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2022年2月1日
2022年2月1日

\ユーザー調査/病棟看護師から訪問看護師への転職

病棟看護師から訪問看護師へ転職する際、不安があった方も多いのではないでしょうか。NsPace(ナースペース)では、35名の訪問看護師さんへアンケートを行い、訪問看護でのやりがいや、お困りごとなどエピソードを伺いました。 訪問看護師35名に聞いた!訪問看護師になる前の職場は? NsPace(ナースペース)ユーザーのリアルな実態を調査。(2021年11月、ナースペース調べ) 一般病院で経験を積んでから訪問看護に転職する方が多いようですね!最近では新卒で訪問看護を選択なさる方もいらっしゃるようです。新卒から訪問看護の道もこれからもっと増えていくといいですね。 訪問看護師歴は何年目? 訪問看護師1~2年目の方から10年目以上の方まで幅広い経験年数の方が働いており、どの世代でも活躍できる素敵な環境ですね。 訪問看護師になろう(転職しよう)と思ったきっかけは? 「在宅医療に興味があった」と回答した方が4割という結果になりました。また、「利用者さんとじっくり関わりたいと思った」との回答も多く寄せられました。訪問看護師は利用者さんと一対一で向き合うことができます。一人ひとりとじっくり向き合い、看護ができる点は、やりがいに繋がりますね。 訪問看護師になってみて、困ったことや難しいと感じていることは? 訪問看護の仕事は、病棟業務と異なる部分があり、それゆえ戸惑いを感じる方もいるようです。なかでも、訪問看護師特有の「夜間の拘束(オンコール対応)」について、慣れるまでは難しいと感じることが多いようですね。 困った時の対応方法は? 職場の方に相談する他、自己学習で努力している方が多いようです。連絡や情報共有を大事にし、観察力やコミュニケーション能力が向上したというお声もありました! 訪問看護師の働きがいは? 病棟で学んだ経験を活かし、利用者さんとじっくり向き合っている方が多いようです。最期を自宅で過ごしたいと希望される利用者様やそのご家族様の支援ができる喜びを感じるとのお声もありました。訪問看護の醍醐味ですね。 これから訪問看護師になる方へ 患者さんのご自宅に直接伺って、家族や多職種とかかわることができ、とても勉強になる仕事だと思います。大変なこともあるけれど「ありがとう」の一言でどんなことでも頑張れる気がする。そんな仕事です。 一人で訪問するからこそ、判断が難しい時、困った時は同僚や上司に相談します。だから、一人のように見えても実は一人じゃありません。今はスマホをフル活用して、瞬時に先生に画像を送り、指示を受けることもできます。ぜひとも訪問看護にチャレンジしてみて下さい。 在宅医療を支えるには、在宅医だけでは成り立ちません。多職種連携していく中心にあるのが、実は看護師だと感じてます。責任ある立場です。その分、看護師としてのやりがいや充実感があります。最新の機器や検査や治療はありませんが、『家で過ごせる』ということに想像以上の延命効果があるんです。それを側で見守り支援していくお仕事です。 病院ではきっと長時間向きあうことは考えられないかと思いますが、じっくりと一人のご利用者様と向き合うことができます。人との関りを持ちたいと思う方は楽しいと思える職種だと思います。 利用者様が病院と違い永年過ごした場所で過ごせることで良かったと思ってもらえることや一人に対し寄り添った看護ができることが訪問看護師ならではと思います。違う視点で見ることができ病院での学びを活かしながらその方にあった関わリ方ができると思います。また色々な方面からのケアを提供できると思います。 病院で勤務していたときは、診療補助業務を必死でやってきて、とにかく事故なく退院させることが重要でした。少し爪が伸びてるなと思っても爪切りができる余裕もなく過ごしてきました。訪問看護を始めてからは地域のことだったり、利用者さんの歩んできた人生だったり、ご家族のことだったり、死生観について考えさせられたりと…。私自身の人生が少し豊かになった気がします。不安もあるでしょうが、喜びの方が大きいです。 これから、今以上に、在宅で過ごす方が増える時代になると思います。病棟で、色々な経験をしてる方はもちろん、そうでない方も、人と人と、じっくり関わることができ、その方の日常の一部にお邪魔する、そんな素敵な職業だと思います。私は「自宅で自分らしく過ごす」方のお手伝いができる、この仕事が大好きです。ぜひ、これから訪問看護を志す方、一緒に頑張って行きましょう。 記事編集:NsPace

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2022年2月1日
2022年2月1日

ミトコンドリア病

ミトコンドリア病は、発症年齢も症状もさまざまで、とらえどころのない難病の一つです。細胞内のミトコンドリアの働きの低下が、原因であることがわかっています。 病態 ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの働きの低下により起こる病気の総称です。 ミトコンドリアとは、全身の細胞に存在する器官で、ミトコンドリアによりエネルギーが産生されます。そのエネルギーが細胞の活動の源になるため、ミトコンドリアの働きが低下すると、細胞そのものの活動性も低下します。特に脳や心臓など、多くのエネルギーを必要とする臓器では、影響が大きくなります。 ミトコンドリア病の発症時期は幅広く、乳幼児期から成人までとさまざまです。原因は、先天的な遺伝子変異が主体です。 ミトコンドリア病に関係する遺伝子変異は、今わかっているだけで200種類程度に上り、病型や個人によってもそのパターンは多彩です。それらの遺伝子変異は、細胞の核にあるDNAの変異のほか、ミトコンドリア内にある別のDNA(ミトコンドリアDNA)の変異でもみられます。 核のDNA上の遺伝子変異は、親から子に伝わる可能性があります。一方、ミトコンドリアDNAは母親から子どもに伝わるので(母系遺伝)、ミトコンドリアDNA上の遺伝子に変異などがある場合は、母親から子に伝わる可能性があります。核DNA上での遺伝子変異と、ミトコンドリアDNA上の遺伝子変異は、いずれも突然変異で生じる場合もあります。 疫学 ミトコンドリア病の発症は、乳児から成人まであらゆる年齢の人でみられます。性別による発症差はありません。発症頻度は、イギリスやフィンランドで人口10万人あたり9~16人という報告もありますが、実はもっと多いのではないかともいわれています。 2019年度末時点でのミトコンドリア病での受給者証所持者数は1,500人程度です。10歳未満から75歳以上まで幅広い年齢層におよんでいます。 症状・予後 症状は中枢神経や筋肉、心臓、目や耳などの感覚器、肝臓、腎臓、内分泌系など多様な臓器・組織にみられ、症状も幅広いのが特徴です。表は、小児期に発症する代表的なミトコンドリア病の病型です。 表 ミトコンドリア病の病型例 病型特徴CPEO (慢性進行性外眼筋麻痺症候群)・主な症状は、眼瞼下垂、眼球運動障害・CPEOに、網膜色素変性と心伝導障害を合併するものをカーンズ・セイヤ症候群と呼ぶ・小児~成人期に発症MELAS(メラス)  ・脳卒中様症状を伴うミトコンドリア病(けいれん、意識障害、視野狭窄、視力障害、運動麻痺など)・小児~成人期に発症MERRF(マーフ)・ミオクローヌスてんかんや小脳症状を特徴とするミトコンドリア病・小児~成人期に発症リー脳症・精神運動発達遅滞、筋力低下、けいれんなど、脳と筋肉の症状・乳幼児~小児期に発症 治療・管理など 対症療法として、各症状への適切な治療・管理をすることが重要です。症状が生じている臓器の専門医と連携した対応が求められます。 ミトコンドリアの働き自体を回復させる原因療法の確立も目指されています。日本では、MELASによる脳卒中発作の抑制の目的で、2019年にタウリンが保険適用されました。 ミトコンドリア内でエネルギーを産生する過程に使われる各種ビタミンや栄養素を補給する意味で、ふだんからのバランスの良い食事が治療の基本とされています。 リハビリのポイント 症状に応じたリハビリが必要とされます。また、運動麻痺などに対して、装具や福祉用具などが必要になることもあります。 看護の観察ポイント 現れている症状に応じた観察が必要になります。 ミトコンドリア病では介護保険の対象にならない年齢層の患者も多いため、障害者総合支援法による支援などへの橋渡しも求められます。加えて、症状が複数の臓器に及ぶと、複数の診療科、医療機関にかかることもあるため、情報共有を意識してかかわることが大切です。 そのほか、介護する家族にかかる介護負担が大きくなりがちなので、レスパイトケアを提案することも必要です。 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『ミトコンドリア病(指定難病21)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/194〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『ミトコンドリア病(指定難病21)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/335〇厚生労働省.難病・小児慢性特定疾病.『令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.

