アセスメントに関する記事

小児感染症 プール熱
小児感染症 プール熱
特集
2023年7月25日
2023年7月25日

プール熱の症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

プール熱は、夏季を中心に小児に罹患しやすい感染症です。大人も感染する可能性がある上に感染力が強いことから、短期間で家族全員が罹患するケースも少なくありません。本記事では、プール熱の症状や原因、治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 プール熱とは プール熱は咽頭結膜熱ともいい、アデノウイルスの感染によって発熱や喉の痛みのほか、結膜炎などの症状が現れる病気です。プールでの感染者との接触やタオルの共用によって感染する場合があることから、プール熱と呼ばれています。 プール熱の症状 プール熱の症状は次のとおりです。 ・急激な発熱・頭痛・食欲不振・全身倦怠感・咽頭痛・結膜の充血・目やに・眼痛 目の症状は左右どちらかから始まり、その後にもう一方にも現れることが一般的です。中でも下眼瞼結膜に炎症が強く生じ、上眼瞼結膜の炎症はそれほど強くない傾向があります。潜伏期間は5~7日とされており、潜伏期間中でも感染力を持ちます。 重傷化のリスクは特に高いわけではありませんが、生後14日以内の新生児が感染した場合は全身性感染に進行するリスクが高いとの報告があります。 プール熱が流行する時期 例年、6月頃から感染者数が増加し始め、7~8月にピークに達します。6~8月はプールで子ども同士が接触する機会が多いことも、感染者の増加に関係していると考えられます。 ただし、原因となるアデノウイルスに季節性はないため、ほかの時期でも感染する可能性があります。プール熱に罹患した場合は、その時期に関係なく、発熱や咽頭炎、結膜炎といった主要な症状が消失してから2日間は出席停止になります。 プール熱の原因 プール熱の原因となるアデノウイルスにはさまざまな型があり、中でも2型と3型がプール熱を発症しやすいとされています。ほかには、1型や4型、7型、14型などがあり、中でも7型は肺炎を引き起こすことで重症化しやすい点に注意が必要です。 感染経路は、飛沫感染や接触感染などで、感染力が非常に強いことから周囲の人が短期間でプール熱に罹患する場合もあります。また、症状が消失してからも喉からは1~2週間程度、排泄物からは1ヵ月程度はアデノウイルスが排出されるとの報告もあるため、出席停止期間が終了した後に他人に感染させることもあるでしょう。 また、アデノウイルスには複数の型があるため、一度罹患したことがある場合でも別の型に感染する可能性があります。 プール熱の検査方法・診断 プール熱の確定診断には、鼻汁や唾液、糞便、拭い液などを用いてウイルス抗原の検出もしくはウイルス分離を行う必要があります。検体は、綿棒で喉やまぶたの裏を擦って採取します。検査キットにかけてから結果が出るまでにかかる時間は15分程度のため、即日でプール熱の罹患の有無を確認できます。 ただし、検査のタイミングや検体のウイルス量が少ない場合は、結果が陰性になる場合があることに注意が必要です。なお、血液を採取してアデノウイルスの抗原検査を行うことでも確定診断できます。 プール熱の治療法 プール熱はウイルス感染症であり、有効な抗ウイルス薬は現時点では存在しません。合併症を防ぐことを目的に抗生剤を使用することがあります。また、咽頭部や結膜の炎症を抑えるために、抗炎症成分が含まれた点眼薬などを使用します。 そのほか、高熱に対しては解熱剤、咽頭痛には抗炎症薬など、対症療法が中心となります。 プール熱は、高熱や喉の痛み、腫れによって食事をとることが難しくなる場合があるため、脱水症状に注意が必要です。また、なるべく喉を刺激しないように、柔らかいものを食べるとよいでしょう。 プール熱は大人がかかったらどうなる? 大人がプール熱に罹患した場合、小児ほど強い症状は通常現れません。そのため、小児ほどの影響が懸念されないとして、対応する医療機関が多いでしょう。ただし、症状が強く現れなくても感染力は強いため、他人にうつさないための対策は必要です。 プール熱の予防法 プール熱の予防法は、一般的な感染対策と同じです。流水と石けんによる手洗い、外出先から帰宅してきたときのうがいを欠かさないようにしましょう。また、感染者との密接な接触をなるべく避けるほか、タオルの共用をしないことが大切です。プールからあがった後は、シャワーを浴びてうがいをします。 * * * プール熱は主に小児が罹患する病気ですが、大人も罹患する可能性があります。感染力が高いため、疑わしい症状があるときは周りの人との接触を避け、医療機関を受診して適切な治療を受けることが重要です。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇厚生労働省「咽頭結膜熱について」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/01.html2023/6/25日閲覧〇NIID国立感染症研究所「咽頭結膜熱とは(2014年4月1日)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html2023/6/25閲覧

ご遺体への最新詰め物事情
ご遺体への最新詰め物事情
特集 会員限定
2023年7月18日
2023年7月18日

納棺師解説/ご遺体への最新詰め物事情【セミナーレポート後編】

2023年4月14日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」。納棺師の大垣麻里さんを講師に迎え、在宅でのエンゼルケアについて、知っておきたい基礎知識やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行を受けての変化を教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、COVID-19流行以降のエンゼルケア・葬儀の情勢や、ご遺体への詰め物の対応についてご紹介します。 >>前編はこちら納棺師解説/死後24時間以降のご遺体変化と対処法【セミナーレポート前編】 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 COVID-19がお別れに与えた影響 COVID-19が発生してから3年以上が経ちましたが、その間、エンゼルケアや葬儀のあり方は大きく変わってきました。 まず発生当時、亡くなった方は直火葬となり、ご家族は収骨もできない状況でした。しかし2022年頃からは、ご遺体を透明の納体袋に入れて棺の蓋をしたままであれば、フィルム越しではあるものの、対面してのお別れが可能に。とはいっても、故人に直接触れることはできませんでした。 そして、2023年1月6日。厚生労働省から「ご遺体を清拭し、鼻や肛門に詰め物をし、紙オムツを使用していれば、納体袋には入れずにこれまでどおりの形式で葬儀をしてもよい」という事務通達が出たのです。現在では、まったく従来のとおりに、故人の顔や体に触れながらのお別れができています。葬儀の形式についても、何の制限もなく行われています。 詰め物をするメリットとデメリット エンゼルケアにあたり、対応を悩まれる方が多いのが詰め物でしょう。詰め物をするメリットとしては、やはり体液漏れが起こるリスクを低減できることです。しかし、亡くなったという事実を受け止めがたく感じているご家族の方からは「詰め物をされると、息ができないように見えて痛々しい」という声がよく聞かれます。 これをふまえて、私は見た目が悪くならないように詰め物をするのがベストではないかと考えています。 部位別の詰め物対応のポイント 詰め物をする際に気をつけたいポイントついて、部位別に詳しくご紹介していきます。 耳、鼻、口 まず、耳には基本的に詰め物を入れなくても構いません。交通事故に遭われ頭蓋骨骨折があり、出血が予想されるといったケースでは耳にも詰め物をしていますが、亡くなられたときに耳から出血や体液漏れなどが起きていなければ不要です。 続いて鼻は、小鼻ではなく、上の図に矢印で示したように鼻の奥へしっかりと詰め物をしてください。 同じく口も、図の矢印が示す部分、咽頭奥深くに舌を巻き込まないよう注意しながら詰め物を入れます。口腔内ではなく、その奥に詰めることで、気管や食道からの体液漏れをしっかりと防ぐことができます。 尿 尿漏れへの対処法は男性と女性とで異なります。 まず女性の場合は、男性よりも尿道が短いので、膀胱に溜まっている尿が出てくる可能性があります。そのため、できるだけ尿パッドをつけるといいでしょう。在宅の利用者さんは、多くの場合尿パッドや紙オムツをつけられていると思いますので、その対応で十分です。 また、膣への詰め物については、子宮疾患があって出血が見られるといった特別な事情がなければ不要です。 一方男性の場合は尿道が長いので、ご遺体を動かすたびに尿が漏れることは女性と比較すると少ないですが、念のため紙オムツを装着したり、男性用の尿パッドを巻いたりされると安心かと思います。 なお、尿道カテーテルをされていた方は、カテーテル抜去によって尿道から出血することがあるので、尿パッドをきちんと巻いてください。 便 便については、性状よって対応が異なります。硬い便の場合は、直腸に溜まっているものを可能な範囲で摘便したら、その後さらに出てくることはありません。ただし、タール便や液状便が出ている方の場合は、対処が必要です。とはいっても綿を肛門に詰める必要はなく、周囲をきれいにしてから綿で肛門を塞ぐようにして、その上から紙オムツを当てれば大丈夫です。紙オムツと肛門の間に隙間がなければ、ダラダラと漏れ出てくることはありません。 詰め物の必要性をどう判断するか 前提として、葬儀において「●●しないといけない」という決まりは2つだけしかありません。ひとつは、亡くなった後24時間は火葬できないこと。もうひとつは、棺に収めること。それだけなんです。着物を左前に着せなければならない、帯を縦結びにしなければならないといったことは、決まりではなく風習です。詰め物についても、原則としてご家族のご意向を受け止めて対応されるとよいと思います。仮に、「体液が流出したとしても詰め物をしたくない」といったご意向があれば、それに沿って対応します。 ただし、とくに在宅でお看取りをされたケースでは、COVID-19の影響も考慮されてか、ご家族は詰め物をしないことに不安を感じられることが多い印象です。また、多くのご家族は、ただでさえ急なことにショックを受け、今後のこともなかなか想像できていらっしゃらない状況です。その状況下で、体液が流出するリスクをふまえて詰め物をすべきかどうかのご判断をすることは、かなり難しいでしょう。 こうしたご家族の状況や心情をふまえると、先ほども少し触れたとおり、亡くなられた方のお顔の印象を損なわないよう、ご家族の目に触れない奥の部分に詰め物をしていくのが、私はよいと思っています。見栄えに十分に配慮して詰め物をすることが、ご家族のお気持ちに寄り添いつつ、お見送りまでの時間をトラブルなく安心して過ごしていただける方法ではないでしょうか。 可能な限り、最後の身支度はご家族と一緒に これはエンゼルケア全般に通じる話ですが、故人の身支度は、できるだけご家族と一緒に行っていただきたいです。在宅看護を選択されてきたご家族の多くは、「家族を自宅で送りたい」という想いが強いので、身支度に参加できるよう調整すると喜ばれるかと思います。 正直なところ、ご家族と一緒に支度をするとスムーズにいかないこともあるかと思います。しかし、それよりもご家族の方が「私たちも最後の身支度をしてあげた」と思えることのほうが大事ではないかと私は考えています。その経験はきっと、ご家族のその後の支えになっていくのではないでしょうか。 * * * ご家族ができるだけ心を痛めずに故人とお別れできるようにするには、ご遺体をきれいに保つための対処が必要不可欠です。そして、その対処の多くは可能な限り早く行うことが求められます。 訪問看護師のみなさんには、今回ご紹介した在宅でのエンゼルケアの方法をぜひ現場で実践していただき、「ご家族が前を向けるお別れ」の実現をサポートしてもらえたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

