特集

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第3回vol01

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護の現場では、疾患・障害があっても、自分らしく前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。今回は「みんなの訪問看護アワード2025」に寄せられた投稿の中から、利用者さんの生き方や言葉に元気をもらえるエピソードをご紹介します。

「泣き笑いのお別れ」

コロナ禍をきっかけに在宅で最期まで過ごすことを選んだ70代女性。娘さんたちに見守られながら、笑いと涙が入り混じる穏やかなお別れを迎えたエピソードです。

私が訪問看護に携わり始めたころに訪問していた患者さんは、70代の女性で、消化器系のがんを患っておられました。
医師より予後6ヶ月との説明を受け、ご本人・ご家族も理解されていました。数年前にご主人を肺がんで亡くされ、次女さんとの二人暮らしでした。長女さんは東京、三女さんは大阪にお住まいでした。
当初、患者さんは「できるところまで通院し、最期は病院で迎える」と決めておられました。しかしコロナ禍で、県外に住む娘さんたちと思うような面会ができないため、「在宅で最期まで」と決められました。
意識が朦朧となり、いよいよお別れまで数日となったある日、娘さんより電話がかかってきました。「母の息が止まっています。すぐ来てもらえますか?」駆け付けると、次女さん、三女さんが落ち着いた様子で出迎えてくれました。往診医にも連絡したとのことでした。
「あのね、母はもうご飯食べられないでしょ。だからこのお部屋で『お母さんこれ美味しいのよ』なんて妹とおしゃべりしながら食べていて、ふと母の方を見たら息をしていなかったの」「不謹慎よね。でもこんなに、楽に、スーッと眠るように天に召されるのなら、在宅で最期まで過ごすのもいいなって」と。
次女さん、三女さんと一緒にエンゼルケアをし、娘さんたちがお母さんにお化粧をしてくれました。安らかなお顔を見ながら、笑顔と涙が入り混じった、お別れをされました。

2025年1月投稿

「わしの自慢のビニールハウス」

80代末期がんのAさんが、「わしが立てたんや!12個あるんや!」と誇らしげに語ったビニールハウス。大切な思い出を写真に残したエピソードです。

「もう二度と病院には行きたくない!」
初回訪問時にそう話されたのは、80代で末期がんのAさんでした。特別地域に住み、地域外の医師に訪問診療をなんとかお願いし、引き受けていただけました。
山や田畑に囲まれた自宅。庭にはたくさんの鯉。多くを語らないAさんでしたが、蘭やアスパラをたくさん育てていた話はとても誇らしげに話してくれました。寝ていることが多かったですが「どこでもいいから外へ行きたい」という想いを聞き、ご家族と一緒に、行き先未定の散歩が始まりました。Aさんの指さす方へ進み、辿り着いた先は蘭やアスパラを育てたハウスでした。「これはわしが立てたんや!12個あるんや!」と教えてくれました。私が、この様子をなんとしてでも写真に残したいとAさんに伝えると、見せてくれた笑顔は忘れません。
その1週間後、その笑顔は遺影として飾られました。どんな地域でも利用者さんの心に寄り添える訪問看護師でありたいと思います。

2025年1月投稿

「これからも頑張ってね」

新卒で訪問看護ステーションに就職し、利用者さんとご家族に育ててもらいながら、「これからも頑張ってね」と励まされたエピソード。

私は新卒で訪問看護ステーションに就職しました。先輩スタッフだけでなく、利用者さんやご家族に育ててもらっていると実感したエピソードです。
Hさんは脳挫傷により寝たきりの方でした。気管切開をしており、ケアでは吸引を実施していました。私は、Hさんへの初めての吸引にとても緊張していました。そしてHさんも、不安そうな表情を浮かべていたのを覚えています。ご家族からは、「うちに来て、いろいろ学んで成長してほしいからね。頑張ってね。」とお言葉をいただき、嬉しく思うと同時に、HさんとHさんご家族のために自分自身も成長しないといけないなと気持ちが引き締まりました。
Hさんは話すことはできませんが、何度も訪問しているうちに視線や表情でHさんの思いが少しずつわかるようになってきました。私がくみ取った思いが合っているときは、Hさんの表情が柔らかくなり、リラックスした様子を見せてくれることが増えました。
その後、私はステーションを異動することになり、これまでのお礼を伝えると、ご家族から「うちにも、あなたと年の同じ看護師の卵がいるから、見守っていたのよ。これからも頑張ってね」と言われ、その言葉を忘れずに今も頑張っています。

