制度に関する記事

インタビュー
2022年4月19日
2022年4月19日

DCTを知っていますか/分散型臨床試験(治験)

本稿では、訪問看護における在宅治験業務の可能性を考えていきます。その前提として、治験の全体像を整理しておきましょう。 黑川友哉千葉大学医学部附属病院 臨床試験部 助教千葉大学医学部附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科(独)医薬品医療機器総合機構 専門委員 非病院依存型治験 訪問看護が一翼を担う可能性のある治験は、来院(Visit)に依存した従来型治験ではなく、DCT(Decentralized Clinical Trial)と呼ばれる治験のスタイルです。 DCTは、一般に「分散型治験(分散型臨床試験)」と呼ばれていますが、私は「非病院依存型治験」とも表現しています。 従来型治験で来院して行っていた投薬・診察・検査・評価・観察などを、来院に依存することなく行います。 それを可能にするのが、流通インフラ(治験薬の配達やスピッツの開発・回収)、オンライン診療、ITツール、訪問看護などです。これらの活用より、自宅や介護施設などから治験に参加することができます。 日本における現状 DCTは、新しい医療を切りひらく可能性がある画期的な治験の方法ですが、日本において、DCT普及のハードルはかなり高いのが実感です。理由を三つ挙げてみます。 DCTが広がらない理由(課題)①認知不足 自宅などに居ながら治験に参加する方法があることを、被験者(患者)、医師、コメディカルが知らない。 DCTが広がらない理由(課題)②ノウハウ不足 従来の来院型と同じクオリティを、オンラインのデバイスを使った場合にも保つノウハウが蓄積されていない。たとえば、オンラインでの説明や同意を行うために必要な準備や、注意点、規制上の落とし穴はないのか、というように、多くの医療従事者にとって未知の領域が大きい。 DCTが広がらない理由(課題)③規制内容の未整理 治験に関する関連法規や厚生労働省の通知などが、DCTにどのように適用されるかといった規制内容が整理されていない。 こうした理由から、日本ではDCTの普及が遅れています。特に「③規制内容の未整理」は、治験の実施に必須であるプロトコールの策定に支障をきたすなど、普及へのハードルとなっています。しかし、普及への課題をしっかりとみきわめながら事例を蓄積することで、解決策がみえてきます。 たとえば、一つひとつの事例のなかで、規制当局との議論を繰り返すことにより、DCTの実施側も当局側も論点整理ができてきます。その結果、DCTの考えかたを盛り込んだ治験の計画書が作りやすくなります。 今後の展望と期待 現状としてはいくつかのハードルはあるものの、DCTの将来性は、大きな期待と可能性に満ちています。それは、DCTがもたらすメリットが多岐にわたることによります。以下に四つのメリットを例示します。 メリット1:高齢社会に対応 高齢化が加速するなか、時代に対応した「くすり」の開発は急務であり、自宅や介護施設においても治験への参加が可能になるDCTは、時代に適合した治験スタイルだといえます。 メリット2:リクルートメント効率の向上 リクルートメントとは、被験者を募集し治験に組み入れるまでの活動のことです。被験者の来院回数を軽減できるDCTは、自宅に居ながら最先端の治療に触れられる機会となり「これなら参加してもいい」という被験者を増やし、リクルートメント効率の向上が期待できます。 メリット3:治験コストの低下 日本は諸外国に比べ、リクルートメント効率が悪いことが知られています。それが要因となって一つひとつの治験にかかる費用が増しており、海外の製薬企業は、日本よりも安く治験が行える国での開発を進めるようになっています。 DCTは、リクルートメント効率の向上を含めた治験コストの低下が期待でき、治験の日本への回帰が見込まれます。多くの治験が日本で行われるということは、海外で使える医薬品が日本国内では使えないという「ドラッグラグ」の解消に、必要不可欠なのです。 メリット4:観察の精度が上がる ウェアラブルデバイスの開発が進み、日常生活における健康面のデータを取得できるようになっています。生活場面での治験を主軸とするDCTは、きめ細かいデータ収集が可能であり、観察の精度が上がる可能性を秘めています。結果として、承認申請においても、医薬品や医療機器の有効性を後押ししてくれるようなデータが得やすくなると思われます。 上述のメリット4は、私の専門の耳鼻咽喉科領域の治験でも期待されています。 耳鼻咽喉科は、聴覚、嗅覚、味覚といった感覚に関する疾患も対象とします。これらの症状は日々または日動変動が顕著で、来院時の診察だけで症状の推移を把握することは、ほぼ不可能です。つまり、従来型の治験では、「くすり」の開発は難しく、日常生活の場面で継続的なデータを収集しやすいDCTに期待が高まります。 このようにDCTには、従来型の治験を超える可能性に満ち、日本の医療開発を支えるうえで、非常に重要なテーマになると確信しています。 後編では、DCTにおける訪問看護師の役割についてお伝えします。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年4月5日
2022年4月5日

訪問看護関連の「ここがポイント!」/令和4年度 診療報酬改定・決定版 後編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が確定しました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わるポイントを解説します。