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言葉以外からも読み取れる感情 重症心身障がい児のデイサービス&訪問看護
言葉以外からも読み取れる感情 重症心身障がい児のデイサービス&訪問看護
インタビュー
2024年5月14日
2024年5月14日

言葉以外からも読み取れる感情 重症心身障がい児のデイサービス&訪問看護

大阪府住吉区の「医療法人ハートフリーやすらぎ」に新卒から入職した大藪 涯さんは、訪問看護、デイサービスで働く看護師です。新卒で訪問看護師になった理由や、重症心身障がいのある利用者さんやご家族と接する中で感じていることなどを伺いました。 大藪 涯(おおやぶ がい)さん  看護師。2022年4月に新卒で医療法人ハートフリーやすらぎに入職。大学の在宅分野の教授の教えに影響を受け、訪問看護師を目指す。現在は週2日ナーシングデイに勤め、その他の日は訪問看護を担当。1年目は診療所にも出向き、バイタルサインや採血などの経験を積む。 医療法人ハートフリーやすらぎ:https://www.heartfree.or.jp/ その人の生き方や生活を大事にしたい ─まずは、大藪さんが看護師を目指した理由や、訪問看護師に興味を持ったきっかけを教えてください。 医療に興味をもったきっかけのひとつは、幼いころに筋ジストロフィーという難病を患った弟さんがいる友人に出会ったことです。その友人は弟さんのことを明るく話していて、それが私には大きな衝撃でした。当時の自分は医療の知識もなく、難病は「とにかく大変なもの」というイメージがあったので、友人の受け止め方にいままでの印象を覆すものがあったというか。「病気との向き合い方」に興味を持ったことがきっかけで、看護師の仕事に興味を持つようになりました。 訪問看護師になろうと思ったのは、在宅分野の教授のお話がきっかけです。例えば、入院中は患者さんの喫煙や飲酒は原則避けることになりますが、訪問看護では利用者さんがしたいことと健康状態を照らし合わせ、どこまでOKなのか看護師の視点からアドバイスできる。一律でその行為を禁止するのではなく、その人に合わせて基準や看護のしかたを変えるのだ、という内容でした。 私は、健康を守ることはもちろんのことですが、その人の生き方や生活を大事にしながら関わりたいという想いがあったので、訪問看護に興味を持つようになったんです。 デイサービスで働く大藪さん ─就職活動をしていたときのことや、ハートフリーやすらぎに入職した経緯などを教えてください。 はい。そもそも訪問看護ステーションの新卒採用枠は少ないですし、大学の同学年の中でも訪問看護ステーションへの就職を目指していたのは私一人という状況でした。でも、さきほどお話しした教授が新卒で訪問看護師になることを応援してくれたんです。教授や学校の先輩にも相談している中で、ハートフリーやすらぎが新卒の採用に積極的だと知り、応募したという経緯です。 就職前に同行訪問をさせてもらったのですが、利用者さんが「訪問看護師さんたちにとてもよくしてもらっていて、自分の最期はこの方々にお任せしたいと思っている」とお話しされていたんです。それだけ信頼を得られる関係を築けていることに驚きました。また、職員同士の仲もよくて、和気あいあいとした雰囲気でした。プライベートなことも気軽に相談できるような関係性を見て、すごく安心したのを覚えています。 少しずつ確実にみえてきた利用者さんの表情 ─利用者さんとの関わりを通じて感じたことを教えてください。 はい、こちらの写真のSちゃんは15歳の女の子で、生後4ヵ月のころ、後天的に低酸素脳症を発症しました。その後、慢性呼吸器不全、てんかん、痙性四肢麻痺を発症し、現在は人工呼吸器を24時間装着しています。吸引や胃ろうからの注入が必要です。 私はまず、Sちゃんのデイサービスのケアから関わらせてもらいました。Sちゃんは比較的必要なケアが多い利用者さんで、吸引、入浴介助、浣腸、胃瘻からの注入、人工呼吸器の管理も行います。最初は個別のケアの方法を覚えるだけでも精一杯で、ほかの看護師が「Sちゃん、今日はご機嫌だね」とか、「しんどそうだね」と言っているのを聞いて、なぜ気持ちがわかるのか不思議だったんです。 ですが、Sちゃんにはきちんと表情がありますし、伝えようとしていることもありました。それを私が読み取れていないだけだったんです。言葉はなくとも、手を握ってくれたり、舌を動かしたり。口元や目元にも変化があります。長く一緒にいることで、私にもSちゃんの気持ちがわかるようになりました。 大切なのは、「どんなことを感じているんだろう」と、関心を持って探ること。そしてそれは、ケアの微妙な加減にも繋がると思います。デイサービスの場合、比較的長い時間お預かりできるので、毎日少しずつ、より確実に理解できることが増えていく感覚がありました。 ─半年ほど経ってから、Sちゃんの訪問看護もご担当されたと伺っています。どのようなことを感じましたか? デイサービスでさまざまな子どもたちと触れ合った経験が、訪問看護にも活かせると感じましたし、デイサービスにはデイサービスの、訪問看護には訪問看護の学びがあると思いました。 訪問看護でご自宅に伺って感じたのは、ご家族がSちゃんを良い意味で特別視していなくて、「日常」の中にSちゃんの存在があるということですね。妹さんや弟さんのお友達が遊びに来ているときも、「おかえり、看護師さんも一緒なんだね」というくらいの受け止め方なんです。Sちゃんも妹さんも弟さんも、それぞれ大切な存在で、障がいの有無で区別されていないというか。 Sちゃんはすごくお洒落に興味があるので、お洋服やアクセサリーをご家族が買ったり、自分で選んだりもするんですよ。アミューズメントパークにみんなで行ったときのこととか、ご家族からお出かけの話を伺うこともあります。先ほどの私の友人の話にも繋がりますが、疾患があっても、本人とご家族にとっての「したい生活」が叶うこと、安心して生活ができることがとても大事なのだと感じます。 ─自宅だからこそ見える部分があるのですね。一方で、重症心身障がいを持つ方へのサポートについて、課題に感じる部分はありますか? はい。医療的ケアが必要以上に「難しいもの」と捉えられてしまっているのではと感じることがあります。医療的ケアが身近でない方は、少し利用者さんの体調が変わっただけで、とても戸惑ってしまうんです。知らずして「関わるのが怖い」となってしまいがちなのは、難しいところだなと感じています。例えば、Sちゃんの場合は妹さんも吸引をはじめとした医療的なケアをしていますし、彼女のことを知っていれば「この変化は一時的なもの」と判断できるケースも多いです。 また、どうしても保護者に負担が偏っている現実があると思います。負担を軽減できる制度がもっとあればいいなと思うのですが、現状はまだまだ足りないのではないかと…。例えば、Sちゃんのご家庭の場合、体調不良でサービスの日程を変えるときなどは、相談員さんや介護タクシーなど、スケジュールの組み直しのための連絡と相談が必要になります。実にさまざまなところで報・連・相が必要とされる。それをお母さまがお一人でこなしているわけです。訪問看護も毎回同じ看護師というわけではないので、状況による判断などもSちゃんのお母さまに委ねるところが大きくなってしまう。家事やほかの子の育児もある上でのことですので、大変さが伝わってきます。18歳以上は放課後等デイサービスの対象でなくなり、生活介護に変わります。そのような将来のことについても考えなくてはなりません。 ー調整の負担が保護者にのしかかっている現実があるのですね。 「この人に任せたい」と思われる看護師に ─ハートフリーやすらぎに就職されてもうすぐ2年になりますが、改めて思うところはありますか? 就職したときよりも、さらに利用者さんとの関わりの深さを感じています。ハートフリーやすらぎに長く勤めている先輩看護師の中には、過去に看取りをさせていただいた方の息子さんや娘さんの訪問看護を依頼され、二世代に渡って訪問している人もいます。そういう人はそのご家庭の過去の歴史を含めて深く理解していることもあって利用者さんからの信頼も厚く、繋がりが強固です。私も、長きに渡る関係性を持てるように利用者さんと関わっていきたいなと思いますね。 それから、先輩たちに質問すると、とても丁寧に対応してもらえますし、一緒に答えを探してくれるんです。このステーションにはいわゆる「プリセプター」(後輩看護師を指導する先輩看護師)がいないので、教育担当者ひとりに責任を負わせることなく、新人を「全体で育てていこう」という精神が強いと思います。また、プレッシャーを与えない一方で「任せるよ!」という姿勢を見せてもらえるのがとても嬉しいです。自分の成長や存在、このステーションにおける自分の役割を実感することができています。 大藪さんと訪問看護利用者さん ─最後に今後の目標や、「なりたい看護師像」を教えてください。 利用者さんの病状のみならず、生活を深く知ることは、どんなケアをすべきか、看護師としてどう関わっていくべきか、ということに繋がると思います。ご家族の負担や希望なども伺いながら、ご家族と一緒にひとつのチームになってケアをしていきたいと思っています。第三者よりも、一歩ご家族に近い存在になりたいですね。 いずれは、利用者さんから「この人に看護を任せたい」と思ってもらえる存在、安心感を持って頼ってもらえる存在になりたいです。今後、さまざまな利用者さんと出会うと思います。成長・発達段階や、疾患・障がいなどによってもご相談いただく内容が変わってくるので、しっかり応じられる看護師になれるよう、これからいろいろと学んでいきたいと思います。 ─ありがとうございました! * * * 次回は「ハートフリーやすらぎ」で働く石川さんにデイサービスでの子どもたちとの触れ合い方や、職場の在り方などについて伺います。>>次回の記事はこちら(※近日公開)新しい試みが歓迎される「ハートフリーやすらぎ」で、成長する看護師に ※本記事は、2024年2月時点の情報をもとに構成しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保
2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保
特集
2024年5月14日
2024年5月14日

