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ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年4月11日
2023年4月11日

【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACEは、ピラティスのノウハウを在宅医療へ導入するという新しい取り組みを行っています。今回は、ZEN PLACE訪問看護の日高さんに、ZEN PLACEにおけるキャリアや実際にどのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかなどを伺いました。 >>前回の記事はこちら【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護ウェルビーイング創造のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 スタッフのニーズに合わせたピラティス研修 ―ZEN PLACEでの研修やキャリアについてお聞かせください。入職してからピラティスのインストラクター資格を取得することも可能だそうですね。 はい、可能です。福利厚生の一環でスタジオを利用することができるので、趣味としてスタジオに通うスタッフもいれば、ピラティスを学び将来的に職務に活かそうとするスタッフもいて、さまざまですね。実際に入職してから資格を取っている人もいますよ。 ZEN PLACEでは、WE(Wholebody Educator)と呼ばれるスタジオのスタッフが、訪問看護師向けに理念やピラティスの概要説明を行う研修があります。興味を持ちピラティスの資格を取りたいと思った場合は、養成コースに通うこともできるんです。 以前は、インストラクターと両立している看護師や理学療法士がいたこともありますね。現在は、基本的に訪問看護をしたいのであれば看護師としてステーションに所属し、スタジオでピラティスを教えるインストラクターになりたい場合はスタジオに所属するというパターンが多いです。 ピラティスを取り入れた訪問看護とは? ―実際、どのように訪問看護にピラティスを取り入れているか教えてください。 訪問時に「ピラティスだけをやる」ということはなく、基本的には訪問の目的に応じて、できるピラティスの動作を行っていただくことが多いですね。利用者さんの既往や現在の疾患、ADLの状況に応じてできない動作もあるので、可能な範囲内でピラティスの一部を行っていただくイメージです。 例えば、すぐにできるものだと呼吸のしかたですね。呼吸だけでもすごく変わりますよ。病気の有無にかかわらず、現代人は不安やストレス、不規則な生活から呼吸が浅くなりがちです。ピラティスは「鼻から吸って口から吐く」という呼吸で行うのですが、この呼吸のみを利用者さんと一緒に行うこともあります。(図1)。 図1:座位での呼吸練習 これを続けるだけで身体が温かくなってきますよ。利用者さんは疾患のことや将来のことなど、さまざまな不安を抱えているケースが多いのですが、呼吸を変えると気持ちも落ち着きやすくなります。お話を聞きながら、「ピラティスで行う呼吸を少し練習してみましょう」と促しています。 特に身体動作に支障がなければ、上向きになって骨盤を傾ける動作もしていますし(図2)、頭が後ろに行ってしまってうまく起き上がることができない方には、「ローリング」という背中を丸めて転がる動作をリハビリに組み込んで、起き上がりがうまくできるようにサポートすることもあります(図3)。 図2:骨盤の位置確認 図3:起き上がりの練習動作 夜眠れなくて眠剤を使っている利用者さんに、できるだけリラックスして穏やかに眠れるように、「ピラティスをしてから寝てみましょう」とお声がけしたところ、しっかり継続してくださった事例もありました。また、リハビリによる基本的動作の改善を実感していただいたり、「すごくスッキリしました」「リフレッシュしました」と言っていただけたりすると、もともと転職をしたきっかけがピラティスだったこともあり、とてもうれしくなりますね。 病院だとどうしても治療が優先なので、点滴や内服に頼らざるを得ないところもありますが、在宅ではお家でその人らしい生活をしていけるように促していけたらいいなと思っています。 少しずつ確実に広がっているピラティス ―訪問時には、基本的に毎回ピラティスを取り入れているのでしょうか? 利用者さんによってまちまちですね。場合によっては、当然医療的なケアを優先します。リハビリを担当する理学療法士のほうが積極的にピラティスを取り入れていて、訪問看護師は医師からリハビリの指示があった利用者さんに対して可能な限りピラティスを取り入れています。 指示書に「ピラティス」という言葉が入っているわけではないですが、「筋力低下の予防」や「歩行訓練」等の指示をいただいた際に、必要な動作や姿勢の形成にピラティスを用いますね。 ―利用者さんから「ピラティスを取り入れてほしい」と要望があるケースはありますか? ステーションの特徴としてピラティスを謳っているので、それを見て時々連絡して下さる方はいらっしゃいます。ただ、まだ医療・介護領域で一般的ではないこともあるせいか、利用者さん自ら「ピラティスを」とご要望をいただくことは少なく、こちらから働きかけて組み込んでいくことの方が多いですね。 ―訪問看護にピラティスを取り入れた際、介護保険の加算は取れるのでしょうか? 残念ながら加算が取れるわけではありませんが、「こういうエクササイズをしています」と報告書に書いて医師に伝えることはしています。 ―リハビリの一環として、ピラティスも取り入れているというイメージですね。 そうですね。ZEN PLACE以外でもこうした動きは強まっていて、最近はピラティスを学ぶ医療従事者の方が増えていると感じています。病院内のリハビリに取り入れているケースもありますよ。 ZEN PLACEのスタジオや養成講座に違う病院やクリニックで働く看護師の方が通われていることもありますし、ピラティスの必要性を感じている医療従事者が増えているようで、うれしいですね。 ―ありがとうございました。次回は、看護師がピラティスを行うメリットや気軽にできるピラティスの動作について伺います。 >>【ピラティス×訪問看護】初心者でもOK。気軽にできるピラティス基本動作 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部 【参考】○ZEN PLACE「【医療従事者向け】ピラティスインストラクター養成コース」https://www.pilates-education.info/courses/healthcare2023/3/20閲覧

訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会
インタビュー
2023年4月4日
2023年4月4日

設立当時を振り返る 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会

8期目を迎えた福岡県のレスピケアナース(管理者:山田真理子氏)。2022年12月現在、看護師はパートを含め20名(正規スタッフ15名人)所属。加えてリハビリスタッフ10名、事務4名という大所帯です。しかし、設立当初のメンバーは数名のみ。建物の一角、「台所」からのスタートでした。初期から在籍したメンバーが「台所メンバー」と呼ばれるゆえんです。今回の座談会では、台所メンバーの皆さんに、立ち上げ当時や規模が拡大していく過程を振り返っていただきました。 >>レスピケアナース管理者 山田真理子氏 インタビュー記事はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣【利用者も看護師も幸せにする経営】 神﨑 喜代子さん(看護師) 立ち上げメンバー。管理者山田さんとは学生時代からの付き合い。看護師歴18年、訪問看護歴は7年目。レスピケアナース入職前は、大規模病院の心臓外科や消化器内科などで、終末期の患者に向き合う看護を経験。長崎県の総合診療クリニックにて、主任の経験も。 堀川 佐和子さん(事務)立ち上げメンバー。山田さんとは福岡病院の地域連携室にて出会う。レスピケアナースの前身となる訪問看護ステーションからの参加。平行して病院の連携室にも勤めていたが、2015年に退職し、レスピケアナース立ち上げに携わることとなった。 亀谷 涼子さん(看護師)レスピケアナース稼働から4ヵ月後に入社。訪問看護歴は15年程度。前職中、さらなるやりがいを求めて転職活動をしていたところ、Facebookで情報発信している山田さんを知る。ともに働きたいとの希望を伝え、レスピケアナースに転職した。大久保 奈央子さん(看護師)2016年に登録看護師として入職、現在は楽らく療養通所「プルーンベリーハウス」の準社員。小児科外来で看護師をした後、一時専業主婦に。長子の小学校入学を機に知人から山田さんを紹介され、訪問看護の世界に入る。 ※文中敬称略 レスピケアナース入職のきっかけ ─まずは、皆さんが集まってひとつの事業所をつくることになった、そのきっかけを教えてください。管理者の山田真理子さんとはどのような出会いだったのでしょうか。 神﨑: 私は、山田さんとは高校と准看学校の同級生なんです。名簿順では隣り合わせでしたね。学校を卒業した後の配属先でも、病棟が隣り合わせ。さらにその後、私は地元に帰って就職と結婚をしたのですが、なんと結婚相手が山田さんのおばあちゃんの家の裏に住んでいて(笑)、なんだか不思議な縁がありましたね。 そもそもは友人の就職のために山田さんにお声がけしたのですが、友人が引っ越しをすることになり、なぜか私が働くことになりました。それまで訪問診療の経験しかなかったので、訪問看護の世界を知ってはいたものの、自分が携わることになるとは思っていませんでしたね。 堀川: 私が山田さんや神﨑さんと知り合ったのは、山田さんがレスピケアナースのひとつ前の訪問看護ステーションを立ち上げたときです。そこで「事務のお手伝いをしてくれないか」と声をかけていただいて。しばらくは、日赤病院の連携室にもパートとして所属し続けていたのですが、2015年には完全に退職し、その半年後に山田さんや神﨑さんたちとレスピケアナースを立ち上げました。 レスピケアナースの始まりの場所となった台所 亀谷: 私が山田さんのお名前を知ったのは、福岡市南区の研修会ですね。転職活動中にはFacebookでの発信も覗かせていただきました。そうしているうちに、なんだか自分も山田さんと一緒に働いているような気持ちになっていまして(笑)。なにか通じるものがあったんでしょうね。「ぜひご一緒させていただきたい」と私から山田さんに連絡し、入職しました。転職してよかったなあと思いつつ、充実した日々を送っています。 大久保: 私は入社してもうすぐ7年になるかな、というところです。山田さんについては「すごい人がいるから、訪問看護をやってみないか」と友達に誘われまして。面接の時、訪問看護の経験がないことが不安だと伝えたら、「血圧が測れるなら大丈夫だから、おいで」と言ってもらって、入職しました。 神﨑: そうそう。私も大久保さんも、入職当時は人工呼吸器の管理なんてやったことがなかったんですよね。一から覚えていって、できるようになりました。大久保さんはすごくきっちりしている人で、管理やケアの方法を記録してしっかり勉強して、丁寧に取り組んでいたことを思い出します。 依頼を断らず、常によりよいケアを目指して ─レスピケアナースが規模を拡大できた理由は何だと思われますか? 堀川: 立ち上げ当時、とにかく新規依頼が多かったんです。それに対して十分な対応をするためにも、スタッフの増員は急務でした。 神﨑: なにせ、当時は訪問する看護師が、私と亀谷さんの2人しかいなかったんですよね。20時になっても訪問が終わらない。亀谷さんと電話で、「全部終わった?」「全然終わってない」「やっぱり?私も。じゃあね」などと、慌ただしくやり取りしながら回っていました(笑)。事務関連の業務についても、外注ができるわけもなく、自分たちでやるしかありません。苦手でも無理矢理ですね。 亀谷: そんなときもありましたね(笑)。どんなに利用申し込みが多くても、断ることはありませんでしたからね。すごいことだと思っていました。たとえ他の事業所で断られるようなケースでも、うちでは断りませんでしたから。 最初はバタバタしましたが、そうやっていくうちに、利用者さんからは「ありがとう」って言っていただいて。それに、外部に対してもレスピケアナースの価値をうまくアピールできていたと思います。必要なことを医師やケアマネジャーにフィードバックして、よりよいケアに繋げる。一つひとつ着実にやっていくことで、新規依頼も呼び込めます。そういった、良い循環をつくれたことが大きかったんじゃないでしょうか。 「理想の看護」を追い求めた結果が規模拡大 ─レスピケアナースはとても風通しが良いように見えますが、そうした職場環境も成長の要因になったのでしょうか? 大久保: もちろん、関係していると思います。不安なことがあっても、カンファレンスや情報共有の場ですぐに解決できました。しっかりコミュニケーションをとっていくとスタッフ同士いい関係を築きやすくなりますし、とても働きやすくなるんです。 カンファレンスではレスピケアナースとしての数値目標も共有されていましたので、自分も一緒になってその数字を目指していこうという気持ちにもなる。「貢献したい」と思えたんです。個々のモチベーションアップにも繋がりますし、規模の拡大という結果にも繋がったのでは。きっと、「みんなで同じ目標を持つ」ということが、自然にできていたんですよね。 亀谷: いまも、みんなが意見を聞いてくれて、シームレスに話せる環境ができあがっていますね。意思決定も早い。「今後どうしたいか」がしっかり伝わり、全体に浸透するんです。山田さんが持つ目標というのも、単純に規模を大きくすることがゴールではないとわかります。訪問看護はあくまでも入り口に過ぎない。地域の人々の困りごとを減らし、生活しやすい場所に整えていきたい、という確たる目標がある。そして、みんながそれについていこうとしています。 神﨑: 山田さんは管理者としての視点で組織の規模拡大を見据えていたと思いますが、私自身は規模拡大を強く目指していたわけではありませんでした。ただ、ご依頼が増えるぶん、やはりそれだけの器は必要です。無理に数をこなし続ければ、看護師として働き続けることはできません。仲間が無理をしなければならないという状況にあって、どうすれば問題解決できるのか、やりたい看護を実践するにはどうすればいいか……ということを考えたら、結果的に規模の拡大が解決策であった、ということです。 「自分たちがどんな看護をしたいのか」というのを意識するのは、とても重要ですね。それは、事業所の収益や個々の報酬といった形でもいいし、利用者さんやそのご家族が喜んでくださる姿でもいい。それらを具体的に表現することはできないとしても、スタッフの間で少しずつ意見交換し、想いを共有しながらやってこられたからこそ、自分たちの理想の看護に近づくことができた。その結果がいまの姿なのではないかと思います。 >>後編に続く規模が拡大してどうなった? 訪問看護ステーションの立ち上げメンバー座談会 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部 ※本記事は、2023年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。

