ケア知識に関する記事

特集
2021年11月2日
2021年11月2日

第2回 心不全患者の療養生活を支えるために

心不全患者の再発・重症化予防のための地域ぐるみの取り組みが進んでいます。福岡大学病院循環器内科と博多みずほ訪問看護ステーションでは連携して、病院の医師と訪問看護師が医療とケアの両面で在宅療養者を支えています。療養指導の質を高めるための新しい認定資格「心不全療養指導士」は、心不全患者の日常生活指導などを行う場面で力を発揮しています。心不全療養指導士の資格を持つ、博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長にお話を伺いました。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 心不全療養指導士とは 「心不全療養指導士」は、心不全の再発・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職のための認定資格で、看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士、公認心理師、臨床工学技士、歯科衛生士、社会福祉士などが取得できます。特に実務経験は問いませんが、資格取得のために提出する5症例の症例報告書のためには、実質的に心不全患者の療養にかかわる実務経験が必要になります。あくまでも医療専門職のための制度で、医師は対象ではありません。2021年度から制度が開始され、第一期の資格取得者1,771名が活動を始めています。黒木さんも第一期取得者の一人です。 ― なぜ、心不全療養指導士の資格を取ろうと考えたのですか。 私どものステーションは循環器疾患の利用者さんに特化しているわけではありませんが、福岡大学病院との連携で、退院後の心不全療養者への援助が増えてきています。心不全患者の再発や急性増悪を防ぐためには、食事指導・運動指導・服薬指導などの日常生活援助が決め手になります。 福岡大学病院循環器内科の志賀悠平医師も、在宅での生活指導・保健指導については私たち訪問看護師に任せてくださっています。療養者の生活に責任をもって関わるうえで、医学的なエビデンスも含めて知識・技能のレベルアップを図りたいと考えていたところ、日本循環器学会で新しい資格制度をつくるという情報を知ったのがきっかけです。 ― 資格を取るためにはどのようなプロセスが必要ですか。 学会が示している資格取得のためのフローチャートを以下に示しました。 心不全療養指導士・資格取得までの流れ(抜粋) 日本循環器学会ホームページ 『資格を取るまでの流れ』 (https://www.j-circ.or.jp/chfej/flow/)を参考に作成 まず、日本循環器学会の会員になることが条件です。会員になったら、最初にeラーニングを受講します。総受講時間は6時間半弱で、非常に多岐にわたる講義が用意されています。「心不全の概念」「心臓の基礎疾患の特徴」「薬物療法」「非薬物療法」などの医学的内容から、「栄養管理」「服薬アドヒアランス」「心理的指導」などの療養支援の基本に関する講義まで幅広いテーマです。中でもとても勉強になったのが「療養指導に必要な患者指導の考え方」「療養指導の評価および修正」「認知機能低下のある患者への対応」など、患者指導の技術でした。 勤務を続けながらの受講でしたので、自宅に戻った夜や休日の自分の時間を有効に使いました。eラーニングはいつでもどこでも自分の裁量で時間の都合をつけられるので便利です。 eラーニング講習の後、症例報告書を提出します。症例はすべて異なる患者で2テーマ以上5例作成します。テーマ例としては、「ステージ別心不全患者の療養指導」「高齢心不全患者への療養指導」「多職種連携、地域連携の強化が必要な心不全患者への療養指導」などが挙げられています。最終的に認定試験を受けて審査があり、合否が決まります。eラーニング受講から約10か月の期間で取得できます。 ― 心不全患者の再入院を防ぐ取り組みで効果がみられた症例をご紹介ください。 70歳代の女性の利用者さんで、入退院を繰り返しておられました。独居の方で在宅に戻って2週間もすると必ず再入院となるのです。家で療養していると、浮腫が出て息切れが続き、また入院となるということの繰り返しでした。 私たちが週2回、訪問看護に入ることになって様子を見ていると、昔からの食生活を続けていることが原因であることがわかりました。梅干しが好きで、いつもご飯と一緒に食べておられ、さらにハムなどの加工食品で過剰な塩分を摂取されていました。本人も入退院を繰り返すのは嫌で、家でずっと暮らしたいとおっしゃっていました。 そこで、食事指導を徹底しました。塩分の摂りすぎがどうして心臓の負担を増やしてしまうのかというしくみからお話しして、毎食の塩分チェックを継続していきました。主治医とも相談して、むくみの程度によって利尿薬の増減についてご指示いただき、コントロールするようにしました。 別居している家族の方からも「私たちが言っても聞いてくれないけど、看護師さんの言うことは聞くみたいですね」と言われました。専門職が週2回入ってきっちりお話しすることで、この方の意識も変わっていったようです。日常生活の立て直しができて、再発・入退院を繰り返すことがなくなりました。 心不全の方は入院してつらい思いをしても、軽快するとすぐ忘れてしまい、元の状態に戻りがちです。食事や運動などの行動を変えていただくのは非常に難しいことだと思いますが、身体のしくみや薬が効くメカニズムなどを丁寧に説明すれば理解してくださいます。 一方的に「指導」するのではなく、行動科学的なアプローチによって行動変容を「促す」関わりが大切だと思います。そういう意味でも「心不全療養指導士」の資格はとても役に立っていると感じています。 * 心不全療養指導士の役割の1つとして、「医療機関あるいは地域での心不全に対する診療において、医師やほかの医療専門職と円滑に連携し、チーム医療の推進に貢献する」という項目があります。心不全患者の重症化・再入院を防ぐためには、病院だけでなく地域ぐるみの多職種の連携が不可欠です。チーム医療推進の要として活躍する「心不全療養指導士」の役割は、今後ますます大きくなりそうです。 ※詳しくは、一般社団法人日本循環器学会のホームページ上の「心不全療養指導士」(https://www.j-circ.or.jp/chfej/)をご覧ください。 ** 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長 大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社

