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インタビュー
2021年2月24日
2021年2月24日

感染管理認定看護師に聞く、新型コロナの感染対策

テンハート訪問看護ステーション管理者の佐渡本さんは「感染管理認定看護師」の資格をお持ちです。訪問看護ステーションでも参考になる、新型コロナウイルス感染症をはじめとした感染症予防で気をつけるべきことについて伺いました。 在宅でも気をつけたい、個人防護服の管理 ー新型コロナの疑いの利用者さんがいる時はどうしていますか? 佐渡本: まずは、訪問に行くか行かないかは主治医と相談して決めています。以前、利用者さんで新型コロナ感染疑いの方がいたのですが、その時は主治医と相談してサービスを一旦停止しました。 熱がある患者さんを訪問する時は、しっかり個人防護具を着て、マスクやフェイスシールドをつけて対応しています。ここでひとつ見落としがちなのが、個人防護具を外す時の感染リスクです。 ー「個人防護具を外す時」ですか。 佐渡本:   例えば、手袋を外す時やマスクを外す時に、不潔な部分に触れて手などにウイルスが付着してしまうことがあります。ですので、個人防護具を「つけているから大丈夫」ではなく「外して、破棄して、手洗いする」ところまでやって、はじめてきちんした感染症対策になると思います。 ー個人防護具を扱う際の注意点など、詳しく聞かせてください。 佐渡本: 個人防護具を外すタイミングは、利用者さんと2メートル以上離れた、部屋の出口や玄関先でいいと思います。その際も、脱いだエプロンで手や周囲を汚染しないように注意してもらえればと思います。 もうひとつ可能であれば実践してもらいたいのが、新型コロナに感染した疑いの利用者さん自身にもマスクを着用していただくことです。言わないとマスクをしてくれない利用者さんも多いかと思いますが、お互いにマスクをしていれば感染のリスクは下がります。 訪問看護師の持ち物も清潔に ー新型コロナ感染症に限らず、普段の感染症対策で大切にしていることを教えてください。 佐渡本: スタンダードプリコーション(標準予防策)は徹底しています。手洗いとか咳エチケットですね。 あとは物品の取り扱いですね。体温計とか血圧計など、利用者さんごとに消毒して綺麗にリセットすることを徹底しています。 ーこれは見落としがち、というものはありますか? 佐渡本: 在宅ではあまり問題視されていないのですが、気を付けないといけないと思うのが、多剤耐性菌です。 多剤耐性菌は健康な私たちには悪さをしませんが、高齢の方にはリスクになる菌です。 処置後の手洗いはもちろんですが、菌を次の家に持ち運ばないように気をつけるよう、いつもスタッフに指導しています。 また、訪問バッグの中の物を清潔に管理するのも訪問看護師として大事なことだと思います。 訪問バッグ自体も、もし床面に置いた場合は拭くなどして綺麗にしておいた方がいいと思います。 ステーションが全滅しない感染対策を ー最後に、感染管理認定看護師として他のステーションへのアドバイスなどあればお願いします。 佐渡本: ステーション運営の上で重要だと思っているのは、仮にスタッフに新型コロナウイルス感染症の陽性者が出たとしても、ステーションが全滅しない対策を取ることです。 例えば陽性者が1人出た時、保健所から「スタッフ全員が濃厚接触者です」と言われてしまったら、2週間休業になってしまいます。もし陽性者が出ても、濃厚接触者には当たりません、と言ってもらえるような対策を常に取っておくことが大事だと思います。 あとは、プライベートでも気を抜かずにスタッフみんなが予防を意識することも必要です。 ー万が一感染してしまった場合はどうしたらいいでしょうか? 佐渡本: どれだけ細心の注意を払っていても、感染してしまうことはあると思います。 実際に自分やスタッフが感染しても慌てないように、あらかじめ起こりうることを想定して、対策を具体的に考えておきましょう。これは災害対策も一緒ですね。 例えば、利用者さんとスタッフの体温をチェック表に毎日書いて管理するなども有効だと思います。見える化されていることで、早期に異常を発見できることもあると思います。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。   新型コロナ感染症対策についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年2月24日
2021年2月24日

