災害時対応に関する記事

日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」
日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」
特集
2025年1月28日
2025年1月28日

日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」

少子高齢化や地域コミュニティの変化が進む中、「地域共生社会」をテーマに掲げた『訪問看護サミット2024』が、2024年11月30日(土)に開催されました。設立30周年を迎えた日本訪問看護財団の主催による本イベントは、「すべての人にウェルビーイングを」を合言葉に、訪問看護師をはじめ、医療、福祉、行政等の関係者が集い、地域包括ケアの未来について考える貴重な場でした。訪問看護の発展・継続に向けての具体的な解決策や、新しい地域ケアのあり方について深く議論された本イベントについてレポートします。 30周年を迎えた日本訪問看護財団 日本訪問看護財団は、1994年の設立以来、訪問看護の普及と質の向上を目指し、訪問看護師の育成や支援、情報提供などを通して地域包括ケアを推進。多くの訪問看護ステーションを支援し、制度づくりにも寄与してきました。設立30周年を迎えた2024年、今回のサミットは「明日のエネルギー」になることを目指し、訪問看護の未来を見据える、熱気ある会となりました。 日本訪問看護財団 理事長 田村やよひ氏 理事長の田村やよひ氏は、2040年問題を背景に、訪問看護が「地域包括ケアの要」であると強調。「今後の社会における訪問看護の役割を改めて問い直す場」としてサミットの意義を語り、共感を呼びました。 厚生労働大臣事務次官や文部科学大臣らの祝辞もあり、訪問看護業界と行政との連携の重要性を再認識したほか、訪問看護の発展に尽力した個人や団体への表彰式も行われました。 訪問看護師の役割を改めて考える 3つの特別公演 本イベント内では、地域共生社会の推進に向けて訪問看護師が何をすべきかを考えるために、貴重な特別講演が開催されました。 ◆「ポスト2025年の在宅医療と訪問看護への期待」 医薬品・医療機器業界の政策に深く関わってきた武田俊彦氏は、少子高齢化が想定以上のスピードで進んでいる現状に言及。2040年問題への対応が急務であると指摘しました。 1983年に施行された老人保健法では、在宅医療の推進や入院医療の適正化が掲げられたものの、高齢者のQOLを十分に尊重した医療体制には未だ課題が残るとのこと。従来の地域中核病院に資源を集約する体制を見直し、「医療ネットワーク」「患者や家族」「在宅ケア」が連携し、地域や家族を中心とした医療・介護体制を築く必要性について言及。その中で訪問看護は、生活の質(QOL)を支え、その人らしい人生を形作るための鍵になるとも語りました。訪問看護の持続可能なサービス提供のためには、経営基盤の安定化が急務であるとも述べ、聴講者の共感を集めました。 病院や施設から地域や在宅へのシフトを支える訪問看護師の役割が、これまで以上に重要になることが改めて共有された本講演。政策の振り返りを踏まえつつ、これからの訪問看護が進むべき道筋が示されました。 ◆「訪問看護におけるウェルビーイングとは」~すべての人が幸せに生きるために~ ウェルビーイングを推進している前野マドカ氏は、「医療従事者は自分を犠牲にしがちだが、人は幸せになるために生きているという根本的な事実を忘れてはならない」と提言。ウェルビーイングは、単なる健康にとどまらず、幸せややる気、思いやりなどを含む広い概念であり、これを高めるには学びと行動が不可欠だと解説。幸せは寿命を延ばし、創造性や生産性を高める予防医学としても重要であると述べました。 特に、幸せを育む4つの因子「自己実現」「つながり」「前向き」「独立」をバランスよく育むことが幸福度を高め、他者との良好な関係を築く要であり、「ありがとう」などの優しい言葉には、人の心を満たし、ウェルビーイングを向上させる力があるとのこと。 また、自分の良さや強みを知り、「私は大丈夫」と自分をとことん信じる姿勢が重要だと前野氏。それぞれが自分らしさを活かし、互いを尊重し合い協力することで、共生社会の礎が築かれることを学びました。 ◆ナイチンゲールの地域看護思想から学ぶ~時代を超えても変わらないこと~ 最後は、ナイチンゲール看護研究所 所長の金井 一薫氏による講演。ナイチンゲールが提唱した「病院は患者に害を与えない場所であるべき」「治療処置が絶対に必要である時期が過ぎたならば、いかなる患者も一日たりとも長く病院にとどまるべきではない」といった思想は、地域看護の原点として現代も受け継がれています。金井氏は、現代の日本においても、訪問看護師が行政や多職種と連携して利用者のQOL向上に寄与することの重要性を強調。 また、ナイチンゲールが示した「看護(ケア)の5つのものさし」(生命力の消耗の最小化、もてる力の活用、回復過程の促進、生命力の増大(自然死への過程)、QOLの向上とその人らしい生活(死)の実現)は、現代の訪問看護においても地域連携システムで活用できる普遍的な指針であり、質の高いケアを提供するための基盤であると解説されました。 講演後の平原優美氏(日本訪問看護財団 常務理事)との対談では、制度の隙間で支援が届かない人々に対し、地域包括ケアに関わる職種と行政との連携の重要性が改めて指摘されました。また、学生時代から在宅看護を学び、早期に実践できる人材を育てることが、地域看護の未来を切り拓くために欠かせないとの意見が述べられ、会場から多くの共感を得ました。 日本訪問看護財団の在宅看取りプログラム&災害時ネットワーク 本イベントでは、日本訪問看護財団の取り組みに関する成果や今後の活動等についても報告されました。 ◆在宅看取り教育プログラムの成果とこれから 日本訪問看護財団は、在宅看取りの訪問看護体制を強化することを目的に「訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)」を2020年度より開発。2023年度より指導者向けの「PENUT-T」を開発しています。 PENUTは、在宅看取り初心者の訪問看護師が「在宅看取りができそうだ」「やってみたい」と思えることを目指したプログラム。講義と演習を通して、終末期ケアの知識や多職種との連携スキルを習得し、多様な事例を学ぶことで、症状緩和への困難感を軽減する効果が確認されているとのこと。特に、実際に在宅看取りを実践してきた講師が紹介するリアルなケーススタディは、受講者の心に響く内容になっているそうです。 参考:Web研修等のご案内 | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト 「自宅で最期を迎えたい」と思っても、実際に自宅で最期を迎えられている人は限られている現状があり、訪問看護師が担う役割は重要です。より多くの人が希望通りの場所で最期を迎えられる社会を目指すために、財団の挑戦は続きます。 ◆災害時ネットワークの発足 日本訪問看護財団は、災害時に地域のステーションや関連団体等との迅速な情報共有を行うための「災害時ネットワーク」を発足しました。このネットワークでは、平時から交流会や勉強会を通じて関係性を深め、災害時にはLINEオープンチャットを活用して情報を共有するしくみを構築しています。 参考:災害時ネットワークについて | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト これにより、被災地における訪問看護ステーションの被害状況や、必要な支援について情報共有が行えるようになります。また、在宅ケアに関わる団体への速やかな情報提供も行えるとのことです。 地域で生きる力を支えるために 今回のイベントでは、設立30周年を記念して制作された、新たなロゴとキャラクターについても発表されました。 日本訪問看護財団の新しいロゴ&キャラクター引用:公益財団法人 日本訪問看護財団「ロゴ・キャラクター紹介」 ロゴに描かれた輪は、利用者や家族、訪問看護師、医師、介護職といった多様な人々がつながり合い、支え合う様子を表現しています。キャラクターは、ふわふわの白い羽で大空を自由に飛び回る小鳥の「エナガ」をモチーフに、親しみやすさと柔らかさを兼ね備えたデザインで、訪問看護師が地域全体を見守る存在であることを象徴しています。 * * * 本イベントは、訪問看護を本気で応援し、未来を本気で変えようとする人々が集う、熱意溢れる場でした。日本訪問看護財団は相談窓口を用意しており、有益な情報発信も数多く行っています。ぜひ積極的に活用していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法患者の災害対策~事前準備や停電時の対応
在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法患者の災害対策~事前準備や停電時の対応
特集
2025年1月7日
2025年1月7日

