点で40名弱。半数以上は千葉の会員、群馬・新潟・栃木は5名前後、茨城は1名のみです。2022年度の活動としては、前期に事例検討会、後期に地域向け研修会を実施しました。 人数構成上、どうしても例年、活動が千葉県中心になってしまうので、年1回行っている地域向け研修会を、各県の持ち回りで行うことにしています。2022年は、5名の群馬県の会員を中心に、他県の実行委員を加えた10名で研修会の企画を進めていきました。会費をいただいての研修なので、失礼があってはならないと色々なことを想定して準備を進め、Zoomでの会議のほか、LINEを使って話し合いをもち、時には夜遅くまで意見交換をすることもありました。その結果11月の研修会は46名の参加をいただき、スムーズに開催をすることができました。 実際には、北関東ブロック内で一度も対面でお会いしていないメンバーもたくさんいますが、ブロック全体で力を合わせて開催できたと感じました。2023年度もこの取り組みを継続しており、新潟県のメンバーが中心になって新しい実行委員も加わり研修の準備を進めているところです。 看多機の管理者として多職種連携に取り組む では、ブロック活動以外に、私が普段どのような活動をしているかについてもご紹介します。私は、約5年前に社内異動で訪問看護ステーションの管理者から看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機かえりえ河原塚)の管理者になりました。当時、「看多機」という名称は知っていましたが、実際にどんなことをやっているのかはまったくといっていいほど理解していない状態。私は、この異動をきっかけに多職種連携に正面から取り組むことになったのです。 看護職と介護職の違い 赴任して、まず私に立ちはだかった壁は、「看護師と同じように伝えても、介護職には伝わらない」ということです。しかし、ある時、介護職の一人が「介護は、『寄り添いなさい』『受け入れなさい』って教育されるのですよ」と言ったのです。その言葉を聞き、看護職は問題解決思考になりやすく、いつも利用者さんが抱える問題点を探しているように思い、その違いにはっとしました。なるほど…。視点が違うのだから、理解や思いにも違いが生じるのは当たり前だ、と改めて気づいたのです。 互いに伝えることが大切 そして、介護職が看護師に遠慮して、自分たちの思いや考えを言いそびれている場面をよく見かけたので、介護職がそれらを言語化し、発信できるようになることが必要と感じました。介護職は生活援助を通して看護師より利用者さんのそばにいる時間が長いので、ありのままの利用者像を知っていることが多いと感じます。「看護師には言えないんだけど…」というような、利用者さんの本音を聞く機会もあるようです。介護職が持っている情報はとても大切で重要なものだということを自覚して、とにかく自信を持ってその情報を発信してほしい、と伝え続けています。 また、一番身近な介護職が利用者さんの変化に気づくことができれば、病状の変化にもいち早く対応できると思います。それを実現するためには、疾病の知識、観察点、予後予測などを看護師がしっかり学んで理解し、常日頃から介護職に丁寧に伝達していくことが、必要と考えます。介護職にわかってもらえるためにはどうしたらよいか…。看護師には、特に伝える力を養ってほしいと考えています。 看多機では、看護師と介護職が同じ空間で同じ利用者さんを、それぞれの専門性をもってみることができます。互いの情報を持ち寄れば、より快適な療養生活を送るには何が必要か、見えてきます。それをもとに重度の方にも安心して過ごしていただけるための支援を考え、実践していけるのではないかと感じています。 今後も、定期的に利用者さんについて話し合う機会を持ち、お互いの専門性を認め合い、意見を遠慮なく言い合える雰囲気づくりを心掛けていきたいと考えています。 松戸市の小多機・看多機連絡協議会の活動 地域での活動についてもご紹介しましょう。私が赴任した看多機かえりえ河原塚は、千葉県の松戸市というところにあります。松戸市の人口は50万人弱ですが、そこに小多機・看多機が9つずつあり、計18事業所が「小多機・看多機連絡協議会」に参加しています。 