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特集
2022年7月5日
2022年7月5日

胃瘻でも餃子が食べたい! 慢性期の摂食嚥下リハビリテーション③

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、食事時の姿勢調整などで経口へ導いた事例です。 急性期・回復期・慢性期で嚥下障害は変化する 急性期では、重篤な嚥下反射遅延や誤嚥といった咽頭期(連載第3回を参照)の嚥下障害が発症し、経管栄養管理下に置かれることが、しばしばあります。回復期・慢性期になると体調が回復しますが、食べこぼす、噛みづらいなど、準備期(連載第3回を参照)の障害に変化するケースがあります。 急性期から回復期~慢性期へと、各々のステージで嚥下の再評価が必要です。その結果から、5期モデルのどこに障害があるのか、個々の回復の変化に応じて、適切な対応が可能になります。 事例 Hさん、69歳女性・要介護5。施設入所。脳梗塞発症後の左側片麻痺あり、歩行不能。 残存歯数が15本、重度歯周病と上下部分義歯不安定があることから、入所施設のケアマネジャーからの依頼で訪問となりました。 簡易検査はほぼ正常で、準備期の改善と姿勢の調整で、直接訓練が可能と判断しました。 初診時の嚥下評価 RSST注13回/30秒ODK注2パ3.2回/秒、タ2.8回/秒、カ2.0回/秒改訂水飲みテスト注34点 頸部聴診音清明頬の膨らまし左右 十分にできるうがい問題なくできる 間接訓練 準備期の主役は、歯や義歯です。「餅つき」に例えれば、歯はうす・・やきね・・です。 ときどき手水をつけた手で餅を返すことで、おいしい餅(食塊)になります。手水は唾液に相応し、返す手である舌や唇、頬の筋肉をうまく動かす間接訓練が、準備期にはとても大切です。 Hさんの間接訓練は順調に進み、早速、ベッド上の段階的摂食訓練を開始しました。 直接訓練 ファーラー位で右側を下にした側臥位に姿勢を調整しながら、「学会分類2021」の「0j」を試しました。1か月ほどで、「2-2」まで可能になりました。 ところがここで、義歯の装着が困難になるという問題が発生しました。 Hさんは、喫煙の影響から、歯周病(重度の骨吸収)がありました。義歯の内面調整後も、粉末やゼリータイプの義歯安定剤を使用しなければ咀嚼できない状況でした。さらに、装着時の鉤歯の動揺もあり、ときおり、義歯の装着を拒否することもありました。 そこで、食前に口腔ケアと間接訓練をすませ、義歯安定剤を貼付した義歯を装着するという条件を満たした場合にのみ食べる訓練(直接訓練)をしましょうと提案し、すぐに承諾していただきました。 姿勢を調整する Hさんは左側に麻痺があるので、体幹は自然に左へと傾斜します。重力の影響で水分などが麻痺側の左に流れて、ムセや誤嚥を発生させます。 まず、車いすにカットテーブルを装着しました。 患側の左側が下がってしまうことを防ぐために、患側の左手をカットテーブル上にのせます。さらに、背中にクッションを入れて患側の左側を高く、健側の右側を低く、勾配をつける姿勢に調整しました。これがうまくいき、ムセが軽減しました。 水分にはとろみ調整剤で交互嚥下法(連載第3回を参照)を取り入れ、UDF区分「舌でつぶせる」の、ソフト食が可能になりました。 餃子の自食をきっかけに その後看護師から、Hさんが、餃子を食べたがっていることを聞きました。 早速、市販の餃子を一口大にカットして提供しました。タレにはとろみを付け、まとめてかけます。おいしそうに自食され、これをきっかけに、一気に食上げが進みました。 介入から2年近く経過した現在は、姿勢調整することなく、UDF区分「容易にかめる」を自食されています。 食事介助に摂食嚥下リハを応用する 認知症の方などの食行動には、さまざまなパターンがあります。 ある人は、はがき一枚分の空間認識しかできない視野狭窄がありました。別の人は、口に食べ物が入れば咀嚼できるのに、認知症のために、食事に手をつけようとしませんでした。 このような場合、食事介助時に摂食嚥下リハビリテーションを応用すると、食支援につながる可能性があります。 認知症等の食行動に対応するためには、➀食に集中できる環境②おかずを目の前に多く置かない③患者の右側から介助する(右側嚥下法注4)──などの基本と、④食欲の低下には、食前に手のマッサージと口腔ケア⑤口が閉じにくい方は、口唇閉鎖訓練注5、「パ」の発声、口を閉じたり開けたりする口唇のストレッチ──も有効です。 認知症の食支援例 症状          対応法(例)食べ物に興味を示さない声掛け/食べ物の匂い/触感や味覚刺激を入れる/おにぎり早食い、かきこみ食べ一皿ずつ出す、小さいスプーン時間がかかるなるべく30~40分で切り上げる/間食で補う口の中に溜め込む食前に棒つき飴などで味覚刺激を入れるムセ、嗄声姿勢調整/食前に氷なめ/口唇閉鎖訓練 次回は、口腔粘膜疾患や衛生面での口腔ケアについてお話しします。 注1 RSST(反復唾液嚥下テスト):65歳以上では、3回/30秒で正常注2 ODK(オーラルディアドコキネシス):1秒間に「パ」「タ」「カ」をそれぞれ何回発音できるかをカウントする注3 改訂水飲みテスト:3mLの冷水を飲み、呼吸や嚥下の状態を評価する。4点以上でほぼ正常注4 右側嚥下法:食道は人体の左側で胃へつながっており、体が左側を向くと、食道入口部が閉まってしまう。この場合、30度ほど右側を向くと食道が開きやすくなり、物を飲み込みやすくなる注5 口唇閉鎖訓練の一例 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2022年6月28日
2022年6月28日

