経営者に関する記事

インタビュー
2021年6月8日
2021年6月8日

テッセイ改革で訪問看護に化学反応を引き起こす

この対談では、訪問看護ステーションの経営課題、改善点についてお話しいただいています。テーマにしたのは、新幹線清掃の仕事ぶりが『7分間の奇跡』と注目された、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下「テッセイ」)の業務改善内容です(※1)。まったく異なる業種ですが、そこには学ぶべき多くのヒントがありました。 訪問看護事業は、医療の在宅化が進んだことで重要性が高まる一方で、経営が安定しない、スタッフの確保が難しいなど、多くの課題を抱えています。第1回の対談では、新幹線の清掃会社であるテッセイと訪問看護ステーションに共通する経営課題についてお話いただきました。 ビジネス界で注目されるテッセイと訪問看護の共通点 芳賀: テッセイはビジネス界では知られた存在です。アメリカのハーバード・ビジネス・スクールのMBA(経営学修士)でも教材として取り上げられており、私たち経営学者もよく参考にしています。 テッセイは、親会社であるJR東日本から新幹線の清掃業務を受託している、典型的な子会社です。お客様からの苦情や従業員のミスが多く、離職率も高い状態で、JR東日本グループのなかでも評判があまりよくない企業でした。 改革を行った矢部氏はテッセイの親会社であるJR東日本の上級管理職でした。最悪な状態の清掃会社を立て直すという使命を持ってテッセイに入り、そして見事に業務を立て直しました。 ただ、テッセイの仕事は難易度が高いもので、改善は簡単ではありませんでした。 新幹線の車内清掃は、新幹線が終着駅に着き再出発するまでの12分間で済ませる必要があります。しかもその12分にはお客様の乗降に必要な5分間も含まれているので、実質的には7分で全車両のシート・テーブル・床・トイレを清掃しなければなりません。 テッセイの清掃員たちの業務量は、ボーイングの大型飛行機1機分の清掃の半分の時間で、6機分清掃するのと同じといわれています。 そのような大変な業務でありながら、経営もサービスの質も、人の働き方も劇的に変えたことで、成功事例として取り上げられるようになったのです。 この点を踏まえて、訪問看護事業とテッセイの共通点、異なる点を考えていきたいと思います。 矢部氏は、テッセイに入って最初にすべての事業所を回り、従業員からヒアリングをしました。そして、従業員一人ひとりは真面目な人が多く、個人の資質のせいでこのような業績になっているわけではない、ということを発見しました。それであれば、やり方を変えればうまくいくと確信したのです。 訪問看護ステーションで働いている看護師さんたちは、そもそも看護師をやろうと志した段階で、高い職業意識を持っているはずです。個人の資質が一定レベル以上にあることは、テッセイと訪問看護の共通点といえます。 異なる点は、その仕事をやりたいと思って選んだかどうかではないでしょうか。看護師は、看護師の仕事をやりたくてなった人が多いと思います。一方、かつてのテッセイの従業員には、どんな仕事をやってもダメで、仕事がなくてここに入ったという人が少なくありませんでした。 大河原社長はこの本を読んで、働いている人たちの気質についてどのように感じましたか。 大河原: おっしゃるとおり、真面目で個人の資質が高い人が多いところは訪問看護と共通していますね。 そのほかにも、新幹線の車内清掃と訪問看護はまったくかけ離れた業種ですが、意外に共通点があると感じました。 実は看護業界のなかでは、訪問看護はまだ人気があるとはいえない仕事です。国内には100万人以上の看護師がいますが、訪問看護師はそのうちのわずか4、5万人(※2)で、病院に比べるとまだ地位が確立されていない状況です。そのような中、真面目な従業員にやりがいを持って働いてもらうにはどうしたらよいか、という課題はテッセイと同じだと思いました。 また、新幹線の車内清掃に7分という時間制限があるように、訪問看護でも1件30分とか60分といった時間制限があります。テッセイも訪問看護も、限られた時間内で最大限パフォーマンスを発揮しなければならないというところが、似ていると思います。 【テッセイの改革】 清掃の仕事は3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれて敬遠されがちな職業であり、テッセイも希望の企業に就職できなかった人や失業した人が、最後にしかたなく応募するような会社でした。そんなテッセイで矢部氏は、社員たちに『誇り』と『生きがい』を持たせることに成功し、改革を成し遂げました。どのようにして、現場スタッフの意識を変えたのでしょうか。 矢部氏は、現場のポテンシャルを下げている原因が『本社の管理体制』と『仕事に対する世間のイメージ』であることを突き止め、制服を変え、本社の体制も変え、社員のやる気を引き出す戦略を一つひとつ実践していきました。そして、かつては『いわれたことだけ』をこなしていたような社員を、新しいサービスを自分たちで考え提案するまでに変身させたのです。 今後の訪問看護事業に求められる組織的な運営へのシフト 大河原: 訪問看護事業所の6割以上は5名以下の小規模事業所です(※3)。それだけ企業規模が小さいと、経営者も従業員も手弁当でやることが少なくありませんが、手弁当ではいつか限界がやってきます。年間1,000近い事業所が生まれて1,000近い事業所が撤退する、これが訪問看護業界の実態です(※4)。 しかし、訪問看護事業も大規模化していかないと効率化できません。そして業務を効率化しないと、経営資源を人に集中させることができない。訪問看護は人が主役の事業であり、時間で動く業務なので、今後、効率化は大きな課題になっていくと思います。 芳賀: テッセイは矢部氏の改革によって、現場スタッフが誇りと生きがいを持って働けるしくみをつくることに成功しました。訪問看護業界は、まだそうしたしくみができあがっていない状況ということですね。 政府や厚生労働省は、医療保険制度と介護保険制度のなかで、ある程度の企業規模を持つ訪問看護事業者を想定した動きをしているように見えます。訪問看護も、組織化して一定の業務効率を持ちながらサービスの質を上げていかなければならない時期に来ているのかもしれません。 組織としてどう運営していくかという視点が必要になってくるでしょう。その意味でも、テッセイの業務改革は参考になる部分が多いと思います。 ただし、テッセイの改革は、最悪の状況、マイナスからのスタートでした。リカバリーはまだ設立7年ですし、訪問看護も業界としてまだ確立されていない、いわばこれからの業界です。今の訪問看護事業は無から有をつくる段階であり、そこは大きく違うといえます。 大河原社長をはじめ、訪問看護ステーションの経営者の方々には、新しい考え方にも前向きに取り組んでいっていただきたいと思います。 ** 名古屋商科大学大学院、NUCBビジネススクール 教授 芳賀 裕子 【略歴】 慶應義塾大学卒。慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)。筑波大学大学院ビジネス科学研究科後期博士課程修了。博士(経営学・筑波大学)。プライスウォーターハウスコンサルタント(株)にてコンサルティングに従事。その後コンサルティング事務所を立ち上げ、大手企業のヘルスケア分野への新規参入コンサルティングを30年近く実施。医療、健康関連、介護、ヘルスケア業界を得意とし、ベンチャー企業取締役、ヘルスケア事業会社の執行役員なども歴任。 Recovery International株式会社 代表取締役社長/看護師 大河原 峻  【略歴】 看護師として9年間臨床に携わった後に、オーストラリアで働くが現実と理想のギャップに看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。設立7年で11事業所を運営し(2020年12月時点)、事務効率化や働き方改革など、既存のやり方にとらわれない独自の経営を進める。  【参考書籍】 ※1 著・矢部輝夫、まんが・久間月慧太郎(2017)『まんが ハーバードが絶賛した 新幹線清掃チームのやる気革命』、宝島社  【参考資料】 ※2 厚生労働省 平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 就業保健師・助産師・看護師・准看護師 結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/18/dl/kekka1.pdf ※3 厚生労働省 アフターサービス推進室活動報告書(Vol.15:2014年3月~6月)平成26年6月30日 https:/www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol15/dl/after-service-vol15.pdf ※4 一般社団法人 全国訪問看護事業協会 令和2年度 訪問看護ステーション数 調査結果 https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r2-research.pdf