主に小多機・看多機の普及活動や、市、医師会、介護連(他の介護事業所が集まった協議会)などとの連携、自己研鑽のための研修などの活動をおこなっています。私は看多機の管理者になって2年目に、前会長の退職をきっかけに協議会の会長に就任することになりました。会長として介護保険運営協議会、基幹の地域ケア会議、医師会在宅ケア委員会等へ参加して、地域の医療や介護の事業のしくみを学べたのはとても有意義な経験でした。定例会は2ヵ月に1度開催して、さまざまな意見を話し合います。そこで出た意見を行政(松戸市)に伝え、ルール変更や統一の対応をしていただいたこともありました。 こうした活動を通じて、同業者との横のつながりは、仕事をしていく上での大きな心の支えになることも実感しました。「競合他社」ではありますが、管理者の悩みは一緒であることが多いもの。話をしていると互いに気持ちをわかりあえることが心地よく、「明日も頑張ろう」という力が湧いてくるのを感じました。 2023年7月 千葉県看多機協議会を立ち上げ その後、私は松戸市の隣の鎌ヶ谷市の看多機(看多機かえりえ南佐津間)への異動が決まったため、2年で会長を辞任しました。 鎌ヶ谷市では1件目の看多機なので、今まで協議会の仲間や市とコミュニケーションをとりながら過ごしてきた私は心細さを感じ、同じ県内で看多機を立ち上げておいでの福田裕子先生(株式会社まちナース まちのナースステーション八千代統括所長)にお願いして、2023年の7月に千葉県看多機協議会の立ち上げをすることになりました。 看多機かえりえ南佐津間 立ち上げ準備のために千葉県内の看多機を調べ、連絡を取ってみて気づいたのは、自治体に看多機が1ヵ所しかないところもまだまだ多いということ。そして、管理者の皆様が、「同業者と話をしたい」と思っているということです。 千葉県看多機協議会は、横の繋がりを強化することで、それぞれの事業所が安心していきいきと運営できるよう活動していきたいという思いで設立されます。看多機はできてまだ10年。本当にこれでよかったのか、もっと良い使い方はないのか、現場では毎日試行錯誤しながら実践に取り組んでいます。協議会の活動を通して、地域の頼れる社会資源として成長していきたいと考えています。 * * * 私は、在宅に携わった看護師がみんな、「この仕事をしてよかった」と思ってもらいたいと考えて、日本訪問看護認定看護師協議会の活動に参加してきました。今後は対象を広げ、在宅に関わるすべての職種に「よかった」と思ってもらうことを目指して、活動していきたいと思っています。 ※本記事は、2023年7月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

訪問看護師のためのウェルビーイング推進
訪問看護師のためのウェルビーイング推進
インタビュー
2023年6月27日
2023年6月27日

具体的に何をすればいいの? 訪問看護師のためのウェルビーイング推進

スタッフが笑顔で幸せに働くために、「ウェルビーイング推進グループ」を設置しているソフィアメディ。今回は、ウェルビーイング推進グループ マネジャーの宮地麻美さんに、活動内容の詳細や、グループ設置後のスタッフの反応などを伺っていきます。 >>前回の記事はこちらどうすればスタッフが幸せになる?訪問看護師のためのウェルビーイング推進 ソフィアメディ株式会社「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護や訪問リハビリテーションなど、在宅医療に特化したサービスを提供している宮地 麻美さん/ウェルビーイング推進グループ マネジャー1972年群馬県生まれ。看護師歴22年。精神薄弱児施設で4年働いた後、医療知識を求めて看護師の道へ。ナショナルセンターで15年勤務しつつ、看護教員資格を取得し、大学院へ進学。遷延性意識障害看護を学ぶ中で、口腔ケアの重要性を感じて摂食・嚥下障害看護認定看護師となり、急性期での看護を実践。2016年に回復期リハビリテーション病院に転職し、在宅看護の重要さを知る。2019年にソフィアメディへ転職後は訪問看護ステーション管理者として3年従事し、2022年2月より新設されたウェルビーイング推進グループのマネジャーを担当。 