訪問看護サービスの規模拡大や株式上場を目指す方へ

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。vol.3では、代表取締役社長である大河原さんから、訪問看護ステーション事業の拡大を目指す方や、株式上場を志している方に向けたメッセージをお伝えします。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報▶ 上場前後でのライフスタイルの変化▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ ▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報 ――上場に向けて、意識的に吸収した知識や情報はありますか? P/L(Profit and Loss Statement)など会計管理や、最新の法令について情報収集しました。方法としては、周りの経営者に話を聞いたり、日本看護協会、財団の研修に参加したり。必要に迫られる前に、自分で早めに情報を集めるのが大事だと思います。 ――上場後の主な業務と、アクセスしている情報について教えてください。 上場前から変わらず、業務の中心は役職者への教育や新規出店の計画です。また、利用者様にも看護師にも訪問看護のことをもっと知ってもらいたいと考え、IRにも注力するようになりました。 意識的に見る機会が増えたのは、他業種や他社のマーケティング手法。移動中には、街中の広告や、新規開店した店舗の業態、逆に閉店した店舗の業態などを観察しています。そして、自分たちの会社だけを潤わせるのではなく、訪問看護の業界全体を大きくしていきたいという想いから、さまざまな企業の方と対話する機会を設けています。デイサービスや訪問介護を始めた会社に当社の取り組みをお伝えしたり、飲食のフランチャイズ展開をしている会社やコンサルティング会社の方と意見交換を行ったりしています。どの業界も会社の構造などの基本は同じだと感じていて、経営者として参考になります。 ▶ 上場前後でのライフスタイルの変化 ――株式上場したことで、ライフスタイルに変化はありましたか? ライフスタイルについては正直、まったく変化がありません(笑)。月曜日から土曜日の午前中まで目いっぱい仕事をして、土曜日の午後から日曜日はプライベートの時間を確保しています。毎週月曜日は、「自分がしなければならない仕事」と「誰かに任せられる仕事」を振り分けることから始まります。上場にあたり組織図や業務分掌規程などの整理を行い、自分が担う仕事が明確になったため、今のほうが時間はあるかもしれません。 ――プライベートはどんなふうに過ごしていますか? 「今、世の中が求めているもの」に対して敏感でいるために、プライベートでは視野を広げる時間をつくることを意識しています。部下の好きなことにも興味をもつようにしていて、Aという漫画が好きだと聞けばそれを読んでみる、Bというアーティストが好きだと聞けばその展覧会に行ってみる、という具合です。共通言語をつくり一緒に楽しみながら距離を近づけられたらいいなと思っています。 ▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形 ――訪問看護の、将来的な理想の形について教えてください。 現在の訪問看護は利用者様が看護師を指名する、あるいは少し気に入らないと交代させるといったことが許されてしまう世界。私も看護師なのでわかるのですが、利用者様に「あなたに来てほしい」と言われると嫌な気はしません。しかし指名方式だと看護師の精神的な負担が重くなるだけでなく、訪問時間を守れなかったり、利用者様の健康面の判断に思い込みが生じてしまったりというリスクもあります。さらにコロナ禍において、より個人に依存することのデメリットが明確になりました。看護師が感染症にかかり、利用者様との調整に追われたステーションもあったのではないでしょうか。これらのリスクを回避するためには、複数の看護師による多様な視点で利用者様を看ることが必要です。当社が大事にしているのは、ひとりで完璧な看護を目指すのではなく、チームとしてまずは全員が70~80点の看護を目指し、徐々に100点に近づけていく意識。訪問看護のチーム制はマネジメントの効率化とともに、利用者様やご家族様の理想を叶えることにつながると考えています。 ――チーム制にすることで、訪問看護師の働き方も変わっていくでしょうか? 訪問看護は、看護師の「利用者様に寄り添いたい」という気持ちを実現できる仕事です。しかし一方で、オンコールやご指名制に不安を感じ訪問看護業界への転職を躊躇したり、早期退職につながったりする方も少なくありません。そうならないように、仕事の日は仕事、休みの日は休みと、きっちりメリハリをつけて働くことが理想だと考えています。 また心身への負荷を減らすため、看護師同士お互いを承認し合い、成長できる環境も大事。優秀な看護師ほど「ひとりで120点の看護」を目指してしまい、1度の失敗でドロップアウトしてしまうケースも多く見てきました。信頼し合えるチームでは、休みやすく、相談もしやすく、そして一緒に働く仲間の意見が気づきになって成長できます。 オンオフのメリハリをつけて笑顔で働ける環境は、時代にも合っていますし、今後、訪問看護師の理想の働き方となっていくと考えています。 ▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ ――訪問看護サービスの規模拡大や上場を志す方にメッセージをお願いします。 私は病院でリーダーや訪問看護管理者を経験しました。その中で、自分を犠牲にして働いたことが多かったですし、そういう先輩や同志を多く見てきました。当時はそれが正しいと思っていましたが、今は継続性という観点から、チームとして動くことが大事だと考えています。組織の規模拡大は間違いなく、チームがないと成り立ちません。 チームで動ける組織にする第一歩は、ご自分や部下の目指す姿・解決したいことなどをしっかりと話し合うことです。部下の目標や理想の姿をしっかり聞き、自分がどうなりたいか、どうしていきたいかを伝える必要があります。もしコミュニケーションが難しいと感じているなら、コーチングを受けてみることをおすすめします。 私自身、起業後3年間は休みなく働いてきましたが、今は時間に余裕が生まれました。組織が育ち、仕事の委任や業務分掌規程などの整理ができたからです。事業規模の拡大や株式上場を目指す人は、自分だけで抱えることのないよう、周りの人との相互理解を深めていってください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

