経営者に関する記事

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

失敗から学ぶ出店戦略

全国で11事業所を展開するリカバリーインターナショナル株式会社ですが、拡大にはたくさんの失敗があったそうです。失敗から学んだ、出店に大切なこと、これから拠点拡大を考える経営者へのアドバイスを大河原さんに伺いました。 出店時の失敗 ―今となっては全国で11事業所展開されていますが、ここに至るまで何か失敗はありましたか? 大河原: 成功より失敗の方が多いです。例えば、事務所選びで失敗したことがあります。 開業時のスタッフは5人だったので、初めは家賃を安く済ませたいと思い、小さい部屋を借りました。しかし段々人が増えていくと、手狭になり少し遠くの大きい部屋に移転することになる。そうなると、そのタイミングでスタッフが辞めるリスクがあることに気が付きました。 今は初めから10人から15人くらい入れる事務所を選ぶようにしています。数年後も見据えた、最初の事業所選びがすごく重要なポイントです。 ―確かにそれは、やってしまいそうな失敗です。 大河原: 地方出店の際に失敗したこともあります。 以前、従業員の出店希望地を優先的に出店していたため今後10年人が少なくなる場所で今勝負している拠点も残念ながらいくつかあります。 そういったところをどう効率化するか、従業員数の制御などを今設計しています。また出店時に訪問エリアと移動手段を十分考慮していなかったため、採用した方が車の免許を持っておらず計画通りに訪問できないこともありました。 今では看護師としての目線で「患者さんが困っているからやる」では健全な経営はできないと考え、データや数字を大切にしています。 ―出店にあたり調査はどのような形でされていますか? 大河原: 現状で言いますと、高齢者数、競合看護ステーション数、居宅がどのぐらいあるかというような関連データを独自で調べています。10年後にそのマーケットがしっかり伸びるかというところも考慮しながら、出店場所を決めています。 ―従業員の出店希望地を出店していたということですが、フランチャイズのような形ですか? 大河原: スタッフの地元での訪問看護の開設をのれん分けのような形で支援しています。 例えば高知の事業所はこの方法で開設された事業所です。当社のスタッフで高知出身の人間がいて、Uターンしてそこでやりたいと話があったので、開設を支援しました。 のれん分けは、フランチャイズとは少し違います。事業所のスタッフは当社の社員として雇用し、当社の規定や規則に則って働いてもらっています。ただ、「どういう事業所にしたいか」というところは当社の理念とリンクさせた上で、ある程度自由度を持って運営してもらっています。非常に始めやすく、リカバリーの一員として一生懸命やってくれるところがメリットだと思います。 デメリットとしては、Uターンした管理者はリスクなく始められ、出資してもらうわけでもないので、いつでも辞められるというところです。 あとはノウハウをすべて提供してしまうので、それをそのままスライドして独立されてしまったことが何回かあり、悔しい思いをしたこともありました。 ―対策は何をされているのですか? 大河原: 当社の先ほど申し上げたようにICT化を進めていますので、本社機能と事業所の機能ある程度分けています。ICT化が進んだ今であれば、もしそのままスライドして独立したとしても正直、本社がないと仕事が成り立たないと思います。 逆に言えば、本社の機能があるから働きやすい、本社の機能があるからリカバリーで働きたいと思ってもらえるようにこれからも頑張っていきたいと思います。 出店で大切にしている3つのこと 理念を共有すること 大河原: 管理者の人間はもちろん、スタッフ全員が理念を共有することが重要です。なぜなら、ご利用者の目線でやるというところがずれ、自分の看護師目線でやりたいと言う方が1人でもいると事業所は一気に崩壊してしまうからです。 理念を共有するためには入社時の私からの説明だけでは不十分で、理念に基づいてどんな行動したかを朝礼で日々共有し、業務の中で常に意識付けながらやっていくのが大切だと思います。 2番手のリーダーを置くこと 大河原: この業界はどうしても管理者に業務負荷が集中してしまう傾向がありますが、2番手のリーダーを置くことで管理者のサポートをすることができます。また2番手のリーダーの人材育成という意味合いも持っており、事業所をみんなで運営しているという意識も育まれます。 連携できる居宅を3つ以上抱えること 大河原: 訪問看護は最初にご利用者さんを掴むというところが大変なので、居宅の方に私たちのファンになってもらい連携を強めることが必要です。私たちの熱烈なファンになってもらうためには、こちらもファンになっていかなければいけません。そのためにケアマネージャーさんや居宅のことをよく知ることが大切だと思います。 出店を考える経営者にアドバイス 大河原: 私自身1店舗のみ経営する際は自分が全部把握できると思っていたし、それでステーション運営もうまく行っていました。 ただ、そのままの気持ちで2店舗目を始めると、全部は自分で見られないから自分の思いばかりをスタッフに押し付けることになり、スタッフの心が離れて必ず失敗します。 なので、2店舗目を始める時は全部自分でやろうとせず、いかに自分と同じ想いの人を立てるか、2番手を育てるかということが大切だと思います。そこに付随してICT化や管理や事務の本社一括化をすることで、より効率的な経営ができると思います。 リカバリーインターナショナル株式会社 代表取締役社長 / 看護師 大河原峻 大学在学中に海外にホームステイしたことをきっかけに、海外で働くことに興味を持つ。卒業後、手術室勤務を経てオーストラリアで働くが現実と理想のギャップに、看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。2020年12月現在、設立7年で11事業所を運営している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。    