コラム
2021年6月8日
2021年6月8日

ステーションにとっての「人材採用のゴール」とは

医療機関における採用と定着の問題は、過去から続く医療機関にとっての大きな問題です。そもそも診療報酬で縛られた医療機関、そして採用の対象となる医療従事者も資格職であるために差別化が難しく、地域の有力な医療機関以外は非常に劣勢であり、優秀な人材を獲得することが難しい環境が続いてきました。これからさらに少子高齢化で働き手が減少し、医療ニーズも変化あるいは縮小していく中で、医療人材の採用と定着の取り組みはますます重要になっていきます。特に、訪問看護は2045年ころまでニーズは増え続ける見込みではあるものの、地域の人材は圧倒的に不足しています。 近年、一般企業における採用活動は、インターネットの普及や採用ツールの開発、研究によって近年大きな進化を遂げていますが、一方で医療機関の採用活動はまだその進化が及んでいないと言えるでしょう。 私は医療コンサルタントと並行して、東京都世田谷区で在宅療養支援診療所と訪問看護ステーションを運営している組織の事務長として採用業務を10年間以上担当してきました。この採用活動の経験と、進化した一般企業の採用活動を参考にして、採用と定着のための具体的なノウハウをお伝えしていきます。 不利な環境にある訪問看護ステーション 毎年、日本看護協会から「正規雇用看護師の離職率」が公表されていて、2018年度の離職率は10.7%と横ばいでした(※1)。離職率とは、年間の総退職者数を平均職員数で割った値で、1年間に何%の人員が入れ替わったかを把握することができる指標です。値が高いほど悪いことを意味します。 産業別にも公表されていて、離職率の低い産業としては、建設業9.2%、製造業9.6%。医療・福祉業界は14.4%と全業界の中でも高い(悪い)水準です(※2)。 医療業界の中で、正規雇用看護師の離職率を見てみると、病床規模別では病床数が多い程離職率は低く(500床以上で10.4%)、病床数が少なくなるほど高くなります(99床以下は11.5%、病床数無回答で12.4%)。設置主体別に見てみると、公立病院が最も低く7.8%、訪問看護ステーションによく見られる個人事業では14.1%と高くなっています(※1)。つまり、このデータからも分かる通り、病床がなく、個人事業主に近い小規模事業所である訪問看護ステーションはもともと不利な環境にあると言えます。 重要なのは「適切な人材の採用」 ビジネス書としては大ベストセラーの『ビジョナリー・カンパニー』という書籍があります。マッキンゼー出身のジェームズ・C・コリンズなどによって書かれたもので、「永続」している会社がどんな特徴を持っているのか?という謎の解明に挑んだ書籍で、企業の大半の経営者が読んでいると言われる名著です。その中でも「だれをバスに乗せるか」という採用にまつわる章があり、以下のような表現でその重要性について説いています。 ・まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不的確な人をバスから降ろし、つぎにどこに向かうべきか決めている。この原則を厳格に一貫して適用する。人材は重要な資産ではない。適切な人材こそが重要な資産なのだ。 ・偉大な組織への飛躍には、人事の決定に極端なまでの厳格さが必要なことがあげられる。成長の最大のボトルネックは何よりも、適切な人びとを採用し維持する能力である。 (出典:ジェームズ・C・コリンズ著 山岡洋一(翻訳)『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』 日経BP,2001) ここで注目すべきは、戦略の決定の前に「適切な人の採用が重要」であり、その採用に極端に厳格であるという姿勢です。「優秀な人材」ではなく「適切な人材」と書かれているのは、スキル重視ではなく、組織のカルチャーを重視する姿勢です。カルチャーに合うか、合わないかという面は、優秀であるか否かよりも重視されていることがわかります。このカルチャーフィットの視点は、この連載の中でも詳しくとりあげます。 レベル4以上の人材を集めることを目指す もう一つ、人材を見極める上で重要な視点を紹介します。ゲイリー・ハメル教授という最も影響力のある経営思想家トップ50にも選出された研究者で、コンサルタントでもある彼が提唱している考え方です。彼は、人材には6つのレベルがあり、レベル4以上の人材を集めなければ組織は衰退すると言っています。 ・企業が繁栄するかどうかは、あらゆる階層の社員の主体性、想像力、情熱を引き出せるかどうかにかかっている。そしてそのためには、全員が自分の仕事、勤務先やその使命と精神面で強くつながっていることが欠かせない。 ・レベル1から3は、世界のどこでも雇うことができるので、社員から従順さ、勤勉さ、知識だけしか引き出せないなら、あなたの会社はいずれ経営が傾くということである。 (出典:ゲイリー・ハメル著 有賀裕子(翻訳)『経営は何をすべきか』 ダイヤモンド社,2013) ゲイリー・ハメルが言うレベル4以上の人材を集めることの重要性は、経営者・マネージャー経験者であれば、感覚的にもわかることだと思います。 スキル重視ではなく、カルチャーフィットであり、主体性、創造性、情熱を持ったレベル4以上の人材を集めることを「採用活動のゴール」と考えて一歩目を踏み出しましょう。 訪問看護ステーションの人材採用 在宅医療と訪問看護のニーズは、多くの地域で今後ますます伸びていき、ほとんどの都心部では2045年がニーズのピークにあたります。ますます増えるニーズへの対応のためにも、人材採用の重要性は高まっていきます。また、訪問看護に欠かせない24時間対応の負担を軽くするためにも、ある程度人員を確保して、大きな組織を目指したほうが安定するでしょう。また、カルチャーフィットした良い人材が採用できれば、実践するケアの質や組織のチームワーク向上、他の職員への相乗効果などポジティブなスパイラルが形成されます。しかしながら、組織に合わない不適切な人材を採用してしまえば、逆に組織全体が悪いスパイラルに陥ってしまうという重大な分岐点でもあります。 採用と定着を改善することは、医療機関にとっても、またそこで働く医療従事者、サービスを受ける患者・利用者にとっても素晴らしい成果を生み出すことになります。他の医療機関に先駆けて、採用と定着に真剣に取り組む医療機関が1つでも多く誕生することを願っています。 次回以降、採用面では不利な立場にある訪問看護ステーションが、病院などに対峙して良い人材を採用するためにはどうすればよいのか、採用活動について改めて考え直すとともに、すぐに取り組める具体的な採用ノウハウを紹介していきます。 ** 株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 シニアマネージャー/医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 事務長 村上典由  【略歴】 兵庫県出身。甲南大学経営学部卒業。広告代理店での勤務を経て、阪神大震災を機に親族の経営する商社、不動産管理会社などの経営再建と清算業務に従事。2001年からMBOにより飲食店運営会社を設立し副社長を務める。2009年より株式会社メディヴァに参画。「質の高い医療サービスの提供」を目指して在宅医療の分野を中心に医療機関・企業・自治体などの支援を行なっている。医療法人社団プラタナス桜新町アーバンクリニックの事務長を兼務。2015年度政策研究大学院大学医療政策短期特別研修修了。   【参考】 ※1 日本看護協会 2019年 病院看護実態調調査 https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/research/95.pdf ※2 厚生労働省 -2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概況- https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/20-2/dl/gaikyou.pdf   【参考書籍】 ゲイリー・ハメル著 有賀裕子 翻訳(2013)『経営は何をすべきか』 ダイヤモンド社 ジェームズ・C・コリンズ著 山岡洋一 翻訳(2001)『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』 日経BP