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2022年2月1日
2022年2月1日

認知症と義歯の関係

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、超高齢でも、認知症があっても、義歯の調整と口腔ケアで咀嚼機能が回復した事例を紹介します。 8020運動を知っていますか 1989年、厚生労働省と日本歯科医師会は、80歳で20本の歯を維持することを目指す「8020運動」を制定しました。当時、80歳の平均残存歯はわずか5本でした。28年が経過した2016年の調査では、「80~84歳の約半数が残存歯20本以上」を達成しました。 なぜ20本必要なのか。それは、単純に「タコやイカが食べられるから」だけではありません。20本以上歯があると、医療費の削減(残存歯数が0~4本に比べ総医療費は約17万円/年少ない)、自立歩行ができる、本人の健康感が大きい、などが報告されているのです。 しかし実際には、すでに「20本もありません、入れ歯なんです」といった人も多いのが現実です。今回は、義歯でも咀嚼できれば、全身への好影響につながることを、事例をもとに紹介します。 認知症で入れ歯を入れなくなった例 Bさん、96歳女性。要介護4、上下総義歯。難聴・認知症ほか既往あり。「3か月前から入れ歯を入れなくなり、『新しく作ったほうがいいのでは』と家族から相談がありました」と、ケアマネジャーから紹介あり。 初回の介入 歯科医師の診断で、早速、義歯の内側を調整しました。調整では、歯科用の特殊な樹脂を義歯の内面に裏打ちし、接着します。 口の周囲の筋肉のリハビリ後、まず上の義歯だけを装着すると、Bさんはすぐに義歯を取り出してしまいました。懲りずに、私は再び上義歯を装着すると同時に、片手でBさんが外そうとする手と握手し、バナナの薄切りをBさんの奥歯へと運びました(義歯は前歯で噛むと後ろから空気が入りこみ、外れやすくなるので、基本は奥歯で咀嚼します)。 そして耳元で「お好きなバナナですよ」と声掛けしました。すると、何とか義歯を外さずに噛めるようになりました。 その後、下の義歯も装着し、唾液に溶ける赤ちゃん用せんべいを渡すと、ご自分で奥歯に持っていこうとしました。 2か月後の変化 Bさんは、それまで食事は車いす上での全介助でした。数回の訪問診療後(初診から約2か月)には、食卓のいすに座り、箸を使って、自立した食事が可能になりました。 当初、家族は新しい義歯の作製を望まれていましたが、新しい義歯は、型取りから仕上げまで4~5段階を要します。認知症のあるBさんには苦痛になると考えられました。本事例では、旧義歯の調整と、舌や口唇の力をつける機能的ケア、前歯ではなく左右の奥歯でしっかり噛む咀嚼訓練を選択し、それらが回復のスピードアップにつながりました。 さらに、姿勢が起座位であるほうが噛みやすいのですが、起座位の時間が長くなると自立歩行や転倒予防にもつながります。義足や義手がそうであるように、道具(義歯)をうまく使いこなすには、根気強い丁寧なリハビリ職の対応とチーム医療が必須です。Bさんのケースでは、サービス担当者会議にはBさんが通うデイサービスの職員も出席し、デイ利用中の口腔リハビリや食事支援をしてもらいました。それらも早期自立への一助となったと考察します。 機能的ケアで発語が増えた例 Cさん、98歳女性。要介護3、認知症ほか既往あり。上が総義歯、下が部分義歯。義歯破損で訪問歯科を希望された。 下義歯の修理・調整のための訪問のたびに、衛生面の口腔ケアも必要でしたが、機能的ケアも取り入れていきました。 開口訓練、ストロー福笑い、呼吸訓練、パタカラ体操は、認知症でもでき、義歯でうまく噛めるようになる機能的ケアです。 ストロー福笑い パタカラ体操 介入して1年後の変化として、食事量の増加、食事時間の短縮、自分からの発語や歌が増え、しかも発語が明瞭になりました。 義歯を入れられなくなったケース これまでに経験した、高齢者で義歯が入れられなくなるケースと、解決法を紹介します。 ①認知症により義歯での噛みかたを忘れてしまう 認知症のために、義歯を異物としてとらえてしまうケースもあります。いずれも、段階的な咀嚼訓練を行うことで解決できました。 ②義歯を作製したときよりやせた やせたために義歯が合わなくなるケースはよく耳にされるかと思います。義歯が合わない、外れるなどのために、食事量が減少してやせるといった因果関係もあります。歯科医につなぎ、義歯の内面調整が必要です。 ③口腔乾燥 口腔乾燥があると、粘膜に義歯が密着しにくい状態です。義歯が不安定になり口内に傷ができやすくもなります。軽度であれば、保湿剤を義歯の内面に塗布することでも効果がみられます。唾液分泌を促す機能的ケアに、棒付き飴でのストレッチがあります。 棒付き飴を使った口唇・舌・ほおのストレッチ 棒を引き抜こうとすると、唇が飴をとらえて口が閉じる。味覚による唾液分泌と、飴の棒を引っ張ることにより口唇を閉じる訓練になる。(実施の判断時は、糖尿病のリスクがないことを確認。食前の実施がよい。) ①~③が複合的に生じることもあります。しっかり装着するためにも、市販の義歯安定剤を試していただくのもよいでしょう。 義歯のケア方法 義歯は主にプラスチックです。日ごろの洗浄や消毒を怠ると、プラスチック特有の極微細な気泡中に、口腔内細菌が繁殖します。低栄養や免疫力低下が引き金となり、カンジダ菌(日和見菌)による義歯性口内炎が発症することもあります。 義歯は、最低一日1回の手入れが必要です。歯磨剤は使用せず、流水下で義歯用ブラシ洗浄し、義歯洗浄剤に30分以上浸けます。 おわりに 認知症があっても、あきらめる必要はありません。入れ歯が合わず落ちる、すぐ外してしまうなどの場合は、ご家族にも相談の上、早期に訪問歯科へつないでもらうようケアマネジャーに伝えましょう。 次回は、2回の脳出血後に嚥下困難になった方を、介護負担の軽減へ導いた症例を紹介します。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)記事編集:株式会社メディカ出版