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

一括管理のメリットとデメリット

事務作業は常駐の事務員や管理者が行うことが多い訪問看護ですが、リカバリーインターナショナル株式会社はなんと受電まで本社で一括して行っています。 管理を一括化したことで、危惧したデメリットと意外なメリットを大河原さんに伺いました。 本社一括化 ―先ほど平均残業時間が10時間未満と伺いましたが、創業当初から効率化できていたのでしょうか? 大河原: 創業当初は皆さんも同じだとは思いますが、すべての事務作業を自分たちでやっていました。勤怠の管理、給与計算などを私が寝ずにやっていたというのが実際のところです。なので、創業当時のことを思うと今とは真逆です。 その当時はとにかく全部自分たちでやるのが正しいやり方だと思っていました。でも今は、それは数人だったからこそできた、本来は間違ったやり方だったと思います。 現在は、カルテ作成からレセプト、保険情報の管理、シフト作成など基本的に本社ですべて一括化してやっています。作業を本社一括化する際に一番嫌がられたのが、本社で電話を受けるということです。 ―事務作業を一括化するステーションは多いですが、電話まではほとんど聞いたことがありません。 大河原: はい。実際、各地方の方言でないとニュアンスが伝わらないから、東京の人が電話に出たら嫌がるだろう、というのが皆の意見でした。 そこで最初の数年間は各拠点で受電していましたが、今は本社で一括しています。それでも危惧していたようなクレームやデメリットはなく、逆にメリットが二つありました。 一つは「すぐ電話を取りたいのに、訪問中だから取れない」と精神的な負担が解消されたこと。 もう一つが、問題の早期に発見と対策の共有ができるようになったことです。 以前だと各拠点に来たクレームや起きた問題が本社に伝わりづらく、正直言うと隠されてしまうような状況がありましたが、本社で電話を取るようになったことで見える化できるようになりました。また本社が問題を把握し、対策を打ってくれるという信頼感ができたことで毎月出してもらっていたインシデントレポートが倍以上になりました。 3ヶ月に1回、全拠点でインシデントレポートの協議会のようなものをやっているんですが、その中の意見として「事前に他ステーションのインシデントレポートを聞いたから問題を防げた」という声も非常に多くなりました。各拠点でお互い教え合おうという意識になったのですごく良かったと思います。 訪問件数の管理 ―訪問件数の管理なども、本社で一括化されているのでしょうか。 大河原: 売り上げ管理については本社で「誰がどのくらい訪問に行ったか」をグラフ化して、毎週管理しています。そこで目標と比較して売り上げが足りない場合は、本社の方から原因調査や具体的な対策の指示をします。 ただし、関与しすぎるとスタッフのモチベーションが下がってしまうので、このバランスが難しいんですが、やはり何もしないというのが一番、悪の根源になると私は思っています。 訪問の目標については、件数ベースだと訪問時間によって労力に差が出てしまうため、今は稼働率というものを使っています。稼働率とは訪問時間を勤務時間で除した割合で目標は60%です。 ―稼働率と言うのは? 大河原: 例えば勤務時間が8時間だった場合、60%というのは5時間、つまり300分です。一日60分を5件で合計300分訪問というベースを目標として実績を見える化し、スタッフ全員が同じくらいの訪問に行くように調整するしくみを作り運営しています。 ―営業も同様の方法ですか? 大河原: 営業は本社から各拠点に指示を出して、その拠点の看護師に周辺施設へ営業に行ってもらっています。 ただし、この「営業」という考え方に看護師さん自身に納得してもらい、動いてもらうことが非常に難しいです。最初はスタッフから「営業するために訪問看護をしているわけではない」「営業は自分たちがやるべき仕事ではない」という声がものすごくありました。 ―どのようにして、看護師さんたちに営業に行ってもらえるようになったのでしょうか? 大河原: 一緒に営業に行き、ともに「営業はステーションを運営していく上で役に立っている」という意識が生まれると、段々と営業の必要性を理解してくれるようになりました。看護師に営業に行ってもらうようになるには「一緒にやること」「時間をかけて丁寧に説明すること」が非常に重要だと思っています。また、営業に行ってもらう際は「顧客事業所の一覧」や「誰がいつ行ったのか」「いままで何回行っているか」「どんな話をしたのか」「何をしていたのか」を細かく記載してもらうことで、見える化を図っています。 看護師は基本真面目なので、表があったら全部埋めてくれます。こういった表で自分たちの努力が見える化されることがモチベーションにもつながっており、これをたくさん書いたから頑張ったと感じる人もいます。 気持ちを理解して、皆で楽しくやれるしくみを作ることが大切だと感じます。 リカバリーインターナショナル株式会社 代表取締役社長 / 看護師 大河原峻 大学在学中に海外にホームステイしたことをきっかけに、海外で働くことに興味を持つ。卒業後、手術室勤務を経てオーストラリアで働くが現実と理想のギャップに、看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。2020年12月現在、設立7年で11事業所を運営している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。    

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

牛丼チェーンを見習って、訪問看護をメジャーに!

