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【セミナーレポート】訪問看護ステーションの採用から定着戦略 ~いい人材を集め、強い組織にするためには~

2022年2月18日、NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「訪問看護ステーションの採用から定着戦略」を開催しました。講師にお迎えしたのは、桜新町アーバンクリニックチームの事務長で、主に医療機関に向けてコンサルティングを行う株式会社メディヴァのシニアマネージャーでもある村上 典由さん。看護師の採用と定着で成果を収める村上さんに、心構えや実践的なノウハウを伺いました。 【講師】村上 典由さん桜新町アーバンクリニックチーム 事務長、株式会社メディヴァ シニアマネージャー、国際医療福祉大学 非常勤講師。経歴:広告代理店や飲食店事業会社 副社長を経て、株式会社メディヴァ入社。桜新町アーバンクリニックチームでは事務長を務め、看護師採用や育成に取り組む。著書に「在宅医療 経営・実践テキスト」(日経ヘルスケア)など。 目次▶ 今、看護師の離職率は▶ これからは病棟で働く看護師へのアプローチも重要▶ 積極的に採用すべき「いい人材」とは?▶ 「いい人材」を集めるために今日からできること▶ 従来の選考を見直し、応募者をより正確に知ることが採用成功のカギ▶ 強い組織にするために、思考の軸を見直しEVPを増やそう ▶ 今、看護師の離職率は 公益社団法人日本看護協会が行った「2019 年 病院看護実態調査」によると、『病棟勤務の正規雇用看護師の平均離職率』は「11.5%」。まずこれを基準に、ご自身の組織が今どんな状態か判断するといいと思います。スタッフの離職は、経営に大きな打撃を与えます。紹介会社を利用した場合、看護師ひとりにかかる平均コストは約92万円。これに教育への投資なども含めれば、一人が辞めることの損失はとても大きい金額になります。加えて、組織の雰囲気の悪化など、金額換算できないダメージも看過できません。 ▶ これからは病棟で働く看護師へのアプローチも重要 日本は国策として、今後さらなる病床の削減と在宅医療の推進を目指しています。これに伴い訪問看護師の数を増やす必要があり、2025年には東京や大阪を中心とした都市部で、その数が大きく不足することが見込まれています。国が掲げる目標を実現できるか否かは、「受け皿が整うかどうか」にかかっていると言えるでしょう。一事業所が病院勤務の看護師をどれだけ訪問看護に呼べるかで、地域包括ケアの未来が左右されると考えています。 ▶ 積極的に採用すべき「いい人材」とは? そもそも、積極的に採用すべき「いい人材」や「適切な人材」とはどんな人でしょうか。私は「スキルが高い即戦力になる人」ではなく、「主体性や創造性、情熱がある人」と考えています。人の能力には、変化しやすいものとそうでないものがあります。例えば、知識やコミュニケーション力は、教育で変えられるもの。一方、情熱や粘り強さなどは変化しにくいとされています。面接ではスキルや経歴、コミュニケーション力を見がちですが、それらは最も重視すべき点ではありません。加えて、組織のカルチャーにマッチするかどうかも確認したい点。スキルが高くても、カルチャーに合わないと定着しないリスクが高くなります。そうしてチームに溶け込める「主体性や創造性、情熱がある人」が集まれば、自ずと組織がいい方向に変化していきます。 ▶ 「いい人材」を集めるために今日からできること 事業成功の肝は、「いい人材」を採用し、定着させること。その第一歩が、広く応募者を募ることです。具体的な方法としては、紹介会社や有料求人媒体など、「Push型」の広告を採用しましょう。自社の採用サイトに求人情報を掲載するだけ「Pull型」では、現状採用に悩んでいる訪問看護ステーションはまずうまくいきません。そして、併せて取り組みたいのが、採用パンフレットの作成。これをつくると、組織の特徴や強みを明確にでき、求職者にきちんと情報を届けられるようになります。そのほかの求人媒体でのアピールも容易になるでしょう。 ▶ 従来の選考を見直し、応募者をより正確に知ることが採用成功のカギ 人材を選ぶ際には、面接だけでなく、看護の現場で応募者のスキルを確認しましょう。同行見学してもらったり、カンファレンスに参加してもらって意見や感想を聞いたりすれば、面接では得られない情報を引き出せます。事務スタッフの採用も、簡単な文書作成や給与計算に取り組んでもらうのがおすすめです。 また、面接は応募者の適性やスキルなどをより正確に評価できる「構造化面接」を実践してみてください。構造化面接とは、評価基準を明確にしたうえで、決められた質問に沿って事実を確認していく面接です。面接官の主観が影響しにくく、より客観的な情報を得られます。当事業所では、今退職を考えている理由、応募の決め手などの情報をくまなく拾います。そこから、組織のなかでどんな役割を担うことが多いか、自分が入職することで当事業所にどんな影響があるかなど、深掘りする質問をしています。 なお、面接は「応募者から選んでもらうための場」「応募者を口説く場」でもあることも忘れてはいけません。採りたい人材の面接にはエース級の人材を同席させる、「あなたに来てほしい」ときちんと伝えるなどの工夫をしましょう。 ▶ 強い組織にするために、思考の軸を見直しEVPを増やそう いい人材が集まる組織であるには、リーダーの素質が問われます。ポイントは、思考の軸を「なにをするか(what)」ではなく「なんのためにするか(why)」に据えることです。例えば、「病や障害がある人も生きやすい社会にするため、よりよい在宅医療の実現を目指す。それにはまず、スタッフがイキイキと働き、学べる職場をつくりたい」と考える、といった具合。リーダーには、思考でも人への発信でも、目的からスタートすることが求められます。 また、「この事業所で働きたい」「この事業所でないとだめ」と感じてもらえる要素(EVP:従業員への価値の提案)をできるだけ多くつくることを目指しましょう。例えば当事業所には、クリニックを併設していたり、非営利の地域活動をしていたりといったEVPがあります。「自分たちには特長がない」という方もいるかもしれませんが、在籍するスタッフの質や職場の雰囲気のよさ、勤務時間の自由度も、重要なEVPのひとつです。優秀な人材にとってレベルの高い環境で働くことは満足感につながります。ぜひ組織の改善に取り組み、人が集まり、定着する組織を目指してください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】精神訪問看護 みんなが楽になるコツ

