チーム運営

インタビュー

本人の強い意志をチーム力で支える

ベテラン訪問看護師の望月葉子さんが出会った、印象深い意思決定支援のケースを前後編で紹介します。前編は、重度の障害のある人に対する現在進行形の支援について語っていただきました。 東京のICU病室から博多でのコンサートへ 「意思決定支援」というテーマをいただいたとき、まず思い浮かべたのが10年のお付き合いになるAさんです。「こうしたい」という強い意思を持ち、周りを巻き込んでそれを実現していける人だからです。 【患者Aさん】 現在63歳、アテトーゼ型脳性麻痺の女性。車いす使用。望月さんが担当するようになったのは2010年、Aさんが53歳の時から。当時、直腸膀胱障害があり、すぐに尿道カテーテルを留置。その後、気管切開、胃瘻造設、乳がん手術などを経て、今も94歳の母親と二人で在宅生活を継続している。 Aさんへのこれまでの支援で最も大きなエピソードは、2014年10月、Aさんが交流のある演歌歌手のコンサートに招待され、病院のICUを自主退院して東京から博多に行ったことです。 そのころのAさんはすでに嚥下状態が悪くなり、この年の2月には誤嚥性肺炎で入院していました。博多に行きたいと言われたとき、私は最初、本気とは思っていませんでした。でもAさんは本気でした。それでケアチームの会議を招集し、本当に博多に行けるかを検討しました。 Aさんの強い思いに、相談支援専門員(障害分野のケアマネジャー)が寄り添ってくれたことで、ケアチーム全員が実現の方向に動けたように思います。お母様も博多行きにかかる費用はすべて出すと言いました。在宅医も、万一のことが起こる覚悟を本人とお母様に確認したうえで、診療情報提供書を用意してくれました。 そうしてコンサートの半年ほど前から、ヘルパーや自費の看護師、現地でケアを引き継いでくれる看護師、携帯用の酸素などを手配し、博多行きの準備をしていました。ところがコンサートの直前、Aさんは誤嚥性肺炎で呼吸不全になり、救急搬送されてしまったのです。しかも入院中に痰が詰まって、一時は心肺停止状態に。 常識だったら「これではコンサートは行けないね」となりますよね。でも、Aさんは「どうしても行きたい」と諦めなかったのです。退院は認めないという病院と交渉し、結局Aさんは、「急変したとしても再入院は求めません」という約束をして、自主退院することになりました。 私は病院から東京駅まで車に同乗し、Aさんを自費の看護師に引き継いで新幹線に乗車させました。そしてヘルパーが合流し、何とか博多まで行き、Aさんはコンサートを楽しむことができたのです。 選択の数々 博多から帰ってきてまたすぐに、Aさんは呼吸不全になって救急搬送されました。「呼吸筋力の低下で、自力での痰の喀出は困難、経口摂取はもう無理」という医師の診断でした。Aさんも納得の上、気管切開を受けました。 その後は、胃瘻にするかどうするかの選択を迫られました。在宅でケアにあたっているお母様もこれには悩みました。お母様は当時80代後半です。在宅医や私たち訪問看護師にたびたび電話をしてきていました。 Aさん自身はとにかく生きる意欲が旺盛なので、胃瘻云々ではなく、「とにかく家に帰りたい」と訴えていました。 Aさんは気管切開で声を失っていますから、介護者が読み上げる50音に舌で合図を出して意思を伝える方法をとっています。いつもの介護者とお母様は、このコミュニケーションに慣れていますが、病院ではそうはいきません。体を動かせないAさんには、ナースコールを押すこともできません。 しかし家に帰れば、意思疎通ができるヘルパーさんが24時間いてくれるのです。結局、Aさんは胃瘻を造設して自宅に戻りました。 この後、Aさん自身もお母様も、がんの手術を受けています。でも、それらの出来事もケアチームで支え、乗り越えて、現在に至ります。胃瘻から栄養注入しながら、チョコレートや、お母様手作りのゼリーを口から召し上がっています。 いいゴールはケアチームみんなで考えたい Aさんとこれほど長いお付き合いになるとは思っていませんでした。長い期間その人の人生に寄り添っていけることは、訪問看護の醍醐味です。とても幸せなことですね。今、Aさんの自宅へは週2回の訪問で、入浴介助、摘便、服薬管理、尿道カテーテル交換などをしています。 Aさんの博多行きを経験したことなどもあって、10年の間にケアチームとしての成長を感じています。チームメンバーは入れ替わりもありますが、定期的に行政メンバーも交えてケアチーム会議をしていることもあり、Aさんの意思はみなよく分かっています。 これから起こりうる大きなエピソードとして考えられるのは、おそらくお母様に何かあったときでしょう。そのときどう対応するかについて、ケアチームで話題に上っています。しかし、施設を探すといった話はまったく出ていません。Aさんは「このまま在宅で生活する」と言うだろうと、みな思っているからです。 Aさんは、状態の悪化を嘆いて悲観的になることはありません。もちろん、感情の波はありますが、怒るエネルギーは衰えません。いろいろな難題を突き付けてくる人ですが、意思がはっきりしている分、支援の方向性は決めやすいのです。どこが本当に良いゴールなのか、今はまだわかりませんが、それはチームみなで考えていけると思っています。 ※掲載の内容については、ご本人とご家族の了承を得て掲載させていただいております。 ** 望月葉子白十字訪問看護ステーション看護師 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー 会員限定

