ステーション運営に関する記事

大規模事業所の人材マネジメント
大規模事業所の人材マネジメント
インタビュー
2024年7月2日
2024年7月2日

大規模事業所の人材マネジメント~次世代に繫ぐために~

兵庫県の西宮市訪問看護センターの管理者を長年務めた山﨑 和代さんへのインタビュー記事を、3回に渡ってご紹介。最終回は、大規模事業所の人材マネジメントや新たなチャレンジなどを伺いました。 >>これまでの記事はこちら訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~ 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 規模ありきでなく、成長の結果としての規模 ─西宮市訪問看護センターでは当初から大規模化を目指していたのでしょうか? いえ、最初から規模を大きくしようとしてしたわけではありません。地域のニーズに対して、スタッフが真摯にスピーディに応じてくれて、人の入れ替わりがありつつも、新たに仲間になってくれるスタッフが途切れなかったことで、結果的に大規模化につながりました。 これまで理念を掲げて長年突っ走ってきましたが、スタッフのみんなが理念を理解して、良質なサービスを提供しようと大変な努力をしながらやってきてくれました。本当に感謝しています。 ─採用に苦しんでいる事業所も多いと思いますが、西宮市訪問看護センターではどんな取り組みをされていたのでしょうか。 ホームページ、ナースセンター、ハローワークを活用しており、「訪問看護ブログ」を過去に掲載していました。ブログをご覧になった方からお問い合わせいただくケースが多かったですね。 また、西宮市訪問看護センターでは兵庫県で初めて新卒採用を行い、2023年度末までに6名を採用しています。新卒採用をきっかけに、「新卒を受け入れているなら、経験年数が短くても受け入れてもらえるのでは」という思考が働いたようで、副次的に既卒の20~30代の看護師確保もしやすくなりました。若手が増えたことで、ステーションの長期的な継続を見据えた準備ができるようにもなりました。 ─大規模な事業所の管理者に求められることを教えてください。 地域や制度の動向を見据えて組織をデザインし、どのように経営・運営するかを決めて実践していく。大規模事業所の管理者には、こうしたスキルやセンスが求められると思います。 また、リソース配分も重要です。常によりよい方法を模索していますが、例えば事務員に新規契約や連携における書類作成、簡便な連絡などを担ってもらい、管理職の負担軽減をするなど、今いる人員でいかに効率的に運営していくかということを考えています。 事業費の約1%はスタッフ教育へ ─次世代の育成にも大変力を入れていらっしゃると思います。具体的にどのようなことをされているか教えてください。 はい。スタッフの教育は良質なサービスを提供するにあたって欠かせませんので、事業費の約1%は研修教育費として使っています。例えば、月1回業務時間内に行っている集合研修、ポータブルエコーの購入、ウェブコンテンツの契約更新、特定行為研修への2名(年間)の派遣などに充てています。 チームリーダー業務を通じて次世代のリーダーも育成しています。次の管理者については、日本看護協会の認定看護管理者課程のファースト、セカンドレベルを済ませ、2024年度にサードレベルを受けて春に認定看護管理者の試験を受けることになっています。とても心強く、なにも心配していません。 傾聴を通じて知った今後の課題 ─人数が多い事業所ではコミュニケーションが課題になることも多いと思います。前回、情報共有アプリでのコミュニケーションのお話もありましたが、普段心がけていることを教えてください。 「傾聴」に力を入れています。実は、私は以前もっとも信頼していたスタッフをバイク事故で亡くした経験があります。この件に関しては私が一番精神的にダメージを受けて、みんなに支えてもらいました。そのことがきっかけで、メンタルケアをしてくれるカウンセラーの先生を探したという経緯があります。 その先生に、「山﨑さんの目指す事業所運営には傾聴が必要」と教えていただいたんです。傾聴というと、「ただ耳を傾けて聴く」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実は高度なテクニック。スタッフとともにグループ講座を受講したところ、いかに自分たちに足りていない能力だったかを実感しました。 特に多かった例は、「この人はこう考えるに違いない」と決めつけ、思い込んでしまう「ブロッキング」。つまり、先入観ですね。傾聴とは、自分の先入観を認識し、それを打ち消し、相手の話を芯から理解しようとすることなんです。 また、相手の言葉をそのまま返す「ミラーリング」という手法を実践してみて、その効果がよくわかりました。実際にミラーリングをしてもらうと、「この人、私のことをわかってくれているんだな」と感じるんです。翻って、普段私を含む管理職たちはアドバイスばかりしていたことに気付きました。 傾聴のスキルは、スタッフ同士はもちろん、利用者さんや自分の家族とのやりとりにも活かせます。自身の在り方を振り返り、ラクになることを実感しました。ただし、ちょっとトレーニングしただけではこれまで染みついたやり方はなかなか抜けません。すぐに思い込みや独りよがりで話してしまいますし、よかれと思ってアドバイスしてしまうんです。折に触れてお互いに確認し合い、気を付けなければ、と思っています。 次世代にバトンを渡し、新たな挑戦へ ─山﨑さんは、2024年4月より新たに訪問看護ステーションを立ち上げるとのことですが、立ち上げ経緯を教えてください。 想いを引き継いでくれる後進も育ったことですし、新たなチャレンジをしたいと思ったのがきっかけです。いざ準備を始めてみたら、やりたいことがいっぱい出てきて、絞るのに苦労するくらいでした。会社名は、「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」。訪問看護師だけでなく、ヘルパー、ケアマネジャーなど、「担う人」すべてを応援したいという気持ちで名付けました。 担い手は誰しも他人には真摯に向き合うのに、自分自身のケアはおろそかになりがちです。そうした人たちに「また明日からがんばろう」と前向きになってもらいたいので、訪問看護をはじめとした「受ける人」向けのサービスだけではなく、「担う人」向けの講座や相談・支援、リラクゼーションも用意しています。 長年の訪問看護ステーション運営で培ったノウハウを活かし、訪問看護のみならず介護事業の運営や経営で困っている人の相談支援や、ライフワークである暴力ハラスメント対策の研修も、より充実させていきたいと思っています。 2024年3月末に行われた送別会でのひとコマ。左の画像は、管理者を引き継いだ吉田さんとのツーショット。右の画像は趣味のヴァイオリンを披露する山﨑さん ─訪問看護ステーションではどのような取り組みをされるのでしょうか。 訪問看護ステーション(足とリンパとおなかの悩み訪問看護)は、通常の訪問看護はもちろん、それに付随してフットケアとリンパ浮腫のケアやそれに関連する処置。そして、浣腸摘便ではなく腸内環境や生活習慣に着目して排便コントロールをしていきたい方に向けた支援をします。これまでなかなか解決が難しい分野だと感じてきたからこそ、チャレンジしたいと思っています。 訪問看護が好きだからこそ、改革を続けていく ─訪問看護師として数多くの改革に取り組んでこられましたが、何がモチベーションになっているのでしょうか。 何でしょう…。「訪問看護が大好き」というのも大きいと思いますし、私が勝ち気だからかもしれません(笑)。 ─今後の訪問看護がどうなっていくべきか、お考えをお聞かせください。 「訪問看護でできること」の認知度を、もっと上げなければいけないと考えています。 本来であれば在宅療養開始に向けて、アセスメントシートを作成して医療機関とケアマネジャーが協議する時点で、「訪問看護」によるアプローチを始められるといいのですが、それができていないことは課題だと思います。訪問看護師が医療と生活の視点でその人の状態を評価し、退院直後に集中して支援できれば、当面の療養生活の見通しが立ち、救急搬送のリスクも低減させることができます。また、そのタイミングで訪問看護師の介入があると、ケアマネジャーと医療機関、双方にメリットがあると思います。 西宮市訪問看護センターでは、急性期病院の地域医療連携部署と一緒に病棟のカンファレンスに参加していますが、そうしたしくみが全国的に広がり、きちんと評価されるようになれば、医療・介護の連携が進み、病院と在宅の垣根が低くなっていくと思います。なにより利用者さんに大きなメリットがあるのではないでしょうか。 ─本当に学びの多いお話をありがとうございました。最後に、看護職の皆さまへのメッセージをお願いします。 もし訪問看護をやるかどうか迷っている人がいたら、魅力ある仕事なのでまずは飛び込んで経験してほしいと思います。また、看看連携はインセンティブがあまりつきませんが、支援の要です! 気軽に病院と訪問看護ステーションが話せる場を一緒につくってほしいです。 ─ありがとうございました! ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~
阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~
インタビュー
2024年6月25日
2024年6月25日

阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~

西宮市訪問看護センターはエリア内で最も長く地域を支え、幅広い取り組みを実施されてきたセンター。災害関連でも、阪神・淡路大震災での訪問看護を経験しているほか、新型コロナ感染症陽性者の支援のしくみづくりにも貢献。今回は、災害対策にも精通している山﨑 和代さんに、災害時の対応やICT化問題にいち早く取り組み、電子カルテや情報共有アプリを導入した際のお話などを伺いました。 >>前回の記事はこちら訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~ 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 震災を経て感じた訪問看護「終結」の重要性 ─西宮市訪問看護センターでは、1995年の阪神・淡路大震災時の訪問看護を経験され、その経験を活かして行政と連携しながら災害対策体制の構築をされたということでした。ステーション内での災害対策についても教えてください。 西宮市訪問看護センターの中で、阪神・淡路大震災のときに訪問看護をしていたメンバーは私のみになりましたが、当時、「訪問看護に行きたくても、行けない」という経験をしました。あの経験を通じて、利用者さんから「全面的に頼っていただく」サービスの限界を知ったように思います。 何かあったときに、我々が利用者さんのもとに行けないこともある。だからこそ、最終的には利用者さんがセルフケアを行えるようなサポートが「住み慣れた場所で最期まで過ごせる地域づくり」に繋がると強く思いました。病気を知る、背景を知る、ナラティブ(その人の物語)を知る。その上で適切にアセスメントし、セルフケアをしていただけるよう、「訪問看護の終結」を見据えてケアすることが、利用者さんのためでもあり、限られた訪問看護のマンパワーを効果的に活用することに繋がります。「タスクシフト」はまさにこのことだと思います。 重要なのは、緊急度・重症度に応じた訪問看護優先度の決定(トリアージ)です。当センターではトリアージ表を作成して支援内容や頻度をチームで検討し、常に終結や訪問頻度の低下ができないかウォッチしています。この考え方は、当センターのBCP(事業継続計画)にも反映しており、災害級といわれたコロナ禍で担い手が不足したときにも役立ちました。 ─「訪問看護の終結」が一筋縄ではいかないケースもあるのではないかと思いますが、どのように対応されていますか? まずは、合意形成することを大事にし、常に終結を見据えて利用者さんに情報を取捨選択して渡し、しっかりと相談に乗っています。 それでも利用者さんやケアマネジャー、主治医などから継続の要望があることは珍しくありません。多職種共通の客観的指標がないことが、利用者・家族の要求が優先されることに繋がると考えています。なので、そうした状況が起こるときこそ、支援の必要性を再度アセスメントし、その結果を踏まえて対応することが、西宮市訪問看護センターの役割と考えています。 本当に困っている人にリソースを割くための終結=タスクシフト ─利用者さんが訪問看護を継続したほうが経営面で安定するという側面もあると思います。多くの壁がある中で、それでも終結していくためのしくみづくりを推進されてきた背景にある想いを教えてください。 できるだけ多くの方の要求に対応したほうが経営的には安定すると思いますが、大規模ステーションである西宮市訪問看護センターだからこそすべきことがあります。我々のリソースには限りがある上、新規の利用者さんは対応を急ぐ重症なケースが多い。だからこそ、我々は訪問看護を終結していくことで、次々にいただく新規の依頼を断らずに受け入れることができます。今日明日の急な依頼も、原則としてすべて対応します。 現状の制度においては、「適切にアセスメントし、適切な時期に終結する」ことができたとしても、なんのインセンティブもない状況です。しかし、西宮市訪問看護センターのような大規模ステーションだからこそ、やるべきことだと考えて対応してきました。今後はタスクシフトがますます重要となってくるはずであり、より多くの方々が必要なサービスをタイムリーに受けられるよう、制度がアップデートされることを望みます。 新型コロナウイルス感染症の在宅療養対応 ─コロナ禍では、西宮市内で最初に在宅療養の対応をされたと伺いました。語り切れないほど大変な状況があったと思いますが、当時のことを教えてください。 はい、当時は本当に大変でしたね。ヘルパー事業所が撤退したらどうするか、「原則入院」とされている陽性者が入院できなかった場合にどうするか、などの課題に次々と直面しました。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会で県内の訪問看護ステーションの状況を確認しつつ、自治体に要望書を提出。その後、迅速に在宅療養者対応体制が構築されました。 西宮市訪問看護センターでは2021年の1月に初めて陽性者の訪問看護を開始しましたが、当然ながら訪問に行きたいというスタッフはいません。管理職のみで6人のチームを組み、これが「事業団の役割」なのだという使命感をもって訪問しました。 スタッフのストレスマネジメントも課題でしたね。疲労や「感染するかもしれない」という不安はもちろんのこと、学童保育や保育所が休みになって休まざるを得ないスタッフが、「みんなが頑張っているのに休むのは申し訳ない」と泣き崩れたこともあり…。「泣かんでもいいから」と慰めたことを思い出します。 当初は情報が錯綜していたので、私はとにかく多くの時間を情報収集に費やし、取捨選択して整理して、情報共有アプリを通じて伝達していました。「スタッフみんなに心身ともに健康でいてほしい」というメッセージを出し続けたことや、電話や面談でこまめに話をする機会をつくったのが功を奏したのでしょうか。コロナ禍による退職はありませんでした。 反対を受けながらもいち早くICT化を推進 ─情報共有アプリのお話が出ましたが、山﨑さんは訪問看護でITC化が一般的でなかった時代から、いち早く電子カルテや情報共有アプリを導入されているかと思います。こちらも災害対策の意味合いが大きかったのでしょうか。 災害対策だけではないですね。電子カルテを導入したのは2016年のことで、これは新卒スタッフを採用することをきっかけに導入しました。スタッフは入職後2年で独り立ちするプログラムになっていますが、それ以前からオンコールを担当します。当時はまだ紙のカルテを当たり前に使っていたのですが、明らかに電子カルテのほうが効率的に情報を収集できるため、導入は必須だと考えました。 ─スタッフの皆さんの反応はいかがでしたか? これに限らず、新しいことをすると必ず反発がありますね。私は新しい試みばかりするから、みんな大変だったと思います(笑)。ただ、電子カルテはこれからの看護の世界に必ず必要だと思いましたし、利用すればいいケアに繋がると確信していました。そのことを説明しました。 介護保険制度ができて、本当に幅広い対応を求められるようになった一方で、訪問看護の人材は全国的に不足しています。この状況を解決しようとするなら、属人的なやり方では確実に限界がくるんです。アナログでは属人的になりがちで、問題の共有もしにくくなります。一人でケアすることが多い訪問看護は、そもそも属人的になりがちなサービスですから、チーム制やICT化を行うことで、スムーズな情報共有を行っていく必要があると思います。 ─コロナ禍で情報共有アプリを活用されたというお話がありましたが、改めてメリットや課題、気を付けるべきポイントを教えてください。 多職種連携用のものも含めて複数のツールを使っていますので、それぞれの導入理由や使い方をスタッフに明示した上で使用を開始しました。また、情報共有アプリにも複数あるので、選定する際には自分たちのポリシーや希望する使い方にマッチするものを選んでいます。いつでもどこでも見ることができるので、効率的なコミュニケーションや情報共有に役立っています。 ただ、「どこでも見られる」のは良し悪しですね。休みの日でも情報共有アプリをチェックしてしまうスタッフがいて、オンオフの切り替えができない様子が見受けられた際は、「休みのときは見ないで」と改めて指示しました。 あとは、情報の取捨選択が課題ですね。仕事に限らず現代は情報にあふれているので、自ら取捨選択する情報リテラシーが非常に重要です。本当は、私としては基本的に情報をスタッフみんなにオープンにしたかったのですが、人数や案件が多いこともあって「情報を探せない」「通知を追いきれない」といった声が出たので、情報共有アプリ内のプロジェクトごとに参加メンバーを設定する対応をとりました。 看護師は情報の取り扱いを得意とする人がまだまだ少なく、兵庫県の訪問看護ステーション協議会の会員でも個人のメールよりFAXのほうが使いやすい、という声が多いです。ステーションを超えた情報共有を行っていくためにも、もっと訪問看護ステーションのICT化が進んでいくといいなと思います。 ―ありがとうございました。次回は、大規模組織の人材マネジメントについて伺います。 >>次回の記事はこちら大規模事業所の人材マネジメント~次世代に繫ぐために~ ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

