コミュニケーションに関する記事

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年4月15日
2025年4月15日

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】

2025年1月23日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」を開催。新任訪問看護師の戸惑いをテーマに、聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生にお話を伺いました。セミナーレポート前編では、新任者の悩みと、それらを解消するサポート方法を紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護入職者の一般的な戸惑い・困難感 訪問看護師が感じる戸惑いや困難感に関して、いくつかの研究をもとに、以下のように分類しました。 ■個人の課題(仕事がうまくできない情けない思い)・知識や技術の不足・単独訪問の判断の難しさと責任・時間内にケアが終わらない など■場やシステムの課題、職場全体で取り組むべき問題・勤務体制(24時間対応、休みのとりにくさ)・(薬剤を含む)医療データが少ない、かつ入手が困難・他職種連携(これまで関わったことがない職種との連携) など■訪問看護特有ではない問題・職場内の人間関係・家庭との両立 など文献1)-3)の結果を集約 私が問いたいのは、「これらの問題は本当に『問題』なのか」ということです。例えば、ベテラン訪問看護師の多くは「介護保険制度や医療保険制度の理解は追い追いで良い」と話します。 また、単独訪問の判断の難しさと責任については、考え方を変える必要があるでしょう。訪問看護では、「患者の管理」を行うのではなく「ケアの管理」をします。患者管理をしようとすると、判断することや責任を負うことがつらくなってしまうでしょう。具体例として、訪問看護師が「この利用者さんは次回の訪問まで転倒しない」と判断することはできませんよね。「転ばせない」ことを主軸に患者管理をしようとすると、訪問の後も不安感が募ってしまうのです。それよりもちゃんと動けるケア、転んだらどのように起き上がるのかを考えるほうが良いです。 さらに、時間内にケアが終わらないのも新任者なら当たり前のことであり、問題ありません。技術は経験を重ねることで向上します。まずはそのことを上司や同僚に相談しましょう。 誤解されがちな「現場での判断のあり方」 「訪問看護師は一人で現場に行き、判断する」と考えている方もいますが、これは誤りです。テクノロジーの発達により、現場で個人が判断する時代は終わりました。例えば、利用者さんの体に新しい傷があれば、共有アプリに写真をアップロードし、先輩やドクターにその場で処置方法を確認できます。 また、私は訪問看護の最大の強みは、利用者さんと一緒に判断できることだと考えています。「私は看護師としてこのように判断しましたが、いつもどのように対処していますか?私はこの対応が良いと思いますが。」と利用者さんにぜひ尋ねてみてください。本来、医療やケアの選択は、利用者さんご自身が最も強い決定権をもつものです。 ただし、自分で判断するのが難しい利用者さんには噛み砕いて伝えたり、過去の記録に基づいて検討したりすることは必要です。 先輩看護師のフォローについて ここからは、主に新任者本人ではなく、サポートする先輩看護師に向けてお話しします。新任訪問看護師が一人で訪問するようになった際、「電話があるから大丈夫」「カメラがあるから大丈夫」ではなく、適切なフォローをすることが大切です。 例えば、よく言われる「何かあったら言ってね」という言葉は、一見親切そうで、実はとても不親切。新任者はその「何か」を判断できないからこそ困っているのです。 「どう?何か気になることはある?」「特に問題がなくても、訪問終わる前に連絡してね」といった積極的な声かけが大切です。新任者が自信を持って判断できるようになるまで、少ししつこいくらいに寄り添う(やりすぎかどうかは本人に聞いてくださいね)ことが、本当の支援につながります。 アンラーニングについて 訪問看護の新任者の葛藤を理解するためには、「アンラーニング」への理解も不可欠です。アンラーニングとは、既存の知識や価値観を捨て、新たに学び直すことを指します。 新任者は、前の職場の価値観を新しい職場で少なからず捨てるものがあります。捨てて新しい価値観を受け入れる過程では、苦しさを感じ、その気持ちを怒りとして表すことがあります。「このやり方は間違いだ」「前の職場ではこうしていた」と主張したり、悶々としたりといった具合です。受け入れる側には、その苦しみを理解するとともに、現在の職場の価値観を言葉にすることが求められます。サポーティブに関わることを意識しましょう。 なお、こうした苦しみは、キャリアを積んだ方でも感じます。なぜなら、看護理論家のパトリシア・ベナーさんもおっしゃっている通り、「経験がない部門に移れば、誰もが初心者になる」から。そして、初心者は行動指針やルールが分からず、状況に応じた行動ができないので、職場のローカルルールや大事にしていることを伝えてくださいね。 実践の原則を学ぶポイントは「経験の質」 初心者の成長に必要なのは、時間ではなく「経験の質」です。 経験学習のコツ経験すれば理解するのではなく、その経験にどんな意味があったのか、なぜそうなったのかを振り返り次に活かす。その振り返りは、なぜそうなったのかが分かるベテラン先輩が支援すべし! 「経験による学習」をうまくできない方は多く、周りが支援をしないと「ただ経験しただけ」になってしまいます。ベテラン先輩が「振り返り」の部分を支援しましょう。私が顧問を務めるステーションでは、クラウド上で「振り返りノート」をやりとりします。新任者の記録に先輩がフィードバックする形式です。 フィードバックのコツ 入職したてはすべての事象が新鮮で、情報を「そのまま」受け止めがち。そこで私は、振り返りノートで「起きた行為の意味」を説明します。また、「印象的だった」「勉強になった」という記述があれば、「具体的に何が印象的で、何を学んだか」を繰り返し聞きます。 特に注意すべきは「印象的」という言葉で、これは予想と違うことを意味します。先輩の仕事に「感動したケース」もあれば、「教科書と違って違和感を持ったケース」もあるでしょう。そこを明確にしないと、アンラーニングにおける葛藤や、誤った価値観の構築を招きます。 また、教訓が身についてくると、さまざまなケースで使いたくなるもの。その際は、どんなケースで教訓を適用できるかといった留意点をフィードバックします。 次回は、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みについてお話しいただきます。 >>後編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用文献】1)森 陽子ら著.「新たに訪問看護分野に就労した看護師が訪問看護への移行期に経験した困難とその関連要因」日本看護管理学会誌,2016,20(2),p104-1142)平尾 由美子ら著.「病棟業務から訪問看護業務に移行した直後に看護師が感じる戸惑い・困難,8(1)」千葉県立保健医療大学紀要,2017,p169-176.3)柴田 滋子ら著.「訪問看護師が抱く困難感」日本農村医学会雑誌,2018,66(5),p.567-572 【参考文献】〇P.ベナーら著.早野ZITO真佐子訳.「ベナー ナースを育てる」医学書院,2011〇松尾 睦.『職場が生きる人が育つ 「経験学習」入門』ダイヤモンド社,2011

腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】
腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】
インタビュー
2025年4月15日
2025年4月15日

腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】

小倉記念病院腎センター科長の栗本幸子さんと、在宅看護センター北九州管理者の坂下聡美さんによる特別対談。後編では、腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)の実践に携わるスタッフの育成・研修体制のほか、多職種連携で重視すること、訪問看護における制度上の課題などについてお話をうかがいました。 >>前編はこちら地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】 ※本記事は、2024年12月の取材時点の情報をもとに構成しています。 ▼プロフィール栗本 幸子(くりもと ゆきこ) 氏一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院看護部 腎センター 科長 認定看護管理者同院の循環器病棟および腎臓内科病棟の科長を経て、2023年11月より現職。2017年に認定看護管理者の資格を取得。坂下 聡美(さかした さとみ) 氏一般社団法人 在宅看護センター北九州 代表理事(管理者・看護師)パーキンソン病療養指導士北九州市立看護専門学校を卒業後、病院や地域のクリニックでの勤務を経て、2000年より訪問看護に従事。2018年、公益財団法人笹川保健財団の支援を受け、北九州学術研究都市「ひびきの」に日本財団在宅看護センター「一般社団法人 在宅看護センター北九州」を開設。※文中敬称略 PDの研修方法と新人教育の工夫 ー病院や事業所ではどのような方法でPDの研修をされていますか。 栗本: 小倉記念病院では、新人のときから「PD患者さんは特別な存在ではない」という意識をもってもらうようにしています。新人の集合研修の中にもPDを取り入れているほか、どの病棟にもPD患者さんが入院できるようにしているので、病棟ごとに教育担当者から指導を受け、経験を積んでいきます。 また、当院は日本腹膜透析医学会(JSPD)の教育研修医療機関でもあるので、年に4回ほど外部向けの教育研修も実施しています。PD患者さんが多いため、他の病院の方々から見学の依頼を受けることも多く、個別のプログラムを組んで対応することもありますね。 坂下: 在宅看護センター北九州でも、PDに関してはOJTで研修を行います。新人が入職したときは最初の3回ほどは必ず先輩について実習を行い、4回目以降から少しずつ独り立ちします。自信がない場合は、遠隔作業支援システムを活用しバックアップしています。患者さんの同意が必要ですが、ウェアラブルカメラを新人が装着し、リアルタイムで先輩が状況を確認。音声も届けられるので、必要なときには声をかけます。 新人にとっても、実際に隣に先輩がいるよりも遠隔で見守ってもらうほうが緊張せず、落ち着いて作業できるようです。スタッフのストレスを軽減しつつ、患者さんにとっても安心感を提供できるツールであると感じています。 看護の連携が患者さんの大きな安心につながる ーPDにまつわる多職種連携の取り組みについて教えてください。 栗本: 当院では2週間に1回、「PDカンファレンス」を行っており、そこには医師、外来看護師、病棟看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、理学療法士、薬剤師など、PD療法に関わる全職種が参加します。もうすぐ退院される患者さんや、これから入院される患者さんについて情報を共有し、ディスカッションを行うんです。例えば、退院前の患者さんの場合、無事に自宅に戻れるかどうか、栄養状態やADL(日常生活動作)などさまざまな視点でチェックし、必要に応じて訪問看護の導入や家族のサポート体制を整えています。患者さんの生活状況を多角的に把握し、多職種と連携しながら進めていくことが重要だと考えています。 ー多職種が関わるからこそ、患者さんが安心して自宅に戻れるのですね。 栗本: そうですね。そこで、ひとつの大きな課題になるのが、「訪問看護が必要かどうか」ということです。本当に家族だけのサポートでよいのか、その家族もいない場合にはどうしたらよいのか。こういったことは家族だけで考えてもなかなか解決しません。それを、ソーシャルワーカーや、当院のような訪問看護と連携している病院が協力することで、ある程度、その患者さんが安心して地域に戻っていただけるベースをつくることができると思います。そこは、本当に大事にしたいと考え、取り組んでいるところです。 坂下: 訪問看護の立場からみると、退院前のカンファレンスで話をうかがえること、何かあったときに病院の看護師さんたちに質問できる環境があることは、大きな安心につながります。 あとは、医療機器メーカーとの連携も欠かせません。在宅では、さまざまなメーカーのいろいろな機器を患者さんが使用されているので、1個ずつの使用方法についていくのが大変です。でも、メーカーに相談したら、すぐに勉強会を組んでくださり、訪問看護ステーションにも出向いてくださって使用方法を教えてもらいました。こういった連携がとてもありがたいです。 ー訪問看護導入にあたり、患者さんにとってどういった点がハードルになることが多いのでしょうか。 栗本: やはり、経済的な問題です。費用負担を心配される患者さんもいらっしゃるので、カンファレンスでは制度面・費用面のことも話し合っています。私たちがいかにサポートできるか、患者さんに喜んでいただけるかを考えながら調整していくようにしています。 坂下: 一般的に、訪問看護での24時間対応をつけると一割負担で月に600円程度が目安ですが、「払えないからつけなくていい」と言われることがあります。数百円単位でも患者さんにとっては大きな負担になることがありますし、医療制度のしくみの中で使える支援やサービスに関する知識も、訪問看護師にとってはとても大事だと思います。 PDという選択肢を提示できる土壌をつくる ー患者さんにPDという選択肢が提示されないケースが多い現状に対し、今後どういった取り組みが必要だと思われますか。 栗本: 選択肢を提示し、患者さんが望む治療を選べるように、まずはPDを提供する側の土壌をつくっていくことが重要だと考えています。継続的な治療をサポートできるように病院や訪問看護が連携すること、院内や事業所内でPDを継続できるような教育・指導体制の強化を積極的に進めていくことが大切だと思います。 その一環として、当院では情報連携のICTツール「バイタルリンク(R)」を活用して3つの訪問看護ステーションと連携し、高齢独居のPD患者さんをフォローしているケースがあります。この方は、1日3回のPDが必要なのですが、病院と各ステーションが患者さんの1日の状態をリアルタイムで把握できる体制になっているので、切れ目のない看護を提供できている実感があります。ICTの活用は今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。 坂下: そうですね。さまざまなケースに対応できる体制の整備は必要ですね。あとは、PDという治療法の存在をしっかり広めていくことも、医療を提供する側の大切な役割と感じています。 例えば、山間部にお住まいの患者さんが血液透析に通うのが難しくなったため、訪問看護が入ってPDを選択されるといったケースもあります。PDは自宅で治療ができるので、通院の負担も減り、1回の治療にかかる時間も比較的短め。透析のタイミングを調整すれば、自由に使える時間が増え、患者さんの生活の質(QOL)を保つことができるでしょう。最近は、60代や70代でバリバリ仕事をされている方が多いので、そういう方たちの希望のひとつにPDがなるのかなと思っています。また、自宅で最期まで過ごしたいと希望される方が増えてきていますが、その場合には「PDラスト」という選択肢もあります。在宅医の先生がついていれば、PDをしながらでも最期まで看取れるようになります。 患者さん、ご家族、医師、看護師などでACP(Advance Care Planning、または人生会議)を行い、患者さんにとっての最善を選べるサポートができるとよいですね。 栗本: 当院のような基幹病院が、PDをサポートする訪問看護師さんや在宅医に対して「何かあればいつでも連絡ください」と言える体制を整えていくことも大切ですね。逆に、訪問看護師さんから「こうしてほしい」といったご提案をいただき、それをもとに改善を重ねながら、今後も連携を続けさせていただきたいなと思っています。 坂下: そうですね。お互いに意見を交換しながら、利用者さんが安心して治療を続けられるよう、よりよい連携・支援体制をつくっていきたいですね。今後ともよろしくお願いします。 取材・編集: NsPace編集部執筆: 株式会社照林社

ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート
ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート
特集
2025年4月15日
2025年4月15日

ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート

2025年2月8日(土)、千葉県看多機連絡協議会による「第2回ちば看多機研究会」が千葉中央ホールにて開催されました。同協議会は、「看多機」の普及促進と社会福祉の増進を目的に設置された任意団体です。看多機について学びを深めるべく、「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」をテーマに、イベントの目的や方針を語る基調講演をはじめ、現場での事例共有やグループワークが行われました。今回は、その様子をダイジェストでお届けします。 ちば看多機研究会とは? 「看多機」とは、「看護小規模多機能型居宅介護」の略で、主治医との連携のもと、医療処置も含めた多様なサービス(訪問看護、訪問介護、通い、泊まり)を24時間365日提供する点が特徴です。医療依存度が高い方、体調が不安定な障害を抱えている方などが、住み慣れた自宅で生活しながらケアを受けることができる介護保険サービスです。 そして、ちば看多機研究会は、千葉県看多機連絡協議会(2023年設立)が主催する、看多機について学びを深めるためのイベント。看多機の管理者はもちろんのこと、看護学校の教員や訪問看護師、ケアマネジャー、医師、経営者、看多機の利用者など、看護や介護に関わる方が千葉県内外から多く集まり、看多機について語り合っていました。 関連記事:看多機(かんたき)を通じて広げる「輪」 【訪問看護認定看護師 活動記/北関東ブロック】 看多機の現状と今後の展望 千葉県看多機連絡協議会の会長 福田裕子氏のご挨拶を皮切りに、日本看護協会常任理事の田母神 裕美氏による基調講演が行われました。 日本看護協会常任理事 田母神 裕美 氏 日本赤十字社医療センターや日本赤十字社本社医療事業推進本部看護部などでの勤務を経て、2021年に公益社団法人日本看護協会の常任理事に就任。看護制度(基礎教育・准看護師含む)や在宅医療・訪問看護、介護保険制度・介護報酬に関することなどを担当し、各種看護政策の実現に向けた取り組みを推進。 田母神氏は、全国の40歳以上の男女を対象にした調査において、全体の約7割が「在宅で看護を受けたい」と回答している結果を紹介。また、その中には「家族に依存せずに生活ができるような介護サービスがあれば自宅で介護を受けたい」と考える人が多く、まさに「国民のニーズ」として、在宅看護を望む人が多い実情を紹介しました。 また、千葉県の高齢化の状況と今後の見込みを例に、看多機の必要性を語りました。例えば、千葉県の総人口は減少局面にあるにもかかわらず、65歳以上の要介護高齢者は増加しており、2040年には一般世帯のうち高齢世帯数が約44%にも達する見込み。その約44%のうち、夫婦のみや一人暮らしの世帯が約7割を占めると推定されているそうです。 さらに、全国的にも人口に対する訪問看護の手が足りておらず、看多機を増やしていく必要があると警鐘を鳴らしました。いまだ看多機の事業所がひとつもない自治体もある現状を見つめながら、田母神氏は次のように語りました。 「医療依存度が高まるほど複数サービスの組み合わせが必要となり、看多機の必要性が高まります。看多機に欠かせない看護師の人員不足解消のためには、看護師の就業先として割合が高い病院と連携していくことが不可欠です。今後、病院から訪問看護ステーションや看多機への出向システムの整備も必要でしょう。 また、職種間の相互理解不足や病院との連携窓口の不明確さ、独居高齢者の在宅療養支援のあり方など、地域にはさまざまな課題があります。これらの課題を積極的に共有し合い、多職種連携や看看連携を図っていくことで、患者・住民に質の高い保険・医療・介護等のサービスを提供できるようになります。看多機は、医療職・介護職が力を合わせて働く場です。お互いに働きかけ、連携を強化していきましょう」 看多機での困難事例の共有 基調講演の後は、ケアマネジャーの川名 延江氏(複合型サービス事業所フローラ)と、杉浦 さな江氏(コープ夢みらい四街道)が、現場で「困った!」と感じた事例について紹介しました。 1件目は、利用者さんとご家族とで「自宅で暮らしたい」「施設に入所してもらった方が安心」とご要望が食い違っていたケース。2件目は、利用者さんだけではなく、ご家族も精神的・身体的な疾患を抱えていたケースです。 ご家族への対応の難しさをはじめ、家族間で異なる意見に対し、どういった調整を行うか、悩みながら検討した過程も伝えられました。「看多機は『世帯ごとに看る』ことに長けたサービスである」というコメントもあり、事例の内容からも看多機の意義や必要性が参加者に伝わる発表となりました。 参加者との意見交換では、「居宅介護等に比べて看多機は受け入れまでのスピード感が速い」という声があり、発表者の川名氏からは「関わっている訪問看護ステーションなどと連携しながら、少しでも多く情報を得ることが大事」というアドバイスもありました。 グループごとのディスカッション 最後は、「看多機を広めよう!こんな利用者に看多機は向いている」をテーマに、グループに分かれてディスカッションと発表が行われました。ディスカッションでは、時間が足りなくなるほど、さまざまな意見が飛び交いました。 実際に挙がった意見(抜粋)は次のとおりです。 ◆こんな利用者に看多機は向いている! ・基本的に自宅にいたいと思っている方 ・退院後の調整が必要な方やまだ要望が不明確な方 ・介護と医療が混ざったケアが必要な方 ・家族が遠方にいる方 ・仕事の都合で、家族のみの介護が難しい方 ・人見知り、認知症、嚥下に困難がある方 ・若い方でデイサービスには抵抗がある方 など 看多機は多様なサービスを提供しているため、「結局、全員が看多機に向いているのでは?」という意見や、「限られたリソースを活用するために、現実的にすべて受け入れることが難しい」という悩みも語られました。また、「看多機は『最期まで見守る』『ほかのサービスにつなげる』など、複数の意味で『渡し舟』のような役割ではないか」という意見も印象的でした。 ときに各事業所の事例や悩みなどを共有し合うシーンも見られ、連絡先を交換し合う参加者もいるなど、ディスカッションは大きな盛り上がりをみせました。 千葉県看多機連絡協議会 会長コメント 最後に、本会を主催した千葉県看多機連絡協議会 会長で、「まちのナースステーション八千代」統括所長・管理者の福田裕子氏のコメントを紹介します。 第1回に引き続き、70名近くの方にご参加いただく貴重な機会となりました。看多機について、職種の垣根を超えて情報共有できる会はなかなかなく、参加者の皆さんの反響から、日々の業務や課題を共有し合うニーズが大きいことを実感しました。利用者さんごとの事情はもちろん、各事業所の困り事や各自治体の課題などもそれぞれ異なります。多様なサービスをワンストップで提供する看多機が力を発揮できる場面は多いにあると考えています。しかし、看多機というサービスの全容が見えづらいせいか、現状まだ「看多機は不要」と考える自治体もあります。看多機を普及させるためには、各所とつながりを持ちながら、地域の中でハブ的機能として対応していくことが重要です。看多機の意義や必要性、今回のイベントで挙がったような現場の声を、行政に積極的に伝えていく姿勢も必要でしょう。看多機の魅力は、可能な限り時間をかけて本人の意思決定を支えていける点です。看多機では多様な職種が活躍しており、看護師さんは、職種同士を結び、利用者さんの自立支援につなげる重要な役割を担っています。訪問看護ステーションの管理者さんの中には、「泊まりの施設を持ちたい」「より多くのサービスを提供したい」と感じている方もいらっしゃるかと思います。看多機を立ち上げて運営したいという方がいらっしゃれば、ぜひ看多機を一緒に普及させていけたらと思います。 * * * 本イベントでは、登壇者や参加者がお互いの意見に真剣に耳を傾け合い、ディスカッションする様子が印象的でした。興味のある方は、ぜひ千葉県看多機連絡協議会の今後の活動にもご注目ください。 執筆: 高橋 佳代子取材・編集: NsPace編集部 【参考】〇内閣府.「第1章 高齢化の状況(第2節 2)」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_2_2.html2025/4/8閲覧〇千葉県.『第2章 高齢者の現状と見込み』「(3)高齢者のいる世帯の状況と今後の推移」12P.https://www.pref.chiba.lg.jp/koufuku/iken/2023/documents/shian0-2.pdf2025/4/8閲覧

地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】
地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】
インタビュー
2025年4月8日
2025年4月8日

