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特集
2021年4月14日
2021年4月14日

訪問看護あるある座談会 vol.2 感染対策編

訪問看護のお悩みあるあるの中に、感染対策があるのではないでしょうか。病院では清潔・不潔をはっきり分けられる反面、在宅では病院ほど明確に清潔・不潔を区別することへの難しさもあります。前回に続き、3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、感染症対策をテーマに訪問看護の「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 コロナ感染対策の悩み。手袋NG!?訪問看護の入浴介助 りさ:悩みあるあるは感染対策です。 ゆり:あるよね。エプロンしないとか「これも素手でやっちゃうの?」みたいな。 りさ:在宅の利用者さんは手袋すると嫌がるんだよって言われたことがあったんです。それで手袋付けずに入浴介助してるお家もあります。 ゆり:その家の清潔の具合によるかもしれないけど、自分の感染リスクもあるし、他の家に菌を持っていっちゃうリスクもあるよね。お風呂場で「こんなの裸足で入るのよ!」って入っていく看護師もいるけど。笑 りさ:えっ、むしろ裸足以外で入浴介助してるんですか? ゆり:うちでは長靴持っていったり、家によっては買ってもらったりしてます。ステーションごとに感染対策って違うんじゃないかな。 みほ:うちのステーションではご自宅で使ってるバスシューズを借りることもありますね。 りさ:へー、そうなんですね。イヤイヤ裸足で入ってました…。 ゆり:他のステーションではこうしているらしいから、感染対策の見直しをするのはどうですかって提案してみるのはどう?今はコロナもあるし。 りさ:そうですね。素手でストマを洗うのとか、粘膜だから抵抗あって悩んでたんです。 ゆり:だって便とか触れるからね。 りさ:信頼関係を大事にしすぎて、手袋をつけて嫌われるんじゃないかって思っている先輩もいて…。 ゆり:でも自分は守らないといけないもんね。最近は新型コロナで自宅に消毒液置いてくれてる家も多くなったし、看護師は働きやすきなったんじゃないかな。 みほ:そうですね。新型コロナを理由に何かと感染対策できるようになったのは、よかったのかもしれないですね。「新型コロナなので」って説明して、今まで抵抗あったお宅でもエプロンとか手袋を付けさせてもらえたり。 りさ:マスクもしてもらいやすくなりましたね。 みほ:今までそのまま咳されてましたからね…。 ゆり:唾飛んだよ!みたいな。気になってコンビニのトイレで顔洗ったこともありました。笑 みほ:帰り際に洗面所で手洗いできなかった時、コンビニのトイレとか公園で手洗ったりしますね。 ゆり:公園の子供たちに混ざって手洗いますよね。訪問先で「さようなら〜」って挨拶してそのまま手洗うタイミング逃しちゃったり。手指消毒で済ませるときもありますけどね。 看護師、膀胱炎になりがち。訪問看護のトイレ問題 ゆり:最近はコロナでトイレ使えなかったですよね。 みほ:めっちゃ不便でした。 ゆり:ですよね!私、膀胱炎になりました。 りさ:えー!わかります!私もなりかけましたもん。 みほ:ひえー。今年じゃないけど私も前なりました。 ゆり:病棟でもそうでしたけど、トイレ我慢しちゃうじゃないですか。在宅だとトイレにいつでも行ける環境じゃないので、尚更。 りさ:私も水飲むの控えちゃってました。去年の夏に突然38度くらいの熱が出て「コロナか!?」って思ったんですけど、実は脱水で。 ゆり:わかるー。私もおなかの調子が悪くて腸炎かと思ったら高熱出て。OS1を一気飲みしたらおいしくて。こんな美味しい飲み物だったかなっていう。笑 手足の痺れもあって、今思うと重度の熱中症でしたね。 みほ:やばいやばい。 ゆり:夏、高齢の方ってなかなか熱中症に気づかないじゃないですか。クーラー付けてないのも怖いですよね…。 りさ:クーラー自体無いおうちもありますね。必死でアイスノン当てたりしてました。 ゆり:看護師側も夏と冬は辛いですよね。冬は着込んで自転車乗るので、利用者さんの家に着く頃にじんわり汗かいてて。訪問中もケアして汗かいて、外出ると寒くて。風邪引きそうになっちゃいます。 みほ:分厚いダウンだけだと利用者さんの家出てすぐ着るには暑いこともあって。フリースの上に薄手のダウンの重ねてますね。 ゆり:うん、上着は重ねて調節できないと体調崩しますね。朝に子どもを保育園送るのが重労働で、出勤する頃には冬でも汗だくで。笑 着る物失敗すると、夏みたいに汗かきますね。 ー③に続きますー 記事編集:NsPace

インタビュー
2021年4月13日
2021年4月13日

多機能複合型店舗「せわのわ」モデルとは?

