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がん告知・再発等の「悪い知らせ」の伝え方&支え方【精神症状の緩和ケア】

がん告知・再発等の「悪い知らせ」の伝え方&支え方【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回は「悪い知らせ(バッドニュース)」が伝えられた患者さんへの対応を考えます。

悪い知らせ(バッドニュース)とは
患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう知らせのこと1)。伝えられる患者や家族に多大な精神的負担を与えるもので、がん医療においては病名の告知や再発・転移、積極的な治療の中止などがある。

悪い知らせに伴う心の反応

がん医療において、患者さんや家族に病状や予後に関する悪い知らせ(バッドニュース)を伝えることは避けて通れません。現代は死に直面する機会が少なく、自分自身や大切な人が「近い将来、死んでしまうかもしれない」という話を聞くことは、非常に強い衝撃を受ける体験です。

バッドニュースが伝えられた後、患者さんは混乱や不安、落ち込みなどを感じます。これは強いストレスに対する自然な心の反応であり、通常は時間が経つにつれてバッドニュースを受け入れ、落ち着きを取り戻していきます。しかし、中には症状が回復せず、適応障害やうつ病を発症する患者さんもいるため、患者さんの表情や言動をよく観察し、ケアを行っていく必要があります。

伝える側も感じるストレス

基本的にバッドニュースを伝える役割は医師が担いますが、在宅では訪問看護師が病状の変化や療養する場所の選択などに関する説明をしなければならないことも少なくありません。例えば、最期のときが近いと医師から説明を受けている利用者さんや家族に対し、次のような声かけをした経験はないでしょうか。

「どなたか会いたい(会わせたい)人はいらっしゃいますか。早めに連絡したほうがよいと思います」
「自力でトイレへ行けなくなったら、病院への入院を希望されますか、それともこのまま自宅で過ごされますか」
「葬儀はどのようにするか相談されていますか」など

どれも「死」を連想させる声かけで、伝える側もストレスを感じるのではないかと思います。しかし、こうした問いかけをきっかけに患者さんや家族の想い、希望、生活の意向などが引き出されることがあり、大切なコミュニケーションです。だからこそ、患者さんや家族にどう伝え、伝えた後の心理的反応にどう対応するかも含めたコミュニケーションスキルを身に付けておくとよいでしょう。

伝える際のコミュニケーションスキル:SHARE

バッドニュースを伝える際のコミュニケーションスキルとして「SHARE」がよく知られています。SHAREは、がん患者さんが悪い知らせを伝えられる際に医師に対しどのようなコミュニケーションを望んでいるのかに関する研究からまとめられたスキルです。患者が望むコミュニケーションの4要素の頭文字をとってSHAREと名付けられました。

4要素を図1に示します。

図1 SHAREの4要素

SHAREの4要素
内富 庸介先生(国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発センター長)より許諾を得て掲載

SHAREに関するコミュニケーション研修も実施されています。在宅で医師が利用者さんや家族にバッドニュースを伝える際、訪問看護師もこのSHAREを念頭に置いて支援を行うとよいでしょう。例えば、話し合うときに落ち着いた支持的な環境を調整し、日常生活への病気の影響や気がかりについて付加的な情報を提供するといったことを行います。もちろん、私たち訪問看護師が利用者さんにバッドニュースに関連することを伝えるときにも役立つスキルだと思います。

告知を受けたときから始まる意思決定支援

告知をはじめとしたバッドニュースを伝えられた後、患者さんや家族は残された時間の中で治療や療養場所などさまざまな選択をしていきます。訪問看護師は、利用者さんや家族に寄り添い、彼らの意思決定を支援する役割があります。

看護師が意思決定支援で真のニーズや価値観を引き出すかかわりとして、有効と思われるモデルをご紹介します。それは9つのスキルと30の技法で構成された「がん患者の意思決定プロセスを支援する共有型看護相談モデル(NSSDM)」です。NSSDMは、兵庫県立大学看護学部の川崎優子先生がまとめられたモデルで、「看護師が対応した面談記録の中から患者さんの意思決定プロセスに効果的に関与していた相談技術の構成要素を抽出」2)し作成されています。療養相談の先に意思決定支援があるとの前提で開発されたモデルであるため、訪問看護の場面で応用がしやすいと感じています。

ここではNSSDMで示される9つのスキルを紹介します(図2)。

図2 NSSDMの9つのスキル

NSSDMの9つのスキル
川崎 優子先生(兵庫県立大学看護学部 教授)より許諾を得て掲載

意思決定場面においてすべてのスキルを扱うのではなく、患者さんの状況や相談内容に応じて必要な技術だけを段階的に用います。医療者の判断を押し付けるような情報提供にならないように留意しながら、患者さん自身が自分の価値観を自覚し、適切な自己決定を行うように支援する方法です。

今回はDさんの事例を通じて、がん患者さんの最期の療養先選択場面におけるNSSDMを用いた意思決定支援について紹介したいと思います。

事例:Dさん(80代、女性、独居)

5年前より肝細胞がんに対しラジオ波熱焼灼療法を受けていましたが、新たに胆管細胞がんと診断。その時点で本人の希望により化学療法は行わずBSC(ベストサポーティブケア)に移行し、自宅療養を選択されました。

最近になって下肢に著明な浮腫がみられ、Dさんは動くのが困難になってきました。病院の医師から入院をすすめられましたが、本人が「自宅で過ごしたい」と希望したため、訪問診療と訪問看護を開始することに。