緩和ケア座談会
緩和ケア座談会
インタビュー
2023年3月28日
2023年3月28日

【緩和ケア座談会 後編】自殺願望への対応/最後の「大好きなお風呂」

在宅で最期を迎えたいという方が増えている中、現場で日々奮闘する訪問看護師は、利用者さんやご家族との関わり方を通じて、どのようなやりがいや難しさを感じているのでしょうか。ホスピスケアに注力する「楓の風」で働く4人の看護師のみなさんに、印象に残っている利用者さん・ご家族との思い出を語っていただく座談会を開きました。後編では、利用者さんの自殺願望への対応や、ご本人・ご家族の希望に沿った「最期」に関するお話を伺いました。 前編はこちら>>【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア 松田 香織(まつだ かおり)さん在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫/緩和ケア認定看護師外科や脳外科、一般病棟、救急外来などを経て、2021年に楓の風に入職。看護師歴約25年、内訪問看護歴1年中島 有里子(なかじま ゆりこ)さん在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫 副所長内科や外科、透析センターなどを経て、2020年に楓の風に入職。看護師歴約21年、内訪問看護歴約3年廣田 芳和(ひろた よしかず)さん第2エリア長/在宅療養支援ステーション楓の風 やまと 所長/緩和ケア認定看護師小児科病棟、循環器・呼吸器・血液内科病棟などを経て、楓の風に入職。看護師歴約29年、内訪問看護歴約13年吉川 敦子(よしかわ あつこ)さん第1エリア長/スーパーバイザー化学療法科や婦人科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科病棟などを経て、2008年に楓の風に入職。看護師歴約28年、内訪問看護歴約14年株式会社楓の風ホールディングス神奈川県を中心に、首都圏で通所介護、訪問看護、訪問診療、教育事業等を展開。「最期まで自分らしく、家で生きる社会の実現」に向けて、在宅療養支援を行う 「いい加減、私を殺してくれませんか?」 ―前編では、松田さんと中島さんに、ご家族のケアに関するお話を中心に伺いました。続いて、廣田さんの印象深いご経験についても教えてください。 廣田: 10年ほど前、訪問看護の仕事を始めたころのお話です。ご両親と3人暮らしの、末期がんの40代の女性を担当していました。症状のコントロールが難しく、かなりの量の痛み止めを使っていたんです。その副作用や精神的なダメージが大きく、「体のだるさがきつい」と毎日私宛に電話がかかってきました。そのやり取りのなかで、「廣田さん、いい加減、私を殺してくれませんか」と相談されたのです。毎日訪問していたので、話しやすい関係性は作れていたと思いますが、1日目は「なるほど。殺してほしいですか。それはできないな、殺人者になってしまうから。とにかく、ラクになれる方法を考えましょう」とお返事したと思います。 それから、次の日もその次の日も、「どうしたら死ねるか」について電話で1時間ほど話しました。1週間くらい続いたあるとき、ふっと互いに気が抜けて、少し笑えてきたんです。「この話、いい加減、飽きませんか?」「飽きましたね」と軽いトーンでお話できて、結局彼女は自殺をしなかった。痛みやつらさはセデーションをかけてラクになるのですが、何が言いたいかというと、「殺し方」や「死に方」といったすごく深刻でネガティブな話が続いても、どこかでくるっとユーモアに変わる瞬間が来るんです。「もう、話していてもしょうがないよね」とお互いに思える瞬間が。 我々看護師は、利用者さんのネガティブな気持ちを真剣に聞き続けていると、こちらまで精神的に病んでしまう恐れがあります。もちろんこのケースでも私は真剣に話を聞いていたのですが、耳を傾けながらどこかに活路があるように感じていました。そして、結果的に活路があったと実感できたことは大きな収穫だと思います。 残念なことに、その利用者さんはその後すぐにお亡くなりになりました。彼女は「つらい」「死にたい」ということを、最後までご両親には言えませんでした。私だから、というよりは、一番近くにいた他人の看護師だからこそ、本音を言えたと思うんですよね。彼女とのやり取りが正しかったのかはいまだに分かりませんが、強く記憶に残っている利用者さんです。 向き合い続ければ方向転換できる瞬間がある 松田: ユーモアに変換されたという結果は、利用者さんとの信頼関係ができていたからこそですよね。なかなかその域に辿り着けないのではないかと思います。「今日も言い続けてみよう」と利用者さんが思える関係性を作れた過程にとても興味があります。 廣田: ちょうど訪問看護の施設ができたばかりで、まだ利用者さんの数が少なく、毎日対応できたという点も大きかったですね。もちろん、私から「こういう方法がありますよ」なんて提案は絶対にしないし、できません。利用者さんが口に出す自殺方法に対して、「その方法は○○だから残された遺族が大変ですね」「その方法だと○○ですし…、やっぱりだめですね」などと、「それをしたらどうなるか」を一緒に散々考えて、結局どれもダメだという結論に至ったんです。 松田: 利用者さんに「自殺したい」と言われたら、「何言ってるんですか」と否定してしまいがちだと思います。廣田さんが自分を否定せずに受け止めてくれて、一緒に真剣に考えてくれたこと、その利用者さんはうれしかったでしょうね。 廣田: そうですね。本当はすぐに「自殺はダメだよ」と言いたかったです。でも、その時は一緒に考えるしかないと思ったんですよね。あと、ピンチに陥ったときは、常にチャンスを狙っているような気がします。利用者さんとのネガティブなやり取りも、どこかで笑いに変えられる瞬間がくるのではないかと思うんです。何事も笑いは大事ですから。 松田: やっぱり、廣田さんにしかできない技です。 吉川: なかなかできないことですよね。私も今、担当している終末期の利用者さんで、「私は死ぬのを待っているだけ」「入院するときは死ぬとき」などとお話される方がいらっしゃいます。そういうお言葉が出たとき、傾聴に徹したり、「またお家で頑張りましょう」という言葉をかけたり、といった対応しか思いつかなくて…。何かアドバイスいただけますか? 廣田: 難しいですよね、すみません、すぐに答えは出てこないです。ただ、聞くしかないときもあると思います。後は、ダメでも試してみる。試してみないと分からないこともたくさんあります。「布団が吹っ飛んだ」くらいの思いっきりくだらないダジャレを言ってみるとか。失敗する可能性も大きいですが(笑)。 吉川: ダジャレはタイミングを見図るのが難しくて、ちょっと勇気ないですね(笑)。でも、色々と試してみます。 「お父さん、よかったね」 全員が納得の最期 ―吉川さんの思い出深い終末看護のエピソードについても教えてください。 吉川: 成人したお子さんが2人いる、末期がんの60代男性の利用者さんを担当しました。娘さんが結婚するときに、末期がんだと発覚。輸血が必要な状況で、家に帰れる状況ではなかったのですが、どうしても娘さんの結婚式に出席したいとおっしゃって、車椅子で30分だけでも外出できないかと病院側で調整されていましたが、外出が認められなかった経緯があります。 このままではご本人もご家族も後悔する、という思いから、退院して在宅療養に切り替わりました。ただ、結婚式は体力的に心配だという奥様の意見で、家族みんなで記念写真を撮りに行く計画に変更されたんです。帰宅して3日後には症状が安定するだろうと見込んで撮影日の予約を取り、息子さんらがお父様をサポートして写真館に連れていくことになりました。 当日、私は朝訪問して熱を測って状態を確認し、「何かあれば電話をください」と送り出しました。心配していたのですが、こういうときに人間はエネルギーが湧くものですね。容態が悪化することなく、無事に帰ってきたという連絡をいただき、ほっとしたことを覚えています。ご本人も「いい時間を過ごせた。もう悔いはない」とおっしゃっていました。 中島: いいお話ですね。 吉川: はい。でもまだ続きがあって、ご本人が「どうしてもお風呂に入りたい」とおっしゃったんです。病院でも入れなかったから、家のお風呂に入りたいと。医師に確認の電話を入れ相談した結果、「最後はご家族の判断」ということになりました。 そこで、ご家族に「入浴することで血圧が下がりますので、万が一ということもありますがいいですか」とリスクも含めてお話ししました。「父はお風呂が大好きで、お風呂で死んでもいいと言っている人だから、ぜひ入れさせてほしい」とのご家族の希望でした。 松田: ご本人やご家族のご希望とはいえ、看護師としては怖いですね。 吉川: そうですね。男性看護師と息子さんでお父様を浴室にお連れして、ほかのご家族も手伝って車いすに乗せて、さらにシャワーチェアに移しました。その時点で血圧はだいぶ下がっていたと思います。ご本人が浴槽にも入りたいとおっしゃるので、看護師もみんな濡れながら湯を溜めた浴槽に入れました。長湯はできないので、再びシャワーチェアに運んで、ご家族みんなで素早く体を拭いて、寝巻を着せて車いすでベッドに戻しました。 浴槽に入ったとき、ご本人は「気持ちいいなぁ」とおっしゃり、上がったあともすごく穏やかな表情をされていました。そして、ベッドに移したとき「あぁ」という声を発せられたんですよね。みなさん「風邪ひいちゃう」と体を拭いたりドライヤーで髪を乾かしたりするのに必死だったのですが、ふと、「あれ?息してないかも」と気づきました。お亡くなりになったんです。 でも、誰一人、入浴させたことを後悔しておらず、みなさん笑顔で「お父さん、よかったね」とおっしゃっていました。ご本人がやりたいことを成し遂げ、それをご家族みんなで手伝えた。その人らしい最後の過ごし方をご家族に見届けられて、亡くなった後に誰一人泣かないという場面は初めて経験しました。入院していたらありえないことですよね。看護師としての醍醐味を感じられ、「在宅看護ってすごいな」と思う、本当に忘れられない経験です。 中島: みんなが良かったと思える最期は、病院にいるとなかなか経験できませんよね。本人がやりたいことをやり切って幸せに最期を迎えるという、まさに在宅看護の素晴らしい例だと思います。 松田: 私は訪問看護師として働いてまだ間もないですが、病院勤務だと、看護師も「自分が主語」になりがちになります。「自分が訴えられたら嫌だ」「自分のせいになるのは怖い」と。血圧50台の患者さんを、絶対にお風呂に入れないですよね。でも在宅看護では、患者さんが主語になる。ご本人の想いを最優先に考えて叶えられるのはいいなと思えた素敵なエピソードです。 利用者さんに心をケアしてもらうことも 廣田: 吉川さんは利用者さんの意向に沿って勝手に行動したのではなく、きちんとご家族に「これでいいですか」と丁寧に説明して確認し、同意を得る作業を踏んでいらっしゃいました。だから、素敵なエピソードになるわけです。そこが私たちの役割であり、きちんとご家族みんなの意見を一致させることが重要になると思いますね。 吉川: そうですね。別のケースですが、自分でお風呂まで歩ける血圧が低い70代の女性の利用者さんが、「入浴したい」とおっしゃったんです。するとご主人が「入って倒れたらどうするんだ!」と怒り、私は「ご本人もご主人の気持ちも分かる。どちらに賛同したらいいんだろう」と迷ってしまいました。すると奥様が「私は入ると言ったら入るのよ!あなたは私の幸せを奪うの?」とおっしゃってご主人は黙ってしまい…。 そこでご主人に、「介助してきてよろしいでしょうか」と伝えたら、うなずいていただけたという経験がありました。案の定、血圧が48まで下がってしまい、その後はいくら本人が入浴したいと言っても、やはりご家族からの反対を受けて叶いませんでした。正解はひとつではない、難しい仕事だと思います。 廣田: そうですね。難しくて大変な仕事ですが、私たちは患者さんや利用者さんから逆に励まされることもありますよね。 20年以上も前の病院時代の話になりますが、末期の患者さんたちと関わり始め、夜勤も多くとにかく疲れて気持ちが落ち込んでいた時期がありました。すると、担当する70代ぐらいの末期の悪性リンパ腫の女性に「大丈夫?」話しかけられたんです。「え?」と返したら、「いつもと比べて元気がない。人生はつらいこともあるけど、いいときが必ず来るから大丈夫だよ」と言ってくださったんです。そのあと、トイレに行って泣いてしまいました。当時は若かったので、「末期の患者さんを自分が励まし支える役目だ」と強く思っていたのですが、逆に自分が励まし支えてもらっていたと気付いたんです。そして、「それでいいんだな」という風に見方が変わりました。患者さんが私を助ける役割を担ってくださることもある。むしろ、自分の弱い姿を見せることで、距離が縮まることもあります。自分は素直でいていいんだな、と思えるようになりました。 吉川: 利用者さんに励まされる、というのはよくわかります。私が担当した95歳の女性はいつもニコニコし、肌もツヤツヤされていて、とても90代には見えない方でした。ほぼ寝たきりで、介助がないと車いすに乗れない状態ですが、「毎日が楽しいわ。お空を見ていると気持ちが明るくなる」「これがおいしかった。あなたは今日、何を食べた?」「リハビリがつらいかって?全然楽しいわよ。これをやったら、歩けるかもしれないんだもん」などと前向きな言葉しか返ってこない。 一緒に過ごした1時間、私はずっと笑顔でした。私が何か利用者さんにケアをしたというより、私が心のケアをされたというか、たくさんのプレゼントをもらって帰ってきた気持ちになりました。私も終末期の利用者さんから、たくさん助けられています。 ―訪問看護や緩和ケアの醍醐味が伝わるエピソードをたくさんご紹介いただき、ありがとうございました。 ※本記事は、2022年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 執筆:高島三幸取材:NsPace編集部

