第3回 計画的な人材採用と育成/[その1]ほしい人材が集まる魅力的な「求人情報のつくり方」
連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。
今回のテーマは“求人情報の作成”です。「求人を出したけれど、応募がまったく来ない……」。このような悩みを抱える事業所は多いのではないでしょうか。今回は少しでも多くの応募につながる求人情報作成のポイントを具体的にご紹介します。
●ここがポイント!
・求人情報の作成では、事業所が必要とする人物像を定めて、その人物に事業所の魅力と働くメリットを伝えることが大切。
・さらに、求職者が事業所を選ぶ際に重視するポイントを意識し、求職者の視点に立って情報を整理することも重要。
・求人情報を作成したら、自分以外の視点で最終チェックする。
目次
訪問看護ステーションの職員確保はまさに“争奪戦”!
日本看護協会が公表した「2019年度ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」によると、ナース全体の求人倍率が2.34倍を示すなか、訪問看護ステーションは3.10倍で、施設種類別で最も高い倍率でした(図1)。具体的には求人数15,367人(1事業所あたり4.5人の求人)に対して、訪問看護ステーションを希望する求職者の数は4,962人にとどまっており、需給ギャップの大きさが伺えます。つまり、訪問看護ステーションにとっての採用活動はまさに“人材争奪戦”ともいえる状況なのです。
図1 施設種類別の求人倍率、求人数、求職者数
日本看護協会広報部: ニュースリリース 2019年度「ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」 結果, p.3. より引用
https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20210217131441_f.pdf(2021/8/10アクセス)
訪問看護ステーションの求人倍率は、2016年度以降高水準を示しており、2016年度は3.69倍、2017年度は3.78倍、2018年度は2.91倍、2019年度は先述のとおり3.10倍でした(図2)。この数字からも訪問看護ステーションにおける人手不足が大きな課題の1つであることがわかります。
訪問看護ステーションの人材採用を阻む需給ギャップ。これを乗り越えるために、求める人材に興味をもってもらえる求人情報を作成したいところです。
図2 訪問看護ステーションの求人数、求人施設数、求職者数の推移
日本看護協会広報部: ニュースリリース 2019年度「ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」 結果, p.4. より引用
https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20210217131441_f.pdf(2021/8/10アクセス)
求人情報の作成には緻密な準備が必要!
採用活動において求職者を採用するのは意中の人を口説くのと同じです。例えばラブレターであれば、意中の人を決めて、その人に向けて自分のアピールポイントをしっかり伝えますよね。求人情報も事業所が必要とする人物像を定めて、その人物に事業所の魅力と働くメリットを伝えることがとても大切なのです。
応募が期待できるよい求人情報を作成するために、以下の内容を整理しておきましょう。
求める人物像を設定する
どんな人と一緒に働きたいのか、まずは採用側の「求める人物像」を設定します。どんな仕事をしてほしいのか、その仕事をするうえで必要となるスキル・資格・経験、適性のある性格・特性を決めていきます。
自分たちのアピールポイント(魅力)を整理する
求人情報では、労働条件や待遇、仕事内容などを整理し、求職者が実際の働き方をイメージしやすいように具体的かつ詳細に示します。また、職場の理念や雰囲気など、自分たちがアピールできるポイントも整理します。求職者に「一緒に働きたい!」と思わせる、魅力的に感じる内容をリストアップしていきます。
求職者の視点に立って情報を整理する
求人情報を作成するうえで注意したい点についてもご紹介します。
以下の項目は、求職者が事業所を選ぶ際に重視するポイントです。書き方によっては、応募を避ける要因になってしまうこともあるので注意しましょう。
①現在の利用者人数と看護師の人数
②1日および月あたりの平均的な残業時間
③オンコール体制
④利用者の傾向(多い疾患、年齢層など)
⑤教育・研修制度
残業の少なさや休暇の確実な取得、ワークライフバランスなどを重視する求職者であれば、①や②は特に気をつけたいと思う項目です。訪問看護師の人数と比べて利用者が多すぎると、残業や休日出勤などをしている可能性が非常に高いと判断されます。そのため、職員2人1組で利用者を受け持つペアリング体制方式を取り入れているなど、訪問看護の安全性・効率性・機能性を高める体制づくりを整理しておきます。
③のオンコール体制は、求職者が事業所を選ぶときに必ず確認しておきたいポイントではないでしょうか。“あり”の場合は、月にどのくらいオンコールを担当するのか、希望の日にちのみ担当するという働き方が可能か、手当てはあるのか、オンコール対応で出勤した場合の労働時間の考え方などを整理しておきます。
利用者の病態ごとに提供する看護ケアは異なります。そのため、自分の経験を活かせるように、④の利用者の傾向を知りたいと考える求職者もいます。終末期ケアに特化している、医療ケア児が多いなど、自分の事業所の特色をふまえて整理します。
⑤は、特に訪問看護未経験のナースにとっては重要なポイントです。事業所で実施しているプログラムがある場合は、積極的にアピールしてください。
最後に、自分以外の視点でチェック!
求人情報を書き終えたら、以下の3点を見直し、内容の正確性と信頼性、アピール度を高めます。
・誤字・脱字がなく、文書のつながりに違和感がない
・コンパクトにまとまり、誰が読んでも内容が理解できる
・信頼できる事業所であるというイメージ、親しみやすさを伝えられている
これらが確認できたら、最後にもう一度、自分以外の人にチェックしてもらいます。誤りがないことはもちろんですが、客観的な視点で魅力が十分にアピールされているか確かめてから求人広告を出しましょう。
**
齋藤 暁
株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長
中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント
医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。
▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部
https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/
編集協力:株式会社照林社