2025年1月投稿

「お家マジックに助けてもらって。」

入院中はすべてのケアを拒否していたYさんが、自宅で過ごす中で少しずつ訪問看護を受け入れてくれた「お家マジック」のエピソード。

入院中は、治療・看護・リハビリなどのすべてを拒否していたYさん。退院にあたり、主治医から訪問リハビリ(言語聴覚士:ST)と訪問看護の介入の指示が出ました。しかし、ご家族もケアマネジャーも「ご本人の拒否により1、2回の訪問で終了になるだろう」と考えていました。
先に訪問をした訪問リハビリでは、バイタルサイン測定も拒否されたと聞いて、戦々恐々としながら訪問看護初日を迎えました。バイタルサインは問題なく測定できましたが、枕元で奥様から情報を得ていると、Yさんが「うーーっ」と不機嫌な声を出されて表情も険しい状態でした。
難聴があり、近くで話している声が雑音に聞こえるのではないかと考え、別室で奥様とお話するようにしました。また、体温計や血圧計を見せると、こちらの意図をわかってくださりスムーズにバイタルサイン測定ができるようになりました。
すぐに、訪問中止になるだろうという予想を裏切り、現在、訪問開始から3カ月目に入りました。清拭、陰部清拭、足浴まで受け入れられています。爪切りもYさんから希望されています。
受け入れ状態を見ながら、少しずつ介入の範囲を広げたことが良かったのではないかと考えています。それ以上に大きかったのは、住み慣れたご自宅でYさんのペースを保ちながら過ごせたことだったのかもしれません。その安心感が、訪問看護を受け入れる心境につながったように感じています。
これからもお家マジックに助けてもらいながら、Yさんの希望に沿って介入範囲を広げていきたいと思います。

2025年1月投稿

「キラキラのにんじんしりしり」

コロナ罹患後に間質性肺炎が悪化した60代のJさんが、目をキラキラさせながら自慢のにんじんしりしりのレシピを教えてくれた心温まるエピソード。

コロナ罹患後、間質性肺炎が悪化した60代のJさん。退院にあたり訪問看護の利用を開始しました。入院前のJさんは家事全般を完璧にこなし、ご自宅には可愛らしいJさんのこだわりがたくさん詰まっていました。
退院後は旦那さんが家事担当に。レンジの使い方から家事を始めた旦那さんが戸惑う様子を眺めながら、Jさんはもどかしさを感じていました。「料理と掃除をしたい」とリハビリも懸命に頑張りますが、2度の呼吸器感染の影響で食事をするのもやっとの呼吸状態です。
担当看護師が毎日お弁当を作っているのを知り、「お弁当のおかずにするなら、にんじんしりしりよ。でも私のはちょっと違うの。にんじんに火が通ったら明太子を入れて、仕上げに醤油をチョンって入れるの。チョンってところがポイント!」と呼吸を整えながら、目をキラキラさせ、まるで目の前で調理しているかのように話します。
後日、私がレシピ通りに作ったことを報告すると、Jさんはとっても嬉しそうな表情を見せてくれました。
ご自宅でご家族に見守られながら旅立った今も、にんじんしりしりは我が家のお弁当の片隅にあります。そのたびに、目をキラキラさせながらレシピを教えてくれたJさんを思い出します。

2025年1月投稿

利用者さんの前向きな姿勢や生き方に、励まされた経験のある訪問看護師も多いのではないでしょうか。今回ご紹介したエピソードからも、訪問看護はケアを提供するだけでなく、利用者さんやご家族から多くのことを学び、支えられる関係であることが伝わってきます。

編集: NsPace編集部

× 会員登録する(無料) ログインはこちら