初めての訪問看護に関する記事

特集
2022年1月18日
2022年1月18日

副腎白質ジストロフィー

副腎白質ジストロフィーは、中枢神経系と副腎に障害を起こす難病です。脱髄に起因する症状と、副腎機能不全による症状があります。 病態 副腎白質ジストロフィーは、中枢神経系と副腎に障害を起こす、主に男性にみられる遺伝性疾患です。中枢神経系の障害としては性格変化や知能低下など、副腎の機能不全では、無気力、体重減少、低血圧、色素沈着などの症状が起こります。 小児大脳型、思春期大脳型、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、成人大脳型などの病型があり、発症年齢や症状、経過、予後は異なります。いずれの病型でも、全身の組織で「極長鎖脂肪酸」と呼ばれる特殊な脂肪酸が増加することが特徴です。特定の遺伝子(ABCD1遺伝子)の変異が原因であることはわかっていますが、遺伝子変異と病型、発症年齢との相関がみられず、他の要因の関連も考えられています。 病因となる遺伝子は、性染色体のX染色体上にあります。男性はX染色体を1つ、女性は2つ持っています。病因遺伝子があると、男性はX染色体が1つしかないため発症しやすく、女性では1つのX染色体に病因遺伝子があっても、もう1つX染色体があるため、多くは症状が出現せず、保因者となります。保因者の女性から病因遺伝子が子どもに伝わる確率は2分の1です。 疫学 男性2~3万人に1人程度の割合で発症し、それとほぼ同数の女性の保因者がいると考えられています。発症年齢は病型によって異なりますが、2歳~成人期で報告されています。小児慢性特定疾病と指定難病の対象です。 症状・予後 主な症状 小児大脳型最も多い病型。3~10歳に発症。注意欠陥多動障害や心身症に似た性格・行動変化がみられ、視野狭窄や斜視など視力や聴力の低下、知能障害、下肢がつっぱる痙性対麻痺などの歩行障害などがみられる。数年で植物状態に至ることが多い。思春期大脳型発症年齢は11~21歳。症状や経過は小児大脳型とほぼ同じ。副腎脊髄ニューロパチー(AMN)10歳代後半~成人で発症。痙性対麻痺で発症し、ゆっくり進行する。軽い感覚障害があることが多く、ほかに軽度の末梢神経障害、膀胱直腸障害、陰萎(インポテンツ)を伴う場合もある。成人大脳型性格変化、認知症、社会性の欠如や精神病に類似した症状で発症し、急速に進行して植物状態に至る。小脳・脳幹型歩行障害や四肢協調運動障害などの小脳失調、下肢のつっぱりなど、脊髄小脳変性症に似た症状がみられる。アジソン型副腎不全症状のみが出現し、神経症状はない。無気力、食欲不振、体重減少、皮膚の色素沈着など。女性発症者女性保因者の一部では、AMNに似た症状がみられることがある。 小児大脳型、思春期大脳型、成人大脳型は治療しない場合、多くは急速に進行して1~2年で寝たきり状態になります。他の病型から大脳型に移行し、急速に病状が進むことがあります(女性発症者を除く)。女性の保因者では普通は症状が出ませんが、一部では加齢とともに軽度の歩行障害などを伴うこともあります。 治療法 小児大脳型や思春期大脳型の発症早期で、造血幹細胞移植の有効性が報告されています。ただ、症状が進行していると増悪することがあり、移植に伴う合併症リスクもふまえて慎重な適応が求められます。 ロレンツォオイル(オレイン酸:エルカ酸=4:1)投与と低脂肪食の服用で、極長鎖脂肪酸を正常化することがわかっていますが、発症した神経症状を抑える効果は乏しいと報告されています。 AMNや女性発症者の下肢の痙性対麻痺症状には、抗痙縮薬の服用や理学療法が早期に開始されます。 副腎不全は生命予後にもかかわるため、定期的な副腎機能検査と、必要に応じてステロイド補充療法が行われます。 リハビリのポイント ●AMNや女性発症者の下肢の痙性対麻痺には、リハビリも有効とされている●歩行障害に対するバランスや歩行の訓練、寝たきり状態の関節可動域の訓練など状態に応じたリハビリを行う 看護の観察ポイント 医師と連携して病型に応じて予後を予測し、適切なタイミングで介入することが求められます。一般的に手厚い介護が必要となるため、家族の介護負担への配慮、介護を支える社会資源の紹介、レスパイトケアへの橋渡しなどの支援も大切です。 ●症状の状態・程度の変化●本人・家族の日常生活での支障●体を動かすなど、残された機能を維持する対応●家族の介護負担など 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『副腎白質ジストロフィー(指定難病20)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/186〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『副腎白質ジストロフィー(指定難病20)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/329〇日本先天代謝異常学会.『副腎白質ジストロフィー(ALD)診療ガイドライン2019』東京,診断と治療社,2019,51p.