異業種参入 第二の壁:マネジメント

異業種から参入した経営者が開業後に課題を感じるのが、看護師とのコミュニケーションの難しさです。 セントケア・グループが業界トップクラスの97事業所までに拡大したのは、経営と現場の間に立つ藤原さんの存在が大きかったようです。看護師マネジメントのポイントと、今後の拡大計画について伺いました。 経営者の実現したいビジョンを心に届く形で ―異業種から参入するにあたり、最大の課題は何だと思われますか? 藤原: 看護師のマネジメントが一番の課題となると思います。 中には利益や数字の話に拒否反応を示す人も多くいるので、経営サイドからの売り上げや管理の話をどう現場に落としていくかは、頭を使う部分です。 例えば、売り上げを何割か上げるという場合でも、「そのためにはどのくらいお客様が必要か」「たくさんのお客様に求められる看護師であるために何ができるか」と自分の中で落とし込んでから現場に説明することで、衝突を避けることができると感じます。 ―藤原さんはご自身も看護師でいらっしゃいますが、どのような思いがありますか? 藤原: 私自身は、前職で勤め先のステーションが閉鎖した時にセントケアに助けていただいた恩があるので、どうやったら会社に貢献できるかという視点で常に考えるようにしています。 ―セントケア・グループは97か所という多くのステーションを運営していますよね。マネジメントがうまくいっている秘訣は何でしょうか? 藤原: セントケアは創業時から訪問入浴をやっていて、看護師をマネジメントした経験があったことで、訪問看護事業所をスムーズに開設できたと思います。最近また、当社のステーション数は右肩上がりになっておりますが、これは全国を一括で私たちの部門が支える体制を作れているからだと思います。 ―具体的にはどんなことに取り組まれていますか? 藤原: 具体的には、本社で事業のシミュレーションやマニュアル作りなどを、看護師や保健師、歯科衛生士などの専門職が行い、それを全国のステーションに共有しています。地域会社にもエリアの担当者を置いていて、私たちとのやりとりもスムーズに行える体制です。 また、訪問介護や施設などのセントケア・グループの名前が知られているエリアで、ケアマネさんがいて訪問看護がほしいというニーズがあるところで立ち上げているのも大きいと思います。 ―セントケア・グループとしては、今後どういった事業に注力していきますか? 藤原: 訪問看護や看護小規模多機能型居宅介護などの医療に近いところの事業を拡大、積極投資していこうとしています。特別に一定のエリアに集中的に注力するわけではなく、それぞれの地域のニーズや市場性に合わせて、例えば精神や小児の訪問看護、自費サービスなども展開して行きたいです。 セントケア・グループとしては入り口がどのサービスであっても「介護保険に関するサービスなら、セントケアに任せたい」と思ってもらえるような会社でありたいですね。 セントケア・ホールディング株式会社 訪問看護部門 統括次長 藤原祐子 病院勤務で、在宅に受け皿がないために、帰りたくても家に帰れない高齢者が多くいる現実を見て、世の中の制度に疑問を感じるようになる。その後、結婚・出産を経て、2000年に介護保険制度がスタートするタイミングで、介護保険や訪問看護について勉強し、訪問看護師へ転身。管理者としてセントケア・グループに入職し、現在はセントケア・ホールディングの訪問看護部門統括次長として、訪問看護ステーションの安定運営をサポートする基盤づくりに注力している。 セントケア・グループ 1999年、株式会社として初となる訪問看護ステーションを開設。現在では97か所の訪問看護ステーションを全国に展開し、訪問入浴や訪問介護、デイサービス、有料老人ホームなどの幅広い事業にも取り組んでいる。(2020年11月時点)  

インタビュー
2021年2月24日
2021年2月24日

当事者の思いを大事にする認知症ケア

のばなでは、認知症の方々が安心して生活できる社会を目指し、認知症に特化した取り組みを進めています。どのような思いや体制のもとで認知症ケアを実践されているのでしょうか。引き続き、冨田さんにお話を伺いました。 本人の思い、確認してますか? ―のばなさんは認知症ケアのイメージが強いのですが、どのような経緯で認知症に力を入れるようになったんですか? 冨田: 認知症にフォーカスを当てたのは、認知症が進んでいくと、どうしても家族の意見が強くなってしまい、当事者の思いが置き去りにされてしまいがちという課題を感じたからです。 多職種連携の中で生活を支えるとなると、ご家族のニーズが優先されて、それで問題ないように感じてしまっていました。 そこでふと「当事者の思いがきちんと確認できているか」という視点が漏れていたことに気づいたんですね。それに気が付いてからは、常々「本人の思いって確認できてる?」と振り返るような形でケアをするようになりました。 ―具体的にどのようにご本人の思いを確認されているのでしょうか? 冨田: 当事者のこれまでの生い立ち、どういった生活をされてきたか、当事者や家族の思いを伺っています。 今まさに困っていることだけを聞くのではなく、認知症になる前はどんな性格だったのか、どんなことを大切にされていたのか。これらを言葉にして、できないことばかりを集めるアセスメントではなく、「これはできるかも」という部分を一緒に探していきます。 定期的に行う社内研修や事例検討会でも、こういったやり方を共有しています。 看護師だからこそ受け入れてもらえることもある ―冨田さんはきらめき認知症トレーナーという資格をお持ちと伺いました。具体的にどのような実践をされているのですか? 冨田: 資格勉強で学んだことは、本人の思いはもちろん「本人の居心地を大事にすること」です。それを表情などからチェックするスケールで評価します。 言葉で意思疎通がうまくできない状態でも、泣いたり、怒ったり、表情に関わり方の結果が必ず出てきます。これは医療従事者が活用するだけではなく、家族へも伝えて、家での環境や関わり調整にも役立ててもらっています。 ―表情を注意深く観察するんですね。やっていてうまくいかないケースもありますか? 冨田: ひとつ難しいことがあります。それは、私たちとの関係の中ではうまくいったことでも、家族とはまた別の関係性があるので、同じことを家族でやってもうまくいかないことです。 例えば、利用者さんの仕事上の呼ばれ方で声を掛けると、話がすごくスムーズになったことがありました。でも、家族が利用者さんを仕事上の呼び方で呼べるかというと、そうはいきませんよね。 第三者だからこそ気づいて実践ができる、看護師だから受け入れてもらえることもあるんだと思いました。 利用者さんの安心をつくる ―居心地を大切にするアプローチをすることで、気持ちが落ち着いて、症状も改善されていくのですね。 冨田: 認知症ケアのキーワードは「安心を与えること」だと思っています。反対に、不安や焦りは認知症の症状を悪化させてしまいます。自分たちであっても、できないことを強要されると焦ったり不安になったりしますよね。 ―確かにそうですね。具体的に「安心」とはどういうことなんでしょうか? 冨田: 「安心」とは、できることを見つけることです。利用者さんの過去の行動から、何ができるかを見つけ、それをしてもらうことで、利用者さんは安心できます。そして安心した環境をつくった中にスタッフがいると「この人たちは安心だ」と感じてくれます。 認知症ケアに正解はないと思いますが、今は手探りながらも、これが一番いい形かなと思っています。 ―のばなの訪問看護では、やはり認知症の利用者さんが多いのでしょうか? 冨田: 最初は認知症に特化していましたが、最近は医療依存度の高い方で、かつ認知症がある方の紹介がすごく多くなっています。 急性期や慢性期、精神科も看取りもできて、認知症も看られることがのばなの強みです。 今後は在宅がメインとなり、「ほとんど在宅ときどき入院」という時代がくると言われている中で、他の疾患と認知症を併発する利用者の数は増えてくると思います。 多職種の方にも、認知症に備えることは避けて通れない、という話は必ずしています。認知症が看られなかったら、ケアもできないのではないかと思っています。 野花ヘルスプロモート代表取締役 冨田昌秀 祖母が看護師だった影響を受けて自身も看護師に。病棟での看護に違和感があり、介護保険施行のタイミングで起業を決意。代表を務める野花ヘルスプロモートは認知症ケアに注力しており、大阪府岸和田市にてケアプランセンター、デイサービス、訪問介護、訪問看護、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームを運営している。  