2022年1月21日に実施されたNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「精神訪問看護 みんなが楽になるコツ」。訪問看護ステーションの統括所長である精神科認定看護師の小瀬古伸幸さんを講師にお迎えし、精神科訪問看護とはなにか、現場では具体的にどんなサポートが求められているかなどを教えていただきました。地域の精神病看護における実践的なノウハウがつまった貴重なセミナーの一部をご紹介します。 【講師】小瀬古 伸幸さん訪問看護ステーションみのり 統括所長、精神科認定看護師、WRAPファシリテーター、Family Work Practitioner経歴:精神科単科病院勤務後、2014年に訪問看護ステーションみのりに入職。2016年には同組織の奈良事業所を開設し、所長に就任。2019年より現職。精神病の利用者さんに対する訪問看護の実践はもちろん、近年はその家族の支援にも注力する。著書に「精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本」(医学書院)がある。 【目次】▶ 精神科訪問看護で起こりがちな失敗と基本的な考え方▶ 常に利用者さんの真意を探りながら自己決定をサポートする▶「精神科訪問看護の基本の型」を理解し、フェーズに合った支援を▶ 対話時の「自分の位置」を意識し、利用者さんの言葉を引き出す▶ 精神科訪問看護ではなによりもまず利用者さんの気持ちに寄り添って▶ Q&Aセッション・幻想や妄想について聞いても良いものでしょうか? ▶ 精神科訪問看護で起こりがちな失敗と基本的な考え方 精神科訪問看護では、利用者さんが「自分らしく生きる」ための方法を本人と一緒に考え、自己決定をサポートします。私が所属する訪問看護ステーションでは、「精神症状と付き合いながら、生活を組み立てていくサポートをしている」と説明しています。重要なポイントは、こちらの考えを押しつけるのではなく、利用者さんの自己決定を支援するという点です。精神科訪問看護に携わりはじめたのころの私は、これができていませんでした。無意識のうちに利用者さんを説得しようとしたり、不安を煽ってしまったりしていたんです。例えば「薬を飲まないと症状が再燃して入院になりますよ。だから薬を飲むべきだと思いますが、どう思いますか?」といった具合です。結果的に、たくさんの利用者さんから拒否されてしまい、「脅しや尋問を受けている感覚になる」という言葉をいただくこともありました。私としては、「どう思いますか?」と意見を聞いているので、なぜ拒否されるのかわからなかったのですが……。このままではいけないとコミュニケーションの術を学び、改めて自身の発言を振り返ることで、私の対応は、利用者さんにとって脅威になっていると気づいたんです。現在では「利用者さんが自分らしい生き方を叶えるサポートをする」のが精神科訪問看護だと考えています。 ▶ 常に利用者さんの真意を探りながら自己決定をサポートする 先にお話ししたとおり、精神科看護の大前提は自己決定を支援することです。では、自己決定とはなにか。さまざまな事象について主体性をもって自ら選択、決定し、その後も自身の判断に関与していくことをいいます。そして看護師には、決定後の関与の部分までサポートすることが求められます。例えば、アルコール依存症の方がお酒を断つと決めたとしましょう。しかし、スリップを繰り返す様子を見ると、私たちはつい「この人は嘘つきだ、意志が弱い」といったレッテルを貼ってしまいがち。しかし、スリップの背景には必ず理由があるものです。「どんな気持ちだったか」「どんな経緯があったか」「その判断、選択の理由はなにか」といった問いかけをし、その理由、ひいては『その人らしさ』を知ることが必要になります。 ▶「精神科訪問看護の基本の型」を理解し、フェーズに合った支援を では、自己決定の支援だけをすればいいのかというと、もちろん違います。そこは大前提として、精神科訪問看護の軸は、「早期警告サイン(症状が再燃していく兆候)を同定し、対処法を一緒に考えること」にあります。そのためには、「精神科訪問看護の基本の型」を理解したうえでサポートしていくのがいいでしょう。まず、症状の度合いを「普段の生活」「調子の変化」「生活の支障」「破綻の危機」の4段階に分けて考えます。各段階は以下のような状態を指します。 ・普段の生活「いい感じだ」と思える状態。一般的にイメージされる健康的な生活ではなく、本人が充実していると感じられる生活を送っている状態。・調子の変化「いい感じの自分ではない」と感じるタイミングが少しずつ増えている状態。・生活の支障症状が明確に現れはじめ、就業できなくなるなど、日常生活がままならなくなる状態。・破綻の危機症状が活発になり、入院も視野に入れなければならない状態。 例えば、音楽が好きな利用者さんが、曲を聴かなくなったとします。その理由が「疲れているからあえて聴かなかった」のであれば、対処しているとして経過を観察してもいいかもしれません。しかし「自分でも理由はわからないけれど、なぜか聴いていなかった」なら、調子の変化のフェーズに入っている可能性があるため、対処法を検討すべきでしょう。また、破綻の危機のフェーズまで進んでしまった場合は、薬の投与や入院など打てる手は限られます。なお、訪問看護の現場では、生活の支障と破綻の危機の間の段階で対応するケースが多くなっているのが現状です。もっと前の段階で対処し、普段の生活に戻していくことが求められています。 ▶ 対話時の「自分の位置」を意識し、利用者さんの言葉を引き出す 病気の改善に向け、利用者さんと対話していくなかでは、まず本人の欲求をヒアリングしてみましょう。利用者さんはどんな状態になりたいのか、今なにが不足しているかを聞き、その答えから目指すべきゴールを明確にします。そして、確実にゴールに近づけるようにサポートしていくのです。 このときに気をつけたいのが、対話をする際の「自分の位置」。人と人とが対話を始める際、多くの場合社交辞令から入ります。そこは問題ありませんが、多くの支援者が失敗してしまうのは、社交辞令のあとの流れです。「支援者本位」の話をしてしまい、利用者さんが心を閉ざすという流れはよく耳にします。大事なのは、上の図の「ここから開始」の部分。社交辞令のあとは「相手が話したいこと」に移行することです。その対話のなかで肯定的な反応を引き出せるようになれば、自然と支援者が聞きたいことも話してくれるようになります。対話のなかで、利用者さんから「でも」や「だって」などといった否定的なニュアンスの言葉が聞かれるようになったら、要注意。支援者本位になっている可能性大です。 ▶ 精神科訪問看護ではなによりもまず利用者さんの気持ちに寄り添って 幻聴や妄想といった症状は、対話だけで解消するのは難しいでしょう。私は、精神科訪問看護でまず目指すべきは、利用者さんの気持ちに寄り添うことだと考えます。幻聴や妄想の根底には、怒りや不安などの感情があるもの。そうした感情が脳のフィルターをとおり、症状として現れるのです。