在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法患者の災害対策~事前準備や停電時の対応

阪神・淡路大震災や東日本大震災に加え、最近では能登半島地震が記憶に新しく、地震や台風などの災害が多く起こっている日本において、国民が抱える災害への不安は計り知れません。その中でも在宅酸素療法(HOT)・在宅人工呼吸療法(HMV)患者さんにとっては、災害時にさまざまなことを考慮する必要があり、事前の準備や連携が重要となります。今回は、HOT、HMV施行時の災害対策について解説します。 災害時に起こりうるリスク(停電時含む) 台風、豪雨、地震、火災、洪水、停電など、災害には数多くのものがありますが、その規模によりさまざまな影響を受けます。台風や地震などの時には停電が起こる確率が高く、機器は電気を要することが多いため、早急な対応が求められます。 機器の取り扱い 酸素濃縮器を使用している場合には、すぐに電源が停止し酸素の供給が止まってしまうため、酸素ボンベにつなぎ変える必要があります。酸素を中断することにより原疾患悪化の可能性があるため、可能な限り安静時の酸素流量で過ごすことが望ましいです。 また、人工呼吸器は充電されているバッテリーに切り替わりますが、充電時間には限度があります。NPPV(非侵襲的陽圧換気)患者さんの場合、その間に可能であれば酸素療法のみに変更したり、TPPV(気管切開下陽圧換気)患者さんの場合には外部バッテリーにつなげたりする必要があります。 酸素ボンベやバッテリーは転倒や落下による被害を受けないように保管場所にも注意を払うことが重要です。使用可能時間を把握した上で業者への連絡を速やかに行います。 感染予防 災害時には劣悪な環境に身を置く可能性が高く、原疾患の悪化だけでなく、感染症に罹患するリスクが高まります。手洗い、アルコール消毒、含嗽、マスク着用などの感染対策を励行することに加え、日頃よりワクチン接種を行っておくことを推奨します。 災害を想定して準備しておくこと 食料品や生活必需品などの準備だけでなく、HOT・HMV患者さんは生命と直結する酸素や電源をどのように調達するのかが最優先となります。停電や緊急時に備えて、患者さん・ご家族が普段から準備しておくとよいことを以下に挙げます。  酸素ボンベは切らすことなく常に余裕をもって配達依頼をする緊急時や停電の中でも落ち着いてボンベ交換や取り扱いができるように日常より練習しておくHMV患者さんはバッテリーを適宜充電しておき、足踏みで行える吸引器や発電機、懐中電灯などを準備しておく鼻カニュラをはじめとした酸素吸入のデバイスや同調器の電池、吸引関連物品なども備蓄しておく災害時は、酸素や人工呼吸器の業者に被災状況を連絡し、ボンベの配送などを依頼すること、業者と連絡がとれない場合は、避難先を明記した貼り紙をどこに貼付するのかなどをあらかじめ業者や訪問看護師と共有しておく避難時にすぐに薬の調達が行える保障はないため、1週間程度の薬(内服薬・吸入薬・貼付薬・軟膏など)とお薬手帳を持参できるように準備しておく 災害時対応で留意すべきポイント 災害時、誰もが優先すべきことは、自分自身の安全の確保です。そのためには患者さん自身のADLやセルフマネジメント能力の程度、ご家族や介護者の有無などを把握しておかなければなりません。 災害の種類や程度によって大きく異なりますが、消防や自治体がすぐに対応できないこともあり、自宅で災害に見舞われた場合には、まず自分たちで行動することを余儀なくされる場合もあります。そういったケースを念頭に置き、避難が必要なときにはどうすればよいかなどを日常からご家族や訪問看護師、協力を求められる人たちで考えておくことも重要です。 災害時は互いの協力が不可欠です。業者や自治体、医療機関で調整を図りながら、患者さんの安全を維持できるよう速やかな現状把握、情報提供、資源提供などを行いましょう。 業者や自治体のフォロー体制と訪問看護師の役割 業者や自治体、医療機関との連携における調整は重要であるため、先行してシステム構築がなされている災害経験地域のモデルを参考に、各地域でもフォロー体制の早急な確立が望まれます(図1)。 図1 大規模災害時におけるHOT患者を取り巻く業者や自治体、医療機関との連携システムのイメージ 業者の役割:来院不可患者への対応とHOTセンターの運営協力 一時的避難でない場合、HOT患者さんには、酸素ボンベでは使用時間に限界があるため、常時酸素吸入できる酸素濃縮器の使用と電気供給が可能な場所が必要です。つまり、どこかの医療機関に避難する必要があります。 ただし、医療機関でも酸素配管があるベッドは入院対象となる患者さんに優先されます。したがって、酸素が確保できれば療養可能な患者さんは、医療機関内に設置されたHOTセンターでの対応となる可能性が高いです。 HOTセンターは、患者さんが使用しているメーカーを問わず、さまざまな業者からの酸素濃縮器を使用して運営されます。災害地外への二次避難でも酸素ボンベが貸し出されるシステム構築を検討しなければなりません。 NPPV・TPPV患者さんにおいては入院対応が優先して検討されると思われますが、酸素同様に契約内容に限られず使用することを念頭に置いた柔軟な対応が求められます。 行政の役割:地域における支援体制の整備 災害時になれば、医療機関は受け入れる患者さんの対応に追われ、自ら患者さんへの連絡を行うのは容易ではありません。患者さんの安否や避難場所の把握など、業者に頼ることが多いと思われます。 2013年以降、災害対策基本法の改正により、災害時に自ら避難することが困難な高齢者や障害者等の名簿(避難行動要支援者名簿)の作成が市町村に義務付けられました1)。名簿を順次更新し、災害発生時には地域だけでなく、医療機関や業者と共有・活用することにより、スムーズな対応が可能となります。そのためにも必要な患者情報の選別や共有・活用できるシステムの構築を行政主体で執り行うことが望まれます。 訪問看護師の役割:患者さん・ご家族の災害への備えの支援 災害への不安はあっても、実際を想定して備えることは困難なため、どのような準備が必要か、利用できる社会資源はあるかなど、患者さん・ご家族への情報提供や対応検討をともに行います。事前の準備や登録が必要なこともありますが、時間経過とともに危機意識も薄まるため、繰り返し相談・実践する機会を設けることが重要です。 事前登録の例を1つ紹介します。大阪府訪問看護ステーション協会では、2年ごとに発電機・蓄電器を管理する拠点ステーションを選出し、訪問看護ステーションを通じて、平時に患者さんからの貸出申請書を受け付けています。発災時には事前登録した患者さんが要請すれば、拠点ステーションに貸出可否の確認がされ、可能であれば貸出が行われます。 災害時に利用できる制度・団体 災害時に利用できる制度や団体にはさまざまなものがあります。一部を表1に示しますので、普段からこういった情報を調べておくとよいでしょう。 表1 災害時に利用できる制度・団体の例 執筆:渡部 妙子地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター慢性呼吸器疾患看護認定看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長編集:株式会社照林社 【引用文献】1)内閣府.「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」(平成25年)https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/yoshiensha.html2024/3/29閲覧 【参考文献】〇3学会合同セルフマネジメント支援マニュアル作成ワーキンググループ他編.「災害対策と対応」,『呼吸器疾患患者のセルフマネジメント支援マニュアル』.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2022;32(特別増刊号):229-236.〇内閣府.「被災者支援に関する各種制度の概要」(令和6年) https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/kakusyuseido_tsuujou.pdf2024/12/24閲覧〇内閣府.「災害中間支援組織について」https://www.bousai.go.jp/kyoiku/bousai-vol/voad.html2024/3/29閲覧〇大阪府訪問看護ステーション協会 在宅患者災害時支援体制整備事業委員会.「人工呼吸器装着者の予備電源確保推進にむけた災害対策マニュアル」https://daihoukan.or.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/6a0157155302e8e5eea69f00e66de24d-1.pdf2024/12/24閲覧