(2022年3月15日現在) 【目次】[ポイント1] 専門性の高い訪問看護師の専門的な管理に対する「専門管理加算」の新設 [ポイント2] 同行訪問する専門性の高い看護師に特定行為研修修了看護師が追加[ポイント3] 訪問看護師が特定行為を行う際に医師が「手順書」を交付した場合の「手順書加算」新設[ポイント4] 医療ニーズの高い利用者にメリット-複数名訪問看護加算で看護補助者が同行する場合に看護師等が含まれる[ポイント5] 看取りニーズへの対応-退院日に行ったターミナルケアの指導も加算要件[ポイント6] 訪問看護師がICTを活用して医師の看取り支援を行った場合の「遠隔死亡診断補助加算」新設[ポイント7] 医療ニーズの高い退院患者への長時間の退院支援指導の評価[ポイント8] 理学療法士が行う訪問リハビリテーションの報告が厳密に-訪問看護指示書に実施時間と頻度を明記[ポイント9] 事務手続きの簡素化-難病等の利用者への複数回訪問看護において評価区分の統合 【関連URL】・令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000920430.pdf・令和4年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html 【告示・通知】・厚生労働省令第32号「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準の一部を改正する省令」・保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について・保発0304第3号 令和4年3月4日 「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」・保医発0304第4号 令和4年3月4日 「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」・厚生労働省告示第59号「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件」 令和4年3月4日 ・厚生労働省告示第60号「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等の一部を改正する件」 令和4年3月4日 [ポイント1] 専門性の高い訪問看護師の専門的な管理に対する「専門管理加算」の新設  訪問看護ステーションに配置されている専門の研修を受けた「専門性の高い看護師」が訪問看護を行い、利用者の病態に応じた高度なケアおよび計画的な管理を実施した場合の評価として「専門管理加算」が新設され、月1回に限り所定額に2,500円が加算されます。 「専門性の高い看護師」とは、がん看護領域(緩和ケア、がん性疼痛看護、がん化学療法看護、乳がん看護、がん放射線療法看護)の認定看護師とがん看護専門看護師、および皮膚・排泄ケア認定看護師、ならびに特定行為研修を修了した看護師です。特定行為研修を修了した看護師が特定行為を行う場合は、「手順書加算(後述)」を算定する利用者が対象になります。 在宅患者訪問看護・指導料及び同一建物居住者訪問看護・指導料においても同様です。 専門管理加算 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p28より引用 [ポイント2] 同行訪問する専門性の高い看護師に特定行為研修修了看護師が追加 専門性の高い看護師による同行訪問を評価する「訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅱ)」の施設基準にある「褥瘡に係る専門の研修」に、「特定行為研修(創傷管理関連)」が追加されました。 国は特定行為研修の推進を強力に進めており、ここでも「特定行為研修を修了した看護師」にインセンティブが与えられた形です。今回の改定では、精神科リエゾンチーム加算、栄養サポートチーム加算、褥瘡ハイリスク患者ケア加算、呼吸ケアチーム加算の要件として履修が必要とされる研修の種類にも特定行為研修が追加されました。 「在宅患者訪問看護・指導料」の3、および「同一建物居住者訪問看護・指導料」の3についても同様です。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p28より引用 [ポイント3] 訪問看護師が特定行為を行う際に医師が「手順書」を交付した場合の「手順書加算」新設 訪問看護師が特定行為を行う際の医師の「手順書」交付に「手順書加算」が新設されました。 訪問看護ステーションの特定行為研修を修了した看護師が「特定行為」を行う際には、保険医療機関の医師が診療に基づいて特定行為の必要性を認めることが前提となります。 特定行為は、下記のように訪問看護において専門の管理を必要とするものに限られます。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p29より引用 [ポイント4] 医療ニーズの高い利用者にメリット-複数名訪問看護加算で看護補助者が同行する場合に看護師等が含まれる 複数名訪問看護加算で看護補助者が同行する場合に、看護師等が同行する場合も含めることになりました。 「複数名訪問看護加算」は、複数名で訪問看護を行う必要がある利用者に対して、同時に複数の看護師等による訪問看護を行った場合に算定できる加算です。「複数の看護師等」が同時に訪問を行う場合と「看護師等と看護補助者」が訪問する場合で、回数制限も算定額も違います。 これまでは看護補助者の同行では、「看護職員が看護補助者と同時に指定訪問看護を行う場合に限る。」とされていました。今回の改定では「看護補助者」が「その他職員(看護師等または看護補助者)」と変わり、看護師等が同行する場合も算定可能になりました。看護師等が複数で同時訪問する必要性の高い医療的ニーズの高い利用者にはメリットになります。 在宅患者訪問看護・指導料の注7及び同一建物居住者訪問看護・指導料の注4に規定する複数名訪問看護・指導加算も同様です。 複数名訪問看護加算の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p25より引用 [ポイント5] 看取りニーズへの対応-退院日に行ったターミナルケアの指導も加算要件 退院日に行ったターミナルケアに係る指導も「訪問看護ターミナルケア療養費」の要件として認められるようになりました。 「訪問看護ターミナルケア療養費」の算定にあたっては、利用者の死亡日とその前14日以内に2回以上の指定訪問看護を実施することとなっています。 これまでは、退院日の訪問は訪問看護基本療養費の算定ができなかったため、利用者が退院日かその翌日に亡くなった場合は、「訪問看護ターミナルケア療養費」は算定できませんでした。