インタビュー
2021年6月1日
2021年6月1日

人と人との繋がりを大切にするステーション運営

医療法人ハートフリーやすらぎ常務理事の大橋さん、訪問看護ステーション所長である田端さんに、引き続き採用や営業、ステーション運営についてお話を伺いました。 協調性を重視した採用試験 ―スタッフへのインセンティブをしっかり還元する、こうした魅力的なステーションだと募集が多くて採用が大変そうですが、実際はどのようにされているのですか。 大橋: うちでは一次試験は書類審査、二次試験は同行訪問、三次試験は面接をしています。 種明かしをすると、面接時よりもリラックスしやすい昼食や休憩時間の様子をよく見ています。例えば昼食のとき、一緒に同行した人から「先に食べていていいよ」と言われたときにどうしているかなどです。訪問看護で大事なのは、相手に合わせられるか、配慮がどこまで行き届くかというところなので、そこを見ています。 あくまで私の考えですが、職場の風土が「相談しやすい関係づくり」を目指しているので、こうした非言語的なコミュニケーションを含めて採用のときには大事にしています。 地域に貢献することで営業なしで黒字経営 ―営業に関してはどのようなことを行っていますか。 大橋: 正直、営業といわれるようなことはしていません。例えば、地域の老人会などに参加した際、その集会場のトイレの便座が冷たかったので、温水洗浄便座を購入してくださいと40万円寄付したことがありました。すると、集会に参加した方々が「トイレが温かい」「これはあそこの訪問看護ステーションの方がつけてくれた」ということで、それがゆくゆくは顧客に繋がっています。 そもそも私はギブ&テイクのテイクは基本的に求めていません。こうして地域が潤うために必要なことは何かを考えています。 田端: ほかには、子ども食堂への寄付や小学生の職業体験を受けることもしています。また、訪問看護先で、利用者さんのご家族が自分も訪問看護を受けたいと言ってくれたりして、家族同士や口コミなどでも繋がっています。 大橋: ナーシングデイは、あえて団地にこだわりました。ちょうど殺風景になっていた団地があり、私たちが入ることで活性化するのではないかと思ったんです。そのために、1年間草むしりから美化運動をはじめました。最初は住民から怪しまれていましたが、少しずつ挨拶をしてもらえるようになりました。 それから「ピンクの服を着た人たちは看護師だ」という認識となり、ナーシングデイを開くころには、「あんたらやったんか、嬉しいわ~」と言ってくれるまでになりました。ナーシングデイの開設時は、地域住民からの反対なども一切なく、すぐに受け入れてもらえました。 運営に悩む管理者へのアドバイス ―ステーション運営に悩む管理者も多いと思いますが、大橋さんからアドバイスをするとすればどんなことでしょうか。 大橋: 私はトップで決まると思っています。明るくなかったらダメ。能力が高くても考え方がマイナスだと、スタッフにも伝わります。明るいところには明るい人材が来ますから。 できない言い訳を考えるような人が管理者になったらダメです。よく管理者が「誰が責任をとるのか」「責任はとれるのか」という言葉を使うことがありますが、説明責任はあるにしても、人のせいにする人は向いていないと思います。スタッフに対して尊敬して敬意を表しながら、ともにチームで歩むという姿勢がない限りは、スタッフは育ちません。そこの人選をミスしないことが大事だと思います。 また、「どんどん営業に行きなさい」と言われることもありますけど、突然パッと来た営業の人に、「じゃあお願いします」と大事な家族を任せられますか? 地道に一人ひとりに丁寧に接することで、必ず次に繋がると思っています。ケアマネさんにも、郵送で報告書を渡して終わりではなく、たまには「こんにちは~いつもありがとうございます!そういえばね~」と気軽に会話ができるような、そんな機会をなくしてはいけないと思います。 一人ひとりを大事にするというのは、利用者さんやスタッフを大事にするだけではなく、付随する人全員を大事にすることなんです。こうした地道な活動を経て、組織は着実に大きくなっていくと思っています。 ** 医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者 大橋奈美   三次救急で8年、看護短大の非常勤講師として1年、公立病院で5年勤務の後、ハートフリーやすらぎを立ち上げる。 日本訪問看護認定看護師協議会 代表。 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション所長 田端支普   総合病院の小児科を含めた混合病棟で6年、産婦人科混合病棟で4年勤務後、ハートフリーやすらぎに入職し、訪問看護師に。2012年に訪問看護認定看護師の資格を取得。2018年に特定行為研修修了。