チームで共有すべき訪問看護の提供価値とは

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」という)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 テッセイは、まず現場スタッフ自ら提供する商品と価値について考え、答えを出すことで、自分たちの仕事に新しい価値観を見出すことができました。新しい価値観を皆で共有できたことが、改革の大きな原動力になっています。第2回の対談では、病院とは異なる訪問看護事業の価値についてお話しいただきました。 自分たちの提供価値を定める意義 大河原: 訪問看護ステーションを見て感じるのは、看護師たちの価値観の違いに起因するいざこざが多いということです。私も経験がありますが、病院の看護師は先輩に言われたことに従わなければならない状況が多くあります。訪問看護ステーションでも、先輩看護師や管理職看護師が自分のやり方を押しつけている状況があると思います。 訪問看護は、1人の利用者さんをチームで看ています。本来は、チーム全員が同じ価値をもって連携することが理想だと思いますが、看護師以外にリハビリ職もいるため、職種によって看る観点が違ったり、看護師同士でもキャリアが違ったりして、意見が違ってしまうことがあります。 カンファレンスで担当者が集まる機会はあるのですが、みなさん忙しいので、タイムリーに行われているかというと難しいのが実情です。ウェブ会議が浸透するとよいのですが、医療や介護の領域はITリテラシーが意外と高くないのです。 当社でも、みんなが同じ1つの価値を持っているというレベルにはまだ達していないと思います。 芳賀: 提供する価値が何なのか、みんなが共通の認識を持っていれば、職種は違ってもそれを判断基準に考えることができると思います。 以前のテッセイの従業員は、新幹線の車内を掃除することが仕事だと思っていました。しかし業務改善後のテッセイは、従業員に「あなたの仕事はなんですか」と尋ねると、「お客様の旅の思い出づくり」と答えるようになりました。 これと似た話があります。墓石に名前を彫っている職人に「あなたの仕事はなんですか」と尋ねると、ある職人は「名前を彫ることだ」と言い、別の職人は「この人のお墓をつくっている」と答えました。 この2つのエピソードは、自分の仕事がどういう価値を生み出しているのかを、その人がどう認識しているかで、最終的にはお客様に提供する価値が大きく変わってしまうことを表わしています。 つまり、一人ひとりの考え方が社内でバラバラだと提供価値も変わってしまい、会社が本来目指している目的が達成できなくなるということです。 【テッセイの改革】 改革を行った矢部氏は、「新しいトータルサービスを目指す」という目標を掲げ、自分自身とスタッフたちに「私たちの商品は何なのか」と問い続けました。もちろんテッセイの仕事は、新幹線を快適に利用できるように車内を整えることです。では、なぜきれいな車内が必要なのでしょうか。それは新幹線の旅を楽しんでもらいたいからです。では、清掃員が「自分の仕事は清掃だけ」と考え、駅構内でお客様から道を尋ねられても無視したら、お客様は新幹線の旅を楽しめるでしょうか。 スタッフたちは、そのように考えていった結果、自分たちの商品(提供価値)が「お客様に旅のよい思い出を持ち帰ってもらうこと」であると気づいたのです。またこの新しい価値観を全員に理解してもらうために、新しい制服の導入、伝道師となる役職者の任命、新たな標語の設定など、スタッフの意識を変える改革を行っていきました。 関係者全員が同じ価値を共有することが理想 大河原: 当社は、それぞれがやりたい看護への想いを大事にしていますが、一つ強く言っていることがあります。それは「療養上の世話」を重視するということです。 一般的に看護師には、療養上の世話と診療の補助という二つの責務があります。病院は患者さんの病気を治す所なので、病院の看護師は診療の補助が重要な仕事だと思います。 しかし訪問看護は、療養上の世話だと思っています。なぜなら、在宅の方は病気を治したくて家にいるわけではなくて、家で生活したくて病気と向き合っているからです。 例えば、糖尿病をわずらっていて、自宅でお菓子やジュースを飲食していたらどうするか。病院なら禁止しますが、訪問看護の場合は、それが良くないとわかっていても完全に取り上げるのが利用者さんにとって一番良いとは限らないよね、というのが当社の考え方です。 リカバリーの場合、こうした価値観を『もう1人のあたたかい家族」という理念として掲げ、自分の家族だったらどう看るか、ということを医療職として考えることを大事にしています。 理念を浸透させる方法として、今は各事業所で毎日朝礼を行っています。その利用者さんが自分の家族だったらどう対応するか、理念に基づいた気づきを毎朝誰かが発信していくことで、療養上の世話という方向へみんなの意思を統一していくようにしています。 とはいえ、現在の理念にしたのは半年前なので、まだまだこれからですね。 ただ、訪問看護業界を見渡すと、価値観を示す理念を掲げている会社は多くありません。こうした点も訪問看護業界の課題といえます。 芳賀: 理念として、全社員に『もう1人のあたたかい家族」という考え方を示しているのは素晴らしいですね。また、朝礼でスタッフ自らメッセージを発信していく取り組みは、テッセイでも行なっています。理念や価値をみんなで共有していくプロセスとしては需要なことだと思います。 ただその理念は、大河原社長たち経営陣が作ったものだと思います。 テッセイの改革は、全員が同じ価値観を持つことができるようになって、初めて成果が出ました。しかも、最も大切な提供価値である「旅の思い出づくり」というコンセプトは、本社や社長が考えたのではありません。社員たちにものすごく議論をさせて、自分たちで考えさせました。 また、旅の思い出づくりは1社でできることではありません。そこで社員の要望で、車内販売の販売員や車掌などとも連携するために、他の会社や職種の人たちとも話し合いを重ねていきました。 在宅医療も同じですね。場合によっては組織も異なるさまざまな専門職の人がサービスを提供しますが、相手は1人の利用者さんです。だから、すべての関係者が同じ価値観を持っていたほうがよく、組織間の連携も欠かせません。 訪問看護ステーションでも、自分たちが提供する利用者さんへの価値とは何なのかを、社員の方々にとことん話し合ってもらってはいかがでしょうか。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子  【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻  【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。  【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社