家族看護 事例
家族看護 事例
特集
2023年7月18日
2023年7月18日

治療をめぐり療養者と意見が対立する家族への関わり【家族看護 事例】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。今回は医師がすすめる治療を家族が強く拒否した場面を取り上げ、支援の方策を検討していきます。 事例紹介 Aさん(80代、女性) Aさんは、心不全末期の状態です。重篤でしたが、これまで治療を続けながら、長男の協力のもと食事療法も熱心に行ってきました。しかし、病状が悪化し入院した際、終末期状態であるという説明とともに、在宅医や訪問看護の導入をすすめられました。 家族構成 Aさんは長男(50代)との2人暮らしです。早くに夫を亡くしたAさんは、長男と2人で支え合って暮らしてきました。長男はAさんの病気がよくなると信じ、毎回仕事を調整し受診に付き添ったり、食事や水分に気を遣ったりしてきました。 訪問看護師の悩み(直面している課題) 在宅チームの介入に対して、回復への期待が高い長男は納得していませんでした。そんな折、Aさんの呼吸困難や体の痛みなどの苦痛症状が増強。Aさんは、薬剤による症状緩和を希望しましたが、長男に強く反対され、何も言えなくなってしまいました。 悩んだAさんから相談された訪問看護師は、医師の力を借りれば長男の気持ちが変化するのではないかと期待し、在宅医による病状説明の場を設けました。ところが、長男は症状緩和のための薬剤調整をすすめる在宅医に激高し、強く拒否。事態は膠着状態となってしまいました。訪問看護師は、このままではAさんが強い苦痛を抱えたまま残された時を過ごしてしまうのではないかと困っていました。 渡辺式家族アセスメント/支援モデルで考える 検討場面の明確化 ここでは、「在宅医が症状緩和のための薬剤調整をすすめたものの、長男に強く拒否された場面」を取り上げ、Aさん、長男、訪問看護師に何が起こっていたのかを検討したいと思います。 それぞれの文脈(ストーリー) ■AさんAさんは、日に日に悪化していく体調と、在宅医がすすめる薬剤調整を長男が反対していることに困っていたと思われます。ずっと一緒に病気と闘ってきてくれた長男への遠慮がある一方で、少しでも症状を抑えて楽になりたい気持ちが強く、Aさんは訪問看護師に相談する、頼る対処をとりました。 ■訪問看護師Aさんから相談を受けた訪問看護師もまた、Aさんの苦痛症状が緩和できないこと、長男の意向が優先されAさんの意向が尊重されていない現状に困っていました。そこで、「医師の力を借りて長男を説得する」という対処を行いました。 その背景には、苦痛症状を緩和したいと考える医療者としての役割意識や、アセスメントにより「症状緩和は可能」と考えられること、また「説明は看護師より医師の力を借りた方が効果的である」という判断がありました。 ■長男長男は、回復を信じてがんばっているのに母親がどんどん弱っていくこと、そして回復を目指した治療ではなく、医療者が緩和のための薬剤を使おうとしていることに不満を覚えていたと思われます。 長男には「緩和ケアは最後の手段」という認識があり、それをすすめる在宅医や訪問看護師に対し根深い不信感を抱いていたと考えられます。自分が信じている治療で母親を治したいという気持ちも強くあり、これらが背景となって、「在宅医の提案を断固拒否する」対処をとったのではないかと推察されます。 それぞれの関係性 次にAさん、長男、訪問看護師の関係性を検討してみましょう(図1)。 登場人物二者の関係性では、まず、Aさんと長男の関係に注目してみます。Aさんが「遠慮する」ことで、ますます長男はAさんへの「コントロール」を強め、2人の関係性は悪循環にあるといえるでしょう。同様に、「説得する」訪問看護師と「断固拒否する」長男の関係性も悪循環を招いていると考えられます。 さらに全体を真上から俯瞰してみると、訪問看護師は、Aさんから「頼られ」、それに「応じる」ことでAさんとの距離が近くなっています。その一方で、長男を説得する訪問看護師と断固拒否する長男の間の距離はなかなか埋まらず、「Aさんと訪問看護師」対「長男」のような図式ができあがっていると思われました。 図1  Aさん、長男、訪問看護師の相互関係 パワーバランスと心理的距離 長男と訪問看護師について検討した内容を図2に示します。 検討場面における長男を説得する訪問看護師の情緒的パワーはとても高く、それに対抗するように長男のパワーも上がっています。 心理的距離を見てみると、説得し、翻意を迫る訪問看護師は、境界を越えて長男に近づいています。長男は、何とか踏み込まれまいと強固な壁をつくっており、看護師に背を向けていると考えられます。 図2 長男と訪問看護師のパワーバランスと心理的距離 アセスメントをもとに支援の方策を考える ここまでのアセスメントをもとに、関係性の悪循環を是正することが重要と考えました。そのために、訪問看護師が「説得する」ことをやめるのが、第一のポイントです。訪問看護師は、思い切って長男の説得をやめて、これまでAさんのために長男が取り組んできたことを聞き、今も行っていることについては労うようにしました。長男を知ろうと努めたのです。 その上で、医療者もAさんを大切に思い、Aさんと家族である長男に伴走したいと考えていることを伝え、関係性の構築につなげました。訪問看護師が対応を変えたことで、長男は徐々にこれまでの苦悩やAさんに対する思いを少しずつ語ってくれるようになりました。 このご家族を知れば知るほど、親子でAさんの闘病に取り組んできたことが分かってきました。だからこそAさんは緩和ケアを希望しているにもかかわらず、長男の期待を裏切るようで言い出しにくい気持ちが強いことも分かってきたのです。 同時に、長男にはほかの誰でもないAさん自身の言葉以外は届かないであろうことも見えてきました。そこで訪問看護師は、Aさんに自分自身の言葉で長男に希望を再度伝えるように提案し、Aさんをエンパワメントする側に立つようにしました。 数日後のことです。Aさんから「昨夜、息子に話してみました」と報告がありました。Aさんは、長男への感謝とともに今自分が感じている体調を伝え、医療者に頼っていきたいと話したそうです。長男は、しばらく黙っていたようですが、「分かった」と言ってくれたとのことでした。 その後Aさんは、症状緩和により穏やかさを取り戻し、長男に見守られながら自宅で旅立たれました。 事例におけるアセスメントと支援のポイント ●「療養者-訪問看護師」対「家族」という構図を生じさせることがあるので、療養者の立場に立って家族を説得しようとする対処には慎重になること● 説得の前に、まずは理解。それまでの家族の歴史、家族の強みを知ること● 療養者が自分で家族に希望を伝えることを第一の選択肢とし、療養者をエンパワメントすること 執筆:富岡 里江株式会社ウッデイ 訪問看護ステーションはーと ●プロフィール大学病院勤務の後、1997年より訪問看護ステーションに勤める。2000年から10年間ケアマネジャーを兼務。制度内の訪問看護だけでは支えきれないケースを目の当たりにし、2012年に現訪問看護ステーションに勤務。2013年「ホームホスピス はーとの家 金町」(住宅型有料老人ホーム)の起ち上げに関わった。2015年より東京都訪問看護教育ステーション事業の研修企画運営などを担当している。訪問看護認定看護師。「渡辺式」家族看護認定インストラクター。 編集:株式会社照林社 

ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナ
特集
2023年7月18日
2023年7月18日

ヘルパンギーナの症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの?