緩和ケア座談会
緩和ケア座談会
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア

高齢化が進行し続けていることもあり、在宅での緩和ケアを選ぶ終末期の患者数が増加しています。そうした現場で日々奮闘する訪問看護師は、利用者さんやご家族との関わり方を通じて、どのようなやりがいや難しさを感じているのでしょうか。ホスピスケアに注力する「楓の風」で働く4人の看護師のみなさんに、印象に残っている利用者さん・ご家族との思い出を語っていただく座談会を開きました。前編では、終末期のご家族のケアに関するお話をご紹介します。 松田 香織(まつだ かおり)さん 在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫/緩和ケア認定看護師外科や脳外科、一般病棟、救急外来などを経て、2021年に楓の風に入職。看護師歴約25年、内訪問看護歴1年中島 有里子(なかじま ゆりこ)さん 在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫 副所長内科や外科、透析センターなどを経て、2020年に楓の風に入職。看護師歴約21年、内訪問看護歴約3年廣田 芳和(ひろた よしかず)さん第2エリア長/在宅療養支援ステーション楓の風 やまと 所長/緩和ケア認定看護師小児科病棟、循環器・呼吸器・血液内科病棟などを経て、楓の風に入職。看護師歴約29年、内訪問看護歴約13年 吉川 敦子(よしかわ あつこ)さん 第1エリア長/スーパーバイザー 化学療法科や婦人科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科病棟などを経て、2008年に楓の風に入職。看護師歴約28年、内訪問看護歴約14年株式会社楓の風ホールディングス神奈川県を中心に、首都圏で通所介護、訪問看護、訪問診療、教育事業等を展開。「最期まで自分らしく、家で生きる社会の実現」に向けて、在宅療養支援を行う 右から、廣田さん、吉川さん、中島さん、松田さん 小1のお子さんにお母さんの余命を伝えるか ―ホスピスケアに力を入れている楓の風のみなさんは、多くの終末期の利用者さんやそのご家族と関わっていらっしゃると思います。まずは松田さんから、印象に残っている終末期の在宅看護について、教えてください。 松田: 私が印象に残っているのは、当時小学1年生だった息子さんがいらっしゃる40代の女性のケースです。病院で闘病されていたのですが、終末期はご自宅で過ごしたいというご本人の希望で家に戻って来られました。室内を自由には歩き回れず、ベッドかソファに座って過ごされていました。介護休暇を取得されたご主人が介護をされ、近所にお住まいのご主人のご両親がときどきお手伝いをされている、という状況でしたね。息子さんは当初、お母さんへの接し方が分からない様子で、距離をとっていることを感じました。 「息子さんにどれぐらいお話しされているのですか」とご主人に聞くと、病気のことのみで、予後については伝えていないとのこと。余命2~3週間と告知をされていたため、「子どもの多くは親の病気のことを知りたいと思っています。お手伝いしますので、検討してみませんか?」とお話ししました。その後、「子どもに伝えたい」とおっしゃってくださったので、絵本の活用をご提案しました。 ―どのような絵本を提案されたのですか? 松田: スーザン・バーレイの『わすれられないおくりもの』です。みんなから愛されている、物知りで困っている友だちを助ける優しさを持つアナグマのおじいさんが、ある日亡くなってしまいます。亡くなった後も、アナグマのおじいさんに教えてもらったことをみんなで思い出しながら生活していくという、死を悲しみだけで終わらせないお話です。 「この絵本を通して、お母さんの予後を伝えてみてはどうでしょう」とご提案したところ、お父さん(ご主人)が息子さんに絵本を読みながら伝えてくださり、意味を理解してくれたようでした。ただ、やはり息子さんは同じ空間にいてもお母さんに近寄れず、どう接すればいいか分からない様子だったんです。そこで、「水がほしいというときに持っていってあげると、お母さんはすごく喜ぶんだよ」と私からお話ししたり、お父さんから話していただいたりしました。その後、息子さんは私に「今日はお母さんにお水をあげたんだ」と報告に来てくれました。 お母さんに触っていいかどうかもわからないのだろうと思い、「手を握ったり、マッサージをしてあげたりしても大丈夫だよ」と話すと、息子さんはお母さんのほうへ少しずつ近づくようになり、夜は隣のベッドで一緒に寝るようになったそうです。「妻も息子もきっと嬉しかったと思う」と、お父さんから教えていただきました。 息子さんはお母さんの死まで涙を見せず ―こうしたシチュエーションで、子どもになかなか「親が亡くなること」を伝えられず悩む方は多いと思いますが、伝えることで子どもにどういったメリットがあるのでしょうか。 松田: そうですね、子どもは「幼いから」という理由で蚊帳の外にされがちですが、「自分が悪い子だから、お母さんが病気になった」と一人で抱え込んでしまうことがあります。伝えることで、そういった誤解や心の傷を防ぐことができます。今回のケースでも、「『息子さんのせいじゃない』ということを一番に伝えてください」と、お父さんにお願いしました。 息子さんはお母さんに積極的に関わるようになって、「お父さんの誕生日パーティーをお母さんと一緒にお祝いしたい」と企画して、ケーキを買いに行ってくれました。お父さんはよく泣いていらっしゃいましたが、息子さんはお母さんが亡くなるまで一切涙を見せずに、頑張っていましたね。 お母さんは、最後は苦しくなって「このまま楽になりたい」と言われて、点滴をやめてから2~3日後に亡くなられたのですが、「家族との時間を大事にできてよかった」とおっしゃってくださいました。 お亡くなりになった当日に私が訪問した際、息子さんは「お母さんが死んじゃったよ」と大泣きしながら伝えてくれました。息子さんの胸に手を当てながら「今までよく泣かずに我慢したね、頑張ったね。お母さんは、ずっとここ(息子さんの胸)にいてあなたを見ているから、何かあったら『お母さんだったら何て言うかな?』と考えるんだよ」と伝えました。お父さんも「そうだぞ、頑張ろうな」と伝えてくださって。 中島: 私も松田さんと一緒に訪問することがあったのですが、松田さんの丁寧な関わりによって、息子さんとお母さんとの距離が日に日に近づく様子が分かりました。最後はご家族みんなで悔いがないようにお母さんを看取ることができたんだなと、私も勉強になりました。 「死について」伝える絵本を年代別に用意 ―絵本を活用したご家族のケアについては、どのように学ばれたのでしょうか。 松田: お子さんとの関わり方の手法として、緩和ケア認定看護師の学校で学びました。死について学べる絵本は、探すと意外とあるんです。年代別に自分が伝えやすい絵本を2、3冊用意して活用しています。 吉川: その年代でしたら絵本という手法は有効ですね。年齢は異なりますが、昔、20歳の娘さんがいる終末期の女性を担当しました。ご本人の希望は、「どんなに自分の具合が悪くても娘には負担をかけたくない、自由にさせてあげたい」とのこと。お年ごろだった娘さんは夜遅くまで遊びに行って帰ってこない日もありました。 私は、もう少し娘さんにお母様の側にいてほしくて、「もう少し一緒に過ごしたほうが…」と利用者さんにご提案したのですが、「今のままでいい。