インタビュー

皆にとって「よりよい場所」を

テンハート訪問看護ステーションは、新型コロナ流行以前から感染症対策や災害対策など「もしもへの準備」に力を入れています。 ステーション管理者であり、合同会社Beplace代表でもある佐渡本琢也さんは実はもともと臨床検査技師として働かれていたそうです。今回は、佐渡本さんがどんな思いでステーションを設立し、運営しているか伺いました。 自分の想いを追求した先にあったもの ー臨床検査技師から訪問看護師へ、それもステーションを経営するという選択をされていますよね。背景には、どんな思いがあったんですか? 佐渡本: 看護師へ転職したのは、患者さんとコミュニケーションする仕事の方が、検体相手の仕事より向いていると思ったからです。その上で、訪問看護ステーションの経営をしようと思ったのは、「自分の考える看護を追及したかったから」です。 看護師の中には、患者さんに対して敬語を使わなかったりきつい態度取ったりする人もいます。でも、それは違うと思いました。私は、利用者さんやご家族の思いを大事にする看護をしたかったんです。 医療面だけではなく「人生をみる」と言ったらおこがましいですが、人生に関われるような看護をしていきたいと思っています。 訪問する時も常に、「他にもっとできることはないかな?」と考えています。 ーステーション名の「テンハート」には、どんな意味が込められているのでしょうか? 佐渡本: 「テンハート」はもともと「Tender Heart(やさしい心)」という言葉から取った造語なんです。 スタッフにはいつでもやさしい気持ちでいることを意識してもらっています。 また、会社名の「BePlace」も、「Better Place」を短縮した、私たちが作った造語です。 経営理念にもしているように、利用者さんにとっても、ご家族にとっても、働くスタッフにとっても、「すべての人にとってよりよい場所を」という気持ちを込めて名付けました。 利用者さんやご家族から「いてくれてよかった」と思ってもらえるような看護をモットーに、気持ちの部分だけでなく、医療面や身体面でも、信頼してもらえるステーションを目指しています。 「テンハートなら大丈夫」と言ってもらえる地域密着ステーションへ ーステーションを運営する上で、心掛けていることはありますか? 佐渡本: なんでも話しやすい雰囲気を作るようにしています。 なぜなら、雰囲気が悪いと、報告・連絡・相談がスムーズにできなくなってしまうからです。 スタッフ間の年齢差は大きいですが、明るいムードでスタッフ同士が仲良く働けていると思います。 ーテンハートの特徴は、どんなところでしょうか? 佐渡本: 特徴と言えるかわかりませんが、ケアマネジャーさんから「ちょっと難しい方だけど、テンハートさんなら大丈夫だと思って」と電話をいただくことがあります。そういう風に言ってもらえると嬉しいですね。 利用者さんの割合としては、高齢者の方が多いですが、怒りっぽい性格の方や気難しい方など、対応が難しいケースの依頼も多いですね。 ーステーションとして今後、チャレンジしたいことはありますか? 佐渡本: 地域に根付いて、自分たちの理念に共有してくれる仲間と運営していきたいと思っています。 たくさん展開したいという訳ではありませんが、もう1ステーションは名古屋市内で早めに作りたいですね。 あとは、訪問看護ステーション以外にも「すべての人にとってよりよい場所を」提供できるような別事業も展開していきたいと思っています。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。

コラム

管理者は組織に勇気をもって関わろう(対話の場)