コラム
2021年6月1日
2021年6月1日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 利益についての方針編~

第8弾は「利益についての方針」についてお伝えします。 医療・介護職の潜在意識に「利益・儲け=悪」があるとすれば、それは「利益」の本当の意味・機能について学んでないからだと、ソフィアメディ創業者の水谷氏は事あるごとに管理者や幹部に伝え続けていました。当然、経営方針書の大事な一項目としても記載をしています。 医療・介護だからといって利益を求めてはいけない存在ではなく、社会一般の企業同様、良質なお客様サービスの事業を永続的に続けるために、利益を生み続けなければならない。そして、利益が無くて一番不幸になるのはお客様だと明言しておりました。 利益についての方針 利益には3つの機能があります ◆事業経営の健全性と有効性を判断する物差し ◆危機を回避する(事業、商品やサービスの陳腐化を防ぎ生産性を高める) ◆成長と発展のために必要な資金調達ができる 方針 1.利益があってこそ、我社が存続し発展し繁栄します。 2.利益があってこそ、正しいサービスができます。 3.利益があってこそ、生活が安定し向上します。 4.利益があってこそ、社会に貢献できます。 5.利益があってこそ、競争相手と戦うことができます。 6.利益があってこそ、感謝の心が芽生えます。(衣食足りて礼節を知る) 7.利益があってこそ、自信をもってお客様第一主義に徹することができます。 8.利益はどれだけ、お客様に喜んでいただいたかの結果です。 9.利益より大切なのは、信用です。 10.不正にまつわる利益は、すべてを失います。 11.恒産なければ、因って恒心なし (=経済的潤いが無ければ、人心は乱れるということ) ◆利益確保をコストカットにだけ執着するのは、普通の経営者が罹るコスト病である。必ずサービスの質は落ちるし、一番大切なものは「コスト」になってしまい、お客様サービスにかかる経費など真っ先に削られて、お客様を怒らせたり、信頼を失くしたりするものである。大切なのはコストではなく、収益である。  シンプルな内容ですが、水谷氏の長い業界経験・実業家魂が凝縮されたものと思います。 「9.利益より大切なのは、信用です」ですが、利益は大事と言いつつも、優先順位を明確にしているのも特徴の一つです。 コストカットについて 方針の末文にあるコストカットの話ですが、「もっとコストをかけろ。お客様から、ここまでやってくれるのか、と思わせてはじめて物事のスタートだ。」と、私が営業課長時代には厳しく指導されたのを思い出します。お金の無駄遣いはしないが、コスト削減作業に費やす時間があれば、社外に出て新規収益事業や営業企画につながるニーズを拾って来るようによく指導されました。 具体的に例を挙げると、 ・毎月のお客様向けのお便り発行(在宅療養のための耳より情報中心) ・健康測定会(骨密度/体組成/血管年齢測定、看護師による相談) ・ケアマネ向け介護情報セミナー ・地域感謝祭(地域振興目的での健康測定会、軽食コーナー、子供用遊戯コーナーなど) ・行政委託の介護予防事業教室(医療専門職による教室 年間100本程) ・お客様の自作美術/工芸品などの展示会 ・お客様参加型の家族会&遺族会(デイサービスの車両を借りて送迎付き) ・バスに乗っての日帰り旅行(都内近郊観光地、クルーザー貸切り、近隣県の温泉宿など) などです。 物品購入などの経費はあまりかからなくても、ほぼすべてにおいて多くの人員投入をしていますので、実際の人件費についてはかなりの額の持ち出しでした。 要はコストをコストと見るか? 投資と見るか?という観点です。ぜひみなさまにおいても利益を沢山あげ、未来への投資にお金を遣っていただければと思います。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【略歴】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務

インタビュー
2021年5月25日
2021年5月25日

従業員エンゲージメントが高まる革新的な取り組み

従業員エンゲージメントの高い職場ではどんな取り組みが行われているのでしょうか。引き続き、医療法人ハートフリーやすらぎ常務理事の大橋さん、訪問看護ステーション所長の田端さんにお話を伺いました。 訪問看護のマイナスなイメージを払拭 ―大橋さんがスタッフのことを大事にしていることがひしひしと伝わってきました。こうした考えはどのようにして得られたのですか? 大橋: 盛和塾という経営の塾に通っていて、ずっと「職員を大事にしなさい」と言われてきました。成果をスタッフにしっかり還元するために、かなり給料規定は変えました。人を育てるためには、満足度の高い給料をしっかり出すことが大切です。全国の訪問看護ステーションで1番の給料を払うことを考えています。 これまでの訪問看護のマイナスなイメージを、高給与でちゃんと休みも取れる、オンコールの拘束はみんなで分担するというプラスなイメージに変えていきたいです。オンコールを持つ人には月に5万円の手当を、フォローが必要な人には月3万の手当を出しています。うちの給料は新卒1年目では基本給が26万円、年収は410万円くらいです。それと親御さんを安心させる意味でも、支度金を30万円出しています。10年目では年収600万円、所長で900万円は超えていきます。 だけど、最近思うのはお金じゃないなと。お金は一時的なものであって、やっぱりスタッフとのコミュニケーション、信頼関係、安心な場づくりがあってこそだと思います。 田端: ボーナスも収支に合わせて還元してくれているので、みんな感謝していると思います。スタッフも職場に対する愛情がありますね。離職率は細かく出したことはないですが、家庭の事情で辞める人以外は辞めることがほとんどないです。 スタッフを守るためにフレキシブルな体制を整備 ―給料や手当が充実していると感じますが、経営的には大丈夫なんでしょうか? 大橋: 経営的には黒字です。必要な金額はしっかり払うスタンスでいると、みんな仕事をどんどんやりたいと言ってくれます。 でも、子どもが小さいママさんは緊急対応を免除している人もいますし、土日は出勤できない人、逆に土日出勤したい人もいます。お金だけではなく生活を含む経済保障をされてこそ、はじめていいケアができると思っているので、社労士ともよく相談して、時短などフレキシブルな体制も作りました。特に子どもが体調不良で休む場合、ぜひ看護休暇を使ってねと。「仕事のことは気にせんで、こっちはなんとかなるから大丈夫」と、これまでやってきました。 利用者さんはもちろんのこと、スタッフを守ることは常に頭にあります。スタッフを守ることで、その先の利用者も守れるんです。スタッフも自然と周りを大事にして、そういう風土になっていると思います。私がしんどいなと思ったことを、やらなくても成り立つような環境を目指していて、それが今では実現できるようになりました。スタッフがのびのび生き生きと働いてくれることが、何よりも私の幸せです。 新人の登竜門「おでんパーティー」 大橋: そういえば、うちでは少し変わった催し物をしています。新人さんが「おでんパーティー」を主催するというものです。これは、たまたまお昼休みに「おでん食べたいな~」と話題になったことからはじまりました。スタッフにおでんの好みや味付けを聞いたり、仕入れをどうするか、私に値段の交渉をしたり、各事業所に声をかけたりして…。 実はこれは看護計画と考えることは一緒なんですよね。おでんパーティーの企画で看護計画を学ぶ。これなら新人さんであってもイニシアティブを握れます。実際の準備や調理もひとりではできませんが、チームのメンバーにお願いをして、段取りをする。人とコミュニケーションをとることの大事さが学べるんです。おでんパーティーの後には、スタッフに声をかける頻度も増え、自己肯定感や自発性も高まります。たまたまやったことですが、結果として良かったので続けています。こうしてスタッフからも日々教えられています。 ** 医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者 大橋奈美   三次救急で8年、看護短大の非常勤講師として1年、公立病院で5年勤務の後、ハートフリーやすらぎを立ち上げる。 日本訪問看護認定看護師協議会 代表。 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション所長 田端支普  総合病院の小児科を含めた混合病棟で6年、産婦人科混合病棟で4年勤務後、ハートフリーやすらぎに入職し、訪問看護師に。2012年に訪問看護認定看護師の資格を取得。2018年に特定行為研修修了。

インタビュー
2021年5月25日
2021年5月25日

専門性の高い小児訪問看護の求人や経営の工夫

小児に特化した訪問看護ステーションの数は全国的に見てもまだそれほど多くなく、専門性も高く、小児科領域ならではの経営の難しさもあるようです。訪問看護ステーションベビーノ所長の平原さんに、求人採用、経営についてお話を伺いました。 経験年数の条件は家族の安心材料として ―ベビーノさんの求人情報には「小児科5年の経験」と書いてありましたが、どのようなお考えからこのような条件に設定したのですか。 平原: 5年という区切りにしたのは、病院では3年目で新人教育をしたりして、ひと通り経験してくるころだからです。病院では同じフロアに先輩がいてすぐに相談できる状況ですが、訪問看護ではひとりでいろんな判断をしなければならないため、まずは経験者というところを考えています。そろそろ時代の流れとして変えていかなくてはいけないかもしれませんが、曲げずにやっています。その経験年数はご家族にとっての安心材料にもなり得るという点もあるからです。NICUは独特な雰囲気なので、そこをわかってくれる看護師というのは、家族も話をする上で安心できる存在になるのではないかと思います。 5年やっていれば、看護技術や知識がすべて網羅できるわけではありませんが、いろいろと周りの状況も見えてくるころではあると思います。未就学児専門でやっているので、専門性を大事にしたいというところで、線引きをさせてもらっています。 ―実際にスタッフの求人状況はどうですか。 平原: 子どもの訪問をやりたいと、ホームページや研修会などで知った人が来てくれます。10年やってきているので、「ベビーノって聞いたことがある」と調べてきてくれているようです。開設した当初は、小児の訪問看護ステーションの数も少なかったため、関西や中部地方から就職に来てくれた方もいました。ベビーノではスタッフの生活や働き方も守りながら、利用者さんも家族もスタッフも幸せにしたいと考えていて、ぼちぼちとやっているところがいいなと思って来てくれるのではないかと思います。 ―採用の際にはどういうところをみているのでしょうか。 平原: 子どもや家族とどう向き合っているのか、関係性をどう築いていこうと思っているのかをみています。看護技術の部分は最低限できていてほしいところで、面接のときには直接仕事とは関係のないようなさまざまな話をします。看護のことももちろんですが、趣味のことなども。人間性というか、その人の中の部分を見るようにしています。 ―病院から訪問看護に来るとギャップを感じることも多いという話を聞きますが、実際に働き始めで苦労することはなんでしょうか。 平原: 採用するときには「病院は治療メインだけど、訪問看護は生活をみるところだから」という話はしっかりします。まずはその頭の切り替えをしてもらうところからですね。先輩看護師とある程度は同行するところからはじめるので、多少ギャップがあってもうまく切り替えていけている印象です。 NICUや小児科でも最近は在宅にも力を入れるようになってきたので、病院で働いていても家に帰ってからの生活を見据えて看護していこうという流れがあり、そこまでギャップを感じて苦しむということはなさそうです。NICUの場合には、お家に訪問するのも診療報酬で認められているので、病院スタッフも少しずつ自宅訪問を始めており、病院と地域の差は埋まってきているように感じます。 小児に特化した訪問看護ステーションの経営 ―小児では訪問時間が長くなり、時間単位の報酬が低かったり、キャンセルが多かったりすることが特徴で、経営の難しさがあるという話を聞きますが、ベビーノさんではどのような工夫をされていますか。 平原: 確かに、医療デバイスのある子どもの場合は1時間半~2時間ほど訪問の時間を取っています。例えば、気管切開をしていて呼吸器をつけている子では、バイタルを取ってお風呂に入って、ケアをしていると1時間はあっという間です。それだけでは訪問の意味がなくなってしまうので、もう少し時間をとって一緒に遊んだり、身体を少し動かしたり、ご両親も少し手が離れるような時間を作りながら、訪問の時間を使っています。 キャンセルなども中にはありますが、キャンセル待ちの利用者さんや、医療ケアはそこまでないけどご家族がしんどそうだなと気になるお家に声をかけて行くこともあります。東京都の在宅レスパイトサービスもうまく組み合わせながら、なんとかやっています。子どもが小さいと入院することも多いですし、入院期間も1~2か月ということもざらにありますが、帰ってくるとなれば再調整して対応しています。 ―コロナ禍で感染対策なども大変だと思いますが、どのように対応されていますか。 平原: 一度目の緊急事態宣言のときには、キャンセルや保留も多くありました。しかし、二度目のときにはそこまでではなく、やっぱり訪問看護が入らないと生活がまわらないというところもあるので、感染対策を徹底しながら訪問しています。ご家族の意向をそれぞれに聞きつつ、何かあればいつでもお話してくださいという風にして対応しています。 ** 訪問看護ステーションベビーノ所長 平原真紀 (助産師、看護師) 大学病院のNICUで勤務し、主任を経験した後、2010年に訪問看護ステーションベビーノを開設。当時はNICUから退院した子どものサポートがなかったため、育児支援サービスとして乳幼児専門の訪問看護を提供している。

