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2022年4月5日
2022年4月5日

妄想・幻覚を訴える場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第6回は、妄想・幻覚を訴える患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代女性。4年前に認知症を発症し、症状が進行している。日ごろから「医師と嫁がグルになって私を毒殺する」「死んだ息子が帰ってくる」などと妄想・幻覚を訴えている。嫁に世話されることを拒否し、日々心安らぐことなく過ごしている。 なぜ患者さんに、幻覚や妄想が起こっているのか? 高齢になると、物や人など、大事な、よりどころの喪失体験が増えます。そして、「喪失するのではないか」という不安も増大します。認知症に伴い判断力が低下し、現実検討能力注1もなくなります。このようなことが重なって、妄想が生じます。 自分を援助してくれる家族を含めた周囲との人間関係や、今後の生活への不安などを背景に出現するため、身近な家族や近所の人などが妄想の対象になることがあります。 妄想が出現しやすい要因は、疑い深い性格的特徴や、不適切な人間関係や環境(援助する人が、患者さんを尊重しておらず無視するなど)があります。 この患者さんが訴える「息子が帰ってくる」などのように、本人の強い願望がそのまま妄想となることもあります。このような場合は、寂しさや不安なども背景にあると考えられます。 BPSDの分類 認知症の進行に伴って出現する、周囲が対応困難な言動をBPSDといいます。認知症の中核症状(記憶障害、認知機能低下など)による生活のしづらさに、その他の要因(疾患や身体状態の悪化、本人の性格特徴、環境の変化、人間関係など)が複合的に関連して出現する症状を指します。 下の表は、国際老年精神医学会が、対処の困難さの観点から分類したBPSDです。 BPSDのなかでも、心理症状である幻覚・妄想は、厄介で対処が難しい症状に分類されています。また不穏や攻撃性の背景に妄想があることもあります。 患者さんをどう理解する? 「嫁が医者とグルになって私を殺そうとしている」ことが現実であれば、こんなに怖いことはありません。自分の身近で生活している嫁と信頼しているはずの医師が、一緒になって自分を殺そうとしているのですから、一刻も早く逃げ去りたいと思うのは当然です。「いつ嫁に殺されるかわからない」という妄想があれば、嫁の援助を断るというのも理解できるでしょう。このような状況下では次のような対応が必要です。 妄想を否定しない 妄想とは「現実にはない事柄を一定期間、他者の説得によっても揺るがない仕方で強く確信する誤った判断ないし観念」2)のことです。現実にありえないことであっても、事実と思い込み、修正不能な思考ですので、他人に否定されても考えが変わることはありません。患者さんにとっては妄想イコール現実であると看護師はすべてを受け入れ、その妄想が起こる心理や、妄想による感情に視点を当てることが必要です。 身体的なアセスメントをする 睡眠や食事がうまくとれていない状態や、身体的な不調は、BPSDを悪化させます。気分が不安定な場合に、身体的なアセスメントと援助も必要です。 孤独感や不安感に寄り添う 「息子が帰ってくる」と話していることから、孤独感や不安感が背景にあると考えられます。患者さんの家族関係などの背景を知ることが援助につながります。そして患者さんに安心感を与えられる援助が必要です。ゆっくりと話を聴き、体に触れ、そばにいる時間を増やします。 また、お嫁さん以外の信頼できる家族の来訪をすすめることも必要です。 妄想の裏にある患者さんの欲求を知るために、日ごろからよく声を掛け、関係性を築いておくことが大切です。 妄想・幻覚への対応 患者さんが妄想を訴えはじめたら、まず、妄想の内容ではなく、妄想によって起こる気持ちや感情を全面的に受け止めることです。患者さんの気持ちに共感し、「今とてもつらい状況なのですね」「怖くて、いてもたってもいられない気持ちなのですね」と受け入れて聞くことです。 その後、患者さんが落ち着いたら現実的な行動をとれるように誘導します。たとえば「窓の外を一緒に眺めてみませんか」「喉が渇きましたね。一緒にお茶をいれに行きましょう」など、場所や行動を変えることで気分(感情)が切り替えられるようにしていきます。 こんな対応はDo not! × 患者さんが訴える妄想を否定する× 「それは妄想だから」と言って、患者さんの訴えを取り合わない× 身体的なアセスメントを怠る 注1 現実検討能力客観的に自分の考えをとらえ、その分析ができる能力。自分の考えと自分を取り囲む現実とを照合する力。 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)国際老年精神医学会.『臨床的な問題』『痴呆の行動と心理症状』日本老年精神医学会監訳.東京,アルタ出版,2005,27-49.2)橋本衛.『認知症の妄想』老年期認知症研究会誌.19(1),2012,1-3.

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2022年3月29日
2022年3月29日

[3]身体の死後変化はエンゼルケアの必須知識!