しかし、ターミナル期の利用者は退院直後に死亡することも多く退院日に訪問看護師がケアを行うことが多いため、指定訪問看護に「退院支援指導加算の算定に係る療養上必要な指導を含む」と変更されました。 1回を退院支援指導加算とする場合には、退院日にターミナルケアに係る療養上必要な指導を行っていることが必要です。 訪問看護ターミナルケア療養費の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p32より引用 [ポイント6] 訪問看護師がICTを活用して医師の看取り支援を行った場合の「遠隔死亡診断補助加算」新設 訪問看護ステーションに配置されている「情報通信機器を用いた在宅での看取りに係る研修」を受けた看護師が主治医の指示に基づいてICTを活用して、医師の死亡診断の補助を行う場合に、「遠隔死亡診断補助加算」として、1,500円が所定額に加算されます。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p34をもとに作成研修を受けた看護師が主治医の指示に基づき、ICTを活用し、医師の死亡診断の補助を行う 遠隔死亡診断補助加算 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p34より引用 [ポイント7] 医療ニーズの高い退院患者への長時間の退院支援指導の評価 退院日に看護師等が長時間にわたる退院支援指導を行った場合、退院支援指導加算として8,400円加算されることになりました。 「退院支援指導加算」は、退院時に訪問看護ステーションの看護師等が、退院する医療機関以外の場で、退院時に療養上必要な指導を行った場合に算定されます。訪問看護管理療養費は、退院日の翌日以降初日の指定訪問看護実施日に6,000円加算されるというものです。今回、医療的ニーズの高い利用者に対しては長時間の退院支援指導を行っている実態を反映した見直しとなりました。 退院支援指導加算の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p31より引用 [ポイント8] 理学療法士が行う訪問リハビリテーションの報告が厳密に-訪問看護指示書に実施時間と頻度を明記 医療的ニーズの高い利用者に対する理学療法士による訪問看護が適切に提供されるように、訪問看護指示書の記載方法が変更になりました。 具体的には、理学療法士等が訪問看護の一環として行う訪問リハビリテーションの「時間」と「実施頻度」を訪問看護指示書に記載することになりました。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p26より引用 [ポイント9] 事務手続きの簡素化-難病等の利用者への複数回訪問看護において評価区分の統合 難病等複数回訪問加算において、同一建物内の利用者の人数に応じた評価区分の加算について、同じ金額の評価区分を統合することになりました。 「難病等複数回訪問加算」は、難病等の利用者に対して必要に応じて1日に2回または3回以上の指定訪問看護を行った場合に算定でき、回数によって算定額が変わります。同一建物居住者に対しては複数回・複数名の訪問看護に対しては減算になるようになっています。今回の見直しにより、事務手続きの簡素化が図られました。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年3月29日
2022年3月29日

訪問看護関連の「ここがポイント!」/令和4年度 診療報酬改定・決定版 前編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が確定しました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わるポイントを解説します。(2022年3月15日現在) 【目次】[ポイント1]  訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた[ポイント2]  複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった[ポイント3]  機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加[ポイント4]  訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 【関連URL】・令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000920430.pdf・令和4年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html 【告示・通知】・厚生労働省令第32号「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準の一部を改正する省令」・保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について・保発0304第3号 令和4年3月4日 「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」・保医発0304第4号 令和4年3月4日 「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」・厚生労働省告示第59号「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件」 令和4年3月4日 ・厚生労働省告示第60号「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等の一部を改正する件」 令和4年3月4日 [ポイント1] 訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた 訪問看護ステーションに業務継続計画(Business Continuity Plan:BCP)の策定が義務づけられました。