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保

トリプル改定のうち、今回と次回は訪問看護の介護報酬について取り上げます。介護報酬改定も、診療報酬とおおむね同様のテーマに沿った改定が行われました。さらに、診療報酬側との整合性を取ることで、医療・介護問わず切れ目ない支援がめざされています。 まず注意したいのは、介護報酬改定の施行時期です。介護報酬改定の施行時期は原則2024年4月ですが、訪問看護については診療報酬改定の施行時期との整合性を取るために6月施行となりました。 この点を頭に入れつつ、具体的な改定項目を見ていきましょう。 24時間対応の充実に向けた加算再編 診療報酬側では、利用者ニーズへの即応性や現場の業務負担の軽減という2つのテーマをめぐり、24時間対応体制の充実が図られました。介護報酬側でも、これに対応して「緊急時訪問看護加算」の改定が行われています。 改定前の同加算の区分は1つ。その要件は「利用者やその家族から、電話等で看護に関する意見を求められた場合に、保健師や看護師(以下、看護師等)が常時対応できる体制にあること」でした。今改定では、追加要件を付した新区分Ⅰが設けられ(旧要件のみの区分はⅡ)、単位が上乗せされています。 緊急時訪問看護加算(月あたり) ※「上記以外」とは「病院・診療所の場合」および「一体型定期巡回・随時対応型訪問 介護看護事業所の場合」をいう 追加要件「現場の業務負担の軽減策」とは 新区分Ⅰに追加された要件は、「緊急時訪問における看護業務の負担軽減に資する十分な業務管理等の体制整備が行われていること」です。具体的には以下の6項目で、そのうち2項目以上を満たす必要があります。 緊急時訪問看護加算(Ⅰ)の看護業務の負担軽減に資する取り組み1. 夜間対応した翌日の勤務間隔の確保2. 夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで3. 夜間対応後の暦日(午前0時から24時まで)の休日確保4. 夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫5. ICT・AI・IoT等の活用による業務負担軽減6. 電話等による連絡・相談を担当する者に対する支援体制の確保 なお、上記の6の連絡・相談を担当する者は、以下の条件を満たしている場合には、看護師等以外の職員が担当しても構わないとされました。 ア 看護師等以外の職員が、利用者・家族等からの電話等による連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されていることイ 緊急の訪問看護の必要性の判断を、看護師等が速やかに行える連絡体制および緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていることウ 事業所の管理者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員の勤務体制や勤務状況を明らかにすることエ 看護師等以外の職員は、電話等により連絡・相談を受けた際に、看護師等へ報告すること。報告を受けた看護師等は、当該報告内容等を訪問看護記録書に記録することオ アからエまでについて、利用者・家族等に説明し、同意を得ることカ 事業者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員について届け出ること 新区分Ⅰにかかる追加要件と連絡・相談担当者の範囲拡大は、診療報酬側の「24時間対応体制加算」をめぐる要件や届出基準と同じであることが分かります。 専門性の高い看護師による管理を評価 利用者ニーズの即応性に関しては、在宅での重度療養ニーズへの対応強化が図られました。 まずは新加算「専門管理加算(月250単位)」です。これは専門性の高い看護師による利用者への計画的な管理を評価した加算です。要件は、(1)一定の専門研修を受けた看護師が、(2)厚生労働省(以下、厚労省)の定める利用者に計画的な管理を行った場合に算定されます。この(1)と(2)には2ケースあり、具体的な内容は以下のとおりです。 なお、診療報酬では「機能強化型訪問看護管理療養費1」の施設基準として「専門の研修を受けた看護師の配置」が求められました。ここでも、診療報酬との関連が見られます。 退院時にかかわる評価の見直し 退院時の共同指導における要件見直し 重度療養ニーズを有する利用者へのサービスでは、入院医療機関から退院するタイミング以降のかかわりも大きなポイントです。そのタイミングにかかる2つの評価が見直されました。 1つめは、「退院時共同指導加算(1回600単位)」の見直しです。これは、医療機関からの退院や介護老人保健施設からの退所にあたり、(医療機関の医師やそのほかの従事者と合同での)利用者・家族への共同指導、およびその直後の初回訪問看護について評価する加算です。 この要件について、共同指導の内容を「文書」で提供するという規定がなくなりました。利用者の退院後には本人・家族にさまざまな不安や戸惑いが生じがちです。そうした状況への対応に集中するための効率化が図られました。 退院後の「初回加算」はどうなった? 2つめは、先の「退院時共同指導加算」を算定していない場合に退院後の初回訪問を評価した「初回加算」です。同加算について、「退院・退所の当日の訪問」と「当日以降の訪問」によって2区分に再編されました(併算定はできません)。 初回加算 これも、退院当日から本人や家族は大きな不安・戸惑いに直面しがちであるという点から、当日訪問を手厚く評価したことになります。 在宅療養に不可欠な「口腔衛生管理」 自宅療養を行う利用者に対して、自立支援・重度化防止の取り組みも強化されています。2024年度の介護報酬改定で、重点が置かれている取り組みの1つが「口腔衛生」の管理です。 この取り組みへの推進に向け、訪問看護をはじめとした訪問系サービスのほか、短期入所系サービスにおいて、利用者の口腔衛生の状況確認を評価する加算が設けられました。それが「口腔連携強化加算」です。1回50単位で、月1回に限り算定されます。要件は以下のとおりです。 口腔連携強化加算の算定要件1. 訪問看護師等が、利用者の口腔の健康状態の評価を実施すること2. 利用者の同意を得て、1の評価結果を、歯科医療機関および介護支援専門員に情報提供(※)すること※「口腔連携強化加算に係る口腔の健康状態の評価及び情報提供書情報提供書」は以下のリンク先を参照のことhttps://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12300000%2F001227893.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK3. 1の評価を実施するにあたり、診療報酬の歯科訪問診療料(歯科点数表区分番号C000)の算定実績がある歯科医療機関の歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、訪問看護師等からの相談に対応する体制を確保し、その旨を文書等で取り決めていること 看取り期での医療保険と介護保険の整合性 在宅療養においては、利用者や家族が「退院して在宅での看取りを望む」といったケースも増えています。仮に本人が介護保険の適用対象にもかかわらず要介護認定を受けていない場合、訪問看護は医療保険でのサービス提供となります。 そうしたケースが増えてくると、医療保険と介護保険での訪問看護にかかるしくみの整合性がますます問われます。その点を考慮した介護報酬側の改定が2つ行われました。 「ターミナルケア加算」の単位アップ 1つは、介護報酬側の「ターミナルケア加算」です。これは、死亡日および死亡日14日以内に2日以上訪問した場合に、死亡月につき算定されます(末期がんなど厚労省が定める疾患に限る)。診療報酬上でこれに対応するのが「訪問看護ターミナルケア療養費」ですが、両者で単位数が異なっていました。今回の介護報酬改定では、以下のように揃えることになりました。 ターミナルケア加算 参考:診療報酬の「訪問看護ターミナルケア療養費Ⅰ(在宅で死亡した場合)」は25,000円1点=10円で計算した場合に診療報酬側とそろう 死亡時の遠隔診断にかかる加算も もう1つは、今改定で誕生した「遠隔死亡診断補助加算(1回150単位)」です。利用者が厚労省の定める離島や過疎地域、豪雪地帯などに居住しており、死亡時に医師が訪問できないとき、訪問看護師が情報通信機器を用いて医師の死亡診断を補助した場合に算定されます。算定要件は以下のとおりです。 遠隔死亡診断補助加算の算定要件1. 訪問する看護師が、「情報通信機器を用いた在宅での看取りに係る研修(日本医師会などが実施)」を受けていること2. 利用者が診療報酬上の「死亡診断加算」の対象(計画的・定期的な訪問診療を行っていること)であること3. 正当な理由のために、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる状況であること この加算も、2024年度の診療報酬改定で訪問看護に「遠隔死亡診断補助加算」(1回150単位)が誕生したことに合わせたものです。 次回は、2024年度から完全義務化された業務継続計画(BCP)の策定など、多くのサービスにまたがって適用された運営基準や加算・減算について取り上げます。 >>次回の記事はこちら(※近日公開)2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定 ※本記事は、2024年4月16日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○ 厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/4/16閲覧○ 厚生労働省(2024).「介護保険最新情報Vol.1225『「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol1)(令和6年3月15日)」の送付について』」https://www.mhlw.go.jp/content/001227740.pdf2024/4/16閲覧

訪問看護師が知っておきたいHOT(在宅酸素療法)導入の進め方と患者・家族指導
訪問看護師が知っておきたいHOT(在宅酸素療法)導入の進め方と患者・家族指導
特集
2024年5月14日
2024年5月14日