死後のご遺体の変化に驚かれるご家族が少なくありません。ご家族にきちんと説明できるためにも、死後の身体変化に関する情報をしっかりと押さえておきましょう。また、どういった変化が生じるのか把握しておくことで、変化を最小限に抑える対処が可能ですし、さまざまな身体変化に遭遇しても冷静に対応することができます。 亡くなった高齢女性Aさんのご家族から困惑した声音で、担当だった看護師に電話がありました。 「おばあちゃんの口のまわりに灰色の輪がくっきりと浮き出てきたんです。不吉なことなんじゃないかって言う人もいて・・・・・・。一体、何なんでしょう、これ」 Aさんは黄疸が出ていたために、その死後変化として皮膚に変色が起こったのです。黄疸をもたらしているビリルビン色素の酸化亢進などによって時間とともに変色が起こります。毛根部が変色の生じやすい部位で、髪の生え際や眉、ひげ(あるいは口まわり、女性も口周囲にうぶ毛があるため)などに注意が必要です。 Aさんのご家族はそれを知らなかったため驚かれたのですね。看護師は異常事態ではないことを伝え、対処法などを次のように説明し安心していただきます。 「黄疸が出ていた方は、お口のまわりがくすんで輪のように見えることもあります。自然な変化ですから、ご心配はいりません。気になるようでしたら、その部分をファンデーションでカバーしていただいて問題ありません」 そして、必要に応じてファンデーションを使用したカバー方法なども説明します。 望ましいのは、黄疸のある肌は時間の経過とともに皮膚に変色が生じると思われることを、あらかじめエンゼルケアのときに説明できることです。さらに、最も望ましいのは、そのことを含めて死後変化のことなどが書いてある文書をお渡しすることです。文書については、連載の最終回でふれる予定ですので参考になさってください。 身体の死後変化の知識を得ておくことは、エンゼルケアを行ううえで必須です。亡くなった人のそれまでの身体の状態を把握している看護師は、例えば前出の黄疸の出ている方のように、変化についてのさまざまな配慮・対応が可能なためです。 知っておきたい身体の死後変化の特徴 では、ここで「身体の主な死後変化」を図1に示します。 図1 身体の主な死後変化 ( )内は、変化が始まる目安の時間を示す。変化の強度や速度には個人差がある。各項目の詳細については以下を参照。筋の硬直(死後硬直)(1時間~)筋弛緩後、下顎(1~3時間)、全身(3~6時間)へと硬直が進む。循環停止により酸素供給が停止することなどによる。死後半日から1日の間に硬直のピークを迎え、その後、解けはじめる。死の直前まで筋肉を使用していたり(急死)、高齢ではない場合などは硬直が強く表れる。体表面の乾燥(3時間~)循環停止によって内部から体表面への水分補給がなくなり、自力で保湿できなくなり乾燥する。特に外気にふれている頭部(その中でも口唇)は乾燥が急激に進む。表皮が失われている箇所や開放性の創部も乾燥しやすい。また、乾燥とともに皮膚の脆弱化も進む。水分量の多い乳児・小児は、成人よりも乾燥傾向が強い。顔の扁平化(直後~)重力の影響による。蒼白化(30分~)重力の影響を受け、比重の重い赤血球が沈下することで、皮膚の血色が失われる。全身の上面に生じるが、露出している顔面が特に目立つ。顔のうっ血(3時間~)急性の心疾患で亡くなった方に生じることが多い。腐敗(6時間~)恒常性の消失で細菌バランスが崩壊し、細菌群(中温菌)が異常繁殖することによって生じる。腹腔内からはじまり胸腔内、そして全身に広がる。身体の状態(水分が多い、栄養が多い、温かいなど)によって腐敗の進行度が変わる。体温低下(直後~)恒常性の消失で、気温の影響をまともに受ける。上下肢の末端部や外気にふれる顔面などから低下する。体幹部は下がりにくい。止血しづらくなる血液の凝固因子が大量に消費されることなどから、止血しづらい状態になる。黄疸の方の皮膚色の変化(24時間~)黄疸をもたらしている色素の酸化亢進などによって生じる。黄色→淡緑色→淡緑灰色に変化する。 さまざまな変化を図1で把握するとともに、全体的な変化の特徴として次の4点も押さえておくとよいでしょう。各タイミングでの判断に役立ちます。 ①死後の身体は「不可逆的に変化する」 図1に示した変化をはじめとして、死後変化のすべては不可逆的に進行します。つまり、変化する一方で、元の状態に戻ることはありません。生きているときのように、維持しよう、回復しようと身体は機能しません。 例えば、口唇は粘膜のため特に乾燥しやすい部分です。時間とともに乾燥が進み、表面が茶褐色に変色してしまったり、口唇全体の厚みが減ってしまったりし、それらが元の状態に戻ることはありません。ですから、早い段階で油分を塗布するなど、乾燥防止を行う必要があるのです。 ちなみに、葬儀社の方から看護師に対して「とにかく唇だけでも早めに油分を付けておいてほしい」と言われることがあります。葬儀社の方が担当する段には、すでに口唇の乾燥が極まってしまっていることがあるからのようです。 エンゼルメイクを含むエンゼルケアの時点で何をしておくべきなのかを判断し、実施することがポイントになってきます。 ②死後の身体変化は「予測しきれない面がある」 どんな死後変化がどの程度、どんな速さで起こるのか、エンゼルケアの時点ではその後を予測しきれない面があります。その大きな理由として、次の2点が挙げられます。 ・個体差を厳密には予測できない死後の身体変化は、死に至ったときの身体状態により個体差があります。例えば、体内の水分量が多く、さらに亡くなるまで高熱が続いていた場合は腐敗が早く強く出るかもしれないというようにおよその予想はできますが、厳密な予想はできません。 ・管理状況に左右されるご遺体は、身体の状態を一定に保つ機能は働いていないので、気温、湿度など身体を取り巻く環境の影響をまともに受けます。皆さんの手が離れた後、例えば暑い日などに適切な冷却がなされなければ急激に腐敗が進み、体液が漏れ出たりします。 身体の変化に困惑したご家族から問い合わせや相談の連絡があったなら、まず「お身体はいろいろな変化が出るのが自然のことです。異常事態ではないので心配はいりませんよ」と応対し、具体的な対応方法を説明するとよいでしょう。 ③死後の身体は「傷みやすい」 死後の身体変化が生じているイメージをつかんでほしいと思い、あえて「傷む」という表現を使います。 例えはあまりよくありませんが、釣ってきた魚を暖かい日に冷却もせず、ラップもかけずにテーブルの上に放置してしまうと、魚は急激に傷んでいきますね。人の身体も何もしなければ同じように傷んでいきます。 冷却や乾燥防止対策を行い、なるべく変化を抑えますが、抑えきれないケースも少なくありません。ただ現在は、亡くなった人との対面時には、衣類や花などでカバーされて目にふれないような配慮がされており、私たちは「傷む」という自然現象を忘れがちです。このことを含んでおいて、必要なときに「ご遺体は傷みやすいですよ」とご家族に説明します。 ④死後の身体は「重力の影響を受ける」 図1に示した「蒼白化」や「顔の扁平化」は重力に抗えなくなった結果、起こる変化です。他にも、身体の後面に開放性の創部(褥瘡など)がある場合は滲出液が漏れ出やすいので、あらかじめ対応をしておくといった判断ができます。 また、図1に示したように血液は止血しづらい状態になるため、鼻出血などがあると長く出続けることがあります。その場合は枕の高さを変えたり顔の向きを変えるなどし、重力の働く方向を変えることで、体外への出血量を減らせることがあります。 ご家族がご遺体を「起立させてほしい」と希望した例では、担当の看護師は便漏れなどがないように、重力の影響を考えながら希望に応じたとのことでした。 ワンポイントメモ臭気の話死後の早い段階で、気になる臭いが発生しやすい場所は、口腔内と瞼内です。 下顎が、早ければ死後1時間程度で硬くなるため、臭気防止のために口腔内だけは早めにケアを行います。マウスケア用のスポンジやガーゼなどで汚れを拭ったり、可能であれば歯磨きもします。瞼内のケアでは、眼脂に注意します。眼脂などの分泌物からも臭気発生の恐れがあるため、綿棒で拭うなど可能な範囲で除去しておきます。 腐敗による臭気もその後発生します。エンゼルケアの段階で行う臭気対策は、第4回で解説する冷却が有効です。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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2022年3月29日
2022年3月29日