コラム
2021年5月18日
2021年5月18日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 新事業・事業構造の変革編~

第7弾は「新事業・事業構造の変革」についてお伝えします。まずは唐突ですが、中国唐の時代の詩人(白楽天)の詩の一節を紹介します。  「野火焼不尽 春風吹又生」 和訳すると、「野火がどんなに激しく燃えても、草を焼き尽くすことはできない。根さえしっかりとはっておけば、春風とともに、また新しい生命の芽を吹きだし、やがて緑の草原となえる」という意味合いになります。これは禅の教えでよく用いますが、経営者の中でもたいへん貴重な教えとして重宝されています。 環境が激変する昨今ですが、将来に向けてしっかりとした根を張ったブレない経営をする、ということを肝に銘じた上で本題に入りたいと思います。 新事業・事業構造の変革についての方針 ソフィアメディ創業者の水谷氏は、スタッフの実際の訪問現場、営業の活動現場で起こることをとにかく細かく丁寧に把握した上で、次々と対応・対策を打ち出し、お客様サービスの向上のためにストイックに改善・改変を繰り返していました。ただ、その間もひと時として新事業・事業構造の変革、将来への投資を怠ることもありませんでした。そのもととなる思想が前述の詩であり、以下の経営方針で示した内容でした。一部にはなりますが紹介します。 ①会社は永続性のものである。何がどうあっても生き残らなければならない。いつでも将来の収益を確保するため、常に新事業を考え開発しなければならない。また、将来を予測して事業構造を変革しなければならない。慣れた仕事を手放したくない、変えたくないのが人情であるが、現状維持は変化に比べてリスクが大きい。環境が変化していく、将来の変革が予測される中、旧態依然を死守するのは自滅行為である。 ※経営にとっての不変の真理は「変化すること」と水谷氏は明言します。変化が無くなった時、それは衰退だと認識してください。 ②訪問看護サービスの実績データ統計を駆使して、必要なスキル、症例への対策等を明確にする。さらに症例・病状・時系列な成果等サービスのメニュー化を確立して、病院窓口、居宅介護支援、地域関係者、ご本人・ご家族にも、当事業所を選択する理由を明確にしていく。 ※前回までのコラム「営業編」に通じる内容ですが、情勢・制度を知り、データを駆使しつつ、地域ニーズに寄り添ったサービスメニューを作り、存在意義を明確にすることが大事だと指導されました。 ③経営は学問でも学歴でもない、成功や失敗の経験学である。本物の経営者の鉄則である。 ※これも水谷氏の口癖の一つです。途中で辞めるから失敗になる、失敗をしながらも成功するまで続ければいい。耳にタコができるくらい指導されたのを覚えています。多くの著名経営者が「失敗から学ぶ」という主旨の名言・格言を残していますが、王道経営・健全経営を謳う水谷氏においても同様でした。王道経営・健全経営≠保守的、旧態依然(決してイコールではありません)、だということをぜひご認識の上、未来への投資にチャレンジしてください。 いかがでしょうか?前回コラムで「着眼大局着手小局」とお伝えしましたが、今回は「大局」の基本となる考え方について紹介しました。あとはこれらをどう具体的に示し、具現化するかが最重要です。 机上の空論、絵にかいた餅、どこかの首長の演説…計画を立案したらスピード感のある実践実務が無いと、このように言われてしまいそうです。(私はよく言われていました…苦笑) 次回も引き続き、水谷氏の著書(※1)には書かれていない内容を中心に、私の実体験も交えてお伝えしていきたいと思います。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【参考】 ※1 水谷和美著「訪問看護の社長業」

インタビュー
2021年5月18日
2021年5月18日

スタッフのモチベーション向上・維持を意識した環境づくり

訪問看護ステーションハートフリーやすらぎでは、スタッフのモチベーションの向上と維持のためにどのようなことを意識しているのか、引き続き常務理事の大橋さんと所長の田端さんにお話を伺います。 資格を積極的に取りに行ける環境を提供 ―ハートフリーやすらぎでは、資格取得や研修を受けに行きやすい環境が整っているのでしょうか? 田端: そうですね。2010年に大橋さんが認定看護師資格を取りに行き、「すごく勉強になるし、うちのスタッフみんなにも取ってほしい」と言われてから私も興味が湧き、2012年に訪問看護の認定看護師資格を取りました。大橋さんというロールモデルがいたおかげで、利用者さん宅に訪問する姿、地域の医師やケアマネとの連携のやりとりなど、間近で魅力を教わることができたんです。 2018年には、特定行為研修も受講しました。病院での胃ろうの交換には、ヘルパーさんの付き添いやタクシーの予約、移動の準備、病院での待ち時間などの負担がかかり、たった10~15分の処置に多大な労力が必要です。これが家でできれば、利用者さんが地域で暮らしていくのに役立つ資格ではないかと。 ―受講にあたり、金銭的補助はありましたか? 田端: 資格取得や研修に関しては出勤扱いで給料保障(ボーナス含む)をしてくれました。 なかなか、個人の訪問看護ステーションではこうした保障はないですよね。仕事を辞めてきたり、休職扱いで貯金を切り崩していたり、という人も多かったので…。学びやすく、研修に出やすい環境を整えてもらっています。 「オールOK」の精神でスタッフを後押し ―大橋さんはどうして、資格や研修などスタッフの学ぶ環境を後押しされているのですか? 大橋: もう私は、「ええやん、ええやん」言っているだけです。私が若いときに学びたい意欲が強かったのですが、「研修に行きすぎ」「あなたは2回行ったから、次はあの人に」と、頭から抑え込まれていたことがありました。別に研修に行きたくない人に嫌々行ってもらうくらいなら、学びたい人が行ってシェアすればと思っていました。 なので、自分がトップになったときには「オールOK」でやりたいと。学びたい人はどんどん学べ、学びたくない人は学ばなくてもいいと…。 ただ、学んだ人がそばにいることで、周りも自然に学べる。それは田端さんから教えてもらったことです。 褒めることがスタッフの活力に ―看護師さんからの人気が高く、魅力あふれるハートフリーさんですが、その理由はなんでしょうか? 田端: うちの看護師はみんな元気で、生き生きしているとよく言われます。それがいい看護に繋がり、患者さんや家族にもいい影響を与えると大橋さんからもずっと教えられているので、みんなで引き継いでいこうという思いがあります。 大橋さんは結構小さなことでも褒めてくれますね。「ありがとう」は毎日言うし、「今日の髪型似合っているな~」と何気ないことから、看護のことまで。利用者さんの家族がこう言ってくれていたという話を私から大橋さんに報告すると、スタッフ本人に「聞いたで~」と言いに行きますから。 大橋: 褒め言葉は無料ですから。特に褒めることは大事にしています。しかも一対一で、一人ひとりを特別に褒めます。 田端: 半年に1度、人事評価がありますが、一般的には課題や改善点を言われて、ネガティブなイメージも多いと思います。そこでも、必ず褒めることをしています。「ここができていないから頑張ろう」ではなくて、「ここができていたね、また頑張っていこう」と。 大橋: できていないところが目につくかもしれないけど、できていないところをわざわざ面接の場で言うなんて、管理職としてはあってはならないと思っています。その都度、注意したらいいんです。 「1週間前のあれな~」と言うなんて、こんな注意のしかたはありません。だから、人事評価ではしっかりとできていたことを褒める、そうしたらスタッフは元気に部屋を後にしますよ。 人事評価はご褒美をいただくような場であるべきだと思っています。 ** 医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者 大橋奈美   三次救急で8年、看護短大の非常勤講師として1年、公立病院で5年勤務の後、ハートフリーやすらぎを立ち上げる。 日本訪問看護認定看護師協議会 代表。 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション所長 田端支普  総合病院の小児科を含めた混合病棟で6年、産婦人科混合病棟で4年勤務後、ハートフリーやすらぎに入職し、訪問看護師に。2012年に訪問看護認定看護師の資格を取得。2018年に特定行為研修修了。

インタビュー
2021年5月11日
2021年5月11日

利用者とスタッフの思いを反映する先進的な訪問看護ステーション

大阪市住吉区にある「医療法人 ハートフリーやすらぎ」。その訪問看護ステーションで、スタッフが生き生きとして働けるよう、さまざまな取り組みをされているのが、常務理事の大橋奈美さんと、訪問看護ステーション所長の田端支普さんのお二人です。今回は事業内容や職場環境についてお話しを伺いました。 常勤看護師17名が在籍する訪問看護ステーション ―ハートフリーやすらぎの事業内容について教えてください。 田端: ハートフリーやすらぎは医療法人で、『地域住民の命と尊厳を守ります』という法人理念のもと、診療所、訪問看護ステーション、居宅支援事業所、ナーシングデイを開設しています。 訪問看護ステーションは、2004年に2.5人からスタートし、現在では常勤看護師17人、非常勤看護師1人で運営しています(2021年1月時点)。訪問認定看護師、認知症認定看護師に加えて、特定行為研修(創傷管理関連、ろう孔管理関連、精神および神経症状に係る薬剤投与関連)を修了した看護師が在籍しています。 訪問看護での気付きからナーシングデイを開設 ―ナーシングデイの概要を教えてください。 田端: 小児医療が発達し、500gに満たない赤ちゃんも助かる時代になっています。しかし、なんらかの障害を持ちながら退院することが多く、その子たちが自宅に帰ってきたときに使えるサービスが余りにも少ないという現状があります。 ママが24時間離れずに吸引し、ちょっと散歩に行くにも器材など準備をしないと外出できず、ママが引きこもりになっている。そういうママたちがゆっくりお茶をしたり、安心して美容室に行けたりする時間を提供できるように、小児をメインとしたナーシングデイをオープンしました。 大橋: ナーシングデイは2020年の1月から全国で13か所目、大阪では1か所目として開設しました。障がいを持った子どもの親御さんとの出会いがきっかけです。障がいを持った子どもは、特別支援学校に通うまで受け皿がないので、ナーシングデイを立ち上げて全国にも広げていく必要があると考えました。 田端: 訪問看護では1時間や1時間半と限られたなかでの関わりですが、自分が見ていた部分は本当に少ないものだと、ナーシングデイをはじめてからよくわかりました。1日6~8時間と一緒に過ごすなかで、1日の変化や非言語的コミュニケーションも段々とわかるようになり、お母さんたちと一緒に育てていく気持ちで関わらせてもらっています。 ナーシングデイに通う子どものお母さんたちからは、「お風呂に入れるのが大変だったのですごく助かります」と言ってもらえています。何より、お母さんのリラックス具合がすごく変わりました。それが子どもにも大きく影響していると思います。 訪問看護でのニーズや看護師の意見・思いが反映される職場環境 ―訪問看護からニーズを感じてデイを作られたと思いますが、看護師の意見や思いが反映される法人の姿勢についてどう思われますか? 田端: 大橋さんの力が強いですね。ないものを作っていこうというパワーがあって、先見の明というか、必要なものを早いうちに取り入れていこうとされています。情報収集をいろいろなところでされていたり、常務理事という立場で経営にも参加されていたりと、新しいことを取り入れるために動かれています。「自分たちのステーションさえ良ければいい、ではなくて、法人全体の底上げをしていこう」とよく言われていますね。 常務理事になられたときに、経営の知識が欲しいと盛和塾に行き、経営について学ばれていました。学んだ内容について管理者への伝達講習があり、経営の考え方や人材の管理方法、新しい事業の進め方などをみんなで勉強させてもらっています。毎月の収支はスタッフが見られる場所に貼り出していて、収支の増減について原因を伝えるようにしています。 大橋: これまでは、訪問看護ステーションで利用者さんに対してケアをしてきましたが、ナーシングデイのように組織として地域貢献や社会貢献をするフェーズに来たとも感じていて、今後はより広い視野で活動をしていきたいと思っています。 ** 医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者 大橋奈美   三次救急で8年、看護短大の非常勤講師として1年、公立病院で5年勤務の後、ハートフリーやすらぎを立ち上げる。 日本訪問看護認定看護師協議会 代表。 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション所長 田端支普  総合病院の小児科を含めた混合病棟で6年、産婦人科混合病棟で4年勤務後、ハートフリーやすらぎに入職し、訪問看護師に。2012年に訪問看護認定看護師の資格を取得。2018年に特定行為研修修了。

インタビュー
2021年5月6日
2021年5月6日

地域住民の健康生活を支える場として

 「せわのわ」の名前は「世話の輪」から付けられました。その名のとおり、地域で住み続けるためのキーステーションとして健康支援ネットワークの役割も担っています。 最終回は、地域住民との「世話の輪」のコミュニティづくりを進める取り組みについて、せわのわ事業支援部長の半田さん、せわのわ事業本部長の目井さんにお話を伺いました。 地域に開かれたレストラン「健康食堂」 半田: 地域住民の方に普段使いをしてもらえるような、楽しく食事ができる場所を目指しています。車いすやベビーカーでもそのまま入れる、お一人さまもお母さん方や子ども、ご高齢の方も気軽に入ってこられるようなフリーアクセスな場所にしたい、というのが狙いとしてあります。 当初はもっと健康志向が強く、健康に寄与できる、役立つような場所として考えていました。最初は管理栄養士だけで、栄養素を重視した食事を提供したのですが、食事そのものを楽しみに来てもらえるような感じにはならず、リピーターもつきませんでした。 そこで、コロナ禍の影響もあり、営業自粛となった段階で食の部分は大きく考え直し、調理師を迎えてメニューを全部見直しました。基本はやっぱり食べておいしいもの、もう一度行きたいねとなるような食事。健康の捉え方にはさまざまあるでしょうが、身体も心も健康になるという観点でいえば、適度なカロリーやアルコールなどもあっていいだろうと考えています。 目井: ご高齢の方でもお肉が好きな方が多く、実は今一番の人気メニューはから揚げなんです(笑)。 ご高齢の方で毎日のように来られる方もいますし、お母さん方も多いです。意外にもお一人で食べに来られる女性・男性も多くて、一人でもふらっと入れるような雰囲気があるようですね。 ―地域の見守りネットワークみま~も(※1)のまちづくりにも参加されているそうですね。 半田: 窓口は私がやっています。 当初、健康食堂のコミュニティサロンを活用して、さまざまなコミュニティを引き込みたいと考えていたのですが、独自のアプローチだけでは難しかったのです。その後いろいろ探していたら、ちょうど大田区で地域のネットワークを作る活動をしている団体があるということで、入れていただきました。 目井: 今はコミュニティサロンの提供がメインになります。コロナ禍で今まで使っていたところが使えなくなったとかそういう話もありまして、無償で貸しています。高齢者の方々が簡単な運動をしたり、引きこもりの家族会、生活保護世帯の子どもの学習支援など、社会福祉協議会や地域包括センターなどとも連携し、いろいろやっています。 最初の3カ月くらいはどこの誰だと怪しまれましたが、段々と既存の町づくりをやっている団体ともつながりができてきたところです。 地域の拠り所、在宅のなんでも屋 ―せわのわさんは今、地域にとってどんな場所なのでしょうか。 目井: 大田区高齢福祉課から大田区高齢者見守り推進事業者に登録してもらっていて、地域の困ったときの拠り所として活動しています。 半田: せわのわとしても、「もやっと相談」という窓口を設けて対応しています。なんとなく「専門家がいるので相談できるかな」と、ふらっと来られる方もいます。 みなさん、お話がしたいんですね。そんな場所はほかにはなかなかないので。 目井: ここは、住民の方々との距離がすごく近いと思います。近所のおばあちゃんが毎日顔を出してくれたり、おすそ分けしてくれたり…。 その方々も今は元気ですが、今後、訪問看護などが必要となったときに、せわのわがいいと言ってもらえたら…と、そうしたことも考えながらやっています。着地点はそこですね。先の長い話ですが、ご高齢の方、地域のコミュニティをうちに呼び込むことが最終的な目的です。 住民の方々や利用してくださる方々から、「とにかく困ったときは『せわのわ』に…」と言われることがありますが、そうした声に応えられるようにしていきたいですね。 半田: あとは、今後の展開としてはデリバリーサービスですね。 階段があるのがしんどくてという相談があったりしたので、試験的に始めました。データを集めるために今は無料でやっていますが(2020年12月取材時点)、ある程度スキームが固まれば、2021年から有料化も考えていかなければとは思っています。 目井: 現場の声を集めるために始めましたが、まだ依頼はそれほど多くはないですね。現状ここに来るお客様は歩ける方が多いので、そもそも用がない人が多いのです。民生委員経由で独居の高齢者などにアプローチする方法もありますが、いきなりだと怪しまれることもあるので、社会福祉協議会や地域包括支援センターなどとも連携して、地道に足元から固めている段階です。 半田: 最終的には広域デリバリーの中に調剤薬局の薬を届けることも入れ込んで、ネットワークを作っていきたいと思っています。 ** 株式会社キュアステーション24 せわのわ事業支援部 部長 半田 真澄 30年以上臨床検査領域で働いた後、2013年にTRホールディングスグループに入社。代表取締役の田中氏とは社会人1年目が同期という縁。せわのわでは主に業務全般のサポートを行っている。 株式会社キュアステーション24 取締役/せわのわ事業本部 本部長 目井 俊也 ゼネコンや外資系保険会社などを経て、まったく畑違いの介護業界に。訪問介護ステーションやデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの開業・運営経験がある。 【参考】 ※1 みま~も(おおた高齢者見守りネットワーク) 高齢者が安心して暮らせる街づくりのために、地域の医療・福祉・介護の専門職が活動する大田区の地域ネットワーク 関連記事:全国に拡大中!地域を支える『みま~も』とは?(牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄)

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