感染症や非常災害が発生した場合でも必要な訪問看護サービスを継続的に提供するため、そして非常時の体制で早期の業務再開を図るためです。業務継続計画の定期的な見直し、必要に応じた変更も義務化されました。さらに、業務継続計画は職員(看護師等)にしっかりと周知し、必要な研修・訓練を定期的に実施しなければなりません。ただし、令和6年3月31日までは努力義務とされる経過措置がとられています。 業務継続に向けた取組強化の推進 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 ○業務継続計画の具体的な項目1)感染症に係る業務継続計画①平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取り組みの実施、備蓄品の確保等) ②初動対応 ③感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有等)2)災害に係る業務継続計画①平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄等) ②緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制等) ③他施設及び地域との連携○研修・訓練1)研修:平常時の対応の必要性や緊急時の対応に係る理解の励行。定期的(年1回以上)教育を開催し、研修の実施内容を記録する2)訓練(シミュレーション):感染症・災害発生時に迅速に行動できるよう、事業所内の役割分担の確認、実践するケアの演習等を定期的(年1回以上)実施 保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について.4-(17)-②イ,ロより引用 [ポイント2] 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった 複数の訪問看護ステーションが24時間対応体制加算を取るためには、業務継続計画(BCP)を策定したうえで自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画することが追加されました。 24時間対応体制加算は、必要時に緊急時訪問看護を行うことに加えて営業時間外の利用者・家族等との電話連絡や指導等の対応を評価するものです。複数の訪問看護ステーションが連携して24時間対応できる場合の算定要件として、従来は①離島・山間部などに所在する訪問看護ステーション、②医療を提供しているが医療資源の少ない地域に所在する訪問看護ステーションであることが要件でしたが、今回新たに相互支援ネットワークの参画の要件が加わりました。相互支援ネットワークは、以下のように公的なネットワークであることがポイントです。 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 [ポイント3] 機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加 「機能強化型1」「機能強化型2」では、地域の保険医療機関や他の訪問看護ステーション、または地域住民に対する研修や相談への対応実績があることが必須条件とされました。機能強化型訪問看護ステーションは「機能強化型1」「機能強化型2」「機能強化型3」の3型があり、それぞれ看護職員数、受け入れる重症度の高い利用者数、ターミナルケアや重症児の受け入れ等で違いがあります。 また、評価の見直しも行われ、算定額は「機能強化型訪問看護管理療養費1」が12,830円、「機能強化型訪問看護管理療養費2」が9,800円となりました。 さらに、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいという項目が追加されました。そして、この看護師が専門的な知識および技術に応じて、質の高い在宅医療や訪問看護の提供の推進に資する研修等を実施していることが望ましい、とされました。 機能強化型訪問看護療養費の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護管理療養費1から3までについて、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいこととして、要件に追加する。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護ステーションの要件等 ※変更点を【赤字】で示したhttps://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p22から抜粋 [ポイント4] 訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 訪問看護にかかわる関係機関との連携強化として、情報提供先の範囲が広がりました。訪問看護情報提供療養費1は、訪問看護ステーションと市町村・都道府県の実施する保健福祉サービスとの連携を図るものですが、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児相談支援事業者が追加され、対象が15歳未満の小児から18歳未満の児童となりました。 訪問看護情報提供療養費2は、訪問看護ステーションの利用者が通園・通学するにあたって、訪問看護ステーションと学校等の連携を推進するものです。今回その情報提供先に高等学校が追加され、対象年齢が15歳未満から18歳未満になりました。これによって、医療的ケア児に対する訪問看護が強化されたといえます。 訪問看護情報提供療養費1の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p23より引用 訪問看護情報提供療養費2の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年3月1日
2022年3月1日