人と人をつなぎ、訪問看護の楽しさを共有 ―ソフィアメディのウェルビーイング推進グループは、従業員満足度(ES)の向上を目的に活動されていると伺いました。より具体的な業務内容について教えてください。 はい。私たちは「ありがとう」「いいね」がソフィアメディ全体に行き渡るようにしたいと考えています。そのため、スタッフ同士やスタッフと経営陣の気持ちをつなぐための活動や、やる気が上がり、不安が軽減するための取り組みを行っています。 ソフィアメディ内での呼び名も含まれますが、具体的な業務内容は以下のとおりです。 【ウェルビーイング推進グループの業務】・毎月の「ありがとうメール」配信・「ソフィアメディチャンネル」(月に一度の全社会)での「生きるを看る物語り」の発信・CEOとのステーション訪問・社内報のウェルビー記事・新入社スタッフのサポート・おせっかいお人好しの部屋・応援ナース 医療職流動化 ─気になる名称の活動が並んでいますが、まず「ありがとうメール」について教えてください。 働く環境や体調・メンタルなど、現在のコンディションを確認することを目的に、毎月全スタッフを対象にWebアンケートをとっています。そのフリーコメント欄に、その月に感謝を伝えたい相手への「ありがとうメッセージ」を書けるようにしました。そのメッセージはウェルビーイング推進グループから相手の上長にメールで送り、上長から該当メンバーに共有されるようにしています。 ―直接ではなく、上長を介しているんですね。 はい、そのほうが一人のありがとうで完結せず、ありがとうがありがとうを生むしくみとしてやる気アップにつながると思いますので、あえてそうしています。コンディション確認のアンケートでは、スタッフからネガティブなコメントをもらうこともあるのですが、そのあとにしっかりと「ありがとうメッセージ」が書かれていることもあります。「ぜひありがとうを伝えたい」という強い意思をもったコメントも多く見られるようになりました。毎月のアンケートを回答するとき、今月は誰にメッセージをしようと考えるので、その月にお世話になった色々な人の顔を思い浮かべる時間になっているんです。 ─「ソフィアメディチャンネル」での「生きるを看る物語り」についても教えてください。 ソフィアメディチャンネルは、月に一度行われるソフィアメディの全社会なのですが、毎回時間をもらって、「生きるを看る物語り」を配信しています。日々の忙しさに身を任せながら訪問看護をしていると、「自分がどうありたいのか」「何のために何をしているのか」「何を実現したかったのか」を見失いがちです。それこそ、看護師になった理由や、何を期待し、何を実現したくて弊社に入社したのかも忘れかけてしまうことがあります。それらを振り返るきっかけとなるようなストーリーづくりを心がけています。 内容は幅広く、訪問看護のスタッフの人生を紹介するものやお客様へのインタビュー、お客様とスタッフの交流エピソード、看護・リハビリのあり方などを物語にまとめています。例えば、ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)を話題にしたときは、「死というものに向き合わなければならないとき、患者さんが最終的に伝えたいことは何か」「まだ心の準備ができていないご家族はどうこの時間を過ごせばいいか」といった内容を発信しました。動画ではなく、抽象的なシーンを紙芝居のように見せながら語る、という形式で、観ている方が自身に重ねたり、想像したりができるように余白のある作りこみを心がけています。 アンケートで、「そういう看護がしたかった!」「自分もそういった観点を心がけて看護をしている」といった意見をもらえると、うれしい気持ちになりますね。事務職のスタッフに「大事にしてきた想い」を尋ねた回に、それを聞いた別の事務担当から「事務業務をこんなふうに考えることができるんだと知り、やる気が出た」といった意見をもらったことも。多種多様なスタッフがいますので、それぞれが持つ琴線に触れられるよう、幅広い視点で発信を続けています。 ギャップに苦しみがちな新入社スタッフのサポート ─新入社スタッフに対しては、どのようなサポートを行っていますか? 年間100名以上の新入社スタッフを対象として、入社後のフォロー・サポートを行っています。実務のオリエンテーションは別の部署が行うので、ウェルビーイング推進グループが行うのは、主にコンディションのフォローですね。