訪問看護関連の「ここがポイント!」/令和4年度 診療報酬改定・決定版 前編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が確定しました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わるポイントを解説します。(2022年3月15日現在) 【目次】[ポイント1]  訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた[ポイント2]  複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった[ポイント3]  機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加[ポイント4]  訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 【関連URL】・令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000920430.pdf・令和4年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html 【告示・通知】・厚生労働省令第32号「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準の一部を改正する省令」・保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について・保発0304第3号 令和4年3月4日 「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」・保医発0304第4号 令和4年3月4日 「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」・厚生労働省告示第59号「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件」 令和4年3月4日 ・厚生労働省告示第60号「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等の一部を改正する件」 令和4年3月4日 [ポイント1] 訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた 訪問看護ステーションに業務継続計画(Business Continuity Plan:BCP)の策定が義務づけられました。感染症や非常災害が発生した場合でも必要な訪問看護サービスを継続的に提供するため、そして非常時の体制で早期の業務再開を図るためです。業務継続計画の定期的な見直し、必要に応じた変更も義務化されました。さらに、業務継続計画は職員(看護師等)にしっかりと周知し、必要な研修・訓練を定期的に実施しなければなりません。ただし、令和6年3月31日までは努力義務とされる経過措置がとられています。 業務継続に向けた取組強化の推進 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 ○業務継続計画の具体的な項目1)感染症に係る業務継続計画①平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取り組みの実施、備蓄品の確保等) ②初動対応 ③感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有等)2)災害に係る業務継続計画①平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄等) ②緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制等) ③他施設及び地域との連携○研修・訓練1)研修:平常時の対応の必要性や緊急時の対応に係る理解の励行。定期的(年1回以上)教育を開催し、研修の実施内容を記録する2)訓練(シミュレーション):感染症・災害発生時に迅速に行動できるよう、事業所内の役割分担の確認、実践するケアの演習等を定期的(年1回以上)実施 保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について.4-(17)-②イ,ロより引用 [ポイント2] 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった 複数の訪問看護ステーションが24時間対応体制加算を取るためには、業務継続計画(BCP)を策定したうえで自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画することが追加されました。 24時間対応体制加算は、必要時に緊急時訪問看護を行うことに加えて営業時間外の利用者・家族等との電話連絡や指導等の対応を評価するものです。複数の訪問看護ステーションが連携して24時間対応できる場合の算定要件として、従来は①離島・山間部などに所在する訪問看護ステーション、②医療を提供しているが医療資源の少ない地域に所在する訪問看護ステーションであることが要件でしたが、今回新たに相互支援ネットワークの参画の要件が加わりました。相互支援ネットワークは、以下のように公的なネットワークであることがポイントです。 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 [ポイント3] 機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加 「機能強化型1」「機能強化型2」では、地域の保険医療機関や他の訪問看護ステーション、または地域住民に対する研修や相談への対応実績があることが必須条件とされました。機能強化型訪問看護ステーションは「機能強化型1」「機能強化型2」「機能強化型3」の3型があり、それぞれ看護職員数、受け入れる重症度の高い利用者数、ターミナルケアや重症児の受け入れ等で違いがあります。 また、評価の見直しも行われ、算定額は「機能強化型訪問看護管理療養費1」が12,830円、「機能強化型訪問看護管理療養費2」が9,800円となりました。 さらに、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいという項目が追加されました。そして、この看護師が専門的な知識および技術に応じて、質の高い在宅医療や訪問看護の提供の推進に資する研修等を実施していることが望ましい、とされました。 機能強化型訪問看護療養費の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護管理療養費1から3までについて、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいこととして、要件に追加する。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護ステーションの要件等 ※変更点を【赤字】で示したhttps://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p22から抜粋 [ポイント4] 訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 訪問看護にかかわる関係機関との連携強化として、情報提供先の範囲が広がりました。訪問看護情報提供療養費1は、訪問看護ステーションと市町村・都道府県の実施する保健福祉サービスとの連携を図るものですが、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児相談支援事業者が追加され、対象が15歳未満の小児から18歳未満の児童となりました。 訪問看護情報提供療養費2は、訪問看護ステーションの利用者が通園・通学するにあたって、訪問看護ステーションと学校等の連携を推進するものです。今回その情報提供先に高等学校が追加され、対象年齢が15歳未満から18歳未満になりました。これによって、医療的ケア児に対する訪問看護が強化されたといえます。 訪問看護情報提供療養費1の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p23より引用 訪問看護情報提供療養費2の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 記事編集:株式会社照林社

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2022年3月29日
2022年3月29日

「朝、起きたら左足だけが腫れていた」場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第7回は、朝起きたら片足だけが腫れていた患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 83歳女性。「朝起きたら左足だけが腫れていて、もったりとして気になる。昨日は何ともなかったのに……」と言っています。   あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 足が腫れているという訴えであるため、まずは、足の皮膚や皮下組織、筋肉や骨に炎症が生じ、腫脹が起こっていることが考えられます。 また、リンパや静脈系の循環障害による浮腫の疑いがあります。 リンパ浮腫とは、リンパ管の狭窄や閉塞のためにリンパ液が滲み出して浮腫となったものです。手術侵襲や、がんの浸潤により起こることが多いです。 静脈系の循環障害による浮腫は、静脈の閉塞や狭窄により静脈圧が上昇することで血漿成分が滲み出して起こります。深部静脈血栓症の場合、脳梗塞や肺梗塞など生命にかかわる疾患を引き起こす場合があり、発見したら速やかに医療につなげる必要があります。 ここに注目! ● 足が腫れているという訴えは、浮腫によるものか、局所の炎症による腫脹か?● 局所性の浮腫が考えられる場合、静脈系の循環障害か、リンパの還流障害か? まずは、炎症による可能性を念頭に置いてアセスメントします。そのうえで浮腫による可能性が高いと考えられる場合は、浮腫が静脈性なのかリンパ性なのかをアセスメントします。 局所炎症のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・炎症の症状(痛み、しびれ、熱感、腫脹)・原因・誘因となったこと(転倒や転落、打撲、外傷、虫刺され、など)・ADLへの影響 局所炎症のアセスメント②客観的情報の収集 体温測定 炎症が起きている場合、免疫反応として、発熱が起こる可能性があります。高体温になっていないかどうかを確認します。 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 外傷などによって起こる局所の炎症による浮腫は、脚全体ではなく障害のある部位にみられますので、左右差を比べながら確認します。 痛みに注意しながら触れ、圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧迫時間は5~20秒、指が沈み終わったら離し、その深さで判定します。 炎症徴候の確認 皮膚の傷や、骨折を思わせる症状がないかを確認します。骨折がある場合は、関節が不自然に曲がっていたり、発赤や強い腫脹がみられ、圧痛と熱感があります。 炎症の徴候を確認するために、発赤と熱感を確認します。熱感については、熱に敏感な手背を使って確認します。人の皮膚温はさまざまなので、症状を訴えている側だけでなく、左右同時に触れてその差を確認します。 関節可動域 関節を動かせるかどうかを確認します。炎症がある場合は、動かすことで痛みが生じる可能性が高いので、確認しながら行います。どの程度の可動域制限があるかを、左右比較して観察します。 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・静脈系末梢循環障害の症状(張るような痛み、重苦しさ、浮腫の日内変動、動かしにくさ、など)・リンパ系循環障害の原因・誘因(がんや手術の既往、など)・静脈系末梢循環障害の原因・誘因(急な臥床安静、歩行制限、下肢運動量の減少、下肢の圧迫、など)・ADLへの影響 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント②客観的情報の収集 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 循環障害による浮腫は、血管の閉塞・狭窄の位置より下部に生じますが、皮下組織への水分の貯留が進むと足全体に生じることも多いです。 圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧痕がみられない腫脹の場合は、周囲径を計測することで、客観的な観察ができます。周囲径を計測する際は、体位および測定部位の関節からの距離を記録しておきましょう。 末梢循環の確認 静脈系の末梢循環障害では、皮膚色の変化はみられないことが多く、静脈瘤や慢性の炎症がある場合は赤茶色の変色がみられることがあります。動脈系の障害ではないので、皮膚温は保たれ、足背動脈などの末梢の脈も触知できます。 皮膚の視診・触診 リンパ浮腫では蜂窩織炎となっている場合もあります。蜂窩織炎では広範囲に発赤があり、腫脹し、熱感や痛みがあります。放置すると組織の壊死をきたしますので、速やかな治療が必要です。 報告のポイント ・浮腫の部位と程度、左右差がみられること、全身性の浮腫ではないこと・外傷や骨折などの筋骨格系の障害によるものか、その判断理由・静脈・リンパ系の循環障害によるものか、その判断理由 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月22日
2022年3月22日

