ケア知識に関する記事

明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
特集 会員限定
2023年3月28日
2023年3月28日

【セミナーレポート】後編:装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-

2022年12月16日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「明日から生かせる!ストーマトラブルへの対応」を開催いたしました。講師は、急性期病院でストーマ管理を長きにわたって経験し、現在は訪問看護ステーションを開設している「皮膚・排泄ケア認定看護師」の原 慎吾さんです。 本記事では、前後編に分けてセミナーの一部ご紹介。後編では、適切な装具の選び方や、ケーススタディの内容をまとめています。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師看護師として急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。その中で、トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、その課題を解決すべく独立。現在は「看護のスペシャリストを在宅へ」をコンセプトに掲げ、病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開。2021年には訪問看護ステーションも開設している。 目次 1. 選択の基本  (1)皮膚保護剤(面板)の組成  (2)装具の形状 2. 選択するときに注意したいポイント  ・皮膚保護剤の粘着面の溶け具合  ・あらゆる体位での腹壁の質感  ・利用者さんの言動 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応  (1)アセスメントを行う  (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する  (3)頻回に装具を交換する 1. 選択の基本 装具を選ぶにあたっては、大きくふたつのポイントがあります。ひとつめは皮膚保護剤(面板)の組成、ふたつめは形状です。 皮膚保護剤(面板)の組成 皮膚保護剤(面板)は、水になじまない「疎水性ポリマー」と、水になじむ「親水性ポリマー」とを組み合わせてつくられています。この割合が製品ごとに異なり、疎水性ポリマーの量が多ければ多いほど水に強く、粘着力が高いです。逆に親水性ポリマーの量が多いと、水には弱くなるものの、皮膚の負担は少ないというメリットがあります。皮膚保護剤は「長期用」「中期用」「短期用」に分けられていますが、疎水性ポリマーの量が多いものが長期用(使用期間5〜7日)、親水性ポリマーの量が多いものが短期用(使用期間1〜4日)です。なお、その中間に位置する中期用もあります(使用期間3〜5日)。ただし、これはあくまでも目安です。 利用者さんのご自宅にうかがった際は、ぜひ装具の名前を調べ、適切に使用できているかチェックしてあげてください。万が一、長期用のものを毎日交換するようなことがあれば、皮膚はあっという間に発赤やびらんなどのトラブルを起こします。逆に短期用を1週間も貼っていれば、突然装具が剥がれてしまう可能性もあるでしょう。 装具の形状 装具には、柔らかくて皮膚への影響が少ない平面装具と、硬いプラスチックでできた凸面装具とがあります。ちなみに、1枚のコストは前者のほうが低いです。 硬い腹壁には平面装具(および柔らかい皮膚保護剤)を、柔らかい腹壁には凸面装具(および硬めの皮膚保護剤)を使うとよいといわれています。お腹に対して指の向きを並行にして押し当て、沈む指が1本以下なら硬い、1本以上2本未満なら普通、それ以上は柔らかいと判断します。 筋肉質だったり皮下脂肪が少なかったりする方は、お腹を押さえるとすぐに腹直筋にあたる、つまり硬いですよね。そこに凸面装具をつけると、お腹が装具を押し上げてしまい、皮膚損傷の原因になります。漏れといったトラブルが起きた際も、ぜひ腹壁を触ってみてください。 さらに、「しわ」の状態も確認が必要です。しわが多い方に平面装具、柔らかい皮膚保護剤を使用してしまうと、これも漏れの原因になります。 2. 選択するときに注意したいポイント 装具選択のときに私が必ず見ているポイントについて、もう少し細かくお伝えします。 皮膚保護剤の粘着面の溶け具合 装具を交換する際、剥がしたものをすぐに捨てずに、必ず面板の裏面(粘着面)を確認しています。粘着面がいびつな形で溶け出している部分は、腹壁がへこんでいる、隙間ができるということ。つまり、漏れや便の潜り込みなどのトラブルが起きやすい部分なので注意が必要です。うまく貼れていれば、面板の裏面は均一の幅でリング状に溶けていることを確認できると思います。 あらゆる体位での腹壁の質感 指を押し当てて腹壁の質感を調べるというやり方はすでにお伝えしましたが、座位、臥位、立位と、その方がとりうるすべての体位でチェックすることがポイントです。体位を変更すると、腹壁が変形したり、しわの入り方が変わったりします。座ると臥位では見られなかったしわが入ることも多いので、必ず確認しましょう。寝たきりの利用者さんであっても、その方が日常生活の中でとる体位変換を実践してもらい、お腹の動きを見てください。 利用者さんの言動 利用者さんがどのくらい動けるか、指示に従えるか、手に震えはないかなど、全体的な言動も見ています。装具選択時には、その方にとって使いやすいかどうかを見極めることが大切です。そのため、ADLやセルフケアの状況・理解度・受容段階などをアセスメントします。 訪問看護師のみなさんは、初めての訪問の際に確認していただければと思います。 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応 ここからは、「ストーマの近接部にびらんが見られるが、面板全体では問題がない利用者さん」というモデルケースを挙げて、対応方法を時系列に沿って考えてみましょう。 (1)アセスメントを行う まずはアセスメントを行い、トラブルの原因を明らかにしていきます。ストーマの近接部にびらんが見られるものの面板全体では問題がない場合、化学的原因(排泄物の付着)が原因だと考えられます。現在の装具を使い続けていると、びらんになっている箇所が常に便に汚染されてしまう状態です。 (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する びらんからは常に滲出液が出るため、面板を貼っても装具は密着せず、装具と皮膚の間に排泄物が入り込んでしまいます。すると、いつまで経っても治らず、状態が悪化する可能性も高いでしょう。 こういうケースでは、パウダーを使います。パウダーがびらんと面板の間に入り、滲出液を吸いながらゼリー状になって、排泄物をブロックしてくれます。さらに、パウダーにはpH緩衝作用があり、排泄物を中和して皮膚を守ってくれる効果もあります。 ただし、パウダーは名前のとおり粉状なので、水分を吸うと次第に溶けて崩れていきます。そのため、イレオストミー(回腸ストーマ)やウロストミー(尿路系ストーマ)の場合は、排泄物と一緒に短時間でパウダーが流れてしまうでしょう。しかし、数時間は皮膚を守ってくれるので、治療の一助になるかと思います。 (3)頻回に装具を交換する そして、頻回に装具を交換し、排泄物がびらんに付着する時間をできるだけ短くしましょう。私はこのような状態になった利用者さんには、「皮膚がヒリヒリしたら装具交換のタイミングだよ」とお伝えしています。びらんがある状態で新しい装具を使っても面板が密着しないので、まずは皮膚を治すのが最優先。短期用の皮膚保護剤(面板)やアクセサリーを使うなどして、可能な限り皮膚をきれいに保つようにしてください。 * ストーマトラブルが発生すると利用者さんの背負う負担はより大きくなります。今回お伝えした対応をとってみても課題が解決できない場合、ストーマ外来や皮膚・排泄ケア認定看護師に相談してみることも選択肢のひとつ。ご自身やご自身のステーションで抱え込まず、よりよい対策を模索してみてください。 編集:YOSCA医療・ヘルスケア [no_toc]