ヘルパンギーナは主に子どもが罹患する感染症ですが、大人も罹患する可能性があります。重症化しやすいとの報告もあるため、子どものみの病気と考えずに対応方法について確認しておくことが大切です。本記事では、ヘルパンギーナの特徴や症状、原因から治療法、大人が罹患した場合の症状などについて詳しく解説します。 ヘルパンギーナとは ヘルパンギーナは、エンテロウイルスに感染することで発熱とともに水疱性の発疹が口腔粘膜に生じる病気です。乳幼児を中心に夏季に流行する「夏かぜ」の一種とされています。 ヘルパンギーナの症状 ヘルパンギーナの潜伏期間は2~4日です。突然の発熱に続き咽頭痛が生じ、咽頭粘膜に強い赤みが現れます。その後、主に軟口蓋から口蓋弓にかけて、赤くなった皮膚に囲まれる形で小水疱が現れます。小水疱の大きさは通常1~2mm程度ですが、5mm程度の大きいものが現れる場合もあります。 発熱に熱性けいれんを伴うほか、咽頭痛による食欲不振や哺乳障害が問題となる場合があるため、対症療法で症状をなるべく和らげることが重要です。まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎などを合併することがあるため、38~40度の発熱や頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、胸の痛み、関節痛、筋肉痛などの症状に注意しましょう。 ヘルパンギーナが流行する時期 ヘルパンギーナは5月頃から増え始め、7月頃にピークを迎えます。8月頃から減り始め、9〜10月にはほぼ見られなくなります。このように季節性があるものの、ほかの時期にまったく見られなくなるわけではありません。 また、日本では西から東へと拡がっていく傾向があります。患者の90%以上は5歳以下で、最も多いのは1歳、そして2歳、3歳、4歳と続きます。 0歳と5歳の罹患数はほぼ同じです。ヘルパンギーナは5類感染症定点把握疾患であるものの、学校において予防すべき伝染病としては規定されていません。 そのため、一律で学校長の判断によって出席停止とするものではなく、対応については学校ごとに異なります。欠席者が多い、流行の規模が大きい、合併症を伴うケースが見られることで保護者の間で大きな不安が生じている場合、学校医との相談の上で出席停止の扱いとすることがあります。 ヘルパンギーナの原因 ヘルパンギーナは、エンテロウイルスによる感染症です。エンテロウイルスはピコルナウイルス科に属するRNAウイルスの総称で、以下のようなウイルスが該当します。 ・ポリオウイルス・コクサッキーウイルスA群(CA)・コクサッキーウイルスB群(CB)・エコーウイルス・エンテロウイルス(68~71型) ヘルパンギーナの主な原因となるウイルスはコクサッキーウイルスA群(CA)ですが、コクサッキーウイルスB群(CB)やエコーウイルスが引き起こす場合もあります。 急性期にはウイルスの排出量が多く、感染力も強いとされています。ただし、エンテロウイルスは症状が消失してからも2〜4週間は便からウイルスが排出される場合があるため、回復後もしばらくは油断できません。 ヘルパンギーナの検査方法・診断 ヘルパンギーナの確定診断には、口腔内の拭い液や水疱の内容物を含むもの、便などによるウイルス分離またはウイルス抗原の検出が必要です。 ただし、実際の医療の現場では臨床症状のみで診断することがほとんどです。 ヘルパンギーナの治療法 エンテロウイルスそのものに効果がある抗ウイルス薬は存在しないため、対症療法が主な治療法です。発熱や頭痛には解熱鎮痛作用がある内服薬を使用する場合があります。 脱水が生じている場合は必要に応じて輸液を行います。咽頭痛によって飲食を敬遠する場合があるため、脱水を防ぐために薄味で柔らかく口当たりがよいものを与えます。 ヘルパンギーナは大人がかかったらどうなる? ヘルパンギーナは、大人が罹患すると子どもと同じく光熱や口腔粘膜の小水疱などの症状が現れます。ただし、子どもと比べて症状が強く、高熱や非常に強い咽頭痛のほか、筋肉痛や頭痛、関節痛が現れる場合があります。 また、症状が現れている期間が長く、重症化しやすい点も特徴です。 ヘルパンギーナの予防法 ヘルパンギーナの予防法は、ほかの感染症と同じです。主な感染経路は、飛沫感染・接触感染・経口感染です。流行時には手洗いうがいをより入念に行いましょう。また、ヘルパンギーナの感染者との密接な接触をなるべく避けることも大切です。 ウイルスは長期間にわたり便から排出されるため、子どもがトイレで排泄できる場合は、手洗いや手指消毒を必ず行うように指導し、おむつを使用している場合は交換後に手洗いと手指消毒を徹底します。 流行時にはおもちゃの貸し借りも避けたほうがよいでしょう。エンテロウイルス対策として、ものを洗浄・消毒する場合は、念入りな洗浄と清拭でウイルスを物理的に除去した上で、0.02%に希釈した次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。 * * * ヘルパンギーナは、突然の発熱・口腔粘膜の小水疱などを主症状とする感染症です。主に罹患するのは5歳以下の子どもですが、大人がかかる場合もあります。大人は子どもと比べて症状が強く、重症化しやすい傾向があるなど、より一層の注意が必要です。抵抗力が低い高齢者の訪問看護を行っている看護師は、今回解説したヘルパンギーナの症状や治療法、予防法などについて十分に確認しておきましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「ヘルパンギーナとは」(2014年07月23日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/515-herpangina.html2023/6/26閲覧〇一般社団法人日本循環器学会「2023 年改訂版心筋炎の診断・治療に関するガイドライン」p,21(2023年3月17日更新)https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_nagai.pdf2023/6/26閲覧〇NIID国立感染症研究所「無菌性髄膜炎とは」(2014年05月16日改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/520-viral-megingitis.html2023/6/26閲覧

【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情
【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情
特集 会員限定
2023年7月11日
2023年7月11日

納棺師解説/死後24時間以降のご遺体変化と対処法【セミナーレポート前編】

2023年4月14日に開催したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」。納棺師の大垣麻里さんを講師に迎え、在宅でのエンゼルケアについて、知っておきたい基礎知識やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行を受けての変化を教えていただきました。 そのセミナーの内容を、前後編に分けてご紹介。前編では、死後のご遺体に起こるさまざまな変化と、その対処法についてまとめます。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 死後24時間以内に起こる変化「死斑」 死斑(亡くなった方の皮膚に見られる赤紫や青紫色の斑点)は、故人が息を引き取ってから徐々に発生し、死後15時間程度で最高潮となります。発生を避けることはできませんが、きちんと対策すれば、顔に死斑が出ないようにすることはできます。 ご遺体が仰向けに寝ている場合、耳や首、背面部に死斑が出現し、顔は蒼白化していきます。これは体液や血液が重力に従って下がっていくためで、自然な死斑の現れ方です。逆に、亡くなられたときにうつ伏せの状態だった場合は、顔をはじめ体の前面に死斑が出現します。 しかし、中には仰向けになっているにも関わらず、顔が腫れてきたり、どんどん紫色に変化したりするケースがあります。これは大変よくない状況で、体内の血液が顔に流れてしまっています。ご家族の目に触れる顔をきれいな状態に保つためには、すぐに対策しなければなりません。 顔に死斑が出ないようにする方法 仰向けに寝ていても顔に向かって血液が流れてしまう場合は、できるだけ早く上体を起こすようにします。枕を少し高くしたり、座布団を挟んだりしても構いません。 このような現象が発生する方は、体格がよくて胸板が厚く、横から見たときに心臓の位置が顔より高いことがほとんどです。顔が心臓よりも下にならないようにすれば、顔への血液の流れを防ぐことができます。 また、横向きに寝ているのが安楽だった利用者さんが亡くなった場合、「故人が安楽に感じる姿勢のままにしてあげたい」と、ご遺体を横向きのままにすることを望むご家族は少なくありません。お気持ちはとてもよくわかりますが、少なくとも顔だけは、亡くなった後すぐに上に向けるようにしてください。 もしそのままにしておくと顔の片側にだけ死斑が出てしまい、それをカバーするために通常よりも濃いお化粧をしないといけなくなります。普段お化粧をしていなかった利用者さんもその方らしいお支度で送れるよう、顔に死斑が出ないように予防することがとても大事です。 死後24時間以内に起こる変化「死後硬直」 みなさんご存知のとおり、人は亡くなると体がこわばって自由に動かなくなりますが(死後硬直)、この硬直は自然に解けていきます。死後15〜20時間でだんだん硬直が強くなり、夏なら約2日、冬なら約3日で、どなたでも必ず緩解していきます。 とはいっても、例えば「着替えをさせたいので、自然に緩解する前に硬直を解きたい」といったこともあるでしょう。そのときは、腕を自然に曲げ伸ばしするだけで、柔らかく動くようになります。骨が折れるほどの力をかけたり、関節を特殊なやり方で動かしたりといった必要はありません。下肢の場合も同様で、筋肉をマッサージして伸ばすだけで硬直は解けます。 なお、死後15〜20時間以内に筋肉を動かして硬直を解いた場合、再度体がこわばることもありますが、その際はもう一度曲げ伸ばしすれば問題ありません。 ここでのポイントは、「死後硬直はいつでも解ける」ということです。これを知っていると、「亡くなったら着せてあげたい服があるので、急いで取りにいきます」とご家族がおっしゃる場合でも、「着替えはいつでもできるので、焦らずゆっくり用意していただいて大丈夫ですよ」とお声がけできます。 拘縮が見られる方への対応 ただし、生前に拘縮が見られる方は、亡くなっても固まった関節が緩解することはありません。死後に無理やり体を伸ばそうとすると、骨折や筋の損傷を起こす原因になるので、十分に気をつけてください。 死後24時間以内に起こる変化「乾燥」 死後は、皮膚の乾燥がどんどん進み、茶色くくすんだり硬くなったりします。顔の乾燥を防ぐために、できるだけ早く保湿をしてください。ご家庭にあるような一般的な保湿クリーム、もしくはハンドクリームやスキンケア用オイルなどを使ってもよいです。 ご遺体の顔に白いハンカチがかかっている様子をご覧になったことがあると思いますが、あれには乾燥を防ぐ意味合いもあります。 死後24時間以内に起こる変化「腐敗」 「腐敗」とは、体内のたんぱく質が細菌に分解されて、水・気体・臭気が発生している状態をいいます。空気中の細菌がご遺体に作用して起こるのではなく、亡くなった方ご自身の体内にいる菌によって起こるため、これを防ぐためにできることは、温度コントロールしかありません。ご遺体の温度を下げて菌が繁殖しにくい状態を保ち、腐敗をできるだけ進行させないようにします。 具体的には、まずは大腸菌や腸球菌の温床となっている腹部を、次いで血液が溜まっている胸部を冷やしてください。このように内臓を冷やすことが、腐敗を進行させないために重要です。 腐敗が進行すると、体内でガスが発生して体腔内圧が高まり、口や鼻から体液や血液が漏れ出てきます。 在宅で意識したい腐敗対策 在宅では、気温が低い冬でもご遺体の腐敗が進んでしまうケースがよくあります。その原因となるのが、ホットカーペットや電気敷布・毛布、ご遺体に向いたエアコンやストーブです。エンゼルケアを行う際は、まずご家族と一緒にこれらの状態を確認し、腐敗が進行しないようにうまく声をかけながら調整してください。 カテーテル抜去部や点滴痕からの出血に注意 死後に注意すべき点として、カテーテル抜去部や点滴痕からの出血や体液の漏れも挙げられます。こうした医療処置による創傷があると、体内で発生したガスに押された血液や体液が、そこから漏れ出す可能性が高いです。しかも、ガーゼやドレッシング材でカバーしても、ちょっとしたシワから体液や血液が滲み出してしまうケースがほとんどです。 正しい圧迫固定の方法 これを防ぐには、正しい方法で創部を圧迫固定する必要があります。 上の図のように、小さく固めた綿花やガーゼなどでカテーテル抜去部や点滴痕をしっかりと圧迫します。また、テープで腕一周を巻くように留めて、さらに圧迫を強めましょう。こうすることでテープが剥がれにくくなります。大きく平たく創部を覆うのではなく、局所的に圧迫してください。 鼠径部も同じ方法で圧迫固定します。搬送の際にテープが剥がれるケースが多いので、伸縮性のあるテープを使用し、腸骨から内股にかけてぐるっと一周巻いて圧迫をします。 >>後編はこちら納棺師解説/ご遺体への最新詰め物事情【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