訪問看護師が知っておきたいHOT(在宅酸素療法)導入の進め方と患者・家族指導

HOT(在宅酸素療法)を導入することで患者さんの呼吸困難が軽減されQOLの向上が期待できますが、さまざまな理由から受け入れが難しいケースも少なくありません。今回は患者さんが納得してHOTを導入できるような進め方や、患者さんのアドヒアランスを高める支援やセルフマネジメント支援について解説します。 HOT導入において必要な支援 HOT(home oxygen therapy:在宅酸素療法)導入の目的には、呼吸困難の軽減や運動耐容能の向上、QOLの向上、生命予後の改善などがあり、HOT自体は患者さんの望む生活を叶えるための医療資源の1つです。しかし、医療者は患者さんにとって有効であると考えていても、鼻カニュラ装着の見た目や日常生活上でのわずらわしさなどからHOTの受け入れが難しい患者さんも多くいます。 患者さんの思いをまず傾聴し、HOTが自分の望む生活を叶えるために欠かせないものであると理解できるよう支援していくことが大切です。その上で、生活に取り入れていくために必要な情報収集や酸素流量の決定、手技習得への支援、在宅環境調整などを行っていく必要があります。ここでは、患者さんを理解すること、病状やHOTの必要性の説明、実際の酸素流量設定の方法、セルフマネジメント支援についてお話しします。 病状やHOTの必要性の理解 HOT導入時には、患者さんの普段のバイタルサインに加えて、換気障害の種類(閉塞性、拘束性、混合性)や肺拡散能、呼吸不全の種類(Ⅰ型、Ⅱ型)、呼吸補助筋の使用の有無など身体的側面を確認します。さらに、どのような生活をしてきたのか、どのような場所で生活しているのか(自宅の間取りや階段の有無など)、今後どのような生活を望むのか(仕事や趣味など)、HOTの捉え方など、患者さんを理解するための情報収集をていねいに行うことが重要です(図1)。 特に、患者さんやご家族の病状の理解度は、HOTの必要性の理解にも影響を与えます。そのため、患者さんやご家族が病状をどのように捉えているか確認し、理解度に合わせ、身体的な状態として低酸素血症が起きていることを説明する必要があります。 パンフレットや実際のSpO2、脈拍、呼吸機能検査、血液ガス分析の結果などを視覚的に示しながら説明すると、患者さんやご家族はより理解しやすくなります。特に低酸素血症が進行することで起こる肺高血圧症や心不全の進行、運動耐容能の低下、全身の臓器機能低下などの身体的影響については強調して説明します。このように自分の病状とHOTの必要性が関連づけられるようにすることが重要です。 さらに、身体への必要性に加えて、患者さんが望む生活を送るために必要な資源であることも説明します。患者さんが大切にしている趣味や生きがいなどが継続できるといった具体的な説明を行うことで、HOTの必要性の理解促進につながりやすくなります。 図1 HOT導入時に必要な情報 酸素流量の決定と指導 過ごし方に応じて細かく必要な酸素流量を見極める 酸素流量の決定では、自宅での日常生活場面をイメージした設定が必要になります。事前に自宅でどのような過ごし方をするのか、主に過ごす場所や活動量、外出頻度、間取り、動線などを詳細に情報収集します。その後、安静時や労作時、入浴時、入眠時と細かく必要な酸素流量の見極めを実施します。 必要酸素流量を見極める際の重要なポイントは、生活場面において具体的に「安静時や労作時とは何か」を患者さんと話し合い、共通認識をもっておくことです。患者さんによっては、自宅内は「安静時」、外出のみを「労作時」と捉えることもあるからです。 また、入浴時の酸素流量の見極めでは、より細かな観察が求められます。入浴ではSpO2低下につながる動作が連続で続くため、洗体や洗髪、着替えといった1つひとつの動作によってSpO2の低下をきたす可能性があります。休憩のタイミングの検討や息切れを増強させる4つの動作(参照:訪問看護の呼吸ケア 安定期を長く過ごすための療養法・支援方法 基礎知識)を避ける等の指導も合わせて行った上で、入浴動作で低酸素にならないような流量設定にします。 酸素流量を守ることの必要性を説明 酸素流量が決定したら、患者さんに酸素流量を守ることの必要性について説明します。Ⅱ型呼吸不全患者さんの場合、指示された以上の酸素流量を長時間吸入することで、高二酸化炭素血症を引き起こす可能性があることを説明します。労作後には安静時の酸素流量に必ず戻すことや、呼吸困難があるからと安易に酸素流量を上げずに医療者へ相談するといった指導をします。 逆に、高二酸化炭素血症を心配するあまり、労作時に必要な酸素流量よりも少なく吸入し、低酸素状態が持続している場合もあります。その場合は、低酸素による合併症を引き起こす可能性について説明し、酸素流量を守るよう指導します。HOT導入時のみならず、患者さんが生活の中でどのように酸素流量を調整しているかを適宜確認していく必要があります。 ご家族が管理しやすい方法も検討 ご家族が主に酸素流量調整をする場合には、ご家族にも同様の指導を行います。認知機能や介護面で細かな酸素流量の調整が難しい場合は、安静時と労作時を同じ流量にできるかなど、管理しやすい方法を多職種で検討していくことも必要です。 セルフマネジメント支援 スタンフォード大学のケイト・ローリッグ(Kate Lorig)教授は、病気とともに生きていく上で患者には取り組むべき3つの課題があると述べています。 1つ目は、病気に関する課題です。内服薬や吸入薬を正しく服用したり、HOTを生活の中にうまく取り入れ、病気によって起こる呼吸困難などの症状をコントロールしたりすることで対処します。2つ目は、日々の生活活動を継続するための課題です。これは、HOTや疾患によって出現する呼吸困難などの症状と付き合いながら、仕事や地域での役割など社会生活、家事、趣味などを続けていくことで対処します。3つ目は感情面の課題です。HOTとともに生活する中での怒りや恐れ、孤独感、不安といったさまざまな感情の変化に対処します。 セルフマネジメントは、呼吸困難をはじめとした身体的要因、病気の認識や不安などの心理的要因、社会的役割の喪失や社会的孤立などの社会的要因、生きる目的や意味などの実存的要因の影響を受けています。これらの要因をアセスメントした上でセルフマネジメントを支援します1)。 セルフモニタリングの活用 セルフモニタリングとは、症状や測定などによって得られた客観的・主観的データを記録し、そのデータの意味を疾患や症状に関する知識と合わせて解釈し、自分の状態に気づくこととされています2),3)。常に医療者がいる環境ではない自宅では、セルフモニタリングによるセルフマネジメント方法を身につけることが有効だといわれています。患者さんに対して、急性増悪をできるだけ予防し、病状が安定した状態で長く過ごすためのセルフマネジメントの必要性の説明するとともに、可能な限り療養日誌の活用を推奨しています。 療養日誌は、体調の変化(普段のバイタルサイン、脈拍やSpO2の値)、症状の変化(息切れの程度、咳嗽や喀痰の量、喀痰の色の変化など)、日常生活の変化(睡眠の程度、食欲や入浴、外出の有無など)、頓用薬使用の有無を記載、またはチェックを付けられるようになっています。また、自由記載欄もあり、患者さん自身の気持ちや気づきも記載してもらいます(図3)。 療養日誌は、医療者とともに内容を確認できることが大きなメリットです。医療者からのフィードバックを受けることで、増悪の兆候など患者さんの気づきが促され、早期受診につながります。患者さんの自己効力感や自己コントロール感の維持・向上にも有効です。また療養日誌は、患者さんと医療者だけでなく、病院や在宅の医療者間でのケア継続のツールとしても使用できます。自由記載欄に訪問看護師や外来看護師が聞きたいことや伝えたいことを記載し、患者さんの情報を共有することで連携を可能とします。 図3 当センターで使用している療養日誌 自己効力感向上への支援 HOT導入時では患者さんの手技習得がうまくいかないこともあります。また、HOTを継続する中では疾患の進行に伴う呼吸困難の増強などが原因で自分でできることが少なくなったり、社会的な役割喪失などで自己効力感の低下を招いたりすることがあります。セルフマネジメント支援において、自己効力感の維持・向上の支援はとても重要です4),5)。 自己効力感を高める情報源には成功体験、代理的体験、言語的説得、生理的・情動的状態の4つがあり、特に成功体験が重要です(表1)。うまくできていることを称賛し、小さなことでも成功体験として捉えてもらうようなかかわりが必要です。HOT患者さんにおいて自己効力感を高めることは、HOTを「望む生活を送るための大切な資源」として捉えてもらうことにつながります。加えて、病気や治療を自分自身で管理できるという自己コントロール感が生まれ、QOLの向上につながります。 表1 自己効力感を高める情報 文献4)-6)を参考に作成 執筆:平田 聡子地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター慢性疾患看護専門看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 呼吸ケアセンター 副センター長編集:株式会社照林社 【参考文献】1)ケイト・ローリッグほか著,日本慢性疾患セルフマネジメント協会編,近藤房恵訳.「自己管理って何だろう」,『病気とともに生きる 慢性疾患のセルフマネジメント』,日本看護協会出版会,東京,2008:9-11.2)Wilde MH,Suzanne G:A concept analysis of self-monitoring.J Adv Nurs 2007;57(3):339-350.3)森菊子.「セルフマネジメント教育」.みんなの呼吸器Respica 2019;17(2):293-297.4)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 酸素療法マニュアル作成委員会,日本呼吸器学会 肺生理専門委員会編.「酸素療法と看護」,『酸素療法マニュアル(改訂版)』,メディカルレビュー社,東京, 2017:111.5)竹川幸恵.「看護ケアの実際 看護介入」,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター編,石原英樹,竹川幸恵,荻野洋子監修,『在宅酸素療法ケアマニュアル』,メディカ出版,東京,2012: 238-239.6)安酸史子,鈴木純恵,吉田澄恵編.『セルフマネジメント 第4版』(ナーシング・グラフィカ 成人看護学),メディカ出版,大阪,2022.

第2回みんなの訪問看護アワード 訪問看護の魅力
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インタビュー 会員限定
2024年5月14日
2024年5月14日