インタビュー
2021年2月16日
2021年2月16日

皆にとって「よりよい場所」を

テンハート訪問看護ステーションは、新型コロナ流行以前から感染症対策や災害対策など「もしもへの準備」に力を入れています。 ステーション管理者であり、合同会社Beplace代表でもある佐渡本琢也さんは実はもともと臨床検査技師として働かれていたそうです。今回は、佐渡本さんがどんな思いでステーションを設立し、運営しているか伺いました。 自分の想いを追求した先にあったもの ー臨床検査技師から訪問看護師へ、それもステーションを経営するという選択をされていますよね。背景には、どんな思いがあったんですか? 佐渡本: 看護師へ転職したのは、患者さんとコミュニケーションする仕事の方が、検体相手の仕事より向いていると思ったからです。その上で、訪問看護ステーションの経営をしようと思ったのは、「自分の考える看護を追及したかったから」です。 看護師の中には、患者さんに対して敬語を使わなかったりきつい態度取ったりする人もいます。でも、それは違うと思いました。私は、利用者さんやご家族の思いを大事にする看護をしたかったんです。 医療面だけではなく「人生をみる」と言ったらおこがましいですが、人生に関われるような看護をしていきたいと思っています。 訪問する時も常に、「他にもっとできることはないかな?」と考えています。 ーステーション名の「テンハート」には、どんな意味が込められているのでしょうか? 佐渡本: 「テンハート」はもともと「Tender Heart(やさしい心)」という言葉から取った造語なんです。 スタッフにはいつでもやさしい気持ちでいることを意識してもらっています。 また、会社名の「BePlace」も、「Better Place」を短縮した、私たちが作った造語です。 経営理念にもしているように、利用者さんにとっても、ご家族にとっても、働くスタッフにとっても、「すべての人にとってよりよい場所を」という気持ちを込めて名付けました。 利用者さんやご家族から「いてくれてよかった」と思ってもらえるような看護をモットーに、気持ちの部分だけでなく、医療面や身体面でも、信頼してもらえるステーションを目指しています。 「テンハートなら大丈夫」と言ってもらえる地域密着ステーションへ ーステーションを運営する上で、心掛けていることはありますか? 佐渡本: なんでも話しやすい雰囲気を作るようにしています。 なぜなら、雰囲気が悪いと、報告・連絡・相談がスムーズにできなくなってしまうからです。 スタッフ間の年齢差は大きいですが、明るいムードでスタッフ同士が仲良く働けていると思います。 ーテンハートの特徴は、どんなところでしょうか? 佐渡本: 特徴と言えるかわかりませんが、ケアマネジャーさんから「ちょっと難しい方だけど、テンハートさんなら大丈夫だと思って」と電話をいただくことがあります。そういう風に言ってもらえると嬉しいですね。 利用者さんの割合としては、高齢者の方が多いですが、怒りっぽい性格の方や気難しい方など、対応が難しいケースの依頼も多いですね。 ーステーションとして今後、チャレンジしたいことはありますか? 佐渡本: 地域に根付いて、自分たちの理念に共有してくれる仲間と運営していきたいと思っています。 たくさん展開したいという訳ではありませんが、もう1ステーションは名古屋市内で早めに作りたいですね。 あとは、訪問看護ステーション以外にも「すべての人にとってよりよい場所を」提供できるような別事業も展開していきたいと思っています。 合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師 佐渡本琢也 臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。