膀胱エコーの活用
膀胱エコーの活用
特集
2023年7月11日
2023年7月11日

膀胱エコー 残尿を確認して排尿ケアに活かす 技術習得と活用法

排尿管理は訪問看護現場で直面する課題となっています。とくに膀胱エコーは訪問看護の現場で実施する必要性が高いと言われ、個々に応じた排尿管理やケアを行うことが可能です。 今回は、排尿ケアにポータブルエコーを導入し、実践を重ねているLIC訪問看護リハビリステーションの黒沢勝彦氏に、看護師のポータブルエコー技術習得の流れと実際の膀胱エコー活用事例についてお話を伺いました。 ポータブルエコー技術習得は基本的にOJT ポータブルエコーは現場に持ち出す前に、まずはスタッフ同士で練習を行い、正常な組織や臓器を知ることが一番の近道です。利用者さんの体型から膀胱の大きさを推測し、尿はどの程度貯留しているのかを確認します。膀胱は男性、女性で映り方が異なるので、膀胱や膀胱周辺の解剖について学んでおくことが大切です。 ポータブルエコー未経験のスタッフには、膀胱の見え方を伝えるより、身近にあるものを使用するとイメージしやすいでしょう。例えば、市販の果物ゼリーにポータブルエコーを当てて見ると、どのように描写されるのかを体験してもらうとスムーズかもしれません。まずは画像に描出される明るい部分と暗い部分を確認しながら、画像を見る練習を。その後、実際の膀胱を描出し、改めて画像の見え方について確認します。プローブや端末の扱い方は、後で振り返りを行いながら進めていきましょう。こうした流れを数回行った後にOJT(On the Job Training)に移行することが大切です。まずは同行訪問を行い、実際に利用者さんの膀胱をポータブルエコーで描出する様子を見せます。次に見守りのもとでポータブルエコーを用いて実施し、一人でできるようになるまでサポートし続けましょう。 カテーテル閉塞や点滴の効果が判明 ポータブルエコー画像の膀胱は、尿が貯留している時に黒く描出され、膀胱が大きくなっていることが分かります。一方、尿の貯留がない時は膀胱自体も小さくなっています。ですので、膀胱留置カテーテルが挿入されているにも関わらず、膀胱が大きく映し出された状態は、「カテーテルが閉塞を起こし、膀胱内に尿が溜ったまま」で異常だという判断ができます。そのためにも正常・異常の画像を理解しておくことが重要です。 カテーテル閉塞以外では、排尿状況が不明な利用者さんにポータブルエコーを使用して確認を行うことがありました。例えば、脱水のため点滴治療を行ったとき、その効果を確認するためにポータブルエコーを使います。まず、点滴治療前後の膀胱の大きさを比較し、尿の貯留が認められれば点滴治療の効果があると考えられます。他のバイタルサインと合わせてアセスメントすることで、在宅での治療継続が可能であるのか判断することができます。 従来は、試しに導尿してみたり、膀胱留置カテーテルをしている場合は交換してみたり、いずれも利用者さんの苦痛を伴い、コストや資源もかかっていました。これらの悩みに対して、ポータブルエコーは解決に導くツールのひとつとして、活用できるのではないでしょうか。見えない部分を可視化することで、正確なアセスメントが可能となり、医師と共有することで、適切な補液につなげたり、適切なタイミングで医療機関に受診することができたり、ひいては看護業務の改善につながると考えています。 がんターミナル期の尿閉をエコーですぐ確認 続いて、がんターミナル期にある利用者さんの事例を紹介します。自宅退院を希望され、訪問看護開始3日目で心窩部から下腹部の膨隆が顕著にみられました。その時は膨隆している原因が尿の貯留によるものだと分かりませんでした。 通常のアセスメントに加え、ポータブルエコーで画像を映し出して見ると、液体の貯留を確認しました。すぐに腹水か尿か判別できませんでしたが、「1日で貯留し、お腹の張り方がおかしい」と、そのままビジネスチャットツールに画像を上げました。スタッフと医師に共有し報告をしたところ、尿閉による腹部の膨隆であることが分かりました。そのため、すぐに医師に導尿、膀胱留置カテーテルの処置を依頼しました(図1)。 図1 「ポータブルエコー使用の一例」(提供:黒沢勝彦氏) 利用者さんのご家族にも、「尿はちゃんと作られていますが、出ない状態で苦しいと思います。出さないといけないですね」と、画像を一緒に見ながら具体的にお伝えすることができました。その後、医師に臨時訪問で処置していただき、尿の排出を促しました。 病院搬送の可能性もありましたが、お腹の張りを確認してから約2時間以内にケアにつなげることができました。訪問看護でできることを行えば、重症化を防げる可能性があります。 通常のアセスメントと画像を加えることで、アセスメントの妥当性が向上し、自信を持って医師に情報を共有し適切な治療、ケアにつなげることができると思います。 ポータブルエコーで残尿を減らせる姿勢に 最後は、残尿感の訴えや膀胱炎を数回繰り返すALS(筋萎縮性側索硬化症)の利用者さんの事例です。ご本人は排尿の自覚はありますが、腹圧をかけられないためご家族が腹圧を補助して排泄介助を行っていました。差し込み便器を用いて床上排泄を続けていましたが、以前より残尿感の訴えがありました。膀胱炎を疑い、訪問診療にて採血、尿検査を実施しましたが、膀胱炎の所見はありませんでした。 再び医師と解決策について検討することになり、排尿前後についてポータブルエコーで膀胱内を観察して見ると、残尿量はそれほど変化が見られませんでした。そのため、尿が排出できず膀胱内にたまっている状態であることが確認できました(図2)。 図2  「排尿前後を比較した画像」(提供:黒沢勝彦氏) また、膀胱の形は不均一・非対称であり、括約筋が確認できませんでした。このことから、膀胱壁の拡張収縮が弱いため残尿が起こりやすい状態であるとアセスメントしました。訪問診療の医師と画像を共有し、カテーテル留置を第一選択とせず、この根拠を元に姿勢で排尿量が変わるかどうかの調整を行いました。 まず排尿前後で残尿測定を行い、排尿時の姿勢を調整しながら再度ポータブルエコーで撮影を繰り返していきます。そのように進めながら、最も残尿が少ない体位を理学療法士と一緒に模索をしながら調整していきました。 その結果、一時的に残尿量を減らすことができました。排尿ケアは決まった時間で行うわけではありません。ケア提供者はご家族やホームヘルパーなど複数名が関わります。姿勢や介助方法の再現性には課題がありましたが、エコーの画像を用いて丁寧に説明することで再現性を高めることができました。 この事例ではポータブルエコーによって、残尿量や膀胱の形状、変化などをご家族と確認できたことで、説得力が増し、安心されたことを実感しました。そして、ご家族やヘルパーもケアの根拠を確認しながらともに考えることができました。 一方で、ご家族は「残尿はないはず」と信じていたので、排泄のたびに腹圧を補いながら介護を続けてきました。そのため、ポータブルエコーが残尿の事実を突きつけることで、自らの介護を「否定された」と受け止められてしまう可能性も考えられるでしょう。24時間、1日何度も排泄介助を続けていくご家族の大変さと複雑な思いにも配慮しながら、ポータブルエコーを採り入れていくことが必要です。 取材協力・監修黒沢勝彦氏(LIC訪問看護リハビリステーション 所長)編集:メディバンクス株式会社