「訪問看護」関連はこう変わる! /令和4年度診療報酬改定・速報解説 後編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が示されました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わる重要な部分にフォーカスして、速報でお届けします。(2022年2月14日現在) 【目次】■専門性の高い看護師の訪問看護を推進―「訪問看護管理療養費」の新設【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑭】 ■同行訪問する専門性の高い看護師に特定行為研修修了看護師が追加-「専門性の高い看護師」の「褥瘡ケアにかかる専門の研修」に「特定行為研修」を追加【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑬】 ■訪問看護における医師の「特定行為の手順書」に加算―「訪問看護指示料」の新設【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑮】 ■看取りニーズに応え退院日のターミナルの見直し―訪問看護ターミナルケア療養費の算定要件が緩和【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑯】 ■ICT活用による医師との看取り連携―「遠隔死亡診断補助加算」の新設【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保㉔】 ■医療的ニーズの高い利用者への複数名訪問看護の拡大-「複数名訪問看護加算」の要件の見直し【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑰】 ■訪問看護ステーションの看護師による、退院日の長時間退院支援指導を評価-「退院支援指導加算」の新設【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑱】 ■難病等の利用者への複数回訪問看護における事務手続きの簡素化-「難病等複数回訪問加算」等における同一建物内利用者の評価区分の見直し【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑲】 ※【】内は、個別改定項目について.中医協 総-1 4.2.9,https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdfの項目を表示 専門性の高い看護師の訪問看護を推進―「訪問看護管理療養費」の新設 訪問看護ステーションに配置されている専門の研修を受けた『専門性の高い看護師』が訪問看護を行い、利用者の病態に応じた高度なケアおよび計画的な管理を実施した場合の評価として、「訪問看護管理療養費」が新設され、月1回に限り専門管理加算として所定額に2500円が加算されます。在宅患者訪問看護・指導料および同一建物居住者訪問看護・指導料においても同様です。専門の研修とは、「緩和ケア、褥瘡ケアもしくは人工肛門ケアおよび人工膀胱ケアに係る専門の研修」ならびに「特定行為に係る看護師の研修制度」です。これまでの日本看護協会認定「専門看護師」「認定看護師」に「特定行為研修修了看護師」が追加されました。国は特定行為研修の推進を強力に進めており、今回の改定では、精神科リエゾンチーム加算、栄養サポートチーム加算、褥瘡ハイリスク患者ケア加算、呼吸ケアチーム加算の要件として履修が必要とされる研修の種類に特定行為研修が追加されました。 同行訪問する専門性の高い看護師に特定行為研修修了看護師が追加-「専門性の高い看護師」の「褥瘡ケアにかかる専門の研修」に「特定行為研修」を追加 専門性の高い看護師による同行訪問を評価する「訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅱ)」の算定要件として、訪問看護ステーションの看護師は「専門の研修」を受講することが必須とされています。この研修のうち「褥瘡に係る専門の研修」として、特定行為研修のうち「創傷管理関連の研修」が追加されました。ここでも、特定行為研修修了者にインセンティブを与えるような動きが加速しています。なお、「在宅患者訪問看護・指導料」の3、および「同一建物居住者訪問看護・指導料」の3についても同様です。 訪問看護における医師の「特定行為の手順書」に加算―「訪問看護指示料」の新設 訪問看護ステーションにおいて特定行為研修を修了した看護師が、訪問看護時に「特定行為」を行う際には、医師による「特定行為の実施に係る手順書」が必要となります。そのため、「訪問看護指示料」が新設されます。 訪問看護において専門の管理を必要とする特定行為は、「気管カニューレの交換」「胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換」「膀胱ろうカテーテルの交換」「褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」「創傷に対する陰圧閉鎖療法「持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整」「脱水症状に対する輸液による補正」です。 看取りニーズに応え退院日のターミナルの見直し―訪問看護ターミナルケア療養費の算定要件が緩和 「訪問看護ターミナルケア療養費」の算定にあたっては、利用者の死亡日とその前14日以内に2回以上の指定訪問看護を実施しなければなりません。訪問看護基本療養費または精神科訪問看護基本療養費の算定を2回以上しなければならないのですが、退院日の訪問は訪問看護基本療養費の算定ができませんでした。そのため、利用者が退院日かその翌日に亡くなった場合は、「訪問看護ターミナルケア療養費」は算定できませんでした。しかし、ターミナル期の利用者は退院直後に死亡することも多いため、退院日に訪問看護師がケアを行うことが多いのです。そこで今回、指定訪問看護に「退院支援指導加算の算定に係る療養上必要な指導を含む」として、退院日の退院支援指導を含めることとなりました。 ICT活用による医師との看取り連携―「遠隔死亡診断補助加算」の新設 訪問看護ステーションに配置されている「情報通信機器を用いた在宅での看取りにかかる研修」を受けた看護師が、医師がICTを活用して死亡診断等を行う場合にその補助を行ったとき、「遠隔死亡診断補助加算」として、1,500円が所定額に加算されます。 