インタビュー
2021年2月16日
2021年2月16日

異業種参入 第一の壁:採用

近年、異業種から訪問看護に参入する企業が増えています。 そんな中、参入した経営者が口をそろえて言うのが、「採用の難しさ」です。 看護師を中心に800人以上の専門職が在籍しているセントケア・グループの訪問看護事業では、どのように人材を確保しているのでしょうか。訪問看護部門統括次長の藤原祐子さんにお話を伺いました。 人材紹介会社に頼らない大規模採用 ―採用の方法について、教えていただけますか? 藤原: 基本的には、ホームページ、YouTube、Twitter、Instagramの活用と、社員紹介制度を利用した採用を行っています。今までは使っていた人材紹介会社も、今年からは積極的には頼らない方針にしました。 採用は「誰に伝えるか」「何を伝えるか」を考えながら行っています。 例えば、病院などで働いている若い方向けにはSNSやアニメーションなどを活用する、中堅ベテラン層向けにはハローワークで企業としての安定性や研修制度を売りにしてもらうなどです。 またハローワークや紹介会社には情報を出すだけではなく、窓口や担当の方がセントケアを紹介したくなるような関係づくりも意識しています。 SNS関連の採用事例の成果については検証中ではありますが、ホームページをみて入社する人は増えてきている実感はあります。全体的に見ると40代の方が多いですね。 これまでは自社アピールを全面に出し過ぎるのは良くないかなと思っていたのですが、ダイレクトに伝えないとわからない部分もあることがわかってきました。 今はオンラインセミナーなどで、「セントケア・グループでは看護師を積極的に募集しています」「セミナーや勉強会も開催しています」と言うようにしています。 社員紹介制度に関しては、紹介してくれた方と入社してくださった方に、入社お祝い金として3~5万円(キャンペーンなどによって変動あり)のお支払いをしています。地域会社によっては、社内紹介がすごく盛んなところもありますね。 将来的にはオンラインサロンのような、コミュニティ運営もやっていきたいです。 ステーション安定が私のミッション ―セントケア・グループとしての、採用基準はありますか? 藤原: 採用基準はステーションの状況に合わせてもらっているので、こちらから条件は特に出していません。 ただ、新規開設の場合には、正社員3人以上で始めること、24時間365日対応のためにオンコール対応ができることなどは決めています。 ―藤原さんご自身は、どのようにしてセントケア・グループに入職されたんですか? 藤原: 私の入職には、ちょっと変わった経緯があります。 私が訪問看護師になったのが32歳の時だったのですが、当時に勤めていたステーションが人員割れで閉鎖することになりました。 行き場のないお客様やスタッフを受け入れてくれてもらうため、同じエリア内のいくつかのステーションに連絡をしたところ、すぐに連絡をくれて、その日に会いに来てくれたのが、セントケアでした。 当時のセントケアはそのエリアでは訪問介護事業所しか運営していなかったのですが、訪問看護ステーションも立ち上げるということで、私が所長として入職することになりました。 その後、係長職や課長職を経て、現在は本社の訪問看護部門で統括次長をやっています。 ―本社の統括次長としてのミッションを教えてください。 藤原: 事業全体の中長期計画を立て基盤をつくるのが、本社の管理・企画部門の主な役割ですが、私自身は自社の訪問看護ステーションが安定できるようにサポートすることがミッションだと思っています。 特に魅力的な看護師にセントケアに来てもらって、長く働き続けていただくためにできることをやっていきたいですね。 ちなみに本社はとりまとめる役割なので、実際に事業を運営するのは各都道府県の子会社です。 本社の出した全体計画を各社が地域に合わせた形に落とし込んで、実行しています。介護や医療は地域ごとに状況が異なるので、それに沿って運営できた方がいいですからね。 セントケア・ホールディング株式会社 訪問看護部門 統括次長 藤原祐子 病院勤務で、在宅に受け皿がないために、帰りたくても家に帰れない高齢者が多くいる現実を見て、世の中の制度に疑問を感じるようになる。その後、結婚・出産を経て、2000年に介護保険制度がスタートするタイミングで、介護保険や訪問看護について勉強し、訪問看護師へ転身。管理者としてセントケア・グループに入職し、現在はセントケア・ホールディングの訪問看護部門統括次長として、訪問看護ステーションの安定運営をサポートする基盤づくりに注力している。 セントケア・グループ 1999年、株式会社として初となる訪問看護ステーションを開設。現在では97か所の訪問看護ステーションを全国に展開し、訪問入浴や訪問介護、デイサービス、有料老人ホームなどの幅広い事業にも取り組んでいる。(2020年11月時点)

インタビュー
2021年2月16日
2021年2月16日

のばな、成長の軌跡

大阪府岸和田市で認知症に特化した取り組みをしており、現在はケアプランセンター、デイサービス、訪問介護、訪問看護、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームを運営する「野花ヘルスプロモート(通称のばな)」。 今回は野花ヘルスプロモート代表取締役の冨田昌秀さんに、会社の経歴と事業内容をお伺いました。 はじまりは訪問入浴 ーさまざまな事業をされていますが、最初は何から始められたんですか? 冨田: 最初は、ケアプランセンター、訪問介護、訪問入浴の3つから始めました。 当時の岸和田市の訪問入浴事業所は、社会福祉法人だと1ヶ所しかなかったんです。在宅ケアが注目される中で、もっと必要になるはずだと思い、二番手として立ち上げました。 ー訪問入浴をやってみていかがでしたか? 冨田: 訪問入浴は、作業的、マニュアル的ことが多いですけれど、一番「ありがとう」が聞ける仕事でした。 立ち上げ時は看護師3人で運営していたので、訪問入浴中に医療的な面で気付けることもあり、ケアマネジャーさんにフィードバックしやすかったのもメリットだったと思います。 地域の評判は上々で徐々に利用者さんも増えました。 ただ、自分の給料も払えるくらいになったのは半年くらいしてからですね。 男性看護師で20代と若かったこともあって、会う方には「お前は何者や!」と警戒されるか、「面白い奴や!」と可愛がってもらえるか、反応はふたつに分かれましたね。 ーその後はどのように事業展開をされていったのでしょうか? 冨田: 次にトライしたのはデイサービスで、その後住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅を立ち上げています。 障害福祉の方面ではNPO法人を立ち上げ、復職支援・社会復帰支援のリワーク事業のシンクタンクとなっています。     ー地域の中で求められるサービスを増やしていったんですね。 冨田: そうですね。何が流行りかもありますが、経営者目線で安心安定の職場環境を作ることも模索しながら、地域で必要とされるものかをジャッジしながら作っていきました。 支える人を支えることが、持続可能な事業の柱となっています。     働きやすい環境のマニュアル化を目指して ー今後はどのようなことに取り組むご予定が教えてください。 冨田: 精神医療を提供しているクリニックや施設とのリワークのマッチング、コンサルティング事業が動いているところです。 訪問看護の多店舗展開はあまり考えていませんが、看護師が働きやすい環境についてマニュアル化していき、若い子たちがのれん分けのような形で展開していくときにサポートができたらと思います。     ー「働きやすい環境をマニュアル化」について、具体的にお伺いしてもいいですか。 冨田: のばなで働いている方のほとんどは女性で、子育てされている方も多いです。 ワークライフバランスを重視する方、バリバリ働きたい方、様々な課題や働き方に関する要望があります。 こういった課題や要望に対して、ICT技術などを活用しながら、それぞれのスタッフにあった働き方をマニュアル化して広げていけたらと思います。 そのために、クラウド化した電子カルテを利用したり、デバイスを配布したりするなど、看護師がリモートワーク出来る仕組みを整えています。 これから訪問看護が当たり前になっていく中で、他職種と良質なコミュニケーションを取ることが必要になります。そのための仕組みだったりツールだったりを、どんなものを使うと良いか経営側が考えていけたら、もっと面白く、うまくいくかと思います。 正解はないと思いますが、「より働きやすく」を意識しながら今後もやっていきたいです。 野花ヘルスプロモート代表取締役 冨田昌秀 祖母が看護師だった影響を受けて自身も看護師に。病棟での看護に違和感があり、介護保険施行のタイミングで起業を決意。代表を務める野花ヘルスプロモートは認知症ケアに注力しており、大阪府岸和田市にてケアプランセンター、デイサービス、訪問介護、訪問看護、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームを運営している。