がん身体症状の緩和ケア
がん身体症状の緩和ケア
特集
2023年7月4日
2023年7月4日

オピオイドスイッチングとタイトレーションとは【がん身体症状の緩和ケア】

前回に引き続き、Aさんを交えた投薬内容を見直すカンファレンスからスタートです。Aさんは膵臓がんで、つらい痛みが続いています。Aさんの鎮痛効果を高めるために何ができるのか、一緒に考えていきましょう。オピオイドスイッチング、タイトレーションについても解説します。 前回までのあらすじ 痛みのコントロールがうまくいっていないAさん。その状況を在宅主治医に伝えたところ、主治医からカンファレンス開催の提案がありました。早速、訪問看護師であるあなた、薬剤師、ケアマネジャー、在宅主治医がAさんの自宅に集まり、Aさんの投薬内容を見直す話し合いがスタートしました。 まずはオピオイドの量を増やし、便秘症状を緩和するためオピオイド誘発性便秘症治療薬であるナルデメジンの併用が決まりました。さて、カンファレンスの続きはどうなったでしょうか。 >>前回の記事はこちら鎮痛薬使用の4原則とWHOの三段階除痛ラダーとは【がん身体症状の緩和ケア】 カンファレンスメンバー 画像素材:PIXTA あなた: 先生、痛くなったときの対応はどうしたらよいでしょう。処方されているロキソプロフェンナトリウムではあまり効果がないように感じます。 在宅主治医: 確かにあまり効果はなさそうですね。膵臓がんの場合、腹腔神経叢への浸潤を多く認めるため、侵害受容性疼痛だけではなく、神経障害性疼痛も混ざっている可能性があります。ロキソプロフェンナトリウムから神経障害性疼痛にも有効といわれているオキシコドン速放性製剤に切り替えましょうか。Aさん、突然起こる痛みのときは、かなり強い痛みだったのではないですか? Aさん: はい、みぞおちあたりとその反対側の背中がじくじくと痛くなり、急に耐えられなくなるほど痛くなることがあります。その痛みが20~30分ほど続くことが1日に数回あります。 在宅主治医: 今回、徐放性製剤の量を倍の20mgに増やすので、その反応を見きわめましょう。増量は、通常1日投与量の30~50%量が目安ですが、これにあまりこだわる必要はないでしょう。そして、疼痛時にオキシコドン速放性製剤を10mg服用してみてはいかがでしょうか。まずはAさんの痛みを何とかしましょう。 薬剤師: オキシコドンは神経痛にも効果があるといわれていますので、私もオキシコドン速放性製剤の併用に賛成です。 あなた: 神経障害性疼痛には鎮痛補助薬と呼ばれる神経痛に効く薬があると聞きました。それを使うのはどうでしょうか? 薬剤師: では、ミロガバリンベシル酸塩を使用してはいかがでしょうか。鎮痛補助薬は比較的ゆっくり効いてくるお薬です。痛くなってから服用するよりも、定期的に服用していただいて、急な神経痛が出にくくなるように調整したほうがよいでしょう。 ケアマネジャー: Aさんの痛みが抑えられたとして、リハビリテーションは可能でしょうか? Aさんは少しでも歩いてご自身でトイレに行きたいと希望されているのですが、最近足もとがおぼつかない様子です。廊下に手すりを設置しているのですが、トイレに行くときもつらそうで…。 在宅主治医: リハビリテーションは大歓迎です。痛みをコントロールしながら、ご自身でトイレに行けるよう、可能な範囲で歩行や起立訓練を行いましょう。 Aさん: 足腰が弱ってきて、自分でトイレに行けなくなるのはつらいなと感じていました。リハビリテーション、楽しみです。ぜひお願いします。 あなた: 腹水も少し増えているようですが、腹水が増えて苦しくなったときはどうすればよいのでしょう? 在宅主治医: そうですね、自宅で腹水を抜く処置が可能です。ほかには、腹水が増えすぎないように、定期薬の中で利尿薬やステロイドを使用してみてもよいかもしれません。当院では困難ですが、抜いた腹水をろ過濃縮して体に戻す治療もあります。Aさんがご希望なら、1~2泊の入院で対処できる病院を紹介できますよ。 Aさん: 皆さんがまとまって私をサポートしてくれるのですね。こんなに心強いことはありません。 あなた: Aさん、これからお薬が少しずつ変わっていきます。その中で不愉快な症状が出てくるようであれば教えてください。例えば、食欲不振や眠気、吐き気、便秘、痛みがまだ残っているかどうかなどです。Aさんの症状やご希望を伺って、できるだけ早く解決できるようにしていきます。よろしくお願いします。 * こうして、投薬内容を見直すカンファレンスは終了しました。では、何がどう変わったのか、詳しく解説していきます。 Aさんの処方はどう変わったのか? カンファレンス前とカンファレンス後のAさんの処方内容を比較してみましょう(図1)。 図1 Aさんのカンファレンス前とカンファレンス後の処方内容 (赤字は追加・変更された薬剤および投与量を示す) オピオイドの増やし方 オキシコドンを10mgから20mgに増量しました。服用する時間もある程度指定しました。これは通過点かもしれず、Aさんの痛みの状態に応じてもう少し量を増やす必要があるかもしれません。 Aさんのケースのように、鎮痛効果と副作用の出方を観察しながら、患者さんにあった投与量を調節し、至適用量を決めることをタイトレーションといいます。薬剤を変更するときにも行われます。痛みを和らげるオピオイドの量は患者さんによって異なるということを意識しましょう。 増量方法について教科書的には、定期投与されていたオピオイドの量を30~50%増やすことが推奨されています。しかし、Aさんのケースではかなり強い痛みが存在しており、もともとの投与量自体も少なかったので、今回は10mgから20mgへと100%増やしています。 これで痛みのコントロールが不良な場合、オキシコドンの量をさらに30mgに増やし(50%増量)、その後40mg(25%増量)としても問題ないと考えられます。 オキシコドンの副作用である便秘への対策 ここではナルデメジンを使用しました。酸化マグネシウムは継続していますが、下痢や軟便が問題になるのであれば中止します。ナルデメジンと酸化マグネシウムを併用しても便秘が改善されない場合は、Aさんのようにセンノシドといった刺激性下剤を使用します。 オキシコドンの副作用である嘔気への対策 プロクロルペラジンマレイン酸塩という向精神薬を使用しました。悪心や嘔吐への対策としては、ほかに非定型向精神薬やハロペリドールが用いられることが多く、中枢性制吐薬の方がより有効です。 鎮痛補助薬 今回はミロガバリンベシル酸塩を使用しました。神経伝導路における神経興奮を抑える薬です。鎮痛補助薬にはほかにも種類がありますが、下降抑制系と呼ばれる、中枢を介して痛みの広がりを抑えるデュロキセチンも推奨薬として知られています。 利尿薬 腹水のコントロール目的で使用しました。全例に有効というわけではありませんが、腹水が増えるスピードを和らげる可能性があります。 ステロイド ステロイドは、通常、がん終末期の食欲低下や倦怠感の緩和を行う目的で処方されています。糖尿病を悪化させる可能性もあるので、全例というわけではありませんが、しばしば中等量が処方されます。 オピオイドスイッチング 患者さんの中には、投薬ではコントロールできない強い嘔気が出現してしまい、オピオイドを服用できない人や、別のオピオイドが持つ効果を求めて、その薬にシフトしたり、併用したりする人がいます。このように、投与中のオピオイドから別のオピオイドへ変更することをオピオイドスイッチングといいます。 オピオイドスイッチングを行う際、オピオイド導入時と同様に少量から投与して調整すると、患者さんの痛みがぶり返したり、逆に効き過ぎて呼吸抑制が生じたりする可能性も。そのため、変更後の投与量にはある程度の目安があります。ここで「がん疼痛マネジメントの原則-WHOがん疼痛治療ガイドラインとは」のところでも紹介した「オピオイド換算の目安」を再度示しておきましょう(図2)。以下の換算方法は、覚えておいて損はありません。 図2 オピオイド換算の目安 例えば、Aさんが40mg/日のオキシコドンを服用していたとします。がん性胸膜炎により、酸素投与していても呼吸困難がつらい場合、呼吸困難改善作用のあるヒドロモルフォン12mg/日に切り替えます。そうすると、痛みの緩和を同程度に行え、呼吸困難も改善できる可能性が出てきます。 痛みに対する対処だけでなく安心感を与えるケアを がんの痛みに対するオピオイドの使用は大切です。しかし、それ以上に、どのような人が、どのような人生を経て、どのように病気と闘い、今ここにいるのか。その人が、今何ができて、何ができないのか。それらに寄り添いながら、穏やかな笑顔で、少しでも安心していただけることが何よりも大切です。看護の力はこの時期の患者さんにとって大きな支えとなり得ます。これからの皆さんの支援に大きな期待を寄せています。 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社