緩和ケア座談会
緩和ケア座談会
インタビュー
2023年3月28日
2023年3月28日

【緩和ケア座談会 後編】自殺願望への対応/最後の「大好きなお風呂」

在宅で最期を迎えたいという方が増えている中、現場で日々奮闘する訪問看護師は、利用者さんやご家族との関わり方を通じて、どのようなやりがいや難しさを感じているのでしょうか。ホスピスケアに注力する「楓の風」で働く4人の看護師のみなさんに、印象に残っている利用者さん・ご家族との思い出を語っていただく座談会を開きました。後編では、利用者さんの自殺願望への対応や、ご本人・ご家族の希望に沿った「最期」に関するお話を伺いました。 前編はこちら>>【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア 松田 香織(まつだ かおり)さん在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫/緩和ケア認定看護師外科や脳外科、一般病棟、救急外来などを経て、2021年に楓の風に入職。看護師歴約25年、内訪問看護歴1年中島 有里子(なかじま ゆりこ)さん在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫 副所長内科や外科、透析センターなどを経て、2020年に楓の風に入職。看護師歴約21年、内訪問看護歴約3年廣田 芳和(ひろた よしかず)さん第2エリア長/在宅療養支援ステーション楓の風 やまと 所長/緩和ケア認定看護師小児科病棟、循環器・呼吸器・血液内科病棟などを経て、楓の風に入職。看護師歴約29年、内訪問看護歴約13年吉川 敦子(よしかわ あつこ)さん第1エリア長/スーパーバイザー化学療法科や婦人科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科病棟などを経て、2008年に楓の風に入職。看護師歴約28年、内訪問看護歴約14年株式会社楓の風ホールディングス神奈川県を中心に、首都圏で通所介護、訪問看護、訪問診療、教育事業等を展開。「最期まで自分らしく、家で生きる社会の実現」に向けて、在宅療養支援を行う 「いい加減、私を殺してくれませんか?」 ―前編では、松田さんと中島さんに、ご家族のケアに関するお話を中心に伺いました。続いて、廣田さんの印象深いご経験についても教えてください。 廣田: 10年ほど前、訪問看護の仕事を始めたころのお話です。ご両親と3人暮らしの、末期がんの40代の女性を担当していました。症状のコントロールが難しく、かなりの量の痛み止めを使っていたんです。その副作用や精神的なダメージが大きく、「体のだるさがきつい」と毎日私宛に電話がかかってきました。そのやり取りのなかで、「廣田さん、いい加減、私を殺してくれませんか」と相談されたのです。毎日訪問していたので、話しやすい関係性は作れていたと思いますが、1日目は「なるほど。殺してほしいですか。それはできないな、殺人者になってしまうから。とにかく、ラクになれる方法を考えましょう」とお返事したと思います。 それから、次の日もその次の日も、「どうしたら死ねるか」について電話で1時間ほど話しました。1週間くらい続いたあるとき、ふっと互いに気が抜けて、少し笑えてきたんです。「この話、いい加減、飽きませんか?」「飽きましたね」と軽いトーンでお話できて、結局彼女は自殺をしなかった。痛みやつらさはセデーションをかけてラクになるのですが、何が言いたいかというと、「殺し方」や「死に方」といったすごく深刻でネガティブな話が続いても、どこかでくるっとユーモアに変わる瞬間が来るんです。「もう、話していてもしょうがないよね」とお互いに思える瞬間が。 我々看護師は、利用者さんのネガティブな気持ちを真剣に聞き続けていると、こちらまで精神的に病んでしまう恐れがあります。もちろんこのケースでも私は真剣に話を聞いていたのですが、耳を傾けながらどこかに活路があるように感じていました。そして、結果的に活路があったと実感できたことは大きな収穫だと思います。 残念なことに、その利用者さんはその後すぐにお亡くなりになりました。彼女は「つらい」「死にたい」ということを、最後までご両親には言えませんでした。私だから、というよりは、一番近くにいた他人の看護師だからこそ、本音を言えたと思うんですよね。彼女とのやり取りが正しかったのかはいまだに分かりませんが、強く記憶に残っている利用者さんです。 向き合い続ければ方向転換できる瞬間がある 松田: ユーモアに変換されたという結果は、利用者さんとの信頼関係ができていたからこそですよね。なかなかその域に辿り着けないのではないかと思います。「今日も言い続けてみよう」と利用者さんが思える関係性を作れた過程にとても興味があります。 廣田: ちょうど訪問看護の施設ができたばかりで、まだ利用者さんの数が少なく、毎日対応できたという点も大きかったですね。もちろん、私から「こういう方法がありますよ」なんて提案は絶対にしないし、できません。利用者さんが口に出す自殺方法に対して、「その方法は○○だから残された遺族が大変ですね」「その方法だと○○ですし…、やっぱりだめですね」などと、「それをしたらどうなるか」を一緒に散々考えて、結局どれもダメだという結論に至ったんです。 松田: 利用者さんに「自殺したい」と言われたら、「何言ってるんですか」と否定してしまいがちだと思います。廣田さんが自分を否定せずに受け止めてくれて、一緒に真剣に考えてくれたこと、その利用者さんはうれしかったでしょうね。 廣田: そうですね。本当はすぐに「自殺はダメだよ」と言いたかったです。でも、その時は一緒に考えるしかないと思ったんですよね。あと、ピンチに陥ったときは、常にチャンスを狙っているような気がします。利用者さんとのネガティブなやり取りも、どこかで笑いに変えられる瞬間がくるのではないかと思うんです。何事も笑いは大事ですから。 松田: やっぱり、廣田さんにしかできない技です。 吉川: なかなかできないことですよね。私も今、担当している終末期の利用者さんで、「私は死ぬのを待っているだけ」「入院するときは死ぬとき」などとお話される方がいらっしゃいます。そういうお言葉が出たとき、傾聴に徹したり、「またお家で頑張りましょう」という言葉をかけたり、といった対応しか思いつかなくて…。何かアドバイスいただけますか? 廣田: 難しいですよね、すみません、すぐに答えは出てこないです。ただ、聞くしかないときもあると思います。後は、ダメでも試してみる。試してみないと分からないこともたくさんあります。「布団が吹っ飛んだ」くらいの思いっきりくだらないダジャレを言ってみるとか。失敗する可能性も大きいですが(笑)。 吉川: ダジャレはタイミングを見図るのが難しくて、ちょっと勇気ないですね(笑)。でも、色々と試してみます。 「お父さん、よかったね」 全員が納得の最期 ―吉川さんの思い出深い終末看護のエピソードについても教えてください。 吉川: 成人したお子さんが2人いる、末期がんの60代男性の利用者さんを担当しました。娘さんが結婚するときに、末期がんだと発覚。輸血が必要な状況で、家に帰れる状況ではなかったのですが、どうしても娘さんの結婚式に出席したいとおっしゃって、車椅子で30分だけでも外出できないかと病院側で調整されていましたが、外出が認められなかった経緯があります。 このままではご本人もご家族も後悔する、という思いから、退院して在宅療養に切り替わりました。ただ、結婚式は体力的に心配だという奥様の意見で、家族みんなで記念写真を撮りに行く計画に変更されたんです。帰宅して3日後には症状が安定するだろうと見込んで撮影日の予約を取り、息子さんらがお父様をサポートして写真館に連れていくことになりました。 当日、私は朝訪問して熱を測って状態を確認し、「何かあれば電話をください」と送り出しました。心配していたのですが、こういうときに人間はエネルギーが湧くものですね。容態が悪化することなく、無事に帰ってきたという連絡をいただき、ほっとしたことを覚えています。ご本人も「いい時間を過ごせた。もう悔いはない」とおっしゃっていました。 中島: いいお話ですね。 吉川: はい。でもまだ続きがあって、ご本人が「どうしてもお風呂に入りたい」とおっしゃったんです。病院でも入れなかったから、家のお風呂に入りたいと。医師に確認の電話を入れ相談した結果、「最後はご家族の判断」ということになりました。 そこで、ご家族に「入浴することで血圧が下がりますので、万が一ということもありますがいいですか」とリスクも含めてお話ししました。「父はお風呂が大好きで、お風呂で死んでもいいと言っている人だから、ぜひ入れさせてほしい」とのご家族の希望でした。 松田: ご本人やご家族のご希望とはいえ、看護師としては怖いですね。 吉川: そうですね。男性看護師と息子さんでお父様を浴室にお連れして、ほかのご家族も手伝って車いすに乗せて、さらにシャワーチェアに移しました。その時点で血圧はだいぶ下がっていたと思います。ご本人が浴槽にも入りたいとおっしゃるので、看護師もみんな濡れながら湯を溜めた浴槽に入れました。長湯はできないので、再びシャワーチェアに運んで、ご家族みんなで素早く体を拭いて、寝巻を着せて車いすでベッドに戻しました。 浴槽に入ったとき、ご本人は「気持ちいいなぁ」とおっしゃり、上がったあともすごく穏やかな表情をされていました。そして、ベッドに移したとき「あぁ」という声を発せられたんですよね。みなさん「風邪ひいちゃう」と体を拭いたりドライヤーで髪を乾かしたりするのに必死だったのですが、ふと、「あれ?息してないかも」と気づきました。お亡くなりになったんです。 でも、誰一人、入浴させたことを後悔しておらず、みなさん笑顔で「お父さん、よかったね」とおっしゃっていました。ご本人がやりたいことを成し遂げ、それをご家族みんなで手伝えた。その人らしい最後の過ごし方をご家族に見届けられて、亡くなった後に誰一人泣かないという場面は初めて経験しました。入院していたらありえないことですよね。看護師としての醍醐味を感じられ、「在宅看護ってすごいな」と思う、本当に忘れられない経験です。 中島: みんなが良かったと思える最期は、病院にいるとなかなか経験できませんよね。本人がやりたいことをやり切って幸せに最期を迎えるという、まさに在宅看護の素晴らしい例だと思います。 松田: 私は訪問看護師として働いてまだ間もないですが、病院勤務だと、看護師も「自分が主語」になりがちになります。「自分が訴えられたら嫌だ」「自分のせいになるのは怖い」と。血圧50台の患者さんを、絶対にお風呂に入れないですよね。でも在宅看護では、患者さんが主語になる。ご本人の想いを最優先に考えて叶えられるのはいいなと思えた素敵なエピソードです。 利用者さんに心をケアしてもらうことも 廣田: 吉川さんは利用者さんの意向に沿って勝手に行動したのではなく、きちんとご家族に「これでいいですか」と丁寧に説明して確認し、同意を得る作業を踏んでいらっしゃいました。だから、素敵なエピソードになるわけです。そこが私たちの役割であり、きちんとご家族みんなの意見を一致させることが重要になると思いますね。 吉川: そうですね。別のケースですが、自分でお風呂まで歩ける血圧が低い70代の女性の利用者さんが、「入浴したい」とおっしゃったんです。するとご主人が「入って倒れたらどうするんだ!」と怒り、私は「ご本人もご主人の気持ちも分かる。どちらに賛同したらいいんだろう」と迷ってしまいました。すると奥様が「私は入ると言ったら入るのよ!あなたは私の幸せを奪うの?」とおっしゃってご主人は黙ってしまい…。 そこでご主人に、「介助してきてよろしいでしょうか」と伝えたら、うなずいていただけたという経験がありました。案の定、血圧が48まで下がってしまい、その後はいくら本人が入浴したいと言っても、やはりご家族からの反対を受けて叶いませんでした。正解はひとつではない、難しい仕事だと思います。 廣田: そうですね。難しくて大変な仕事ですが、私たちは患者さんや利用者さんから逆に励まされることもありますよね。 20年以上も前の病院時代の話になりますが、末期の患者さんたちと関わり始め、夜勤も多くとにかく疲れて気持ちが落ち込んでいた時期がありました。すると、担当する70代ぐらいの末期の悪性リンパ腫の女性に「大丈夫?」話しかけられたんです。「え?」と返したら、「いつもと比べて元気がない。人生はつらいこともあるけど、いいときが必ず来るから大丈夫だよ」と言ってくださったんです。そのあと、トイレに行って泣いてしまいました。当時は若かったので、「末期の患者さんを自分が励まし支える役目だ」と強く思っていたのですが、逆に自分が励まし支えてもらっていたと気付いたんです。そして、「それでいいんだな」という風に見方が変わりました。患者さんが私を助ける役割を担ってくださることもある。むしろ、自分の弱い姿を見せることで、距離が縮まることもあります。自分は素直でいていいんだな、と思えるようになりました。 吉川: 利用者さんに励まされる、というのはよくわかります。私が担当した95歳の女性はいつもニコニコし、肌もツヤツヤされていて、とても90代には見えない方でした。ほぼ寝たきりで、介助がないと車いすに乗れない状態ですが、「毎日が楽しいわ。お空を見ていると気持ちが明るくなる」「これがおいしかった。あなたは今日、何を食べた?」「リハビリがつらいかって?全然楽しいわよ。これをやったら、歩けるかもしれないんだもん」などと前向きな言葉しか返ってこない。 一緒に過ごした1時間、私はずっと笑顔でした。私が何か利用者さんにケアをしたというより、私が心のケアをされたというか、たくさんのプレゼントをもらって帰ってきた気持ちになりました。私も終末期の利用者さんから、たくさん助けられています。 ―訪問看護や緩和ケアの醍醐味が伝わるエピソードをたくさんご紹介いただき、ありがとうございました。 ※本記事は、2022年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 執筆:高島三幸取材:NsPace編集部