人の家庭を土足で踏みにじらないでほしい」と言われました。利用者さんに嫌な思いをさせてしまい、別の看護師と交代したんです。最後まで関わることができず悔いが残っています。「亡くなる」という意味を上手にご家族に伝えられている松田さんの話を聞いて、今だったら、あのときのご家族に私はどんなふうに関われたのかなと考えさせられました。 松田: きっとそのお母様は娘さんの自由な姿を見られて幸せだったと思いますが、人によって解が違うことはわかっていても、看護師としては理想を言いたくなりますよね。それを押し殺すのは難しいことだと思うので、自分も吉川さんのように利用者さんの想いを尊重して引けたかどうか…。 中島: 20歳という年齢は、親とある程度の関係性ができているからこそ、介入が難しいかもしれませんね。 廣田: 私は今、末期がんのおばあさんを担当しています。離婚された息子さんと小学生のお孫さんがいて、そのお孫さんの面倒をみてきた女性です。でも自分が末期がんであることをお孫さんに言いたくないとのことで。1週間に1回だけ会いに行く息子さんの元妻に、自分の病気について知られたら、お孫さんが取られるかもしれないとおっしゃっています。松田さんならどうされますか? 松田: お孫さんに死について伝えるのではなく、まずは「おばあちゃんは病気だね、どんなふうに思っている?」とその子の気持ちを聞いてみるかもしれません。例えば、「だいぶおばあちゃんが弱ってきたから、もうすぐ死んじゃうのかな」と返ってくれば、「そんなふうに思っているんだね」と肯定するところで留めておくでしょうか。 廣田: なるほど。それが…私が訪問する時間帯はお孫さんが通学している時間で、お父さんはお仕事で不在なので、おばあさん以外と直接関わることができないんですよね。 松田: それは、難しいところですね。おばあさんのお気持ちもわかりますし…。 廣田: そうなんですよね。できれば、お孫さんのケアもしたいんですけれど。なかなかケースバイケースで、悩ましいものです。 ―みなさん、利用者さんの状況やお気持ちに合わせて常に悩みながらご対応されているのですね。 「察する文化」は外国人介護者に伝わらない ―中島さんは外国人のご家族をサポートされたと伺っていますが、詳しく教えていただけますでしょうか。 中島: 奥様が片言の日本語を話す40代の外国人で、日本人の80代のご主人が末期の大腸がんでした。近年、外国人のご家族と関わることは増えてきていますが、言葉や文化の壁を感じて悩むことが多いです。 利用者さんの状況について、入院先の医師は「栄養がとれて体力がついたら手術はできるが、体力がつかないと手術はできない」とご家族に話されていました。つまり、「病状的に栄養改善は困難なため体力は戻らない」ということ。離れて暮らしているご親族は理解されていたのですが、外国人の奥様は、言葉を鵜呑みにして「体力がついたら手術ができる」と考え、ご主人に無理やりごはんを食べさせようとされていたんです。 でもやはり体力は戻らず、感染症にかかってしまって、「病院にいては感染症がひどくなる」と、奥様は自宅療養を選ばれました。感染症は落ち着いて一命をとりとめましたが、いつ亡くなってもおかしくない状態ということが、奥様に伝わっていないのです。 ―日本人同士が自然に使っている遠まわしな言い方が、外国人の奥様に伝わらない、ということですね。中島さんは、どのように伝えたのでしょうか。 中島: 翻訳アプリを使って、「病院の先生はこういう意味で言ったんですよ」と伝えました。うまく翻訳できていたのかは分かりませんが、少しは理解してもらえたと思います。でも、訪問診療の医師からもきちんと伝えてもらおうと思ったのですが、やはり、「体力がなくて手術ができない」という説明を奥様にされたんですよね。しかたがないので、再び翻訳アプリを使って、あと数日で亡くなるということをストレートに伝えました。奥様は驚いて「そんなことはない!さっき先生は栄養をとれば助かるといった」と大泣きされてしまいました。 その後も、眠っているご主人を無理やり起こしてご飯を食べさせる日々が続きました。ご主人は「わかった、わかった」と言いながら一生懸命食べようとする。ご主人は手術ができないことを理解されていましたが、年の離れた奥様の気持ちも分かっていらっしゃったんですね。これも夫婦のひとつの愛の形なのかなと思い、見守っていました。 死を目の前にしたとき、訪問診療の先生からの「無理に食べさせても手術はできないんですよ」という言葉を私が隣で翻訳すると、やっと奥様は理解されたようでした。ご自身のおばあ様やお母様、夫婦2人の旅行写真をご主人に見せながら、思い出を語るような時間を過ごされ、最後はいい時間を過ごされたのではないかなと思います。 その後驚いたのは、亡くなられたとお電話をいただいて伺ったら、マンションのフロア中に響き渡る声で奥様が家の中を走り回り、泣き叫んでいらっしゃったご様子です。ショックや悲しみをそこまで全身で表現されるケースは、過去に目の当たりにしたことがなかったので、衝撃を受けました。一方で、亡くなった人と一緒の家で寝るのは怖いとおっしゃって。言語の壁、死についての受け止め方も含め、色々と学ばせていただきました。 文化の違いなのか、その方の個性なのか 松田: 私も一緒に関わらせていただきましたが、奥様は早口で、私は3分の1ほどしか理解できなかったんです。でも、中島さんは根気強く時間をかけて奥様と向き合っていました。「この時間に買い物に行きたいからデイサービスを調整してほしい」などと多くの主張や要望がある方でしたが、中島さんの適切なサポートのおかげで心強かったと思います。中島さんご指名のお電話がかかってきたり、下の名前で呼ばれていたり、そこまで信頼してもらえる関係性が構築できたのは、本当にすごいことだなと思っていました。 吉川: 奥様が利用者さんで、介護者のご主人が外国人というケースを私も担当したことがあります。日本語が通じず、英語で伝えてもうまく意思疎通が図れなくて、小学校のお子さんが伝言役になってくれたこともありました。でも、子どもには伝えられないこともある。コミュニケーションの限界を感じ、英語が話せるステーションの所長に通訳を頼みましたが、最後まで苦心しました。 廣田: 言葉の壁は大きいですが、文化の違いなのか、その人の個性なのか、一概に「外国人」でくくれないところもありますよね。デイサービスを調整して、という主張は、ちょっと行き過ぎではないかとも思う。それを文化の違いで終わらせてしまうのか、ご本人とコミュニケーションを取って意思疎通を図っていくのかの判断基準も課題だと思います。 中島: そうですね。ご主人が亡くなった後は、保険や役所関連の手続きがあったので、こうしたことをサポートしてくれる団体に引き継ぎました。その時にこの奥様の特徴やキャラクターなども一緒にお伝えしました。 吉川: ご主人と奥様の会話は日本語だったんですか? 中島: そうなんです。そこもまた面白いところで、ご主人が話される日本語は、奥様にしっかり通じているんです。いろいろ印象深い出来事がありましたが、コミュニケーションの在り方について勉強になりました。 ―ありがとうございました。後編では、廣田さん、吉川さんのお話を中心に伺います。 後編はこちら>>【緩和ケア座談会 後編】自殺願望への対応/最後の「大好きなお風呂」 ※本記事は、2022年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 執筆:高島三幸取材:NsPace編集部