第2回みんなの訪問看護アワード 訪問看護の魅力 特別トークセッション 後編

2024年3月9日(金)に、銀座 伊東屋 HandShake Lounge(東京都中央区)にて開催した「第2回 みんなの訪問看護アワード」。エピソードを投稿された3人の受賞者のみなさんと、東京医科歯科大学 国際健康推進医学 非常勤講師 長嶺由衣子さんによるトークセッションの前半では、投稿してくださったエピソードの背景を深掘りしました。後半では、訪問看護の領域で働くことを選んだ経緯や、この仕事の魅力、それを周囲に広める方法などについてお話しいただいた内容をお送りします。 >>前編はこちら第2回みんなの訪問看護アワード 投稿のきっかけは? 特別トークセッション 前編 【ファシリテーター】長嶺 由衣子(ながみね ゆいこ)さん東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師【登壇者】白﨑 翔平(しらさき しょうへい)さんいま訪問看護リハビリステーション(大阪府)「みんなの訪問看護アワード2024」入賞投稿エピソード「秋ひまわりプロジェクト:外出のきっかけづくり」新田 光里(にった あかり)さん@(あっと)訪問看護ステーション(東京都)「みんなの訪問看護アワード2024」入賞投稿エピソード「100年ぶりに入浴したU子さん」小野寺 志乃(おのでら しの)さん公益財団法人 宮城厚生協会 ケアステーション郡山「みんなの訪問看護アワード2024」入賞投稿エピソード「余命を伝えないということ。」 ※以下、本文中敬称略※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに構成しています。 「次のチャレンジ」を提供したい 長嶺:ここからは、訪問看護の領域で働くことを選んだ経緯などを伺おうと思います。白﨑さんは作業療法士として、なぜ訪問看護の領域で働いていらっしゃるのでしょうか。 白﨑: 僕は、社会人1年目から救命救急センターの重症の患者さんが多くいらっしゃる現場で働きました。そこでは、患者さん本人が将来に希望を持てず、リハビリをやめてしまい、何かを諦めてしまう現状を度々目にしてきたんです。 働き始めて3年ほど経ったある日、バイクの事故に遭った少年の、次の病院に移るまでのリハビリを担当することになりました。ある日病室に行ったら、毎週彼が読んでいた少年漫画雑誌が置いてなかったんです。聞けば、「今後、治療費がかかるし、自分で買いに行けないからやめた」と。思わず「それはダメだ」と言いました。「これからリハビリが待っているのに、毎週読んでいた漫画を読むことすら諦めちゃだめだよ」と。それから僕は、毎週自分が買っていた漫画雑誌を届けるようにしました。彼はどう思ったか分かりませんが、その時に「諦めない」というか、「次のチャレンジを提供できる」セラピストになろうと思ったんです。 病院を退職した今から8年ほど前に、無謀なチャレンジをしてみました。新大阪から東京まで新幹線で行き、東京駅で車椅子を借りて、今私たちがいる銀座まで車椅子に乗って来てみたんです。休日だったので歩行者天国でしたが、エレベーターから降りる時や、道中を進んでいるときに、うまく車椅子を操作できず、くるりと回ってしまったり、歩行者の靴やバッグに車椅子が当たりそうになったりしました。そんなチャレンジにワクワク、ゾクゾクしている自分がいて、こんな気持ちを患者さんたちに提供できるセラピストになりたいと再確認しました。 その後、外出介助のボランティア団体を発足し、花見や町歩きツアーなどを開催し、色んな状況の方を外出につなげることにチャレンジしました。そのころから地域と密着した職場で働きたいなと思い、訪問看護ステーションに転職しました。 長嶺: 今までもさまざまなことにチャレンジしていらっしゃるんですね。白﨑さんの思いとやりたいことがつながって、今に至るのだということがよくわかりました。新田さんはいかがでしょうか。  新田: 子どものころ、病弱で入退院を繰り返していた影響で、看護師に憧れていました。高校生のときに家で救急車を呼んだことがあり、救急隊員の方が活躍されている姿を見て、救急救命士になろうと思いました。でも、当時私が住んでいた岩手県盛岡市には救命救急士の養成機関がなく、まずは看護師になってから先の事を考えようと思ったんです。 その後、看護師資格を取得して大学病院で働き、結婚し、満を持して救命士の夜間学校に行きました。仕事と勉強を両立させるために、知人が紹介してくれた夜勤がない訪問看護で働くことに。救急要請先は自宅が多く、超高齢社会では高齢者が運ばれることも多いだろうと思ったので、高齢者の日常を見てみたいという思いもありました。その後、救命士の資格を取得し、救急病棟で働いたんです。 長嶺: なぜ訪問看護師に戻られたのですか? 新田: ICUに慢性心不全の80代のおばあさまが運ばれてきたことがきっかけです。先輩が「この人は入退院を繰り返しているんだよ、困っちゃうよね」と言った時、「患者さんがどういう生活をしているのかを聞き取りし、生活改善の指導をすれば、救急車で運ばれることがなくなるのでは」と思いました。そこで在宅看護の目線で聞き取りをすることに。しかし、思った以上に時間がかかってしまって…。案の定、先輩に叱られてしまいました。 反省する一方で、救急病棟の「ミッションを次々にクリアしていく」働き方に違和感を覚えるとともに、在宅目線を持っている自分に気づきました。在宅で丁寧に利用者さんと関わっていく働き方のほうが、自分の性格には合っているし、コミュニケーション力も発揮できそうだと思ったんです。それ以降、尊敬する所長のもとで、14年間訪問看護を続けています。 長嶺: ありがとうございます。「自分が」この仕事をやりたいという思いから、「利用者さんのために」やりたいという気持ちに変化していったのですね。このような内面の変化が医療職の成長の大切な部分だと思っています。小野寺さんはいかがでしょうか。 小野寺: 看護学生時代から急性期の現場に苦手意識がありまして。バリバリ働いている上に人間関係のストレスもあるという話を聞くと、なおさら希望しようと思えませんでした。 訪問看護に興味を持ったきっかけは、看護学生のときの終末期の実習で、胃ろう、認知症、末期がんのおじいさんを担当したことです。その際、リハビリが組み込まれていることに疑問を感じました。なぜ末期なのにリハビリが必要なんだろうと。でも、理学療法士が患者さんのリハビリを担当する様子を見学したとき、歩けなかったおじいさんが歩いていたことにびっくりしたんです。 そこで初めて、患者さんが今持てる力を最大限活かすことがリハビリなんだと気づき、リハビリ科に就職しました。職場でも車椅子だった人が歩けたり、寝たきりの人が車椅子になったりなどリハビリで患者さんが力を発揮した姿を見ていると、自宅に帰った後の生活はどうなんだろうと、ふとその先が気になったんです。そこで、23歳で訪問看護の現場に飛び込んでみました。 長嶺: 飛び込んでみて、どうですか。 小野寺: 訪問看護の領域で働く看護師さんは、「病院でバリバリ働いた経験がある人」というイメージがあったので、経験が浅い私はとても不安でした。所長や主任からも、「こんな若い看護師が来ると思っていなかったので、どのように指導していいのか、最初は怖かったんだよね」と言われました。でも、何度も何度も同行訪問をしてサポート・指導してもらい、今では看護学生の指導を任せてもらうようになりました。 訪問看護はさまざまな疾患を学ぶ必要がありますが、赤ちゃんから100歳までの幅広い年齢層の方と関わることができる今の職場は、とても楽しいです。自分よりも若い看護師がこの職場に飛び込んできたときに、しっかり指導できるようになりたいと思っています。 命の教育が訪問看護の理解につながる 長嶺: 素敵なお話をありがとうございます。訪問看護のやりがいや魅力を一言でいうと、どんな言葉が出てくるでしょうか。 白﨑: 「ホスピタリティを発揮できる」ことですね。 新田: 「看護師の資格を最大限活かせる」ことでしょうか。 小野寺: 単純に、利用者さんやご家族から「ありがとう」と言われることが何よりのやりがいに感じます。 長嶺: ありがとうございます。訪問看護師は看護師全体の5%ぐらいですが、この仕事の魅力をどうすれば広めることができ、訪問看護の現場で働きたいと思う人が増えるでしょうか。 白﨑: こうしたイベントをたくさん開催していただけると、表に出てこない訪問看護の仕事の魅力が広まるのではないかと思います。今回参加させていただいて、僕自身とてもモチベーションが上がりました。そのモチベーションを持って、さらに新たなことにチャレンジすれば、もっとこの仕事が注目されるかなと思いました。 新田: 子どものころから看取りも含めた「人が亡くなる過程」を通じて命の大切さの教育をしていくと、知識が増え、思考が広がり、訪問看護の仕事が広まって、訪問看護師に対する捉え方も少し変わってくるのではないかなと思っています。看取りについて公に話すことをタブー視される風潮がありますが、子どものころからの教育でそれも変わってくると思います。 小野寺: 看護学校の同級生の中で訪問看護師として働いているのは、把握している限り私だけです。医療従事者ではない友人からは、「どういう仕事?」と聞かれることもあります。訪問看護師のインタビューをSNSやネットで発信し続けると、目に留まりやすく、認知度も上がるのではないかなと思いました。 長嶺: ありがとうございます。小野寺さんの事例を伺っていると、訪問看護師は若いころからチャレンジできる仕事であることがわかりますし、新田さんのお話からは、訪問看護の現場で働いてから救命救急士になるキャリアチェンジもあるとわかりました。どんなキャリアからスタートしてもいいですよね。そのキャリアの一つとして、訪問看護という仕事がもっと選ばれればいいなと思います。最後に、今後の抱負を一言ずつ教えていただいてもよろしいでしょうか。 白﨑: 1年にひとつ、新しいことにチャレンジしようと考えています。チャレンジすることを見つけるのが大変ですが、見つけることを諦めないように続けていきたいです。 新田: 目の前の仕事に一つひとつしっかりと取り組み、継続していきたいと思っています。 小野寺: 私も、日々の訪問を一つひとつ大切にして、利用者さんから「あなたが来てくれてよかった」と思ってもらえるような訪問看護師になりたいと思います。 長嶺: ありがとうございました。色々と考えさせられたり、ほっこりしたりといったお話が盛りだくさんで、素敵な時間でした。会場にいる皆さんも、それぞれのステーションに戻って、同僚たちの話を聞き合うようなセッションをやってみてもいいかもしれませんね。今日は本当にありがとうございました。 取材・執筆:高島 三幸編集:NsPace編集部

第2回 みんなの訪問看護アワード 投稿のきっかけは?
第2回 みんなの訪問看護アワード 投稿のきっかけは?
インタビュー 会員限定
2024年5月7日
2024年5月7日

