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[2]既存の資料からからBCPを読み解いてみよう

この連載では「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人、日本赤十字看護大学の石田千絵先生に訪問看護事業所ならではのBCPについて解説していただきます。今回は、既存のBCPに関する資料を参考にしつつ、訪問看護事業所のBCPに必要な内容について教えていただきます。

【ここがポイント】
・従来の災害対策とBCPの共通点は、災害時に組織的な活動ができるよう体制を整えるために策定することです。
・BCPは、重要業務の遂行を継続・復旧させるための計画であり、想定する期間は数ヵ月先にも及びます。ゆえに、相違点は、復旧の具体性と想定する期間です。

第2回は、従来の自然災害対策とBCPの共通点や相違点を明らかにした上で、厚生労働省老健局の「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」や全国訪問看護事業協会のBCPのひな形など、既存の自然災害に関わる資料を紐解き、BCPに入れるべき内容について学んでいきましょう。

自施設における災害対策とBCPの共通点

はじめに、視点を国から自施設に下ろして(鳥の目から虫の目に近づけて)、自施設における従来の災害対策とBCPにおける共通点を見ていきましょう。

災害対策もBCPも事前に自施設のある地域で起こり得る災害リスクを想定し事前に対策を講じます。ハザードマップを用いて自施設の地域のハザードを把握しておきます。

被災直後は、大規模地震災害の原則であるCSCATTT(図1)に基づき対応します。CSCAが医療マネジメントで、TTTは医療的支援です。広域災害の現場で、初めて出会う人びとが即時に組織を構築し、同じ方向性を持って活動を行うための共通の方針ですが、病院や施設、訪問看護事業所においてもCSCAは重要です。

そのほか、図2と図3を見ても、発災直後を想定した方針や危機管理体制、スタッフの参集基準や連絡網の設定、発災後の活動については共通点といえます。

図1 大規模地震災害の原則

従来の災害対策とBCPとの相違点

BCPとは「重要な事業(または業務)を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画」です1)。従来の災害対策マニュアルなどになくてBCPには記されている事柄を、定義や図1を用いて端的に見てみますと、「優先業務(重要業務)の選定」「BCP発動基準」「復旧目標」「復旧させるための方針・体制・手順」といった言葉が目に留まると思います。

BCPは、優先業務・重要業務の継続や一時中断しても復旧させるための計画なので、自施設における優先業務・重要業務は何か? を選定した後に、優先業務・重要業務が具体的にどのようなリソースによって成り立ち、そのリソースは災害時にどのようなリスクにさらされるのか? リスクに対してどのようにリソースを再獲得したり代替したりするのか? 想定外のリスクが生じた場合、どのような方針に基づいてその都度判断するのか? などを想定し検討しておきます。

優先業務・重要業務の遂行を継続・復旧させるために、より具体的なリスク想定とその対応を検討して備えておく点が、BCPを策定する本質的な意図となります。その結果、数ヵ月先の復旧に関わる想定までをBCPでは検討しますが、従来の災害対策では発災直後から1週間程度を想定してつくられていますので、具体性と想定する期間が異なるといえます。

「BCP発動基準」と「復旧目標」

ところが、BCPを遂行する際に必要な「BCP発動基準」や「復旧目標」については、唯一の基準や目安が存在するわけではありません。モノづくりの企業と訪問看護事業所とでは、優先業務・重要業務や連携する職種や機関などが異なりますし、病院や介護施設とも異なります。

特に「優先業務・重要業務の選定」では、訪問看護の対象者・家族の疾患や生活によって優先度・重要度を考えた場合、呼吸器疾患の独居の利用者は、介護力の高い家族のいるリハビリテーションで利用している利用者よりも優先度・重要度は高いのですが、優先度・重要度の低い利用者・家族への訪問看護であっても、レセプトなどのほかの業務に比べると優先度・重要度は明らかに高い業務といえます。

そのため、「復旧目標」の決め方も一筋縄ではいきません。「BCP発動基準」は、例えば震度5弱以上で発動させるといった設定は可能ですが、同じ震度で被災しても実際の被災状況までは事前に想定しきれませんので、「復旧目標」の時期を決めることはきわめて困難であると考えます。