訪問看護あるある座談会 vol.11 オンコール編

訪問看護では付き物のオンコール。いつ電話が鳴るかドキドキ…という体験があるのではないでしょうか。今回は訪問看護師さん3名にお集まりいただき、訪問看護でのオンコールのあるあるトークをしていただきました。 ■座談会に参加してくれた看護師さんプロフィール かずもともとヘルパーとして働いていたが、訪問介護先で出会った訪問看護師の仕事に魅力を感じて看護師になる。現在は訪問看護師2年目。 けん家族の在宅看取りの経験から訪問看護師を志す。急性期病院で2年働いたのち、地方の訪問看護ステーションに就職。訪問看護師4年目。 みほ訪問看護の実習で暮らしが見える面白さを感じ、新卒から訪問看護師になる。オンコールやプリセプターもしている中堅ナース。訪問看護師6年目。 ドキドキだけどやりがいもあるオンコール担当 空耳だけど聞こえてくる着信音 かず:オンコールは3ヶ月くらい前から始めたばかりです。 みほ:オンコールは初めての経験かと思うのですが、電話持っていてドキドキしませんか? かず:いや、もうそれはドキドキしますよ。夜はいつかかってくるか分からないので、お風呂もいつ入ろうかタイミングが分からなくて。 けん:あるある! かず:やっぱりあるあるなんですね。(笑)持って最初に鳴った電話が、なんと間違い電話だったんですよ。訪問している方やよく電話が来る方ならまだいいのですが、あまり知らない利用者さんからの電話が来たらどうしようと思いますね。 みほ:何の疾患で何のお薬飲んでいるかとかの基本情報から確認が必要なこと、あるあるですね。 けん:ちなみに、夜中に起きては携帯をパカパカ開いちゃうんですけど、ありますか? かず:それはもちろんあります。中途覚醒がすごくて…。 けん:そうそう。寝落ちした時に「やばい!」って起きてパッと電話開いて、着信来てないとホッとします。病院の心電図モニターみたいに「あれ、電話鳴ってる?」ってなります。 かず:僕はまだ大丈夫なんですけど、他の先輩はよく空耳があるって言っていますね。 けん:僕は始めたばかりのころは週2〜3回くらいオンコールを持っていたので慣れるのも早かったんですけど、週1回だと慣れるのが大変そうですね。 かず:まだ慣れないですね。新規の利用者さんも来ますし、ある程度は情報収集しているんですけど、1週間で状態も変わりますし。先輩の緊急訪問の記録を見て、これが自分だったらどんな対応ができていたかな、って考えることもありますね。 みほ:救急搬送とかも最初は焦りますよね。 かず:そうですね。私はまだ1人で決めることはないのですが、でも緊急性が高くて迅速な対応をしなくてはならない場合に、もちろん先輩や医師に相談するし、でも現場に向かわなきゃならないし、一人前になるのは本当に大変です。それはもう繰り返しやるしかないんだろうな、と思います。 けん:一人前ってよく言われますけど、僕もまだわからないこともあるし、その時は所長に電話して聞いちゃいますし、訪問の独り立ちって定義が難しいなと思いますね。 みほ:独り立ちとは言われているけれど、私も全然聞いていますね。相談できる環境があるのがベストだと思っていて、一人で訪問はするけど、一人で抱え込まなくていいのかなと。 ドラマよりドラマティックな体験も けん:かずさんはオンコール持ち始めて、緊急訪問はしましたか? かず:今まで3回は訪問しましたね。1回は「もう息をしてない」って連絡があって、着いたらもう心音も停止していて、息もしていなくて。それが最初の緊急訪問でしたね。 けん:最初からお看取りだったんですね。 かず:そうなんです。その方はがんのターミナル期だったんですが、あと1週間とか1ヶ月とかそういう状況ではなくて、ゆくゆくは自宅でお看取りという話だったんです。私が担当していた利用者さんで、その前の週も訪問して「また来週も来ますね」って話していたところだったんです。奥様が起きたら亡くなっていたそうで、急変した、というか、安らかに息を引き取られましたね。 みほ:かずさんが担当していた利用者さんだったからこそ、かずさんのオンコールのタイミングのご逝去だったのかもしれないですね。 かず:同行した先輩も同じようにおっしゃっていました。先輩も契約の時に一緒に訪問してくれていたので、そういうタイミングだったのかもしれません。奥様が後悔はなくやり切ったとおっしゃっていて、そのときに自分が看護師になって本当によかったなって思いました。緊急電話を持たないとできない体験だったかもしれません。 みほ:突然のご逝去ってオンコールを持っていないと立ち会えない場合が多くて、運命的な何かがあるのではないかと思います。けんさんは同じような経験とかありますか? けん:そうですね。僕が訪問していた利用者さんで、結構お元気な方だったんですけど、週末に「最近寝ている時間が増えた」って奥さんからコールがあったんです。大きく体調は変わりなかったので経過観察になっていたんです。週明けに僕が訪問して挨拶したら、「ああ」って言って手を挙げてくれたんですが、そのタイミングで息が止まっちゃって。僕もびっくりして「〇〇さん!」って大きい声で呼んだり、奥さんにも「急なことだけど大丈夫ですか」って声かけたりして。何度もご逝去時の訪問はしていたので慣れているつもりだったんですけど、呼吸が止まる瞬間に立ち会うのはその時が初めてで、今思うと相当テンパっていましたね。自宅にいたいと話していたので、最後まで家で過ごせたのは良かったんじゃないかと思います。それが最近あった、びっくりしたお看取りでしたね。 みほ:待っていたんですかね。 けん:みんなにそう言われます。長く担当していた利用者さんで、今は奥さんのところに訪問させてもらっています。ドラマよりドラマティックですよね。人生の少しだけしか関わってないけど、人生を見せていただくありがたみとか、やりがいや幸せを分けてもらっているところもありますよね。記事編集:NsPace