そんなつらさ、先の見えない不安な気持ちに寄り添うことが、私たちには求められます。利用者さんから症状についての説明を聞いて、まずは「それはつらいですね」と共感の声をかける。そうやって寄り添うことで、薬物療法も功を奏すものです。 ▶ Q&Aセッション ・幻想や妄想について聞いても良いものでしょうか? ぜひ聞いてください。利用者さんのなかには、周りの人に症状について話しても信じてもらえなかったり、うんざりされたりといった経験をしている方が少なくありません。そんな経験をするうちにだんだんと話さなくなり、ひとりで抱え込み、症状が悪化、または固定化していってしまいます。私の経験を振り返っても、関係性ができてきたころに「こんなふうに話を聞いてもらったのは初めて」とおっしゃる方はとても多いです。じっくり話を聞き、寄り添ってあげてください。 ●小瀬古さんからのお知らせ●日々の忙しさのなか、隙間時間を利用して、いつでもどこでも、短時間で精神科訪問看護について学べるようにYouTube「TOKINOチャンネル」を開設しました。お見逃しのないよう、ぜひ、チャンネル登録をよろしくお願いします!https://www.youtube.com/channel/UC93OMptXvoslF0VYPcdoMrQ 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】看取りの作法~事例検討と質疑応答編~

2021年12月17日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーを行いました。講師に田中公孝先生をお迎えした今回のテーマは、2021年11月開催セミナーから引き続き「看取りの作法」。リアルな看取りの実例を通し『医療者が看取りに向き合う』ときに意識したい点について、田中先生のご経験をふまえながらお話いただきました。今日の訪問看護からすぐに取り入れられるエッセンスをピックアップしてお届けします。 2021年11月12(金)開催「看取りの作法」セミナーレポートはこちら≫ 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】▶ 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方▶ 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る▶ 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼▶ グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように▶ Q&Aセッション・短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? ▶ 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方 サービス開始時、利用者の方の情報を分析し、医療の視点からみなさん計画を立てると思います。もちろん決めつけすぎるのは良くありませんが、計画段階で『どこまでを見据えるか』という点は重要です。看護計画に主眼を置きすぎると見落としてしまいがちな「本人はどうしたいのだろう」という視点。この視点もバランス良く持ちながら患者さんとかかわっていく必要があると考えていて、私の場合は「最期をどういうふうに迎えたいか」という点も注視します。・最期について、家族とどうやって話し合うのか・専門職としてどのような意志決定の支援ができるかというところまで思考を拡張させながら、医学アセスメント、家族関係や希望を含め、計画を立てていきます。 ▶ 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る 終末期になると家族の問題や関係性が集約されてきます。これまで関係性が希薄だった家族が集合してコミュニケーションをとり始めると、ギクシャクしてしまうことも多い。そういった場面で、専門職はクッションになれる可能性がある。その点についても意識しながら、看護計画を立てていくと良いのかなと考えています。 ▶ 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼 利用者の方のことを知るために、私が意識しているのは次の2つです。まずひとつは利用者の方に「具体的な質問をする」こと。たとえば「食事のあとはなにをして過ごしますか?」と漠然と聞くのではなく、「新聞は読みますか?」「テレビは観ますか?」など1歩踏み込んで尋ねることで初めて返ってくる答えがあります。もうひとつは「観察する」ことです。利用者の方の身の周りに置いてあるものや日常でよく使うもの、飾っているもの。そういったもののなかに、大切にしたい思い出や誇りを持っていることが隠れている。そこに目配りをすることでコミュニケーションのきっかけができるだけでなく、短期間でも心の距離を縮めやすくなり、心を開いてもらうことにつながります。これは利用者本人だけでなく、家族に対しても同じことが言えます。 ▶ グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように 看取りの際、私たちの行為にはグリーフケアをコーディネートするという側面が含まれます。ご家族からも話を聞くことは、利用者本人のことを知るだけでなく、ご家族に対する死前のグリーフケアにもなるんです。死前に「悲嘆を共有できる専門職」として家族に認めてもらうことで、死後のグリーフケアもスムーズになります。 グリーフケアの基本についてはこちら≫ また、やりたいことを叶えていくことで、本人はもちろんご家族も「良かった」と思える。死前のグリーフケアという意味も含めて本人に「やりたいことはないですか?」「会いたい人はいますか?」と聞いたり、「会いたい人には会った方が良いですよ」と促したりします。 そして心構えを伝えることも重要です。私たち医療者は事例を見ているので看取りへ向かう経過のイメージができますが、ご家族には難しい。だから事前に「これから1カ月でこうなります」「1週間でこうなります」という変化を専門家として提示することで心構えを促します。そうすると「じゃあ、あれをやらなくちゃ」と家族の行動が変わる。そこをコーディネートするのがすごく重要かなと考えています。 ▶ Q&Aセッション 短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? Q 最近は介入後に数週間で旅立たれることが多いです。関係性や信頼関係に中途感があります。短期間で関係性を構築するためのアドバイスをいただけますか? A 事前にどれだけ看取りに向けてのシナリオを描けるかというのが鍵となります。準備無しで行き当たりばったりだと、絶対に中途半端になってしまう。これまでの治療で患者さんや家族が抱えた気持ちのモヤモヤを解きほぐして、家族に看取りへの心構えや経過を説明して、家族関係のコーディネートをして…ということができれば中途感はぬぐえるかなと思います。このとき、ひとりでパンクしないために看取りのためのベストチームを形成しておくことも重要です。同じような価値観で組める医師に依頼して、看取り経験が豊富な看護師、ケアマネージャーともトライアングルチームを組んで、家族のグリーフケアもケアマネージャーにフォローしてもらって、というようなプロデュースをしてチームで手分けできると、かかわる時間が短く自分たちがあまり時間を割けないなかでも、上手くいくように思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】看取りの作法 Q&Aセッション回答編

