A03地域包括ケアからみた訪問看護

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

地域に選ばれる訪問看護ステーションになる

新規開業した訪問看護ステーションの中には、利用者がなかなか獲得できないステーションもあります。地域ささえあいセンターから見た、頼みたくなるステーションには、どんな特徴があるのでしょうか。引き続き、澤登さんにお話を伺います。  依頼したいステーションの特徴 澤登: 訪問看護ステーションの中には、小児や認知症などに特化しているところもあります。その部分のケアが重点的に必要であれば、こういったステーションに連絡を取ることもあると思います。 しかし、在宅で看ていくと考えた時には、さまざまな多職種連携やサービスによって、その人が地域で暮らしていけるよう支えていくわけです。 その視点からいうと、地域の多職種の方、あるいは多職種連携のコーディネーターとなるような方と顔の見える関係づくりができている訪問看護ステーションは依頼しやすいというのはあります。 ―地域の方と信頼関係を築いていくにあたり、訪問看護ステーションが具体的に取り組むべきことは何でしょうか。 澤登: 信頼関係って抽象的で難しいですが、生活を支えるという具体的な作業を通して、徐々にできてくるものだと思います。 管理者さんなどステーションと地域をつなげる役割の人が、自分たちのステーションがどんなことを大事にしているのか、看護の専門職として何ができるかなどを、多職種の方に明確に伝えていくことが大切だと思います。 例えば、『みま~も』でもデイサービスやデイケアで働く理学療法士さんたちが商店街裏の公園で、元気な人たちを対象にした体操を毎週やってくれているんです。当然ながら、これは本来の仕事ではありませんが、こういう取り組みをしている事業所は地域から信頼され、地域に根差していると感じます。  地域に入り込む方法 ―例えば、立ち上げたばかりのステーションなどは、どのように多職種のネットワークに入っていけば良いと思われますか? 澤登: どこの地域でも多職種が集まる会が、今すごく盛り上がっているなと感じます。そういう場に顔を出していくことが、まず大事だと思います。 その中で、看護師という立場からチームに何が貢献できるか、ほかのサービスの人たちの立場も踏まえることが必要です。 どうしても医療と介護って壁を感じることがある中で、看護師の方から介護に携わる人たちのことを理解しようという姿勢が、関係づくりでも大事だと思います。 ―訪問看護師は、どのように地域に関わっていけば良いと思いますか。 澤登: 専門職が地域に出ていき、元気なころから地域住民に関わることによって、その方が健康でいる時期を長くするためにさまざまなことができます。 そのため通常の訪問看護のように、元気がなくなってしまってから関わるのではなく、もっと早くに地域に出て、関わっていくことも必要だと思います。 元気なころから訪問看護ステーションの看護師が関わっていれば、利用者さんとしても安心できるし、例えば看取りの時期も本人自身では思いを表出できなくなったとしても、その方の生き方を支えていけると思うんです。 また、訪問看護師さんも管理職か現場の方かにもよりますが、毎日毎日、時間単位のケアに追われる仕事をしていたら、いつか力尽きてしまうかもしれません。 そんな時も、利用者の方たちが元気だったころをイメージすると、がんばろうと思える、地域に支えられる面もあると思います。  牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。 地域で活躍する訪問看護ステーションについてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

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2021年1月21日
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元気なうちから、地域に出ていこう