株式会社キュアステーション24が運営するせわのわ訪問看護ステーションは、地域に開かれた医療と介護サービスを提供する「せわのわ」のサービスの一つです。第1回は多機能複合型店舗「せわのわ」について、事業支援部長の半田さん、せわのわ事業本部長の目井さんにお話を伺いました。 「せわのわ」モデル第1号店として ―せわのわのような多機能展開しているところは珍しいと思いますが、実際にはどのような事業を行っているのでしょうか。 半田: 「せわのわ」は株式会社キュアステーション24が運営していて、TRホールディングスグループの傘下にあります。株式会社TRホールディングスは、医薬品・化粧品・医療機器等の販売や調剤薬局の運営、精密機器開発製造やシステム開発販売など、幅広く事業を行っていますが、基本理念は人々の健康な生活と笑顔にどれだけ医療面から貢献できるかで、医療を通して住民の方々に貢献するというのが一番のベースですね。 キュアステーション24は、調剤薬局・訪問看護・栄養ケアステーションの3業態の複合事業を新たに展開するために2019年4月に設立した法人です。 ここは、実験店でもあり基幹店でもあります。いわば我々が考えているせわのわの機能のフルバージョンで、飲食部門をつけたことが特に新たなチャレンジでもあります。 目井: この構想自体は2014年頃から出ていて、代表取締役である田中といろいろ話をしていました。元々調剤薬局を抱えていたので、薬局が今後も生き残りをかけていくには、地域や在宅の分野もしっかりやらないといけないと…。調剤薬局と訪問看護としたのは、経営サイドからすると、収益性の面が一番大きいですね。 半田: ただ、外来中心になっているような薬局だと、急に在宅に行けと言われてもなかなか動きづらい。でもこの先絶対、在宅をやっていかないと調剤薬局はもたない、下手をすると淘汰されてしまうと思っていたので、訪問看護とのペアリングを考えました。 目井: そうした話を重ねるうち、2018年頃には地域に貢献するのであれば、カフェや薬膳料理などもどうか、という案があがりました。薬局と訪問看護だけではなく、飲食と栄養面からも地域支援ができないかというのが最初のアイデアで、要介護の人よりもフレイルの人をターゲットに考えていましたね。 実際には、調剤薬局と訪問看護ステーション、コミュニティサロンも兼ねた健康食堂、栄養ケア・ステーションを運営しています。 組織内でのミニ包括ケアチームを目指して 半田: 地域包括ケアシステム、チーム医療とはよく言われていますけれど、本当に多職種連携が機能しているのかというと、実際は難しいところもありますよね。所属している組織も職種も違う中では、サービス担当者会議などの集まりでも、お互いに遠慮して言いたいことが言えないことも多いです。 それだったら、我々の組織でミニ包括ケアチームを作ってしまえばいいのではないかと。それが多職種業態にしようと思ったねらいです。 うちでは主に薬剤師、看護師、管理栄養士、理学療法士、言語聴覚技師、調理師などがいます。一つの組織の中でケアにあたる専門職をチーム化すれば、他の機能していないところより機能的に動けると思いました。まだ道半ばではありますけどね。 目井: 看護師と薬剤師が働くことのメリットがどのようなところにあるのかは、仮説のもとでやりはじめましたが、実際、お互いに相談しやすい環境であり、親和性は高いということはわかりました。 ―事業性としてはいかがですか。 目井: うちの特徴としては、住宅地のど真ん中にあります。ビジネスとして考えれば、調剤薬局はクリニックの横やショッピングモールなどに出店した方が集客もできてベストかもしれません。けれど、このモデルとしては地域に貢献するということを第一に考えていたので、その選択肢は外しました。この地域の半径500mをすべてカバーしようという考えではじめましたから…。 苦労も相当多いですが、「今のせわのわのモデルいいね」と言われることも多い。まだこうしたモデルは日本ではないと思うので、今は1号店として知見をためているところです。 半田: 調剤薬局にも訪問看護にも医療の専門家がいて、何かあれば相談できる。しかもみなさんが利用できるレストランもあって普段使いができるわけで、機能性の面だけでいえば便利に決まっています。 ただ、事業性をどう確保するかが最大の課題ですよね。ボランティアでやるわけにはいきませんし…。 このモデルの良さに加えて、きちんと事業性を証明していくことが、この先展開していく上での大きなキーになると思います。 目井: いずれは横展開をしていくことも考えていますが、展開自体は、私どもが独自に出すことは考えていなくて、FCやボランタリーでなどいろいろな方法があると思います。このモデル自体、誰がやったら相性がいいのか、クリニックかもしれない、調剤薬局かもしれない。そうしたことも含めて可能性を探っていて、どこからでもせわのわモデルに入っていけるような仕組みにしていきたいと思っています。 まだ実験段階ではありますが、ある程度の方向性は見えてきていますね。 半田: 今は広大な実験場にいるという感じですね。いずれビジネスモデルが固まってきたら、社会に貢献できる形で広げて行きたいと思っています。 ** 株式会社キュアステーション24 せわのわ事業支援部 部長 半田 真澄 30年以上臨床検査領域で働いた後、2013年にTRホールディングスグループに入社。代表取締役の田中氏とは社会人1年目が同期という縁。せわのわでは主に業務全般のサポートを行っている。 株式会社キュアステーション24 取締役/せわのわ事業本部 本部長 目井 俊也 ゼネコンや外資系保険会社などを経て、まったく畑違いの介護業界に。訪問介護ステーションやデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの開業・運営経験がある。 株式会社キュアステーション24 訪問看護事業責任者/管理者 竹之内 航輝 総合病院の脳外科や透析外来に勤務後、訪問看護ステーションの管理者になるための経験として看護師の人材紹介会社で働いた経験を持つ。代表の地域貢献に関するビジョンや、スタッフに対する思いなどに共感し、せわのわ訪問看護ステーションに入職。