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。最終回の今回は、「QAセッション」の模様を一部ご紹介します。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある?Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は?Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ?Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい?Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは?Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか?Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら?Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか?Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある? 私が組んでいる訪問看護ステーションの場合は、エンゼルケアまで行う事例が多いです。看護師さんの方からご家族に「訪問看護師にエンゼルケアをしてほしい」と思わせるような促しをすることも多い印象ですね。看取りにはご家族との細かいコミュニケーションが必要なので、エンゼルケアまでを含めて一つのパッケージとして提供しているところもあります。一方で、そこまでエンゼルケアというものがピンとこないご家族や、お金もかかるので葬儀屋さんでいいですとおっしゃる場合は、葬儀屋さんが担当なさいます。 Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は? すごく細かくしてとろみをつける方法があります。そのままの固形物ではなく、味を体感できるように工夫してみてください。飲み込まなくても、少量を口に含んで味を楽しんでもらうというのも一手です。 Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ? 看護師さんの方が頻繁に患者さんを訪問するので、ギリギリの場面で今すぐ伝えなくてはと感じるケースもあるかと思うのですが、まずは医師とコミュニケーションをとることをおすすめします。ひと手間かかって大変だと感じるかもしれませんが、訪問クリニックに連絡して「私からご家族にここまでお伝えしておきますね」というところの確認するのが良いかと思います。最近は、MCSやバイタルリンクなどを使うことで情報をファクトとして共有できるようになったので、訪問クリニックと目線を合わせて実行してみてください。 Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい? 結構多いケースですね。この場合、まず「家族はどうして入院してほしいと思っているのか」について深堀りして話を聞きます。働いているから看きれないというのであれば、訪問サービスで固める方法をご提案することもあります。もう一つ、「ご本人はどうして入院したくないのか」についても探ります。家族には素直に本音が言えないこともあるので、私たちが翻訳家や伝言役としてご本人と家族とをつなぐことも少なくありません。ここは多職種介入のミソだと思います。家族の話をたくさん聞き、本人の話もたくさん聞いて、向き合って妥協点を探ることをおすすめします。 Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは? グリーフケア、デスカンファ、ともにご本人が亡くなってから1カ月後をひとつの目安にしています。ご家族は葬儀でバタバタしたり、銀行をはじめ必要な手続きも多かったりするので、そのあたりのことが落ち着いた1カ月後くらいが目安になります。デスカンファも2カ月空けてしまうと記憶が薄れていることが少なくないので、行うのであれば、1カ月くらいが良いと思います。 Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか? できる関わりは多々ありますが、最も重視してほしいのはご本人への「傾聴」です。どんなことを今ご心配されているんですか? とか、先生や看護師さんからどんな話がありました? とか。聞く姿勢をもってくれる人に話をすると患者さんはちょっとすっきりするので、傾聴の関わりをおすすめします。そこで聞いたことを医師や看護師に共有してみるのはどうでしょうか。 Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら? キーパーソンは他の家族に説明しなくていいと言うが、他の家族は知りたいと言うようなケースでは、まずは、キーパーソンに目線を合わせます。他のご家族との関係性をちゃんと見つめながらキーパーソンに寄り添ってしっかりお話を聞いて、もし他の家族に説明をしない場合は〇〇というトラブルが考えられますが大丈夫ですか?というところまで伝えます。ここで妥協点を引き出せることが多いですね。医療者が家族の間に立ってコーディネートすることで円滑にコミュニケーションがとれるようになる、というのは、後々にも感謝されることじゃないかなと思います。 Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか? 私に対して患者さんが表出する怒りは「前医への批判」であることが少なくありません。そういうときは、私自身は前医を批判しないようにしながら「これからは私に言ってください」という方向に話を運びます。結構きついんですが、割り切って怒りに向き合っていますね。もう1回目の往診はこれだと。私の1回目の治療はこれだというふうに心がけをして、サンドバックになります。