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2022年3月22日
2022年3月22日

クローン病

クローン病は、長期にわたる栄養療法が必要となる場合が多く、QOLへの影響が大きい内部障害の一つです。 病態 クローン病は、潰瘍や線維化を伴う炎症が、消化管に生じる疾患です。口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位で起こる可能性があります。小腸と大腸、なかでも小腸末端部で好発します。特徴的なのは病変の分布で、病変部と病変部の間には正常な部分がみられます。 クローン病の原因は諸説あり、遺伝的要因に、ウイルスや細菌などの感染や腸内細菌叢の変化、食事中の成分を抗原とする反応など環境要因が複雑に絡みあった結果の、免疫系の異常反応と考えられています。 クローン病は、炎症性腸疾患(大腸や小腸の粘膜に、慢性的な潰瘍や炎症が起こる疾患)に分類されます。他には潰瘍性大腸炎も炎症性腸疾患です。どちらも難病に指定されています。 潰瘍性大腸炎は、炎症が生じる部位が大腸粘膜に限られていて、クローン病とは発症年齢や男女比なども異なります。 疫学 クローン病が好発するのは10歳代~20歳代の若年者で、男女比は約2対1と男性に多い疾患です。最多発症年齢は男性で20~24歳、女性では15~19歳です。クローン病は先進国で多い疾患で、特に北米やヨーロッパでの発症率が高く、環境衛生や食生活が大きく影響していると考えられています。動物性脂肪やたんぱく質の摂取量が多く、生活水準が高いほど発病しやすいと考えられています。喫煙も発病リスクの一つとされています。 欧米ほど発症頻度は高くありませんが、日本でも近年患者数は右肩上がりです。 2019年度末時点のクローン病での受給者証所持者数は、約4.5万人に上ります。患者数のピークは30~40歳代で、年齢が高くなるにつれ減っていきますが、75歳以上の患者もいます。 症状・予後 症状は、患者によっても、またどの部位に病変があるか(小腸型、小腸・大腸型、大腸型)によっても異なり多様です。主な症状は下痢、腹痛ですが、発熱、下血、体重減少や全身倦怠感、貧血などもよくみられ、痔瘻などの肛門病変もしばしば伴います。 狭窄や穿孔、瘻孔を合併することがあります。また、関節炎や虹彩炎、結節性紅斑などの皮膚症状、成長障害など消化管外の合併症も多く、症状には個人差があります。長期経過例では下部消化管悪性腫瘍のリスクが高まることも知られています。 治療法 薬物療法と栄養療法が基本です。消化管狭窄・穿孔、膿瘍などの合併症に対しては、手術も適応になります。各種治療を組み合わせて、活動期は疾患の活動性を制御し、栄養状態を維持しつつ、寛解期は炎症の再燃・再発を予防が治療の目標になります。 近年の薬物療法の進歩により、多くの患者で寛解状態に至ることが可能になっていて、将来は手術の必要な患者は減っていくと予想されています。ただし、症状が小康状態でも病状は進行すると考えられているため、治療の継続や定期的な検査が大切です。 薬物療法 症状がある活動期には、5-アミノサリチル酸(ASA)製剤、ステロイド、免疫調節薬などが用いられます。5-ASA製剤や免疫調節薬は、症状改善後も再燃予防の目的で継続的に使用します。これらの治療法では効果が十分でない場合は、分子標的治療薬(抗TNFα受容体拮抗薬)が用いられます。血球成分除去療法が適応になる場合もあります。 栄養療法 栄養療法の目的として、栄養状態の改善に加え、腸管の安静維持や食事からの刺激の回避などによる症状改善も重要です。栄養療法には、経腸栄養法(成分栄養)と中心静脈栄養があります。経腸栄養法は長期の管理となることから、脂肪製剤の静脈投与などが必要になります。 短腸症候群などで経腸栄養ができない場合には、中心静脈栄養の絶対的適応です。近年、TPN管理下でのセレン欠乏が報告されているため、セレン欠乏症による諸症状(心筋障害など)も知っておくとよいでしょう。 一般の食事に関しても、低脂肪・低残渣の食事が推奨されていますが、病変部位や消化吸収機能によっても異なるため、主治医や管理栄養士と相談して病態上許容可能な食品を探します。 看護の観察ポイント 経口摂取や消化吸収の不良により栄養状態が悪化しやすいため、定期的に採血データのアルブミン値やBMI値を把握し、大きな体重変動は医師と情報共有することが大切です。下痢により体液量や電解質バランスが崩れることがあるため、排泄状況などの確認も重要です。再燃・再発予防のための服薬も適切に行われているか、把握しておきましょう。経腸栄養法や中心静脈栄養を利用している患者には、栄養状態のほか、その管理方法にも目を配り、必要ならば使用法を助言します。 監修あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『クローン病(指定難病96)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/219〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『クローン病(指定難病96)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/81〇「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班).『大腸炎・クローン病診断基準・治療指針』厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業.令和2年度分担研究報告書.2021.〇厚生労働省.『難病・小児慢性特定疾病』令和元年度衛生行政報告例.2021-03-01.