事前にわかっていることは、リソースの中でも「カネ」や「ヒト」に関わる基準です。被災後2ヵ月のスタッフの給与支払いに問題が生じないことや、1ヵ月程度でスタッフの心と身体に積極的ケアが必要になるという経験知を活かし、私が所属しているBCP研究会では「復旧目標」を1ヵ月単位で設定することを推奨しています。

厚生労働省老健局 業務継続計画ガイドライン

図2は、厚生労働省老健局が作成した「介護施設・事業所における自然災害発生時における業務継続計画ガイドライン」で示されている「自然災害BCPのフローチャート」2)です。

1~5章で構成されており、「1章 総論」「4章 他施設との連携」「5章 地域との連携」が参考になると思います。2章と3章は、施設用の内容となっています。

図2 自然災害(地震・水害など)BCPのフローチャート

厚生労働省老健局.「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」,2020,p.8より引用.
https://www.mhlw.go.jp/content/000749543.pdf
2022/7/11閲覧

訪問看護事業協会 自然災害発生時における業務継続計画(BCP)

図3は、全国訪問看護事業協会が作成した「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」3)の目次(抜粋)です。

厚生労働省老健局のフローチャートに基づき、訪問看護事業所が使えるように、2と3の項目がつくり替えられています。訪問看護事業所では、訪問看護などの優先業務・重要業務を考えますと、電気・ガス・水道などのライフライン以上に、スタッフなどの人的資源、衛生資材などの物理的資源など、資源(リソース)に注目することが有効なためです。

リソースに注目することで、具体的にBCP策定の検討が進みやすくなりますし、自施設内で対応しきれない場合に地域・他組織とどのように連携するとよいかという検討もしやすくなります。

図3 「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)」の目次(「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP) 考え方と記載例」の項目を抜粋)

全国訪問看護事業協会.「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)―訪問看護ステーション向け―」,2020,p.2-3.より引用.
https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r2-1-3.docx
2022/7/11閲覧

BCP策定はまだまだ間に合う!

今回は、従来の災害対策とBCPの共通点と相違点を中心に学びました。BCP策定をする際に多くの人が迷う「復旧目標」の考え方や、厚生労働省および全国訪問看護事業協会のBCPひな形についても言及させていただきました。

令和2年度に実施された「訪問看護事業所の災害時における事業継続計画(BCP)の実態調査」によると、2020(令和2)年4月時点で、BCPを「策定済だった」「策定中だった」「策定を検討していた」事業所は、合わせて34.1%であり、その内容には偏りがあったとされています4)。BCPを策定している/検討をしている事業所であっても、内容までは十分に検討されていなかったことがわかります。

まだ何も手をつけていないけれど、2024(令和6)年3月までに策定できるのだろうか? つくってみたけれど、これでよいのだろうか? など、不安な気持ちを抱いている方が多いと思いますが、まだまだ間に合います。でもせっかくつくるのなら、実効性の高いBCPがよいと思いますので、次回はリソース(資源)に注目して、具体的なBCP策定の考え方をご紹介していきます。

執筆 石田 千絵
日本赤十字看護大学看護学部地域看護学 教授
 
●プロフィール
1989年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院他で勤務。1995年阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件を契機に、地域×災害に関わる教育や研究を始めた。災害の備えは「平時に自分らしく生き、かつ、社会的によい関係性を保つこと」がモットー。看護学博士。
 
「訪問看護BCP研究会」とは、2016年にケアプロ株式会社、日本赤十字看護大学、東京大学他の仲間による訪問看護×BCPに特化した研究会。毎月1~2回程度で研究や研修などを行っている。

▼訪問看護BCP研究会のホームページはこちら
 ※記録様式のダウンロードも可能です。

記事編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)内閣府.「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」,2013.
2)厚生労働省老健局.「介護施設・事業所における自然災害発生時における業務継続計画ガイドライン」,2020.
https://www.mhlw.go.jp/content/000749543.pdf
2022/7/11閲覧
3)全国訪問看護事業協会.「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」,2020.
4)全国訪問看護事業協会.「令和2年度 一般社団法人全国訪問看護事業協会研究助成(一般)報告書」,2022.
https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/researchgrant2020.pdf
2022/7/11閲覧

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