このとき、相槌も重要です。合いの手を入れるとさらに話してくださるので、どこで合いの手を入れるかも意識します。これはみなさん抱えている悩みだと思うので、看護師さんどうしでぜひいろんな人の経験を聞いてみてください。 Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? 医療ICTには、MCS、バイタルリンク、カナミックなどあるかと思うのですが、これらを事前にチームで共有します。相手が読んでいるかどうかはまた別の問題になりますが、タイムリーな共有が可能です。私自身は、末期のときはチーム全員でICTを導入します。文字だけではニュアンスが伝わりにくいこともあるので、内容に疑問をもったときや目線を合わせた方が良いと感じたときは、電話でもコミュニケーションをとるようにしています。 ▶ 編集部まとめ 在宅医療にかかわる医療者にとって大きな課題のひとつでありながら、自分なりの正解を見出すことが難しいと感じている方が多い「看取り」というテーマ。より良い「看取り」とはなにか? という課題に真正面から向き合い、多職種での連携を行いつつ患者さんとそのご家族に真摯に寄り添う田中先生のお話に、セミナー開催後、編集部には参加者の方からたくさんの声が寄せられました。代表的なコメントを一部ご紹介します。 〇セミナー後に参加者の方から寄せられたコメント「看取りの現場の実際の話をたくさん聞けて大変勉強になりました」「在宅専門の先生目線での意見が聞けて勉強になりました」「これで良かったのかと反省しながらまた次にと、すすんでいたので心が楽になりました」 次回セミナーレポートでは、2021年12月17日(金)、引き続き田中公孝先生を講師にお招きして開催した「看取りの作法~事例検討と質疑応答編~」をお届けします。公開まで楽しみにお待ちください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】看取りの作法 -後編- 看取り直前の対応とグリーフケア

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。2回目の今回は、「看取り直前の対応とグリーフケア」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】▶ 看取り直前の経過をおさえる▶ 死生観・グリーフケアを意識する▶ 在宅看取りについての私見 ▶ 看取り直前の経過をおさえる 看取りの自然経過として、そろそろ食欲がなくなってきた……というタイミングで、ご家族に1週間以内の話をします。そんなことまで伝えるの? と思う方もいるかもしれませんが、これから起こることを前もって知っていると人は冷静になれるので、必ず伝えるようにしています。具体的には、次のような内容をお話します。 死亡前1週間以内・トイレに行けなくなる・水分が飲めなくなる・ADLが落ちていく 死亡前48時間以内・手足が冷たくなる・尿が非常に少なくなる・血圧が脈でしか測れない(70くらい)・死前喘息(ゼーゼーという痰が絡むような音が聞こえる)・手足をバタバタさせる「せん妄」状態に陥る 死前喘息については、吸引しても引けない可能性があり、ご本人にとって吸引が苦痛になるので、ゼーゼー苦しそうに聞こえるからといって「これは引いてもらわないといけない」と思わない方が良いかもしれません、ということも伝えます。せん妄状態についても、結構手足をバタバタさせることを事前に知ってもらいつつ、どうしても辛そうな場合の処方薬を置いておくので様子をみてくださいねと、具体的な対応を含めてお話します。このとき、「看取りのパンフレット」もよく活用しています。 看取りのパンフレットについてはこちら≫ ▶ 死生観・グリーフケアを意識する 死というものをリアルに感じ始めると、多くの方は「じゃあ、ここからどうやって生きようか」ということを考えます。家族や友人・知人に会いたいとか、あれを食べたいとか、出てくるんです。死生観、つまり「死を認識したうえで、どう生きるか」というのは、ご本人はもちろん家族や私たち看取りを行う医療者にとっても重要な視点になります。そして、死生観というのは個別的なものなので、押し付けるものではないという基本を忘れないことも大切です。 また、私はグリーフケアを推奨しています。グリーフケアとはなにか? 簡単に言うと「悲嘆をケアすること」です。人は愛する人を失うと大きな悲しみを感じて、長期にわたって特別な精神状態の変化があります。これが「グリーフ(GRIEF/悲嘆)」です。残された家族が体験して乗り越えなければいけないことを「グリーフワーク」、そのケアをすることを「グリーフケア」と呼びます。看取りを通じて、生前からのグリーフケアを行っていきます。 グリーフケアで最も重要なのは「感情表出を手助けすること」。私たちはグリーフケアにおいては「涙を流してもらえる専門職」としてあるべきかなと思っています。ご家族が患者さんご本人の前では見せないようにしているもの・いたものを表出させて、心を軽くするための手助けをする専門職でありたいと思います。なかなかご自身だけ、その場だけで表出させることは難しいので、家族や親戚の方にも手伝ってもらえるようにお願いすることもあります。少し余談になるかもしれませんが、実は葬式は絶好のグリーフケアの場。みんなで集まって食事をしながら故人を偲ぶことでグリーフケアになっているんです。四十九日や三回忌なども同じですね。COVID-19流行の影響でなかなか人が集まれない状況が続いているので、医療者としてよりグリーフケアを意識してみてください。 そして、グリーフケアを通じて医療介護職自身のセルフケアにもなります。なぜなら、看取りには「本当にあれで良かったのかな」「もっと上手くやれたんじゃないかな」というモヤモヤがつきものだから。そういうときに他者からの一言で救われることもあるので、セルフケアという意味でも、ご家族のケアという意味でも、グリーフケアを推奨します。 ▶ 在宅看取りについての私見 現状、在宅看取り数が少ない日本ではありますが、できるならしたいと思っているご家族がいたり、できるなら最期まで自宅にいたいと思っている患者さんがいたりします。看取りの回数を重ねると「あ、これは似たようなケースを経験したことがある。あのときは上手く看取れた」と、過去のケースと重ねられるように感じることも増えるのですが、類似ケースであっても同じ看取りはありません。そして、どれだけ看取りのエキスパートになっていても、やっぱり見えていない点や家族の話で聞けていない点は絶対に出てきます。患者さんやご家族が、「看護師だから言うね」「先生(医師)だから話すね」「介護の人だから相談するね」とこそっと言うようなこともありますので。 だからこそ、今後、自宅での看取りを増やしていきたいというのはありつつも、私たち医療者の理想を、患者さんやそのご家族に押し付けることだけはしてはいけないと考えています。「完璧は絶対にない」というのを前提として、一つ一つの看取りに対して十分な配慮をすること、経過のなかで複数の関係者の視点でディスカッションをすることが必要です。看取りを終えてからも、どういうところが良かったのかな、今後改善できるとすればどういうところかな、という話ができるとなお良いですね。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】看取りの作法 -前編- 医師が考える看取りと向き合うポイント