職場の人間関係がスタッフの離職率の高さに影響していると感じることはありませんか? 訪問看護ステーションのスタッフは、その一人ひとりの専門性が高く、かつさまざまなバックグラウンドを持ち、働き方も異なります。今回は、管理者としてスタッフ同士の関係性をどのようにみるべきかを解説し、組織の関係の質を高める「対話の場」のつくり方をお伝えしていきます。 目に見えない上下関係 はじめに注目していただきたいのが、「職場内で心理的安全性が保たれているかどうか」です。 あなたのステーション内で、スタッフ同士の関係性にさまざまな「目に見えない上下関係」が発生してはいないでしょうか。 「目に見えない上下関係」とは、各々が仕事に誇りを持つがゆえに、他の人との価値観や看護観の違いを理解できない、あるいは、理解しようとしないということが原因でできあがってしまう人間関係のことです。 例えば、働き方が異なる同僚を下に見る、スタッフ内で派閥ができてしまう、事務スタッフへの上から目線な対応、ベテランスタッフが面倒臭がって新人を育てない。これらにはすべて「目に見えない上下関係」が存在します。 第2回のコラムで触れたように、管理者として個々のスタッフと関係を深めたとしても、上述のような「目に見えない上下関係」が職場内にあると、それぞれのスタッフの言い分が異なるため、個々にいくら対応しようとしても溝が埋まらないという経験もあるのではないでしょうか。 この軋轢が大きくなればなるほど、解決は難しくなっていきます。そこで軋轢が大きくならないうちにやっていただきたいのが、普段の業務管理、進捗管理とは異なる目的で、スタッフ同士を集めてミーティングを開くことです。 スタッフ一人ひとりに向き合う場を「1on1」と呼ぶのに対し、スタッフ同士が向き合うこのミーティングをここでは「対話の場」と呼びます。 「対話の場」開催のポイント この対話の場は、業務の話をする場ではありません。さらに飲み会とも別で行うことをおすすめします。飲み会はつい話が流れてしまいがちになり、また人によって集中力に違いが出やすくなるためです。 上述のような上下関係が生まれるのは、大概「相手が本当は何者かわからない怖さ」から来ます。管理者として、その「怖さ」がなるべく小さいうちにお互いを「相手が本当はどんな人か」理解し合える場を作ることが大切です。 最初は話しやすい話から始め、徐々にもっとその人がわかるような深いテーマにしていくといいでしょう。下記に開催時のポイントをいくつか具体的に挙げます。 ①話しやすいテーマからスタートする 対話の場は一度で終わらせる必要はなく、何度も開催するものだと思ってください。なので、最初はとにかく話しやすいテーマからスタートさせるといいでしょう。 その際に注意していただきたいのが、相手の許可なしに興味本位で話を掘り下げないようにすることです。各自「話せる範囲」を前提とし、互いに尊重して話を聴き合うことが大事です。 【テーマ例】過去のキャリアや背景、なぜこの仕事についたか、大変だったこと、充実していたこと、乗り越えたことなど ②対話の場のルールを明確にする この場で話したことは絶対に他の場では話さない、相手の話を遮らずちゃんと最後まで聴く、などお互いのことを少しでも安心安全に話せる場を前提とするためにルールを明確にしておくとよいでしょう。 【ルール例】守秘義務、相互サポート、評価判断はしない、尊重し合う、など ③時間を区切る(ダラダラ話さない) 対話の場の開催をはじめた当初は、業務以外の事を話すことに価値を見出してくれるスタッフはそう多くないでしょう。 やっていくうちに徐々に「自分の話もできる」「相手を知ることがそう悪くない」という気持ちになるので、時間としてはあくまで業務を邪魔しない程度の時間(30分〜1時間くらい)でお互いの事を話し合えるよう、配慮する必要があります。これは何度目の開催でも同様です。 そのためには1人が話す時間もせいぜい10分以内。