インタビュー
2021年4月13日
2021年4月13日

訪問看護事業参入で地域包括ケアシステムの実現へ

  『介護のことならツクイ』。株式会社ツクイは介護事業に参入してから35年以上、顧客や社会のニーズにあわせて事業を拡大してきました。 今回は、ツクイの訪問看護事業参入プロジェクトを牽引されている事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、ツクイ入社までの経緯や訪問看護事業参入の経緯、ツクイが手掛けている事業についてお話を伺いました。 患者さんは、退院した後が本当の生活との闘い ―竹澤さんのこれまでのご経歴を教えてください。 竹澤: 看護師になろうと思ったのは、学校の先生に強く勧められてです。看護学校卒業後は、長野県内の病院に就職し、救急外来やオペ室、外科、ICU、脳外科、循環器など様々な経験をし、トータル10年ほど働きました。夫の転勤で上京後は、元々ケアマネージャーの資格を初年度に取って、違う環境で資格を活かせたらいいなと思っていました。それが病院から介護業界に入ったきっかけです。 ケアマネージャーとして働きはじめてからは、病院できちんと管理されていた、服薬や食事、排泄、保清などが行き届いていない生活状況を目にしました。老々介護で追い詰められて自死を選択するという、テレビで見ていた悲惨な状況も目の当たりにし、衝撃を受けました。 病院にいたら、「おめでとうございます」と言って患者さんを退院させますが、退院した後が本当の生活との闘いだと感じました。在宅の現状を知り、私の中で病院に戻る選択肢はなくなりました。在宅業界で自分の資格を活かして働いていこうと思いました。 ―その後どのように働かれたのですか。 竹澤: ケアマネージャーを4年ほどやりました。その後、都内に新しくできるショートステイに施設長として行きました。いろいろな課題がありましたが、訪問看護事業や有料老人ホーム事業、生活に関わる周辺の事業にも関わり、15年ほど働いていました。施設長は8年ほど、訪問看護の統括のような立場にもいました。 前社ではM&Aの関係もあり、ショートステイやデイサービス、訪問看護ステーションが一緒になったりしました。他の会社に買ってもらうときは、ルールに従わなきゃいけない難しさはありましたけど、柔軟に対応していました。逆に、他の会社を買ったときは、社内のルールや介護のしかた、有休の使い方など、文化が違うということで苦労しました。 経営陣の思いがまっすぐで同じベクトルであること ―ツクイに入った経緯は?決め手は何だったのでしょう。 竹澤: 元々は社長の会などに参加させてもらっていて、女子会のような流れでツクイの取締役と知り合いました。その当時、前社では訪問看護事業を拡大していくことはないといった感じで。管理の仕事をしていましたが、「訪問看護の仕事がしたい」、「自分はサービスに出たい」と思い、訪問看護での独立を考えていました。それを聞きつけたツクイの取締役が、「うちでやってみないか?」と声をかけてくださったんです。 ツクイは福祉事業だけで35年間真面目にやってきた会社ですし、これから全国展開していく中で、その拠点ごとに訪問看護を増やしていきたいという思いがあったのが入社の決め手です。あとは、経営陣たちの思いがまっすぐで同じベクトルだったので、ここなら思う存分訪問看護ができるなと感じました。 ―取締役は竹澤さんのどのようなところを見込んで、声をかけられたんでしょう? 竹澤: 在宅のときから地域に根付いてやってきたことを、お世話になっていたコンサルタントさんから聞いてご存じだったのかもしれません。また、私は数字を見ながらきちんと売り上げをあげることも意識しています。思い通りじゃないと嫌というわけでなく、柔軟に対応できるタイプだと思うので、そこがツクイに入ってもやっていけると思ってもらえたんじゃないでしょうか。 その後はコンセプトなどを1年くらいかけて聞かせていただいて、医療系事業プロジェクトをつくるためにいろいろ調べ、多くの方にお会いして、3年前にツクイに入社しました。 地域包括ケアシステム実現のために必要なこと ―今ツクイさんで手掛けている事業と、今後の展望について教えてください。 竹澤: グループ全体では734の事業所があり、デイサービスが527、グループホームが45、介護付き有料老人ホームが28、住宅型有料老人ホームが2、サービス付き高齢者向け住宅が22、訪問看護ステーションは14です。(2021年2月時点) ツクイでは、「人生100年(幸福に生きる)時代へ。」というコンセプトを掲げています。また、「ツクイは、地域に根付いた真心のこもったサービスを提供し、誠意ある行動で責任を持って、お客様と社会に貢献します。」という事業理念のもと、各種事業を展開しています。 その中の地域戦略推進の一つが訪問看護事業です。ツクイでは、人々が地域で暮らすために、福祉を軸として周辺の事業や医療との連携を強め、地域価値を創造していくという方向性で事業に取り組んでいます。 地域包括ケアシステムを実現するには、介護だけでも医療だけでもだめで、介護と医療の融合が必要です。そのために、医療系事業の訪問看護もしっかり伸ばしていく必要があると思っています。 ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

インタビュー
2021年4月13日
2021年4月13日

対話による介入「オープンダイアローグ」とは?