コラム
2022年6月28日
2022年6月28日

難病患者の病気を受容するプロセス 〜希望を持つことの大切さ〜

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、キューブラー=ロスの「死の受容過程」を梶浦さんが考察します。 E・キューブラー=ロスの『死ぬ瞬間』 ALSのような治療法のない難病を告知された患者は、それを受け入れるまでには相当な覚悟と時間が必要です。 アメリカの精神科医であるエリザベス・キューブラー=ロスは、200人以上の末期患者の心理状態の変化を、5段階で表現した著書『死ぬ瞬間』を1969年に発表しました。 これは、医師が初めて、医学がおよばない「死」という領域を科学的にとらえようとした画期的な本です。もう50年以上前のものであり、そこからさまざまな考えかたが波及しましたが、今でもサナトロジー(死生学)の基本的なテキストとして世界的に広く普及しています。 私も学生時代に授業で学んだことを思い出し、今回は、本書でキューブラー=ロスが示した「死の受容過程」1)を考察してみたいと思います。 ALS患者の受容過程と私の場合 キューブラー=ロスは、末期患者が病気を告知されてからの心理状態の変化を1 否認と孤立2 怒り3 取り引き4 抑うつ5 受容──の5段階で示しています。 このような心理状態の変化は、末期患者にしか当てはまらないのではありません。ALSのような難病患者や、自分の力ではどうしようもない困難に直面した人たちにも、広く当てはまります。 私は、これをALS患者に当てはめて、実際に私が経験した心理状態の変化と比較してみました。 第1段階「否認と孤立」 自分がALSであるという事実に衝撃を受け、それを頭では理解しようとするが、感情的にその事実を否認(逃避)している段階。「何かの間違いだ」というような反論をするものの、それが否定しきれない事実であることは知っている。周囲の人たちも自分をALS患者として見るため、そうした周囲から避けるように距離をとり、孤立するようになっていく。 私の場合もまさしくそうでした。この連載の第2回で書きましたが、なぜこんなことになってしまったのか? 何かの間違いではないか? と、自問自答を繰り返す日々が続きました。そして、自分はALS患者であり、これから先は周りの友人や同僚たちとはまったく違う人生を送っていかないといけないのか……。そう思うと、それまでどおりに笑って話すことができず、自然と周りの人たちと距離をとるようになっていきました。 第2段階「怒り」 自分がALS患者であるという事実は認識できた。しかし、どうして悪いことをしていない自分がこんなことにならないといけないのか?というような漠然とした怒りや、憤りにとらわれる段階。イライラが抑えられず、周囲の人に怒りを発散してしまう。 第3段階「取り引き」 信仰心がなくても、神や仏にすがり、どうにかしてほしいと願う段階。これまでの行為を改めるから嘘であってほしいといった「取り引き」をしようとする感情。 第4段階「抑うつ」 徐々に進行していく症状に直面して「死」を意識するようになり、悲観と絶望に打ちひしがれ、憂うつな気分になる段階。 私の場合は、この第2~4段階の感情は特にありませんでした。医師という仕事柄、「病気」とは非常に身近にあるものであり、誰にもいつでも起こりうるものという感覚がありました。また、ALSとはどういう病気であるかを詳しく調べることができ、「ともに生きていく」選択肢があることを理解できたことも要因だと思います。もし私が医師でなかったら、このような感情がわいてきたのかもしれません。 第5段階「受容」 これまでは、自分がALS患者であることを拒絶し、何とか回避しようとしていたが、進行していく症状にあらがえず、自分がALS患者であることを受け入れる段階。 遅かれ早かれ、この「受容」の段階に至ります。時間をかけて少しずつ受け入れていくことになるのですが、私は完全に受け入れるには5年近くかかりました。 ここで私が特に強調したいのは、キューブラー=ロスは これらのすべての段階を通してずっと存在しつづけるのは『希望』である。 と書いていることです。 現実を冷静に受け入れている人でも、新薬や新たな治療法が開発されるかもしれないということにわずかな希望を持ち、それを糧に気力を保っている人も多いでしょう。 たとえその希望が非現実的なものであっても、患者は、希望を与えてくれる医師や看護師を最も信頼するものである。 私もそうでした。診断されて間もないころは、まだ治験段階の薬を自費で購入し、わずな希望にすがり、それを肯定してくれる医師を信頼しました。 ALSと診断されて、それを受け入れられないでいる患者さんへ この病気を簡単に受け入れられる人なんて一人もいません。 孤独になったっていい。怒ったっていい。何かにすがりついたっていい。落ち込んでも、ふさぎ込んでもいい。それがふつうの感覚なんだから、そんな自分を肯定してほしい。この病気を受け入れるには、長い時間がかかるのだから、あまり先のことは考えすぎず、目の前の症状と少しずつ向き合っていけばいい。 そして、どんな病気にも希望はあることを忘れないでほしい。 そして、ALS患者さんを支える人たちには、患者さんのこのような感情を理解し、共感し、希望を持って寄り添ってほしいと思います。 私の二つの希望 ちなみに、私の今の希望(野望?)は、筋肉を使わずに正確にスイッチを押せるようにならないかな?ということです。 ALS患者の課題の一つは、「残存している筋力をいかに効率よく使い、パソコンやiPadなどのツールを操作できるか?」ということです。しかし発想を変えて、そもそも筋力以外で操作できれば、この問題は解決できるのではないでしょうか。たとえば、脳波を使ってスイッチを押すことができれば、筋力がいくら落ちても、コミュニケーションはとれるはずです。 今はまだ開発・発展段階ですが、今のtechnologyがあれは、きっと脳波でスイッチを押してiPadを操作できる日が来るはずです! お詳しい方がおられましたら、こちらまでご連絡ください。 そして、もう一つは、この連載を読んでくださっているALS患者さんに、少しでも「生きる希望」を提供できますように。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)E・キューブラー=ロス,鈴木晶訳.『死ぬ瞬間:死とその過程について』東京,中央公論新社,2001,468p.