訪問看護師は政策・制度検討の場に参画
訪問看護師は政策・制度検討の場に参画
インタビュー
2024年6月18日
2024年6月18日

訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~

兵庫県の西宮市訪問看護センター(社会福祉法人西宮市社会福祉事業団)は、西宮エリア内で最も長く地域を支え、幅広い取り組みを実施してきた訪問看護ステーション。当事業所で長年管理者を務めた山﨑 和代さんに、ステーション運営のノウハウやご経験談、お考えを伺いました。その内容を3回に渡りご紹介します。 今回は、山﨑さんが訪問看護師になるまでの経緯と、訪問看護をスムーズに実践するための地域づくりについてのお話です。 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 制度ができる前から訪問看護の道を志す ─山﨑さんが訪問看護師になるまでの経緯をお教えください。 母が看護師だったことに影響を受けて、看護の道を志しました。大学病院付属の学校に進学し、卒業後すぐに保健師学校に入学。そこで保健師免許を取ったあと、臨床経験を積みたいと思って大学病院へ入職しました。配属先は一般消化器外科の外来で、かなり多忙でした。 当時、印象的な出来事があったんです。肝がんが進行してADLが低下し、ストレッチャーで運ばれてきた重症患者さんがいらしたのですが、受け入れができない状況だったため、関連の病院に入院できるのは後日ということになってしまったんです。「この状態で自宅に帰すのか」と、大きな衝撃を受けました。 昔のことなので詳細は覚えていないのですが、どうしてもそのままにできなかった私は、外来看護師としてルール違反だと知りつつ、保健所に連絡したんです。当時は訪問看護制度がなかったのですが、保健師学校で市町村実習に行った際、保健師が地域で活動していることを知っていました。私ができることといったら、保健師に繋ぐことくらいだと思ったんです。その後、保健師さんから訪問できた旨をご連絡いただき、安心したのを覚えています。 それ以降、「患者さんの自宅で看護をする仕事がしたい」と考えるようになりました。保健師として保健指導をするのではなく、「看護」をしたいと。そのことを保健師学校の先生に相談したのですが、ちょうど訪問看護制度自体ができたばかりのタイミングで、近隣に求人はありませんでした。 一旦西宮の保健所で働きながら、「私、訪問看護をしたいんです!」とさまざまなところで話していたら、たまたま西宮市訪問看護センターが人員を募集していると知り、採用試験を受けました。当時はインターネットがないので、近場の求人もなかなか知ることができないんですよね。奇跡的に見つけられてよかったです(笑)。 政策・制度の検討に訪問看護師も参画を ―山﨑さんは30年間の訪問看護師歴のうち、23年管理者として務められましたが、管理者としてこれまで大切にしてきたことを教えてください。 管理者として大切にしてきたことはたくさんありますが、主に以下の5つです。 西宮市は人口48万人の中核都市で、西宮市訪問看護センターは市の委託を受けて社会福祉事業団がモデル事業として開設した事業所です。1992年の訪問看護制度創設と同時に、全国で最初に老人訪問看護ステーションの指定を受けた事業所のひとつでもあります。 当センターの理念は、当初から変わらず「住み慣れた場所で最期まで過ごせる地域づくり」です。初代管理者は「訪問看護のパイオニアとして良質な訪問看護のスタンダードを目指す」と宣言し、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を柱として、私が管理者を引き継いでからも、教育・地域連携・訪問看護の質向上などに注力しながら、新しい取り組みを積極的に行ってきました。 ─西宮訪問看護センターは大変規模が大きいと思いますが、職員数や運営体制について教えてください。 はい。2022年度の実績は、常勤換算50.7名、年間総利用者実数1,071人、総訪問回数36,455回、在宅死者数65名、指示受け主治医数約220名。24時間緊急対応は、利用者さんのうち約7割に契約いただいています。毎朝サテライトの拠点を含む全チームでミーティングやケースカンファレンスを実施していて、チーム間や多職種との連携にはクラウドツールを使っています。 ─「地域づくり」に関して、具体的なお取り組み内容を教えてください。 地域包括ケアシステムを構築すべく、多職種連携、市内の訪問看護ステーション間のネットワーク強化などを行いました。こうしたさまざまな取り組みは看護が地域でスムーズに実践されることにも繋がりました。「訪問看護ステーションネットワーク西宮」の会長をやらせていただいたのも、この取り組みの一環です。 さらに、訪問看護師が市の医療介護政策決定における会議に参加できるようにも働きかけました。災害に関しては、阪神・淡路大震災の災害時看護経験を生かして災害対策体制が構築できるよう、行政危機管理局と協働しさまざまなしくみを整えました。 また、医療的ケア児のインクルーシブ教育(障害の有無、言語・国籍の違い等で区別を受けることなく同じ場所で学ぶ教育)については、教育委員会から相談を受けたことが始まりで、小学校に訪問看護師を派遣できる支援体制を構築しました。のちに訪問看護ステーションネットワーク西宮が相談窓口の役割を担うようにして、最初は2名だった対象者もいまでは2ケタに増えています。 看看連携推進のために、ある急性期病院では退院調整会議に当ステーションの訪問看護師が在宅側の立場で参加する機会を確保しました。看護看護連携の重要性を看護部長と共有し、交渉して実現したものです。病院とのネットワークを生かして、県内で初めて新卒訪問看護師採用後の実習・研修も受け入れていただき、新卒スタッフ間の交流が継続しています。 こうした多種多様な取り組みが行えたのは、大規模な事業所ならではの利点とチーム全体の努力があったからだと思います。私も微力ながらその一端を担うことができました。 ─政策決定の場に訪問看護師が入ることについて、ご苦労はありませんでしたか? はい。当初は、「医師会の先生や看護協会の方が入っていますよ」と言われ、断られてしまうこともありました。行政の方から見れば同じ医療従事者なので、そのお気持ちも理解できますが、訪問看護師だからこそ見える部分があり、課題として捉えられることがあることを理解してもらえるよう、資料を持参し説明を重ねました。 時間はかかりましたが、医師会の先生のご協力があって実現しました。今では、高齢者福祉計画、医療計画の策定などにもどんどん入れるようになっています。会議の場に出て、訪問看護師の意見をしっかりと発言すること、政策決定のテーブルにつくことはとても重要ですし、苦労して得た経緯を知っているぶん、次世代の方々に今後もぜひ引き継いでいって欲しいです。 緊急訪問が必要になる状況を減らすために ─西宮市訪問看護センターで今掲げている目標について教えてください。 訪問看護に期待される、在宅看取り、重症・小児・24時間対応、地域貢献などの要件を満たすステーションに認められる、医療保険の「機能強化型Ⅰ」を取得しています。重症度の高い利用者さんを多く受け入れることが要件になっているため、医療法人を併設していない西宮市訪問看護センターが機能強化Ⅰを継続するのは容易ではないのかもしれません。でも、せっかく取得したので継続していきたいですね。 また、西宮市訪問看護センターでは、設立当初から「起こり得ることを予測して事前に対策する」ことを大切にしてきました。これは、リスクマネジメントや看護の質向上に直接繋がる、考え方の柱です。なので、「緊急を起こさない」を合言葉に、いかに緊急訪問対応を減らすか、ということにも取り組んでいます。 ─緊急訪問対応を減らす難易度は大変高いのではないかと思いますが、お取り組みの内容や背景にある思いを教えてください。 はい。緊急訪問に対応できることは非常に重要です。一方で、緊急訪問が発生しにくい状況をつくることも同時に重要だと考えています。利用者さんやご家族にとって、緊急対応が必要な状況が発生することや、夜中に他人が自宅を訪れることは大きな負担になるはず。安心して暮らしていただくために、緊急訪問が必要になる状況を減らしたいのです。 そのために、できるだけ利用者さんやそのご家族に知識や技術をお伝えしています。また、初回訪問時のアセスメントが非常に重要です。西宮市訪問看護センターでは、安心して在宅療養をするために必要な4種類のアセスメントシートを作成しています。これを使ってチームで支援の方向性を検討し、主治医やケアマネとも情報を共有しているほか、目標や訪問看護終結の目安を設定し、利用者さんとも合意形成をしているんです。訪問看護の終結はタスクシフトの一環であるとも考えています。 あくまで主体は利用者さんとご家族 ─入念にアセスメントをしてあらゆるリスクを想定するだけではなく、利用者さんや他の職種の方々ともしっかり連携されているんですね。 そうです。ご本人の希望と、療養生活の見通しをすり合わせた目標が、自立支援やセルフケアに繋がる。これが、我々がもっとも目指すべきところですね。あくまで「ご本人とご家族が主体」という考え方に基づいて支援しています。 看取りも同様ですが、医療者が意見を押し付けないように気を付けながら状態を見立て、それに基づいてご家族が「しっかり看取った」と思えるケアをしていくことが大切です。そのためにアセスメントシートを使ってアセスメントし、ケアマネや医師などと連携しています。 アセスメントシートが浸透するまでには約3年かかりましたが、現在はスタッフのみんながその必要性を理解してくれています。状況を可視化することでチームでの意識統一もでき、アプローチもしやすくなりました。 ─それでも避けられない緊急訪問が発生することもあるかと思うのですが、どのように対応されているのでしょうか。 どのようなケースであっても、最初から「仕方なかった」とは考えず、「緊急はなぜ起こったんだろう?」「日頃の訪問で抜けていた視点は?」などと振り返って、「どうすれば起こらなかったか」を話し合うカンファレンスを行っています。スタッフも「はなから諦めたらあかん」と言っており、支援内容をブラッシュアップしています。頼もしいですよね。 現在、契約数に対して連絡数は最大25%、緊急訪問数は最大20%、主治医連絡数は最大3%です。頑張りが現れている数字だと思っています。 ―ありがとうございました。次回は、ICT化や災害対応などについて伺います。 >>次回の記事はこちら阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~ ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など
2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など
特集
2024年5月28日
2024年5月28日