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
特集
2024年12月3日
2024年12月3日

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」

2024年11月16・17日の2日間にわたり、「日本在宅看護学会 第14回学術集会」が対面・オンラインで開催されました。今回の学術集会長は、WyL株式会社/ウィル訪問看護ステーションの岩本 大希氏。訪問看護に携わる方々が数多く訪れ、「多様性」をテーマにした充実した学びと交流の場となりました。NsPace編集部が、本学術集会の模様をレポート形式でお届けします。 「多様性」をテーマに掲げる意味 本学術集会のテーマは「多様性」。外見や性別、障害の有無から、育ってきた環境や宗教の違いまで、さまざまな多様性が存在します。世界は急激に変化しており、近年は感染症パンデミックへの対応や在宅ホスピス・在宅救急の台頭も。ルールや制度がない中で日々試行錯誤しなければなりません。 岩本学術集会長は、訪問看護に携わる方々はすでに当たり前に多様性に向き合っていることを強調しました。その上で、そうした環境下で訪問看護を行っていることを改めて認識してほしい。また、制度の隙間に落ちてしまう人たちが必ず存在する中で、ルールがなくても切り拓く開拓精神やエナジーを感じてほしいというメッセージが語られました。 本学術集会では、「多様な服装/衣装でのご参加を歓迎いたします!」と事前にお知らせがあり、着物・ドレス等で参加している方や、法被姿の方も。座長として登壇していた「看護の日」キャラクターの「かんごちゃん」の姿もありました。(※許可をいただいて撮影しています。) ピックアップレポート 多くのプログラムがありましたが、一部のプログラムを編集部がピックアップしてレポートします。 『発達障害のある(かもしれない)看護職の理解と支援』 座長 鹿内あずさ氏、講師 川上ちひろ氏 訪問看護の現場で、看護師自身に発達障害がある、もしくはその可能性がある場合の支援方法について悩むケースがあります。すでに看護師の職に就いている方の場合は、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)のケースが多く、例えば「コミュニケーションのとりづらさ」「倫理観・道徳観の欠如」「容量の悪さ」といった課題に直面することも。川上氏によれば、発達障害がある方はワーキングメモリや実行機能に問題を抱えていることが多く、努力だけでは解決しないということ。また、これらの特性は「親の育て方が悪い」ことが原因ではないというメッセージが語られました。そのほか、メモの取り方、抽象的な質問への対応など、特性に基づいた具体的なサポートが必要であることも詳しく解説。学習者と教育者のよい関係を築くためには、教育者が「がんばりすぎない」ことが大切であることや、認知的徒弟制を取り入れて適切な難易度の課題を与えることがポイントとのこと。聴講者の方々は、語られるエピソードに共感し、対応法について真剣にメモを取る様子が見られました。利用者だけでなく、看護師側も多様な人たちが働ける環境づくりが求められています。 『多様なニーズを支える中堅スタッフへの教育支援 ~これからに必要な生涯学習支援~』 座長 佐藤直子氏、演者 佐藤直子氏、佐藤十美氏、藤野泰平氏、服部絵美氏 「新任訪問看護師」向けや「管理者」向け研修は数多くみられる一方で、中堅スタッフはあまりフォローされていない現状があります。何をもって「中堅」とするかの明確な定義はないそうですが、演者の方々が考える中堅スタッフ像はおおよそ同じ。「さまざまな状況の利用者にケアが実施できる」「事業所全体や地域についても考える力がある」ことが求められるとのことでした。各事業所の中堅向けの取り組みが紹介された後はディスカッションが行われ、「中堅スタッフになるきっかけ」「具体的なラダー評価の内容」「自己評価と管理者の評価が異なる場合の対応」などについて質問が挙がっていました。中堅スタッフの教育の重要性について多くの事業所が共感している様子で、会場からの質問は絶えず、活発に議論されていました。 『在宅看護のシミュレーション教育の可能性を考えてみませんか?』 織井優貴子氏、竹森志穂氏、金壽子氏 東京都では、定期巡回型サービスや看護小規模多機能型居宅介護(かんたき)の利用者数が急増しており、都民の投票で「いきいき・あんしん在宅療養サポート:訪問看護人材育成支援事業」という訪問看護師のアセスメント能力、実践力向上を目的とした事業が採択されました。その取り組みが紹介されたプログラムです。新任訪問看護師向けのシミュレーション教育が注目されている中、どのようにシミュレーション教育が行われているかが詳細に語られました。訪問バッグの中身や模擬在宅ルームに置かれている小物は、実際の訪問看護の現場を再現しており、高性能多機能人体型シミュレーターを使用して、フィジカルアセスメントや報告の方法まで学ぶことができます。会場では、教育機関の関係者から事例の選定方法や研修の進行についての質問も複数あり、他の地域でシミュレーション教育を行うきっかけにもなりそうです。 『能登半島地震での活動:DC-CATの立ち上げから現在までを通して』 座長 岩本大希氏、講師 山岸暁美氏 2024年1月1日に起きた能登半島地震および奥能登豪雨の被災地支援にあたっているDC-CAT(Disaster Community-Care Assistance Team)の活動や被災地の状況について共有されました。DC-CATは、災害直接死の4倍とされる「災害関連死」を阻止すべく活動しています。公的支援やケアが不足している中、行政やDMAT等とも協働しながら、健康相談ダイヤル(#7119機能を持つ電話相談)、医療・保健サービスにアクセスできない地域でオンライン診療を行うヘルスケアMaas事業も展開しています。被災地の方々の実際の声も交えながら活動内容や試行錯誤の経過が語られ、一次的にケアに入るだけでなく、支援が終わった後にどう地域内でケアを継続していくかを考えることの重要性や、被災地支援で見えた課題に対して政策提言した内容についても共有されました。会場の方々は熱心に耳を傾け、共感の声や「応援・協力したい」というコメントも挙がっていました。 学術集会長コメント 最後に、学術集会長 岩本氏のコメントをご紹介します。 本当に多くの方々に学術集会にご参加いただき、感謝の気持ちでいっぱいです。「多様性」がテーマということもあり、やりたい企画は数多くあったのですが、新鮮な切り口を意識しつつ日々の実践に根ざした内容も取り入れたいと考えながら絞り込んでいきました。結果として、多くの企画が立ち見になるほど盛況で、本当に嬉しく思っています。 ドレスコードも、参加しやすさと多様性を表現するためにカジュアルな服装を推奨しました。登壇者の先生方も率先して素敵な格好をしてくださり、非常に心強かったです。 なお、まだオンデマンド配信の学術集会は終わっておらず、2024年12月17日17時まで配信しています。ACPや教育、能登半島地震の被災地対応など大きな企画は特に見応えがありますし、オンデマンド限定のプログラムも数多くあります。対面で参加した方も参加されていない方も、期間内にできるだけ多くのプログラムを視聴していただけると嬉しいです。 >>オンデマンド配信はこちら(要登録)日本在宅看護学会第14回学術集会 * * * 本学術集会では、参加者の皆さまや登壇者の方々の数多くの笑顔が見られ、楽しそうな様子が印象的でした。また、2025年の第15回学術集会は、名古屋で開催されます。次の学会にも注目していきましょう。 取材・編集・執筆:NsPace編集部

特集
2024年7月10日
2024年7月10日

受賞作品漫画「遠く離れていても<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、鳥居 香織さん(医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション/栃木県)の審査員特別賞エピソード「遠く離れていても」をもとにした漫画の後編をお届けします。 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。 「遠く離れていても」前回までのあらすじ医療サービスへの拒否感があった利用者の山田優一さんは、鳥居さんの看護によって心を開き、笑顔を見せてくれるようになりました。奥様との思い出話や「娘に迷惑をかけず、自分のことは自分でしたい」というご自身の思いを教えてくれ、大事にしている百合の葉書も見せてくれました。そんな中、突然東日本大震災が起きたのです。>>前編はこちら受賞作品漫画「遠く離れていても<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 遠く離れていても<後編> 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。エピソード投稿:鳥居 香織(とりい かおる)医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション(栃木県)この度は、審査員特別賞をいただきありがとうございます。勤め先でも職種に関わらずみんな受賞を喜んでくれて、漫画化も楽しみにしてくれました。いまだに「訪問看護って何?」と聞かれることもあり、このように訪問看護の事例を紹介いただける機会があることをとてもありがたく思っています。今回エピソードを投稿しようと思ったとき、まっさきに優一さん(仮名)のお顔が浮かびました。優一さんに葉書をいただいてから10年以上経ちましたが、今でも月を見ると「あのとき優一さんが言ってくれたような私でいられているかな」と自分を振り返っています。亡くなった後も優一さんが私を支えてくれていると感じます。これからも「お家で過ごしたい」と願う方に精一杯の手助けをしていきたいと思います。 >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