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、「医師が考える看取りと向き合うポイント」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】▶ 医療・介護専門職としての「看取り」と在宅看取り数の現状▶ 看取りと向き合う5つのポイント▶ 看取りの流れをおさえる▶ 死の直前の4つの苦痛をケアする▶ 患者・家族の認識に向き合う ・本人の現在の心情を認識する ・家族の認識に向き合う ▶ 医療・介護専門職としての「看取り」と在宅看取り数の現状 私は家庭医療専門医として、在宅クリニックを開業しました。開業から半年、従業員は3名です(2021年11月現在)。訪問エリアは西荻窪を中心に半径6km以内(東京都の23区の西側、新宿より西側のエリア)を担当しています。クリニックのミッションは「医療を通して探求し、あるべき未来に挑戦する」こと。今後の地域包括ケアに貢献していきたいと考えています。そういった想いがある一方で、医療・介護の専門職として「看取り」という日常・仕事にどう向き合っていくか? というのは私にとって大きなテーマです。これはみなさんも同じように感じていらっしゃるのではないでしょうか。 私自身が看取りに向き合って、現在のクリニック開業前を含めて年間20名以上を看取った結果気づいたのは「看取りには一定のお作法がある」ということ。それを言語化したのが今回のセミナーです。どなたでも、きちんと向き合えば徐々にできるようになると確信していますので、ぜひ参考にしてもらえたらと思います。 まずは、現在の在宅看取り数について。こちらは厚生労働省「人口動態統計」で見た「場所別の死亡者数(2019年)」についての円グラフです。やはり病院が非常に多く、自宅での死亡者数は約14%。まだまだ少ない現状にあります。 ▶ 医師が考える看取りと向き合う5つのポイント 医師という立場から看取りと向き合ったとき、ポイントになると考えているのが次の5つです。ここから順にお話していきます。 1 看取りの流れをおさえる2 死の直前の4つの苦痛をケアする3 患者・家族の認識に向き合う4 看取り直前の経過をおさえる5 死生観・グリーフケアを意識する※1~3については今回(前編)、4・5については次回(後編)にてお伝えします。 ▶ 看取りの流れをおさえる 流れをおさえるための事例を一つご用意しました。こちらを見ると、看取りまでのだいたいの流れがイメージできるかと思います。 ■70代女性 膵癌末期2017年12月末~心窩部痛あり、2018年2月A病院受診。切除不能、局所進行膵頭部癌の診断。手術は不可、抗がん剤も服用してみたが副作用(食欲不振、便秘、発熱、皮膚搔痒など)のため中止。緩和ケアの方針で、当院訪問診療開始となった。 家族構成:本人、弟夫婦の3人暮らし当院介入後は、前医への不信感・強い悲嘆があり、経緯をお聞きし、今後は私たちと訪問看護師に相談しながら進めていきましょうとお話。 その後、自宅での生活に安心されていたが病状の進行が早く・癌性疼痛が週の単位で悪化。 麻薬を増量するが内服も飲みづらくなり貼るタイプの麻薬も処方・ご本人はもともと繊細な性格だったが、癌になって以降、感情失禁を出す状況。 抗不安薬の屯用で前週よりは対応できるように。・下肢浮腫が著明で利尿剤投与、弾性ストッキングおよび訪問マッサージを導入。・排便コントロールが難しくなり、下剤増量。臨時訪問で浣腸を2回施行。・入院のタイミングをご本人・ご家族と相談。 老老介護のため介護疲弊が限界にきていること、毎週のペースで麻薬を増量しており病状が悪化していることを説明し、緩和ケア病棟入院へ・しかし入院生活は思っていたものと違った、とご本人より話があり、早期退院。・最期はご家族が自宅看取りの覚悟を決められ、数週後看取りとなる。 ▶ 死の直前の4つの苦痛をケアする 死の直前の苦痛には、主に次の4つがあります。すべてが重なって全人的苦痛(トータルペイン)となります。 ①身体的苦痛②精神的苦痛③スピリチュアルペイン④社会的苦痛 この4つの苦痛については、一つ一つのケースごとにフレームワークで整理して考えていきます。なぜフレームワークに当てはめるのか? というと、視点の偏りを防ぐためです。目の前のことだけに集中すると、たとえば「身体的苦痛」は看られているけれど、「社会的苦痛」への対応が遅れてしまう……というケースも少なくありません。後手にならないよう、フレームワークに当てはめて整理することをおすすめしています。 フレームワークについて詳しくはこちら≫ ▶ 患者・家族の認識に向き合う 終末期の現場で私がよく考えることの一つは、患者本人と家族の認識です。 本人の様子は、告知・未告知では、やはり違ってきます。未告知の場合は本人が「おかしい、おかしい」と思ったときに、どういうふうに対応するのか? という点について、家族と目線を合わせておく必要があります。仮に家族が未告知を選択した場合でも、本人の認知機能がしっかりとしていると隠しきれない可能性も高いので、そこも含めて検討してもらいます。 告知をする場合、本人は「腑に落ちた」とおっしゃることが多い印象です。このときポイントとなるのは「本人に予後は伝えない」こと。伝えなくてもうまくいくケースがほとんどです。ただ告知すると本人の感情が大きく揺れ動くので、ご家族にしっかり向き合ってもらえるようコーディネートする必要があります。ちなみに、家族にはきちんと予後を伝えます。残り1週間の気構えと準備、残り2・3日の気構えと準備は異なるためです。ここで伝える具体的な内容は後編でご紹介します。 ・本人の現在の心情を認識する 本人の受容段階について家族と認識を合わせるために役立つのが、キューブラーロスの「死の受容段階5段階モデル」です。これは私たち医療の専門職にとっても支えになります。 キューブラーロス「死の受容5段階モデル」①否認と隔離②怒り③取引④抑うつ⑤受容 なぜこれが私たちにとっても支えになるのかというと、私たちが向き合う患者さんのなかには、②怒りの段階の方が少なくないからです。医療者も、理不尽な怒りに直面するのはつらい。そういうときに「これは死に向かう過程で必要なプロセスなんだ」と、プロフェッショナルとして認識できていれば、その怒りがどんなに理不尽でも、まず受け止めようというメンタルになれると思います。