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2022年1月11日
2022年1月11日

【セミナーレポート】訪問看護師の悩みに回答! 浮腫ケアについてのQ&A

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。 セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。最終回の今回は、Q&Aセッションの内容を一部公開します。 >>今までの記事はこちら【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア -原因とアセスメントについて-【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア-在宅看護で行う浮腫ケアの基本- 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 Q1 水疱ができた場合の対策について 【質問】水疱ができた場合の対策について教えてください。ドレッシング剤で保護した場合、内腔の浸出液は自然吸収を待つ方が良いでしょうか? 【回答】水疱に対してはドレッシング剤貼付後、低圧での圧迫をします。内腔の浸出液は自然のままにしています。医師から酸化亜鉛を含む軟膏を処方されることもあります。水疱が破れてしまった場合は、蜂窩織炎などの感染に注意が必要です。リンパ漏になってしまったら軟膏を塗り、ドレッシング剤で保護したあとオムツで圧迫をしています。 Q2 静脈性潰瘍でリンパ漏がある場合の痒みについて 【質問】静脈性潰瘍でリンパ漏あり。筒状包帯を使用していますが、痒みがでてしまいます。何か対策はないでしょうか? 【回答】静脈性潰瘍はもともと痒みを伴うことが多いです。うっ滞性の皮膚炎かもしれないので、まずは、主治医や皮膚科医に診てもらう方がよいかと思います。 下肢全体の痒みの原因として筒状包帯が肌に合っていない可能性も考えられます。パイル地の筒状包帯を試してみてください。 Q3 蜂窩織炎が治っても浮腫がひどい場合、足浴は効果的? 【質問】リンパ浮腫から蜂窩織炎になった方を担当しています。蜂窩織炎が治ったあとも浮腫がひどい場合、足浴は効果があるのでしょうか? 【回答】蜂窩織炎を起こしたことで浮腫がひどくなったのだと思います。炎症が起きているときにドレナージなどのマッサージは禁忌ですが、低圧の筒状包帯は良いと言われています。炎症反応が落ち着いたら圧迫を開始してください。 足浴は、清潔を保持して白癬による蜂窩織炎の再発を防ぐためには有効です。 Q4 低アルブミン血症で肥満、自己管理意欲も低いケース 【質問】左麻痺があり、両下肢浮腫がひどく、水疱・潰瘍ができている方の傷洗浄を担当しています。低アルブミン血症ですが、体重は83kgで肥満もあります。自己管理意欲も低い状態。食事指導は何からしたらいいのでしょうか。 【回答】低タンパクだと筋肉も減少しますから、タンパク質を摂取して糖質を減らす食事が考えられます。豆類はいいと思います。あと、最近はオートミールをおかゆ状にしたものもおすすめしています。低糖質で、タンパク質・鉄分。食物繊維などをバランス良く摂れるのでおすすめです。 意欲の低さについては、左麻痺があることが影響しているのかもしれませんね。麻痺・低アルブミン・肥満という状態ですから、なかなか浮腫のサイズダウンは難しいかもしれませんが、低圧での圧迫をしてみて、少しでも浮腫が改善されれば意欲がでるかもしれません。 以前、アドヒアランスの悪い患者さんのケースで、浮腫に対して圧迫とマッサージをすることで少し下肢の浮腫サイズがダウンし、それ以来積極的に浮腫ケアをされるようになった経験があります。 浮腫そのものに関しては創傷の処置の上から筒状包帯を使用して圧迫をされるといいと思います。 Q5 筒状包帯などを使用したドレナージ実施時間の目安 【質問】筒状包帯などを使用したドレナージ実施時間の目安を教えてください。 【回答】低圧の筒状包帯は、入浴のとき以外24時間装着していてかまいません。ドレナージを実施する場合は、病院の外来では皮膚硬化部をほぐす工程を含めて40分くらい行いますが、訪問においては20分程度になるかと思います。 Q6 リンパ浮腫の改善を促す内服薬はある? 利尿剤は使う? 【質問】リンパ浮腫の改善を促す内服薬はありますか? 利尿剤は効果的でしょうか? 【回答】リンパ浮腫に有効な薬はありません。全身の浮腫ではないので利尿剤も使用することはありませんが、リンパ浮腫と全身性との混合浮腫ならば有効かもしれません。 Q7 ガードルショーツ着用が習慣化している硬性浮腫の女性のケース 【質問】90代認知症の女性で、昔からガードルショーツを着用するのが習慣です。両下肢に硬性浮腫があるため着用しないほうがよいと思うのですが、なかなか理解が得られない場合、なにか対処方法はありますでしょうか? 【回答】患者さんの多くは、浮腫がひどくなりサイズが大きくなっていくとは思っていないものです。そういった方には、リンパ浮腫がひどくなった下肢状態の写真を見てもらうと少し治療に前向きになられます。 ご相談者の場合は認知症もあるので、ガードル着用を完全にやめることは不可能かもしれません。ショーツと緩めのガードル(大腿への締めつけがなく、下腹部は圧迫してくれるもの)などに変えるように誘導してみはどうでしょうか。また、皮膚硬化がある浮腫の場合は垂直圧がかかるものがいいので、平編みの筒状包帯を装着したうえで、緩めのガードルを着用するなど試してみてください。 Q8 アロマオイル使用にあたって、主治医の許可は必要? 【質問】アロマオイル使用に関しては、主治医に使用許可を得ていますか? 指示書にも記入いただいていますか? 【回答】医師の許可はもらいますが、指示書への記入はありません。本人もしくは家族に、アロマセラピーは補完代替医療であるということを説明し、同意書をいただいて導入しています。 *** 今回は「浮腫のアセスメントとケア」セミナーの様子をお届けしました。岩橋さんには多数のご質問にも回答いただき、翌日から役立つ内容が盛り沢山だったのではないでしょうか。  次回のセミナーレポートでは11月12日開催の「看取りの作法」の様子を公開します。お楽しみに!  記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月11日
2022年1月11日