医療的ニーズの高い利用者への複数名訪問看護の拡大-「複数名訪問看護加算」の要件の見直し 「複数名訪問看護加算」は、複数名で訪問看護を行う必要がある利用者に対して、同時に複数の看護師等による訪問看護を行った場合に算定できる加算です。「複数の看護師等」が同時に訪問を行う場合と「看護師等と看護補助者」が訪問する場合で、回数制限も算定額も違います。看護補助者が同行する場合は、週3日までと制限無しがあり、制限無しには1日2回も1日3回以上もあります。1日に複数回の訪問を行った場合(医療的ニーズの高い利用者の場合)は算定額が高いため、看護補助者との同行訪問が増えました。このときは、「看護職員が看護補助者と同時に指定訪問看護を行う場合に限る。」とされていました。そこで今回、看護師等が同行する場合も算定可能と変更されました。看護師等が複数で同時訪問する場合も評価されれば、医療的ニーズの高い利用者のメリットになるでしょう。 在宅患者訪問看護・指導料の注7および同一建物居住者訪問看護・指導料の注4に規定する複数名訪問看護・指導加算も同様です。 訪問看護ステーションの看護師による、退院日の長時間退院支援指導を評価-「退院支援指導加算」の新設 「退院支援指導加算」は、退院時に訪問看護ステーションの看護師等が、退院する医療機関以外の場で、退院時に療養上必要な指導を行った場合に算定されるものです。退院日の翌日以降初日の指定訪問看護実施日に1回だけ訪問看護管理療養費に加算されるというものです。今回は、退院日に看護師等が長時間にわたる退院支援指導を行った場合の評価を新設し、退院支援指導加算として8,400円加算されます。実際に、長時間の訪問を要する医療的ニーズの高い利用者に対して、訪問看護ステーションの看護師が退院日に長時間(90分以上)の訪問をしているという結果も示されています。 難病等の利用者への複数回訪問看護における事務手続きの簡素化-「難病等複数回訪問加算」等における同一建物内利用者の評価区分の見直し 「難病等複数回訪問加算」とは、難病等の利用者に対して必要に応じて1日に2回または3回以上の指定訪問看護を行った場合に算定できる加算で、回数によって算定額が変わります。これは同一建物居住者に対しては複数回・複数名の訪問看護に対して減算になるようになっています。今回の改定では、同一建物内の利用者の人数に応じた評価区分の加算について、同じ金額の評価区分を統合することになりました。これは事務手続きの簡素化のためです。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月22日
2022年2月22日

「訪問看護」関連はこう変わる! /令和4年度診療報酬改定・速報解説 前編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が示されました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わる重要な部分にフォーカスして、速報でお届けします。(2022年2月14日現在) 【目次】■複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制にBCP策定と地域連携体制参画が必須―「24時間対応体制加算」の算定要件に追加【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑧】※ ■訪問看護ステーションの業務継続を推進-BCP策定、研修・訓練の実施が義務化【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑨】 ■訪問看護師の地域住民への情報提供や相談業務を強化―「機能強化型訪問看護ステーション」のさらなる役割強化【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑩】 ■医療的ケア児に対する訪問看護の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑪】 ■理学療法士の訪問リハビリテーションの内容記載の明示【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑫】 ※【】内は、個別改定項目について.中医協 総-1 4.2.9,https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdfの項目を表示 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制にBCP策定と地域連携体制参画が必須―「24時間対応体制加算」の算定要件に追加 24時間対応体制加算を算定できる場合の要件について、業務継続計画(Business Continuity Plan:BCP)を策定した上で、自治体や医療関係団体等が整備する地域の連携体制に参画する場合が追加されました。「24時間対応加算」の算定要件は、初回は『特別地域』(離島・山間部など)で2つの訪問看護ステーションが連携して24時間体制を整えることでしたが、令和2年度の診療報酬改定で『特別地域』だけでなく、『医療を提供しているが医療資源の少ない地域』と対象が広げられています。 訪問看護ステーションの業務継続を推進-BCP策定、研修・訓練の実施が義務化 感染症や災害が発生した場合でも必要な訪問看護サービスを継続的に提供するために、そして非常時の体制で早期の業務再開をはかるために、訪問看護ステーションにBCP策定が義務づけられました。さらに、職員の看護師等に業務継続計画を周知し、必要な研修・訓練を定期的に実施しなければなりません。介護報酬ではすでに令和3年度介護報酬改定において訪問看護でもBCPの策定が義務化されており、3年間の経過措置の後2024年から義務が発生することになっています。 訪問看護師の地域住民への情報提供や相談業務を強化―「機能強化型訪問看護ステーション」の役割強化 「機能強化型1」「機能強化型2」において、地域の保険医療機関や他の訪問看護ステーション、または地域住民に対する研修や相談への対応実績があることが必須条件とされました。