第2回みんなの訪問看護アワード 投稿のきっかけは? 特別トークセッション 前編

2024年3月9日(金)に、銀座 伊東屋 HandShake Lounge(東京都中央区)にて開催した「第2回 みんなの訪問看護アワード」表彰式。エピソードを投稿された方をはじめとしたゲストの皆さまに全国からお越しいただき、表彰、特別トークセッション、懇親会などで盛り上がりました。ここでは、特別トークセッションの内容をピックアップしてお届けします。 ファシリテーターに東京医科歯科大学 国際健康推進医学 非常勤講師 長嶺由衣子さんを迎え、エピソードを投稿した背景や、訪問看護の領域で働くことを選んだ理由、この仕事の魅力などを、3人の受賞者の皆さまにお話しいただきました。前編では、エピソードを投稿したきっかけやその背景を深掘ります。 【ファシリテーター】長嶺 由衣子(ながみね ゆいこ)さん東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師【登壇者】白﨑 翔平(しらさき しょうへい)さんいま訪問看護リハビリステーション(大阪府)「みんなの訪問看護アワード2024」入賞投稿エピソード「秋ひまわりプロジェクト:外出のきっかけづくり」新田 光里(にった あかり)さん@(あっと)訪問看護ステーション(東京都)「みんなの訪問看護アワード2024」入賞投稿エピソード「100年ぶりに入浴したU子さん」小野寺 志乃(おのでら しの)さん公益財団法人 宮城厚生協会 ケアステーション郡山「みんなの訪問看護アワード2024」入賞投稿エピソード「余命を伝えないということ。」 ※以下、本文中敬称略※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに構成しています。 宮城・東京・大阪の受賞者が登壇 長嶺: はじめまして、長嶺と申します。本日は皆さまにお話を伺えることを楽しみにしていました。いろいろと深掘りしていきたいのですが、まずは、訪問看護歴と簡単に自己紹介をお願いします。 小野寺: 「ケアステーション郡山」で働いている小野寺志乃と申します。郡山というと福島を思い浮かべる方が多いと思いますが、宮城県仙台市の郡山から参りました。1年8ヵ月ほど病棟で勤務したのち、早くから経験を積みたいと思って、組織内で異動して3年前から訪問看護師として働いています。本日はよろしくお願いします。 新田: 東京都立川市の「@(あっと)訪問看護ステーション」で働く新田光里です。看護師歴は20年ほどで、訪問看護師歴は14年を超えました。救急救命士として働きたいという思いもあったのですが、色々あって今は訪問看護師として、毎日自転車で利用者さんのお宅をまわっています。投稿エピソードに書ききれないほどの濃い日々を過ごし、利用者さんから学ばせていただいています。本日はよろしくお願いします。 白﨑: 大阪府の「いま訪問看護リハビリステーション」で作業療法士をしている白﨑翔平です。看護師である母の勧めで作業療法士の資格を取得し、現在13年目です。社会人1年目は三次救急に興味があったので病院で働き、ICUや病棟の看護師さんに色々と教えていただきました。20代半ばで外出介助のボランティア団体を立ち上げていて、こうした経験が今回のエピソードにもつながっていると思います。よろしくお願いします。 雑木林をひまわり畑に!利用者さんが外出するきっかけづくり 長嶺: ではまず、皆さんのエピソードをそれぞれ深掘りしていきましょう。白﨑さんから、このエピソードを投稿しようと思ったきっかけを教えてください。 白﨑: はい。今回の「秋ひまわりプロジェクト」でも協力してもらった同僚の訪問看護師さんに、「みんなの訪問看護アワード」の存在を教えてもらいました。本当は通院以外で外出しない利用者さんの外出するきっかけになればと思って「ひまわり喫茶」を企画していたんですが、残暑の影響でひまわりの開花が早く、実現できず残念に思っていたので…。そういった気持ちを昇華するためにもすすめてくれたんです。 長嶺: 白﨑さんが残念がっていたのが、きっかけだったのですか(笑)? 白﨑: そうですね(笑)。「ひまわり喫茶」をどうしてもやりたくて、企画書を書いて社長に提出し、予算もつけてもらっていたんです。ひまわり畑を作って、利用者さんにはひまわり畑を眺めながら担当の療法士や看護師との会話を楽しんでほしいと考えていました。テントを用意し、利用者さんへの招待状も全部送り終えていたんです…。準備万端だったので、中止になってとても残念でした。 長嶺: 雑木林をひまわり畑にされたんですよね。きっかけや経緯をもう少し詳しく教えていただけますか。 白﨑: きっかけは、一人の利用者さんとの出会いです。外出できるぐらい体調が落ち着かれたのですが、出かける目的がないから外出されていないとのこと。お花が好きな方だったので、お花畑があれば「お花を育てる役割」ができ、水やりをしに行くという外出目的が生まれると思ったんです。事務所の側にある雑木林をお花畑にしたいと思い、少しずつ整備していきました。 長嶺: お花畑を作ることが利用者さんの社会参加につながると考えたんですね。行動に移されたことが素晴らしいと思うのですが、一人で実行されたのでしょうか。 白﨑: 最初は、休日に雑木林へ一人で行って伐採していました。でも、土日担当の看護師さんに、徐々にバレ始めまして(笑)。そこから、その看護師さんが草刈りを手伝ってくれるようになり、他のスタッフもイベント企画に協力してくれるようになりました。 長嶺: 訪問看護ステーションが地域の資源や拠点となるんだと改めて教えてもらえるエピソードですね。純粋に、「すごいことをする人たちがいるんだな」と感動しました。ありがとうございます。 1年かけて信頼関係を築き、数年ぶりの入浴を実現 長嶺:続きまして、新田さんにエピソードを投稿したきっかけを教えていただきましょう。 新田:所長から回覧された昨年の受賞エピソード集を見たときに、今回のエピソードに登場するU子さんの笑顔が浮かんだんです。92歳で認知症があって、いろいろと看護は大変だったのですが、エピソードを書くことで、当時の気持ちをほかの看護師さんにも共有できる機会になると思いました。U子さんとのエピソードは本当にたくさんあるので、400字にまとめるのは大変でしたが、訪問看護のリアルさが伝わればいいなと思いながら書きました。 長嶺: 特にエピソードの最後の部分は臨場感が溢れていて、看護されているリアルな光景が思い浮びました。新田さんは、当初入浴を受け入れてくれない認知症のU子さんに憤りを感じていたということでしたが、憤りというのは、こうあるべしというイメージを今までの経験からあてはめてしまう専門職だからこそ沸き起こる感情だと思います。所長さんの助言が思考の転換になったんですよね。 新田: はい。以前の私の職場は救急部門で、当時は「ミッションをクリア」していくことが求められていました。その名残もあって、「皮膚トラブルを解消するために、どうしたら入浴してくれるか」と必死だったんです。しかし、一生懸命になればなるほど、U子さんには受け入れてもらえませんでした。まずは私の顔を認知してもらおうと、私の顔写真をお仏壇の隣に置いたり、低栄養で低ナトリウム血症があったので昼食を買っていってU子さんのお宅でランチしたり、いろいろとチャレンジしました。食事を一緒にすれば仲良くなれるかな、とも思ったんですよね。 こういった取り組みによってU子さんとの距離は近づいていきましたが、なかなかお風呂に入っていただくことはできませんでした。そんなとき所長から、「まず、あなたがU子さんを好きにならないとね」と助言をもらい、ハッとしたんです。入浴してくれないし、こだわりが強いし、私はU子さんを苦手になっているのかもしれない…と。それからは、U子さんの素敵なところに目を向け、U子さんの好きな「リンゴの唄」を一緒に歌ったり、戦時中の体験談を傾聴し労いの言葉をかけたり…といった関わり方を続けました。そして、1年ほど経ったころに、ようやく入浴につながったんです。所長は「利用者さんを大切に思いなさい」ということを、教えてくれたのだと思います。 長嶺: ありがとうございます。一緒に食事をして距離感が縮まるというのは、私も経験があります。入浴に成功した後、どうやって継続していくのかも大事であり、かつ難しい点だと思いますが、後日談はありますか? 新田: 「ピンクの服を着た新田が来ると、お風呂に入れる」という流れができて、しばらくは入ってくださっていたんです。ですが、長男が風邪をひいて私が仕事を休まないといけなくなって、別の看護師に行ってもらったら、それをきっかけに入浴されなくなって…。そのままご自宅で、お一人で旅立たれました。ルーティンが少しでもズレてしまうと、継続できなくなる認知症高齢者の難しさや厳しさについても、U子さんに教えていただきました。 長嶺: 同じ人じゃないと、継続できなかったということですね。受賞された時の周りの反応はいかがでしたか? 新田: 「よかったわね」と所長は喜んでくれましたし、受賞を報告した同僚の皆さんも「U子さんのお話を書いたなら賞をもらうよ。だって一生懸命頑張って関わっていたじゃん」と言って喜んでくれました。U子さんはうちのステーションの中でも名物おばあちゃんだったので、苦労も多かったですが皆に愛されていたのだなとも感じました。 3年前の3月11日に天国へ旅立ちましたが、U子さんはきっと、「私のおかげで受賞したのよ!」と言っていると思います(笑)。私も「U子さんのおかげでこんなに華々しいところに来れたよ!」と報告したいです。 長嶺: ありがとうございます。素敵なエピソードでした。 ご家族から「余命を伝えないでほしい」と頼まれたときのアプローチ 長嶺:続いて訪問看護歴3年目の小野寺さんです。エピソードを投稿しようと思ったきっかけを教えていただけますか。 小野寺: 施設内のスタッフへの連絡ボードを見て、投稿エピソードの募集の存在を知りました。「何か投稿しようかな」と思ったときに浮かんだのが、昨年の初夏に出会った60代で末期がんの男性利用者さんでした。「余命は伝えないでほしい」というご家族の要望がある中で、次第に具合が悪くなっていくご本人から「いつまで生きられるのか」と質問され、どう答えればいいのかわからず悩みました。訪問するたびに「帰りたい…」という気持ちになってしまって…。一番つらいのは利用者さんと支えるご家族なのに、私がこんな状態ではダメだと思いました。 そこで先輩の訪問看護師にどんなふうに声をかければいいのか相談したところ、「ただ話を聞いてあげるのも看護だよ」と助言をもらったんです。それ以降、模索しながら自分なりにコミュニケーションを取るようにしました。ご本人はつらかったと思いますが、そんな中でもご家族と温かい時間を過ごされていたのがとても印象的で、このエピソードを選んで投稿しました。 長嶺: 訪問看護歴に関わらずかもしれませんが、「余命を伝えない」という葛藤に皆さんも直面したことがあるのではないでしょうか。利用者さんが死期を悟り、「会いたい人がいる」と言われたことを知ったとき、何を思いましたか。 小野寺: 医師からあと2、3日が山になると言われた時から緊急コールが頻繁に鳴るようになり、「いよいよか」と心の準備をしていました。そして、利用者さんは家族・親戚に囲まれて息を引き取られました。翌日聞いた話では、亡くなる日の朝に「会いたい人に会わせてくれ」とおっしゃっていたそうです。余命は伝えなかったけれど、自分のことは自分が一番分かるんだろうなと思いました。自分で悟り、やりたいことをやりたいという気持ちになったんだろうなと。 長嶺: ありがとうございます。私は、ご本人の希望があれば余命を伝える派です。ただ、ご本人とご家族で伝えて欲しいかどうか意見が分かれることもあります。日本の場合、ご家族の意向を尊重する傾向があり、患者さんの意向なのに本人がなぜ知ることができないんだと思うこともあります。もちろん、ご家族から「余命を伝えないで欲しい」といわれれば尊重しますが、ただ、「ご本人が知りたいと言われたら、私は恐らく伝えると思います」とも言います。 絶対に伝えたいというわけではなく、本人の意思をどうすれば尊重できるのかという考えが根底にあるからです。私は、医師だから余命を伝えることができるケースがあるのですが、「余命を伝えないでほしい」とご家族から言われたとき、看護師の皆さんはどのようなアプローチをされているのでしょうか?手を挙げてくださった、受賞者の鳥居さんはいかがでしょう。 鳥居: 私も同じような経験があります。看護師は余命を言えません。その代わりに体の変化を伝えていくようにしています。「徐々に寝ている時間が増えてきますよ」「飲み物を飲めなくなってきますよ」といった体の変化を伝えていくと、ご自分で余命を悟られる方もいらっしゃいました。 長嶺: 言い方を変えながら、伝えていくということですか。 鳥居: そうですね。つい最近、お看取りした90代の方も同じような状況でした。ご本人は死期を悟っていたようで、「どうしてそのように(死期が近いと)思われるのですか?」と聞くと、「〇〇ができなくなってきたし、最近、俺、よく寝ているんだよな」と。「最期は苦しいのか?」「どんなふうになるんだ?」と私に質問されたので、「お休みになっているときはつらいですか」と聞き返したら、「いや。俺は寝ている時間に、そのまま逝くのかな」と話されていました。その後、吐血をするなど大変でしたが、ご家族にも死への準備教育をしていたので、「吐血をしたのですが、事前に聞いていたので慌てずに済みました」とおっしゃっていただき、最後までご自宅で介護され、看取ってくださいました。28年間訪問看護師をやっていると、余命を伝えないでとご家族から頼まれた経験はたくさんあります。でも、ほとんどの場合、ご本人はわかっていたように思います。 * * * 次回は、訪問看護の世界に身を置いた経緯や訪問看護の魅力を世の中に伝えるアイデアなどについて語り合います。>>後編はこちら第2回みんなの訪問看護アワード 訪問看護の魅力 特別トークセッション 後編 取材・執筆:高島 三幸編集:NsPace編集部