COPD学び直し
COPD学び直し
特集
2023年7月4日
2023年7月4日

【在宅医が解説】「COPD」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は慢性閉塞性肺疾患(COPD)について、訪問看護師に求められる知識や注意点を、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 「COPD患者は、呼吸困難感で動けず、るいそう著明。苦しいことは強要せず、呼吸困難感を緩和し、傾聴・共感し、ACPを行ない、看取っていくのが最善」と思っていないでしょうか? 呼吸リハビリテーション(以下「呼吸リハ」)の効果を体験していない在宅チームが、残念ながら辿りがちな道です。在宅における多職種連携の包括的アプローチにより、COPDはV字回復が可能な疾患です。呼吸リハは、入院ではなく、日常生活の場でこそ行なうべきであり、行なわないのは、在宅チームの怠惰だと心得ていただきたいと思います。 COPDは気道の慢性的な閉塞による疾患 COPDとは、タバコの煙を長期に吸入することで、肺胞壁が壊れ(肺気腫)、気道には炎症が起こり、気道壁が肥厚し、気道分泌物が増える(慢性気管支炎)疾患です。 正常な肺では、肺胞壁の弾性線維が裏打ちして気道の形状を保てていたのが、肺胞壁の断裂で、呼気の途中で気道が虚脱(内腔がつぶれる)・閉塞。吐き出しきれずに貯留したガスで、気道の閉塞がさらに悪化するという悪循環が起こり、呼吸困難の最大の原因となります。まさに、慢性的に気道が閉塞している疾患です。また、疲弊した筋肉から炎症性サイトカインが出て、さらに肺や気道、全身に炎症を起こします。 筋力維持を図り、呼吸ケアで急性増悪を回避 治療方針は、生活の場で筋力維持を図りながら、多面的包括的呼吸ケアで急性増悪を回避することです。呼吸困難感を克服し、動き、筋肉を衰えさせないことが重要です。そのためには、薬物療法、リハビリと栄養療法は必要不可欠です。 呼吸困難感をとるために、気管支拡張薬の吸入、酸素療法・NPPV(非侵襲的陽圧換気)、心不全・心循環管理、呼吸理学療法、栄養療法、パニックコントロールなどを行ないます。これらは、病態疾患管理であると同時に、緩和ケア、心理社会的スピリチュアルケアにもなりえます。これらは在宅で行なわれます。 特に重要なのは、呼吸困難感のいちばんの原因となる動的肺過膨張(以下DHI;Dynamic hyper inflation)の予防です。呼吸状態は日内で変動しますが、セルフコントロール域を超えて過膨張が元に戻らなくなった状態が、急性増悪です。重症になればなるほど、セルフコントロール域が狭まり、ささいな要因(低気圧が近づく、不安、便秘、食後膨らんだ胃が横隔膜を挙上させるなど)で、頻呼吸になり急性増悪を起こします。気管支炎や心不全の増悪というエピソードがなくとも、急性増悪は起こりえます。 薬物療法のメインは気管支拡張薬です。コントローラー(長期管理薬)として、長時間作用型β2刺激薬(LABA)と、長時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(LAMA)の吸入があり、労作前にDHI予防目的に投与する、短時間作用型β2刺激薬(SABA)や短時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(SAMA)があります。 また、NPPVでは、吐き出されずに肺の中に残っているガスの圧(内因性PEEP)に相対する圧(カウンターPEEP)を、呼気圧(EPAP)として設定すると、肺内のガスを呼出させることができます。これは口すぼめ呼吸と同じ原理です。NPPVで、活動で生じた肺過膨張をリセットできれば、呼吸困難感の軽減にも役立ち、身体活動性を向上させることができます。 COPDに喘息が合併する場合は急性増悪を頻回に起こしやすく、喘息の管理をすることで、不可逆性と思われた気道閉塞が改善することもあります。 また、脈拍が速いことはそれだけで労作時の呼吸困難感につながるため、脈拍が速い場合にはβ1ブロッカーを併用することが、有効な運動療法を行なうためのコツだと考えています。 訪問看護でのポイント 日常生活での援助方針 日常生活のなかで呼吸困難感を生じる労作は(1)上肢を挙上する動作:洗髪や衣類の脱ぎ着、洗濯物を干す(2)上肢を反復させる動作:歯磨き、体を洗う(3)体幹を屈曲させる動作:靴下やズボンの着脱、足を洗う(4)息をこらえる動作:排便や、重い物を持ち上げる等が挙げられます。援助が必要であれば、ある程度の介入も検討しますが、なるべく患者が日常生活を営めるようにします。DHIの予防にSABAやSAMAをいつ吸ったらよいのかの指導も重要なポイントです。 在宅チームは点でのかかわりであり、急性増悪の徴候の早期発見が重要です。入浴時やデイサービスの送迎時などは、労作によって換気メカニクスの異常が早期に出やすいので、いつもと違うSpO2の低下や戻りの遅延、呼吸困難感の有無を、意識的に観察してください。 セルフマネジメントできるように援助する 急性増悪の予防にはセルフマネジメントも重要です。DHIの予防に自ら行なうべきことの指導(アクションプランニング)が大切です。 たとえば、低気圧が近づくとDHIを起こしやすく、労作前のSABAやSAMAのアシストユースの徹底、NPPVをいつもより長く行なう、などです。 また、患者がセルフモニタリングで症状の増悪に自ら気づけるよう、指導することも重要です。 ● 非活動時の体温、SpO2、脈拍、体重、喀痰の量・色、浮腫 ● いつもの活動時のBorg scale、SpO2、脈拍を患者が無理なく記録でき、かつ重要なポイントを患者ごとにアレンジしたセルフマネジメントシートを作成し、記録してもらいます。いつもと違うことに自分で気づくことができたか、アクションできたかも、訪問ごとに一緒に振り返ります。 訪問看護師のさらなる役割 医療チームに訪問PT・OT・栄養士がいない場合は、医師の指示のもと、訪問看護師が呼吸理学療法や栄養療法の知識を持ち、さまざまな教育や支援の担い手になる役割も求められます。 呼吸理学療法 DHIやSpO2低下が起こらないような、労作の工夫、呼吸法、酸素量の調整などを行ないます。 栄養療法 呼吸するだけで消費されるカロリー(呼吸仕事量)は700kcal/日で、これを基礎代謝量に追加摂取しなければ、体重が減っていきます。そこで、栄養学的な視点で食事内容をチェックし、高タンパク・高カロリー食を基本に、栄養補助食を追加するなど、必要カロリーが満たされるように工夫します。さらに心不全リスクがあれば、塩分管理も必要となります。 執筆:武知 由佳子医療法人社団愛友会いきいきクリニック 理事長/院長 編集:株式会社メディカ出版