特集
2021年2月16日
2021年2月16日

知っておきたい!病棟看護師が訪問看護師になるときのハードル

超高齢化社会を目前にし、2019年厚生労働省は訪問看護師の不足について実際の試算を発表しました。現在は5万人の訪問看護師が従事していますが、2025年には12万人が必要だと言われています。 しかし、訪問看護へ転向する際「看護経験が少ないと難しい」と多くの看護師が感じ、なかなか踏み出せないようです。 私は自身が訪問看護をスタートした時に感じた不安をベースに、訪問看護の楽しさとスムーズに仕事がスタートできる内容で勉強会と交流会を2018年11月より毎月開催してきました。実際に病棟看護師から訪問看護師へ転向した方のリアルな悩みや苦労に対してどのようなアプローチが有効か考えていきます。 未経験分野への挑戦 お話を伺った安原郁恵さんは、介護福祉士としてグループホームやデイサービスを10年ほど経験したのち、看護師の道へ進みました。 資格取得後は小児科病棟へ配属され、多忙な業務を必死で働き続けていく中、ふと介護福祉士時代の看取りを思い出しました。 一人ひとり患者とゆっくり向き合う時間や家族との関わりなど、看護の本質をじっくり追求できる看護をしたいと思うようになりました。その後、約3年働いた小児科病棟から訪問看護へ転向しました。「成人看護の経験がないことがとにかく不安でした」と安原さん。 看護師の経験は小児科のみ。病棟経験はあるものの、末梢静脈路確保、膀胱留置カテーテル交換、インスリン注射などの経験はありません。 訪問看護は介護保険を利用している方が6~7割程度を占めています。そのため、成人看護、老年看護が主体となっている訪問看護ステーションがほとんどです。 安原さんにとっては「未経験分野」への挑戦となりました。 少しずつスキルアップ 安原さんの訪問看護ステーションでは、見学同行(先輩のケアを見学する)、実施同行(先輩にケアに同行してもらう)というスタイルで全3回程度の同行をしています。 その後も「不安だったらもっと一緒に同行するよ」と先輩から声をかけてもらい、付き添ってくれることもありました。こうした手厚いサポートのおかげで、未経験ながらも安心して取り組むことができたそうです。 不安の大きい看護技術に対しては、手順を勉強して、動画で確認、イメージトレーニングを行いました。 自己学習した上で、見学同行で確認、実施同行で指導してもらうという学びを繰り返していくことで、出来ることが少しずつ増えていき、結果、自信につながったそうです。 はじめは誰もが「初心者」 訪問看護の対象者は、成人から老年期がメインです。小児科からのシフトは一見ハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、病院でも一緒で、部署や病棟が変わればそこは「未経験分野」だったはずです。 新卒看護師の指導方法として、プリセプター制度があり、全国でも多くの病院に導入されていると言われています。 プリセプター制度の中心として欠かせないものに、実際に仕事をする中で業務上必要な知識・技術・技能を身につける OJT(On the job training)があります。 効果的な OJT の実施は、新卒看護師および先輩看護師がともに成長・ 発達できるとされています。 訪問看護においてもこれらのOJTを基本とした指導を受けることで、安原さんのように全くの未経験分野でも挑戦することができると考えられます。日本訪問看護財団(※1)や東京都福祉保健局(※2)でも「訪問看護師OJTガイドブック」を作成しています。 ここで、注意しなくてはならない点があります。 それは、訪問看護へ転向してくる看護師のほとんどは、臨床での十分な経験を積んできているだろうと思われているということです。 指導する側も「これだけの経験があればきっとこのくらいのことはできるだろう」「このような疾患の患者はきっとみたことがあるだろう」という思い込みで、任せてしまうことがあります。 また、臨床経験の長い看護師が訪問看護へ転向すると「いまさら知らない、経験がないとは言いにくい」という心理的ハードルがあります。原因として、年齢や経験年数が指導する側と指導される側でねじれが起きていることも考えられます。 そのため、経験や自信を可視化できるような技術・経験チェックシートを活用することがお互い納得のいく方法だと考えます。 看護師の経験年数に関係なく、訪問看護へ転向した際は「在宅領域では新人」と捉え、一定期間は新卒看護師と同じように精神的フォローを含めて関わる必要があります。どんなことでも相談できる体制を整えたり、研修制度を設けたりすることで安心して働くことができます。 また、新卒看護師の教育において、Off-JT(Off the Job Training)の集合研修との組み合わせは、スパイラル学習の効果があると言われています。 定期的なステーション内の集合研修、e-ラーニング導入、カンファレンスを活用した学習会などを行うことが訪問看護においても大切だと考えられます。 成功体験を共に積み重ねる 安原さんは、これまで1年間、訪問看護を続けてきました。 1人で訪問できる利用者を増やしていき、入職後4ヶ月目には24時間対応の携帯当番も担当させてもらえるようになったそうです。 もちろん初めての経験ですので、うまくいかないこともありました。担当した利用者の排便コントロールがうまくいかず、介護している家族に負担をかけてしまったという苦い経験をしました。 先輩からの助言を元に、内服の調整や観察にて試行錯誤を繰り返してきた結果、今では訪問時にトイレで排便をさせることができるようになったそうです。 何よりも、丁寧な関わりで家族の辛さに寄り添い、意図的なコミュニケーションの時間を持つことで信頼関係を築いていきました。 介護福祉士として生活を中心に携わっていた経験が介護者に寄り添う看護へとつながりました。その家族から「あなたでよかった」「長く続けてね」と言ってもらったことが、今までやってきて一番嬉しかったそうです。 このように利用者からフィードバックをいただくのはとても嬉しく、成功体験だといえます。 しかし利用者からの評価にとどまらず、先輩看護師からの評価をもらえることも必要で、スタッフの定着においても非常に大切だと言われています。 カンファレンスでは、訪問している看護師の関わりが、利用者にとってどのような良い状態につながっているのか言語化すると良いでしょう。訪問看護での成功体験の少ない看護師とって、自分の看護を先輩看護師に評価してもらう機会を自然に持つことができます。 また、複数の看護師が関わっている場合、新任看護師の対応に不備がないか確認し、フィードバックすることも有効だと思います。 まとめ 同行訪問でのOJTの効果的な指導を繰り返し、実際の訪問看護の中で成功体験を積み重ねることで未経験分野に対する漠然とした不安を払拭し、一人前の訪問看護師へと成長していきます。 そこには利用者からの感謝の言葉だけでなく、カンファレンスでの客観的な利用者のアウトカムの確認や先輩からの適切な評価が大切だと考えられます。     訪問看護師・ケアマネージャー マインヘルスケア株式会社代表取締役 西山 妙子 2001年 横浜赤十字看護専門学校卒業後、総合病院、大学病院手術室に勤務。結婚、子育てを経て訪問看護の道へ。2015年ケアマネージャー取得。病院の業務で疲弊しないでほしいと看護師の横のつながりや、新しい看護師のライフスタイルの提案を行うナースのためのオンラインサロン「ナースライフバランス 」を2017年10月より運営(現会員数約880名) 【参考】 ※1 日本訪問看護財団 訪問看護師OJTガイドブック ※2 東京都福祉保健局 訪問看護OJTマニュアル 【参考文献】 公益財団法人 日本訪問看護財団 令和2年度事業案内(2020) 訪問看護人材養成基礎カリキュラム(2016) 厚生労働省新人看護職員研修ガイドライン訂正版 小宮山陽子 、水澤千代子 、岡村典子 他(2017)看護研究交流センター 地域課題研究報告「プリセプター制度の現状と課題」