記録作成や事務作業で残業時間が長くなりがちな訪問看護業界の中で、リカバリーインターナショナル株式会社は、ICT化により平均残業時間は10時間未満を達成しています。 チャレンジを続ける大河原さんに、業界を変える取り組みについて伺いました。 働きやすさへのチャレンジ ―お話をうかがって、大河原さんは「より良くしたい」という気持ちが強い方だと感じました。具体的に今、チャレンジしている取り組みなどはありますか? 大河原: 訪問看護業界をもっと働きやすい業界にするために、リカバリーとして取り組んでいることが四つあります。 残業を減らす取り組み 大河原: 私は無駄な時間が非常に多いのが、訪問看護の課題だと感じていました。そこで、ICTを活用した業務効率化に取り組んでいます。スマホでのスケジュール管理、業務管理のアプリ利用などした結果、現在は平均残業時間が10時間未満となりました。 1分単位の残業代支給 大河原: これはIPOを視野に入れた取り組みでもありますが、私自身が病院で思っていた「頑張った分、評価して欲しい」「しっかり対価として報酬もらいたい」という気持ちを少しでも体現化したいと思って作った制度です。 時間有給の制度 大河原: この制度は特に好評で、お子さんがいらっしゃる方や勉強したい方、定期的に通院が必要な方などが1時間単位で利用しています。また訪問看護だけでなくもっと広く外部のことを知りたい、という方がデイサービスや病院で週に1回兼業するということも可能にしています。 電動自転車通勤の制度   大河原: 訪問の際に使ってもらっている電動自転車を、通勤で使うのも許可しています。そのため、通勤も含めてすべて自転車保険に入っています。車はもちろん保険に入っていますが、自転車保険まで入っているステーションは少ないのではないかと思います。 ―平均残業時間が10時間未満というのは驚きですが、ICT化にあたりスタッフの皆さんの反応はいかがでしたか? 大河原: 初めは「なぜ紙で書かないのか」「緊急のものは全部ファイリングした方が良い」「こんな電子カルテの情報では分からない」という反対の声が非常に多くありました。 しかし、私自身がICTを利用して「緊急で訪問した際にこうしたらうまく行った」「ICTを利用しておかげでこういうことができて現場で助かった」ということを常に声を大にして言い続けたことで、徐々にスタッフの理解を得ることに繋がりました。 ICT化を始めてから7年が経ちましたが、今は皆ICTがないと仕事できないという状態になっています。またICT化は利用者さんにも大きなメリットがあると感じます。 当社は24時間365日対応のステーションですが、利用者さんから夜間緊急で電話が来た際に「看護師が電話に出て話して安心して終わり」ではなく、ICT化された電子カルテがあるからこそ「きちんと電子カルテを見て素早く駆けつけること」が可能になっています。 当社は夜間の緊急時タクシー利用もOKとしているので、看護師さんがタクシーの中でカルテを見ながら訪問先へ向かうことができます。 こんなやり方もあるというということを、知ってもらえると嬉しいです。 チャレンジしてみたいこと 大河原: 訪問看護業界に現在約4万人しか看護師が従事していない中、2025年に向けて10万人以上必要となると言われているので、業界全体で協力しなくてはいけないと思っています。 一番分かりやすい例として、僕は牛丼の話を教えてもらいました。牛丼はもともとメジャーな食べ物ではありませんでしたが、松屋さんや吉野屋さんなど色んな牛丼チェーンが出てきたおかげで皆牛丼が好きになり、結果として牛丼業界全体が儲かったそうです。 訪問看護は、まだ看護師も一般の方々もあまり知らない業界だと思います。「どうしたらしっかり運営できるか」「どうしたらうまく行くか」を、皆に知ってもらい適正な経営ができるステーションが増えればもっと良い業界になっていくと思います。 正直まだスタッフが約100人の会社で大きな成功と言えないと思っていますが、私なりの成功モデルを提示して、皆さんにも認めてもらえるような会社を作っていきたいと考えています。それが当社のIPOを目指している1つの理由でもあります。 ―直近の目標がIPOということですが、もっと先の目標も伺えますか? 大河原: 当社がリカバリーインターナショナルという会社名をつけているのも、私自身が海外で、在宅の大切さや海外の人たちの気持ちの力を知ったためです。なので、いずれは「外国人の看護師さんを採用する」「海外で訪問看護の提供する」これが私の最大の夢、目標です。 コロナウイルスは本当に全世界に大きな影響を及ぼしていますが、今だからこそ私たちがいままでやってきたことを全世界に発信していきたいと思っています。 新型コロナウイルス対応 大河原: 当社では「こういった時期だからこそ、訪問看護に行こう」と言っています。それは利用者さんが家で一人、病を抱えたまま悩んでいる状況が非常に心苦しいからです。 おそらく「利用者さんが発熱している場合は訪問を見送る」というステーションもあると思いますが、実際行けば「肺炎だった」「脱水だった」、あるいは「熱中症だった」ということがあります。 こういう時期だからこそ訪問看護の大切さを伝えていくことで、スタッフ自身に「自分が看護に行くことに意味があるんだ」と思ってもらうことが必要ですし、利用者さん自身も「相談していいんだ」と思う、そういう環境を作ることが大切だと思います。 経営的な面でお話すると、先日の訪問看護財団の発表でもあったように多くのステーションさんで収益が下がっている中、当社は実は20%ぐらい利用者さんが増えている状況です。 コロナ禍では、ケアマネジャーさんは対面で営業に来られるのを嫌がります。その気持ちはよく理解できるので、営業に行かないという選択肢ではなく、電話でケアマネジャーさんの不安に寄り添いコミュニケーションをすることを大切にしました。 具体的にはすでに連携しているケアマネジャーさんには、ご利用者の状態を丁寧に説明したり、まだ連携していないケアマネジャーさんには、プランを作る上で困っていることはないかなど相談にのったりしています。 この状況で「どう訪問看護ステーションを運営していけばよいかわからない」という声を非常に多く聞きます。当社では現在訪問看護事業としての感染予防対策を誰にでもわかりやすい形でマニュアル化しています。 今後はこの社内で作っているマニュアルも外部に公開して、訪問看護業界全体に少しでも貢献できればと考えています。 リカバリーインターナショナル株式会社 代表取締役社長 / 看護師 大河原峻 大学在学中に海外にホームステイしたことをきっかけに、海外で働くことに興味を持つ。卒業後、手術室勤務を経てオーストラリアで働くが現実と理想のギャップに、看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。2020年12月現在、設立7年で11事業所を運営している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。     新型コロナ感染症対策についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