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2022年2月1日
2022年2月1日

第8回 労災保険・健康診断・メンタルヘルス対策/[その1]いざというときのために知っておきたい! 労災保険の基礎知識

いざというときにスタッフをしっかりサポートできるよう、管理者として労災保険に関する知識を整理しておきましょう。また、日ごろから訪問看護ステーションならではの労災リスクに備え、ステーション内でスタッフとともにリスクを洗い出し、その予防策や対応方法を共有しておくことも大切です。 訪問中に利用者宅で転倒したスタッフがいます。「痛みが続くため、念のため医療機関を受診したい」との申し出がありました。どのような流れで労災保険の給付が受けられますか。業務中・通勤中のけがや病気には労災保険が適用されます。スタッフから業務中・通勤中に受傷したと報告を受けたときは、けがをした日時と状況、けがの状態や部位などを確認し、病院を受診してもらいます。受診の際は窓口で「労災です」と伝えるように指導しましょう。受診した病院が労災保険指定医療機関(労災病院)の場合は、その病院に「療養補償給付たる療養の給付請求書」を提出します。そうすれば、療養費を支払うことなく治療を受けることができます。そして、この請求書は病院を経由して労働基準監督署に提出されます。労災病院でない場合は、いったん療養費を立て替えて支払います。その後「療養補償給付たる療養の給付請求書」を、直接、労働基準監督署に提出すると、療養費が請求書に記載した口座に支払われます。 労災保険の制度 労災保険(労働者災害補償保険)とは業務や通勤が原因となって発生したけがや病気、障害、または死亡に対して、労働者やその遺族に必要な保険給付を行う制度です。常勤のスタッフだけでなく、パートやアルバイトなどの雇用形態、また国籍などを問わず、雇用関係にあるすべての労働者に適用されます。 保険給付を受けるためには被災したスタッフ、またはその遺族が所定の保険給付請求書を入手し、必要事項を記載して、被災したスタッフが所属するステーションの所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければなりません。労災に該当するかどうかは、労働基準監督署が調査のうえ判断します。 保険給付請求書は労災の補償内容によって異なります。必要な書類は厚生労働省のサイトからダウンロードできますので、手続きの際に活用してください。 労災申請は原則として本人が行いますが、ステーションとして、スタッフの負担を軽減するためにスタッフに代わって書類を準備したり、記載可能な項目を記載し労働基準監督署に提出するなど、スタッフがスムーズに手続きを行えるようにサポートしましょう。 給付の種類 労災保険にはさまざまな給付制度がありますが、請求しない限り受けることができません。実際に被災した人から「どのような給付があるのか、受けられるのか職場で教えて欲しかった」との声も聞きますので、ステーションの管理者として図1に示すような給付の種類をしっかり理解しておきましょう。 図1 労災保険給付の主な種類 どのようなケースが労災になるのか? では、ここで訪問看護ステーションの業務において労災保険が適用されるケースを場所別に具体的に見ていきましょう。キーワードは「業務災害」と「通勤災害」です。 ●ステーション内での被災例えば、ステーション内で高い所にある物を取ろうとして転落したり、ステーションの建物の階段を踏み外して転倒したりなど、業務に従事して被災した場合は、特段の事情がない限り業務災害と認められます。 ●利用者宅での被災利用者宅で転倒し負傷した場合などは、業務災害と認められます。転倒以外の被災としては、例えば、針刺し事故や害虫によるけが、新型コロナウイルスなどの感染症に利用者や利用者家族から感染してしまうことなどが挙げられます。このような場合も業務災害として労災請求することができます。 ●通勤途中・移動途中での被災自宅とステーション、自宅と利用者宅への移動が通勤に該当します。ある利用者宅から別の利用者宅への移動は、業務の性質を有しますので、通勤ではなく業務に該当します。 通勤途中で被災し、通勤災害に対する補償を受ける場合は「合理的な経路」と「合理的な方法」により行うという要件を満たすことが必要です。移動の「中断」や「逸脱」があった場合には、通勤と認められないため注意が必要です。通勤災害については、次回の記事で詳しく説明しますので、ぜひご覧ください。 また、業務中や通勤途中の交通事故の場合は労災保険が使用できますが、加害者が加入する任意保険や自賠責保険の利用や調整など、ケースバイケースで判断する必要がありますので、労働基準監督署等とよく相談することをお勧めします。 労災や労災保険に関する相談 労災に関する相談、労災保険に関する手続き方法については、ステーションを管轄する労働基準監督署のほか、厚生労働省が設置する労災保険相談ダイヤルで相談することができます。 労災保険相談ダイヤル0570-006031(受付時間:月~金9:00~17:00) ステーションで管理する連絡先リストに「労災保険相談ダイヤル」の電話番号も加えておき、疑問があればすぐに相談できるように準備をしておいてもよいでしょう。 労災に備えよう 寒い地域では路面が凍結しやすいことによる転倒、湿度が高く暑い地域では熱中症など、ステーションが所在する地域の特性によって労災のリスク内容は異なります。いざというときに素早く対応できるように、普段からステーションのスタッフと以下のことを話し合っておきましょう。 ・業務に関連したリスクとその予防策、実際に被災したときの対応―利用者宅―利用者・利用者のご家族―関係機関や業者の施設―移動・通勤に関連したリスクとその予防策、実際に被災した時の対応 あらかじめ自分たちを取り巻く労災のリスクを明らかにすることによって、防災・減災につながります。また、リスクや予防方法を認識し、話し合いやマニュアルなどを通じて共有することで、スタッフが安心して働ける職場づくりにもつながりますので、ぜひ、カンファレンスの時間などを活用して労災に備えた対応をしていきましょう! ・保険給付を受けるためには、保険給付請求書を、ステーションの所在地を管轄する労働基準監督署の労災課に提出しなければなりません。・労災保険は常勤のスタッフだけでなく、パートやアルバイトなどの雇用形態や国籍などを問わず、雇用関係にあるすべての労働者に適用されます。・いざというときに備えて、日ごろから労災のリスクや予防策、労災が発生したときの対応などをスタッフと話し合っておきましょう。 加藤 明子 加藤看護師社労士事務所代表看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント●プロフィール看護師として医療機関に在職中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。▼加藤看護師社労士事務所https://www.kato-nsr.com/ 記事編集:株式会社照林社