【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア-在宅看護で行う浮腫ケアの基本-

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。 セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。第2回となる今回は、浮腫への具体的なアプローチについてご紹介します。 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 まずは「優先順位」を考える 在宅医療で浮腫のケアを行う前提として、もっとも気をつける必要があるのは「血栓」です。血栓がある場合は命にかかわるので、浮腫ケアを始める前に必ずD-ダイマーを確認するようにしてください。在宅ケアでは、優先順位を考えることが大変重要になります。 浮腫のケアで目指すことと、具体的なアプローチ 「QOLが維持でき、心地よく浮腫改善ができる」ことが目標。私が日常的に意識しているのは次の3点です。 浮腫による違和感や疼痛の緩和皮膚損傷や感染の防止継続可能で苦痛を伴わないケア 具体的なアプローチとしては「複合的治療」を行います。すべて事前に医師の許可を得る必要があります。 スキンケアによる創傷・感染予防MLD(用手的リンパドレナージ)浮腫状態に合わせた圧迫療法圧迫下の運動療法(他動運動)QOLを維持し浮腫悪化を防ぐための日常生活指導 1~5について、それぞれどんなことを行うのかについて簡単にご説明します。 スキンケアによる創傷・感染予防 浮腫の皮膚は脆弱で乾燥しやすく、見えない傷が多い傾向にあります。傷つけない・擦らないことを意識して泡で洗浄し、保湿にはアルコール分の低いローションタイプのアイテムを使用します。利用者の方から「市販品ではなにが良いですか?」と聞かれた場合には、乾燥性敏感肌向けのスキンケアや、処方薬と同じ成分が配合されている保湿剤をおすすめしています。清潔の保持を目的とする場合はこれで十分です。 浮腫がひどくなってリンパ小胞やリンパ漏ができた場合は、皮膚障害を拡大させないために感染予防を行います。患部に撥水性の軟膏を塗る→非固着性ガーゼで覆う→オムツで圧迫する、という対応をすることが多いです。 MLD(用手的リンパドレナージ) ドレナージを行っても、浮腫の改善効果としては軽度です。すぐ元の状態に戻りますが、直接患肢に触れるという点で「安心感」や「気持ちよさ」を生みます。 ドレナージを行う際にはぐいぐいと圧をかけることはせず、柔らかくタッチングしてください。台所用スポンジのナミナミした面を平らにするくらいの力加減がベスト。末端から中枢に向かって行います。 浮腫増大が進み皮膚硬化が起こっている場合には、少し強めの力でほぐすこともあります。また、リンパドレナージを行うにあたっての不要な体位変換は避けてください。 浮腫状態に合わせた圧迫療法 圧迫療法を行うには圧の勾配を作って弾性包帯を巻く必要があり、技術習得が必要なため、在宅看護での圧迫療法は難しい傾向です。 導入しやすいのは、インジケーター付きの弾性包帯や、低圧のチューブ包帯。皮膚が弱い方のために、内側がタオル地になっている製品もあります。皮膚の硬化が進んでいる場合には平編みタイプのチューブ包帯や、マジックテープ付きのタイプが管理しやすいです。 圧迫療法を行う際には以下の点に注意します。 皮膚に痒みや湿疹がないか手先、足先の循環障害がないか(ABI 0.7未満)末梢神経障害がないか食い込みやシワによる疼痛を感じていないか胸水、腹水貯留の場合は体液還流に注意 とくに、食い込みやシワが起こると浮腫が悪化したり、傷ができたりすることもあるので注意が必要です。食い込みを予防するために、パッティング材を使用することもあります。 圧迫下の運動療法(他動運動) 筋肉の収縮と弛緩によるポンプ作用で、リンパの流れが促進されます。ここで重要なのは疼痛を与えないこと。そのために、可動域を考えながらの他動運動が有効です。具体的には上半身であれば、手指屈伸・手関節底背屈・肘屈伸・肩関節回旋などを行います。下半身であれば、足関節底背屈・膝関節屈伸・股関節回旋などが中心。私たちがサポートを行い、関節を動かしていきます。 また、深呼吸をすることでもリンパの流れが促進されます。利用者の方ご本人でできることとして、深呼吸をおすすめしています。 QOLを維持し浮腫悪化を防ぐための日常生活指導 利用者の方や利用者家族の方に、次のようなポイントに注意するよう指導しています。 安楽な体位の工夫 患肢を10cm~15cmほど挙上することをすすめています。包帯が食い込まない体位を保つ長時間の下肢下垂は避ける感染防止のため皮膚を傷つけない熱を持って赤くなってきたら炎症の可能性があることも伝えます。着衣による締め付けを避けるとくに、下着、パジャマ、オムツなどのゴムによる圧迫に注意が必要です。低栄養状態/肥満への注意安全な移動浮腫増大により関節可動域が制限されるため、転倒の危険があります。環境調整疲労を避ける 総括 もっとも重要なのは、一人ひとりに合わせたケアを行うことです。標準的な治療が現実的でない利用者さんであれば、浮腫軽減だけを目的とするのではなく、心身の状態を把握して、安全で緩和的なケアを中心に行うのが良いと思います。心に寄り添いながら浮腫による違和感や皮膚の張り感などの緩和を行うことで、心身の快適性を改善し、QOLの向上につなげてあげてください。 *** 次回はQ&Aセッションの内容を一部公開します。>>【セミナーレポート】訪問看護師の悩みに回答! 浮腫ケアについてのQ&A 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年1月11日
2022年1月11日

口腔ケアと全身の関連

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。第1回は、口腔の衛生・機能への介入が全身状態を改善させた事例です。 歯科衛生士は口腔管理のプロフェッショナル 私は現在、歯科衛生専門学校の講師として「チーム医療演習」「口腔リハビリテーション」を教えるかたわら、東京都世田谷区の多機能型クリニック歯科室「さくら中央クリニック」に非常勤で勤務し、要介護者の歯科治療や摂食嚥下リハビリテーションに従事しています。このシリーズでは、口腔ケアの大切さとその手法などについて、実例を紹介しながら解説していきます。 「歯科衛生士という仕事は何か?」と患者さんや看護師に尋ねると、「歯磨き(口腔ケア)を教えてくれるプロ」「歯石を取る仕事」などが返ってきます。でも、口腔ケアにも種類があります。 一般に、歯科医師・歯科衛生士が行うケアは、専門的口腔ケア。患者本人や看護師・介護職が行う口腔ケアは日常的口腔ケアと、区別されます。 専門的な口腔ケアには、口腔の周囲にある筋肉へのアプローチなど、安全な食へ導くためのケア(摂食嚥下リハビリテーションを含む機能的口腔ケア)も含まれます。つまり、歯科衛生士はリハビリテーションにかかわる職種なのです。 私が所属している一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会は、学会員の約2割が歯科衛生士です。同学会では学会指定の研修を受講後、入会後2年以上を経過すると学会認定士受験資格が得られます。私も受験し、摂食嚥下リハビリテーション認定士を取得しました。 このように、歯科衛生士の仕事は、口腔衛生と口腔機能、両面からの口腔管理なのです。 肺炎が約半数に激減! 命を守る口腔ケア 口腔ケアをないがしろにすると全身状態に影響を及ぼすことは、訪問看護師の皆さまもご存じかと思います。 なかでも歯周病菌群は、嫌気性菌であることと、血管を詰まらせてしまうという特徴から、糖尿病と歯周病との相互関連をはじめ、狭心症など重篤な疾患の原因菌であると認識されています1)。 米山武義先生の研究2)では、週に1回、2年間、歯科専門職が全国の介護施設に赴いて専門的口腔ケアを行ったグループと、日常的口腔ケアのみのグループとを比較したところ、前者の発熱発症率、肺炎罹患率、肺炎死亡率が、すべて約半数だったことがわかりました。高齢者の死因の常に上位にある肺炎を、専門的口腔ケアが予防する。つまり、口腔ケアが命を守ることに関与できることの、裏づけとなる研究でした。 また、飯島勝矢医師(東京大学高齢社会研究機構)は、「オーラルフレイル(飲み込みづらいなど、口腔機能の軽度の衰え)と、口腔や歯に対する意識低下が放置されると、全身のフレイルや要介護状態につながりかねない」とする知見を述べています。 このように近年、要介護高齢者の口の健康の大切さがいっそう叫ばれるようになったのは、たいへん喜ばしいことです。 このような多くの先行研究に支えられ、私は居宅療養管理指導の一員として、長年要介護者の口腔ケアにたずさわってきました。今回は最後に、そのなかでも記憶に残る症例を紹介します。 【事例】胃瘻でも口腔リハで咳嗽反射が改善 Aさん、女性、80歳。介護度5。胃瘻、心筋梗塞ほか既往あり。自宅で家族の手厚い介護を受けていたが、心臓発作を起こし救急搬送。無事に手術を終え、回復期病院で退院を心待ちにしていた。しかし発熱が続いたため退院は延期に。娘さんが、入院中も口腔ケアの存続を望まれ、かかりつけ歯科医への依頼となった。 入院前からAさんの口腔ケアに訪問していた私は、かかりつけ歯科医師とともに病院へ向かいました。 胃瘻であっても口腔ケアは欠かせません。私はAさんに、歯磨きと、経口摂取へ導くための摂食嚥下リハビリテーションを、20分ほど行いました。 Aさんの口腔ケア・口腔リハビリ前後の表情の変化 口腔ケア・口腔リハビリ前 口腔ケア・口腔リハビリ後 口がしっかり開き、頬が紅潮しているのがわかります。 その夜、娘さんから電話がありました。 「山田さん、今日も母のところへ行ってくださったのよね。でも母の口の中に、びっくりするくらい痰がたまっていました」 それは、口腔のリハビリやケアでの刺激によって、咳嗽反射が改善し、喉の奥の汚れが口へと出てきた結果でした。ご自分で痰を吐き出せるようになったのはよいことです。 やがてAさんは熱も下がり、数日後に無事に退院されました。もちろん体調によっては、すぐにこのような反応がみられないことや、熱が下がりにくいこともあるでしょう。しかしAさんの場合、歯科衛生士や娘さん、介護職がふだんから口腔ケアを行い、その重要性を認識しており、娘さんが病院での歯科の介入を強く要望したことが奏効したと思います。 次回のテーマは、「義歯」です。 注:居宅療養管理指導では病院に訪問することは通常できません。しかし入院した回復期病院に歯科医は不在で、娘さんが自宅で行っていた専門的口腔ケアを強く望まれたことで実現しました。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)山田あつみ.『介護現場で今日からはじめる口腔ケア』飯田良平監.大阪,メディカ出版,2014,71-5. 2)米山武義ほか.『要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究』『日本歯科医学会誌』20,2001,58-68.