「初めてだから」の教育

リカバリーインターナショナル株式会社では、入社時に訪問看護未経験者の方が9割以上で、平均年齢33.4歳です。 若くて活気のある会社で、一番大切にしているのは「安心して働いでもらうこと」と語る大河原さんに、ステーション設立への想いと教育制度について伺いました。 初めての看護の教育 大河原: 訪問看護ではどうしても即戦力が求められるため、入社後のフォローアップが難しい状況はあります。ただ私としては、看護師が安心して働けることが何より大切だと考えています。 安心してもらうために、入社時のオリエンテーションでは私たちの想いを知ってもらい、同じ想いを持って仕事をしてもらえるように、必ず私から当社の軌跡の話をしています。 ―会社の軌跡とは、どんなお話をされるんですか? 大河原: 私が訪問看護ステーションを始めた経緯などをお話しています。 新卒から8年間、公立や私立の病院で働く中で、専門職として「一生懸命勉強して自己研鑽している人」と「そうではない人」の評価が変わらない画一的な日本の人事評価システムに疑問を感じるようなっていました。 一方海外では、スペシャリストとしての看護師の努力が評価されていると聞いていたので、海外で働きたいと強く思うようになったんです。 ―海外志向が強かったんですね。 大河原: はい。その頃、たまたま看護師としてオーストラリアに行くチャンスを得て現地で、働くことになりました。しかしそこで憧れていた海外での働き方が、自分自身の想像と違うことに、すごくショックを受けました。 ―どのように違ったのでしょうか? 大河原: オーストラリアでの看護師の仕事はマネージメントや研究がメインで、現場の仕事はほぼできないことがわかったんです。 ショックのあまり「もう看護師を辞めようか・・・」とまで思い詰めたのですが、このままではダメだ!とにかく元気になろう!とフィリピンに行くことにしました。 その旅行中、たまたま現地のご家庭を訪問するボランティアを募集していました。参加してみると、伺ったお宅でご家族が寝たきりの高齢者の面倒を見ている場面に遭遇しました。 私が「施設には行かないの?」「他にお願いできる人はいないの?」と聞くと、ご家族は「私たちは家族だから、最後まで協力して家で看るんだ」と教えてくれました。この何気ない一言で、自分の中で非常に大きな変化がありました。 ―フィリピンでの体験が、転機になったんですね。 大河原: はい。私自身を振り返ってみて、元々は患者さんやご利用者さんのために仕事をしていきたいという思いがあったのに、いつの間にか「自分が、自分が」という気持ちが強くなっていたことに気づいたんです。 そこで初心に帰って、ご本人と家族の思いを大切にする訪問看護を日本でやろうと思って、リカバリーインターナショナルを設立しました。 経験は問わず「もう一人の温かい家族」という経営理念を共有できる方を採用していますし、そういった思いは入社時にも改めてお話しています。 「初めてだから」の入社後教育 大河原: 入社後は、最長3か月の同行訪問を行っています。20代で訪問看護が初めてという看護師も多いですが、同行の中でやったことのないケアや自信のないケアは先輩を見て勉強してもらうと、大体4か月目には一人で安心して訪問できるようになります。 また定期的な勉強会も開催しています。病院でも皆さん色々な勉強会を毎月のように行っていたかと思いますが、訪問看護ではなかなか全員が集まって勉強会をすることはできません。なので、勉強会を開催する際は同時にその様子をビデオ撮影し、後日いつでも勉強できる環境を整えています。 実際、当日の参加率は20%程度ですが、後から見るスタッフも多く、半年後には75%ぐらいの視聴率になっています。 ―勉強会はどのようなテーマで開催されていますか? 大河原: 専門的なケアの内容の勉強会も多いですが、ビジネスマナー研修なども実施しています。 看護師や医療職者はこういった勉強をしたことがない場合が多いですが、訪問看護では利用者さんや多職種の方と直接関わる機会も多いため、メールの送り方や件名の書き方など基本的なマナーの勉強会も開催しています。 また将来の管理者やリーダー候補には、リーダー研修やマネージメント研修を通してP/Lや販管費の見方も勉強してもらっています。ただし、実は一般的な訪問看護の経済的な価値については、管理者候補以外の全スタッフにも考え方を共有するようにしています。 ―訪問看護の経済的な価値とは、どういったことでしょうか? 大河原: 私は、訪問看護の「自分が行った価値」がいくらかなのかを知るべきだと思っています。 入社したばかりのスタッフは「30分訪問に行ったらいくらもらえるのか」を知りません。聞いてみると「1000円」とか「2000円」といった答えが返ってきますが、実際には、30分訪問に行ったら約6000円もらえます。 これが訪問看護の経済的な価値です。 これを知っているか知らないかでは、自分の仕事に関する考え方に大きな違いが生まれます。また利用者様への契約や説明をスタッフが行う、カンファレンスにも役職者だけでなく全スタッフが行くという方針で運営することで、自分の仕事に誇りと責任感をもってもらいたいと思っています。 リカバリーインターナショナル株式会社 代表取締役社長 / 看護師 大河原峻 大学在学中に海外にホームステイしたことをきっかけに、海外で働くことに興味を持つ。卒業後、手術室勤務を経てオーストラリアで働くが現実と理想のギャップに、看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。2020年12月現在、設立7年で11事業所を運営している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。    