明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応
特集 会員限定
2023年3月22日
2023年3月22日

【セミナーレポート】前編:皮膚トラブルの原因と対処法-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-

2022年12月16日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「明日から生かせる!ストーマトラブルへの対応」を開催いたしました。講師は、急性期病院でストーマ管理を長きにわたって経験し、現在は訪問看護ステーションを開設している「皮膚・排泄ケア認定看護師」の原 慎吾さんです。 前編となる本記事では、ストーマ装具装着に伴うトラブルのアセスメントから原因別に求められる対応をご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師看護師として急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。その中で、トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、その課題を解決すべく独立。現在は「看護のスペシャリストを在宅へ」をコンセプトに掲げ、病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開。2021年には訪問看護ステーションも開設している。 目次 1. まずは丁寧にアセスメントを  ・ストーマ装具装着に伴う皮膚トラブルの主な原因 2. 医学的原因(皮膚保護剤によるアレルギー)への対処法  ・対処の順番は必ずステロイドが先 3. 化学的原因(排泄物の付着)への対処法  ・ただし装具の見直しよりも先に皮膚の状態改善を目指して 4. 排泄物の漏れ、潜り込みが起こる主な原因と対策  (1)装具と腹壁の不適合  (2)装着時の不適切な手技  (3)装着直後に体を動かす  (4)使用期間の目安を守っていない --> まずは丁寧にアセスメントを ストーマ装具装着により皮膚トラブルが起きたときは、まずアセスメント行い、原因をはっきりさせましょう。なぜなら、どんなに高価な薬、創傷被覆材を使っても、原因を除去できなければ改善は難しいからです。 例えば皮膚保護剤(面板)のアレルギーが原因の場合は、アレルゲンを取り除いてあげなければ、どれだけ薬を塗っても苦痛が続いてしまいますよね。さらに、訪問回数が増える・時間がかかるなど、利用者さんにとって精神面・身体面・コスト面での負担も大きくなってしまいます。 ストーマ装具装着に伴う皮膚トラブルの主な原因 では、皮膚トラブルの原因にはどのような可能性が考えられるでしょうか。 ひとつめは、「医学的原因」といわれる皮膚保護剤によるもの。いわゆる「面板」によるアレルギーや刺激です。そしてふたつめは「化学的原因」、つまり排泄物の付着。排泄物にはタンパク質を分解する酵素が含まれているため、触れると皮膚が溶けてしまうのです。このふたつが主な原因ですが、他にも細菌や真菌への感染、装具の脱着による刺激などが原因になることもあります。 今回は、医学的原因と化学的原因について、それぞれ対処法をご紹介していきます。 医学的原因(皮膚保護剤によるアレルギー)への対処法 結論としては、装具を変更するしかありません。今は装具の種類がとても豊富ですから、必ず代替品が見つかります。判断に迷ったときは、ディーラー、もしくはメーカーに問い合わせてみるとよいでしょう。 なお、医学的原因への対処で注意してほしいのが、使用するステロイドの種類です。アレルギーによる皮膚トラブルの治療ではステロイドが使われますが、軟膏タイプを塗ると面板が粘着しなくなってしまいます。面板をきちんと貼れない場合、漏れや便の潜り込みなどの新たな問題につながるため、主治医にはぜひローションタイプのステロイドの処方をお願いしてください。 対処の順番は必ずステロイドが先 ステロイドを使用しても皮膚の状態が改善しないときは、真菌感染を疑い、皮膚科を受診してもらいましょう。なお、対処の順番は必ずステロイド→抗真菌薬となります。先に真菌感染を疑って抗真菌薬を使ってしまうと、皮膚科で顕微鏡検査を受けた際、そこに真菌がいたのかどうかの鑑別が困難になります。 化学的原因(排泄物の付着)への対処法 皮膚トラブルがストーマから連続している場合は、排泄物の付着が原因であることがほとんどです。このケースで絶対にやってはいけないのが、同じタイプの装具を使い続けること。漏れが頻回に起こるということは、装具が合っていない可能性が高いからです。 化学的原因の場合は、排泄物の漏れや面板の下へ潜り込みの原因を探って、対処していきましょう。原因となっている箇所が限定的であれば、粘土のような用手成形皮膚保護剤を使って「しわ」や「くぼみ」を補正してもらうとよいと思います。一方、全体的に問題が見られるような場合は、平面装具から凸面装具への切り替えを検討することも必要になります。 ただし装具の見直しよりも先に皮膚の状態改善を目指して 先に装具の見直しの重要性についてお伝えしましたが、びらんが見られるようなケースでは、まず皮膚の状態改善を図るようにしてください。なぜなら、びらんがある状況では体内から滲出液が出てくるので、患部が大きければ大きいほど面板の粘着面積が少なくなり、装具の種類を変えてもうまく貼れないことが多いためです。 なお、状態改善を目指すにあたっては、ジメチルイソプロピルアズレン軟膏や亜鉛華軟膏などの薬剤は使わなくてもよいケースがほとんどです。医学的原因への対処法でも触れたように、軟膏を塗ってしまうと面板の粘着が弱まり、漏れや潜り込みが起こる原因になります。排泄物付着による皮膚トラブルの場合、安易に薬剤は使用せず、装具交換の頻度を上げて(連日交換や1日おきの交換)洗浄することを心がければ、皮膚は自然に治っていくので、必要に応じて医師と相談してみてください。 排泄物の漏れ、潜り込みが起こる主な原因と対策 では、排泄物の漏れや潜り込みは、どのような原因で起こるのでしょうか。主に以下の4つが考えられます。 装具と腹壁の不適合 排泄物の漏れや潜り込みが起こる原因のひとつが、装具と腹壁の不適合。お腹に「しわ」や「でっぱり」があることで、うまく面板が貼れていないという状態です。 年齢を重ねれば自然とお腹の形が変わるので、この現象は、これまでトラブルなくストーマを使えていた方にも起こりえます。私自身、「20年以上ストーマを使ってきたのに、最近になって頻回に漏れるようになった」と悩んでいる方にお会いしたことがあります。装具は、年齢に応じて適切なものを選択することが必要です。 装着時の不適切な手技 軟膏を塗った上から装具を貼った、洗浄後濡れたまま装具を貼ったなどというケースです。繰り返しになりますが、粘着が弱まらないように気をつけてください。 装着直後に体を動かす 面板には初期粘着力が弱いという特徴があります。装着してからしばらくすると汗や体温によって徐々に皮膚保護剤が溶け出し、皮膚の細かなしわに入り込んで密着するしくみになっています。そのため、装具を装着してすぐに体を動かしてしまうと、ぽろっと剥がれてしまうことも。面板を貼った後はしばらく手で押さえ、温めて肌になじませるようにすると、初期密着を促すことができます。 使用期間の目安を守っていない 「装具は値段が高いからもったいない」といった理由で、使用期限の目安を超えて使用しているケースもよく見られます。(詳しくは、後編「皮膚保護剤(面板)の組成」参照)中には「漏れるまで貼っている」という方も。利用者さんに状況を確認し、適切な使用へ導いてください。 >>後編はこちら装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