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2022年1月6日
2022年1月6日

【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア -原因とアセスメントについて-

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。 セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、浮腫の基本についてご紹介します。 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 浮腫のメカニズム 血液は、心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓と循環します。浮腫との関連を考えるうえで鍵となるのが「毛細血管」。動脈側の毛細血管から出た水分は「間質液(組織間液)」として酸素や栄養を細胞に運び、二酸化炭素や老廃物を受け取って静脈側の毛細血管へと再吸収されます。1日あたりの「間質液(組織間液)」量は約20L。そのうち約80~90%(16~18L)は「毛細血管」に再吸収され、残り約10~20%(2~4L)は「毛細リンパ管」に吸収されリンパ液になります。 この「毛細リンパ管」は心臓の拍動の力を受けておらず、周囲の筋肉や呼吸、腸の動きや血管の拍動などの力を借りて動いています。血液は循環するのに対して、リンパ系の流れは一方向。毛細リンパ管は皮膚のすぐ下から始まっていて、毛細リンパ管→集合リンパ管→リンパ本幹→左右の鎖骨下静脈と内頸静脈の合流地点(静脈角)へと運ばれるのです。 浮腫は「間質液(組織間液)がなんらかの原因によって、異常に増加・貯留した状態」になることで起こります。 浮腫の種類とその原因 どのようなメカニズムによって起こるのか次第で、浮腫は5つに分けられます。それぞれの浮腫とかかわりが深い疾患などについてみていきます。 毛細血管内圧上昇による浮腫 毛細血管内圧が上昇する原因として、以下の疾患との関連が考えられます。 DVTや静脈瘤などの静脈弁機能不全心不全腎不全 また、特定の薬を飲むことや加齢によっても血管内圧は上昇し、浮腫の原因になります。具体的には以下です。 薬剤性浮腫高齢者の下肢下垂による下腿浮腫 など 膠質浸透圧低下による浮腫 タンパク質によって起こる浮腫です。タンパク質には水を吸収する働きがありますが、アルブミン濃度が低下すると水を引き込む力が弱くなり、間質に浮腫が出やすくなります。 肝硬変肝不全ネフローゼ症候群 などとの関連が考えられ、栄養失調によっても膠質浸透圧低下が起こります。 血管透過性亢進による浮腫 体内で炎症が起きることによって、プロスタグランジンなどの炎症性物質が合成されて起こりやすくなるのが透過性の亢進です。具体的には以下のような原因が考えられます。 炎症アレルギー火傷 など リンパ管機能障害による浮腫 リンパの流れが悪くなることで起こる浮腫。その原因としては以下のようなケースが考えられます。 リンパ節郭清術後悪性腫瘍リンパ節転移悪性リンパ腫甲状腺機能低下症 組織圧低下による浮腫 皮膚の弾力が落ちることによって組織圧が低下します。その結果、皮膚の薄いところ(顔面、眼瞼、足背、外陰部など)に浮腫が生じやすくなります。高齢者に起こりやすい傾向です。 浮腫のアセスメント 在宅医療における浮腫ケアでは、利用者の方にとっての優先順位を考えると同時に、利用者本人のニーズにあわせたアプローチが必要です。その前提として、利用者・利用者家族との十分なコミュニケーションにより、浮腫の理解とニーズを評価する必要があります。 ここでは、アセスメントにおいて注目すべき点をご説明します。 既往歴の確認 悪化原因となる基礎疾患を理解するために有効です。悪性腫瘍の場合は、まずリンパ浮腫を疑います。 ✓ 心臓、腎臓、肝臓、内分泌(甲状腺)疾患✓ 悪性腫瘍  手術の有無、化学療法・放射線治療を行っているかについて確認します。✓ 内服薬、アレルギー  薬剤性の浮腫の可能性を探ります。 全身状態の観察 輸液がある場合は尿量に対して過剰輸液がないか、また、炎症の疑いがないかなどについて確認します。浮腫の圧迫療法を想定している場合は、知覚神経障害がないかどうかの事前確認も重要です。 ✓ 水分出納  尿量変化がある場合は、腎疾患を疑います。✓ 発熱、発汗、疼痛  炎症を疑います。✓ 知覚、神経障害の有無  浮腫の圧迫療法を想定し、神経への湿潤について事前に確認します。✓ 体重増加  脂肪細胞が増加すると浮腫の原因になるため、肥満の方の場合減量を指導することもあります。✓ 食欲不振、下痢、嘔吐  タンパク質の損失や、カリウム、ビタミンB₁不足を疑います。✓ 動悸、呼吸困難、起座呼吸  心疾患がないかどうかを確認します。✓ 運動機能  筋肉の衰えによってポンプ機能が落ちていないかどうかを確認します。 浮腫が起こりやすい生活をしていないか ✓ 長時間の下腿下垂がないか✓ 運動不足になっていないか という点について確認します。高齢者の場合は介護状況についても確認します。 浮腫の状態 ✓ 浮腫範囲  全身or局所、顔・四肢・体幹・生殖器への出現の有無、抹消or中枢、という視点から確認します。✓ 出現はいつからなのか✓ 出現の速さは急激か緩徐か  静脈系の場合は急激に起こるケースが多いです。✓ 持続性、一過性、日内変動の有無  心不全の場合は夕方に浮腫がひどくなる場合があります。 皮膚の状態 浮腫のケアが行えない状態ではないか? という点について事前に確認を行います。 ✓ 蜂窩織炎(色調、熱感)、創傷の有無(褥瘡、潰瘍)、リンパ小疱、リンパ漏など✓ 圧痕テスト、皮膚の硬さ(シュテンマサイン、肥厚テスト) 環境の確認 ✓ 患者、家族の浮腫への理解度とケアの希望✓ 家族協力の有無 サイズ測定 増大と減少をみるために測定していきます。 臨床検査 ✓ 血液検査  D-ダイマー、CRP、白血球数、貧血、アルブミンを確認します。✓ 静脈ドップラースキャン✓ 腹部超音波  肝転移や腹水の有無を確認します。✓ CTスキャン  下大、上大静脈の近位部に血栓が起こっていないかどうかを確認します。 次回は「在宅看護で行う浮腫ケアの基本」についてお伝えします。>>【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア-在宅看護で行う浮腫ケアの基本- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年1月6日
2022年1月6日