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACE。実はそのピラティスのノウハウを、在宅医療へ導入していることを皆さんはご存じでしょうか? 今回は、自身もピラティスに魅了され、ZEN PLACE訪問看護で勤めることになった看護師の日高さんに、ピラティスの魅力やZEN PLACE入職のきっかけなどを伺いました。 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護心身ケアと未病のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 ピラティスを追いかけて訪問看護の道へ ―病棟勤務時代にピラティスにご興味を持たれたようですが、きっかけを教えてください。 私は元々ダンスが好きで、病棟看護師をしながらジャズダンスのインストラクターをしていました。当時、看護部長からも「素敵だからぜひ頑張って」と応援してもらえて、時間を調整しながらレッスンをしていたんです。ピラティスとの出会いは、そのダンススタジオのメンバーから「ピラティスいいよ」っておすすめされたことがきっかけですね。偶然にも家の近所にピラティススタジオがあったので、興味本位で通ってみました。 ―実際に体験されていかがでした? 実際やってみると身体が変わることを実感して、すごく面白いと感じました。私も医療従事者なので、身体に関する知識があるぶん、余計に楽しくなっちゃって。 また、ジャズダンスはバレエが基礎になっているので、体幹やコアマッスルが足りないと踊れないんですよね。ピラティスをやり始めることで、「身体の軸がしっかりしてきたな」と感じて、ピラティスへの興味が深まっていきました。 ―その後、ピラティスのインストラクターコースも受講されたとか? はい、受講しました! とても充実した時間になりました。 私は通学してセミナーを受講しましたが、最近はオンラインや通学+オンラインのハイブリッドコースなど、自身のライフスタイルに合わせて受講できるスクールが多いです。例えば、basiピラティスのマット通学コースの場合、集中した講義を合計36時間学び、100時間以上の自己実践、20時間以上のレッスン見学や30時間以上の指導練習を通し、資格取得が可能になります。資格を取得し、ようやくスタートラインに立てました! ―ZEN PLACEに転職しようと思ったのも、やはりピラティスがきっかけなのでしょうか? そうですね。どんどんピラティスへの興味が増して、「ピラティスを看護の仕事に活かせないかな」とインターネットで色々調べるうちに、ZEN PLACEを発見したんです。利用者さんに対してもそうですし、働き手である看護師に対してもピラティスを推奨している点に共感しました。 私も当初はダンスのトレーニングの一環として始めたピラティスでしたが、すごく自分の身体や心が整うのを感じて、「もっと働く看護師にピラティスが広まり、健康的な生活を手に入れて欲しい」と思うようになったんです。 特に急性期の病棟に勤めていると、「人が生きるか死ぬか」という命の瀬戸際のなかで看護をしているので、感情的になってしまいがちです。私も、ICUではやりがいや喜びを感じながら働いていましたが、改めて振り返ってみると心身ともに疲れていることが多かったように思います。「本当は運動して発散したいけど、仕事が忙しくて続かない」という悩みが多いのも看護師の実情です。もっと看護師にピラティスが広まってほしいと思います。 ―病棟から訪問看護への転職ですし、住むエリアも変わるなかで、悩まれなかったですか? 正直とても悩みました。急性期での看護も楽しい面ややりがいがありましたし、在宅の現場は、過去に派遣の仕事として訪問入浴をしたことがある程度。転職後の仕事内容のイメージもあまりできず、不安がありました。でも、最後は「自分がやりたいことをちゃんとやりたい」「やってみなきゃわからない!」と思い、転職を決めて東京へ引っ越しました。 ピラティスを活用するZEN PLACE訪問看護とは? ―入職後のことをお伺いします。ZEN PLACEでは、同一のステーションに訪問看護師や理学療法士、作業療法士等の色々な職種が在籍されていますが、職種間の連携について教えてください。 同じ利用者さんに看護師と理学療法士両方で入っていることもあるので、「今日はこういう状態だった」とステーション内で情報交換をしています。また、訪問看護のみで入っている利用者さんでもリハビリをしたほうが良いケースもありますし、逆にリハビリメインで入っている利用者さんに医療的な処置が必要になった場合は、看護師が入ったほうが良いこともあります。多職種と連携が取りやすく、意思疎通がスムーズで良い環境ですね。 ―職場の雰囲気としてはいかがでしょうか。 基本的にスタッフはみんな明るくて、職場内では笑顔や笑い声が絶えません。ピラティスが好きなメンバーばかりで、みんなで仕事後にレッスンを受けに行くこともありますし、和気あいあいとした職場でとても楽しいです。 ―皆さんにとって、本当にピラティスはリフレッシュもできる大切な時間なんですね。仕事の後にピラティスをするケースが多いのでしょうか。 そうですね。今もステーションの近くにあるスタジオで、「期間中に50日間ピラティスをしよう」というイベント(「50days challenge」)に同僚と参加しています (笑)。 こうしたイベントがないときでも、ZEN PLACEが運営するスタジオは各所にあるので、ステーションや自宅の近くにあるスタジオに寄ってから帰ることが多いですね。オンラインレッスンもあるので、家に帰ってからやることもあります。 人によっては朝ピラティスをしてから出勤しているケースもあると思いますし、ZEN PLACEでは福利厚生として、月に2回までは業務時間内でピラティスを受けに行っても良いという制度があります。訪問にキャンセルがでた時に行くこともありますね。 ―雰囲気が良くスタッフ同士も仲の良い職場のようですが、ピラティスを行っている影響もあると思われますか? もちろん、すべてがピラティスの効果だとは言い切れませんが、私は一助になっていると思っています。医療従事者は献身的に仕事をされている方が多い印象なので、自分のために何かをする時間って意識しないと取れないんですよね。でも、ピラティスをすると、その間は自分の身体と心と向き合うことになるので、「今日はあまり足が上がらないな」「仕事のことをいっぱい考えているな」など、色々と感じ取ることができます。 ピラティスは「動く瞑想」とも言われますが、自分に向き合うことで自分を大切にできるし、心身が整う効果があると思っています。自分自身が整うことで、利用者さんへの良い看護の提供や職場の雰囲気の安定につながるのかな、感じています。 心が安定すると、ネガティブな言葉も言わなくなりますね。「こういう嫌なことがあったよ」という話が出ても、愚痴になるのではなく、「そうなんだね、大変だったね」と受けとめたあと、「こうしたら改善するんじゃない?」とみんなで意見を出し合いますし、誰かがポジティブな言葉や思考に変換してくれます。 ―ありがとうございます。次回は、ZEN PLACEでのキャリアや、どのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかを伺います。>> 【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部

訪問看護事業所の休廃止を防ぐ
訪問看護事業所の休廃止を防ぐ
インタビュー
2023年3月14日
2023年3月14日

訪問看護事業所の休廃止を防ぐ~利益創出の理解と組織づくりの思考は看護と同じくらい大切~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。最終回は、訪問看護事業所の休廃止を回避し維持するために、何が必要かを語り合いました。管理者自身が、お金の動きを理解できる力をつけること、組織マネジメントに必要な思考を身につけること。そのために、自分で抱え込む精神を捨てるアンラーニングが重要です。 第3回「訪問看護管理者が真にやるべきこと」はこちら>> 「看護+パッション」だけでは起業はできても維持が難しい 中原: 訪問看護で事業を始めようとするなら、もちろん看護のスキルも必要なんだけど、どれだけの入るお金があって、どれだけお金が出ていくのか。そこを理解できるスキルが絶対に必要。しかも最初から2.5人で、人数分の利益を上げなきゃならないでしょう。 その次に、私だったら組織づくりを考えるかなと思います。1人いなくなったら休止だから、とにかく離職を避けなくてはならない。 乾: そうなんですよね。個人商店ではない。2.5人必要で、もともと組織化されていますから。売上をあげて、いくらコストがかかって……に始まり、人を採用して定着させるところまで。 中原: それらと同じぐらい看護が大事ではあるんだけれど、ビジネスの理解やマネジメントスキルが必要だという認識をもって、覚悟をくくっておかないと、「看護+パッション=訪問看護」だけでは起業はできても維持が難しい。 学び直しの機会がなかった 乾: 病院に勤務してきて「やりたい看護がしたい」で訪問看護に飛び込む、一般的な看護師さんのキャリアパスでは、そういった視点を得る機会ってなさそうですよね。 中原: 訪問看護のマネジャーがど・はまりしてつまずいていくパターンや、どうマネジメントしていけばいいか、そんな研究や理論はあるんでしょうか。 落合: 看護師って、思いを馳せて患者さんをずっとみて育っていて。なので、マネジメントも「後輩を思いやって」という文化で、そこにマネジメントの根拠や理論はないことが多いんです。 たとえば「フィードバックってどうやるんだ?」ってときも、「中原先生の本にある、こういうフィードバックの方法に基づいて……」のような考えかたはせずに、ひたすら「思いやりを込めて……」とか、先輩から受けてきたフィードバックを後輩に同じようにする。だから、パターナリズムなフィードバックを受けてきた人は、ちゃんとパターナリズム的なフィードバックをしてしまう。そんなことがありがちだと思っています。 一方で患者さんに対しては、たとえば緩和ケアだと患者さんに寄り添うコミュニケーション技術が構築されていて、看護のスキルであれば学べといわれるし、学ぶんです。なのに、組織運営に関する技術は学んでこないんですね。 過去の先輩の知恵を大切にしつつ、マネジメントとか経営の技術は知るべきだよな、とはすごく思います。 中原: せっかく思いを持って立ち上げるんだから、その思いが無駄にならないような学び直しの機会があったら、先ほどの休廃止に至る典型的パターンが避けられるかもしれないですよね。 マネジメントの武器は、「聞く」「しゃべる」くらいしかない 中原: 訪問看護の管理者は、ソロプレイヤーでもありながらマネジメントもやって、かつ従業員側もみなくてはならないし、利用者側もみなくてはならない。そんな状況で、何から始めて、どういうふうにステップアップしていくのか。学び直す機会をどう持つかだと思います。 この業界に合った形のマネジメントの手法をどう実現するのか、そこから、知見を積み重ねることです。皆さんの領域の研究者が、皆さんのカルチャーや状況に合ったマネジメント手法や組織開発手法を、地道に研究したほうがいいのではないでしょうか。私の本なんか読まないでいいですから(笑)。地道に地道に、皆さん自身の領域で起こっていることを「探究」するとよいと思います。 乾: いえ、中原先生の本にある1on1だとかフィードバックだとか、一般的なマネジメントのスキルも、実際現場ではすごく必要とされているし、重要だと思います。私たちの支援先の事業所さんでも、「こうしたいけど、どうすればいいんだっけ」と知らなかったり経験不足だったりが現実にあるので。それは業界の特殊性以前に、土台として必要なことだと。 中原: なるほど、そうですね。どこの世界でもマネジメントって、起こったことを傾聴していきながら振り返って、じゃあ今後はどうしようと目標を設定していく、そういったことを地道にやるしかない。マネジメントって結局、そんなにたくさん武器はないんです。聞いてしゃべるくらいしかなくて、それを愚直にやっていくのがマネジメントですから。マネジメントは「ABC」ってよく言われます、絶望しますけど。「A:あたりまえのこと」を「B:ばかにせず」「C:ちゃんとやる」、これに尽きますね。 乾: その「どんな武器があるのか」や「武器の使いかた」を知ることが、現場で必要とされているのだと思います。 落合: そういうものだと私も思います。 管理者にこそアンラーニングが必要 落合: 訪問看護師的な感覚でいうと、思いだけでやるならたぶん、中原先生がおっしゃるみたいに1人でやるのが本当にいちばんいい。だけど制度上それは無理で、すると2.5人とか3人とか、5人までのいわゆる小規模でやるのがいいんでしょう。聞く・話すの能力だけで考えても、結果的に5人ぐらいまでが、管理者1人(優しい人で)が面倒をみることができる限界の人数なんだろうと。 そこに、「聞く」や「話す」をマネジメントの技術として実践できると、10人とか15人ぐらいの人を支えられるのかなと。そのために見える化のサービスが必要なのかもしれないし、中原先生の本を読むのがいいのかもしれないし、いわゆる業界理解をすると伝えかたが変わるのかもしれないし。 それは勉強が必要ではあるんだけど、自分で抱え込む精神をまず真っ先にアンラーニングして、いち管理者の努力で解決しようとせずに、うまく外部を活用して自分のものにしていったらいいんじゃないかな。 ─ 管理者としては、病院から訪問看護に入ってきた人へ学習機会を提供して、ゲームチェンジを理解させること。そして訪問看護は病院看護の延長ではない、異なる競技に挑んでいるんだという前提で、管理者自身にもアンラーニングの必要性があることに気づかされました。どうもありがとうございました。 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