緩和ケア座談会
緩和ケア座談会
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア

高齢化が進行し続けていることもあり、在宅での緩和ケアを選ぶ終末期の患者数が増加しています。そうした現場で日々奮闘する訪問看護師は、利用者さんやご家族との関わり方を通じて、どのようなやりがいや難しさを感じているのでしょうか。ホスピスケアに注力する「楓の風」で働く4人の看護師のみなさんに、印象に残っている利用者さん・ご家族との思い出を語っていただく座談会を開きました。前編では、終末期のご家族のケアに関するお話をご紹介します。 松田 香織(まつだ かおり)さん 在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫/緩和ケア認定看護師外科や脳外科、一般病棟、救急外来などを経て、2021年に楓の風に入職。看護師歴約25年、内訪問看護歴1年中島 有里子(なかじま ゆりこ)さん 在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫 副所長内科や外科、透析センターなどを経て、2020年に楓の風に入職。看護師歴約21年、内訪問看護歴約3年廣田 芳和(ひろた よしかず)さん第2エリア長/在宅療養支援ステーション楓の風 やまと 所長/緩和ケア認定看護師小児科病棟、循環器・呼吸器・血液内科病棟などを経て、楓の風に入職。看護師歴約29年、内訪問看護歴約13年 吉川 敦子(よしかわ あつこ)さん 第1エリア長/スーパーバイザー 化学療法科や婦人科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科病棟などを経て、2008年に楓の風に入職。看護師歴約28年、内訪問看護歴約14年株式会社楓の風ホールディングス神奈川県を中心に、首都圏で通所介護、訪問看護、訪問診療、教育事業等を展開。「最期まで自分らしく、家で生きる社会の実現」に向けて、在宅療養支援を行う 右から、廣田さん、吉川さん、中島さん、松田さん 小1のお子さんにお母さんの余命を伝えるか ―ホスピスケアに力を入れている楓の風のみなさんは、多くの終末期の利用者さんやそのご家族と関わっていらっしゃると思います。まずは松田さんから、印象に残っている終末期の在宅看護について、教えてください。 松田: 私が印象に残っているのは、当時小学1年生だった息子さんがいらっしゃる40代の女性のケースです。病院で闘病されていたのですが、終末期はご自宅で過ごしたいというご本人の希望で家に戻って来られました。室内を自由には歩き回れず、ベッドかソファに座って過ごされていました。介護休暇を取得されたご主人が介護をされ、近所にお住まいのご主人のご両親がときどきお手伝いをされている、という状況でしたね。息子さんは当初、お母さんへの接し方が分からない様子で、距離をとっていることを感じました。 「息子さんにどれぐらいお話しされているのですか」とご主人に聞くと、病気のことのみで、予後については伝えていないとのこと。余命2~3週間と告知をされていたため、「子どもの多くは親の病気のことを知りたいと思っています。お手伝いしますので、検討してみませんか?」とお話ししました。その後、「子どもに伝えたい」とおっしゃってくださったので、絵本の活用をご提案しました。 ―どのような絵本を提案されたのですか? 松田: スーザン・バーレイの『わすれられないおくりもの』です。みんなから愛されている、物知りで困っている友だちを助ける優しさを持つアナグマのおじいさんが、ある日亡くなってしまいます。亡くなった後も、アナグマのおじいさんに教えてもらったことをみんなで思い出しながら生活していくという、死を悲しみだけで終わらせないお話です。 「この絵本を通して、お母さんの予後を伝えてみてはどうでしょう」とご提案したところ、お父さん(ご主人)が息子さんに絵本を読みながら伝えてくださり、意味を理解してくれたようでした。ただ、やはり息子さんは同じ空間にいてもお母さんに近寄れず、どう接すればいいか分からない様子だったんです。そこで、「水がほしいというときに持っていってあげると、お母さんはすごく喜ぶんだよ」と私からお話ししたり、お父さんから話していただいたりしました。その後、息子さんは私に「今日はお母さんにお水をあげたんだ」と報告に来てくれました。 お母さんに触っていいかどうかもわからないのだろうと思い、「手を握ったり、マッサージをしてあげたりしても大丈夫だよ」と話すと、息子さんはお母さんのほうへ少しずつ近づくようになり、夜は隣のベッドで一緒に寝るようになったそうです。「妻も息子もきっと嬉しかったと思う」と、お父さんから教えていただきました。 息子さんはお母さんの死まで涙を見せず ―こうしたシチュエーションで、子どもになかなか「親が亡くなること」を伝えられず悩む方は多いと思いますが、伝えることで子どもにどういったメリットがあるのでしょうか。 松田: そうですね、子どもは「幼いから」という理由で蚊帳の外にされがちですが、「自分が悪い子だから、お母さんが病気になった」と一人で抱え込んでしまうことがあります。伝えることで、そういった誤解や心の傷を防ぐことができます。今回のケースでも、「『息子さんのせいじゃない』ということを一番に伝えてください」と、お父さんにお願いしました。 息子さんはお母さんに積極的に関わるようになって、「お父さんの誕生日パーティーをお母さんと一緒にお祝いしたい」と企画して、ケーキを買いに行ってくれました。お父さんはよく泣いていらっしゃいましたが、息子さんはお母さんが亡くなるまで一切涙を見せずに、頑張っていましたね。 お母さんは、最後は苦しくなって「このまま楽になりたい」と言われて、点滴をやめてから2~3日後に亡くなられたのですが、「家族との時間を大事にできてよかった」とおっしゃってくださいました。 お亡くなりになった当日に私が訪問した際、息子さんは「お母さんが死んじゃったよ」と大泣きしながら伝えてくれました。息子さんの胸に手を当てながら「今までよく泣かずに我慢したね、頑張ったね。お母さんは、ずっとここ(息子さんの胸)にいてあなたを見ているから、何かあったら『お母さんだったら何て言うかな?』と考えるんだよ」と伝えました。お父さんも「そうだぞ、頑張ろうな」と伝えてくださって。 中島: 私も松田さんと一緒に訪問することがあったのですが、松田さんの丁寧な関わりによって、息子さんとお母さんとの距離が日に日に近づく様子が分かりました。最後はご家族みんなで悔いがないようにお母さんを看取ることができたんだなと、私も勉強になりました。 「死について」伝える絵本を年代別に用意 ―絵本を活用したご家族のケアについては、どのように学ばれたのでしょうか。 松田: お子さんとの関わり方の手法として、緩和ケア認定看護師の学校で学びました。死について学べる絵本は、探すと意外とあるんです。年代別に自分が伝えやすい絵本を2、3冊用意して活用しています。 吉川: その年代でしたら絵本という手法は有効ですね。年齢は異なりますが、昔、20歳の娘さんがいる終末期の女性を担当しました。ご本人の希望は、「どんなに自分の具合が悪くても娘には負担をかけたくない、自由にさせてあげたい」とのこと。お年ごろだった娘さんは夜遅くまで遊びに行って帰ってこない日もありました。 私は、もう少し娘さんにお母様の側にいてほしくて、「もう少し一緒に過ごしたほうが…」と利用者さんにご提案したのですが、「今のままでいい。人の家庭を土足で踏みにじらないでほしい」と言われました。利用者さんに嫌な思いをさせてしまい、別の看護師と交代したんです。最後まで関わることができず悔いが残っています。「亡くなる」という意味を上手にご家族に伝えられている松田さんの話を聞いて、今だったら、あのときのご家族に私はどんなふうに関われたのかなと考えさせられました。 松田: きっとそのお母様は娘さんの自由な姿を見られて幸せだったと思いますが、人によって解が違うことはわかっていても、看護師としては理想を言いたくなりますよね。それを押し殺すのは難しいことだと思うので、自分も吉川さんのように利用者さんの想いを尊重して引けたかどうか…。 中島: 20歳という年齢は、親とある程度の関係性ができているからこそ、介入が難しいかもしれませんね。 廣田: 私は今、末期がんのおばあさんを担当しています。離婚された息子さんと小学生のお孫さんがいて、そのお孫さんの面倒をみてきた女性です。でも自分が末期がんであることをお孫さんに言いたくないとのことで。1週間に1回だけ会いに行く息子さんの元妻に、自分の病気について知られたら、お孫さんが取られるかもしれないとおっしゃっています。松田さんならどうされますか? 松田: お孫さんに死について伝えるのではなく、まずは「おばあちゃんは病気だね、どんなふうに思っている?」とその子の気持ちを聞いてみるかもしれません。例えば、「だいぶおばあちゃんが弱ってきたから、もうすぐ死んじゃうのかな」と返ってくれば、「そんなふうに思っているんだね」と肯定するところで留めておくでしょうか。 廣田: なるほど。それが…私が訪問する時間帯はお孫さんが通学している時間で、お父さんはお仕事で不在なので、おばあさん以外と直接関わることができないんですよね。 松田: それは、難しいところですね。おばあさんのお気持ちもわかりますし…。 廣田: そうなんですよね。できれば、お孫さんのケアもしたいんですけれど。なかなかケースバイケースで、悩ましいものです。 ―みなさん、利用者さんの状況やお気持ちに合わせて常に悩みながらご対応されているのですね。 「察する文化」は外国人介護者に伝わらない ―中島さんは外国人のご家族をサポートされたと伺っていますが、詳しく教えていただけますでしょうか。 中島: 奥様が片言の日本語を話す40代の外国人で、日本人の80代のご主人が末期の大腸がんでした。近年、外国人のご家族と関わることは増えてきていますが、言葉や文化の壁を感じて悩むことが多いです。 利用者さんの状況について、入院先の医師は「栄養がとれて体力がついたら手術はできるが、体力がつかないと手術はできない」とご家族に話されていました。つまり、「病状的に栄養改善は困難なため体力は戻らない」ということ。離れて暮らしているご親族は理解されていたのですが、外国人の奥様は、言葉を鵜呑みにして「体力がついたら手術ができる」と考え、ご主人に無理やりごはんを食べさせようとされていたんです。 でもやはり体力は戻らず、感染症にかかってしまって、「病院にいては感染症がひどくなる」と、奥様は自宅療養を選ばれました。感染症は落ち着いて一命をとりとめましたが、いつ亡くなってもおかしくない状態ということが、奥様に伝わっていないのです。 ―日本人同士が自然に使っている遠まわしな言い方が、外国人の奥様に伝わらない、ということですね。中島さんは、どのように伝えたのでしょうか。 中島: 翻訳アプリを使って、「病院の先生はこういう意味で言ったんですよ」と伝えました。うまく翻訳できていたのかは分かりませんが、少しは理解してもらえたと思います。でも、訪問診療の医師からもきちんと伝えてもらおうと思ったのですが、やはり、「体力がなくて手術ができない」という説明を奥様にされたんですよね。しかたがないので、再び翻訳アプリを使って、あと数日で亡くなるということをストレートに伝えました。奥様は驚いて「そんなことはない!さっき先生は栄養をとれば助かるといった」と大泣きされてしまいました。 その後も、眠っているご主人を無理やり起こしてご飯を食べさせる日々が続きました。ご主人は「わかった、わかった」と言いながら一生懸命食べようとする。ご主人は手術ができないことを理解されていましたが、年の離れた奥様の気持ちも分かっていらっしゃったんですね。これも夫婦のひとつの愛の形なのかなと思い、見守っていました。 死を目の前にしたとき、訪問診療の先生からの「無理に食べさせても手術はできないんですよ」という言葉を私が隣で翻訳すると、やっと奥様は理解されたようでした。ご自身のおばあ様やお母様、夫婦2人の旅行写真をご主人に見せながら、思い出を語るような時間を過ごされ、最後はいい時間を過ごされたのではないかなと思います。 その後驚いたのは、亡くなられたとお電話をいただいて伺ったら、マンションのフロア中に響き渡る声で奥様が家の中を走り回り、泣き叫んでいらっしゃったご様子です。ショックや悲しみをそこまで全身で表現されるケースは、過去に目の当たりにしたことがなかったので、衝撃を受けました。一方で、亡くなった人と一緒の家で寝るのは怖いとおっしゃって。言語の壁、死についての受け止め方も含め、色々と学ばせていただきました。 文化の違いなのか、その方の個性なのか 松田: 私も一緒に関わらせていただきましたが、奥様は早口で、私は3分の1ほどしか理解できなかったんです。でも、中島さんは根気強く時間をかけて奥様と向き合っていました。「この時間に買い物に行きたいからデイサービスを調整してほしい」などと多くの主張や要望がある方でしたが、中島さんの適切なサポートのおかげで心強かったと思います。中島さんご指名のお電話がかかってきたり、下の名前で呼ばれていたり、そこまで信頼してもらえる関係性が構築できたのは、本当にすごいことだなと思っていました。 吉川: 奥様が利用者さんで、介護者のご主人が外国人というケースを私も担当したことがあります。日本語が通じず、英語で伝えてもうまく意思疎通が図れなくて、小学校のお子さんが伝言役になってくれたこともありました。でも、子どもには伝えられないこともある。コミュニケーションの限界を感じ、英語が話せるステーションの所長に通訳を頼みましたが、最後まで苦心しました。 廣田: 言葉の壁は大きいですが、文化の違いなのか、その人の個性なのか、一概に「外国人」でくくれないところもありますよね。デイサービスを調整して、という主張は、ちょっと行き過ぎではないかとも思う。それを文化の違いで終わらせてしまうのか、ご本人とコミュニケーションを取って意思疎通を図っていくのかの判断基準も課題だと思います。 中島: そうですね。ご主人が亡くなった後は、保険や役所関連の手続きがあったので、こうしたことをサポートしてくれる団体に引き継ぎました。その時にこの奥様の特徴やキャラクターなども一緒にお伝えしました。 吉川: ご主人と奥様の会話は日本語だったんですか? 中島: そうなんです。そこもまた面白いところで、ご主人が話される日本語は、奥様にしっかり通じているんです。いろいろ印象深い出来事がありましたが、コミュニケーションの在り方について勉強になりました。 ―ありがとうございました。後編では、廣田さん、吉川さんのお話を中心に伺います。 後編はこちら>>【緩和ケア座談会 後編】自殺願望への対応/最後の「大好きなお風呂」 ※本記事は、2022年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 執筆:高島三幸取材:NsPace編集部