地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】

在宅で自分で行える透析療法「腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)」は、患者さんのライフスタイルに柔軟に対応できる点が大きな特徴です。今回は、小倉記念病院 腎センター・科長の栗本幸子さんと、在宅看護センター北九州・管理者の坂下聡美さんに、病院と訪問看護ステーション、それぞれの立場からPDの普及に向けた取り組みについてお話をうかがいました。 ※本記事は、2024年12月の取材時点の情報をもとに構成しています。 ▼プロフィール栗本 幸子(くりもと ゆきこ) 氏一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院看護部 腎センター 科長 認定看護管理者同院の循環器病棟および腎臓内科病棟の科長を経て、2023年11月より現職。2017年に認定看護管理者の資格を取得。坂下 聡美(さかした さとみ) 氏一般社団法人 在宅看護センター北九州 代表理事(管理者・看護師)パーキンソン病療養指導士北九州市立看護専門学校を卒業後、病院や地域のクリニックでの勤務を経て、2000年より訪問看護に従事。2018年、公益財団法人笹川保健財団の支援を受け、北九州学術研究都市「ひびきの」に日本財団在宅看護センター「一般社団法人 在宅看護センター北九州」を開設。※文中敬称略 PD患者への支援と地域連携の取り組み ー小倉記念病院と在宅看護センター北九州でのPDに関する取り組みについて教えてください。 栗本: 小倉記念病院では、2005年に腎臓内科を立ち上げ、PDの導入を開始しました。当初はPDを経験したことがないスタッフばかりだったので、研修に力を入れ、育成に取り組んできました。また、2010年からは地域でPD患者さんをフォローできる体制をつくるため、クリニックや訪問看護ステーション向けの研修会を実施してきました。 現在、当院には約280名のPD患者さんがいます。そのうち地域の開業医と連携を取りながらフォローしていただいている患者さんは約1/3。専門的な治療なので、受け入れをしていただけるところが少ない状況です。今後、老老介護や高齢者の独居がますます増えていくなかで、患者さんのご家族のみにサポートを頼るには限界があります。クリニックの医師だけでなく、訪問看護師の方々にもPDについて知っていただき、患者さんを支える仲間になっていただければと考えています。 坂下: 在宅看護センター北九州は開設7年目に入り、現在160名前後の患者さんに在宅訪問看護を行っています。その中でPD患者さんは2名です。今はPD診療を行うクリニックと連携しながら、患者さんがご自宅でPD治療をどう行っていくか、具体的なイメージをもっていただけるようなお手伝いをしています。クリニックでは患者さんを対象にしたPDの勉強会もされていて、そこで訪問看護の導入についても説明をしてくださっています。 私たちが勉強会に参加し、患者さんと直接お会いできる機会もあります。「自宅に戻られたら私たちがサポートさせていただきますので安心してください」とお伝えしています。そういった流れを、少しずつですが、最近つくり始めたところです。 ー全国的にはPD導入率は3.1%*と低めの傾向にあるかと思いますが、小倉記念病院では多数のPD患者さんがいらっしゃいます。具体的な割合や導入時の流れについて教えてください。 栗本: はい。2023年度に当院で透析療法を新たに開始した151名の患者さんのうち、59名がPDを選択されましたので、約4割ですね。 当院では、外来で腎代替療法の説明と共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)での選択の支援を行っています。PD認定指導看護師が1回約1時間ほどかけて、患者さんやご家族の生活状況、本人の意欲、価値観、疑問点などを聴き取りながら、腎移植、PD、血液透析(Hemodialysis:HD)といった腎代替療法の決定を支援しています。 特にPDについてはご存じない方が多く、「腹部からチューブが出る」という治療法もイメージしづらいことがほとんどです。PDのお腹のモデルを見たり、触ったりしていただきながら、フラットかつ丁寧にご説明した結果、PD導入率が上がったんです。 なお、カテーテルと称されるチューブを出す位置も患者さんの生活スタイルや環境に応じて決めています。ベルトや着物の帯で覆われない位置にすることもありますし、レアケースですが、障害のある方で腹部だとどうしてもご自身でカテーテルを抜去してしまう場合に背中から出したケースもありました。 *日本透析医学会がPDと認識しているHD併用を含めた透析全体での導入率。正木崇生,花房規男,阿部雅紀,他:わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在).透析会誌 2024;57(12):543-620.https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2023/pdf/2023all.pdf2025/2/15 閲覧 「パリアティブPD」という考え方 ーPDを行っている患者さんや訪問看護利用者さんで、お2人にとって印象に残っているエピソードを教えてください。 栗本: もともとHDをされていた90代男性のケースですね。この方は、治療中に血圧が大きく下がるなど、血行動態が不安定なためHDの継続が困難になり、PDを導入することになりました。 ご家族は「おじいちゃんには、好きなことをして余生を過ごしてほしい」と話され、とても手厚いサポートがありました。最終的には訪問看護も利用され、ご自宅でお看取りとなりました。最期まで穏やかな日々を過ごされたという話を聞いて、この患者さんにはPDが最適な選択肢だったのだなと感じました。 高齢でもご家族や訪問看護といった周囲のサポートがあればPDは可能ですし、最近では、「パリアティブPD」という考え方も浸透してきています。1日4回、しっかり除水しなくても、例えば終末期なら1日2回ぐらいの交換で緩やかに進めていくやり方です。高齢者にとって、やさしい透析の選択肢だと思います。 当院では、患者さん一人ひとりの状況に合わせて、パリアティブPDのような方法も含めて、積極的にご紹介しています。「これくらいならできそう」と導入に前向きになる患者さんやご家族もいらっしゃいますよ。 訪問看護利用者さんから教わった成長の一歩 坂下: 私は「第一号」の患者さんが印象に残っています。私が在宅看護センター北九州を立ち上げたとき、以前勤めていた訪問看護ステーションでPDをされていた方が「あなたの第一号の患者さんになってあげるから、地域の裾野を広げる訪問看護ステーションとしてがんばりなさい」と言ってくださいました。当時はPDのケアに自信を持てずにいたのですが、そのステーションからも背中を押してもらい、最初の患者さんになっていただいたんです。 この方は、私が新人のころからのPD看護の「指導者」でもあります。特に印象に残っているのは、透析のチューブを持って「あなた、ここを握ってごらん。これが温かいうちはまだまだ出ている証拠。冷めてきたら、もう出ていないから。そこからゆっくり落ち着いてやりなさい」と、時間で判断するわけではないのだということを教えてくださって。そうやって患者さんから指導を受けながら、訪問看護師として少しずつ成長させてもらったんです。 PDの普及はまだこれからと思っていますが、「よく知らないから看護ができない」、「不安だから患者さんを受け入れられない」、となってしまうことが訪問看護の課題でもあります。まずはPDについて勉強して、1例でも経験できれば、不安の種が少しずつ小さくなって、看護ができるという自信に変わっていくように思います。 また、訪問看護師にとっては、いざというときに相談できる先があることが大事なポイントです。その体制が整っていれば、PD患者さんの受け入れを後押しする安心材料になると考えています。 感染対策だけじゃない、環境整備 ー坂下さんは、患者さんのご自宅でPDをサポートする中で、どのようなことに注意されていますか。  坂下: 病院のような清潔な環境をそのまま再現はできませんが、腹膜炎を起こさせてはいけないので、感染の原因になり得るものを一つひとつ解消し、家庭の環境を整備するようにしています。 例えば、シャワーヘッドのカビやボディソープの容器のぬめりが感染源になる可能性があるので、チェックリストを作成し、週に1度は確認しています。お部屋の状況によっては、空調を切ってほこりが舞わないようにして作業することもあります。 排便コントロールや食事を始め、いろいろな面で患者さんの生活を整えることも重要です。ご家族の生活リズムも含めて、患者さんの生活がうまく回るために、透析の手技やタイミングも含めて調整しています。 ただし、看護師の価値観だけで「こうしなきゃいけない」と意見を押し付けてしまうと、利用者さんから一切シャットアウトされてしまうこともあります。「患者さんやご家族のために」という気持ちを持ちながら信頼関係を築き、少しずつ歩み寄ることを意識しています。PD療法で特に注意する感染対策では、「なぜこれが必要なのか」の背景をお伝えすることも重要ですね。 ー患者さんがPDを継続する上で、重視されている関わりを教えてください。 坂下: ケアの手順をしっかり守ることで、腹膜炎を防ぎ、長く在宅生活を続けられる例もあるので、そういったエピソードを共有しながら、「きちんとされているから入院せずに済んでいますね」と伝えるようにしています。患者さんの自信につながりますし、「やっぱりちゃんとしないと」という動機づけにもなります。 栗本: 病院では、入院中に患者さんが自分でPDができるように指導することはもちろんですが、患者さんをサポートしてくれる方を1人選んでもらい、その方にも手技を習得してもらうようにしています。お2人に病院で作成したパンフレットをお渡しし、「ここはこうしましょう」と指導して、最終的にはお2人が習得した時点で退院していただくのです。そして、退院されるときに「手の消毒」や「マスクの着用」など、忘れがちなところを一言添えて、パンフレットとともにお帰りいただくようにしています。 >>後編はこちら腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】 取材・編集:NsPace編集部執筆:株式会社照林社

【4月8日up】第3回 みんなの訪問看護アワード表彰式イベントレポート【3月8日開催】
【4月8日up】第3回 みんなの訪問看護アワード表彰式イベントレポート【3月8日開催】
特集
2025年4月8日
2025年4月8日