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

2020年、医療現場のオンライン化で訪問看護はどう変わる?徹底解説

コロナによる大幅な規制緩和 2020年はコロナ一色の1年となりましたが、医療現場のオンライン化をめぐる状況も大いに変化した年となりました。2020年は、2018年のオンライン診療保険収載後初の改定ということで、3月に告示された改定概要は注目されましたが、適応要件の若干の緩和(※1)があるのみで、オンライン診療をめぐる制度の大幅な変更はありませんでした。 むしろ現場に大きな影響を与えたのは、政府の緊急事態宣言発出直後の4月10日に通知された厚労省の事務連絡です。 非対面の診療行為が初診から可能に この通知による時限措置で、これまでさまざまな要件で縛られていた情報通信機器を用いた非対面の診療行為は、医師の判断により「初診から可能」となり、対象疾患の範囲も制限が事実上なくなりました(※2)。 この緩和は服薬指導の領域にも及び、本来9月の改正薬機法の施行をもってスタートするはずだったオンライン服薬指導は、薬機法の規定よりも大幅に緩和された形で、半年先だって事実上の解禁となりました。 この状況は時限的なものですが、菅総理も今回の緩和の枠組みの恒久化に意欲を見せており、厚労省も時限措置の延長決定を続けています。 厚労省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、ガイドライン検討会)の資料からも、2021年の夏~秋を目指して、時限緩和を踏まえた新たな恒久制度のとりまとめとガイドライン改定の検討が進んでいくものと思われます。(※3) オンライン化の実態は? 当然この通知直後は、オンライン診療システム「YaDoc」の開発を行っているインテグリティ・ヘルスケにも、混乱する現場から多くの問い合わせが寄せられ、実際にYaDocの導入件数も大きく伸びました。 一方で、前述のガイドライン検討会で報告された通り(※4)、2020年10月末時点で、当該時限措置を踏まえ電話や情報通信機器を用いた診療を実施可とした医療機関は、全体の15%にとどまっており、増加の伸びは第1波が終息した6月以降は停滞しています。 さらに増加した非対面診察の多くが電話での診察であり、またアプリを用いたオンライン診察の多くは小児科(若い世代の親がスマホなどを使って自宅の子供と遠隔の小児科医を繋ぐ形式)で、60歳以上世代での慢性疾患管理のオンライン化は依然進んでいない実態も明らかになりました。 電話よりも多くの情報をやり取りできるオンライン診療システムが、コロナ重症化ハイリスク層である慢性疾患を持つ高齢者に対し提供できる価値は大きいと考えます。しかし同時に、高齢者のITリテラシーという大きなハードルの存在を、2020年を通じ改めて認識されられました。 インテグリティ・ヘルスケアの感覚値としても、コロナ第2波、第3波では、第1波のような混乱と熱気はなく、医療機関も極めて冷静に、自院患者のニーズに応じたオンライン診療システム導入可否の判断を行っているようです。 むしろ秋以降、第1波でトライアルを回した大規模な病院が、満を持して予約や決済などの病院全体のオペレーションに適合したオンライン診療システムを改めて公募~正式採用、という事例が増えているように感じています。2021年に向けて国側で恒久制度のとりまとめが進むのと並行して、多くの大規模な病院で組織的なオンライン化が進んでいくものと思われます。 訪問看護領域への影響 このオンライン化の波が、訪問看護の領域にどのように影響を与えていくのでしょうか。 まず細かい点でいえば、2020年改定での退院時共同指導料の算定におけるオンライン活用要件の緩和(これまで退院時カンファは原則対面&やむを得ない場合にのみオンライン可だったが、今回から必要な場合はオンラインOKとなった)が挙げられます。 D to P with N しかし本質的な影響として重要なのは、「D to P with N」の普及と制度化だと思います。「D to P with N」とは、在宅の患者へのオンライン診療時、患者宅に看護師が同席し、デバイス操作を補助したり、医師による追加的な検査指示への対応をその場で行うモデルで、慢性疾患の増悪の早期発見などに役立つと期待されています。 厚労省のガイドライン検討会では、2019年7月にガイドラインのオンライン診療の定義内に「D to P with N」モデルを加筆しました。最近の検討会の議論の中でも、現状まだ過疎地や希少疾患などに限られている「D to P with N」の運用を、より一般的な疾患管理にも拡大し、有効な活用事例を収集・紹介するなどの推進策を検討してはどうか、といったやり取りがなされています。(※5) 今後、医療職へのワクチン接種などが進み、高齢患者宅への訪問看護のリスクが現状よりもさらに下がった暁には、オンライン化の大きなハードルである高齢者ITリテラシー問題を、「D to P with N」モデルが解消してくれる可能性が大いにあると期待しており、恒久制度にどのように盛り込まれるか、注視していきたいと思っています。 株式会社インテグリティ・ヘルスケア デジタルセラピー事業 増崎孝弘 2011年、株式会社メディヴァ(医療コンサル)にて、在宅医療・地域包括ケア関連のコンサルティング業務を担当、2017年よりインテグリティ・ヘルスケアに参画。福岡市でのオンライン診療の実証事業の現地事務局を担ったのち、現在は疾患管理システムYaDocを基盤に、製薬・医療機器メーカー向けのアプリケーションの開発やそれらを用いた臨床研究のプロジェクトマネジメントを担当中。 【参考】 ※1 事前の対面診察機関の6か月から3か月への短縮、慢性頭痛や在宅自己注射等の対象疾患の見直し等。令和2年度診療報酬改定の概要(全体版) ※2 0410対応における(株)インテグリティ・ヘルスケアの見解 ※3 第13回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 資料1今後の検討のスケジュールについて ※4 第10回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 資料2 令和2年4月~6月の電話診療・オンライン診療の実績の検証について、第11回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 資料2-2 令和2年7月~9月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果 ※5 2020-11-2 第11回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会  介護報酬、診療報酬改定についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