利用者も看護師も幸せにする経営
利用者も看護師も幸せにする経営
インタビュー
2023年3月7日
2023年3月7日

先を見越した採用とオープン経営の重要性 【利用者も看護師も幸せにする経営】

0歳から高齢者の方まで幅広く介護保険や医療保険を利用しての訪問看護を提供する、機能強化型訪問看護ステーション、「レスピケアナース」。前編に引き続き、レスピケアナース設立者で管理者の山田真理子さんにお話を伺いました。 >>前編はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】 株式会社アイランドケア 常務取締役レスピケアナース 管理者 在宅看護専門看護師(2020~)山田真理子さん内分泌内科と血液内科の混合病棟に2年、呼吸器内科病棟に計5年ほど勤務。その後、人工呼吸器や患者教育に興味を持ち、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で9年間訪問看護ステーションの管理者を務める。事業所設立を目指して2015年に独立。同年12月にレスピケアナース設立。 レスピケアナースの制度と戦略的採用 ─レスピケアナースでは土日祝日も安定してサービスを提供されていますが、各曜日や時間帯の人員バランスを調整するのは、大変ではありませんか? 家庭環境によっては「ほどほどに稼げればいい」という人もいますし、「たくさん働いて稼ぎたい」という人もいます。そういった希望を聞き、バランスを考えた上で採用することが大切です。「平日のみ希望」で入った方に「土曜日も働いてください」とお願いするのは、当然難しいでしょう。でも、あらかじめ「土曜日も働く前提」で採用していれば、あまり問題になりません。入職後に働き方の希望が変わることもありますが、ある程度余裕をもって人材を採用しているので、即座に人員不足にはならないようにしているんです。 一定の条件に希望が偏らないように人を集めること、先を見越した採用をしていくことで、バランス調整はしやすくなると思います。 ─レスピケアナースへの就職希望者には、どの年代が多いですか? そうですね、30代から40代が多いです。ほかに比べると、比較的若い年齢の人が集まっているかもしれません。今後は新卒の採用も増やしたいと考えており、学生向けのイベントも実施しています。 新卒採用を積極的に進めたい理由は、訪問看護に対して先入観のない人材のほうが、より効率的に教育できると思うから。私も病棟経験がありますが、病院特有の思考回路になると、それを切り崩して新たな感覚を構築するのは難しく、看護師当人が苦しむこともあります。学校で在宅看護論を習い、そのままレスピケアナースに就職してもらえば、本人もあまり苦労することなくスムーズに働けると思います。やるべきことがすっと頭のなかに入るというか。誰しも、経験を積めば積むほどそれまでの働き方を変えるのに苦労しますよね。入社してからのスキルアップが重要だと思いますので、専門知識は求めていません。 ─報酬制度については、何か意識されていることはありますか? スタッフのモチベーション維持を大事にしたいので、簡単に言うと「働いたら働いた分だけ稼げる環境」を整えています。例えば、土日祝日や夜間に働けば、当たり前ですがそのぶんの給与を支払います。土日祝や早朝夜間も働き、当番もするスタッフは、夜勤もこなす病棟看護師と同等程度はもらえるようなイメージです。 平日のみのスタッフと夜間・休日も働くスタッフが、「ちょっと給与が違う」程度ではモチベーションは維持できませんよね。目に見えて給与が上がり、「これだけ働いた甲斐がある」という実感を持てるように、と思いながら設定しています。 オープン経営で、スタッフも経営者視点に ─スタッフの皆さんへの報酬を支払うための利益確保は、どのようにされていますか? 訪問単価を上げていくために、特別管理加算がとれる利用者を確保してきました。自分自身の専門分野が呼吸ケアであり、在宅酸素療法や在宅人工呼吸療法を行っている利用者が得意だとパンフレットなどで広報したり、関連の研究会や学会で成功事例を発表したりと工夫しています。ある程度戦略的な部分になりますが、機能強化型ステーションの制度ができたとき、「これは必ず取りに行こう」と考え、まずは「機能強化型2」を、次に「機能強化型1」を取りました。 さらに言えば、「よい看護をすれば事業所が儲かる。その儲けは自分たちに戻ってくる」というところを、みんなで分かち合いたいと思っています。これは採用面接のときから伝えていることですが、レスピケアナースの賞与は完全に利益に連動しています。赤字か黒字か、というところは本来経営者の視点ですが、スタッフにもその視点を持ってもらいたい。「黒字なら自分たちに還元される」ということであれば、満足度が上がります。多忙さが目に見える報酬として戻ってくれば、納得もできるでしょう。そんなふうにして、我々経営者と働くスタッフとが、一緒になってやっていければと思っています。 ─レスピケアナースでは、基本的に残業をしない方針と伺っています。余裕のある人員採用以外に、何か工夫されていることはありますか? 効率化のために、勤怠管理やカルテ、スケジュール表等をICT化(※)しています。これは設立当初から実践すると決めていたことで、行政からの助成金もいただきました。ICT化により直行直帰が可能になるので、わざわざカルテを取りに事務所に立ち寄る必要もありません。週に一度は、ZOOMで事例検討やカンファレンスなどをしていますが、集まるのはそれで十分だと思っています。 ※ICT化= Information Communication Technologyを取り入れること。PCやスマートフォンといったデジタル機器を導入し、情報を可視化。より管理しやすくすることで、効率的に業務を行う。 ICT化によって、訪問単価、売上人件費率、常勤換算数、どこから紹介があったか、訪問件数などのデータも、グラフ化してスタッフの誰もが見られるようにしています。グラフを読む能力となるとまた別問題なのですが、情報をオープンにすることで、さきほどの「スタッフの経営者視点」にもつながっていくと思っています。 ─データの共有によって、具体的にはどんなアクションが生まれるのでしょうか。 例えば、どんな流れで利用者が増えるのかわかれば、利用者を増やすために何をすればいいのかのアイディアも浮かびます。レスピケアナース内の小児チームが「〇〇病院からの利用者紹介が減っている様子」から「病院に配るパンフレットを刷新しよう」といった動きをしていましたが、そういった具体的な動きに繋がるんです。 また、スケジュール表や常勤換算数・訪問数等を見れば、どの部分にスタッフが足りないか、余裕があるなら利用者をどれだけ増やせるか、といったこともスタッフ自身が判断できます。まずは適切な情報を見せ、それぞれが考えていい環境をつくることが大事ですね。 組織に「余裕」をつくり、学んだことを実践 ─風通しのよい職場づくりのために、スタッフの皆さんに特に伝えていることはありますか? 「失敗してもいい」「リカバリーできない失敗はない」ということでしょうか。例えば、失敗したことの報告に対して、私がそれを責めることはありません。報告さえしてくれれば、必ず何かしらの形でフォローする。リカバリーする。だから、うちのスタッフはたとえヒヤリハットの報告があっても嫌がらないんです。むしろ、「報告すると感謝されるから、どんどん報告する」と言っていますね。自分の発言が業務改善に繋がりますから、「自分はこの職場に必要とされているんだ」という気持ちにもなると思います。 ─最後に、組織をつくる上で重要視すべきことはなんだと思いますか? これからマネジメントに取り組む方々に向けてお伝えしたいことがあればお願いします。 大切なのは、余裕をつくるということかなと思っています。「忙しくて何もできない」という状況をつくらないことが大切です。レスピケアナースでは、オンとオフをきっちり分ける、長時間勤務になった翌日は勤務時間の調整を行う、年に1回はリフレッシュ休暇を取るなどのルールを設け、それが実現できるスタッフ数と利用者数のバランスを考えて、採用と新規利用者の受け入れを行っています。オンとオフをきっちり分け、しっかり休日を確保するには、チームワークが大事で、一人で担当の利用者に対峙せず、複数のスタッフが一人の利用者に訪問できることが重要です。しかし、レスピケアナースでも立ち上げ1~2年は忙しくて余裕がない時期もありました。今どうしても忙しい人は、多少無理をしてでも勉強会に参加して発想の転換をしたり、仕事を仲間と分担したりすることが大切です。 レスピケアナースでは、小児ケア、医療安全、呼吸不全のワーキングチーム、ACP看取りチームと、4つのチームがあり、それぞれ勉強会等も企画してくれます。自分自身が主体にならなくても、スタッフたちが動かしてくれるようなしくみづくりも重要でしょう。 そういったことも踏まえると、最初の話に戻りますが、やはり、ある程度の規模の大きさは必要ですね。「規模を大きくすること」そのものが目的だったわけでなく、そういった余裕のある働き方を可能にするために、立ち上げ時から規模を大きくすることを重要視し、目標としていました。SNSやブログでもその想いを発信していたから、より具体的に方向性が見えたのかもしれません。 私は別に、経営者としてオリジナリティがあるわけじゃないんです。きっと、私と同じことを誰かが言っています。私はセミナーに参加するのも好きなんですが、いいお話を聞けば「自分もやってみよう」と素直に思う。「そんなことはできない……」ではなく、たぶんやれるな、じゃあどうすればいいのかな、と前向きに考え、実践することが重要なのだと思います。「現状を打破したい」というとき、情報取集はとても大事ですからね。ぜひ、新たな情報に触れ、固定概念を持たずにチャレンジしてほしいと思います。 ─ありがとうございました。 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部

規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】
規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】
インタビュー
2023年2月28日
2023年2月28日