特集
2022年3月22日
2022年3月22日

【短期記憶障害】認知症患者が同じ話を繰り返す原因&対応を解説

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第5回は、同じ話を繰り返し、説明したことを守ってくれない患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代、女性。つじつまの合わない言動がみられ、同じ話を何度も繰り返している。レビー小体型認知症があり、下肢の筋力低下もあり、歩行時にふらつきがみられる。 本人はもともと自立心高く活動的である。転倒リスクのため、移動したいときは一人で動かず、介助者を呼ぶように伝えているが、決して人を呼ばない。これまでも転倒を繰り返し、出血斑が多数ある。 なぜ患者さんは、同じ話を何度も繰り返すのか? 認知症の症状の一つに、記憶障害があります。 記憶は、▷覚える(記銘) ▷保存する(保持) ▷必要なときに思い出す(再生) ── の、三段階から成り立っています。そして記憶障害には、短期記憶障害と長期記憶障害の二種類があります。 短期記憶障害 数分前に起こったことなど、新しい事柄を覚えることができない長期記憶障害昔からしてきたこと・知っていたことを忘れる ・エピソード記憶・意味記憶・手続き記憶 認知症では、数分前に起こったことを思い出せない短期記憶障害と、自分が体験したことなどを忘れてしまうエピソード記憶障害がみられることがあります。 また、多くの情報を一度に処理できません。自分の言いたいことや頭に浮かんだことを繰り返して話をしていると思われます。 なぜ患者さんは説明を無視して一人で動くのか? 短期記憶障害のため、そもそものコミュニケーションがとりにくい状態です。「どこかに行かれる際は、手伝うので、人を呼んでくださいね」と説明していても、そのこと自体を忘れてしまっている状況だと考えましょう。また、患者さんはもともと自立心が高く、活動的な人です。「一人で動ける」と思っています。 繰り返す言動への対応 患者さんの行動の理由 患者さんは、記憶障害のために、聞いたことや言ったことを忘れてしまい、同じ話を繰り返していると考えられます。そして、繰り返し聞いてくる内容は、患者さんが気になっている・困っている・不安に思っていることなどの場合もあります。さらに、一度に多くの情報が処理できないので、自分の言いたいことだけに注意が向いてしまう場合があります。 対応の一つとして、訴えている理由や気持ちをしっかり聞いて、安心できるようにすることや、原因を推測しながら対応を重ねていくことも大切です。 同じことをあまりにも繰り返す場合は、「テレビを見ますか?」などと声を掛けて、別の物や場所へ興味・関心が向くように接してみるのもよいかもしれません。 患者さんを不安にさせない対応 患者さんと話がかみ合わず、看護師もイライラやストレスを感じることがあるかと思います。また、つい感情的になって強い口調で対応してしまったり、いい加減な対応をしてしまうかもしれません。 しかし、そんな対応をとられると、患者さんはプライドを傷つけられ、不安に感じます。看護師には、「患者さんは初めて話しているんだ」と思って対応する態度が求められます。 転倒の危険性 加齢の変化とともに、転倒や転落といった事故に遭遇するリスクは高くなりますが、認知症を患うことで危険の察知や予測、的確な判断を下す能力の低下などにより、そのリスクはさらに高くなります。 レビー小体型認知症の症状 レビー小体型認知症は、認知機能障害だけでなく、パーキンソン病のような運動機能障害があるのが特徴的で、幻視もみられます。初期には記憶量が軽度であることが多いですが、日によって認知機能も変化します。 レビー小体型認知症では、パーキンソン症状による運動機能の低下、認知機能障害、注意障害が原因となって転倒を繰り返すことがあります。さらに、自律神経障害をきたすことがあり、起立性低血圧からも転倒を起こす危険性があります。 患者さんの行動パターンから予測する 生活パターンの把握や排泄行動を観察することで、患者さんの行動を予測しながら支援することも大切です。患者さんがそわそわしたり、物音がしたり、何らかの身体的サインがみられる場合は、「何か用事はありませんか?」「そろそろ、トイレに一緒に行ってみませんか?」と、排泄パターンに合わせて声を掛けてみるのも効果的です。 一人で行動する背景には何らかの理由があると考え、その理由を、行動や発言から把握することです。 こんな対応はDo not! × 何度も聞いた話なので無視したり、いい加減な返事をする× 「この前も説明しましたよ」と指摘し、責める× 「なぜ一人で歩いたんですか!」「危ないでしょ」と叱る 執筆浅野均(あさの・ひとし)つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)松下正明ほか監.『個別性を重視した認知症患者のケア』改訂版.東京,医学芸術社,2007,166p.2)鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,213p.3)川畑信也.『これですっきり!看護・介護スタッフのための認知症ハンドブック』東京,中外医学社,2011,128p.4)清水裕子編.『コミュニケーションからはじまる認知症ケアブック』第2版.東京,学研メディカル秀潤社,2013,173p.5)飯干紀代子.『今日から実践認知症の人々とのコミュニケーション』東京,中央法規出版,2011,142p.6)鈴木みずえ編.『急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア』東京,日本看護協会出版会,2013,232p.7)日本認知症ケア学会編.『改訂・認知症ケアの実際Ⅱ:各論』東京,ワールドプランニング,2008,300p.8)日本神経学会監.『認知症疾患治療ガイドライン2010』東京,医学書院,2011,256p.9)本間昭監.『認知症のある患者さんのアセスメントとケア』ナツメ社.2018,142-3.