 KAZOCが取り組むオープンダイアローグとは、「開かれた対話」による精神科のクライシス(精神症状の悪化に起因する危機)介入の手法です。「対話」の場を重視することで良好な治療成績をあげています。第3回は、オープンダイアローグの具体的な内容について、渡邊さんに伺いました。 対話を繰り返すリフレクティング・プロセス 渡邊: オープンダイアローグは、フィンランドの西ラップランドという地方にあるケロプダス病院だけで行われている取り組みです。そこが、エビデンスが桁違いの論文を出したことで注目されました。 日本では統合失調症患者への向精神薬の投与率は99%といっても言い過ぎではなく、治療=薬のイメージですが、それがケロプダス病院の論文では投与率25%だというのです。また、統合失調症は国際水準でいうと100人に1~2人は発症すると言われていて、文化的な影響や男女差もないとされていますが、これが一万人に一人という発症率だというのです。ということは、統合失調症の症状が投薬治療をせずに半年以内に症状が消失しているということになる…もう衝撃的でしたね。 ―どのようにして実践していくのでしょうか。 渡邊: オープンダイアローグでは、ファミリーセラピーという構造を取っていて、一対一ではなく、家族の中に支援者が複数名で入っていきます。対話を促進するために必要であれば、親せき、学校の先生、職場など外の人も参加し、リフレクティング・プロセスという方法で対話を繰り返すのが特徴です。 当初は、ファシリテーターを置いて家族に話をさせて、それをマジックミラーの外側から見ている専門家が、家族の問題点を修正するための質問を遠隔でファシリテーターに伝えるという方法でした。しかし、ノルウェーの精神科医トム・アンデルセンが、片方だけが見えていて、もう片方が見えていないのはどうなのかと考えて入れ替えを行うようになりました。 今度は家族の話を元に専門家が話をする場面を、家族が見ることになったわけです。自分たちの会話がどう解釈されているのかを知ることで、何かが変化する、構造が変わるということで実践と研究が進み、そこで起きているのは対話が促進されるということであるということがわかりました。 次に、対話であればもっとフランクなほうがいいとマジックミラーがなくなり、ただの日常会話の中で時折、専門家同士がパッと向き合って専門的な話をして、また元に戻るようなやり方になっていきました。 こうした対話の繰り返しが薬以外の治療方法になり、それが統合失調症の発生率を下げているというのです。 ―患者さんと家族が直接話をすると、ケンカも起こりそうですね。 渡邊: ケンカもありますね。だけど、みんなに気づきがあるんですよね。 人と話していることを外的対話、話を聞いて自分の頭で考えることを内的対話とすると、対話が二層構造になっていると考えられます。ファシリテーターは、家族という内側の構造と家族以外の外側の構造を出入りしながら、外的対話と内的対話にアプローチしていく。その時ファシリテーターは家族構造の何かを掴んで出たり入ったりするような…。 これがすごく難しくて、何かとはいったい何なんだ…という話になるんですけど(笑)、論文では「LOVE(愛だ)」と言っているんですよ。愛だと。 困難を抱えている家族の中に入り込むときに持ち込むものが愛だとすると、それは血族や恋愛の愛ではなく、母性の愛でもなく、セクシャルなものでも自己愛でもなさそう…。社会的なもののようですが、日本ではあまりその文化がないのかもしれませんね。 オープンダイアローグの実際 ―実際にどのような会話のやりとりをされていくのでしょうか。 渡邊: 例えば、引きこもりの息子さんがいてお母さんはどうにかしたい、本人はたまに暴力をふるってしまうんだけど、というような状況の場合、まずは二人の話を聞きますが、この時の話は説明なんですね。 僕らがやりたいのは、探索、つまり内的対話に持っていきたいので、それが始まるようにリフレクティングをします。二人の前で専門家の一人が「こんなに長い間、家にいざるを得ない状況だったら、とんでもなく大変な体験だったんじゃないかと思います」などと本人について話をします。もう一人はお母さんにピントをあてて、「息子さんがこういう状況ですごく大変だったと思う…」と話をしたとします。 すると、それを聞いた本人たちの中で、「暴力はまずかったな」とか、「本当に辛かったな」とか、何かしらの気づきが生まれるので、それをすくい取りながらリフレクティングを繰り返すという感じです。 ―繰り返すことで、患者さんや家族はどうなっていきますか。 渡邊: 最初は感情が出てきて早口だったり、ケンカになったりもすることもあります。しかし、対話を進めていくと、お互いに自分で考える内的対話が増えてくるので、最後のほうはアウトプットとしてはゆっくりで、外的対話がスローになります。 オープンダイアローグの勉強をしている人たちの属性によって、いろんな見方もあります。研究領域だと心理分析的なテクニカルな捉え方をするだろうし、僕らのような在宅領域だと生活に密着してくるような捉え方になるだろうし、いろいろな解釈があってまとまっていない。エビデンスとしてはしっかりあるんですけど、説明のつかないところもありますね。 精神科医の斎藤環さんが言っていたんですが、起こってしまったこと、過去はもう変わらない。でもメモリの容量は小さくすることはできると。トラウマ体験は心のメモリをめちゃくちゃ食うけれど、それを語り直すことによって容量に占める割合は小さくなっていく、それが大事なんですよと。 対話とか語りにはそういうところがある気がします。変化ではあるけれど、変容ではないんですね。 ** 株式会社Neighborhood Project 代表取締役 訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士 渡邊 乾 都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。

コラム
2021年4月13日
2021年4月13日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 営業編①~

 第5弾は、いよいよ営業に関する方針を列記します。戦略や戦術が幾ら立派でもお客様を獲得する営業が稚拙であれば、経営は絵に描いた餅に過ぎなくなります。 ※訪問看護サービスを利用する対象者には敬意を表して「お客様」と言います。よく使われる利用者という呼称は行政的であり、お客様に対して失礼にあたると考えています。 作り上手の売り下手では、将来会社を潰します 水谷氏は医療介護業界にも通じる考え方としてよくこの慣用句を用い、サービス業・商売の基本である「売る」という行為・プロセスを、他の何よりも大事にします。 ①能率とコストと品質管理がなどは経営の一部である。経営の大局はサービスや商品を買って頂く「顧客の創造」であり、繰り返しの仕組み作りである。新規のお客様をいかに獲得し、そしてリピーターになってもらうかに物量をかけるべきと説きます。 ②訪問・店頭・配置・展示・媒体と(通信)という営業・販売方法があるが、英知を結集して独自性を高め、訪問と媒体販売を最強にしてお客様を括ります。 ※他社との差別化に徹底的に拘り物量(ヒト・モノ・カネ)をかけるのはもちろん、現代においては、いかに媒体とくに情報(広告・紙・WEB・口コミ他)を扱うかが肝であると考えます。 ③競合より圧倒的な経営姿勢・事業構造の強み、サービスのバリエーションと取組み姿勢に違いなど徹底的に発信します。お客様、地域、応募者から最も多く、そして最初に選択される組織を目指します。 ④訪問看護の購買行動モデルは以下が基本フローである。 1.集客=見込みの確保(ローラー営業を含めて、沢山集める) 2.見込み客のフォロー(買いたい、頼みたいお客様を育てる) 3.販売(現実のご紹介を頂く) 4.顧客化(メンテナンスを継続して再紹介・ファン化する。目的は我社のことをお客様から消されない。コミュニケーション力=接触回数と感動の勝負) ※当然この流れの中に、「検索」「比較」「評価」「共有」といった要素も入ってくる。 ⑤イベントがどれだけ新規顧客の開拓や売上増に効果があったか論を待たない。相手先の創立記念日、春夏秋冬の行事、お祭り、年36回の旬、専門技術の理解、実施指導、町内会の巻き込みなど、知恵と工夫には際限がない。行動するかどうかです。机上で妄想したり計算したりする暇があったら、実践現場での「お客様の生の声・評価」を得よ、というのが水谷の営業実践術です。 ⑥「気づき、気配り」名人であり、フットワークの良い「ハイ、喜んで」の姿勢が、営業マンの好感度を高めます。お客様やケアマネジャー、病院関係者、在宅系事業者は営業マン・社員の感じ良さで商品、サービスを買っています。対面ビジネスの基本であり、営業の真理です。これはWEB等が進化した今も、根底の考え方は同じです。 いかがでしたでしょうか? 水谷の営業戦略・戦術のごく一部ですが、たいへんシンプルな基本姿勢かと思います。良いサービスを提供する為にも「会社を潰さない」、それには、やったかやって無いか、獲るか獲られたかの実績こそが、まず営業の原点。サービス業・商売の基本であります。この点をおろそかにしているから、毎年700件以上もの訪問看護事業所が無くなっているのです。 ー次回(近日公開)に続きますー ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務 【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