2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など

医療、介護に加え、トリプル改定のもう1つの対象が障害福祉サービスです。訪問看護の場合、障害福祉での報酬は発生しませんが、診療・介護報酬による障害福祉サービス利用者への訪問看護の提供は可能です。そうしたケースでの障害福祉サービス側との連携のしくみに注目します。 障害福祉サービス利用者も訪問看護は利用可能 障害福祉サービスを利用しつつ、居宅や共同生活援助(以下、グループホーム)で生活している人は、診療報酬による訪問看護の利用が可能です。また、障害福祉サービスの利用者が65歳以上になって介護保険の利用が優先されると、介護報酬で訪問看護を利用するケースも想定されます。 その場合、利用者にかかわる障害福祉、医療、介護など多様な機関による情報連携が重要になります。今回のトリプル改定では、こうした情報連携に関するしくみが新設・見直しされました。連携機関の1つとなる訪問看護事業所としては、障害福祉サービス事業所等からの情報提供の求めに応じる際の連携環境がどのように変わっていくか注意が必要です。 相談支援事業所の多機関連携加算 注目したいのは、相談支援事業所が手がける計画相談支援および障害児相談支援の「医療・保育・教育機関等連携加算」です。相談支援事業所とは、障害福祉サービスの利用意向がある人から、さまざまな相談を受けたり、具体的なサービス計画(以下、サービス利用等計画)の立案およびサービス調整を行う機関です。 そのサービス利用等計画を作成する際に、当事者が利用する医療や保育、教育機関などの職員と面談した上で、必要な情報提供を受けた場合に算定されるのが上記の加算です。対象となる障害当事者1人につき、月1回を限度として算定されます。 相談支援事業所と訪問看護事業所の連携が明記 同加算の訪問看護に関係する見直し点は、第一に算定の留意事項(通知改正)で、相談支援事業所の連携対象に「訪問看護事業所」が明記されたことです。これにより、相談支援専門員から面談(テレビ電話等の活用含む)を通じて、訪問看護提供時の利用者の心身の状態に関する情報提供依頼が増える可能性があります。 また、訪問看護事業者からの情報提供だけでなく、訪問看護側で利用者へのサービス提供に際して必要な情報が生じた場合、担当の相談支援専門員に情報提供を求めることができます。その求めに相談支援専門員が応じた場合の加算区分が新設されました。 医療・保育・教育機関等連携加算のしくみ 「精神障害者支援体制加算」と訪問看護の関係 指定相談支援事業所の報酬で、訪問看護との連携体制が要件となるものが、「精神障害者支援体制加算」です。 これは、精神障害者支援にかかる一定の研修を修了した相談支援専門員を配置している事業所を評価するものです。一定の研修とは、地域生活支援事業による精神障害者の障害特性およびこれに応じた支援技法等に関する研修、またはそれに準じた研修で都道府県知事が認める研修課程を指します。 今改定では、この加算が2区分となり、上乗せとなる新要件を満たした場合に、高単位の区分が算定できることになりました。その新要件とは、以下の内容です。 精神障害者支援体制加算の新区分(Ⅰ)の上乗せ要件重点的な支援を要する精神疾患の患者(前1年以内に以下の機関への通院・利用をしていること)を支援する以下の機関に所属する保健師、看護師、精神保健福祉士と連携する体制が構築されていること1. 診療報酬の療養生活継続支援加算を算定する病院等2. 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則第57条第3項に規定する訪問看護ステーション等(精神科重症患者支援管理連携加算の届出があること) なお、この場合の「連携する体制」 とは、 研修を修了した相談支援専門員病院や訪問看護ステーションの保健師、看護師、または精神保健福祉士 が1年に1回以上面談または会議を行い、精神障害者に対する支援に関して検討を行っていることを指します。 つまり、訪問看護事業者としては、加算対象となる相談支援事業所からの依頼を受けて合同検討会を開催することになります。 横断的な改定ポイントが地域生活移行支援 今回の障害福祉サービスの報酬改定では、横断的なポイントとして、利用者の意向に沿った地域生活移行支援の強化が上げられます。 例えば、地域生活支援拠点等に位置づけられている障害者支援施設において、当事者の地域移行に向けた動機付け支援として、グループホーム見学や食事体験、地域活動への参加などを行った場合の評価が設けられました。これを「地域移行促進加算(動機付け支援を強化した区分はⅡ)」といいます。 また、グループホームから居宅生活への移行を望む当事者に対し、退居から一人暮らしに向けた計画作成と支援を行った場合を評価するという方針で、「自立生活支援加算」も見直されました。 障害者の地域生活移行の際、連携対象に注意 このように、本人の意向に沿って、施設から居住系サービス、さらには居宅への移行が進むと、主に医療保険で対応する訪問看護の利用ケースも増えてくることになります。 もちろん、それまでと生活環境が大きく変わることになるので、当事者が新しい暮らしになじむためには、移行前後での手厚い支援が欠かせません。例えば、グループホームでは、グループホームから居宅生活に移行した人への継続的な支援を評価する加算「退居後共同生活援助サービス費」が新設されました。これは、グループホーム側が退居後の利用者の居宅を週1回以上訪問し、本人の心身の状況や環境、そのほか日常生活全般の把握を行った場合に算定できます。 移行支援では、退居後に利用する障害福祉サービス事業者や医療機関、訪問看護事業者との連絡調整も必要となります。訪問看護事業者としても、こうした「居宅生活への移行支援」に関連して、利用者が以前生活していたグループホームの担当者との連携機会が生じることも頭に入れておきたいものです。 ※本記事は、2024年4月30日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202214_00009.html2024/4/30閲覧

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定
2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定
特集
2024年5月21日
2024年5月21日

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定

2024年度介護報酬改定では、多くのサービスにまたがる義務化措置や加算の見直しが行われています。また、報酬の適正化という観点からの改定も行われました。今回は、そうしたテーマについて取り上げます。 BCPが未策定の場合の減算規定 まずは、2021年度に基準上の規定が設けられ、3年の経過措置をもって完全義務化された業務継続計画(以下、BCP)策定等の取り組みと高齢者虐待防止の推進です。いずれも2024年度からの完全義務化に伴い、未実施の場合の減算規定も設けられました。 1つめのBCP策定に関する完全義務化の内容を整理すると以下のようになります。 1. 感染症および自然災害の発生時を想定したBCPの策定2. 1に従い必要な措置(備蓄品の管理や担当者の使命など)を講ずること3. 従事者に対して、1にかかる研修を実施すること※4. 従事者に対して、1にかかる訓練(シミュレーション)を実施すること※ ※3および4に関しては、訪問看護の場合で年1回以上 上記のうち、1、2が未実施の場合の減算が設けられました。これを「業務継続計画未策定減算」といい、未策定の状況が解消されるまで所定単位数から1%が減算されます(施設・居住系については3%)。感染症および自然災害のBCP、いずれか1つでも未策定の場合で減算適用となるので注意しましょう。ただし、訪問看護を含む訪問系サービスについては、感染症対策の強化に関する義務化から日が浅いため減算規定の適用は2025年3月末まで猶予されます。 なお、減算になる期間は「1、2を満たさない状況が発生した翌月(状況の発生が月の初日であればその月)」からスタートし、「1、2を満たさない状況が解消された月」までです。 高齢者虐待防止措置の未実施も減算 高齢者虐待防止の推進において、2024年度から完全義務化となる項目は以下のとおりです。 1. 虐待の防止のための対策を検討する委員会(オンライン開催可能)を定期的に開催すること2. 1の結果について、従事者に周知徹底を図ること3. 虐待の防止のための指針を整備すること4. 従事者に対し、虐待の防止のための研修を年1回以上実施すること5. 1~4の措置を適切に実施するための担当者を置くこと この1~5のいずれかでも実施されていない状況が生じた場合、速やかに都道府県*1に「改善計画」を提出しなければなりません。その上で、「改善計画」に則った取り組みを行い、「実施されていない状況」が生じて*2から3ヵ月後に、改善状況をやはり都道府県に報告して「改善」が認められることが必要です。 上記の「実施されていない状況が生じた月の翌月」から「最終的に都道府県に改善が認められた月」までの間は、減算が適用されます。これを「高齢者虐待防止措置未実施減算」といい、月あたり所定単位数から1%の減算が行われます。 *1 看護小規模多機能型居宅介護の場合、市町村(指定権者)に改善計画を提出する。 *2 運営指導等で未実施が発見された場合、その発見月の翌月からとなる。 身体的拘束等の適正化が運営基準に 先の高齢者虐待防止の取り組みは、利用者の尊厳確保に関して不可欠なテーマです。同様のテーマから定められた規定がもう1つあります。それが「身体的拘束等の適正化」です。診療報酬改定でも規定されていますが、改めて取り上げましょう。 >>診療報酬改定の「身体的拘束等の適正化」についてはこちら2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化 具体的には、以下の規定が運営基準に設けられました。 1. 利用者または他の利用者等の生命・身体を保護するための「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下、身体的拘束)を行ってはならない。2. 身体的拘束等を行う場合には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況ならびに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。 いずれも施設系、居住系、短期入所系、小規模多機能系ではすでに設けられている規定ですが、2024年度からは訪問系や通所系、居宅介護支援でも定められました。 1の規定にある「緊急やむを得ない場合」とは、 切迫性(利用者等の生命・身体への危険が切迫していること)非代替性(他に方法がないこと)一時性(一時的であること) の3つの要件を満たすことです。各要件の確認については、組織としての手続きを慎重に踏む必要があります。現場の一従事者の判断だけに任せてはいけません。 特別地域加算等の地域の範囲見直し 訪問系、通所系、小規模多機能系など複数のサービスにまたがる加算上の見直しとしては、特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算、中山間地域に居住する者へのサービス提供加算があります。いずれも、訪問時の移動に過剰な時間が費やされがちな地域で、その人件費・燃料費等のコストを考慮した加算です。 具体的な対象地域を示します。 いずれの対象地域にも含まれている「過疎地域」。この場合の「過疎地域」とは、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」の第2条第1項に規定された地域です。一方で、同法では「みなし過疎地域」に関する公示もあり、今改定ではこの「みなし」とされていた地域も含めることになりました。 PT等による訪問にかかる厳しい減算 最後に、利用者ニーズに合わせた訪問看護の適切な提供を図るための改定を取り上げます。具体的には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(以下、PT等)によるサービス提供への評価です。 近年、訪問看護ステーションにおけるPT等の従事者割合が増えており、PT等の訪問による単位数も増加傾向にあります。 こうした状況を受け、リハビリ系サービスとの役割分担の観点から、2021年度改定ではPT等による訪問での基本報酬が引き下げられました。それでも、例えばPT等による訪問回数が看護職員による訪問を上回っているといったケースも指摘されていました。 そこで、2024年度からは、PT等による訪問についての減算も設けられました。減算の対象はPT等による訪問で、要件は以下のとおりです。 1. 事業所における前年度(前年4月から当該年3月まで)のPT等による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えていること2. 1に適合しない場合であっても、前6ヵ月間において、緊急時訪問看護加算、特別管理加算、看護体制強化加算をいずれも算定していないこと【上記を満たす場合】1回につき8単位を所定単位数から減算(なお、1について、2023年度の実績に応じ、2024年度は同年6月1日から2025年3月末までの減算となる) 上記は介護予防訪問看護でも同様です。 なお、2021年度改定では、介護予防訪問看護の適正化の観点からサービス提供が12ヵ月超の場合に5単位の減算が適用されています。このケースについて、上記のPT等による過大訪問の減算が適用されている場合、減算幅は「5単位」⇒「15単位」となります。かなり厳しい減算となる点に注意が必要です。 次回は、トリプル改定のうちの障害福祉サービスの中から、訪問看護に関係のある内容を取り上げます。>>次回の記事はこちら2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など ※本記事は、2024年4月23日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/4/23閲覧○厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230308.pdf 2024/4/23閲覧