特集 会員限定
2022年6月28日
2022年6月28日

【セミナーレポート】エンゼルメイクの正しいやり方とコツ -QAセッション編-

2022年3月17日(木)に、「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さんを講師にお迎えして開催したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナーの様子をお届けします。『訪問看護のエンゼルケア』全3回のセミナーレポートのうち最終回となる今回は、Q&Aセッションの様子を抜粋してご紹介します。 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001年には、看護師としての経験を活かして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 目次Q1 湯灌前のエンゼルケアはどこまで行うべき?Q2 まぶたが閉じられないときはどうすればいい?Q3 口の閉じ方で有効な方法は?Q4 詰め物は入れたほうがいい?Q5 皮膚からところどころ滲出液が出てくる場合の対処法は?Q6 体を拭くとき、腐敗対策として冷たいタオルを使うべき?Q7 ご家族に用意していただく衣服についての声がけは?Q8 貼ってあるテープを剥がすときに利用できるものはある? --> Q1 湯灌前のエンゼルケアはどこまで行うべき? 【質問】湯灌前のエンゼルケアをどこまで行うべきかいつも悩みます。【回答】業者によってサービス内容が異なるため難しいところではありますが、エンゼルケアの目的を「看取りの場で穏やかに過ごせるようにすること」とするなら、最低限の対応として保湿を行い、あとは時間が許す範囲でエンゼルケアを行います。多くの場合、湯灌では下地やファンデーションを使ってフルでメイクをするので、その前段と考えてもいいでしょう。ちなみに葬儀社の方は「ナースの方、唇にだけには油分をつけておいて」とおっしゃいます。乾燥が進みやすい唇は、表面の変化だけでなく放っておくと厚みがなくなってしまうこともあり、そうなってから整えるのは難しいのです。時間がなくても、せめて唇には油分をつけて乾燥対策をしてください。 Q2 まぶたが閉じられないときはどうすればいい? 【質問】眼球が乾燥して萎縮するなど、まぶたが閉じられないときはどうすればいいですか?【回答】まぶたを手で動かしても閉じられないときは、クレンジングマッサージがおすすめです。皮膚が柔らかくなって閉じられることがあります。それを行うまでは油分を塗布したり、ガーゼをかけておいたりしましょう。なお、クレンジングマッサージができないときやマッサージ後もまぶたが閉じないときは、二重まぶた用の糊を使ってみてください。糊を両まぶたのふちに塗って合わせ、しばらく押さえると、自然な様子に閉じます。二重まぶた用の糊はゴムを液状にしたもので、やり直しがききますし、死後変化が生じても引きつれることはありません。 Q3 口の閉じ方で有効な方法は? 【質問】お口を閉じる効果的な方法を教えてください。【回答】枕を高くし、顎の下に筒状に丸めた硬めのタオルを入れるといいでしょう。それから、エンゼルメイク用の『エンゼルデンチャー』を使って歯のスペースが充たされた状態にすると、閉じやすくなる場合もあります。また、顎は閉じているのに口元が開いてしまうケースもあります。その場合は、入れ歯安定剤を歯の表面や歯の表面が接している粘膜に薄く伸ばし、少し押さえておくと自然に閉じた印象になります。 Q4 詰め物は入れたほうがいい? 【質問】詰め物はどこまでするのがいいでしょうか?【回答】エンゼルメイク研究会では、詰め物は一切必要ないと考えています。含み綿は見た目が不自然になりますし、漏液を防ぐ栓としても役割を果たさないからです。鼻や口からの漏液の原因は、おおむね体内で腐敗が進んで内圧が高まることにあるので、対策としては冷却が有効です。それでも漏液が生じた場合は都度ぬぐい、ご家族にそのやり方を説明します。なお、これは肛門や膣も同じで、内圧が高まれば詰め物をしても液や便は漏れてきます。その場合は紙オムツや吸水パッドをつけておけば交換ができます。綿を詰めると交換できず、臭気の原因にもなるおそれもあるのでおすすめしません。 Q5 皮膚からところどころ滲出液が出てくる場合の対処法は? 【質問】全身浮腫が強く、皮膚から滲出液が出てくる場合、エンゼルケアでしてあげられることはありますか?【回答】残念ながらいい方法はありません。滲出液は一定の間出続けるようです。死後も療養中と同様に布で吸収するなどの対応を続けることになりますから、ご家族にもその旨を説明するのがいいでしょう。 Q6 体を拭くとき、腐敗対策として冷たいタオルを使うべき? 【質問】エンゼルケアで体を拭く際、腐敗しないように冷たいタオルを使うべきでしょうか?【回答】温かいタオルで大丈夫です。死後、体表面や末端部分は早く体温が下がり、かつ体内での循環は止まっているため、温かいタオルで拭いても体幹内部に熱が伝わりにくく腐敗を助長することはありません。温かいタオルを使ったほうがご家族も喜ぶので、ぜひそうしてあげてください。なお、お風呂に入る場合も、ぬるま湯のシャワー浴なら問題ありません。 Q7 ご家族に用意していただく衣服についての声がけは? 【質問】エンゼルケアの際、ご家族に用意していただく衣服について、いつどのようにお声がけしていますか?【回答】タイミングについては、あらかじめ看取りの準備をするケースでは、生前からしっかり伝えておくのがおすすめです。実際に経験者にご意見を伺っても、「そういうことは早めに声をかけてほしい」とおっしゃいます。ご家族の方はなかなか衣服のことまで気が回らないものですから、そのときに焦ったり、葬送後に本人が用意していた服が見つかって後悔したりということがないようにサポートしてあげましょう。主治医が病状の説明をする際に、「万が一に備えてお着替えを用意しておくといいかもしれません」「もしかしてご本人が準備しているかもしれないので、確認してみてください」などと、業務連絡の雰囲気で伝えてください。ただ、看取りを覚悟しているとしてもやはり辛いもの。必ず「万が一のときのために」と前置きするといいと思います。 Q8 貼ってあるテープを剥がすときに利用できるものはある? 【質問】肌にテープ類が貼られているときは、剥がすときに何を利用するといいでしょうか?また、褥瘡や創部などがある部位にテープが貼ってある際の対処法を教えてください。【回答】粘着力が強いテープなどで剥がしにくい場合は「剥離剤」を使うのがおすすめですが、ない場合はオイルなどで代用してみてください。また、開放創は蓋をしていないと乾燥して収縮し、色が変わってきます。いつもの褥瘡ケアと同じように、患部を泡ソープなどで洗浄し、再度保護テープを貼っておきましょう。保護テープの代わりにフィルム材やラップ(周りをテープでとめてください)を使っても構いません。特に患部が体の背面にある場合は重力の影響で早くから液が漏れやすいので、しっかりカバーし、紙オムツなどを敷くと安心です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年6月28日
2022年6月28日

【専門家執筆&監修】認知症患者が異食を行う原因は?対応方法・NG行動を解説

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。最終回の第12回は、食べられないものを食べる患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 70歳代女性。食事はあっという間に食べてしまい、食べたことを覚えていない。家族が目を離すとティッシュペーパーをお茶に浸けて食べたり、消しゴムや煮ていない豆類を食べ、嘔吐や下痢をする。 なぜ患者さんは異物を食べるのか? 認知症が重度になると、食物とそうでないものとの区別がつかず、異食が起きることがあります。異食とは、食べられないものを口に入れることや、食べてしまうことです。 味覚がしっかりあれば、異食した場合にも吐き出すことができますが、味覚が障害されていると飲み込んでしまいます。 また、満腹中枢の鈍化も、異食や過食を招くことになります。心理的に、孤独感や満たされない欲求などの代償として、異食が起こることもあります。 患者さんをどう理解する? このような認知症患者さんへの対応としては、苦痛や不安な思いに寄り添い、患者さんの苦痛を取り除くと混乱がしずまるといわれています。 異食に遭遇したら 異食をしている場面に遭遇した場合は、患者さんを驚かせないように、落ち着いた対応が大切です。 まずは、異食の患者さんを見かけたら、大きな声を出さないようにしましょう。その声に驚いて患者さんが反射的に飲み込むことがあります。 異食をしたものをすぐに口外に出そうと、患者さんの口の中に無理やり手を入れようとすると、患者さんは驚いて口を開かなかったり、噛んだりすることがあります。 慌てずに、患者さんの名前をゆっくり呼び、体にそっと触れて注意を向けてから、患者さん自身に口を開けてもらうようにお願いし、吐き出せるように促していきます。 異食の例 異食するものには、実にさまざまなものがあります。 異食の例 ・新聞・ティッシュペーパー・花・草・土・洗剤・薬品・化粧品・電池・タバコ・ゴミ・自分の便・布類(タオル等)・紙オムツ・花瓶の花 命に危険が及ばないものの場合は、他の食品(たとえばお菓子など)を用意して交換する方法もあります。 薬品・電池など命に危険があるものを食べた場合には、各製品に添付されている応急処置(吐かせる・水を飲ませて薄めるなど)をすると同時に、医師による処置を受けます。 異食により命に危険がおよぶものは、見えないところや手の届かないところに片付けて、患者さんの生活する空間の環境整備を行います。ティッシュペーパーや布などのように窒息に結びつくものにも注意を払い、患者さんの安全を守ることが必要です。 こんな対応はDo not! × 異食を発見したときに、驚いて大きな声を出す× 異食した物を慌てて口から出そうとする こんな対応をしてみよう! 異食は食欲の異常ではなく、欲求不満に伴う反射的、衝動的な行為であることが多いので、まずは患者さんの周囲に危険なものを置かないようにしましょう。また、異食をしていないかどうか、患者さんが口を動かしているときなどに声を掛け、見守るようにするとよいでしょう。 栄養素として鉄やカルシウム不足などが異食の原因となることもありますので、認知症の症状と決めつけてしまわず、きちんと検査し原因を明らかにすることも必要です。 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)諏訪さゆりほか.「認知症高齢者の看護計画」『医療依存度の高い認知症高齢者の治療と看護計画』諏訪さゆりほか編.愛知,日総研出版,2006,179-85.2)油野規代ほか.『認知症を伴う大腿骨頚部骨折患者に関わる整形外科看護師の対応困難な場面における臨床判断』金沢大学つるま保健学会誌.34(1),2010,91-9. 3)長嶋紀一.「認知症の人の医学知識」『認知症介護の基本』長嶋紀一編.東京,中央法規出版,2008,39-40.