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2022年1月25日
2022年1月25日

【セミナーレポート】看取りの作法 Q&Aセッション回答編

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。最終回の今回は、「QAセッション」の模様を一部ご紹介します。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある?Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は?Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ?Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい?Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは?Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか?Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら?Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか?Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? --> Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある? 私が組んでいる訪問看護ステーションの場合は、エンゼルケアまで行う事例が多いです。看護師さんの方からご家族に「訪問看護師にエンゼルケアをしてほしい」と思わせるような促しをすることも多い印象ですね。看取りにはご家族との細かいコミュニケーションが必要なので、エンゼルケアまでを含めて一つのパッケージとして提供しているところもあります。一方で、そこまでエンゼルケアというものがピンとこないご家族や、お金もかかるので葬儀屋さんでいいですとおっしゃる場合は、葬儀屋さんが担当なさいます。 Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は? すごく細かくしてとろみをつける方法があります。そのままの固形物ではなく、味を体感できるように工夫してみてください。飲み込まなくても、少量を口に含んで味を楽しんでもらうというのも一手です。 Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ? 看護師さんの方が頻繁に患者さんを訪問するので、ギリギリの場面で今すぐ伝えなくてはと感じるケースもあるかと思うのですが、まずは医師とコミュニケーションをとることをおすすめします。ひと手間かかって大変だと感じるかもしれませんが、訪問クリニックに連絡して「私からご家族にここまでお伝えしておきますね」というところの確認するのが良いかと思います。最近は、MCSやバイタルリンクなどを使うことで情報をファクトとして共有できるようになったので、訪問クリニックと目線を合わせて実行してみてください。 Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい? 結構多いケースですね。この場合、まず「家族はどうして入院してほしいと思っているのか」について深堀りして話を聞きます。働いているから看きれないというのであれば、訪問サービスで固める方法をご提案することもあります。もう一つ、「ご本人はどうして入院したくないのか」についても探ります。家族には素直に本音が言えないこともあるので、私たちが翻訳家や伝言役としてご本人と家族とをつなぐことも少なくありません。ここは多職種介入のミソだと思います。家族の話をたくさん聞き、本人の話もたくさん聞いて、向き合って妥協点を探ることをおすすめします。 Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは? グリーフケア、デスカンファ、ともにご本人が亡くなってから1カ月後をひとつの目安にしています。ご家族は葬儀でバタバタしたり、銀行をはじめ必要な手続きも多かったりするので、そのあたりのことが落ち着いた1カ月後くらいが目安になります。デスカンファも2カ月空けてしまうと記憶が薄れていることが少なくないので、行うのであれば、1カ月くらいが良いと思います。 Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか? できる関わりは多々ありますが、最も重視してほしいのはご本人への「傾聴」です。どんなことを今ご心配されているんですか? とか、先生や看護師さんからどんな話がありました? とか。聞く姿勢をもってくれる人に話をすると患者さんはちょっとすっきりするので、傾聴の関わりをおすすめします。そこで聞いたことを医師や看護師に共有してみるのはどうでしょうか。 Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら? キーパーソンは他の家族に説明しなくていいと言うが、他の家族は知りたいと言うようなケースでは、まずは、キーパーソンに目線を合わせます。他のご家族との関係性をちゃんと見つめながらキーパーソンに寄り添ってしっかりお話を聞いて、もし他の家族に説明をしない場合は〇〇というトラブルが考えられますが大丈夫ですか?というところまで伝えます。ここで妥協点を引き出せることが多いですね。医療者が家族の間に立ってコーディネートすることで円滑にコミュニケーションがとれるようになる、というのは、後々にも感謝されることじゃないかなと思います。 Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか? 私に対して患者さんが表出する怒りは「前医への批判」であることが少なくありません。そういうときは、私自身は前医を批判しないようにしながら「これからは私に言ってください」という方向に話を運びます。結構きついんですが、割り切って怒りに向き合っていますね。もう1回目の往診はこれだと。私の1回目の治療はこれだというふうに心がけをして、サンドバックになります。このとき、相槌も重要です。合いの手を入れるとさらに話してくださるので、どこで合いの手を入れるかも意識します。これはみなさん抱えている悩みだと思うので、看護師さんどうしでぜひいろんな人の経験を聞いてみてください。 Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? 医療ICTには、MCS、バイタルリンク、カナミックなどあるかと思うのですが、これらを事前にチームで共有します。相手が読んでいるかどうかはまた別の問題になりますが、タイムリーな共有が可能です。私自身は、末期のときはチーム全員でICTを導入します。文字だけではニュアンスが伝わりにくいこともあるので、内容に疑問をもったときや目線を合わせた方が良いと感じたときは、電話でもコミュニケーションをとるようにしています。 ▶ 編集部まとめ 在宅医療にかかわる医療者にとって大きな課題のひとつでありながら、自分なりの正解を見出すことが難しいと感じている方が多い「看取り」というテーマ。より良い「看取り」とはなにか? という課題に真正面から向き合い、多職種での連携を行いつつ患者さんとそのご家族に真摯に寄り添う田中先生のお話に、セミナー開催後、編集部には参加者の方からたくさんの声が寄せられました。代表的なコメントを一部ご紹介します。 〇セミナー後に参加者の方から寄せられたコメント「看取りの現場の実際の話をたくさん聞けて大変勉強になりました」「在宅専門の先生目線での意見が聞けて勉強になりました」「これで良かったのかと反省しながらまた次にと、すすんでいたので心が楽になりました」 次回セミナーレポートでは、2021年12月17日(金)、引き続き田中公孝先生を講師にお招きして開催した「看取りの作法~事例検討と質疑応答編~」をお届けします。公開まで楽しみにお待ちください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月25日
2022年1月25日