多くの新入社スタッフは、実際に仕事を始めると、ギャップや違和感に苦しんでしまうんです。 新入社といっても、ソフィアメディの場合「看護師として1年目」という人はいません。病棟勤務から、想いをもって訪問看護へ、というケースがほとんど。でも、訪問看護のお客様は、病棟とは異なり本当に多種多様です。また、医療設備や必要物品が整っていないことが多いお客様のご自宅で、臨機応変に判断・対応していくスキルが求められます。病棟と大きく価値観が異なるため、リアリティショック(理想と現実とのギャップによるショック)は避けられませんが、ショックをなるべく減らすよう新人看護師の声を聞いたり、私たちが目指す看護について改めて話したりしています。 最近始めたのが、「1ヵ月目のあなたへ」というメールの配信です。スタッフたちと同じ目線に立ち、「どうしても100点を目指してしまうものだけど、60点でも十分なんだよ。一人で頑張りすぎなくていいんだよ」ということを伝えています。気持ちが和らぐよう、表現やデザインも工夫しています。できないことはできないと声をあげてもらうことが重要で、できないものだとこちらが把握できれば、手助けも可能なんですね。メールを通じて、「まずは自分を大切にしてほしい」ということを第一に訴えています。 ありのままを受け入れる存在の重要性 ─新入社スタッフの方に限らず、訪問看護師さんたちとのコミュニケーションについてもう少し詳しく教えてください。普段の声掛けではどんな点に気を付けていますか? そうですね。看護師は「看護に関して何でもできてあたりまえ」が前提とされる世界にいます。できないことがあると、患者さんの状況悪化に直結してしまう。だから誰もが気を張っていて、お互いを褒め合うことはあまりありません。お客様から「ありがとう」と言われることはあっても、看護師同士では「できて当然」という空気感のため、なかなか声を掛け合うことがないんです。 そして、「できてあたりまえ」という世界だからこそ、「患者さんを助けられなかった」という事態に直面すると、大きなショックを受けてしまいます。私自身、看護師になって10年ほどは泣きながら帰ることも珍しくありませんでした。誠意をもって強い気持ちで取り組もうとするほど、自分を追い込んでしまうものなんですね。 でも、看護師ひとりがどんなに力を尽くそうが、どうにもならないことはいくらでもあります。自分の看護のあり方をそのまま受け止めてくれる存在がいたら、私もそこまで自分を追い詰めることはなかったのではないかと思うんです。あのとき、「今のままでいいよ」「ちゃんとがんばってるよ」「十分だよ」という一言をもらえていたら、違ったんじゃないかな、という気持ちが大きいんです。そんな体験をもとに、できるだけスタッフたちに寄り添う言葉を選んでいます。 ─なるほど。自分で自分を追い込んでいる方が、さらに他人から叱られたら、とてもつらい気持ちになってしまいそうですね。 そのとおりです。マネジャー側も必死ですし、できないことがあると強い言葉で注意してしまうこともあるかと思うのですが、誰かに叱られるとなかなか前向きになれないもの。頭のなかが「叱られたこと」だけでいっぱいになってしまいますよね。教わったはずのことも吹き飛んでしまうかもしません。私が関わる看護師には、そういう経験をしてほしくないと強く思っています。 看護師はどうしても自分を二の次にしてしまい、自分を大切にすることが得意ではありません。でも、人生は一度だけなんです。看護師という仕事を選び、続けているスタッフたちをとにかく応援したいですし、自分を大切にしてほしい。そんな気持ちがいまの私を動かしていると思います。 ─ウェルビーイング推進活動を通じて、スタッフの皆さんに変化はありましたか? はい。生き生きと働いている様子を聞くこともありますし、各自抱え込んでしまいがちなステーション業務の大変さを打ち明けてもらえることも増えました。 ―解決が難しいお悩みだった場合は、どのように対応しているのでしょうか。 2022年度には70名ほどの看護師たちとお話ししたのですが、悩みがあれば、話を聞いて「リフレーミング」をしていきます。リフレーミングとは、一定の枠組みで捉えている物事を、違う枠組みで捉えようとする心理学的アプローチです。 