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2021年10月26日
2021年10月26日

第1回 心不全看護の『質』を高める専門資格

心不全の再発・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職の認定資格、「心不全療養指導士」が注目されています。超高齢社会を迎えて増加する高齢心不全患者は、急性増悪を起こして再入院するケースが多く、再発防止のための取り組みが急務とされています。福岡大学病院循環器内科と博多みずほ訪問看護ステーションの地域連携の取り組みについては、このシリーズで以前お伝えしました。今回は、心不全の再発防止において実力を発揮して活動している「心不全療養指導士」の実践を紹介します。 心不全療養指導士とは 「心不全療養指導士」認定制度は、2021年度から日本循環器学会が始めた新しい制度です。この制度は、超高齢社会を迎えて心不全患者が急増している現状を踏まえ、心不全の発症・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職の資質の向上を図ることを目的として創設されました。心不全に関する基本的知識や療養指導のための技能が修得できます。 心不全療養指導士は、病院に限らず、在宅をはじめとした地域などさまざまな場面で幅広く活動し、心不全におけるチーム医療を展開していくことが期待されています。心不全患者のQOL改善をめざす多くの専門職が取得できる資格です。 2020年12月に行われた第1回の認定試験に合格し、心不全療養指導士として活動している博多みずほ訪問看護ステーション所長の黒木絵巨さんにお話を伺いました。 その日訪問する利用者さんの情報をタブレットでチェックする黒木絵巨さん(博多みずほ訪問看護ステーション所長) ― 高齢の慢性心不全患者に対するアセスメントはどのように進めるのでしょうか。 高齢の慢性心不全患者さんは、痛みなどの自覚症状をほとんど訴えません。私どものステーションの利用者さんは高齢者が多いのですが、訪問して最初にチェックするのが『むくみ』です。「浮腫が出ているな」と思って指摘しても、「これくらいのむくみはいつも出ているから大丈夫」とおっしゃる方がほとんどです。重症化してくると、「ちょっと動くと苦しい」などと訴えることもありますが、初期の浮腫や体重増加くらいでは、「いつもと同じ」という感覚のようです。 ― 「浮腫」が重要なサインの1つということですね。 心不全再発のアセスメントとして「インアウト」をみますので、その最もわかりやすい徴候が「浮腫」なのです。「足背」などの浮腫の状態をチェックしますが、まずお顔を見たとき「ちょっとむくんでいるな」と感じたら、これは大切なサインだと考えています。少しくらいの浮腫であれば食事内容などをお聞きして、水分や塩分の摂取状況を具体的に把握します。 そして、お薬のチェックをします。たいていの方が利尿薬を処方されていますが、服薬を自己判断してしまう方も多くいます。「しょっちゅうトイレに行くのが煩わしいから」、「今日は出かけるのでトイレに何回も行くのが嫌だから」などの理由で、指示されたとおりに利尿薬を飲まない方もいらっしゃいます。そういう方には、なぜこの薬が必要なのか、どうして絶対に飲まなければいけないのかということをわかりやすく説明します。 ― 具体的にはどのように説明するのですか。 まず、「心不全では心臓のポンプ機能が悪くなって全身に血液が行き渡りにくくなっています」というところからお話しします。「腎臓に流れる血液量が減ってしまって尿が作られにくくなると、体内の水分量が増えてしまいます。それで『むくみ』が起こってくるわけです。そうすると、ますます心臓の負担が大きくなってしまうので、余分な水分を尿として排泄させるために、利尿薬を飲んでいただくのですよ」と、身体の『しくみ』から説明するとよく理解してくれます。 解剖学や病態生理学などの難しいことを利用者さんや家族にかみ砕いて説明して、行動を変えていただき、生活を立て直してもらうのが私たち専門職の役割だと思っています。 ― 難解なことをわかりやく伝えるというのはとても難しいと思いますが・・・。 そうですね。第一に、私たちが病態生理をよく理解しておく必要があります。それをうまく「伝え」、最終的に「行動を変えていただく」働きかけをするのがプロフェッショナルの『わざ』だと考えています。 私は、訪問看護を始めるまでは主に透析看護を行っていましたが、透析患者に対しても行動変容を促すアプローチは必要でした。その点で、今回、「心不全療養指導士」の資格を取得するために行った勉強は、非常に役立っていると思っています。 「心不全療養指導士」の役割を以下に示しましたが、その中の②③は、まさに病態理解や療養指導の方法に関することです。学ぶべき項目の中の「心臓の構造・働き」「心不全の身体所見」「薬物療法」「患者教育に活用する心不全に関する知識」「服薬アドヒアランスへの支援」などは、今の現場での実践に非常に役立っていると思います。 心不全療養指導士に求められる役割 ①心不全の発症・進展の予防の重要性を理解し、その予防や啓発のための活動に参画することができる②心不全の概念や病態、検査、治療について理解し、それをもとに病状などを把握することができる③心不全の進展ステージに応じた予防・治療を理解し、基本的かつ包括的な療養指導を実施することができる④医療機関あるいは地域での心不全に対する診療において、医師や他の医療専門職と円滑に連携し、チーム医療の推進に貢献することができる⑤心不全患者に対する意思決定支援と緩和ケアに関する基本的知識を有している 日本循環器学会ホームページ 『心不全療養指導士とは』 (https://www.j-circ.or.jp/chfej/about/)より引用 * 次回は、黒木さんが心不全療養指導士の資格を取得するまでの経緯と、実際に関わった事例を紹介します。 ※詳しくは、一般社団法人日本循環器学会のホームページ上の「心不全療養指導士」(https://www.j-circ.or.jp/chfej/)をご覧ください。 ** 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。記事編集:株式会社照林社