第7回 防災対策、交通事故、個人情報保護、医療事故編/[その4]医療事故は、なぜ起こる? 事故を未然に防ぐためにできること

訪問看護サービスを提供するにあたって、最も重要なことは何でしょうか。それは、医療安全を確保することです。医療は、人の病を治す術となりますが、時に、人の健康を害し、命を奪ってしまうことすらあります。今回は、医療事故が起きる構造を理解し、それを防止するための方策を学びましょう。 以下の事例で、AさんとBさんはいくつのミスを犯しているでしょうか。とある医療機関で、看護師のAさんとBさんが、患者Cさんに投与する薬剤「X」を準備しようとしました。「X」は保管庫の棚に入っていましたが、同じ棚には「X’」というよく似た名前の薬剤が入っていました。Bさんは他の業務が忙しかったので、薬剤の準備はAさんが1人で行うことになりました。しかし、Aさんは急いでいたので、よく確認せず「X’」という薬剤を持ち出してしまいました。その後も、Bさんは忙しくてAさんに任せっきりでした。Aさんは、薬剤を投与する際も特に薬剤のラベルを注視せず、そのまま「X’」を投与してしまいました。 医療事故が起きる構造とは? 「ハインリッヒの法則」という言葉を聞いたことがあるかと思います。これは労働災害の分野で使われる言葉で、1つの重傷事故の裏には、29の軽傷事故と、300もの無傷事故(ヒヤリ・ハット)が隠れているという「1:29:300の法則」のことをいいます。 これと似た考え方として、医療事故を考える際にはスイスチーズ・モデルというものが使われます。「医療事故は複数のミスが連なってしまったときに起きる」ということを表しています。 上の事例で考えてみましょう。AさんとBさんのミスとしては次のものが挙げられます。 ①保管庫の同じ棚に「X」と「X’」というよく似た名前の薬剤を入れていたこと②薬剤を持ち出す際にAさんとBさんの2人で確認しなかったこと③薬剤を持ち出す際にAさんが間違った薬剤を持ち出しこと④Bさんは、投与する際もAさんに任せっきりで、自ら確認しなかったこと⑤Aさんは、投与する際にラベルを注視せず、間違いに気づくことができなかったこと → 誤投与(事故発生) このように、1つの事故であっても少なくとも5つものミスが隠れていたわけです。ポイントは、「①〜⑤までのどこか1つでもミスを防ぐことができていれば、最終的に事故は起きなかった」ということです。 スイスチーズ・モデルは、医療事故が起きるこの構造を端的に言い表しました。スイスチーズの「穴」を「1つ1つの小さなミス」ととらえて、それが連なってしまったときに事故が起きてしまう(矢印がすべての穴を貫通してしまう)ということです。 図 スイスチーズ・モデル 医療安全の基本的な考え方というのは、この穴(ミス)の発生をできるだけ未然に防ぎ、また仮に1つのミスが起きても、他でリカバリーできる体制をつくっておくことにあります。 システム・エラーとヒューマン・エラー 上の①「保管庫の同じ棚に「X」と「X’」というよく似た名前の薬剤を入れていた」というのは、構造上の欠陥であるためシステム・エラーと呼ばれます。対して、③のような人為的なミスをヒューマン・エラーと言います。 ヒューマン・エラーは人為的なミスであるため、完全になくすことができません。よって、「人はヒューマン・エラーをしてしまう」という前提に立って、それでもミスをリカバリーできる体制をつくっておくことが重要です。 代表的なヒューマン・エラー対策 ヒューマン・エラー対策は、古くから産業界において発展してきました。その代表例としては以下のようなものがあります。事故対策のヒントとして参考にしてください。 ①フールプルーフ、フェイルセーフフールプルーフとは、そもそも間違えることができないしくみにすることです。例として、「扉を閉めないとスイッチが入れられない電子レンジ」が挙げられます。 フェイルセーフとは、たとえミスをしても大事故にならないしくみにすることです。例として、「消し忘れたら自動的に消えるストーブ」が挙げられます。 ②5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)作業環境を整理・整頓・清掃して清潔にし、そのような状態を継続させること(しつけ)は、事故防止の基本中の基本であるとされています。 ③指差し呼称指差し「確認」ではありません。指差し「呼称」です。これは電車の車掌さんが行っていますね。 人の注意力というのは散漫ですので、「指を指す」ことによって自分自身を対象に集中させ、さらに、声に出して言う(呼称)ことによって、あえて2度集中させているわけです。 ④ダブル・チェック自分自身を客観視するというのはとても難しいことです。③の「指差し呼称」は、1人で自分自身を客観視しようとする取り組みといえますが、それにも限界があります。 やはり理想的なのは、自分以外の別の人から客観的にチェックしてもらうことです。ダブル・チェックとは、1つの物事を2人以上でチェックすることをいいます。 ⑤伝言ゲームを避ける皆さんは、幼い頃に伝言ゲームをやったことがあるかと思います。伝言ゲームでは、数名の人を挟むだけで当初のお題が大きく変わってしまうわけですが、これは「伝言」というものの恐ろしさを端的に教えてくれています。 例えば、訪問先において医師から電話で指示を受けた場合、指示された処置は、できるだけ電話を受けた本人が行うべきでしょう。「医師 → スタッフA → スタッフB」と伝言をすると、それだけミスが起きやすくなる(医師の指示がスタッフBに正確に届かない)可能性があることを自覚しておきましょう。 また、指示を受けたスタッフは、指示を受けている際にメモをとって復唱し(これは③指差し呼称の応用といえます)、さらに一緒にいるスタッフにダブル・チェックをしてもらうとよいでしょう。 ヒヤリ・ハットを共有しよう そして最後に、ステーション内で起きたヒヤリ・ハットをスタッフ全員で共有するようにしましょう。月に一度の定例会の際などに、どういうことでミスしそうになったか、スタッフみんなで話し合ってもらうのです。 重要なことは、報告をしたスタッフを決して責めないことです。それをすると誰もミスを報告できなくなります。場合によっては、匿名で報告をしてもらってもよいでしょう。 そして管理者は、そうして集まったヒヤリ・ハットを分析し、再発防止のための方策を考えるわけです。 医療安全を実現するためには不断の努力が求められます。以上の内容を参考に、ぜひ、ステーションに安全文化を根づかせる取り組みを始めてみてください。 ・訪問看護サービスを提供するにあたって最も重要なことは医療安全を確保することです。そして、医療安全を実現するためには不断の努力が求められます。・医療事故を起こさないためには、どういうことでミスしそうになったか、スタッフみんなで話し合い、ヒヤリ・ハットを共有しましょう。 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。所属する法律事務所のホームページはこちらhttps://mulaw.jp/記事編集:株式会社照林社

特集
2022年1月25日
2022年1月25日

認知症のある患者さんに接するときの7か条(前編)