第3回 みんなの訪問看護アワード表彰式イベントレポート【3月8日開催】

2025年3月8日(土)、東京駅近くのイベントホール「My Shokudo Hall & Kitchen」(東京都千代田区)で「第3回 みんなの訪問看護アワード」の表彰式を開催しました。エピソードの審査は、応募者の所属や氏名を完全に伏せた状態で厳正に行われ、計26のエピソードが選出されました。表彰式では、受賞者の方々や特別審査員の先生方、協賛企業の皆さまとともに、表彰、特別トークセッション、懇親会などで盛り上がりました。本イベントの様子や参加者の皆さまの声を、写真とともにご紹介します。 入賞から大賞まで受賞者を表彰 贈呈されたトロフィー 審査員特別賞を受賞した田端 支普さん まずは受賞者の皆さまへの表彰が執り行われました。入賞16名、協賛企業賞5名、審査員特別賞3名、ホープ賞1名、大賞1名が選出され、審査員の先生方からトロフィーと記念品が授与されました。 ・全受賞エピソードつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 大賞に輝いたのは、木戸 恵子さん(東京都)の投稿エピソード「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」です。千葉で容体が悪化した患者さんを、東京で体調を整えた上、宮崎まで陸路で送り届けたエピソードを投稿してくださいました。 大賞を受賞した木戸さんのコメントを一部ご紹介します。 「もしエピソードが受賞して漫画になったら、えみさん(患者さん)のお子さんたちに『お母さんがどれだけの愛情を持って家に帰ろうとしたのか』『どれだけ子どもたちに会いたかったのか』を伝えられるのでは、と考えて応募しました。エピソードは私が書きましたが、関わってくださった仲間は大勢います。厳しい状況の中で、宮崎に帰ることが果たして正しいのか、不安と葛藤もありましたが、その時はそれが正しいと信じ、たくさんの仲間の力を借りて宮崎への帰宅が実現しました。決して一人で実現できたことではありません。だからこそ、襷をつないでくれた仲間に会いに行って、受賞をみんなで分かち合いたいですし、お子さんたちに素敵な漫画をお届けできればと思っています。この度は素晴らしい賞をありがとうございました。」 木戸さんのエピソードを大賞に選出した理由について、特別審査員の高砂 裕子さんは次のように語りました。 「1,200kmという長距離を移動する中で、木戸さんたちがどれだけ患者さんの容体の把握に努め、ケアしてきたのか。短い文章の中から想像できることはたくさんあります。多くの不安と葛藤がある中でも、仲間の力を借りながら帰宅を実現させたことが本当に素晴らしいと思い、大賞に選出させていただきました。仲間の力・連携の力の大きさに気づかされるエピソードだったと思います。ぜひ皆さんもたくさんの方の力を借りて、木戸さんのように色々なことを成し遂げていってほしいと思います。そして、皆さんの体験したことを、積極的に周囲に伝えていっていただけたら嬉しいです」 大賞を受賞した木戸 恵子さん(左)と特別審査員の高砂 裕子さん エピソードや訪問看護に関するトークセッション 表彰後は、特別審査員の長嶺 由衣子さんと、受賞者3名による特別トークセッションが行われました。訪問看護師になった理由ややりがいをはじめ、投稿のきっかけや文章の中で伝えきれなかったケアの経緯や葛藤などが語られました。登壇者の話に深くうなずき、真剣に耳を傾けている受賞者や関係者の皆さまの様子が印象的でした。 例えば、「私たちの足跡は残さない」を投稿した松橋 久恵さんは、利用者さんの「平然と生きていきたい」という本音や家族への想いを受け、自然と足跡を残さないように努めたことを紹介。どのエピソードにも、書ききれなかったドラマや想い・葛藤などがあり、訪問看護師さんが利用者さんとひたむきに向き合っている様子が伝わるトークセッションとなりました。 お祝いの声が飛び交い、笑顔が絶えなかった懇親会 式典の終了後は、看護師・漫画家の広田奈都美さんによる大賞エピソードの漫画下書きもお披露目されました。広田さんのコメントも一部ご紹介します。 「私は漫画家であり訪問看護の経験もありますが、今回の大賞エピソードのように多職種や他の地域の仲間と連携をしていくのは決して簡単なことではありません。日頃のコミュニケーションやお互いの信頼関係が土台にあるからこそ、成立するものだと思います。物事が動くときは、いつも『感動』が隣にあります。そしてその感動こそ、皆さんが綴ってくれたナラティブ(物語)そのものです。私はこれからも漫画家として皆さんのナラティブを伝える仕事をずっと続けていきたいと思っています」 懇親会では、受賞者、特別審査員、協賛企業の皆さまが、このイベントの意義についてや訪問看護の魅力を広く伝えるためにはどうすべきかを語り合っている様子が見受けられました。エピソードに書ききれなかった経緯を深堀りしたり、感動の声を改めて伝えたりなど、お話がいつまでも尽きず、あちこちで笑顔の花が咲く様子が印象的でした。 審査員の先生方&参加者コメント 最後に、「みんなの訪問看護アワード」や表彰式について、特別審査員の先生や参加者の皆さまにうかがった感想をご紹介します。 高砂 裕子さん(一般社団法人全国訪問看護事業協会 副会長)訪問看護のエピソードを書いて発表することで、現場でのケア内容やそこにあった心の動きなどが明らかになります。皆さんの頑張りが形になること、そして表彰されて称えられることを、自分のことのように嬉しく思います。 こうした現場でのリアルを、看護職や他職種の方にも広く知ってほしいものです。全国で活躍されている訪問看護に携わる皆さんには、ぜひご自身のケアに自信を持ち、ご自身の経験や想いを色々な方に伝える機会を持っていただけたらと思います。 山辺 智子さん(公益財団法人日本訪問看護財団 事業部 研究員)※公益財団法人日本訪問看護財団 事業部部長 高橋 洋子さんの代理出席 どのエピソードをとっても、訪問看護師としての熱い思いだけでなく、技術や経験に裏付けられた冷静な判断があったことが垣間見え、素晴らしいと感じました。「その時、何を大事にしたのか」「その結果、どのような変化が生じたのか」といった一連の流れは、言葉として残してこそ広く世の中に広まり、同じ分野の仲間に継承されていくのだと思います。在宅ケアの拡充を図ることは当財団のミッションでもあります。ぜひ今後もこうしたイベントを開催していただければと思います。 山本 則子さん(東京大学大学院医学系研究科 教授)素晴らしいエピソードの数々に胸が熱くなり、とても悩みながらの選出でした。日々忙しく活躍される中で、ご自身の経験を振り返って文章にまとめる機会はなかなかないと思います。皆さん、素晴らしいスキルや想いを持っておられますので、これからもぜひ共有していただけたらと思います。私の周りでも「訪問看護をやって初めて看護に目覚めた」という方や、「人生で大事なことは全部訪問看護に習った」という方もいます。ぜひ、一人でも多くの方が訪問看護の魅力に気づいてくだされば嬉しく思います。 長嶺 由衣子さん(東京科学大学 公衆衛生学分野 非常勤講師)たくさんのエピソードを拝読する中で、すべての訪問看護師に通ずる「普遍的な価値観」がそこにあるのではないかと感じました。主語は「ケアをする自分たち」ではなく、「利用者さん」にあることが伝わり、短い文章の中でも医療従事者としてのプロフェッショナリズムや利用者さんのQOLを向上させるアプローチが垣間見えるエピソードが数多くありました。こうしたエピソードの蓄積は財産になっていきますし、今回のような取り組みをもっと広げていきたいと思います。 大石 佳能子さん(株式会社メディヴァ 代表取締役)日々、ひたむきに利用者さんと向き合っておられる訪問看護師の皆さんに、こちらからマイクを向ける企画は本当に素晴らしく、貴重だと思います。皆さんの想いを言葉にすることで、利用者さんやそのご家族にも「こういうしくみがあるんだ」「訪問看護を利用するとこんな可能性があるんだ」ということが伝わり、ご自身やご家族の終末期に対する考え方にも変化が起きるかもしれません。一人ひとりのドラマをもっと深掘りし、広く伝えていきたいと感じました。 西田 歩惟さん(入賞/福岡/香住ヶ丘リハビリ訪問看護ステーション) 今回、ずっと心に残っていた訪問看護入職1ヵ月目の経験を投稿しました。エピソードとして形に残せたことがとても嬉しいですし、受賞したことをIさんのご家族にも伝えたところ、たくさんの感謝の言葉をいただき、心があたたかくなりました。「みんなの訪問看護アワード」に投稿されたエピソードを読んで、少しでも訪問看護に興味を持ってくださった方は、新卒の方もブランクがある方も含めて、ぜひこの世界に来てほしいなと思います。 木内 亜紀さん(協賛企業賞/埼玉/株式会社ピコグラム 地域ケアステーションゆずり葉) 今回、素晴らしい賞を受賞できたことを光栄に思います。表彰式も本当に素敵なイベントでした。皆さんのエピソードを聞いて、同じ空の下で頑張っている人がこんなにたくさんいるということを改めて実感しました。皆さんの中には素晴らしい「宝物」があって、そこから力をもらいながら、利用者さんに向き合っているんだと思います。もちろん大変なこともありますが、私もそうした想いを力に変えて、今後も訪問看護の道を歩んでいきたいと思います。 「第3回 みんなの訪問看護アワード」表彰式にご参加いただいた皆さまの集合写真 表彰式にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。後日、表彰式のトークセッションのレポート記事や大賞・審査員特別賞・ホープ賞の漫画の公開も予定しています。どうぞお楽しみに! 執筆: 高橋 佳代子取材・編集: NsPace編集部

ニャースペース【訪問看護あるある】
ニャースペース【訪問看護あるある】
特集
2025年4月1日
2025年4月1日

昔はね…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

利用者さんの過去のお話を聞ける醍醐味 訪問看護をしていると、利用者さんの歴史を知れることがあるにゃ 訪問看護を通じて利用者さんとの関係性が築けてくると、過去のお話を伺えることも。訪問看護師さんからは、「90代の女性の利用者さん。お若いころのお写真をみせてくれて、まるでオードリーヘップバーンのようでした」「『実はそうだったの⁉』と驚くような利用者さんのお話を聞けるのは、訪問看護師の醍醐味の一つだと思います」といった声が聞かれました。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護 実践~【セミナーレポート後編】
訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護 実践~【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年3月25日
2025年3月25日

訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護実践~【セミナーレポート後編】

2024年12月13日のNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~」では、NPPVを中心とした在宅での呼吸療法の基礎知識や、実践のポイントをご紹介しました。登壇してくださったのは、「楽らくサポートセンター レスピケアナース」の山田真理子さんと津田梓さんです。セミナーレポート後編では、在宅での呼吸ケアの実践にあたって意識すべき点や、トラブルへの具体的な対処法などをまとめます。 ※90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】 【講師】山田 真理子さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」管理者/呼吸ケア指導士。内分泌内科と血液内科の混合病棟、呼吸器内科病棟で勤務した後、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で訪問看護ステーションの管理者を経て、2015年に「楽らくサポートセンター レスピケアナース」を設立。津田 梓さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」訪問看護師。小児から高齢者まで、幅広い年代の利用者さんに人工呼吸器・在宅酸素などを用いたケアを提供。コーディネーションも担当する。 マスク呼吸療法の実践ポイント NPPV(非侵襲的陽圧換気)をはじめとした在宅でのマスク呼吸療法を実践する際のポイントは、大きく2つあります。 【ポイント1】使用時間の確認 間歇的に使用されることが多いので、使用時間を把握する必要があります。利用者さんの申告だけに頼らず、実際の使用状況を確認するとよいでしょう。 具体的には、「トレンドデータ」「モニタリングデータ」で、夜間の使用状況、リークやタイダルボリューム、換気量を把握するのがベスト。確認できない機種の場合は、訪問時に積算時間から使用時間を算出しましょう。なお、データを解析できる機種も多いので、業者に相談するのもおすすめです。 評価に応じて対応の検討を マスク呼吸療法は夜間の睡眠時に行うことが推奨されていますが、日中の使用でも有効な場合があるとされています。血液ガス分析や連続パルスオキシメーターなどを確認の上、呼吸状態を評価し、治療コンプライアンス不良であっても柔軟に対応することが大切です。 声かけがエンパワメントにつながる データを確認する際、使用状況を共有しながら「しっかり使えていますね」、「今日は使用時間が少ない(多い)ですね、何かありました?」といった声かけをすることで、利用者さんの安心感や治療継続へのエンパワメントにつながります。 【ポイント2】マスクフィッティング フィッティングはケアにおける最重要ポイント。締めすぎず、ふんわりとつけましょう。多くのマスクは二重構造で、送気すると外側が膨らみ、顔にフィットします。このタイプのマスクを使用する際は、外側の柔らかいクッションにしわができないよう、また内側の硬いクッションがあたらないようにします。 具体的には、ヘッドギアや額アームを調整しましょう。マスクの種類やサイズ選びにも気をつけてください。 リークの確認は使用する体位で 機器を使用する体位でリークを確認しましょう。主に臥位で使用する機器なので、装着確認も臥位で行うのが基本です。座位で確認するとマスクの重みでリークが生じやすく、結果的にフィッティングがきつくなりがちです。 実際の使用状況を想定しながら装着状態を確認し、適切にフィットしているか繰り返し確認します。また、利用者さんにも正しい装着方法を丁寧に説明することが大切です。 マスク呼吸療法のトラブル 上記のグラフからは、マスク呼吸療法におけるトラブル発生率が使用時間に大きく左右されていないことが分かります。例えば、3時間使用する場合と12時間使用する場合を比較しても、いずれも発生率は約3割です。このことから、トラブルの多くは使用時間の長さではなく、マスクのフィッティングに起因していると考えられます。 スキントラブルの原因と対応 スキントラブルの主な原因は「マスクの締めすぎ」。リークや回路はずれのアラームが鳴る、リークで目が乾燥するといったことがなければ、多少のアラームは気にせず、快適性を重視して問題ありません。 びらんや水疱ができた際は、褥瘡と同様の処置を行います。予防として好発部位を皮膚保護剤でカバーするのもおすすめです。当事業所の利用者さんも、体重が20㎏台で小柄な顔の小さい方が多いので、ゆるくフィッティングしても皮膚が赤くなりがち。そのため、皮膚保護剤をよく利用します。その上で、先にご紹介したフィッティングのコツを意識してください。 マスク以外のトラブルと対策 マスク以外のトラブルは、以下の4つが多く見られます。 1. 送気が冷たい前もって加温加湿器を稼働させたり、就寝中も暖房を使ったりしましょう。2. 口渇加温加湿器の種類の変更や、温度の調整を行いましょう。枕元に水を置くのもおすすめです。3. 排気が体にあたって寒いチューブを回転させて排気があたらないようにしたり、マフラーで首元を温めたりしてください。4. チューブ内の結露結露が加湿器チャンバー内に落ちるよう、加温加湿器の位置を調整する(ベッドより低い位置に設置する)、加湿器側のチューブを垂直に釣るなど工夫するとよいでしょう。なお、汎用性のある人工呼吸器の場合は、温度調整ができる回路に変える方法もあります。 訪問看護におけるセルフマネジメント 利用者さんと長く関わるケースが多い当事業所では、「利用者さんのセルフマネジメント」を大切にしています。セルフマネジメントを成功させるためには、利用者さんと医療者が長きにわたってパートナーシップを結び、病気や障害と付き合っていく姿勢が重要。これは、小児にも共通する考え方です。 利用者さんの中には「介護はいらない」と訪問看護を拒否する方もいますが、「対等なパートナーシップを結びませんか?」と説明すると、うまくいく例が多いです。現場では、「知識を教える」ではなく「必要な情報を提供する」と考え、共に生活や人生の質の向上を目指しています。 * * * 在宅での呼吸ケアをするにあたっては、専門的な知識と継続的なサポートが欠かせません。また、利用者さんの生活に深く関わり、その方の生活や人生の質に影響を与えるからこそ、訪問看護師には慎重な対応と長期的な視点が求められます。日々の変化を見逃さず、利用者さん一人ひとりに合わせた支援を行うことが、より安全で安心な在宅療養へとつながります。本セミナーでお伝えした内容が、皆さんの呼吸ケアに少しでもお役に立てれば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説
訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説
特集
2025年3月18日
2025年3月18日

訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説

訪問看護で利用者さんやご家族と良好な信頼関係を築くためには、訪問時のマナーが重要です。訪問前、訪問中、訪問後のそれぞれの段階で意識すべきポイントを押さえることで、より安心感を与えるケアを行うことができます。本記事では、訪問看護におけるマナーを解説します。訪問看護先で適切な対応を取るために、ぜひ参考にしてください。 【訪問前】訪問看護における訪問のマナー 利用者さんのご自宅へ訪問する前に、以下の内容をチェックしましょう。 身だしなみに注意する 訪問看護では第一印象が利用者さんとの信頼関係に直結するため、清潔感を意識した身だしなみが大切です。以下のポイントに注意しましょう。 清潔なユニフォームを着用する 髪を整える(髪色は自然な色味にして、長い髪はまとめる) 華美なアクセサリーは身に着けない 派手なメイクは避け、ナチュラルな印象を心がける 爪を短く清潔に整える ひげは剃る 香水や強い香りのハンドクリームは使用しない 体臭や汗、食後の口臭など、においに気を配る 靴下や服に埃やペットの毛などが付いていないか確認する なお、訪問先によっては靴下が汚れる場合があるため、予備の清潔な靴下を常に用意し、必要に応じて履き替えましょう。利用者さんやご家族に不快感を与えず、安心していただけます。 駐輪・駐車のマナーを守る 訪問看護の際は、駐輪・駐車のマナーを守ることが大切です。マナー違反をすると、利用者さんや近隣住民とのトラブルにつながる可能性もあり、大変な迷惑をおかけしてしまいます。新規契約時に駐車場所は確認すると思いますが、利用者さんごとの決めごとをしっかり確認して駐輪・駐車し、周囲の迷惑にならないよう配慮しましょう。当然のことながら、「自転車は車道が原則」「夜間はライトを点灯」といったルールも守りましょう。 参考記事:訪問看護師が知っておきたい自転車の交通ルールは?道路交通法改正も解説 トイレは事前に済ませておく ビジネスシーンにおいても、原則として訪問先でトイレをお借りするのはマナー違反。また、訪問看護の訪問先では、プライバシー保護や感染予防の観点からも、訪問前にトイレを済ませておくことが原則です。基本的には訪問看護事業所内のトイレを利用しましょう。ただし、「1日中訪問に出ている」「事務所に戻ると道順として明らかに非効率」など、訪問看護事業所に立ち寄れない場合もあるため、訪問する道順に公共のトイレ等があるか事前に確認しておくと安心です。 それでも、体調によってはどうしても我慢できない場合があるかもしれません。その際は、「本来は借りることは望ましくない」ことを認識した上で利用者さんに丁寧にお願いし、トイレをお借りするようにしましょう。 訪問時間の厳守 訪問看護の信頼性を保つために、約束した訪問時間を厳守することが重要です。万が一訪問先への到着が遅れたり予定変更が発生したりする場合は、速やかに利用者さんやご家族へ連絡し、理由を伝えた上で、訪問時間を再調整しましょう。 【訪問中】訪問看護における訪問のマナー 訪問中は、以下のマナーを守りましょう。 インターフォン対応と玄関でのマナー 訪問看護中のインターフォン対応や玄関でのマナーは、利用者さんが抱く印象に大きく影響します。インターフォンを押す前に、姿勢を正し、顔全体からバストアップまでが画面上に収まるよう距離を調整します。インターフォンを押した後は、まずカメラに目線を合わせ、続いて軽くお辞儀をして挨拶をしましょう。 また、基本的に、玄関に入る前にコートは脱いでおきます。玄関に入る際、靴は脱いだ後、丁寧に揃え直し、利用者さんやご家族に、清潔感や礼儀正しさを感じてもらえるよう心がけてください。 傘やレインコートの取り扱い 雨の日には傘やレインコートを使用しますが、これらの扱いにも注意が必要です。 傘は、訪問先に傘立てがあれば利用しましょう。傘立てがなく、判断に迷った場合は、傘袋に入れて玄関先に置くと気遣いのある振る舞いになります。玄関の外側の邪魔にならない場所に傘を立てかけることも失礼には当たりませんが、マンションの内廊下など、住居形態によっては水滴が廊下に滴ってあまり良い印象を与えない場合があります。状況に合わせた十分な配慮が必要です。 なお、折り畳み傘に関しては、オフィスビルなどのビジネスシーンでは屋内へ持ち込むケースもありますが、訪問看護の場合、長傘と同様にベルトでとめて玄関の傘立てに置くのがよいでしょう。傘についている水滴を落としてからベルトをとめ、できるだけ訪問先の玄関を濡らさないように注意します。 レインコートは、同じくできるだけ水滴を落としてから、ビニール性の袋や防水性のある風呂敷に収納することをおすすめします。特に防水性のある風呂敷は、多用途に活用できるため、持ち歩くと便利です。また、冬場に持ち込むことが多い上着やマフラー、手袋などを風呂敷に包むことで荷物をコンパクトにまとめることもできます。 荷物の取り扱い マナーや衛生上の観点から、訪問時に持参する荷物は、テーブルや椅子の上に置かないようにしましょう。部屋の中で邪魔にならないところに置くという配慮も大切です。 雨の日や汚れがある場合は、前述の防水性の風呂敷やシートの上、または玄関に置かせていただき、清潔を保つよう心がけます。 室内での基本マナー 住居内の扉・ふすま等を開ける際には、利用者さんやご家族のプライバシーに配慮し、ノックをして「失礼します」と声をかけてから開けるようにしましょう。すでに扉が開いている場合や、ノックをする場所がない状況でも、部屋に入る際には必ず「失礼します」と声をかけてから足を踏み入れます。状況に応じて「周囲からの視線を遮るためにカーテンを閉める」「ケアに必要な部屋以外には立ち入らない」といった配慮も必要です。 ケアを行う際には「失礼します」「カーテンを閉めますね」「今からお身体を拭いていきますね」などと声をかけ、利用者さんが安心してケアを受けられるよう心がけましょう。 訪問中に緊急の電話対応が必要になった場合は、必ず一言断りを入れた上で、利用者さんやご家族に迷惑をかけない適切な場所を選んで対応するよう心がけてください。 食べ物やお礼の品物への対応 お茶やお菓子などの食べ物やお礼の品物については、原則として感謝の気持ちを伝えた上でお断りすることが基本です。訪問看護サービスを受ける立場(お客様)である利用者さんやご家族から、おもてなしを受ける行為は適切ではありません。 また、訪問時間内にお茶やお菓子をいただくことによって、本来のケアに充てるべき時間が削られたり、次の訪問先のスケジュールに遅延が生じたりする可能性もあります。お礼の品物においては、ご家族のご負担になってしまうことも。そのため、「お茶やお菓子はいただけません/お礼の品物は受け取れません」といった事業所の方針を決めておき、初回訪問時や契約時にきちんと説明することが大切です。 おもてなしに対してお断りする際は、「お気持ちだけで十分です」と丁寧にお伝えし、相手に失礼のない対応を心がけましょう。 清掃と衛生マナー 訪問先で手を洗う際は、洗面台や鏡面に水しぶきが残らないよう、タオルやティッシュで丁寧に拭き取りましょう。このような小さな配慮が利用者さんやご家族に好印象を与え、プロフェッショナルとしての意識を示すことができます。 言葉遣いとコミュニケーション 利用者さんやご家族と接する際には、基本的に敬語を使用し、丁寧な態度でコミュニケーションを取ります。ただし、利用者さんの状態や関係性によっては、あえてカジュアルな口調を用いる場合もあります。親しみやすい雰囲気を大切にする場合でも、利用者さんへの敬意は決して忘れず、状況に応じて適切な言葉遣いを選びましょう。また、専門用語や難しい言葉は避け、相手にわかりやすい表現を心がけることが大切です。 記録とデジタル機器の利用 記録作業でパソコンやタブレットを使用する際は、「記録を行いますね」と一言声をかけて、利用者さんやご家族にデバイスを使用する意図を伝えます。また、記録用の写真撮影が必要な場合は、事前に「記録のために写真を撮らせていただきます」と説明し、許可を得ることが大切です。 当然ながら、個人情報保護の観点から個人のスマートフォンは使用せず、業務用のデジタル機器を用いましょう。 【訪問後】訪問看護における訪問のマナー ケアが終了したら、利用者さんやご家族への挨拶を丁寧に行い、感謝の気持ちを伝えます。退室時には玄関のドアを静かに閉め、上着やレインコートは外に出てから着用しましょう。また、玄関外や廊下での会話は避けることが重要です。 使用後のユニフォームやタオルなど、汚れがひどいものは個別に洗浄してから洗濯機へ入れるなど、衛生管理を徹底します。また、訪問中に「後で連絡する」と約束した内容については、必ず期日内に対応し、万が一対応が間に合わない場合でも、利用者さんへ事前に連絡を入れましょう。 * * * 訪問看護では、細かなマナーを守ることで利用者さんやご家族と信頼関係を築きやすくなります。訪問前の準備から訪問中の対応、訪問後のケアまで、清潔感や礼儀、配慮を徹底しましょう。この記事でご紹介したポイントを実践し、より質の高い訪問看護を目指してください。 編集・執筆:加藤 良大監修:大川 ユカ子 一般社団法人 スマートマナークリエイト 代表理事学習院大学卒業後、全日本空輸株式会社(ANA)客室乗務員として国際線チーフパーサーや政財界のVIPフライト、ファーストクラスパーサーを担当する。のちに一般社団法人スマートマナークリエイトを設立。代表理事として医療接遇、企業研修、接客指導、幼児マナー教育を中心に活動を続ける。セミナー受講者数のべ12,000人以上。〈メディア〉挨拶の達人 記事監修/日本テレビ「news every」出演/ビズアップ総研「場の空気の読み方」DVD出演/気持ちよく引き受けてもらう「頼みかた」DVD出演/フラワーラジオ定期出演/雑誌「ネイルUP!」(マナー特集)/小学館 美レンジャー/美容業界季刊誌「ガモウニュース」連載/書籍「おもてなしの教科書」/電報のマナー(冊子) ほか多数ホームページURLhttps://smartmannercreate.com/