在宅で行う認知症看護
在宅で行う認知症看護
特集 会員限定
2023年3月14日
2023年3月14日

【セミナーレポート】ご家族とのかかわり方 -在宅で行う認知症看護-

2022年11月24日に行われたNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、認知症看護認定看護師である福岡 裕行さんを講師に迎え、「在宅で行う認知症看護」を開催いたしました。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。後編では、介護にあたるご家族が抱える悩みやニーズ、それを受けて訪問看護師ができることについてまとめました。さらに、最後に行われたQ&Aセッションの様子も一部ご紹介しています。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】福岡 裕行さんオールハッピー訪問看護ステーション 管理者/認知症看護認定看護師認知症治療病棟に勤務する傍ら、兵庫県看護協会認知症看護認定看護師教育課程で学び、2012年 認知症看護認定看護師資格を取得。その後も臨床経験を積みつつ、認知症サポーター養成講座などの講師も務め、2015年には認知症ケア上級専門士資格を取得する。2018年7月にはオールハッピー訪問看護ステーションを設立し、現在まで地域の医療を最前線で支え続けている。 目次 1. ご家族はわからないことだらけで不安なもの 2. 専門職のホットメッセージがご家族を支える 3. ご家族が望む訪問看護師のあり方 (1)ご家族が相談しやすい関係づくり (2)ご家族の知恵と専門職の知識を合わせる 4. Q&A セッション Q1 妄想についての相談を受ける際のコツや注意点は? Q2 訪問看護に抵抗がある利用者さんへの対応方法は? Q3 介護にあたるご家族に認知症について理解してもらう方法は? --> ご家族はわからないことだらけで不安なもの 「認知症患者を支えることは、その家族の心を癒すこと。家族を支えることは、認知症患者の心を癒すこと」。これは、とあるご家族の方がおっしゃった言葉であり、私が訪問看護にあたる上でとても大切にしているメッセージです。 また、同じ方から「認知症患者を支える家族側の思い」についても具体的にうかがいました。 ・相談する場所がない・介護を手伝ってくれる人がいない・症状への対処方法がわからない・ほかの家族や親族が認知症について十分に理解していない・自分の時間がもてない・家族への心身のケアがない・病状が今後どのように経過していくかわからない・体力的にこの先どこまで介護できるかわからない・介護保険制度のことがわからない このように、「とにかくわからないことだらけなんだ」と話してくれました。 私たちは、こうしたご家族の思いを常に念頭に置いて介入する必要があるでしょう。自宅の近くにご家族が相談できる場所はないか、介護を手伝ってくれる人はいないか、どうやって社会資源を活用していくかを考え続けなければならないと思っています。 専門職のホットメッセージがご家族を支える さらにその方は、「介護に取り組む家族はホットメッセージがほしい。介護負担は変わらなくても、声をかけてもらえるだけで頑張れる」ともおっしゃっています。ホットメッセージとは、ご家族にとって「プレゼント」となるような言葉のことです。癒やしや安心感を得られたり、元気が出たり、理解や承認されていると感じられたりする言葉ですね。専門職には、ご家族に対する労いの一声や、「私たちはあなたのことを応援している、精一杯支えていく」ということが伝わる一声を積極的にかけていくことが求められています。 ご家族が望む訪問看護師のあり方 最後に同じ方から、私たち専門職に向けた要望を教えていただきました。訪問看護師には、まず以下の2つのことを意識してほしいというものです。 ご家族が相談しやすい関係づくり 忙しい合間を縫い、少しの時間でもご家族に向き合い、話を聞きましょう。困りごとがあり、専門職からのアドバイスがほしいと思っているものの、口に出せずに悩んでいるご家族は少なくありません。認知症サポーター養成講座を受講するともらえるオレンジリング(自治体によっては認知症サポーターカード)をもつこともおすすめです。時間をかけて話すことが難しくても、応援するスタンスが伝わりやすくなります。 また、「もし自分だったら」と一人称で考える姿勢も重要です。ご家族の辛さや苦労に寄り添うことを心がけてください。 ご家族の知恵と専門職の知識を合わせる 私たち専門職には、病気や介護についての知識があります。一方でご家族には、「こうしたらごはんを食べてくれる、薬を飲んでくれる、機嫌がよくなる」などといった利用者さんの生活についての知恵があります。よりよいケアのためには、この専門職の知識とご家族の知恵を合わせることが大切。ご家族をケア連携の輪の一員として捉え、密にコミュニケーションをとり、一緒にケアを行っていきましょう。 Q&Aセッション ここからは、利用者さんやそのご家族と接する際、看護師が抱えてしまいがちな悩みに回答していきます。 妄想についての相談を受ける際のコツや注意点は? 【質問】利用者さんから認知症による妄想について相談を受けた際、理解や共感を示すとどうしても相談が長時間になり、次の訪問に影響してしまうこともあります。うまく話を聞くコツはありますか? 【回答】利用者さんご本人は妄想を「事実」として理解しているため、頭から否定するのは避けたほうがいいでしょう。ただし、妄想の内容を肯定したり、共感したりすると、妄想がどんどん広がっていってしまいます。そのため、妄想についての相談を受けるときは肯定も否定もしないことがポイントです。 また、時間が足りなくなる場合は、事前に滞在時間を伝えておくといいでしょう。次の予定に差し障りが出そうなときは「なかなか話は終わりませんが、時間になりましたので、また次回に聞かせてもらえませんか?」と了解を得て離れます。 訪問看護に抵抗がある利用者さんへの対応方法は? 【質問】認知症の利用者さんが訪問看護に対して拒否反応を示す場合はどのように対応したらいいでしょうか? 【回答】私が看護を拒否する利用者さんを担当する場合は、バイタルすら測らないこともあります。まずはご家族とコミュニケーションをとりながら、タイミングを見計らって利用者さんにも声をかけるんです。例えば、利用者さんの息子さんの血圧を測らせてもらい、「ついでに、◯◯さん(利用者さん)もどうですか?」といって計測することも。利用者さんが不快に感じないように注意をはらいながら少しずつ距離を縮めていき、敵ではないことを理解してもらい、「この人なら来てもいいかな」と思ってもらうことを目指します。そうやって徐々に拒否反応がなくなったケースは多々ありますね。 介護にあたるご家族に認知症について理解してもらう方法は? 【質問】夫が認知症の妻を介護しているとあるケースでは、夫が妻への接し方をなかなか変えられず、命令口調になったり、怒ったりしてしまっています。夫に病気への理解を促すよい方法はないでしょうか? 【回答】まずは家族会や勉強会に参加してもらってはいかがでしょうか。とくに家族会では、同じ境遇にある参加者同士で日々の介護について詳しく話すため、腑に落ちるようです。また、家族会の内容を私たち専門職が伝えるというやり方もあります。「介護当事者も専門職も同じ意見なのか」と、理解が深まることがありますよ。 それでもうまくいかない場合は、やはり時間をかけてじっくり話すのがいいと思います。利用者さんの看護にあたる前に、ご家族と毎回10分ほど相談する機会をつくるのもいいでしょう。症状の原因や、適切な接し方とその理由など、丁寧に説明してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