例えば管理者と考え方が合わない場合、別の捉え方ができないか検討していきます。それぞれの看護観、人間観や仕事観などが影響してくるのですべてが合うことは難しいと思います。でもその中で「自分がどう考えたら、動いたら少しでも良い関係が築けると思いますか?」とご自身に問い、ご自身の中での最適解をご自身で選んでもらうのです。悩んでいると視野が狭くなってしまうものですが、一緒に視点を変えて考えることで、別の方法に気づき、ポジティブな考え方ができるようになってくれればと思っています。「自分が幸せになれないのは、社会のしくみや環境のせいだ」と考えがちな人もいますが、「自分自身の考え方が変わることでその社会の見え方が大きく変わる」こともあるのだ、と知ることで楽になることが増えると思います。 もちろん、ステーションごとにコンディションも違いますし、それぞれの強い想いがあって簡単にはいかないこともあります。でも、私たちは他人をコントロールすることはできませんし、一人ひとり違うからこそ、人間は面白い。その人の強みを生かせるよう、私自身が一歩引きながら考えることを心がけています。難しいことなので、これは人生を通した課題ですね。 自分の存在を認め、大切にすることが肝心 ─他のステーションの管理者の皆さまに向けて、「ウェルビーイングな職場づくり」をするためのコツを教えてください。 いろいろなアプローチがあると思いますが、一番の肝の部分は、「相手の存在そのものを認めること」ではないでしょうか。存在を認めることは、その人の命や人生を大切にすることに繋がります。具体的にどうすればいいの?と思うかもしれませんが、難しいことではありません。「まずは挨拶から」でいいんです。良い関係でないと、挨拶もままならないものですよね。挨拶は相手の存在を認めていることを伝える一番簡単な手段と思っています。 無事戻ってこられるよう「いってらっしゃい」と声をかけること。帰ってきたときには「おかえり、帰ってきてくれて嬉しい」と言葉で伝えること。 次に重要なのが「失敗が言える関係」にステップアップしていくことです。失敗を自ら好んでする人はいません。でも人は失敗するものでもあると思います。なので失敗を自分だけでなんとか取り繕おうとしたり、隠そうとしたりするのではなく、そのままを報告できること。言い訳を考える時間は、本当に無駄です。私は、そんなことを看護師にさせたくありません。「報告さえしてもらえればちゃんと引き継げるよ」「フォローできるよ」という姿勢が重要だと考えています。対処したあとに一緒に振り返ることはもちろんしていきます。 また、当然のことですが、管理者からのダメ出しは、看護師たちに大きな影響をもたらします。最大限言葉を選んで、「これから学んでいこう」と思えるメッセージを伝えたいですよね。その人が次の一歩を踏み出せるような言葉を考えることが重要だと思います。チーム作りは時間がかかりますが、それぞれの自分らしさを大切にしながら、じっくりすすんでいきましょう。 ─ありがとうございました! ※本記事は、2023年4月の取材時点の情報をもとに制作しています。 取材・執筆: 倉持 鎮子編集: NsPace編集部

訪問看護師のためのウェルビーイング
訪問看護師のためのウェルビーイング
インタビュー
2023年6月20日
2023年6月20日

どうすればスタッフが幸せになる?訪問看護師のためのウェルビーイング推進

訪問看護師が笑顔で幸せに働くためには、どうすればいいのか。多くの訪問看護ステーションが抱える課題でしょう。今回お話を伺ったのは、ソフィアメディ株式会社で「ウェルビーイング推進グループ」のマネジャーを担当する宮地麻美さん。管理者経験もある宮地さんに、「ウェルビーイング」とは何か、ウェルビーイング推進グループではどんな取り組みを行っているのか、などを伺いました。 ソフィアメディ株式会社「英知を尽くして『生きる』を看る。」を使命として、首都圏を中心に全国約90ヵ所で訪問看護ステーションを運営。訪問看護や訪問リハビリテーションなど、在宅医療に特化したサービスを提供している宮地 麻美さん/ウェルビーイング推進グループ マネジャー1972年群馬県生まれ。看護師歴22年。精神薄弱児施設で4年働いた後、医療知識を求めて看護師の道へ。