そして、②怒りの段階から移行しない患者さんの場合、まず間違いなく、家族に言えていないことや、話し合えていないことを心のなかに抱えています。そこのファシリテーターというか、コーディネートをするのが、看取りに関わる専門職として大事な役割だと感じています。全人的苦痛と同じくらい、キューブラーロスについても意識してみてください。 ・家族の認識に向き合う 多くの家族が「在宅で看取りきれるか?」という点に不安を感じます。だからこそ、事前に家族の介護力や覚悟、緩和ケア病棟を利用する方針などをしっかりと検討することが必要です。最近はCOVID-19流行の影響で自宅看取りが増えてはいますが、「自宅看取りはすごくいいですよ」と押しすぎることは避けます。ここを見誤ると、自宅看取りが最適解ではない事例を無理やり看取ることになるので、フラットな目線を忘れないようにします。ご家族とご本人をしっかりアセスメントして考えることが重要です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】訪問看護師の悩みに回答! 浮腫ケアについてのQ&A

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、リンパ浮腫専⾨看護師の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。セミナーの様子を3回に分けてお伝えします。最終回の今回は、Q&Aセッションの内容を一部公開します。 【講師】岩橋 知美リンパ浮腫専⾨看護師、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 【目次】Q1 水疱ができた場合の対策についてQ2 静脈性潰瘍でリンパ漏がある場合の痒みについてQ3 蜂窩織炎が治っても浮腫がひどい場合、足浴は効果的?Q4 低アルブミン血症で肥満、自己管理意欲も低いケースQ5 筒状包帯などを使用したドレナージ実施時間の目安Q6 リンパ浮腫の改善を促す内服薬はある? 利尿剤は使う?Q7 ガードルショーツ着用が習慣化している硬性浮腫の女性のケースQ8 アロマオイル使用にあたって、主治医の許可は必要? Q1 水疱ができた場合の対策について 【質問】水疱ができた場合の対策について教えてください。ドレッシング剤で保護した場合、内腔の浸出液は自然吸収を待つ方が良いでしょうか? 【回答】水疱に対してはドレッシング剤貼付後、低圧での圧迫をします。内腔の浸出液は自然のままにしています。医師から酸化亜鉛を含む軟膏を処方されることもあります。水疱が破れてしまった場合は、蜂窩織炎などの感染に注意が必要です。リンパ漏になってしまったら軟膏を塗り、ドレッシング剤で保護したあとオムツで圧迫をしています。 Q2 静脈性潰瘍でリンパ漏がある場合の痒みについて 【質問】静脈性潰瘍でリンパ漏あり。筒状包帯を使用していますが、痒みがでてしまいます。何か対策はないでしょうか? 【回答】静脈性潰瘍はもともと痒みを伴うことが多いです。うっ滞性の皮膚炎かもしれないので、まずは、主治医や皮膚科医に診てもらう方がよいかと思います。下肢全体の痒みの原因として筒状包帯が肌に合っていない可能性も考えられます。パイル地の筒状包帯を試してみてください。 Q3 蜂窩織炎が治っても浮腫がひどい場合、足浴は効果的? 【質問】リンパ浮腫から蜂窩織炎になった方を担当しています。蜂窩織炎が治ったあとも浮腫がひどい場合、足浴は効果があるのでしょうか? 【回答】蜂窩織炎を起こしたことで浮腫がひどくなったのだと思います。炎症が起きているときにドレナージなどのマッサージは禁忌ですが、低圧の筒状包帯は良いと言われています。炎症反応が落ち着いたら圧迫を開始してください。足浴は、清潔を保持して白癬による蜂窩織炎の再発を防ぐためには有効です。 Q4 低アルブミン血症で肥満、自己管理意欲も低いケース 【質問】左麻痺があり、両下肢浮腫がひどく、水疱・潰瘍ができている方の傷洗浄を担当しています。低アルブミン血症ですが、体重は83kgで肥満もあります。自己管理意欲も低い状態。食事指導は何からしたらいいのでしょうか。 【回答】低タンパクだと筋肉も減少しますから、タンパク質を摂取して糖質を減らす食事が考えられます。豆類はいいと思います。あと、最近はオートミールをおかゆ状にしたものもおすすめしています。低糖質で、タンパク質・鉄分。食物繊維などをバランス良く摂れるのでおすすめです。意欲の低さについては、左麻痺があることが影響しているのかもしれませんね。麻痺・低アルブミン・肥満という状態ですから、なかなか浮腫のサイズダウンは難しいかもしれませんが、低圧での圧迫をしてみて、少しでも浮腫が改善されれば意欲がでるかもしれません。以前、アドヒアランスの悪い患者さんのケースで、浮腫に対して圧迫とマッサージをすることで少し下肢の浮腫サイズがダウンし、それ以来積極的に浮腫ケアをされるようになった経験があります。浮腫そのものに関しては創傷の処置の上から筒状包帯を使用して圧迫をされるといいと思います。 Q5 筒状包帯などを使用したドレナージ実施時間の目安 【質問】筒状包帯などを使用したドレナージ実施時間の目安を教えてください。 【回答】低圧の筒状包帯は、入浴のとき以外24時間装着していてかまいません。ドレナージを実施する場合は、病院の外来では皮膚硬化部をほぐす工程を含めて40分くらい行いますが、訪問においては20分程度になるかと思います。 Q6 リンパ浮腫の改善を促す内服薬はある? 利尿剤は使う? 【質問】リンパ浮腫の改善を促す内服薬はありますか? 利尿剤は効果的でしょうか? 【回答】リンパ浮腫に有効な薬はありません。全身の浮腫ではないので利尿剤も使用することはありませんが、リンパ浮腫と全身性との混合浮腫ならば有効かもしれません。 Q7 ガードルショーツ着用が習慣化している硬性浮腫の女性のケース 【質問】90代認知症の女性で、昔からガードルショーツを着用するのが習慣です。両下肢に硬性浮腫があるため着用しないほうがよいと思うのですが、なかなか理解が得られない場合、なにか対処方法はありますでしょうか? 【回答】患者さんの多くは、浮腫がひどくなりサイズが大きくなっていくとは思っていないものです。そういった方には、リンパ浮腫がひどくなった下肢状態の写真を見てもらうと少し治療に前向きになられます。ご相談者の場合は認知症もあるので、ガードル着用を完全にやめることは不可能かもしれません。ショーツと緩めのガードル(大腿への締めつけがなく、下腹部は圧迫してくれるもの)などに変えるように誘導してみはどうでしょうか。また、皮膚硬化がある浮腫の場合は垂直圧がかかるものがいいので、平編みの筒状包帯を装着したうえで、緩めのガードルを着用するなど試してみてください。 Q8 アロマオイル使用にあたって、主治医の許可は必要? 【質問】アロマオイル使用に関しては、主治医に使用許可を得ていますか? 指示書にも記入いただいていますか? 【回答】医師の許可はもらいますが、指示書への記入はありません。本人もしくは家族に、アロマセラピーは補完代替医療であるということを説明し、同意書をいただいて導入しています。 今回は「浮腫のアセスメントとケア」の様子をお届けしました。岩橋さんには多数のご質問にも回答頂き、翌日から役立つ内容が盛り沢山だったのではないでしょうか。  次回のセミナーレポートでは11月12日開催の「看取りの作法」の様子を公開します。お楽しみに!  記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア-在宅看護で行う浮腫ケアの基本-