もし、事前準備が必要ならそのように伝えておきましょう。人数が多いなら、数回に分けて同じテーマを話すのもいいかもしれません。 管理者のあり方を見せることが関係性を創る 管理者としては、各々のスタッフのプロ意識や仕事ぶりに信頼を置いている人が多いことでしょう。 管理者自身とスタッフ個人の関係性ができていれば、仕事自体は回るかもしれません。ですが、組織は人の集まりである以上、やはり職場全体のやりづらさ、働きづらさについても、少し注意しながら観察する必要があります。 そして関係性について気づいたことがあったらそれがなるべく小さな火種の時に何かしら関わることが必要です。組織のあり方を信じつつも、そこに勇気を持って関わっていくこと。 管理者がオープンで正直であり、フラットな気持ちで組織の関係性に関与していることが、その組織のあり方に反映されていくのです。 対話の場を設けたとしたら、ぜひ管理者自身が自分の話もしていきましょう。管理者のリアルな話が「その話をしてもいいんだ」という安心感を場にもたらすきっかけになるかもしれません。 組織のメンバーが互いに理解しあい、関係性についてもお互い気を使うことができれば、組織としてもっとやりたい看護を地域に提供することも可能です。ひとりの力ではできないことを、組織で取り組むことが可能だからです。 人をマネジメントするということは、その業務の管理だけではなく、人を育て、組織を育てることに管理者として心を砕いていくことです。そのことを通じて、個人としての成長のみならず、組織としての成長をも促すことができるでしょう。 OfficeItself 代表 コーチ・ファシリテーター 山縣いつ子 2008年から企業や医療従事者向けにコーチングや研修を提供。クライアントは中間管理層を始め、女性管理者も多く、ベンチャーの執行役員、医療従事者、NPO組織の代表など幅広く担当している。 【コラムご意見番】 ~訪問看護ステーション管理者 ぴあの目~ 訪問看護ステーションは開設当初は十分に話し合いができる人数でスタートすることが多いですが、利用者が増え、スタッフの人数も増えるにつれて出勤しても他のスタッフと顔を合わせないことも増えていきます。 その様な状況になると、コラムにもあるように先輩看護師と若い看護師の間に目に見えない上下関係が生じることや、相談したいことを話せず悩んでしまうスタッフが出てくると感じます。 対話の場の一つとして、現場で最も馴染みがあるのは「カンファレンス」かと思います。 これは、看護師の人数が少ないうちは活発な意見交換を行う場として適していますが、組織が大きくなってくると、意見を発することができないスタッフも出て来てしまいます。 例えば私が働いていたステーションでは、どうしてもベテランのスタッフの意見に対して、若手のスタッフが意見を出しにくいという問題がありました。 そこであるカンファレンス時に、スタッフをランダムに組み合わせて話し合ったところ、一人一人が意見を出してくれるようになりました。 またこの時のカンファレンスの議題が「ステーション内のルールを決める」という、スタッフ一人ひとりが自分自身に関係のある身近に感じられるテーマだったのですが、そこでスタッフの業務だけではわからない新たな一面を知ることができました。 このカンファレンスを振り返ってみると、対話の場の「話しやすいテーマからスタートする」というポイントをクリアした話し合いになっていたからこそ、以前のカンファレンスより有意義なものに感じたのかもしれないと思いました。 私自身、管理業務を行なっていると、業務に追われスタッフが話しかけにくい雰囲気を醸し出してしまうことがありました。 今回のコラムを読んで、「1on1」の面談だけではなく、「対話の場」を通してスタッフの新たな一面を知り、私の一面を知ってもらうことで、小さな軋轢が生まれそうになっても、思いやりを持ってお互いの関係性を構築していけるようになるといいなと思いました。