ナショナルセンターで15年勤務しつつ、看護教員資格を取得し、大学院へ進学。遷延性意識障害看護を学ぶ中で、口腔ケアの重要性を感じて摂食・嚥下障害看護認定看護師となり、急性期での看護を実践。2016年に回復期リハビリテーション病院に転職し、在宅看護の重要さを知る。2019年にソフィアメディへ転職後は訪問看護ステーション管理者として3年従事し、2022年2月より新設されたウェルビーイング推進グループのマネジャーを担当。 体制変更やコロナ禍でスタッフが疲弊 ─まずは、宮地さんが訪問看護師になったきっかけをお教えください。 私は看護師になる以前、精神薄弱児施設に勤務していたのですが、気管内吸引をはじめとした医療的処置が必要な子や、多数の薬を飲んでいる子たちがいました。その子どもたちと関わるうちに医療の道に興味をもち、看護師を志すようになったんです。看護師になってからは、口腔ケアに興味を持ち、医学博士の紙屋克子先生や歯科医師の黒岩恭子先生のもとで学んだ後、摂食・嚥下障害看護認定看護師として病院で働いていました。 しかし、病院ではどうしても多数の患者さんをケアするために優先順位を考えて対応せざるを得ません。「もっと患者さん本位の看護をしたい」「在宅での看護をしたい」と思うようになったことが、訪問看護師になるきっかけですね。回復期リハビリテーション病院に転職して、在宅看護を目の当たりにしたということも大きいです。自分の身の回りに関するものも人間関係も、基本的には「家」が中心。家で治療・療養ができれば、より患者さんの心が満たされる看護ができるのではないかとも思いました。 ―在宅看護に夢を持って、ソフィアメディに転職されたのですね。 はい。2019年に転職し、「ソフィアメディ訪問看護ステーション元住吉」の管理者を任されました。「地域のみなさんに安心してもらえるようなステーションにしたい」「スタッフにも利用者様にもケアマネジャーさんたちにも笑顔になってほしい」と、夢や希望でいっぱいでした。 しかし、2019年はちょうど診療報酬の改定があり、ソフィアメディでも在宅で中重度のお客様を受け入れられるよう体制を整えはじめた大転換期。土日・夜間の対応強化による忙しさにスタッフたちは疲弊し、漠然とした不安がステーション内に広がり、管理者としてふがいなさを感じていました。さらに、2020年には新型コロナウイルス感染症の波が訪れ、課題は山積み…。スタッフたちの笑顔が少なくなっていきました。 このときに私は、「絶対にステーションを笑顔いっぱいする!」と決心したんです。 ウェルビーイング=「健康で幸せな状態」 ―管理者時代の経験が、現在の「ウェルビーイング推進」のお仕事につながっているのですね。では、そもそもウェルビーイングとは何なのか、定義から教えてください。 ウェルビーイング(Well-being)は、「ウェル」(良好な、健康な)と「ビーイング」(状態)をつなげた言葉で、「健康で幸せな状態」のことを指します。慶應義塾大学の前野隆司教授によれば、長続きしないお金や社会的地位などではなく、長続きする「社会的、身体的、精神的に良好な状態」がウェルビーイングです。日本は、社会的・身体的な部分については高水準だと言われていますが、「精神的」な部分が課題だと言われています。 ―ウェルビーイングは、単純に「うれしい」「楽しい」という状態ではないのですね。 そうですね。前野教授は、幸せを高める因子として、以下の4つを挙げていらっしゃいます。例えば、強みを生かして主体的に動けている状態や、他者と比べず「自分は自分」と思える状態も、ウェルビーイングに含まれるんです。私は、この4つの因子を参考にしながら、ステーション内を笑顔でいっぱいにすべく、動いていきました。 ■前野 隆司教授による幸せの4つの因子・「ありがとう!」因子(つながりと感謝)・「やってみよう!」因子(自己実現と成長)・「ありのままに!」因子(独立と自分らしさ)・「なんとかなる!」因子(前向きと楽観) ―具体的に、訪問看護ステーション元住吉でどのような取り組みを行ったのでしょうか。 まずは、スタッフの心理を分析しました。訪問看護に携わる看護師・セラピストたちは、職種柄「自分がやらねば!」という責任感や正義感が強く、患者さんのために自分自身を犠牲にしたり、ミスをした際に過剰に自分を責めたりする傾向にあると思います。 