特集
2024年7月9日
2024年7月9日

受賞作品漫画「遠く離れていても<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、鳥居 香織さん(医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション/栃木県)の審査員特別賞エピソード「遠く離れていても」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。 遠く離れていても<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「遠く離れていても<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。エピソード投稿:鳥居 香織(とりい かおる)医療法人社団亮仁会 さくら訪問看護ステーション(栃木県) [no_toc]

阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~
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インタビュー
2024年6月25日
2024年6月25日

阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~

西宮市訪問看護センターはエリア内で最も長く地域を支え、幅広い取り組みを実施されてきたセンター。災害関連でも、阪神・淡路大震災での訪問看護を経験しているほか、新型コロナ感染症陽性者の支援のしくみづくりにも貢献。今回は、災害対策にも精通している山﨑 和代さんに、災害時の対応やICT化問題にいち早く取り組み、電子カルテや情報共有アプリを導入した際のお話などを伺いました。 >>前回の記事はこちら訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~ 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 震災を経て感じた訪問看護「終結」の重要性 ─西宮市訪問看護センターでは、1995年の阪神・淡路大震災時の訪問看護を経験され、その経験を活かして行政と連携しながら災害対策体制の構築をされたということでした。ステーション内での災害対策についても教えてください。 西宮市訪問看護センターの中で、阪神・淡路大震災のときに訪問看護をしていたメンバーは私のみになりましたが、当時、「訪問看護に行きたくても、行けない」という経験をしました。あの経験を通じて、利用者さんから「全面的に頼っていただく」サービスの限界を知ったように思います。 何かあったときに、我々が利用者さんのもとに行けないこともある。だからこそ、最終的には利用者さんがセルフケアを行えるようなサポートが「住み慣れた場所で最期まで過ごせる地域づくり」に繋がると強く思いました。病気を知る、背景を知る、ナラティブ(その人の物語)を知る。その上で適切にアセスメントし、セルフケアをしていただけるよう、「訪問看護の終結」を見据えてケアすることが、利用者さんのためでもあり、限られた訪問看護のマンパワーを効果的に活用することに繋がります。「タスクシフト」はまさにこのことだと思います。 重要なのは、緊急度・重症度に応じた訪問看護優先度の決定(トリアージ)です。当センターではトリアージ表を作成して支援内容や頻度をチームで検討し、常に終結や訪問頻度の低下ができないかウォッチしています。この考え方は、当センターのBCP(事業継続計画)にも反映しており、災害級といわれたコロナ禍で担い手が不足したときにも役立ちました。 ─「訪問看護の終結」が一筋縄ではいかないケースもあるのではないかと思いますが、どのように対応されていますか? まずは、合意形成することを大事にし、常に終結を見据えて利用者さんに情報を取捨選択して渡し、しっかりと相談に乗っています。 それでも利用者さんやケアマネジャー、主治医などから継続の要望があることは珍しくありません。多職種共通の客観的指標がないことが、利用者・家族の要求が優先されることに繋がると考えています。なので、そうした状況が起こるときこそ、支援の必要性を再度アセスメントし、その結果を踏まえて対応することが、西宮市訪問看護センターの役割と考えています。 本当に困っている人にリソースを割くための終結=タスクシフト ─利用者さんが訪問看護を継続したほうが経営面で安定するという側面もあると思います。多くの壁がある中で、それでも終結していくためのしくみづくりを推進されてきた背景にある想いを教えてください。 できるだけ多くの方の要求に対応したほうが経営的には安定すると思いますが、大規模ステーションである西宮市訪問看護センターだからこそすべきことがあります。我々のリソースには限りがある上、新規の利用者さんは対応を急ぐ重症なケースが多い。だからこそ、我々は訪問看護を終結していくことで、次々にいただく新規の依頼を断らずに受け入れることができます。今日明日の急な依頼も、原則としてすべて対応します。 現状の制度においては、「適切にアセスメントし、適切な時期に終結する」ことができたとしても、なんのインセンティブもない状況です。しかし、西宮市訪問看護センターのような大規模ステーションだからこそ、やるべきことだと考えて対応してきました。今後はタスクシフトがますます重要となってくるはずであり、より多くの方々が必要なサービスをタイムリーに受けられるよう、制度がアップデートされることを望みます。 新型コロナウイルス感染症の在宅療養対応 ─コロナ禍では、西宮市内で最初に在宅療養の対応をされたと伺いました。語り切れないほど大変な状況があったと思いますが、当時のことを教えてください。 はい、当時は本当に大変でしたね。ヘルパー事業所が撤退したらどうするか、「原則入院」とされている陽性者が入院できなかった場合にどうするか、などの課題に次々と直面しました。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会で県内の訪問看護ステーションの状況を確認しつつ、自治体に要望書を提出。その後、迅速に在宅療養者対応体制が構築されました。 西宮市訪問看護センターでは2021年の1月に初めて陽性者の訪問看護を開始しましたが、当然ながら訪問に行きたいというスタッフはいません。管理職のみで6人のチームを組み、これが「事業団の役割」なのだという使命感をもって訪問しました。 スタッフのストレスマネジメントも課題でしたね。疲労や「感染するかもしれない」という不安はもちろんのこと、学童保育や保育所が休みになって休まざるを得ないスタッフが、「みんなが頑張っているのに休むのは申し訳ない」と泣き崩れたこともあり…。「泣かんでもいいから」と慰めたことを思い出します。 当初は情報が錯綜していたので、私はとにかく多くの時間を情報収集に費やし、取捨選択して整理して、情報共有アプリを通じて伝達していました。「スタッフみんなに心身ともに健康でいてほしい」というメッセージを出し続けたことや、電話や面談でこまめに話をする機会をつくったのが功を奏したのでしょうか。コロナ禍による退職はありませんでした。 反対を受けながらもいち早くICT化を推進 ─情報共有アプリのお話が出ましたが、山﨑さんは訪問看護でITC化が一般的でなかった時代から、いち早く電子カルテや情報共有アプリを導入されているかと思います。こちらも災害対策の意味合いが大きかったのでしょうか。 災害対策だけではないですね。電子カルテを導入したのは2016年のことで、これは新卒スタッフを採用することをきっかけに導入しました。スタッフは入職後2年で独り立ちするプログラムになっていますが、それ以前からオンコールを担当します。当時はまだ紙のカルテを当たり前に使っていたのですが、明らかに電子カルテのほうが効率的に情報を収集できるため、導入は必須だと考えました。 ─スタッフの皆さんの反応はいかがでしたか? これに限らず、新しいことをすると必ず反発がありますね。私は新しい試みばかりするから、みんな大変だったと思います(笑)。ただ、電子カルテはこれからの看護の世界に必ず必要だと思いましたし、利用すればいいケアに繋がると確信していました。そのことを説明しました。 介護保険制度ができて、本当に幅広い対応を求められるようになった一方で、訪問看護の人材は全国的に不足しています。この状況を解決しようとするなら、属人的なやり方では確実に限界がくるんです。アナログでは属人的になりがちで、問題の共有もしにくくなります。一人でケアすることが多い訪問看護は、そもそも属人的になりがちなサービスですから、チーム制やICT化を行うことで、スムーズな情報共有を行っていく必要があると思います。 ─コロナ禍で情報共有アプリを活用されたというお話がありましたが、改めてメリットや課題、気を付けるべきポイントを教えてください。 多職種連携用のものも含めて複数のツールを使っていますので、それぞれの導入理由や使い方をスタッフに明示した上で使用を開始しました。また、情報共有アプリにも複数あるので、選定する際には自分たちのポリシーや希望する使い方にマッチするものを選んでいます。いつでもどこでも見ることができるので、効率的なコミュニケーションや情報共有に役立っています。 ただ、「どこでも見られる」のは良し悪しですね。休みの日でも情報共有アプリをチェックしてしまうスタッフがいて、オンオフの切り替えができない様子が見受けられた際は、「休みのときは見ないで」と改めて指示しました。 あとは、情報の取捨選択が課題ですね。仕事に限らず現代は情報にあふれているので、自ら取捨選択する情報リテラシーが非常に重要です。本当は、私としては基本的に情報をスタッフみんなにオープンにしたかったのですが、人数や案件が多いこともあって「情報を探せない」「通知を追いきれない」といった声が出たので、情報共有アプリ内のプロジェクトごとに参加メンバーを設定する対応をとりました。 看護師は情報の取り扱いを得意とする人がまだまだ少なく、兵庫県の訪問看護ステーション協議会の会員でも個人のメールよりFAXのほうが使いやすい、という声が多いです。ステーションを超えた情報共有を行っていくためにも、もっと訪問看護ステーションのICT化が進んでいくといいなと思います。 ―ありがとうございました。次回は、大規模組織の人材マネジメントについて伺います。 >>次回の記事はこちら大規模事業所の人材マネジメント~次世代に繫ぐために~ ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定
2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定
特集
2024年5月21日
2024年5月21日