認知症のある患者さんが「転んだけど大丈夫」と話している場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第1回は、認知症がある患者さん。家族から「転んでしまったようです」と知らせがありましたが、本人は「大丈夫」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 中等度の認知症がある91歳の女性。家族から、「朝、トイレに行ったときに転んでしまったようなんです。布団までは這って戻ったようですが、確認しても『大丈夫』と言い張るばかりで」と相談を受けました。女性は布団に入ったままです。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 転倒後のアセスメントが必要になります。 転倒した場面を誰も目撃していないようです。どの部位にどの程度の障害があるかわかりません。転倒後の障害では、打撲、捻挫が一般的ですが、まれに骨折や頭蓋内血腫のような重症になる場合もあります。 高齢者は、筋力やバランス機能、視力が低下しており、転倒のリスクが高いです。また、失神を起こして転倒することもあります。 高齢者では、骨密度が低下しているために骨折につながりやすく、容易に重症になります。客観的なデータ、普段との様子の違いを、転倒と関連させて意識的にアセスメントすることが重要です。 ここに注目! ●布団から起き上がらない原因は、骨折による痛みや運動障害、頭を打ったことによる意識レベルの低下の可能性があるのではないか?●「大丈夫」という言葉はあるが、認知症があることから自覚症状の訴えが乏しいかもしれない。●そもそも、なぜ転んでしまったのか? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・転倒時の様子(どこで転倒したか、どこを打ったか、転倒のきっかけ、転倒時のことを覚えているか、など)・筋骨格系の症状(出血、痛み、腫れ、発赤、動かしにくい、動かない、など)・頭蓋内出血に伴う症状(頭痛、頭重感、嘔吐、言葉が話せない、会話が成り立たない、ろれつが回らない、麻痺、脱力、歩行障害、軽い意識障害、物忘れ、認知症が急に進んだように感じる、など)・活動、ADL(痛みや意識レベルの低下によりいつもできていたことができない、活動量の減少)・転倒した原因(最近いつもと違うと感じたことはなかったか、一過性のものも含めた意識レベルの低下、ふらつきや足の上がらない感じ、薬剤の使用、など) 客観的情報の収集 頭部の視診 頭部の出血や皮下血腫(たんこぶ)がある場合は、頭を打っている可能性が高いといえます。鼻汁・鼻出血や、耳垂れ・耳からの出血がある場合、頭蓋内で出血が生じている可能性が高まります。 意識レベル 頭を打った場合、急性硬膜下血腫を起こす危険性があります。元気がないなどのパッと見た様子から、JCS(Japan ComaScale)にあらわれるような変化までを、丁寧にみてください。徐々に進行する(2週間~6か月に至る)場合もあるので、継続的な観察が必要です。 視野の確認 頭蓋内の出血により、物が二重に見える、視界がぼやける、視野狭窄などの症状があらわれる場合があります。疑わしい症状があった場合は、確認したほうがよいでしょう。片目を覆ってもらい、片目ずつ、瞳を動かさないようにしてどのあたりが見えにくいのか、指を使って見える範囲を確かめます。 四肢の皮膚 視診と触診で、出血や皮下出血(紫斑)がないかを確認します。骨折がある場合は、関節が不自然に曲がっていたり、発赤や強い腫脹がみられ、圧痛と熱感があります。 関節可動域、筋力 自力で動かせるのか、痛みはないかを確認しながら可動域を確かめます。自力で動かせない、または動かさない(指示に従えない)場合は、看護師が動かします。疼痛の訴えがないか、表情に変わりはないかを観察しながら行ないます。骨折がある場合は、動かすことで悪化する可能性があります。無理をさせないようにしましょう。 立位保持・歩行状態の観察 立位をとれる・歩行できる状態であれば、安全を確保しながら、その様子を観察してください。立位保持とバランス維持をみるために、足を閉じて立っていられるかを、開眼時と閉眼時とで確認します。20秒以上姿勢を維持できれば正常です。高齢者ではもともと完全にできない場合もあるので、転倒前の状況と比較しましょう。 ふらつきがあるようなら、小脳や位置覚の障害があるかもしれません。再転倒のリスクが高いので、転倒の原因のアセスメントにもなります。 報告のポイント ・転倒し、転倒時の様子を誰も見ていないこと・頭蓋内出血の可能性の有無と症状・骨折など、重症な筋骨格系の障害の可能性の有無と症状・転倒の原因の推測。失神、麻痺、小脳や位置覚の障害によるものではないか ** 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年1月6日
2022年1月6日

前頭側頭葉変性症

前頭側頭葉変性症は、人格変化をきたすことが多い難病です。記憶障害など認知症に特徴的な症状がある場合は、前頭側頭葉型認知症ともいわれます。 病態 前頭側頭葉変性症は、認知症の原因疾患の一つとしても知られます。名前のとおり、大脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が変性し、失われていく疾患です。 前頭葉は、情報の整理・判断、理性や行動抑制にかかわる脳の司令塔です。側頭葉は、感情と、視覚・聴覚・言語機能にかかわります。前頭側頭葉変性症では前頭葉と側頭葉が萎縮するため、認知機能障害をはじめ、人格変化や行動障害、失語症、運動障害などの、広範囲の症状がみられます。 神経細胞の変性は、異常なたんぱく質の細胞内への蓄積によるものとされていますが、なぜそうした現象が起こるのかはわかっていません。 欧米では前頭側頭葉変性症において3~5割の頻度で家族内の遺伝が認められていますが、日本ではほとんど確認されていません。 疫学 40歳から64歳までの若年期に発症することが多いのが特徴です。65歳未満に発症する若年性認知症のなかでは、前頭側頭葉変性症の割合が高いことが知られています。 国内には1.2万人程度の患者がいると推定されていますが、診断が難しいこともあり、前頭側頭葉変性症と診断がついていない人も多いと考えられています。2019年度末時点での前頭側頭葉変性症での受給者証所持者数は1,000人程度です。年齢別にみると60歳代がピークです。 症状・予後 若年での発症が多く、人格変化・行動障害や言語障害が主な症状です。 人格変化・行動障害の症状例 ●社会的に不適切な行動をとる、礼儀やマナーが失われる、衝動的に行動するなど抑制がきかなくなる。そのため、万引きや盗み食いなどの反社会的行動をとることもある●周囲や自分への関心の低下、自発性の低下●共感や感情移入ができなくなる●同じ行動や言葉を繰り返す(常同行動)。いつも同じ時間に同じ行為を行う(時刻表的生活)、毎日必ず決まったコースを散歩する(常同的周遊)など●食事や嗜好の変化。過食になり、濃い味つけや甘いものを好むようになるなど 言語障害の症状例 ●富士山の写真を見ても、山であることはわかっても富士山と認識できない(意味記憶障害)●信号機を見ても「信号機」と呼称できないなど、言葉の意味や物の名前などの知識が失われる(意味性失語)など 認知機能障害もみられますが、発症年齢が若く、物忘れよりも上記の二大症状が主体になるため、認知症(前頭側頭葉認知症)とは気づかれず、診断が遅れることも少なくありません。 そのほかに、震え、動作緩慢、関節拘縮、易転倒性などのパーキンソン症状や、筋力低下、筋萎縮、四肢の突っ張りなどの運動ニューロン障害を伴うケースもあります。これらの症状は嚥下機能障害や寝たきりにもつながります。運動ニューロン障害では呼吸筋麻痺が出ることもあり、注意が必要です。症状はゆっくり進行し、報告によると発症からの平均寿命は行動障害型で約6~9年、意味性失語型では約12年です。 治療・管理 根本的な治療法はありません。治療は対症療法が中心です。行動障害には、抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が一部有用との報告があります。認知機能障害に対しては、アルツハイマー型認知症に使用されるコリンエステラーゼ阻害薬は、一部の症状を悪化させることもあるため、服用中は観察が必要です。行動異常に関しては、これまでの生活様式や維持されている機能を生かすことで軽減できる場合もあります。患者それぞれの症状への理解を深め、家族が適切な対応方法を学ぶことは負担軽減のうえでも有用です。 若年での発症が多いため、仕事や育児、経済面など、さまざまな部分に影響がおよびます。複数の社会資源の調整が必要で、行政も含め多職種との連携が重要です。 リハビリテーションのポイント ●筋力低下や転倒しやすさなどがある場合は、機能維持を目的としたリハビリも大切●転倒しやすい場合は、室内の物を片づける、家具などの角にカバーを付けるなど、けが予防策を講じる●嚥下機能障害には嚥下リハビリや食形態の工夫などが有効 看護の観察ポイント ●転倒しやすいなど運動障害の有無●転倒によるけがを防ぐ環境整備●症状の変化・新たな症状の出現●日常生活やセルフケアで本人や家族が必要としている支援●嚥下障害、誤嚥性肺炎を疑う症状●家族の疾患に対する理解度●家族の介護負担など ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『前頭側頭葉変性症(指定難病127)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4841〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『前頭側頭葉変性症(指定難病127)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4840〇「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会編.『前頭側頭葉変性症』『認知症診療ガイドライン2017』東京,医学書院,2017,263-80.〇祖父江元ほか監修.『前頭側頭葉変性症の療養の手引き』島根,「神経変性疾患領域における基盤的調査研究」班,2017,71p.

コラム
2021年12月28日
2021年12月28日

訪問看護師 兼 ヘルパー 最強説!

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。訪問看護師と一言でいっても、その働きかたはいろいろあるのです。 皆さんはなぜ、訪問看護を選びましたか? 前回までALSにfocusを当てていましたが、今回は訪問看護師にfocusを当ててお話をしたいと思います。 このコラムを読んでくれている訪問看護師の皆さんは、なぜ訪問看護師の道を選んだのでしょうか。 多くの方は、病棟勤務を経て訪問看護の道に進むと思いますが、 病棟勤務に疲れたから? 家庭ができて夜勤が難しくなったから? 確かに病棟勤務の看護師さんは、日勤と夜勤をこなさいといけないので、体力的にもとても大変です。また、人間関係など看護業務以外の問題で病棟を離れる方もいるでしょう。 患者さんの退院後まで考える余裕がなかった 余談ですが、私は大学病院で働いていたころ、皮膚科病棟の病棟チーフをしていた時期があります。病棟に入院している20~30人の患者さん全員の主治医をしていました。 毎日何人もの患者さんが退院し、入院します。そのたびに病歴を把握して治療方針を決めて、何とか良くして退院させることだけを毎日考えていました。月6~8回の当直と、毎日オンコールで24時間何かあったら病院から呼ばれる生活が続きました。充実していましたが、かなり疲れており、正直、退院した後の患者さんの生活まで考える余裕がありませんでした。 ただ、自分が病気になってみて初めて気がつきましたが、私のように、入院期間は病気のほんの一瞬であり、在宅加療がメインである患者さんも多くいます。そういう患者さんの生活を長期的に支えてくれる訪問看護師さんは本当に、大切で、ありがたい存在です。 『病人を診よ』を実現できる訪問看護 大学病院や、急性期患者さんを診る市中病院では、目まぐるしく患者さんが入れ替わります。医師も看護師も「病気」を良くすることを入院期間のエンドポイントと考え、なかなか一人の患者さんとゆっくりと向き合うのが難しいことがあります。 「病気を診るのではなく、病人を診よ」。ナイチンゲールの看護理念に基づく言葉ですが、私は、これが医療の本質だと思います。 今思うと、大学病院で働いていたころの私は、病気を診ることに精いっぱいで、この言葉を実現できていなかったと思います。しかし、これを実現できることが、まさに訪問医療・訪問看護の醍醐味ではないでしょうか。 たとえば私のようなALS患者にしても、症状は皆違うし、病気との向き合いかたや、どのように生きたいかも皆違います。ひとりひとりの患者さんとしっかりと向き合って、患者さんの意思を尊重し、寄り添いながらじっくり看護したいと考え、訪問看護師の道を選んだ人もいるでしょう。 訪問看護師になってみて、皆さんの現実はどうでしょうか? じっくり看護ができて充実していると思えている人もいるだろうし、実際は限られた時間であれもやって、これもやってと、忙しく過ごして、急いで次の訪問先に向かって、じっくり看護ができていないと思っている人も少なからずいるのではないでしょうか。 そこで、「訪問看護師兼ヘルパー最強!」説。 訪問看護師兼ヘルパーさんとのwin-winな関係 今、私のところに、訪問看護師兼ヘルパーさんとして働いてくれている人がいます。その人は、看護師として来てくれて、看護時間が終わったら、そのまま重度訪問介護の枠を使ってヘルパーさんとして入ってくれます。 私にとっては結果的に看護師さんに長時間入ってもらえることになるので、非常に心強い。熱が出たり、急に体調を崩したりしても、その場でバイタルチェックをして、必要であれば主治医にすぐに連絡してくれます。通常のヘルパーさんであれば、まず訪問看護師さんに連絡して、看護師さんの判断を待ってから主治医に連絡する流れになるので、その一手間を省けるのはとても大きいのです。 そして何よりも、長時間一緒にいるので、お互いの信頼関係が作りやすい! その看護師さんも、一か所で長時間働けるので、移動や時間に追われるストレスがなく、ゆっくり看護・介護ができ、働きやすいと言ってくれています。まさにWin-Winな関係。 このように、看護と介護を組み合わせたハイブリッドな事業所もあり、一言で「訪問看護師」といってもいろいろな働きかたがあるなぁと感じたので、取り上げてみました。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2021年12月28日
2021年12月28日

多系統萎縮症

多系統萎縮症とは、以前まで異なる名称で呼ばれていた三つの疾患が、進行すると症状が重複することからこの名前がつけられました。 病態 多系統萎縮症は、神経細胞や、神経軸索をカバーする髄鞘を支える細胞(オリゴデンドログリア)などに、αシヌクレインというたんぱく質が不溶化して凝集・蓄積し、細胞が死んでしまう進行性の疾患です。 以前は、初期症状が小脳性運動失調で始まるものはオリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン症状の場合は線条体黒質変性症、自律神経障害であるものはシャイ・ドレーガー症候群という病名がつけられていました。しかし、進行するとこれらの3つの症状が重複することなどから、「多系統萎縮症」という病名が提唱されるようになりました。 まれに家族からの遺伝例もありますが、ほとんどは単独での発症です。 なぜαシヌクレインが不溶化するのかなど、はっきりした原因はまだわかっていません。 疫学 多系統萎縮症は30歳以降、特に40歳以降に発症することが多いことで知られています。日本では小脳症状で発病するタイプが多いのに対し、欧米人ではパーキンソン症状が前面に出るタイプが多く、人種差もみられます。 2019年度末時点での、受給者証所持者数は約1.1万人です。最も多いのは60歳代です。 症状・予後 主な症状は、小脳症状、パーキンソン症状、自律神経障害です。発病からしばらくは一症状が主体になりますが、進行すると重複します。具体的には次のような症状がみられます。 小脳症状・歩行失調・声帯麻痺・構音障害・四肢の運動失調・小脳性眼球運動障害(眼振など) など               パーキンソン症状      ・筋剛直を伴う動作緩慢・姿勢保持障害・嚥下障害などパーキンソン病でよく生じる振戦などの不随意運動はまれで、進行が速いのが特徴 自律神経障害・排尿障害・便秘・勃起不全(男性の場合)・起立性低血圧・発汗の低下 ・睡眠時障害 など そのほかには、錐体外路症状、首下がり症状などの姿勢異常、ジストニア、睡眠障害、幻覚、失語、失認、失行、認知機能低下などがあります。脊髄小脳変性症やパーキンソン病よりも進行のスピードが速く、日本でのデータによると発症後は約3年で介助歩行になり、約5年で車いす使用、約8年で寝たきり状態になり、9年程度で死亡に至る(いずれも中央値)ケースが多いようです。 なお、多系統萎縮症では、呼吸障害や誤嚥による窒息での突然死がみられることがあります。睡眠中の突然死例が多く、TPPV(気管切開下陽圧換気)を行っていても防ぎきれないこともあります。 治療・管理 根本的な治療法はなく、それぞれの対症療法が中心となります。 パーキンソン症状がある場合は、抗パーキンソン病薬が初期にはある程度の効果が期待できます。ただ、パーキンソン病に比べると効果が出にくいという特徴もあります。 進行するとさまざまな症状が重なるため、全体的に状態は増悪していきます。残存機能を保つためのリハビリテーションも大切です。 嚥下障害が進んだ場合は胃瘻を利用します。睡眠呼吸障害が生じた場合は、CPAP(持続陽圧呼吸療法)が呼吸状態を改善させます。喉頭蓋軟化症などを伴う場合は、CPAPは気道閉塞を悪化させるリスクがあるため、注意が必要です。 呼吸障害がある場合は、NPPV(非侵襲的陽圧換気)導入などを検討します。ただ、多系統萎縮症で人工呼吸管理を選択する患者は、ALSと異なり実際にはとても少ないようです。 リハビリテーションのポイント ●歩行失調や姿勢保持障害など患者の症状に合わせて、転倒・外傷予防のための環境整備や福祉用具導入を検討する●多系統萎縮症に対する理学療法の効果についてのエビデンスはほとんどないが、パーキンソン症状、小脳症状に対応した運動療法を行う●基本動作訓練とADL訓練を組み合わせて集中的に介入する●構音障害には言語聴覚療法が行われる●嚥下障害では、食形態や摂食時の姿勢、食具の見直しなども含めた摂食嚥下リハビリを検討するなど 看護の観察ポイント 同じ病名でも初期症状などが異なるため、医師に症状の見通しや日常生活動作(ADL)への影響などを確認しておく。●転倒・外傷予防のための手すり取り付けや部屋の整理など、環境整備はできているか●転倒やバランスを崩す状況と発生頻度●日常生活やセルフケアに支障をきたしている症状●症状の程度の変化、新たな症状の出現状況●嚥下障害、誤嚥性肺炎を疑う症状がないか●脱水や栄養状態低下の予防対策がとられているか●リハビリなど機能改善の訓練が取り入れられているか●患者・家族が不安やストレスを抱えていないか ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 〇難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/59〇難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/221〇難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『多系統萎縮症(2)オリーブ橋小脳萎縮症(指定難病17)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/60〇難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『多系統萎縮症(2)オリーブ橋小脳萎縮症(指定難病17)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/222〇難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『多系統萎縮症(3)シャイ・ドレーガー症候群(指定難病17)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/61〇難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『多系統萎縮症(3)シャイ・ドレーガー症候群(指定難病17)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/223〇「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編.『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018』東京,南江堂,2018,298p.

インタビュー
2021年12月14日
2021年12月14日

女性が働きやすい社会を後押しするフェムテック

産婦人科医の稲葉可奈子先生に、訪問看護師として働く女性の健康について語っていただきました。 女性の健康課題をテクノロジーで解決 皆さん、「フェムテック(Femtech)」という単語を聞いたことはあるでしょうか。今、働き方改革を進める企業などで注目されている話題のキーワードです。フェムテックとは、女性(Female)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、女性が抱える健康課題を、テクノロジーを活用することで解決するサービスや商品全般を指します。 女性は月経、妊娠、出産、更年期など、一生にわたり女性特有の健康課題を抱えて生きています。これまでは、そうした健康課題 ── とくに月経などは、あからさまに話題にすべきことではないと、タブー視されてきました。女性特有の心身の不調は「理解されなくてもしかたがない」とあきらめる傾向が世界的にありました。 特に日本では、女性の社会進出が遅れたこともあり、かつては仕事を続けながら出産・育児をすることが困難な環境にありました。現在ではかなり制度面が整ったとはいえ、それでもたとえば、産婦人科を受診することに関して、とてもハードルが高いと感じている女性は多いようです。 でも、女性の社会進出が進んできたことを背景に、女性自身も自らの健康に対する意識が変わってきたのではないでしょうか。そこに登場したのがフェムテックです。 女性の意識の変化と同時に、テクノロジーの進化の追い風もあって、フェムテック市場は拡大し、基礎体温や月経周期を管理するアプリを活用する女性も増加しています。 日本でも増えつつあるフェムテックアイテム フェムテックは欧米がリードしており、すでに数多くのフェムテック関連アプリやデバイスが発売されていますが、遅れをとっていた日本でも少しずつ増えてきています。 フェムテックがカバーする領域はとても広く、「月経」「妊娠/不妊」「産後ケア」「更年期」「婦人科系疾患」「セクシャルウェルネス」などにカテゴライズされています。日本でフェムテックアプリの分野に先鞭をつけたのは、2000年に登場した生理日管理アプリでしょう。 直接的なフェムテックではありませんが、女性が働きやすい社会を後押しするアイテムも注目を集めています。 最近では、月経カップがそうですね。経血をカップで受けるもので、カップを折りたたんだ状態で膣内に挿入し、無感覚ゾーンでカップを広げて使用します。経血をトイレに捨てたら、再び膣内に戻します。 また、大手ファストファッション企業が開発元とコラボして販売している生理用ショーツも話題です。ショーツと生理用ナプキンが一体化したもので、普通の日用だとおおよそタンポン2本分くらいの吸収力があります。ナプキンの代わりとしてだけでなく、おりものが多くておりものシートが必要なときや、尿漏れでパッドが必要な場合にも活用できます。「月経ショーツ」というよりも「吸水ショーツ」ととらえていただくと、活用の幅が広がります。 訪問看護師の仕事では、生理中や尿漏れが気になっても、トイレに行くタイミングを自由にとりにくいものです。こういったアイテムも考慮できると思います。 女性の健康課題に社会全体で取り組む時代に フェムテックに限らず、女性が働きつづけやすい環境づくりは、今後社会全体で取り組むべき問題です。 私が啓発活動に取り組んでいる子宮頸がんワクチンも、女性の健康課題解決ツールのひとつと考えてもらいたいですね。小学6年~高校1年の3月までは無料で接種できます。安全性も確認されているので、娘さんをお持ちの方は、ぜひ一度、親子で話し合ってみてください。 日本産科婦人科学会のサイトなど、信頼のおける情報源にあたることが重要です。私が代表を務める「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」でも、子宮頸がん予防やHPVについてわかりやすいパンフレットや動画を作っています。ぜひご覧ください。 フェムテックは女性だけのものではありません。女性の健康課題は、妊娠や不妊がそうであるように、男性にも大いにかかわりがあるのです。 同時に、女性が健康課題に悩むことなく快適に働ける就労環境は、男性社員にも、企業にも、歓迎されるものでしょう。 そのため、近年は企業が女性特有の健康課題に対してアプローチする動きが高まっています。たとえば、「女性向けの健康相談サービス」を福利厚生として導入している企業もあります。これからの時代は、性差や個人を越えて、社会全体でヘルスリテラシーを向上させる必要があるのではないでしょうか。 ** 稲葉可奈子(産婦人科専門医・医学博士)京都大学医学部卒業後、東京大学大学院で博士号取得。現在は関東中央病院産婦人科勤務。四児の母として子育てをしながら、子宮頸がんの予防や性教育など、正しい知識の啓発も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版

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