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第8回 労災保険・健康診断・メンタルヘルス対策/[その1]いざというときのために知っておきたい! 労災保険の基礎知識

いざというときにスタッフをしっかりサポートできるよう、管理者として労災保険に関する知識を整理しておきましょう。また、日ごろから訪問看護ステーションならではの労災リスクに備え、ステーション内でスタッフとともにリスクを洗い出し、その予防策や対応方法を共有しておくことも大切です。


訪問中に利用者宅で転倒したスタッフがいます。「痛みが続くため、念のため医療機関を受診したい」との申し出がありました。どのような流れで労災保険の給付が受けられますか。

業務中・通勤中のけがや病気には労災保険が適用されます。スタッフから業務中・通勤中に受傷したと報告を受けたときは、けがをした日時と状況、けがの状態や部位などを確認し、病院を受診してもらいます。受診の際は窓口で「労災です」と伝えるように指導しましょう。
受診した病院が労災保険指定医療機関(労災病院)の場合は、その病院に「療養補償給付たる療養の給付請求書」を提出します。そうすれば、療養費を支払うことなく治療を受けることができます。そして、この請求書は病院を経由して労働基準監督署に提出されます。
労災病院でない場合は、いったん療養費を立て替えて支払います。その後「療養補償給付たる療養の給付請求書」を、直接、労働基準監督署に提出すると、療養費が請求書に記載した口座に支払われます。

労災保険の制度

労災保険(労働者災害補償保険)とは業務や通勤が原因となって発生したけがや病気、障害、または死亡に対して、労働者やその遺族に必要な保険給付を行う制度です。常勤のスタッフだけでなく、パートやアルバイトなどの雇用形態、また国籍などを問わず、雇用関係にあるすべての労働者に適用されます。

保険給付を受けるためには被災したスタッフ、またはその遺族が所定の保険給付請求書を入手し、必要事項を記載して、被災したスタッフが所属するステーションの所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければなりません。労災に該当するかどうかは、労働基準監督署が調査のうえ判断します。

保険給付請求書は労災の補償内容によって異なります。必要な書類は厚生労働省のサイトからダウンロードできますので、手続きの際に活用してください。

労災申請は原則として本人が行いますが、ステーションとして、スタッフの負担を軽減するためにスタッフに代わって書類を準備したり、記載可能な項目を記載し労働基準監督署に提出するなど、スタッフがスムーズに手続きを行えるようにサポートしましょう。

給付の種類

労災保険にはさまざまな給付制度がありますが、請求しない限り受けることができません。実際に被災した人から「どのような給付があるのか、受けられるのか職場で教えて欲しかった」との声も聞きますので、ステーションの管理者として図1に示すような給付の種類をしっかり理解しておきましょう。

図1 労災保険給付の主な種類

どのようなケースが労災になるのか?

では、ここで訪問看護ステーションの業務において労災保険が適用されるケースを場所別に具体的に見ていきましょう。キーワードは「業務災害」と「通勤災害」です。

●ステーション内での被災
例えば、ステーション内で高い所にある物を取ろうとして転落したり、ステーションの建物の階段を踏み外して転倒したりなど、業務に従事して被災した場合は、特段の事情がない限り業務災害と認められます。

●利用者宅での被災
利用者宅で転倒し負傷した場合などは、業務災害と認められます。転倒以外の被災としては、例えば、針刺し事故や害虫によるけが、新型コロナウイルスなどの感染症に利用者や利用者家族から感染してしまうことなどが挙げられます。このような場合も業務災害として労災請求することができます。

●通勤途中・移動途中での被災
自宅とステーション、自宅と利用者宅への移動が通勤に該当します。ある利用者宅から別の利用者宅への移動は、業務の性質を有しますので、通勤ではなく業務に該当します。

通勤途中で被災し、通勤災害に対する補償を受ける場合は「合理的な経路」と「合理的な方法」により行うという要件を満たすことが必要です。移動の「中断」や「逸脱」があった場合には、通勤と認められないため注意が必要です。通勤災害については、次回の記事で詳しく説明しますので、ぜひご覧ください。

また、業務中や通勤途中の交通事故の場合は労災保険が使用できますが、加害者が加入する任意保険や自賠責保険の利用や調整など、ケースバイケースで判断する必要がありますので、労働基準監督署等とよく相談することをお勧めします。

労災や労災保険に関する相談

労災に関する相談、労災保険に関する手続き方法については、ステーションを管轄する労働基準監督署のほか、厚生労働省が設置する労災保険相談ダイヤルで相談することができます。

労災保険相談ダイヤル
0570-006031(受付時間:月~金9:00~17:00)

ステーションで管理する連絡先リストに「労災保険相談ダイヤル」の電話番号も加えておき、疑問があればすぐに相談できるように準備をしておいてもよいでしょう。

労災に備えよう

寒い地域では路面が凍結しやすいことによる転倒、湿度が高く暑い地域では熱中症など、ステーションが所在する地域の特性によって労災のリスク内容は異なります。いざというときに素早く対応できるように、普段からステーションのスタッフと以下のことを話し合っておきましょう。

・業務に関連したリスクとその予防策、実際に被災したときの対応
―利用者宅
―利用者・利用者のご家族
―関係機関や業者の施設
―移動
・通勤に関連したリスクとその予防策、実際に被災した時の対応

あらかじめ自分たちを取り巻く労災のリスクを明らかにすることによって、防災・減災につながります。また、リスクや予防方法を認識し、話し合いやマニュアルなどを通じて共有することで、スタッフが安心して働ける職場づくりにもつながりますので、ぜひ、カンファレンスの時間などを活用して労災に備えた対応をしていきましょう!


・保険給付を受けるためには、保険給付請求書を、ステーションの所在地を管轄する労働基準監督署の労災課に提出しなければなりません。
・労災保険は常勤のスタッフだけでなく、パートやアルバイトなどの雇用形態や国籍などを問わず、雇用関係にあるすべての労働者に適用されます。
・いざというときに備えて、日ごろから労災のリスクや予防策、労災が発生したときの対応などをスタッフと話し合っておきましょう。



加藤 明子 
加藤看護師社労士事務所代表
看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント


●プロフィール
看護師として医療機関に在職中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。
▼加藤看護師社労士事務所
https://www.kato-nsr.com/
 
記事編集:株式会社照林社

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