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保
2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保
特集
2024年5月14日
2024年5月14日

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保

トリプル改定のうち、今回と次回は訪問看護の介護報酬について取り上げます。介護報酬改定も、診療報酬とおおむね同様のテーマに沿った改定が行われました。さらに、診療報酬側との整合性を取ることで、医療・介護問わず切れ目ない支援がめざされています。 まず注意したいのは、介護報酬改定の施行時期です。介護報酬改定の施行時期は原則2024年4月ですが、訪問看護については診療報酬改定の施行時期との整合性を取るために6月施行となりました。 この点を頭に入れつつ、具体的な改定項目を見ていきましょう。 24時間対応の充実に向けた加算再編 診療報酬側では、利用者ニーズへの即応性や現場の業務負担の軽減という2つのテーマをめぐり、24時間対応体制の充実が図られました。介護報酬側でも、これに対応して「緊急時訪問看護加算」の改定が行われています。 改定前の同加算の区分は1つ。その要件は「利用者やその家族から、電話等で看護に関する意見を求められた場合に、保健師や看護師(以下、看護師等)が常時対応できる体制にあること」でした。今改定では、追加要件を付した新区分Ⅰが設けられ(旧要件のみの区分はⅡ)、単位が上乗せされています。 緊急時訪問看護加算(月あたり) ※「上記以外」とは「病院・診療所の場合」および「一体型定期巡回・随時対応型訪問 介護看護事業所の場合」をいう 追加要件「現場の業務負担の軽減策」とは 新区分Ⅰに追加された要件は、「緊急時訪問における看護業務の負担軽減に資する十分な業務管理等の体制整備が行われていること」です。具体的には以下の6項目で、そのうち2項目以上を満たす必要があります。 緊急時訪問看護加算(Ⅰ)の看護業務の負担軽減に資する取り組み1. 夜間対応した翌日の勤務間隔の確保2. 夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで3. 夜間対応後の暦日(午前0時から24時まで)の休日確保4. 夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫5. ICT・AI・IoT等の活用による業務負担軽減6. 電話等による連絡・相談を担当する者に対する支援体制の確保 なお、上記の6の連絡・相談を担当する者は、以下の条件を満たしている場合には、看護師等以外の職員が担当しても構わないとされました。 ア 看護師等以外の職員が、利用者・家族等からの電話等による連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されていることイ 緊急の訪問看護の必要性の判断を、看護師等が速やかに行える連絡体制および緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていることウ 事業所の管理者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員の勤務体制や勤務状況を明らかにすることエ 看護師等以外の職員は、電話等により連絡・相談を受けた際に、看護師等へ報告すること。報告を受けた看護師等は、当該報告内容等を訪問看護記録書に記録することオ アからエまでについて、利用者・家族等に説明し、同意を得ることカ 事業者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員について届け出ること 新区分Ⅰにかかる追加要件と連絡・相談担当者の範囲拡大は、診療報酬側の「24時間対応体制加算」をめぐる要件や届出基準と同じであることが分かります。 専門性の高い看護師による管理を評価 利用者ニーズの即応性に関しては、在宅での重度療養ニーズへの対応強化が図られました。 まずは新加算「専門管理加算(月250単位)」です。これは専門性の高い看護師による利用者への計画的な管理を評価した加算です。要件は、(1)一定の専門研修を受けた看護師が、(2)厚生労働省(以下、厚労省)の定める利用者に計画的な管理を行った場合に算定されます。この(1)と(2)には2ケースあり、具体的な内容は以下のとおりです。 なお、診療報酬では「機能強化型訪問看護管理療養費1」の施設基準として「専門の研修を受けた看護師の配置」が求められました。ここでも、診療報酬との関連が見られます。 退院時にかかわる評価の見直し 退院時の共同指導における要件見直し 重度療養ニーズを有する利用者へのサービスでは、入院医療機関から退院するタイミング以降のかかわりも大きなポイントです。そのタイミングにかかる2つの評価が見直されました。 1つめは、「退院時共同指導加算(1回600単位)」の見直しです。これは、医療機関からの退院や介護老人保健施設からの退所にあたり、(医療機関の医師やそのほかの従事者と合同での)利用者・家族への共同指導、およびその直後の初回訪問看護について評価する加算です。 この要件について、共同指導の内容を「文書」で提供するという規定がなくなりました。利用者の退院後には本人・家族にさまざまな不安や戸惑いが生じがちです。そうした状況への対応に集中するための効率化が図られました。 退院後の「初回加算」はどうなった? 2つめは、先の「退院時共同指導加算」を算定していない場合に退院後の初回訪問を評価した「初回加算」です。同加算について、「退院・退所の当日の訪問」と「当日以降の訪問」によって2区分に再編されました(併算定はできません)。 初回加算 これも、退院当日から本人や家族は大きな不安・戸惑いに直面しがちであるという点から、当日訪問を手厚く評価したことになります。 在宅療養に不可欠な「口腔衛生管理」 自宅療養を行う利用者に対して、自立支援・重度化防止の取り組みも強化されています。2024年度の介護報酬改定で、重点が置かれている取り組みの1つが「口腔衛生」の管理です。 この取り組みへの推進に向け、訪問看護をはじめとした訪問系サービスのほか、短期入所系サービスにおいて、利用者の口腔衛生の状況確認を評価する加算が設けられました。それが「口腔連携強化加算」です。1回50単位で、月1回に限り算定されます。要件は以下のとおりです。 口腔連携強化加算の算定要件1. 訪問看護師等が、利用者の口腔の健康状態の評価を実施すること2. 利用者の同意を得て、1の評価結果を、歯科医療機関および介護支援専門員に情報提供(※)すること※「口腔連携強化加算に係る口腔の健康状態の評価及び情報提供書情報提供書」は以下のリンク先を参照のことhttps://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12300000%2F001227893.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK3. 1の評価を実施するにあたり、診療報酬の歯科訪問診療料(歯科点数表区分番号C000)の算定実績がある歯科医療機関の歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、訪問看護師等からの相談に対応する体制を確保し、その旨を文書等で取り決めていること 看取り期での医療保険と介護保険の整合性 在宅療養においては、利用者や家族が「退院して在宅での看取りを望む」といったケースも増えています。仮に本人が介護保険の適用対象にもかかわらず要介護認定を受けていない場合、訪問看護は医療保険でのサービス提供となります。 そうしたケースが増えてくると、医療保険と介護保険での訪問看護にかかるしくみの整合性がますます問われます。その点を考慮した介護報酬側の改定が2つ行われました。 「ターミナルケア加算」の単位アップ 1つは、介護報酬側の「ターミナルケア加算」です。これは、死亡日および死亡日14日以内に2日以上訪問した場合に、死亡月につき算定されます(末期がんなど厚労省が定める疾患に限る)。診療報酬上でこれに対応するのが「訪問看護ターミナルケア療養費」ですが、両者で単位数が異なっていました。今回の介護報酬改定では、以下のように揃えることになりました。 ターミナルケア加算 参考:診療報酬の「訪問看護ターミナルケア療養費Ⅰ(在宅で死亡した場合)」は25,000円1点=10円で計算した場合に診療報酬側とそろう 死亡時の遠隔診断にかかる加算も もう1つは、今改定で誕生した「遠隔死亡診断補助加算(1回150単位)」です。利用者が厚労省の定める離島や過疎地域、豪雪地帯などに居住しており、死亡時に医師が訪問できないとき、訪問看護師が情報通信機器を用いて医師の死亡診断を補助した場合に算定されます。算定要件は以下のとおりです。 遠隔死亡診断補助加算の算定要件1. 訪問する看護師が、「情報通信機器を用いた在宅での看取りに係る研修(日本医師会などが実施)」を受けていること2. 利用者が診療報酬上の「死亡診断加算」の対象(計画的・定期的な訪問診療を行っていること)であること3. 正当な理由のために、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる状況であること この加算も、2024年度の診療報酬改定で訪問看護に「遠隔死亡診断補助加算」(1回150単位)が誕生したことに合わせたものです。 次回は、2024年度から完全義務化された業務継続計画(BCP)の策定など、多くのサービスにまたがって適用された運営基準や加算・減算について取り上げます。 >>次回の記事はこちら2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定 ※本記事は、2024年4月16日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○ 厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/4/16閲覧○ 厚生労働省(2024).「介護保険最新情報Vol.1225『「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol1)(令和6年3月15日)」の送付について』」https://www.mhlw.go.jp/content/001227740.pdf2024/4/16閲覧