インタビュー

オランダの在宅医療を変えた「ビュートゾルフ」とは

「ビュートゾルフ」は九州ほどの広さのオランダ国内で、10年で急成長した組織です。 約 850 チーム、1万人の看護師や介護士が活躍し、医療費・介護費抑制にもつながるしくみとはどんなものか。ビュートゾルフ柏代表の吉江さんにお話を伺いました。 「ビュートゾルフ」とは? 吉江: 「ビュートゾルフ」はオランダ語で、地域看護、ご近所ケアといった意味です。 ビュートゾルフが目指すのは、看護師が自分のやりたい看護を存分にした結果、利用者さんも喜んでくれるような、仕事のしかたや、チーム運営、組織モデルです。 この考え方を実現するため、ICTの積極的活用や、小規模なチーム運営、階層をなくしたフラットな構造化が進められました。 結果、ほかの組織より利用者1人あたりの医療費や介護費も安くあがることもわかり、看護師も利用者さんも国もうれしい「三方よし」のモデルとなりました。このビュートゾルフを日本に導入したのが、ビュートゾルフ柏です。 フラット型のチーム運営 ―フラット型のチーム運営をされているとのことですが、どんなメリットを感じますか? 吉江: 私自身は形式的には訪問看護ステーションの管理者をしていますが、実質的にはほとんどの役割をチームメンバーで分担して手放してしまっています。 不謹慎かもしれませんが、とても気楽に運営ができています。管理業務が大変で自分が訪問する時間がとれないということもありません。 私も含め、看護師の中には管理業務が好きではないという方が多くいると思います。そういう方が管理者をやる必要がある場合、フラット型にチームを作るのは悪くない方法だと思います。 ただ、フラット型が良くて、ピラミッド型が悪いとは思っていません。例えば、今の事業所を5年ほど続けてみて、フラットな形が合いそうなメンバー、必ずしもそうではないメンバーがいるような体感があります。 難しいのは、個々の特性や好みはありつつも、チームとしてマネジメント方針をある程度決める必要がある点です。そういう場合は、チームミーティングでしっかり話し合って決めるのが大切だと思います。 ―入職したばかりの看護師が意見を言うのは、難しそうに感じますが・・・ 吉江: 私が法人代表で管理者でもあると、古くからのメンバーはフラットに接してくれますが、新しい人だとなかなか反論を述べるのが難しいということは、あります。 これに対しては、オランダのビュートゾルフで用いられているように、経営者とは異なる人にコーチの役割を与えて独立した存在として機能させるなどの方法が有効だと考えています。 ―フラット式の組織は珍しいので、そういった体制に慣れない方もいるのではないでしょうか? 吉江: ピラミッド型の運営で慣れていると、悩む人はいます。そういう方はベテランの方に多い気がします。逆にピラミッド型の組織での経験がない若い方などはわりと「そういうものだ」と思って働いてくれる気がします。 ―給与面はどうされていますか? 吉江: チーム運営の中で、一時的に誰かがある機能持つことはありますが、基本的にスタッフ全員がすべてのことに関わる可能性があるため、給与に差はつけていません。 これは公表していることなので、採用時は基本的にみなさんに、そこは了承していただいています。 チーム運営で大切にしていること ―チーム運営で、吉江さんが大切にしているのはどんなことでしょうか? 吉江: 私がよく言うのは、「安易に決めごとを作ろうとせず、本当に基本的なルールだけ決めよう」ということです。看護師がやりがちなのが、問題が起こった時にすぐにマニュアルを作り、満足することです。しかしこれでは、作った人は内容を熟知しているけど、ほかの人はよく知らないということが起こります。 また、本来遊びがあるような領域でもマニュアルを作ってしまうことで、逆に思考停止に陥ってしまうこともあります。マニュアルが悪いわけではないですが、マニュアルを作ることが目的化してしまうことは、良くないと思っています。 何か困ったことがある場合は、何も指針がないと身動きも取れなくなってしまうので、本当に基本的なルールだけ決め、ある程度の臨機応変さを持つことを大切にしていますね。 一般社団法人Neighborhood Care 代表理事 / 東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員 / ビュートゾルフ柏代表 / 看護師・保健師 吉江悟 東京大学に入学後、看護学コースに進学し、看護師の資格を取得。大学卒業後は、大学院の修士課程と博士課程に進学。並行して保健センターや虎の門病院に勤務。大学院卒業後は、東大の研究員や病院での非常勤講師と並行して、在宅医療のプロジェクトに関わるようになる。2015年に、研究として関わっていたビュートゾルフを日本でも展開するプロジェクトとして、ビュートゾルフ柏を立ち上げ、代表に就任。現在も、看護師として現場に関わりながら、研究員としてさまざまなプロジェクトに参加し、臨床と研究の両立を大切にしている。