特集
2022年6月21日
2022年6月21日

【管理栄養士のアドバイスvol.7】高齢者の下痢と食事

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。前回は高齢者の便秘について学びましたが、今回は「下痢」についてです。 下痢への対応 皆さんご存じのように、「下痢」とは、水分を多く含む、かたちのない糞便を排泄することです。前回のダウンロード資料でも取り上げたブリストルスケール1)で、便性状のアセスメントが可能です。 下痢をすると、食欲不振や脱水、また腸管での栄養吸収不良により、低栄養につながる可能性もあります。 今回は、管理栄養士の視点での原因や対策の方法をお知らせしますが、下痢の原因は消化器疾患によるものや薬剤によるものなど人それぞれですので、多職種連携をして原因究明と対策に取り組みましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 1食中毒 夏場に向けて特に注意が必要な食中毒ですが、予防で大事なことは、細菌やウイルスを「付けない」「増やさない」「やっつける」です。 生のお肉などは食中毒の原因菌が多ので、生食をする野菜、または生食食品に触れる包丁やお皿に「付けない」ように、生のお肉の取り扱いには注意が必要です。 暖かい室内は、細菌にとっては居心地の良い環境です。細菌を「増やさない」ために、料理は常温放置しないようにしましょう。 最後は「やっつける」です。食中毒の原因になる病原体は、高温で加熱することで死滅します。しっかりと中心まで熱が通るように加熱しましょう。中心部がまだ赤いようなお肉は、加熱が十分でなく、食中毒のリスクが高いです。 高齢者では、腸管が弱くなっていて、少しの病原体に感染するだけで重症化することもありえるので、特に注意が必要です。 チェックポイント! 在宅療養者さんの台所を覗いてみましょう。出来上がった料理が常温に置かれている場合は、冷蔵庫に入れるように伝えましょう。定期的に介入するヘルパーさんがいれば、情報提供して、衛生管理に協力してもらいましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 2牛乳や乳製品 高齢者だけではありませんが、牛乳や乳製品を飲むとお腹を下してしまう方がいます。これは乳糖不耐症で、小腸粘膜上皮の乳糖分解酵素「ラクターゼ」が欠如しており乳糖が分解されないことで起こります。 牛乳や乳製品だけでなく、経腸栄養剤や栄養補助食品には乳糖が含まれていることが多いので、下痢をする場合は成分を確認してみましょう。 乳糖不耐症の場合は牛乳や乳製品を避けることが解決策ですが、経腸栄養剤には乳糖不使用の製品が少ないので、どうしても乳糖含有の栄養剤を使用しなければならない場合は、乳糖分解酵素の処方を主治医の先生と相談してみてくださいね。 チェックポイント! 乳糖不耐症が疑われる場合は、本人や家族に「若い頃に牛乳を飲む習慣があったか」「乳製品でお腹を壊す事があったか」を聞いてみましょう。 在宅療養者によくある下痢症状 3経腸栄養剤の使用 経腸栄養剤や栄養補助食品の使用により下痢をしてしまう場合、前述のように、まずは乳糖不耐症を疑います。 そうではない場合は、高浸透圧性の下痢の可能性があります。胃瘻や経鼻経管栄養の投与速度が高いと下痢をすることはよく聞きますが、経口摂取の場合も同様の症状が出る場合があります。 浸透圧の高い経腸栄養剤を摂取すると、小腸上皮の毛細血管から腸管腔内に水分が移動して腸粘膜で水分の再吸収が起こります。それにより、腸蠕動が亢進し下痢が生じるのです。 そのため、特に浸透圧の高い経腸栄養剤の場合は少量ずつ時間をかけて飲んだり、紅茶やコーヒーなどで薄めて飲む、または浸透圧の低い製品に変更をすることをおすすめします。 チェックポイント! 経腸栄養剤による下痢が疑われる場合は、何をどのくらいの速度で摂取(注入)しているのかを確認しましょう。 経口摂取の場合は、「一日のうちで数回に分けて飲んでくださいね」とお伝えすることも、対策の一つです。 下痢をしているときの対応 下痢による弊害の一つに脱水があります。下痢により、体内の水分が排出されてしまうため、水分や電解質が不足してしまう状態です。 そのため、水分吸収が速やかに行われる適度な浸透圧である経口補水液がすすめられています。経口補水液では、ナトリウムやカリウムなどの電解質も補えます。 薬局で購入できる経口補水液としては、OS-1(大塚製薬工場)やアクアソリタ(味の素)、明治アクアサポート(明治)などがあります。 急な下痢症状で家に経口補水液がない場合は、手作りできる簡単なレシピ(ダウンロード資料)がありますので、参考にしてみてください。 おわりに 下痢の症状や原因はさまざまであり、適切なアセスメントが重要です。今回挙げた、食品が由来する下痢のほかにも、消化器疾患によるものや難治性の病状もあります。 放置すると低栄養や皮膚トラブルにもつながることもあり、早期対応が重要な一方で、排泄というデリケートな問題のため悩みを打ち明けてくださらない人もおり、排泄にかかわる問題の表出は氷山の一角であるともいわれています。 特に、療養者とのかかわりが深く医療的知識の豊富な訪問看護師が、気づくことがとても重要です。ぜひ、この機会に担当利用者様の排泄状況にも目を向けてみましょう。 ー第8回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)Lewis,SJ.et al.Stool form scale as a useful guide to intestinal transit time.Scand.J.Gastroenterol.32(9),1997,920-4.2)医療情報科学研究所.『病気がみえるVol.1消化器』第6版.東京,メディックメディア,2020.3)谷口英喜.「経口補水療法」『日本生気象学会雑誌』52(4),2015,151-64. 記事協力株式会社大塚製薬工場味の素株式会社株式会社明治