特集
2021年4月7日
2021年4月7日

訪問看護あるある座談会 vol.1 ライフスタイル編

たくさんの訪問看護ステーションがありますが、利用者さんのお宅を回るという点では全国共通です。車や自転車での移動、病棟時代とは異なる生活スタイル、利用者さんごとに違う家のルール、ナースステーションとは違うステーションの雰囲気など、病院とはまた違った訪問看護ならではの環境があると思います。今回は、3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、ライフスタイルをテーマに訪問看護「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 訪問看護師への転身で朝起きて夜眠れる生活に みほ:りささんは訪問看護に来て1年くらいと聞きました。ぶっちゃけどうですか? りさ:そうですね。夜勤はないので体調はめっちゃ良くなりました。 ゆり:わかる。ホルモンバランスの乱れも減るよね。 りさ:肌もちょっときれいになった気がします!あと、よく眠れるようになりました。病院時代は不眠症だったので。 ゆり:私も病院の時、夜勤明けは眠剤飲んで寝てたもん。目が冴えちゃって。 りさ:ちょっとでも光が入ると眠れなくて、遮光カーテン1級にしてました。眠れなくなると体調を崩して、負のスパイラルに入っちゃうんです。 ゆり:そう考えると、普通のサラリーマンみたいに朝起きて夜寝る生活ができるのが良いところだよね。 天気に左右される訪問看護の移動準備 りさ:天気予報を毎日チェックするようになりました。自転車移動なので。 ゆり:わかる。前のところではバイクだったけど、今のところは電動自転車。 みほ:うちも自転車メインなので、天気予報は絶対見ますね。 ゆり:天気予報アプリを3つ入れてて、雨雲レーダーで今どこに雨雲がいるか確認して、風向きを見て「そろそろ降りそう」とかやってます。笑 りさ・みほ:すごい!笑 みほ:ゆりさんみたいに天気に詳しい人、1ステーションに1人いるの、あるあるじゃないですか? りさ:いるいる!うちにも詳しいPTさんいます。カッパ持ってった方がいいよーって教えてくれます。 ゆり:私もよくそれ言う側です!笑 みほ:周りはすごくありがたいです。笑 ゆり:天気予報見るの、趣味みたいになってますね。雨が急に降ってきたら長靴の中までビショビショになっちゃうこともあるじゃないですか。それがイヤで。 みほ:ありますね…。替えの靴下とか持ち歩いてます。 ゆり:でも利用者さんち行って、帰りにその長靴履いたら結局ビショビショになっちゃうんだよね。笑 赤字から意識するようになった訪問看護ステーションの経営 りさ:経営視点を持てるようになりましたね。病院だと、全部病院が管理して給料も払ってくれるけど、訪問看護ステーションって病院と比べると小規模じゃないですか。だから「自分の働きがいくらになるのか」「自分の働きがどのくらいステーションに影響を及ぼしてるのか」って考えるようになりましたね。自分がサボったらボーナス減るなるのかな、なんて思ったり。笑 ゆり:大事ですよねー。看護をするために営業はしなきゃいけないし、訪問回らないと自分たちのお給料の維持ができないし。営業とかのことは考えたくないって看護師もいるけど、ちゃんと考えないと自分の生活が守れないんだよね。 みほ:りささんは、経営について考えるようになったきっかけがあったんですか? りさ:そうなんです。去年、ターミナルの方が1ヶ月で10件以上も出たことがあって。それからしばらく赤字だったんです。そこでみんなが危機意識を持つようになりましたね。今は黒字に戻ってきています。連日訪問の方とか、複数名訪問で行っている方もいたので、大変でした。 ゆり:うわー。きっと月あたり100万円くらいのお金の穴ができたよね。そういうときに「もう辞めよう」ってなっちゃう人がいるけど、みんなでなんとかしよう!ってなったのがすごいよね。 りさ:10年以上ここで訪問看護をやってる人が多いのもあるかもしれないですね。私は10年ぶりの新人で、すごく大事に育ててもらってます。笑 みほ:ちゃんとみんなで育ててくれるステーションに入って、本当によかったですね。 ゆり:ほんとありがたいです。娘より若いって言われます。 ー②に続きますー 記事編集:NsPace