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】
つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】
特集
2025年3月11日
2025年3月11日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しました。本記事では、入賞エピソード16件をご紹介します! 大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞はこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】 「看護の灯」 投稿者: 饗庭 康太朗(あいば こうたろう) さん TSUKASA訪問看護ステーション(神奈川県) 玄関のチャイムは壊れている。引き戸を開けると目前に階段が現れ、埃が掃除しきれない階段を、スリッパの形についた足跡を辿り2階にあがる。そこらかしこに積み上げられた本がFさんの人生を物語る。ながらく編集者として活躍されたのち、様々な会社の社史を担当したFさん。決して人付き合いが上手い人ではなく、遠方に住む娘さんとの関係性も良好とは言い難かったが、ウィットにとんだ会話と、なんとも言えない浮世離れした雰囲気は地域の皆に好かれていた。肺がんが末期となり、Fさんの療養生活を少しでも快適にしようとN看護師は根気よく取り組んでいた。生活に寄り添うN看護師のナーシングは親子のわだかまりも少しずつ解いていった。Fさんが亡くなったあとの娘さんからの手紙にはこうかかれていた。「最後に父にあった日、アパートの門灯をつけておいてくださったのはNさんかと思います。あの暖かい灯を一生忘れません。」スイッチひとつの気遣いだ。そこには確かに看護の技がひかっていた。 2025年1月投稿 「訪問看護の『正解』とは」 投稿者: 有川 美紀(ありかわ みき) さん 八幡医師会訪問看護ステーション(福岡県) Nさんと奥様との出会いは今から1年前になります。その数か月前にALSと診断を受けられ、初めて会った時はすでに多くの介助が必要な状態でした。進行は早く、当初より「人工呼吸器は絶対につけない」と強い意志をお持ちでした。元々大きな会社の管理職をされていたこともあってか、弱音を吐くことなくいつも毅然としておられ、スタッフを笑わせてくれていました。しかし、リハビリに対しては前向きになれず、ベッド上での生活となっており、ALSという病気を受け入れることができていない様子がうかがえていました。そんな時訪問診療の先生より「ALS患者家族の交流会」のお知らせがありました。やはり「絶対に行かない」とのことでしたが、スタッフでどうしたら参加できるのか話し合いを重ねました。不安に対して一つ一つ解決策を考え、参加したいという奥様のお気持ちを伝え何とか説得することができました。当日会場で「妻に迷惑だけはかけたくない。これから恩返しをしようと思っていた時だったのに」と心の内を明かされ涙されました。先日Nさんは肺炎を起こし永眠されました。奥様から「あなた達に出会えて本当に良かった。主人はとっても幸せだったと思う」と言われました。訪問看護では、正解が分からず本当にこの関わりで良かったのかと考えることが多々あります。しかし奥様のこの言葉で「よし!また頑張ろう!」と元気と勇気をいただきました。 2025年1月投稿 「訪問看護の魅力を伝えてくださったお嫁さん」 投稿者: 五十嵐 いずみ(いがらし いずみ) さん リハビリこんぱす訪問看護ステーション(埼玉県) 先日、ある病院の地域懇談会に出席しました。終了後、ほかの事業所の訪問看護師に声をかけられました。見覚えがなく、「誰だったかしら」と思っていると、「おばあちゃんがお世話になっていました」と。なんと、私が訪問看護1年目(20年以上前)に担当していた方のお孫さんでした。「母が、『訪問看護はいい仕事よ。私は訪問看護さんに救われたの』と、私に訪問看護を勧めてくれたんです」と。その利用者は認知症があり、苦悩する介護者のお嫁さんに3年間伴走したのです。聞くと、お母様は昨年亡くなったとのこと。私が提供した訪問看護が、介護者の心に残って、娘に訪問看護の魅力を伝えてくれたことは、驚きでした。が、とてもうれしくて、温かい気持ちになりました。 2025年1月投稿 「とびきりの薬になった花見」 投稿者: 植村 優衣(うえむら ゆい) さん 訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ(大阪府) 新卒から訪問看護師になり、夜間待機を始めた頃、明け方4時に電話がなった。Aさんから息苦しさの訴えで臨時訪問の依頼だった。その時の私はとにかく緊張と不安でいっぱいだった。というのも、Aさんは、契約はしていたが、初回訪問は緊急電話があった日の夕方だったため、何も情報がわからなかった。真っ暗の中、地図を頼りに家を探すところから始まった。なんとかたどり着くと、不安で申し訳なさそうなAさんの家族が迎えてくれた。肺炎を起こしていたため、連日の抗生剤治療が始まったが、軽快する様子がなかった。その時、家族から、Aさんは広島出身で原爆を経験し辛い経験が多かったから、「少しでも今を幸せな時間にしたい。桜を見せに行きたい」と相談があった。主治医からは、現状では外出は控えてと言われたが、何度も相談をし、外出許可をもらった。すぐに、ケアマネに、リクライニング車椅子を手配してもらい、「当日はカメラマンとして同行する」と協力してもらった。理学療法士に相談すると、「出発前に呼吸リハを行って呼吸状態を整えよう。移動は男手がいるから一緒に行くよ」と話してくれた。とんとん拍子で話がまとまり、無事に花見を迎えられた。その後、驚くことにAさんの肺炎は軽快し、花見がとびきりの薬になっていた。今でも家族と会うと、「桜を見に行けて良かった」と話してくれる。ドキドキから始まった出会いだったが、ホッと心温まる看護を行えた経験である。 2025年1月投稿 「五臓六腑に染み渡る」 投稿者: 大日向 麻子(おおひなた まこ) さん 訪問看護ステーションリカバリー 東村山事務所(東京都) 「食べられない。これがどんなに辛いことか、わかるか?」心臓を掴まれた気がした。初めて会った日に交わした最初の会話。咽頭癌末期、胃瘻造設し経口摂取禁止の指示で帰宅されたSさん。「悔しい」と歯を食い縛るSさんを、家族が宥める。私が関われるのはほんの少しの時間、ご家族はここから毎日どんな思いでこのやりとりをすることになるだろう。ある日の訪問、Sさんが「あんた、好きな物あるか」と呟いた。「うーん、悩みますね。でも、特別美味しいと思うのは愛がこもった料理ですよね」と伝えると「だよなぁ」とにやり。初めて笑った!と感動したと同時に、「愛のこもった料理」に対して笑顔を見せてくれたということは…。「もしかして、奥様の料理が一番の食べたいものですか?」しばらくの沈黙があり、「そうだな」と話すSさんに、ミキサー状にすれば奥様のお料理も注入できることをお伝えすると、すぐに実践。「おまえのご飯が、食べたかったんだ。これが本当の五臓六腑に染み渡るだな」プロポーズ以来の素直な言葉に奥様は笑い泣き。その後、奥様は手作りご飯をよく作るようになり、Sさんは来る人来る人に「これ愛妻ごはんなんだよ」と私たちにも笑顔をくれた。食べることは、生きること。その人にとっての「食べたいもの」は、もしかすると味や風味より、大事なものがあるのかもしれない。Sさんが教えてくれた、大切な学びです。 2025年1月投稿 「パティシエナースが未来を笑顔にする。」 投稿者: 佐藤 律子(さとう りつこ) さん 訪問看護・リハビリステーション 在宅看護センター北九州(福岡県) 「僕の誕生日にケーキ作りがしたい」とその子はそっと話してくれた。特別支援学校へ通うH君17歳の誕生日は来週だった。平日は学校併設の寮に入り週末だけ自宅に帰る生活を送る。多動性障害、知的障害があり社会との関わり方や人間関係、性教育等の支援を訪問看護で行っていた。父子家庭であり父親と祖母との生活の中、H君がケーキを作りたい理由は、今までの父親、祖母への「感謝」を形にしたいからだと教えてくれた。誕生日当日は、真っ白のスポンジケーキの土台に家族の大好きな苺とマスカットやチョコレート、生クリームのトッピングを準備しH君は一生懸命ケーキを作った。もともと工芸や絵の得意なH君は、とても綺麗にそして鮮やかに一つ一つを丁寧に仕上げて完成。完成したケーキを持ち「大好きなお父さん、おばあちゃん。いつもありがとう。」と感謝の言葉を伝えることが出来た。父親と祖母は大変驚き、感動し涙を流して喜ばれた。その後の3人で最高の笑顔でケーキを食べている姿は忘れる事が出来ない。私は、看護師になる前15年間パティシエとして働いた後に看護師へ転職。今回、看護師とパティシエをコラボさせて自立支援の一環とし支援する事で、利用者のみではなく利用者家族の幸せも感じることが出来た。また、私自身も今まで培った知識や技術が活かされただけではなく、これからはパティシエと看護師を組み合わせて多くの笑顔を引き出せるパティシエナースになると強く思う。 2025年1月投稿 「おとうさんの、宝物。」 投稿者: 篠原 真菜美(しのはら まなみ) さん 正峰会訪問看護ステーション(兵庫県) ALSを患った70代女性の利用者さん。ご主人と2人暮らしです。少しずつ病状が進み、身体を思うように動かすこと、話すことが難しくなり、吸引などの処置が増えていきました。ずっと側にいていつも支えてくれているご主人に、普段言えない感謝の気持ちを、Sさんの今できる力を使ってお手紙にしてみたらどうだろうか、と先輩看護師の言葉を受け、Sさんに提案してみました。上手く文字が書けるかどうか不安がありつつも、「書く」と言われたSさん。病状の進行に伴い、車椅子にしっかり座っていることや、マジックペンを持つことも大変ですが、ぎゅっと握りしめ、一生懸命に想いを文字に乗せ、画用紙いっぱいに書き綴られました。ご主人が定期的に歯科受診で外出される時間に書く機会を一緒に作り、密かに少しずつ書きすすめられました。そして遂に、ご主人・家族への想いがたくさん詰まったお手紙が完成しました。そこには沢山の感謝と、"おとうさん 大すきですよ"の言葉がありました。家族が集合し、お手紙を渡した次の日の朝、Sさんは、眠るように息を引き取られました。「大すきだなんて…初めて言われたわ!これは、わしの、たからもんや!!」と、ご主人は涙を流しながらも、笑顔でそう言われました。 2025年1月投稿 「司令塔が遺したもの」 投稿者: 立川 尚子(たちかわ なおこ) さん 共立女子大学 看護学部(東京都) Aさんが奥さんを看取った後の某日、グリーフケアへうかがった。山積みになったアルバムを広げ、結婚式からエピソードを語るAさんの笑顔からは、訪問看護が入った当初の憤慨や困惑を思い出せないくらいだった。「あいつが最期に俺に遺してくれたのはさ、生活する力だね」家族の指令塔だった奥さんの余命宣告は、昭和生まれの男の人生へ大きな混乱をもたらしたけれど看取りまでの在宅生活では、二人で喧嘩しながら料理や洗濯ができるようになった。整理整頓された居間の奥から、奥さんの声が聞こえてほしい。「良くやってるじゃん」って。 