インタビュー

ケアの質を向上させる!オマハシステムを徹底解説

訪問看護の記録評価システムの一つであるオマハシステムについて、「名前は聞いたことがあるけれど、実際どんなもの?」「導入すると何がいいの?」「どうやって導入するの?」と意外に知らない方も多いのではないでしょうか。 日本で一番オマハシステムに詳しい岩本さんに、徹底解説していただきます。 オマハシステムとは? 岩本: 病院の電子カルテに入っている『NANDA・NIC-NOC』などの看護問題分類と同じようなものだと思っていただければわかりやすいと思います。 ほかにも、介護現場のアセスメントで使用されるの『インターライ』、『MDS-HC』などの似たようなシステムは色々ありますが、在宅の現場で直感的に使えると私が感じたのが、オマハシステムでした。 オマハシステムの導入効果は? 岩本: 導入効果は多くありますが、ここでは三つのメリットを紹介します。 ①伸ばすべき点、改善すべき点を把握できるように 岩本: 現在ウィルでは、利用者さんの変化(知識、行動、状態)を毎月グラフ化して経時的に追っています。 利用者さんの問題について、「今どういう変化を起こしているか」が見える化されていることでPDCAサイクルが非常に論理的に回るようになってきています。 看護師自身が「今自分のやっているケアは意味があるんだ」、あるいは、「意味があると思ってやっていることに対して思ったように評点が変化していかないからプラン変更修正すべきだ」と考えることができるようになったんです。 ②ベテランの思考過程が新人に受け継がれるように 岩本: オマハシステムという共通言語があることで、ベテランと新人の思考過程の差を明らかにした上で、一緒にディスカッションできるようになりました。例えば利用者さんに対して、ベテランと新人では、フォーカスする問題に違いがあることが判明したんです。 その違いに対して、「どうして」「なぜなら」と一緒にディスカッションすることで、ベテランの思考過程が受け継がれていくという、教育的にもメリットを感じてます。 ③チームの強み弱みが明らかになり、対策を講じられるように ステーションのすべての利用者を「内疾患分類別」「立案している問題分類別」に見て、評点の平均値の変化を追うことで、ステーション全体の評価ができるようになりました。 これにより、チームの強み・弱みのあるケアが明らかになり、弱みへの対策の立案が可能になったんです。 例えば認知症のケアが弱い、ということがわかれば認知症に関する研修を集中的に行うことで、弱みを補うという感じです。システムの導入が、チーム全体のケアの質向上につながっていると思います。 システムはどのように導入するのか? 岩本: システム自体は、ただのコード文なので、運用にあたっては電子媒体が非常に重要です。 実は、初めはエクセルで作りこんでやってみたんですが、2ヶ月ほどで残業がものすごいことになったので、一回全部中止しました。 そこからシステムを業務の中に組み込める形にした訪問看護用電子カルテを開発し、現在ではウィルのすべてのチームでこの電子カルテを利用してレセプト請求まで行っています。 また開発した電子カルテは、他のステーションにも導入を始めています。データは広く使われることで価値が上がっていくため、今みなさんが利用している電子カルテとも連携していけるといいと思います。 オマハシステム徹底解説 岩本: 難しくとらえられがちなオマハシステムですが、考え方はシンプルです。システムは、三つの要素で構成されます。 ・看護問題(患者さんが抱えている問題やリスクを選ぶ) ・介入分類(その問題に対応した介入を選ぶ) ・評価の分類(介入を評価する) それぞれについて、詳しくお話していきます。 看護問題 『NANDA・NIC-NOC』の問題分類の数は非常にたくさんありますが、オマハの場合は、下図に示すように問題数自体が全部で42個です。 一人の人間が持つ色々な課題型を42個で表現しているという意味では分かりやすいと思います。 介入分類 私たちが利用者さんに対して行う介入は、大きく以下の4種類に分けられます。 ・直接何かをするケアの介入 ・直接その利用者や家族に指導して覚えてもらうという介入 ・観察をする介入 ・ケアマネジメントという介入 この中で特徴的で私が大好きなのが、「ケアマネジメントという介入」です。 直接介入はしていなくても、調整という介入を行っているということを、オマハシステムでは介入として記述ができるんですね。 具体的には、ケアマネージャーさんへの相談、福祉用具屋さんとの調整、薬局薬剤師さんと情報共有をしての薬のコントロールなども介入として扱われます。見えないケアだったものが、見えるケア、やっているケアとして記述され、さらに評価を行っていくということができるわけです。 ケアマネジメントの介入があることが個人的にオマハシステムの一つの大きな特徴だと思っています。 評価の分類 成果を測るために、私たちが介入したことで利用者さんにどういう変化があったことを評点していきます。基本的にはKBSの3つの側面から行い、5段階で評点します。 ・利用者さんの知識、理解(K) ・利用者さんの行動(B) ・利用者さんの客観的な状態(S) 例えば、認知症は高齢の方がなることが多いため、在宅ケアの介入でやっていきなり症状が改善するということは難しいかもしれない。 これは長期ケア、慢性期ケア、高齢者ケアでは当然起こりうることで、人間やはり老いを重ねていく、あるいは不可逆的な疾患に対して、すべて取り戻すというのは厳しいと思います。この時、状態の効果測定を要介護度などでするのは難しいでしょう。 しかし、状態は下がっていけども、例えば、ご本人がすごく混乱をしていたところから、自分で生活習慣に気づくことができて周辺症状が治る、あるいは苦痛なく楽しく過ごせるようになるかもしれません。 家族が「おばあちゃんなんでこんなことするの!」と怒ってしまい困っていた状態から「これは認知症の症状なんだ」だと理解し、気持ちの整理がついたということがあります。 こういった状況を ・知識、理解(K)が2点から5点になった ・行動(B)が上がった ・でも客観的な状態(S)は下がった と3つの側面で評点することができます。これが長期ケアあるいは在宅ケアの中でも私たちが介入することで変わる成果だと表現ができます。 岩本さんにとって、オマハシステムとは? 岩本: 「システムを使って何かを変えよう」と思っていたわけではなく、「在宅ケアの素晴らしさを証明したい」という気持ちがありました。 そもそもすでに現場では介護職、看護職、訪問診療をやっている医師含め、医療系の職種の皆さん、あるいは地域のお仕事をされている皆さんで協働しながら、日常的に素晴らしい実践があるわけです。 でもそれが中々、伝わらない。マニアックなサービスになっているせいで本当に必要な人に届かない、価値を知られていないためにお金がつかないことが、非常に悔しくて、それが示せるツールがほしいと思いました。 先輩たちが築き上げてきた、あるいは今は皆さんが取り組んでいる素晴らしい実践を本当に価値があることだと表現するためには、データが大事だと私は思っています。 既にある「価値のある実践」を「実際に介護看護在宅医療にとって価値がある」という表現するために、適しているのがオマハシステムだと思っていますし、こういった実践がいろんな人に認めてもらえるようになるといいな、と考えています。 WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師 岩本大希 ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養の中でも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。