ソフィアメディ 「スタッフの心理」セミナー資料より引用 こうした現状を踏まえて、「4つの因子」に当てはめて改善をしていきました。 ソフィアメディ 「幸せを高める4つの因子」セミナー資料より引用 例えば、以下のような行動です。 (1)「ありがとう!」因子(つながりと感謝) ・誰よりも早く大きな声で「おかえり」「いってらっしゃい」などの声をかける・日々スタッフの命が一番大事であることを伝える・マイナスな意見に対しても「改善のきっかけになった」と感謝する (2)「やってみよう!」因子(自己実現と成長) ・「理想の看護」について、スタッフ一人ひとりにヒアリングする・自分の意見を押し付けず、スタッフたちの意見に「いいね!」と伝える・難しい案件も断らず、必要に応じて管理者である自分自身が訪問して看護方針を策定 (3)「ありのままに!」因子(独立と自分らしさ) ・会話を通じて、スタッフのコンディションを把握・プライベートの事情や趣味も把握し、応援し合う・「自分を犠牲にせず、自分が幸せになるやりかたを考えよう」と伝える (4)「なんとかなる!」因子(前向きと楽観) ・インシデント報告に対して「ありがとう」「大変だったね」と感謝・ねぎらいの言葉をかける・「寝坊しました!」とはっきり言えるくらい、相談しやすい雰囲気づくりをする・困りごとの解決策は、一緒に考える こうした動きをしていったことで、ステーション内の雰囲気が良くなり、年間で一人も離職者は出ませんでした。アンケートでのスタッフの従業員満足度(ES)も高くなりました。 「ありがとう」「いいね」が行き交う組織へ ─訪問看護ステーション元住吉での取り組みを経て、ソフィアメディ内でウェルビーイング推進グループを立ち上げ、取り組みを会社全体に広げているのですね。では、ウェルビーイング推進グループの立ち位置について教えてください。 はい。ウェルビーイング推進グループ設立の目的は、まさに全体の従業員満足度を高めていくことです。『「ありがとう」や「いいね」が行き交う組織にする』というヴィジョンを掲げて活動しています。4名という少数で活動しており、グループ内でなにか相談したいことがあれば、すぐに話し合っています。 ─ウェルビーイング推進と、ワークライフバランス推進は異なるものでしょうか? はい、そこは明確に異なります。「ワークライフバランス」という言葉は、「仕事とプライベートをしっかり切り分ける」といった意味合いが強いですよね。たしかに公私混同しないことは重要ですが、仕事をしているときの自分も、家に居るときの自分も、どちらも「自分」。切り分けることはできません。ウェルビーイングを推進する際は、その前提に立って考えています。 当たり前のことですが、家で嫌なことがあれば、仕事に気が乗りませんし、仕事でいいことがあれば、家でもずっといい気持ちでいられますよね。「仕事とプライベートは相互に影響し合うもの」「繋がっているもの」ということを意識して、両方大切にしていきたいというのがウェルビーイング推進グループの基本的な考え方です。仕事の時間は人生の多くを占めますので、楽しんでもらえるような環境・関係をつくりたいと思っています。 例えば、「今日は家族の具合が悪いから帰りたい」、「好きなアイドルのコンサートがあるから早帰りさせてほしい」。そんな一言が言いやすい環境がいいと思います。そういった発言が聞けると、「ご家族の調子がよくなくて大変なんだな」とか、「そんな趣味を持っているんだ」などと、スタッフたちの事情が見えてきますよね。事情がわかれば、互いに配慮し合えます。公私を完全に切り離すのでなく、どちらも「その人を形成するもの」として知り、自分のことも知ってもらう。そうすることで、円満な関係が生まれやすくなると思います。 ―ありがとうございます。次回はウェルビーイング推進グループの業務の詳細や、スタッフの皆さんの反応についてお話しいただきます。 >>続きはこちら具体的に何をすればいいの? 訪問看護師のためのウェルビーイング推進 ※本記事は、2023年4月の取材時点の情報をもとに制作しています。 取材・執筆: 倉持 鎮子編集: NsPace編集部

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