特集 会員限定
2022年3月15日
2022年3月15日

【セミナーレポート】精神訪問看護 みんなが楽になるコツ

2022年1月21日に実施されたNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「精神訪問看護 みんなが楽になるコツ」。訪問看護ステーションの統括所長である精神科認定看護師の小瀬古伸幸さんを講師にお迎えし、精神科訪問看護とはなにか、現場では具体的にどんなサポートが求められているかなどを教えていただきました。地域の精神病看護における実践的なノウハウがつまった貴重なセミナーの一部をご紹介します。 【講師】小瀬古 伸幸さん訪問看護ステーションみのり 統括所長、精神科認定看護師、WRAPファシリテーター、Family Work Practitioner経歴:精神科単科病院勤務後、2014年に訪問看護ステーションみのりに入職。2016年には同組織の奈良事業所を開設し、所長に就任。2019年より現職。精神病の利用者さんに対する訪問看護の実践はもちろん、近年はその家族の支援にも注力する。著書に「精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本」(医学書院)がある。 【目次】1. 精神科訪問看護で起こりがちな失敗と基本的な考え方2. 常に利用者さんの真意を探りながら自己決定をサポートする3. 「精神科訪問看護の基本の型」を理解し、フェーズに合った支援を4. 対話時の「自分の位置」を意識し、利用者さんの言葉を引き出す5. 精神科訪問看護ではなによりもまず利用者さんの気持ちに寄り添って6. Q&Aセッション・幻想や妄想について聞いても良いものでしょうか? --> 精神科訪問看護で起こりがちな失敗と基本的な考え方 精神科訪問看護では、利用者さんが「自分らしく生きる」ための方法を本人と一緒に考え、自己決定をサポートします。私が所属する訪問看護ステーションでは、「精神症状と付き合いながら、生活を組み立てていくサポートをしている」と説明しています。重要なポイントは、こちらの考えを押しつけるのではなく、利用者さんの自己決定を支援するという点です。精神科訪問看護に携わりはじめたのころの私は、これができていませんでした。無意識のうちに利用者さんを説得しようとしたり、不安を煽ってしまったりしていたんです。例えば「薬を飲まないと症状が再燃して入院になりますよ。だから薬を飲むべきだと思いますが、どう思いますか?」といった具合です。結果的に、たくさんの利用者さんから拒否されてしまい、「脅しや尋問を受けている感覚になる」という言葉をいただくこともありました。私としては、「どう思いますか?」と意見を聞いているので、なぜ拒否されるのかわからなかったのですが……。このままではいけないとコミュニケーションの術を学び、改めて自身の発言を振り返ることで、私の対応は、利用者さんにとって脅威になっていると気づいたんです。現在では「利用者さんが自分らしい生き方を叶えるサポートをする」のが精神科訪問看護だと考えています。 常に利用者さんの真意を探りながら自己決定をサポートする 先にお話ししたとおり、精神科看護の大前提は自己決定を支援することです。では、自己決定とはなにか。さまざまな事象について主体性をもって自ら選択、決定し、その後も自身の判断に関与していくことをいいます。そして看護師には、決定後の関与の部分までサポートすることが求められます。例えば、アルコール依存症の方がお酒を断つと決めたとしましょう。しかし、スリップを繰り返す様子を見ると、私たちはつい「この人は嘘つきだ、意志が弱い」といったレッテルを貼ってしまいがち。しかし、スリップの背景には必ず理由があるものです。「どんな気持ちだったか」「どんな経緯があったか」「その判断、選択の理由はなにか」といった問いかけをし、その理由、ひいては『その人らしさ』を知ることが必要になります。 「精神科訪問看護の基本の型」を理解し、フェーズに合った支援を では、自己決定の支援だけをすればいいのかというと、もちろん違います。そこは大前提として、精神科訪問看護の軸は、「早期警告サイン(症状が再燃していく兆候)を同定し、対処法を一緒に考えること」にあります。そのためには、「精神科訪問看護の基本の型」を理解したうえでサポートしていくのがいいでしょう。まず、症状の度合いを「普段の生活」「調子の変化」「生活の支障」「破綻の危機」の4段階に分けて考えます。各段階は以下のような状態を指します。 ・普段の生活「いい感じだ」と思える状態。一般的にイメージされる健康的な生活ではなく、本人が充実していると感じられる生活を送っている状態。・調子の変化「いい感じの自分ではない」と感じるタイミングが少しずつ増えている状態。・生活の支障症状が明確に現れはじめ、就業できなくなるなど、日常生活がままならなくなる状態。・破綻の危機症状が活発になり、入院も視野に入れなければならない状態。 例えば、音楽が好きな利用者さんが、曲を聴かなくなったとします。その理由が「疲れているからあえて聴かなかった」のであれば、対処しているとして経過を観察してもいいかもしれません。しかし「自分でも理由はわからないけれど、なぜか聴いていなかった」なら、調子の変化のフェーズに入っている可能性があるため、対処法を検討すべきでしょう。また、破綻の危機のフェーズまで進んでしまった場合は、薬の投与や入院など打てる手は限られます。なお、訪問看護の現場では、生活の支障と破綻の危機の間の段階で対応するケースが多くなっているのが現状です。もっと前の段階で対処し、普段の生活に戻していくことが求められています。 対話時の「自分の位置」を意識し、利用者さんの言葉を引き出す 病気の改善に向け、利用者さんと対話していくなかでは、まず本人の欲求をヒアリングしてみましょう。利用者さんはどんな状態になりたいのか、今なにが不足しているかを聞き、その答えから目指すべきゴールを明確にします。そして、確実にゴールに近づけるようにサポートしていくのです。 このときに気をつけたいのが、対話をする際の「自分の位置」。人と人とが対話を始める際、多くの場合社交辞令から入ります。そこは問題ありませんが、多くの支援者が失敗してしまうのは、社交辞令のあとの流れです。「支援者本位」の話をしてしまい、利用者さんが心を閉ざすという流れはよく耳にします。大事なのは、上の図の「ここから開始」の部分。社交辞令のあとは「相手が話したいこと」に移行することです。その対話のなかで肯定的な反応を引き出せるようになれば、自然と支援者が聞きたいことも話してくれるようになります。対話のなかで、利用者さんから「でも」や「だって」などといった否定的なニュアンスの言葉が聞かれるようになったら、要注意。支援者本位になっている可能性大です。 精神科訪問看護ではなによりもまず利用者さんの気持ちに寄り添って 幻聴や妄想といった症状は、対話だけで解消するのは難しいでしょう。私は、精神科訪問看護でまず目指すべきは、利用者さんの気持ちに寄り添うことだと考えます。幻聴や妄想の根底には、怒りや不安などの感情があるもの。そうした感情が脳のフィルターをとおり、症状として現れるのです。そんなつらさ、先の見えない不安な気持ちに寄り添うことが、私たちには求められます。利用者さんから症状についての説明を聞いて、まずは「それはつらいですね」と共感の声をかける。そうやって寄り添うことで、薬物療法も功を奏すものです。 Q&Aセッション ・幻想や妄想について聞いても良いものでしょうか? ぜひ聞いてください。利用者さんのなかには、周りの人に症状について話しても信じてもらえなかったり、うんざりされたりといった経験をしている方が少なくありません。そんな経験をするうちにだんだんと話さなくなり、ひとりで抱え込み、症状が悪化、または固定化していってしまいます。私の経験を振り返っても、関係性ができてきたころに「こんなふうに話を聞いてもらったのは初めて」とおっしゃる方はとても多いです。じっくり話を聞き、寄り添ってあげてください。 ●小瀬古さんからのお知らせ●日々の忙しさのなか、隙間時間を利用して、いつでもどこでも、短時間で精神科訪問看護について学べるようにYouTube「TOKINOチャンネル」を開設しました。お見逃しのないよう、ぜひ、チャンネル登録をよろしくお願いします!https://www.youtube.com/channel/UC93OMptXvoslF0VYPcdoMrQ 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年3月15日
2022年3月15日

かぶれ?褥瘡?臀部が広範囲に赤くなっている場合のアセスメント

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第6回は、3日間下痢便が続き、臀部が広範囲に赤くなっている患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 98歳女性。 おむつで排泄しています。ここ3日間下痢便が続き、まったくベッドから出ない生活になってしまいました。臀部が広範囲に赤くなっているようです。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 臀部の発赤がみられる事例です。 皮膚のびらんの原因は、下痢便であることは確かだと思われます。発赤が紅斑化していれば、末梢血管がすでに損傷を受けていると判断されます。 ベッドから出ない生活、皮膚の浸軟、下痢による栄養状態の悪化・脱水から、褥瘡を生じている可能性も高いです。 どちらも、早期に適切な皮膚ケアを行うことで悪化を防ぐ必要があります。 ここに注目! ●下痢便による、びらんの可能性がある。●皮膚のびらんだけでなく、褥瘡を生じている可能性がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・皮膚トラブルについて(時期、範囲、経過、疼痛・瘙痒感などの随伴症状)・下痢の原因・頻度と経過・おむつ交換の回数と、陰部・臀部の皮膚の清潔ケアの方法と頻度 客観的情報の収集 かぶれ かぶれとは、化学的刺激への接触により皮膚炎を生じた状態です。紅斑や丘疹から始まり、びらんとなります。 便によるかぶれであれば、肛門部を中心に、下痢で汚染される範囲にみられます。真菌感染等を併発することもあるため、難治性の場合は速やかに報告する必要があります。 皮膚の清潔度 肛門部・臀部・陰部の清潔度合いを観察してください。きれいにできておらず便が残っていると、便による化学的刺激が除去されていないため、皮膚症状は改善しません。 また、きれいにしようとこすることによって、その摩擦により皮膚トラブルが悪化することもよくあります。清潔度とともに、どのようなケアを家庭で行っているかを確認するとよいでしょう。 褥瘡  褥瘡の好発部である、体圧が集中する仙骨部の皮膚を観察します。周囲のかぶれとの違いを観察し、赤みが強い場合は、紅斑化している可能性が高いので、一時的な発赤なのか、紅斑化した初期の褥瘡かを、判別することが重要です。 紅斑化した初期の褥瘡では、出血や滲出液がみられないため、視診した際には単に「赤くなっている」という印象しかありません。褥瘡好発部位に発赤を発見した場合は、それが紅斑化していないかを必ず確認してください。 紅斑化している場合は、押しても白くならず赤いまま、または、赤みが戻るスピードが速くなります1)。これは、毛細血管に障害があって血流が妨げられているサインです。Ⅰ度の褥瘡になっていると考えられる状態です。これを見逃さず、早めの対処をしましょう。早期発見は早期治癒への近道です。 さらに、水疱があり、滲出液が出ている場合はⅡ度と判定されます。早めに褥瘡・皮膚ケアの専門家に状況を伝えて、相談してください。 報告のポイント ・皮膚トラブルの部位、範囲、湿疹の種類、分布の特徴、随伴症状・褥瘡の有無とリスク・下痢の原因と経過 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)日本褥瘡学会学術教育委員会ガイドライン改訂委員会.褥瘡予防・管理ガイドライン.第3版.http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline3.pdf