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定

2024年度介護報酬改定では、多くのサービスにまたがる義務化措置や加算の見直しが行われています。また、報酬の適正化という観点からの改定も行われました。今回は、そうしたテーマについて取り上げます。 BCPが未策定の場合の減算規定 まずは、2021年度に基準上の規定が設けられ、3年の経過措置をもって完全義務化された業務継続計画(以下、BCP)策定等の取り組みと高齢者虐待防止の推進です。いずれも2024年度からの完全義務化に伴い、未実施の場合の減算規定も設けられました。 1つめのBCP策定に関する完全義務化の内容を整理すると以下のようになります。 1. 感染症および自然災害の発生時を想定したBCPの策定2. 1に従い必要な措置(備蓄品の管理や担当者の使命など)を講ずること3. 従事者に対して、1にかかる研修を実施すること※4. 従事者に対して、1にかかる訓練(シミュレーション)を実施すること※ ※3および4に関しては、訪問看護の場合で年1回以上 上記のうち、1、2が未実施の場合の減算が設けられました。これを「業務継続計画未策定減算」といい、未策定の状況が解消されるまで所定単位数から1%が減算されます(施設・居住系については3%)。感染症および自然災害のBCP、いずれか1つでも未策定の場合で減算適用となるので注意しましょう。ただし、訪問看護を含む訪問系サービスについては、感染症対策の強化に関する義務化から日が浅いため減算規定の適用は2025年3月末まで猶予されます。 なお、減算になる期間は「1、2を満たさない状況が発生した翌月(状況の発生が月の初日であればその月)」からスタートし、「1、2を満たさない状況が解消された月」までです。 高齢者虐待防止措置の未実施も減算 高齢者虐待防止の推進において、2024年度から完全義務化となる項目は以下のとおりです。 1. 虐待の防止のための対策を検討する委員会(オンライン開催可能)を定期的に開催すること2. 1の結果について、従事者に周知徹底を図ること3. 虐待の防止のための指針を整備すること4. 従事者に対し、虐待の防止のための研修を年1回以上実施すること5. 1~4の措置を適切に実施するための担当者を置くこと この1~5のいずれかでも実施されていない状況が生じた場合、速やかに都道府県*1に「改善計画」を提出しなければなりません。その上で、「改善計画」に則った取り組みを行い、「実施されていない状況」が生じて*2から3ヵ月後に、改善状況をやはり都道府県に報告して「改善」が認められることが必要です。 上記の「実施されていない状況が生じた月の翌月」から「最終的に都道府県に改善が認められた月」までの間は、減算が適用されます。これを「高齢者虐待防止措置未実施減算」といい、月あたり所定単位数から1%の減算が行われます。 *1 看護小規模多機能型居宅介護の場合、市町村(指定権者)に改善計画を提出する。 *2 運営指導等で未実施が発見された場合、その発見月の翌月からとなる。 身体的拘束等の適正化が運営基準に 先の高齢者虐待防止の取り組みは、利用者の尊厳確保に関して不可欠なテーマです。同様のテーマから定められた規定がもう1つあります。それが「身体的拘束等の適正化」です。診療報酬改定でも規定されていますが、改めて取り上げましょう。 >>診療報酬改定の「身体的拘束等の適正化」についてはこちら2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化 具体的には、以下の規定が運営基準に設けられました。 1. 利用者または他の利用者等の生命・身体を保護するための「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下、身体的拘束)を行ってはならない。2. 身体的拘束等を行う場合には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況ならびに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。 いずれも施設系、居住系、短期入所系、小規模多機能系ではすでに設けられている規定ですが、2024年度からは訪問系や通所系、居宅介護支援でも定められました。 1の規定にある「緊急やむを得ない場合」とは、 切迫性(利用者等の生命・身体への危険が切迫していること)非代替性(他に方法がないこと)一時性(一時的であること) の3つの要件を満たすことです。各要件の確認については、組織としての手続きを慎重に踏む必要があります。現場の一従事者の判断だけに任せてはいけません。 特別地域加算等の地域の範囲見直し 訪問系、通所系、小規模多機能系など複数のサービスにまたがる加算上の見直しとしては、特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算、中山間地域に居住する者へのサービス提供加算があります。いずれも、訪問時の移動に過剰な時間が費やされがちな地域で、その人件費・燃料費等のコストを考慮した加算です。 具体的な対象地域を示します。 いずれの対象地域にも含まれている「過疎地域」。この場合の「過疎地域」とは、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」の第2条第1項に規定された地域です。一方で、同法では「みなし過疎地域」に関する公示もあり、今改定ではこの「みなし」とされていた地域も含めることになりました。 PT等による訪問にかかる厳しい減算 最後に、利用者ニーズに合わせた訪問看護の適切な提供を図るための改定を取り上げます。具体的には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(以下、PT等)によるサービス提供への評価です。 近年、訪問看護ステーションにおけるPT等の従事者割合が増えており、PT等の訪問による単位数も増加傾向にあります。 こうした状況を受け、リハビリ系サービスとの役割分担の観点から、2021年度改定ではPT等による訪問での基本報酬が引き下げられました。それでも、例えばPT等による訪問回数が看護職員による訪問を上回っているといったケースも指摘されていました。 そこで、2024年度からは、PT等による訪問についての減算も設けられました。減算の対象はPT等による訪問で、要件は以下のとおりです。 1. 事業所における前年度(前年4月から当該年3月まで)のPT等による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えていること2. 1に適合しない場合であっても、前6ヵ月間において、緊急時訪問看護加算、特別管理加算、看護体制強化加算をいずれも算定していないこと【上記を満たす場合】1回につき8単位を所定単位数から減算(なお、1について、2023年度の実績に応じ、2024年度は同年6月1日から2025年3月末までの減算となる) 上記は介護予防訪問看護でも同様です。 なお、2021年度改定では、介護予防訪問看護の適正化の観点からサービス提供が12ヵ月超の場合に5単位の減算が適用されています。このケースについて、上記のPT等による過大訪問の減算が適用されている場合、減算幅は「5単位」⇒「15単位」となります。かなり厳しい減算となる点に注意が必要です。 次回は、トリプル改定のうちの障害福祉サービスの中から、訪問看護に関係のある内容を取り上げます。>>次回の記事はこちら2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など ※本記事は、2024年4月23日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/4/23閲覧○厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230308.pdf 2024/4/23閲覧