特集 会員限定
2022年6月21日
2022年6月21日

【セミナーレポート】これだけは外せない! エンゼルケアの実践方法

2022年3月17日(木)に実施されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー『訪問看護のエンゼルケア』。「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さんを講師に招き、エンゼルケアの基本から現場で役立つノウハウまで教えていただきました。全3回のレポートのうち2回目となる今回は、とくに実践的なテクニックをご紹介します。※全90分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001年には、看護師としての経験を活かして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 目次▶ 生体と同じ感覚で皮膚を扱ってはいけない▶ 「冷却」はマスト対応と心得て▶ エンゼルケア時に意識したいコミュニケーション▶ エンゼルメイクはご家族の大切な記憶になる▶ 「その人らしい」エンゼルメイクのポイント▶ 地域の「ならわし」についてのとらえ方 --> ▶ 生体と同じ感覚で皮膚を扱ってはいけない エンゼルメイクでまず気をつけるべきは、皮膚の扱いです。生体とご遺体とでは、肌の状態がまったく異なります。生体は常に循環しながら内側から肌表面を保湿しますが、ご遺体はそれができないため、どんどん乾燥していくのです。そのため、できるだけ速やかに肌を保湿してあげましょう。特に露出している頭部は乾きやすく、中でもまぶたが閉じていないため外気にふれている眼球の表面や唇は急激に乾燥が進むので注意が必要です。なお、体内に水分が多い子どもは、成人に比べてよりこの傾向が強くなります。 以前によく聞かれた失敗としては、「ひげ剃り」が挙げられます。死後、看護師がよかれと思ってひげを剃ったところ、その数時間後に皮膚の一部の色が変化して硬くなる、「革皮様化」という状態になってしまったというものです。これは、乾燥によって皮膚が脆弱になっており、カミソリの刺激で表面が削れることにより起こります。革皮様化を防ぐためには、シェービングクリームや低刺激性のカミソリを使うなどし、さらに剃った後にはたっぷり油分を塗布することが必要です。 ▶ 「冷却」はマスト対応と心得て ご遺体の冷却は、エンゼルケアにおいてマストの対応です。ご遺体の体内では、腹部の細菌バランスが急激に崩れ、腐敗をもたらす細菌群、中温菌が異常繁殖して腐敗が進みます。季節にもよりますが、少なくとも腹部と胸部は必ずすぐに冷却し、葬儀社の方の対応(ドライアイスや冷蔵庫での冷却)につなげるようにしてください。水分量の多い方、肥満で栄養が多い方、臨終時に熱の高かった方などは要注意。鼠蹊部や腋窩なども冷却したほうがいいでしょう。 なお、冷却には保冷剤や冷却まくら、水を入れたフリーザーバッグを平らにして凍らせたものなどがあてやすいです。製氷機にある氷を袋に詰めたものでも代用できます。これらを肌の上か下着と衣類の間に置いてください。 関連記事:[4]腐敗進行を抑えるために絶対に外せない対応、冷却について ▶ エンゼルケア時に意識したいコミュニケーション エンゼルケアを実践するにあたっては、ご家族とのコミュニケーションが大切になります。私たちの予想以上に、ご家族の希望は多岐にわたるもの。意に添わない場面とならないように「ご希望があればおっしゃってください」と声をかけながら進めることがおすすめです。 なお、ご家族との十分なコミュニケーションには、看護師側を守る意味合いもあります。コミュニケーション不足により「望んでいないことを勝手にされた」と考え、近年では訴訟という言葉が発せられたケースもあります。基本的には一つひとつの行動にご家族の承諾が不可欠と考え、こちらが「絶対にしたほうがいい」と判断したことでも、ご家族が了承しない限りは控えたほうがいいでしょう。大事な家族を亡くしたご家族は平静の心理状態ではない場合が多く、十分な配慮が求められます。 関連記事:[2]一方的に進めない! エンゼルケアでもコミュニケーションが重要 ▶ エンゼルメイクはご家族の大切な記憶になる エンゼルメイクは、ご家族にとって貴重な看取りの記憶をつくる機会でもあります。ご遺体に直接触れ、何かをしてあげる……そんな体験は心に残るものです。具体的にできることとしては、例えば手浴・足浴が挙げられるでしょう。温かいお湯を準備し、「ぜひ、ご一緒にお願いします」と声をかけてみてください。可能であればお湯に入浴剤やエッセンシャルオイルを入れるのもおすすめです。そのほかには、靴下や足袋を履かせたり、爪切りをしたりするのもいいですね。様子を見ながら、「これは息子さんにやっていただけますか?」「これなら小さなお孫さんもできるでしょうか」などと気を配ってあげると喜ばれると思います。 ▶ 「その人らしい」エンゼルメイクのポイント エンゼルメイクでその人らしさを表す方法はいくつかありますが、中でもポイントになるのは、やはりその人らしさが凝縮された顔の整えでしょう。顔の対応時には、ぜひご家族と「元気だったころはこんな眉の形でしたか?」などと話しながら進めてください。ご家族にとっての「その人らしさ」とは「元気だったときの様子」であることが多いので、看護師は知らない場合もあるからです。 顔のエンゼルメイクの方法の一部を、以下に挙げます。 乾燥防止策 先述のとおり、ご遺体の肌は強い乾燥傾向にあるため、乾燥防止策は必ず行いましょう。唇を含めた顔全体に、乳液やクリーム、ワセリンなどの油分をたっぷりと塗布してください。時間がとれる場合は、油分を塗布する前にクレンジングマッサージを行うのがおすすめです。クレンジング・マッサージクリームをたっぷり塗って優しくマッサージし、汚れと油分をティッシュでおさえ、次に蒸しタオルをあて、そのタオルを外して残りの油分をしずかに拭います。ご家族からも「気持ちがよさそう」「顔が穏やかになった」と喜ばれますよ。 血色を入れる 死後の体内では、重力の影響で赤血球が下方に移動し、体の上面が白くなります。特に顔は白さが目立つため、失われた血色を補ってあげてください。このとき、メイクアップにおけるチークの感覚で頬にだけ入れるのではなく、額やまぶた、顎先、耳などにも赤みを足します。そうすると一気に穏やかな印象になります。なお、可能であればクリームファンデーションとパウダーで肌を整えたうえで行うと、さらに血色が十分になります。ファンデーションはピンク系のものを選ぶといいでしょう。 眉を整える 眉はその人らしさが表れやすい重要な部分。ブラシで眉をとかして整え、毛が足りない部分はペンシルやパウダーで描き足していきます。ご家族に確認しながら眉の印象を調整してください。 ▶ 地域の「ならわし」についてのとらえ方 ご遺体の手を組ませる、顔に四角い白い布をかける、和服を逆さ合わせにするなどの「ならわし」については、エンゼルメイク研究会は行わなくていいという立場をとっています。そもそもこれらの慣習は、死やご遺体への恐れの感覚に由来している面があり、医療の段階では必要がないという判断です。また、後から対応することも可能なので、儀式の際に必要に応じて行ってもらうといいでしょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年6月21日
2022年6月21日