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2021年10月26日
2021年10月26日

ハンチントン病

舞踏のような不随意運動があることから、以前は「ハンチントン舞踏病」と呼ばれていた遺伝性の難病です。30歳代以降の発症が主ですが、幼児期に発症する場合もあります。 病態 ハンチントン病は遺伝性の神経変性疾患です。主な症状は、舞踏運動を中心とする運動症状と、精神症状です。以前はハンチントン舞踏病と呼ばれていましたが、主症状は舞踏運動だけではないため、名称が改められました。 ハンチントン病は常染色体優性遺伝様式の疾患です。 遺伝子は対になって存在していますが、親から受け継いだ遺伝子のどちらかにハンチントン病の遺伝子変異があれば発病します。 疾患にかかわる遺伝子は、50%の確率で子どもに伝わります。 そのため、患者の両親どちらかもハンチントン病を発病していることが大半です。家族の中に患者がいる場合、子や兄弟姉妹にも保有者がいる可能性があります。 子どもは親に比べて若い年齢で発病する傾向があり、子どもが親より先に発症する例もみられます。 遺伝子検査が保険診療の対象ですが、安易な遺伝子診断は避けなければなりません。ときには、子どもの遺伝子診断が、発症していない親の発症前診断となってしまいます。関連学会の指針では、「治療法がない成人発症の遺伝性疾患の遺伝子診断については、事前の十分なカウンセリングにより、本人の自発的意思の確認が必須」であり、かつ「検査結果告知後の継続的な心理的支援が不可欠」としています。(※1) 疫学 ハンチントン病の有病率は日本人では人口10万人あたり0.7人と推定されています。(※2)2019年度末現在、ハンチントン病での受給者証所有者数は約900人です。(※3)有病率に男女差はないのですが、人種により異なる傾向があり、有病率はコーカソイドでは高く、アジア人・アフリカ人で低くなっています。 好発年齢は30~50歳ですが、発症年齢は幼児から高齢者まで多様です。20歳以下で発症した場合は、「若年型ハンチントン病」と呼ばれます。若年発症では一般的に症状が重く、速く進行します。 症状・予後 症状は大きく、▷運動症状(不随意運動、運動の持続障害)▷精神症状(感情障害、認知機能障害) ── に分けられます。 症状は次第に進行します。寝たきりになると全介助が必要です。罹病期間は15~20年ほどです。ただし、患者によって症状やその程度はかなり違います。家族でも症状は一様ではありません。 不随意運動 舞踏運動を中心とした不随意運動が現れます。舞踏運動は、意思に関係なく、不規則で細かく速い動きが、四肢や顔面に生じます。 ほかにも、ジストニア(不随意に力が入る)、ミオクローヌス(筋肉がぴくぴくする)などの不随意運動もみられます。 発症早期には巧緻障害として現れ、症状が進むと、嚥下障害や構音・構語障害に進行します。 運動の持続障害 運動の持続障害は、同じ動作を継続することができなくなる症状です。手に持った物を落とす、転ぶなど、日常動作に支障をきたす原因になります。症状が進行するとやがて寝たきりとなります。 感情障害 感情が不安定になる、怒りっぽくなるなどの性格の変化や、何かにこだわり、同じことを繰り返すなど、行動に変化が起こることがあります。不眠やうつなどの感情障害がみられ、自殺企図にも注意が必要です。 一方、暴言や暴力で家族の負担が大きくなることもあります。その場合は速やかな介入が必要です。施設入所なども視野に入れ、多職種を交えて検討します。 認知機能障害 初期には認知機能障害は目立たず、徐々に現れます。アルツハイマー病とは違って記憶障害は軽度で、計画を立てて実行する機能の障害(遂行障害)が中心です。 若年型ハンチントン病では、初期から運動症状が現れるのは3分の1程度で、精神症状や認知機能障害がみられます。てんかん発作の合併が多いのも若年型の特徴です。 治療法 根本的な治療法はなく、不随意運動と精神症状への対症療法が柱になります。 リハビリのポイント ●病状の進行に伴い、活動量が低下するため二次的な運動機能低下が懸念される。予防目的の運動療法を検討する●精神症状や認知機能低下に対しては作業療法が有効な場合がある●状態に合った福祉用具の導入を提案する●車いすでは不随意運動のため滑り落ちることがあるので、座位保持の方法など、状態に合った使用法を助言する 看護の観察ポイント ●運動症状・精神症状により、日常生活・社会生活に問題が生じることがある。早めに課題をキャッチし、多職種で連携し予防および対応策を検討する●症状や程度の変化を観察する●今後の症状を予測し、福祉用具やサービスなどの導入の必要性を前もって検討する●転倒による外傷の有無を観察する●外傷を予防する対策を実施する●食事時の、食物の詰め込みや、嚥下障害などの有無を観察する●上記のような食事時のリスクに対し、必要な介入または助言を行う●体重減少ややせが目立っていないかを観察し、エネルギーを補う必要性をアセスメントする●皮膚の状態を観察する●暴言や暴力などで家族が疲弊していないか、家庭介護が継続できる状況かを観察する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会『遺伝子診断の目的と概要 神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』 東京,医学書院,2009,4-8.※2  難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)ハンチントン病(指定難病8)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/175※3  厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01. ○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)ハンチントン病(指定難病8)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/318○Huntington病の診断,治療,療養の手引きガイドライン作成委員会『Huntington病の診断,治療,療養の手引き』神経治療学 37(1),2020,68-83.○神経変性疾患領域における基盤的調査研究班『ハンチントン病と生きる:よりよい療養のために』Ver.2.2017.http://plaza.umin.ac.jp/~neuro2/huntington.pdf○日本医学会『医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン』https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf

特集
2021年10月19日
2021年10月19日

第2回 生活をよく知る訪問看護師だからこそできること

福岡大学病院循環器内科では、地域の訪問看護ステーションと連携して、心不全患者の急性増悪・再入院を防ぐための取り組みを行って効果を上げています。第1回目は、大学病院と訪問看護ステーションの連携の概要を紹介しました。今回は、患者さん・家族が暮らす生活の場で訪問看護師が行うアセスメントの実際と、大学病院の専門医のサポートの実際を紹介します。 生活の場に密着している訪問看護師への期待 福岡大学病院循環器内科の志賀悠平医師は、「急性期医療を担う大学病院の外来では、多くて月2回、たいていは1~2か月に1回くらいしか患者さんを診ることができません。しかも、私たちは病院に来ている患者さんしか診ていません。お家にいらっしゃる状態というのが見えないため、在宅で食事をめぐる問題や行動面のトラブルが起こっていても把握できません。しかし、訪問看護師さんたちは少なくとも週1回入っていますから、病態の悪化や状態の変化などの細やかなチェックができます。在宅でのチェックにおいては、訪問看護師さんのほうがプロフェッショナルなのではないかと思っています」と訪問看護師への期待の大きさを語ります。 福岡大学病院循環器内科志賀悠平 医師 「病院ではわからない部分を知ることができるのは、私たち訪問看護師の特権だと思っています。患者さんの状態だけでなく家庭内のキーパーソンや家族の支援体制、家屋構造なども、在宅療養における有用な情報です」と博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長は言います。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 何らかの症状があっても「年のせいだから」と見過ごされがち 心不全には、心臓の機能低下によって起こる2通りの症状があります。「収縮機能」が低下することによって全身の臓器に十分な血液が行き渡らないことから起こる症状と、「拡張機能」が弱くなり血液がうっ滞することによって起こる症状の2タイプです。血液が十分に行き渡らなくなって起こる症状には、疲労感、不眠、冷感などがあり、血液のうっ滞によって起こる症状には、むくみ(浮腫)、息切れ、呼吸困難などがあります。 黒木さんは特に『むくみ』には十分に注意するそうです。「通常は足背などを見てむくみの程度を判断しますが、訪問してお顔をみたときに『あれ? ちょっとおかしいな』と感じることもあります」と話します。 特に高齢者では、「収縮機能が保たれた心不全(拡張不全)」が多いことがわかってきています。血液を送り出す力が衰え、静脈や肺、心臓などに血液が溜まりやすくなってしまうもので、通常の検査では見つかりにくいとされています。さらに高齢者では自覚症状がはっきりと現れにくく、何らかの症状があっても「年のせいだから」などと見過ごされがちです。日常生活にいつも接している訪問看護師ならではの『直感』が重視される部分も大きそうです。 むくみのほかには、息切れや呼吸困難感も重要なサインの1つで、軽い場合は階段を上がる際に息切れする程度ですが、進行すると少し歩いただけで息苦しくなると言います。さらに悪化すると、夜寝ているときに咳が出て寝られなくなることもあります。「起座呼吸」にまで進んだ場合は入院が必要と言われています。 患者情報がタイムリーに多職種で共有されるメリット このように、訪問看護師の適切なアセスメントがタイムリーに多職種で共有されるメリットは大きいです。そのためには、ICTにより多職種が情報を共有できるツールの介在が欠かせません。 黒木さんはICTによる情報連携について、「現在は福岡大学病院の志賀先生のところと開業医、私たちの訪問看護ステーション、ケアマネジャーがICTツールでつながっています。私たちは医師とすぐに連絡を取りたいと思っても、この時間は電話してもいらっしゃらないだろうなと躊躇してしまうことも多いです。特に大学病院の先生との連絡ツールとして本当に助かっているので、もっともっと取り入れていきたいと思っています。こうやって即座に連携が取れるということは本当に心強いですね」と話しています。 志賀先生も、「訪問薬剤師と共有ツールでつながっていたこともあります。認知機能に少し障害があって服薬カレンダーをうまく使えず服薬管理ができないケースなどでは、薬剤の適正処方や服薬指導をきめ細かく行うために、薬剤師との情報共有ができて非常に有効でした」と、多職種連携のための共有ツールを高く評価されています。 心不全の再入院までの期間が延びているという『手応え』 福岡大学病院と博多みずほ訪問看護ステーションの有機的な連携によって心不全患者の再入院予防を図る取り組みの効果について志賀先生は、「まだまだ数は少ないのですが、確実に地域とつながっているという感触を得ています。少ない症例ではありますが、再入院までの期間が延びているという手応えはしっかり感じています」と述べてくださいました。 急性期病院での診療のかたわら、週1回訪問診療クリニックでの臨床を続けている志賀先生ならではの『地域包括ケアマインド』と、黒木さんをはじめとした訪問看護師の『在宅看護のスペシャリティ』がうまくマッチしたケースと言えるでしょう。 * 心不全看護の専門性をさらに高めるために黒木さんが取得された「心不全療養指導士」資格については、ご存知ですか?心不全療養指導士シリーズでご紹介します。 ** 志賀 悠平福岡大学病院循環器内科 医局長専門は心臓CT、高血圧、心不全、心臓リハビリテーション。日本内科学認定医、日本循環器学会専門医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本心臓リハビリテーション学会指導士、医学博士。 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社