インタビュー
2021年4月6日
2021年4月6日

看護師としてのやりがいは地域での仕事、助け合いもますます重要に

訪問ボランティアナースの会「キャンナス」を25年前に立ち上げて地域ケアの先頭を走りつづけてきた代表の菅原由美さん。今後は、子供のケアや子育て支援に力を入れていきたいと話しています。在宅介護の担い手として、ヘルパーを准看護師として育成したい思いもあるそうです。まだまだ猪突猛進が続きそうです。 今後の構想 菅原: 私が一人開業って言い出したのを応援してもらったり、3.11東日本大震災で避難所の支援をしてから被災地支援が活動の一つとして加わったりと、振り返るといろいろなことをしてきたなぁと。介護保険ができる時には、訪問介護事業所の管理者をなぜ看護師がやってはいけないのか、厚労省に直談判もしたんですよ。最初は、掃除、洗濯は看護師の教育にはないからって言われたんですが、制度がはじまる直前になって、看護師資格を1級ヘルパー扱いとすることになりました。厚労省も含めて、みんな手探りでした。新しいことがはじまるというわくわく感はありました。 介護保険に引っ張られて高齢者ケアに行き過ぎてしまった思いはあります。 私としては、これからは子育て支援や子どものケアに力を入れ行きたいと思っているところです。 実は私は県の委託で3人の子どもの里親になった経験があります。親が育てきれずに施設に預けた子どもたちで、その中には知的障害者もつ子もいて、養育の難しさも感じました。こういう子どもたちは今もたくさんいて、なんとかできないかと。私がキャンナスを立ち上げた時の最初の利用者も、障害児のお母さんでした。その子を預けることができないので、兄弟を病院につれていけないと困っていました。今のお母さんはみんな働いているじゃないですか。高齢者の小規模多機能型サービスの子ども版があって、日中預かるだけでなく、なんかあったら泊まっていいし、病気の時はおうちにも行くよ みたいなサービスがあったらいいなと思ったりもしています。 介護保険ができればキャンナスなんていらなくなると思っていて、きちんと制度をつくりあげることが役割と思ってきたわけですが、状況はそうはなっていません。 このコロナ禍で、医療や介護にまわす財源が先細っていって、地域の助け合いでお願いしますという部分が増えていくのではないかと思います。 ―最後に訪問看護師として働いている方、これから働こうとしている方にメッセージをお願いします。 菅原: 私は病院には10カ月しかいなかったので、それが良いとか悪いとか言える立場にはありませんが、訪問看護の世界に入った人間が病院に戻ることは極々まれです。看護師としてのやりがい、生きがい、楽しみは訪問看護にあるので、せひ来て欲しいし、地域に根ざして頑張ってほしいです。 現実的には、訪問看護師は転職の多い職場ですが、今は仕事がたくさんあって、いくらでも選べるから仕方がない面もあります。そういう意味では、私はヘルパーにも期待していて、現場で頑張っているヘルパーに働きながら看護師の資格をとってもらったらどうかと思っています。 それで在宅での医療ニーズはかなりカバーできます。社会人が4年制大学や3年の専門学校に行くのはハードルが高いから、准看護師がいいのではと思っています。 キャンナスの仲間や介護経営者は、賛同してくれる人が多いです。准看護師は減らす方向で、学校もどんどん減っているので焦っています。 どうしてこう物議を醸すことばかり思いつくのか、自分でも不思議です。まだまだやらないと、と思うことは沢山あります。 キャンナスの25年間の取り組みや、お話ししたような考えは昨年10月に出版した『ボランティアナースの奇跡』(※1)で紹介していますので、ご一読いただけると光栄です。 ** 訪問ボランティアナースの会 キャンナス代表 菅原 由美 東海大学病院ICUに1年間勤務。その後、企業や保健・非常勤勤務の傍ら3人の子育て。96年ボランティアナースの会「キャンナス」を設立。98年有限会社「ナースケア」設立。2009年「ナースオブザイヤー賞」、「インディペンデント賞」受賞。 【参考】 ※1:菅原由美「ボランティアナースの奇跡」