【学会レポート】第13回日本在宅看護学会学術集会
【学会レポート】第13回日本在宅看護学会学術集会
特集
2024年3月26日
2024年3月26日

【学会レポート】第13回日本在宅看護学会学術集会 「在宅看護、すぐそばに在る」

2023年11月18・19日と2日間にわたり、クロス・ウェーブ船橋(千葉県船橋市)にて「第13回日本在宅看護学会学術集会」が対面・オンラインのハイブリットで開催されました。学術集会長は、東京医療保健大学教授・清水準一氏。学術集会テーマは「在宅看護、すぐそばに在る」です。聴講したNsPace(ナースペース)編集部が学会の模様をレポートします。 テーマは在宅看護へのアクセシビリティ 学会冒頭の学術集会長講演の中で清水氏が訴えたのは、在宅看護へのアクセシビリティの重要性。いまだに在宅看護にアクセスできない方は多く、地理情報システム(GIS)活用の有効性や、地理的関係を考慮した需要の分析・把握していく必要性、若い世代が離脱せず、シニア世代がアクティブに働ける環境づくりの重要性などが語られました。 シンポジウム・教育講演報告 数多くの演目がありましたが、シンポジウム(公開討論会)と教育講演について、編集部がピックアップしてレポートします。 『在宅看護専門看護師の誕生、役割の充実から今後の展望を考える』 座長:鹿内あずさ氏、長内さゆり氏 シンポジスト:河原加代子氏、長内さゆり氏、岩本大希氏 高齢者の医療・介護の需要が増大し、在宅看護への社会的ニーズが高まる中、2012年に誕生した在宅看護専門看護師の役割が重要になってきています。在宅看護専門看護師に求められる6つの役割は「実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究」とのこと。これに加え、地域住民や関連業界から信頼を得るためのPR(Public Relations)や、「最期まで安心して暮らせるまちづくり」への取り組みの必要性にも言及されました。地域共生社会の段階で住民同士が気にかけ合う関係性づくりや、その仕掛けをつくることも期待されており、在宅看護専門看護師は今後の社会において不可欠な存在であると感じました。(編集部I) 『看護師として「遊ぶように働く」ための業務効率化とテクノロジー活用』 座長:吉江悟氏 シンポジスト:藤野泰平氏、宮武晋治氏、大田章子氏 少子高齢化社会において訪問看護のニーズが増加する一方、その担い手が減少していることの解決策を追求すべく、業務効率化、テクノロジー化の必要性について議論されました。効率化が現実となれば、ケアを届けること、磨くことに時間をかけられます。また、アウトソーシングの需要が高まり、外部のリソースやノウハウを活用する動きについても注目。生成AIの活用事例が挙げられ、テクノロジーを活用しながら「遊ぶように働く」ことが、担い手の負担軽減につながる可能性があるのだと学ぶことができました。(編集部I) 『離島・過疎地域におけるICTを利用した遠隔死亡診断と看護』 講師:尾崎章子氏、座長:吉原由美子氏 医療にアクセスしづらい地域における遠隔死亡診断に関する教育講演でした。講演内では、「最期は島の土にかえりたい」と希望する島民は少なくないということ。しかし、本土の病院に移って最期を迎える方が多く、その願いは叶えられにくい現状にあることが共有されました。離島では、円滑に死亡診断書を交付できないことが理由で、火葬できなくなるおそれもあるとのこと。このような状況を踏まえて策定されたのが「ICTを利用した死亡診断書等ガイドライン」。このガイドラインを正しく運用するためには、医師の死亡診断をサポートする看護師が制度について正しく理解することが重要とのことでした。(編集部I) 交流集会報告 続いて、交流集会についてもピックアップしてご紹介します。 『難病療養者の災害の備えについて 防災用品を実際に体験してみよう!』 企画:今福恵子氏 ほか 本集会では、災害への備えに関する調査結果や実践内容の共有、防災用品の体験等が行われました。災害対策用のマニュアル作りや訓練が重要であること。そして、日々利用者のアセスメントを行う看護師は、災害時に状況を推測して適切な対応を行う能力を持つ重要な存在であることが示唆されました。防災グッズの体験については、「意外に力がいる」「大きな音がする」など、試さなければわからない気づきが多くありました。参加者の方々も、自身の事業所の災害対策に活かそうと熱心に体験する様子がみられました。(編集部N) 『BCP―作った?使った?よかった?』 企画:日本在宅看護学会 業務委員会 BCPを策定した日本在宅看護学会 業務委員会の方々より、各事業所のシミュレーションや訓練の実例が発表されました。備蓄の量やそれにかかる経費など、具体的な話に踏み込んで情報共有されました。災害を経験された方からは、「持ち運び可能なマニュアル」が必要というお話も。こうした場で知見が共有されることで、災害時の状況や対応を具体的に想定でき、「自分事」として捉えやすくなる貴重な場だと感じました。(編集部N) 『訪問看護事業所におけるBCP(事業継続計画)とBCM(事業継続マネジメント)』 企画:石田千絵氏 ほか NsPaceの記事([1]そもそもBCPって何だろう?)でご執筆いただいた石田千絵氏をはじめ、訪問看護BCP研究会によるBCP・BCM策定に関するノウハウが発表されました。BCPのみならず、BCMも作る必要があること、具体的なフォーマットや地理情報システムの使い方などにも言及。2024年4月の義務化に向けての実践的な解説がありました。今後特に注目すべき課題であることもあり、参加者の方々は熱心に聞き入っていました。(編集部F) 『新卒訪問看護師を「活かし・育てる」人材育成を考える』 企画:岡田理沙氏 ほか 訪問看護師の人材育成の研究をされている中村順子氏による講演や、参加者との意見交換などが行われました。課題が多いと言われている新卒訪問看護師の人材育成。「教育」を意識するよりも「面白さを分かち合える仲間になる」という気持ちを強く持つことで、結果的によい人材育成に繋がるという示唆がありました。参加者の新卒訪問看護師さんからは、「次は自分が先輩として寄り添いたい」という声も聞かれました。(編集部F) 参加者・受賞者・学術集会長のコメント 学会の参加者、主催者等のコメントもご紹介します。 情報交換会 参加者の声 1日目の終わりに行われた「情報交換会」では、登壇者や聴講していた訪問看護師・企業など、多様な方々によって情報交換が行われました。参加者の中には、訪問看護ステーションの立ち上げを考えている若手看護師も。「登壇者や参加者には若い訪問看護ステーション管理者の方もいて、勇気づけられました。情報交換会も有意義で、2日目にも情報交換会がほしいくらいですね」との感想コメントをいただきました。 学術集会賞 受賞者コメント 閉会式では、一般演題(口演・示説)からの表彰も行われました。「学術集会長賞」を受賞したのは、野口麻衣子(東京医科歯科大学)氏、山花令子氏、砂田純子氏の「専門性の高い看護職による訪問看護師への遠隔相談の試行と実用可能性の検討」でした。野口氏のコメントをご紹介します。 学術集会長賞をいただき、本当に嬉しく思っています。専門性の高い看護職による訪問看護師への遠隔相談、その思考と実用可能性の検討について発表し、その後も耳を傾けてくださった皆さまとお話する機会を持つことができました。遠隔相談の試行時には皮膚・排泄ケア認定看護師さんとがん看護専門看護師さんにご協力いただいたのですが、ニーズが多い精神科・小児科などでの実施や自治体とのコラボレーションについての示唆もいただきました。この領域への「期待」として受け取っています。 学術集会長コメント 最後に、学術集会長・清水準一氏(東京医療保健大学)のコメントをご紹介します。 学会に集まった皆さまは、現場においてさまざまな悩みを抱えているかと思います。今回の学会を通じて、共感することや、新たなアイデアを得ることがあったはず。それこそ学会の原点となるものです。研究と研究を戦わせ、自分のやり方を洗練させていくという流れこそ、ひとつの大きな醍醐味といえるのではないでしょうか。そして、若い方々の新しい発想・取り組みが多いことに感激しました。コロナ禍での停滞を乗り超え、今後大きく発展していくという期待を持ちました。 また、コーディネーターとして秋山正子さんをお招きし、故 村上紀美子さんの追悼ができたことも、研究とは異なる意味合いで印象的でした。ひとつの場所に集まることで、想いを共有できることを実感しました。 * * * 本学会では、多くの方々が集まって積極的に議論を交わし、在宅看護の課題に向き合う場となっていました。最新の実践状況や取り組みも共有し、新たな気づきを得た方も多かったようです。2024年の第14回日本在宅看護学会学術集会のテーマは「可能性がインフィニティ(∞)在宅看護」。次の学会にも注目していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:倉持 鎮子

災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待
災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待
インタビュー
2024年2月27日
2024年2月27日

災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待/福永興壱先生インタビュー

在宅酸素療法(HOT)や在宅人工呼吸療法(HMV)の黎明期にかかわってこられた慶應義塾大学 福永興壱先生。今回は、HOT患者さんやHMV患者さんにとって不安の大きい大震災をはじめとした災害発生時において訪問看護師さんに期待することについてうかがいます。 >>前編はこちら在宅呼吸管理の進歩で「自宅に帰りたい」を実現/福永興壱先生インタビュー 慶應義塾大学医学部 呼吸器内科 教授福永 興壱(ふくなが こういち)先生1994年に慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学大学病院研修医(内科学教室)、東京大学大学院生化学分子細胞生物学講座研究員、慶應義塾大学病院専修医(内科学教室)、独立行政法人国立病院機構南横浜病院医員、米国ハーバード大学医学部Brigham Women’s Hospital博士研究員、埼玉社会保険病院(現:埼玉メディカルセンター)内科医長、慶應義塾大学医学部呼吸器内科助教、専任講師、准教授を歴任。2019年6月に教授に就任し、2021年9月より同大学病院副病院長を兼任。2023年現在、日本で結成されたコロナ制圧タスクフォースの第二代研究統括責任者を務める。 東日本大震災発生時は患者さんの安否を確認 ―今年も新年早々、わが国では大きな震災に見舞われました。近年、毎年のように全国で自然災害が発生しています。在宅で酸素療法(HOT)や在宅人工呼吸療法(HMV)を受ける患者さんにとって災害は大きな不安要素ですが、例えば東日本大震災のとき、先生はどのような対応をされましたか。 患者さんにとってもっとも深刻なのは「停電」の問題です。HOTもHMVも電源の確保が必要不可欠です。電気の供給が止まってしまうと、生命に直結しますから。 東日本大震災が起こったときは、東北だけでなく、関東でも数時間にわたる停電が何度も起こりました。あのとき、当院では患者さん一人ひとりに電話をかけて、状況確認を行いました。当院の患者さんのすべてが在宅医療を受けているわけではないからです。特に心配だったのは、外来に月1回来られる患者さんたちのこと。電話をかけると、皆さん、すごく安心してくださいました。 また、物資面でも医療機器メーカーさんと連携して対応しました。当院の患者さんのリストを作成し、それをメーカーさんに渡したところ、酸素流量から必要な容量を計算して、患者さん一人ひとりに酸素ボンベを届けてくれたんです。心強かったですね。患者さんも、「メーカーの人が酸素ボンベを届けてくれるから」と伝えると安心されていました。 日ごろの病状把握が災害時のトリアージにつながる ―自然災害が発生したとき、在宅で療養されている患者さんに対して訪問看護師さんが果たせる役割や、日ごろから意識してかかわってほしいこと、期待することを教えてください。 先ほどお話しした患者さん一人ひとりへの電話での状況確認の際、月1回外来にいらっしゃる患者さんもその電話で安心してくださったのですが、訪問看護を利用している患者さんはより重症な方が多く、訪問看護師の皆さんはもっと密接に患者さんにかかわっていると思います。だからこそ、災害時に訪問看護師の皆さんとコンタクトをとれることが患者さんの安心感につながるはずです。災害時に迅速に患者さんとコンタクトをとる方法を日ごろから考えていただくことが重要なのかなと、あのときの経験で思いました。 また、HOTを受ける患者さんの状態にもレベルがあります。例えば、動かなければ何とかSpO₂ 90%以上を保てる方もいますよね。患者さんの病状が分かる訪問看護師さんであれば、コンタクトをとるときに「今はあまり動かないで静かにしていましょう」と安静を促すことができます。一方、高流量の酸素療法を受けている患者さんであれば、酸素は命綱ですから、いち早く酸素ボンベを持って行かないといけません。 訪問看護師さんは、われわれ以上に患者さんの病状を把握していると思います。担当患者さんが多くても、日々の病状によってトリアージすることが可能になるのではないでしょうか。既に実施されている方も多いと思いますが、日ごろから病状を把握していることが「緊急時のトリアージにつながる」、そういう観点で普段から備えていただけると、患者さんも安心されるのではないかと思います。 COVID-19で感じた大学の一体感 ―2020年には新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界規模で流行しました。先生はCOVID-19に対する診療チームのリーダーをされていたとうかがっています。そのときのことも教えてください。 COVID-19のときは、慶應義塾大学全体で、それこそ臨床と研究が協働してCOVID-19に立ち向かいました。診療チームでは、呼吸器内科が先頭に立って、内科、外科、救急科、麻酔科など、さまざまな診療科が連携して患者さんに対応できる体制を整えていきました。 振り返ってもすばらしかったと思うのは、精神科の先生たちが「心のケアチーム」をつくってくれたことです。今でこそ「心のケア」は当たり前のように普及していますが、患者さんだけでなく、看護師をはじめとする医療従事者に対しても専門家がしっかりと心のケアにあたってくれました。 有用な医療情報に積極的にアプローチを ―最後に訪問看護師さんに向けてメッセージをお願いします。 結核病棟を持っていた国立病院で働いていたころ、そこで初めて在宅医療や訪問看護に触れ、地域医療の重要性を実感しました。現在のようなシステム化されていない時代の肺がん患者さんを、その病院の医師や地域の訪問看護師さんは非常にきめ細かくケアされていて、疼痛コントロールや酸素量の調整など、最期の看取りまでかかわっていらっしゃいました。そのときに初心にかえったというか、やはり医療は一気通貫なんだ、こうして成り立つのだと感動した覚えがあります。 在宅での看護は、病院のように整った環境で行う看護以上の大変さがあると思っています。在宅には患者さんの「生活」があります。そのため、訪問看護師さんは患者さんの生活を理解できないといけない、そう考えています。その一方で、在宅酸素療法の指導や援助もそうですが、近年、訪問看護で実施される医療処置の件数は年々増加しています。在宅での看護力が高まっている証だと思いますが、新たに学ぶことも増えてきているのではないでしょうか。生活を支えるケアだけでなく、高度な医療的ケアを実践するには最新の知識と技術が必要だと思います。 近年、デジタル化が急速に進み、手軽にアクセスできるWeb情報も増えています。さまざまなところで発信されている有用な医療情報に積極的にアプローチし、現場での問題解決に活用していただきたいと思います。学び続けることで自分の心の負担も減らせるでしょうし、レベルアップにも役立つ。それが結果的には患者さんのケアにつながっていくはずですから。取材・執筆・編集:株式会社照林社

地域住民の心身の健康のために【訪問看護認定看護師 活動記/東北ブロック】
地域住民の心身の健康のために【訪問看護認定看護師 活動記/東北ブロック】
コラム
2024年1月23日
2024年1月23日