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

未曽有の事態への対応

在宅医療の災害対策は、利用者や関わる職種も多いため、十分に準備ができているステーションは非常に少ないのが現状です。 そんな状況を変えようと、ケアプロ株式会社では『ホームケア防災ラボ』を立ち上げています。在宅医療事業部事業部長の金坂さんに、取り組みの内容を伺いました。 災害対策への取り組み 金坂: 現在、発災時には全国各地からDMAT(災害派遣医療チーム)が支援にくることが主流ですが、日ごろから地域を支える訪問看護師、ケアマネジャー、介護士だからこそできる災害対策があると考えています。 また、こういった地域を支えるケアスタッフが災害対策に取り組むことは、発災後の地域資源を守っていくという視点でも効果的であると考えます。 一方で、地域で働くケアスタッフは災害対策を学ぶ機会が少ないという現状があったため、訪問看護師だからこそできる防災対策という視点で、利用者さんの支援をはじめとした情報発信や勉強会の運営のために立ち上げたのがホームケア防災ラボ(別名「在宅ケア防災研究会」)です。今年で活動は4年目で、参加エリアの制限などはありません。 活動としては、防災に関する講演や勉強会の開催、訪問看護事業所の災害対策などに関する研究活動をしています。 ―どのような方が、運営されているのでしょうか? 金坂: ホームケア防災ラボの代表はケアプロの訪問看護師2名で、DMAT(災害派遣医療チーム)の経験のあるスタッフと災害看護専門看護師の資格を持ったスタッフです。この二人が中心となり活動をしています。 私は、訪問看護事業所のおける災害時事業継続計画(BCP)の策定や実践、研究活動にかかわっています。この活動は、日本赤十字看護大学の地域在宅看護学の教授や東京大学の危機管理シミュレーションの専門に研究をしていらっしゃる教授などと定期的に意見交換や研究活動を通して行っています。 新型コロナウイルス対応 ―災害に関連して、未曽有の事態である新型コロナウイルス感染症へは、どのように対応されていましたか? 金坂: 初めての緊急事態宣言の時は、情報が少なく、何をすべきか対応が難しかったです。会社としては、可能なスタッフには直行直帰をさせる、訪問が少ないスタッフは別の人に訪問をまとめてもらい、その分1人をテレワークにする、などの対応で乗り越えました。 新型コロナウイルス感染症が流行する前から、訪問スケジュール管理も看護記録も電子化していたので、テレワークへの移行はスムーズでした。 その後はある程度、感染対策のガイドラインもできあがり、収集した情報をもとにして適切な判断を行えるようになり、徐々に通常の運営に近い状態に切り替えていきました。 今も、感染リスクを減らすようには努めています。 ―大規模ステーションならではの対策はありますか? 金坂: 大規模で余裕があるからこそ、できることがあると思います。 例えば、マスクや防護服が足りなくなった際に、所長から区に物品の支給を訴えたことがありました。所長が現場だけではなく、組織管理ができる余裕があったことが、迅速な対応につながったと思います。 また、間接部門を独立して設置しているため、助成金や補助金の情報収集や煩雑な申請対応にリソースを割くこともできました。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 事業部長 金坂宇将 地元島根の急性期病院で臨床経験を積む。看護師3年目で看護連盟活動に参画し、病院看護だけではなく地域医療や政治の世界を知り、もっと地域医療に貢献したいという気持ちから、看護師10年目で在宅医療業界に転身。現在、日本の在宅医療業界の課題を解決するために、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在) 新型コロナ感染症対策についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

看護師を成長、定着させる制度

訪問看護業界は、看護師の離職率の高さが問題となっています。 ケアプロ株式会社では、成長を促進させる人事評価制度と手厚い福利厚生制度で定着率を上げる取り組みをしています。どんな制度を設けているのか、在宅医療事業部長の金坂さんにお話を伺いました。 成果の評価方法 金坂: 大学病院などでは、キャリアラダー評価と、経験年数に応じた人事評価などが行われていると思います。またその上がり方は、かなり緩やかです。 ケアプロでは、人事評価の指標としてラダーを活用しています。そのラダーに沿った絶対評価をしていることが特徴です。ラダーは6ステップに設定していて、ステップごとの目標と、達成時の給与のプラス額が明確になっています。 ラダーのステップに応じた目標や課題が明確に言語化されているので、若手の看護師に、漠然と「新規の利用者を受け持つには、まだ早い」と言うのではなく、「ここを強化する必要があるから、まだ新規の利用者さんを受け持つのは難しい」と伝えることができるようになりました。 ―ほかにも、特徴的な評価システムはありますか? 金坂: 会社としては、貢献した人を表彰する機会を大切にしていて、3か月に一度、ミッション・ビジョンの表彰式を実施しています。例えば最近だと、セラピストスタッフを表彰しました。 入社する新人セラピストが増える中で、病院と訪問看護では求められる役割や考え方、連携のしかたが異なります。それをわかりやすく整理した比較表を作ってくれました。 表彰はただ「ありがとうございます」で終わるのではなく、表彰されるに値する行動になぜ移せたのか、その人の経験を言語化してもらいます。 そうすることで、「自分も何か少しでもやってみよう」と思う人が増え、社内が活性化するのを感じています。 スタッフの働き方をサポート ーケアプロ株式会社では、スタッフの働きやすさのサポートに力を入れていると伺いました。 金坂: はい、20代が6割くらいを占める会社なので、若い世代にもやりがいをもって長く働いてもらうことを目指しています。そのために、さまざまなサポートを用意しています。 休みが取りやすい 現在足立区と中野区にステーションにはそれぞれ、30名弱のスタッフが所属しているため、スタッフが一人休んでも、ご利用者さまの定期訪問が提供できる体制になっています。年間休日120日+有休、それに加えて、介護・子育て応援有休というものもありプラス5~10日間の特別休暇がつきます。 オンコールが2人体制 「いざとなったら所長に電話してもいいよ」というのは、訪問看護ではよく聞きますが、ケアプロのように最初から2名体制のところは珍しいかもしれません。 150人くらいの利用者さんを基本は1人で対応しますが、電話が重なった時や、新人スタッフの時は夜間でも2名のスタッフで同行訪問できるような体制にしています。 福利厚生、手当が充実 ステーションはスタッフのボランティア精神でなんとか維持するものではありません。利益率が多少悪くなっても、仕事としてしっかりと評価するようにしています。 例えば、夜間待機は一晩担当すると6,000円、1回出動すると加えて5,000円が支給されます。また、土日・祝日出勤に対する手当や、家賃補助もあります。 多様な働き方が可能 週5で8時間勤務が基本ですが、育児や副業などの理由で、時短で働きたいというスタッフについては、週休3日や6~7時間の時短勤務など多様な働き方が選べるようにしています。また1人1台パソコンとスマートフォンを貸与して、在宅ワークに対応するなど、働きやすい環境作りには力を入れています。 就学、資格取得、研修参加などキャリアアップへの支援の充実 ケアプロでは、キャリアアップの支援にも力を入れています。大学院への進学、認定看護師の資格取得、外部研修への参加時の費用補助や出張扱い、勤務調整など多様な方法で支援を行っています。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 事業部長 金坂宇将 地元島根の急性期病院で臨床経験を積む。看護師3年目で看護連盟活動に参画し、病院看護だけではなく地域医療や政治の世界を知り、もっと地域医療に貢献したいという気持ちから、看護師10年目で在宅医療業界に転身。現在、日本の在宅医療業界の課題を解決するために、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在)

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

新卒訪問看護師を当たり前に

訪問看護は病院での経験がないと難しいといわれることが多い中で、ケアプロ株式会社では若手や新卒看護師が多く活躍しています。 新卒採用を投資と考え、看護師やセラピストが現場に注力できるようにバックオフィスで支えるしくみとはどんなものかを伺いました。 新卒採用は投資と考え、業界をリード 岡田: ケアプロでは、若手や新卒看護師を当初から採用しています。 「共に育つ」という会社の文化や風土を大切にしていて、若手がかなり多いので、新卒の採用もスタッフみんなで教育に携わり、共に成長していくことができます。 会社としても、新卒採用は投資と考え、力を入れています。社内での教育体制の構築し、実践していくことはもちろんのこと、聖路加国際大学と全国訪問看護事業協会の代表の方々と共同研究で、『きらきら訪問ナース研究会』を運営しています。 活動としては、新卒訪問看護師の教育体制や採用、魅力ある事業所作りについて検討しながら、訪問看護業界に発信しています。 また、『きらきら訪問ナース研究会』では育成者養成講座を開いて、全国の訪問看護ステーションでも新卒看護師を採用できるよう支援をしています。今後、訪問看護でも新卒が当たり前になるよう、業界をリードしていきたいですね。 『きらきら訪問ナース研究会』 きらきら訪問ナースは看護基礎教育を終えて、新卒で訪問看護を始める看護師のこと。新卒から訪問看護にチャレンジする看護師を支援するために、聖路加国際大学、千葉大学、ケアプロ株式会社、全国訪問看護事業協会が共同で2014年に結成。研究活動、研修・講演、キャリア開発などに取り組んでいる。 バックオフィスでサポート ー新人や若手の看護師を、どのようにサポートされていますか? 岡田: バックオフィスのサポート業務は、経営的なサポート、サービスの質の管理のサポート、人事関連のサポートなど多様です。ケアの提供はしませんが、ステーションの看護師やセラピストが利用者さんへの実践に注力できるようにしています。 例えば経営的なサポートでは、スタッフの人数や成長の程度によって、何件訪問できるかどうか、新たにどのくらい利用者様受け入れることができるかなどを予測計算して、ステーションの所長に伝えます。そうすることで、病院やケアマネから新規の利用者様の受け入れの相談が来た時に判断ができるようになります。 また、スタッフの入社に伴うオリエンテーションの対応や、事業報告、行政関連管理なども、一括して実施しています。 ステーションのバックアップをする中で、2つのステーションのノウハウが蓄積され、互いの成功例を共有することができるようになっています。 まだ、成功例と言い切れるわけではないですが、大規模化を見据えた組織化を進める中で、少しずつ利用者様への安定したサービス提供や、スタッフがやりがいを持って働き続けられる組織に近づけていると感じています。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 クオリティマネジメント部門長 岡田理沙 病院で働く中で、若手看護師の教育に関心を持ち、大学院に入学。大学院在学中にアルバイトでケアプロ訪問看護ステーションに入職し、若手の訪問看護師が一生懸命がんばる姿を見て、若手・新卒の訪問看護師の教育へ携わることを決意。病棟の若手看護師や新卒が訪問看護にチャレンジするハードルを下げ、訪問看護師を増やすべく、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在)

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

大規模化と多角化で、安定した経営を実現

訪問看護ステーションは小規模の事業所が多く、その多くが赤字で、大規模になるにつれて黒字化していることがわかっています。 ケアプロ株式会社では、事業の多角化とステーションの大規模化で持続性のあるモデルを実現しています。代表取締役の川添さんに、ケアプロの戦略を伺いました。 ステーションの大規模化 ーケアプロ株式会社では、大規模ステーションを展開していると伺いました。 川添: 国の政策として、機能強化型訪問看護ステーションの認定を受けていると報酬が多くつくなど、規模が大きい事業所を優遇する流れがあります。 実は創業当初はどんどん店舗を増やす予定でしたが、1ヶ所で大きな店舗を構える大規模化戦略に切り替えていきました。現在は、 ① 常勤換算看護師・セラピスト数30名以上の人員基準 ② 居宅介護支援事業所併設など機能強化型訪問看護管理療養費1の条件を満たしたステーション を造語として「総合訪問看護ステーション」と呼び、実現を目指して拡大しています。 ー総合訪問看護ステーションには、どんなメリットがあると感じていますか? 川添: 疾患・病期・年齢の異なる、さまざまな利用者様を受け入れられるようになりました。 また、小規模のステーションで24時間365日、休祝日、夜間問わず対応をすると、1人のスタッフが休んだときの影響も大きく、スタッフのワークライフバランスが崩れてしまいますよね。一方、スタッフが多くいれば、リソースをコントロールでき、サービスの持続性を持って提供する訪問看護ステーションのモデルを作れると思っています。 スタッフの働き方においても、新卒から中堅、ベテランまでさまざまなスタッフが働くことができ、キャリアアップ、家庭との両立、ダブルワークなど多様なキャリアのスタッフが働くことができるようになったこともメリットだと感じています。 事業の多角化 ーケアプロ株式会社では、ステーション経営以外にも、多角的に事業展開していると伺いました。 川添: 事業としては始めた順に、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3つを展開しています。ステーション経営は在宅医療事業の一環です。 予防医療事業 1年以上健診を受けていない3,600万人に対する生活習慣病予防、日本全体の医療費の抑制をミッションに掲げています。 事業内容は、セルフ健康チェックサービスです。47都道府県に看護師、保健師、管理栄養士、臨床検査技師が出張して血糖値やコレステロール、肝機能、骨密度などをその場で測定します。以前は一回500円など有料で展開していましたが、現在はスーパーマーケットなどにスポンサーになってもらい、無料でサービスを提供しています。年間1万人くらいの方に私たちの健診を受けていただいていますね。 交通医療事業 交通弱者のための外出支援マッチングサービスと、サッカーの救護手配を中心とする「サッカーナース」をやっています。特に交通医療事業は立ち上がったばかりなので、投資する観点でいうと今一番力を入れているところです。 予防医療事業から在宅医療事業に展開 川添: 東日本大震災のボランティアとして健診や健康相談を行う機会があり、仮設住宅で孤独死が増えている現状を目の当たりにしました。 病床数や在院日数を減らしても在宅での受け皿が十分でない状況で、このままいくと、日本中で、病院でも在宅でも看られない孤独死のような形が出てきてしまうだろうと思いました。 そうした状況をちょっとでも変えていきたいと思ったのが、訪問看護事業に取り組んだ経緯です。 立ち上げ当初は看取りや孤独死の課題に取り組んでいましたが、今ではもう少し広いところで「在宅医療の課題を解決し、”私らしくいきたい”を支える社会を創造する」をミッションとして取り組んでいます。 ケアプロ株式会社 代表取締役 川添高志 幼少期に入退院を繰り返す中で、「当たり前の健康」の大切さを実感するとともに、病や障害があってもよりよく生きていくことを支える看護に、大きな価値を感じる。 看護学生時代、足を切断する糖尿病患者に出会い、予防医療が十分行き届いていない現状に問題意識を感じる。ケアプロ株式会社を起業後、2012年より在宅医療事業部を立ち上げ、訪問看護に参入。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在)

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

地域に選ばれる訪問看護ステーションになる

新規開業した訪問看護ステーションの中には、利用者がなかなか獲得できないステーションもあります。地域ささえあいセンターから見た、頼みたくなるステーションには、どんな特徴があるのでしょうか。引き続き、澤登さんにお話を伺います。  依頼したいステーションの特徴 澤登: 訪問看護ステーションの中には、小児や認知症などに特化しているところもあります。その部分のケアが重点的に必要であれば、こういったステーションに連絡を取ることもあると思います。 しかし、在宅で看ていくと考えた時には、さまざまな多職種連携やサービスによって、その人が地域で暮らしていけるよう支えていくわけです。 その視点からいうと、地域の多職種の方、あるいは多職種連携のコーディネーターとなるような方と顔の見える関係づくりができている訪問看護ステーションは依頼しやすいというのはあります。 ―地域の方と信頼関係を築いていくにあたり、訪問看護ステーションが具体的に取り組むべきことは何でしょうか。 澤登: 信頼関係って抽象的で難しいですが、生活を支えるという具体的な作業を通して、徐々にできてくるものだと思います。 管理者さんなどステーションと地域をつなげる役割の人が、自分たちのステーションがどんなことを大事にしているのか、看護の専門職として何ができるかなどを、多職種の方に明確に伝えていくことが大切だと思います。 例えば、『みま~も』でもデイサービスやデイケアで働く理学療法士さんたちが商店街裏の公園で、元気な人たちを対象にした体操を毎週やってくれているんです。当然ながら、これは本来の仕事ではありませんが、こういう取り組みをしている事業所は地域から信頼され、地域に根差していると感じます。  地域に入り込む方法 ―例えば、立ち上げたばかりのステーションなどは、どのように多職種のネットワークに入っていけば良いと思われますか? 澤登: どこの地域でも多職種が集まる会が、今すごく盛り上がっているなと感じます。そういう場に顔を出していくことが、まず大事だと思います。 その中で、看護師という立場からチームに何が貢献できるか、ほかのサービスの人たちの立場も踏まえることが必要です。 どうしても医療と介護って壁を感じることがある中で、看護師の方から介護に携わる人たちのことを理解しようという姿勢が、関係づくりでも大事だと思います。 ―訪問看護師は、どのように地域に関わっていけば良いと思いますか。 澤登: 専門職が地域に出ていき、元気なころから地域住民に関わることによって、その方が健康でいる時期を長くするためにさまざまなことができます。 そのため通常の訪問看護のように、元気がなくなってしまってから関わるのではなく、もっと早くに地域に出て、関わっていくことも必要だと思います。 元気なころから訪問看護ステーションの看護師が関わっていれば、利用者さんとしても安心できるし、例えば看取りの時期も本人自身では思いを表出できなくなったとしても、その方の生き方を支えていけると思うんです。 また、訪問看護師さんも管理職か現場の方かにもよりますが、毎日毎日、時間単位のケアに追われる仕事をしていたら、いつか力尽きてしまうかもしれません。 そんな時も、利用者の方たちが元気だったころをイメージすると、がんばろうと思える、地域に支えられる面もあると思います。  牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。 地域で活躍する訪問看護ステーションについてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

元気なうちから、地域に出ていこう

地域の高齢者は医療や介護が必要になって初めて、専門職に関わったという方が多いでしょう。しかし、澤登さんはもっと前の元気なうちから、お互いが関わることが大切だとおっしゃいます。 『みま~も』に参加することで、参加者ご自身(『みま~もサポーター』)にどんなメリットがあるのか、お伺いしました。  『みま~もサポーター』のメリット 澤登: 例えば病院に入院して、医療や介護のサービスが必要となり地域に帰るとします。その方たちに医療や介護のサービスだけを提供して、地域で暮らし続けられるかというと、これが難しい。 こちらの平均寿命と健康寿命のデータをみてください。 日本は世界的にみても長寿国ですが、女性の場合には平均寿命約87歳、健康寿命が約75歳で、介護や医療が必要な状態が平均約12年もあるというデータがあります。この約12年というのは、専門職が関わる期間と言ってもいいでしょう。 一方、『みま~もサポーター』は平均加入年齢が72歳なので、活動の中で元気なうちから専門職と関わることになります。 これは健康でいる時間を長くする、あるいは介護になってからも、顔の見える関係の専門職にケアしてもらえるというメリットがあります。  新型コロナウイルスの影響 ―新型コロナウイルスの影響で、できなくなった取り組みも多いかと思いますが、今はどんな活動をされていますか? 澤登: 一部セミナーや公園での体操などはコロナ禍で一旦中止にしています。その代わりに『みま~も』のYouTubeチャンネルを作り、専門職がオンライン上でいろんな情報をあげていています。 コロナ禍で、高齢者の中でも今まで地域とのつながりも十分にあって、自分自身が地域のいろんな活動も積極的に参加していた方ほど、影響がすごく大きいと感じます。 活動などが一切なくなってしまったわけで、そういう中かで精神的に落ち込んでしまったり、うつ症状や認知症が進んでしまった、という話も多く聞きました。 『みま~も』は、2020年8月くらいから今までと同じような活動を再開する予定でしたが、セミナーでもまだまだ人と会うのが怖い、自粛したいという人も多いですし、平行してオンラインでも参加できるものを少しずつはじめて、選択肢を増やしているところです。 ―時代に合わせて地域に合わせて、変化し続けながら活動されているんですね。 澤登: はい。しかし、まだまだ高齢者の人たちにとってオンラインの参加は難しいものがあります。スマホを持っている人は7割ほどいるのですが、多くは電話機能として活用しているだけなんです。 人と繋がる手段としての操作はまだまだできない人たちが多く、高齢者の方たちにもスマホやパソコンなどにも慣れてもらう、つながりを切らさないでいられるような取り組みも引き続きやっていきたいと思います。 コロナの状況になって地域の人の声を聞きながら柔軟に、スピード感をもって新たなことをはじめています。 『みま~も』は自治体や行政などのしがらみにとらわれないから、いろいろなことが可能なのかもしれません。楽しいからこそ、みなさんやっているし、続けていける。それが何より大事なのかなと思います。  牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。

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