インタビュー
2021年4月6日
2021年4月6日

これから地方での開業を志す人へ/第4回 訪問看護の1人開業・立ち上げ

訪問看護ステーションを一人開業し、ぷりけあ訪問看護ステーションを設立された後、看護を通して、地域で暮らす利用者一人ひとりの自分らしい生き方の支援をめざす渡部さん。最終回は、地域における訪問看護の可能性、今後のビジョンについて伺いました。 ボランティアで学んだチームとしてのつながり ―渡部さんの場合は被災地特例でしたが、地方ですぐに人を集められない場合、まずは有償ボランティアから始めて地域のネットワークを作り、それから開業するというモデルは、ほかでも実現可能なものだと思いますか。 渡部: 可能だと思います。私が震災の活動でキャンナス石巻を立ち上げたときは50番目でしたが、今のキャンナスは全国に130ヶ所以上の拠点があります。 キャンナスのネットワークは全国にあるし、交流会や勉強会などネットワーク構築体制も十分にあります。人とのつながりと、自分のやる気があれば、何でもできますよ。私が一人開業している時も、バックにはサポートしてくれるネットワークがあるというのが、自分の中ですごく安心感につながりました。  勤務先の職場内だけで閉じこもっているより、たくさんのことが学べて、いろいろな人とつながることができて 楽しいと思います。 ―運営にあたって、これまでの経験で役立ったことはありますか。 渡部: 自分一人で抱えすぎない、やりすぎない。人を信じてみんなで得意なところを出し合っていく、ということですかね。それがボランティア時代の自分の失敗から学んだことです。 たとえ一人開業だとしても、訪問看護を通していろいろな所とつながっているので、本当に一人でやることは限られています。 避難所でボランティア活動をしていたとき 、「信頼ってどういう意味かわかる?」と言われたことがありました。私がリーダー看護師だったとき 、自分が一番情報を持っている、自分が一番できる、みたいなおごりがあったんです。でも、自分一人でできることはたかが知れています。信頼とは、「ヒトを信じて頼る」 ということです。利用者さんのことを考えれば、自分の得意・不得意を理解したうえで、お互いに得意なところでつながり合った、「利用者さんのため、生活と命を守る」という目的を共にしたチームでサポートする方がずっといい。 こうした経験を踏まえて、今はいい意味で適当になったというか、変わった気がします。 これは自分よりも得意な人がいると思ったら、どんどん人に任せています。もちろん丸投げみたいな任せ方はいけないですが、相手からすれば任されることで新たな分野を学ぶきっかけや、成長する機会になることもあると思います。 ―それは、ほかの施設との連携という点でも同様ですね。 渡部: 今は過去の経験を踏まえて、地域内での連携も積極的にはかっています。 コロナ禍も災害の一つだと思いますが、もしうちの職員などから新型コロナウイルス感染者が出ても、地域内のステーションと連携をして、他のステーションの看護師が訪問に行けるように地域内で合意形成し体制を作っています。 そのために、利用者さんへ同意文書を配ったり、個別ケアの方法を文書化したりと、準備をしています。 看護師が地域社会に貢献できる可能性の追求 ―ぷりけあ訪問看護ステーションとして、また渡部さん自身として、今後どうしていきたいと思っていらっしゃいますか。 会社の事業でいうと、ステーション単体で7年やってきましたが、2021年の5月から通所介護サービスをオープン予定です。訪問看護を利用してくださっている方の中で、医療的依存度の高い方や、医療的ケアのある障害の方が日中安心して通える場所がない現実を、目の当たりにしてきました。 そうした方々から「ぷりけあさんでやってほしい」とずっと言われていました。 介護保険の地域密着型通所介護として指定を受ける予定ですが、うちの強みはスキルの高い看護師が多く在籍していることなので、その資源を生かしてどんな障害や病気のある方でも受け入れられるような場所にしていきたいと思っています。 個人的には、まだ子どもが小さいので育児にも手がかかる状況です。理想を言えば、やりたいことはいろいろありますけれど、今は家庭が崩壊しない程度に(笑)、地域に足りないこと、困っている方のためにできることを堅実にやっていこうと思っています。 いずれは、志を共にできる看護師さんと多く出会って、違うところにも拠点を持ちたいですし、誰でもどこでも、生きていて良かったと感じていただけるようなケア・サービスを利用できるような社会に、少しでも貢献できればと思っています。 ―最後に、訪問看護ステーションに興味がある方々にメッセージがあればお願いします。 渡部: そうですね… 興味があればぜひ、訪問看護の雑誌を読んだり、訪問看護をしている人とつながったり、ステーションの見学に行ったりして、つながる一歩を踏み出してほしいです。 訪問看護の現場では、幅広い年齢・疾患・生活背景の人々との出会いがあり、人生の重要な決断に立ち会う場面や、喜怒哀楽に寄り添うドラマティックな日々があります。 ひとりで判断して対応していくための専門的スキルも学べますし、自分の人間力も試されます。はじめはうまくいかないこともあるかもしれませんが、全てが自分の身になり、どんどん楽しさが分かってくると思います。 そして、日本は世界でも類をみないスピードで超高齢社会に突入しています。私たちは、その中での医療の役割、ケアのあり方ということを考え、作っていける時代に生まれているんです。 超高齢社会の中で、看護師がどのように地域に貢献していけるのか。それを共に考え、実践していける人が一人でも多く必要です。 ぜひ訪問看護の世界に触れる一歩を踏み出し、看護する感動、生きる感動を感じていただけたら、嬉しいです。 ** ぷりけあ訪問看護ステーション 代表取締役/保健師・看護師 渡部 あかね(わたなべ あかね)旧姓:佐々木 東日本大震災のボランティア活動で、医療者が地域の中に出向いていかなければ気づけ対応できないニーズが非常に多いことを経験。看護師として、本当に困っている人のそばに身を置いて関わっていきたいという思いから、被災地特例で一人開業し、その後2014年にぷりけあ訪問看護ステーションを開業。