ご遺体変化&詰め物事情セミナー
ご遺体変化&詰め物事情セミナー
特集 会員限定
2023年6月27日
2023年6月27日

特別先行公開! 死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情 セミナーQ&A

2023年4月14日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」を開催いたしました。納棺師で株式会社沙羅代表の大垣 麻里氏を講師に迎え、エンゼルケアの後にご遺体に何が起こっているのか、詰め物の処置をどうすべきかなどについて解説いただきました。 本記事では、セミナー時に受講者の皆さまからいただいたご質問への回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーにご参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【講師/質問回答】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 ■お役立ちツールも公開!お役立ちツール『「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧』では、より多数のご質問への回答を読むことができます。ぜひご活用ください。>>「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 死後の対応・医療的処置について <Q1>検死になる条件について教えてください。例えば、訪問診療を導入しておらず、延命処置を希望しない方が孤独死した場合、救急車を呼ぶしかないのでしょうか。 医療にかかっていない状態で死亡された場合には、その原因をはっきりさせるために検死が行われます。孤独死の方のご遺体を発見された場合や、救急車を呼んだけれど到着した時点ですでに亡くなっていた場合も検死となってしまいます。ですので、ご質問にある訪問診療を導入していない孤独死の方の場合、検死になりますし、救急車を呼ぶのではなく警察に連絡することになります。 セミナー内でお伝えした通り、検死になるとご遺体が着衣なしで袋に入れられた状態での帰宅となり、ご家族が大変ショックを受けるケースが多いものです。「万が一の際にはかかりつけ医や訪問看護ステーションに連絡を」ということを、ご家族にお伝えいただいたほうがよいかと思います。 救急車到着時点でお亡くなりになっていない場合には検死にはなりませんが、救急車内で心臓マッサージや酸素吸入、点滴などがなされるかと思います。よくお伺いする事例として、心臓マッサージをして肋骨がすべて折れてしまい、ご家族が亡くなった後にそのことを知り、「救急車を呼んだせいで、痛い思いをさせてしまった」と落ち込まれることがあります。こうした、予想外の最期になってしまわないようにするためにも、ご家族に事前のご説明をしていただくのがよろしいのではないかと思います。 <Q2>最近は火葬場が混み合い、1週間程度後に火葬されることも多々あると思います。その状況を踏まえて気をつけるべきことがあれば、教えてください。 確かにCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行時は、1週間~10日と長くお待ちいただくことが大変多くありました。やはり、一番のポイントは乾燥対策と保冷です。 訪問看護師さんには、保湿剤をしっかりお顔やその周辺に塗っていただけると助かります。保冷については、訪問看護師さんがドライアイスを使用することは難しいかと思いますので、できるだけ室内の温度を低くしていただき、まずは腹部を、次いで胸部を保冷剤で冷却いただければと思います。その後、我々葬儀社が臓器の上や顔の横をしっかりとドライアイスで保冷していきます。 腐敗・冷却について <Q3>葬儀社が到着する前に冷却しなくてよいのでしょうか。室内の温度設定については、どれくらいがいいでしょうか。 ご遺体のことだけを考えればできるだけ早い冷却がよいでしょう。しかし、ご家族の立場に立ったとき、亡くなったばかりで、まだその状況を受け入れられていないときに、ご遺体に冷却材をのせられるというのは、非常につらいことだと思いますので、タイミングへの配慮が必要だと思っております。 例えば、高熱を出してお亡くなりになった方に、熱冷ましのイメージで「熱がおありだったので、少し置かせていただきますね」と保冷剤を置く…といった対応はできるかと思いますが、状況によって限界があるかと思います。 葬儀社が到着し、ドライアイスで強く冷却するのは、死後10時間~15時間程度経過後が一般的(※)かと思います。そのタイミングでも、もちろんご家族がおつらいのですが、比較的受け止めていただきやすいものです。無理はせず、強い冷却は葬儀社にお任せいただくのがよろしいかと思います。 室温は、腐敗防止の観点では一番低い設定温度でお願いできればベストですが、そばで見守るご家族にも配慮する必要があるでしょう。「できるだけ低い」温度設定でお願いできればと思います。 ※亡くなられた後、ご家族がどれくらいで葬儀社に連絡されるかによります。ただし、葬儀社を選択され、翌日に連絡したり、何社か見積もりをとって検討されたりする方もいらっしゃるため、ある程度の時間経過はあるものとお考えください。 <Q4>すい臓がんの方で、死亡確認翌日に全身が腫れあがり、たらこ唇になってしまったことがあります。生前のお顔と変わってしまったため、ご家族からご相談を受けました。お亡くなり直前に高熱が出ていたため、エンゼルケア後に腹部に保冷剤を載せ、暖房も切っていましたが詰め物はしていませんでした。どう対応すればよかったのでしょうか。 典型的な腐敗現象です。お亡くなりになる前からお身体の状態が悪く、腐敗が進行しやすい条件がそろっていたのではないかと思います。詰め物との関連性はなく、保冷が足りなかったことが主原因です。状態の悪い方については、ドライアイスを使用しての急速な保冷を行うことが大切だと思います。葬儀社に引継ぐ際、「状態が悪いので至急ドライアイスをしっかりあててください」とご伝言くださると助かります。 <Q5>エンバーミングについて教えてください。どのような内容で、どんなご遺体に実施されるのでしょうか。 簡単に説明いたしますと、血管を通じて血液を排出し、代わりに赤く着色した防腐液(ホルマリン、フェノール等)を注入し、体に行き渡らせることで、腐敗進行を遅らせるような処置を施していきます。それにより、ご遺体を長期間維持できるようにするご遺体保全処置がエンバーミングです。 事情があって火葬までの期間が長いケースや、ご遺体の損傷修復のためにも行われますが、実際には「感染予防になるから」「きれいになるから」といったご要望に基づく実施が多いです。 体液漏れについて <Q6>生前(数日前)に点滴の抜針をして、止血を確認しました。エンゼルケア時に抜針したわけではないですが、死亡後にその抜針した部位から血液や浸出液が出てくることはありますか? 2~3日前の皮下点滴の痕であっても、圧迫固定は必要になりますか? はい、生前止血を確認しても、針穴から体液が漏れることはあります。 皮下点滴の痕についても、実際に漏れるかどうかはケースバイケースですが、その後のご遺体の安置環境が不確定なため、圧迫固定の処置をされていたほうが安心だと思います。 詰め物について <Q7>訪問看護の現場では詰め物をしないように指導を受けていますが、詰め物をしたほうがよいのでしょうか。また、葬儀社では詰め物をしてもらえないのでしょうか。 確かに、詰め物をしていないケースは多いかと思います。在宅看護の方だけではなく、病棟・検死の方も含むデータですが、弊社(株式会社沙羅)の調査でも、60%近い方が「詰め物をしていない」という結果でした。 しかし、新型コロナウイルスの感染、もしくは感染疑いのある方に対し、詰め物・紙おむつ等をして体液の漏出予防を行った場合、納体袋不要という厚生労働省のガイドラインも出ました(2023年1月)。それに基づき、ご家族から詰め物のご要望があることもございます。また、必ずご遺体から体液が出るということはございませんが、詰め物をしていれば体液漏れのリスクが少なくなります。新型コロナウイルス感染有無に限らず、少しでも体液流出の可能性を少なくしたほうがよいのではないかとも考えます。「詰め物をしないといけない」とまでは思いませんが、「できるだけ詰め物をしたほうがよいのではないか」というのが現状の私の見解です。 葬儀社が詰め物をするかどうかについては、会社により対応がまちまちな現状があります。きちんと行うケースもあれば、まったく何も行わないケースもあり、一概に「葬儀社がちゃんと詰め物をしてくれます」と言えないのが心苦しいところです。 「どんな葬儀社に頼んでも、〇〇は行ってもらえる」ときちんと言えるような信頼できる業界になるべく、私も働きかけていきたいと思っております。 <Q8>訪問看護ステーションで用意しておくべき詰め物や、詰める際の道具についてアドバイスをお願いします。詰める際に割り箸をつかうことが多いのですが、ご家族がみていらっしゃることを思うと、心苦しいです。また、肛門に詰め物をせずに面で抑える際には、具体的にどのような処置をするとよいのでしょうか。 詰め物は、綿花が扱いやすいかと思います。詰める際には、可能ならエンゼルケア専用の鑷子(せっし/ピンセット)をご用意いただけたらベストです。 肛門については、肛門を覆うようにガーゼ・綿花・尿パット等でふさぎ、紙おむつと空間ができないようにしておくイメージです。 エンゼルケア・保湿について <Q9>ご遺体の手は組んだほうがよいのでしょうか。 死の習俗として手を組むイメージを持たれている方が多いのですが、そうしなければいけないという根拠はありません。ご家族のご要望があった場合に組む、という対応でよいかと思います。葬儀社では、搬送の際にストレッチャーに手が挟まってけがをさせないようにするために手を組んだり、合掌バンドを装着したりしている現状があります。 なお、例えば拘縮があるような場合は、手を組むことが難しいかと思います。ご家族に対して「無理に組まなくても問題はない」というお声がけをすると、安心いただけるかと思います。中には、「組まなければ成仏できない」と考え、不安に思われるご家族もいらっしゃいます。 ここで拘縮がある方のお身体を無理に伸ばしてしまうと、骨折してしまうこともあります。葬儀社は、制限はあるものの、ある程度高さ・幅に余裕のある棺をご用意するかと思いますので、ご安心ください。 <Q10>目の閉じ方を教えてください。目が閉じずに、眼球が乾燥している場合はどうしたらよいですか? 文章での説明がなかなか難しいのですが、目が薄く開いている程度でしたら、綿を眼球の上に乗せて閉じています。イメージとしてはコンタクトレンズのように薄く綿花をのせていただき、下まぶたを上げて上まぶたを下げます。 綿で閉じることが難しい場合は、エンゼルケア用の整容ゲルを用います。整容ゲルにはアルコールが含まれているのですが、アルコールを注入することで、体液と混ざって膨らみ、目が閉じやすくなります。 <Q11>保湿について、使用する保湿剤や頻度、ポイントなどを教えてください。メイク後の保湿方法や、白色ワセリンを使用してよいかについても教えてください。 保湿剤は、お手持ちの保湿剤でよろしいかと思います。頻度は、あくまで目安ですが一日一回程度です。お顔だけでなく、唇、耳、首などの周辺も忘れないようにしてください。 メイク後の保湿のやり方ですが、オイル系でもクリーム系でも、メイクスポンジに保湿剤を含ませてそっとおさえるように足していきます。白色ワセリンでも問題はありませんが、保湿効果が高い一方で、少しべっとり感があり、テカリが強く出ます。気を付けないと仕上がりに違和感が生じることがありますので、塗りすぎないようにお気を付けください。 <Q12>特別な化粧品を使ったほうがよいのでしょうか。ご本人が使用したものを使っていますが、問題ありませんか? また、自然に見せるためにはどうすればいいかについても教えてください。 我々はご遺体専用の化粧品を使用していますが、皆さんはご本人使用のお化粧品があればそちらでよいかと思います。ただし、ご遺体は体温が低いので、温度で発色するタイプの化粧品は使用することができません。また、クレンジング後、ベースメイクの前に保湿するようにしてください。保湿剤を充分にお持ちでない場合、足して差し上げてください。ベビーオイル・ハンドクリーム・ワセリンなどでも問題ありません(ワセリンは塗りすぎ注意)。 自然に見せる方法については、亡くなられた方によって好みが違うため、どのような見せ方が「その方にとっての自然」と感じるメイクなのか、非常に難しいところです。ただ、どのようなメーカーの化粧品でも、「保湿効果が高いものを選ぶこと」「色の濃淡の種類を多く用意すること」がポイントだと思います。 湯灌(ゆかん)について <Q13>湯灌の定義や、葬儀社が行う湯灌の内容について教えてください。また、訪問看護で清拭を行った場合も、湯灌は行うのでしょうか。 湯灌は、なかなか一口に説明をするのが難しいものですが、温かいお湯に入っていただく、火葬前の最後のお風呂です。洗髪・洗顔・お顔剃りなどを行い、全身を丁寧にボディソープで洗い流します。ただし、地域によっては清拭を「湯灌」と呼ぶこともあります(特に、関東より東の地域)。 湯灌は葬儀のプランの中でご家族が希望された場合に行うことなので、訪問看護でお体をきれいにされていた場合、通常は湯灌しないケースが多いかと思います。 <Q14>湯灌の前に、詰め物やエンゼルケアを行っても問題ないのでしょうか。詰め物がとれてしまうことはありませんか。湯灌する場合、ポリマーの詰め物はよくないというお話も聞きました。 問題ありません。特別なことがない限り、湯灌の際に詰め物が出ることはないでしょう。詰め物は、濡れるため湯灌後に葬儀社で交換するのですが、それでも意味があります。亡くなられてから湯灌されるまで間に、寝台車で移動されたり、安置されたりとお身体を動かすことが多いため、体液漏れの予防処置としての詰め物をお願いしたいです。 ポリマーは水を含むと100倍近く増えるため、どうしてもあふれ出ますが、湯灌をされるかどうかはエンゼルケア時には不確定のため、ポリマー処置されていても問題ありません。ただし、鼻腔については副鼻腔内ではなく、より奥にポリマーを注入しておいていただければと思います。 葬儀社の対応と訪問看護との連携について <Q15>訪問看護では、エンゼルケアは自費負担をしていただいています。葬儀は費用を抑えたものや湯灌なしのものなど、さまざまなプランがあるようで、どこまで自分たちが行うべきか迷います。訪問看護と葬儀社で、対応の違いはあるのでしょうか? 訪問でするべき対応は何だと思われますか。ご家族に説明するためにも知りたいです。 皆さんをはじめ医療者の方々が行うエンゼルケアは、病気と闘い人生を終えられた後、その方らしく身支度を整えること、本来の姿へ戻ること、という意味合いが強いと考えております。一方、我々葬儀社が行うケア・身支度は、「宗教儀式に向けての準備」という意味合いが強いです。 私は葬儀社サイドの者なので、ご家族に会うのは亡くなられた後になります。でも、皆さんは訪問看護でご家族のことも、亡くなられた方のこともよくご存知のはず。私がご家族だったら、故人が生前からお世話になった方に最後の身支度をしてほしいと思います。ですから、訪問看護師さんができる限り亡くなられたときの身支度をされるのが、ご家族の心情としてはベストではないでしょうか。ご家族のご要望に沿うことが基本ですが、場合によっては髪の毛を解くだけだったり、ご本人の口紅を塗ったりするのみでもよろしいかと思います。私は、ご家族が葬儀社に対し、「訪問看護師さんに綺麗にしてもらったからもう大丈夫です」とおっしゃるケースがもっと増えたらよいのではないかと考えています。 また、費用の兼ね合いから葬儀を当初の想定より縮小される方も大変多くいらっしゃいますので、結果的に訪問看護師さんによるエンゼルケアが最後のお支度になることもあります。 <Q16>訪問看護師がご遺体のお着替えをした後、葬儀場でもまたお着替えをすることになるのでしょうか? また、エンゼルケアのやり直しを行うことはありますか? ご家族に、看護師とエンゼルケアをしたいか、葬儀社にお任せしたいかの確認を行っていますが、看護師と行う場合も、例えば詰め物のやり方が不十分だったのではないか、やり直しをするのであれば無駄に金銭的負担をかけているのではないか、と不安になります。 ご家族の金銭的ご負担も考慮の上、そのようなお声がけをしていただいていること、大変ありがたく思います。 ご家族がどの葬儀社に依頼されるかによって異なりますが、弊社の場合は、訪問看護師さんがご遺体のお着替えやメイクをされていた場合、ご家族がそれを望まれたと判断し、特にご要望がない限りはお着替えやメイクをいたしません。 ただし、葬儀社によっては、例えば「白装束を販売したい」という都合によって、お着替えをしているにも関わらず「仏着に着替えないといけません」といった言い方をする良くないケースもあるようです。基本的には、ご家族から再度の着替え要望がなければ、する必要はないと私は考えております。メイクについても、ご家族から「イメージと違うのでやり直してほしい」というようなご要望がない限り行いません。 詰め物については、時間経過とともに変化が起きることも多いため、「完璧な処置」というのはどの時点であっても不可能だと思っています。状況に応じてやり直しが発生します。しかし、詰め物をしていただくことで、体液漏れの予防処置になりますので決して無駄にはなりません。ご遺体・ご家族のためにも大変ありがたいです。 <Q17>小児の場合にも大人と同じような処置をしていますか? 小児の方の場合、綿花詰をしないことが多いです。小さなお鼻やお口に詰め物をすることに、大変心苦しさを感じるためです。ご両親、特にお母様のご要望に寄り添い、どうされたいのかを充分に聞き取って対応するようにしています。また、ご両親がお見送りまでの間に何度も抱っこできる状態にしておけるように気を付けております。訪問看護師の皆さんも、ぜひご両親に対して、「抱っこしてもよい」ということをお伝えいただければと思います。 * * * 後日、オンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開いたします。ぜひそちらもご覧ください。 >>シリーズ一覧はこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」セミナーレポート>>お役立ちツールはこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 編集: NsPace編集部