規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】

福岡市の「レスピケアナース」は、0歳児から高齢者の方まで幅広く介護保険や医療保険を利用しての訪問看護を提供する、機能強化型訪問看護ステーション。医療依存度の高い方向けの看護を得意としています。設立者で管理者の山田真理子さんに、ご自身が目指してきた訪問看護ステーションの在り方や、順調に規模を拡大してきた秘訣を伺いました。 株式会社アイランドケア 常務取締役レスピケアナース 管理者 在宅看護専門看護師(2020~)山田真理子さん内分泌内科と血液内科の混合病棟に2年、呼吸器内科病棟に計5年ほど勤務。その後、人工呼吸器や患者教育に興味を持ち、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で9年間訪問看護ステーションの管理者を務める。事業所設立を目指して2015年に独立。同年12月にレスピケアナース設立。 前職での違和感と、成し遂げたかった想い ─早速ですが、レスピケアナース設立のコンセプトから教えてください。 「看護職」というと技術や経験が注視されがちですが、私は物事の受け止め方、看護観・ケア観、ビリーフ(思い・信条)に共感できるスタッフであることを重視しています。仕事から学び、学ぶことが仕事だという考えに共感してくれる方々と働くために、レスピケアナースを設立しました。看護師2.5人と、事務・アルバイトさんのみの小さな事業所からのスタートでしたが、現在は順調に人員と売上の規模を拡大しており、多くの方々に訪問看護をご提供しています。 ─訪問看護ステーション設立以前の働き方について教えてください。現在の山田さんの指針に繋がっているご経験などもお伺いしたいです。 前職では、大企業が運営する訪問看護ステーションで9年間、管理者を務めていました。そこで感じたのは、大きな組織のなかで自分ができることの限界です。例えば、人員を増やすにしても、欠員補充しかできず、マッチする人材を選ぶことができませんでした。 訪問看護ステーションは、当然ながら看護師がいなければ何もできませんから、「不足してから補う」という方法は合いませんし、現場が疲弊してしまいます。また、ミスマッチな人材が加わると現場が混乱し、お互いに不幸なのです。次第に「私に人事裁量権をもらえたら、もっとうまく運営できるのに、成果が出せるのに」という気持ちが強くなっていきました。 それから、自由に発言できないというのも組織にいるからこその制限ですね。自分自身が強い想いを持っていても、あくまでも会社の方針と齟齬がない形でしか語れません。「私自身」がどんなことから影響を受けどうしたいか、といったことも言えない。そこから飛び出したいと思いましたし、愚痴や文句を言う前に、自分で理想の事業所をつくるべきだと思いました。 現在は余裕のあるうちに人材を採用する体制を作っているので、予期なく欠員が出ても残された従業員が疲弊しづらくなっています。また、SNSやブログで自分の想いを発信できるので、共感してくれた方がレスピケアナースに来てくれるケースも多くありますね。 ─山田さんの経営思想は、ナイチンゲールからも影響を受けていると伺っています。 はい。20年ほど前ですが、ナイチンゲール思想を研究されている金井一薫先生の「KOMI(Kanai Original Modern Innovation)理論」を知り、勉強会にも参加するようになりました。それまで私はナイチンゲールに対しとにかく献身的なイメージを持っていたのですが、彼女はイギリス初の統計学者であり、レーダーチャート開発や病院経営などでも手腕を奮っていました。「戦争で死ぬよりも感染症で死ぬ人の方が多い、だから衛生環境を整えるべきだ」といったことを、数字を用いて根拠を示し、政府の意思も動かしているんです。 つまり、彼女はただ「患者さんのためになると思う」という気持ちだけで献身的に働くのではなく、根拠を示して他人を納得させることのできる人間でした。それまで私が抱いていた印象とはまるで違う。とてもかっこいいと思ったんです。私もナイチンゲールのようにデータを駆使し、広い視野を持って経営したいと考えるようになりました。 また、この思想は看護の現場にも生かせます。例えば医師と話す場面で、「この患者さんは痛がるからレントゲンを撮ってほしい」ではなかなかうまくいきません。「この患者さんはこのような動作をすると痛がるため圧迫骨折の可能性がある、だからレントゲンを撮るべきでは」と、根拠をもとにアセスメントをしたほうがいいでしょう。 視野を広げて「みんなが幸せになる看護」へ ─ナイチンゲールは「情報」を重要視したのですね。それが冷静な判断を産み出す材料になると知っていた。現代に近い理論的な考え方だと思います。 そうです。もっと正確に言うと「客観的な情報」です。利用者さんの言葉だけを重視すると、その方の主観的な考え、いわゆる「S情報」だけに振り回されてしまいます。なぜ、このような「S情報」が出てきたのか、発言の背景にあることに目を向けなければ、利用者さんの困りごとの解消や軽減に至りません。また、「よかれ」と思って、利用者さんの「S情報」のみを元に現行の制度の域を超えたサービスをチームに黙って一人のスタッフが提供してしまったり、スタッフ自身が「利用者さんの希望を叶えられない」と無力感を感じたり、「こんなことは看護じゃない!」と不満に思うスタッフがいたりして、スタッフの方向性が揃わない。そのようなサービスを続ければ現場に無理が出て、訪問看護事業所が潰れてしまう恐れもあります。 訪問看護事業所が潰れても利用者さんは地域にいますので、次の訪問看護事業所を利用した時、制度の域を超えたサービスを受けられて当然と思ってしまい、次の事業所に不満を感じることになるでしょう。事業者の数が減れば、サービス自体も受けられなくなる。これでは、利用者さんも看護師も、誰も幸せにはなれません。 ─「よかれ」と思って対応している看護師さんに対して、理解を促す難易度は高いのではないかと想像します。どういった対応をしていますか? 看護の「意味付け」をし、レスピケアナースらしさを浸透させるために、月に2回、必ず「事例検討」をしています。この事例検討の目的は、いわゆる「SECI(セキ)モデル」(一橋大学大学院教授の野中郁次郎氏らが提唱するフレームワーク)を回すことです。これはそれぞれが持つ知恵を言語化して共有し、暗黙知を形式知に変える。これにより、さらに上の知恵を発見したり、作り出したりしていくモデルです。それぞれが個別で持っている「暗黙知」が「形式知」となり、客観的な情報になります。討論を通じてマニュアルに書いてあっても読めない「行間」までを読み合い、浸透させる。私はこれを「文化を作る」と表現しています。 事例検討時に自身の看護を評価するために利用してもらっているのが、ICFの情報整理シートや臨床判断モデルです。ICFの情報整理シートは、看護利用者の環境についての情報を整え、客観的に把握するためのもの。臨床判断モデルは、利用者さんのニーズや関心、健康問題などを総合的に捉え、必要とされる具体的な看護行為を導き出すための思考モデルです。このどちらかを使って担当者に発表してもらい、私がファシリテーションしています。 中堅のスタッフには成功事例も出してもらうようにしています。様式に落とし込むだけで、「暗黙知」が言語化されるんです。そして、ディスカッションすることによって、参加したスタッフがハッと気づきを得る体験をし、事例提供者は自身が行ったケアを客観的に見返すことができます。このように共有できる形にすることが、「形式知」になることであり、これを繰り返して「文化を作る」ということを実践しています。 そのほかの日々の記録や報告書や計画書もできるだけ確認し、適宜フィードバックしています。こうした成果物をみれば、「行き詰まっているのかな」「悩んでいるのかな」と気づくこともできるので、とても大事なことだと思っています。 繰り返し丁寧に理念や意図を説明する ─事例検討について、スタッフの皆さんの反応はいかがですか? みんな精力的に取り組んでくれています。ただ、慣れない新人さんには複雑で難しい作業に見えるようで、焦ってしまうこともあるようです。そういうときに私は、「『筋トレ』のように考えてくれればいい」と伝えています。決してプレッシャーを与えるために事例検討をしているわけではなく、「レスピケアナースらしさ」を身につけていくためのトレーニング手法なのです。スタッフの反応を見ながら、こういった意図も丁寧に繰り返し説明するようにしています。 ─クリニカルラダー(※)も活用されていらっしゃるんですよね。 はい。基本的には日本看護協会のものをベースにしています。クリニカルラダーは、活動の場を問わず、看護師ひとり一人が力を発揮できるようにという考えのもとで開発されたものです。看護師の評価の項目に、意思決定を支える力、ニーズを捉える力、協働する力、ケアをする力の4つがあり、バランスがよいと思って採用しました。年に1回、12月から1月にチェックしてもらうようにしています。 ※クリニカルラダー: はしご(=ラダー)を上るように段階的にキャリアアップするしくみ。段階ごとに課題は異なり、それぞれの段階で明確な目標設定が可能 特に「意思決定を支える力」「協働する力」については、病棟看護師も含めて足りないケースが多いと思います。クリニカルラダーでチェックすることにより、今は持っていないが将来には獲得しなければならない能力についても理解できるようになり、「これは自分の仕事ではない」と人任せになるケースが減りました。一緒に仕事をする者同士、連携することができるようになるんです。スタッフたちには具体的なエピソードも書いてもらい、私はそれらに対してフィードバックをしています。 仕事に来てくれれば9割満足 ─自分が得るべき技術が明確になると、やる気に繋がりますよね。それぞれが持つ看護についての考え方もしっかりするのでは。 そうです。レスピケアナースとしての考えが浸透します。ただそれでも、「素晴らしいことをするのが看護だ」とは考えないでほしいんです。利用者さんにとっては「看護してくれる人が来てくれた」というだけで、基本的には十分。私はいつも、スタッフに「仕事に来てくれれば私は9割満足」と伝えています。 例えば、事例検討の担当になることが重荷になってしまう心境なら、また別の時にすればいい。無理をせず働いてほしいと考えています。シフトについてもそうです。週に3回休みが欲しいなら、そういう働き方をすればいい。バーンアウトして訪問看護ができなくなったら、誰の幸せにもならないからです。それができる職場にするためにも、規模を拡大してきたんです。 当たり前のことですが、人によってできることとできないことがあり、考え方が違い、「でこぼこ」しています。私は、「でこぼこしているメンバーがたくさんいるが、関係性はフラットで、チームになると力を発揮する」組織を作りたいんです。パーフェクトなスペシャリストになってほしいわけではありません。自分の考えを押し付けたり、自分には技術がないと卑下したりするのは、ノーマライゼーションではありません。お互いを受け入れ、誰しも自分の可能性や能力を高められる状況でこそ、さまざまな意見や知恵が生まれてくると考えています。 ─ありがとうございました。後編では、採用や経営についてさらにお話を伺います。>>後編はこちら先を見越した採用とオープン経営の重要性 【利用者も看護師も幸せにする経営】 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部