地域の高齢者は医療や介護が必要になって初めて、専門職に関わったという方が多いでしょう。しかし、澤登さんはもっと前の元気なうちから、お互いが関わることが大切だとおっしゃいます。 『みま~も』に参加することで、参加者ご自身(『みま~もサポーター』)にどんなメリットがあるのか、お伺いしました。  『みま~もサポーター』のメリット 澤登: 例えば病院に入院して、医療や介護のサービスが必要となり地域に帰るとします。その方たちに医療や介護のサービスだけを提供して、地域で暮らし続けられるかというと、これが難しい。 こちらの平均寿命と健康寿命のデータをみてください。 日本は世界的にみても長寿国ですが、女性の場合には平均寿命約87歳、健康寿命が約75歳で、介護や医療が必要な状態が平均約12年もあるというデータがあります。この約12年というのは、専門職が関わる期間と言ってもいいでしょう。 一方、『みま~もサポーター』は平均加入年齢が72歳なので、活動の中で元気なうちから専門職と関わることになります。 これは健康でいる時間を長くする、あるいは介護になってからも、顔の見える関係の専門職にケアしてもらえるというメリットがあります。  新型コロナウイルスの影響 ―新型コロナウイルスの影響で、できなくなった取り組みも多いかと思いますが、今はどんな活動をされていますか? 澤登: 一部セミナーや公園での体操などはコロナ禍で一旦中止にしています。その代わりに『みま~も』のYouTubeチャンネルを作り、専門職がオンライン上でいろんな情報をあげていています。 コロナ禍で、高齢者の中でも今まで地域とのつながりも十分にあって、自分自身が地域のいろんな活動も積極的に参加していた方ほど、影響がすごく大きいと感じます。 活動などが一切なくなってしまったわけで、そういう中かで精神的に落ち込んでしまったり、うつ症状や認知症が進んでしまった、という話も多く聞きました。 『みま~も』は、2020年8月くらいから今までと同じような活動を再開する予定でしたが、セミナーでもまだまだ人と会うのが怖い、自粛したいという人も多いですし、平行してオンラインでも参加できるものを少しずつはじめて、選択肢を増やしているところです。 ―時代に合わせて地域に合わせて、変化し続けながら活動されているんですね。 澤登: はい。しかし、まだまだ高齢者の人たちにとってオンラインの参加は難しいものがあります。スマホを持っている人は7割ほどいるのですが、多くは電話機能として活用しているだけなんです。 人と繋がる手段としての操作はまだまだできない人たちが多く、高齢者の方たちにもスマホやパソコンなどにも慣れてもらう、つながりを切らさないでいられるような取り組みも引き続きやっていきたいと思います。 コロナの状況になって地域の人の声を聞きながら柔軟に、スピード感をもって新たなことをはじめています。 『みま~も』は自治体や行政などのしがらみにとらわれないから、いろいろなことが可能なのかもしれません。楽しいからこそ、みなさんやっているし、続けていける。それが何より大事なのかなと思います。  牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。

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2021年1月21日
2021年1月21日

全国に拡大中!地域を支える『みま~も』とは?

前回、地域を「面」で支えるしくみを作るために「地域ささえあいセンター」が立ちあがったと伺いました。その活動の一つに『みま~も』があります。 ほかの地域からも「真似したい!」と言われる取り組みとはどんなものか、澤登さんに伺いました。 『みま~も』の活動 澤登: 3つの主な活動として「地域づくりセミナー」、「SOS『みま~も』キーホルダー登録システム」、「『みま~も』ステーション」があります。 地域づくりセミナー 澤登: こちらは地域に暮らす人たちに向けて毎月セミナーを開催していて、毎回130人を超える地域住民の方が参加してくれています。 活動資金は賛同してくださる企業や病院、事業所、クリニックなどから協賛という形で募っています。また専門職が多いネットワークなので、セミナー講師を引き受ける形で支援していただくこともあります。 SOS『みま~も』キーホルダー登録システム 澤登: こちらはその方の個人番号、暮らすエリアや地域包括支援センターの電話番号が記載されたキーホルダーを配布する活動です。例えば、認知症の方が徘徊して警察に保護されたケースなどで、身元確認をするのに役に立ちます。 今、大田区では65歳以上が16万人いる中で、高齢者見守りキーホルダーの登録者が5万人います。多くの方の外出時の安心につながっていると思います。 また、この取り組みは大田区だけでなく全国に広がっていて、私が把握する限りですけど、50の自治体で導入しているそうです。 『みま~も』ステーション 澤登: こちらは商店街の空き店舗に活動拠点を作り、さまざまなプログラムを提供する場所として利用しています。元々は、商店街として場所は余っているけれど、どの店主も80~90歳と高齢の方が多く、サービス業などをやる余力がないという状況がありました。 そこで私たちがその場所を借りることで、商店街にとってはお客さんが増え、私たちにとっても活動の拠点ができ、商店街を訪れる人たちにとっても買い物がてら、プログラムに参加できる。三者にメリットがある関係を構築することができました。この活動を始めて、今年がちょうど10年目くらいです。 『みま~も』が広がった理由 ―『みま~も』ステーションでは、子育て世代から高齢者まで幅広いプログラムが多いですよね。 澤登: 立ち上げたときは高齢者向けで活動を始めましたが、活動を続けていく中で高齢者だけを対象にしてもそれは見守り、支え合いとしては広がっていかないと思ったんです。 若い世代、子どもまですべての世代がこのネットワークに参加することで、本当の意味での見守りができると思います。 また、私たちが大事にしているのは、高齢者の人たちを参加者やお客さんにしないということです。ネットワークの作り手として一緒に入ってもらう、健康でいるための運動はもちろん大事だけど、役割や生きがいも大事にしています。 社会参加、地域とのつながりを持ちながら、自分が必要とされていることを感じられる高齢者を増やしていく。 例えば、「元気かあさんのミマモリ食堂」というものがありますが、ごはんを作るのは高齢者の「かあさん」たち。この食堂は地域の中で、ご飯を食べながら何気ないおしゃべりができる心がほっこりする場所になっています。たまに若い「かあさん」が参加したときに、先輩「かあさん」たちが温かい声をかけている光景を見るのも楽しみのひとつです。 ―『みま~も』の活動がこんなにも広がっているのは、 なぜでしょうか。 澤登: 活動を続けていく中で、ひとつ自分を褒めてあげたいなと思うのは、「辞めなかったこと」です。 こういった活動というのは継続性が大事だと思います。最初は様子見でお客さんとして来る人はいるかもしれませんが、何度か参加するなかでいい活動だと思ってくださって、この活動のために自分も協力しようと思えるような、一人ひとりの行動変容につながっていったのではないかと思います。 そしてのれんわけとして、地方版『みま~も』も全国9ヶ所に誕生しています。地域によって課題は異なるため、同じ活動をするというのは難しいと思いますが、協賛の街づくりをしたいということであれば、ノウハウなどを提供するようにしています。 牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。