今日からできるプチ災害準備

高齢者のための災害準備チェックポイント 高齢者の災害準備において気を付けなくてはいけないことにはどのようなものがあるでしょうか?高齢者特有の準備の特徴から考えてみたいと思います。 期限が切れている ・非常用の食事の消費期限が切れている ・懐中電灯やラジオの電池が切れている 高齢者のご家庭にお伺いして準備の状況をおたずねすると、「あ、そういうの、ちゃんとありますよ!」と言って見せてくださいます。 災害準備のための物資(非常食や懐中電灯、ラジオなど)は、多くの方のお宅にきちんと常備されていることが多いのです。ところが、中に入っているものを一つ一つ確認していくと、今、災害が起きてしまったらすぐに役に立たない物があることも見受けられます。 情報が古い ・通院中の病院や服用している薬の名前が書かれたノートの情報がアップデートされていない ・家族や親戚の連絡先が過去のものになっている 高齢の方は定期的に病院に通っていたり、薬を飲んでいらっしゃることが多いため、避難先に持っていけるように病院や薬の名前を記したノートを作ることが推奨されます。また、いざという時に助けを求められる家族・親戚の連絡先をメモしておくことも必要です。 しかしそれらの情報が古く、情報がアップデートされていないことも多々あります。 実際の避難を想定出来ていない ・避難用の非常袋が持ち出せない ・自分に必要な物資が入っていない 避難用の非常袋には2リットルの重さのお水などが詰め込まれていて、「これを実際に背負って逃げられますか?」とお尋ねすると、「ちょっと、重たすぎるねぇ」などという答えが返ってくることがあります。高齢の方の災害準備には、避難用物資の準備をする際は自分で運べる重さか、すぐ持ち出せる場所にあるかなど実際を想定した準備が必要です。 また、日頃の生活で必要なものというのは高齢者、お一人お一人で異なります。誰もが使うようなものは、災害が起きてもすぐに提供されるようになりますが、特有のニーズへの対応は、往々にして後手になりがちです。 メガネが必要な方、入れ歯が必要な方、薬が必要な方、補聴器が必要な方、またそのための充電ケーブルや電池等、どうしても無くては困るものをリストアップして、自分なりの準備品を考えておくことが大切です。 避難することの危険性を考慮していない ・自分の地域で起こりえる災害を把握していない ・とにかく避難所へ行かなければと思っている 防災というと多くの方が想像される「避難」については、避難場所をきちんと把握していらっしゃる方も多いのですが、高齢者には「避難によるリスク」というのが常に伴うことを知っておかなくてはなりません。 いつもなら何でもないような散歩道も、雨が降って視界が悪かったり、非常用の荷物を抱えて避難を急いでいる際には、いつものように冷静に歩くことができず、足元をとられて転ぶということもあり得ます。 避難を必要とする災害が起こりうるのか、もし避難をしないという選択をする場合にはご自宅は避難に耐えうるのか等を知っておくことが重要になります。 高齢者の方に「あなたのお住いのエリアではどのような災害が起こりうるかご存じですか?」とお尋ねすると、起こりうる災害を想定した災害準備をしている方は少なく、「とにかく避難所へ」とお考えの方も多いようです。リスクを減らすためにも、土砂崩れや川の氾濫など、避難をした方がよい災害が来る可能性があるのか、自宅にとどまった方がよい災害が起こりうるかを知っておくことは重要です。 ニーズに合わせた準備を 何より、高齢者と一言でいっても、身体機能や認知機能、必要な支援ニーズが極めて多様であるため、災害準備に必要なものは、それぞれに大きく異なる、ということが高齢者の特徴だと言えます。これがあれば大丈夫!という準備はなく、それぞれのニーズにあわせて災害準備を考え、それを定期的に確認することが重要です。 そうはいっても、いつ来るかわからない災害のために、日ごろからきちんと準備をしておくことは難しいのが実際です。また何もかも購入しようと思うと、お金がかかってしまいそうで、準備をする気も起きなくなってしまいます。そこで、あまり気負わず、日頃からちょっとした工夫で高齢者の災害準備を進めていただくポイントを考えてみましょう。 今日からできる「プチ災害準備」 起こりうる災害をチェック まず、お住いのエリアで起こりうる災害を調べてみましょう。これには市区町村の防災の手引きやホームページなどが役に立ちます。また、災害時ご自身の避難は想定されない場合でも、避難所を知っておくことは大切です。実際に災害が起こった際に、物資や情報が提供される場所になりうるからです。 3日間の物資を準備 次に、自宅で3日間、援助を待つことができるための物資を準備します。物資の準備のために、防災グッズを新たに買う必要はありません。 例えば、食べ物であれば、「今日から3日間、電気やガスが使えず、自宅から全く外出しなくても生活できるかしら?」という視点で、プラス3日分の食料品を準備するようにしておけば、非常食の賞味期限を気にする必要はありません。また、日頃食べ慣れたものであれば、口に合わないということもないでしょう。 また災害がおさまっても、その後に停電が一定時間来るということも、しばしばあります。夜間の停電の中、部屋を移動することなどは高齢者にとってとても危険です。 懐中電灯を各部屋に準備しておいたり、持ち出し品を就寝中は寝室に置いておくことや、暗闇の中割れたガラスなどを踏むことの無いように、スリッパや室内履きを持ち出し品に入れておくことなども、ちょっとした工夫の一つです。 防災プチ訓練 なお、高齢者の災害準備にありがちな、防災グッズの確認忘れを防止し、既往歴や連絡先などの情報を定期的にアップデートするために、防災プチ訓練をお勧めしています。台風が来ると予報が出た際や、小さな地震が来た際に「被害がなくてよかった!」で終わらせるのではなく、備品や食料の確認をしたり、避難場所までの経路を確認してみるなどの機会を定期的に持つようにしていただくといいでしょう。 まだ来ぬ災害への準備を一から始めようと思うと大変ですが、ちょっとした工夫と定期的な習慣として進めることで、災害準備は格段に進みます。高齢者の特徴でもある多様なニーズに合わせるためにも、自ら準備をすること、定期的に確認することを念頭に、高齢者の災害準備を考えてみましょう! 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。   【参考】 これまでの研究調査を基に、高齢者の方の災害準備に必要な内容を簡単にまとめた「災害準備ノート」を掲載しています。災害準備されていますか?―要介護高齢者の災害準備を考える― 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