家族看護
家族看護
特集
2023年6月27日
2023年6月27日

妻の病状を受け入れらない夫に対する関わり【家族看護 事例】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。今回から実際の事例をもとに援助に行き詰まりを感じた場面を取り上げ、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を使って分析。支援の方策を考えていきます。 事例紹介 Aさん(50代、女性) 事務職をしていた半年前に胃がんと診断。すでに腹腔内に転移し、手術ができる状態ではありませんでした。入退院を繰り返し、抗がん剤治療を試みましたが効果は得られず。緩和ケアを中心とした在宅療養の開始と同時に訪問看護が導入され、Aさん自身も治療ができる段階ではないことを理解していました。症状は進行し、現在Aさんはほぼベッド上の生活です。予後も週単位と考えられました。 家族構成 同居家族は、Aさんと夫(50代)、中学生の娘と小学生の息子の4人暮らし。夫は管理職として働きながら、家事や子どもたちの世話を一手に引き受けています。お互いの両親は遠方に住み、高齢でほとんどAさんの自宅を訪れることはありませんでした。 訪問看護師の悩み(直面している課題) Aさんは、苦痛症状も増強。今までは夫に強く主張することがほとんどなかったAさんでしたが、「もうつらい。もう死んでしまいたい。もうがんばったでしょ。お父さん、もういい」と夫に必死に訴えるようになりました。夫は「そんなこと言うな。がんばれ!」と大声で叱責。「妻の気力が落ちてしまったら死んでしまう。一日でも長く生きてほしい」と、ひたすらAさんを励まし続けていました。 Aさんのつらい思いに寄り添いたい訪問看護師は、夫に対し病状を受け入れ理解してほしいと説得を試みますが、夫の勢いが強く、うまく介入することができません。最期の時が迫りつつある中で、どう介入すればよいのか困っていました。 渡辺式家族アセスメント/支援モデルで考える 検討場面の明確化 Aさんが夫に自分の思いを必死に訴えるものの、夫は「そんなことを言うな」とAさんをひたすら励まし続けます。夫の強い勢いを前に、訪問看護師は戸惑い、うまく対応できませんでした。そこで、この場面を取り上げて、Aさん、夫、訪問看護師に何が起こっていたのかを検討したいと思います。 それぞれの文脈(ストーリー) ■訪問看護師訪問看護師は、「もうこれ以上がんばれない」と言うAさんに寄り添いたいと思う一方で、夫がAさんをひたすら励まし続けることに戸惑い、かかわりに困っていました。訪問看護師の「Aさんをかばい、夫を説得する」という対処の背景には、夫にAさんの病状を受け入れてもらい、家族そろって穏やかな終末期を過ごしてほしいとの切なる願いがあります。それと同時に、今のままでは穏やかな終末期が遠のいていくと感じる焦りもあります。そうした状況が介入への困難感の増強につながっていたと思われます。 ■夫夫は、妻の奇跡的な回復を信じているのに、妻が弱音を吐き、医療者が希望のない話ばかりすることに困っていたと考えられます。「自分の行動を正当化し、妻を過度に励ます」という対処の背景には、若くして妻を失うかもしれない現実に直面した夫の予期悲嘆や妻亡き後の不安があったことでしょう。加えて、夫としての使命感、希望を失いたくない思い、病状の進行が早くて気持ちが追いつかない状況、仕事と介護の両立による余裕のなさなど、実に多くの要因があると推察されます。 ■AさんAさんは、夫に身体のつらさ、苦しみを理解してもらえないことに困り、夫に必死に訴えていました。その背景には、夫の気持ちも分かるものの、どうしても自分の体力や気力が伴わない現状があったと考えられます。 それぞれの関係性 次にAさん、夫、訪問看護師の三者全体の関係性を俯瞰してみましょう(図1)。 夫はAさんを「過度に励まし」、Aさんはそのつらさを訪問看護師に「訴え」、それを「受け止める」訪問看護師は夫を「説得」。説得された夫は訪問看護師への「反発」を強め、さらにAさんを励ますという悪循環が生じています。訪問看護師が夫を説得すればするほど、事態を悪化させているのです。 また、Aさんと訪問看護師の関係はうまく循環していますが、夫は孤独な状態にあるといえます。Aさんと夫の関係は悪循環に陥り、夫婦間の緊張・葛藤が高まっている状況です。 図1 Aさん、夫、訪問看護師の相互関係 パワーバランスと心理的距離 夫と訪問看護師について検討した内容を図2に示します。 夫は訪問看護師に対する反発のパワーが高まっています。訪問看護師も夫に分かってもらいたいと思うあまり、夫に向けるパワーが高く、両者は拮抗状態です。 心理的距離を見てみると、夫は境界を越えて訪問看護師側に迫っています。訪問看護師は何とかその場に踏ん張って夫に対処しているものの、夫の詰め寄りに大きな負担を感じている状況です。 図2 夫と訪問看護師のパワーバランスと心理的距離 アセスメントをもとに支援の方策を考える そこで、Aさんに関わるケアチームでカンファレンスを開催し、スタッフ間でそれぞれが抱いていた支援の困難感を共有しました。 これにより、気持ちが楽になった訪問看護師は、「過度に励ます」という夫の対処の背景について話し合い、夫が抱えている実に多くの苦しみに今更ながら気づきました。そして、私たち医療者もつらいけれど、「ご主人はそれ以上にもっと苦しんでいる」と共感の気持ちが沸き上がってきました。それとともに医療者の中に理想の最期を求める気持ちがあり、それがかえって夫を追い詰めている現状も見えてきました。 そのような気づきにより訪問看護師は夫の説得をやめ、「Aさん、今日は痛みもないようで、楽そうにされていますね」、「表情が穏やかで、子どもさんとの会話を楽しんでおられました」といったような、むしろ希望につながる会話を心がけました。すると次第に夫の緊張がほぐれ、夫も訪問看護師に心配事を吐露するようになりました。 そして、夫の病状認識を助ける介入も行いました。夫はAさんの病状の進行が早い状況に大きな戸惑いを感じていました。そんな夫が信頼でき、十分につらさを訴えられるような医師との面談の場を設けるようにしたのです。これにより夫は、今後Aさんが辿るであろう経過についてのイメージが少しずつ明確になったようです。訪問看護師が一貫して、Aさんの症状緩和と睡眠の確保に努めたことも夫の介護ストレスの軽減につながりました。 当初、夫は訪問看護師に対し反発していましたが、訪問看護師が対応を変えたことによって、訪問看護師との関係が確実に変化していきました。夫は、子どもたちをAさんから遠ざけていましたが、「親子(Aさんと子どもたち)の時間を大切にしてはどうか」という訪問看護師の提案を聞き入れ、子どもたちがそれぞれ可能な介護を担えるように働きかけるようになりました。子どもたちの存在によって夫婦間の葛藤が緩和され、やがて家族間の穏やかな会話も増えました。夫と子どもたちは最期までAさんを在宅で看取ることができました。 事例におけるアセスメントと支援のポイント ● 看護師のパワーを下げ、支援者から変わる必要があると気づけたこと● 叱咤激励せざるを得ない家族の思いや背景をケアチームで話し合うことで、訪問看護師の認識が苦手意識から共感的理解へ変化したこと● 一貫して療養者の症状緩和に努め、夫とは希望をつなぐ会話を心がけたこと● 夫の病状認識を助ける他者の介入を実現させたこと ● 子どもたちを介護に招き入れ、夫婦間の葛藤を緩和して家族全体の力を引き出したこと 執筆:丸岡 留美子長浜米原地域医療支援センター ●プロフィール1989年滋賀県立総合保健専門学校保健学科を卒業。長浜赤十字病院に勤務し、訪問看護を経験する。2006年に緩和ケア認定看護師を取得。緩和ケア推進や相談等のチーム活動を行い、家族や在宅看取りへの支援に力を入れる。退職後、2023年より地域の多職種とともに地域医療に携わる。 2000年に「渡辺式」家族アセスメント支援モデルに出会い、院内で定期的に勉強会を開き、事例検討を重ねてきた。現在、NPO法人家族関係・人間関係サポート協会のセミナーを受講し、インストラクターを目指している。 ▶NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会のホームページ※渡辺式シートのダウンロードも可能です。 編集:株式会社照林社

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