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第1回は、「認知症のある患者さんと接するときの7か条」を、前後編にわけて紹介します。 認知症のある患者さんとのコミュニケーションの特徴 認知症の人は理解力や判断力が低下しているため、コミュニケーションをスムーズにとることが難しくなります。「認知症の人は話がわからない」「説明してもどうせわからない」と、偏見や苦手意識を持っている援助者も少なくありません。認知症の人のほうも、周りとどう対話すればよいのかわからず、困惑しています。 認知症の症状や生活への影響、性別や年齢、生まれ育ったところなど、一人一人が違い、コミュニケーションの方法もさまざまです。そして、本人が認知症をどう受け止めているのか・感じているのかも違います。そのため、認知症の人とのコミュニケーションの方法は、統一した枠にはめることができません。 認知症の人とのコミュニケーションでは、信頼関係を築き、安心して話ができるよう、相手の気持ちを理解し寄り添う気持ちが大切です。本人のできることや強み、長所に目を向け、その人の立場に立って考えるといったコミュニケーションの方法を工夫する必要があります。 1条 コミュニケーションのための環境を整えましょう 話をするときの環境に留意することで、コミュニケーションがとりやすくなります。 まず、静かな環境を作りましょう 認知症の人は、気になることがあると、そればかりが気になってしまいます。大きな音や、気になる音に意識が向いてしまいます。そして、会話をしていても一つの音に集中することが難しくなります。ざわざわと人がたくさんいる騒がしい場所や、つけっぱなしのテレビがある場所などは、コミュニケーションがとりにくい場所といえます。また、認知症の人には高齢者が多く、難聴がある人も多いといえますので、生活雑音をなるべく小さくすることが大切です。こちらの声に集中してもらえるように、会話をするときは静かな場所を選びましょう。 次に、明るさを整えましょう 相手の顔をよく認識できる程度の明るさの場所を確保しましょう。コミュニケーションは、言葉だけでなく、相手の表情や身振りなども大切です。声だけでなく、視覚からも情報が得やすい環境を整えると、言葉と合わせて認識することができます。 そのほか、不快な香りがない場所を選びましょう 不快な香りがある場所では落ち着いて話ができません。快適なほのかな香りは気持ちが穏やかになります。 なじみのある環境、落ち着いた場所、居心地のよい場所は、自然にリラックスした状態でコミュニケーションがとれるようになります。 2条 笑顔で安心感が与えられる姿勢や態度を心がけましょう 表情や態度、しぐさ、服装などの第一印象は重要です。認知症の人とコミュニケーションをとるときには、優しく、笑顔を心掛けましょう。怖そうな顔をしていると、この人は怖そう、今日はこの人に近づきたくないと感じるでしょう。顔の表情が怖い、目が合わない、などでは、心地よい印象や雰囲気が得られません。また威圧的な態度は、安心できない相手と感じ取られてしまいます。このような状況ではコミュニケーションが難しくなります。 認知症の人とコミュニケーションをとるときには、笑顔で気持ちを込めて話し掛ける、優しいしぐさ、穏やかな表情や声で、そばに寄り添うよう心掛けることで安心感が生まれます。 3条 視線を合わせて優しく触れる 名前を呼んで視線を合わせる 声を掛けるときや何かをする前に、まずその人の名前を呼びましょう。突然目の前に人が現れると、びっくりすることがあります。話し掛けるときや話を聞くときは、笑顔でその人の正面から視線を合わせるようにしましょう。 目の高さを、その人の目の高さに合わせます。立ったままの状態で上から話し掛けられると、見下されているような印象や不安を与えてしまうことがあります。ベッドで過ごしている人や車いすを利用している人には、こちらが体勢を下げて、本人と目の高さを合わせることが大事です。 優しく触れる 認知症の人は、集中力の低下や空間認知力の衰えによって、話し掛けられても反応するまでに時間がかかる、視線が合わないようなことがあります。会話をするときは言葉だけでなく、優しく体に触れることです。こちらを認識し、安らぎや安心感を与えることができます。 しかし、手や顔など敏感な部位にいきなり触れると驚かせてしまうことがあります。最初は腕や肩から触れましょう。手のひら全体の広い面積で、柔らかく、ゆっくりなでるように優しく触れることが大切です。 執筆浅野均(あさの・ひとし)つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇一般社団法人日本認知症ケア学会.『認知症ケアの実際Ⅱ:各論.改訂5版』東京,ワールドプランニング,2018,113-6.〇一般社団法人日本認知症ケア学会.『認知症ケアの実際Ⅰ:総論.改訂4版』東京,ワールドプランニング,2016,39-45.〇鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,66-7.〇鈴木みずえ監修.『認知症の人の気持ちがよくわかる聞き方・話し方』東京,池田書店,2018,34-47.〇飯干紀代子.『看護にいかす認知症の人とのコミュニケーション』東京,中央法規出版,2019,50-84.〇井藤英喜監.『認知症の人の「想い」からつくるケア:在宅ケア・介護施設・療養型病院編』東京,インターメディカ,2017,32-47.〇井藤英喜監.『認知症の人の「想い」からつくるケア:急性期病院編』東京,インターメディカ,2017,22-9.〇鈴木みずえ監.『3ステップ式パーソン・センタード・ケアでよくわかる認知症看護のきほん』東京,池田書店,2019,37-44.