2024年12月投稿 「1ヶ月の奇跡」 投稿者: 西田 歩惟(にしだ あい) さん 香住ヶ丘リハビリ訪問看護ステーション(福岡県) 「家に帰りたいけど家族には迷惑かけられない」「連れて帰りたいけど病院にいる方が安心」病棟で働いていた時に、よく耳にした。その方とその家族の力になりたいと思い、私は訪問看護に進んだ。Iさんは終末期癌。独居、家族は遠方にお姉さんが一人。カニューレや点滴管理、清潔支援で1日3回の訪問。最期は家で過ごすと決めていたIさん。在宅生活が厳しくなり、医師が入院を勧めたが頑なに断り、看護師がお姉さんに来てもらうように声をかけた。Iさんは頷いたが「私達姉妹には確執がある」と表情を強張らせた。お姉さんも同じ言葉を口にされ、入院させるべきか、妹の意思を尊重するべきか、煮え切らない気持ちで過ごされていた。スタッフ皆が処置やケアの合間で時間を設け、寄り添いながら関わった。ある日私が訪問すると、お姉さんは涙ながらに「妹の意思を貫くって決めた」と言った。全力でサポートします!と伝えると、笑顔で頷かれた。その2日後、Iさんは穏やかな表情で永眠され、優しい眼差しで見送るお姉さんの姿があった。あれから3年。お姉さんより『皆様に勇気を戴いた』『在宅で過ごした時間は奇跡のよう』と、今も感謝の言葉が届く。Iさんが望んだ家で、お姉さんと共に生きたこと。訪問看護師の存在が、最期まで在宅で過ごす架け橋になったこと。私の初心を照らしてくれる大切な経験となった。 2025年1月投稿 「家族写真」 投稿者: 原田 三樹子(はらだ みきこ) さん 青山訪問看護ステーション(愛知県) 「看護師さんが来てくれると嬉しくて安心するよ」と毎回涙目で迎えてくれるAさん。ほとんど口から食べることもできなくなり、点滴が命綱の胃がん末期の70歳男性。とても笑顔が素敵だ。奥さんのことを○○ちゃんと呼ぶほど仲良し。ある訪問で「本当は家族写真を撮りに写真館に行きたいんだ。自分の目標にしたいんだ」と教えてくれた。「でも点滴があるからいけないよね」点滴スタンドにセットしバックに入れて持ち運べることを提案すると「わー行かれる。手伝ってくれる?」と。当日、奥さんはすでにきれいな着物を着ており、Aさんは素敵なスーツに着替える。点滴をスタンドにセットし目立たないような色の紙袋に入れ、送り出す。後日「記念に紙袋も撮ってもらったよ」と笑いながら言っていた。写真の中のAさんは家族に囲まれ、とびきりの笑顔だった。そこから芋ほり、孫の誕生日会、自分の誕生日と、どんどん目標を更新していった。ただ、最後の目標である自分の誕生日には二日届かず、亡くなってしまった。お参りに伺うと、あの時撮った写真が遺影になっていた。同じように笑顔で家族を見守っている。 2025年1月投稿 「桜の約束」 投稿者: 古川 莉沙(ふるかわ りさ) さん ヒーリングケア訪問看護ステーションみなと(大阪府) 90代男性Sさん。訪問介入当初は、声をかけても開眼する事なく無表情で寝たきり状態でした。半年前に桜を見に外に行ったのが最後だと息子さんがお話しされていて「来年も桜一緒に見に行きましょうね!」と言っても「行かん。もうやり残した事ない。死ぬだけ」と断固拒否でした。日々介入していく中で、少しずつではありましたが目を開けてくれるようになり、帰る時には「ありがとう」と言ってくれるようになりました。そのたった一言だけでも最初は嬉しくて感動していました。秋になり、紅葉が綺麗ですよとお話しすると、「紅葉を見に行きたい」と言ってくれて、大きすぎる進歩だと思いました。ケアマネージャーさんやヘルパーさんにも相談して、身体がしんどくない時に車椅子で紅葉を見に行けるよう調整していましたが…なかなか行けず。でもどうにかして秋を感じて欲しい…と考えに考えているうちに私はひらめきました。"紅葉を持っていけばいいんだ"と。綺麗に咲いていた紅葉を2枚持って行くと、涙を浮かべながら「ありがとう、姉ちゃん…」と言ってくれていつでも見えるところに飾ってくれました。そして、来年一緒に桜を見る約束が出来ました。看護師として体調管理はもちろんですが、それだけではなく、少しでも利用者さんの生きる活力になれるような、「まだ元気で過ごしたい」そう思ってもらえるような関わりをしていきたいです。 2025年1月投稿 「私たちの足跡は残さない」 投稿者: 松橋 久恵(まつはし ひさえ) さん 訪問看護ステーションそら(東京都) ある女性との出会いです。がんの症状が出現したため訪問看護が始まり、症状緩和、生活の工夫、家族支援を模索しながら訪問していました。女性は薬の管理が負担だったので、薬カレンダーを使おうと思いました。しかし部屋は子供の写真や絵が一杯で、薬カレンダーは相応しくありません。そこで薬をファイルにセットして本棚に入れました。女性は子供が学校にいる時間に訪問を希望しました。私は訪問の形跡を残さないよう努めました。女性はよく家族への思いを話し、「手紙を残したい」とも話していました。字を書くことが難しくなりそうなときに手紙について尋ねると「なんとなく書けない」とのことで、私が聞いてきた話を文章にする承諾をもらいました。それから数日後に家族に見守られながら息を引き取り、家族に文章を渡しました。病気が進行しても、いつもの暮らしを維持することを考え、希望を叶える手伝いをすることが大事だと教えてもらった出会いでした。 2025年1月投稿 「最後の約束」 投稿者: 松元 春華(まつもと はるか) さん 楽らくサポートセンター レスピケアナース(福岡県) 往診医の要請を受け、夜間の呼吸状態急変に対して緊急訪問した時のことです。終末期にある女性の利用者さんで、苦痛を緩和するため、鎮静剤の投与を検討されていた時期でした。到着した時は、既に朦朧とした意識の中で一生懸命呼吸する彼女を、大学を休んでお母さんに会いに来ていた息子さんとご主人が、心配そうに気遣っているところでした。往診医が到着し、ご家族と相談して鎮静剤の投与が決定したその時です。息子さんが「ちょっとだけ待ってください!」と、席を外されました。そして次に現れた時、息子さんはスクラブを着て、首から聴診器を下げた、“医者”の姿をしていたのです。県外の医大に通っていた息子さんは、彼女の前に立ち、「お母さん見て。僕が医者になった時の姿だよ!」と、鎮静を開始する前のお母さんに、彼女が見ることのできない、将来の自分の姿を見せてくれました。虚ろな目で息子を見る彼女の手を取り、息子さんは「立派な医者になって、お母さんみたいな人をたくさん救うからね」と、声を震わせながら何度も何度も約束したのです。とても尊いそんな時間を過ごした数日後、彼女は息を引き取りました。夢に向かう息子さんのこれからに、色んな想いを込めながらした、母との最後の約束が、力を与えてくれるよう願っています。 2025年1月投稿 「仲良し夫婦」 投稿者: 水島 真由美(みずしま まゆみ) さん 訪問看護ステーションひだまり(京都府) Aさん御夫婦。長年連れ添ってほぼ同じタイミングで、同じ胃癌。余命宣告。長年一緒に過ごした自宅に帰りたい。との気持ちを大切に大急ぎで在宅調整し退院してこられました。初めましての挨拶からすぐにケアが始まりました。御夫婦は日当たりのいい部屋にレンタルのベッドを並べほっと一息。二人で一緒に逝けたらな…と言うご主人の言葉でしたがその日のうちに奥様の容態が急変。帰らぬ人になりました。はじめはご主人も気持ちの整理がつかず点滴の合間に葬儀などが慌ただしく終わりました。すぐに奥様のところにと言う言葉もありましたが悲しみのまま残された時間を過ごしてほしくないと思いました。奥様との思い出、ご主人の好きなことなどたくさんお話をして少し先に逝った奥様へのお土産話をたくさん作りましょうと、声をかけ少しずつあれが食べたい、何をしたいと希望をおっしゃってくれるようになりました。奥様を見送ってひとつき。そろそろかな。今月が終わったら奥さんに会いに行くと笑顔で話され、もう少しお土産話作りましょうねと声をかけましたが、本当にその月の最終日に穏やかに息を引き取られました。その穏やかな顔をみて人生の最終段階、少しでも悲しみではなく穏やかな気持ちでその日を迎えられるよう身体も心も支えていける訪問看護師であろうと改めて誓った出会いでした。 2024年12月投稿 「思いに寄り添う訪問看護」 投稿者: 吉崎 由希子(よしざき ゆきこ) さん 医療法人社団成美会 訪問看護ステーションあさがお(茨城県) 定年を迎え、妻と旅行を楽しもうとしていた矢先、病院で末期の食道癌と診断されたAさん。転移があり医師から治療は困難と、セカンドオピニオンでも診断は変わらず。訪問診療と共に訪問看護も介入し、連日訪問。【また家族で出かけたい】との思いを叶える為、DRはIVHポート挿入、栄養状態が改善。輸液をバッグに入れ、家族とドライブ、ふきのとう狩り、山菜取り等に外出し思いが叶ったと。在宅では、愛する妻がそばにいて、子供たちに毎日会え、孫は保育園から帰るとジイジの頬にチュッとパワーを注入。愛犬も家族、常に一緒の生活が幸せと。ある日Aさんより「吉崎さん、お願いがあるんだ。絶対俺が痛んだり苦しんだりする事が無いようにしてくれな。吉崎さんの事は俺がちゃんと天国に連れてってやるからな」と死を受容しての言葉。疼痛にはPCAを使用。苦痛は最小限に在宅で大好きな家族と毎日Aさんらしく生活できるよう訪問しました。大好きな家族、妻、子供、孫、愛犬に見守られ、穏やかな最期でした。エンゼルケアは家族と泣き笑いながら、生前に決めていた素敵なスーツに着替えました。その後も残された家族に会いに行き、車ですれ違えば大きく手を振り合っています。私が亡くなったらAさんに会え、Aさんが私を天国に連れて行ってくれます。その時まで、私は訪問看護師をしながら、Aさんのように自分らしく精一杯生き抜こうと思います。 2025年1月投稿 「今日は〇点!」 投稿者: 渡邉 凪沙(わたなべ なぎさ) さん セコム大田訪問看護ステーション(東京都) これは私が新卒で訪問看護ステーションに就職し1ヶ月経った頃、初めて入浴介助を行ったFさんの話です。Fさんは80代の男性です。若いころからお風呂が大好きで、湯船に浸かった時には歌を歌い、「気持ちよかったぁ」と言いながら上がるのがお決まりでした。私が初めて入浴介助を行ったとき、部屋に戻るとFさんが突然「今日は80点!」と言いました。何についてかと聞くと介助に対しての点数でした。減点の理由は、頭をもっと強く洗ってほしい、ここが洗い足りない・流したりないなどでした。このとき私は、次は絶対に100点を取るぞ!と心に決め、教えていただいたところを特に気を付け介助しました。すぐに100点とはならず、今日はここが物足りなかったなど、毎回教えていただき、4回目の訪問でついに「今日は100点!」をもらうことが出来ました。私はこれを通して、自分の勉強や練習だけではなく、利用者さんにも成長させていただける訪問看護はとても魅力的だと感じました。未熟な私に、根気強く教えていただいたFさんに感謝しながら、これからも、一人前の訪問看護師になれるように頑張りたいと思います。 2025年1月投稿 * * * 皆さま、おめでとうございます!今後、「みんなの訪問看護アワード」表彰式の様子をご紹介する記事や、大賞・審査員特別賞・ホープ賞を受賞したエピソードの漫画記事も順次公開予定です。ぜひご覧ください。 編集: NsPace編集部 [no_toc]