2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化
2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化
特集
2024年5月7日
2024年5月7日

2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化

診療・介護・障害福祉サービスの各報酬にかかる、個別の改定ポイントを解説。今回は、訪問看護における医療DXにかかる新加算や機能強化型訪問看護ステーションの評価アップ、多様なニーズへの対応、既存加算における各種評価の適正化などを取り上げます。 医療DXへの対応 「訪問看護医療DX情報活用加算」が新設 居宅同意取得型のオンライン資格確認等システムを通じて利用者の診療情報を取得し、その活用によって質の高い訪問看護を提供した場合について、「訪問看護医療DX情報活用加算」が新たに設けられました。月1回に限り50円(5点)が加算されます。 「居宅同意取得型」とは、利用者の自宅でオンラインの資格確認(マイナンバーカードによる本人確認にもとづく資格情報の取得)や薬剤情報の提供に関する同意を、デジタル端末で得ることをいいます。 施設基準は以下の通りです。 施設基準1. 電子情報処理組織の使用による請求(オンライン請求)を行っていること2. 電子資格確認を行う体制を有していること3. 事業所の見やすい場所に、以下の事項を掲示していること ● 医療DX推進の体制に関する事項 ● 上記体制により,質の高い訪問看護を実施するための十分な 情報を取得していること ● 上記の情報を活用して訪問看護を行っていること4. 3の事項について、原則としてウェブサイトに掲載していること なお、4の基準は2025年5月末までの経過措置が設けられています。 オンライン請求に伴う指示書様式の見直し 医療DXに関しては、2024年6月から訪問看護レセプトのオンライン請求が始まります。これを踏まえ、訪問看護指示書(精神科訪問看護指示書含む)の記載事項や様式が見直され、「主たる傷病名」にそれぞれ「傷病名コード」を付すことが原則となりました。 医師の死亡診断に関しICTを使った補助も評価 業務のデジタル化という点では、在宅ターミナルケア加算においてICTを活用した新加算「遠隔死亡診断補助加算(1回150点)」が加わりました。在宅での利用者の看取りに際し、医師が行う死亡診断を、訪問看護師がICTを活用して遠隔で補助した場合の評価です。利用者が離島などに在住し、死亡時に医師の訪問が難しいケースを想定したものです。 対象は、在宅ターミナルケア加算を算定している利用者。その利用者に対し、ICTを用いた在宅での看取りに係る研修を受けた看護師が、医師の指示のもとで死亡診断の補助を行うことが要件です。 機能強化型訪問看護ステーションの評価手厚く 今改定では利用者ニーズへの即応性に関する見直しも行われています。 1つめは、機能強化型訪問看護ステーション(以下、機能強化型)に関する評価です。機能強化型は、24時間の対応体制や手厚いターミナルケアの実績など、重度化する在宅のニーズに応える体制を整えているのが特徴です。今改定では、この機能強化型の訪問看護管理療養費が1~3の各区分ですべて引き上げられました。 機能強化型訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合) 区分1では、「専門研修を受けた看護師の配置」が「望ましい(推奨)」から「必須」に格上げされています。 なお、2024年3月末までに区分1にかかる届出を行っている事業所は、上記の格上げ要件を満たさなくても、2026年5月末までは区分1の基準を満たしているとみなされます。 機能強化型以外も初日の訪問は引き上げ 機能強化型以外の事業所による「訪問看護管理療養費」についても、月の初日の訪問は以下のように引き上げられました。 機能強化型以外の訪問看護管理療養費(月の初日の訪問) また、算定留意事項には以下の内容が加わりましたので、確認しておきましょう。 訪問看護管理療養費の新たな留意事項(一部意訳)災害等が発生した場合でも、訪問看護の提供を中断させないこと。中断しても可能な限り短期間で復旧させ、利用者への訪問看護の提供を継続的に実施できるよう業務継続計画(BCP)を策定し、必要な措置を講じていること。 介護保険では業務継続にかかる取り組みは、2024年度から完全義務化されています。医療保険でもBCP策定や研修・訓練の実施が問われたことになります。 2日目以降の訪問は? 適正化の細かい基準に注意 一方、2日目以降の訪問は、報酬上の評価がニーズへの対応に見合っているかが精査された上で「適正化」が図られました。 単価は2区分に再編され、区分ロ(訪問看護管理療養費2)については引き下げとなりました。 訪問看護管理療養費[月の2日目以降の訪問(1日につき)] 訪問看護管理療養費1の基準は以下の通りです。 【訪問看護管理療養費1の基準】⇒以下の(1)、(2)にともに該当していること(1)同一建物居住者(※1)が7割未満(2)以下のAまたはBのいずれかに該当することA. 特掲診療料の施設基準等別表の7、8(※2)に該当する者への訪問看護について相当な実績を有することB. 精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者のうち、GAF尺度(※3)による判定が40以下の利用者の数が月に5人以上 ※1 同一建物居住者…対象となる利用者と同一の建物に居住する他の者に対して、同一日に指定訪問看護を行う場合※2 特掲診療料の施設基準等別表の7、8は以下のリンクを参照▼厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0※3 GAF尺度…以下のリンク先を参照▼厚生労働省「GAF(機能の全体的評定)尺度」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/dl/s1111-2a.pdf 上記の(1)に該当しない、あるいは(2)のA・Bいずれにも該当しない場合は、訪問看護管理療養費2の算定となります。なお、2024年3月末時点で指定を受けている事業所では、2024年9月末までは、上記の要件を満たしていなくても訪問看護管理療養費1の算定が可能です。 「緊急訪問看護加算」も適正化により減算 サービス提供実態によって「適正化」が図られた評価には「緊急訪問看護加算」もあります。同加算は(1)利用者・家族の求めに応じ、(2)主治医の指示にもとづき、(3)緊急の訪問看護を行った場合に算定されるものです。 ただし、訪問が頻回となった場合、それが「緊急訪問として適切か」が問われました。そこで、日数に応じて「月15日以降」の緊急訪問看護に減算が適用されます。 緊急訪問看護加算 算定要件も新たな規定が加わりました。それは、記録の明確化と算定理由の記載です。 緊急訪問看護加算の新基準(意訳)● 緊急に指定訪問看護を実施した場合は、その日時、内容及び対応状況を訪問看護記録書に記録すること● 緊急訪問看護加算を算定する場合には、同加算を算定する「理由」を、訪問看護療養費明細書に記載すること 医療ニーズが高い利用者の退院支援 ニーズへの即応性に関し、さらに注目したいのが次の2つです。(1)医療ニーズの高い利用者の退院支援(2)母子への適切な訪問看護の推進 医療ニーズの高い利用者の退院支援 具体策は、「退院支援指導加算」の要件見直しです。同加算は、利用者の退院にあたり、訪問看護師が退院日に「在宅での療養上必要な指導」を行った場合に算定されます。 変更点は「長時間の訪問を要する者への指導」に関する要件です。改定前は、「1回の退院支援指導が90分超」のみ算定できましたが、ここに「複数回の退院支援指導の合計が90分超」も算定可能となりました。この見直しは、利用者の状態によって長時間指導が難しい(頻回訪問による指導が望ましい)ケースがあるという実態に沿ったものです。 母子への適切な訪問看護の推進 母子への適切な訪問看護の推進には乳幼児の状態に応じた対応への評価と、ハイリスク妊産婦に対する支援の充実が示されています。 前者は、訪問看護基本療養費の「乳幼児加算」の見直しです。同加算は、6歳未満の乳幼児に訪問看護を行った場合に算定されますが、ここに対象者が超重症児や準超重症児などの場合の単価を引き上げた評価が新設されました。 一方で、従来区分については単価を引き下げ、訪問看護での対応ケースの重点化も図られています。 乳幼児加算の見直し ※(2)の別表第七、(3)の別表第八に関しては以下を参照▼厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0 後者の具体策は「ハイリスク妊産婦連携指導料」の要件追加です。同加算は、精神疾患を合併したハイリスク妊産婦への支援に向け、診療方針にかかる多職種カンファレンスを2ヵ月に1回開催した場合に算定されます。適用されるのは産科・産婦人科医院ですが、この多職種連携の対象に、患者を担当する訪問看護ステーションの看護師、保健師、助産師が加わりました。 利用者の尊厳保持にかかる2つの基準見直し 最後に、「利用者の尊厳保持」という観点からの訪問看護の運営基準上での見直しに注目します。 具体的には、(1)虐待防止措置、(2)身体的拘束の適正化の推進が定められました。(1)は、訪問看護の運営規程の中に「虐待の防止のための措置に関する事項」を盛り込むことが義務づけられ、(2)については具体的取扱い方針に以下の2つが盛り込まれました。 指定訪問看護の具体的取扱い方針の第15条より(要約)● 指定訪問看護の提供に当たっては、利用者または他の利用者等の生命・身体を保護するため「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」)を行ってはならない● 前号の身体的拘束等を行う場合には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況、「緊急やむを得ない理由」を記録しなければならない 上記の「緊急やむを得ない場合」とは、切迫性、非代替性(他に方法がないこと)、一時性の3つの要件を満たすことです。また、その要件の確認については、組織としての手続きを慎重に行う必要があります。個人の判断に任せてはいけないということに注意しましょう。 次回は、介護報酬上の改定点について取り上げます。>>次回記事はこちら2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保 ※本記事は、2024年4月9日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 医療DXの推進」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001219984.pdf2024/4/9閲覧○厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf 2024/4/9閲覧