機能強化型訪問看護ステーションは「機能強化型1」「機能強化型2」「機能強化型3」の3型があり、それぞれ看護職員数、受け入れる重症度の高い利用者数、ターミナルケアや重症児の受け入れ等で違いがあります。令和2年度診療報酬改定で追加された「機能強化型3」は、「地域の訪問看護の人材育成等の役割」を評価したものでした。今回は、「機能強化型1」「機能強化型2」においても、訪問看護人材の育成や住民への相談対応など、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化されたものといえます。評価としては、「機能強化型訪問看護管理療養費1」が12,830円、「機能強化型訪問看護管理療養費2」が9,800円となりました。さらに、機能強化型訪問看護管理療養費1~3の算定基準において、在宅看護等に係る専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいという項目が追加されました。 医療的ケア児に対する訪問看護の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 訪問看護情報提供療養費1は、訪問看護ステーションと市町村・都道府県の実施する保健福祉サービスとの連携を図るものですが、対象に指定特定相談支援事業者と指定障害児相談支援事業者が追加されました。そして対象が、15歳未満の小児から18歳未満の児童となりました。訪問看護情報提供療養費2は、訪問看護ステーションの利用者が、保育所、認定こども園、家庭的保育事業、小規模保育事業、事業所内保育事業、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校前期課程、特別支援学校の小学部・中学部に、通園・通学するにあたって、訪問看護ステーションと学校等の連携を推進するものです。今回その情報提供先に高等学校が追加され、対象年齢が15歳未満から18歳未満になりました。医療的ケア児に対する訪問看護が強化されたことになります。 理学療法士の訪問リハビリテーションの内容記載の明示 医療的ニーズの高い利用者に対する理学療法士による訪問看護が適切に提供されるように、訪問看護指示書の記載方法も変更になりました。具体的には、理学療法士等が訪問看護の一環として行う訪問リハビリテーションの時間と実施頻度を訪問看護指示書に記載することになりました。介護報酬においては令和3年度改定ですでに、理学療法士等による訪問看護を行った場合について、通常の訪問看護報告に別添という形で「理学療法士、作業療法士または言語聴覚士による訪問看護の詳細」の記録を添えることになっています。 記事編集:株式会社照林社

特集
2021年10月12日
2021年10月12日

第4回 残業・休憩・休日編/[その1]この違いわかりますか? 割増賃金が発生する残業、しない残業

労働時間の管理は、労務管理の『基本中の基本』です。何が労働時間にあたるのかをきちんと理解していないと、法律で定められた残業代(時間外割増賃金)を適切に支払うことはできません。残業代の未払いに気づかず、ある日突然、スタッフからまとめて請求される……というケースも少なくありません。こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、法的に正しい知識を身につけ、日頃からきちんと労働時間を管理しましょう。 私の事業所では、就業時間は9時~17時まで(うち1時間休憩あり)と決まっています。忙しい日にスタッフに18時まで1時間の残業をしてもらった場合、その分の割増賃金を支払う必要はありますか?この場合は法内残業にあたりますので、労働基準法が求める割増賃金の支払いは不要です。  労働時間には「所定」と「法定」がある 労働時間には「所定労働時間」と「法定労働時間」があります。まずはこの違いをしっかりと押さえることが管理におけるポイントです。 まず、「所定労働時間」とは、就業規則や雇用契約書の中で定められた労働時間のことで、始業から終業までの合計時間から休憩時間を差し引いた時間をいいます。所定労働時間は、企業や労働者ごとに自由に決めることができるので、労働契約の内容によってさまざまです。例えば、「9時~18時」と定めているところもあれば、「10時~17時」と定めているところもあるでしょうし、パートについては「13時~17時」としているところもあるでしょう。 対して、「法定労働時間」とは、その名のとおり「法律で定められた=法定」、つまり労働基準法32条で定められた労働時間をいいます。同法で、使用者は、労働者を1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えて働かせてはいけないことになっています。 これを超えて働かせるには、①36協定(※)を締結し、かつ、②労働基準法で定められた割増賃金(時間外労働は原則25%増)を支払う必要があります。 割増賃金の支払いが必要なのは法定外残業 この質問のケースでは、就業時間が「9時~17時、うち1時間休憩あり」なので、所定労働時間は、始業から終業までの8時間から休憩時間の1時間を差し引いた7時間です。 ですので、17時から18時まで1時間の残業を行っても、法定労働時間の「1日8時間」という上限を超えないため、割増賃金を支払う必要がありません。このように、残業はしているけれども法定労働時間内に収まっている残業を「法内残業」といいます。なお、賃金規程などで「法内残業についても割増賃金を支払う」と定めることは自由ですが、定めた場合は、当然その支払いをしなければいけません。 では、19時まで2時間の残業を行った場合はどうでしょうか。この場合、17時から18時までの1時間は法内残業ですが、18時から19時までの1時間は、1日8時間の上限を超えています。このように、法定労働時間を超える残業を「法定外残業」といいます。法定外残業に対しては、労働基準法で定められた25%増の割増賃金を支払う必要があります。 ここまでの内容を図1にまとめましたので、ご参照ください。 図1 所定労働時間7時間の場合の割増賃金 ※36(さぶろく)協定:労働基準法36条(時間外及び休日の労働)に基づく労使協定のこと。使用者が法定労働時間の上限を超えて労働させる場合に必要となる。 ある日、利用者様の体調変化が重なり、とても忙しい日がありました。スタッフのAさんは、午前9時から始業し、昼に休憩を1時間とりましたが、その後、午後11時まで働きました。この場合、13時間労働ということになりますが、割増賃金は1日8時間を超えた分に対して25%増で支払えばよいのですよね?いいえ。午後6時から午後10時までは25%増ですが、午後10時から午後11時までは深夜割増賃金が加算されますので、50%増で支払う必要があります。 割増賃金の3つの種類 割増賃金のしくみをきちんと押さえておきましょう。まず、割増賃金には、①時間外割増(1日8時間、1週間40時間超えの労働)、②休日割増(法定休日における労働)、③深夜割増(午後10時から午前5時までの労働)の3種類があります。それぞれの割増率は図2に示したとおりです。 図2 時間外労働、休日労働、深夜労働の割増率 時間外労働が1か月60時間を超える場合は、時間外割増は50%増となることに注意(ただし、中小企業は2023年4月1日以降から適応) 深夜労働が重なると割増賃金は50%増に 注意しなければいけないこととして、深夜労働の割増賃金は、時間外労働と休日労働の割増賃金に『加算される』ということです。下の図3をご覧ください。 図3 深夜労働と重なった場合 深夜労働をするという時点で、すでに1日8時間の法定労働時間は超過していることが多いですから、深夜に行われた作業に対しては50%増(25%+25%)の割増賃金を支払うことがしばしばあります。事業所としては、スタッフの健康のためのみならず、人件費抑制の観点からも、深夜の作業は可能な限り控えてもらうように指導したほうがよいでしょう。 なお、労働時間の管理については、厚生労働省が出している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 」が参考になります。厚生労働省のホームページから誰でもアクセスすることができますので、ぜひ、ご参照ください。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

特集
2021年1月20日
2021年1月20日

コロナでどう変わる?介護報酬・診療報酬大予想

新型コロナウイルス感染症の流行という未曾有の事態が起き、収束の目処も立たず先が見えにくい状況になっています。 病院から足が遠のいてしまう患者も増えており、その影響もあり初診でのオンライン診療が特例的に許可されるなど、診療報酬にも影響が出ています。 また、今年2021年の春には介護報酬の改定が控えており、こちらも新型コロナウイルスの影響を受けた改定内容になりそうです。 今回のコロナ禍で、診療報酬と介護報酬はどう変わるのでしょうか。報酬改定についてのコラム記事について特集していきます。 介護報酬:感染症対策の義務化へ 今年4月、令和3年度の介護報酬改定が予定されています。厚生労働省の社会保障審議会では、今回の介護報酬改定の基本的な考え方として「感染症者災害への対応力強化が求められる中での改定」を冒頭に記載しています。 今回の改定で介護サービス全体に義務付けられる予定となっているのが、感染症対策の強化です。訪問系サービスでは「委員会の開催」、「指針の整備」、「研修の実施」、「訓練(シミュレーシ ョン)の実施」等の取り組みが義務付けられる予定です。 新型コロナウイルスの影響から、病院のように、どの訪問看護ステーションにも「感染対策委員会」のような委員会活動が取り入れられていくことになりそうです。 加えて、災害時でも安定的・継続的にサービスを提供できる体制を整えることも、介護サービス全体で義務化される予定です。近年台風や大雪等の被害が増えていますが、新型コロナウイルス感染症も、そのような災害の1つとも捉えられます。 ステーションの災害時の動きを見直す機会になりそうです。また、テレビ電話等を活用しての会議開催が認められるようになります。 従来の退院調整カンファレンスやサービス担当者会議は、談話室や自宅に多くの人が集まるため、いわゆる「密」になりやすい状況です。密を避けるためにも、オンライン会議の推進が今回の改定で明文化されることになりそうです。詳しくはこちらのコラムをご覧ください。   関連記事:令和3年介護報酬改定ピックアップ 【訪問看護ステーション】重度者対応は拡充、前途多難なリハビリ型 介護施設での看取りをさらに推進、ACPの取り組み促す 診療報酬:オンライン化が加速する傾向に 緊急事態宣言後の2020年4月10日、情報通信機器を用いた非対面の診療行為、いわゆるオンライン診療について、医師の判断により「初診から可能」とする時限措置を、厚生労働省が発表しました。 2020年9月に開始予定だったオンライン服薬指導についても、上記と同様に4月から始まり、半年ほど前倒してのスタートとなりました。これを機に、病院でも組織的なオンライン化が進んでいくと思われます。 では、オンライン化で訪問看護へはどのような影響はあるのでしょうか? 2020年の診療報酬改訂では「退院時共同支援料」について、オンラインでの退院調整カンファレンスにて、やむを得ない場合以外でも算定することが可能になりました。 新型コロナウイルス感染症の影響で、病棟への立入を厳しく制限している病院も多いため、オンラインでの退院調整カンファレンスがますます増えていくかもしれません。 また、オンライン診療における「D to P with N」モデルについても検討されています。 D(Doctor:医師)と、N(Nurse:看護師)といるP(Patient:患者)をスマートフォンやPC等で繋ぎ、オンラインで診察をするモデルのことです。 今後、訪問看護師には具体的にどんなことが求められるのでしょうか、詳しくはこちらのコラムをご覧ください。 2020年、医療現場のオンライン化で訪問看護はどう変わる?徹底解説 新型コロナウイルス感染症の今後の状況によって、診療報酬と介護報酬の動向も流動的に変わっていくかもしれません。新型コロナで制度的に進んだ面もありますが、一刻も早い収束を願うばかりです。

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