特集
2021年10月12日
2021年10月12日

第1回 地域ぐるみで心不全患者を支える

超高齢社会を迎えて心不全患者が増加しています。心不全の主な症状はむくみ(浮腫)、息切れ、呼吸困難などですが、高齢心不全患者は自覚症状に気づかないことが多く、知らない間に急性増悪を起こして再入院するケースが多いといいます。福岡大学病院循環器内科では、地域ぐるみの包括医療を行って再入院を防ぐ好結果を得ています。地域連携の取り組みの実際を2回にわたって紹介します。 必要なのは地域ぐるみの多職種チーム医療 心不全とは、何らかの異常により心臓のポンプ機能が低下して、全身に十分な血液を送り出せなくなった状態をいいます。心不全患者数は全国で約120万人、2030 年には130 万人にもなると推計されています。特に高齢になればなるほど罹患者率が高くなることが知られており、超高齢社会を迎えつつあるわが国では、近未来的に心不全患者数は急増するものと予想されています¹。 そこで、日本心不全学会では2016年に、75歳以上の高齢心不全患者を対象にした治療指針である「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」を公表しました。この中で、高齢心不全患者の円滑な診療のためには、基幹病院専門医とかかりつけ医、および多職種チームによる管理システムの構築が必要であることが明らかにされています²。 再発・再入院を防ぐ専門職どうしの密なつながり 急性期循環器医療を担う福岡大学病院循環器内科では、心不全の急性増悪・再発予防のための地域包括ケア活動として、チーム医療を推進しています。 福岡大学病院1973年開院。病床数915床(一般:855床、精神:60床)を有する福岡市西部地区および周辺地域の中核的医療センターの役割を果たす。 志賀悠平医師は、「増加する心不全患者の継続的な管理を考えるとき、急性期を担う循環器医師と地域に密着して活動されている開業医の方々、そして患者さんの生活をいつもそばで看ている訪問看護師や訪問理学療法士が、連携して包括的な医療に取り組む必要があります」と言います。 急性増悪を引き起こす要因としては、水分や塩分の制限の不徹底、治療薬内服の管理不足、さらに過度な活動による過労などが挙げられます。「これらは、患者さん自身の自己管理の不徹底によることもありますが、医療者側がうまくコントロールできていないこともあり、そのアンバランスによって入院になってしまうことが多いです。ですから、在宅で常に日常生活を看ている訪問看護師さんの役割は大きいのです」と志賀先生。 福岡大学病院循環器内科志賀悠平 医師 患者・家族の生活に密着している訪問看護師だからできること 同科と連携を密にしている博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長は、「在宅に戻られた心不全患者さんでは、特に水分や塩分の適正なコントロールが必要で、そのための食事指導が大切です。家に戻ってくると、どうしても好きなものを食べてしまう方が多く、漬物などが好きな高齢者は過剰な塩分を摂ってしまいがちです。日々の食事の内容は私たち訪問看護師が最も把握しなければならないところだと思います」と言います。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 〈博多みずほ訪問看護ステーション〉2000年より福岡市で開設。呼吸器疾患の利用者が多く、呼吸リハビリテーションや機器管理などに力を入れて、サービスを提供。 塩分摂取の目安は、軽症ならば1日7g以下、重症では1日3g以下に制限するように指導します。具体的には、黒木さんが言うように漬物や佃煮を減らすこと、香辛料やレモンなど使って味付けや調理法を工夫することによって塩分制限を行います。「患者さんも自分をよく見せたいから、『そんなに漬物は食べていない』などとおっしゃるのですが、実態を把握するのが私たちの役目だと思っています」と黒木さん。 同訪問看護ステーションには訪問リハビリテーションのスタッフもいるため、運動や休息・睡眠にかかわること、さらには家の構造など、病院では知り得ない情報を主治医に伝えて適切な指示をもらうことができます。入院中にはわからない、在宅での日常生活の中に潜んでいる心不全の再発リスクをみつけて医師につなぎ、的確な指示のもと適切にコントロールするのが訪問看護ステーションの大切な役割です。 有機的連携のために必須な多職種の情報共有システム このような有機的な地域連携を実現するために必須なのが、多職種連携のための情報共有システムです。福岡大学病院と博多みずほ訪問看護ステーションでは情報共有のためのICTツールを活用しています。 志賀先生は、「訪問看護師さんが何かを察知した場合、いち早く大学病院に情報提供してくれることで、我々もタイムリーに医療上の指示を出すことができます。患者さんに最も密着している訪問看護師さんの視点だからこその情報も多くあります。家庭内にはさまざまな状況があります。家族間トラブルなどがある場合は、ご家族からの一方的なお話では判断できないこともあります。訪問看護師さんや訪問理学療法士の方々はケアの場面で日々、本人やご家族と接していますから、現場の『空気感』をお持ちです。そうしたリアルな情報を即時にウェブ上で共有できて初めて、有効な地域連携ができるのだと思っています」と話してくださいました。 ** 志賀 悠平福岡大学病院循環器内科 医局長専門は心臓CT、高血圧、心不全、心臓リハビリテーション。日本内科学認定医、日本循環器学会専門医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本心臓リハビリテーション学会指導士、医学博士。 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1.日本心臓財団『高齢者の心不全』https://www.jhf.or.jp/check/heart_failure/01/ 2.日本心不全学会ガイドライン委員会『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』http://www.asas.or.jp/jhfs/pdf/Statement_HeartFailurel.pdf?iref=pc_rellink_01