2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化
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特集
2024年5月7日
2024年5月7日

2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化

診療・介護・障害福祉サービスの各報酬にかかる、個別の改定ポイントを解説。今回は、訪問看護における医療DXにかかる新加算や機能強化型訪問看護ステーションの評価アップ、多様なニーズへの対応、既存加算における各種評価の適正化などを取り上げます。 医療DXへの対応 「訪問看護医療DX情報活用加算」が新設 居宅同意取得型のオンライン資格確認等システムを通じて利用者の診療情報を取得し、その活用によって質の高い訪問看護を提供した場合について、「訪問看護医療DX情報活用加算」が新たに設けられました。月1回に限り50円(5点)が加算されます。 「居宅同意取得型」とは、利用者の自宅でオンラインの資格確認(マイナンバーカードによる本人確認にもとづく資格情報の取得)や薬剤情報の提供に関する同意を、デジタル端末で得ることをいいます。 施設基準は以下の通りです。 施設基準1. 電子情報処理組織の使用による請求(オンライン請求)を行っていること2. 電子資格確認を行う体制を有していること3. 事業所の見やすい場所に、以下の事項を掲示していること ● 医療DX推進の体制に関する事項 ● 上記体制により,質の高い訪問看護を実施するための十分な 情報を取得していること ● 上記の情報を活用して訪問看護を行っていること4. 3の事項について、原則としてウェブサイトに掲載していること なお、4の基準は2025年5月末までの経過措置が設けられています。 オンライン請求に伴う指示書様式の見直し 医療DXに関しては、2024年6月から訪問看護レセプトのオンライン請求が始まります。これを踏まえ、訪問看護指示書(精神科訪問看護指示書含む)の記載事項や様式が見直され、「主たる傷病名」にそれぞれ「傷病名コード」を付すことが原則となりました。 医師の死亡診断に関しICTを使った補助も評価 業務のデジタル化という点では、在宅ターミナルケア加算においてICTを活用した新加算「遠隔死亡診断補助加算(1回150点)」が加わりました。在宅での利用者の看取りに際し、医師が行う死亡診断を、訪問看護師がICTを活用して遠隔で補助した場合の評価です。利用者が離島などに在住し、死亡時に医師の訪問が難しいケースを想定したものです。 対象は、在宅ターミナルケア加算を算定している利用者。その利用者に対し、ICTを用いた在宅での看取りに係る研修を受けた看護師が、医師の指示のもとで死亡診断の補助を行うことが要件です。 機能強化型訪問看護ステーションの評価手厚く 今改定では利用者ニーズへの即応性に関する見直しも行われています。 1つめは、機能強化型訪問看護ステーション(以下、機能強化型)に関する評価です。機能強化型は、24時間の対応体制や手厚いターミナルケアの実績など、重度化する在宅のニーズに応える体制を整えているのが特徴です。今改定では、この機能強化型の訪問看護管理療養費が1~3の各区分ですべて引き上げられました。 機能強化型訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合) 区分1では、「専門研修を受けた看護師の配置」が「望ましい(推奨)」から「必須」に格上げされています。 なお、2024年3月末までに区分1にかかる届出を行っている事業所は、上記の格上げ要件を満たさなくても、2026年5月末までは区分1の基準を満たしているとみなされます。 機能強化型以外も初日の訪問は引き上げ 機能強化型以外の事業所による「訪問看護管理療養費」についても、月の初日の訪問は以下のように引き上げられました。 機能強化型以外の訪問看護管理療養費(月の初日の訪問) また、算定留意事項には以下の内容が加わりましたので、確認しておきましょう。 訪問看護管理療養費の新たな留意事項(一部意訳)災害等が発生した場合でも、訪問看護の提供を中断させないこと。中断しても可能な限り短期間で復旧させ、利用者への訪問看護の提供を継続的に実施できるよう業務継続計画(BCP)を策定し、必要な措置を講じていること。 介護保険では業務継続にかかる取り組みは、2024年度から完全義務化されています。医療保険でもBCP策定や研修・訓練の実施が問われたことになります。 2日目以降の訪問は? 適正化の細かい基準に注意 一方、2日目以降の訪問は、報酬上の評価がニーズへの対応に見合っているかが精査された上で「適正化」が図られました。 単価は2区分に再編され、区分ロ(訪問看護管理療養費2)については引き下げとなりました。 訪問看護管理療養費[月の2日目以降の訪問(1日につき)] 訪問看護管理療養費1の基準は以下の通りです。 【訪問看護管理療養費1の基準】⇒以下の(1)、(2)にともに該当していること(1)同一建物居住者(※1)が7割未満(2)以下のAまたはBのいずれかに該当することA. 特掲診療料の施設基準等別表の7、8(※2)に該当する者への訪問看護について相当な実績を有することB. 精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者のうち、GAF尺度(※3)による判定が40以下の利用者の数が月に5人以上 ※1 同一建物居住者…対象となる利用者と同一の建物に居住する他の者に対して、同一日に指定訪問看護を行う場合※2 特掲診療料の施設基準等別表の7、8は以下のリンクを参照▼厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0※3 GAF尺度…以下のリンク先を参照▼厚生労働省「GAF(機能の全体的評定)尺度」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/dl/s1111-2a.pdf 上記の(1)に該当しない、あるいは(2)のA・Bいずれにも該当しない場合は、訪問看護管理療養費2の算定となります。なお、2024年3月末時点で指定を受けている事業所では、2024年9月末までは、上記の要件を満たしていなくても訪問看護管理療養費1の算定が可能です。 「緊急訪問看護加算」も適正化により減算 サービス提供実態によって「適正化」が図られた評価には「緊急訪問看護加算」もあります。同加算は(1)利用者・家族の求めに応じ、(2)主治医の指示にもとづき、(3)緊急の訪問看護を行った場合に算定されるものです。 ただし、訪問が頻回となった場合、それが「緊急訪問として適切か」が問われました。そこで、日数に応じて「月15日以降」の緊急訪問看護に減算が適用されます。 緊急訪問看護加算 算定要件も新たな規定が加わりました。それは、記録の明確化と算定理由の記載です。 緊急訪問看護加算の新基準(意訳)● 緊急に指定訪問看護を実施した場合は、その日時、内容及び対応状況を訪問看護記録書に記録すること● 緊急訪問看護加算を算定する場合には、同加算を算定する「理由」を、訪問看護療養費明細書に記載すること 医療ニーズが高い利用者の退院支援 ニーズへの即応性に関し、さらに注目したいのが次の2つです。(1)医療ニーズの高い利用者の退院支援(2)母子への適切な訪問看護の推進 医療ニーズの高い利用者の退院支援 具体策は、「退院支援指導加算」の要件見直しです。同加算は、利用者の退院にあたり、訪問看護師が退院日に「在宅での療養上必要な指導」を行った場合に算定されます。 変更点は「長時間の訪問を要する者への指導」に関する要件です。改定前は、「1回の退院支援指導が90分超」のみ算定できましたが、ここに「複数回の退院支援指導の合計が90分超」も算定可能となりました。この見直しは、利用者の状態によって長時間指導が難しい(頻回訪問による指導が望ましい)ケースがあるという実態に沿ったものです。 母子への適切な訪問看護の推進 母子への適切な訪問看護の推進には乳幼児の状態に応じた対応への評価と、ハイリスク妊産婦に対する支援の充実が示されています。 前者は、訪問看護基本療養費の「乳幼児加算」の見直しです。同加算は、6歳未満の乳幼児に訪問看護を行った場合に算定されますが、ここに対象者が超重症児や準超重症児などの場合の単価を引き上げた評価が新設されました。 一方で、従来区分については単価を引き下げ、訪問看護での対応ケースの重点化も図られています。 乳幼児加算の見直し ※(2)の別表第七、(3)の別表第八に関しては以下を参照▼厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0 後者の具体策は「ハイリスク妊産婦連携指導料」の要件追加です。同加算は、精神疾患を合併したハイリスク妊産婦への支援に向け、診療方針にかかる多職種カンファレンスを2ヵ月に1回開催した場合に算定されます。適用されるのは産科・産婦人科医院ですが、この多職種連携の対象に、患者を担当する訪問看護ステーションの看護師、保健師、助産師が加わりました。 利用者の尊厳保持にかかる2つの基準見直し 最後に、「利用者の尊厳保持」という観点からの訪問看護の運営基準上での見直しに注目します。 具体的には、(1)虐待防止措置、(2)身体的拘束の適正化の推進が定められました。(1)は、訪問看護の運営規程の中に「虐待の防止のための措置に関する事項」を盛り込むことが義務づけられ、(2)については具体的取扱い方針に以下の2つが盛り込まれました。 指定訪問看護の具体的取扱い方針の第15条より(要約)● 指定訪問看護の提供に当たっては、利用者または他の利用者等の生命・身体を保護するため「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」)を行ってはならない● 前号の身体的拘束等を行う場合には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況、「緊急やむを得ない理由」を記録しなければならない 上記の「緊急やむを得ない場合」とは、切迫性、非代替性(他に方法がないこと)、一時性の3つの要件を満たすことです。また、その要件の確認については、組織としての手続きを慎重に行う必要があります。個人の判断に任せてはいけないということに注意しましょう。 次回は、介護報酬上の改定点について取り上げます。>>次回記事はこちら2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保 ※本記事は、2024年4月9日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 医療DXの推進」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001219984.pdf2024/4/9閲覧○厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf 2024/4/9閲覧