【3月11日up】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】
【3月11日up】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】
特集
2025年3月11日
2025年3月11日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しましたので発表いたします。本記事では、大賞1件、審査員特別賞3件、ホープ賞1件、協賛企業賞5件のエピソードをご紹介します! 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」 投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん 株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) 浦安にある、とある病室での20時半すぎ。重い空気が流れるカンファレンスが行われていた。患者さんは、31歳のえみさん。肺がんで12L/分の酸素投与をうけている。えみさんは、涙ながらに、家に帰りたいと医師に訴えていた。えみさんは、1~7歳までの4人お子さんをもつお母さん。憧れの東京ディズニーランドに行くため家族で宮崎から上京した。途中、機内で呼吸困難が出現。着陸後、病院に運ばれた。急展開の中、子供たちと別れた。「お母さん、お母さん」と子供たちの泣く声が聞こえた。必要な治療と厳しいICを受けた。宮崎に帰る体力は乏しく、予断の許さない命と説明されたが、えみさんの強い意思と覚悟に医療者も心揺れた。療養の場は在宅医療と訪問看護へと襷(たすき)が渡った。帰郷を目標に在宅で3日間体調を整える。緩和ケアだけではなく、身体と心に栄養を蓄える。看護師は精一杯、気力を高める手当てをした。一方、静岡・神戸・岡山・宮崎の訪問看護の仲間の協力を仰ぎ陸路帰郷に決定、準備に入った。サロンカーに酸素ボンベを25本備え、エアマットを敷いた。在宅医師と看護師が同乗し宮崎を目指して出発した。20時間後、えみさんの笑顔は子供たちの中にあった。「お母さん、お母さん」とはしゃぐ声が聞こえる。在宅医療と訪問看護は地元のステーションへ襷がつながった。長い1200kmであり、貴重な5日間となった。翌日、えみさんは家族に囲まれ旅立った。 2025年1月投稿 「ハッピーライフ通信を活用してから意味のある看看連携ができた」 投稿者: 大橋 奈美(おおはし なみ) さん 訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ(大阪府) ハッピーライフ通信は、退院後、訪問看護の現場を経験していない病院看護師が具体的に想像できるといいなと思い訪問看護での事実を病院へフィードバックしてみようと考えたことから始まった。病院と在宅の看護師間で意味のある連携ができるよう、紹介元へ退院後2~3週間の療養者の様子を写真付きのお手紙『ハッピーライフ通信』にして送る。退院指導された内容の中で、退院後変更した点を肯定的にフィードバックする。ある病院看護師からは、「急性期のベッドサイドケアのみの看護だったが、外の世界を見ることで看護の意味が繋がった。病院ではベッドの回転率に振り回され、看護の喜びが薄れてきて、自分の看護への思いが枯渇してきていると感じることがあった。そんな現状の中で読んだハッピーライフ通信は心に沁みた。良い看取りだったと泣ける喜びを知った。日常の看護では、看護師は泣いていられないくらい忙しい。療養者の安らかな看取りを手紙で届けてくれることは、自分たちの看護が決して無駄ではなく、本当に繋がったということを実感した」とお返事をいただいた。看護師は日常業務に追われ、退院後を知る機会は多くはない。訪問看護師たちも病院看護師もやりとりを通じて、互いの立場や役割、看護への理解が深まり、まさに愛のある看看連携の役に立つ連携、やりがいに繋がっていくと実感する。 2025年1月投稿 「看護師にご褒美をくれたA氏」 投稿者: 田端 支普(たばた しほ) さん 訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ(大阪府) A氏は腎臓がん末期、多発肺転移、酸素が必要な状態で1人暮らしの自宅に退院してきました。自宅に帰って第一声は「あ~やっぱり家がいいわ。死ぬまで家にいたい」でした。そして酸素を外し「タバコは死んでもやめへんで」と言って一服したのでした。その時のA氏の幸せそうな顔を今でも覚えています。そんなA氏から夜になると電話が鳴るのです。ターミナル期のA氏からの夜の電話にドキッとしながら電話に出ると「布団がおちた」「明日何時に来る?」という内容に、緊急電話違うやんとホッとしながら返事をして電話を切るのでした。ターミナル期のA氏からの夜の電話は心臓に悪いので、私はこちらから先に電話して「明日は10時に訪問するよ」「もう寝たらすぐ明日やで。お休み」とお休み電話をするようにしたのでした。そんなA氏とのお別れの時が近づいてきたころA氏に「病院と違って夜は1人になるけど退院してきてよかった?」と聞いてみました。するとA氏は、「こんな風に、皆が毎日、来てくれて淋しくなかった」「毎晩、看護師さんとおやすみって電話して、おやすみって答えてくれて、それが嬉しかった」「1人じゃないって思った」「不安で帰って来たけど、不安が安心に変わった」と話してくれました。このA氏の言葉に私は目頭が熱くなりました。A氏の「不安で帰って来たけど、不安が安心に変わった」という言葉に、看護師へご褒美をもらった気持ちになりました。 2025年1月投稿 「意思疎通、出来ます。」 投稿者: 服部 景子(はっとり けいこ) さん 愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) 80代女性、脳梗塞、失語、介護5。ケアマネより「意思疎通不可の方。大声を上げる為2箇所のデイサービスから利用終了と言われ困っている」と訪問依頼。トシ子さんは身体を固くし大きな声を上げ続けており、バイタルどころか全てのケアを拒否されます。表情を固くしたままの娘さんとも会話が続きません。4回目の訪問時、玄関の外までトシ子さんの声が響いていました。「デイサービスから迷惑と言われてしまいました。マンションからも苦情が来ないか気がかりです」と娘さんがうつむきます。「意味無く声を上げている訳では無いと思います。一生懸命何か伝えて下さっているのに、汲み取れない私が悪いんです。鈍い看護師でごめんなさい」。そう伝えると、娘さんの頬が緩んだように見えました。いつもは娘さんだけを目で追うトシ子さんが、突然私と視線を合わせ顔をしかめて声を上げます。「トシ子さん何処か辛いのですか?」と尋ねると、微かに頷いて返事をしてくれました。その様子を見て、娘さんも私もびっくり。腕?腰?足?には無反応、お腹?に"うん"と。便は2日置きに出ていると聞いていましたが、浣腸で大量排泄。その後、整腸剤内服と週1回の摘便で、大声を上げる事が無くなりました。今では、バイタルはもちろんリハビリも出来ます。ニコッと微笑んでくれますし、一緒にハミングしたり、テレビを見て笑ったり、デイサービスにも通っています。皆様!トシ子さんは意思疎通可です! 2025年1月投稿 ※訪問看護歴3年未満の方対象 「いつものアップルパイ」 投稿者: 梶本 聡美(かじもと さとみ) さん 訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府) 脳腫瘍により片麻痺や失語症があるTさんはご主人の介護を受けて生活しており、台所に立つこともなくなっていた。訪問看護に対していつも受け身で淡々としているTさんはどこか諦めを感じているように見えた。作業療法士としてどう関わればいいか悩んでいた私に、管理者が「Tさんとアップルパイ作らない?」と声をかけてくれた。管理者が訪問した時にTさんが「私の作るアップルパイ美味しいのよ」と言っていたらしい。こうして始まった訪問看護でのアップルパイ作り。Tさんは言葉が出難いながらも作業の助言をしたり、煮詰めたりんごの火加減を確認するなど、表情豊かで精力的に動いていた。アップルパイ作りが気になるスタッフやケアマネも訪問し、賑やかになった空間の中心にはTさんの笑顔があった。焼きたてのアップルパイを食べ「いつもの味」と呟いたTさん。今後できないことが増えても、今できること、楽しめることを探して関わっていきたいと思った。 2025年1月投稿 看護のアイちゃん:本物の看護がしたい賞 協賛企業: セントワークス株式会社処置屋さんでも報告屋さんでもない、本物の看護がしたい!として誕生したソフト『看護のアイちゃん』です! 「パソコンの得意な看護師さん」 投稿者:小出 真理子(こいで まりこ) さん 訪問看護ステーション オリーヴ(長野県) 数年前に受けたALSの男性のお話です。一年前から急激に進行しており退院したいがこれが最後かもしれないと病棟でカンファレンスに呼ばれました。数名の医師や病棟看護師、ケアマネージャーなど見たこともない数の専門職が集まっていました。本人は気管切開を拒否しており病棟看護師が泣き出すくらい悲壮な雰囲気が漂っていました。訪問2日目、私たちも緊張しながら医療機器を操作したり本人の希望であるノートパソコンを起動。呼吸苦の中やっとのことでパソコンを開けると画面には初期化しますか?という見慣れない表示。困惑して諦めようとしていたので操作を代わりました。彼が指示した場所を開けてみると画像添付されており元職場の部下からでした。画像を開けると、今より自信に満ちて笑顔の健康的なご本人の証明写真でした。開けた時に、私はハッとして遺影にされるつもりなのだと感じました。彼は私に「これだけが心残りで、パソコン操作をしたかった」と満足げでした。それからすぐ病院に戻られ数ヶ月後に亡くなられました。奥様にお悔やみのハガキを送ると「パソコンの得意な看護師さんだったんだぞ」と妻に語っていたと記されていました。数回しか関わりの無かった方でしたが、心残りのない人生を支援したいという看護観があの時形成されたのを感じます。 2024年12月投稿 「無人島に街を!」メディヴァ賞 協賛企業: 株式会社メディヴァ患者視点の医療改革を理念に、医療・介護・予防分野において、革新と価値創造を目指すコンサルティング企業 「地域に開かれた場所として」 投稿者: 馬場 直子(ばば なおこ) さん 訪問看護サボテン砂町(東京都) 脳梗塞後遺症、糖尿病による褥瘡悪化の創処置にて訪問看護利用となった80代女性。夫と息子と3人暮らし。夫、心臓の持病を抱え介護のストレスを訴えていた。数カ月後、妻の容態が急変し入院。入院後コロナ禍で面会が出来ない状況となり、頻回にステーションに立ち寄り妻の心配を話し帰られる。それがしばらく来ない日が続き心配していた矢先、亡くなったとケアマネより連絡あり。お悔やみに訪問した際、もっと色々としてあげたらと後悔を口にする。その後、1人になった寂しさや自身の体調の不安定さから、以前の様に頻回にステーションへ顔を出すようになる。朝早くまた昼、夜と。ステーションに居るスタッフが血圧測定や健康相談、何気ない話で安心した顔で帰って行く。下町の商店街にあるステーションで、子供や高齢者、海外の方など知らない方でも気軽に立ち寄れる場所。これからも、地域の輪が広がってほしいと思います。 2025年1月投稿 東洋羽毛賞 協賛企業: 東洋羽毛工業株式会社私たちは現場で頑張る訪問看護師の皆様を快適な眠りでサポートします。 「マクワウリ」 投稿者: 木内 亜紀(きうち あき) さん 地域ケアステーションゆずり葉(埼玉県) 初めて訪問した日、彼は怒っていた。これまでの医療者との関わりに不満を募らせる彼にどうしたら傍に寄せてもらえるのか。彼の心が穏やかだった頃ー。そうだ、子供の頃美味しかったものはなんですか?季節は6月終わり。夏の暑い最中に食べた懐かしい味を思い浮かべてもらう。「マクワウリかな。井戸水で冷やして食べた。美味かったなぁ」。一瞬、子供に戻って教えてくれた。心の扉がほんの少しだけ開いたけど、マクワウリって?すぐにステーションの皆にヘルプ。最年長看護師が休日に青果市場で発見!早速お届けすると目をまん丸にさせて「どこにあったの?」とクシャクシャな笑顔。その日から少しずつ目が優しくなった。怒っている人は、大切にされたい人。ある日、彼から「病院にいた時にお世話になった人にお礼がしたい」と頼まれた。名前もしっかり覚えている。一か八か、その場で病院に連絡してみた。するとたまたま出勤日で、電話にも出てくださった。彼は電話口で大泣きしながら「ありがとう。あなただけが僕に親身になってくれた。本当に感謝してる」と伝えていた。電話を切った後、まだ泣いていた。私もちょっと泣いた。それから数日、彼はひとり暮らしのベッドの上で亡くなっていた。社会的には孤独死というのかもしれない。でもきっと彼はひとりじゃなかった。そう思う。天国で、先に逝った大切な人とマクワウリの話をしてくれていたら嬉しいな。 2025年1月投稿 Tomopiia賞 協賛企業: 株式会社 Tomopiia看護師の『聴く』を育てる、新しい看護のカタチ「SNS看護」が学べるTomopiia(トモピィア)です。 「経験年数を超えて」 投稿者: 越村 麻子(こしむら あさこ) さん なないろ訪問看護ステーション(千葉県) 血管性認知症の利用者さん。いつも無表情でいわゆる易怒性があり、看護師へ怒鳴ることは日常茶飯事、時にはケア中手を上げることも。彼を担当しているのは、ブランク25年を経て訪問看護師1年目となったNさん。ある日Nさんと同行することになりました。ケア中、髭剃りのため首にかけたタオルを外そうとする利用者さん。私は咄嗟に「外さないで大丈夫です、これから髭剃りをしますから。」と伝えたが、Nさんは利用者さんの行動を不思議そうに見ていた。すると利用者さんは緩慢な動作で、Nさんの手についた汚れをそのタオルで拭き「わりぃね」と一言。「何かと思った、ありがとうございます」と返すNさん。2人で朗らかに笑っていました。私は、認知症の利用者さんが「状況理解ができずタオルを外そうとした」と決めつけていた自分に気付きハッとしました。Nさんは「何かは分からないけど、何かをしたいんだろうと思って」と言っていました。良いケアの提供に、経験年数は関係ないな。誰のためのケアなのか、心地よいケアとは。ケア専門職として忘れてはいけないことを、Nさんから学んだ日でした。 2024年11月投稿 NTTプレシジョンメディシン賞 協賛企業: NTTプレシジョンメディシン株式会社業務をまるごとDX。訪問看護ステーション用電子カルテ「モバカルナース」 「後悔しない人生」 投稿者: 鈴木 沙恵子(すずき さえこ) さん ハレノヒ訪問看護ステーション(東京都) 利用者様から学ばせていただいたお話です。「人生はあっという間に終わってしまうんだよ。後悔しないために毎日努力を続けなさい。」90代男性Kさん。職業元デザイナー。人生の終末期にいただいた言葉でした。Kさんはそう言いながら笑顔で私の首にスカーフを巻いてくれました。どの色が合うかコーディネートするその表情はとても真剣で、Kさんであり続けるその姿勢に胸が熱くなりました。この3日後、Kさんは永眠されました。相手の気持ちを受けとめること。丁寧にお辞儀をすること。感謝すること。いただいた笑顔に、もっと大きな笑顔でお返しするとその場の空気が変わること。在宅の現場で仕事をしている私は人生の大先輩方にたくさんのことを学ばせていただいています。利用者様が医療者にお世話になっていると感じるのではなく、利用者様が辛いときや苦しい時にはたくさんの人が自分を支えてくれるんだと思える環境を提供することが、在宅医療だと感じています。これからも私のありがとうの気持ちは心からのありがとうだと伝わるように、ひとつひとつ丁寧にケアを行っていきたいと思います。私の人生の最期に、Kさんのように前向きで真っすぐで、誠実な言葉を誰かに残せるだろうか。その時伝えられる言葉が、看護師として努力してきた自分の証となる言葉だといいな、と心から思っています。 2024年12月投稿 皆さま、おめでとうございます! 入賞作品については、こちらの記事をご覧ください。つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 編集: NsPace編集部 [no_toc]

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら