感染症看護に関する記事

麻疹・風疹の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説
麻疹・風疹の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説
特集
2024年1月9日
2024年1月9日

麻疹(はしか)・風疹(三日はしか)の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説

感染力の強い感染症として知られている麻疹・風疹(麻しん・風しん)。浮腫状の皮疹や目の充血などを合併している場合は麻疹、広範囲にわたる発疹やリンパの腫れなどを合併している場合は風疹の可能性があります。麻疹・風疹の予防接種は子どものころに行うケースが多いですが、年齢によっては大人も再び接種したほうがよいでしょう。特に妊婦が感染した場合は、胎児に影響を及ぼす可能性があるため要注意です。訪問看護の利用者さんはもちろん、自身・ご家族の健康管理のためにも、麻疹・風疹について確認しておきましょう。 この記事では、麻疹・風疹の症状や原因、合併症や大人の予防接種などについて詳しく解説します。 麻疹とは 麻疹(はしか/ましん)は、麻疹ウイルスの感染によって急性の全身症状が現れる感染症です。症状や原因、感染経路、発生状況について詳しく見ていきましょう。 症状 麻疹ウイルスに感染すると、潜伏期10~12日を経て発症し、発熱や鼻水、咳などの上気道炎症状、結膜炎症状が現れて次第に増強します。発熱は2〜3日続き、その後に39℃以上の高熱とともに特有の発疹が耳後部、頚部などに現れ、顔面や体幹部および四肢末端にまで広がります。最初に出現する発疹は鮮紅色扁平ですが、皮膚面より膨隆し、後に不整形の斑状丘疹状皮疹となります。起こり得る合併症は肺炎や中耳炎、脳炎などで、中でも脳炎は1,000人に1人の割合で発症します。そのほか、10万人に1人程度の割合で、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という中枢神経疾患を発症することがあります。 原因 麻疹の原因は、麻疹ウイルスの感染です。2023年9月時点において、日本国内由来の麻疹ウイルスは認められておらず、海外由来のウイルスによる感染事例のみ見られています。 感染経路 麻疹ウイルスは、空気感染・飛沫感染・接触感染によって、人から人へ感染します。感染力は非常に強く、免疫を持たない人が感染した場合の発症率はほぼ100%です。なお、一度感染し発症すると、免疫が一生続くとされています。 発生状況 麻疹は、2007~2008年にかけて10~20代を中心に流行しましたが、2008年から5年間、中学1年生(12~13歳)および高校3年生(17~18歳)に相当する年代に2回目の予防接種を受ける機会を設けた結果、2009年以降の患者数は大きく減少しました。 2015年3月27日には、日本が麻疹を排除できていることを世界保健機関西太平洋地域事務局が認定しています。 風疹とは 風疹(ふうしん)は、風疹ウイルスの感染によって引き起こされる急性の発疹性感染症です。症状や原因、感染経路、発生状況について詳しく見ていきましょう。 症状 風疹ウイルスに感染すると、約2〜3週間の潜伏期間の後に発熱や広範囲にわたる発疹、リンパ節腫脹(耳介後部、後頭部、頚部)などが現れます。起こり得る合併症は脳炎、血小板減少性紫斑病などで、その頻度は2,000人〜5,000人に1人程度です。 原因 風疹の原因は、風疹ウイルスの感染です。厚生労働省は2017年12月に「風しんに関する特定感染症予防指針」を一部改正し、翌年2018年1月に施行。風疹の感染者が一例でも発生した際は、調査を迅速に実施することに努めるとともに、ウイルス遺伝子検査によって診断することとしました。 感染経路 風疹ウイルスの感染経路は、飛沫感染です。発疹が現れる前後約1週間は感染リスクがあり、風疹への免疫を持たない集団において、1人の風疹患者から5〜7人にうつす強い感染を有する1)とされています。 発生状況 1990年代前半までは、約5年周期で大規模な流行が発生していました。その後、幼児が予防接種の対象になった関係で一時的に流行が落ち着いたものの、2002年から局地的に流行。その後、予防接種の勧奨や疫学調査の強化などの対策によって流行が抑制されたものの、2014年から2017年にかけて多数の発生報告が見られています。このように、局地的な流行が度々見られることから、最新情報を随時チェックして対策することが重要です。 大人が麻疹・風疹にかかるとどうなる? 大人が麻疹・風疹にかかると、子どもと比べて発熱や発疹が長く続くほか、ひどい関節痛が起きることが多いとされています。 麻疹・風疹に妊婦がかかるとどうなる? 麻疹・風疹に妊婦がかかることには、次のような問題があります。 先天性風疹症候群のリスクが高まる 風疹の免疫が不十分な妊婦が妊娠20週頃までに風疹ウイルスに感染すると、胎児は白内障や網膜症、難聴、心疾患などの先天性異常を引き起こす先天性風疹症候群に罹患する恐れがあります。 麻疹は重症化リスクが高い 麻疹は妊娠中に感染しても胎児に先天奇形が生じる確率が低いものの、妊婦自身の重症化や流産・早産のリスク増加などが懸念されます。 風疹・麻疹のワクチン 風疹麻疹混合ワクチンを1歳になったら1回、小学校就学前の1年間にもう1回打ちます。ワクチンに期待できる効果や再接種について詳しく見ていきましょう。 ワクチンに期待できる効果 厚生労働省によれば、風疹麻疹混合ワクチンの予防接種を受けることにより、95%ほどの人がウイルスに対する免疫を獲得できるといわれています。1回目の接種で免疫を得られなかった場合でも、2回目を接種することで多くの人が免疫を獲得できます。 抗体検査を受けて必要であれば再接種する 接種から数年後には免疫が低下することがあるため、その後も免疫を維持するために追加のワクチン接種を受けることが大切です。特に、妊娠の予定がある方は、重症化リスクや胎児の先天性風疹症候群などの観点からなるべく受けることが望ましいでしょう。 1962~1978年生まれの男性は要注意 1962(昭和37)年~1978(昭和53)年生まれの男性は、子どものころに風疹の予防接種を受けていない可能性が高いでしょう。感染を広げるリスクを抑えるためにも、早めに予防接種を受けることが重要です。 * * * 風疹・麻疹は、長期にわたる発熱や発疹のほか、重篤な合併症が懸念されるため、免疫が低下していると考えられる場合は早めに予防接種を受けることが大切です。今回、解説した内容を自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【引用】1)厚生労働省.「風しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html(2023/12/21閲覧) 【参考】〇厚生労働省.「麻しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省.「風しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html(2023/9/25閲覧)〇政府インターネットテレビ「昭和37~53年度生まれの男性の方へ ~生まれてくる赤ちゃんを守る“風しん対策”」(2019/12/3)https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg19934.html(2023/9/25閲覧)

ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】
ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】
特集
2023年12月19日
2023年12月19日

ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】

ロタウイルス感染症は、子どもがかかるイメージが強いかもしれませんが、大人もかかる可能性があるため注意が必要です。この記事では、多くの子どもがかかるロタウイルス感染症の対処方法や、下痢や嘔吐への対応方法、大人がかかるとどうなるかについて解説します。訪問看護の利用者さんやご自身・ご家族の健康管理のためにも確認しておきましょう。 ロタウイルス感染症とは ロタウイルス感染症は、ロタウイルスの感染によって引き起こされる急性の感染症で、胃腸炎を中心とした症状が現れます。全年齢でかかる可能性がありますが、0〜6歳頃の子どもに見られることが多い病気です。症状や原因、感染経路、重症化リスクなどについて詳しく見ていきましょう。 症状 ロタウイルスに感染すると1~4日の潜伏期間を経て発熱と嘔吐が現れ、小腸からの水分吸収が阻害されることで下痢症が起こります。血便や粘血便などはなく、吐き気や嘔吐、発熱、腹痛が通常1〜2週間程度続きます。 脱水が重度になると、電解質異常、意識障害やショックなどを起こし、場合によっては死亡することもあります。大人も20〜30代と50〜60代を中心に見られますが、5歳までにほとんどの子どもがかかるといわれているほど、子どもに多い病気です。 原因 ロタウイルスは、A~G群の7種類に分類され、人に感染することが報告されているのは主にA群とC群です。B群も人に感染するとの報告がありますが、極めて稀です。 感染経路 ロタウイルスの主な感染経路は、ロタウイルスに感染した人の下痢便や嘔吐物に含まれるウイルス粒子が口に入ること(糞口感染)です。感染力が非常に高く、10〜100個のウイルス粒子が口に入るだけで感染します。感染した人の下痢便には1gあたり1000億~1兆個のロタウイルスが含まれているといわれています。また、汚染された水や食べ物に触れた手を口に入れることでも、感染する可能性があります。 重症化リスク 大人は一般的にロタウイルス感染症の症状が出にくい傾向があります。しかし、体力が落ちている人が感染した場合は重症化に注意が必要です。脱水が起きた場合、ほかのウイルス性胃腸炎よりも重症になる傾向があります。また、重度の脱水によって生じる高尿酸血症、それに続いて起きる尿酸結石、腎後性腎不全などが報告されています。 特に注意すべきなのがロタウイルス脳炎・脳症です。難治性のけいれんが起こると、後遺症をもたらすケースが少なくありません。約40%が予後不良ともいわれていることから、ロタウイルス脳炎・脳症へ進行する前に適切に対応することが重要といえます。 下痢や嘔吐への対応方法 ロタウイルスは糞便に含まれるため、子どものおむつ交換の際は使い捨て手袋を着用し、処理した後は手をよく洗いましょう。また、汚れた衣類や床などは次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)で消毒することが重要です。嘔吐物や便を放置すると、保育園や幼稚園、自宅などで感染が広がる恐れがあります。 ロタウイルス感染症のワクチン ロタウイルスワクチンには、3回接種の5価経口弱毒生ロタウイルスワクチンと2回接種の経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチンがあります。初回の接種は生後2ヵ月〜14週6日までに行います。2回目以降の接種は、前回から27日以上の間隔をあける必要があります。 ワクチンの副作用としては、発熱や下痢、便秘などもありますが、腸重積症に関して特に注意が必要です。腸重積症は、腸の一部が隣接する腸管にはまり込む病気で、腸の血流が悪化し、組織に障害を引き起こします。ワクチン接種から約1〜2週間は、発症するリスクが高まるとされています。 突然の激しい泣き声、機嫌の急変、嘔吐、血便、倦怠感、顔色が悪いなどの症状が1つでも見られる場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。 ロタウイルス感染症にかかった際の登園は? ロタウイルス感染症にかかった際の保育園や幼稚園の対応については、一律のルールが設けられていません。ロタウイルスは感染から2〜3週間は便中にウイルスが排せつされることを考慮し、出席再開のタイミングを決めるとよいでしょう。ただし、ウイルスが排せつされなくなるまで出席停止とするルールもないため、医師に相談した上で判断することが大切です。 * * * ロタウイルス感染症は、下痢症をはじめとする胃腸関連の症状が現れる病気です。脱水が重度になると電解質異常や腎臓関連の病気を合併する恐れもあるため、こまめな水分補給が欠かせません。また、感染力が非常に強いため、感染対策をより徹底する必要があります。今回、解説した内容を自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「ロタウイルス感染性胃腸炎とは」(2013/5/15)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3377-rota-intro.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省「ロタウイルス」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/rota_index.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省「ロタウイルスに関するQ&A」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/index.html(2023/9/29)〇京都市「京都市こどもの感染症」https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/cmsfiles/contents/0000146/146234/kodomo21-05.pdf(2023/9/25閲覧)〇京都市「保険だより」https://www.city.kyoto.lg.jp/hagukumi/cmsfiles/contents/0000118/118456/27winter.pdf(2023/9/25閲覧)

インフルエンザ症状&予防
インフルエンザ症状&予防
特集
2023年9月5日
2023年9月5日

インフルエンザの症状・出席停止期間・2023~2024年冬の流行予測

インフルエンザは毎年異なる型が流行する上に、流行時期が変動する場合もあります。訪問看護師は感染症に対する抵抗力が低い高齢者や小児と関わるケースも多く、毎年インフルエンザの状況や予測などはチェックしておきたいところです。 本記事では、インフルエンザの症状や原因、出席停止期間、2023~2024年の流行予測などについて詳しく解説します。 インフルエンザとは そもそもインフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルスの感染によって発症する気道感染症です。インフルエンザが周期的に流行することから、16世紀のイタリアの占星家が星や寒気の影響(influence)と考えたことが語源とされています。 インフルエンザの症状 インフルエンザウイルスに感染後、1~3日間程度の潜伏期間を経て、次の症状が現れます。 ・38℃以上の高熱・頭痛・全身倦怠感・筋肉痛・関節痛 上記の症状は突然現れることが特徴です。これらに続いて咳や鼻汁などの症状が現れ、個人差はありますが1週間程度で軽快します。ただし、循環器や呼吸器、腎臓の慢性疾患を持つ方、免疫機能が低下している方、糖尿病をはじめとする代謝疾患を持つ方は二次的な細菌感染症のリスクが高いとされています。 また、小児の場合は発熱による熱性痙攣、中耳炎、気管支喘息を伴うことがあります。 インフルエンザの原因 インフルエンザの原因は、A型・B型・C型のいずれかのインフルエンザウイルスの感染です。毎年、大規模な流行の原因となるのはA型とB型で、それぞれ複数の型に分類されています。 2023年時点において近年流行しているのは、以下の4種類です。 ・A(H1N1)亜型・A(H3N2)亜型(香港型)・B型(山形系統)・B型(ビクトリア系統) 流行するインフルエンザウイルスの型や系統は、年度や国、地域などで異なります。 季節性と新型の違い インフルエンザは、「季節性」と「新型」の大きく2つに分類できます。 一度ウイルスや細菌に感染すると免疫機能によって再感染のリスクは低下しますが、季節性インフルエンザはA型のインフルエンザウイルスの抗原性が毎年わずかに変化するため、再感染の可能性が通常のウイルスと比べて高いとされています。 また、新型インフルエンザは、季節性のものとは抗原性が大きく異なるインフルエンザウイルスによるものです。過去に感染しておらず免疫を獲得していないため、多くの方が感染します。 インフルエンザが流行する時期 季節性インフルエンザには流行性がありますが、新型インフルエンザにはありません。季節性インフルエンザは例年12月〜3月にかけて流行します。なお、2020年以降は新型コロナウイルスの流行やそれに伴う公衆衛生に関する意識の高まりの影響で、インフルエンザの流行時期や罹患者数に大きな変化がみられます。 2023~2024年におけるインフルエンザの特徴 2023年春には、例年とは異なる季節外れのインフルエンザが流行しました。そのため、冬から2024年にかけても、例年とは異なる時期に流行する可能性があります。流行が予測されているインフルエンザの型については、厚生労働省が毎年認定するワクチン製造株が参考になります。以下の4株がワクチン製造株として認定されました。 ・A(H1N1)亜型・A(H3N2)亜型(香港型)・B型(山形系統)・B型(ビクトリア系統) 実際に流行する型と異なるケースもありますが、現状では近年流行した型と同様と予測されています。 インフルエンザの出席停止期間 学校保健安全法施行規則第19条第2項に基づき、インフルエンザを発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日を経過するまでは、出席停止となります。なお、幼児の場合は、解熱後3日までは出席できません。 企業については明確な規定がありませんが、従業員が安全で健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」に基づき、独自にルールを定めている場合があります。一例では、学校保健安全法で定められた出席停止期間と同じ基準を定めています。 インフルエンザの検査方法・診断 インフルエンザの症状が現れている場合、医療機関では迅速診断キットを用いて検査することが一般的です。鼻腔の奥の粘膜を綿棒で採取し、迅速診断キットに検体を垂らし、30分程度で結果が出ます。 鼻をかんで鼻汁を採取する方法もありますが、綿棒を使った方法と比べて採取できるウイルス量が少ないとの報告があります。 インフルエンザの治療法 インフルエンザの治療には、抗インフルエンザ薬を使用します。症状が現れてからの時間や病状によって効果が異なり、全患者に必須な治療ではありません。発症から48時間以内に抗インフルエンザ薬を服用すると、発熱の持続期間が1〜2日程度短くなります。48時間以上経過してから服用しても、十分な効果は期待できません。 また、必要に応じてインフルエンザに伴う発熱や咳、淡、倦怠感などを和らげる薬を使用します。 インフルエンザに伴う異常行動について 以前は抗インフルエンザ薬が原因で異常行動が起きることが強く疑われていました。しかし、抗インフルエンザ薬の服用の有無、種類に関係なく異常行動が起きていることから、関係性は不明とされています。 <異常行動の例>・ 突然、部屋から出ようとする・ 窓を開けて飛び降りようとする・ 話しかけても反応がない・ 泣きながら部屋の中を動き回る・ 理解できない発言をする 異常行動による事故を防ぐために、発熱から2日間は次のような転落防止策を講じることが重要です。 ・玄関と窓をすべて施錠する(なるべく補助鍵を使用する)・窓がなくベランダに面していない部屋で療養させる・1階で療養させる 中でも就学以降の小児・未成年者の男性に起きることが多いと報告されていますが、年齢や性別に関係なく対策を講じることが大切です。 インフルエンザのワクチン インフルエンザのワクチンは13歳以上で年に1回接種が原則です。添付文書には年に1回または2回と記載されていますが、研究によりインフルエンザワクチン0.5mLの1回接種で2回接種と同程度にまで抗体価が上昇したことから、1回接種となっています。ただし、医師の判断で2回接種を行う場合もあります。 13歳未満の場合は、年に2回接種が原則です。1回目の接種後、2~4週間間隔をあけて2回目を接種します。ワクチン接種から効果が現れるまでの期間には個人差がありますが、通常は約2週間かかります。効果の持続期間は約5ヵ月とされています。 1回接種の場合、11月下旬~12月初旬に接種すると流行前にインフルエンザ予防効果を得やすいでしょう。2回接種の場合は、1回目を10月下旬~11月初旬に、2回目を11月下旬から12月初旬に接種することが推奨されます。受験を控えている場合は、早めの接種を検討しましょう。 ワクチンの副反応は接種した部位の赤みや腫れ、痛みなどで、通常は2~3日で消失します。そのほか、発熱や頭痛、倦怠感、悪寒などもみられることがあります。 まれにみられるのはアレルギー反応による赤み、かゆみ、蕁麻疹などです。重篤な副作用として以下が報告されていますが、因果関係は明らかではありません。 ・ギランバレー症候群・急性脳症・急性散在性脳脊髄炎・痙攣・肝機能障害・喘息発作・紫斑 インフルエンザの予防法 インフルエンザの予防法は、一般的な感染症と同じです。 ・帰宅時の手洗いうがい・栄養バランスのとれた食事・十分な睡眠・こまめな換気・適切な湿度 また、インフルエンザが流行している時期は、繁華街への外出は控えましょう。 * * * インフルエンザは、毎年流行しているものの2020年以降には流行時期に変化が生じています。また、その年度によって流行する型が異なるため、最新情報を随時チェックしておくことが大切です。今回、解説した内容を参考に、インフルエンザに適切に対処しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】 〇NIID 国立感染症研究所「インフルエンザとは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/219-about-flu.html2023/6/25閲覧〇厚生労働省「インフルエンザQ&A」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html2023/6/25閲覧〇厚生労働省「令和4年度インフルエンザQ&A(令和4年10月14日版)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2022.html2023/6/25閲覧〇東京都感染症情報センター「2023~2024年シーズンインフルエンザHAワクチン製造株(2023年4月28日)」https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/flu/flu/vaccine2023/2023/6/25閲覧〇熊本県「今冬のインフルエンザ総合対策に取り組みましょう(2020年8月1日)」https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/30/153141.html2023/6/25閲覧〇静岡県「『インフルエンザの出席停止期間』の考え方」https://www.city.shizuoka.lg.jp/000834248.pdf2023/6/25閲覧〇厚生労働省「抗インフルエンザウイルス薬の安全性について(2017年12月)」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000189771.pdf2023/6/25閲覧〇厚生労働省「新型インフルエンザ予防接種後の症状について」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_04.html2023/6/25閲覧

小児感染症 手足口病
小児感染症 手足口病
特集
2023年8月1日
2023年8月1日

手足口病の症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

手や足、口腔内などに発疹が現れた場合、手足口病が疑われます。手足口病は、子どもの病気のイメージが強いものの大人も罹患する場合があります。しかも、子どもと比べて症状が強く現れる傾向があるため、抵抗力が低い高齢者と関わることが多い訪問看護師は特に注意が必要です。本記事では、手足口病の症状や原因、治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 手足口病とは 手足口病(HFMD:hand, foot and mouth disease)は、口腔粘膜や手足などに水疱性の発疹が現れる感染症です。日本では1967年頃に存在が明らかになりました。必ずしも発熱するとは限らないことから感染に気づかずに周囲の子どもと接触し、感染を拡げてしまうケースもあります。 手足口病の症状 手足口病は、3~5日の潜伏期間を経て口腔粘膜や手のひら、足底、足背といった四肢の末端部分に2~3mm程度の水疱が現れます。ただし、肘や膝、臀部などに現れる場合もあるなど個人差があります。口腔粘膜は時間が経つと小さな潰瘍が形成されることもあるため、必要に応じて観察することが大切です。 発熱は1/3程度に見られますが、38℃以下の軽度であることがほとんどです。症状が改善するまでにかかる期間は3~7日程度で、水疱はかさぶたが形成されません。主症状は重篤なものではないものの、まれに髄膜炎や脳炎、小脳失調症などの合併症を引き起こすことがあるため注意が必要です。また、治療後1~2ヵ月頃に手足の爪が剥がれる爪変形・爪甲脱落症が起きる場合があることが報告されています。 手足口病が流行する時期 例年、4歳頃までの子どもを中心に夏季に流行します。また、半数を2歳以下の子どもが占めますが、学童期の子どもの間で流行することもあります。なお、手足口病は5類感染症定点把握疾患に定められた病気です。 手足口病の原因 手足口病は、主にコクサッキーウイルスA6・A16やエンテロウイルス71による感染で発症しますが、まれにコクサッキーウイルスA10が原因となります。主に咽頭からウイルスが排出され、飛沫感染でうつります。また、水疱内容物による接触感染にも注意が必要です。そのほか、症状が消失してから2~4週間も便にウイルスが排出されるため、子どものトイレやおむつ換えの後は必ず手洗いや消毒を行いましょう。 手足口病を引き起こすウイルスは複数あるため、一度罹患しても再び手足口病に罹患する可能性があります。 手足口病の検査方法・診断 医療機関では、水疱の性状と分布をはじめとする臨床症状のみで診断されることが一般的です。また、季節や流行状況なども診断材料の1つになります。確定診断には、咽頭拭い液や水疱内容物、便などの検体を用いたウイルス分離かウイルス検出が必要です。 手足口病の治療法 手足口病の原因となるウイルスに有効な抗ウイルス薬は存在しません。また、ウイルスには抗生剤の投与も効果がありません。発熱や水疱のほかに治療が必要な症状が現れることは少ないため、対症療法すら不要な場合もあります。まれに発疹にかゆみを伴うため、必要に応じて抗ヒスタミンの外用薬を使用します。なお、通常は炎症を抑えることを目的に副腎皮質ステロイド外用薬を使用することはありません。 口腔粘膜に生じた水疱に対しても、柔らかくて薄味の食べ物が推奨されている程度であり、特別な治療法がなく、基本的には経過観察します。食欲不振がある場合は脱水が懸念されるため、水分を少量ずつ頻回に与える必要があります。 元気がない、吐き気や頭痛、高熱、発熱の2日以上の持続などの症状がある場合は髄膜炎や脳炎への進展が懸念されるため、早急に医療機関を受診することが重要です。 手足口病は大人がかかったらどうなる? 大人が手足口病に罹患した場合、子どもと比べて発疹の痛みが強く現れる傾向があります。足裏にひどく現れた場合は、痛みで歩けなくなることも懸念されます。そのほか、インフルエンザの発症前のような全身倦怠感や関節痛、筋肉痛、悪寒などが現れることもあります。 手足口病の予防法 手足口病は、症状が消失してからも長期間にわたりウイルスが便から排出される場合があります。また、無症状でウイルスを排出するケースもあるため、流行期に患者との接触を避けるだけでは感染を完全に防ぐことは困難です。 一般的な感染対策として、外出先から帰ってきたときの手洗いやうがい、排泄物の適切な処理などを徹底しましょう。 * * * 手足口病は、口腔粘膜や手足などに水疱が現れる病気です。発熱するケースは約1/3と少ないものの、脳炎や髄膜炎に進展する可能性が否定できないため、発熱に伴って頭痛、嘔吐、意識の混濁、ひきつけなどの症状が現れていないか注意深く観察する必要があります。なお、大人が感染すると子どもの場合と比べて重い症状が現れやすいため注意が必要です。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「手足口病とは」(2014年10月17日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.html2023/6/26閲覧〇厚生労働省「手足口病に関するQ&A(2013年8月)」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/hfmd.html2023/6/26閲覧

小児感染症 プール熱
小児感染症 プール熱
特集
2023年7月25日
2023年7月25日

プール熱の症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

プール熱は、夏季を中心に小児に罹患しやすい感染症です。大人も感染する可能性がある上に感染力が強いことから、短期間で家族全員が罹患するケースも少なくありません。本記事では、プール熱の症状や原因、治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 プール熱とは プール熱は咽頭結膜熱ともいい、アデノウイルスの感染によって発熱や喉の痛みのほか、結膜炎などの症状が現れる病気です。プールでの感染者との接触やタオルの共用によって感染する場合があることから、プール熱と呼ばれています。 プール熱の症状 プール熱の症状は次のとおりです。 ・急激な発熱・頭痛・食欲不振・全身倦怠感・咽頭痛・結膜の充血・目やに・眼痛 目の症状は左右どちらかから始まり、その後にもう一方にも現れることが一般的です。中でも下眼瞼結膜に炎症が強く生じ、上眼瞼結膜の炎症はそれほど強くない傾向があります。潜伏期間は5~7日とされており、潜伏期間中でも感染力を持ちます。 重傷化のリスクは特に高いわけではありませんが、生後14日以内の新生児が感染した場合は全身性感染に進行するリスクが高いとの報告があります。 プール熱が流行する時期 例年、6月頃から感染者数が増加し始め、7~8月にピークに達します。6~8月はプールで子ども同士が接触する機会が多いことも、感染者の増加に関係していると考えられます。 ただし、原因となるアデノウイルスに季節性はないため、ほかの時期でも感染する可能性があります。プール熱に罹患した場合は、その時期に関係なく、発熱や咽頭炎、結膜炎といった主要な症状が消失してから2日間は出席停止になります。 プール熱の原因 プール熱の原因となるアデノウイルスにはさまざまな型があり、中でも2型と3型がプール熱を発症しやすいとされています。ほかには、1型や4型、7型、14型などがあり、中でも7型は肺炎を引き起こすことで重症化しやすい点に注意が必要です。 感染経路は、飛沫感染や接触感染などで、感染力が非常に強いことから周囲の人が短期間でプール熱に罹患する場合もあります。また、症状が消失してからも喉からは1~2週間程度、排泄物からは1ヵ月程度はアデノウイルスが排出されるとの報告もあるため、出席停止期間が終了した後に他人に感染させることもあるでしょう。 また、アデノウイルスには複数の型があるため、一度罹患したことがある場合でも別の型に感染する可能性があります。 プール熱の検査方法・診断 プール熱の確定診断には、鼻汁や唾液、糞便、拭い液などを用いてウイルス抗原の検出もしくはウイルス分離を行う必要があります。検体は、綿棒で喉やまぶたの裏を擦って採取します。検査キットにかけてから結果が出るまでにかかる時間は15分程度のため、即日でプール熱の罹患の有無を確認できます。 ただし、検査のタイミングや検体のウイルス量が少ない場合は、結果が陰性になる場合があることに注意が必要です。なお、血液を採取してアデノウイルスの抗原検査を行うことでも確定診断できます。 プール熱の治療法 プール熱はウイルス感染症であり、有効な抗ウイルス薬は現時点では存在しません。合併症を防ぐことを目的に抗生剤を使用することがあります。また、咽頭部や結膜の炎症を抑えるために、抗炎症成分が含まれた点眼薬などを使用します。 そのほか、高熱に対しては解熱剤、咽頭痛には抗炎症薬など、対症療法が中心となります。 プール熱は、高熱や喉の痛み、腫れによって食事をとることが難しくなる場合があるため、脱水症状に注意が必要です。また、なるべく喉を刺激しないように、柔らかいものを食べるとよいでしょう。 プール熱は大人がかかったらどうなる? 大人がプール熱に罹患した場合、小児ほど強い症状は通常現れません。そのため、小児ほどの影響が懸念されないとして、対応する医療機関が多いでしょう。ただし、症状が強く現れなくても感染力は強いため、他人にうつさないための対策は必要です。 プール熱の予防法 プール熱の予防法は、一般的な感染対策と同じです。流水と石けんによる手洗い、外出先から帰宅してきたときのうがいを欠かさないようにしましょう。また、感染者との密接な接触をなるべく避けるほか、タオルの共用をしないことが大切です。プールからあがった後は、シャワーを浴びてうがいをします。 * * * プール熱は主に小児が罹患する病気ですが、大人も罹患する可能性があります。感染力が高いため、疑わしい症状があるときは周りの人との接触を避け、医療機関を受診して適切な治療を受けることが重要です。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「咽頭結膜熱について」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/01.html2023/6/25日閲覧〇NIID国立感染症研究所「咽頭結膜熱とは(2014年4月1日)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html2023/6/25閲覧

ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナ
特集
2023年7月18日
2023年7月18日

ヘルパンギーナの症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

ヘルパンギーナは主に子どもが罹患する感染症ですが、大人も罹患する可能性があります。重症化しやすいとの報告もあるため、子どものみの病気と考えずに対応方法について確認しておくことが大切です。本記事では、ヘルパンギーナの特徴や症状、原因から治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 ヘルパンギーナとは ヘルパンギーナは、エンテロウイルスに感染することで発熱とともに水疱性の発疹が口腔粘膜に生じる病気です。乳幼児を中心に夏季に流行する「夏かぜ」の一種とされています。 ヘルパンギーナの症状 ヘルパンギーナの潜伏期間は2~4日です。突然の発熱に続き咽頭痛が生じ、咽頭粘膜に強い赤みが現れます。その後、主に軟口蓋から口蓋弓にかけて、赤くなった皮膚に囲まれる形で小水疱が現れます。小水疱の大きさは通常1~2mm程度ですが、5mm程度の大きいものが現れる場合もあります。 発熱に熱性けいれんを伴うほか、咽頭痛による食欲不振や哺乳障害が問題となる場合があるため、対症療法で症状をなるべく和らげることが重要です。まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎などを合併することがあるため、38~40度の発熱や頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、胸の痛み、関節痛、筋肉痛などの症状に注意しましょう。 ヘルパンギーナが流行する時期 ヘルパンギーナは5月頃から増え始め、7月頃にピークを迎えます。8月頃から減り始め、9〜10月にはほぼ見られなくなります。このように季節性があるものの、ほかの時期にまったく見られなくなるわけではありません。 また、日本では西から東へと拡がっていく傾向があります。患者の90%以上は5歳以下で、最も多いのは1歳、そして2歳、3歳、4歳と続きます。 0歳と5歳の罹患数はほぼ同じです。ヘルパンギーナは5類感染症定点把握疾患であるものの、学校において予防すべき伝染病としては規定されていません。 そのため、一律で学校長の判断によって出席停止とするものではなく、対応については学校ごとに異なります。欠席者が多い、流行の規模が大きい、合併症を伴うケースが見られることで保護者の間で大きな不安が生じている場合、学校医との相談の上で出席停止の扱いとすることがあります。 ヘルパンギーナの原因 ヘルパンギーナは、エンテロウイルスによる感染症です。エンテロウイルスはピコルナウイルス科に属するRNAウイルスの総称で、以下のようなウイルスが該当します。 ・ポリオウイルス・コクサッキーウイルスA群(CA)・コクサッキーウイルスB群(CB)・エコーウイルス・エンテロウイルス(68~71型) ヘルパンギーナの主な原因となるウイルスはコクサッキーウイルスA群(CA)ですが、コクサッキーウイルスB群(CB)やエコーウイルスが引き起こす場合もあります。 急性期にはウイルスの排出量が多く、感染力も強いとされています。ただし、エンテロウイルスは症状が消失してからも2〜4週間は便からウイルスが排出される場合があるため、回復後もしばらくは油断できません。 ヘルパンギーナの検査方法・診断 ヘルパンギーナの確定診断には、口腔内の拭い液や水疱の内容物を含むもの、便などによるウイルス分離またはウイルス抗原の検出が必要です。 ただし、実際の医療の現場では臨床症状のみで診断することがほとんどです。 ヘルパンギーナの治療法 エンテロウイルスそのものに効果がある抗ウイルス薬は存在しないため、対症療法が主な治療法です。発熱や頭痛には解熱鎮痛作用がある内服薬を使用する場合があります。 脱水が生じている場合は必要に応じて輸液を行います。咽頭痛によって飲食を敬遠する場合があるため、脱水を防ぐために薄味で柔らかく口当たりがよいものを与えます。 ヘルパンギーナは大人がかかったらどうなる? ヘルパンギーナは、大人が罹患すると子どもと同じく光熱や口腔粘膜の小水疱などの症状が現れます。ただし、子どもと比べて症状が強く、高熱や非常に強い咽頭痛のほか、筋肉痛や頭痛、関節痛が現れる場合があります。 また、症状が現れている期間が長く、重症化しやすい点も特徴です。 ヘルパンギーナの予防法 ヘルパンギーナの予防法は、ほかの感染症と同じです。主な感染経路は、飛沫感染・接触感染・経口感染です。流行時には手洗いうがいをより入念に行いましょう。また、ヘルパンギーナの感染者との密接な接触をなるべく避けることも大切です。 ウイルスは長期間にわたり便から排出されるため、子どもがトイレで排泄できる場合は、手洗いや手指消毒を必ず行うように指導し、おむつを使用している場合は交換後に手洗いと手指消毒を徹底します。 流行時にはおもちゃの貸し借りも避けたほうがよいでしょう。エンテロウイルス対策として、ものを洗浄・消毒する場合は、念入りな洗浄と清拭でウイルスを物理的に除去した上で、0.02%に希釈した次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。 * * * ヘルパンギーナは、突然の発熱・口腔粘膜の小水疱などを主症状とする感染症です。主に罹患するのは5歳以下の子どもですが、大人がかかる場合もあります。大人は子どもと比べて症状が強く、重症化しやすい傾向があるなど、より一層の注意が必要です。抵抗力が低い高齢者の訪問看護を行っている看護師は、今回解説したヘルパンギーナの症状や治療法、予防法などについて十分に確認しておきましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「ヘルパンギーナとは」(2014年07月23日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/515-herpangina.html2023/6/26閲覧〇一般社団法人日本循環器学会「2023 年改訂版心筋炎の診断・治療に関するガイドライン」p,21(2023年3月17日更新)https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_nagai.pdf2023/6/26閲覧〇NIID国立感染症研究所「無菌性髄膜炎とは」(2014年05月16日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/520-viral-megingitis.html2023/6/26閲覧

コラム
2021年11月24日
2021年11月24日

COVID-19×訪問看護の最前線から~後編~

COVID-19が世界にとって未知の病気だった2000年初頭。社会全体が恐怖におびえ大きくうねり始めるなかで、いち早く訪問看護師という立場からCOVID-19と対峙し、現在もケアを続けている岩本大希さん。パンデミックのなかで岩本さんが行ったことや、第5波で看たCOVID-19感染者看護の実例、そして第6波に向けての心構えについて寄稿いただきました。後編では、COVID-19感染者看護の実例を中心にお届けします。 ≪ 前編はこちらからご覧いただけます COVID-19感染拡大の最中、命を守れないのではないかと感じることが増えていく 本文医療機関のひっ迫は一向に改善の様子がない。「入院待機者」という人々が在宅領域にもあふれ出し、2021年の8月にはピークを迎えた。1日10件全てコロナの入院待機者への訪問の日があるほどだった。 ・[感染case3]認知症の親御さんと暮らしている50代の方50代で認知症の親御さんと暮らしている方が動けなくなっていた。酸素、点滴を自宅で開始。なんとか酸素飽和度は上がる、でも呼吸回数は落ち着かず、苦しいだろうことが見てとれた。にもかかわらず、「母をなんとか助けてください。母をお願いします」自分より親御さんのことをとにかく心配されていた。ほぼ同時に親御さんも発熱し陽性となり、自宅にいることしかできない状況であった。誰がお世話するのか? 誰もいない。訪問看護師である自分ができることをやるしかない。親御さんは「私はいいから子どもを助けてくださいお願いします」と僕の手を握りしめる。お互いに想い合っていることがわかる。「はい、ちゃんと看ますので安心してください」と握り返す。親御さんも呼吸が悪くなり酸素を始めた。治療も大事だが、それよりも毎日の食べるものが用意できないので、併せて二人の食事を買い出す。重症化リスクも高いため毎日観察しに訪問し、食べやすいようおにぎりやアイス、うどんなどを買って行った。親御さんは顔もわからないような格好をした僕に驚かないどころか、手を合わせて「神様だわ」と言ってくれた。本当の神様だったらもっと色んな人を助けられるだろうが、僕はご飯を買って観察して励まして見守るだけしかできず、入院できるときを毎日待った。 ・[感染case4]家族と暮らす壮健そうな40代の方着いたときには酸素飽和度は80%代で、すぐに酸素開始するが7リットルでも酸素飽和度の上がりが悪い。オキシマイザーを使うとなんとか96%に。一度帰宅し、次の朝イチでまた訪問すると顔色の印象が悪い。呼吸数も多くマズイと冷や汗が出る。でも入院できないのだ。帰り際、小学校低学年くらいのお子さんが心配そうに犬を抱えて僕を見ていた。翌日以降のため、酸素濃縮器7リットル機をもう1台入れて2台連結し14リットルまで増やすため搬入予定とした。そうしているうちに入院が決まった。危機一髪で命を守れてよかったと安堵したことを覚えている。 ・[感染case5]全員がCOVID-19陽性の外国人家族の方40代の方。酸素飽和度が下がり、酸素が玄関先に届けられたと連絡をもらい導入のため向かう。しかし到着したら民間救急車がきていた。「入院が決まりました」とのこと。良かった。「パパどこいくのー??」窓から子ども3人が顔を覗かせていた。搬送される本人に付きそうパートナーを見ると明らかに顔色が悪かった。家族はみんな陽性と聞いていた。パートナーに「体調悪い?」と聞くと、「呼吸は平気だが吐いていて3日食べられていない」と言う。脱水症状だろう。すぐに依頼元から保健所に確認を頼んだが、パートナーは外国の方で日本語はあまり得意ではなさそうだ、聞き取りに工夫がいるため、きっと保健所の電話に的確に答えられておらず、見逃されたのかもしれなかった。この方も入院できるとよい。しかし両親ともに入院になれば、3人の子どもたちはどうするのだろう? どうすればよいかは保健所に任せるしかなく、次の現場に向かった。 ・[感染case6]犬と暮らす50代男性の方50代の男性でお一人暮らし。犬を飼っている。すでに酸素がなければ酸素飽和度は80%台と重症ラインにあった。点滴やステロイドを使って看護していると、保健所から入院の打診が入る。しかしこの男性は、飼い犬の世話があるため入院をお断りしていた。翌日改めて訪問すると、明らかに悪化している。保健所から僕は「どうにか犬の面倒を見られる人を確保してくれ」と言われた。ペットホテルを探したり、友人に頼んだりしたが、犬の面倒を見る人は見つからなかった。このままでは一晩持つかどうか、苦肉の策で「僕が面倒を見るから入院しませんか?」と提案し、無事入院の運びとなった。その日から一人ぼっちの濃厚接触犬へ、毎日トイレとエサ、水の交換のため訪問した。これでよかったのかわからなかったが、人懐こい犬は僕の来訪を毎日喜んでくれた。その様子を見るとやるべきことをやったかな、と思った。 第6波をいつでも迎えられるよう、連携と準備が必要だ 第5波のなかで、僕はこれら数十人と関わった。全員、ワクチンを打てていなかった人たちだった。予約をして待っていたり、1回目が終わっていたりする人たちばかりだった。日本のワクチン接種スピードの加速は諸外国に比べても脅異的で歴史に残るほどだと思う。しかし残念なことに、デルタ株の驚異的な速さに追いつかれてしまった。これから第6波がくることが予想されている。その日をいつでも迎えられるよう、多くの地域と連帯しながら準備を行い、沢山の人たちが予防行動を取れることを祈っている。 ** 岩本大希WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養のなかでも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

コラム
2021年11月16日
2021年11月16日

COVID-19×訪問看護の最前線から~前編~

COVID-19が世界にとって未知の病気だった2000年初頭。社会全体が恐怖感におびえ大きくうねり始めるなかで、いち早く訪問看護師という立場からCOVID-19と対峙し、現在もケアを続けている岩本大希さん。パンデミックのなかで岩本さんが行ったことや、第5波で看たCOVID-19感染者看護の実例、そして第6波に向けての心構えについて寄稿いただきました。前編と後編に分けてお届けします。 COVID-19という未知の感染症拡大を前に、僕たちの毎日は変わろうとしていた 2020年初頭から国内で流行が始まったCOVID-19。2021年8月に第5波と呼ばれるパンデミックまで僕たちは経験した。僕自身のCOVID-19への対応の始まりは2020年の3月ごろだったと思う。今では当たり前になってしまったが、「緊急事態宣言」という言葉がなにを意味するのかも当時十分にはわからず、「緊急事態宣言ってなんだ? 外国のように都市封鎖がされるのか? 訪問はそもそもいけるのか?」とうろたえていたことを覚えている。でも在宅ケア領域ではまだ直接的になにかCOVID-19の対処することもなく、これから自分たちがどうなるのか、どうすればよいのか、対策をとる必要があるのかも不明な状況だった。そこで、自分にできることを探そうと思った。 緊急時、訪問看護の立場からできることはなにか?の模索が始まった まずは緊急事態宣言下で訪問看護活動はそもそも可能なのか?ということを中央行政に確認する必要があった。なぜなら、訪問看護ステーションにおける現場の対処の指針となるものや、運営に関するガイドラインとなり得る情報がどこにもなかったからだ。通常は学会や職能団体から発信されるものであるが、全国において未知の状況ばかりでまとめようがなかったためそれも当然であった。 そこで僕が始めたのは、正式なものが発信されるまでのつなぎとして、自ら信頼できる同業者たちを集め、有志で現場のためのガイドを作成し、FacebookやTwitterなどで発信していくことだった。僕と同じようにうろたえている人のためになにかできればと思った。 2020年8月、ホテル療養を行うCOVID-19感染者へのサポートをいち早く開始 その直後くらいからだろうか。急激に感染者数が増え始め、訪問看護の現場でもCOVID-19の濃厚接触者となったがん末期の方のお看取りの対応をしたり、沖縄県にあるウィル訪問看護ステーション豊見城では看護協会や保健所と協働して全国でも早い段階でホテル療養者へのサポートを開始したりした。 2021年に入り流行はさらに大きくなっていく。関西において極めて厳しい医療ひっ迫が起き、それに対処した北須磨訪問看護リハビリセンターの藤田愛さんをはじめとした訪問看護師や医師らとともに勉強会などを開きながら、その経験や知恵を取り込み、またWEBメディアや雑誌などで発信することを進めていった。 関西の第4波から少しだけ間をおいて、関東でも第5波が始まると、デルタ株の猛威は強く、医療機関のひっ迫まであっという間であった。入院できずに「入院待機者」という人々が在宅領域にもあふれ出し、保健所をはじめとした行政や医師会や看護協会などの職能団体もその急激な変化に追いつけず、皆が必死にどうにかしようとしていた。 2021年8月、COVID-19第5波はピークを迎え状況は様変わりしていく そのなかの一つに僕たちの訪問看護ステーションもあった。2021年の8月にはピークを迎え、1日10件全てコロナの入院待機者への訪問の日があるほどだった。20代、30代、40代、50代の中等症がほぼ全てを占め、明らかにそれまでの流行とは様相が異なっていた。いくつかケースを振り返る。 ・[感染case1]ご両親と同居している20代の方職場で感染し、毎日嘔吐してしまい数日脱水で苦しんでいた。呼吸も苦しく酸素投与も始めた。点滴で補正しなければ命の危険があるため連日でお伺いする。ご両親の不安もいかほどか、涙されながらの親御さんのお話を伺う。何もできないと思いつめなくても、そばで見守っているだけできっと本人は安心ですよ、と伝え続けた。 ・[感染case2]30代、妊娠初期の方僕と同い年くらいの方へ訪問すると、妊婦さんだった。それに気づいて必要以上に緊張を覚えた。呼吸はまだ平気そうであったが、つわりも重なり食べられず脱水になっていた。ここでも点滴を行う。フェイスシールドと手袋の向こう側で脱水の妊婦さんの血管を探すのは困難で、冷や汗をかきながら集中が必要だった。お母さんはお腹の赤ちゃんのことがとにかく不安であろう、しかし赤ちゃんにコロナがどういう影響を及ぼすのか、僕にはわからず、安心してもらえる言葉を探したいがうまく見つけられなかった。パートナーの方も動揺が強い。点滴して、療養についてできる限りのことを伝える。「来てくれるだけで安心しました…」。ほんとはすぐ入院できればいい、でもそれができない状況だったので、とにかくこれ以上悪化しないことを祈るだけ祈った。 後編では、「認知症の親御さんと暮らしている50代の方」のケースや、「全員がCOVID-19陽性の外国人家族の方」のケース、第6波に向けての準備についてお伝えします。 ** 岩本大希WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養のなかでも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2021年11月9日
2021年11月9日

Dr.高山が直伝 在宅のノロウイルス感染症対策(後編)

急性胃腸炎を引き起こす病原体の中でも、特に問題になるノロウイルス。この悩ましい感染症について、在宅ケアでの対策を考えてみましょう。後編では、具体策を解説します。 在宅患者が発症しているとき 接触予防策 訪問スタッフは、厳格な接触予防策をとってケアにあたります。すなわち、手袋と、袖まであるガウンを着用します。 ケアが終了したら、丁寧なガウンテクニック(汚染された外側を触れないこと)に従って手袋とガウンを脱ぎ、家庭の洗面台をお借りして、流水による手洗いを行ってください。 汚染時の処理方法 環境が嘔吐物や排泄物で汚染された場合には、乾燥して飛散する前に処理することが大切です。 家庭における嘔吐物や排泄物の処理方法  1.処理しようとする人は、使い捨ての手袋・マスクを着用する2.嘔吐物や排泄物をペーパータオルなどで静かに集めて、ビニール袋に入れる3.嘔吐物や排泄物で汚染された場所を塩素系消毒薬で浸すように拭き、その後、水で拭く4.使ったペーパータオル・手袋・マスクをビニール袋に入れ、全体が浸る量の塩素系消毒薬をかけてから、しっかり縛って廃棄する5.最後に、流水と石鹸でよく手を洗う 訪問スタッフだけでなく、できれば家族にも指導してください。 器材の取り扱い 血圧計のマンシェットや、聴診器といった、ノンクリティカル器材については、可能なら本人専用として、次の利用者と共用しないことが望ましいでしょう。 大切なことなので繰り返しますが、エタノールで清拭してもノロウイルスは不活性化できません。どうしても共用せざるを得ない場合には、次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒してください。 家庭で適切な濃度の溶液を作製する方法は、前編でお伝えしたとおりです。 いつまで必要か? こうした対策の実施期間については、いまだ考え方は定まっていません。 厳格な立場をとろうとすると、ウイルスが排出されている可能性のある2週間以上は続ける必要があることになってしまいます。しかし、排出されていることと、感染性があることは必ずしも一致しないと考えられます。米国CDCのガイドラインでは、ウイルス排出が「高水準」である期間は隔離を行なうことが望ましいとし、その期間について「通常は症状が軽快した後の24~72時間」という考えを示しています2)。 ちなみに、沖縄県立中部病院の在宅チームでは、少し長めにとって「症状が軽快してから5日間」を接触予防策の期間としています。3~5日間の範囲で、現実的かつ可能な対策を、事業所ごとに決めていただくのがよいと思います。 なお、症状を認める在宅患者のケアを担当した訪問スタッフは、急性胃腸炎の接触者とみなします。これはスタッフの家族に症状を認めているときも同様です。接触後3日間は事業所の責任者が症状を確認し(自己申告はあてになりません)、症状出現があれば、すぐに就業停止としてください。 同居する家族が発症しているとき 非常に悩むところです。正直なところ、ノロウイルスの家庭内における感染拡大を確実に防ぐことは困難だと思います。特に、(在宅患者さんが寝たきりではなく)トイレを家族と共用している場合には、感染してしまう可能性はさらに高まります。 とはいえ、腎不全など基礎疾患がある在宅高齢者にとって、急性胃腸炎は命にかかわりかねない感染症です。現実的な範囲での対策について、家族に提案していきたいところです。 食事の準備 まず、症状のある家族は、在宅患者に提供する食事の準備にかかわらないことが原則です。ほかの家族にがんばっていただくか、ヘルパーさんに集中的に入っていただくなどの対応を、訪問看護師から提案していただければと思います。 どうしても症状のある家族が食事の準備をしなければならないときは、すべての手順において手袋を着用し、サラダなどの生モノの提供は避けること。85℃以上かつ1分以上の加熱調理を原則とします。 食器を共用しないことも大切です。特に、症状のある家族が箸をつけた惣菜を、在宅患者が後から口にしないよう、あらかじめ取り分けておくよう指導しましょう。 手洗い もう一つ大切なことは、こまめに手を洗っていただくことです。特に、トイレの後とケアを開始する前には、石鹸を使って丁寧に洗うように伝えます。 また、風呂については症状がある家族が在宅患者よりも後に入り、リネン類は共用しないようにします。 症状のある家族がトイレや風呂を使用した後には、次亜塩素酸ナトリウム溶液で清拭するほうがよいかもしれません。 ただし、どこまでやれるかは家族次第です。現場で続けられず、破綻することが明らかな対策を、専門家として提案すべきではありません。ある意味、それは責任転嫁ともいえます。家族に挫折感や罪悪感を残すことがないよう、家族ごとに「可能な感染対策のレベル」と「対策疲れに陥らない期間」を見極めてください。 訪問スタッフが発症しているとき 嘔気や下痢、発熱などの症状を認める場合は、診断が確定しているか否かに関わらず、症状が消失するまで仕事を休んでください。 感染対策が励行できることを前提として、症状が消失すれば就業は可能です。すなわち、ケアの前に手を洗い、手袋を着用するなど接触予防策を行ってください。こうした対策は、少なくとも症状が消失してから5日間は徹底するようにします。 ** 執筆者高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 1)Gerald,LM.et al.Mandell,Douglas,and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases.6th ed.London,Churchill Livingstone,2004.2)CDC.Immunization of health-care workers:Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)and the Hospital Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC).MMWR.46(RR-18),1997,1-42.3)CDC.Prevention and control of influenza.MMWR.53(RR-6),2004,1-40.4)CDC.Updated norovirus outbreak management and disease prevention guidelines.MMWR.60(RR-3),2011,1-15.

特集
2021年11月2日
2021年11月2日

Dr.高山が直伝 在宅のノロウイルス感染症対策(前編)

急性胃腸炎を引き起こす病原体のなかでも、特に問題になるノロウイルス。この悩ましい感染症について、在宅ケアでの対策を考えてみましょう。前後編でお届けします。 ノロウイルス感染症の特徴 ノロウイルスは、感染力が強いため、しばしば地域で集団発生を引き起こします。通常は2~3日程度で軽快しますが、感染後約2週間は、便からウイルスを排出しているといわれます。 一度かかると免疫ができますが、免疫効果も6か月で低下し、2年で完全に消失します。 健康な人であれば、水分を摂取しながら「寝ていれば治る病気」です。しかし高齢者では、脱水が進んで多臓器不全をきたすことや、吐瀉物を喉に詰まらせて窒息を起こすこともあります。また、高齢者では誤嚥性肺炎を続発することもあり、下痢が治まってからも見守りが必要となります。 ノロウイルスの感染経路 ノロウイルスに感染すると、腸内でウイルスが増殖し、感染者の嘔吐物や排泄物を介して、他者に感染伝播します。 具体的には、食中毒、接触感染、空気感染に大別されます。 食中毒 感染している人が調理した食物を、食べることによる伝播接触感染 感染している人の嘔吐物や排泄物を、直接触れてしまうことによる伝播空気感染感染している人の嘔吐物や排泄物が、乾燥して飛散することによる伝播 在宅で必要になる感染対策 在宅における感染対策としては、感染者の嘔吐物や排泄物を確実に処理することと、食べ物の安全を確保することが重要です。 ノロウイルスが空気感染するには、嘔吐物や排泄物が乾燥することが条件となります。 一般に、医療機関では湿式清掃なので、(きちんと清掃しているかぎり)医療機関で空気感染のリスクは高くありません。ですから、医療機関では、空気感染を前提とした感染対策は必要ありません。 一方、家庭での清掃は、乾式清掃が一般です。乾式清掃では嘔吐物や排泄物を洗い流すことができません。それらを拭い取ったとしても、最後は乾燥させてほうきで掃いたり、掃除機で吸引したりしていると思います。 つまり、在宅の現場では、空気感染を考慮する必要があるということです。 もちろん「だからN95マスクを使いましょう」ということではなく、以下に紹介するように「きちんと次亜塩素酸ナトリウムで不活性化しましょう」ということです。 残念ながら、エタノールではノロウイルスを消毒することはできないのです。ただし次亜塩素酸ナトリウム溶液が有効とはいえ、手指の消毒を含め人体には使えません。よって、ウイルスの除去は流水による手洗いが原則となります。 ノロウイルスに有効なのは次亜塩素酸ナトリウム溶液 ノロウイルス胃腸炎による嘔吐物や排泄物を処理するときは、次亜塩素酸ナトリウムを600ppmに薄めた溶液を、ペーパータオルなどに染み込ませて清拭するのが基本です。 ノロウイルスは、アルコールでは不活性化せず、乾燥させても死滅しません。ですから、このノロウイルス専用の消毒液があると便利です。ここでは、600ppm(=0.06%)の溶液を手軽に作る方法を紹介します。 家庭における600ppmの塩素系消毒薬の作りかた まず、500mLのペットボトルを準備します。ペットボトルのふた1杯(5mL)の次亜塩素酸ナトリウム6%溶液(ハイター®など)をペットボトルに入れて、残りを水道水で満たしたら600ppm溶液になります。 家庭でノロウイルス胃腸炎が出たら、この消毒液を1本作っておいて、吐物の処理や、汚染された衣類の消毒に使用すると簡便です。 人体には使わない! この溶液を扱うときは、必ず手袋を着けてください。間違っても人体の消毒に使ってはいけません。もし、溶液が手に直接付着してしまった場合は、流水でよく洗い流してください。 万が一にも誤飲したら大変です。対策を講じましょう。 イラストのように、ペットボトルに注意書きするなど、飲み物と間違えないような対策に加えて、絶対に、子どもの手の届くところには置かない! リスクがある家庭では、作り置きせず、使用する度に調整するよう指導するほうが良いかもしれません。ご家庭の状況をアセスメントして提案してください。 発症者がいるときの対策のポイント これら具体的な対策について、次回の記事で解説します。 **  執筆者高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 1)Gerald,LM.et al.Mandell,Douglas,and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases.6th ed.London,Churchill Livingstone,2004.2)CDC.Immunization of health-care workers:Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)and the Hospital Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC).MMWR.46(RR-18),1997,1-42.3)CDC.Prevention and control of influenza.MMWR.53(RR-6),2004,1-40.4)CDC.Updated norovirus outbreak management and disease prevention guidelines.MMWR.60(RR-3),2011,1-15.

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