フットケア・爪切りのお悩み解決/ケーススタディ編
フットケア・爪切りのお悩み解決/ケーススタディ編
特集 会員限定
2024年5月7日
2024年5月7日

フットケア・爪切りのお悩み解決/ケーススタディ編【セミナーレポート後編】

2024年1月19日に開催した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア~爪切りのお悩み解決!~」。これまで4,000人を超える方々にフットケアを提供してきた、「爪切りパチパチwako」代表の三浦和子さんに講師を務めていただきました。訪問看護の経験もある三浦さんに、フットケアの重要性や、在宅の現場でも実践できるテクニックを伺いました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、ケーススタディやフットケアを実践する際の心構えなどをまとめました。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちらフットケア・爪切りのお悩み解決/基礎知識編【セミナーレポート前編】 【講師】三浦 和子さん看護師/日本在宅フットケア普及協会 副理事長/爪切りパチパチwako 代表看護師として病院に勤務し、外来と訪問看護の両方を経験。同時にメディカルフットケアについて学び資格を取得。病院在籍中、延べ4,000名を超える患者さんに対し、爪切りを中心としたフットケアを実践。2023年に独立し、「爪切りパチパチwako」を設立。メディカルフットケア技術・ペディグラス巻き爪補正技術を活かし、病院や施設、在宅で足病予防のためのフットケアに取り組んでいる。 さまざまなケースにおける爪のケア ここからは、事例をもとにケーススタディを行います。 巻き爪、陥入爪の事例 【ケア前の状況】こちらの方は、爪が厚くて切れないという理由で長い間「三角切り」が習慣になっており、出血や化膿を繰り返していたそうです。足を拝見すると、親指の爪はストロー状に巻いていました。上記のケア前の写真はすでに一度爪切りを行った状態で、最初はもっと尖った爪でした。 また、爪の状態が悪いために親指で体重を支えられず、足の裏には500円玉くらいの胼胝(べんち)ができていました。かかとに体重をかけるため、かかとの角質もかなり多く認められました。 このような状態になってしまった原因は、巻き爪であるにも関わらず、窮屈な靴を長年履いていたこと。外反母趾により第二趾が母趾の爪を圧迫していたこと。そして、爪の三角切りによって巻き爪が重症化したことが挙げられます。 【ケアの内容と経過】角質除去や排膿、肥厚部を削るなどのフットケアを毎月実施。セルフケアを行う、足に合ったインソールを作成する、指の重なりを矯正するために「足指矯正の着圧靴下」を試すなどのアプローチも行いました。 ケアを始めてから爪の状態は徐々に改善が見られましたが、ときには巻き爪が戻ってしまうことも。そこで、不織布で除圧したり、巻き爪矯正プレートを使用したりしました。 10年以上フットケアを続け、現在は3ヵ月に1回ほどの頻度でケアをしていますが、状態はかなり改善しています(スライド右下の写真)。 角質増殖型の肥厚を伴う巻き爪の事例 【ケア前の状況】こちらの方は、角質増殖型の肥厚を伴う巻き爪にお悩みでした。原因は、「浮き指」で指に体重がかかっていないこと。爪は体重がかかったときに衝撃を吸収しながら広がるものなので、浮き指だと巻き爪が悪化します。 この方は、巻き爪で指に力を入れられないために運動不足になっており、足趾のトラブルが原因で膝や腰の痛みもありました。指に力を入れられないと、体重をうまく支えられず、バランス能力が低下し転倒リスクが高まる要因にもなります。 なお、巻き爪の原因は、爪の三角切り、きつい靴の着用、遺伝など複数考えられます。もともと爪の湾曲が強い方は、若いうちからの予防が重要です。巻き爪が悪化すると疼痛が出現する上、爪の陥入による炎症によって感染リスクが高まるので注意が必要です。 【ケアの内容と結果】この方の場合、爪甲の下で角質が増殖し、爪を押し上げて肥厚しているという特徴があったため、まずグラインダーで厚みを改善。その後、爪の下の角質をゾンデやグラインダーを使用して除去しました。そうして皮膚と爪を分けた上で、ニッパーで爪の中央にくさび状の切り目を入れ、そこから外に向かって少しずつカット。最後に、ヤスリをかけてなめらかにしています。 なお、この方には認められませんでしたが、異常な爪下の角質増殖や、増殖した角質の奥に赤や黒、茶褐色の点やくぼみが見られる場合は、イボの感染を疑います。その場合はケアをすぐに中止し、皮膚科を受診してください。 爪白癬、爪甲剥離の事例 【ケア前の状況】この方の爪には「爪白癬」が認められ、それに伴って表面の厚い部分が爪甲剥離しており、中爪は段差があってボロボロの状態でした。表面がなめらかでないために衣類や靴下が引っかかり、不快感や痛みが生じていました。 原因としては、夜間を含めて長時間靴下を履いていたことが挙げられます。処方された抗菌剤、軟膏を正しく塗布できていなかったことも悪化の理由でした。 【ケアの内容と結果】まずは爪の表面の段差をグラインダーでなめらかにし、インソールを作成しました。セルフケアとしては、入浴後に指の間や爪をキッチンペーパーで丁寧に押し拭きして水分をとり、軟膏を塗布してもらうように。そして、靴下を毎日交換してもらいました。 ケア後、爪表面がなめらかになって引っかかりが気にならなくなり、靴下を履かずに眠れるようになりました。 さらに、ケア開始から1年4ヵ月後には、親指の爪が指先を保護できるまでに伸びています。ご本人も「すごく歩きやすくなって、つまずくことも少なくなった」とお話しされていました。 足病変予防のためのポイント 冒頭でもお話ししたとおり、フットケアは足病の予防に効果的です。ぜひ以下のポイントを押さえて、在宅の現場で実践していただければと思います。 【フットケアで気をつけてほしいポイント】・爪と皮膚をしっかりと分け、爪切りで傷つけないよう注意する切るのが難しいときは無理をせず、応急処置としてヤスリをかけるのがおすすめです。・爪だけでなく、爪周囲の皮膚のケアも重要まずは、利用者さんに毎日足を見る習慣をつけてもらい、必要なケアをご自身でも少しずつ考えられるようサポートします。・足全体の環境を整えるためには保湿、保清、保護が必要 そして、ぜひ多職種で連携してケアプランを立て、みんなでケアを継続してほしいと考えています。誰かがひとりで頑張りすぎず、できることから始める。けれど、絶対に諦めない。チームでこれができれば、きっと利用者さんに喜んでもらえて、足病変を改善、予防できるフットケアを実現できると思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

梅雨時注意!カビやダニによる感染症の解説
梅雨時注意!カビやダニによる感染症の解説
特集
2024年5月7日
2024年5月7日

梅雨の時期の感染症に注意!カビやダニによる感染症の症状や予防法を解説

梅雨の時期は、湿度が高くなることでカビやダニが原因の感染症が増える傾向にあります。訪問先でも、利用者さんやそのご家族が皮膚のかゆみや原因不明の咳が続くといった症状を訴えることもあるでしょう。 この記事では、梅雨の時期に増えるカビやダニによる感染症の種類やそれぞれの症状、予防法などについて解説します。利用者さんやそのご家族に質問された際に回答できるように、基礎知識を身につけておきましょう。 梅雨や台風の季節はカビやダニが多く繁殖 高温多湿の梅雨や台風の季節は、さまざまなところでカビやダニの繁殖が活性化します。カビやダニの胞子は肉眼で見ることができないため、掃除や適切な食品の管理によって排除するしかありません。 カビは真菌と呼ばれる生物群で、酵母やキノコも真菌の仲間です。真菌は、人間と同様に核や細胞小器官をもつ真核生物で、糸状の菌糸部分から栄養や水分を吸収して成長し、成熟すると胞子を飛ばして繁殖。肉眼で確認できる大きさのコロニーを形成します。 味噌や醤油、お酒作りに使われる麹菌やパンを膨らます酵母菌(イースト菌)も有名な真菌類のひとつで、有機物を分解する役割を持ちます。人間の体内にも常在菌として存在しますが、一部の真菌が人に寄生・定着し、さまざまな病気を引き起こす原因に。特に免疫力や体力が低下しているご高齢者や訪問看護の利用者さんは注意が必要です。いずれも、湿度が高い環境で繁殖するため、梅雨の時期にトラブルが増える傾向にあります。 カビやダニにより生じる病気 カビやダニによる病気といえば、アレルギー性鼻炎・皮膚炎・結膜疾患などをイメージする方が多いでしょう。そのほかにも、次のようにさまざまな病気の原因となります。 真菌感染症 真菌感染症は、病原真菌が引き起こす感染症の総称で真菌との接触や侵入により生じます。表皮や粘膜に限局する表在性真菌症と深部臓器に真菌が感染する深在性真菌症に分けられ、表在性真菌症では、口腔カンジダ症やカンジダ皮膚炎、白癬(水虫・たむし)などが身近な病気として知られています。深在性真菌症は、アスペルギルス症やクリプトコッカス症などの重篤な病態を引き起こすことが多く、治療が難しいとされています。 脂漏性皮膚炎 脂漏性皮膚炎は、マラセチアという真菌によって皮膚に炎症が起きる病気です。マラセチアは皮膚に生息する真菌で、湿度が高い、皮脂が多いなどの要因で増加します。 水虫 水虫は、真菌の一種である白癬菌が皮膚の角質層に寄生し、かゆみや乾燥、水疱などを引き起こす病気です。白癬菌は高温多湿の環境で増加するため、梅雨の季節に靴の中が蒸れると発症リスクが高まります。 肺真菌症 肺真菌症は、真菌を吸い込むことによって発症する病気です。発熱や咳、痰、血痰、倦怠感、呼吸困難などの症状が現れます。症状が急激に進む場合もあるため、迅速な対応が求められます。 疥癬 疥癬は、ヒゼンダニが皮膚に寄生することで発症する病気です。人との肌の接触、服を介した間接的な接触を長時間続けると感染します。通常疥癬と角化型疥癬があり、それぞれ症状が異なります。通常疥癬の症状は丘疹と結節で、角化型疥癬は角質の増殖です。 カビやダニによる病気の予防法 カビやダニによる病気を防ぐためには、カビ・ダニを除去するとともに、繁殖しにくい環境を作る必要があります。次のように対策しましょう。 こまめに掃除する ダニやカビの繁殖を防ぐためにはこまめな掃除が必要です。できるだけフローリング材や合成皮革など、ダニが潜りにくい素材のインテリアを選びます。カーペットがある場合は定期的に洗濯し、十分に乾燥させてから使用しましょう。 掃除機を使用する際は、1平方メートルあたり20秒ほど吸い取ります。毛足の長いカーペットやラグなどは、毛足の流れに沿ったり逆らったりしながら丁寧に掃除機をかけましょう。 室内の湿度を60%以下に保つために、換気や除湿を行います。エアコンや除湿器の利用も有効です。家具は壁から少し離して配置し、収納スペースにはスノコを敷いて、空気の通り道を確保しましょう。 寝具やカーテンも定期的に洗濯し、晴れた日に干して清潔に保ちます。布団を外に干せない場合は布団乾燥機を使用しましょう。浴室や洗面所は常に清潔に保ち、カビの発生を防ぎます。水滴をこまめに拭き取り、換気を十分に行いましょう。 玄関や靴箱でも湿気対策が必要です。靴は日陰でよく乾かし、収納場所を換気します。長期収納する場合は汚れを落とし、保護クリームを塗ってカビの発生を防ぎます。 食品は適切に保管する ダニは開封した袋のわずかな隙間から侵入します。輪ゴムやクリップで閉じただけでは密閉性が低くダニが侵入するため、粉製品は早めに使い切ることが大切です。 世帯人数が少ない場合は使い切りパック(小容量品)の食材を利用すると、ダニの侵入を防ぎつつ食品ロスを減らすことができます。使い切れなかったものは密封容器に入れて冷蔵庫で保管すると、ダニの繁殖を抑えられます。 * * * 室内の換気や掃除をし、清潔な環境を維持することは、ダニやカビを発生・繁殖させないために重要です。ダニやカビによる感染症を防ぐために、利用者さんやそのご家族に食品管理や掃除にまつわるアドバイスをしましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:吉岡 容子医療法人容紘会高梨医院 院長東京医科大学医学部医学科を卒業後、麻酔科学講座入局。麻酔科退局後、明治通りクリニック皮膚科・美容皮膚科勤務。院長を務め、平成24年より医療法人容紘会高梨医院皮膚科・ 美容皮膚科を開設。院長として勤務しています。 【参考】〇日本呼吸器学会「呼吸器の病気」https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-09.html2024/3/5閲覧〇厚生労働省「日本紅斑熱について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522_00001.html2024/3/5閲覧〇東京都感染症情報センター「ライム病 Lyme disease」https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/lyme/2024/3/5閲覧