2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善
2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善
特集
2024年4月16日
2024年4月16日

2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善

今回から、診療・介護・障害福祉サービスの各報酬にかかる、個別の改定ポイントを取り上げます。前回の「全体像 ポイント解説」でも述べた課題への対応に向け、訪問看護ではどのような改定が行われたのでしょうか。まずは診療報酬での改定から取り上げます。 >>トリプル改定 全体像 ポイント解説についてはこちら 2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)の全体像 解説 医療・介護・障害福祉の各分野が直面する(1)高齢化に伴うニーズの多様化、(2)賃金水準向上と人手不足、(3)現場業務の効率化を図るためのDXという3つの課題。この課題に総合的に対応したのが、訪問看護管理療養費における「24時間対応体制加算」の見直しです。同加算を再編して評価を手厚くし、さらに「看護業務の負担軽減の取組」を評価した高単位の区分を設けました。 「24時間対応体制加算」は報酬を引き上げ2区分に 本改定では、24時間対応体制への評価は以下のように2区分に見直されました。 イは「24時間対応体制における看護業務の負担軽減の取組を行っている場合」、ロは「それ以外の場合」です。イの業務負担軽減の取り組みは以下の6項目です。そのうち、a・bのいずれかを含む2項目以上を満たしている必要があります。 看護業務の負担軽減の取り組み(届出基準通知)a.夜間対応した翌日の勤務間隔が確保されているb.夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)までc.夜間対応後の暦日の休日が確保されているd.夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫がなされているe.ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減がなされているf.電話等による連絡・相談を担当する者への支援体制が確保されている 連絡・相談対応のための担当者配置に特例 24時間対応では、利用者・家族からの相談対応や連絡の体制確保に向けた担当者の配置が必要です。ここでも、事業所の保健師や看護師(以下、看護師等)の「業務負担の軽減」から、サービス提供体制が確保されていれば、看護師等以外の職員を担当としても差し支えない特例が設けられました。 ただし、以下の6つの条件をすべて満たすことが必要です。 ●看護師等以外の担当者が利用者・家族からの連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されていること●緊急の訪問看護の必要性の判断を、保健師や看護師が速やかに行える連絡体制および緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていること●事業所の管理者は、看護師等以外の担当者の勤務体制および勤務状況を明らかにすること●看護師等以外の担当者は、電話等により連絡・相談を受けた際に保健師や看護師へ報告すること。報告を受けた保健師や看護師は、その報告内容等を訪問看護記録書に記録すること●上記4項目について、利用者・家族に説明し、同意を得ること●事業者は、看護師等以外の担当者に関して地方厚生(支)局長に届け出ること(様式あり) 訪問看護の処遇改善に「訪問看護ベースアップ評価料」 24時間対応体制などを機能させる上で、先のような「特例」もさることながら、やはり保健師・看護師の確保が欠かせません。そのためには処遇改善が何より重要です。 訪問看護の処遇改善において、カギとなるのは毎月決まって支払われる賃金を引き上げること、つまりベースアップです。これについては改定前から「看護職員処遇改善評価料」が設けられていましたが、訪問看護の職員は対象とはなっていませんでした。 そこで、訪問看護職員にも手厚いベースアップが図れるような加算「訪問看護ベースアップ評価料」が設けられたのです。 ベースとなる加算Ⅰに上乗せとなる加算Ⅱ 訪問看護ベースアップ評価料は、2段階で構成されます。基本はⅠで、給与総額の1.2%増が目指されます。ただし、小規模ゆえにⅠだけでは1.2%増が達成できない場合に、Ⅱが上乗せされます。 処遇改善の対象は、訪問看護に従事する職員(リハビリ職や看護補助者含む)で、事務作業専属の職員は含まれません。ただし、看護補助者が訪問看護に従事する職員の補助として事務作業を行うケースは対象となります。また、訪問看護に従事する職員の賃金が2023年度との比較で一定以上引き上げられた場合には、事務作業専属の職員の賃金改善にあてることができます。 職員の賃金改善にかかる計画作成などが要件 Ⅰ・Ⅱに共通する算定要件は以下のとおりです。 算定要件(Ⅰ・Ⅱともに共通の要件を抜粋)1.2024年度・2025年度の職員の賃金改善にかかる計画を作成していること2.2024年度・2025年度に、対象職員の賃金(役員報酬を除く)の改善(定期昇給を除く)を実施すること。ただし、2024年度分を翌年の賃金改善のために繰越す場合は、この限りではない3.2については、基本給または毎月決まって支払われる手当の引上げにより改善を図ることを原則とすること4.1の計画にもとづく賃金の改善状況を、定期的に地方厚生局長に報告すること Ⅱについては、Ⅰにおいて算定される金額の見込み額が、対象者の給与総額の1.2%未満であることが必要です。介護保険での訪問看護も行っている場合は、対象者の給与総額について「医療保険の利用者の割合」を乗じた上で計算しなければなりません。 区分Ⅱはさらに18区分に細分化 具体的な金額は、以下のようになります。 Ⅱは1~18、つまり18区分あります。これは算定回数の見込みから、以下の計算式で導き出した数字により区分されます。 ※「対象職員の給与総額」は、直近12ヵ月での1月あたりの平均数値※加算Ⅱの算定回数の見込みは、訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合)の算定回数を用いて計算する。直近3ヵ月での1月あたりの平均の数値を用いる 上記で導き出した「X」について、適用例は以下のようになります。 ここまでの計算が手間という場合は、厚生労働省が「訪問看護ベースアップ評価料計算支援ツール」を示しているので活用してください。 ▼ベースアップ評価料計算支援ツール(訪問看護) https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12400000%2F001219494.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK 人員不足の時代に向けた管理者「兼務」の緩和 処遇改善が進んでも、労働力人口そのものの減少下では、人員確保のハードルは上がり続けます。特に複数の事業所を設ける法人では、それぞれに管理者を配置することが難しくなることもあります。 そこで、訪問看護の管理者要件が一部緩和されました。管理者は「専従・常勤」であることが原則ですが、訪問看護ステーションの管理業務に支障がない場合に、同じ敷地や隣接の敷地内に限らず、ほかの事業所・施設の管理者や従事者を兼務できるようになりました。 なお、改定後の緩和条件として「管理業務に支障がない状態」が明確化されています。それは、ほかの事業所・施設で兼務する時間帯でも、 管理者を務める事業所において利用者へのサービス提供の場面等で生じる事象を適時適切に把握できること職員・業務への「一元的な管理および指揮命令」に支障が生じないこと です。 次回は、医療DXに関する見直しなどを取り上げます。>>次回の記事はこちら2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化 ※本記事は、2024年4月3日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001224801.pdf2024/4/3閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf 2024/4/3閲覧

2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)ポイント解説
2024年度トリプル改定(診療・介護・障害福祉報酬改定)ポイント解説
特集
2024年4月9日
2024年4月9日