うつ熱?感染?高齢者が発熱した場合のアセスメント

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。最終回は、急に高体温となった患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 89歳男性。寝たきりで在宅療養をしている患者さんで、高齢の妻が介護しています。訪問して体温を計測したところ、38.0℃ありました。   あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 急に高体温となっており、感染による発熱、またはうつ熱や熱中症の可能性があります。体温を正確に計測して鑑別を行います。感染徴候を確認し、重篤度と原因を推定し、敗血症の徴候がみられたら速やかに医療につなげる必要があります。 ここに注目! ●感染による発熱かどうか?●寝たきりだと自分で環境調整がしにくく、介護力も強くはないため、うつ熱の可能性もあるのでは? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・高体温の経過(気づいた時刻、その後の処置と経過)・高体温に伴う症状(熱感、悪寒、発汗、頭痛、頭重感、だるさ、関節や皮膚の痛み、ふらつき、転倒)・うつ熱・熱中症のリスクとなる環境(高温多湿、掛け物の掛けすぎ、湯たんぽや電気毛布の使用、など)・感染徴候(疼痛、腫脹、発赤、熱感、分泌物の増加、のどの痛み、咳、痰、喘鳴、尿の混濁や浮遊物、血尿、尿の臭気の増加、下痢、不消化便、血便、など)・生活への影響(食欲と食事摂取量の低下、水分摂取量の減少、活動量の減少、ADLの低下) 客観的情報の収集 体温 体温を測定し、平熱との差を確かめます。 うつ熱では、体温放散を促すと体温が下がります。薄着にするなど、熱が放散されやすいようにしてしばらく様子をみて、体温を計測しなおしてください。すぐに低下すれば、うつ熱と判断してもよいでしょう。 感染による発熱の場合は、冷罨法では体温の低下は起こらず、悪寒を増強する可能性があります。悪寒戦慄と解熱の日内変動がみられることが多く、消炎鎮痛薬の使用で速やかに体温が下がりますが、原因となっている炎症が治まらないかぎり、薬の効果が切れると上昇します。 皮膚温 看護師の手背を使って皮膚の温度を確認しましょう。 手背で皮膚温を触診 うつ熱の場合は熱がこもった状態であるため、皮膚温も高いです。体温は高いのに末梢に冷感がある場合は、発熱前の悪寒と考えられ、感染の疑いが強くなります。 敗血症徴候 感染が全身に及ぶと、重篤な全身症状を引き起こす敗血症になります。発熱に加え、ショック状態(頻呼吸、頻脈、血圧低下、意識レベルの低下やせん妄)となり、播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC)を併発することがあります。 DICでは、紫斑がみられることがあり、口腔や陰部等の粘膜から出血することもあります。このような徴候がみられれば、速やかに医師に報告して対処が必要です。 感染部位の探索 特に高齢者が感染を起こしやすいのは、 ・褥瘡や外傷、医療機器刺入部等、皮膚の破綻がある部位・呼吸器系・尿路・消化器系・医療機器挿入によるもの です。これらの部位の皮膚や粘膜に、腫脹・発赤・熱感・疼痛・分泌物増加がないかを確認します。 中心静脈カテーテル等の医療機器が原因となる感染は、原因を取り除かないかぎり治まらず、敗血症になる可能性がありますので、注意深く観察してください。 報告のポイント ・高体温の経過・炎症の徴候、炎症の原因部位・敗血症の徴候 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2022年6月14日
2022年6月14日