インタビュー

ウィル流!ベテランも先輩も支える教育システム

前記事では新人にフォーカスした教育についてお伺いしましたが、先輩看護師やベテラン看護師の訪問看護キャリアをしっかり支援する教育制度もあります。 キャリアを長い目で見て、背中を押してくれる「看護ラダー」や「交換留学」はどんなものなのでしょうか。岩本さんに、引き続きお話を伺っていきます。 独自の教育プログラム 岩本: 多くの臨床現場で基本とされているベナーの「臨床看護実践における5つの能力レベル」と、訪問看護師して私たちが必要だと考えている要素を掛け合わせて、5段階のラダーを作っています。 まず、どんなに病院で経験がある方であっても訪問看護が初めてであれば、ラダー1から始まります。 ラダーの考え方は、タスクベースではなく、「個人と組織の2軸に対する影響範囲」と考えていただくとわかりやすいと思います。 ■個人への影響範囲 「目の前の患者さんに対して良いケアを直接行った」というのは対個人への影響です。このラダーが上がってくると、 ・この患者さんに関わっている家族 ・近隣の住民 ・キーパーソン ・関わる多職種 ・地域全体 に対して、自分自身の看護がどこまで影響を及ぼすつもりで介入や行動ができるか、あるいは実際に影響を及ぼすことができるかと考えられるようになっていきます。 ■組織への影響範囲 「自分自身がとにかく勉強できて、成長できて、熟達できればいい」と個人で完結しているならばラダーはまだ低いです。 ・同僚の人にも自分が得意で相手が苦手な部分であればサポートしよう ・後輩が入ってきたら先輩としてサポートをしよう ・新人が入ってきたら自分が新人を支える先輩を支えよう ・先輩としてそのしくみ全体を支えよう とチーム全体や複数のチームに影響範囲を広げられるようになると、ラダーが上がって行きます。 これは病院のラダーで言えば、新人看護師からプリセプターになり、リーダーといった役割を持ち、主任→師長→看護部長といったように、影響範囲が広がっていくのと似たような考え方かと思います。 ウィルで人気の「交換留学制度」とは? 岩本: 私たちは全国に7拠点ありますが、地域が違うとやはりチームの強み、運営スタイル、利用者属性の偏りなどが異なります。そうすると非常にバリエーションがあって面白いです。 そこに実際に出かけて、他のチームの実践や運営を体験して戻ってくるのが交換留学生制度です。 この交換留学制度は、ラダーが一定以上になった看護師に対し、すべて法人側で費用を負担し、研修として行っています。。留学といっても長い期間ではなくて1泊2日から長くて1週間程度です。 これはとても有効で、ずっと同じチームにいて先輩側になってくると、相談できる相手もだんだん減ってきます。どうやって後輩や周りの人たちを支援していくといいのか、思い詰めて悩みがちになりってしまいます。 そうした時に隣のチームに行って同じような立場の人とディスカッションする、あるいはこんなやり方があるのかと感じて帰って来る。これは暗黙知のシェアと呼ばれますが、そういった体験をして帰ってきます。 ちなみにこれは余談ですが、一番人気の交換留学先は沖縄です(笑) ―そのほかに、社内で取り組まれている学習支援はありますか? 岩本:学習教育に関しては、社内の専門家によるEラーニングを展開しています。こちらがその内容の例です。 ・精神看護の専門看護師による「在宅ケアでの精神看護」 ・小児看護学における博士課程進学者による「在宅ケアでの小児看護」 ・家族支援の専門看護師による「在宅ケアでの家族支援」 ウィルでは社内の専門家にコンサルテーションの依頼やウェブ上で地域に関係なくいつでも相談やディスカッションが行えるしくみも整えています。実際に現場に一緒に出かけて、看護実践について迷っていることの支援することもあります。 WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師 岩本大希 ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養の中でも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。

コラム

訪問看護の組織・現場でリーダーシップを発揮するために必要な3つのポイント

リーダー、主任、師長、係長など看護師の中にもリーダーシップが求められる立場・役割があります。そして、それは訪問看護のような小さな組織の中でも必ず必要となってきます。 リーダー次第で組織の雰囲気、機能性は大きく変わります。現在、私自身は看護師15名、リハビリ職5名程度の訪問看護ステーションで働いており、中間管理職としてリーダーシップを常に意識しています。 今回はこれまで関わってきた上司のリーダーシップを見て、学び、私自身も実践している3つのポイントをお伝えできればと思います。 ①掲げる まずこの組織、グループ、個人が何を達成するために存在するのか、その目標を掲げることが求められます。ゴールはどこなのか?人は目標・ゴールが分かることで頑張ることができます。 逆に方向性が決まらず、とりあえず頑張れ!と言われると、不信感や疲弊につながります。定性的・定量的に目標を設定し、その目標を互いに共有することが大切です。 ②決める 会議やカンファレンスの場面で「結局どうするの?」となることがあります。メリット、デメリットや情報だけ並べて、最終的な決断がないという場面。こういうときにリーダーには決めることが求められます。 組織の意思決定の場面で正解も不正解もないです。①で決めたゴールを判断基準にベターな選択を決めること、そして、決めたことを正解にしていくことが大切です。 ③伝える 目標を掲げ、方向性を決めたら、達成に向けて言葉で伝える、伝え続けることが求められます。伝わっていると思い込むことで気づかない間に方向性がバラバラになっていることがあります。 訪問看護の組織ではそれぞれ看護師が訪問に出てしまい、全員で集まる機会が少ないです。伝えられる機会を意図的に作ることが大切です。 さいごに 今回お伝えした3つのポイントは組織のリーダーでなくても、例えばプリセプターとして後輩指導するときや多職種カンファレンスで恊働する場合など多様な場面で応用が可能です。 今の自分に照らし合わせて「掲げる・決める・伝える」この3つを意識して行動してみてください。皆さんの組織・現場での活動がより円滑に進む一助になれば幸いです。 藤井 達也 地元名古屋の大学を卒業後、聖路加国際病院の救命救急センターで看護師として働き始める。高齢者の最期の在り方について疑問を抱く中で、より深く意思決定の場面に関わっていきたいと考え、訪問看護の道へ。現在はウィル訪問看護ステーション江戸川にて訪問看護師として働きながら、教育、採用、管理業務の一端も担っている。

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