漫画「役割を求めて」訪問看護アワード
漫画「役割を求めて」訪問看護アワード
特集
2024年4月23日
2024年4月23日

大賞エピソード漫画化!「役割を求めて」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。大賞を受賞したのは、訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府)の岡川 修士さんの投稿エピソード、「役割を求めて」です。 今回は、大賞エピソードを『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』著者の広田奈都美先生に、全11ページの漫画にしていただきました。ぜひご覧ください! >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。 >>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者:岡川 修士(おかがわ しゅうじ)訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府)「役割を求めて」は、私一人でやったことではなく、加東さんの想いがあり、社長の井上の判断があり、ポジティブに受け入れてくれる仲間がいることで生まれたエピソードです。みんなでやってきたことを認めてもらったので、嬉しいの一言に尽きます。社長の井上からも「岡川さんがセンサーを働かせて相談してきてくれたことや、加東さんの雇用に関して反対するメンバーが一人もおらず、みんな心から喜んでくれたことでこのエピソードが生まれました。本当に会社をつくってよかったと思いましたし、人に恵まれて幸せです。そして、一つの結果としてこういった素晴らしい賞をいただけて、とても嬉しく思っています」というコメントをもらいました。ステーション一同、感謝の気持ちでいっぱいです。利用者さんの背景や状況は多岐にわたりますが、仲間と一生懸命頭をひねって知恵を出し合う時間は、とても尊いものだと思います。これからも頑張っていきたいと思います。 * * * 次回、「第3回 みんなの訪問看護アワード」の「つたえたい訪問看護の話」エピソードは、2024年秋から応募開始予定です。 [no_toc]

フットケア・爪切りのお悩み解決/基礎知識編
フットケア・爪切りのお悩み解決/基礎知識編
特集 会員限定
2024年4月23日
2024年4月23日

フットケア・爪切りのお悩み解決/基礎知識編【セミナーレポート前編】

2024年1月19日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア~爪切りのお悩み解決!~」を開催しました。講師を務めてくださったのは、これまで4,000人を超える方にフットケアを提供してきた、「爪切りパチパチwako」代表の三浦和子さん。訪問看護の経験もある三浦さんに、フットケアの重要性や、在宅の現場でも実践できるテクニックを伺いました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、フットケアの意義や目的、爪切りのやり方をまとめています。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】三浦 和子さん看護師/日本在宅フットケア普及協会 副理事長/爪切りパチパチwako 代表看護師として病院に勤務し、外来と訪問看護の両方を経験。同時にメディカルフットケアについて学び資格を取得。病院在籍中、延べ4,000名を超える患者さんに対し、爪切りを中心としたフットケアを実践。2023年に独立し、「爪切りパチパチwako」を設立。メディカルフットケア技術・ペディグラス巻き爪補正技術を活かし、病院や施設、在宅で足病予防のためのフットケアに取り組んでいる。 フットケアの利点と目的 フットケアは、足病変の改善や予防、転倒予防などに有効な身体ケアのひとつです。 私はこれまでに4,000名を超える方々の足をケアしてきましたが、ケアの後は多くの方が次のようなポジティブな変化を実感しています。 【フットケア後に寄せられた声の一例】・巻き爪が痛まなくなった、化膿しなくなった・靴下を脱いでも安心して眠れるようになった・足が軽くなった・つまずかなくなった・膝や腰が楽になった・外出が楽しくなり、気持ちが前向きになった 足の健康は体の健康であり、フットケアはQOLの向上や健康寿命の延伸、医療費の削減にも貢献できると考えています。フットケアとは、いつまでも歩き続けられるように足をねぎらうことなのです。 フットケアの基本 足の裏の皮膚には、毛根とセットの皮脂腺がなく、乾燥しやすいという特徴があります。さらに、高齢になると皮膚は脆弱になり、爪の乾燥傾向も顕著に。その上、靴や靴下を履くことで高温多湿の環境におかれ、菌も繁殖しやすくなります。また、靴や靴下が長時間密着することによって、足の裏にたくさんの汗をかくこともあるでしょう。その汗を靴下が吸うと、冷えや多湿による皮膚の浸軟にもつながります。 フットケアで最も大切なことは、まず足を毎日見ること。足の皮膚、爪の状態をこまめに確認し、保湿・保清を行い、環境を整える必要があります。 爪切りのポイント 爪は、指の先にかかる負担のバランスをとったり、体重を支えたり、転倒しそうになったときにはストッパーになったりと、いろいろな役割を担っています。そのため、フットケアの中でも爪切りはとくに重要だといえるでしょう。ここからは、爪切りのポイントをいくつかご紹介します。 なお、爪切りのやり方は必ずしもひとつの正解があるわけではなく、流派によってアプローチ方法が異なることも。今回ご紹介する方法はあくまで私が実践している一例として参考にしていただき、利用者さんお一人おひとりの爪に合った方法を検討してもらえたらと思います。 一度に全体を切る&三角切りはNG 爪は湾曲しているため、一度に全体を切ろうとすると負担がかかり、ひびが入ったり縦に割れたりしやすくなります。 それから、両端から中央に向けて斜めに爪切りを入れ、上から見ると爪の先端が「三角」になるように切る(三角切り)のもNGです。爪は3層構造になっており、そのうち表面(背爪)と皮膚に接する層(腹爪)は縦方向に繊維が走っています。さらに、爪は両端が内側に巻く習性もあるため、三角切りを続けていると、どんどん巻き爪になってしまいます。また、先端がとがっていると、体重をかけたときに皮膚が傷つく可能性もあるでしょう。 爪を切る際は、一度に全体を切ったり三角切りをしたりせず、指の湾曲に合わせて切ってください。 爪切り後&爪の状態に応じてヤスリをかける 爪を切った後は、必ずヤスリをかけて断面をなめらかにしてください。ヤスリのかけ方としては、両端から中央に向かい、力を入れずに「一方かけ(往復させずに同じ方向にかける)」をします。 また、爪の端が割れたり欠けたりしている場合、斜めに切って段差をなくそうとすると巻き爪の原因になります。そういうときは無理に切らず、ヤスリをかけてなめらかにし、切れる状態まで爪が伸びるのを待ってください。 事前準備と指の持ち方で痛みや事故を防ぐ 爪切りをする際は、必ず事前に角質を取り除き、爪と皮膚をしっかり分けてから切りましょう。これにより、誤って皮膚を傷つけてしまう事故を防げます。 ただし、注意していただきたいのが指の持ち方です。爪切りをする際、上の図のように指先の肉を下側へ引っ張る方が多く見られます。爪と皮膚を離そうとする気持ちはよくわかりますが、爪床と爪が離れると痛みが生じてしまいます。そこで私たちは、第1関節から指先に向かって皮膚を持ち上げ、指の皮膚を押すようにして持ちます。爪切りの際には、安定性・安全性の面からも利用者さんの指を正しく持つことが大切です。 変形爪の爪切り方法 続いて、変形が見られる爪の切り方をいくつかご紹介します。 肥厚した爪 肥厚した爪はとても硬いものですが、水を吸いやすい性質があり、水分を多く含むと柔らかくなります。そのため、入浴時や靴の中が蒸れている際は、ぐらついたり抜爪したりする可能性が高まるのです。そこに体重をかけると、爪内や爪周囲の皮膚を傷つけて出血する危険性もあります。 肥厚した爪にはまずヤスリをかけ、根本から爪先まで表面を平らにしてください。なお、肥厚した爪の表面をつまんでニッパーや爪切りで切る方もよく見られますが、その切り方だとさらに厚く成長してしまいます。また、肥厚した爪内に皮膚が盛り上がっている可能性があるため出血のリスクも。必ずヤスリで削りましょう。 かぶり爪、鬼爪 上記の写真のような「かぶり爪」や両端が角のように伸びた「鬼爪」のケアでは、まず足浴で爪を柔らかくし、ゾンデで角質を除去するところから始めてください。すると、爪と皮膚の間に少しすき間ができるので、そこから少しずつ時間をかけて切りましょう。無理に爪を持ち上げると痛みが出るため、切る前の準備を丁寧に行うのがポイントです。処置が難しい場合はフットケア外来や専門の医療機関の受診をご検討ください。 >>後編はこちらフットケア・爪切りのお悩み解決/ケーススタディ編【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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