脳卒中再発予防策 セミナーQ&A
脳卒中再発予防策 セミナーQ&A
特集 会員限定
2023年3月14日
2023年3月14日

先行公開!訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策 セミナーQ&A

2023年1月19日(木)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー 「訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策」を開催いたしました。座長に近畿大学医学部の内山 卓也氏、講師に近畿大学病院看護部の林 真由美氏を迎え、脳卒中について解説いただきました。 本記事では、セミナー時に受講者の皆さまからいただいたご質問への回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーにご参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【座長】内山 卓也 氏近畿大学医学部 脳神経外科 講師 【講師】林 真由美氏近畿大学病院 看護部 SCU主任脳卒中リハビリテーション看護認定看護師脳卒中療養相談士 脳卒中予防の知識編 <Q1> 抗血小板薬と抗凝固薬は何が違うのでしょうか? 違いは以下のとおりです。 抗血小板剤:血小板の凝集を防ぐことにより、血栓形成を抑制。主にアテローム性脳梗塞やラクナ梗塞の予防に使用。 抗凝固薬:赤血球の凝集を防ぐことにより、血栓形成を抑制。主に心房細動による血栓を防ぎ、心原性脳梗塞の予防に使用。 <Q2> 脳梗塞・脳出血において、家族性の遺伝因子はどのくらいの割合でしょうか? 家族性遺伝因子よりも、後天的な生活や環境の因子が強いものでしょうか? 家族性の遺伝因子はほとんどありません。生活習慣をはじめとした後天性の因子のほうが圧倒的に多いです。 <Q3> 減塩に役立つチェックシートがあるとのことでしたが、実際にどんなものなのか見せていただきたいです。在宅で利用できれば、利用者さんが自己管理しやすいと思いました。 「塩分チェックシート」というものがあります。インターネットで検索してみてください。 参考:社会医療法人 製鉄記念八幡病院「塩分チェックシートのご紹介」 https://www.ns.yawata-mhp.or.jp/salt_check/ 2023/3/8閲覧 <Q4> ボツリヌス療法の治療料金の目安を教えてください。 ボツリヌス療法に要する費用は、使用薬剤の種類・使用量によって異なります。身体障害者手帳をお持ちであれば、自治体により医療費の補助が得られる場合があります。身体障害者手帳をお持ちでなくても、高額療養費制度が適用になる場合もあります。そのため、自己負担額は数千円〜数万円になるケースが多いと思いますが、詳細は医療機関にお問い合わせください。 <Q5> 脳卒中相談窓口は、「一次脳卒中センターコア施設」に設置されているとのことですが、どこにありますか? 訪問看護でも、可能なら活用したいです。 日本脳卒中学会のHPに一次脳卒中センター(PSC)コア一覧が載っています。2023年度からは、もう少し施設数が拡大する予定です。 参考: 日本脳卒中学会 「一次脳卒中センター(PSC)コア認定について」https://www.jsts.gr.jp/facility/psccore/index.html2023/3/8閲覧 利用者さんとの関わり編 <Q6> 高次脳機能障害を抱えている利用者さんに対して、小学生のドリルを提案することは適切なのでしょうか。かえって精神的にダメージを与えているのではないか、と思うことがあります。高次脳機能障害を抱える患者さんとの関わりについて、工夫していることがあれば教えてください。 高次脳機能障害は「注意障害」「記憶障害」「計算ができない」「道具の認識ができない」「多重作業の遂行が困難」などなど、人により症状が異なります。日常生活内でどのようなことに困っているのかによって、ひとつずつ対応していくのがよいでしょう。 <Q7> 内服薬を破棄してしまう患者さんがいます。外来と連携して主治医確認のもとで経過を見ていますが、上司は本人の選択であればしかたない、とのこと。内服についてよいアプローチ方法があれば教えてください。 ・内服薬をできるだけ減らす・形状(大きさ、粉)・味などによる飲みにくさを解消するなど、患者さんが内服薬を破棄する理由・価値観に応じた対応が必要だと思います。 <Q8> 1日のなかでも朝、昼、夕で血圧値の差が激しい利用者さんに対して、訪問看護師から何かアドバイス、声かけができることはあるでしょうか。 日常生活内では排便時の努責、寒暖差、一気に力を加えるような運動、ストレスなどによって血圧が変動しやすくなるので注意が必要です。変動の幅にもよりますが、内服の量・用法などを変更する手もありますので、降圧薬について医師に相談するのもよいかもしれません。 <Q9> 脳出血で入院していた利用者さんに、血圧測定値を血圧手帳に記載してもらっています。起床時の血圧が収縮期血圧150~160mmhg(日中は130~140mmhgのことが多い)と高く、医師に相談していますが、内服の調整はなされず経過観察。利用者さん自身も心配しており、内服の調整が必要ではないかと考えます。医師に意見を言いづらく、どのように伝えたらよいか悩んでいます。 医師に相談する際、血圧値について「どれくらいを目標としたらよいのか」「どれくらいまでなら許容範囲内なのか」を確認すると、利用者さんの不安が軽減すると思います。また、血圧が高いときに頭痛をはじめとした自覚症状があるのであれば、そちらも伝えるとよいでしょう。内服調整の目安になります。 ** 明日からの訪問看護に生かせるヒントは見つかったでしょうか。後日、オンラインセミナー 「訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策」の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開いたします。ぜひそちらもご覧ください。 >>脳卒中再発予防策セミナーレポートのシリーズ一覧はこちら 編集:NsPace編集部

在宅で行う認知症看護
在宅で行う認知症看護
特集 会員限定
2023年3月7日
2023年3月7日

【セミナーレポート】看護師が意識したい7つのポイント -在宅で行う認知症看護-

2022年11月24日に行われたNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、認知症看護認定看護師である福岡 裕行さんを講師に迎え、「在宅で行う認知症看護」を開催いたしました。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。前編では、認知症訪問看護において福岡さんが大切にしている7つのポイントや、利用者さんの自信を育てるテクニックについて教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】福岡 裕行さんオールハッピー訪問看護ステーション 管理者/認知症看護認定看護師認知症治療病棟に勤務する傍ら、兵庫県看護協会認知症看護認定看護師教育課程で学び、2012年 認知症看護認定看護師資格を取得。その後も臨床経験を積みつつ、認知症サポーター養成講座などの講師も務め、2015年には認知症ケア上級専門士資格を取得する。2018年7月にはオールハッピー訪問看護ステーションを設立し、現在まで地域の医療を最前線で支え続けている。 目次 1. 認知症看護で意識したい7つのポイント (1)まず聞いてみる姿勢 (2)「1訪問1笑い」にチャレンジ (3)「あんたがいうなら」を目指す (4)「死ぬまで元気でいてほしい」という想い (5)「老いては子に従え」は考えもの (6)雑談の中で情報収集 (7)「ベスト」より「ベター」を目標にする 2. 失敗の回避と成功の蓄積で利用者さんの自信を育てる --> 認知症看護で意識したい7つのポイント 私が訪問看護の現場で認知症の利用者さんとかかわる際は、以下の7つのポイントを意識しています。 まず聞いてみる姿勢 「認知症だからこんなこと聞いてもわからないだろう」と決めつけず、利用者さんご本人に積極的に質問するようにしています。記憶の障害が認められるときは、例えば「昨日はどう過ごしていたんですか?」といった過去についての質問は避け、現在の考えや気持ちに焦点を当てた問いを投げかけてみるといいでしょう。 「1訪問1笑い」にチャレンジ 訪問する際、必ず1回は利用者さんに笑っていただくこと、つまり「いい感情の記憶」を残すことを目指しています。訪問看護で行ったことが嫌な記憶として残ってしまうと、ご家族が同じように介護することが難しくなってしまう可能性があるためです。逆に、いい記憶を残せればご家族の介護がスムーズになることもあります。 また、レビー小体型認知症の場合、ストレスがかかると症状が悪化するといわれる一方で、人と笑い合うことは安心感や自信を生み、症状の改善が期待できるとされています。ぜひみなさんも、利用者さんとご家族のために「1訪問1笑い」にチャレンジしてみてください。 「あんたがいうなら」を目指す 「あんたがいうなら、デイサービスに行ってみよう」「あんたがいうなら、お風呂に入ってみよう」などと利用者さんにいってもらえるような信頼関係を築くことを常に目指しています。 「死ぬまで元気でいてほしい」という想い ある利用者さんは、以前「私はもう死にたいんだから、来なくていい」と訪問看護を拒否されていました。そこで私は「◯◯さん(利用者さん)に死ぬまで元気でいてほしいし、亡くなる前日まで笑っていられる生き方をしてほしいから、訪問看護に来ています」と伝えたんです。すると、その日からスムーズに訪問看護に入らせてもらえるようになりました。今でもその方を担当していますが、「最期まで笑っていたいね」といってくれるようになりましたよ。 「老いては子に従え」は考えもの 「老いては子に従え」という考え方は、利用者さんの自己決定の妨げになる場合があります。「子どもがいうから◯◯している」とおっしゃる方に対しては、私たちがまずご本人の意見を丁寧に聞き、自己決定支援に取り組むことが大切だと考えています。 雑談の中で情報収集 長谷川式認知症スケールのような認知機能の検査ではなく、雑談の中で情報を収集することも意識しています。 病院の心理士に聞いたところによると、検査のために簡単な計算問題を出すと、「なぜこんなことを聞くんだ、人をバカにしているのか」と怒り出す方もいらっしゃるそうです。訪問看護において利用者さんの怒りを買ってしまうと、以降の介入に支障をきたすリスクがあるので、何気ない雑談から情報を得るように努めることはとても重要です。 「ベスト」より「ベター」を目標にする ベストではなくベターを目標にするという考え方も大切です。例えば、薬を飲めない利用者さんの訪問看護を担当したとします。看護師が介入したからといって、決められた服薬量を毎日欠かさず飲むことはなかなか難しいでしょう。しかし、まったく薬を飲めなかった状態から7〜8割でも飲めるようになれば、私はそれでもいいのかなと思います。 服薬ルールをどこまで遵守する必要性があるかについてはもちろん主治医との相談が必要ですし、状況の改善に向けて工夫することは大切ですが、ベストを強く求めすぎると利用者さんに大きなストレスを与えかねません。前述のとおり、嫌な記憶が積み重なることはご家族の介護負担の増加や症状悪化のリスクになりますので、柔軟な対応を心がけてください。 失敗の回避と成功の蓄積で利用者さんの自信を育てる 失敗体験を回避する、および成功体験を蓄積することは、認知症の利用者さんの訪問看護において非常に重要です。失敗してしまい、それを周囲に指摘されると、利用者さんはどんどん自信や意欲を失ってしまいます。 ・失敗しにくい状況をつくること・失敗しても「黒子」になって見えないところでフォローすること・ときには見て見ぬふりをして自信の喪失を防ぐことを心がけるといいでしょう。 その逆に、成功体験を増やすことで自信を育てることができます。例えば、認知機能の低下が見られる以前の「利用者さんが光っていた時代」を承認することも効果的です。このやり方は回想法といい、「昔はどんなお仕事をしていたんですか?」「〇〇(その方の経験が活きるような内容)について私にアドバイスをください」などと声をかけ、その回答に対して「すごいですね」「教えてくれてありがとうございます」と承認していきます。これを繰り返すことで、利用者さんは自身の存在価値を改めて認識することができ、どんどん自信がついてくるはずです。認知症を患うと、生活障害によってどうしても成功体験が減ってしまうもの。ぜひみなさんが意識的にその機会をつくるようにしてください。 >>後編はこちら【セミナーレポート】ご家族とのかかわり方 -在宅で行う認知症看護- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