特集 会員限定
2022年1月18日
2022年1月18日

【セミナーレポート】看取りの作法 -後編- 看取り直前の対応とグリーフケア

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。2回目の今回は、「看取り直前の対応とグリーフケア」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】1. 看取り直前の経過をおさえる2. 死生観・グリーフケアを意識する3. 在宅看取りについての私見 --> 看取り直前の経過をおさえる 看取りの自然経過として、そろそろ食欲がなくなってきた……というタイミングで、ご家族に1週間以内の話をします。そんなことまで伝えるの? と思う方もいるかもしれませんが、これから起こることを前もって知っていると人は冷静になれるので、必ず伝えるようにしています。具体的には、次のような内容をお話します。 死亡前1週間以内・トイレに行けなくなる・水分が飲めなくなる・ADLが落ちていく 死亡前48時間以内・手足が冷たくなる・尿が非常に少なくなる・血圧が脈でしか測れない(70くらい)・死前喘息(ゼーゼーという痰が絡むような音が聞こえる)・手足をバタバタさせる「せん妄」状態に陥る 死前喘息については、吸引しても引けない可能性があり、ご本人にとって吸引が苦痛になるので、ゼーゼー苦しそうに聞こえるからといって「これは引いてもらわないといけない」と思わない方が良いかもしれません、ということも伝えます。せん妄状態についても、結構手足をバタバタさせることを事前に知ってもらいつつ、どうしても辛そうな場合の処方薬を置いておくので様子をみてくださいねと、具体的な対応を含めてお話します。このとき、「看取りのパンフレット」もよく活用しています。 看取りのパンフレットについてはこちら≫ 死生観・グリーフケアを意識する 死というものをリアルに感じ始めると、多くの方は「じゃあ、ここからどうやって生きようか」ということを考えます。家族や友人・知人に会いたいとか、あれを食べたいとか、出てくるんです。死生観、つまり「死を認識したうえで、どう生きるか」というのは、ご本人はもちろん家族や私たち看取りを行う医療者にとっても重要な視点になります。そして、死生観というのは個別的なものなので、押し付けるものではないという基本を忘れないことも大切です。 また、私はグリーフケアを推奨しています。グリーフケアとはなにか? 簡単に言うと「悲嘆をケアすること」です。人は愛する人を失うと大きな悲しみを感じて、長期にわたって特別な精神状態の変化があります。これが「グリーフ(GRIEF/悲嘆)」です。残された家族が体験して乗り越えなければいけないことを「グリーフワーク」、そのケアをすることを「グリーフケア」と呼びます。看取りを通じて、生前からのグリーフケアを行っていきます。 グリーフケアで最も重要なのは「感情表出を手助けすること」。私たちはグリーフケアにおいては「涙を流してもらえる専門職」としてあるべきかなと思っています。ご家族が患者さんご本人の前では見せないようにしているもの・いたものを表出させて、心を軽くするための手助けをする専門職でありたいと思います。なかなかご自身だけ、その場だけで表出させることは難しいので、家族や親戚の方にも手伝ってもらえるようにお願いすることもあります。少し余談になるかもしれませんが、実は葬式は絶好のグリーフケアの場。みんなで集まって食事をしながら故人を偲ぶことでグリーフケアになっているんです。四十九日や三回忌なども同じですね。COVID-19流行の影響でなかなか人が集まれない状況が続いているので、医療者としてよりグリーフケアを意識してみてください。 そして、グリーフケアを通じて医療介護職自身のセルフケアにもなります。なぜなら、看取りには「本当にあれで良かったのかな」「もっと上手くやれたんじゃないかな」というモヤモヤがつきものだから。そういうときに他者からの一言で救われることもあるので、セルフケアという意味でも、ご家族のケアという意味でも、グリーフケアを推奨します。 在宅看取りについての私見 現状、在宅看取り数が少ない日本ではありますが、できるならしたいと思っているご家族がいたり、できるなら最期まで自宅にいたいと思っている患者さんがいたりします。看取りの回数を重ねると「あ、これは似たようなケースを経験したことがある。あのときは上手く看取れた」と、過去のケースと重ねられるように感じることも増えるのですが、類似ケースであっても同じ看取りはありません。そして、どれだけ看取りのエキスパートになっていても、やっぱり見えていない点や家族の話で聞けていない点は絶対に出てきます。患者さんやご家族が、「看護師だから言うね」「先生(医師)だから話すね」「介護の人だから相談するね」とこそっと言うようなこともありますので。 だからこそ、今後、自宅での看取りを増やしていきたいというのはありつつも、私たち医療者の理想を、患者さんやそのご家族に押し付けることだけはしてはいけないと考えています。「完璧は絶対にない」というのを前提として、一つ一つの看取りに対して十分な配慮をすること、経過のなかで複数の関係者の視点でディスカッションをすることが必要です。看取りを終えてからも、どういうところが良かったのかな、今後改善できるとすればどういうところかな、という話ができるとなお良いですね。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年1月18日
2022年1月18日

【セミナーレポート】看取りの作法 -前編- 医師が考える看取りと向き合うポイント

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、「医師が考える看取りと向き合うポイント」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】1. 医療・介護専門職としての「看取り」と在宅看取り数の現状2. 看取りと向き合う5つのポイント3. 看取りの流れをおさえる4. 死の直前の4つの苦痛をケアする5. 患者・家族の認識に向き合う ・本人の現在の心情を認識する ・家族の認識に向き合う --> 医療・介護専門職としての「看取り」と在宅看取り数の現状 私は家庭医療専門医として、在宅クリニックを開業しました。開業から半年、従業員は3名です(2021年11月現在)。訪問エリアは西荻窪を中心に半径6km以内(東京都の23区の西側、新宿より西側のエリア)を担当しています。クリニックのミッションは「医療を通して探求し、あるべき未来に挑戦する」こと。今後の地域包括ケアに貢献していきたいと考えています。そういった想いがある一方で、医療・介護の専門職として「看取り」という日常・仕事にどう向き合っていくか? というのは私にとって大きなテーマです。これはみなさんも同じように感じていらっしゃるのではないでしょうか。 私自身が看取りに向き合って、現在のクリニック開業前を含めて年間20名以上を看取った結果気づいたのは「看取りには一定のお作法がある」ということ。それを言語化したのが今回のセミナーです。どなたでも、きちんと向き合えば徐々にできるようになると確信していますので、ぜひ参考にしてもらえたらと思います。 まずは、現在の在宅看取り数について。こちらは厚生労働省「人口動態統計」で見た「場所別の死亡者数(2019年)」についての円グラフです。やはり病院が非常に多く、自宅での死亡者数は約14%。まだまだ少ない現状にあります。 医師が考える看取りと向き合う5つのポイント 医師という立場から看取りと向き合ったとき、ポイントになると考えているのが次の5つです。ここから順にお話していきます。 1 看取りの流れをおさえる2 死の直前の4つの苦痛をケアする3 患者・家族の認識に向き合う4 看取り直前の経過をおさえる5 死生観・グリーフケアを意識する※1~3については今回(前編)、4・5については次回(後編)にてお伝えします。 看取りの流れをおさえる 流れをおさえるための事例を一つご用意しました。こちらを見ると、看取りまでのだいたいの流れがイメージできるかと思います。 ■70代女性 膵癌末期2017年12月末~心窩部痛あり、2018年2月A病院受診。切除不能、局所進行膵頭部癌の診断。手術は不可、抗がん剤も服用してみたが副作用(食欲不振、便秘、発熱、皮膚搔痒など)のため中止。緩和ケアの方針で、当院訪問診療開始となった。 家族構成:本人、弟夫婦の3人暮らし当院介入後は、前医への不信感・強い悲嘆があり、経緯をお聞きし、今後は私たちと訪問看護師に相談しながら進めていきましょうとお話。 その後、自宅での生活に安心されていたが病状の進行が早く・癌性疼痛が週の単位で悪化。 麻薬を増量するが内服も飲みづらくなり貼るタイプの麻薬も処方・ご本人はもともと繊細な性格だったが、癌になって以降、感情失禁を出す状況。 抗不安薬の屯用で前週よりは対応できるように。・下肢浮腫が著明で利尿剤投与、弾性ストッキングおよび訪問マッサージを導入。・排便コントロールが難しくなり、下剤増量。臨時訪問で浣腸を2回施行。・入院のタイミングをご本人・ご家族と相談。 老老介護のため介護疲弊が限界にきていること、毎週のペースで麻薬を増量しており病状が悪化していることを説明し、緩和ケア病棟入院へ・しかし入院生活は思っていたものと違った、とご本人より話があり、早期退院。・最期はご家族が自宅看取りの覚悟を決められ、数週後看取りとなる。 死の直前の4つの苦痛をケアする 死の直前の苦痛には、主に次の4つがあります。すべてが重なって全人的苦痛(トータルペイン)となります。 ①身体的苦痛②精神的苦痛③スピリチュアルペイン④社会的苦痛 この4つの苦痛については、一つ一つのケースごとにフレームワークで整理して考えていきます。なぜフレームワークに当てはめるのか? というと、視点の偏りを防ぐためです。目の前のことだけに集中すると、たとえば「身体的苦痛」は看られているけれど、「社会的苦痛」への対応が遅れてしまう……というケースも少なくありません。後手にならないよう、フレームワークに当てはめて整理することをおすすめしています。 フレームワークについて詳しくはこちら≫ 患者・家族の認識に向き合う 終末期の現場で私がよく考えることの一つは、患者本人と家族の認識です。 本人の様子は、告知・未告知では、やはり違ってきます。未告知の場合は本人が「おかしい、おかしい」と思ったときに、どういうふうに対応するのか? という点について、家族と目線を合わせておく必要があります。仮に家族が未告知を選択した場合でも、本人の認知機能がしっかりとしていると隠しきれない可能性も高いので、そこも含めて検討してもらいます。 告知をする場合、本人は「腑に落ちた」とおっしゃることが多い印象です。このときポイントとなるのは「本人に予後は伝えない」こと。伝えなくてもうまくいくケースがほとんどです。ただ告知すると本人の感情が大きく揺れ動くので、ご家族にしっかり向き合ってもらえるようコーディネートする必要があります。ちなみに、家族にはきちんと予後を伝えます。残り1週間の気構えと準備、残り2・3日の気構えと準備は異なるためです。ここで伝える具体的な内容は後編でご紹介します。 本人の現在の心情を認識する 本人の受容段階について家族と認識を合わせるために役立つのが、キューブラーロスの「死の受容段階5段階モデル」です。これは私たち医療の専門職にとっても支えになります。 キューブラーロス「死の受容5段階モデル」①否認と隔離②怒り③取引④抑うつ⑤受容 なぜこれが私たちにとっても支えになるのかというと、私たちが向き合う患者さんのなかには、②怒りの段階の方が少なくないからです。医療者も、理不尽な怒りに直面するのはつらい。そういうときに「これは死に向かう過程で必要なプロセスなんだ」と、プロフェッショナルとして認識できていれば、その怒りがどんなに理不尽でも、まず受け止めようというメンタルになれると思います。そして、②怒りの段階から移行しない患者さんの場合、まず間違いなく、家族に言えていないことや、話し合えていないことを心のなかに抱えています。そこのファシリテーターというか、コーディネートをするのが、看取りに関わる専門職として大事な役割だと感じています。全人的苦痛と同じくらい、キューブラーロスについても意識してみてください。 家族の認識に向き合う 多くの家族が「在宅で看取りきれるか?」という点に不安を感じます。だからこそ、事前に家族の介護力や覚悟、緩和ケア病棟を利用する方針などをしっかりと検討することが必要です。最近はCOVID-19流行の影響で自宅看取りが増えてはいますが、「自宅看取りはすごくいいですよ」と押しすぎることは避けます。ここを見誤ると、自宅看取りが最適解ではない事例を無理やり看取ることになるので、フラットな目線を忘れないようにします。ご家族とご本人をしっかりアセスメントして考えることが重要です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年1月18日
2022年1月18日