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2021年1月21日
2021年1月21日

これからの病院のあり方

厚生労働省が実現を目指す「地域包括ケアシステム」ですが、その主体は自治体であることがほとんどです。 そんな中、地域包括センターの限界を感じ、全国的に見ても珍しい「病院が主体となったシステムの実現」を試みるのが、牧田総合病院の澤登さんです。地域を守るために、これからの病院の在り方を、澤登さんに伺いました。 地域包括支援センターの現状 ―以前は、地域包括支援センターにお勤めだったと伺いました。当時はどのような課題を感じていましたか? 澤登: 私が以前働いていた地域包括支援センターでは、皆、日々の業務をこなすのが精一杯という状況でした。しかし私は、「これでは地域包括支援センターは本来のセンターの役割を果たせていないのでは?」と思っていました。 まずは、私が考えていたセンターの本来の役割についてご説明する前に、牧田総合病院が受託・運営する地域包括支援センターと大田区が抱える問題について、お話させてください。 大田区では地域包括支援センターが21か所ありますが、その21か所のセンターで月に約1万件の相談に対応しています。 一番多い相談は介護保険に関するものですが、家族問題、経済問題、高齢者の虐待、住まいの問題など、ここ数年で相談件数が急増してきているものもあります。こういった問題に共通する特徴は、全体から見た割合としては少ないけれど、さまざまな相談内容が絡みあっているということです。 さらにいうと、この相談に来た人たちは、ある意味では公的な相談窓口にたどり着くことができ、サービスにつながることができた人たちでもあります。 しかし、地域の中には本当は専門家や各サービスを必要としているけど、自分たちでは声をあげることができない人たちもたくさんいます。 また、私がいた地域包括支援センターのエリアでは、65歳以上の高齢者は9000人いましたが、この9000人を7人の職員で対応しています。少人数の職員体制では、相談に来ることができた高齢者に対して、サービスを提供するだけの対応に終始しがちです。 今後ますます高齢化が進んでいけば、今と同じようにサービスを提供していくのすら難しいでしょう。そして、この現状は全国に5000近くある地域包括支援センターでも、同じかもしれないと思いました。 私は、本来の地域包括支援センターの役割は、対象者本人と組織をつなぐ、組織と組織をつなぐ、組織と機関をつなぐ、こうしたコーディネート機能だと考えています。 今までは、専門職が支援を必要とする人を「点」で支えていましたが、個別支援の限界を感じ、地域で暮らすすべての人たちを「面」で支えるしくみを作りたいと思いました。 このしくみを実現するために作ったのが、地域ささえあいセンターです。 『地域ささえあいセンター』 「地域包括ケアシステム」の具現化をはかる中核の部署として、病院の中に作られた組織。地域包括支援センターや退院調整をしている医療相談室、介護保険サービスのデイケア、居宅介護支援事業所など病院の中でも地域とつながりがある施設や部署が集められている。 ―澤登さんご自身がそのように考えるようになったのは、どうしてでしょうか。 澤登: 実は私は大学卒業後、親子向けの舞台芸術を提供している地域の団体職員をしていました。その後、デイサービス勤務を経て、牧田総合病院内の地域包括センターで働くことになりました。 元々、地域活動をしていたこともあり、病院は「怪我や病気を抱える人たちに来てもらう、受動的な場所」ではなく、「地域に暮らす人たちの、健康を支える拠点」になるべきだと思っていました。 病院は、さまざまな専門職種がいる人的資源の宝庫です。 その病院が治療をするだけの役割のままではもったいないと感じ、病院の中に地域とつながりがある部署を集めた地域ささえあいセンターを作りました。 牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。 社会医療法人社団 仁医会 牧田総合病院 東京都大田区の大森地区にある、地域密着型の急性機病院。昭和17年創設、地域に根ざして90年になる。

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