訪問看護のヒヤリハット
訪問看護のヒヤリハット
特集
2023年2月21日
2023年2月21日

ケア・忘れ物・移動トラブル…訪問看護のヒヤリハット体験談23連発

限られた時間のなかで、利用者さんの病態や自宅の環境等に応じて臨機応変に対応する訪問看護師。病棟看護師ではなかなか経験しないヒヤリハット&インシデントも数多くあるはず。今回は、訪問看護師さんたちから寄せられた体験談をご紹介します。 ※訪問看護ステーションによっては、「アクシデント」に分類される体験談も含まれる可能性があります。あらかじめご了承ください。 【ケア編】 自動点滴停止、指示見落とし… まずはケア編から。在宅看護ならではの医療機器・コミュニケーションにまつわる体験談も寄せられています。 「利用者さん宅の交換ノートに書かれていた医師の褥瘡への軟膏変更指示を見落としてしまったスタッフがいた。それまでめったに指示変更がなかったことと、訪問時に見学者がいて気を取られてしまったことが影響したようだ」(40代) 「在宅用の自動点滴ポンプを使用していたところ、電源プラグが抜け気味になっており、充電がゼロになってしまった。あわてて電池を入れたが、作動せず。充電がゼロになると電池を入れてもすぐには動かず、手動に切り替えたため、ある程度充電されるまで滞在せざるを得なかった」(50代) 「電池・バッテリーが使える在宅用の自動点滴ポンプについて、災害時用に充電式電池を2~3日に1回交換するようにしていたが、あるとき業者から『毎日交換しないと放電する可能性がある』と聞いた。それ以降、ご家族の協力も得ながら毎日交換するようにしている。災害が起きる前に知れてよかった」(30代) 「爪がとっても切りにくい利用者さんで、爪切りのときに皮も切ってしまい、出血してしまった。出血は少量で、ご本人には『大丈夫』といってもらえたが、ヒヤッとした」(50代) 「薬の処方がかなり複雑な利用者さんの訪問が始まり、まだ薬の色分け・記載分けなどの工夫をしていないときのこと。一緒に同行した看護師が薬のセットを間違えてしまった。複数人で訪問していたためその場で気づくことができたが、危なかった」(30代) 【忘れ物編】 バッグ・バイタルセット忘れ… 訪問看護師は毎回移動するため、忘れ物をしてしまうと取りに戻るのが大変…。時間に追われるなかで、うっかり大事なものを置いてきてしまう経験をした人も多いようです。 「バイタルセットを忘れてしまうケースはよく耳にする。次の訪問先でバイタル測定物品を借りられるケースでない限り、急いで取りに戻るしかない…」(40代) 「緊急コールで深夜に独居の認知症の方に訪問したところ、ご本人から不審者扱いをされてしまった。なんとか理解してもらおうと必死に説明しながら慌てて看護や薬のセットなどの対応を行い、訪問を終了。しかし、訪問バッグをまるごと忘れてしまった…。取りに戻るしかなく、再び利用者さんからは不審者扱いをされた」(30代) 「非常に点滴の針が入りづらい利用者さんで、針を2~3本使用した。時間が押しており、一度棚の上にその針を置いて片付けていたところ、次の訪問歯科の方々が来てしまい、針を置いてきてしまった。ご自身で移動ができない利用者さんのため実害はなかったが、ご家族は『針を何本もさした上に忘れるなんて』と不信感を抱かせてしまった…」(50代) 「ものの置き忘れはステーション内で何度か事例がある。はさみをベッドのなかに置いてきてしまって、報告になったこともあった」(50代)  「清拭の際は給湯器の温度をマックスの60℃まで上げることがあるが、元の温度に戻し忘れてしまい、ホームヘルパーさんに下げてもらうように頼んだことがある」(50代)  「電子カルテを閲覧できるタブレットを忘れてきてしまった。たまたま目が見えない利用者さんだったため情報流出はしなかったが、『いつもはないものがある』とご本人からお電話をいただいてしまった」(30代) 【スケジュール管理編】 訪問のすっぽかし… 訪問の予定が変更になったケースで、気を付けてはいても訪問漏れを経験してしまった方々もいました。 「訪問をすっぽかしてしまい、青くなって利用者さん宅に駆け付けたことがある。お風呂やマッサージなどがメインの方で、利用者さんも『忙しいと思ったから連絡しなかった』と怒っていなかったが、いつも訪問を心待ちにしてくれているので心が痛んだ。予定変更があったのだが、そのことを失念してしまったことが原因。最新の予定表はステーションにしかなく、出先では確認できなかった」(50代) 「翌月から曜日変更がある利用者さんの予定を、自分(管理者)がシステムに入力し間違えてしまい、訪問漏れを起こしてしまった。それ以来、管理者以外の実担当者にも直近1週間の予定をダブルチェックしてもらうようにしている」(40代) 【訪問・移動編】 電動自転車を路駐の車に… 訪問看護師ならではの「移動」に関する体験談。違反切符をきられたケースや、怖い経験をした人もいました。 「利用者さん宅の前に路上駐車していた車に、うっかり訪問用の電動自転車を倒してぶつけてしまったスタッフがいた。そのスタッフは当初自分でなんとかしようと思ったようだが、激怒した車の持ち主からガンガン電話がかかってきて、先輩や所長に相談。所長が間に入り、和解できた」(40代) 「車で移動する際、基本的には利用者さんに駐車料金を払ってもらうが、『自宅の前で大丈夫』『一度も駐禁とられていないから』と言われ、そのとおりにしたところ駐禁をとられてしまったスタッフがいた。ステーションからは『駐禁は払わないからね』と前もって言われていたため、自己負担…」(50代) 「初めての利用者さん宅に車で行ったスタッフが、ナビに従って運転していたら、『住民以外進入禁止』の看板を見落とし、警察に違反切符を切られてしまった。看板もあまり目立たないものだったようで、誰がやっていても防ぎづらかった事例と考え、看護師が支払った罰金相当額をステーションが負担した」(40代) 「いつもカギをあけてくれるご家族が不在で、利用者さんご本人は動けないため、家に入れなかったことがある。窓越しに利用者さんと会話ができ、ご本人から『窓から入って』と言われた。木によじ登って入ろうとしたが、近隣の方から不審者扱いをされそうになり、結局訪問はできなかった」(30代) 【経理・事務関連編】 指示書が期限切れ… 訪問看護師が理解しておけなければならない手続き・制度の知識はたくさん…。煩雑で、抜け漏れが生じるケースも多いようです。 「訪問看護の指示書が2ヵ月切れていたにも関わらず、訪問していた。指示書発行依頼や管理は事務の方にお願いしているが、期限の把握が不十分だった」(40代) 「新規事業所で、本部から指定許可がおりていると言われてサービスを開始したが、実際は許可が下りておらず、結局10万円分ほどの訪問看護費用をいただけないことになってしまった」(50代) 「気管カニューレを使用している利用者さんだったので、特別管理加算がとれたのだが、チェック項目に入れておらず、加算されていなかった。管理者も現場の看護師に伝えきれておらず、現場の看護師もそうした意識が薄くなりがち」(50代) 「ファクスの送り間違えがあり、お叱りの電話を受けたことがある。以降、できるだけファクス機に番号を登録するようにしている」(50代) 「初回の訪問を終えていたが、すぐに入院されてしまい、契約書に書かれていたご家族は連絡がとれなかった。どこに入院されているのか、いつ戻ってこられるかもわからず、口座は残金不足。訪問費用を請求できない状態が続き、半年ほど経過したが、結局回収できなかった」(30代) 「訪問看護師になりたてのころのこと。振込依頼書の書き方をあまり理解していなかったので利用者さんの記入ミスに気付かず受領。後日書き直していただくことになってしまった」(30代) 「わかる!」という声が聞こえてきそうな体験談から、「そんなことがあったの…?」と驚く体験談まで、多種多様なエピソードが寄せられました。さまざまな事例を知ることで、重大な事故を防げるケースも多くあります。報告までには至らない内容でも、ぜひ積極的に訪問看護ステーション内で共有してみてください。ヒヤリハット・インシデントを防ぐヒントが見つかるかもしれません。 編集・執筆: NsPace編集部

これって冬季うつかも? 精神科医が注意を促す季節性感情障害の特徴と対策【医師執筆】
これって冬季うつかも? 精神科医が注意を促す季節性感情障害の特徴と対策【医師執筆】
特集
2023年1月24日
2023年1月24日