特集
2022年3月15日
2022年3月15日

[2]一方的に進めない! エンゼルケアでもコミュニケーションが重要

日ごろより、コミュニケーションに留意していることと思いますが、エンゼルケアでもご家族とのコミュニケーションがとても大切です。ケアする側からの一方的なケアになってしまう部分がないよう、適切な声かけや説明、相談を行いましょう。看取りの場では、ご家族の意向を最優先するという心構えが必要です。 これまでの「死後処置」を見直す 北は網走から南は奄美大島まで、全国各所にエンゼルケアの講演や研修会に伺いました。それで見えてきたことの1つは、長らく行われてきた「死後処置」の内容は全国的におおむね標準化されていたということ。実施の流れだけでなく、お顔用の、充実しているとは言い難い化粧品類がお菓子の缶などに入れてある、といったことまで多くの現場で一致しており、そのことに驚きました。 「こうするもの」と伝えられてきたこの死後処置を、看護師の皆さんは真摯にていねいに実践してきたことと思います。 しかし、ご家族の希望や意向をしっかり伺うようになり、それまでの実施には一方的な面があったことがわかってきました。 例えば、亡くなった方の口が開いている場合、これまでは当然閉じることがベストだと考えた対応が行われてきましたが・・・・・・。 あるケースではこんなやりとりがありました。 看護師「開いているお口ですが、いくつか閉じる方法がありますので、これからご説明します」ご家族(亡くなった男性の妻)「いえ、無理に閉じなくていいです。亡くなったときに口が開いていたなら、それが楽なのかもしれないから。もう、夫には微塵も頑張らせたくないんです」 亡くなった男性は白血病で何度目かの化学療法にトライしていました。闘病生活を支えてきたご家族だからこそ「これ以上はがんばらせたくない」と感じたのだと思います。 また、幅広の包帯を顎下にぐるりと回して頭頂部で結び、顎を引き上げて口を閉じる対応がなされた方のご家族は、そのときの思いをこう話しました。 「縛られて、苦しそうで、痛そうで、つらかったけれど、そうしなければいけないのかと思い、口に出せませんでした。それからずいぶん経ちますが、つらい記憶として今も残っています」 ケアする側がよかれと思って実施することでも、ご家族は希望しない場合があります。十分にコミュニケーションを取りながら、ご家族の希望や意向にできる範囲で対応することが大切です。 ご家族の希望に柔軟に対応するための留意点 さまざまなご家族の希望に柔軟に対応するためにも、コミュニケーションを取る際は以下の2つのことに留意します。 ①ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣うことが多い、予想を超える希望も少なくない、と含んでおく 死亡告知を受けており、頭では死亡したことを理解していても、ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣っていることが多いです。これは、さまざまなケースからわかってきました。 前出のケースのように、口が開いていたほうが楽かもしれないから閉じないでほしい、縛られて苦しそう、という思いもその例ですね。 他にも「痛み止めの坐薬を入れてほしい」と希望したり、顔に四角い白い布をかけるかどうかの問いに対して「夫はまだ心臓が止まっただけだから、亡くなった人みたいにしないで」と応えたり、冷却の説明に対して「冷たくて寒そう」と応えたケースもあります。 ある在宅での看取りの場面では、ご遺体を「一度起立させてほしい」との希望があり、担当の看護師がサポートして実現したこともあります。 ②ご家族の承諾は不可欠 第1回でもふれましたが、エンゼルケアの場面では、ご家族の承諾を得て進めることがポイントです。 また、ご家族に判断して承諾していただくためには、それをなぜ行うのか、どんなふうに行うのか、など実施内容についての適切な説明と提案をし、希望や意向を伺うことが必要です。 入浴についてのコミュニケーション例 では、具体的にどのようなコミュニケーションを行えばよいでしょうか。ここでは入浴を実施する場合を例にご説明します。 看護師「それでは、よろしかったら、これから○○さんにお風呂に入っていただきませんか? 介助する人数としても可能な状況ですので。お身体の今後の変化のことを配慮し、ぬるま湯でシャワー浴の形で。いかがでしょう?」 エンゼルメイクの入浴では、身体をあたため腐敗を助長する恐れがあるため湯船につかることは避け、ぬる湯によるシャワー浴が望ましいのです。 ご家族「えー!? お風呂はうれしいけれど。おじいちゃんは湯船につかるのが何よりも好きだったんです。最近ずっと湯船に入れていなかったんだから、最後くらい入れてあげたいわ。絶対、入れてあげたいです!」 この希望を受けて、あらためてご遺体の状況や気温から腐敗リスクを評価し、この後の葬儀社による冷却が始まる時間も合わせて検討し、次のように提案します。 看護師「それでは、短時間になりますが湯船に入っていただきましょう。そして、お風呂から出られたらすぐに胸とお腹を冷やしましょう。そうすれば、その後のお身体の変化をかなり抑えられると思います。いかがでしょうか?」 この提案に対し、ご家族が承諾したなら、入浴を実施してすぐに冷却を行います。ご家族が承諾せず、「ゆっくり湯船に入れてあげたい」と希望されたなら、腐敗現象による漏液など、つらい事態について理解されていないかもしれないと考え、あらためて説明し、承諾を得られるようにします。 ご家族への説明や提案は簡潔にわかりやすく ご家族は、エンゼルケアの場面について何もご存じではないことが多いのですが、死後の身体の変化のことなどから一つひとつ説明することは現実には時間的に限界があります。 そのため、エンゼルメイクを始める前に、 看護師「これから清拭や着替え、お顔のスキンケアやお顔色のカバーなどを始めたいと思います。ご質問や気になる点、また『こういうふうにしてほしい』といったご希望がありましたら、遠慮なく仰ってください。では、始めてよろしいでしょうか?」 というようにおおまかに説明し、承諾を得てから実施します。そして、ケアを行いながら可能な範囲でご家族への声かけと説明を行うとよいでしょう。 適宜簡略化しながら説明や提案を行うためにも、ご家族に渡す文書の作成がポイントとなります。文書を受け取ったご家族もたいへん安心されるのでおすすめします。文書の活用については連載の第8回で詳しくご紹介します。 ワンポイントメモ同席していただく際の声かけは「お願いします」がおすすめ声かけでは「ご家族に同席していただかなければエンゼルケアを行えない」という状況を伝える表現が必要です。例えば、次のような声かけがおすすめです。「これから、○○さんらしく身だしなみを整えたいと思いますので、(ご家族の)どなたかにご同席をお願いします(or どなたかに、付き添っていていただきたいです)」 ある緩和ケア病棟では、声かけを「ご一緒になさいませんか?」から「同室をお願いします」に変更したところ、ほぼ皆さんが同室されるようになったとのことです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

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