異なる支援ニーズへの対応と地域コミュニティ

情報提供の必要性 アメリカの疾病対策予防センター 日本の防災の手引きには、これまであまり状況や対象特有のニーズに合わせた情報提供がなされてきませんでした。 米国の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)では、災害準備向けの情報発信を積極的に行っています。 北米はエリアによって、起こりうる自然災害が多岐にわたりますので、その災害タイプ別(地震、雷、火事、水害、津波等)に、個人で行える災害準備のポイントを解説しています。何より重要なこととして、災害発生時には手助けが来るまでに時間がかかることから、災害発生時に耐えうる自らの災害準備が重要であることがわかりやすく解説されています。 また興味深いのは、準備においてもその支援ニーズが異なることから、特に支援が必要な人やその家族向けに、例えば、高齢者向け、障がいのある人向け、妊婦や出産を予定しているご夫婦向け、医療ニーズのある子供とその家族向けなど、対象別に情報提供をしていることです。 このような情報提供は、支援ニーズが多岐にわたる高齢者にとっては非常に有用ですので、ぜひとも各自治体の防災の手引き等の情報提供に反映されることが望まれます。 異なる支援ニーズ また、高齢者と一言で言っても、生活の上で介護が必要な方、そうでない方、家族と住んでいる方、住んでいない方等様々ですので、その方の状況をまずはしっかり把握したうえで、災害準備の計画を立てる必要があります。 特に要介護高齢者の方の災害準備を進める上では、「ご本人が必要とする生活上の必需品」、「ご本人の身体機能や認知機能の程度」、「ご本人が得られる支援」という軸で必要な災害準備の内容を整理し、災害準備計画につなげることをおすすめします。 また「ご本人が得られる支援」は時間帯によっても異なります。就寝時、介護保険サービスの利用時、家族と家で過ごしている時、家族が不在の時等、災害は24時間起こりえることを理解し、その時々の状況について計画を検討する必要があります。 なお、災害時個別支援計画を作成している訪問看護ステーションの例もありますので、参考にしてみてください。 地域コミュニティの役割 身体機能が低下しつつある高齢の方にとっての災害準備には、地域のつながりも重要になってきます。 というのも、災害はいつ発生するかわかりません。いつもなら頼れる家族がそばにいても、災害発生時に仕事や買い物などで、近くにいないということも考えられます。 また災害の起こりうる状況は地域によって異なりますので、地域別の情報を共有しておくことはとても重要になってきます。 第1回コラムで紹介した調査結果においても、地域住民とのネットワークの状況が、介護が必要な高齢者の災害準備を進める鍵であることが示唆されています。 地域住民とのネットワークが密であるほど、つまり、地域においてネットワークがない人や日常会話程度のネットワークのみの人に比べて、ある程度介護のことを話したり、情報を共有するネットワークを持つ人の方が、災害準備が進んでいる状況が明らかになっており、災害準備において地域での情報共有が重要であることを示しています。 これは、介護が必要な高齢者の身体・認知機能を少しでも共有しておくことで、いざという時に声をかけてもらえたり、避難所や支援、災害準備に関する情報の共有が、日頃から自然と進められているためであると考えられます。 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。  

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