訪問看護管理者が真にやるべきこと
訪問看護管理者が真にやるべきこと
インタビュー
2023年2月28日
2023年2月28日

訪問看護管理者が真にやるべきこと~スタッフ支援としくみづくりに注力する~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。訪問看護事業所運営が厳しい要因の一つに、管理者が何もかも担っている現状があります。第3回は、本当に管理者が注力すべき業務へ集中するための方策と、その一手である大規模化がなぜ進まないのかを考えます。 第2回「学び直しの機会を提供することが重要」はこちら>> ひとりが全部の機能を持っていることは望ましい姿ではない ─ これまでの話を振り返ると、人材採用難や看護師の学び直し機会の必要性、閉鎖リスクなど課題が多く、マネジャーや単体の組織では解決できないことも多いようです。管理者は、まず何を押さえるとよいでしょうか。 中原: まずは「顧客」を確保することでしょうね。顧客がいないと、ビジネスは回りません。訪問看護事業を始めるとき、利用者はある程度確保した段階から始まるんですか? ─ これもそれぞれです。地域の病院やケアマネジャーとのつながりがあって、最初から何人か獲得している場合もありますし、立ち上げ初期は顧客ゼロで、利用者開拓からの事業所もありますね。 中原: そこそこ顧客を持っていて、かつ、人が突然辞めて連鎖退職が起こることがないように、うまく回していく。やはりこれに尽きるのでは。でも、かなりの「無理ゲー(クリアが無理なゲーム)」だと私には思えます。そのことを覚悟して、始めることでしょうね。 乾: 「管理者がひとりで全部の機能を持っている」という話題もありましたが(第1回「人材採用難に立ち向かうために」参照)、私も他の業界にいた経験から、まさにそのとおりに見えています。一般の企業だと、稼ぐのは営業部が、金勘定は経理部が、採用は人事部がやる。それを、小規模の訪問看護事業所だと、管理者さんが基本やらなくてはいけない。そこが厳しいなと。 中原: おっしゃるとおりですね。本当にそうだと思います。 管理者はスタッフ支援としくみづくりに注力すべき 乾: ウィルさんもされているような、たとえば外部が提供する教育のツール利用や、大きなところに人事部門を引き受けてもらうなど、なるべく管理者の仕事を剥がすことが重要だと思います。そこがまた小規模では金銭的にも余裕がないとは思うんですが。 中原: そういうことでしょうね。全部やるのは難しい。落合さんはどうですか? 管理者にできることとは何でしょうか。 落合: そうですね、すべてをひとりがやるのは難しいなかで、やはり、スタッフに能動的に働いてもらうための心理的安全性の獲得。いちばん管理者が注力すべきところは、そこだと思います。 小規模事業所が多い理由は、直接管理をしているからだと私は思っているんです。ひとりが面倒をみることができる範囲はせいぜい5~6人だという、いわゆる「スパン・オブ・コントロール」を脱すると管理不能になって、結局5人ぐらいに落ち着いているのが実情なんじゃないかと。つまりは、管理者がすべて抱え込むマネジメントをやっている表れなんだと思っています。 聞いた話ですが、看護師は、教育・臨床を経ていくなかで、恥を感じがちで、自分で抱え込む人間が育つ傾向なのだそうです。加えて、自分から学ぶのではなく、「教育は受けるものである」という感覚も育ちがち。 先ほど出た話題(第2回「学び直しの機会を提供することが重要」参照)の、病院看護から訪問看護へのゲームチェンジを理解させる教育のなかで、そんな視点での支援をしないといけないんだなと思いました。教育は「与えられるもの」ではなくて自分から学習機会を活用していく、そのように行動が変わる支援です。管理者のマイクロマネジメントで動かすんじゃなく、能動的に動くことへのサポートですね。 スタッフが能動的に動けるように支えるマネジメントと、管理者だけで抱えずシステマチックにしくみを整えること。いちばん管理者が注力すべきはそこだと思っています。 中原: ありがとうございます。おっしゃるとおりだなと思いますね。 今後、訪問看護事業所の大規模化は進むか ─ 大規模化の推進が、訪問看護業界の喫緊の課題として上がっています。 中原: それはうなずけます。スケールを生かすのは一手ですね。 ─ ただ、非常にローカルなビジネスですので、直営だと狭い地域でしか成り立たない。落合さんが共同設立されたウィルさんのように、フランチャイズ化していろんな地域で運営できるモデルを構築されようとしている事業者もありますが、今はまだ大規模化の道筋はみえていないのが現状です。 乾: 私も落合さんに聞きたいのですが、訪問看護は、医療事業では特例的に営利法人が運営でき、資本力のある株式会社の参入もある。これから、たとえば買収が進んでどんどん成長するような存在が出てくるでしょうか。それともまだ今のような、小規模が大半の時代が続くと思いますか。 落合: 事業統合が増えるとは思いますが、医療・福祉の世界では、これまで市場統合がされていないんです。良い事例がいくつもあっても「それは○○市の○○事業所だから可能な事例でしかない」で終わっていて、それが繰り返されている状況なので、今後も大きく統合が進むとはあまり思えない。他業界のようには市場統合は起こらないのではと予想しています。 市場統合よりも「仲良くつながろう」がフィットする 落合: 統合というよりは、「仲良くつながろう」がフィットするのではと思っています。社会保障事業なので、どこで働いたって給料が大きく変わるわけでもないから、皆で仲良くやって、研修なんかも皆で作って一緒にやれば、それが業界全体の貢献にもなるよね、と。 中原: その「仲良く」とは、たとえば「今日うち人が足りてないんだけれど、貸してくれる?」もできるんでしょうか。 落合: それは難しいですね。登録しないといけないので。 中原: そうすると一つやりうる方法が、共通化できるもの、たとえば教育のコンテンツを「一緒にやりません?」的なことですね。 落合: そうです。ちょうど今、ウィルのグループでやりたいと思っていることがそれです。 診療報酬や介護報酬が改定されると、まず料金表が変わるんですが、料金表を1万3000の事業所で作るなんて本当に意味がない。誰かひとりが作って皆で仲良く使おうよと。 それから、5人以下の事業所が大半ということは、一つの職場の中には同期がほぼゼロなんです。それなら、エリアで同期の勉強会をしようよとか。 中原: いいですね。 落合: 隣の事業所をライバルと思わないほうがいいよねと思っているんですが、実際には人の奪い合いもあります。社会保障ですから、「うちこそは」と差別化して市場で競争するなんて、本来はそぐわないはず。そこに無理やり特徴をつくるとか、社会の形としてもビジネスの形としても有意義ではないことが実際には行なわれていて、自滅につながるんじゃないかと気になります。 大規模化とは業務を破綻させないしくみをつくること 乾: 訪問看護では大規模化のメリットがかなりあると思うんですけどね。 落合: はい、あります。大きく成長することを嫌う文化が根強い業界でもあり、大きな統合は難しいだろうなという感触ですが。 乾: 確かに医療・介護の領域だと、規模拡大イコール利己的な金儲けと誤解されるのか、資本主義的なものを嫌う風潮は確かにありますが。規模を大きくすることで、機能を本部でまとめて管理するですとか、できることが出てくるので、実用面ではすごく有意義だと思います。 中原: 金儲けというより、回るしくみを作ることなんですけどね。「最低ここまではみんなでやりましょう」のしくみにするほうが、建設的だと思います。 >>次回「訪問看護事業所の休廃止を防ぐ」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

オンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ
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インタビュー
2023年2月21日
2023年2月21日

オンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ

「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、多忙な訪問看護ステーションの新人教育をサポートするサービスです。現場経験やスタッフ指導経験のある看護師が、新任訪問看護師の訪問にオンライン同行するほか、訪問前の準備や訪問後のフィードバック、定期的な管理者への評価結果報告なども行います。 実際にオンライン同行訪問サービス(以下「オンライン同行」)を利用した「しもふり訪問看護ステーション」の経営者 木和田さんと、所長・管理者の木下さんにお話を伺いました。後編では、オンライン同行利用後の所感と活用方法についてお話しいただきます。 >>前編はこちら試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由 >>オンライン同行を体験した文屋さんの記事はこちら「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記 株式会社 ユニメコム 代表取締役木和田 俊治郎さん調剤薬局の運営会社での取締役時代、訪問看護ステーションの立ち上げ責任者に。企業買収に伴い2015年に独立し、訪問看護ステーション運営会社である株式会社ユニメコムを設立。 しもふり訪問看護ステーション 所長・管理者木下 亜矢子 さん銭湯の番台や外来勤務の准看護師を経て、正看護師になるタイミングで訪問看護の道へ。 しもふり訪問看護ステーション看護師 8名、理学療法士 3名、作業療法士 4名、言語聴覚士 1名、事務 1名が所属(2023年1月時点)。 オンライン同行がスタッフの精神的サポートに ―2022年に、当時入職したばかりだった訪問看護師の文屋さんがオンライン同行を利用されています。実際にオンライン同行を利用してみて、いかがでしたか? 木下さん(以下敬称略): 本人もそう言っていますが、最初はオンライン同行の看護師さんとのコミュニケーションにかなり緊張している様子でした。慣れない職場でひとりだけ外部の人とオンラインミーティングをしている、という状況も発生するので、気を遣うことも多かったと思います。でも、回を追うごとにどんどんオンライン同行の看護師さんとも仲良くなって、慣れていきましたね。 人によって向き不向きがあると思いますが、文屋の場合は利用してよかったです。私にとって一番うれしいのは、サービスを利用した文屋が笑顔で「安心した」「心強かった」と言っていることですね。訪問看護師なりたての一人訪問は誰しも緊張しますし、初めて訪問看護の世界に飛び込むわけですから、普通は不安になったり、病棟とのギャップで苦しんだりします。 文屋が抱える不安は十分わかっていても、時間の制約があって私や他のメンバーが常に寄り添い続けることはできません。オンライン同行が精神的なサポートをしてくれて、よかったと思います。 右から木下さん、木和田さん、オンライン同行を利用した訪問看護師の文屋さん 管理者の方針が明確なら、意見の相違も「良い気づき」に ―サービス利用前は、木下さんの方針とオンライン同行の看護師の指導内容に差異が生じるのでは、というご懸念もあったと伺いました。実際に方針や意見の相違はあったのでしょうか。 木下: ありました。「オンライン同行の看護師さんの言うこともわかるが、しもふりではこうしてほしい」「この利用者さんの過去の経緯や背景を踏まえると、AではなくBにしたほうがいい」などと思ったことがあります。その際は、「私は管理者としてこう思うよ。あなたはどう思う?」と、文屋自身に考えてもらうことを意識しながら議論して、そこで出た結論を文屋から伝えてもらいました。 実際にやってみると、管理者としての方針をきちんと伝えられれば、意見が食い違っても特に困ることはないと思いました。オンライン同行の看護師さんの指摘が「そのとおりだな」と思った案件もありますし、第三者が入ることで、気づきや考えるきっかけが生まれてよかったです。 ただ、私と同行訪問の看護師さんとの間で文屋が板挟みにならないように、という点は意識していましたね。文屋と話し合って決めた結論がオンライン同行の看護師さんの意見と違っていた場合にも、「じゃあ〇〇のほうがいいね。そう言っておいて~」くらいの軽いトーンで伝えていました。管理者も同行する看護師さんも、どちらもあなたの味方なんだよ、というスタンスが伝わるように気を付けました。 木和田さん(以下敬称略): このように、木下が管理者として「自分の軸がちゃんとしていれば大丈夫」という考えで対応してくれたことは、経営者として本当にうれしいことですし、大きな成果だと考えています。オンライン同行を利用する前にイメージしていた「レベルアップ」はしっかり達成できたと思います。 オープンマインドな姿勢で臨むと学びが増える ―しもふり訪問看護ステーションでは、スタッフの方の意向も確認しながらオンライン同行の利用有無を決めていらっしゃいますが、人によって向き不向きはあると思われますか? 木和田: 本当に、プラスになるかマイナスになるかは「その人次第」という側面があると思います。例えば、過去のやり方を「絶対的基準」として捉えている人の場合、コンフリクト(対立)が起こりやすいですし、学びにつながりにくい。オンライン同行を使う方には、オープンマインドな姿勢が求められると思います。 木下: そうですね。オンライン同行の看護師さんに対して、自分の意見や考えをきちんと言えることも大事だと思います。なかには、何か意見を聞かれたときに「特にありません」という回答ばかりになる方もいらっしゃると思うのですが、そういう方は向いていないというか、「まだ早い」かもしれないですね。アセスメントができない看護師さんに対しては、オンライン同行を始めるより先に教えることがあると思います。 教育の土台があってこそ「あと一押し」として活用できる ―最後に、他の訪問看護ステーションがオンライン同行を利用する際のアドバイスをお願いします。 木和田: 当ステーションにはオンライン同行がマッチしましたし、今後も使っていこうと考えています。ただ、「オンライン同行だけ」を研修とするのはあまりよくないと思いますし、教育体制をきちんと構築してからの利用がいいのではないでしょうか。所属しているステーションの方針が不明確なまま突き進んでしまうと、目指す方向を見失いやすいでしょう。 まずは訪問看護ステーションとして数ヵ月単位の研修プログラムを組んだうえで、プラスαとしてオンライン同行を使うのがいいんじゃないかなと思います。不安な部分をあと一押ししてもらう、というイメージですね。 ―ありがとうございました。 編集・執筆: NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *   ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

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