2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)の全体像 解説

2024年度のトリプル改定に向け、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬の3分野の具体的項目が出揃いました。今回から、訪問看護が特に押さえておきたい3分野の改定内容を解説します。改定項目も多い中、まずは全体像を把握し、頭の中を整理しましょう。 医療・介護・障害福祉の各分野は、さまざまな課題に直面しています。その課題は大きくは3つに分けられます。 課題1 高齢化に伴うニーズの多様化 1つめは、高齢化に伴う中長期的な課題です。いわゆる団塊世代が全員75歳以上を迎える2025年が間近に迫り、医療・介護の複合ニーズも急速に高まります。この傾向は、2025年以降さらに顕著になるでしょう。障害福祉の分野も、障害当事者の高齢化でやはり医療・介護の複合ニーズが高まります。 そうした中では、医療・介護・障害福祉の切れ目のない連携とともに、例えば訪問看護では、容態急変時等の緊急対応や在宅での看取りなど、多様な場面での備えを強化しなければなりません。 課題2 賃金水準向上と人手不足 2つめは、「課題1」に対応するためにも解決しなければならない直近の課題。具体的には、近年の急速な物価高騰を受け、全産業での賃金水準も上がっていることです。 こうした状況下では、医療・介護・障害福祉分野も手をこまねいてはいられません。物価高騰によって事業運営が厳しくなれば、そこで働く看護師をはじめとした従事者の賃金も上がりにくくなります。そうなれば、他産業との競合で従事者不足が加速する恐れもあります。 これを解決するには、3分野における現場の支え手の処遇改善とともに、働きやすい職場環境の構築が必要です。 課題3 現場業務の効率化を図るためのDX 3つめの課題は、事業運営や職場環境の改善を視野に入れた場合に不可欠な業務の効率化です。この場合の業務効率化とは、現場従事者の業務負担を減らしつつ、患者・利用者へのサービスの質の維持・向上を実現することを指します。 この業務効率化に向けて求められているのが、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)、いわゆるデジタル改革です。例えば、デジタル化された医療・介護情報の利活用やICTを使った多職種連携などが挙げられます。これらは、「課題1」「課題2」を同時に解決していくカギとなります。 3つの課題はそれぞれに関連しあっている 多様なニーズへの対応強化を図りつつ、事業運営や従事者の処遇改善を進める。そのために「業務効率化」を検討していく。という具合に、3つの課題への対処を同時に進めていくことが、2024年度トリプル改定全般を通じた主要テーマです。 1つの加算内でも「3つの課題」への対応が 訪問看護を例に挙げましょう。訪問看護では、利用者ニーズに応じた24時間対応体制の確保が大きな課題です。これを診療報酬上で評価したものに「24時間対応体制加算」があります。 この加算について今改定で単位数が引き上げられました。これにより、課題1への対処を強化しています。と同時に、24時間対応にかかる看護師の業務負担の軽減への対策を講じた場合に、さらに単位の引き上げを実施。これで、課題2にも対処したことになります。 加えて、その業務負担軽減策では、ICT、AI、IoT等の活用も要件に定められました。これは3つめの課題への対処にあたります。1つの加算の見直しでも、3つの課題への同時対処を目指したことが分かります。 課題対応に向け、報酬はどこまで引き上げられた? 3つの課題解決を同時に進めていくには、当然ながらその原資を確保するために、一定の報酬引き上げが必要です。今改定では、3分野ともにプラスの改定率となりました(薬価を除く)。 まず、診療報酬の改定率は+0.88%。この中には、看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種(勤務医や勤務歯科医師などを除く)について、2024・2025年度に賃金のベースアップを図るための特例的な対応としての+0.61%も含まれます。 介護報酬の改定率は+1.59%と、診療報酬を上回りました。このうち、介護職員の処遇改善分は+0.98%で、これは6月に施行される新処遇改善加算の加算率の引き上げ分です。 さらに、障害福祉サービスの報酬改定率は+1.12%。こちらの改定率アップも診療報酬を上回っています。 プラス改定が患者・利用者にもたらす影響 このように、3分野ともプラス改定となったことで、事業運営には一定の追い風となります。しかも現場従事者の処遇改善に特に力を入れたことで、人員不足への対処も図られています。 一方、プラス改定となることで、国民の社会保険料や患者・利用者の一時負担も増加する懸念があります。その負担増の納得を得るには、設定された報酬がニーズへの対応やその手間に見合っているかを精査し、「適正化」を図る必要があります。 ニーズ対応やその手間を精査した適正化も 例えば、訪問看護では「緊急時のニーズ対応」について、診療報酬で「緊急訪問看護加算」が算定されます。これが頻回となる場合、本当に緊急時の訪問なのかが問われます。そこで、月あたり15日目以降の単位が引き下げとなりました。 また、診療報酬上の訪問看護療養費について、同一建物居住者の割合に応じて単位を引き下げた区分が設けられました。これは、同じ算定対象でかかる手間に応じた適正化を図ったわけです。 こうした大きな改定の括りを頭に入れることで、今改定で国が何を求めているかを理解しやすくなります。その上で、次回から3分野にわたる改定項目を個別に見ていくことにしましょう。 >>次回の記事はこちら2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善 ※本記事は、2024年3月26日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001180683.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「個別改定項目について」https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220377.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/3/26閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001213182.pdf2024/3/26閲覧

交通事故【訪問看護 緊急時の対応法】
交通事故【訪問看護 緊急時の対応法】
特集
2024年4月2日
2024年4月2日

訪問看護の移動中に交通事故が発生したら【緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは訪問看護の移動中に交通事故が発生した場合の対応法です。 交通事故は事業所運営のリスクの1つ 訪問看護業務は利用者さんのご自宅に訪問して看護を提供します。そのための移動手段として一般的には普通自動車や自転車、普通自動二輪車を使用することが多いでしょう。移動を頻繁に行う訪問看護において、交通事故は平常時から安全管理体制を整えておくべき問題です。 交通事故は被害者になることもあれば加害者になることもあり、どちらにおいても事業所の運営におけるリスクの1つといえます。今回は自動車運転中に交通事故の加害者になった場合、被害者になった場合についてそれぞれの対応法を解説します。 加害者になったらどう対応? 移動中に交通事故を起こしてしまったら、負傷者の救護、道路上の危険防止措置、警察への連絡を行います。警察への連絡は対物であっても対人であっても必要です。これらは事故発生時に加害者が行うべき措置として法律で定められた義務です。 【参考】道路交通法第72条第1項交通事故があったときは、(中略)直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。(中略)この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、(中略)警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。 負傷者を救護する ただちに運転を停止し、死傷者の有無や負傷の程度、物損の有無、損壊の程度などを確認します。負傷者がいるなら負傷者の救護が最優先です。負傷者の状態に応じて、近くの医療機関に受診してもらうか、救急車を要請します。救急車が到着するまでの間、可能な限りの応急処置を実施します。 もし、負傷者が「受診するほどではない」と話しても、後遺症がその後発生した場合のことも考え受診してもらうようにします。 道路上の危険を取り除く 事故車両をそのままにせず、ほかの通行車両や歩行者に二次被害が生じないよう安全な場所へ移動させます。停止表示板(三角表示板)を設置する、発煙筒を使用するなど道路上における危険防止の措置を講じます。 警察に連絡する 負傷者の救護と道路上の安全を確保したら、警察に連絡をします。どんなに小さな事故であっても連絡し、事故に係る状況(場所や負傷の程度、損壊の程度など)について説明します。なお、自動車保険を利用する場合、「交通事故証明書」が必要です。交通事故証明書は警察への届出がないと発行してもらえません。この点からも警察への連絡は必須です。 事業所への報告と状況の確認も行う ほかにも大切な手順があります。負傷者だけでなく自分も受傷していないか確認し、その結果と現在の状況を事業所に報告します。事故処理には相応の時間がかかりますので、次の訪問があれば、訪問時間に間に合わないため事業所に対応を依頼します。 事故対応で判断に迷うときは、事業所に連絡し管理者に相談してください。また、決してその場で示談にはしないのも重要な注意点です。相手には氏名、住所、連絡先、保険会社などの情報を確認しておきます。相手の負傷状況が軽度か重度かにかかわらず、誠意をもって対応してください。 事故の大小に限らず、事故を起こしてしまった事実により、それなりに動揺してしまうと思います。車両の破損がなく、運転して事業所に戻るのであれば十分に注意して移動します。 移動手段が自転車や普通自動二輪車であっても事故が起こったときの対応は同様です。 さまざまな事態に備える ここまでで示した対応は一般的な例に過ぎず、交通事故の状況はさまざまです。 例えば、加害者であっても自分で連絡の対応ができない状況も起こり得ます。自分に意識があれば「事業所に連絡して状況を伝えてください」と依頼できますが、それさえもできないケースが考えられます。そのような場合に備え、私の訪問看護ステーションでは、訪問バッグの中や車内の見やすい位置に訪問看護師であること、事業所名、氏名、連絡先を記入したカードを準備しています(図1)。 また、相手に負傷状況を確認しようとしても「大丈夫です」と答え、連絡先を聞いても何も言わずに急いで立ち去ってしまうケースがあります。このようなときでも、警察には一つの事故として必ず届出をしておきましょう。警察に連絡しないで現場を離れてしまうと、後になって救護義務違反として罰則を受ける可能性もあるため、安易な判断は禁物です。 図1 連絡先カード 事故の当事者が連絡対応できない場合に備え、このような連絡先カードを作成し、訪問バッグの中や車内の見やすい位置に準備している。 被害者になったらどう対応? 交通事故の被害者になったときは、加害者になったときと同様に必ず警察に連絡します。また、加害者の氏名、住所、連絡先の確認と医師の診察を必ず受けるようにします。 事故が生じた直後、「利用者宅への訪問に遅れてしまう」という気持ちの焦りが生じます。自分の身体には外傷もないから大したことがないと判断し、利用者さんに迷惑をかけないようにと訪問を優先してしまうかもしれません。 しかし、そのときは問題がないように感じても、数日後に痛みやしびれなどの症状が出る可能性もあります。交通事故では自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)をよく使いますが、業務中であれば労災保険を使うこともあります。保険の問題も関係しますので、利用者さんに迷惑をかけたくない気持ちは理解できますが、そのときの感情だけで行動しないようにしましょう。 事業所として取り組みたいリスク管理 交通事故は誰にでも起こり得ます。訪問看護における移動中の交通事故に関しては、事業所として次に示すようなリスク管理をしておきます。 運転者の心構えをチェックリストにする事故に遭遇したときの連絡体制を定めておく交通事故発生時の対応方法をマニュアル化しておく定期的に事業所内で移動中の事故対応に関する研修会を開催する安全なルートの共有や訪問間隔の確保など、スタッフが安心して移動できるようにサポートする移動中に故障しないように定期的に業務用車両の管理を行う事故に備えて自動車保険に加入する こうした取り組みを行い、実際に事故に遭遇しても焦らず対応できるようにしておきます。事業所は交通事故を未然に防ぐ対策と事故が起きたときの対策を講じなければなりません。 * * * 訪問看護師が加害者となった場合、当事者だけで対応させるのではなく、事業所の管理者ができるだけ早く相手に連絡をします。誠意をもって謝罪にうかがうなど、速やかな対応が必要です。また、事故に遭遇した訪問看護師は落ち込んでいることが予測されます。管理者は訪問看護師のフォローにも配慮してください。事業所として、訪問看護師が安全に移動でき、訪問看護を提供できる環境を作っていきたいものです。 >>関連記事 第7回 防災対策、交通事故、個人情報保護、医療事故編/[その2]スタッフが交通事故を起こしたら? これだけ押さえて冷静に対応! 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら