地域包括ケア

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第2回 生活をよく知る訪問看護師だからこそできること

福岡大学病院循環器内科では、地域の訪問看護ステーションと連携して、心不全患者の急性増悪・再入院を防ぐための取り組みを行って効果を上げています。第1回目は、大学病院と訪問看護ステーションの連携の概要を紹介しました。今回は、患者さん・家族が暮らす生活の場で訪問看護師が行うアセスメントの実際と、大学病院の専門医のサポートの実際を紹介します。 生活の場に密着している訪問看護師への期待 福岡大学病院循環器内科の志賀悠平医師は、「急性期医療を担う大学病院の外来では、多くて月2回、たいていは1~2か月に1回くらいしか患者さんを診ることができません。しかも、私たちは病院に来ている患者さんしか診ていません。お家にいらっしゃる状態というのが見えないため、在宅で食事をめぐる問題や行動面のトラブルが起こっていても把握できません。しかし、訪問看護師さんたちは少なくとも週1回入っていますから、病態の悪化や状態の変化などの細やかなチェックができます。在宅でのチェックにおいては、訪問看護師さんのほうがプロフェッショナルなのではないかと思っています」と訪問看護師への期待の大きさを語ります。 福岡大学病院循環器内科志賀悠平 医師 「病院ではわからない部分を知ることができるのは、私たち訪問看護師の特権だと思っています。患者さんの状態だけでなく家庭内のキーパーソンや家族の支援体制、家屋構造なども、在宅療養における有用な情報です」と博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長は言います。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 何らかの症状があっても「年のせいだから」と見過ごされがち 心不全には、心臓の機能低下によって起こる2通りの症状があります。「収縮機能」が低下することによって全身の臓器に十分な血液が行き渡らないことから起こる症状と、「拡張機能」が弱くなり血液がうっ滞することによって起こる症状の2タイプです。血液が十分に行き渡らなくなって起こる症状には、疲労感、不眠、冷感などがあり、血液のうっ滞によって起こる症状には、むくみ(浮腫)、息切れ、呼吸困難などがあります。 黒木さんは特に『むくみ』には十分に注意するそうです。「通常は足背などを見てむくみの程度を判断しますが、訪問してお顔をみたときに『あれ? ちょっとおかしいな』と感じることもあります」と話します。 特に高齢者では、「収縮機能が保たれた心不全(拡張不全)」が多いことがわかってきています。血液を送り出す力が衰え、静脈や肺、心臓などに血液が溜まりやすくなってしまうもので、通常の検査では見つかりにくいとされています。さらに高齢者では自覚症状がはっきりと現れにくく、何らかの症状があっても「年のせいだから」などと見過ごされがちです。日常生活にいつも接している訪問看護師ならではの『直感』が重視される部分も大きそうです。 むくみのほかには、息切れや呼吸困難感も重要なサインの1つで、軽い場合は階段を上がる際に息切れする程度ですが、進行すると少し歩いただけで息苦しくなると言います。さらに悪化すると、夜寝ているときに咳が出て寝られなくなることもあります。「起座呼吸」にまで進んだ場合は入院が必要と言われています。 患者情報がタイムリーに多職種で共有されるメリット このように、訪問看護師の適切なアセスメントがタイムリーに多職種で共有されるメリットは大きいです。そのためには、ICTにより多職種が情報を共有できるツールの介在が欠かせません。 黒木さんはICTによる情報連携について、「現在は福岡大学病院の志賀先生のところと開業医、私たちの訪問看護ステーション、ケアマネジャーがICTツールでつながっています。私たちは医師とすぐに連絡を取りたいと思っても、この時間は電話してもいらっしゃらないだろうなと躊躇してしまうことも多いです。特に大学病院の先生との連絡ツールとして本当に助かっているので、もっともっと取り入れていきたいと思っています。こうやって即座に連携が取れるということは本当に心強いですね」と話しています。 志賀先生も、「訪問薬剤師と共有ツールでつながっていたこともあります。認知機能に少し障害があって服薬カレンダーをうまく使えず服薬管理ができないケースなどでは、薬剤の適正処方や服薬指導をきめ細かく行うために、薬剤師との情報共有ができて非常に有効でした」と、多職種連携のための共有ツールを高く評価されています。 心不全の再入院までの期間が延びているという『手応え』 福岡大学病院と博多みずほ訪問看護ステーションの有機的な連携によって心不全患者の再入院予防を図る取り組みの効果について志賀先生は、「まだまだ数は少ないのですが、確実に地域とつながっているという感触を得ています。少ない症例ではありますが、再入院までの期間が延びているという手応えはしっかり感じています」と述べてくださいました。 急性期病院での診療のかたわら、週1回訪問診療クリニックでの臨床を続けている志賀先生ならではの『地域包括ケアマインド』と、黒木さんをはじめとした訪問看護師の『在宅看護のスペシャリティ』がうまくマッチしたケースと言えるでしょう。 * 心不全看護の専門性をさらに高めるために黒木さんが取得された「心不全療養指導士」資格については、ご存知ですか?心不全療養指導士シリーズでご紹介します。 ** 志賀 悠平福岡大学病院循環器内科 医局長専門は心臓CT、高血圧、心不全、心臓リハビリテーション。日本内科学認定医、日本循環器学会専門医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本心臓リハビリテーション学会指導士、医学博士。 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社

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第1回 地域ぐるみで心不全患者を支える

超高齢社会を迎えて心不全患者が増加しています。心不全の主な症状はむくみ(浮腫)、息切れ、呼吸困難などですが、高齢心不全患者は自覚症状に気づかないことが多く、知らない間に急性増悪を起こして再入院するケースが多いといいます。福岡大学病院循環器内科では、地域ぐるみの包括医療を行って再入院を防ぐ好結果を得ています。地域連携の取り組みの実際を2回にわたって紹介します。 必要なのは地域ぐるみの多職種チーム医療 心不全とは、何らかの異常により心臓のポンプ機能が低下して、全身に十分な血液を送り出せなくなった状態をいいます。心不全患者数は全国で約120万人、2030 年には130 万人にもなると推計されています。特に高齢になればなるほど罹患者率が高くなることが知られており、超高齢社会を迎えつつあるわが国では、近未来的に心不全患者数は急増するものと予想されています¹。 そこで、日本心不全学会では2016年に、75歳以上の高齢心不全患者を対象にした治療指針である「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」を公表しました。この中で、高齢心不全患者の円滑な診療のためには、基幹病院専門医とかかりつけ医、および多職種チームによる管理システムの構築が必要であることが明らかにされています²。 再発・再入院を防ぐ専門職どうしの密なつながり 急性期循環器医療を担う福岡大学病院循環器内科では、心不全の急性増悪・再発予防のための地域包括ケア活動として、チーム医療を推進しています。 福岡大学病院1973年開院。病床数915床(一般:855床、精神:60床)を有する福岡市西部地区および周辺地域の中核的医療センターの役割を果たす。 志賀悠平医師は、「増加する心不全患者の継続的な管理を考えるとき、急性期を担う循環器医師と地域に密着して活動されている開業医の方々、そして患者さんの生活をいつもそばで看ている訪問看護師や訪問理学療法士が、連携して包括的な医療に取り組む必要があります」と言います。 急性増悪を引き起こす要因としては、水分や塩分の制限の不徹底、治療薬内服の管理不足、さらに過度な活動による過労などが挙げられます。「これらは、患者さん自身の自己管理の不徹底によることもありますが、医療者側がうまくコントロールできていないこともあり、そのアンバランスによって入院になってしまうことが多いです。ですから、在宅で常に日常生活を看ている訪問看護師さんの役割は大きいのです」と志賀先生。 福岡大学病院循環器内科志賀悠平 医師 患者・家族の生活に密着している訪問看護師だからできること 同科と連携を密にしている博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長は、「在宅に戻られた心不全患者さんでは、特に水分や塩分の適正なコントロールが必要で、そのための食事指導が大切です。家に戻ってくると、どうしても好きなものを食べてしまう方が多く、漬物などが好きな高齢者は過剰な塩分を摂ってしまいがちです。日々の食事の内容は私たち訪問看護師が最も把握しなければならないところだと思います」と言います。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 〈博多みずほ訪問看護ステーション〉2000年より福岡市で開設。呼吸器疾患の利用者が多く、呼吸リハビリテーションや機器管理などに力を入れて、サービスを提供。 塩分摂取の目安は、軽症ならば1日7g以下、重症では1日3g以下に制限するように指導します。具体的には、黒木さんが言うように漬物や佃煮を減らすこと、香辛料やレモンなど使って味付けや調理法を工夫することによって塩分制限を行います。「患者さんも自分をよく見せたいから、『そんなに漬物は食べていない』などとおっしゃるのですが、実態を把握するのが私たちの役目だと思っています」と黒木さん。 同訪問看護ステーションには訪問リハビリテーションのスタッフもいるため、運動や休息・睡眠にかかわること、さらには家の構造など、病院では知り得ない情報を主治医に伝えて適切な指示をもらうことができます。入院中にはわからない、在宅での日常生活の中に潜んでいる心不全の再発リスクをみつけて医師につなぎ、的確な指示のもと適切にコントロールするのが訪問看護ステーションの大切な役割です。 有機的連携のために必須な多職種の情報共有システム このような有機的な地域連携を実現するために必須なのが、多職種連携のための情報共有システムです。福岡大学病院と博多みずほ訪問看護ステーションでは情報共有のためのICTツールを活用しています。 志賀先生は、「訪問看護師さんが何かを察知した場合、いち早く大学病院に情報提供してくれることで、我々もタイムリーに医療上の指示を出すことができます。患者さんに最も密着している訪問看護師さんの視点だからこその情報も多くあります。家庭内にはさまざまな状況があります。家族間トラブルなどがある場合は、ご家族からの一方的なお話では判断できないこともあります。訪問看護師さんや訪問理学療法士の方々はケアの場面で日々、本人やご家族と接していますから、現場の『空気感』をお持ちです。そうしたリアルな情報を即時にウェブ上で共有できて初めて、有効な地域連携ができるのだと思っています」と話してくださいました。 ** 志賀 悠平福岡大学病院循環器内科 医局長専門は心臓CT、高血圧、心不全、心臓リハビリテーション。日本内科学認定医、日本循環器学会専門医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本心臓リハビリテーション学会指導士、医学博士。 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1.日本心臓財団『高齢者の心不全』https://www.jhf.or.jp/check/heart_failure/01/ 2.日本心不全学会ガイドライン委員会『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』http://www.asas.or.jp/jhfs/pdf/Statement_HeartFailurel.pdf?iref=pc_rellink_01

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病院以外の看護を形にした先達者だからこそ、今言えること

トップランナーから現場へのエール 訪問看護のパイオニアの一人として活躍した宮崎和加子さん。 今回は、訪問看護の夜明けから現在までのご自身の活動をお話ししていただきました。 病院以外の看護を事業として形にしたころ 私が看護師になった1970年代は、看護学校を卒業して病院に入職し、実践を積みながら看護の面白さに気がつくことが多かったと思います。でも私は学生のころから、休みを使って全国のさまざまな地域での看護の実態を見て歩くうち、病院以外の看護の形があることを知りました。当時、日本の高齢者はまだ10%足らずでしたが、日本のこれからの医療や福祉をどうするかという議論が活発になされるなか、私は在宅訪問看護という新しい分野の仕事をつくり上げていきたいと思っていました。 そういうことが実践できる場と仲間がいると知り、学校卒業後は東京都足立区にある医療法人財団健和会の柳原病院に入職しました。当時は訪問看護という制度はなく、医療機関や自治体での試みが少しなされているだけでしたが、柳原病院には、現実を見すえて、地域医療を実践している医師や看護師が多数いました。 そのうち、医療保険で訪問看護が1回1,000円で認められるようになり、やっと訪問看護ステーションの原型ができはじめました。そして1992年、柳原病院の看護師3人で、北千住訪問看護ステーションを開設しました。このステーションは東京都指定第一号となり、数年後には、私は13か所の訪問看護ステーションを束ねる統括所長に就任しました。こうした動きは全国でも広がりをみせ、訪問看護ステーションが全国に誕生していった時期でした。 複数の訪問看護ステーションを束ねるうち、「訪問看護ステーションは必要とされている。やりたいと考えている看護師も多い」と確信を持ちました。それにもかかわらず、全国のステーションの開設数はなかなか増えていきませんでした。なぜかというと、実際には報酬が低くて経営していくことが困難だったからです。そこで私は、現場の仲間たちと全国の訪問看護事業所を調査し、訪問看護が事業として成り立っていくよう、国に意見を出しながら仕事を続けました。 介護保険の誕生が可能にした多様な在宅看護の形 2000年の介護保険法施行と同時に、訪問看護事業は、株式会社など営利企業でも設立できるようになりました。看護師が独立して、自分で株式会社やNPO法人を立ち上げてやっていける時代になったことは、訪問看護の普及に大きく貢献しました。 気がつけば、私の周囲の看護師たちも独立し、自分でステーションを立ち上げる人が増えていました。それも訪問看護だけでなく、ホームホスピスのようなものを含め多様なサービスを提供できる形を整えて、地域で看護を提供しています。2011年には在宅ケアのさまざまなサービスと訪問看護を一体化した「複合型サービス」が誕生し、14年には「看護小規模多機能型居宅介護」と名称を変え、訪問だけではない在宅看護が、制度に位置づけられました。 私は、全国の訪問看護ステーションを訪ね歩いて現場の看護師の声を聞き、それを本にしたり講演活動のなかで紹介したりしてきました。2010年、全国訪問看護事業協会で訪問看護ステーションの普及・整備にかかわるようになり、なかなか増えなかった訪問看護ステーションの開設数を増やすべく、介護保険法改定時の報酬をプラスにするような活動も続けてきました。 本当にやりたいことは何? 還暦からのスタート そうしたなか、私自身は次第に、再び直接患者さんに寄り添って、一緒に喜んだり悲しんだりしたいと思うようになりました。そして60歳の定年を契機に、八ヶ岳南麓の山梨県北杜市に移り住み、一般社団法人だんだん会を設立しました。還暦からの出発です。 ずっと東京で活動してきたのに「なぜ山梨に?」と多くの人から聞かれました。理由は明快です。自然環境が抜群で、山々に囲まれ、水が豊かで夏でも扇風機が要らない。素晴らしいところに住み、年を重ねたいと思ったからです。しかしそこに住みつづけるためには、地域のサービスの種類と量が不足していました。そこで、訪問看護だけでなく、不足しているサービスを立ち上げ、運営することにしました。 それは、私が長年訪問看護事業の普及に奔走していたころから感じていた「訪問看護だけでは地域はよくならない。看護職がもっと力を発揮できる場はほかにもある」という信念から生まれたものでもあります。 だんだん会は、地域で暮らす看護を必要としている人に直接的なケアを提供するだけでなく、認知症になっても穏やかに暮らせるグループホームや、要介護度・入居期間を問わないシェアハウスなどを運営しています。地域の皆さんにも積極的にかかわっていただき、収益事業ではない認知症カフェなど、誰もがともにいられる居場所づくりにも力を入れています。 だんだん会の一連の事業は、ステーションを運営している管理者が、将来自分たちもこのような「地域の居場所」を作りたいと思えるようなモデルになればという側面もあります。介護保険法施行後、自らステーションを設立して頑張ってきた人の多くは、中高年の方が多いと思いますが、地域のニーズをしっかり見極め、事業を起こすタイミングを見逃さず、ぜひ訪問看護だけでない地域看護の素晴らしさを広めていただきたいと思います。 (後編へつづく) ** 宮崎和加子一般社団法人だんだん会理事長 記事編集:株式会社メディカ出版

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自分自身を癒す時間も持ち、在宅での看取りを支えてほしい

トップランナーから現場へのエール 訪問看護の道を切り開いてきたトップランナーにお話を伺うシリーズ第2回、秋山正子さんの後編をお届けします。 「ただ医療処置をする人」ではない訪問看護師 コロナ禍で、在宅での看取りが見直されています。今、在宅を選ぶ方には、本人の意思も確認し、家族も残り少ない命なら家でみようと連れて帰る方が多くなっています。不安ながらも覚悟を決めている方が多く、訪問看護としてはケアに入りやすくなりました。 コロナ以前はというと、家には帰ってきたものの、本当は病院の方が安心という方が多く見られました。そうした方を担当する訪問看護師は、まず気持ちを解きほぐし、最期の日々をともに過ごしていく関係を築く必要があります。 特にがん末期の方には細やかな配慮が求められます。がんの最期は、元気そうに見えても急カーブで病状が悪化していきます。「治療はできなくてもまだ半年くらい余裕はあるだろう。」本人や家族がそう考えていても、実際には月単位、週単位の状態ということもあります。この先の病状の加速をどのように理解し、受け止めているのか。訪問看護師は丁寧に聞き取り、時には修正していくことが大切になります。 病気が見つかったとき。治療が始まったとき。医師から受けた要所要所での説明を、その方がどう受け止めてきたかを確かめます。そして、病気になったつらさや厳しい治療の日々に思いを致しつつ、必要であれば、残された時間に限りがあることにもあえて触れていきます。 そうしたやりとりは、決して「せねばならぬ」ことでも、「手順」として行うことでもありません。最期の時間をよりよく過ごしてもらうため、本人や家族の反応、受け止め方に応じ、丁寧な対話の中でなされていくものなのです。 その対話の中では、本人や家族に対し、訪問看護師として最期まで支えていく意思表明をすることも必要です。それがきちんとできていないと、人生最期の難しい時間をとも共に過ごし、支え切ることはできません。看取りを支える訪問看護師は、「死にゆくまでの医療処置をするために来ている人」であってはならないのです。 看取りを振り返り、意義を再確認する このコロナ禍はいつまで続くか、まだ先が見通せません。訪問看護の現場は、これからも緊張が続くでしょう。少しでもリラックスできる時間を持てればよいのですが、現状ではなかなかそれもかないません。そんな中、一つの支えになるのが『振り返り』の時間です。気になった事例をチームで振り返って話し合い、行ったケアの意義や価値を再確認するのです。 私たちが新宿区で運営する医療や介護、生活についてのよろず相談所、「暮らしの保健室」では、月1回、看取りを振り返る勉強会を開催しています。先日は、人工呼吸器を付けて在宅復帰した、脳腫瘍末期の30代の方の看取りを取り上げました。自宅で過ごせたのはわずか11日という方でした。 残された日がわずかであることを承知してケアにあたった訪問看護師ですが、振り返ると、もっとこうすれば良かったと、さまざまな思いがあふれます。その一方で、本人のすぐ傍らに母親と妹がいて、看護師に足をさすられながら、母親が「○○ちゃん」と娘さんに話しかけていた様子など、在宅ならではのよさも思い起こします。やがて、担当した看護師からは、「あの方は最期までよく頑張ってくれたと思う」という言葉があふれました。 自分自身では、提供したケアも看取った過程もきちんと受け止めていたつもりだった。でも、それを皆に伝え、共有することが必要だった。その看護師はそう語りました。振り返りのプロセスによって、グリーフケアが進んだことを実感できたのだと思います。 こうした振り返りは、共有したチームみなにとってのグリーフケアにもなります。このときも、「いろいろなことがあるけれど、もう少し頑張っていこうと思えた」「元気をもらえた」といった感想が聞かれました。 先日、「暮らしの保健室」では、オンラインで誰でも参加できる振り返りのカンファレンスを開催しました。コロナ禍の今、対面での振り返りが難しかったり、開催する余裕がなかったりするというステーションも多いかもしれません。ぜひオンライン開催なども検討し、少しでも現場の訪問看護師がリラックスしたり、元気を取り戻せたりする時間を持ってもらえればと思います。 ** 秋山正子株式会社ケアーズ 白十字訪問看護ステーション・白十字ヘルパーステーション統括所長、暮らしの保健室室長/認定NPOマギーズ東京センター長   取材・文/宮下公美子(介護ライター) 記事編集:株式会社メディカ出版

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現場を苦しめる新型コロナが共に支え合う地域連携を進展させた

トップランナーから現場へのエール 今回より6回シリーズで訪問看護のレジェンドともいえる方々3人にご登場いただきます。第1回前編は、訪問看護ステーションのみならず多方面でご活躍の秋山正子さんに、コロナ禍での訪問看護ステーションの実情についてうかがいました。 陽性者対応だけでない新型コロナ問題 新型コロナウイルス感染症のまん延は、訪問看護の現場にもさまざまな影響を及ぼしています。一つには、運営のあり方です。自宅待機の新型コロナ陽性者を訪問するなど、最前線で利用者を支えている訪問看護ステーションがある一方で、発熱や咳のある利用者の訪問を極力控えているステーションもあります。 訪問看護ステーションはだいぶ大規模化が進んできましたが、それでもやはり看護師5~6人のステーションが中心です。もし職員に感染者や濃厚接触者が一人でも出れば、たちまち訪問が滞ります。小規模ステーションであれば、運営自体に大きな影響が出ます。そうなれば利用者にも迷惑をかけることになりますから、自分たちの身を守ることも大切です。ここは難しいところですね。 職員の家族の発熱への対応も悩ましい問題です。私が統括所長を務める白十字訪問看護ステーションでも、この春、職員の子どもが通う保育園でクラスターが発生し、職員が出勤できなくなりました。休むことになった職員の訪問を、誰がどうカバーするかなどの対応が必要になりましたが、慌ててもしかたがありません。そういうときは淡々と対処していくしかないですね。 職員のやりくりに苦心する一方で、感染の影響による新規の依頼もあります。クラスターが発生してデイサービスが休業したから、臨時で訪問看護を利用したい。入院した病院の面会制限が厳しいので在宅で看取りたいから訪問看護に来てほしい。そんな依頼です。 陽性者にどう対応するかだけでなく、その周辺も含めたさまざまな影響が今、訪問看護に出ていると思います。 この難局を地域で連携して乗り越える とはいえ、悪いことばかりではありません。新型コロナへの対応を通して、地域でさまざまな連携や新しい取組が生まれてきています。 例えば、白十字訪問看護ステーションのある東京都新宿区は、一時期、夜の町での感染拡大がセンセーショナルに取り上げられました。これに対応するため、新宿区医師会が動きました。区内の複数の大病院が重症者対応に注力できるよう、開業医の先生方が発熱外来を運用したり、訪問でPCR検査をしたり、後方支援に取り組んだのです。たとえ陽性者数が増加しても、重症者や死者を増やさない。今ではそんな意識がかなり徹底されています。 訪問看護も、事業所同士の連携が進んでいます。感染拡大初期、病院に比べて在宅では、防護服などの感染予防の医療用品が手に入りにくい時期がありました。そこで、連絡会として行政に訴えるなど解決に動いたことをきっかけに、連絡会による横の連携が活発になりました。一つの事業所だけで悩むのではなく、一緒に考えましょうという意識が強まったのです。今では、防護服などの行政からの支援物資は、少し広い事業所がまとめて備蓄し、そこから不足している事業所に出すというしくみがつくられました。 また、医師会の先生方と月1回情報交換するなど、医療職同士の連携も進みました。そのおかげで、PCR検査の実施方法、感染初期の対応など、今ではさまざまな情報共有が速やかに行われるようになっています。 定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回)でも、事業所同士の連携が進んでいます。訪問看護同様、限られた人数で訪問介護を提供している事業所では、感染者や濃厚接触者が一人出れば、やはり欠員となった職員をどうカバーするかが問題になります。 あるとき、一人暮らしの利用者を支える定期巡回の事業所で、夜間帯を担当していた介護職が濃厚接触者になり、訪問できる介護職がいなくなったことがありました。そのときには、事情を知った他の訪問介護事業所がカバーし、何とか利用者を守り抜いたのです。 新型コロナの感染拡大は、これまでに誰も経験したことのない危機的状況です。だからこそ、地域の中で他の事業所とのチームワークが芽生え、互いに支え合っていこうという意識が強くなったとも言えます。この難局は、そうしたいい面も引き出しているのではないかと思います。 (後編へつづく) ** 秋山正子株式会社ケアーズ 白十字訪問看護ステーション・白十字ヘルパーステーション統括所長、暮らしの保健室室長/認定NPOマギーズ東京センター長   取材・文/宮下公美子(介護ライター) 記事編集:株式会社メディカ出版

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地域住民の健康生活を支える場として

 「せわのわ」の名前は「世話の輪」から付けられました。その名のとおり、地域で住み続けるためのキーステーションとして健康支援ネットワークの役割も担っています。 最終回は、地域住民との「世話の輪」のコミュニティづくりを進める取り組みについて、せわのわ事業支援部長の半田さん、せわのわ事業本部長の目井さんにお話を伺いました。 地域に開かれたレストラン「健康食堂」 半田: 地域住民の方に普段使いをしてもらえるような、楽しく食事ができる場所を目指しています。車いすやベビーカーでもそのまま入れる、お一人さまもお母さん方や子ども、ご高齢の方も気軽に入ってこられるようなフリーアクセスな場所にしたい、というのが狙いとしてあります。 当初はもっと健康志向が強く、健康に寄与できる、役立つような場所として考えていました。最初は管理栄養士だけで、栄養素を重視した食事を提供したのですが、食事そのものを楽しみに来てもらえるような感じにはならず、リピーターもつきませんでした。 そこで、コロナ禍の影響もあり、営業自粛となった段階で食の部分は大きく考え直し、調理師を迎えてメニューを全部見直しました。基本はやっぱり食べておいしいもの、もう一度行きたいねとなるような食事。健康の捉え方にはさまざまあるでしょうが、身体も心も健康になるという観点でいえば、適度なカロリーやアルコールなどもあっていいだろうと考えています。 目井: ご高齢の方でもお肉が好きな方が多く、実は今一番の人気メニューはから揚げなんです(笑)。 ご高齢の方で毎日のように来られる方もいますし、お母さん方も多いです。意外にもお一人で食べに来られる女性・男性も多くて、一人でもふらっと入れるような雰囲気があるようですね。 ―地域の見守りネットワークみま~も(※1)のまちづくりにも参加されているそうですね。 半田: 窓口は私がやっています。 当初、健康食堂のコミュニティサロンを活用して、さまざまなコミュニティを引き込みたいと考えていたのですが、独自のアプローチだけでは難しかったのです。その後いろいろ探していたら、ちょうど大田区で地域のネットワークを作る活動をしている団体があるということで、入れていただきました。 目井: 今はコミュニティサロンの提供がメインになります。コロナ禍で今まで使っていたところが使えなくなったとかそういう話もありまして、無償で貸しています。高齢者の方々が簡単な運動をしたり、引きこもりの家族会、生活保護世帯の子どもの学習支援など、社会福祉協議会や地域包括センターなどとも連携し、いろいろやっています。 最初の3カ月くらいはどこの誰だと怪しまれましたが、段々と既存の町づくりをやっている団体ともつながりができてきたところです。 地域の拠り所、在宅のなんでも屋 ―せわのわさんは今、地域にとってどんな場所なのでしょうか。 目井: 大田区高齢福祉課から大田区高齢者見守り推進事業者に登録してもらっていて、地域の困ったときの拠り所として活動しています。 半田: せわのわとしても、「もやっと相談」という窓口を設けて対応しています。なんとなく「専門家がいるので相談できるかな」と、ふらっと来られる方もいます。 みなさん、お話がしたいんですね。そんな場所はほかにはなかなかないので。 目井: ここは、住民の方々との距離がすごく近いと思います。近所のおばあちゃんが毎日顔を出してくれたり、おすそ分けしてくれたり…。 その方々も今は元気ですが、今後、訪問看護などが必要となったときに、せわのわがいいと言ってもらえたら…と、そうしたことも考えながらやっています。着地点はそこですね。先の長い話ですが、ご高齢の方、地域のコミュニティをうちに呼び込むことが最終的な目的です。 住民の方々や利用してくださる方々から、「とにかく困ったときは『せわのわ』に…」と言われることがありますが、そうした声に応えられるようにしていきたいですね。 半田: あとは、今後の展開としてはデリバリーサービスですね。 階段があるのがしんどくてという相談があったりしたので、試験的に始めました。データを集めるために今は無料でやっていますが(2020年12月取材時点)、ある程度スキームが固まれば、2021年から有料化も考えていかなければとは思っています。 目井: 現場の声を集めるために始めましたが、まだ依頼はそれほど多くはないですね。現状ここに来るお客様は歩ける方が多いので、そもそも用がない人が多いのです。民生委員経由で独居の高齢者などにアプローチする方法もありますが、いきなりだと怪しまれることもあるので、社会福祉協議会や地域包括支援センターなどとも連携して、地道に足元から固めている段階です。 半田: 最終的には広域デリバリーの中に調剤薬局の薬を届けることも入れ込んで、ネットワークを作っていきたいと思っています。 ** 株式会社キュアステーション24 せわのわ事業支援部 部長 半田 真澄 30年以上臨床検査領域で働いた後、2013年にTRホールディングスグループに入社。代表取締役の田中氏とは社会人1年目が同期という縁。せわのわでは主に業務全般のサポートを行っている。 株式会社キュアステーション24 取締役/せわのわ事業本部 本部長 目井 俊也 ゼネコンや外資系保険会社などを経て、まったく畑違いの介護業界に。訪問介護ステーションやデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの開業・運営経験がある。 【参考】 ※1 みま~も(おおた高齢者見守りネットワーク) 高齢者が安心して暮らせる街づくりのために、地域の医療・福祉・介護の専門職が活動する大田区の地域ネットワーク 関連記事:全国に拡大中!地域を支える『みま~も』とは?(牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄)

インタビュー

多職種スタッフ連携による訪問看護サービス

せわのわでは、調剤薬局が在宅医療の支援に力をいれていることが一つの特徴になっています。第2回は、訪問看護ステーションと調剤薬局、栄養ケア・ステーションとの連携について、引き続き、事業支援部長の半田さん、せわのわ事業本部長の目井さん、そして訪問看護管理者の竹之内さんに伺います。 在宅支援に力を入れる調剤薬局 半田: うちの調剤薬局は、「せわのわ在宅支援&健康薬局」というように在宅という名前を入れているのが象徴的で、とにかく地域の在宅医療に深くコミットするというのが一番の理念です。 もちろん処方箋の対応など一般的な機能は持っていますが、処方箋を多くさばくということより、地域の医療に必要とされるタイミングで必要とされることをやるというのが大きな目標です。そのため、薬剤師二人で毎日のように訪問もしているので、在宅はちょっと…という方は採用できないですね。 目井: 薬剤師がもっと在宅にも出ていくべきで、意識改革が必要という話は、昔から代表取締役の田中ともしていました。今後のことを考えると、薬局も店舗閉鎖していくところは増えるでしょうし、薬剤師も余る時代が来るはずですから。 ただ、現実には在宅をやりたいという薬剤師はまだ少ないですね。薬剤師は病院や薬局で白衣を着て、カウンターで受付をする仕事というイメージがあると思うので。 半田: 今は薬学部で在宅医療についてもカリキュラム化しているので、若い世代は比較的在宅のイメージを持っている人もいるようですが、これまでの環境でやってきた人には訪問で個人宅にあがりこむ…となると、ギャップが大きいでしょうね。 竹之内: 今、うちにいる薬剤師は、在宅がやりたくて来てくれた人です。あれこれと意見を言い合えますし、お互いに連携、協力できる環境にあると思います。 例えば、利用者さんが「やっぱり薬は自分で入れないと…」と焦るような気持ちがあったり、薬の残数が合わなくなってしまったりすることがありますが、うちでは処方箋を一枚持ってきてもらえれば薬剤師にカレンダーセットしてもらえて手間がなくなるよと言えますし、僕らもその分、他のケアにまわせます。それをきっかけに次から頼んでくれる方もいますね。 そのほかにも訪問看護先で、利用者さんの薬のフォローをしてもらう場面が多いです。今出されている処方と前の病院で出されていた処方が混在していると、どれをどのようにしたらいいのか迷いますが、そこに薬剤師が入ってくれることでスムーズに確認ができます。また、在宅では麻薬の管理も難しいところがありますが、ICTを活用してオンタイムでアドバイスをもらえたりすることが、安心材料にもつながっています。 病院にいる感覚と近く、お互いに情報共有することで利用者さんにとってもプラスになるし、協力関係がいい形で結果につながっていると思います。 ―認知症で薬の管理が難しい方とかの依頼は? 竹之内: 調剤薬局と一緒に訪問に入ってほしいと言われるのは、認知症やターミナルの方が多いです。一度訪問すると、リピーターになっていただける確率が高いですね。 こうした在宅の取り組みが増えれば、これまでの調剤薬局とは全く違う形になると思います。 栄養ケア・ステーションの位置づけ 目井: 認定栄養ケア・ステーションは、地域の方々の栄養ケアの支援・指導をする拠点として日本栄養士会から認定されている施設です。管理栄養士が常駐して、栄養の相談を受けています。 また、食堂では調理師がメインで働いていますが、メニューの一部アドバイスなどもやってくれています。毎日栄養相談がある訳ではないので、ここでは事務スタッフ兼管理栄養士として働いていてくれていて、通常は訪問看護や薬局の事務をやりつつ、必要が生じたときに管理栄養士として動いてもらう形です。 ―褥瘡の方や低栄養の方の食事管理やアドバイスなどは? 目井: 元々は、摂食や嚥下障害の方の栄養指導などで、言語聴覚士(ST)と栄養ケア・ステーションが密接なつながりをもって展開していきたいと思っていました。2020年の4月から栄養ケア・ステーションにも保険点数がつくようになったのですが、まだ件数も少ないのでこれからですね。栄養ケアというニーズが世の中にあまり出てきていないので、しっかり稼働している栄養ケア・ステーションは多くはないかもしれません。 専任スタッフをどのように配置するか、事業制度としてどうするのかなど課題は多いですけれど、東京栄養士会がイメージしているのは、せわのわのようなモデルだと言って期待してくださっているので、調剤薬局、訪問看護ステーション、食堂、栄養ケア・ステーションの4部門で、このまま頑張っていきたいです。 ** 株式会社キュアステーション24 せわのわ事業支援部 部長 半田 真澄 30年以上臨床検査領域で働いた後、2013年にTRホールディングスグループに入社。代表取締役の田中氏とは社会人1年目が同期という縁。せわのわでは主に業務全般のサポートを行っている。 株式会社キュアステーション24 取締役/せわのわ事業本部 本部長 目井 俊也 ゼネコンや外資系保険会社などを経て、まったく畑違いの介護業界に。訪問介護ステーションやデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの開業・運営経験がある。 株式会社キュアステーション24 訪問看護事業責任者/管理者 竹之内 航輝 総合病院の脳外科や透析外来に勤務後、訪問看護ステーションの管理者になるための経験として看護師の人材紹介会社で働いた経験を持つ。代表の地域貢献に関するビジョンや、スタッフに対する思いなどに共感し、せわのわ訪問看護ステーションに入職。

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1年間で10拠点!スピード出店の秘訣

訪問看護事業に参入し、1年間で10拠点の出店を果たした、株式会社ツクイ。大手介護事業所が訪問看護事業に参入するにあたり、様々な課題にたいして地道な取り組みをされたそうです。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに訪問看護事業参入の実態や、新拠点での運営戦略、今後の出店戦略について詳しくお話を伺いました。 介護事業所が訪問看護事業に参入するときのハードル ―ツクイさんは多くの事業を展開してきた中で、なぜ今、訪問看護なのでしょうか。 竹澤: 実は7年前に、既に広島と札幌、横浜に訪問看護ステーションがありました。しかし、売り上げが伸びなかったり、看護師のコントロールができなかったりと、福祉を軸としてやってきた会社としては、医療系事業の訪問看護ステーション運営は中々難しかったようです。そのため、あえて最初は3拠点から増やしませんでした。 その後は地域連携を進めながら、複合的にサービスを展開している地域や、会社が定める重点地域に立てていきました。 今は全国にあったほうが、その地域の既存サービスとのシナジーや、日本全土での自社サービスのシェア状況、地域差など見られるのでいいと思っています。 ―介護の会社で訪問看護を行う難しさってなんでしょう? 竹澤: 絶対的価値観をもって働く専門性の高い看護師と、相対的価値観でお客様の考えや思いに寄り添う介護士の考え方のギャップだと思います。そこをマネジメントするのが難しかったです。 あとは、給料のこと。看護師の専門性に見合った給料体系でないと訪問看護は成立しないと考え、私は給料の見直しからはじめました。 今でも苦戦しているのは、今ある社内ルールの中で新しくルールを作り上げていくことです。 ツクイでは1事業所あたりの付与されるパソコンや車の数が、利用者数やスタッフ数など、事業所の規模によって決まっています。そのため、パソコンや車をすごく少ない数で回すことになるので、訪問が終わってから記録をするのにパソコンが空くのを待たなければならず、その間どんどんコストがかかってしまいます。数千円のリースでそれぞれにパソコンを貸与したほうが効率は上がると思うのですが、「看護師だけ特別扱いはできない」と言われることもありますし、違和感を持たれることもあると思います。 ―竹澤さんは現場と経営陣との間にいる立場かと思いますが、どのように調整をされるのでしょうか? 竹澤: 経営陣と考え方が違って相いれないときでも、喧嘩するのではなく、粘り強くこちらの意図を説明して落としどころをちゃんと見つけるようにしています。訪問看護の責任者である私と経営陣との間に溝ができると、全国の看護師が損をするので、時間も体力も必要ですが、経営陣とは一枚岩になるように対話を重ねることを大切にしています。 ―今の組織体制はどのようになっているのですか? 竹澤: エリア長がいて、部長、所長、管理者がいます。私は部長とエリア長を兼務しています。現在、エリア長は1人ですが、いずれは西東北の3つのエリアに配置したいと思っています。エリア長はプレイヤーにはなりませんが、他はプレイヤーにもなります。 管理者として配置はできませんが、理学療法士を採用し、所長となって管理者を育成する立場で働いていたりもします。 ほかにも、決まった拠点を持たずにいくつかの事業所をみる主任所長というポジションもあり、これをエリア長が管理しています。 新しく出店する際の運営ポイント ―出店拠点を広げていますが、新しい拠点での運営方法のポイントはなんでしょう? 竹澤: 重点地域では、いろんなケアマネージャーさんや病院との関わりがあるので、ツクイの事業所が多くある拠点に行くと、「ツクイさんがやっている訪問看護」という信頼感があるようです。ツクイブランドに信頼感を持っていただけていると、訪問看護の出店もしやすく感じます。 新しい拠点のアプローチは、病院などの医療連携を先に行い、医療依存度の高い利用者さんや特別訪問看護指示書に基づいて頻回訪問が必要な利用者の受け入れを行っていきます。だんだんと訪問枠が埋まってきたら、隙間を埋めるようにして、ケアマネージャーから紹介を受けた介護保険の利用者さんの受け入れに力を入れていきます。 会社としては、訪問件数が増えることは望ましいことですが、むやみに多くすることはしません。訪問件数や訪問単価等は全部数値化していますが、1時間換算で一人あたり月80件訪問くらいが、経営的にもスタッフの負担感も丁度良いと思っています。 ―今後の訪問看護ステーション出店戦略について教えてください。 竹澤: 今、M&A含めて動いているものもありますが、一気に増やすというよりは、一拠点一拠点を少しずつ増やそうと考えています。重点拠点とマッチしたところに、ご縁があればいいですね。 目標は6年くらいで47都道府県に展開することです。2021年度に伸びてきそうな拠点がいくつかあるので、サテライトも3店ほど、新店舗は5か所ほど、ホスピスも考えています。 一人の利用者さんを要支援のときから、要介護度が上がって要介護になったとき、そしてお看取りまでみられる流れを作っていきたいと思っています。せっかくお世話させていただいても、「要介護度が高くなったらみることができない」というのはしたくないですね。 ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

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