インタビュー
2021年4月6日
2021年4月6日

退院促進・地域移行のヒントとなるハウジングファースト

長期入院を余儀なくされている人の「退院促進・地域移行」を実現することが、KAZOCの目標です。第2回は、そのための手法として取り入れているハウジングファーストの活動について、渡邊さんに伺いました。 ハウジングファースト東京プロジェクト 渡邊: アメリカでは、60年代、ケネディ大統領時代に精神科病院を強制的になくす動きがあったんですね。そのため多くの人たちが施設にスライドし、そこにも入れない人がホームレスになりました。その人たちを救済するためにまず住まいを取り戻す、そして維持するためにはどうしたらいいのか、その支援構造として、在宅維持率を評価尺度にしているプログラムがハウジングファーストです。 ホームレスの50%くらいの人が精神疾患を持っています。日本でも精神科医の森川すいめいさんらが2008年、2009年に池袋で実態調査をして同じような結果が出たことから、2010年にハウジングファースト東京プロジェクトが立ち上がりました。 僕は2011年くらいからボランティアを始め、2013年に訪問看護を立ち上げてプロジェクトメンバーとなりました。 ハウジングファーストによる在宅維持率は、どこの国も大体80~85%/年です。池袋でのプロジェクトで2年くらい前に取った統計では、サポートに入ったケースで1年以上の在宅維持率は90%でした。地方ではもう少し下がるかもしれませんが、ほぼ国際水準と変わらない結果が出ているので、こうした在宅支援は可能であると考えています。 ―具体的にはどのような活動をしているのでしょうか。 渡邊: ハウジングファースト東京プロジェクトは、それぞれ個別の活動をしながら、リソースを出し合う形です。炊き出しや夜回りをするNPO法人TENOHASI、医師や看護師がいる認定NPO法人世界の医療団など、現在8つの団体が参加しています。  炊き出しの場に医療班、生活相談班のブースを出して、そこで専門職がアセスメントをするのが入口です。日本でホームレスの方々がアパートを借りる場合、生活保護を受給して福祉事務所のOKが出てアパートを借りるか、再就職をしてお金が貯まったところで借りるかのどちらかです。どちらにしてもタイムラグがあるので、シェルターを作りました。一般社団法人つくろい東京ファンドとTENOHASIが寄付や助成金などでアパートを借り上げ、シェルターを運営しています。 そこにはソーシャルワーカーのボランティアなどもいるので、必要な手続きを手伝ってアパート転宅まで持っていく流れですね。 ―そこでKAZOCさんにつながるわけですね。 渡邊: 実はまだここではKAZOCの出番はなくて…。 シェルターに入ってくる人たちの中には、医療的支援が必要な人が出てきます。転宅した後にアフターフォローで定期的な支援が必要な場合には、クリニックからKAZOCに依頼が来るようになっています。その人たちのために、2016年にゆうりんクリニックという内科・精神科クリニックを作りました。 ハウジングファーストでは大きく生活再建の部分と維持継続の部分に分かれていて、僕らは維持継続のところで介入しています。KAZOCで継続支援している人は、現在40名くらいになります。 退院促進の手段となるグループホーム ―他にはどのようなことを行っていますか。 渡邊: 日中活動はいろいろやっていますね。「あさやけベーカリー」では、ホームレス経験者などが集まってパンを作ってホームレスの方たちに配ったりしています。また、「べてぶくろ」というべてると池袋をもじったフリースペースをやっていたり、世界の医療団が整体や坐禅などのアクティビティを作っていたりします。一番最近に立ち上がったのが就労継続支援B型事業所の「Base Camp」です。 本当は、精神科病院から退院する人を支援する環境を作りたいのですが、まだ難しいところです。ハウジングファーストで結果は出てきているんですが、病院にプレゼンテーションしても長期入院者がすぐに出られるわけではなく、そこには別な仕掛けが必要だと思っています。 一つ、精神科病院から退院しやすいパターンとして考えられるのは、在宅の前にワンクッション入れてグループホームへ行くというものです。 ―どうしてグループホームなのでしょうか。 渡邊: いきなりアパートに入るのは、福祉事務所や医師などが反対するんですよ。結局、同じように入退院を繰り返すのではないかと。だけど、そこにグループホームが入ると、どうにかなるのではないかと思うみたいです。 そこで、KAZOCと同じ法人のネイバーフッドプロジェクトでグループホームを2つ運営しています。本来のグループホームは終の住処にもできますが、僕らはアパート転宅を目的としています。 だからグループホームにも訪問看護に入ります。 ビジネスライクな話をすると、一般的な訪問看護の依頼は圧倒的に病院やクリニックからが多いです。でも、グループホームの人は転宅した後も継続利用者になるので、新規利用者獲得のルートにもなるんです。そのため、僕らは4つのステーション拠点がありますが、今後は各一つずつにグループホームを置くことを考えています。 ** 株式会社Neighborhood Project 代表取締役 訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士 渡邊 乾 都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。

コラム
2021年4月6日
2021年4月6日

訪問看護の社長業 ~創業経営者 水谷氏から学んだこと 育成編~

教育・研修の意義、大切さは前回整理した解説でご理解頂けたかと思います。今回はさらに「社員の人間育成」を意識した内容も掲載し、解説したいと思います。 自信と誇りがもて、成長と自己実現ができる人生への誘導 1.環境の変化に強く協調性の高い人物を育成について かぼちゃ作りの名人 まず種を撒いて目が出るのを待ちます。その芽に対して小石や瓦を上からばら撒きます。それでも伸びてきた茎に対して、今度は手で引っ張ります。少し根っこが切れるぐらいに引っ張ります。これでできたかぼちゃは、甘くてホクホクした美味しい味を出します。 この「かぼちゃ作りの名人」の内容は、捉え方は様々でしょうが、人の育成にも通じる(自然界の)本質的な原理だとして、水谷はよく上記の例文を使用します。 2.プラス思考の人間育成を目指すには 仕事(人生)の成果を計算式で表す 仕事(人生)の成果=考え方(-100~100点)× 熱意(1~100点)× 能力(1~100点) ・人は能力があっても熱意があっても考え方が間違っているために、十分な成果を出せないことが沢山あります。能力があっても「考え方がマイナス」では、掛け算をしても答えはマイナスになってしまいます。 ・考え方が間違っている人、マイナス思考の人は、自分だけでなく、自分を取り巻く社内の同僚にも悪影響を及ぼします。こういう人は自分の利益のためだけの熱意は高得点ですので、全体のマイナス(損害)は相当に大きくなってしまいます。 ・今は能力があろうとなかろうと、強い熱意とプラス思考で行動し続ければ、人生の何処かで必ず良い成果を生み出します。 3. 存在価値の高い生き方を目指す お客様や同僚や会社から「あなたがいるから」と頼りにされ可愛がられて、強く必要とされる存在価値の高い生き方を目指します。上記1.2を意識した人格形成を実践し続けることによって、自然と「自己重要感※1」が充足されていきます。それに伴って、自信が満ち、人生の自立度(経済、立場、名誉)も向上していきます。 ※1 所説ありますが、人の存在の根底にある「自己肯定感」=どんな自分であっても存在すること自体に価値があると感じる感覚。「有能感」=知識・技術、地位や名誉や立場、など能力がある自分をすごいと感じる感覚。この両者を合わせたものが「自己重要感」であるとされています。 いかがでしたでしょうか? 水谷が時折実施していた経営者・管理職・管理者向け研修「人間学」の中の一項目でもありますが、訪問看護事業の経営や運営をうまくやるには、目先の運営技術だけではなく、人間育成も重要だということが少しはお分かり頂けたと思います。ご紹介した内容の実践が基礎(最初の一手)にあることによって、地域評判が高まり、収益も安定し、教育に投資→技術向上、さらに地域評判が高まる、というスパイラルが生まれると言っても過言ではありません。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

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