特集
2021年9月14日
2021年9月14日

パーキンソン病

難病を知る 発症しても手厚いケアがあれば在宅生活が可能なパーキンソン病。高齢者の100人に1人の割合で発症する、決して珍しい疾患ではありませんが、いまだ根治療法が解明されていない難病の一つです。 病態 中脳の黒質には、神経伝達物質のドパミンを作る神経細胞があります。パーキンソン病は、この神経細胞の減少によりドパミンが不足し、さまざまな症状が起こる難病です。 ドパミンの働きは、運動機能に関与する線条体にあるドパミン受容体に結合し、その興奮を抑えます。一方、ドパミンと拮抗する働きをするアセチルコリンは、ドパミン受容体で神経を興奮させる役割を担っています。ドパミンとアセチルコリンは、互いにバランスを取り合うため、ドパミンが減少すると、アセチルコリンの作用が過剰になってしまいます。パーキンソン病の治療で、抗コリン薬が使用されるのはそのためです。 なお、「パーキンソン症候群」は、進行性核上性麻痺や多系統萎縮症、薬剤性など、パーキンソン病と似た症状を示す、異なる疾患を指します。 疫学 パーキンソン病は50歳以上で発症することがほとんどで、加齢とともに発症頻度は上がります。40歳以下での発症は非常に少なく、「若年性パーキンソン病」と呼ばれます。有病率は10万人あたり100~150人と推定されていますが、60歳以上になると100人に1人とその割合が増加します。パーキンソン病の大半は遺伝性ではありませんが、遺伝性のものも5~10%ほどみられます。 症状 パーキンソン病は、運動症状として、振戦や筋強剛、無動、姿勢反射障害が知られています。 ●振戦静止時に、手が細かく震える症状が特徴的です。初発の症状として最も多くみられます。●筋強剛筋肉が緊張してこわばり、他動的に関節を動かすときに抵抗が増強します。●無動細かい動作がしにくい症状を指します。表情が乏しくなる(仮面様顔貌)、書字が小さくなる、すくみ足などが、無動の症状です。●姿勢反射障害全身のバランスを保ちにくく転倒しやすくなります。前傾姿勢になりやすく、小刻み歩行・突進歩行など歩行障害として現れる場合もあります。 これらが代表的な運動症状です。 一方、非運動症状として、 ●睡眠障害(昼間の過眠、むずむず脚症候群など)●便秘●頻尿、排尿困難●起立性低血圧●発汗異常●嗅覚の低下●痛み●うつ といった、自律神経障害や精神障害もみられることがあります。 パーキンソン病のうち難病指定の対象は、H・ヤール分類で3~5度、かつ、生活機能障害度が2~3度の患者に限定されます。 パーキンソン病は進行性ですが、そのスピードは個人差があります。治療を適切に行えば、発症後10年程度は通常の生活を送れます。平均余命もほぼ変わりません。 治療法 根治療法ではありませんが、薬物療法と手術療法があります。薬物療法は、ドパミンの補充が基本です。ドパミン前駆体であるL-ドパ、ドパミン受容体刺激薬などが用いられます。L-ドパの長期間投与を継続している経過において、薬の効く時間が短くなり、突然動けなくなるなど症状の日内変動が起こる(ウェアリング・オフ現象)場合があるので、薬の調節が課題になります。そのほか、不足したドパミンとのバランスをとるために、アセチルコリンの作用を抑える抗コリン薬も用いられます。 手術療法は、薬を使っても症状のコントロールが難しい場合などに選択されます。脳内に電極を埋め、電気刺激により神経細胞の興奮を抑える手術が主流です。 リハビリのポイント ●リハビリにより、症状の改善やQOLの向上が期待できるほか、患者本人が参加できるという意味で意欲を引き出すことにもつながる●ストレッチングや関節可動域の訓練、歩行訓練、立位・バランス訓練、筋力訓練、ホームエクササイズなどの運動療法は、身体機能やバランス、歩行速度などの改善に有効●言語訓練や嚥下訓練では、発声や嚥下の改善効果が期待できる 看護の観察ポイント ●症状やその程度に変化はないか●症状の日内変動が出ていないか●適切に服薬ができているか●薬の副作用が出ていないか●転倒していないか●家庭環境に転倒のリスクがないか●日常生活やセルフケアに支障をきたしていないか●体を動かしたり、ベッドから起き上がったりする時間は取れているか●構音障害によりコミュニケーションに問題が生じていないか●排尿障害が出ていないか●嚥下障害や誤嚥がないか●家族の介護力は十分か●患者、家族が不安やストレスを抱えていないか 次回は進行性核上性麻痺について解説します。  ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】・難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け) パーキンソン病(指定難病6)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/169・「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会編(2018)『パーキンソン病診療ガイドライン2018』医学書院.・井上智子ほか編(2016)『疾患別看護過程+病態関連図』第3版、医学書院.