病院から在宅へ、移行のタイミングで意思を確認

初回訪問日、Dさんは近所に住む友人に手伝ってもらい、布団からようやく起き上がれるような状態でした。数日前に訪問した医師より現在の病状の説明や今後の療養先の意思確認が行われています。その際、「自宅で過ごす」と話されていることを確認していましたが、看護師も再度Dさんに自身の病状の理解、現在の心理状態、これからへの思いを確認しました。

麻薬に対する抵抗感を確認するため、オピオイド鎮痛薬の使用について聞いてみました。すると「まだ大丈夫。私は弱い薬で効く体質なの。痛みで眠れないことはあるけれど、そのうちよくなるから」とのこと。この話から眠れない程度の疼痛があることや、オピオイド鎮痛薬の使用に抵抗感を持っていることが推察できました。

ほかにも以下の話をうかがいました。

  • 今は病気や自身の身体について知りたい情報は特にない
  • 友人の支援を受けながら、このまま家で死を迎え、同世代の友人たちに人の死について考える機会にしてほしいと思っている
  • 同じ市内に住む息子には仕事があるし心配をかけたくないので世話にはなりたくない
  • 体調がよくなれば自分の身の回りに関することはできるから、今さら知らないヘルパーさんに家に来てもらうのもわずらわしいと感じる

NSSDMを用いた意思決定支援の実際

まずは意思決定支援の方向性を見出すため、NSSDMの「スキル1 感情を共有する」を実践しました。Dさんには数年前に亡くなった寝たきりの夫を、息子に頼らず一人で介護されてきた経験がありました。こういった今までの生き方を否定せず時間をかけてうかがいました。

そうするうちに「痛みがあると自分の思い通りに動けないのはつらいけれど、痛み止めを使うことには抵抗がある」との発言があったことから、オピオイド鎮痛薬使用に関する意思決定支援を行うことにしました。

ここからは次の段階です。意思決定に向けて不足している点を補うため、特に「スキル5 患者の反応に応じて判断材料を提供する」と「スキル8 情報の理解を支える」ことに重きを置いてかかわりました。

Dさんは、疼痛が強いにもかかわらずオピオイド鎮痛薬に対する抵抗感があります。その結果、不眠を招き、疲労感が増している状態です。そこで何が抵抗感につながっているのか確認してみると、「麻薬を使用する=症状が悪化している」との思いがあるとわかりました。そこで、近年は薬剤も進化しており、痛みに対し早期から麻薬系の薬剤を使用することが多くなっていると説明しました。すると、「まずは一回試してみようかしら」との言葉が聞かれたので、訪問中に一度オピオイド鎮痛薬を服用しもらうことに。その場で体調の変化がないことを確認し、訪問後に時間をおいて電話でも体調を確認し、不安を軽減するようにしました。

Dさんとの信頼関係が構築できたと考えられた時点で、今後の療養先についてもう少し具体的に明確化するようにしました。Dさんにこれからの療養場所についてうかがってみると、次のような返事がありました。

  • 足のむくみがひどくて、最近は息切れもする
  • 夜は心配で眠れないけれど、昼間にその分ウトウトしている
  • 以前は絶対に家がいいと思っていたけれど、息子に迷惑もかけられないし、病院や施設のほうがいいのかしらとも思う
  • でも、先生に「家で最期まで過ごしたい」と言った手前、「気が変わりました」とは言いづらい

こうした発言からDさんに意思決定の準備が整っていると判断し、最終段階の「スキル9 患者のニーズに基づいた可能性を見出す」を念頭に置いてDさんにかかわるようにしました。例えば、言い出しにくい気持ちを看護師が医師に代弁できることを保証し、改めて自宅と病院(施設)での最期の過ごし方の特徴について具体的に説明しました。また、自分が決めたタイミングで気持ちが変化すればいつでも療養場所は変更可能なことを伝えました。

その後、Dさんから呼吸苦が増強した時点で「入院したい」との連絡があり、訪問してDさんと息子さんの意思を再確認しました。主治医と連携し緩和ケア病棟への入院を調整し、最期は病院で永眠されました。

* * *

医療法第1条第4項には「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第一条の二に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない」と示されています。しかし、バッドニュースを伝えることは、相手が傷ついたり、悲しい思いをしたりすることが予測でき、伝える側も苦悩を抱える作業です。このため、伝えるチームメンバーを周りがサポートし、孤独にならないよう、尊重し合えるようなチームづくりが終末期ケアでは大切です。看護師として自分に課せられた説明義務を果たすと同時に、バッドニュースを伝える場面で助け合える人間関係を大事にしたいと思います。

執筆:熊谷 靖代
野村訪問看護ステーション
がん看護専門看護師

●プロフィール
聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。

編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)Buckman R: Breaking bad news: why is it still so difficult? Br Med J (Clin Res Ed) 1984; 288(6430): p.1597-1599.
2)川崎優子著.「がん患者の意思決定支援プロセスに効果的に関与していた相談技術」,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所紀要 2017; 24: p.1-11.

【参考文献】
〇内富庸介,藤森麻衣子編.『がん医療におけるコミュニケーションスキル―悪い知らせを伝える』,医学書院,東京,2007.
〇川崎優子著.『看護者が行う意思決定支援の技法30 患者の真のニーズ・価値観を引き出すかかわり』,医学書院,東京,2017.
〇聖隷三方原病院症状緩和ガイド「E.予後の予測」
https://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents7/71.html
2023/10/20閲覧

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