vol.2 上場企業として成長するためのマネジメントと戦略

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。vol.2では、代表取締役社長である大河原さんに、上場企業として重視している組織マネジメントや、今後を見据えての戦略についてお話をうかがいました。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 採用と社員教育▶ 組織をマネジメントする上で重視していること▶ 現在感じている自社の課題と今後の戦略▶ 地方出店への展望 ▶ 採用と社員教育 ――社員の採用や教育において重視していることを教えてください。 「当社の社員を増やす」だけでなく「訪問看護師を増やす」ため、訪問看護未経験者の採用も積極的に行っています。また、病院や他の訪問看護ステーションでは、先輩看護師がマンツーマンで指導を行う「プリセプター制度」を採用しているところが多いですが、当社の教育の基本は「チューター制度」。年齢の近い先輩(チューター)が新人に伴走するスタイルで「一緒に考え、成長していく」ことを目指しています。未経験者でも半年から一年で育成可能なプログラムを構築しているので、早ければ3ヶ月ほどで一人で利用者様の元を訪問できるようになります。拠点によっては、チューターに教えてもらっていた新人が、すぐに他の人のチューター側にまわるケースもあります。 ――チューターに対してはどのような教育を行っていますか? 各拠点にいる役職者がしっかりとサポートする体制をつくっています。チューターに繰り返し伝えているのは「上から教えるのではなく一緒に考える」ことの重要性です。訪問看護はいつも一つの正解があるような仕事ではありません。指導する側、される側が一つの正解を求めてしまうと、現実とのギャップが生じます。 「指摘し合うのではなく認め合う」というチューター制度の基本姿勢は、職員の退職率が下がった一つの要因だと感じています。 ▶ 組織をマネジメントする上で重視していること ――円滑な組織運営のために意識していることはありますか? 組織マネジメントの要は、各拠点の役職者です。当社では1拠点に3名の役職者を置き、その育成に力を入れています。週1回「リーダー研修」を行い、役職者としての考え方や姿勢はもちろん、PLを含めた経営上の数字の読み方や労務管理などの知識、コーチングやリーダーシップなどについてレクチャーしています。さらに、研修を受けたリーダーには、各拠点にいる他のリーダーに、学んだことをアウトプットしてもらうようにして、知識の定着を促しています。 また、訪問看護サービスの要となるのはいうまでもなくひとりひとりの看護師です。専門職は成長や変化を望む人が多いので、役職者が看護師に対して年3回の面談を行い、各自の目標管理を徹底しています。面談を通じて目標管理や到達へのフィードバックを行えるよう、役職者への「面談スキル」研修も行っています。 ▶ 現在感じている自社の課題と今後の戦略 ――現在、組織経営で感じている課題はありますか? 拠点が18に増えたことで、会社としての考え方がすみずみまで浸透しきっていないと感じています。各拠点のトップである所長に100の情報を伝えたとしても、所長から副所長へ伝達する時点で伝わるのが80%くらい。さらにその部下へとなると、60%程度しか情報が伝っていないことも少なくありません。 ――そうした状況を改善するための戦略について教えてください。 たとえば所長から副所長への情報共有後、副所長から所長へ毎回感想をアウトプットしてもらうようにしています。その逆も同様です。2年前からスタートし、少しずつ手応えを感じるようになりました。 今後は社内の情報について今よりも取り扱いルールを緩和し、もっと多くの社員がアクセスできるようにしていきたいと考えています。現在、情報は私や幹部が各拠点の所長に伝える構造になっていますが、さらに拠点数を増やす場合は、幹部と所長とを結ぶ「エリアマネージャー」のような役職をつくって、そこから各エリアに向けて情報を伝達できるようなしくみを構築したいですね。 そして、ここまで展開してきて実感するのは、役職者教育が成功すれば、あとは自然と上手く回っていくということです。病院経営はトップダウンで「上の言うことが絶対」というところも多いですが、訪問看護サービスの経営には、新しいやり方が必要だと考え、常に模索をしています。 ▶ 地方出店への展望 ――御社は地方にも展開されていますが、今後も増やしていく予定ですか? 今後は、ドミナント戦略でまずは神奈川、埼玉、千葉といった関東エリアでの出店を考えています。関西は兵庫や高知に拠点があるので、そこを足がかりにできればと思っています。一方、地縁のない地域への出店は急いでいません。というのも、知らない土地での役職者選定と教育には課題が多いからです。まず難しいのは、優秀な看護師が必ずしも優秀な管理者になるとは限らないという点。優秀な方は部下にも自分と同じ水準を求めてしまう傾向があるのですが、当社は個々人が100点を目指すのではなく、チーム制で全体として70点から80点を確実に提供するサービスを目指しています。そういう考え方をしっかりと役職者に浸透させることが重要だと考えているため、まずはドミナント戦略での地方出店を検討しています。 ――人口減が問題となっている地域への出店について考えを聞かせてください。 人口が少ない地域は実際に利用者様が伸びないので、拠点を増やしづらいのは事実です。しかし、県庁所在地などある程度の規模のある地域であれば、1〜2ヶ所は出店できるのではと考えています。 ただ、人口が少ない地域では「利用者様数が伸びない」と同時に、「看護師の確保が難しい」ことも課題になりがちです。看護師の数が少ないと必然的にオンコール対応の頻度が高くなり、その負担が問題となります。当社ではオンコールの当番を週1回未満となるようにしています。そうするためには各拠点に看護師が最低8人は必要です。地方出店の重要なポイントは、利用者様の確保よりもまずは看護師の数を確保して、組織としてしっかりとした体制をつくれるかどうかです。当社は、そこをおさえた上で、今後の地方出店を考えていきたいと思っています。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

認知症のある患者さんとのコミュニケーション
認知症のある患者さんとのコミュニケーション
特集
2022年6月14日
2022年6月14日

ケアを拒否する場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第11回は、清拭の前に布団を外すと殴ろうとする患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代、女性。以前からアルツハイマー病との診断を受け、行動障害がみられていたが暴力行為はなかった。何度も同じことを繰り返し話すが、こちらの質問には答えていた。ある日訪問して、説明後、全身清拭を始めようと布団を外すと「なんでそんなことするの、痛いでしょ!」と叫び、看護師を殴ろうとしてきた。 なぜ患者さんは殴りかかってきたのか? この患者さんは、ふだんから何度も同じことを繰り返し話しています。このことから、記憶障害が出ていることが推測できます。認知症による記憶障害のために、自分が話した内容を覚えておらず、同じ話を繰り返していると思われます。 また、「清拭のために」「布団を外す必要がある」という事柄の関連づけができていないことが推測されます。「ゼンシンセイシキ」(全身清拭)という言葉も耳慣れない表現だったのかもしれません。それらの理由から、「布団を外されて、何かされるのではないか」という恐怖心を抱いたのでしょう。 布団を外されると「痛い」と訴えていることから、痛みが恐怖につながっていると思われます。また、過去に「布団を外されると痛いことをされる」という、痛みの体験と結びつく記憶があるのかもしれません。 患者さんをどう理解する? 認知症の患者さんから拒否があった場合は、心配や苦痛などの理由があると推測し、相手の意思を尊重する姿勢を示しましょう1)。 この患者さんは、記憶を保持する時間がとても短いと思われますので、ケアをするときには、すべての行為動作における促しを、「これから○○しますね」など、あたかも実況中継をするかのように誘導するといった声掛けが必要でしょう。認知症の方は、これから何が起こるかを予測する力が低下していることがあり、こういった声掛けがより効果的です。 また、日常生活では「ゼンシンセイシキ」(全身清拭)という言葉は使わないので、意味を理解しないまま返事をしていたのかもしれません。 こんな対応はDo not! × 日常生活で使われない言葉を使用する× 認知症の患者さんの記憶障害や理解力に対する配慮不足× BPSDの出現を予測したかかわりへの配慮不足 こんな対応をしてみよう! ふだん使っている平易な言葉を使うよう心掛けることで、伝わりやすくなります。 また、認知症の特徴である記憶障害の程度に合わせた声掛けのタイミングも重要です。一つ一つの動作に合わせ、促しの言葉掛けが必要な場合もあります。 患者さんが暴力的になる背景には、過去に恐怖につながる経験があるのかもしれません。家族に聞くと、ケアのヒントが見つかるかもしれません。もし、暴力的になった場合は、感情を汲み取り「怖がらせてごめんなさい」などの声掛けをして、その場で清拭することにこだわらず、日を改めてもよいでしょう。 執筆関 千代子(せき・ちよこ)つくば国際大学医療保健学部 看護学科教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)中島紀恵子ほか編.『認知症高齢者の看護』東京,医歯薬出版,2007,170p.

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