コラム
2021年9月7日
2021年9月7日

看取りの作法 ~ 最期の1週間

在宅医が伝える在宅緩和ケア 訪問特化型クリニックの医師が、在宅緩和ケアのtipsをご紹介します。第1回は、汎用性が高く、かつ頻度も高い「予後1週間以内の看取りの流れを家族に説明する」です ごあいさつ はじめまして。杉並PARK在宅クリニック 院長の田中公孝と申します。 私は、家庭医の専門研修を修了した後、自身が地域包括ケアや人生の終末期に関心があること、またさまざまな社会課題とも深くかかわっていることから、在宅医療をメインのキャリアとして選びました。最近では、2021年4月に東京都杉並区西荻窪で訪問特化型のクリニックを開業し、地域で通院困難となり、さまざまな課題をかかえる高齢者のご自宅を日々訪問しながら、地域の多職種連携や地域づくりについて考えつつ、診療を行っています。 かれこれ8年以上在宅医療に携わってきた私がこれまで在宅医療を通じて獲得してきた在宅緩和ケアのtipsを、NsPaceの場をお借りしてご紹介できたらと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。 看取りのプロセスをお伝えする がん末期の患者さんが 「食事がまったくとれなくなってきた」「寝ている時間がかなり長くなってきた」 という状態は、予後が数日と予測できる段階です。 そのような報告を受けると、私は臨時訪問し、 「亡くなるまでの期間、いわゆる予後が週の単位から日の単位に移行してきた可能性があります。おそらく、あと1週間以内くらいかもしれません。」 という話をします。 ご家族に、 1週間前になると寝ている時間が長くなり、食事をとらなくなる尿が少なくなったり、血圧が下がってきたり、手足が冷たくなってきたりする手足をバタバタさせて、いわゆる混乱しているような状態になる こと、 1〜2日前になると下顎呼吸というものが出てきて、やや苦しく見えるような呼吸をする ことをお伝えします。 心構えを提供する なぜこのような説明を1週間前の時点でするかというと、ここから先はご家族が不安になる症状が日の単位で出てくるため、心構えとして、また、観察項目としてお伝えするといった意図があります。 というのも、これを説明しておかないと、毎回毎回の変化にご家族は驚き、不安を募らせ、このままでいいのかと苦悩してしまいます。人は、これから起きることを、あらかじめ知っていれば冷静になれるという特徴に気づいてからは、こうした一般的な看取りの流れをご説明して、心構えをしてもらいます。 看取りまでのプロセスに関する説明をしっかり聞いてもらったご家族からは、 「先生に聞いたとおりの流れになりました。」 「このまま様子をみていて大丈夫なんですよね。そうすると明日、明後日くらいでしょうか?」 という語りが聞かれ、もし下顎呼吸が出現してきても 「いまの呼吸が下顎呼吸というものでしょうか?」 といった冷静な語りが聞かれるようになります。 看取りのパンフレット 説明の際には、OPTIMから出ている「これからの過ごし方について」、通称我々が「看取りのパンフレット」と呼んでいる資料を見てもらいながら説明していきます。口頭の説明だけでは、ご家族もその場だけで覚えきれない、または理解しきれない可能性があるため、説明した後は資料をお渡しし、あとでじっくり読んでもらうことにしています。 OPTIM(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)「これからの過ごし方について」 http://gankanwa.umin.jp/pdf/mitori02.pdf 私はこのパンフレットをあらかじめ印刷して持ち歩き、診療の合間に連絡を受けてもすぐに臨時訪問していつでも使えるようにしています。 在宅緩和ケアの役割 予後が約1週間になると、さまざまな症状が現れます。 たとえば、夜中にせん妄状態になるときや、つらそうで見ていられないというご家族の場合は、まだご本人が薬を飲めそうであれば鎮静目的でリスペリドンの液を内服してもらうこともあります。下顎呼吸になる手前では、内服中止の判断も必要になってくるでしょう。 ただ、そういった様子も自宅看取りの予定どおりの流れです。基本的には、勇気を持って見守ってもらうようにお話をしています。 さらに不安が強いご家族の場合は、看取り直前に一度往診をし、おそらく明日明後日にはお亡くなりになるだろうというお話をします。 苦しそうなのが心配というご家族の場合は、酸素の設置をすることもあります。 もちろん、こうした鎮静薬や酸素、麻薬なども、緩和ケアとして重要な手段ではありますが、この後起こりうる状況を具体的に説明して、ご家族と目線合わせをすることが在宅緩和ケアの肝となるプラクティスだと考えています。 訪問看護師への期待 看取りに非常に慣れた訪問看護師さんは、ご自身たちで用意したパンフレットをもとに看取りの流れを説明されます。 そんな看護師さんがいる場では、私は予後をご家族にお伝えするのみで、その後の細やかな説明はお任せできます。頓用薬のタイミングもある程度任せています。 在宅医としては、こうした看取りの流れを説明できる訪問看護師さんがより増えていくと、同時に担当できるがん末期患者さんを増やすことができます。 まだ訪問看護歴の浅い看護師さんであっても、ぜひベテランの訪問看護師さんに聞きながら、積極的にトレーニングをしてもらえることを期待します。 ** 著者:田中 公孝 2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。 杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2021年8月10日
2021年8月10日

訪問看護師に必要なスキル・知識のまとめ

前回は医療制度・介護制度、礼節・礼儀などについてお話ししました。 第6回は、本コラム連載の最終回として訪問看護師に必要なスキル・知識の総括についてお話ししたいと思います。 訪問看護師に必要なスキル・知識のまとめ 今回を含めて、これまで全6回にわたり訪問看護師に必要なスキルを私なりにまとめさせていただきました。最後にこれらをもう一度、訪問看護の実際の業務フローに落とし込み、可視化したいと思います。 下図は、訪問看護業務フローと8つのスキル・知識の関係図です。見方としては、図・左下の「患者・利用者」から始まり、反時計回りで、患者・利用者→アセスメント→必要な看護の提供となります。 【訪問看護の業務フローにおける各スキルの位置づけ】 ➀患者・利用者の意向・状態変化 ここでは、「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」、「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」が必要なスキルとなります。特に本人の思いの吸い上げは、最も重要であり、看護方針の基盤となるだけでなく、さまざまな判断の軸となります。 また本人のリアルな状態変化をしっかり見極め、看護に反映させるため、平時の本人の状態を想像するスキルが必要となります。詳しくは、下記をご参照ください。 第1回 思いを吸い上げるスキル・想像するスキル ②アセスメントと他職種との連携 次にご本人の意向などをもとにアセスメントを実施し、さまざまな看護プランを立てることになりますが、ここでは「マネジメントスキル(チームマネジメント)」、「コミュニケーションスキル」、が必要となります。 アセスメントをもとにし、設定された目標に対してどういった職種にどのように動いてもらうかを考え、さらに円滑に動いてもらうために、マネジメントスキルが必要となります。その際に、在宅現場においては、ひとつの職種で利用者さんの療養を支えることは難しいため、医師を含めた他職種とのコミュニケーションスキルが非常に重要となります。 コミュニケーションを取る時には、相手の職種・役割・所属組織の方針などを考慮にいれた俯瞰力を持って臨むことで、より円滑な連携が生まれ、マネジメントも良質なものとなります。また、特に医師に対しては、SBARを改めて実践することで、より良好な関係性を目指していただければと思います。詳しくは下記をご参照ください。 第2回 医師・他職種とのコミュニケーションスキル 第3回 コミュニケーションスキル(訪問看護指示書)とマネジメントスキル ③在宅現場での必要な看護の提供 最後に在宅現場での必要な看護の提供段階となりますが、ここではより良い看護を提供するために「医師のいない場で医療的判断を行うスキル」、「在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)」、「医療制度・介護制度などに関しての知識」、「礼節・礼儀などを実践できる素養」が必要となります。 まず医師がいない場で、訪問看護師が医療的判断を行うことはさまざまな不安があると思いますが、その不安は何をどこまで実践してよいか明確になっていないことが原因であることが多いです。そのため、ご本人の意向を知り、かつ医師からの包括的指示をもらうことで、その不安は払拭することが可能となります。 次に在宅療養中の利用者さんに起こりやすい疾患などに対しての看護スキルについては、「看護は芸術である」という観点のもと、それぞれの利用者さんに対して、みなさんが持っている看護技術を生かして、彩られた療養環境を作り出してみてください。 制度面については、訪問看護は医療保険と介護保険の2つの制度で成り立っており、さらに疾患などにより訪問回数なども決まっています。そのため、制度を知らないと看護プランを立てられないことがあるので、しっかりと理解することが重要です。 礼節・礼儀については前回コラムのとおりです。 これらのスキル・知識をもって、在宅現場でより良い訪問看護を実践していただきたいと思います。詳しくは下記をご参照ください。 第4回 医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) 第5回 医療制度・介護制度などに関しての知識と礼節・礼儀などを実践できる素養 本コラム最終回として、訪問看護師に必要なスキル・知識の総括についてお話しさせていただきました。 これまで8つのスキル・知識をまとめてきましたが、豊富な訪問看護経験がある方にとって、本連載の内容は当たり前のことも多かったと思います。一方で、連載を通じて、さまざまな気付きをもらえた、という非常にありがたいご意見もいただきました。 患者・利用者さんのQOLの向上のために、今回の8つのスキル・知識が少しでもみなさんのお役に立てば幸いです。 おわりに、本連載を読んでいただいた方、また本連載に関わっていただいた関係者の方々に感謝を申し上げます。 ** 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

特集
2021年8月3日
2021年8月3日

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

在宅で暮らす指定難病の方の支援は、訪問看護の重要な使命の一つです。今回から、訪問看護が必要とされることの多い難病について、最低限知っておきたい病態・疫学と、看護のポイントを解説します。第1回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。 病態 筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう:ALS)は、運動ニューロンが障害されることで起こる、進行性の疾患です。随意筋への指令伝達が障害されるため、全身の筋肉(上肢・下肢、舌、のど、呼吸筋など)が徐々にやせ、筋力が衰えていきます。 運動ニューロンのうち、上位運動ニューロンは、大脳皮質運動野から出た指令を脳幹や脊髄に伝えます。下位運動ニューロンは、脳幹や脊髄に伝わった指令を、末端の筋肉に伝達します。 ALSでは、上位と下位、両方の運動ニューロンが変性・消失し、指令が伝わらなくなることで、筋力低下や筋萎縮が進みます。原因はまだ解明されていません。 疫学 2019年度末時点でのALSの受給者証所持者数は1万人弱です。中年以降で発症が増加し、60〜70歳代が最多です(※1)。男性に多く、女性の1.3~1.4倍の有病率です。 ALSは多くの場合は遺伝しません。ただし、全体の5~10%で家族内での発症があります(家族性ALS)。 症状・予後 手足の筋力低下や、筋萎縮、球麻痺による言語障害・嚥下障害、呼吸筋麻痺による呼吸障害などが、進行性で現れます。 初期症状では手指を動かしにくい、腕の力が弱くなる、足がつっぱる、転倒しやすくなるといった四肢の症状が主体で、そこから全身に広がっていくパターンが典型的です。しかし、最初に進行性球麻痺(構音障害や嚥下障害など)がみられる例や、呼吸障害が出る例、認知症を伴う例などもあり、発症パターンはさまざまです。 全身の筋肉に比較的速く症状が広がり、最終的には呼吸筋麻痺が生じ、人工呼吸器を使わない場合の生命予後は発症後2~5年です。一方、人工呼吸器を用いない状態で発症から10年以上の生存例もあり、経過も個人差の大きい疾患です。 なお、病状が進んでも、視力や聴力、体の感覚などは比較的保たれる傾向があります。眼球運動は残りやすいため、眼球の動きを通じたコミュニケーション方法が活用できることも多いです。 治療・管理など ALSに対しては、神経細胞の障害を抑制し、進行を遅らせる薬が用いられますが、根本的な治療法はありません。そのため、対症療法が主体となります。 対症療法では、機能維持や障害を補う動作訓練などリハビリテーションと、リハビリテーションを実施できる栄養状態を評価する「リハビリテーション栄養」の考えかたに基づく介入が推奨されます。 栄養状態は、代謝亢進が目立つ初期には体重減少をできるだけ抑え、エネルギー消費が減少していく進行期にはエネルギー過剰とならないよう計画します。嚥下機能などに伴い、食形態の見直しや栄養療法の導入なども必要になります。 どんな病態でも同様ですが、消化管瘻や人工呼吸器の導入に際しては、基本的には本人の意思が優先されます。早期から多職種がかかわり、意思決定を支援する必要があります。 嚥下障害 残存機能を生かすリハビリや摂食方法、食形態の工夫などを行います。病態の進行をよく観察し、状況により、経管栄養法(消化管瘻や経鼻栄養など)が検討される場合があります。 呼吸障害 呼吸筋の訓練や排痰法の指導などを行うことがあります。呼吸障害が進んだ場合、人工呼吸療法による呼吸管理を検討します。人工呼吸療法には、マスクを用いる非侵襲的陽圧換気(NPPV)と、気管切開下陽圧換気(TPPV)があります。 コミュニケーション障害 発声や構音などが障害されると、コミュニケーションも阻害されます。とくに、コミュニケーションの阻害は、意思決定に際して困難を生じることが予想されるので、早い時点から検討と具体化を進める必要があります。残された機能を生かし、筆談や指文字、文字盤のほか、自分で動かせる部位を利用した意思伝達装置が用いられます。 リハビリのポイント ●早期からの関節拘縮や筋萎縮などによる痛みの予防・改善などに、ストレッチや、関節可動域を維持するリハビリが有効 ●軽度~中等度の筋力低下では、筋疲労をきたさない適度の負荷量で、筋力増強訓練も可能(月単位・週単位で筋力が低下していく病態を適切にとらえながら継続実行していくことは容易ではなく、とても重要なポイント) ●病状の進行に伴い、体位変換や、車いすでの座位保持など、生活の支援内容やその方法を随時変更・検討する ●福祉用具や補助具の導入などでは、本人の状態や生活への希望をふまえることはもちろん、刻々と変わる状態に合わせ、タイムリーな選定を支援する ●嚥下障害や呼吸障害、構音障害に対するリハビリ、動作のアドバイスを行う など 看護の観察ポイント 訪問時の「現在」で観察すべきこと、週〜月単位で把握すべきことがあることに留意しましょう。今の状態だけでなく、変化の有無とその様子を継続してみていけることは、訪問看護の強みといえます。 ●日常生活に支障をきたしていないか ●転倒しやすくなっていないか ●目立った体重減少がないか ●食事や水分が十分摂取できているか ●排便コントロールができているか ●むせや飲み込みにくさなど嚥下障害を疑わせる症状が出ていないか ●構音や発声などでコミュニケーションが阻害されていないか ●ふさぎ込む、不安を訴えるなど精神状態に変化がないか ●不眠の症状が出ていないか ●家族の身体的・精神的負担の程度 など 次回は重症筋無力症について解説します。 ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】 東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版  【参考】 ※1 厚生労働省『令和元年度衛生行政報告例 統計表 年度報 難病・小児慢性特定疾病』2021-03-01 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450027&tstat=000001031469&cycle=8&tclass1=000001148807&tclass2=000001148808&tclass3=000001148810&stat_infid=000032045204&tclass4val=0 ・日本神経学会『筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013』 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/als2013_index.html ・難病情報センター『筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) 病気の解説(一般利用者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/52 ・難病情報センター『筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) 診断・治療指針(医療従事者向け)』 https://www.nanbyou.or.jp/entry/214 ・一般社団法人日本ALS協会『治療の進め方』 http://alsjapan.org/how_to_cure-summary/ ・井上智子ほか編(2016)『疾患別看護過程 第3版』,医学書院