これって冬季うつかも? 精神科医が注意を促す季節性感情障害の特徴と対策【医師執筆】

冬になると、こんなことありませんか?・体が怠くて重い・どれだけ寝ても日中に強い眠気に襲われる・普段よりも甘いものや炭水化物の欲求が高まる もしかしたら、その症状は冬季うつかもしれません。 冬季うつとは? 別名、季節性うつ病、または季節性感情障害とも呼ばれています。呼び方はさまざまですが、基本は同じ疾患です。今回は「冬季うつ」という呼び方で統一します。 冬季うつの特徴 冬季うつの具体的な症状とは?うつ病との違いは? 著しい体重減少や不眠症状を呈することが多い典型的なうつ病に対し、冬季うつは睡眠過多と食欲亢進を特徴とします。また、うつ病では抑うつ気分や興味や喜びの消失などの気分変化を訴える患者さんが多く見受けられますが、冬季うつでは意欲低下や倦怠感などを主の症状として訴える方が多いです。 罹りやすい人とは?発症する時期は? 好発年齢は20代前半の女性に多く、日照時間が短縮する秋から冬に症状が出現し、翌夏には症状がまったく認められない寛解(かんかい)状態となることを繰り返します。 もし症状に当てはまったら? 「冬場は眠くてなかなか起きることができず、眠気が取れない」「秋から冬は特にお腹がすいて食べてしまう」これらの自覚症状があってもすべての方が冬季うつとは限りません。不眠と過眠を繰り返すうつ病の方、双極性感情障害、そして、季節に関係のある心理社会的ストレス(例:毎年冬になると仕事が多忙になる)に影響された一過的な症状の可能性もあります。もし周囲の利用者さんや訪問看護師の中に、睡眠過多や食欲亢進症状でお悩みの方がいれば、安易に予想される診断名を伝えるのではなく速やかに精神科への受診を促してください。日常生活や社会生活に支障が出ているのであればなおさらです。 冬季うつの原因とは? 原因の一つに、日照時間が精神症状に影響すると考えられています。なぜ日照時間が睡眠過多や食欲亢進などの症状を引き起こすのでしょうか。日照時間が精神症状に影響する理由は2つあります。 (1)セロトニンの不足 1つ目がセロトニンです。セロトニンとは、ノルアドレナリンやドーパミンと並んで三大神経伝達物質の一つです。睡眠、食欲、気分の調整を担う重要なホルモンで、日光をはじめとした強い光がセロトニン神経を刺激することで分泌が活性化されます。冬季うつの方は日照時間が短くなる冬場に脳内のセロトニンの分泌量が少なくなり、症状が引き起こされると考えられています。 ここからは豆知識ですが、セロトニンは代謝されメラトニンに変化していきます。メラトニンは睡眠を司るホルモンです。セロトニンが不足すると、生成されるメラトニンも減少するためスムーズな入眠が困難となるリスクが高まります。過眠だけではなく睡眠リズム障害を呈するのは、メラトニンの調節障害によるものです。 (2)ビタミンDの不足 2つ目がビタミンDです。皮膚に直接日光が当たると、ビタミンDが生成されます。 ビタミンDはセロトニンやドーパミン生成には不可欠な物質です。少し乱暴にまとめれば日照時間が少なくなると、体内のビタミンDレベルが下がり、その影響で脳内セロトニン量が少なくなるものと心得てください。 ビタミンDが精神症状に影響するということは少し意外に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。実際うつ病患者さんと体内のビタミンDレベルには関係があるとする論文もあります。 3つの対策方法 では、冬季うつの対策にはどのような方法があるのでしょう? 3つの対策をご紹介したいと思います。 (1)日光浴 一番手軽な対策方法は日光浴です。太陽光の重要性はここまでの説明でご理解いただけたでしょう。しかし、紫外線を浴びることによる肌への影響(光老化作用)を無視することはできません。悩ましいところですが、私は患者さんに1日に最低15分は太陽光を浴びましょうとお伝えしています。可能であれば午前中がさらに望ましいです。 太陽光を浴びると言っても天候に左右されてしまう可能性もあるため、最近では太陽光と同じように光を照射するデバイスも簡単にネットで購入することも可能です。 (2)運動 2つ目は運動です。運動によってセロトニンを増やす効果が確認されています。ただし運動強度に注意して行いましょう。ヘトヘトになるまでの運動量はおすすめしません。「あーよく動いたなー」と自覚するレベルを意識しましょう。運動の種類は基本問いません。 (3)炭水化物は質の高いものを摂取 3つ目は質の高い炭水化物を摂ることです。炭水化物はセロトニンの原料です。冬季うつの症状の一つである食欲亢進作用は、不足したセロトニンを補うために炭水化物を積極的に摂取しようとする代償行為とも考えられます。そこで注意しなければならないのは、炭水化物の質です。 一言に炭水化物といっても、カップラーメンや精製小麦を使用したパンなどの加工食品は健康面を考慮しても避けたいところです。おすすめは、芋類や豆類、玄米などです。 対策する上で精神科医からのアドバイス もしかしたら、この記事を読んでいる方の中には、「対策方法は知っているけど、どうにも行動に移せない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。 では、こんなマインドセットはいかがでしょうか。眠くなるのは身体の反応だと捉えて、睡眠時間を1時間程度はプラスで見積もるという考え方です。1時間を捻出する難しさは重々承知していますが、困難は分割してしまいましょう! 例えば、日々の生活の中で午前中30分、午後30分なら捻出できそうな気がしませんか?もちろん、15分を4回でも結構です。何気なく見てしまうSNSチェック、暇つぶしで見てしまう動画配信サービスなどなど。隙間時間を意識すればトータル1時間は案外あっさりと捻出できます。日常生活で行える工夫は無限大ですよ。 ・あぁ寝過ぎてしまった・今日も朝から時間を無駄に過ごしてしまった・また食べ過ぎてしまった そうしたネガティブな想いから、「もうどうでもいいや」と他の時間まで投げやりな過ごし方になってしまったり、暴食してしまったりする方が心身に悪影響を及ぼします。「よく寝たから体力が充電できた。パワー満タン!よく寝た分は日中に取り返すぞー」とマインドセットを切り替えて行きましょう。 不安であれば精神科へ気軽に受診をしましょう 冬季うつはQOLに大きく影響する疾患です。しかし、正しい対策や治療で事前の予防や症状改善が望める疾患でもあります。自力では乗り切れないことも専門職とともにあれば、新たな解決方法が見つかることもあるでしょう。症状に苦しんでいる方は、ためらわず精神科を受診していただければ幸いです。 著者茂木 千明(もぎ ちあき)精神科医 美容皮膚科医精神科専門医(精神神経学会認定) 精神保健指定医東邦大学医学部医学科卒業。都内の精神科救急病院に従事し、小児期から老年期まで幅広く診療を行い、研鑽を積む。その経験から、身体機能や外見が心に及ぼす影響に着目し、美容医療にも従事する。現在は診療の一環として、リストカット跡の修正アートメイクなどを積極的に行う。自身の名前にある通り「千倍、人を明るくする」をモットーに、患者さんに笑顔が戻るよう精神療法を中心に診療をしながら、講演や執筆活動を全国で行う。編集:合同会社ヘルメース 【参考】〇 Medical Hypotheses. Volume 83, Issue 5, November 2014, Pages 517-525,「Possible contributions of skin pigmentation and vitamin D in a polyfactorial model of seasonal affective disorder」https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S03069877140033512023/1/6閲覧

特集
2022年10月4日
2022年10月4日

難聴で拒食のある人の関わり方

前回に引き続き、コミュニケーションが困難だった人への対応事例を紹介します。最終回は、難聴と拒食を伴った事例です。 事例 Mさん、85歳男性、要介護3。難聴、拒食症、軽度認知症の疑い。無歯顎、上下総義歯を装着したままで数週間をベッド上で過ごす。会話や食欲もなく、ときどき妻が差し出すプリンを口にする程度だったため、低栄養と摂食嚥下障害を心配した内科医からの紹介で、歯科医師とともに訪問。 Mさんは、妻と二人暮らしで近所に長男と長女がそれぞれ暮らしていますが、心配する妻や娘に、暴力的な行動もみられたとのことでした。食事拒否の原因は、図のようなことが考えられますが、Mさんの場合は、家族との会話が困難になるくらいの強い難聴に由来する「孤独感」の存在も否めませんでした。 介入開始時の状況 嚥下評価は、軽度のオーラルフレイル程度のレベルでした。 最初に、ホットタオルで顔面や唾液腺のマッサージを行い、数週間ぶりに義歯を外すことができました。 義歯内面の汚れがあり、広範囲に口腔粘膜はカンジタ性口内炎を発症していました。また、食が細くなって痩せたため、義歯が合わなくなり、義歯の内面調整も必要でした。 聴覚障害者用アプリで意思疎通 ご家族は、ホワイトボードに字を書いては消しを繰り返して、コミュニケーションをとっていました。「入れ歯を外してください」「うがいをしましょう」などのカードを提案し、口腔ケアがその方法で可能になりました。 しかし、義歯の内面調整となると、義歯の内側に内面調整剤を塗った後、しばらく口腔内で数分保持する必要があります。本人の協力を得る度合いが増えるので、カードでも困難と考え、スマホの聴覚障害者用アプリを利用することにしました。 「お薬のにおいがしますが、すぐ終わりますので、しばらく入れ歯をかんでいてください」「お薬が固まりましたので入れ歯を外しますよ」などと、スマホのアプリに向かって話すと1秒後には文字として表示されます。Mさんにも理解でき、義歯調整の同意が得られました。 こうして義歯装着が可能になると、妻からMさんが家の中を夜間にフラついて大変だったと聞きましたが、その後は近所のタバコ屋にタバコを買いに出て、数ヵ月ぶりの外出も可能となりました。 EAT-10注1が0点となったため、居宅療養管理指導は4回/月から2回/月へと変更になりました。Mさんはトンカツが大好きだったので、口腔ケアに関しての長期目標は、「トンカツを食べる」に設定しました。 コーチング(第9回参照)は、本人だけでなく、介護する家族にも有用なことがあります。日々不安を抱えている妻に、リフレイン(対象者の言葉を繰り返す)やチャンクダウン(問題の具体化)で対応しました。 「何かあれば何でも歯科衛生士に相談してください」と寄り添い、共感するスタイルを通して、ラポール(信頼関係)が構築され、本人(妻)のゴールが近づきました。 機能的口腔ケアで笑顔を取り戻す 歯科の短期目標として、義歯の清掃、唾液腺マッサージ、プッシングエクササイズ(声帯の強化)、口腔周囲筋のストレッチを指導すると、食事量が増えると同時に笑顔もみられるようになりました。 介入約3ヵ月後 家の中を歩く、座位で摂食する時間も増えて、介入から約3ヵ月が経過し、長期目標である「とんかつ」はカツ丼やカツ煮で食べることができました。 おわりに 全10回に及ぶ本連載を通して、訪問看護師をはじめとするチーム医療連携での歯科衛生士の業務について知っていただける機会となったと思います。口腔ケアや歯科診療だけでなく、摂食嚥下リハビリテーションから終末期の口腔ケアまで、口腔の衛生面・機能面の両面から要介護者をサポートする歯科衛生士を、今後ともよろしくお願いいたします。 * 注1 EAT-1010項目からなる軽度の嚥下障害のための質問票で、0~4点で各項目を評価する。合計が3点以上で嚥下障害の可能性がある。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版

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