地域住民の心身の健康のために【訪問看護認定看護師 活動記/東北ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 東北ブロック、戸崎 亜紀子さんのご登場です。訪問看護師になったきっかけや、東日本大震災のご経験、地域のニーズに向き合う活動、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の啓発活動などをご紹介いただきます。 執筆: 戸崎 亜紀子星総合病院 法人在宅事業部長/在宅ケア認定看護師総合病院で急性期看護を経験した後、育児・介護のため一時退職。クリニック勤務を経て星総合病院に入職し、精神科病棟を経験した後、訪問看護ステーションへ。訪問看護ステーション管理者、在宅事業部事務局長、法人看護部長を経て、現職。2009年~ ポラリス保健看護学院 非常勤講師(在宅看護論)2012年~2021年 福島県訪問看護連絡協議会 理事、副会長2015~2016年 福島県看護協会 施設・在宅看護師職能委員会2016年~ 郡山医師会 在宅医療介護連携推進特別委員会メンバー2021年~ 日本訪問看護認定看護師協議会 理事2022年~ 感染管理認定看護師教育課程開設準備 東北ならではの在宅看取り実践事例を紹介 まずは、訪問看護認定看護師協議会の東北ブロックについてご紹介します。東北ブロックの会員数は10名です(2024年1月現在)。少ない人数ですが、年に2回は仙台に集合して研修を行ってきました。近年はオンラインでのミーティングや研修もできるようになり、交通費や移動時間の心配がないぶん、より活動しやすくなっています。 2021年に、協議会では日本財団支援事業として全国 各ブロックで「在宅看取りを実践できる訪問看護師の育成事業」に取り組みました。東北ブロックの私たちもオンラインでの打ち合わせを重ね、研修当日は東北の訪問看護師86名に対して、東北ならではの実践事例を紹介。それを踏まえたディスカッションも行うことができました。これは、認定看護師として力が発揮できたと実感でき、自信になる取り組みでした。 ※参考日本訪問看護認定看護師協議会「2021年度日本財団支援事業(遺贈基金) 在宅看取りを実践できる訪問看護師の育成プロジェクト」 東北ブロック活動報告(PDF) ブロック活動では、悩みや境遇が近い認定看護師同士でディスカッションでき、刺激を受けることや励まされることが多くあります。今後もっと仲間が増えることを切に願っています。 「家に帰りたい」患者さんのために さて、ここからは私自身の経験や活動内容についてもお話ししていきたいと思います。 私が訪問看護を始めたきっかけは、当時ナースバンク(現福島県ナースセンター)からお知らせのあった「訪問看護婦養成講座」です。「ブランクの不安解消になるのでは」という安易な気持ちで参加したのですが、その講座で介護保険や訪問看護制度を知ったことが、私の転機になりました。 急性期病院で働いていたとき、「家に帰りたい」と言いながら病棟で息を引き取っていった終末期の患者さんたちを数多く看てきましたが、仕方のないことだと思っていました。それが「今の時代なら自宅に帰してあげられるんだ」と知り、衝撃を受けたのです。 「ぜひ訪問看護をしたい」と現在勤めている法人に就職し、病棟で精神科看護を経験したのち、訪問看護ステーションに異動となりました。精神科訪問看護や介護保険での高齢者の訪問、在宅看取りに携わりました。 3.11東日本大震災を経験。災害への想い 私が訪問看護認定看護師になったのは、訪問看護ステーションに勤めて4年目の2010年のこと。退院調整でがん性疼痛看護認定看護師と協働する機会があり、彼女に大きな刺激を受け、44歳で認定看護師になったのです。 学んだことを活かしてより深くアセスメントできるようになり、やりがいをもって活動していた矢先、2011年に東日本大震災と原子力発電所の事故が起きました。当地は津波こそない地域でしたが、震度6弱の揺れにより自宅が全壊判定となる被害を受け、余震と放射能の恐怖や先の見えない不安のなか、無我夢中で日々を送りました。 星総合病院 被災写真(2011年3月12日撮影)。スプリンクラーが作動し、二次被害も危惧されたため、300人以上の患者さんは全員避難。当日のうちに、法人の関連病院や地域の急性期病院に振り分けた そのような状況下で私が前を向くことができたのは、認定看護師教育課程の先生や同期の仲間、その他大勢の方々が心を寄せてくださったおかげです。そして、自分の看護を待っている方がいることも、大きな支えでした。突然病気や障害を抱えることになった患者さんの気持ちと、突然被災した自分を重ねることも度々ありました。被災者になってみて、看護のもつ力、例えばそばにいること、見通しに関する情報を提供すること、関心を寄せ続けることなどが大きな力になると実感し、この経験から数多くのことを学びました。 実は震災の2年前、「宮城県沖地震(1978年)が再来する確率80%以上」といわれていました。そのため、当時所属していた部署で阪神・淡路大震災や新潟県中越地震が起きた際の訪問看護ステーションの事例を読み合わせし、対策を検討する機会を持ちました。この会を通じて、電話がつながらなくなり安否確認に苦労した話や、波打った道路や崩れた塀などで夜間の訪問が危険になった話を知り、当時できることを検討して取り組みました。そのうちのいくつかは、東日本大震災の時に現実に。「念のため」と思って対策していたことが、まさかこれほど短期間のうちに役に立つとは、思いもよりませんでした。 近年は「想定外の災害」「命を守る行動を」といった言葉を、頻繁に耳にするようになりました。新型コロナウイルスのパンデミックも災害といえます。「大丈夫だろう」ではなく、「起きるかもしれない」と自分事として考えておくこと。そしてBCPを作成しておくこと。私はこれらの大切さを、身をもって実感しています。 今年度(2023年度)に日本訪問看護認定看護師協議会がBCP作成支援事業に取り組むことになり、私は担当理事になりました。BCP作成に対して億劫なイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、本当に役に立ちますし、必要なものです。参加した事業所のBCP作成をしっかりと支援すべく、委員一同本気で取り組んでいます。 地域のニーズに応え、幅広く活動 訪問看護ステーションに勤めている間に、所属する法人が「看護師特定行為研修機関」になり、私も研修を受講できました。地域で働く看護師こそ、これにより裁量権が増えて活躍できるのではと、心躍りました。 ※参考:公益社団法人 日本看護協会 「特定行為研修制度とは」 当時、当法人では「医療機関ではあるが、もっと地域のニーズを拾い、できることをしよう」と在宅事業部事務局を創設することになりました。そこに私が異動することになり、「法人の看護職がもっと地域のニーズに向き合い、看護の視野を広げ活躍できるように」という想いを抱きながら、法人在宅事業部事務局長に就任しました。総合病院に籍を置きながら、現在でも地域の方々と数多くの接点を持ち、「つながっていく」ための活動をしています。 「懸け橋メイトミーティング」 2019年、星ヶ丘福祉タウンでの懸け橋メイトミーティングの様子 市内地域の訪問看護ステーションや病院の退院調整担当者、そしてケアマネジャーを巻き込んで、多職種連携研修を行っており、「顔の見える」関係構築につながっています。 コロナ禍もオンラインやハイブリッド方式で継続し、年に3回程度実施しています。 「どこでもメディカルセミナー」 特別養護老人ホームにて演習付き講義を行った際の様子 地域の医療介護従事者に向けた出張型研修プログラム。地域との連携強化につながっています。申込者と職員とのマッチングをし、研修をコーディネートをしています。 「オレンジカフェ☆キラリ」 オレンジカフェにて人生会議に関する健康教室を開催した際の様子 認知症疾患医療センターと連携した認知症カフェの取り組みです。星総合病院の敷地内で、原則月に2回開催しています。 複数の専門職やボランティア、学生等が参加しており、健康体操、健康講座などのイベントをあわせて開催しています。 2019年のお花見ツアー企画 カフェ常連の認知症当事者の方と介護者・スタッフとで、お花見ツアーも行いました。 写真に写っている認知症当事者の方(右)の一言が発端で、お花見が実現しました。 コロナ禍で中断したものもありますが、これら以外にも精神科の患者さんやお子さんを対象としたイベントも含め、数多くの取り組みを行ってきました。 こうした活動を通して、地域住民の方がぽつりぽつりと健康相談・介護相談・認知症の相談をしてくださるようになりました。見知らぬ人同士が出会って、信頼関係ができ、いろんなつながりができる。訪問看護の経験が大きく活きる活動でした。 「あなたらしい生き方」を支えるために 最後に、私が注力してきたACP(アドバンス・ケア・プランニング)に関する活動もご紹介します。 これまで、たくさんの高齢者や終末期の利用者さん、そのご家族との出会いがありましたが、皆さんそれぞれに文化や思いがあります。こちらの常識で決めつけてはいけないということ、看護職が行う情報提供の必要性や、看護職だからこそできる情緒的なサポートの重要性、そして、看取り支援をするためには、ヘルパーやケアマネジャーと情報を共有し、チームで利用者さんとご家族を支えることがとても大切なのだと学びました。 患者さんや地域住民だけでなく、病院職員も含めたすべての人にACPの啓発活動をしていくべきとの思いから、2018年に法人内の事務職やセラピスト、医師も含めACPプロジェクトチームを創設しました。 ACPプロジェクトチームは少しずつ活動を広げ、今も法人各施設から多職種を委員として選出して定例会を実施しています。全職員向けの研修会、新入職員研修での「もしバナカードゲーム」を用いたACP啓発活動や、地域住民向けの出前講座なども行っています。2020年にはACP啓発ツール「未来への手紙」~ACPのすすめ~の作成と配布を開始しました。 参考: 公益財団法人 星総合病院 ACPプロジェクトチーム Webサイト(「未来の手紙」のダウンロードも可能) 2017年の職員向け「もしバナカードゲーム」体験会の様子 社会資源として、地域住民の健康を支える 色々と立場は変わってきましたが、私の活動の判断基準は常に「そのことが地域住民の心身の健康につながるか」です。 人生において「入院患者」としての期間はほんの一部分で、その前後は「生活者」です。私たちが提供する医療や看護は、その方のQOLを良くすることにつながらなければいけないと思っています。当法人は「病気を治療するだけでは人は健康に暮らすことができない。地域が必要とする救急医療・高度医療・専門医療並びに介護・福祉事業の提供をもって地域の公衆衛生の向上に資することを事業として行う」と掲げています。 認定看護師になったばかりの頃、所属法人の理事長から「あなたは社会資源となりなさい」という言葉をいただきました。今後も、自分の言葉、振舞い、活動が少しでも地域住民の健康に暮らすことの一助になるように、活動を続けていきたいと思います。 * * * 最後になりますが、この原稿の校正中に令和6年能登半島地震が発生しました。被災された方々に心からお見舞い申し上げます。当協議会ができる支援を考え続け、何らかの活動をしていきたいと考えています。少しでも安心と安寧の時間が増えていきますように。 ※本記事は、2024年1月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

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