インタビュー
2021年3月23日
2021年3月23日

管理者インタビューMy Care Style vol.1

管理者インタビュー『My Care Style 』第1回目は、訪問看護ステーションリカバリー看護師の柴山様にお話をうかがいます。 スタッフに対しても、利用者さんに対しても、相手の視点で考えることを大切にしています。 訪問看護ステーションリカバリー 看護師・柴山 宜也(しばやま よしなり) 消化器急性期病棟で3年、老健やデイサービスで1年働いた後に、訪問看護未経験で現在のステーションに入社し、7年目になります。身内の不幸をきっかけに看護師を目指し、初めは看護技術を習得するために、急性期を極めようと大学病院に勤務しました。しかし、「そもそも倒れないような関わりが必要なのでは?」と思うようになったことで高齢者医療や予防医療に興味を持ち、「倒れても対応できる看護師から、倒れないように対応できる看護師へ」と考え方が変わりました。 休日は、今は家族と過ごすことが多いですが、以前は勉強会に積極的に参加して他のステーションの管理者や責任者、その他医療介護業界の方と交流をしていて、それが今の新宿医介塾の運営につながっています。 Q ステーション運営で心がけていることは? 相手の立場に立って考えることが大事だと、過去の経験から痛感しています。 初めて管理者になったときはとても意気込んでいて、新人が少しでも早く一人前になれるように情熱を注いだ結果、逆効果になったことがありました。新人に対して1から10まで教えて、完璧を求めてしまったために、パンクしてしまったのです…とても反省しています。 今は、新人の気持ちや、本人が受け入られるキャパシティを見極めた上で、話し合いながら育成するようにしています。 新人教育は、基本的にはOJTがメインで、現場チューター制度をとり、担当をつけつつチームで教育を行っています。管理者は全体の教育を考える立場ですが、新人と年齢が離れていることで話しづらい時もあり、気軽に相談できるチューターが中心になって進めています。 新人には3ヵ月同行しますが、みなさん優秀で、3ヵ月経つと8割以上は一人前になります。あとは、その中で見ていない疾患に同行したり、契約を覚えてもらったりで、おおよそ一年で大体の業務は対応できるようになります。 管理者以外のスタッフにも契約を覚えてもらい、重要事項説明をしてもらうのは、お金の管理も含めて、「訪問看護の対価はどのくらいか=自分の価値を知る」を理解してもらいたいからです。 リハビリ職など他の職種とのコミュニケーションについても、相手がどう考えるかを常に気をつけています。 看護師には看護師なりの考えがあり、リハビリにはリハビリの考え方があり、利用者さんにとってはどちらも大切な専門職です。双方の異なる価値観を尊重することが、お互いの知識と経験を養い、成長につながり、結果的には利用者さんにより良いが提供できると思います。 しかし、看護職はリハビリ職を「大切なパートナー」と考える人もいれば、残念ながら「下級医療職」と見下してしまう人もいます。また、リハビリ職は「看護師は忙しそう、話しづらい」と考える人もいます。 そういった垣根を壊すような運営方針、取り組みを行っています。 またマネジメントについては、もちろん社内の人にも相談はしますが、個人的に参加していた勉強会で社外の管理者などと知り合うことができ、社外にも相談できるネットワークができたのは財産です。 Q 利用者さんに対して心がけていることは? 大きくは二つあります。 一つは、会社理念でもある「もう一人の家族」の視点で関わること。 「利用者さんが自分の両親、親族だったら何をしてあげたいか」「もし利用者さんの家族に医療者がいたら、どんな相談をしたいか」を親身になって考えるようにしています。 もう一つは、思い込まないこと。主訴の裏には大きな異変が隠れていることもあります。 家族から「朝、寝室から起きてきて、リビングでくつろいでいたけど、リビングで寝たまま起きないんです」と相談されたことがあります。糖尿病のある方だったので低血糖も疑って訪問してみると、脳梗塞を発症していて除脳硬直状態、すぐに救急搬送になりました。 病院と在宅では、いくつか違いがあります。 病院では患者さんが病院に治療を受けに来ますが、在宅では利用者さんの療養している家に私たちが入ります。看護師は、病院ではホームですが、在宅だとアウェイです。そのため、アウェイでは利用者さんとの信頼関係がものすごく重要で、知識・技術以上に人間性、コミュニケーション力が求められると思います。 また病院では、一人の患者さんにじっくり向き合うことが難しいのが現状ですが、在宅では利用者さんとの決まった時間が確保されています。その時間の中で、精一杯利用者さんに向き合うことで、信頼関係が構築できた時はとてもうれしいですね。 病院では「看護師さん」や「リハビリの先生」と呼ばれますが、訪問看護では名前で呼んでくれる利用者さんが多いです。それは人として向き合ったことで、看護師個人として評価・信頼してもらっている証だと思っています。 Q 未経験の方にメッセージをお願いします。 「訪問看護をやりたい!」と思っていても、学校の先生や、病院の先輩から「まだ早い」とか「色々な科を経験してからじゃないと」とか、いろいろ言われる業界ですので、ハードルが高く感じる方もたくさんいると思います でも一番大事なのは、訪問看護に対して興味があることではないでしょうか。目の前の患者さん、利用者さんとがむしゃらに関わることができる人であれば、臨床経験の長さはあまり問題にならないと思います。 ITが普及している昨今であれば、訪問時に困ってもすぐに先輩に相談できますし、教育体制がしっかり整っているステーションもあります。実際、私たちのステーションも未経験者ばかりですが、みなさん楽しそうに訪問しています。 「できるか、できないか」ではなく、「やってみたい」という前向きな気持ちが何よりも大切です。ぜひチャレンジしてみてください! ** 会社名:Recovery International株式会社 ステーション名:訪問看護ステーションリカバリー 併設サービス:訪問マッサージ 所在地:東京都新宿区西新宿6-16-12第一丸善ビル6階 最寄り駅:都営大江戸線西新宿5丁目駅 ■職場環境 スタッフ数:看護師10名、セラピスト10名 年齢層:23~40歳。平均年齢32歳 訪問エリア:主に新宿と渋谷方面 移動手段:基本は電動自転車。悪天候時は公共交通機関を使用 周辺環境:都庁や新宿中央公園があり、都会の中でも緑が多い。オフィス街と住宅街があり、周囲には飲食店も多く環境は良い。 オンコール対応:東京では希望性のため月1回から。希望した場合や指導する立場の看護師は月8回程度。実際には平均月10回程度で、半年以上オンコールに呼ばれない看護師も多くいる。電話は1日1~2回で、18~22時にかかってくる電話が7割以上、深夜は月に5回未満 ■利用者層 疾患の傾向:ご利用者さんを重症度などで選定していないため、要介護5から要支援1まで請け負っており、さまざまな疾患がある。ALSやパーキンソン病などの難病の方、癌末期の方、糖尿病や慢性腎不全や心不全を抱えている方など 保険別の割合:季節にもよるが、介護保険が7~8割、医療保険が2~3割程度

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