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、リンパ浮腫専⾨看護師の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。セミナーの様子を3回に分けてお伝えします。第2回となる今回は、浮腫への具体的なアプローチについてご紹介します。 【講師】岩橋 知美リンパ浮腫専⾨看護師、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 【目次】1.まずは「優先順位」を考える2.浮腫のケアで目指すことと、具体的なアプローチ3.スキンケアによる創傷・感染予防4.MLD(用手的リンパドレナージ)5.浮腫状態に合わせた圧迫療法6.圧迫下の運動療法(他動運動)7.QOLを維持し浮腫悪化を防ぐための日常生活指導8.総括 1.まずは「優先順位」を考える 在宅医療で浮腫のケアを行う前提として、もっとも気をつける必要があるのは「血栓」です。血栓がある場合は命にかかわるので、浮腫ケアを始める前に必ずD-ダイマーを確認するようにしてください。在宅ケアでは、優先順位を考えることが大変重要になります。 2.浮腫のケアで目指すことと、具体的なアプローチ 「QOLが維持でき、心地よく浮腫改善ができる」ことが目標。私が日常的に意識しているのは次の3点です。・浮腫による違和感や疼痛の緩和・皮膚損傷や感染の防止・継続可能で苦痛を伴わないケア 具体的なアプローチとしては「複合的治療」を行います。すべて事前に医師の許可を得る必要があります。 ①スキンケアによる創傷・感染予防②MLD(用手的リンパドレナージ)③浮腫状態に合わせた圧迫療法④圧迫下の運動療法(他動運動)⑤QOLを維持し浮腫悪化を防ぐための日常生活指導 ①から⑤について、それぞれどんなことを行うのかについて簡単にご説明します。 3.スキンケアによる創傷・感染予防 浮腫の皮膚は脆弱で乾燥しやすく、見えない傷が多い傾向にあります。傷つけない・擦らないことを意識して泡で洗浄し、保湿にはアルコール分の低いローションタイプのアイテムを使用します。利用者の方から「市販品ではなにが良いですか?」と聞かれた場合には、乾燥性敏感肌向けのスキンケアや、処方薬と同じ成分が配合されている保湿剤をおすすめしています。清潔の保持を目的とする場合はこれで十分です。 浮腫がひどくなってリンパ小胞やリンパ漏ができた場合は、皮膚障害を拡大させないために感染予防を行います。患部に撥水性の軟膏を塗る→非固着性ガーゼで覆う→オムツで圧迫する、という対応をすることが多いです。 4.MLD(用手的リンパドレナージ) ドレナージを行っても、浮腫の改善効果としては軽度です。すぐ元の状態に戻りますが、直接患肢に触れるという点で「安心感」や「気持ちよさ」を生みます。ドレナージを行う際にはぐいぐいと圧をかけることはせず、柔らかくタッチングしてください。台所用スポンジのナミナミした面を平らにするくらいの力加減がベスト。末端から中枢に向かって行います。浮腫増大が進み皮膚硬化が起こっている場合には、少し強めの力でほぐすこともあります。また、リンパドレナージを行うにあたっての不要な体位変換は避けてください。 5.浮腫状態に合わせた圧迫療法 圧迫療法を行うには圧の勾配を作って弾性包帯を巻く必要があり、技術習得が必要なため、在宅看護での圧迫療法は難しい傾向です。導入しやすいのは、インジケーター付きの弾性包帯や、低圧のチューブ包帯。皮膚が弱い方のために、内側がタオル地になっている製品もあります。皮膚の硬化が進んでいる場合には平編みタイプのチューブ包帯や、マジックテープ付きのタイプが管理しやすいです。 圧迫療法を行う際には以下の点に注意します。・皮膚に痒みや湿疹がないか・手先、足先の循環障害がないか(ABI 0.7未満)・末梢神経障害がないか・食い込みやシワによる疼痛を感じていないか・胸水、腹水貯留の場合は体液還流に注意 とくに、食い込みやシワが起こると浮腫が悪化したり、傷ができたりすることもあるので注意が必要です。食い込みを予防するために、パッティング材を使用することもあります。 6.圧迫下の運動療法(他動運動) 筋肉の収縮と弛緩によるポンプ作用で、リンパの流れが促進されます。ここで重要なのは疼痛を与えないこと。そのために、可動域を考えながらの他動運動が有効です。具体的には上半身であれば、手指屈伸・手関節底背屈・肘屈伸・肩関節回旋などを行います。下半身であれば、足関節底背屈・膝関節屈伸・股関節回旋などが中心。私たちがサポートを行い、関節を動かしていきます。また、深呼吸をすることでもリンパの流れが促進されます。利用者の方ご本人でできることとして、深呼吸をおすすめしています。 7.QOLを維持し浮腫悪化を防ぐための日常生活指導 利用者の方や利用者家族の方に、次のようなポイントに注意するよう指導しています。 ・安楽な体位の工夫 患肢を10cm~15cmほど挙上することをすすめています。・包帯が食い込まない体位を保つ・長時間の下肢下垂は避ける・感染防止のため皮膚を傷つけない  熱を持って赤くなってきたら炎症の可能性があることも伝えます。・着衣による締め付けを避ける  とくに、下着、パジャマ、オムツなどのゴムによる圧迫に注意が必要です。・低栄養状態/肥満への注意・安全な移動  浮腫増大により関節可動域が制限されるため、転倒の危険があります。・環境調整・疲労を避ける 8.総括 もっとも重要なのは、ひとりひとりに合わせたケアを行うことです。標準的な治療が現実的でない患者さんなのであれば、浮腫軽減だけを目的とするのではなく、心身の状態を把握して、安全で緩和的なケアを中心に行うのが良いと思います。心に寄り添いながら浮腫による違和感や皮膚の張り感などの緩和を行うことで、心身の快適性を改善し、QOLの向上につなげてあげてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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