嘔吐した後、呼吸時にゼロゼロと音がする場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第2回は、嘔吐した後、元気がなくなり、呼吸時に喘鳴が出てきた患者さんです。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか? 事例 86歳男性。脳梗塞後、嚥下機能が低下していることが指摘されていますが、家族と本人の希望で経口摂取は続けています。昨夜遅くに嘔吐し、その後、何となく元気がなく、息をするたびにゼロゼロと音がします。今朝も食事をとろうとしません。 アセスメントの方向性 誤嚥した可能性が高い状況です。元気がなく、食事もとれないことから、低酸素状態でないかどうかを確認します。 誤嚥した吐物が気管支に詰まっている場合は、無気肺の可能性があります。 また、誤嚥性肺炎を発症している可能性もあります。 肺のアセスメントを十分に行なって、状態を把握します。 ここに注目! ●喘鳴がみられており、痰や吐物が喀出できていないのではないか?●もともと嚥下機能の低下があるにもかかわらず嘔吐したため、吐物を誤嚥した可能性があるのでは?●元気がないのは、痰や吐物が詰まったための無気肺や、誤嚥性肺炎から低酸素となっているのではないか? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・呼吸状態とその経過・嘔吐の状態(吐物の色・性状・量、嘔吐の勢い、嘔吐のきっかけ)・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、むせ、喘鳴、など) 客観的情報の収集 SpO2 パルスオキシメーターで、SpO2を測定します。SpO2が90%を切るようだと要注意です。 脈拍数、血圧 血中酸素が不足していると、酸素を多く末梢に運ぶために、頻脈となり、血圧は上昇します。この徴候はSpO2の低下よりも先にみられることが多いので、特に注意してください。 呼吸状態 呼吸の状態を視診します。肺炎などで酸素化能が落ちていると、呼吸は頻呼吸・努力呼吸となります。 胸郭 胸郭の拡張を、視診と触診で観察します。胸に手を触れ、その動きを目と手で確認します。前面は、上部では上下に、下部では左右に広がり少し挙上するような感触です。背面は上部・下部ともに左右に広がります。 無気肺の場合は、その部位に空気が入っていきませんので、胸郭が拡張しなくなります。肺炎の場合も、範囲が広く重症であれば、胸郭の拡張が少なくなります。左右同時に、部分的な無気肺になる可能性もあるので、前面・背面ともに確認しましょう。 体温 肺炎であれば一般に高体温になりますが、高齢者は誤嚥性肺炎を起こしていても高体温になりにくく、微熱程度の場合もあります。継続的に様子をみる必要があります。 肺音 誤嚥の場合、重力に従って誤嚥したものが背部側にたまります。必ず背面の肺音聴取を行なってください。臥床している方の背面の肺音は、側臥位になってもらい聴取します。側臥位も難しい場合は、聴診器を背中とベッドの間に入れて聞きます。特に、背面の肺底部の聴診を慎重に行ないます。 無気肺がある場合は、呼吸音が減弱・消失します。この際に、健常な側の肺に代償性の増強が起こる場合があります。患側肺でも、患区域以外で代償性増強がありえます。肺の健常な部分が、無気肺区域を補って換気量を増やそうとするためです。 肺炎の場合は、肺胞音の気管支呼吸音化がみられます。 固形物や痰により気管支が狭窄している場合、詰まったのが太い気管支だといびき音が、細い気管支だとウイーズ音が聞こえます。この二つが混じっていることもあります。捻髪音が聞こえると肺炎の可能性が高いです。炎症が重度になり、分泌物が増えると、水泡音となります。聴診器を使用しなくても喘鳴が聞かれます。 報告のポイント ・嘔吐があり、誤嚥の疑いがあること・酸素化の状態(SpO2、脈拍、呼吸数と呼吸形態)・肺音聴取結果、無気肺の可能性、誤嚥性肺炎の可能性 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ)青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授記事編集:株式会社メディカ出版

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